地域包括ケアに関する記事

難病看護の特徴とは? 療養支援の伴走者・難病看護師の役割も解説
難病看護の特徴とは? 療養支援の伴走者・難病看護師の役割も解説
特集
2025年6月10日
2025年6月10日

難病看護の特徴とは? 療養支援の伴走者・難病看護師の役割も解説

訪問看護において、難病患者の支援者は療養生活を支える重要な役割を担っています。この記事では、難病看護の特徴や療養支援に求められる考え方を分かりやすく解説するとともに、難病看護の専門家「日本難病看護学会認定・難病看護師」(以下、難病看護師)の役割や支援内容についても詳しく紹介します。 生活障害を軸にみる難病看護 難病は、原因不明で治療法未確立のため、長期に療養が必要となる疾病であり、その希少性からめったに出会うことはありません。ですが、訪問看護の対象としては、それなりの「層」があるといえます。 難病と一口で言っても、令和7(2026)年4月時点で指定難病だけで348疾病に及びます。私たちは、ADL(activities of daily living:日常生活動作)と症状の程度などから、指定難病を3類型に分けて、生活障害を軸にみることを提案しました(図1)1)。 類型1:「ADL要介助、症状が不安定」 療養生活支援のニーズをもつ 類型2:「ADL自立、症状不安定」 病状改善のニーズをもつ 類型3:「ADL自立、症状は安定」 病状維持のニーズをもつ  図1 指定難病の類型化 文献1)より引用 このなかで訪問看護の対象となるのは、類型1である場合が多いようです。訪問看護制度における別表7(※1)や別表8(※2)、さらには介護保険の第2号保険者に指定難病が多く含まれていることもあり、訪問看護の世界では、難病は希少とは言い切れないところがあります。 ※1 別表7 厚生労働大臣が定める疾病等 末期の悪性腫瘍、多発性硬化症、重症筋無力症、スモン、筋萎縮性側索硬化症、脊髄小脳変性症、ハンチントン病、進行性筋ジストロフィー症、パーキンソン病関連疾患、多系統萎縮症、プリオン病、亜急性硬化性全脳炎、ライソゾーム病、副腎白質ジストロフィー、脊髄性筋萎縮症、球脊髄性筋萎縮症、慢性炎症性脱髄性多発神経炎、後天性免疫不全症候群、頸髄損傷、人工呼吸器を使用している状態 下線:指定難病、点線:特定疾患 ※2 別表8 厚生労働大臣が定める状態等 1 在宅麻薬等注射指導管理、在宅腫瘍化学療法注射指導管理又は在宅強心剤持続投与指導管理若しくは在宅気管切開患者指導管理を受けている状態にある者又は気管カニューレ若しくは留置カテーテルを使用している状態にある者2 以下のいずれかを受けている状態にある者在宅自己腹膜灌流指導管理、在宅血液透析指導管理、在宅酸素療法指導管理、在宅中心静脈栄養法指導管理、在宅成分栄養経管栄養法指導管理、在宅自己導尿指導管理、在宅人工呼吸指導管理、在宅持続陽圧呼吸療法指導管理、在宅自己疼痛管理指導管理、在宅肺高血圧症患者指導管理3 人工肛門又は人工膀胱を設置している状態にある者4 真皮を超える褥瘡の状態にある者5 在宅患者訪問点滴注射管理指導料を算定している者 経過に合わせてチームで支援を展開 難病には以下の特徴があります1)。1)症状が多彩で個別性が高いこと2)社会資源を活用して生活を組み立てること 難病患者の支援では、経過を知り、経過をともに歩むことと、難病患者が利用できる社会資源を知り、適切な時機に選択できるようにすることが大切です。もちろん、これは訪問看護だけではなしえません。多職種連携により、チームで伴走しながら展開しています。こうした支援こそが、難病看護の最大の魅力といえ、この記事ではその魅力を紐解いていきたいと思います。 「療養行程」に沿ってケアを紡ぐ 難病看護では経過に応じた支援が重要であり、図2に示す「療養行程」という考え方を大切にしています。以下にこの図をもとに支援のポイントについて説明します。 図2 難病の療養行程 文献2)より引用 難病の療養行程には5つの経過があります。 発症期:症状を自覚し、診断がつく時期 進行期:健康障害・生活障害の軽度から重度、重度から軽度へと変動しながら、症状が進行している時期 移行期:医療処置や療養の場の選択に基づいた支援を行う時期 維持・安定期:必要な治療や適切な支援により、症状コントロールがつき、健康問題・生活障害への対応法が確立している時期 終末期:死を身近にとらえ、グリーフケアを必要とする時期 これらの経過に沿って、タイミングを逃さずケアを紡いでいきます。この療養行程は、看護等支援者側からみたものであり、近年では「患者の旅路(patient journey)」という表現もよく用いられていると思います。 患者の旅路とは 「患者の旅路」という概念は「医療専門職が患者を理解して医療ケアを向上させるために、そして患者が自らのたどる道筋を理解し、病いと共に生きる生活をつくり上げていくために利用」3)されており、患者中心の医療、患者とともにある医療をめざすものです。難病患者への訪問看護を通じ、患者が他者との「出会い」を経験し、「変容」をきたす。「この病気になったからこそ見える世界がある」という言葉に代表されるようなナラティブの書き換えに通じた概念であるといえます。 難病の訪問看護では「出会い」に課題 難病の訪問看護は、「出会い」のタイミングから難しさがあります。訪問看護が難病の「発症期」からかかわることは想定しにくく、進行期や医療処置管理が必要になることがきっかけで、導入、つまり出会うことになるのではないでしょうか。 訪問看護が開始された時点で、患者が意思伝達障害をきたしていれば、人となりを知ることや関係性を築くことにおいて困難があります。また、呼吸障害や嚥下障害をきたしていれば、命を護ることで精一杯な状況もあります。さらに、ADLが自立している場合や目に見えない症状を呈している場合、訪問看護の必要性が認識されないことも生じます。 難病看護の専門家「難病看護師」とその役割 難病看護は、療養行程に沿ってチームで支援していくことといえますが、では、実際にどうしたらよいのか?ということが次なる疑問です。前述したように、訪問看護の世界では、難病は珍しくないかもしれません。しかし、希少疾患・個別性が高いことは否めず、ルーチンでのかかわりが通用しないこともあります。支援者側のバーンアウトも問題になっていますし、希少疾患のため相談先は少なく、全国津々浦々、看護師たちが孤立して悩んでいることも少なくありませんでした。 私たちの先人は、1979年に「在宅看護研究会」を発足し、年に1度、実践を報告し合う活動を続けていました。それが1994年に「日本難病看護学会」となり、2017年に法人格をもつ学術団体として「一般社団法人日本難病看護学会」となりました。 その過程のなかで、難病法の施行を見据え、難病看護の専門家を求めるニーズの高まりがあり、2013年に日本難病看護学会認定・難病看護師制度を発足しました。「難病看護師」は、難病看護に関する幅広い知識と療養生活支援技術を有していると認められた者をいい、以下の役割を果たすこととしました4)。 ● 難病の病態・病期に応じた看護判断に基づき、患者の主体的な療養生活を支援する看護実践ができる● 質の高い療養生活を送ることができるよう、難病患者・家族に対して相談・助言を行うことができる● 難病患者・家族の支援について、看護職員・関係職種の職員に対して連携し、助言・支持ができる● 難病患者・家族の生活の質向上を目指した地域としての取り組みに参画し、社会支援システムの向上・創造に寄与できる文献4)より引用 すなわち、質の高い難病看護実践と、相談・助言などのコンサルト、そして地域の支援体制の中核としてコーディネートができる、リーダーシップを発揮できる人材です。制度発足から10年以上が経過し、2025年3月現在、600人以上の難病看護師を認定してきました。 この資格を持っているからといって、給与が上がるわけでも、診療報酬を加算できるわけでもありません。「難病看護に詳しい人」であることを分かりやすく示すための資格といえるかもしれません。ですが、「退院調整時に難病看護師がいる訪問看護ステーションを紹介した」「地域の関係機関に向けて、難病に関する勉強会を開催した」など、難病看護師が地域支援のハブとなって活躍している様子が報告されるようになり、難病支援についての情報拠点として、目に見える形となったことの意義は大きかったかといえます。 * * * この連載では、そんな難病看護師たちの、日ごろの活動を紹介してもらうことで、難病の抱える7つの難とそこへの取り組みの一端を紹介していきます。正解はない世界のなかで、日々最適解を当事者とともに探している、そんな難病看護師たちの実践を共有してください。 【ALS難病看護事例】長期の経過を支える難しさ 変化に応じたケアの試行錯誤 【PSP難病看護事例】「食べたい」を叶える 支援者の不安に向き合う多職種連携 【MSA難病看護事例】ADL低下に気づけない 病識の乏しさがみられたときの対応 【SCD難病看護事例】難病だけではない 介護職との連携、別疾患発症から看取りまで 【MS難病看護事例】看護ができることが見えにくい 孤立を防ぐかかわりと制度の狭間 【EB難病看護事例】「知られていない」がゆえに届かない看護 制度解釈の課題 【人工呼吸器装着者 難病看護事例】災害時どうする?避難計画策定の実際と課題 監修・執筆:中山 優季東京都医学総合研究所 社会健康医学研究センター 難病ケア看護ユニット、日本難病看護学会認定・難病看護師看護学生時代よりALS在宅人工呼吸療養者の支援にかかわり、ケアや長期経過に関する集学的研究、療養環境向上に関する研究に取り組んでいます。編集:株式会社照林社 【引用文献】1)中山優季:神経難病看護とは.髙橋一司医学監修,中山優季,原口道子,松田千春編著,神経難病の病態・ケア・支援がトータルにわかる,照林社,東京,2024:ⅹ.2)中山優季:神経難病看護とは.髙橋一司医学監修,中山優季,原口道子,松田千春編著,神経難病の病態・ケア・支援がトータルにわかる,照林社,東京,2024:ⅻ.3)細田満和子:「新しい自分」を見つける「患者の旅路」.Jpn J Rehabil Med 2020:57(10);898-903.4)日本難病看護学会:難病看護師制度.https://nambyokango.jp/nambyokangoshi/2025/3/31閲覧

【愛知県蒲郡市の災害対策】複数の自治体との合同訓練&ボートレース場の電源利用
【愛知県蒲郡市の災害対策】複数の自治体との合同訓練&ボートレース場の電源利用
インタビュー
2025年6月3日
2025年6月3日

【愛知県蒲郡市の災害対策】複数の自治体との合同訓練&ボートレース場の電源利用

近年、大規模な自然災害が連続して発生し、南海トラフ地震への備えも求められるなか、医療現場における防災対策の重要性はますます増しています。より質の高い備えに寄与できるよう、先進的な防災対策を行う事例をご紹介。今回は、愛知県蒲郡市医師会の会長を務める近藤耕次先生にお話を伺いました。 【プロフィール】近藤 耕次 先生こんどうクリニック院長/蒲郡市医師会 会長藤田保健衛生大学(現:藤田医科大学)および同大学院を卒業。1989年に蒲郡市民病院に入職し、内科・神経内科部長を経験した後、2002年にこんどうクリニックを開業。2020年に蒲郡市医師会の会長に就任。 周辺自治体や企業と連携。蒲郡市の防災対策 ―蒲郡市では、どのような防災対策をしているのですか? 毎年、市民参加型の「市民総ぐるみ防災訓練」を市内の中学校を中心に実施し、災害初動期における対応を訓練しています。 訓練内容は、 ・多数傷病者を想定したトリアージ訓練・救護本部の設置および情報処理訓練・市民による避難所の開設・運営訓練・避難所と災害対策本部との状況報告訓練 など、多岐にわたります。消防団・警察官、歯科医師会、薬剤師会、蒲郡市医療救護所登録看護師など、多職種の協力を得ながら実践的なプログラムを組んでいるんです。 そのほか、全市民を対象とした「シェイクアウト訓練」や、災害用伝言ダイヤル「171」の体験訓練なども行われているほか、2025年1月には豊橋・豊川・田原の各市の自治体と連携して「東三河南部医療圏災害時保健医療活動訓練」も実施しました。主に南海トラフ地震を想定し、災害時の医療対応をシミュレーション。竹島ふ頭地区の重症患者をドクターヘリで災害拠点病院の蒲郡市民病院まで搬送する流れを確認し、伝達方法やネットワーク体制の課題を洗い出しました。 なお、医師会は蒲郡市防災会議にも参加しており、発災時の救護所の開設方法や医薬品・血液製剤の確保の流れなど、継続的に防災対策の見直しと確認を行っています。今後も繰り返し防災訓練の実施や検討・改善を行い、体制を整えていきたいと考えています。 ―在宅療養者の災害対応についても教えてください。 はい。現段階では、人工呼吸器利用者や在宅酸素療養者、透析が必要な方を対象に、以下のような避難環境の整備を進めています。 人工呼吸器利用者蒲郡市市民病院で優先的に受け入れ。在宅酸素療法療養者災害時も安定的に電源供給ができる「蒲郡競艇場(ボートレース蒲郡)」に救護所を開設し、誘導。医療機器メーカーに必要分の酸素ボンベ等を搬入してもらう。透析が必要な患者市内に2ヵ所ある「透析クリニック」が受け入れ。ポンプ車を稼働させ、クリニックに水を供給する。 ただ、避難先を決めておくだけでは不十分です。特別対応を要するすべての方の安全を守るには、その人数や疾患の詳細を把握しておかなければなりません。医療機関も蒲郡市全体の患者数は把握していませんし、蒲郡市在住で市外の医療機関にかかっているケースもあります。周辺自治体と連携しながら全体把握のためのしくみをつくる必要があったのです。 そこで、人工呼吸器利用者と在宅酸素療養者に関しては、行政に申請して「蒲郡電源あんしんネットワーク」に登録いただくしくみをつくっています。また、複数の自治体が在宅医療・福祉統合型支援ネットワークシステム「東三河ほいっぷネットワーク」(多職種間で情報を共有したり、患者さんやご家族側から情報発信をしたりできるシステム)に、災害関連情報を確認できる機能を新設しています。 「私はどうなるの?」 災害対策に注力するきっかけ ―近藤先生が防災対策に注力されるようになったきっかけについて教えてください。 きっかけは、筋萎縮性側索硬化症(ALS)を患い、意思伝達装置がないと意思表示ができない患者さんから、「もし電気が止まってしまったら、私はどうなるの?」と質問されたことです。当時の私は、その方に何も答えられませんでした。そこで、蒲郡市役所の長寿課や蒲郡市長、中部電力、医療機器メーカーなどに相談し、踏み込んだ防災対策を検討し始めたんです。蒲郡競艇場を避難所として活用する案も、その過程で蒲郡市から提案いただきました。 ―行政を巻き込みながらの対策づくりが実現できた理由や、協力を打診する際に気を付けていることについて教えてください。 私ども医師会が先頭に立ち、行政の中でも医療的観点からの防災対策の強化に課題感を強くもっていた蒲郡市役所の長寿課と、トップである市長の両方に積極的に働きかけたことが功を奏したのではないかと感じています。 また、周囲に相談したり協力を求めたりする際は、笑顔で柔らかいコミュニケーションをとることを意識しています。お互いが安心感をもち、考えをきちんと伝え合える関係を目指したいと思っています。 今後のカギは「共通認識づくり」 ―防災対策のさらなる拡充に向けて、現状課題として考えている点があれば教えてください。 より幅広く、深い共通認識(ルール)づくりをしなければならないと考えています。例えば、「被害状況がどれほどのレベルであればほかの市町村への応援要請を出すか」という基準の設定。これが曖昧だと、判断を間違える可能性が高まり、被害が拡大したり、せっかくの応援をもてあましたりしかねません。報告様式の統一も必要でしょう。現在は市町村ごとに形式や書式が異なるため、情報の漏れや過多が生まれるリスクがあります。災害時の情報整理は非常に難しいので、統一を急ぎたいですね。 また、救護所の備品、管理の見直しも重要です。「災害発生から3日間ほどは外傷の手当てが中心になる」といったように、リアルな状況を想定した上で、フェーズによって必要な備品の検討が必要だと考えています。管理の面では、特に薬剤の使用期限は徹底的にチェックしなくてはなりません。飲み薬は災害発生から1週間程度で供給体制が整うとされており、過度な備蓄はコスト増にもつながる可能性も。慎重な判断が求められます。 そして、連絡手段の確保も大切ですね。携帯電話は電池切れや通信障害で使用できなくなる可能性があるため、それ以外の手段もあらかじめ検討しておく必要があります。安否の情報を関係者で共有するためのルールづくりも含めて、災害の備えとして欠かせません。 ―在宅療養者の方向けの災害対策についてはいかがでしょうか? 人工呼吸器利用者や在宅酸素療養者、透析患者の方々以外にも多様な疾患・障害を持つ方がいらっしゃいますから、対象をより広げて対策を講じなければならないと考えています。 蒲郡市では福祉避難所を設けていますが、現状ではすべての方に対応することはできません。ニーズに応じて複数の福祉避難所をつくる案を検討しているものの、災害時は一人ひとりが「適切な福祉避難所」に移動できない可能性もあるでしょう。ベストな対策を引き続き検討していきたいと考えています。 訪問看護師に伝えたい防災対策のポイント ―災害対策に関して、訪問看護師の皆さまへアドバイスやメッセージをお願いします。 訪問看護の事業所単位で取り組みたいことのひとつに、利用者さんの「要介助度ランク」の検討があります。例えば、災害発生直後に優先して訪問すべき方、1週間以内に訪問すべき方などをあらかじめ設定しておくことで、限られた人員でも効率的に対応することができます。災害時は、基本的に時間の経過とともに支援人員が増えていくもの。だからこそ、特に人手が足りない災害直後の混乱期を乗り切るための備えが重要になります。 また、各事業所でBCP(業務継続計画)を策定しているかと思いますが、日頃から少ない人員で運営している事業所は特に、災害時に単独で対応するのは限界があります。重要なのは、地域の訪問看護ステーションが協力し、「自分たちは同じ地域のグループなんだ」という意識をもって地域BCPを考えていくことではないでしょうか。 関連記事:[7]連携の観点から事業所のリソース不足の解消方法を考えてみよう 最後にお伝えしたいのは、災害時は訪問看護師さんご自身とご家族の安全確保を最優先にしていただきたい、ということです。その上で、可能な範囲内で仕事にあたればよいと思います。どうか「医療従事者だから利用者さんを優先しなければ」と思い詰めないでください。 ※本記事は、2025年3月の取材時点の情報をもとに構成しています。 取材・執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

ちば看多機研究会「看多機を広めよう・つなげよう・深めよう」イベントレポート
ちば看多機研究会「看多機を広めよう・つなげよう・深めよう」イベントレポート
特集
2025年4月15日
2025年4月15日

ちば看多機研究会「看多機を広めよう・つなげよう・深めよう」イベントレポート

2025年2月8日(土)、千葉県看多機連絡協議会による「第2回ちば看多機研究会」が千葉中央ホールにて開催されました。同協議会は、「看多機」の普及促進と社会福祉の増進を目的に設置された任意団体です。看多機について学びを深めるべく、「看多機を広めよう・つなげよう・深めよう」をテーマに、イベントの目的や方針を語る基調講演をはじめ、現場での事例共有やグループワークが行われました。今回は、その様子をダイジェストでお届けします。 ちば看多機研究会とは? 「看多機」とは、「看護小規模多機能型居宅介護」の略で、主治医との連携のもと、医療処置も含めた多様なサービス(訪問看護、訪問介護、通い、泊まり)を24時間365日提供する点が特徴です。医療依存度が高い方、体調が不安定な障害を抱えている方などが、住み慣れた自宅で生活しながらケアを受けることができる介護保険サービスです。 そして、ちば看多機研究会は、千葉県看多機連絡協議会(2023年設立)が主催する、看多機について学びを深めるためのイベント。看多機の管理者はもちろんのこと、看護学校の教員や訪問看護師、ケアマネジャー、医師、経営者、看多機の利用者など、看護や介護に関わる方が千葉県内外から多く集まり、看多機について語り合っていました。 関連記事:看多機(かんたき)を通じて広げる「輪」 【訪問看護認定看護師 活動記/北関東ブロック】 看多機の現状と今後の展望 千葉県看多機連絡協議会の会長 福田裕子氏のご挨拶を皮切りに、日本看護協会常任理事の田母神 裕美氏による基調講演が行われました。 日本看護協会常任理事 田母神 裕美 氏 日本赤十字社医療センターや日本赤十字社本社医療事業推進本部看護部などでの勤務を経て、2021年に公益社団法人日本看護協会の常任理事に就任。看護制度(基礎教育・准看護師含む)や在宅医療・訪問看護、介護保険制度・介護報酬に関することなどを担当し、各種看護政策の実現に向けた取り組みを推進。 田母神氏は、全国の40歳以上の男女を対象にした調査において、全体の約7割が「在宅で看護を受けたい」と回答している結果を紹介。また、その中には「家族に依存せずに生活ができるような介護サービスがあれば自宅で介護を受けたい」と考える人が多く、まさに「国民のニーズ」として、在宅看護を望む人が多い実情を紹介しました。 また、千葉県の高齢化の状況と今後の見込みを例に、看多機の必要性を語りました。例えば、千葉県の総人口は減少局面にあるにもかかわらず、65歳以上の要介護高齢者は増加しており、2040年には一般世帯のうち高齢世帯数が約44%にも達する見込み。その約44%のうち、夫婦のみや一人暮らしの世帯が約7割を占めると推定されているそうです。 さらに、全国的にも人口に対する訪問看護の手が足りておらず、看多機を増やしていく必要があると警鐘を鳴らしました。いまだ看多機の事業所がひとつもない自治体もある現状を見つめながら、田母神氏は次のように語りました。 「医療依存度が高まるほど複数サービスの組み合わせが必要となり、看多機の必要性が高まります。看多機に欠かせない看護師の人員不足解消のためには、看護師の就業先として割合が高い病院と連携していくことが不可欠です。今後、病院から訪問看護ステーションや看多機への出向システムの整備も必要でしょう。 また、職種間の相互理解不足や病院との連携窓口の不明確さ、独居高齢者の在宅療養支援のあり方など、地域にはさまざまな課題があります。これらの課題を積極的に共有し合い、多職種連携や看看連携を図っていくことで、患者・住民に質の高い保険・医療・介護等のサービスを提供できるようになります。看多機は、医療職・介護職が力を合わせて働く場です。お互いに働きかけ、連携を強化していきましょう」 看多機での困難事例の共有 基調講演の後は、ケアマネジャーの川名 延江氏(複合型サービス事業所フローラ)と、杉浦 さな江氏(コープ夢みらい四街道)が、現場で「困った!」と感じた事例について紹介しました。 1件目は、利用者さんとご家族とで「自宅で暮らしたい」「施設に入所してもらった方が安心」とご要望が食い違っていたケース。2件目は、利用者さんだけではなく、ご家族も精神的・身体的な疾患を抱えていたケースです。 ご家族への対応の難しさをはじめ、家族間で異なる意見に対し、どういった調整を行うか、悩みながら検討した過程も伝えられました。「看多機は『世帯ごとに看る』ことに長けたサービスである」というコメントもあり、事例の内容からも看多機の意義や必要性が参加者に伝わる発表となりました。 参加者との意見交換では、「居宅介護等に比べて看多機は受け入れまでのスピード感が速い」という声があり、発表者の川名氏からは「関わっている訪問看護ステーションなどと連携しながら、少しでも多く情報を得ることが大事」というアドバイスもありました。 グループごとのディスカッション 最後は、「看多機を広めよう!こんな利用者に看多機は向いている」をテーマに、グループに分かれてディスカッションと発表が行われました。ディスカッションでは、時間が足りなくなるほど、さまざまな意見が飛び交いました。 実際に挙がった意見(抜粋)は次のとおりです。 ◆こんな利用者に看多機は向いている! ・基本的に自宅にいたいと思っている方 ・退院後の調整が必要な方やまだ要望が不明確な方 ・介護と医療が混ざったケアが必要な方 ・家族が遠方にいる方 ・仕事の都合で、家族のみの介護が難しい方 ・人見知り、認知症、嚥下に困難がある方 ・若い方でデイサービスには抵抗がある方 など 看多機は多様なサービスを提供しているため、「結局、全員が看多機に向いているのでは?」という意見や、「限られたリソースを活用するために、現実的にすべて受け入れることが難しい」という悩みも語られました。また、「看多機は『最期まで見守る』『ほかのサービスにつなげる』など、複数の意味で『渡し舟』のような役割ではないか」という意見も印象的でした。 ときに各事業所の事例や悩みなどを共有し合うシーンも見られ、連絡先を交換し合う参加者もいるなど、ディスカッションは大きな盛り上がりをみせました。 千葉県看多機連絡協議会 会長コメント 最後に、本会を主催した千葉県看多機連絡協議会 会長で、「まちのナースステーション八千代」統括所長・管理者の福田裕子氏のコメントを紹介します。 第1回に引き続き、70名近くの方にご参加いただく貴重な機会となりました。看多機について、職種の垣根を超えて情報共有できる会はなかなかなく、参加者の皆さんの反響から、日々の業務や課題を共有し合うニーズが大きいことを実感しました。利用者さんごとの事情はもちろん、各事業所の困り事や各自治体の課題などもそれぞれ異なります。多様なサービスをワンストップで提供する看多機が力を発揮できる場面は多いにあると考えています。しかし、看多機というサービスの全容が見えづらいせいか、現状まだ「看多機は不要」と考える自治体もあります。看多機を普及させるためには、各所とつながりを持ちながら、地域の中でハブ的機能として対応していくことが重要です。看多機の意義や必要性、今回のイベントで挙がったような現場の声を、行政に積極的に伝えていく姿勢も必要でしょう。看多機の魅力は、可能な限り時間をかけて本人の意思決定を支えていける点です。看多機では多様な職種が活躍しており、看護師さんは、職種同士を結び、利用者さんの自立支援につなげる重要な役割を担っています。訪問看護ステーションの管理者さんの中には、「泊まりの施設を持ちたい」「より多くのサービスを提供したい」と感じている方もいらっしゃるかと思います。看多機を立ち上げて運営したいという方がいらっしゃれば、ぜひ看多機を一緒に普及させていけたらと思います。 * * * 本イベントでは、登壇者や参加者がお互いの意見に真剣に耳を傾け合い、ディスカッションする様子が印象的でした。興味のある方は、ぜひ千葉県看多機連絡協議会の今後の活動にもご注目ください。 執筆: 高橋 佳代子取材・編集: NsPace編集部 【参考】〇内閣府.「第1章 高齢化の状況(第2節 2)」https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2018/html/zenbun/s1_2_2.html2025/4/8閲覧〇千葉県.『第2章 高齢者の現状と見込み』「(3)高齢者のいる世帯の状況と今後の推移」12P.https://www.pref.chiba.lg.jp/koufuku/iken/2023/documents/shian0-2.pdf2025/4/8閲覧

訪問看護師が知っておきたい医療費助成制度 基礎知識&概要
訪問看護師が知っておきたい医療費助成制度 基礎知識&概要
特集
2025年3月4日
2025年3月4日

訪問看護師が知っておきたい医療費助成制度 基礎知識&概要

医療費助成制度は、患者さんの自宅療養を支える上で欠かせないサポートですが、複雑で分かりにくい側面があります。そのため、訪問看護師として助成制度についてしっかりと理解しておくことが重要です。今回は、訪問看護にかかわる代表的な助成制度を取り上げ、その概要を分かりやすく解説します。 ※本記事は、2025年1月時点の情報をもとに構成しています。 医療費助成制度の基礎知識 患者さんから質問されて、特に答えにくいのが医療費に関することではないでしょうか。健康保険証を持っている場合、医療費の自己負担割合は、原則として高齢者は1割、未就学児は2割、それ以外の人は3割と決められており、年齢によって割合が異なります。また、高齢者の医療費は1ヵ月の上限が18,000円だったり、自治体によっては小児の医療費がかからなかったりと、条件によってまちまちで複雑です。 改めて、医療費助成制度に関する考え方を図1で簡単に示します。 図1 医療費と自己負担分、助成制度 (1)は、治療を受けたときの医療費の総額を示しています。(2)は、医療費の保険者負担分と自己負担分を表しています。(3)は自己負担分に対して医療費が助成される場合を示しています。(4)は、自治体からさらに助成を受けられる場合のイメージです。 訪問看護においては、患者さんの金銭的な負担を減らすさまざまな制度があります。病院では相談室の社会福祉士や事務が対応しますが、訪問看護ステーションでは訪問看護を担当する看護師が直接質問を受けることも多いでしょう。 ここからは、訪問看護を行う上で知っておいたほうがよい医療費に関する代表的な助成制度の概要を説明したいと思います。 指定難病に関する助成制度 指定難病患者さんへの医療費助成は、患者さんの自己負担が所得に応じて1,000円から30,000円まで変化します。病院や診療所、薬局、訪問看護ステーションなどの自己負担額は、患者さんごとに決められた上限額までです。 なお、患者さんによって月初に「自己負担上限額管理票」の記入が必要となる場合があります。その際は、毎月月末に患者さんの自己負担額が確定してから記入します。 高額療養費制度 医療機関を受診し、自己負担額が高額になったときに、患者さんの負担を少なくしてくれるのが高額療養費制度です。医療機関や薬局に支払った額が、上限額を超えた場合に、その超えた金額が支給されます。一時的な自己負担はありますが、申請すれば、後から払い戻されます。 支払いを上限額までに抑えたい場合は、「限度額適用認定証」またはマイナンバーカードによる健康保険証(マイナ保険証)※1を利用します。限度額適用認定証は、訪問看護がスタートした患者さんから、健康保険証と別に確認してほしいと言われることがあります。 ※1 マイナンバーカードによる健康保険証(マイナ保険証)は、限度額適用認定証を兼ねています。 高額療養費制度は患者さんが恩恵を受けることが多く、大抵の場合、70歳以上であれば18,000円、70歳未満であれば85,000円以内に収まります※2。また、「世帯合算」や「多数回該当」のしくみにより、さらに負担額を減らすことも可能です。 ※2 上限額は、年齢や所得によって異なります。適用区分と上限額に関する詳細は厚生労働省のサイトをご参照ください。▼厚生労働省:高額療養費制度を利用される皆さまへhttps://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/juuyou/kougakuiryou/index.html さらに、介護サービスを利用していれば「高額介護合算療養費制度」が活用できます。この制度は、医療保険と介護保険における1年間の自己負担の合算額が高額な場合に、自己負担を軽減する制度です。 自立支援医療制度(精神通院医療、更生医療、育成医療) 自立支援医療制度は、心身の障害を除去・軽減するための医療を提供するにあたり、患者さんの医療費の自己負担を軽減する制度です。 小児に関する支援医療制度が更生医療と育成医療、精神科系の疾患に関する支援医療制度が精神通院医療として区分されています。 更生医療は、身体障害者福祉法第4条に規定された身体障害者が対象となります。また、育成医療は、児童福祉法第4条第2項に規定される障害児(幼児:満1歳から、小学校就学の始期に達するまでの者)が対象となります。精神通院医療は、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第5条に規定された統合失調症、精神作用物質による急性中毒またはその依存症、知的障害、その他の精神疾患を有する者が対象となります。 自己負担額は0円から20,000円までですが、一定所得以上に該当する場合や「重度かつ継続」(継続的に相当額の医療費負担が発生する方1))に該当しない場合は対象外となります。 その他の医療支援制度 生活保護の医療扶助と介護扶助 その他の医療費に関する支援制度として生活保護における医療扶助と介護扶助があります。医療・介護サービスは公費で負担されるため自己負担はありません。 特定疾病療養費 特定疾病療養費は、慢性腎不全や血友病、HIV感染者の高度な治療を長期間にわたって継続しなければならない療養について、自己負担限度額を減額する高額療養費の特例の制度です。 基本的には、毎月10,000円の負担となりますが、透析については70歳未満の標準報酬月額53万円以上の方は自己負担限度額が20,000円になります。 * * * 医療費には、各地方が独自に実施する助成制度もあります。都道府県や市区町村ごとに異なる助成が行われています。 代表的なものとして子どもの医療費にかかる助成が挙げられます。「中学卒業まで」や「高校卒業まで」と住んでいる自治体によって対象となる年齢の違いがあります。さらに、乳幼児医療やひとり親家庭医療、重度心身障害者医療に対する支援も行われています。支援内容は、地域による差が大きく、その違いは各自治体を比較してみると分かると思います。 医療費助成制度を正しく理解しよう 訪問看護ステーションでの毎月のレセプト作成や、患者さん・利用者さんから自己負担額を受け取るにあたって疑問に思うことも多くあると思います。それは医療保険制度や医療費助成制度が複雑で理解しづらいためです。 今回は訪問看護に関連する助成制度の概要を解説しました。今後は、各助成制度の具体的な利用方法や申請のポイントをさらに詳しく紹介していきます。患者さんや家族が適切な支援を受けられるよう、必要な知識をしっかりと身につけましょう。知識を深めることで、あなたの仕事にもきっと役立つはずです。 【今後のラインアップ】第2回 指定難病に関する助成制度について第3回 高額療養費制度について第4回 小児に関する医療支援制度について第5回 精神科領域に関する医療支援制度について第6回 その他の医療支援制度について(生活保護、特定疾病療養など) 執筆:木村 憲洋高崎健康福祉大学健康福祉学部医療情報学科 教授 武蔵工業大学(現・東京都市大学)工学部機械工学科卒業、国立医療・病院管理研究所研究科(現・国立保健医療科学院)修了。民間病院を経て、現職。著書に『<イラスト図解>病院のしくみ』(日本実業出版社)などがある 編集:株式会社照林社 【引用文献】1)厚生労働省:障害者福祉.https://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/jiritsushienhou04/ 2025/1/31閲覧

日本訪問看護財団設立30周年記念 訪問看護サミット2024「すべての人にウェルビーイングを」
日本訪問看護財団設立30周年記念 訪問看護サミット2024「すべての人にウェルビーイングを」
特集
2025年1月28日
2025年1月28日

日本訪問看護財団設立30周年記念 訪問看護サミット2024「すべての人にウェルビーイングを」

少子高齢化や地域コミュニティの変化が進む中、「地域共生社会」をテーマに掲げた『訪問看護サミット2024』が、2024年11月30日(土)に開催されました。設立30周年を迎えた日本訪問看護財団の主催による本イベントは、「すべての人にウェルビーイングを」を合言葉に、訪問看護師をはじめ、医療、福祉、行政等の関係者が集い、地域包括ケアの未来について考える貴重な場でした。訪問看護の発展・継続に向けての具体的な解決策や、新しい地域ケアのあり方について深く議論された本イベントについてレポートします。 30周年を迎えた日本訪問看護財団 日本訪問看護財団は、1994年の設立以来、訪問看護の普及と質の向上を目指し、訪問看護師の育成や支援、情報提供などを通して地域包括ケアを推進。多くの訪問看護ステーションを支援し、制度づくりにも寄与してきました。設立30周年を迎えた2024年、今回のサミットは「明日のエネルギー」になることを目指し、訪問看護の未来を見据える、熱気ある会となりました。 日本訪問看護財団 理事長 田村やよひ氏 理事長の田村やよひ氏は、2040年問題を背景に、訪問看護が「地域包括ケアの要」であると強調。「今後の社会における訪問看護の役割を改めて問い直す場」としてサミットの意義を語り、共感を呼びました。 厚生労働大臣事務次官や文部科学大臣らの祝辞もあり、訪問看護業界と行政との連携の重要性を再認識したほか、訪問看護の発展に尽力した個人や団体への表彰式も行われました。 訪問看護師の役割を改めて考える 3つの特別公演 本イベント内では、地域共生社会の推進に向けて訪問看護師が何をすべきかを考えるために、貴重な特別講演が開催されました。 ◆「ポスト2025年の在宅医療と訪問看護への期待」 医薬品・医療機器業界の政策に深く関わってきた武田俊彦氏は、少子高齢化が想定以上のスピードで進んでいる現状に言及。2040年問題への対応が急務であると指摘しました。 1983年に施行された老人保健法では、在宅医療の推進や入院医療の適正化が掲げられたものの、高齢者のQOLを十分に尊重した医療体制には未だ課題が残るとのこと。従来の地域中核病院に資源を集約する体制を見直し、「医療ネットワーク」「患者や家族」「在宅ケア」が連携し、地域や家族を中心とした医療・介護体制を築く必要性について言及。その中で訪問看護は、生活の質(QOL)を支え、その人らしい人生を形作るための鍵になるとも語りました。訪問看護の持続可能なサービス提供のためには、経営基盤の安定化が急務であるとも述べ、聴講者の共感を集めました。 病院や施設から地域や在宅へのシフトを支える訪問看護師の役割が、これまで以上に重要になることが改めて共有された本講演。政策の振り返りを踏まえつつ、これからの訪問看護が進むべき道筋が示されました。 ◆「訪問看護におけるウェルビーイングとは」~すべての人が幸せに生きるために~ ウェルビーイングを推進している前野マドカ氏は、「医療従事者は自分を犠牲にしがちだが、人は幸せになるために生きているという根本的な事実を忘れてはならない」と提言。ウェルビーイングは、単なる健康にとどまらず、幸せややる気、思いやりなどを含む広い概念であり、これを高めるには学びと行動が不可欠だと解説。幸せは寿命を延ばし、創造性や生産性を高める予防医学としても重要であると述べました。 特に、幸せを育む4つの因子「自己実現」「つながり」「前向き」「独立」をバランスよく育むことが幸福度を高め、他者との良好な関係を築く要であり、「ありがとう」などの優しい言葉には、人の心を満たし、ウェルビーイングを向上させる力があるとのこと。 また、自分の良さや強みを知り、「私は大丈夫」と自分をとことん信じる姿勢が重要だと前野氏。それぞれが自分らしさを活かし、互いを尊重し合い協力することで、共生社会の礎が築かれることを学びました。 ◆ナイチンゲールの地域看護思想から学ぶ~時代を超えても変わらないこと~ 最後は、ナイチンゲール看護研究所 所長の金井 一薫氏による講演。ナイチンゲールが提唱した「病院は患者に害を与えない場所であるべき」「治療処置が絶対に必要である時期が過ぎたならば、いかなる患者も一日たりとも長く病院にとどまるべきではない」といった思想は、地域看護の原点として現代も受け継がれています。金井氏は、現代の日本においても、訪問看護師が行政や多職種と連携して利用者のQOL向上に寄与することの重要性を強調。 また、ナイチンゲールが示した「看護(ケア)の5つのものさし」(生命力の消耗の最小化、もてる力の活用、回復過程の促進、生命力の増大(自然死への過程)、QOLの向上とその人らしい生活(死)の実現)は、現代の訪問看護においても地域連携システムで活用できる普遍的な指針であり、質の高いケアを提供するための基盤であると解説されました。 講演後の平原優美氏(日本訪問看護財団 常務理事)との対談では、制度の隙間で支援が届かない人々に対し、地域包括ケアに関わる職種と行政との連携の重要性が改めて指摘されました。また、学生時代から在宅看護を学び、早期に実践できる人材を育てることが、地域看護の未来を切り拓くために欠かせないとの意見が述べられ、会場から多くの共感を得ました。 日本訪問看護財団の在宅看取りプログラム&災害時ネットワーク 本イベントでは、日本訪問看護財団の取り組みに関する成果や今後の活動等についても報告されました。 ◆在宅看取り教育プログラムの成果とこれから 日本訪問看護財団は、在宅看取りの訪問看護体制を強化することを目的に「訪問看護師向け在宅看取り教育プログラム(PENUT)」を2020年度より開発。2023年度より指導者向けの「PENUT-T」を開発しています。 PENUTは、在宅看取り初心者の訪問看護師が「在宅看取りができそうだ」「やってみたい」と思えることを目指したプログラム。講義と演習を通して、終末期ケアの知識や多職種との連携スキルを習得し、多様な事例を学ぶことで、症状緩和への困難感を軽減する効果が確認されているとのこと。特に、実際に在宅看取りを実践してきた講師が紹介するリアルなケーススタディは、受講者の心に響く内容になっているそうです。 参考:Web研修等のご案内 | 公益財団法人 日本訪問看護財団 公式ウェブサイト 「自宅で最期を迎えたい」と思っても、実際に自宅で最期を迎えられている人は限られている現状があり、訪問看護師が担う役割は重要です。より多くの人が希望通りの場所で最期を迎えられる社会を目指すために、財団の挑戦は続きます。 ◆災害時ネットワークの発足 日本訪問看護財団は、災害時に地域のステーションや関連団体等との迅速な情報共有を行うための「災害時ネットワーク」を発足しました。このネットワークでは、平時から交流会や勉強会を通じて関係性を深め、災害時にはLINEオープンチャットを活用して情報を共有するしくみを構築しています。 参考:災害時ネットワークについて | 公益財団法人 日本訪問看護財団 公式ウェブサイト これにより、被災地における訪問看護ステーションの被害状況や、必要な支援について情報共有が行えるようになります。また、在宅ケアに関わる団体への速やかな情報提供も行えるとのことです。 地域で生きる力を支えるために 今回のイベントでは、設立30周年を記念して制作された、新たなロゴとキャラクターについても発表されました。 日本訪問看護財団の新しいロゴ&キャラクター引用:公益財団法人 日本訪問看護財団「ロゴ・キャラクター紹介」 ロゴに描かれた輪は、利用者や家族、訪問看護師、医師、介護職といった多様な人々がつながり合い、支え合う様子を表現しています。キャラクターは、ふわふわの白い羽で大空を自由に飛び回る小鳥の「エナガ」をモチーフに、親しみやすさと柔らかさを兼ね備えたデザインで、訪問看護師が地域全体を見守る存在であることを象徴しています。 * * * 本イベントは、訪問看護を本気で応援し、未来を本気で変えようとする人々が集う、熱意溢れる場でした。日本訪問看護財団は相談窓口を用意しており、有益な情報発信も数多く行っています。ぜひ積極的に活用していきましょう。 取材・編集:NsPace編集部執筆:佐野 美和

在宅酸素療法・在宅人工呼吸療法患者の災害対策~事前準備や停電時の対応
在宅酸素療法・在宅人工呼吸療法患者の災害対策~事前準備や停電時の対応
特集
2025年1月7日
2025年1月7日

在宅酸素療法・在宅人工呼吸療法患者の災害対策~事前準備や停電時の対応

阪神・淡路大震災や東日本大震災に加え、最近では能登半島地震が記憶に新しく、地震や台風などの災害が多く起こっている日本において、国民が抱える災害への不安は計り知れません。その中でも在宅酸素療法(HOT)・在宅人工呼吸療法(HMV)患者さんにとっては、災害時にさまざまなことを考慮する必要があり、事前の準備や連携が重要となります。今回は、HOT、HMV施行時の災害対策について解説します。 災害時に起こりうるリスク(停電時含む) 台風、豪雨、地震、火災、洪水、停電など、災害には数多くのものがありますが、その規模によりさまざまな影響を受けます。台風や地震などの時には停電が起こる確率が高く、機器は電気を要することが多いため、早急な対応が求められます。 機器の取り扱い 酸素濃縮器を使用している場合には、すぐに電源が停止し酸素の供給が止まってしまうため、酸素ボンベにつなぎ変える必要があります。酸素を中断することにより原疾患悪化の可能性があるため、可能な限り安静時の酸素流量で過ごすことが望ましいです。 また、人工呼吸器は充電されているバッテリーに切り替わりますが、充電時間には限度があります。NPPV(非侵襲的陽圧換気)患者さんの場合、その間に可能であれば酸素療法のみに変更したり、TPPV(気管切開下陽圧換気)患者さんの場合には外部バッテリーにつなげたりする必要があります。 酸素ボンベやバッテリーは転倒や落下による被害を受けないように保管場所にも注意を払うことが重要です。使用可能時間を把握した上で業者への連絡を速やかに行います。 感染予防 災害時には劣悪な環境に身を置く可能性が高く、原疾患の悪化だけでなく、感染症に罹患するリスクが高まります。手洗い、アルコール消毒、含嗽、マスク着用などの感染対策を励行することに加え、日頃よりワクチン接種を行っておくことを推奨します。 災害を想定して準備しておくこと 食料品や生活必需品などの準備だけでなく、HOT・HMV患者さんは生命と直結する酸素や電源をどのように調達するのかが最優先となります。停電や緊急時に備えて、患者さん・ご家族が普段から準備しておくとよいことを以下に挙げます。  酸素ボンベは切らすことなく常に余裕をもって配達依頼をする緊急時や停電の中でも落ち着いてボンベ交換や取り扱いができるように日常より練習しておくHMV患者さんはバッテリーを適宜充電しておき、足踏みで行える吸引器や発電機、懐中電灯などを準備しておく鼻カニュラをはじめとした酸素吸入のデバイスや同調器の電池、吸引関連物品なども備蓄しておく災害時は、酸素や人工呼吸器の業者に被災状況を連絡し、ボンベの配送などを依頼すること、業者と連絡がとれない場合は、避難先を明記した貼り紙をどこに貼付するのかなどをあらかじめ業者や訪問看護師と共有しておく避難時にすぐに薬の調達が行える保障はないため、1週間程度の薬(内服薬・吸入薬・貼付薬・軟膏など)とお薬手帳を持参できるように準備しておく 災害時対応で留意すべきポイント 災害時、誰もが優先すべきことは、自分自身の安全の確保です。そのためには患者さん自身のADLやセルフマネジメント能力の程度、ご家族や介護者の有無などを把握しておかなければなりません。 災害の種類や程度によって大きく異なりますが、消防や自治体がすぐに対応できないこともあり、自宅で災害に見舞われた場合には、まず自分たちで行動することを余儀なくされる場合もあります。そういったケースを念頭に置き、避難が必要なときにはどうすればよいかなどを日常からご家族や訪問看護師、協力を求められる人たちで考えておくことも重要です。 災害時は互いの協力が不可欠です。業者や自治体、医療機関で調整を図りながら、患者さんの安全を維持できるよう速やかな現状把握、情報提供、資源提供などを行いましょう。 業者や自治体のフォロー体制と訪問看護師の役割 業者や自治体、医療機関との連携における調整は重要であるため、先行してシステム構築がなされている災害経験地域のモデルを参考に、各地域でもフォロー体制の早急な確立が望まれます(図1)。 図1 大規模災害時におけるHOT患者を取り巻く業者や自治体、医療機関との連携システムのイメージ 業者の役割:来院不可患者への対応とHOTセンターの運営協力 一時的避難でない場合、HOT患者さんには、酸素ボンベでは使用時間に限界があるため、常時酸素吸入できる酸素濃縮器の使用と電気供給が可能な場所が必要です。つまり、どこかの医療機関に避難する必要があります。 ただし、医療機関でも酸素配管があるベッドは入院対象となる患者さんに優先されます。したがって、酸素が確保できれば療養可能な患者さんは、医療機関内に設置されたHOTセンターでの対応となる可能性が高いです。 HOTセンターは、患者さんが使用しているメーカーを問わず、さまざまな業者からの酸素濃縮器を使用して運営されます。災害地外への二次避難でも酸素ボンベが貸し出されるシステム構築を検討しなければなりません。 NPPV・TPPV患者さんにおいては入院対応が優先して検討されると思われますが、酸素同様に契約内容に限られず使用することを念頭に置いた柔軟な対応が求められます。 行政の役割:地域における支援体制の整備 災害時になれば、医療機関は受け入れる患者さんの対応に追われ、自ら患者さんへの連絡を行うのは容易ではありません。患者さんの安否や避難場所の把握など、業者に頼ることが多いと思われます。 2013年以降、災害対策基本法の改正により、災害時に自ら避難することが困難な高齢者や障害者等の名簿(避難行動要支援者名簿)の作成が市町村に義務付けられました1)。名簿を順次更新し、災害発生時には地域だけでなく、医療機関や業者と共有・活用することにより、スムーズな対応が可能となります。そのためにも必要な患者情報の選別や共有・活用できるシステムの構築を行政主体で執り行うことが望まれます。 訪問看護師の役割:患者さん・ご家族の災害への備えの支援 災害への不安はあっても、実際を想定して備えることは困難なため、どのような準備が必要か、利用できる社会資源はあるかなど、患者さん・ご家族への情報提供や対応検討をともに行います。事前の準備や登録が必要なこともありますが、時間経過とともに危機意識も薄まるため、繰り返し相談・実践する機会を設けることが重要です。 事前登録の例を1つ紹介します。大阪府訪問看護ステーション協会では、2年ごとに発電機・蓄電器を管理する拠点ステーションを選出し、訪問看護ステーションを通じて、平時に患者さんからの貸出申請書を受け付けています。発災時には事前登録した患者さんが要請すれば、拠点ステーションに貸出可否の確認がされ、可能であれば貸出が行われます。 災害時に利用できる制度・団体 災害時に利用できる制度や団体にはさまざまなものがあります。一部を表1に示しますので、普段からこういった情報を調べておくとよいでしょう。 表1 災害時に利用できる制度・団体の例 執筆:渡部 妙子地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪はびきの医療センター慢性呼吸器疾患看護認定看護師監修:森下 裕地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪はびきの医療センター呼吸ケアセンター センター長竹川 幸恵地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪はびきの医療センター呼吸ケアセンター 副センター長編集:株式会社照林社 【引用文献】1)内閣府.「避難行動要支援者の避難行動支援に関すること」(平成25年)https://www.bousai.go.jp/taisaku/hisaisyagyousei/yoshiensha.html2024/3/29閲覧 【参考文献】〇3学会合同セルフマネジメント支援マニュアル作成ワーキンググループ他編.「災害対策と対応」,『呼吸器疾患患者のセルフマネジメント支援マニュアル』.日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 2022;32(特別増刊号):229-236.〇内閣府.「被災者支援に関する各種制度の概要」(令和6年) https://www.bousai.go.jp/taisaku/hisaisyagyousei/pdf/kakusyuseido_tsuujou.pdf2024/12/24閲覧〇内閣府.「災害中間支援組織について」https://www.bousai.go.jp/kyoiku/bousai-vol/voad.html2024/3/29閲覧〇大阪府訪問看護ステーション協会 在宅患者災害時支援体制整備事業委員会.「人工呼吸器装着者の予備電源確保推進にむけた災害対策マニュアル」https://daihoukan.or.jp/wp/wp-content/uploads/2024/06/6a0157155302e8e5eea69f00e66de24d-1.pdf2024/12/24閲覧

医療と介護の2025年問題とは?「看護師が余る」噂についても解説
医療と介護の2025年問題とは?「看護師が余る」噂についても解説
特集
2025年1月7日
2025年1月7日

医療と介護の2025年問題とは?「看護師が余る」噂についても解説

「2025年問題」は、2025年に団塊の世代が75歳以上の後期高齢者に達することで、医療と介護の需要が急増し、現場が逼迫するほか、社会保障制度の持続性にも影響を与えるとされる社会問題です。本記事では、2025年問題の課題と対応方法に加え、「看護師が余る」という噂の真相にも触れていきます。 医療と介護の2025年問題とは 2025年問題は、団塊の世代(1947年~1949年生まれ)が75歳以上の後期高齢者になることで、医療および介護の需要が急増し、社会保障制度や医療・介護体制に深刻な影響を及ぼすとされる社会問題です。日本全体で少子化が進む一方で、団塊の世代が一斉に高齢期に突入するため、「現役世代の負担増加」「医療・介護人材の不足」が一気に加速します。 医療の2025年問題の原因 内閣府が公表した「令和4年版高齢社会白書」によると、2025年には75歳以上の後期高齢者人口が2180万人、65~74歳の前期高齢者人口が1497万人に達する見込みです。国民の約3人に1人が65歳以上、約5人に1人が75歳以上となり、高齢化が極めて深刻な段階に進むことが示されています。 一方で、少子化の傾向も顕著です。総務省の「我が国のこどもの数」によると、2023年4月1日時点で日本の総人口に占める15歳未満の子どもの割合は11.5%となり、49年連続で低下しました。労働人口の減少が進む一方で、高齢者を支える現役世代の負担はますます増えると予測されます。 医療と介護の2025年問題で起こり得る問題 2025年以降、医療と介護でどのような問題が起こり得るのか、より具体的に見ていきましょう。 医療・介護利用者の増加と人手不足 高齢化の進行によって、医療機関の受診者数の増加や入院期間の長期、介護施設や在宅医療サービスの利用者増加が見込まれます。医療・介護従事者の安定した確保が難しくなります。 国が地域包括ケアシステムを推進していることから、在宅療養を支援する訪問看護の需要が高まっていますが、訪問看護師の不足により、在宅医療の供給体制が追いつかない事態が予測されています。介護士も不足しており、介護現場の負担がさらに増加する見込みです。家族への負担も大きくなり、介護離職がさらに増加するでしょう。 社会保障制度の負担増加 高齢者が増えて医療費と介護費が増加する一方で、現役世代が少ないために、社会保障制度の持続可能性が課題です。年金、医療、介護などの社会保障給付費は、現役世代の保険料だけでは足りず、税収入、国債などでまかなわれていますが、社会保険料も上がり続けており、手取り収入が減ることで生活への影響も増していきます。 地方と都市部の医療格差が広がる 日本の医療体制では、都市部に医師や医療資源が集中する一方、地方では医師不足が深刻な問題となっています。この傾向は、2025年問題の進行に伴い、さらに拡大する可能性があります。 2025年問題で看護師が余る? 「2025年問題で看護師が余る」という話を聞いたことがある人もいるかもしれませんが、これは高度急性期病棟を中心に発生すると考えられている問題です。 「平成26年度診療報酬改定の概要」では、高度急性期病棟の病床数を約35万7,500床から18万床へ縮小する方針が決定されました。それに伴い、徐々に高度急性期病棟における看護師の需要が低下していくものと見られています。 しかし、看護師全体では当然不足傾向にあります。厚生労働省の「医療従事者の需給に関する検討会 中間とりまとめ案(概要)」によると、2025年の看護師の需要推計が188万~202万人であるのに対し、供給推計は175万~182万人と、6万~27万人が不足するとされています。また、厚生労働省の「看護師等(看護職員)の確保を巡る状況」によれば、訪問看護ステーションの求人倍率(※)(2021年度)は3.22倍。訪問看護師の人材確保が困難な状況であることがわかります。 ※「有効求人数÷有効求職者数」で計算され、1.0倍以上になると求職者数よりも求人数が多いことを示す。 医療と介護の2025年問題への対応方法 医療と介護の2025年問題に対応するために、医療従事者の増加につながる施策だけではなく、医療の効率化が現場で進められています。対応方法について見ていきましょう。 ICT活用による医療の効率化 電子カルテやAI診断などのICT導入により、医療業務の効率化を図る方法があります。なかでもAI診断は、病気の発見を補助し、医師の負担を軽減することが期待されています。 また、オンライン診療の普及により、通院が難しい患者が自宅にいながら医師の診察を受けられるケースが増えれば、医療の地域格差を縮小できる可能性があります。 在宅医療の推進 訪問看護は、病気や障害を持つ人が住み慣れた地域やご自宅でその人らしい療養生活を送れるよう支援するサービスです。団塊の世代が後期高齢者となる中、医療費削減という観点からも、地域で患者を支える在宅医療の拡充が急務です。 これを実現するためには、訪問看護師の育成と支援、働きやすい環境の整備が必要です。昨今、大規模化によって個々人の負担軽減や多様なニーズへの対応につなげている事業所や、新卒訪問看護師の育成に取り組み、専門スキルを段階的に磨ける環境を用意する事業所も増えています。 タスク・シフト、タスク・シェア タスク・シフトとは、これまで医師や看護師が担っていた業務の一部を、介護職をはじめ他の職種に移譲することです。一方、タスク・シェアは、複数の職種が業務を分担しながら協力して行う体制を指します。 医療現場や介護施設における人材不足を補い、各職種の負担を軽減するため、医療職と介護職のタスク・シフト/シェアが検討されているため、訪問看護においても導入が進んでいくでしょう。 * * * 2025年問題を乗り越えるためには、訪問看護師の存在がこれまで以上に重要になります。在宅医療の最前線で患者を支える方々が、それぞれの専門性を活かしながら地域に根ざしたケアを提供することが、医療と介護の未来を支える鍵となるでしょう。 編集・執筆:加藤 良大監修:久手堅 司せたがや内科・神経内科クリニック院長 医学博士。「自律神経失調症外来」、「気象病・天気病外来」、「寒暖差疲労外来」等の特殊外来を行っている。これらの特殊外来は、メディアから注目されている。著書に「気象病ハンドブック」誠文堂新光社。監修本に「毎日がラクになる!自律神経が整う本」宝島社等がある。 【参考】〇内閣府「高齢化の状況」https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2022/zenbun/pdf/1s1s_01.pdf2024/12/23閲覧〇総務省「我が国のこどもの数」(2023年5月4日)https://www.stat.go.jp/data/jinsui/topics/pdf/topics137.pdf2024/12/23閲覧〇日本医師会「診療報酬改定をプラス改定とする方策とは」(2024年2月5日)https://www.med.or.jp/nichiionline/article/011548.html2024/12/23閲覧〇日本看護協会「訪問看護アクションプラン 2025」https://www.jvnf.or.jp/wp-content/uploads/2019/09/actionplan2025.pdf2024/12/23閲覧

【学会レポート】日本在宅看護学会 第14回学術集会「多様性がインフィニティ(∞)在宅看護」
【学会レポート】日本在宅看護学会 第14回学術集会「多様性がインフィニティ(∞)在宅看護」
特集
2024年12月3日
2024年12月3日

【学会レポート】日本在宅看護学会 第14回学術集会「多様性がインフィニティ(∞)在宅看護」

2024年11月16・17日の2日間にわたり、「日本在宅看護学会 第14回学術集会」が対面・オンラインで開催されました。今回の学術集会長は、WyL株式会社/ウィル訪問看護ステーションの岩本 大希氏。訪問看護に携わる方々が数多く訪れ、「多様性」をテーマにした充実した学びと交流の場となりました。NsPace編集部が、本学術集会の模様をレポート形式でお届けします。 「多様性」をテーマに掲げる意味 本学術集会のテーマは「多様性」。外見や性別、障害の有無から、育ってきた環境や宗教の違いまで、さまざまな多様性が存在します。世界は急激に変化しており、近年は感染症パンデミックへの対応や在宅ホスピス・在宅救急の台頭も。ルールや制度がない中で日々試行錯誤しなければなりません。 岩本学術集会長は、訪問看護に携わる方々はすでに当たり前に多様性に向き合っていることを強調しました。その上で、そうした環境下で訪問看護を行っていることを改めて認識してほしい。また、制度の隙間に落ちてしまう人たちが必ず存在する中で、ルールがなくても切り拓く開拓精神やエナジーを感じてほしいというメッセージが語られました。 本学術集会では、「多様な服装/衣装でのご参加を歓迎いたします!」と事前にお知らせがあり、着物・ドレス等で参加している方や、法被姿の方も。座長として登壇していた「看護の日」キャラクターの「かんごちゃん」の姿もありました。(※許可をいただいて撮影しています。) ピックアップレポート 多くのプログラムがありましたが、一部のプログラムを編集部がピックアップしてレポートします。 『発達障害のある(かもしれない)看護職の理解と支援』 座長 鹿内あずさ氏、講師 川上ちひろ氏 訪問看護の現場で、看護師自身に発達障害がある、もしくはその可能性がある場合の支援方法について悩むケースがあります。すでに看護師の職に就いている方の場合は、ADHD(注意欠如・多動症)やASD(自閉スペクトラム症)のケースが多く、例えば「コミュニケーションのとりづらさ」「倫理観・道徳観の欠如」「容量の悪さ」といった課題に直面することも。川上氏によれば、発達障害がある方はワーキングメモリや実行機能に問題を抱えていることが多く、努力だけでは解決しないということ。また、これらの特性は「親の育て方が悪い」ことが原因ではないというメッセージが語られました。そのほか、メモの取り方、抽象的な質問への対応など、特性に基づいた具体的なサポートが必要であることも詳しく解説。学習者と教育者のよい関係を築くためには、教育者が「がんばりすぎない」ことが大切であることや、認知的徒弟制を取り入れて適切な難易度の課題を与えることがポイントとのこと。聴講者の方々は、語られるエピソードに共感し、対応法について真剣にメモを取る様子が見られました。利用者だけでなく、看護師側も多様な人たちが働ける環境づくりが求められています。 『多様なニーズを支える中堅スタッフへの教育支援 ~これからに必要な生涯学習支援~』 座長 佐藤直子氏、演者 佐藤直子氏、佐藤十美氏、藤野泰平氏、服部絵美氏 「新任訪問看護師」向けや「管理者」向け研修は数多くみられる一方で、中堅スタッフはあまりフォローされていない現状があります。何をもって「中堅」とするかの明確な定義はないそうですが、演者の方々が考える中堅スタッフ像はおおよそ同じ。「さまざまな状況の利用者にケアが実施できる」「事業所全体や地域についても考える力がある」ことが求められるとのことでした。各事業所の中堅向けの取り組みが紹介された後はディスカッションが行われ、「中堅スタッフになるきっかけ」「具体的なラダー評価の内容」「自己評価と管理者の評価が異なる場合の対応」などについて質問が挙がっていました。中堅スタッフの教育の重要性について多くの事業所が共感している様子で、会場からの質問は絶えず、活発に議論されていました。 『在宅看護のシミュレーション教育の可能性を考えてみませんか?』 織井優貴子氏、竹森志穂氏、金壽子氏 東京都では、定期巡回型サービスや看護小規模多機能型居宅介護(かんたき)の利用者数が急増しており、都民の投票で「いきいき・あんしん在宅療養サポート:訪問看護人材育成支援事業」という訪問看護師のアセスメント能力、実践力向上を目的とした事業が採択されました。その取り組みが紹介されたプログラムです。新任訪問看護師向けのシミュレーション教育が注目されている中、どのようにシミュレーション教育が行われているかが詳細に語られました。訪問バッグの中身や模擬在宅ルームに置かれている小物は、実際の訪問看護の現場を再現しており、高性能多機能人体型シミュレーターを使用して、フィジカルアセスメントや報告の方法まで学ぶことができます。会場では、教育機関の関係者から事例の選定方法や研修の進行についての質問も複数あり、他の地域でシミュレーション教育を行うきっかけにもなりそうです。 『能登半島地震での活動:DC-CATの立ち上げから現在までを通して』 座長 岩本大希氏、講師 山岸暁美氏 2024年1月1日に起きた能登半島地震および奥能登豪雨の被災地支援にあたっているDC-CAT(Disaster Community-Care Assistance Team)の活動や被災地の状況について共有されました。DC-CATは、災害直接死の4倍とされる「災害関連死」を阻止すべく活動しています。公的支援やケアが不足している中、行政やDMAT等とも協働しながら、健康相談ダイヤル(#7119機能を持つ電話相談)、医療・保健サービスにアクセスできない地域でオンライン診療を行うヘルスケアMaas事業も展開しています。被災地の方々の実際の声も交えながら活動内容や試行錯誤の経過が語られ、一次的にケアに入るだけでなく、支援が終わった後にどう地域内でケアを継続していくかを考えることの重要性や、被災地支援で見えた課題に対して政策提言した内容についても共有されました。会場の方々は熱心に耳を傾け、共感の声や「応援・協力したい」というコメントも挙がっていました。 学術集会長コメント 最後に、学術集会長 岩本氏のコメントをご紹介します。 本当に多くの方々に学術集会にご参加いただき、感謝の気持ちでいっぱいです。「多様性」がテーマということもあり、やりたい企画は数多くあったのですが、新鮮な切り口を意識しつつ日々の実践に根ざした内容も取り入れたいと考えながら絞り込んでいきました。結果として、多くの企画が立ち見になるほど盛況で、本当に嬉しく思っています。 ドレスコードも、参加しやすさと多様性を表現するためにカジュアルな服装を推奨しました。登壇者の先生方も率先して素敵な格好をしてくださり、非常に心強かったです。 なお、まだオンデマンド配信の学術集会は終わっておらず、2024年12月17日17時まで配信しています。ACPや教育、能登半島地震の被災地対応など大きな企画は特に見応えがありますし、オンデマンド限定のプログラムも数多くあります。対面で参加した方も参加されていない方も、期間内にできるだけ多くのプログラムを視聴していただけると嬉しいです。 >>オンデマンド配信はこちら(要登録)日本在宅看護学会第14回学術集会 * * * 本学術集会では、参加者の皆さまや登壇者の方々の数多くの笑顔が見られ、楽しそうな様子が印象的でした。また、2025年の第15回学術集会は、名古屋で開催されます。次の学会にも注目していきましょう。 取材・編集・執筆:NsPace編集部

【学会レポート】第6回 日本在宅医療連合学会大会「在宅医療を紡ぐ」
【学会レポート】第6回 日本在宅医療連合学会大会「在宅医療を紡ぐ」
特集
2024年9月24日
2024年9月24日

【学会レポート】第6回 日本在宅医療連合学会大会「在宅医療を紡ぐ」

2024年7月20日・21日と2日間にわたり、幕張メッセ国際会議場(千葉県幕張市)にて「第6回 日本在宅医療連合学会大会」が開催されました。テーマは「在宅医療を紡ぐ」。大会長は、国際医療福祉大学医学部医学教育統括センター 市川病院神経難病センターの萩野 美恵子氏です。NsPace(ナースペース)編集部が大会の模様をレポートします。 多数の参加型の企画に込められた思い 「在宅医療を紡ぐ」というテーマが掲げられた本大会では、サブテーマとして以下の7つも掲げられました。 ・「幸」(Well being/生活の質・人生の質(QOL)の向上)・「働」(Collaborative decision making /協働意思決定)・「含」(Inclusion of diverse values/多様な価値観の包含)・「継」(sustainability/持続可能性)・「繋」(interdisciplinary team collaboration/多職種連携)・「楽」(enjoy your life/快) 多様性やジェンダーバランスに工夫されているほか、「聞く」講演だけではなく、ミュージカルや映像を「見て」、ワークショップや認知症カフェなどで「体験して」、参加者がさまざまな視点で楽しく参加しながら学べるプログラムを多数開催。 多職種がディスカッションする場面も多く見られ、在宅医療に携わる人たちが互いに知見を共有し、在宅医療の未来を見つめ交流する場となっていました。 参加型・体験型プログラム 多職種との交流を実現した参加型・体験型プログラムを一部紹介します。 ワークショップ「在宅における看取り時の立ち振る舞いについて考えませんか?」 座長:大屋 清文氏(ピースホームケアクリニック京都) 4~5名でグループを作り、医師、訪問看護師、利用者、家族などの役割を演じながら、看取りの場面における対応や立ち居振る舞いについてシミュレーションする企画。座長の大屋氏は、「看取り時の立ち居振る舞いについて、正解というものはない。答えではなく問いを持ち帰っていただきたい」と話されました。シミュレーション後のディスカッションでは、「この場面に『お疲れ様でした』という言葉はそぐわないのでは」「医師はご遺体にそのようには触れないのでは」といった臨場感のあるやり取りも。また、「普段とは異なる職種や家族役をやることで学びがあった」「医師・看護師ともにワークショップに参加しており、普段臨床の場では聞けない医師の本音も聞けた」といった感想が聞かれました。 虹色のcafé 「未来みらい」 カフェオーナー:川口 美喜子氏(札幌保健医療大学)カフェ共同オーナー:Lintos café(リントスカフェ)、まあいいかlaboきようと(平井 万紀子氏) 学会期間限定でオープンした虹色のcafé 「未来みらい」では、東京栄和会なぎさ和楽苑、社会福祉法人おあしす福祉会オアシス・プラスの方々など、障害のある方や認知症の方がスタッフとして活躍されていました。またこのカフェでは本格的なお菓子が楽しめるだけでなく、川口氏とLintos caféのバリスタ、とろみ剤の企業、歯科医師が約1年かけて共同で考案したとろみがついたおいしいコーヒーを味わうことができました。摂食嚥下障害がある方でも安全に楽しめるこのコーヒーは、飲みやすさとおいしさを両立。食べる歓びを実感できる機会となったこのカフェは、大変な賑わいを見せていました。また、認知症の方や障害を持っている方の「自分の街で当たり前の暮らしがしたい」「社会で活躍したい」という望みの実現のために必要なことについて考える貴重な機会となりました。 みんなで孤立をなくせ!!超高齢社会体験ゲームコミュニティコーピング体験会 一般財団法人コレカラ・サポートによって開発された、人と地域資源とを繋げることで社会的孤立を無くすための協力型ゲーム「コミュニティコーピング」の体験会が行われました。ゲームを通して、人と地域とを繋げる役割は、専門職だけでなく一般の人でも担えることがわかりました。 参加者からは「社会的孤立とはどのような状態なのか理解できた」「話を聞くだけで解決できる課題もあれば、専門家の助言が必要な課題もあり、地域にはさまざまな課題を抱える人が溢れているのだなと実感した」「自分にできることからやっていこうと思った」といった声が聞かれました。 在宅ケア体験フェスタ 神経・筋疾患の利用者さんを想定した呼吸リハビリテーション体験会では、2名1組となり、アンビューバッグや呼吸リハビリ機器を用いた吸気介助を実施する側と、利用者側の両方を体験しました。参加者からは「呼吸療法認定士の資格を持っているが、神経・筋疾患の利用者さんのための吸気介助は行ったことがなかったため勉強になった。今後取り入れたいと思った」「自分のやり方に軌道修正が必要なことに気付いた」といった声が聞かれました。 排尿支援の体験会には、複数のメーカーの導尿キットや超音波機器、膀胱留置カテーテルが用意されていました。それらの物品や機器を実際に手に取り、具体的な使用方法について知ることができました。訪問診療に携わっている看護師さんは「さまざまな物品に触れ、実際に体験や比較をできたことでメーカーごとの特徴について理解でき、今後もし自己導尿が必要になった利用者さんに出会ったら適切なアドバイスができそう」と話されていました。 ミュージカルや映画、映像を「見て」学ぶ シンポジウムについても、映画やミュージカルが取り入れられるなど、多種多様な伝え方のプログラムが並びました。 ミュージカル「きみのいのち ぼくの時間」 座長:中村 明澄氏(向日葵クリニック/NPO法人キャトル・リーフ)   堤 円香氏(メディカルホームKuKuru/NPO法人キャトル・リーフ) ミュージカル「きみのいのち ぼくの時間」が上演されました。NPO法人キャトル・リーフは2001年に創立以降、約20年にわたって病院や特別支援学校、高齢者福祉施設等でミュージカル活動を実施している団体です。「きみのいのち ぼくの時間」は、ミツバチのハチ子と、ハチ子に恋をしたカエルが主人公のお話。ミツバチの命はカエルに比べてとても短いため、二人の恋は女王蜂に反対されてしまいます。なんとか障壁を乗り越えますが、突然の嵐がやってきて…というストーリー。命にまつわるメッセージが多く込められており、会場には涙している人も。終了後はミュージカルの中で印象的だったシーンや言葉についてのディスカッションも行われました。 映像・講演「進行肺がんの息子に伴走した2年半を振り返って」 座長:荻野 美恵子氏(国際医療福祉大学医学部医学教育統括センター国際医療者教育学/国際医療福祉大学医学部脳神経内科学)   田上 恵太氏(医療法人社団 悠翔会 くらしケアクリニック練馬)演者:関本 雅子氏(かえでホームケアクリニック) 関本 雅子氏は緩和ケア医であり、そして同じく緩和ケア医で息子の関本 剛氏をがんで亡くした母でもあります。会場では、剛氏の生前の講演やラストメッセージの動画が映し出されました。雅子氏の講演では、剛氏が残された時間をどのように過ごすことに決めたのか、メディアに出たことによる反応、剛氏の最期について、緩和ケア医と母のそれぞれの立場で後悔したことや学んだこと、救われたことなどが語られました。 訪問看護の魅力も次世代に紡ぐ 副大会長 高砂 裕子氏(一般社団法人南区医師会在宅事業部・南区医師会訪問看護ステーション 管理者)のコメントもご紹介します。 多くの方にご来場いただき、大変嬉しく思っております。本大会は、専門職だけでなく、また医師のみならず看護師や介護士をはじめとする多職種の方にも参加いただけたらという思いで企画しました。単に「ご参加ください」というだけではなく、例えば介護職の方々におすすめのプログラムには、プログラム表に「★」の印を記載するなど、実際に参加していただきやすいような創意工夫も行っています。体験型プログラムを組み込むことで、さまざまな職種の方と出会い、より楽しく過ごしていただける大会になったのではないでしょうか。私自身、30年間訪問看護師として利用者さんに寄り添い、身近なところで生活を意思決定支援する訪問看護は、とてもやりがいがある仕事だと思っています。それをぜひ次世代の人たちに紡ぎたいと思っています。2025年問題、2040年問題を前にした今、訪問看護ステーションの大規模化も推進しています。それぞれの訪問看護ステーションが、そして訪問看護師が、自身が目指す訪問看護を実現してもらえたら幸いです。 * * * 本大会では、在宅医療に携わるさまざまな職種の方々の「出会い」がありました。参加者同士が交流し、思いを伝え合い、いろいろな視点や立場から在宅医療の現状や展望について考える時間となりました。このような関わりこそが「在宅医療を紡ぐ」ことなのだと、気付きがたくさんあった大会でした。次回、来年6月に開催予定の第7回日本在宅医療連合学会大会「在宅医療の未来を語ろう。〜2025年問題に向き合い、2040年に備える〜長崎から全国へ」にも注目していきましょう。 取材・編集:NsPace編集部執筆:佐野 美和

大規模事業所の人材マネジメント
大規模事業所の人材マネジメント
インタビュー
2024年7月2日
2024年7月2日

大規模事業所の人材マネジメント~次世代に繫ぐために~

兵庫県の西宮市訪問看護センターの管理者を長年務めた山﨑 和代さんへのインタビュー記事を、3回に渡ってご紹介。最終回は、大規模事業所の人材マネジメントや新たなチャレンジなどを伺いました。 >>これまでの記事はこちら訪問看護師は政策・制度検討の場に参画を~訪問看護のパイオニアとして~阪神・淡路大震災とコロナ禍を経て~ICT化とトリアージ~ 山﨑 和代(やまさき かずよ)さん保健師・看護師・養護教諭1級、経営学修士、日本看護協会認定看護管理者。大阪医科大学付属病院を経て、1995年に西宮市社会福祉事業団に入団。2001年~2024年3月まで西宮市訪問看護センターで管理者を務め、2024年4月に「株式会社医療・介護を受ける人と担う人のナーシングカンパニー」を起業。兵庫県訪問看護ステーション連絡協議会 副会長、兵庫県 訪問看護師・訪問介護員離職防止対策検討会議委員、兵庫県 訪問看護推進会議委員。 規模ありきでなく、成長の結果としての規模 ─西宮市訪問看護センターでは当初から大規模化を目指していたのでしょうか? いえ、最初から規模を大きくしようとしてしたわけではありません。地域のニーズに対して、スタッフが真摯にスピーディに応じてくれて、人の入れ替わりがありつつも、新たに仲間になってくれるスタッフが途切れなかったことで、結果的に大規模化につながりました。 これまで理念を掲げて長年突っ走ってきましたが、スタッフのみんなが理念を理解して、良質なサービスを提供しようと大変な努力をしながらやってきてくれました。本当に感謝しています。 ─採用に苦しんでいる事業所も多いと思いますが、西宮市訪問看護センターではどんな取り組みをされていたのでしょうか。 ホームページ、ナースセンター、ハローワークを活用しており、「訪問看護ブログ」を過去に掲載していました。ブログをご覧になった方からお問い合わせいただくケースが多かったですね。 また、西宮市訪問看護センターでは兵庫県で初めて新卒採用を行い、2023年度末までに6名を採用しています。新卒採用をきっかけに、「新卒を受け入れているなら、経験年数が短くても受け入れてもらえるのでは」という思考が働いたようで、副次的に既卒の20~30代の看護師確保もしやすくなりました。若手が増えたことで、ステーションの長期的な継続を見据えた準備ができるようにもなりました。 ─大規模な事業所の管理者に求められることを教えてください。 地域や制度の動向を見据えて組織をデザインし、どのように経営・運営するかを決めて実践していく。大規模事業所の管理者には、こうしたスキルやセンスが求められると思います。 また、リソース配分も重要です。常によりよい方法を模索していますが、例えば事務員に新規契約や連携における書類作成、簡便な連絡などを担ってもらい、管理職の負担軽減をするなど、今いる人員でいかに効率的に運営していくかということを考えています。 事業費の約1%はスタッフ教育へ ─次世代の育成にも大変力を入れていらっしゃると思います。具体的にどのようなことをされているか教えてください。 はい。スタッフの教育は良質なサービスを提供するにあたって欠かせませんので、事業費の約1%は研修教育費として使っています。例えば、月1回業務時間内に行っている集合研修、ポータブルエコーの購入、ウェブコンテンツの契約更新、特定行為研修への2名(年間)の派遣などに充てています。 チームリーダー業務を通じて次世代のリーダーも育成しています。次の管理者については、日本看護協会の認定看護管理者課程のファースト、セカンドレベルを済ませ、2024年度にサードレベルを受けて春に認定看護管理者の試験を受けることになっています。とても心強く、なにも心配していません。 傾聴を通じて知った今後の課題 ─人数が多い事業所ではコミュニケーションが課題になることも多いと思います。前回、情報共有アプリでのコミュニケーションのお話もありましたが、普段心がけていることを教えてください。 「傾聴」に力を入れています。実は、私は以前もっとも信頼していたスタッフをバイク事故で亡くした経験があります。この件に関しては私が一番精神的にダメージを受けて、みんなに支えてもらいました。そのことがきっかけで、メンタルケアをしてくれるカウンセラーの先生を探したという経緯があります。 その先生に、「山﨑さんの目指す事業所運営には傾聴が必要」と教えていただいたんです。傾聴というと、「ただ耳を傾けて聴く」というイメージを持つ方が多いかもしれませんが、実は高度なテクニック。スタッフとともにグループ講座を受講したところ、いかに自分たちに足りていない能力だったかを実感しました。 特に多かった例は、「この人はこう考えるに違いない」と決めつけ、思い込んでしまう「ブロッキング」。つまり、先入観ですね。傾聴とは、自分の先入観を認識し、それを打ち消し、相手の話を芯から理解しようとすることなんです。 また、相手の言葉をそのまま返す「ミラーリング」という手法を実践してみて、その効果がよくわかりました。実際にミラーリングをしてもらうと、「この人、私のことをわかってくれているんだな」と感じるんです。翻って、普段私を含む管理職たちはアドバイスばかりしていたことに気付きました。 傾聴のスキルは、スタッフ同士はもちろん、利用者さんや自分の家族とのやりとりにも活かせます。自身の在り方を振り返り、ラクになることを実感しました。ただし、ちょっとトレーニングしただけではこれまで染みついたやり方はなかなか抜けません。すぐに思い込みや独りよがりで話してしまいますし、よかれと思ってアドバイスしてしまうんです。折に触れてお互いに確認し合い、気を付けなければ、と思っています。 次世代にバトンを渡し、新たな挑戦へ ─山﨑さんは、2024年4月より新たに訪問看護ステーションを立ち上げるとのことですが、立ち上げ経緯を教えてください。 想いを引き継いでくれる後進も育ったことですし、新たなチャレンジをしたいと思ったのがきっかけです。いざ準備を始めてみたら、やりたいことがいっぱい出てきて、絞るのに苦労するくらいでした。会社名は、「株式会社医療・介護を受ける人と担う人のナーシングカンパニー」。訪問看護師だけでなく、ヘルパー、ケアマネジャーなど、「担う人」すべてを応援したいという気持ちで名付けました。 担い手は誰しも他人には真摯に向き合うのに、自分自身のケアはおろそかになりがちです。そうした人たちに「また明日からがんばろう」と前向きになってもらいたいので、訪問看護をはじめとした「受ける人」向けのサービスだけではなく、「担う人」向けの講座や相談・支援、リラクゼーションも用意しています。 長年の訪問看護ステーション運営で培ったノウハウを活かし、訪問看護のみならず介護事業の運営や経営で困っている人の相談支援や、ライフワークである暴力ハラスメント対策の研修も、より充実させていきたいと思っています。 2024年3月末に行われた送別会でのひとコマ。左の画像は、管理者を引き継いだ吉田さんとのツーショット。右の画像は趣味のヴァイオリンを披露する山﨑さん ─訪問看護ステーションではどのような取り組みをされるのでしょうか。 訪問看護ステーション(足とリンパとおなかの悩み訪問看護)は、通常の訪問看護はもちろん、それに付随してフットケアとリンパ浮腫のケアやそれに関連する処置。そして、浣腸摘便ではなく腸内環境や生活習慣に着目して排便コントロールをしていきたい方に向けた支援をします。これまでなかなか解決が難しい分野だと感じてきたからこそ、チャレンジしたいと思っています。 訪問看護が好きだからこそ、改革を続けていく ─訪問看護師として数多くの改革に取り組んでこられましたが、何がモチベーションになっているのでしょうか。 何でしょう…。「訪問看護が大好き」というのも大きいと思いますし、私が勝ち気だからかもしれません(笑)。 ─今後の訪問看護がどうなっていくべきか、お考えをお聞かせください。 「訪問看護でできること」の認知度を、もっと上げなければいけないと考えています。 本来であれば在宅療養開始に向けて、アセスメントシートを作成して医療機関とケアマネジャーが協議する時点で、「訪問看護」によるアプローチを始められるといいのですが、それができていないことは課題だと思います。訪問看護師が医療と生活の視点でその人の状態を評価し、退院直後に集中して支援できれば、当面の療養生活の見通しが立ち、救急搬送のリスクも低減させることができます。また、そのタイミングで訪問看護師の介入があると、ケアマネジャーと医療機関、双方にメリットがあると思います。 西宮市訪問看護センターでは、急性期病院の地域医療連携部署と一緒に病棟のカンファレンスに参加していますが、そうしたしくみが全国的に広がり、きちんと評価されるようになれば、医療・介護の連携が進み、病院と在宅の垣根が低くなっていくと思います。なにより利用者さんに大きなメリットがあるのではないでしょうか。 ─本当に学びの多いお話をありがとうございました。最後に、看護職の皆さまへのメッセージをお願いします。 もし訪問看護をやるかどうか迷っている人がいたら、魅力ある仕事なのでまずは飛び込んで経験してほしいと思います。また、看看連携はインセンティブがあまりつきませんが、支援の要です! 気軽に病院と訪問看護ステーションが話せる場を一緒につくってほしいです。 ─ありがとうございました! ※本記事は、2024年3月時点の情報をもとに記載しています。 執筆:倉持 鎮子取材・編集:NsPace編集部

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