家族看護に関する記事

受賞エピソード漫画化!「いつものアップルパイ」前編【つたえたい訪問看護の話】
受賞エピソード漫画化!「いつものアップルパイ」前編【つたえたい訪問看護の話】
特集
2025年9月10日
2025年9月10日

受賞エピソード漫画化!「いつものアップルパイ」後編【つたえたい訪問看護の話】

NsPaceの特別イベント「第3回 みんなの訪問看護アワード」で募集した「つたえたい訪問看護の話」。今回は、ホープ賞を受賞した梶本 聡美さん(訪問看護ステーションかすたねっと/大阪府)の投稿エピソード「いつものアップルパイ」をもとにした漫画をお届けします。  「いつものアップルパイ」前回までのあらすじ作業療法士の梶本さんが、在宅リハビリの仕事を始めて早々に担当した佐藤さん。片麻痺や失語症があり、旦那さんは一生懸命介護に向き合っていました。しかし、ご本人は「希望を持ってもどうせ叶わない」と思っているようで、どうサポートしていけばよいか事業所内で相談。管理者の米島さんも訪問時の「いままでできたことができなくなっている」という佐藤さんの言葉を振り返ります。そして、佐藤さんがもともと料理が得意で、アップルパイづくりにも自信を持っていたことが突破口になるのではと考え…。>>前編はこちら受賞エピソード漫画化!「いつものアップルパイ」前編【つたえたい訪問看護の話】 「いつものアップルパイ」後編   漫画:さじろう山形県在住のイラストレーター/グラフィックデザイナー/漫画家。都内デザイン会社を経て現在フリーランスで活動中。『ダ・ヴィンチ』『東京カレンダー』『Men’s NONNO』『SUUMO』など多数の雑誌のほか、釣り具メーカー『DAIWA』『LIFE LABEL』などのWebやYouTube、CMでもイラスト・漫画制作を手掛ける。投稿者:梶本 聡美(かじもと さとみ)さん訪問看護ステーションかすたねっと(大阪府)この度はホープ賞に選んでいただき、ありがとうございました。訪問看護を始めてまだ日も浅く、迷ったり悩んだりする日々ではありますが、職員の皆さんはいつも私の話に耳を傾け、一緒に悩み、考えてくれます。また、漫画では私を主人公として描いていただきましたが、今回のアップルパイづくりも、スタッフ一丸となってみんなで対応していました。皆さんに改めて感謝の気持ちを伝えたいです。今回のエピソードの関わりは私にとってとても貴重な経験となりました。その後、Tさん(漫画内「佐藤さん」(仮名))はお亡くなりになりましたが、葬儀の際にご主人がアップルパイを作った時の写真を飾ってくださいました。ご夫婦にとって楽しいひと時を過ごすお手伝いが少しでもできたのかなと感じています。訪問看護やリハビリは医療処置や運動だけでなく、こうした関わりを大切に行っているということを漫画化を通して知っていただく機会になれば嬉しいです。 [no_toc]

受賞エピソード漫画化!「いつものアップルパイ」前編【つたえたい訪問看護の話】
受賞エピソード漫画化!「いつものアップルパイ」前編【つたえたい訪問看護の話】
特集
2025年9月9日
2025年9月9日

受賞エピソード漫画化!「いつものアップルパイ」前編【つたえたい訪問看護の話】

NsPaceの特別イベント「第3回 みんなの訪問看護アワード」で募集した「つたえたい訪問看護の話」。今回は、ホープ賞を受賞した梶本 聡美さん(訪問看護ステーションかすたねっと/大阪府)の投稿エピソード「いつものアップルパイ」をもとにした漫画をお届けします。 >>全受賞エピソードはこちら・つたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!大賞・審査員特別賞・ホープ賞・協賛企業賞【2025】・つたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!入賞【2025】 「いつものアップルパイ」前編 >>後編はこちら受賞エピソード漫画化!「いつものアップルパイ」後編【つたえたい訪問看護の話】   漫画:さじろう山形県在住のイラストレーター/グラフィックデザイナー/漫画家。都内デザイン会社を経て現在フリーランスで活動中。『ダ・ヴィンチ』『東京カレンダー』『Men’s NONNO』『SUUMO』など多数の雑誌のほか、釣り具メーカー『DAIWA』『LIFE LABEL』などのWebやYouTube、CMでもイラスト・漫画制作を手掛ける。投稿者:梶本 聡美(かじもと さとみ)さん訪問看護ステーションかすたねっと(大阪府) [no_toc]

受賞エピソード漫画化!「意思疎通、出来ます。」前編【つたえたい訪問看護の話】
受賞エピソード漫画化!「意思疎通、出来ます。」前編【つたえたい訪問看護の話】
特集
2025年8月27日
2025年8月27日

受賞エピソード漫画化!「意思疎通、出来ます。」後編【つたえたい訪問看護の話】

NsPaceの特別イベント「第3回 みんなの訪問看護アワード」で募集した「つたえたい訪問看護の話」。今回は、審査員特別賞を受賞した服部 景子さん(愛全会 訪問看護ステーションとよひら・ちゅうおう/北海道)の投稿エピソード「意思疎通、出来ます。」をもとにした漫画をお届けします。  「意思疎通、出来ます。」前回までのあらすじサマリーの「意思疎通不可」にチェックが付いていた利用者のトシ子さん。訪問看護師の服部さんは、トシ子さんと介護を担う娘さんをできるだけサポートしたいと思いながらも、バイタル測定もさせてもらえない状況でした。ベテランの所長さんが訪問しても同様の結果だったことから、「トシ子さんには何か訴えたいことがあるのでは」と考え、改めて担当としてトシ子さんのサポートに向き合う決意を固めました。>>前編はこちら受賞エピソード漫画化!「意思疎通、出来ます。」前編【つたえたい訪問看護の話】 「意思疎通、出来ます。」後編 漫画:広田 奈都美(ひろた なつみ)漫画家/看護師。静岡県出身。1990年にデビューし、『私は戦う女。そして詩人そして伝道師』(集英社)、『ナースのチカラ ~私たちにできること 訪問看護物語~』『おうちで死にたい~自然で穏やかな最後の日々~』(秋田書店)など作品多数。>>『ナースのチカラ』の試し読みはこちら【漫画試し読み】『ナースのチカラ』第1巻1話(その1)投稿者:服部 景子(はっとり けいこ)さん愛全会 訪問看護ステーションとよひら・ちゅうおう(北海道)3年連続で表彰いただき、誠にありがとうございます。授賞式に参加するたびに感じるのは、「全国には、こんなにも熱い想いで訪問看護に取り組んでいる仲間がたくさんいる」ということです。皆さんのエピソードを読み、お話を伺い、笑い、涙し、感動し、共感しながら、たくさんのエネルギーをいただいています。今回エピソードが漫画化されたことを、トシ子さんはもちろん、娘さん、ケアマネジャーさん、上司、同僚、家族がとても喜んでくれており、私自身も幸せな気持ちでいっぱいです。このような機会をくださったトシ子さんと娘さんに、心から感謝申し上げます。また、NsPaceの皆様の活動には、いつも深く感謝しています。これからも訪問看護師の輪がますます広がっていくことを、心より願っています。

受賞エピソード漫画化!「意思疎通、出来ます。」前編【つたえたい訪問看護の話】
受賞エピソード漫画化!「意思疎通、出来ます。」前編【つたえたい訪問看護の話】
特集
2025年8月26日
2025年8月26日

受賞エピソード漫画化!「意思疎通、出来ます。」前編【つたえたい訪問看護の話】

NsPaceの特別イベント「第3回 みんなの訪問看護アワード」で募集した「つたえたい訪問看護の話」。今回は、審査員特別賞を受賞した服部 景子さん(愛全会 訪問看護ステーションとよひら・ちゅうおう/北海道)の投稿エピソード「意思疎通、出来ます。」をもとにした漫画をお届けします。 >>全受賞エピソードはこちら・つたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!大賞・審査員特別賞・ホープ賞・協賛企業賞【2025】・つたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!入賞【2025】 「意思疎通、出来ます。」前編 >>後編はこちら受賞エピソード漫画化!「意思疎通、出来ます。」後編【つたえたい訪問看護の話】   漫画:広田 奈都美(ひろた なつみ)漫画家/看護師。静岡県出身。1990年にデビューし、『私は戦う女。そして詩人そして伝道師』(集英社)、『ナースのチカラ ~私たちにできること 訪問看護物語~』『おうちで死にたい~自然で穏やかな最後の日々~』(秋田書店)など作品多数。>>『ナースのチカラ』の試し読みはこちら【漫画試し読み】『ナースのチカラ』第1巻1話(その1)投稿者:服部 景子(はっとり けいこ)さん愛全会 訪問看護ステーションとよひら・ちゅうおう(北海道)

大賞エピソード漫画化!「お母さん~看護の襷をつなぐということ~」【つたえたい訪問看護の話】
大賞エピソード漫画化!「お母さん~看護の襷をつなぐということ~」【つたえたい訪問看護の話】
特集
2025年7月22日
2025年7月22日

大賞エピソード漫画化!「お母さん~看護の襷をつなぐということ~」第3話【つたえたい訪問看護の話】

NsPaceの特別イベント「第3回 みんなの訪問看護アワード」で募集した「つたえたい訪問看護の話」。今回は、株式会社ウッディ 訪問看護ステーションはーと(東京都) 木戸 恵子さんの大賞エピソード「お母さん~看護の襷をつなぐということ~」をもとにした漫画の第3話(最終話)をお届けします。 >>全受賞エピソードはこちらつたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!大賞・審査員特別賞・ホープ賞・協賛企業賞【2025】つたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!入賞【2025】  「お母さん~看護の襷をつなぐということ~」前回までのあらすじ4人のお子さんがいるえみさんは、末期の肺がんを患っている。子どもたちと最後の思い出をつくるために、主治医の許可も得て宮崎から東京に飛行機で移動していたが、容体が急変して緊急入院。移動には高いリスクを伴うが、えみさんや夫は「宮崎へ帰りたい」と切望しており、病院は訪問看護師の木戸さんに相談した。その後、えみさんは木戸さんが運営するホームホスピスで、体力をつけるために3日ほど休養。いよいよ、在宅医のW先生やドライバーさんたちとともに、車で宮崎へ向かう。<主な登場人物>>>第1話はこちら大賞エピソード漫画化!「お母さん~看護の襷をつなぐということ~」第1話【つたえたい訪問看護の話】>>第2話はこちら大賞エピソード漫画化!「お母さん~看護の襷をつなぐということ~」第2話【つたえたい訪問看護の話】 「お母さん~看護の襷をつなぐということ~」第3話(最終話)   漫画:広田 奈都美(ひろた なつみ)漫画家/看護師。静岡県出身。1990年にデビューし、『私は戦う女。そして詩人そして伝道師』(集英社)、『ナースのチカラ ~私たちにできること 訪問看護物語~』『おうちで死にたい~自然で穏やかな最後の日々~』(秋田書店)など作品多数。>>『ナースのチカラ』の試し読みはこちら【漫画試し読み】『ナースのチカラ』第1巻1話(その1)投稿者: 木戸 恵子(きど けいこ)さん株式会社ウッディ 訪問看護ステーションはーと(東京都)大賞をいただき、とても光栄で、嬉しく思います。私は訪問看護師になって27年になります。確実な医療ケアや医療処置が求められる緊張の現場ですが、まずは患者さんやご家族のお話を伺い、患者さんの心の風景を垣間見られるように、という意識を持って接しています。えみさん(仮名)も、お話を傾聴し、心の風景を共有することから関わりました。課題や心配はありましたが、ご本人・家族と医療者すべての思いを繋ぐために覚悟を決め、その場の雰囲気を瞬間的に察知しながらアセスメントに努めました。私は、常日頃から出会った関係性や連携を大切にしています。例えば、研修で学びを共にした仲間とは情報交換や視察をし合ったり、仕事仲間とはカンファレンスを繰り返したりと、絆づくりをしています。えみさんの事例においても、相談した仲間たちすべてが自分事のように対応してくれました。普段の連携力や繋がりを生かせたことは、今後のやりがいにもなります。私が出会ったとき、えみさんの体力は限界アラームが鳴り始めていましたが、たくさんの方の心に響く、熱くて強い命の炎を持っておられた方でした。改めて振り返ると、えみさんの原動力が私たちをさらに強く繋げてくださったのだと思い、感動しています。貴重な体験をさせていただきました。最後に、えみさんのご冥福を祈るとともに、ご家族様や関わってくださった仲間たちに感謝申し上げます。ありがとうございました。 >>「第3回 みんなの訪問看護アワード」特設ページ [no_toc]

エンバーミング(遺体衛生保全)とは? 歴史や目的・意義を解説
エンバーミング(遺体衛生保全)とは? 歴史や目的・意義を解説
特集
2025年7月15日
2025年7月15日

エンバーミング(遺体衛生保全)とは? 歴史や目的・意義を解説

エンバーミング(遺体衛生保全)は、故人の姿を生前の安らかな状態に近づけるために、防腐処置や消毒、修復などを施す技術です。ご遺族が心の準備を整え、悲しみと向き合うために重要な手段でもあります。本記事では、日本におけるエンバーミングの先駆者であり、グリーフサポートの普及にも尽力されている橋爪謙一郎氏に、エンバーミングの歴史とその深い意義について詳しく教えていただきます。 知っておきたい、死後の身体変化が与える影響 ヒトが亡くなった後、その身体は適切な処置をしなければ、時間の経過、病気や治療、身体が置かれている環境などの影響を受けて変化し続けます。変化を最小限にして、その人らしい姿を保てるかどうかは、家族のグリーフに影響を与える要素となることから、身体の状態に合わせた適切な処置が求められます。 看護師の皆さんは、故人の尊厳を守るために、ていねいにエンゼルケアを行っていることと思います。また、遺されたご家族が、故人のつらそうな表情を目の当たりにすることで、罪悪感や苦しい感情を持たないように配慮されていると思います。エンバーミングについて理解をしていただくために、まずは亡くなった後の身体の変化、「死体現象」についてお話しすることから始めたいと思います。 ヒトが亡くなった後の変化:死体現象とは 皆さんは「死体現象」という言葉を聞いたことはあるでしょうか? この現象は、早期と晩期に分けられます。 晩期死体現象には腐敗や自家融解が含まれているため、この現象を止めるためにドライアイスや保冷庫などを用いて処置することで対応します。しかし、早期死体現象に対しては、必要な対処がされていないことが多くあります。 早期死体現象には、以下が含まれます。 ・血液の変化・死斑の発現・死後硬直・死体温の変化・乾燥・角膜の乾燥と混濁など 腐敗の進行は抑えられたとしても、それよりも早い時期に始まっている変化は、残念ながらそのまま進むことがあります。そうなると、看護師の方々がエンゼルケアをしっかり行ったとしても、時間の経過とともに変化が起こってしまうのです。 もう少し分かりやすく具体的にお伝えしましょう。血管中に残った血液は、重力に従って上から下へと移動していきます。身体が仰向けに寝かされている状態であれば、背中側の部位に血液による変色が強く現れ、それと同時に、顔や腹部の表皮で乾燥が進みます。 心停止とともに血流が止まり、体内からの水分補給が途絶えている上に、重力の働きによって、顔の表皮の乾燥がさらに進んでいきます。そのため、きれいに施された化粧であっても、崩れたように見えることがあるのです。特に粘膜部分は乾燥しやすく、唇やまぶたに大きな変化がみられます。本来は保湿が必要ですが、それが行われないと、乾燥が進み、口元やまぶたが開いてきてしまいます。 エンバーミングの歴史と日本での普及 エンバーミングは、日本語で「遺体衛生保全」と訳されます。歴史をたどると、古代エジプト時代のミイラづくりが起源とされています。時代が進むにつれてヨーロッパに伝わり、医学の進歩のために解剖用の遺体を保存する目的でさらに発展しました。その後、アメリカにも伝わり、1900年代には教育制度やライセンス制度が確立され、医学の進歩とともに薬品の開発や技術革新が進み、現代に至ります。 日本では、1988年に埼玉県で一般の方向けに初めてエンバーミングが提供されました1)。その後、全国に広がり、2025年現在では32の都道府県で、91の施設においてエンバーミング処置が提供されています(日本遺体衛生保全協会調べによる)。 このようにエンバーミングは、長い歴史と技術の積み重ねを経て、現代においても重要な役割を果たすようになりました。 エンバーミングの目的と意義 エンバーミングには「防腐」「消毒」「修復・化粧」という3つの目的があるといわれています。 防腐:体内のタンパク質が腐敗・自家融解することをホルムアルデヒドやアルコールなどの薬品を注入浸透させることによって抑制する。消毒:薬品を注入し浸透させ、あるいは表皮に塗布することによりウイルスや細菌を不活性化する。修復・化粧:病気療養中および死後変化によって変化したお姿を生前の安らかだった頃の姿、表情に近づける。 しかし、これだけを聞いても、実際に利用する方にとってどのようなメリットがあるのか分かりにくい部分があると思います。エンバーミングをすると、ご遺族にとってどのような意義や価値があるのかについて解説していきます。 時間の制約から解放される エンバーミングをすることによって、慌てて葬儀をする必要がなくなります。ご遺体の変化が進むことを考えて、できるだけ早く葬儀を行った結果、「気持ちの整理もつかないままお別れをしなければならなかった」と後悔するご家族は少なくありません。また、変化を抑えるために、専用の保冷庫に預けることをすすめられ、故人と会えないまま葬儀当日を迎えることもあります。そうしたケースでは、「亡くなった」という実感がないまま「気がついたら葬儀が終わっていた」と感じる方もいらっしゃいます。 一方で、エンバーミングを施したことによって、体調を崩されたご家族の回復を待ち、家族全員が揃ってから葬儀を行うことができたケースもあります。このように、最後のお別れを一緒に過ごしたい人たちのスケジュールを尊重した上で、葬儀の日程を決めることが可能になるのです。 過度に冷やす必要がなくなる 葬祭業の立場からすれば、ドライアイスや保冷庫などを使用してご遺体の温度を下げ、腐敗の進行を遅らせることは当たり前の対応です。しかし、その身体の冷たさにショックを受けるご家族は多く、「こんなに冷たくなって……」というお声をよく聞きます。 エンバーミングを施した場合は、ほとんどのケースでドライアイスを使用する必要がなくなります。エンバーミングを施した故人に触れたご家族から、「冷たくないんですね。以前に葬儀をした時は、身体に霜がつくほど冷やされてしまって、本当にかわいそうに思いました」とお話しいただいたことがあります。実は違和感を持っていても「仕方ない」と感じるご家族が多いのだと思います。 もちろん、我々エンバーマーが処置をする前に日数が経過し、腐敗が進行してしまった場合には、エンバーミングを行っただけでは変化を止めることができないケースもあります。そのため、死亡後はできるだけ早めに処置することが望ましいのです。 その人らしさを取り戻す エンバーミングを施すことによって、病気や治療などの影響でやつれてしまっているお顔やお姿を安らかだった頃に近づけることが可能です。生前にどのような病気を患い、どのような治療を受けていたのかといった情報を、エンバーマーが詳細に渡って把握できれば、ご遺体の状態を改善することができるようになります。 ご遺族からの依頼の多くは、「できる限り元気だった頃の姿や表情を取り戻してほしい」というものです。エンバーミングによって防腐され、安定した状態であれば、傷の修復や含み綿などでは改善が難しい「痩せた部位」の修復も可能になります。 また、ドライアイスや保冷庫による処置では、必要な追加処置を行わなければ、乾燥が進み、口やまぶたが開いたり、変色が進んだりすることがあります。エンバーミングを施すことによって、体内から保湿されるため、過度の乾燥を抑えることができます。 さらに、表皮からも保湿することで、肌が整った状態で化粧を行うことが可能になり、その人らしさを取り戻すことにもつながります。使用する薬品に含まれる色素が組織に浸透することで、血色の悪かった部分にも自然な色味が戻るため、厚く化粧をする必要がなくなるケースもあります。 * * * このように、エンバーミングは、ご遺族が「死」を緩やかに受け入れ、大切な人と向き合いながら最後のお別れの時間を過ごすために、役立つ手段の一つだといえるのです。  執筆:橋爪 謙一郎株式会社ジーエスアイ 代表取締役一般社団法人グリーフサポート研究所 代表理事米国で葬祭科学とエンバーミング、グリーフサポートを学び、帰国後(有)ジーエスアイと(一社)研究所を設立。現在は東大大学院で脳科学的視点からグリーフの研究を行う。編集:株式会社照林社 【引用文献】1)日本遺体衛生保全協会:エンバーミングとは- 医療従事者の立場から.https://www.embalming.jp/embalming/medic/2025/6/20閲覧

エンゼルケア応用編 ~ご家族対応とQ&A~【セミナーレポート後編】
エンゼルケア応用編 ~ご家族対応とQ&A~【セミナーレポート後編】
特集 会員限定
2025年6月24日
2025年6月24日

エンゼルケア応用編 ~ご家族対応とQ&A~【セミナーレポート後編】

2025年3月14日、NsPace(ナースペース)は、エンゼルケアの実践的な知識をご紹介するオンラインセミナー「エンゼルケア 応用編 ~状態別対応とコミュニケーション~」を開催。「エンゼルメイク研究会」代表の小林光恵さんに、顔や体の状態別のケア方法やお看取り前後のコミュニケーションについて教えていただきました。 セミナーレポート後編では、ご家族とのコミュニケーションの工夫やQ&Aセッションの内容をお届けします。 ※約90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 >>前編はこちらエンゼルケア応用編 ~お顔の状態別ケア~【セミナーレポート前編】 【講師】小林 光恵さん看護師、作家。編集者を経験後、1991 年からは執筆業を中心に活躍しており、漫画「おたんこナース」、ドラマ「ナースマン」の原案者としても知られる。2001 年には、看護師としての経験をいかして「エンゼルメイク研究会」を発足し、代表に就任。2015 年より「ケアリング美容研究会(旧名・看護に美容ケアをいかす会)」代表も務める。 切開部や拘縮への対応 亡くなられた後、気切部をはじめとした切開部の断端は生着しません。そのため、ケアとしてはまず清拭を行い、創部をしっかりと合わせて、できれば皮膚接合用などのテンションの高いテープを貼ります。その上からフィルム剤、さらにベージュの不織布を貼って、切開部を目立たなくしましょう。ポイントは、一貫して「生着しないこと」に留意して対応することです。 また、関節部分が屈曲したまま硬く固定される「拘縮」が見られる方の対応は、医療者側では行いません。ご家族から関節を伸ばしたいとご要望があった場合は、葬儀社への相談を促してください。 ご家族とのコミュニケーション エンゼルケアでは、ご家族とのコミュニケーションも大切な要素のひとつです。お看取り前後やケアを行う際には、以下のような声かけを意識すると、ご家族の安心や信頼につながります。 お看取り前の声かけ 着替え用衣類の準備については、医師から「残された時間」や「最期が近づいていること」などの病状説明があったタイミングでご案内するとより自然です。「万が一のときは」と前置きのひと言を添えることで、ご家族にも配慮した伝え方になります。 エンゼルケア時 私が自身の母を看取った際は、看護師の方々が「息が止まったら連絡をください」「担当医は◯時に到着します」といった業務的な案内にとどめてくださったことが、かえって心の支えになりました。そうした経験から、私は亡くなった後の言葉がけは必須ではないと考えています。無理に声をかける必要はなく、ご家族の状況に応じた柔軟な対応が大切です。 例えば、抱き移しの際に「どうぞ抱いて差し上げてください」とお声かけするだけでも、ご家族の心情に寄り添う関わりになります。 また、事業所のスタンスにもよりますが、エンゼルケア終了後に「ご不明な点がありましたらいつでもご連絡ください」と伝えておくと、ご家族は心強いはずです。 時代の流れをふまえたエンゼルケアを 近年、「死」への対応についての社会の捉え方は大きく変化しています。とくに葬送はこのところ大幅な簡略化が進み、時間をかけずに終わらせるケースが増加傾向にあります。つまり、ご遺体と過ごす時間が少なくなりつつあります。 これからのエンゼルケアのあり方について検討する際も、そうした流れをふまえる必要があるでしょう。グリーフワークにとってプラスになることを意識しながら、ぜひ事業所のみなさんで考えてみてください。 Q&Aセッション Q.エンゼルケアの説明と料金の提示はどのように行うとよいでしょうか? エンゼルケアの料金は、細かな金額こそ異なるものの、多くの事業所で請求されています。金額提示方法については、研究会では契約書へ記載することを推奨しています。金額とあわせて、事業所で実施しているエンゼルケアの内容を整理して記載しておくとよいでしょう。「担当看護師◯名が◯分間の中で、必要と判断した看護(体をきれいにする、着替えさせるなど)を行います」のように書くのがおすすめです。 Q.自壊創があり、滲出液や出血が見られる場合はどのように対応すればよいですか? 研究会では、生前と同様の処置を継続するのがよいと考えています。滲出液が多く臭気が強い場合は、次亜塩素酸水をスプレーし、その上で生前お使いだった臭気を抑制する軟膏を塗布するなどがよいでしょう。 【お顔への対応】 後頭部や体の背面に滲出液や出血が見られる場合は、重力の影響を受けて流出が続き、時間経過とともにそれらが溜まって汚染が広がる可能性があり、フィルム剤で創部を密閉したり、汚染を吸収する布類を敷いたりなどの対応の必要があります。 それに比べて、お顔の創部は重力の影響は大きくなく、水分を吸収するガーゼなどを当て、フィルム剤で密閉したあとは、ベージュのテープや肌の色に近い布などでカバーして目立ちにくくします。 【浮腫によって滲出液が出ている場合の対応】 浮腫による滲出液はいつまで出続けるか予測がつかないため、汚染しないように吸収するものを当てておく必要があります。身につける衣服も滲出液に汚染される可能性があるので、とくに大事なお着替えの場合は、時間を空けて着せる、吸収するものを当てた状態で着用していただくなどの対応をとってください。 Q.お顔の乾燥を最小限にするコツ、また手に入れやすい保湿剤を教えてください。 乾燥の防止に必要なのは油分をたっぷりなじませることです。おすすめの保湿剤は、化粧品のクリーム。油分で油膜をつくるワセリンやオリーブオイルでも乾燥は防止できますが、化粧品としてつくられた保湿クリームは、伸びのよさやなじみやすさの点で優秀です。 クリームを選ぶ際は「バニシングクリーム」や「コールドクリーム」を避けてください。前者は油分が少ない、あるいは油分がまったく入っておらず、後者はクレンジングやマッサージに適したもので、いずれも保湿には向きません。「保湿クリーム」と表記されているものを選びましょう。 また、最も乾燥に注意したい部位は唇で、葬儀社の方も「唇はとにかく早い段階で保湿してほしい」と話します。唇はワセリンやオリーブオイルなどで保湿し、メイクをする場合は口紅をしっかり塗ります。 * * * 今回は研究会が考えるエンゼルケアのノウハウについて、具体的な場面をイメージしながらお伝えしてきました。ぜひ現場で実践して、より質の高いケアを目指していただければ幸いです。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

大賞エピソード漫画化!「お母さん~看護の襷をつなぐということ~」【つたえたい訪問看護の話】
大賞エピソード漫画化!「お母さん~看護の襷をつなぐということ~」【つたえたい訪問看護の話】
特集
2025年6月17日
2025年6月17日

大賞エピソード漫画化!「お母さん~看護の襷をつなぐということ~」第2話【つたえたい訪問看護の話】

NsPaceの特別イベント「第3回 みんなの訪問看護アワード」で募集した「つたえたい訪問看護の話」。今回は、株式会社ウッディ 訪問看護ステーションはーと(東京都) 木戸 恵子さんの大賞エピソード「お母さん~看護の襷をつなぐということ~」をもとにした漫画の第2話をお届けします。 >>全受賞エピソードはこちらつたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!大賞・審査員特別賞・ホープ賞・協賛企業賞【2025】つたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!入賞【2025】 「お母さん~看護の襷をつなぐということ~」前回までのあらすじ4人のお子さんがいるえみさんは、末期の肺がんを患っている。子どもたちと最後の思い出をつくるために、主治医の許可も得て宮崎から東京に飛行機で移動していたところ、容体が急変してしまい、緊急入院することになった。えみさんや夫は「子どもたちのいる宮崎に帰りたい」と言っており、J病院の医師・看護師たちはリスクが大きいため悩んだが、訪問看護師の木戸さんに相談することにした。<主な登場人物>>>第1話はこちら大賞エピソード漫画化!「お母さん~看護の襷をつなぐということ~」第1話【つたえたい訪問看護の話】 「お母さん~看護の襷をつなぐということ~」第2話 >>第3話(最終話)はこちら大賞エピソード漫画化!「お母さん~看護の襷をつなぐということ~」第3話【つたえたい訪問看護の話】 漫画:広田 奈都美(ひろた なつみ)漫画家/看護師。静岡県出身。1990年にデビューし、『私は戦う女。そして詩人そして伝道師』(集英社)、『ナースのチカラ ~私たちにできること 訪問看護物語~』『おうちで死にたい~自然で穏やかな最後の日々~』(秋田書店)など作品多数。>>『ナースのチカラ』の試し読みはこちら【漫画試し読み】『ナースのチカラ』第1巻1話(その1)投稿者: 木戸 恵子(きど けいこ)さん株式会社ウッディ 訪問看護ステーションはーと(東京都) >>「第3回 みんなの訪問看護アワード」特設ページ [no_toc]

渡辺式家族アセスメント 関係性検討と援助の方向性【セミナーレポート後編】
渡辺式家族アセスメント 関係性検討と援助の方向性【セミナーレポート後編】
特集 会員限定
2025年5月20日
2025年5月20日

渡辺式家族アセスメント 関係性検討と援助の方向性【セミナーレポート後編】

NsPace(ナースペース)のオンラインセミナー「家族看護~渡辺式家族アセスメント/支援モデル 導入編~」(2025年2月21日開催)のテーマは、家族看護に活用したい「渡辺式家族アセスメント/支援モデル」(以下、渡辺式)。開発者の渡辺裕子さんをお招きし、その活用方法を詳しく教えていただきました。セミナーレポート後編では、渡辺式全5ステップのうち3〜5と、検討にあたって意識したいポイントをご紹介します。 ※約90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 >>前編はこちら家族看護 「渡辺式」とは? 場面と登場人物の整理【セミナーレポート前編】>>関連記事「家族看護」シリーズ一覧 【講師】渡辺 裕子さんNPO法人日本家族関係・人間関係サポート協会 理事長/「渡辺式」家族看護研究会 副代表千葉大学大学院 看護研究科を修了後、市町村保健師として勤務。その後「家族看護研究所」「家族ケア研究所」を立ち上げ、2022年から現職。患者とその家族、職場の人間関係に悩む看護職を長年サポートしている。 ステップ3:対象者と援助者の関係性を検討する 対象者と援助者の関係性を検討します。本事例では、以下のような悪循環が生まれていることが見えてきました。 長女と母親長女は母親に対して苛立ちをぶつけ、甘える。しかし、母親に受け流されるため、さらにぶつける。母親は余計にしんどくなってまた受け流す。長女と訪問看護師長女は訪問看護師の前で両親を怒鳴ることで、不満を訴えている。訪問看護師は対処法がわからず、訴えを聞き流す。長女はますます強く訴える。母親と訪問看護師訪問看護師は母親を心配して気遣うが、母親は取り繕い、ますます気になる。 ステップ4:力関係と両者の心の距離感を検討する ステップ4では、ステップ3で整理した関係性をさらに細かく見ていきます。具体的には、「パワーバランス」の検討、相手との間に本来必要なパートナーシップを構築できているかを考えましょう。なお、「本来必要なパートナーシップ」とは、以下の条件を満たすものです。 パートナーシップの条件1. 利用者さんとご家族、援助者が対等である2. お互いの専門性を尊重し、相手に足りないものを交換し合う(訪問看護師は看護の、ご本人やご家族は「利用者さんの人生」の専門家)3. 望ましい心理的距離を保てている4. 目標を常に共有する5. 援助者はできる限りのサポートを提供し、利用者さんやご家族に力を発揮してもらい、協働する 本事例では、長女の訴えのパワーが適正範囲(ベースライン)を超えています。一方の訪問看護師は「あまり関わりたくない」という思いもあり、パワーが低い状態です。 また心理的距離についても、長女はバウンダリー(心の境界線)を超えて訪問看護師のほうに近寄っており、訪問看護師はやや逃げ腰です。 ステップ5:アセスメントをもとに、支援方策を考える ステップ5では、ここまでのアセスメントをもとに、「5つの柱」を意識しながら支援方策を立てます。 援助の方向性5つの柱1. 悪循環を是正する2. パワーバランスや心理的距離の乱れを是正する3. 背景の中で変えられるものにアプローチする4. ストレングスに働きかける5. 課題を共有し、今後の方向性を話し合う 「悪循環の是正」の観点では、聞き流される度に長女の訴えがエスカレートする状況を変えなければなりません。 「パワーバランスや心理的距離の乱れを是正する」という観点では、長女のパワーを下げて訪問看護師のパワーを上げること。つまり適正なバウンダリーを守り、よい距離感をキープすることを目指す必要があるでしょう。 「背景の中で変えられるものにアプローチする」では、ステップ2で整理した背景から、すぐに変えられそうな要素に焦点を当ててアプローチします。ポイントは、チームで取り組むこと。チームで考えれば「声のかけ方がわからない」という悩みは早期に解決できるかもしれません。また、「家族の問題にどこまで関わるべきかわからない」という悩みについても、組織としての判断を検討すると、自身の後ろに支えがあることを実感でき、訪問看護師のパワーの向上につながるはずです。 「ストレングスに働きかける」のは、家族看護において必須。問題ばかりを見ず、どの家族にもある強みに目を向けましょう。 最後の「課題を共有し、今後の方向性を話し合う」では、Aさんの介護をどうしていきたいかを、対象人物みんなで改めて考える必要があります。 具体的な支援方法の案 上記をふまえると、以下のような支援方法が考えられます。 支援方法1長女の背景に焦点を当てて気持ちを想像し、更年期障害の可能性も検討しながら、訴えを受け止める。長女の困りごとを一緒に考える姿勢をもつ。[理由/目的]・悪循環が是正され、心理的距離も少しずつ変化するはず。・長女への理解が深まることで、「援助者を困らせる人」ではなく「困っている人」なのだというリフレーミングが起こる。支援方法2カンファレンスで情報を共有の上、介入の必要性の有無を検討し、チームとして意思決定する。[理由/目的]・訪問看護師のパワーが上がる。支援方法3対象人物の訪問看護師には同行訪問の機会を設け、同僚の対応を見られるようにする。また、長女にかける言葉はチームで検討する。[理由/目的]・訪問看護師の背景に働きかける。支援方法4訪問スケジュールに余裕をもたせる。[理由/目的]・「中途半端な関わりになることへの不安」の解消を目指す。支援方法5長女、母親、訪問看護師で介護の体制について再度話し合う。[理由/目的]・母親にも長女にも過剰な負担がかからない体制をつくる。 このように、分析結果をひとつの仮説として捉え、支援方策を考え実施します。その後、その結果を評価し、さらなるアセスメントを繰り返すことで、支援の質を向上させていきます。 シート作成のポイント 人間関係見える化シート(R)の目的は、完璧に埋めることではなく、支援の糸口を探すことにあります。具体的な支援方法をなかなか見出せない事例もあるかと思いますが、理解が深まるだけでも、援助者の関わり方や対応が変わることもあるでしょう。 なお、このシートは、「誰が悪いか」を決めるものではありません。対象人物の言動の理由や根拠を認め、悪循環を見つけることで、現状を正しく理解しましょう。それができれば、中立性を保持できます。 * * * 渡辺式家族アセスメント/支援モデルは、利用者さん・ご家族への支援を構造的に捉え直す手がかりとなります。家族看護に悩んだ際は、ぜひ渡辺式を使い、現状を俯瞰した上で具体的な方策を考えてみてください。また、人間関係見える化シート(R)を職場内で共有し、共通の視点や枠組み、言葉で語り合える仲間を増やすのも重要なポイントです。本稿が、利用者さんやご家族との関わりにおける課題の整理や問題解決を考える上で少しでもお役に立てれば幸いです。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

家族看護 「渡辺式」とは? 場面と登場人物の整理【セミナーレポート前編】
家族看護 「渡辺式」とは? 場面と登場人物の整理【セミナーレポート前編】
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2025年5月13日
2025年5月13日

家族看護 「渡辺式」とは? 場面と登場人物の整理【セミナーレポート前編】

2025年2月21日、NsPace(ナースペース)はオンラインセミナー「家族看護~渡辺式家族アセスメント/支援モデル 導入編~」を開催。家族看護に役立つ「渡辺式家族アセスメント/支援モデル」(以下「渡辺式」)について、開発者である渡辺裕子さんが、具体的な事例を挙げながら教えてくださいました。セミナーレポート前編では、渡辺式の基礎知識と、全5ステップのうち1~2をまとめます。 ※約90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】渡辺 裕子さんNPO法人日本家族関係・人間関係サポート協会 理事長/「渡辺式」家族看護研究会 副代表千葉大学大学院 看護研究科を修了後、市町村保健師として勤務。その後「家族看護研究所」「家族ケア研究所」を立ち上げ、2022年から現職。患者とその家族、職場の人間関係に悩む看護職を長年サポートしている。 渡辺式家族アセスメント/支援モデルとは 渡辺式は、訪問看護師をはじめとした援助者が利用者さんとそのご家族との関わりに悩んだ際に、「ことの全容」を明らかにし、援助の方向性を導き出すための思考過程です。 渡辺式の3つの特徴 援助に行き詰まりを感じた場面や時期を特定した分析ツールある程度の期間支援を継続している中で、悩みや気持ちのモヤモヤが発生した際に有効な「渡辺式シート」。局面を特定して理解を深める。 援助者自身をも分析対象とする悩みは相手と援助者との関係の中で起こるため、援助者自身の思いや行動も分析対象とする。 個々の理解から関係性へと視点を拡げるツール複数の人を対象としている。分析対象人物を個々に掘り下げた先に、人間関係が見えてくる。 「渡辺式シート」とは 渡辺式家族アセスメント/支援モデルでは、支援を考えるときの思考の流れを整理できるように、「渡辺式シート」※というツールがあります。このシートは、次の3つのパートで構成されています。※NPO法人 日本家族関係・人間関係サポート協会のウェブサイトより「渡辺式シート」のダウンロードが可能です。 ● I:事例情報シート● II:人間関係見える化シート(R)● III:支援方策・実施・評価シート なかでも「Ⅱ:人間関係見える化シート(R)」は、ご家族の関係性を整理しながら、どこに支援の手がかりがあるかを見つけていくのに役立ちます。複雑な背景があるケースでも、整理して考えられるようになります。援助者が利用者さんやご家族に日頃から寄り添い、理解を深めても、自身を含めた人間関係の全容把握は難しいもの。このシートを使って全体を俯瞰していきます。 なお、人間関係見える化シート(R)は、チームメンバーで思考過程を共有する際に使うことを想定してつくりました。事例検討会やカンファレンスでぜひご活用ください。 >>関連記事家族看護とは何か、看護職に求められることは【総論 前編】家族看護 渡辺式家族アセスメント/支援モデルとは【総論 後編】 事例紹介「Aさん(80代前半/男性)の家族看護」 人間関係見える化シート(R)の内容は、以下の5ステップに分かれています。Aさんの家族看護事例1)を使って説明していきましょう。 Aさん(80代前半の男性)主病名・既往歴脳梗塞(7年前に発症)、肺気腫生活歴30代後半から飲食店を経営。脳梗塞の発症をきっかけに、70代半ばで店を引退。日常生活自立度要介護4。胃ろうを造設しており、車いす生活。排泄はおむつを使用。自発語は出にくいが意思疎通は可能。Aさんの家族妻:70代。明るく社交的な性格。介護の実働を担う。長女:50代。Aさんの店を長年手伝い、経営の管理を担当。結婚歴はなし。介護に関する諸手続きや対外的な対応、サービスの決定を担う。肩の痛みを訴えている。長男:別居。年に数回帰省するのみで、介護にはノータッチ。 対応に困難をきたしたできごと 本事例における訪問看護師の困りごとは、長女の言動です。AさんのADLが低下して介護量が増加したことに伴い、訪問看護師の前で両親に罵声を浴びせるようになりました。 長女から母親へ「ややこしいことを私に押しつけて、お母さんは自分勝手! こんな人生になると思わなかった」と、体の不調や自分が思うように生きられないのは「家の犠牲」になったせいだと主張。長女からAさんへ「親を介護する娘は早死にするんだって。私はお父さんより先に逝くかもしれない」と発言。 訪問看護師はこうした言動が目に余ると感じながらも、声の大きな長女に苦手意識があり、圧倒されていました。また、訪問時間が限られていることもあり、中途半端に関わって火に油を注ぐことにならないかと懸念もしています。 本事例でどのように渡辺式を活用するか、具体的に見ていきましょう。 ステップ1:検討場面の明確化 基本的には事例提供者ファーストで判断するので、訪問した看護師の希望に沿って、今回は「長女が母親を怒鳴る場面」とします。 次に「対象人物(誰に焦点を当てるか)」を整理。この場面では訪問看護師と長女、母親になるので、以下のようにシートに記入します。 ステップ2:対象者と援助者の言い分を明らかにする 「困りごと」「対処」「背景」の3つを整理しましょう。人の行動の裏には必ず理由があるため、対象人物の皮膚の内側に入ったような気持ちで考えてください。 長女困りごと自分でもコントロールできない苛立ち対処両親に暴言を吐いて気持ちをぶつける背景 ・人生に対する不満足感 ・やりがいの喪失 ・将来への不安 ・兄弟間で感じる理不尽 ・Aさんの現状への悲しみと苛立ち ・両親への甘え ・ストレス発散の機会がない ・更年期のホルモンの乱れ 母親困りごと娘から怒鳴られ、暴言を吐かれる対処聞こえないふりをして無言を貫く背景 ・言い返さないほうがよいという経験からの判断 ・長女の勢いに圧倒され、対応方法がわからない ・介護の疲れ ・ことを荒立てたくない気持ち ・自分さえ我慢すればよいという判断 ・長女に負担をかけていることへの親としての負い目 訪問看護師困りごと訪問中に長女が両親に暴言を吐く対処ケアに集中して聞こえないふりをする背景 ・長女への苦手意識 ・どう声をかけるべきかわからない ・長女の苛立ちを受け止める自信がない ・中途半端な関わりになることへの不安 ・家族の問題にどこまで関わるべきかわからない ・できれば面倒なことに関わりたくない気持ち こうして推察すると、対象人物の言動の意味や物語を理解しやすくなります。上記は仮説ですが、それが支援の第一歩になるのです。 次回は、前編に引き続き、渡辺式全5ステップのうちステップ3〜5を取り上げます。援助者と利用者さん・ご家族との関係性や、それぞれの力関係・心理的距離について具体的に検討しながら、支援を進める上で意識したいポイントを解説します。 >>後編はこちら渡辺式家族アセスメント 関係性の整理と援助の方向性【セミナーレポート後編】>>関連記事「家族看護」シリーズ一覧 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア 【引用】(1)渡辺 裕子監修(著),中村 順子,本田 彰子ほか(編)「家族看護を基盤とした地域・在宅看護論 第6版」東京,日本看護協会出版会,2022,P110-119,

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