教育に関する記事

新任訪問看護師の戸惑い 育成の課題と行動指針【セミナーレポート後編】
新任訪問看護師の戸惑い 育成の課題と行動指針【セミナーレポート後編】
特集 会員限定
2025年4月22日
2025年4月22日

新任訪問看護師の戸惑い 育成の課題と行動指針【セミナーレポート後編】

2025年1月23日に実施したNsPace(ナースペース)のオンラインセミナー「新任訪問看護師の戸惑いあるある~ギャップを感じるのはなぜ?~」。聖路加国際大学 講師の佐藤直子先生をお招きし、新任訪問看護師の戸惑いをテーマに講演いただきました。セミナーレポート後編では、新人育成における業界の課題や、東京ひかりナースステーションでの実際の取り組みなどをまとめます。 ※60分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 >>前編はこちら新任訪問看護師の戸惑い 困難感への理解と支援【セミナーレポート前編】 【講師】佐藤 直子 先生聖路加国際大学 講師/東京ひかりナースステーション 顧問/在宅看護専門看護師2003年より訪問看護に携わり、2019年~東京ひかりナースステーションクオリティマネジメント部部長。2010年に聖路加国際大学大学院の修士課程(CNSコース)を、2020年には博士課程(DNPコース)を修了。 訪問看護業界全体の育成の課題 業界全体の教育における課題には、以下のようなものがあります。 即戦力人材の減少 訪問看護が急拡大したのは、介護保険制度が始まり、ステーションが増えた2000年からです。当時は、再就職を考えている、もしくはブランクがある病院出身の看護師を即戦力として採用するのが一般的でした。しかし、病院の機能分化が進み、入院期間も短くなるにつれて、「生活を支援する」という視点で即戦力となれる看護師は、ほとんど見かけなくなっています。 育成体制が追い付いていない 人手も資金も時間も限られているステーションでは、育成体制を十分に整えることが難しいといわれています。 「病院や病棟の色」がついた看護師の増加 訪問看護に求められるのは「看護師基礎教育で学んだ内容」であり、特別に学ぶことはほとんどありません。しかし、例えば急性期医療の経験があると、安全や感染の知識に偏って重きを置いてしまうケースも。その結果、訪問看護の現場でギャップに苦しみます。 事業所の育成力 もちろん個人差がありますが、ベテラン訪問看護師はノウハウや思考の言語化が苦手な傾向があり、新任者にうまく伝わらないケースが多いです。 こうした訪問看護業界の現状をふまえ、新任者には「自分が先輩も新人もお互いに学べる職場を作る」という意識をもってもらえるとありがたいです。また、「訪問看護」と一口にいっても、事業所ごとに性質は異なります。新任者にとっては、入職したステーションの性質とやりたいことが合わないと、つらさの一因になるでしょう。訪問看護ステーションの内実がわかりづらい点も業界の課題であり改善が必要ですが、新任者の方は、就活中も入職後も時間をかけて慎重に見極めてください。 東京ひかりナースステーションの取り組み 訪問看護師の育成では、知識・技能・態度が重要です。そこで、東京ひかりナースステーションでは、以下の取り組みを実践しています。 知識の支援 レベル別の知識テスト(基本知識、特定の利用者さんを担当する際に必要な知識など)を実施。正解を伝えるだけでなく、足りない知識の勉強方法も解説します。 技術の支援 爪切りや巻き爪のケア、胼胝と鶏眼の処理、スキンテアの対処法など「病院では頻度が低いけれど訪問看護ではよく実践する技術」をリスト化し、演習を行います。演習は訪問予定に応じて都度実施し、「忘れてしまった」ということがないようにします。 態度や姿勢の支援 態度や姿勢を支えるのは、「考え方や行動の指針」です。正解はないので、各ステーションで「何を大切に看護するか」を考えてください。 なお、当ステーションでは毎週2時間のミーティングを行い、お互いのケースについて相談し合います。全員が自分ごととして考え、行動レベルのプランを協力して構築。態度や姿勢を言葉で伝えるのは難しいですが、実例を挙げて対話し、「自分たちが大切にしたいこと」を共通認識にしていくと、自ずと行動指針ができてきます。 普遍的な訪問看護の行動指針 ステーションごとに指針を確立し、共有することが重要とお話ししましたが、一方で「訪問看護の普遍的な考え方、行動指針」もあると思います。 利用者さんが暮らすこと、生きることを支援する 「生きる」は「命がある」だけを指すのではなく、生きがいや役割をもつことも含みます。1秒でも長く生きられるように支援するだけでは、十分とはいえないでしょう。また、暮らしに焦点を当てるからこそ、短期目標に加えて超長期目標を立てることも特徴です。数年先の暮らしを想像しながら看護を展開します。 セルフケアの維持・向上を目指す 訪問看護師の多くは、自分ではなく「利用者さん」を主語にしてケアを語ります。例えば「(私が)患者を立たせる」とはいわずに「(支援したら)患者が立った」と表現するのは、利用者さんの能動的・自律的な行動を支援したいと考えているからでしょう。 利用者さんごとに正常・異常を判断する 訪問看護師のアセスメントの基準は、「前回訪問時の利用者さんの様子や個々人にとっての正常」です。病院では驚かれる数値でも、訪問看護師は利用者さんの軌跡をふまえて評価します。 利用者さんを含めたチームでアプローチする 訪問看護師は、利用者さんの目標に向かってチームでアプローチします。ポイントは、「チーム」に利用者さんやご家族も含まれること。ご本人やご家族が行動しないと目標を達成できませんし、彼らが最も真剣に目標と向き合っていることをわかっているからこその考え方です。 また、訪問看護師だけでは何もできないことを理解し、多職種やフォーマル、インフォーマルを含めたチームでの協働を目指します。そして、そのために必要な合意や情報共有を大切にしています。 * * * 訪問看護は地域医療において重要な役割を担い、その支え手である看護師の育成と意識づけは欠かせません。より良い看護を提供できる環境を整えるためには、皆で成長できる環境を目指すことが大切です。新任者の皆さまも、より良い職場を作るために積極的にアプローチしていく姿勢で臨んでいただけたら幸いです。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

腹膜透析の普及と支援の現場:教育体制、多職種連携、訪問看護の課題【特別対談】
腹膜透析の普及と支援の現場:教育体制、多職種連携、訪問看護の課題【特別対談】
インタビュー
2025年4月15日
2025年4月15日

腹膜透析の普及と支援の現場:教育体制、多職種連携、訪問看護の課題【特別対談】

小倉記念病院腎センター科長の栗本幸子さんと、在宅看護センター北九州管理者の坂下聡美さんによる特別対談。後編では、腹膜透析(Peritoneal Dialysis:PD)の実践に携わるスタッフの育成・研修体制のほか、多職種連携で重視すること、訪問看護における制度上の課題などについてお話をうかがいました。 >>前編はこちら地域で支える腹膜透析:病院×訪問看護ステーションの連携【特別対談】 ※本記事は、2024年12月の取材時点の情報をもとに構成しています。 ▼プロフィール栗本 幸子(くりもと ゆきこ) 氏一般財団法人平成紫川会 小倉記念病院看護部 腎センター 科長 認定看護管理者同院の循環器病棟および腎臓内科病棟の科長を経て、2023年11月より現職。2017年に認定看護管理者の資格を取得。坂下 聡美(さかした さとみ) 氏一般社団法人 在宅看護センター北九州 代表理事(管理者・看護師)パーキンソン病療養指導士北九州市立看護専門学校を卒業後、病院や地域のクリニックでの勤務を経て、2000年より訪問看護に従事。2018年、公益財団法人笹川保健財団の支援を受け、北九州学術研究都市「ひびきの」に日本財団在宅看護センター「一般社団法人 在宅看護センター北九州」を開設。※文中敬称略 PDの研修方法と新人教育の工夫 ー病院や事業所ではどのような方法でPDの研修をされていますか。 栗本: 小倉記念病院では、新人のときから「PD患者さんは特別な存在ではない」という意識をもってもらうようにしています。新人の集合研修の中にもPDを取り入れているほか、どの病棟にもPD患者さんが入院できるようにしているので、病棟ごとに教育担当者から指導を受け、経験を積んでいきます。 また、当院は日本腹膜透析医学会(JSPD)の教育研修医療機関でもあるので、年に4回ほど外部向けの教育研修も実施しています。PD患者さんが多いため、他の病院の方々から見学の依頼を受けることも多く、個別のプログラムを組んで対応することもありますね。 坂下: 在宅看護センター北九州でも、PDに関してはOJTで研修を行います。新人が入職したときは最初の3回ほどは必ず先輩について実習を行い、4回目以降から少しずつ独り立ちします。自信がない場合は、遠隔作業支援システムを活用しバックアップしています。患者さんの同意が必要ですが、ウェアラブルカメラを新人が装着し、リアルタイムで先輩が状況を確認。音声も届けられるので、必要なときには声をかけます。 新人にとっても、実際に隣に先輩がいるよりも遠隔で見守ってもらうほうが緊張せず、落ち着いて作業できるようです。スタッフのストレスを軽減しつつ、患者さんにとっても安心感を提供できるツールであると感じています。 看護の連携が患者さんの大きな安心につながる ーPDにまつわる多職種連携の取り組みについて教えてください。 栗本: 当院では2週間に1回、「PDカンファレンス」を行っており、そこには医師、外来看護師、病棟看護師、管理栄養士、ソーシャルワーカー、理学療法士、薬剤師など、PD療法に関わる全職種が参加します。もうすぐ退院される患者さんや、これから入院される患者さんについて情報を共有し、ディスカッションを行うんです。例えば、退院前の患者さんの場合、無事に自宅に戻れるかどうか、栄養状態やADL(日常生活動作)などさまざまな視点でチェックし、必要に応じて訪問看護の導入や家族のサポート体制を整えています。患者さんの生活状況を多角的に把握し、多職種と連携しながら進めていくことが重要だと考えています。 ー多職種が関わるからこそ、患者さんが安心して自宅に戻れるのですね。 栗本: そうですね。そこで、ひとつの大きな課題になるのが、「訪問看護が必要かどうか」ということです。本当に家族だけのサポートでよいのか、その家族もいない場合にはどうしたらよいのか。こういったことは家族だけで考えてもなかなか解決しません。それを、ソーシャルワーカーや、当院のような訪問看護と連携している病院が協力することで、ある程度、その患者さんが安心して地域に戻っていただけるベースをつくることができると思います。そこは、本当に大事にしたいと考え、取り組んでいるところです。 坂下: 訪問看護の立場からみると、退院前のカンファレンスで話をうかがえること、何かあったときに病院の看護師さんたちに質問できる環境があることは、大きな安心につながります。 あとは、医療機器メーカーとの連携も欠かせません。在宅では、さまざまなメーカーのいろいろな機器を患者さんが使用されているので、1個ずつの使用方法についていくのが大変です。でも、メーカーに相談したら、すぐに勉強会を組んでくださり、訪問看護ステーションにも出向いてくださって使用方法を教えてもらいました。こういった連携がとてもありがたいです。 ー訪問看護導入にあたり、患者さんにとってどういった点がハードルになることが多いのでしょうか。 栗本: やはり、経済的な問題です。費用負担を心配される患者さんもいらっしゃるので、カンファレンスでは制度面・費用面のことも話し合っています。私たちがいかにサポートできるか、患者さんに喜んでいただけるかを考えながら調整していくようにしています。 坂下: 一般的に、訪問看護での24時間対応をつけると一割負担で月に600円程度が目安ですが、「払えないからつけなくていい」と言われることがあります。数百円単位でも患者さんにとっては大きな負担になることがありますし、医療制度のしくみの中で使える支援やサービスに関する知識も、訪問看護師にとってはとても大事だと思います。 PDという選択肢を提示できる土壌をつくる ー患者さんにPDという選択肢が提示されないケースが多い現状に対し、今後どういった取り組みが必要だと思われますか。 栗本: 選択肢を提示し、患者さんが望む治療を選べるように、まずはPDを提供する側の土壌をつくっていくことが重要だと考えています。継続的な治療をサポートできるように病院や訪問看護が連携すること、院内や事業所内でPDを継続できるような教育・指導体制の強化を積極的に進めていくことが大切だと思います。 その一環として、当院では情報連携のICTツール「バイタルリンク(R)」を活用して3つの訪問看護ステーションと連携し、高齢独居のPD患者さんをフォローしているケースがあります。この方は、1日3回のPDが必要なのですが、病院と各ステーションが患者さんの1日の状態をリアルタイムで把握できる体制になっているので、切れ目のない看護を提供できている実感があります。ICTの活用は今後ますます重要になってくるのではないでしょうか。 坂下: そうですね。さまざまなケースに対応できる体制の整備は必要ですね。あとは、PDという治療法の存在をしっかり広めていくことも、医療を提供する側の大切な役割と感じています。 例えば、山間部にお住まいの患者さんが血液透析に通うのが難しくなったため、訪問看護が入ってPDを選択されるといったケースもあります。PDは自宅で治療ができるので、通院の負担も減り、1回の治療にかかる時間も比較的短め。透析のタイミングを調整すれば、自由に使える時間が増え、患者さんの生活の質(QOL)を保つことができるでしょう。最近は、60代や70代でバリバリ仕事をされている方が多いので、そういう方たちの希望のひとつにPDがなるのかなと思っています。また、自宅で最期まで過ごしたいと希望される方が増えてきていますが、その場合には「PDラスト」という選択肢もあります。在宅医の先生がついていれば、PDをしながらでも最期まで看取れるようになります。 患者さん、ご家族、医師、看護師などでACP(Advance Care Planning、または人生会議)を行い、患者さんにとっての最善を選べるサポートができるとよいですね。 栗本: 当院のような基幹病院が、PDをサポートする訪問看護師さんや在宅医に対して「何かあればいつでも連絡ください」と言える体制を整えていくことも大切ですね。逆に、訪問看護師さんから「こうしてほしい」といったご提案をいただき、それをもとに改善を重ねながら、今後も連携を続けさせていただきたいなと思っています。 坂下: そうですね。お互いに意見を交換しながら、利用者さんが安心して治療を続けられるよう、よりよい連携・支援体制をつくっていきたいですね。今後ともよろしくお願いします。 取材・編集: NsPace編集部執筆: 株式会社照林社

新任訪問看護師の戸惑い 困難感への理解と支援【セミナーレポート前編】
新任訪問看護師の戸惑い 困難感への理解と支援【セミナーレポート前編】
特集 会員限定
2025年4月15日
2025年4月15日

新任訪問看護師の戸惑い 困難感への理解と支援【セミナーレポート前編】

2025年1月23日、NsPace(ナースペース)はオンラインセミナー「新任訪問看護師の戸惑いあるある~ギャップを感じるのはなぜ?~」を開催。新任訪問看護師の戸惑いをテーマに、聖路加国際大学 講師の佐藤直子先生にお話を伺いました。セミナーレポート前編では、新任者の悩みと、それらを解消するサポート方法を紹介します。 ※約60分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)が特に注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】佐藤 直子 先生聖路加国際大学 講師/東京ひかりナースステーション 顧問/在宅看護専門看護師2003年より訪問看護に携わり、2019年~東京ひかりナースステーションクオリティマネジメント部部長。2010年に聖路加国際大学大学院の修士課程(CNSコース)を、2020年には博士課程(DNPコース)を修了。 訪問看護入職者の一般的な戸惑い・困難感 訪問看護師が感じる戸惑いや困難感に関して、いくつかの研究をもとに、以下のように分類しました。 ■個人の課題(仕事がうまくできない情けない思い)・知識や技術の不足・単独訪問の判断の難しさと責任・時間内にケアが終わらない など■場やシステムの課題、職場全体で取り組むべき問題・勤務体制(24時間対応、休みのとりにくさ)・(薬剤を含む)医療データが少ない、かつ入手が困難・他職種連携(これまで関わったことがない職種との連携) など■訪問看護特有ではない問題・職場内の人間関係・家庭との両立 など文献1)-3)の結果を集約 私が問いたいのは、「これらの問題は本当に『問題』なのか」ということです。例えば、ベテラン訪問看護師の多くは「介護保険制度や医療保険制度の理解は追い追いで良い」と話します。 また、単独訪問の判断の難しさと責任については、考え方を変える必要があるでしょう。訪問看護では、「患者の管理」を行うのではなく「ケアの管理」をします。患者管理をしようとすると、判断することや責任を負うことがつらくなってしまうでしょう。具体例として、訪問看護師が「この利用者さんは次回の訪問まで転倒しない」と判断することはできませんよね。「転ばせない」ことを主軸に患者管理をしようとすると、訪問の後も不安感が募ってしまうのです。それよりもちゃんと動けるケア、転んだらどのように起き上がるのかを考えるほうが良いです。 さらに、時間内にケアが終わらないのも新任者なら当たり前のことであり、問題ありません。技術は経験を重ねることで向上します。まずはそのことを上司や同僚に相談しましょう。 誤解されがちな「現場での判断のあり方」 「訪問看護師は一人で現場に行き、判断する」と考えている方もいますが、これは誤りです。テクノロジーの発達により、現場で個人が判断する時代は終わりました。例えば、利用者さんの体に新しい傷があれば、共有アプリに写真をアップロードし、先輩やドクターにその場で処置方法を確認できます。 また、私は訪問看護の最大の強みは、利用者さんと一緒に判断できることだと考えています。「私は看護師としてこのように判断しましたが、いつもどのように対処していますか?私はこの対応が良いと思いますが。」と利用者さんにぜひ尋ねてみてください。本来、医療やケアの選択は、利用者さんご自身が最も強い決定権をもつものです。 ただし、自分で判断するのが難しい利用者さんには噛み砕いて伝えたり、過去の記録に基づいて検討したりすることは必要です。 先輩看護師のフォローについて ここからは、主に新任者本人ではなく、サポートする先輩看護師に向けてお話しします。新任訪問看護師が一人で訪問するようになった際、「電話があるから大丈夫」「カメラがあるから大丈夫」ではなく、適切なフォローをすることが大切です。 例えば、よく言われる「何かあったら言ってね」という言葉は、一見親切そうで、実はとても不親切。新任者はその「何か」を判断できないからこそ困っているのです。 「どう?何か気になることはある?」「特に問題がなくても、訪問終わる前に連絡してね」といった積極的な声かけが大切です。新任者が自信を持って判断できるようになるまで、少ししつこいくらいに寄り添う(やりすぎかどうかは本人に聞いてくださいね)ことが、本当の支援につながります。 アンラーニングについて 訪問看護の新任者の葛藤を理解するためには、「アンラーニング」への理解も不可欠です。アンラーニングとは、既存の知識や価値観を捨て、新たに学び直すことを指します。 新任者は、前の職場の価値観を新しい職場で少なからず捨てるものがあります。捨てて新しい価値観を受け入れる過程では、苦しさを感じ、その気持ちを怒りとして表すことがあります。「このやり方は間違いだ」「前の職場ではこうしていた」と主張したり、悶々としたりといった具合です。受け入れる側には、その苦しみを理解するとともに、現在の職場の価値観を言葉にすることが求められます。サポーティブに関わることを意識しましょう。 なお、こうした苦しみは、キャリアを積んだ方でも感じます。なぜなら、看護理論家のパトリシア・ベナーさんもおっしゃっている通り、「経験がない部門に移れば、誰もが初心者になる」から。そして、初心者は行動指針やルールが分からず、状況に応じた行動ができないので、職場のローカルルールや大事にしていることを伝えてくださいね。 実践の原則を学ぶポイントは「経験の質」 初心者の成長に必要なのは、時間ではなく「経験の質」です。 経験学習のコツ経験すれば理解するのではなく、その経験にどんな意味があったのか、なぜそうなったのかを振り返り次に活かす。その振り返りは、なぜそうなったのかが分かるベテラン先輩が支援すべし! 「経験による学習」をうまくできない方は多く、周りが支援をしないと「ただ経験しただけ」になってしまいます。ベテラン先輩が「振り返り」の部分を支援しましょう。私が顧問を務めるステーションでは、クラウド上で「振り返りノート」をやりとりします。新任者の記録に先輩がフィードバックする形式です。 フィードバックのコツ 入職したてはすべての事象が新鮮で、情報を「そのまま」受け止めがち。そこで私は、振り返りノートで「起きた行為の意味」を説明します。また、「印象的だった」「勉強になった」という記述があれば、「具体的に何が印象的で、何を学んだか」を繰り返し聞きます。 特に注意すべきは「印象的」という言葉で、これは予想と違うことを意味します。先輩の仕事に「感動したケース」もあれば、「教科書と違って違和感を持ったケース」もあるでしょう。そこを明確にしないと、アンラーニングにおける葛藤や、誤った価値観の構築を招きます。 また、教訓が身についてくると、さまざまなケースで使いたくなるもの。その際は、どんなケースで教訓を適用できるかといった留意点をフィードバックします。 次回は、新人育成における業界の課題や、東京ひかりナースステーションでの実際の取り組みについてお話しいただきます。 >>後編はこちら新任訪問看護師の戸惑い 育成の課題と行動指針【セミナーレポート後編】 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア 【引用文献】1)森 陽子ら著.「新たに訪問看護分野に就労した看護師が訪問看護への移行期に経験した困難とその関連要因」日本看護管理学会誌,2016,20(2),p104-1142)平尾 由美子ら著.「病棟業務から訪問看護業務に移行した直後に看護師が感じる戸惑い・困難,8(1)」千葉県立保健医療大学紀要,2017,p169-176.3)柴田 滋子ら著.「訪問看護師が抱く困難感」日本農村医学会雑誌,2018,66(5),p.567-572 【参考文献】〇P.ベナーら著.早野ZITO真佐子訳.「ベナー ナースを育てる」医学書院,2011〇松尾 睦.『職場が生きる人が育つ 「経験学習」入門』ダイヤモンド社,2011

地域で支える腹膜透析:病院×訪問看護ステーションの連携【特別対談】
地域で支える腹膜透析:病院×訪問看護ステーションの連携【特別対談】
インタビュー
2025年4月8日
2025年4月8日

地域で支える腹膜透析:病院×訪問看護ステーションの連携【特別対談】

在宅で自分で行える透析療法「腹膜透析(Peritoneal Dialysis:PD)」は、患者さんのライフスタイルに柔軟に対応できる点が大きな特徴です。今回は、小倉記念病院 腎センター・科長の栗本幸子さんと、在宅看護センター北九州・管理者の坂下聡美さんに、病院と訪問看護ステーション、それぞれの立場からPDの普及に向けた取り組みについてお話をうかがいました。 ※本記事は、2024年12月の取材時点の情報をもとに構成しています。 ▼プロフィール栗本 幸子(くりもと ゆきこ) 氏一般財団法人平成紫川会 小倉記念病院看護部 腎センター 科長 認定看護管理者同院の循環器病棟および腎臓内科病棟の科長を経て、2023年11月より現職。2017年に認定看護管理者の資格を取得。一般社団法人 在宅看護センター北九州 代表理事(管理者・看護師)パーキンソン病療養指導士北九州市立看護専門学校を卒業後、病院や地域のクリニックでの勤務を経て、2000年より訪問看護に従事。2018年、公益財団法人笹川保健財団の支援を受け、北九州学術研究都市「ひびきの」に日本財団在宅看護センター「一般社団法人 在宅看護センター北九州」を開設。※文中敬称略 PD患者への支援と地域連携の取り組み ー小倉記念病院と在宅看護センター北九州でのPDに関する取り組みについて教えてください。 栗本: 小倉記念病院では、2005年に腎臓内科を立ち上げ、PDの導入を開始しました。当初はPDを経験したことがないスタッフばかりだったので、研修に力を入れ、育成に取り組んできました。また、2010年からは地域でPD患者さんをフォローできる体制をつくるため、クリニックや訪問看護ステーション向けの研修会を実施してきました。 現在、当院には約280名のPD患者さんがいます。そのうち地域の開業医と連携を取りながらフォローしていただいている患者さんは約1/3。専門的な治療なので、受け入れをしていただけるところが少ない状況です。今後、老老介護や高齢者の独居がますます増えていくなかで、患者さんのご家族のみにサポートを頼るには限界があります。クリニックの医師だけでなく、訪問看護師の方々にもPDについて知っていただき、患者さんを支える仲間になっていただければと考えています。 坂下: 在宅看護センター北九州は開設7年目に入り、現在160名前後の患者さんに在宅訪問看護を行っています。その中でPD患者さんは2名です。今はPD診療を行うクリニックと連携しながら、患者さんがご自宅でPD治療をどう行っていくか、具体的なイメージをもっていただけるようなお手伝いをしています。クリニックでは患者さんを対象にしたPDの勉強会もされていて、そこで訪問看護の導入についても説明をしてくださっています。 私たちが勉強会に参加し、患者さんと直接お会いできる機会もあります。「自宅に戻られたら私たちがサポートさせていただきますので安心してください」とお伝えしています。そういった流れを、少しずつですが、最近つくり始めたところです。 ー全国的にはPD導入率は3.1%*と低めの傾向にあるかと思いますが、小倉記念病院では多数のPD患者さんがいらっしゃいます。具体的な割合や導入時の流れについて教えてください。 栗本: はい。2023年度に当院で透析療法を新たに開始した151名の患者さんのうち、59名がPDを選択されましたので、約4割ですね。 当院では、外来で腎代替療法の説明と共同意思決定(Shared Decision Making:SDM)での選択の支援を行っています。PD認定指導看護師が1回約1時間ほどかけて、患者さんやご家族の生活状況、本人の意欲、価値観、疑問点などを聴き取りながら、腎移植、PD、血液透析(Hemodialysis:HD)といった腎代替療法の決定を支援しています。 特にPDについてはご存じない方が多く、「腹部からチューブが出る」という治療法もイメージしづらいことがほとんどです。PDのお腹のモデルを見たり、触ったりしていただきながら、フラットかつ丁寧にご説明した結果、PD導入率が上がったんです。 なお、カテーテルと称されるチューブを出す位置も患者さんの生活スタイルや環境に応じて決めています。ベルトや着物の帯で覆われない位置にすることもありますし、レアケースですが、障害のある方で腹部だとどうしてもご自身でカテーテルを抜去してしまう場合に背中から出したケースもありました。 *日本透析医学会がPDと認識しているHD併用を含めた透析全体での導入率。正木崇生,花房規男,阿部雅紀,他:わが国の慢性透析療法の現況(2023年12月31日現在).透析会誌 2024;57(12):543-620.https://docs.jsdt.or.jp/overview/file/2023/pdf/2023all.pdf2025/2/15 閲覧 「パリアティブPD 」という考え方 ーPDを行っている患者さんや訪問看護利用者さんで、お2人にとって印象に残っているエピソードを教えてください。 栗本: もともとHDをされていた90代男性のケースですね。この方は、治療中に血圧が大きく下がるなど、血行動態が不安定なためHDの継続が困難になり、PDを導入することになりました。 ご家族は「おじいちゃんには、好きなことをして余生を過ごしてほしい」と話され、とても手厚いサポートがありました。最終的には訪問看護も利用され、ご自宅でお看取りとなりました。最期まで穏やかな日々を過ごされたという話を聞いて、この患者さんにはPDが最適な選択肢だったのだなと感じました。 高齢でもご家族や訪問看護といった周囲のサポートがあればPDは可能ですし、最近では、「パリアティブPD」という考え方も浸透してきています。1日4回、しっかり除水しなくても、例えば終末期なら1日2回ぐらいの交換で緩やかに進めていくやり方です。高齢者にとって、やさしい透析の選択肢だと思います。 当院では、患者さん一人ひとりの状況に合わせて、パリアティブPDのような方法も含めて、積極的にご紹介しています。「これくらいならできそう」と導入に前向きになる患者さんやご家族もいらっしゃいますよ。 訪問看護利用者さんから教わった成長の一歩 坂下: 私は「第一号」の患者さんが印象に残っています。私が在宅看護センター北九州を立ち上げたとき、以前勤めていた訪問看護ステーションでPDをされていた方が「あなたの第一号の患者さんになってあげるから、地域の裾野を広げる訪問看護ステーションとしてがんばりなさい」と言ってくださいました。当時はPDのケアに自信を持てずにいたのですが、そのステーションからも背中を押してもらい、最初の患者さんになっていただいたんです。 この方は、私が新人のころからのPD看護の「指導者」でもあります。特に印象に残っているのは、透析のチューブを持って「あなた、ここを握ってごらん。これが温かいうちはまだまだ出ている証拠。冷めてきたら、もう出ていないから。そこからゆっくり落ち着いてやりなさい」と、時間で判断するわけではないのだということを教えてくださって。そうやって患者さんから指導を受けながら、訪問看護師として少しずつ成長させてもらったんです。 PDの普及はまだこれからと思っていますが、「よく知らないから看護ができない」、「不安だから患者さんを受け入れられない」、となってしまうことが訪問看護の課題でもあります。まずはPDについて勉強して、1例でも経験できれば、不安の種が少しずつ小さくなって、看護ができるという自信に変わっていくように思います。 また、訪問看護師にとっては、いざというときに相談できる先があることが大事なポイントです。その体制が整っていれば、PD患者さんの受け入れを後押しする安心材料になると考えています。 感染対策だけじゃない、環境整備 ー坂下さんは、患者さんのご自宅でPDをサポートする中で、どのようなことに注意されていますか。  坂下: 病院のような清潔な環境をそのまま再現はできませんが、腹膜炎を起こさせてはいけないので、感染の原因になり得るものを一つひとつ解消し、家庭の環境を整備するようにしています。 例えば、シャワーヘッドのカビやボディソープの容器のぬめりが感染源になる可能性があるので、チェックリストを作成し、週に1度は確認しています。お部屋の状況によっては、空調を切ってほこりが舞わないようにして作業することもあります。 排便コントロールや食事を始め、いろいろな面で患者さんの生活を整えることも重要です。ご家族の生活リズムも含めて、患者さんの生活がうまく回るために、透析の手技やタイミングも含めて調整しています。 ただし、看護師の価値観だけで「こうしなきゃいけない」と意見を押し付けてしまうと、利用者さんから一切シャットアウトされてしまうこともあります。「患者さんやご家族のために」という気持ちを持ちながら信頼関係を築き、少しずつ歩み寄ることを意識しています。PD療法で特に注意する感染対策では、「なぜこれが必要なのか」の背景をお伝えすることも重要ですね。 ー患者さんがPDを継続する上で、重視されている関わりを教えてください。 坂下: ケアの手順をしっかり守ることで、腹膜炎を防ぎ、長く在宅生活を続けられる例もあるので、そういったエピソードを共有しながら、「きちんとされているから入院せずに済んでいますね」と伝えるようにしています。患者さんの自信につながりますし、「やっぱりちゃんとしないと」という動機づけにもなります。 栗本: 病院では、入院中に患者さんが自分でPDができるように指導することはもちろんですが、患者さんをサポートしてくれる方を1人選んでもらい、その方にも手技を習得してもらうようにしています。お2人に病院で作成したパンフレットをお渡しし、「ここはこうしましょう」と指導して、最終的にはお2人が習得した時点で退院していただくのです。そして、退院されるときに「手の消毒」や「マスクの着用」など、忘れがちなところを一言添えて、パンフレットとともにお帰りいただくようにしています。 >>後編はこちら腹膜透析の普及と支援の現場:教育体制、多職種連携、訪問看護の課題【特別対談】 取材・編集:NsPace編集部執筆:株式会社照林社

訪問看護のマナーは? 訪問前・訪問中・訪問後のタイミング別に解説
訪問看護のマナーは? 訪問前・訪問中・訪問後のタイミング別に解説
特集
2025年3月18日
2025年3月18日

訪問看護のマナーは? 訪問前・訪問中・訪問後のタイミング別に解説

訪問看護で利用者さんやご家族と良好な信頼関係を築くためには、訪問時のマナーが重要です。訪問前、訪問中、訪問後のそれぞれの段階で意識すべきポイントを押さえることで、より安心感を与えるケアを行うことができます。本記事では、訪問看護におけるマナーを解説します。訪問看護先で適切な対応を取るために、ぜひ参考にしてください。 【訪問前】訪問看護における訪問のマナー 利用者さんのご自宅へ訪問する前に、以下の内容をチェックしましょう。 身だしなみに注意する 訪問看護では第一印象が利用者さんとの信頼関係に直結するため、清潔感を意識した身だしなみが大切です。以下のポイントに注意しましょう。 清潔なユニフォームを着用する 髪を整える(髪色は自然な色味にして、長い髪はまとめる) 華美なアクセサリーは身に着けない 派手なメイクは避け、ナチュラルな印象を心がける 爪を短く清潔に整える ひげは剃る 香水や強い香りのハンドクリームは使用しない 体臭や汗、食後の口臭など、においに気を配る 靴下や服に埃やペットの毛などが付いていないか確認する なお、訪問先によっては靴下が汚れる場合があるため、予備の清潔な靴下を常に用意し、必要に応じて履き替えましょう。利用者さんやご家族に不快感を与えず、安心していただけます。 駐輪・駐車のマナーを守る 訪問看護の際は、駐輪・駐車のマナーを守ることが大切です。マナー違反をすると、利用者さんや近隣住民とのトラブルにつながる可能性もあり、大変な迷惑をおかけしてしまいます。新規契約時に駐車場所は確認すると思いますが、利用者さんごとの決めごとをしっかり確認して駐輪・駐車し、周囲の迷惑にならないよう配慮しましょう。当然のことながら、「自転車は車道が原則」「夜間はライトを点灯」といったルールも守りましょう。 参考記事:訪問看護師が知っておきたい自転車の交通ルールは?道路交通法改正も解説 トイレは事前に済ませておく ビジネスシーンにおいても、原則として訪問先でトイレをお借りするのはマナー違反。また、訪問看護の訪問先では、プライバシー保護や感染予防の観点からも、訪問前にトイレを済ませておくことが原則です。基本的には訪問看護事業所内のトイレを利用しましょう。ただし、「1日中訪問に出ている」「事務所に戻ると道順として明らかに非効率」など、訪問看護事業所に立ち寄れない場合もあるため、訪問する道順に公共のトイレ等があるか事前に確認しておくと安心です。 それでも、体調によってはどうしても我慢できない場合があるかもしれません。その際は、「本来は借りることは望ましくない」ことを認識した上で利用者さんに丁寧にお願いし、トイレをお借りするようにしましょう。 訪問時間の厳守 訪問看護の信頼性を保つために、約束した訪問時間を厳守することが重要です。万が一訪問先への到着が遅れたり予定変更が発生したりする場合は、速やかに利用者さんやご家族へ連絡し、理由を伝えた上で、訪問時間を再調整しましょう。 【訪問中】訪問看護における訪問のマナー 訪問中は、以下のマナーを守りましょう。 インターフォン対応と玄関でのマナー 訪問看護中のインターフォン対応や玄関でのマナーは、利用者さんが抱く印象に大きく影響します。インターフォンを押す前に、姿勢を正し、顔全体からバストアップまでが画面上に収まるよう距離を調整します。インターフォンを押した後は、まずカメラに目線を合わせ、続いて軽くお辞儀をして挨拶をしましょう。 また、基本的に、玄関に入る前にコートは脱いでおきます。玄関に入る際、靴は脱いだ後、丁寧に揃え直し、利用者さんやご家族に、清潔感や礼儀正しさを感じてもらえるよう心がけてください。 傘やレインコートの取り扱い 雨の日には傘やレインコートを使用しますが、これらの扱いにも注意が必要です。 傘は、訪問先に傘立てがあれば利用しましょう。傘立てがなく、判断に迷った場合は、傘袋に入れて玄関先に置くと気遣いのある振る舞いになります。玄関の外側の邪魔にならない場所に傘を立てかけることも失礼には当たりませんが、マンションの内廊下など、住居形態によっては水滴が廊下に滴ってあまり良い印象を与えない場合があります。状況に合わせた十分な配慮が必要です。 なお、折り畳み傘に関しては、オフィスビルなどのビジネスシーンでは屋内へ持ち込むケースもありますが、訪問看護の場合、長傘と同様にベルトでとめて玄関の傘立てに置くのがよいでしょう。傘についている水滴を落としてからベルトをとめ、できるだけ訪問先の玄関を濡らさないように注意します。 レインコートは、同じくできるだけ水滴を落としてから、ビニール性の袋や防水性のある風呂敷に収納することをおすすめします。特に防水性のある風呂敷は、多用途に活用できるため、持ち歩くと便利です。また、冬場に持ち込むことが多い上着やマフラー、手袋などを風呂敷に包むことで荷物をコンパクトにまとめることもできます。 荷物の取り扱い マナーや衛生上の観点から、訪問時に持参する荷物は、テーブルや椅子の上に置かないようにしましょう。部屋の中で邪魔にならないところに置くという配慮も大切です。 雨の日や汚れがある場合は、前述の防水性の風呂敷やシートの上、または玄関に置かせていただき、清潔を保つよう心がけます。 室内での基本マナー 住居内の扉・ふすま等を開ける際には、利用者さんやご家族のプライバシーに配慮し、ノックをして「失礼します」と声をかけてから開けるようにしましょう。すでに扉が開いている場合や、ノックをする場所がない状況でも、部屋に入る際には必ず「失礼します」と声をかけてから足を踏み入れます。状況に応じて「周囲からの視線を遮るためにカーテンを閉める」「ケアに必要な部屋以外には立ち入らない」といった配慮も必要です。 ケアを行う際には「失礼します」「カーテンを閉めますね」「今からお身体を拭いていきますね」などと声をかけ、利用者さんが安心してケアを受けられるよう心がけましょう。 訪問中に緊急の電話対応が必要になった場合は、必ず一言断りを入れた上で、利用者さんやご家族に迷惑をかけない適切な場所を選んで対応するよう心がけてください。 食べ物やお礼の品物への対応 お茶やお菓子などの食べ物やお礼の品物については、原則として感謝の気持ちを伝えた上でお断りすることが基本です。訪問看護サービスを受ける立場(お客様)である利用者さんやご家族から、おもてなしを受ける行為は適切ではありません。 また、訪問時間内にお茶やお菓子をいただくことによって、本来のケアに充てるべき時間が削られたり、次の訪問先のスケジュールに遅延が生じたりする可能性もあります。お礼の品物においては、ご家族のご負担になってしまうことも。そのため、「お茶やお菓子はいただけません/お礼の品物は受け取れません」といった事業所の方針を決めておき、初回訪問時や契約時にきちんと説明することが大切です。 おもてなしに対してお断りする際は、「お気持ちだけで十分です」と丁寧にお伝えし、相手に失礼のない対応を心がけましょう。 清掃と衛生マナー 訪問先で手を洗う際は、洗面台や鏡面に水しぶきが残らないよう、タオルやティッシュで丁寧に拭き取りましょう。このような小さな配慮が利用者さんやご家族に好印象を与え、プロフェッショナルとしての意識を示すことができます。 言葉遣いとコミュニケーション 利用者さんやご家族と接する際には、基本的に敬語を使用し、丁寧な態度でコミュニケーションを取ります。ただし、利用者さんの状態や関係性によっては、あえてカジュアルな口調を用いる場合もあります。親しみやすい雰囲気を大切にする場合でも、利用者さんへの敬意は決して忘れず、状況に応じて適切な言葉遣いを選びましょう。また、専門用語や難しい言葉は避け、相手にわかりやすい表現を心がけることが大切です。 記録とデジタル機器の利用 記録作業でパソコンやタブレットを使用する際は、「記録を行いますね」と一言声をかけて、利用者さんやご家族にデバイスを使用する意図を伝えます。また、記録用の写真撮影が必要な場合は、事前に「記録のために写真を撮らせていただきます」と説明し、許可を得ることが大切です。 当然ながら、個人情報保護の観点から個人のスマートフォンは使用せず、業務用のデジタル機器を用いましょう。 【訪問後】訪問看護における訪問のマナー ケアが終了したら、利用者さんやご家族への挨拶を丁寧に行い、感謝の気持ちを伝えます。退室時には玄関のドアを静かに閉め、上着やレインコートは外に出てから着用しましょう。また、玄関外や廊下での会話は避けることが重要です。 使用後のユニフォームやタオルなど、汚れがひどいものは個別に洗浄してから洗濯機へ入れるなど、衛生管理を徹底します。また、訪問中に「後で連絡する」と約束した内容については、必ず期日内に対応し、万が一対応が間に合わない場合でも、利用者さんへ事前に連絡を入れましょう。 * * * 訪問看護では、細かなマナーを守ることで利用者さんやご家族と信頼関係を築きやすくなります。訪問前の準備から訪問中の対応、訪問後のケアまで、清潔感や礼儀、配慮を徹底しましょう。この記事でご紹介したポイントを実践し、より質の高い訪問看護を目指してください。 編集・執筆:加藤 良大監修:大川 ユカ子 一般社団法人 スマートマナークリエイト 代表理事学習院大学卒業後、全日本空輸株式会社(ANA)客室乗務員として国際線チーフパーサーや政財界のVIPフライト、ファーストクラスパーサーを担当する。のちに一般社団法人スマートマナークリエイトを設立。代表理事として医療接遇、企業研修、接客指導、幼児マナー教育を中心に活動を続ける。セミナー受講者数のべ12,000人以上。〈メディア〉挨拶の達人 記事監修/日本テレビ「news every」出演/ビズアップ総研「場の空気の読み方」DVD出演/気持ちよく引き受けてもらう「頼みかた」DVD出演/フラワーラジオ定期出演/雑誌「ネイルUP!」(マナー特集)/小学館 美レンジャー/美容業界季刊誌「ガモウニュース」連載/書籍「おもてなしの教科書」/電報のマナー(冊子) ほか多数ホームページURLhttps://smartmannercreate.com/

「褥瘡の評価とケアの実践」 対面実技セミナーレポート(12/7開催)
「褥瘡の評価とケアの実践」 対面実技セミナーレポート(12/7開催)
特集
2025年2月4日
2025年2月4日

「褥瘡の評価とケアの実践」 対面実技セミナーレポート(12/7開催)

2024年12月7日(土)に、帝人株式会社の東京本社にてNsPace主催の対面セミナー「褥瘡の評価とケアの実践」を開催しました。ご登壇いただいたのは、皮膚・排泄ケア認定看護師で、教育支援やコンサルティングのトップランナーとして活躍する岡部美保さん。デモンストレーションを交えた実践的なケア方法のレクチャーはもちろん、現場における不安や疑問解決につながる知識やリアルなテクニックを幅広くご講義いただきました。約4時間にわたるセミナーの様子をダイジェストでお届けします。 【講師】岡部 美保さん皮膚・排泄ケア認定看護師 在宅創傷スキンケアステーション代表1995年より訪問看護ステーションに勤務し、管理者も経験した後、2021年に「在宅創傷スキンケアステーション」を開業。在宅における看護水準向上を目指し、おもに褥瘡やストーマ、排泄に関する教育支援やコンサルティングに取り組んでいる。 褥瘡の評価やケア方法のイロハを復習 まずは講義形式での学習。参加者の皆さんには、以下のセミナーレポートをあらかじめお読みいただいた上で受講いただきました。 過去に岡部さんにご登壇いただいたオンラインセミナーのレポート記事 写真で解説!訪問看護の褥瘡ケア 褥瘡の評価/セミナーレポート前編 写真で解説!訪問看護の褥瘡ケア 事例に学ぶ創部の見方/セミナーレポート後編 治りにくい褥瘡ケア~低栄養への対応と基本指針~【セミナーレポート前編】 治りにくい褥瘡ケア~代表例と具体的なケア~【セミナーレポート後編】 講義では、褥瘡の定義や原因はもちろん、褥瘡状態の評価スケール「DESIGN-R(※)2020」について解説。特に評価に迷いやすい「G:肉芽組織」や「N:壊死組織」といった項目を評価する際のポイントや、外用薬・創傷被覆材選びの指標などを教えていただきました。「不良肉芽と壊死組織の見分けに悩む」「良性肉芽か不良肉芽か判断しにくい」といった不安に対しても、組織の硬さや色合い、見た目など、評価の具体的なポイントを解説いただき、参加者の皆さんは熱心にメモを取っていました。 褥瘡ケアにおいて重要な外用薬については、薬効成分だけでなく「基材」を考慮することも重要。また、創傷被覆材は「被覆材の大きさ、厚さ、吸水量などの特徴を理解した上で、創傷の状態に応じて選ぶこと」が基本とのこと。過去に開催されたオンラインセミナーの復習だけに留まらず、プラスαの知識も得られる贅沢な内容となりました。 より実践的な知識も解説された座学の時間 チームに分かれて症例の評価やケアを検討 座学の後は4人1組に分かれ、症例検討会が実施されました。【症例検討会の流れ】 具体的な症例に対する評価とケア方法を検討 創傷模型にケアを実施 上記の内容と理由を発表 岡部先生による解説 参加者には、療養者の資料や創傷模型、ケア用品などが配布され、まずはDESIGN-R2020を使った褥瘡の評価からスタート。「深さ(Depth)はd2(真皮までの損傷)かD3(皮下組織までの損傷)のあたりでしょうか」「サイズ計算は私が担当しますね」「壊死組織(Necrotic tissue)とポケット(Pocket)はないので、NとPは0点で良さそうですね」などと意見を交わし、お互いに協力し合いながら進めていきました。 外用薬は講義資料を参考に選定。講師の岡部さんから「外用薬は評価スケールの大文字に着目して、改善するための優先順位を考えながら選んでみましょう」といったヒントがあると、「やはりヨウ素系の外用薬ですよね」などとケア方法を確かめ合っていました。 評価スケールをもとに真剣にケア方法を協議 創傷模型を使ったケアの実践では、創傷被覆材やテープの厚さや大きさ、貼る位置を確かめながら丁寧に進めていました。「外用薬はこのくらいの量をガーゼに塗ってから貼るのが良さそう」「仙骨部の褥瘡の場合、肛門側は八の字貼りが良いのではないか」など、議論が活発に行われていました。 外用薬の塗り方や創傷被覆材の貼り方も検討 褥瘡の状態評価とケアが終わると、いよいよ発表の時間です。DESIGN-R2020の点数をはじめ、外用薬の選定理由やケアのポイントが各チームから発表されました。どの参加者も真剣に聞き入り、発表が終わると拍手が起きていました。 その後、岡部さんが評価とケア方法を解説。チームによって個性が出ていましたが、岡部さんの評価と大きくずれることはなく、外用薬の分類も岡部さんの選んだものと一致。 各チームの発表も先生の解説も真剣そのもの 前半の講義が活かしつつ、具体的な症例をもとに評価・ケア方法を検討し、ディスカッションすることで、褥瘡に対する学びをさらに深めていきました。 気づきの多いデモンストレーション 最後は岡部さんによるデモンストレーション。褥瘡周囲皮膚の洗浄や拭き方、外用薬の塗り方や創傷被覆材の当て方など、一連のケア方法を見せていただきました。 「洗浄料は何プッシュくらいすると思いますか?」という質問からスタートした実演は、いきなり参加者を驚かせる展開に。岡部さんは10プッシュ以上の泡を手に取り、多くの参加者が「泡はこんなに山盛りでいいんだ!」「こんなに使っていなかった!」などの声があがりました。また、ポケットがある方の洗浄方法やカテーテルの使い方、拭き方のコツまで丁寧にレクチャー。 食い入るように先生の手元を見つめる参加者の皆さん 外用薬の塗り方や量、臀裂部のケア方法、ワセリンの塗り方、患部を観察する際の注意点なども伝えられました。 参加者からは「褥瘡は治癒傾向なのに対し、ポケットが縮小しない場合のケア方法は?」「高機能な創傷被覆材を使用したいが、購入していただくのが難しい場合はどうすれば良いか」「褥瘡を繰り返している方で、皮膚に盛り上がりや凹凸がある場合のケア方法は?」などの具体的な質問が寄せられ、訪問看護現場での褥瘡処置に対する真剣な姿勢が感じられました。 参加者からの質問にも丁寧に回答する岡部さん 現場の「リアル」を語り合った懇親会 セミナー終了後は、懇親会も開催。参加者の皆さんから「状態にあった外用薬を処方してもらうには、担当医に対してどのように報告・相談したらよいか」「創傷被覆材を代用する場合、どのようなものが使用できるか」など、質問も多く挙がっていました。 NsPaceの「N」マークを作って記念撮影も ◆参加者の感想「DESIGN-R2020の重要性を改めて認識しました。セミナーを通して各項目の評価のポイントを学ぶことができて良かったです。これまで良性肉芽か不良肉芽か迷うことがあったのですが、具体的な判断の目安も知れたので、現場ですぐに活かせそうです」「この秋に新たに事業所を立ち上げて、管理や教育が必要な立場になったのでセミナーに参加しました。評価やケア方法を再確認する良い機会になったので、今日のセミナーを参考に、事業所の看護の質向上に努めたいです」 そのほかにも、「受講前は評価方法や外用薬の選定基準が曖昧でしたが、受講してみて不安が解決しました」「知識を得たことで、今後は根拠をもとに自信を持ってケアを実践できそう」といった声も聞かれました。 ◆講師 岡部さん コメント「普段から訪問看護の現場で褥瘡ケアを実践されている方々にご参加いただいたので、評価もケア方法の検討も非常に的確で、皆さまの日頃の看護風景が目に浮かぶようでした。肉芽組織や壊死組織の見分け方、炎症の有無など、参加者の皆さんが評価に悩まれているシーンもありましたが、評価スケールを日常的に使用することで、自身の評価の精度が向上します。ぜひケア方法を検討する指標としても、苦手意識を持たずに評価スケール を活用していただければと思います。また、私は今後、褥瘡の患者さんは増えていくと想定しています。看護の質を保ち、さまざまな職種がチームとなって、褥瘡に悩む患者さんを少しでも減らしていけると良いですね」 * * * NsPaceでは、月に1回程度、オンラインセミナーも開催しています。ぜひ学びの場をご活用ください。 ※ DESIGN-Rは、一般社団法人日本褥瘡学会の登録商標です。 取材・執筆・編集:高橋 佳代子

日本訪問看護財団設立30周年記念 訪問看護サミット2024「すべての人にウェルビーイングを」
日本訪問看護財団設立30周年記念 訪問看護サミット2024「すべての人にウェルビーイングを」
特集
2025年1月28日
2025年1月28日

日本訪問看護財団設立30周年記念 訪問看護サミット2024「すべての人にウェルビーイングを」

少子高齢化や地域コミュニティの変化が進む中、「地域共生社会」をテーマに掲げた『訪問看護サミット2024』が、2024年11月30日(土)に開催されました。設立30周年を迎えた日本訪問看護財団の主催による本イベントは、「すべての人にウェルビーイングを」を合言葉に、訪問看護師をはじめ、医療、福祉、行政等の関係者が集い、地域包括ケアの未来について考える貴重な場でした。訪問看護の発展・継続に向けての具体的な解決策や、新しい地域ケアのあり方について深く議論された本イベントについてレポートします。 30周年を迎えた日本訪問看護財団 日本訪問看護財団は、1994年の設立以来、訪問看護の普及と質の向上を目指し、訪問看護師の育成や支援、情報提供などを通して地域包括ケアを推進。多くの訪問看護ステーションを支援し、制度づくりにも寄与してきました。設立30周年を迎えた2024年、今回のサミットは「明日のエネルギー」になることを目指し、訪問看護の未来を見据える、熱気ある会となりました。 日本訪問看護財団 理事長 田村やよひ氏 理事長の田村やよひ氏は、2040年問題を背景に、訪問看護が「地域包括ケアの要」であると強調。「今後の社会における訪問看護の役割を改めて問い直す場」としてサミットの意義を語り、共感を呼びました。 厚生労働大臣事務次官や文部科学大臣らの祝辞もあり、訪問看護業界と行政との連携の重要性を再認識したほか、訪問看護の発展に尽力した個人や団体への表彰式も行われました。 訪問看護師の役割を改めて考える 3つの特別公演 本イベント内では、地域共生社会の推進に向けて訪問看護師が何をすべきかを考えるために、貴重な特別講演が開催されました。 ◆「ポスト2025年の在宅医療と訪問看護への期待」 医薬品・医療機器業界の政策に深く関わってきた武田俊彦氏は、少子高齢化が想定以上のスピードで進んでいる現状に言及。2040年問題への対応が急務であると指摘しました。 1983年に施行された老人保健法では、在宅医療の推進や入院医療の適正化が掲げられたものの、高齢者のQOLを十分に尊重した医療体制には未だ課題が残るとのこと。従来の地域中核病院に資源を集約する体制を見直し、「医療ネットワーク」「患者や家族」「在宅ケア」が連携し、地域や家族を中心とした医療・介護体制を築く必要性について言及。その中で訪問看護は、生活の質(QOL)を支え、その人らしい人生を形作るための鍵になるとも語りました。訪問看護の持続可能なサービス提供のためには、経営基盤の安定化が急務であるとも述べ、聴講者の共感を集めました。 病院や施設から地域や在宅へのシフトを支える訪問看護師の役割が、これまで以上に重要になることが改めて共有された本講演。政策の振り返りを踏まえつつ、これからの訪問看護が進むべき道筋が示されました。 ◆「訪問看護におけるウェルビーイングとは」~すべての人が幸せに生きるために~ ウェルビーイングを推進している前野マドカ氏は、「医療従事者は自分を犠牲にしがちだが、人は幸せになるために生きているという根本的な事実を忘れてはならない」と提言。ウェルビーイングは、単なる健康にとどまらず、幸せややる気、思いやりなどを含む広い概念であり、これを高めるには学びと行動が不可欠だと解説。幸せは寿命を延ばし、創造性や生産性を高める予防医学としても重要であると述べました。 特に、幸せを育む4つの因子「自己実現」「つながり」「前向き」「独立」をバランスよく育むことが幸福度を高め、他者との良好な関係を築く要であり、「ありがとう」などの優しい言葉には、人の心を満たし、ウェルビーイングを向上させる力があるとのこと。 また、自分の良さや強みを知り、「私は大丈夫」と自分をとことん信じる姿勢が重要だと前野氏。それぞれが自分らしさを活かし、互いを尊重し合い協力することで、共生社会の礎が築かれることを学びました。 ◆ナイチンゲールの地域看護思想から学ぶ~時代を超えても変わらないこと~ 最後は、ナイチンゲール看護研究所 所長の金井 一薫氏による講演。ナイチンゲールが提唱した「病院は患者に害を与えない場所であるべき」「治療処置が絶対に必要である時期が過ぎたならば、いかなる患者も一日たりとも長く病院にとどまるべきではない」といった思想は、地域看護の原点として現代も受け継がれています。金井氏は、現代の日本においても、訪問看護師が行政や多職種と連携して利用者のQOL向上に寄与することの重要性を強調。 また、ナイチンゲールが示した「看護(ケア)の5つのものさし」(生命力の消耗の最小化、もてる力の活用、回復過程の促進、生命力の増大(自然死への過程)、QOLの向上とその人らしい生活(死)の実現)は、現代の訪問看護においても地域連携システムで活用できる普遍的な指針であり、質の高いケアを提供するための基盤であると解説されました。 講演後の平原優美氏(日本訪問看護財団 常務理事)との対談では、制度の隙間で支援が届かない人々に対し、地域包括ケアに関わる職種と行政との連携の重要性が改めて指摘されました。また、学生時代から在宅看護を学び、早期に実践できる人材を育てることが、地域看護の未来を切り拓くために欠かせないとの意見が述べられ、会場から多くの共感を得ました。 日本訪問看護財団の在宅看取りプログラム&災害時ネットワーク 本イベントでは、日本訪問看護財団の取り組みに関する成果や今後の活動等についても報告されました。 ◆在宅看取り教育プログラムの成果とこれから 日本訪問看護財団は、在宅看取りの訪問看護体制を強化することを目的に「訪問看護師向け在宅看取り教育プログラム(PENUT)」を2020年度より開発。2023年度より指導者向けの「PENUT-T」を開発しています。 PENUTは、在宅看取り初心者の訪問看護師が「在宅看取りができそうだ」「やってみたい」と思えることを目指したプログラム。講義と演習を通して、終末期ケアの知識や多職種との連携スキルを習得し、多様な事例を学ぶことで、症状緩和への困難感を軽減する効果が確認されているとのこと。特に、実際に在宅看取りを実践してきた講師が紹介するリアルなケーススタディは、受講者の心に響く内容になっているそうです。 参考:Web研修等のご案内 | 公益財団法人 日本訪問看護財団 公式ウェブサイト 「自宅で最期を迎えたい」と思っても、実際に自宅で最期を迎えられている人は限られている現状があり、訪問看護師が担う役割は重要です。より多くの人が希望通りの場所で最期を迎えられる社会を目指すために、財団の挑戦は続きます。 ◆災害時ネットワークの発足 日本訪問看護財団は、災害時に地域のステーションや関連団体等との迅速な情報共有を行うための「災害時ネットワーク」を発足しました。このネットワークでは、平時から交流会や勉強会を通じて関係性を深め、災害時にはLINEオープンチャットを活用して情報を共有するしくみを構築しています。 参考:災害時ネットワークについて | 公益財団法人 日本訪問看護財団 公式ウェブサイト これにより、被災地における訪問看護ステーションの被害状況や、必要な支援について情報共有が行えるようになります。また、在宅ケアに関わる団体への速やかな情報提供も行えるとのことです。 地域で生きる力を支えるために 今回のイベントでは、設立30周年を記念して制作された、新たなロゴとキャラクターについても発表されました。 日本訪問看護財団の新しいロゴ&キャラクター引用:公益財団法人 日本訪問看護財団「ロゴ・キャラクター紹介」 ロゴに描かれた輪は、利用者や家族、訪問看護師、医師、介護職といった多様な人々がつながり合い、支え合う様子を表現しています。キャラクターは、ふわふわの白い羽で大空を自由に飛び回る小鳥の「エナガ」をモチーフに、親しみやすさと柔らかさを兼ね備えたデザインで、訪問看護師が地域全体を見守る存在であることを象徴しています。 * * * 本イベントは、訪問看護を本気で応援し、未来を本気で変えようとする人々が集う、熱意溢れる場でした。日本訪問看護財団は相談窓口を用意しており、有益な情報発信も数多く行っています。ぜひ積極的に活用していきましょう。 取材・編集:NsPace編集部執筆:佐野 美和

【学会レポート】日本在宅看護学会 第14回学術集会「多様性がインフィニティ(∞)在宅看護」
【学会レポート】日本在宅看護学会 第14回学術集会「多様性がインフィニティ(∞)在宅看護」
特集
2024年12月3日
2024年12月3日

【学会レポート】日本在宅看護学会 第14回学術集会「多様性がインフィニティ(∞)在宅看護」

2024年11月16・17日の2日間にわたり、「日本在宅看護学会 第14回学術集会」が対面・オンラインで開催されました。今回の学術集会長は、WyL株式会社/ウィル訪問看護ステーションの岩本 大希氏。訪問看護に携わる方々が数多く訪れ、「多様性」をテーマにした充実した学びと交流の場となりました。NsPace編集部が、本学術集会の模様をレポート形式でお届けします。 「多様性」をテーマに掲げる意味 本学術集会のテーマは「多様性」。外見や性別、障害の有無から、育ってきた環境や宗教の違いまで、さまざまな多様性が存在します。世界は急激に変化しており、近年は感染症パンデミックへの対応や在宅ホスピス・在宅救急の台頭も。ルールや制度がない中で日々試行錯誤しなければなりません。 岩本学術集会長は、訪問看護に携わる方々はすでに当たり前に多様性に向き合っていることを強調しました。その上で、そうした環境下で訪問看護を行っていることを改めて認識してほしい。また、制度の隙間に落ちてしまう人たちが必ず存在する中で、ルールがなくても切り拓く開拓精神やエナジーを感じてほしいというメッセージが語られました。 本学術集会では、「多様な服装/衣装でのご参加を歓迎いたします!」と事前にお知らせがあり、着物・ドレス等で参加している方や、法被姿の方も。座長として登壇していた「看護の日」キャラクターの「かんごちゃん」の姿もありました。(※許可をいただいて撮影しています。) ピックアップレポート 多くのプログラムがありましたが、一部のプログラムを編集部がピックアップしてレポートします。 『発達障害のある(かもしれない)看護職の理解と支援』 座長 鹿内あずさ氏、講師 川上ちひろ氏 訪問看護の現場で、看護師自身に発達障害がある、もしくはその可能性がある場合の支援方法について悩むケースがあります。すでに看護師の職に就いている方の場合は、ADHD(注意欠如・多動症)やASD(自閉スペクトラム症)のケースが多く、例えば「コミュニケーションのとりづらさ」「倫理観・道徳観の欠如」「容量の悪さ」といった課題に直面することも。川上氏によれば、発達障害がある方はワーキングメモリや実行機能に問題を抱えていることが多く、努力だけでは解決しないということ。また、これらの特性は「親の育て方が悪い」ことが原因ではないというメッセージが語られました。そのほか、メモの取り方、抽象的な質問への対応など、特性に基づいた具体的なサポートが必要であることも詳しく解説。学習者と教育者のよい関係を築くためには、教育者が「がんばりすぎない」ことが大切であることや、認知的徒弟制を取り入れて適切な難易度の課題を与えることがポイントとのこと。聴講者の方々は、語られるエピソードに共感し、対応法について真剣にメモを取る様子が見られました。利用者だけでなく、看護師側も多様な人たちが働ける環境づくりが求められています。 『多様なニーズを支える中堅スタッフへの教育支援 ~これからに必要な生涯学習支援~』 座長 佐藤直子氏、演者 佐藤直子氏、佐藤十美氏、藤野泰平氏、服部絵美氏 「新任訪問看護師」向けや「管理者」向け研修は数多くみられる一方で、中堅スタッフはあまりフォローされていない現状があります。何をもって「中堅」とするかの明確な定義はないそうですが、演者の方々が考える中堅スタッフ像はおおよそ同じ。「さまざまな状況の利用者にケアが実施できる」「事業所全体や地域についても考える力がある」ことが求められるとのことでした。各事業所の中堅向けの取り組みが紹介された後はディスカッションが行われ、「中堅スタッフになるきっかけ」「具体的なラダー評価の内容」「自己評価と管理者の評価が異なる場合の対応」などについて質問が挙がっていました。中堅スタッフの教育の重要性について多くの事業所が共感している様子で、会場からの質問は絶えず、活発に議論されていました。 『在宅看護のシミュレーション教育の可能性を考えてみませんか?』 織井優貴子氏、竹森志穂氏、金壽子氏 東京都では、定期巡回型サービスや看護小規模多機能型居宅介護(かんたき)の利用者数が急増しており、都民の投票で「いきいき・あんしん在宅療養サポート:訪問看護人材育成支援事業」という訪問看護師のアセスメント能力、実践力向上を目的とした事業が採択されました。その取り組みが紹介されたプログラムです。新任訪問看護師向けのシミュレーション教育が注目されている中、どのようにシミュレーション教育が行われているかが詳細に語られました。訪問バッグの中身や模擬在宅ルームに置かれている小物は、実際の訪問看護の現場を再現しており、高性能多機能人体型シミュレーターを使用して、フィジカルアセスメントや報告の方法まで学ぶことができます。会場では、教育機関の関係者から事例の選定方法や研修の進行についての質問も複数あり、他の地域でシミュレーション教育を行うきっかけにもなりそうです。 『能登半島地震での活動:DC-CATの立ち上げから現在までを通して』 座長 岩本大希氏、講師 山岸暁美氏 2024年1月1日に起きた能登半島地震および奥能登豪雨の被災地支援にあたっているDC-CAT(Disaster Community-Care Assistance Team)の活動や被災地の状況について共有されました。DC-CATは、災害直接死の4倍とされる「災害関連死」を阻止すべく活動しています。公的支援やケアが不足している中、行政やDMAT等とも協働しながら、健康相談ダイヤル(#7119機能を持つ電話相談)、医療・保健サービスにアクセスできない地域でオンライン診療を行うヘルスケアMaas事業も展開しています。被災地の方々の実際の声も交えながら活動内容や試行錯誤の経過が語られ、一次的にケアに入るだけでなく、支援が終わった後にどう地域内でケアを継続していくかを考えることの重要性や、被災地支援で見えた課題に対して政策提言した内容についても共有されました。会場の方々は熱心に耳を傾け、共感の声や「応援・協力したい」というコメントも挙がっていました。 学術集会長コメント 最後に、学術集会長 岩本氏のコメントをご紹介します。 本当に多くの方々に学術集会にご参加いただき、感謝の気持ちでいっぱいです。「多様性」がテーマということもあり、やりたい企画は数多くあったのですが、新鮮な切り口を意識しつつ日々の実践に根ざした内容も取り入れたいと考えながら絞り込んでいきました。結果として、多くの企画が立ち見になるほど盛況で、本当に嬉しく思っています。 ドレスコードも、参加しやすさと多様性を表現するためにカジュアルな服装を推奨しました。登壇者の先生方も率先して素敵な格好をしてくださり、非常に心強かったです。 なお、まだオンデマンド配信の学術集会は終わっておらず、2024年12月17日17時まで配信しています。ACPや教育、能登半島地震の被災地対応など大きな企画は特に見応えがありますし、オンデマンド限定のプログラムも数多くあります。対面で参加した方も参加されていない方も、期間内にできるだけ多くのプログラムを視聴していただけると嬉しいです。 >>オンデマンド配信はこちら(要登録)日本在宅看護学会第14回学術集会 * * * 本学術集会では、参加者の皆さまや登壇者の方々の数多くの笑顔が見られ、楽しそうな様子が印象的でした。また、2025年の第15回学術集会は、名古屋で開催されます。次の学会にも注目していきましょう。 取材・編集・執筆:NsPace編集部

【学会レポート】第6回 日本在宅医療連合学会大会「在宅医療を紡ぐ」
【学会レポート】第6回 日本在宅医療連合学会大会「在宅医療を紡ぐ」
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2024年9月24日
2024年9月24日

【学会レポート】第6回 日本在宅医療連合学会大会「在宅医療を紡ぐ」

2024年7月20日・21日と2日間にわたり、幕張メッセ国際会議場(千葉県幕張市)にて「第6回 日本在宅医療連合学会大会」が開催されました。テーマは「在宅医療を紡ぐ」。大会長は、国際医療福祉大学医学部医学教育統括センター 市川病院神経難病センターの萩野 美恵子氏です。NsPace(ナースペース)編集部が大会の模様をレポートします。 多数の参加型の企画に込められた思い 「在宅医療を紡ぐ」というテーマが掲げられた本大会では、サブテーマとして以下の7つも掲げられました。 ・「幸」(Well being/生活の質・人生の質(QOL)の向上)・「働」(Collaborative decision making /協働意思決定)・「含」(Inclusion of diverse values/多様な価値観の包含)・「継」(sustainability/持続可能性)・「繋」(interdisciplinary team collaboration/多職種連携)・「楽」(enjoy your life/快) 多様性やジェンダーバランスに工夫されているほか、「聞く」講演だけではなく、ミュージカルや映像を「見て」、ワークショップや認知症カフェなどで「体験して」、参加者がさまざまな視点で楽しく参加しながら学べるプログラムを多数開催。 多職種がディスカッションする場面も多く見られ、在宅医療に携わる人たちが互いに知見を共有し、在宅医療の未来を見つめ交流する場となっていました。 参加型・体験型プログラム 多職種との交流を実現した参加型・体験型プログラムを一部紹介します。 ワークショップ「在宅における看取り時の立ち振る舞いについて考えませんか?」 座長:大屋 清文氏(ピースホームケアクリニック京都) 4~5名でグループを作り、医師、訪問看護師、利用者、家族などの役割を演じながら、看取りの場面における対応や立ち居振る舞いについてシミュレーションする企画。座長の大屋氏は、「看取り時の立ち居振る舞いについて、正解というものはない。答えではなく問いを持ち帰っていただきたい」と話されました。シミュレーション後のディスカッションでは、「この場面に『お疲れ様でした』という言葉はそぐわないのでは」「医師はご遺体にそのようには触れないのでは」といった臨場感のあるやり取りも。また、「普段とは異なる職種や家族役をやることで学びがあった」「医師・看護師ともにワークショップに参加しており、普段臨床の場では聞けない医師の本音も聞けた」といった感想が聞かれました。 虹色のcafé 「未来みらい」 カフェオーナー:川口 美喜子氏(札幌保健医療大学)カフェ共同オーナー:Lintos café(リントスカフェ)、まあいいかlaboきようと(平井 万紀子氏) 学会期間限定でオープンした虹色のcafé 「未来みらい」では、東京栄和会なぎさ和楽苑、社会福祉法人おあしす福祉会オアシス・プラスの方々など、障害のある方や認知症の方がスタッフとして活躍されていました。またこのカフェでは本格的なお菓子が楽しめるだけでなく、川口氏とLintos caféのバリスタ、とろみ剤の企業、歯科医師が約1年かけて共同で考案したとろみがついたおいしいコーヒーを味わうことができました。摂食嚥下障害がある方でも安全に楽しめるこのコーヒーは、飲みやすさとおいしさを両立。食べる歓びを実感できる機会となったこのカフェは、大変な賑わいを見せていました。また、認知症の方や障害を持っている方の「自分の街で当たり前の暮らしがしたい」「社会で活躍したい」という望みの実現のために必要なことについて考える貴重な機会となりました。 みんなで孤立をなくせ!!超高齢社会体験ゲームコミュニティコーピング体験会 一般財団法人コレカラ・サポートによって開発された、人と地域資源とを繋げることで社会的孤立を無くすための協力型ゲーム「コミュニティコーピング」の体験会が行われました。ゲームを通して、人と地域とを繋げる役割は、専門職だけでなく一般の人でも担えることがわかりました。 参加者からは「社会的孤立とはどのような状態なのか理解できた」「話を聞くだけで解決できる課題もあれば、専門家の助言が必要な課題もあり、地域にはさまざまな課題を抱える人が溢れているのだなと実感した」「自分にできることからやっていこうと思った」といった声が聞かれました。 在宅ケア体験フェスタ 神経・筋疾患の利用者さんを想定した呼吸リハビリテーション体験会では、2名1組となり、アンビューバッグや呼吸リハビリ機器を用いた吸気介助を実施する側と、利用者側の両方を体験しました。参加者からは「呼吸療法認定士の資格を持っているが、神経・筋疾患の利用者さんのための吸気介助は行ったことがなかったため勉強になった。今後取り入れたいと思った」「自分のやり方に軌道修正が必要なことに気付いた」といった声が聞かれました。 排尿支援の体験会には、複数のメーカーの導尿キットや超音波機器、膀胱留置カテーテルが用意されていました。それらの物品や機器を実際に手に取り、具体的な使用方法について知ることができました。訪問診療に携わっている看護師さんは「さまざまな物品に触れ、実際に体験や比較をできたことでメーカーごとの特徴について理解でき、今後もし自己導尿が必要になった利用者さんに出会ったら適切なアドバイスができそう」と話されていました。 ミュージカルや映画、映像を「見て」学ぶ シンポジウムについても、映画やミュージカルが取り入れられるなど、多種多様な伝え方のプログラムが並びました。 ミュージカル「きみのいのち ぼくの時間」 座長:中村 明澄氏(向日葵クリニック/NPO法人キャトル・リーフ)   堤 円香氏(メディカルホームKuKuru/NPO法人キャトル・リーフ) ミュージカル「きみのいのち ぼくの時間」が上演されました。NPO法人キャトル・リーフは2001年に創立以降、約20年にわたって病院や特別支援学校、高齢者福祉施設等でミュージカル活動を実施している団体です。「きみのいのち ぼくの時間」は、ミツバチのハチ子と、ハチ子に恋をしたカエルが主人公のお話。ミツバチの命はカエルに比べてとても短いため、二人の恋は女王蜂に反対されてしまいます。なんとか障壁を乗り越えますが、突然の嵐がやってきて…というストーリー。命にまつわるメッセージが多く込められており、会場には涙している人も。終了後はミュージカルの中で印象的だったシーンや言葉についてのディスカッションも行われました。 映像・講演「進行肺がんの息子に伴走した2年半を振り返って」 座長:荻野 美恵子氏(国際医療福祉大学医学部医学教育統括センター国際医療者教育学/国際医療福祉大学医学部脳神経内科学)   田上 恵太氏(医療法人社団 悠翔会 くらしケアクリニック練馬)演者:関本 雅子氏(かえでホームケアクリニック) 関本 雅子氏は緩和ケア医であり、そして同じく緩和ケア医で息子の関本 剛氏をがんで亡くした母でもあります。会場では、剛氏の生前の講演やラストメッセージの動画が映し出されました。雅子氏の講演では、剛氏が残された時間をどのように過ごすことに決めたのか、メディアに出たことによる反応、剛氏の最期について、緩和ケア医と母のそれぞれの立場で後悔したことや学んだこと、救われたことなどが語られました。 訪問看護の魅力も次世代に紡ぐ 副大会長 高砂 裕子氏(一般社団法人南区医師会在宅事業部・南区医師会訪問看護ステーション 管理者)のコメントもご紹介します。 多くの方にご来場いただき、大変嬉しく思っております。本大会は、専門職だけでなく、また医師のみならず看護師や介護士をはじめとする多職種の方にも参加いただけたらという思いで企画しました。単に「ご参加ください」というだけではなく、例えば介護職の方々におすすめのプログラムには、プログラム表に「★」の印を記載するなど、実際に参加していただきやすいような創意工夫も行っています。体験型プログラムを組み込むことで、さまざまな職種の方と出会い、より楽しく過ごしていただける大会になったのではないでしょうか。私自身、30年間訪問看護師として利用者さんに寄り添い、身近なところで生活を意思決定支援する訪問看護は、とてもやりがいがある仕事だと思っています。それをぜひ次世代の人たちに紡ぎたいと思っています。2025年問題、2040年問題を前にした今、訪問看護ステーションの大規模化も推進しています。それぞれの訪問看護ステーションが、そして訪問看護師が、自身が目指す訪問看護を実現してもらえたら幸いです。 * * * 本大会では、在宅医療に携わるさまざまな職種の方々の「出会い」がありました。参加者同士が交流し、思いを伝え合い、いろいろな視点や立場から在宅医療の現状や展望について考える時間となりました。このような関わりこそが「在宅医療を紡ぐ」ことなのだと、気付きがたくさんあった大会でした。次回、来年6月に開催予定の第7回日本在宅医療連合学会大会「在宅医療の未来を語ろう。〜2025年問題に向き合い、2040年に備える〜長崎から全国へ」にも注目していきましょう。 取材・編集:NsPace編集部執筆:佐野 美和

高齢者虐待防止 法定研修会in山形 イベントレポート
高齢者虐待防止 法定研修会in山形 イベントレポート
特集
2024年9月10日
2024年9月10日

高齢者虐待防止 法定研修会in山形 イベントレポート【7月24日開催】

介護保険法上、指定訪問看護ステーションが必ず実施しなければならない法定研修。事業所が適切な運営を行うために欠かせない研修ですが、実施方法に課題を抱える事業所が多い現実があります。 そこで、山形県看護協会・山形県訪問看護総合支援センター・山形県訪問看護ステーション連絡協議会は、帝人株式会社と共催で山形県下の2次医療圏ごとに訪問看護事業所向けの法定研修会を企画。山形県内4エリアを巡業しながら、現地開催+オンライン配信のハイブリッド形式で研修(全4回)を実施することとなりました。今回は、第1弾の高齢者虐待防止にまつわる法定研修会の模様をご紹介します。 座学+症例検討会を実施 2024年7月24日(水)の法定研修会は、山形県の訪問看護ステーションに勤務されている方を対象に、訪問看護会館(山形県 村山地区)にて開催されました。講師として山形県看護協会「訪問看護ステーションやまがた」の所長を務める山川一枝さんが登壇し、現地会場に27名、オンライン会場に48名、計75名の参加者が集いました。研修会の流れと目的は以下の通りです。 座学では、「高齢者虐待をよく知ろう」と題し、事業所が高齢者虐待を防止し、早期発見と適切な対応を行うための5つの規定(委員会の設置、指針の整備、従事者の研修など)について解説。また、高齢者虐待防止法に基づく虐待の分類(身体的・心理的・性的・経済的・ネグレクト)や、それぞれの深刻度1~4(虐待の程度)についても理解を深めました。参加者の皆さんは、一様に真剣な表情で講義を受けていました。 座学の後は、虐待の兆候を察知し、「チーム全体で虐待のリスク要因を判断する」というプロセスを体験するため、現地参加者とオンライン参加者がそれぞれグループに分かれて症例検討会を行いました。 症例検討会・グループディスカッションの様子 症例検討会では、虐待が発生する社会背景や虐待者側の要因などについて、さまざまな可能性を考えながら真剣に意見を交わす様子がみられました。虐待を通報する基準についての質問も挙がり、より実践的な学びを深めている様子が印象的でした。最後に全体の振り返りをし、高齢者虐待防止にまつわる研修会は終了。参加者にはオリジナルの受講証明書も渡されました。 負担軽減とリーダーシップ育成に繋がる 今回の研修会について、山形県看護協会の菅野理事や講師の山川氏、参加者の皆さんからのコメントもご紹介します。 ◆菅野 弘美氏山形県看護協会 常任理事(2021年6月~)山形県訪問看護総合支援センター長(2024年4月~) 当訪問看護総合支援センターでは、これまで多くの技術研修・管理者研修等を行ってきましたが、法定研修については各事業所にお任せしていました。しかし、訪問看護事業所の管理者の皆様にお話を伺う中で、法定研修の負担の大きさは認識していましたので、県内の訪問看護事業所が合同で法定研修を実施できれば、各事業所の負担軽減に貢献できると考えたんです。実際に管理者の皆様からも喜びの声が届いています。在宅医療は横との連携が重要で、私たちも日頃から地域の訪問看護事業所の管理者の集まり(ブロック会議)を開催したり、チャットを通じてコミュニケーションを取り合ったりしています。今回も研修とブロック会議をセットで開催しており、こうした機会を通じて横のつながりも深めていっていただければと考えてます。また、今回の研修の講師は4回とも山形県内の方に依頼しました。こうしたご登壇の機会を通じて、地域内でリーダーシップを発揮する人材の育成にも繋がればと考えています。 ◆山川 一枝氏山形県看護協会 訪問看護ステーションやまがた 所長訪問看護23年目。訪問看護に関する講演多数 今回講師を担当させていただいた「高齢者虐待防止」は大変難しいテーマで、一概に「ここからが虐待」と線引きしづらく、マニュアルどおりにいかないことも多いものです。だからこそ、兆候察知からリスク要因まで、ケアマネジャーを含むチームで共通認識を持ち、迅速に対応できるような体制をつくっておくことが重要だと思います。今回の講義やディスカッション等を通じて得た知識や気づきを、各チームに持ち帰っていただければ幸いです。また、私も訪問看護事業所の管理者をしていますが、法定研修は代表者が外部の研修に参加する際の費用や訪問スケジュールの調整、事業所内で研修を実施する際の準備等の負担があります。そもそもニーズに合った外部研修をみつけられず、困ることもありました。「みんなが実施しなければいけないなら、合同でできればいいのに」と思っていたので、今回の研修のお話は本当に助かりました。講師用の投影資料や台本もあるため、多少のアレンジは加えたもののほとんど準備がいらず、負担が少なく済みました。 ◆参加者の皆さんからのコメント 「法定研修の実施が決まり、対応に悩んでいた時に山形県看護協会から案内があり参加しました。事業所を少数で運営しており、研修日程の調整も難しいため、こうした企画はとても助かりました」「貴重な機会で、資料もわかりやすいので本当にありがたいです。発表者用の資料やスライド集もあるので、これを使ってスタッフ向けに研修を行います」「迅速にチームに情報共有をする重要さ、虐待者の背景にも目を向けてリスクを減らしていくことの大切さを改めて認識しました」「高齢者虐待防止には、社会環境、家族、虐待者側、被虐待者側などと多方向の要因からアプローチしていく必要があることを再確認できました。深刻度や具体例の資料が特に参考になりました。ここで得た知識をふまえて、兆候を見逃さずに対応していきたいです」 * * * 今回は、山形県内の看護協会、訪問看護総合支援センター、訪問看護ステーション連絡協議会と企業とが連携して法定研修会を実施したことで、各事業所の負担軽減につながった取り組みをご紹介しました。人手不足に苦しむ訪問看護事業所が多い中、今後ますますこうした効率化が重要になるでしょう。地域で連携する際の事例として参考にしていただければ幸いです。 ※本記事は、2024年7月24日(水)時点の情報をもとに制作しています。 取材・編集:NsPace編集部執筆:高橋 佳代子

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