礼節・マナーに関する記事

【医師に聞く】地域医療と訪問看護2
【医師に聞く】地域医療と訪問看護2
インタビュー
2023年11月14日
2023年11月14日

【医師に聞く】地域医療と訪問看護~接遇の大切さと100点満点を目指さない理由~

20年以上にわたり神奈川県横浜市金沢区とかかわりを持ち、当地に田川内科医院を開業した田川暁大先生。地理的・医療的環境が異なるさまざまな地域でキャリアを積み、糖尿病、ぜんそく・COPDなどの分野で患者さんの在宅療養に心を傾けています。そんな田川先生に、地域医療や訪問看護への想いを語っていただきました。 田川内科医院 院長田川 暁大(たがわ あきひろ)先生1998年山形大学医学部卒業、2004年横浜市立大学大学院医学研究科博士課程修了。2016年より現職。医師としてのキャリアを神奈川県内各地のさまざまな医療機関で積み、呼吸器内科・糖尿病内科を中心に診療するクリニックを横浜市金沢区に開業。専門性を生かし、患者さんやご家族と一緒に考えながら実行可能で継続できる治療を推進している。コロナ禍においては自院でのワクチン接種や発熱患者の受け入れにも積極的にかかわる。日本内科学会認定医・総合内科専門医、日本呼吸器学会専門医・指導医、日本糖尿病学会専門医、日本糖尿病協会糖尿病認定医。 患者さん一人ひとりへの接遇を大事に —まずは、地域の患者さんとかかわる喜びや、心がけていることについて教えてください。 開業したのは2016年ですが、横浜市金沢区内の複数の病院で20年来医療に従事してきました。そのため、何年も前に別の病院で診察した患者さんが来院なさるケースがあります。新型コロナワクチン接種で当院を受診した方に、「実は20年前に別の病院で診ていただきました。あのときはありがとうございました」と言われたり、「ここはあのときの田川先生のクリニックなんじゃないかなと思って建物の前を通っていたんです」といった話もうかがったり。患者さんにそんなふうに言っていただけるのは嬉しいですね。 そもそも病院自体が「行きたい場所」ではなく、嫌な医師なら来院しませんから。「何かあればまたこの病院にかかりたい」と思っていただけるような適切な対応・接遇、何より信頼を得ることが大事だと、スタッフとも常々話しています。 田川内科医院の外観(左)と受付の様子(右) どの地域でも最新の標準治療を提供するために —地域医療について課題を感じることはありますか? 私のいる金沢区は非常に医療環境に恵まれており、呼吸器も糖尿病も、当院のように専門医が在籍しているクリニックが複数あります。加えて区内には横浜市立大学附属病院や横浜南共済病院、県立循環器呼吸器病センターといった基幹病院もあり、各診療科に専門医が複数いる環境です。 一方、高齢化や過疎化が懸念される地域ほど専門医が少ない傾向にあると感じています。そういった地域では各分野の知識が更新されづらくなり、標準治療の提供も難しくなってしまう可能性があります。 今後、より地域医療に求められるだろうと感じているのが、各科の医療水準の均衡化と考えます。専門医が少ない地域・いない地域でも最新の標準治療が提供できるように、非専門の先生と協力していく必要があります。もちろん、我々専門医の研鑚や積極的な発信が必要なのは言うまでもありません。 —訪問看護師に関しても同様のことが言えるでしょうか。 そうですね。みなさん本当に真摯に患者さんと向き合っておられますが、例えば糖尿病に関して「血糖値に応じてインスリンを何単位」といった、「かつては当たり前だったが今は違う」知識に基づいてお話されている訪問看護師さんもいらっしゃることは事実です。もちろん、「今は違うんですよ」とご説明をしますが、比較的情報が入ってきやすい大きな病院と異なり、お一人で訪問することが多い訪問看護ステーションでは、どうしても情報更新が難しいケースがあるのかなと感じます。 標準治療の提供のために、訪問看護師さんにも積極的に学んでいただければと思いますし、我々も必要に応じて情報提供を続けていきたいと思っています。 敬意をもって患者さんに接する大切さ —患者さんとの接し方や医師への連携について、アドバイスいただけないでしょうか。 忙しいとき、多くの医療者は自分が伝えたいことを一方的に話してしまいがちです。しかし本当に重視すべきは「患者さんに正しく意図が伝わる」こと。そのために私は丁寧な言葉を選ぶよう心掛けています。丁寧に話すだけで、早口ではなくなりますから。 また、医師・看護師に限らず医療従事者のなかには、患者さんに対して高圧的だったり、逆に子どもをあやすように接したりする人がいます。私はどちらも違うのではないかと思っています。おすすめしたいのは、敬意をもって患者さんに接すること。そうすると患者さんのちょっとした違いに気付いたり、貴重な情報を患者さんから引き出せたりするものです。 とくにご高齢の方は皆さん我慢強く、体調の変化をあまり訴えない傾向があります。しかしそこに病気のサインが隠れている可能性もあり、「おやっ」と感じることがあればぜひ医師と連携してほしいですね。 100点満点の生活改善は目指さない —先生は呼吸器と糖尿病がご専門で、生活習慣が症状に影響する疾患の患者さんを多く診ていらっしゃいます。安定した在宅療養を継続するために重要と考えていることを教えてください。 「100点満点を目指さない」ことでしょうか。85点くらいで十分ですね。年齢を重ねるほど、できないことが増えてくるので、ご本人・ご家族と医療者とで「落としどころ」をすり合わせて共有することが重要です。 具体例を挙げると、たとえば「医師に制限・禁止されている食べ物を食べてしまった」と患者さんに打ち明けられたとします。それが絶対にNGなものでなければ、どこまでなら減らせるか患者さん自身と相談します。このとき、私はまず患者さんの発言を受け入れるようにしています。そして患者さん自身が決めた目標を達成できるようがんばってもらい、結果が出たら一緒に達成を喜ぶんです。 そこで、「じゃあ次はもう少し制限しましょう」…とは言わず、「これを継続しましょう」と伝えます。「本当にそれでいいの?」と思うかもしれませんが、結果が出ると患者さんは楽しくなり、ご自分から量を制限するようになります。そうなったらしめたもので、患者さんの行動変容につながっていくんです。 訪問看護師さんが気軽に患者さんの情報を共有していただけたら、もっとアドバイスができると思いますし、どこが「これだけは守ってほしい点=85点」なのかを一緒に検討することもできるでしょう。患者さんと長く接している訪問看護師さんからの情報は医師にとって貴重な気づきになります。これからも、一緒に地域医療を支えていきましょう。 ※本記事は、2023年9月の取材時点の情報をもとに構成しています。 取材・執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

ご遺体への最新詰め物事情
ご遺体への最新詰め物事情
特集 会員限定
2023年7月18日
2023年7月18日

納棺師解説/ご遺体への最新詰め物事情【セミナーレポート後編】

2023年4月14日に開催されたNsPace(ナースペース)のオンラインセミナー「【納棺師解説】死後24時間以降のご遺体変化&最新詰め物事情」。納棺師の大垣麻里さんを講師に迎え、在宅でのエンゼルケアについて、知っておきたい基礎知識やCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)の流行を受けての変化を教えていただきました。 今回はそのセミナーの内容を、前後編に分けて記事化。後編では、COVID-19流行以降のエンゼルケア・葬儀の情勢や、ご遺体への詰め物の対応についてご紹介します。 >>前編はこちら納棺師解説/死後24時間以降のご遺体変化と対処法【セミナーレポート前編】 ※約90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】大垣 麻里さん湯灌師・納棺師・介護福祉士/株式会社沙羅代表介護の仕事に従事する中で、多くの高齢者が自らの死への不安を抱いていることに気がつき、その旅立ちを支援する湯灌師、納棺師に転身する。その後、湯灌・納棺・メイクサービスを提供する株式会社沙羅を設立。これまで20年以上にわたり、亡くなった方やそのご家族と向き合い、「温かいお別れの場」を提供してきた。 COVID-19がお別れに与えた影響 COVID-19が発生してから3年以上が経ちましたが、その間、エンゼルケアや葬儀のあり方は大きく変わってきました。 まず発生当時、亡くなった方は直火葬となり、ご家族は収骨もできない状況でした。しかし2022年頃からは、ご遺体を透明の納体袋に入れて棺の蓋をしたままであれば、フィルム越しではあるものの、対面してのお別れが可能に。とはいっても、故人に直接触れることはできませんでした。 そして、2023年1月6日。厚生労働省から「ご遺体を清拭し、鼻や肛門に詰め物をし、紙オムツを使用していれば、納体袋には入れずにこれまでどおりの形式で葬儀をしてもよい」という事務通達が出たのです。現在では、まったく従来のとおりに、故人の顔や体に触れながらのお別れができています。葬儀の形式についても、何の制限もなく行われています。 詰め物をするメリットとデメリット エンゼルケアにあたり、対応を悩まれる方が多いのが詰め物でしょう。詰め物をするメリットとしては、やはり体液漏れが起こるリスクを低減できることです。しかし、亡くなったという事実を受け止めがたく感じているご家族の方からは「詰め物をされると、息ができないように見えて痛々しい」という声がよく聞かれます。 これをふまえて、私は見た目が悪くならないように詰め物をするのがベストではないかと考えています。 部位別の詰め物対応のポイント 詰め物をする際に気をつけたいポイントついて、部位別に詳しくご紹介していきます。 耳、鼻、口 まず、耳には基本的に詰め物を入れなくても構いません。交通事故に遭われ頭蓋骨骨折があり、出血が予想されるといったケースでは耳にも詰め物をしていますが、亡くなられたときに耳から出血や体液漏れなどが起きていなければ不要です。 続いて鼻は、小鼻ではなく、上の図に矢印で示したように鼻の奥へしっかりと詰め物をしてください。 同じく口も、図の矢印が示す部分、咽頭奥深くに舌を巻き込まないよう注意しながら詰め物を入れます。口腔内ではなく、その奥に詰めることで、気管や食道からの体液漏れをしっかりと防ぐことができます。 尿 尿漏れへの対処法は男性と女性とで異なります。 まず女性の場合は、男性よりも尿道が短いので、膀胱に溜まっている尿が出てくる可能性があります。そのため、できるだけ尿パッドをつけるといいでしょう。在宅の利用者さんは、多くの場合尿パッドや紙オムツをつけられていると思いますので、その対応で十分です。 また、膣への詰め物については、子宮疾患があって出血が見られるといった特別な事情がなければ不要です。 一方男性の場合は尿道が長いので、ご遺体を動かすたびに尿が漏れることは女性と比較すると少ないですが、念のため紙オムツを装着したり、男性用の尿パッドを巻いたりされると安心かと思います。 なお、尿道カテーテルをされていた方は、カテーテル抜去によって尿道から出血することがあるので、尿パッドをきちんと巻いてください。 便 便については、性状よって対応が異なります。硬い便の場合は、直腸に溜まっているものを可能な範囲で摘便したら、その後さらに出てくることはありません。ただし、タール便や液状便が出ている方の場合は、対処が必要です。とはいっても綿を肛門に詰める必要はなく、周囲をきれいにしてから綿で肛門を塞ぐようにして、その上から紙オムツを当てれば大丈夫です。紙オムツと肛門の間に隙間がなければ、ダラダラと漏れ出てくることはありません。 詰め物の必要性をどう判断するか 前提として、葬儀において「●●しないといけない」という決まりは2つだけしかありません。ひとつは、亡くなった後24時間は火葬できないこと。もうひとつは、棺に収めること。それだけなんです。着物を左前に着せなければならない、帯を縦結びにしなければならないといったことは、決まりではなく風習です。詰め物についても、原則としてご家族のご意向を受け止めて対応されるとよいと思います。仮に、「体液が流出したとしても詰め物をしたくない」といったご意向があれば、それに沿って対応します。 ただし、とくに在宅でお看取りをされたケースでは、COVID-19の影響も考慮されてか、ご家族は詰め物をしないことに不安を感じられることが多い印象です。また、多くのご家族は、ただでさえ急なことにショックを受け、今後のこともなかなか想像できていらっしゃらない状況です。その状況下で、体液が流出するリスクをふまえて詰め物をすべきかどうかのご判断をすることは、かなり難しいでしょう。 こうしたご家族の状況や心情をふまえると、先ほども少し触れたとおり、亡くなられた方のお顔の印象を損なわないよう、ご家族の目に触れない奥の部分に詰め物をしていくのが、私はよいと思っています。見栄えに十分に配慮して詰め物をすることが、ご家族のお気持ちに寄り添いつつ、お見送りまでの時間をトラブルなく安心して過ごしていただける方法ではないでしょうか。 可能な限り、最後の身支度はご家族と一緒に これはエンゼルケア全般に通じる話ですが、故人の身支度は、できるだけご家族と一緒に行っていただきたいです。在宅看護を選択されてきたご家族の多くは、「家族を自宅で送りたい」という想いが強いので、身支度に参加できるよう調整すると喜ばれるかと思います。 正直なところ、ご家族と一緒に支度をするとスムーズにいかないこともあるかと思います。しかし、それよりもご家族の方が「私たちも最後の身支度をしてあげた」と思えることのほうが大事ではないかと私は考えています。その経験はきっと、ご家族のその後の支えになっていくのではないでしょうか。 * * * ご家族ができるだけ心を痛めずに故人とお別れできるようにするには、ご遺体をきれいに保つための対処が必要不可欠です。そして、その対処の多くは可能な限り早く行うことが求められます。 訪問看護師のみなさんには、今回ご紹介した在宅でのエンゼルケアの方法をぜひ現場で実践していただき、「ご家族が前を向けるお別れ」の実現をサポートしてもらえたらと思います。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

【納棺師解説】死後24時間以降のご遺体変化&最新詰め物事情
【納棺師解説】死後24時間以降のご遺体変化&最新詰め物事情
特集 会員限定
2023年7月11日
2023年7月11日

納棺師解説/死後24時間以降のご遺体変化と対処法【セミナーレポート前編】

2023年4月14日に開催したNsPace(ナースペース)のオンラインセミナー「【納棺師解説】死後24時間以降のご遺体変化&最新詰め物事情」。納棺師の大垣麻里さんを講師に迎え、在宅でのエンゼルケアについて、知っておきたい基礎知識やCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)の流行を受けての変化を教えていただきました。 そのセミナーの内容を、前後編に分けてご紹介。前編では、死後のご遺体に起こるさまざまな変化と、その対処法についてまとめます。 ※約90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】大垣 麻里さん湯灌師・納棺師・介護福祉士/株式会社沙羅代表介護の仕事に従事する中で、多くの高齢者が自らの死への不安を抱いていることに気がつき、その旅立ちを支援する湯灌師、納棺師に転身する。その後、湯灌・納棺・メイクサービスを提供する株式会社沙羅を設立。これまで20年以上にわたり、亡くなった方やそのご家族と向き合い、「温かいお別れの場」を提供してきた。 死後24時間以内に起こる変化「死斑」 死斑(亡くなった方の皮膚に見られる赤紫や青紫色の斑点)は、故人が息を引き取ってから徐々に発生し、死後15時間程度で最高潮となります。発生を避けることはできませんが、きちんと対策すれば、顔に死斑が出ないようにすることはできます。 ご遺体が仰向けに寝ている場合、耳や首、背面部に死斑が出現し、顔は蒼白化していきます。これは体液や血液が重力に従って下がっていくためで、自然な死斑の現れ方です。逆に、亡くなられたときにうつ伏せの状態だった場合は、顔をはじめ体の前面に死斑が出現します。 しかし、中には仰向けになっているにも関わらず、顔が腫れてきたり、どんどん紫色に変化したりするケースがあります。これは大変よくない状況で、体内の血液が顔に流れてしまっています。ご家族の目に触れる顔をきれいな状態に保つためには、すぐに対策しなければなりません。 顔に死斑が出ないようにする方法 仰向けに寝ていても顔に向かって血液が流れてしまう場合は、できるだけ早く上体を起こすようにします。枕を少し高くしたり、座布団を挟んだりしても構いません。 このような現象が発生する方は、体格がよくて胸板が厚く、横から見たときに心臓の位置が顔より高いことがほとんどです。顔が心臓よりも下にならないようにすれば、顔への血液の流れを防ぐことができます。 また、横向きに寝ているのが安楽だった利用者さんが亡くなった場合、「故人が安楽に感じる姿勢のままにしてあげたい」と、ご遺体を横向きのままにすることを望むご家族は少なくありません。お気持ちはとてもよくわかりますが、少なくとも顔だけは、亡くなった後すぐに上に向けるようにしてください。 もしそのままにしておくと顔の片側にだけ死斑が出てしまい、それをカバーするために通常よりも濃いお化粧をしないといけなくなります。普段お化粧をしていなかった利用者さんもその方らしいお支度で送れるよう、顔に死斑が出ないように予防することがとても大事です。 死後24時間以内に起こる変化「死後硬直」 みなさんご存知のとおり、人は亡くなると体がこわばって自由に動かなくなりますが(死後硬直)、この硬直は自然に解けていきます。死後15〜20時間でだんだん硬直が強くなり、夏なら約2日、冬なら約3日で、どなたでも必ず緩解していきます。 とはいっても、例えば「着替えをさせたいので、自然に緩解する前に硬直を解きたい」といったこともあるでしょう。そのときは、腕を自然に曲げ伸ばしするだけで、柔らかく動くようになります。骨が折れるほどの力をかけたり、関節を特殊なやり方で動かしたりといった必要はありません。下肢の場合も同様で、筋肉をマッサージして伸ばすだけで硬直は解けます。 なお、死後15〜20時間以内に筋肉を動かして硬直を解いた場合、再度体がこわばることもありますが、その際はもう一度曲げ伸ばしすれば問題ありません。 ここでのポイントは、「死後硬直はいつでも解ける」ということです。これを知っていると、「亡くなったら着せてあげたい服があるので、急いで取りにいきます」とご家族がおっしゃる場合でも、「着替えはいつでもできるので、焦らずゆっくり用意していただいて大丈夫ですよ」とお声がけできます。 拘縮が見られる方への対応 ただし、生前に拘縮が見られる方は、亡くなっても固まった関節が緩解することはありません。死後に無理やり体を伸ばそうとすると、骨折や筋の損傷を起こす原因になるので、十分に気をつけてください。 死後24時間以内に起こる変化「乾燥」 死後は、皮膚の乾燥がどんどん進み、茶色くくすんだり硬くなったりします。顔の乾燥を防ぐために、できるだけ早く保湿をしてください。ご家庭にあるような一般的な保湿クリーム、もしくはハンドクリームやスキンケア用オイルなどを使ってもよいです。 ご遺体の顔に白いハンカチがかかっている様子をご覧になったことがあると思いますが、あれには乾燥を防ぐ意味合いもあります。 死後24時間以内に起こる変化「腐敗」 「腐敗」とは、体内のたんぱく質が細菌に分解されて、水・気体・臭気が発生している状態をいいます。空気中の細菌がご遺体に作用して起こるのではなく、亡くなった方ご自身の体内にいる菌によって起こるため、これを防ぐためにできることは、温度コントロールしかありません。ご遺体の温度を下げて菌が繁殖しにくい状態を保ち、腐敗をできるだけ進行させないようにします。 具体的には、まずは大腸菌や腸球菌の温床となっている腹部を、次いで血液が溜まっている胸部を冷やしてください。このように内臓を冷やすことが、腐敗を進行させないために重要です。 腐敗が進行すると、体内でガスが発生して体腔内圧が高まり、口や鼻から体液や血液が漏れ出てきます。 在宅で意識したい腐敗対策 在宅では、気温が低い冬でもご遺体の腐敗が進んでしまうケースがよくあります。その原因となるのが、ホットカーペットや電気敷布・毛布、ご遺体に向いたエアコンやストーブです。エンゼルケアを行う際は、まずご家族と一緒にこれらの状態を確認し、腐敗が進行しないようにうまく声をかけながら調整してください。 カテーテル抜去部や点滴痕からの出血に注意 死後に注意すべき点として、カテーテル抜去部や点滴痕からの出血や体液の漏れも挙げられます。こうした医療処置による創傷があると、体内で発生したガスに押された血液や体液が、そこから漏れ出す可能性が高いです。しかも、ガーゼやドレッシング材でカバーしても、ちょっとしたシワから体液や血液が滲み出してしまうケースがほとんどです。 正しい圧迫固定の方法 これを防ぐには、正しい方法で創部を圧迫固定する必要があります。 上の図のように、小さく固めた綿花やガーゼなどでカテーテル抜去部や点滴痕をしっかりと圧迫します。また、テープで腕一周を巻くように留めて、さらに圧迫を強めましょう。こうすることでテープが剥がれにくくなります。大きく平たく創部を覆うのではなく、局所的に圧迫してください。 鼠径部も同じ方法で圧迫固定します。搬送の際にテープが剥がれるケースが多いので、伸縮性のあるテープを使用し、腸骨から内股にかけてぐるっと一周巻いて圧迫をします。 >>後編はこちら納棺師解説/ご遺体への最新詰め物事情【セミナーレポート後編】 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

ご遺体変化&詰め物事情セミナー
ご遺体変化&詰め物事情セミナー
特集 会員限定
2023年6月27日
2023年6月27日

特別先行公開! 死後24時間以降のご遺体変化&最新詰め物事情 セミナーQ&A

2023年4月14日(金)、NsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー「【納棺師解説】死後24時間以降のご遺体変化&最新詰め物事情」を開催いたしました。納棺師で株式会社沙羅代表の大垣 麻里氏を講師に迎え、エンゼルケアの後にご遺体に何が起こっているのか、詰め物の処置をどうすべきかなどについて解説いただきました。 本記事では、セミナー時に受講者の皆さまからいただいたご質問への回答を、セミナーレポートに先んじて公開いたします。当日、時間の都合により回答し切れなかった質問にも回答いただきました。セミナーにご参加いただいた方も参加できなかった方も、ぜひご覧ください。 【講師/質問回答】大垣 麻里さん湯灌師・納棺師・介護福祉士/株式会社沙羅代表介護の仕事に従事する中で、多くの高齢者が自らの死への不安を抱いていることに気がつき、その旅立ちを支援する湯灌師、納棺師に転身する。その後、湯灌・納棺・メイクサービスを提供する株式会社沙羅を設立。これまで20年以上にわたり、亡くなった方やそのご家族と向き合い、「温かいお別れの場」を提供してきた。 ■お役立ちツールも公開!お役立ちツール『「死後24時間以降のご遺体変化&最新詰め物事情」 Q&A一覧』では、より多数のご質問への回答を読むことができます。ぜひご活用ください。>>「死後24時間以降のご遺体変化&最新詰め物事情」 Q&A一覧 死後の対応・医療的処置について <Q1>検死になる条件について教えてください。例えば、訪問診療を導入しておらず、延命処置を希望しない方が孤独死した場合、救急車を呼ぶしかないのでしょうか。 医療にかかっていない状態で死亡された場合には、その原因をはっきりさせるために検死が行われます。孤独死の方のご遺体を発見された場合や、救急車を呼んだけれど到着した時点ですでに亡くなっていた場合も検死となってしまいます。ですので、ご質問にある訪問診療を導入していない孤独死の方の場合、検死になりますし、救急車を呼ぶのではなく警察に連絡することになります。 セミナー内でお伝えした通り、検死になるとご遺体が着衣なしで袋に入れられた状態での帰宅となり、ご家族が大変ショックを受けるケースが多いものです。「万が一の際にはかかりつけ医や訪問看護ステーションに連絡を」ということを、ご家族にお伝えいただいたほうがよいかと思います。 救急車到着時点でお亡くなりになっていない場合には検死にはなりませんが、救急車内で心臓マッサージや酸素吸入、点滴などがなされるかと思います。よくお伺いする事例として、心臓マッサージをして肋骨がすべて折れてしまい、ご家族が亡くなった後にそのことを知り、「救急車を呼んだせいで、痛い思いをさせてしまった」と落ち込まれることがあります。こうした、予想外の最期になってしまわないようにするためにも、ご家族に事前のご説明をしていただくのがよろしいのではないかと思います。 <Q2>最近は火葬場が混み合い、1週間程度後に火葬されることも多々あると思います。その状況を踏まえて気をつけるべきことがあれば、教えてください。 確かにCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)の流行時は、1週間~10日と長くお待ちいただくことが大変多くありました。やはり、一番のポイントは乾燥対策と保冷です。 訪問看護師さんには、保湿剤をしっかりお顔やその周辺に塗っていただけると助かります。保冷については、訪問看護師さんがドライアイスを使用することは難しいかと思いますので、できるだけ室内の温度を低くしていただき、まずは腹部を、次いで胸部を保冷剤で冷却いただければと思います。その後、我々葬儀社が臓器の上や顔の横をしっかりとドライアイスで保冷していきます。 腐敗・冷却について <Q3>葬儀社が到着する前に冷却しなくてよいのでしょうか。室内の温度設定については、どれくらいがいいでしょうか。 ご遺体のことだけを考えればできるだけ早い冷却がよいでしょう。しかし、ご家族の立場に立ったとき、亡くなったばかりで、まだその状況を受け入れられていないときに、ご遺体に冷却材をのせられるというのは、非常につらいことだと思いますので、タイミングへの配慮が必要だと思っております。 例えば、高熱を出してお亡くなりになった方に、熱冷ましのイメージで「熱がおありだったので、少し置かせていただきますね」と保冷剤を置く…といった対応はできるかと思いますが、状況によって限界があるかと思います。 葬儀社が到着し、ドライアイスで強く冷却するのは、死後10時間~15時間程度経過後が一般的(※)かと思います。そのタイミングでも、もちろんご家族がおつらいのですが、比較的受け止めていただきやすいものです。無理はせず、強い冷却は葬儀社にお任せいただくのがよろしいかと思います。 室温は、腐敗防止の観点では一番低い設定温度でお願いできればベストですが、そばで見守るご家族にも配慮する必要があるでしょう。「できるだけ低い」温度設定でお願いできればと思います。 ※亡くなられた後、ご家族がどれくらいで葬儀社に連絡されるかによります。ただし、葬儀社を選択され、翌日に連絡したり、何社か見積もりをとって検討されたりする方もいらっしゃるため、ある程度の時間経過はあるものとお考えください。 <Q4>すい臓がんの方で、死亡確認翌日に全身が腫れあがり、たらこ唇になってしまったことがあります。生前のお顔と変わってしまったため、ご家族からご相談を受けました。お亡くなり直前に高熱が出ていたため、エンゼルケア後に腹部に保冷剤を載せ、暖房も切っていましたが詰め物はしていませんでした。どう対応すればよかったのでしょうか。 典型的な腐敗現象です。お亡くなりになる前からお身体の状態が悪く、腐敗が進行しやすい条件がそろっていたのではないかと思います。詰め物との関連性はなく、保冷が足りなかったことが主原因です。状態の悪い方については、ドライアイスを使用しての急速な保冷を行うことが大切だと思います。葬儀社に引継ぐ際、「状態が悪いので至急ドライアイスをしっかりあててください」とご伝言くださると助かります。 <Q5>エンバーミングについて教えてください。どのような内容で、どんなご遺体に実施されるのでしょうか。 簡単に説明いたしますと、血管を通じて血液を排出し、代わりに赤く着色した防腐液(ホルマリン、フェノール等)を注入し、体に行き渡らせることで、腐敗進行を遅らせるような処置を施していきます。それにより、ご遺体を長期間維持できるようにするご遺体保全処置がエンバーミングです。 事情があって火葬までの期間が長いケースや、ご遺体の損傷修復のためにも行われますが、実際には「感染予防になるから」「きれいになるから」といったご要望に基づく実施が多いです。 体液漏れについて <Q6>生前(数日前)に点滴の抜針をして、止血を確認しました。エンゼルケア時に抜針したわけではないですが、死亡後にその抜針した部位から血液や浸出液が出てくることはありますか? 2~3日前の皮下点滴の痕であっても、圧迫固定は必要になりますか? はい、生前止血を確認しても、針穴から体液が漏れることはあります。 皮下点滴の痕についても、実際に漏れるかどうかはケースバイケースですが、その後のご遺体の安置環境が不確定なため、圧迫固定の処置をされていたほうが安心だと思います。 詰め物について <Q7>訪問看護の現場では詰め物をしないように指導を受けていますが、詰め物をしたほうがよいのでしょうか。また、葬儀社では詰め物をしてもらえないのでしょうか。 確かに、詰め物をしていないケースは多いかと思います。在宅看護の方だけではなく、病棟・検死の方も含むデータですが、弊社(株式会社沙羅)の調査でも、60%近い方が「詰め物をしていない」という結果でした。 しかし、新型コロナウイルスの感染、もしくは感染疑いのある方に対し、詰め物・紙おむつ等をして体液の漏出予防を行った場合、納体袋不要という厚生労働省のガイドラインも出ました(2023年1月)。それに基づき、ご家族から詰め物のご要望があることもございます。また、必ずご遺体から体液が出るということはございませんが、詰め物をしていれば体液漏れのリスクが少なくなります。新型コロナウイルス感染有無に限らず、少しでも体液流出の可能性を少なくしたほうがよいのではないかとも考えます。「詰め物をしないといけない」とまでは思いませんが、「できるだけ詰め物をしたほうがよいのではないか」というのが現状の私の見解です。 葬儀社が詰め物をするかどうかについては、会社により対応がまちまちな現状があります。きちんと行うケースもあれば、まったく何も行わないケースもあり、一概に「葬儀社がちゃんと詰め物をしてくれます」と言えないのが心苦しいところです。 「どんな葬儀社に頼んでも、〇〇は行ってもらえる」ときちんと言えるような信頼できる業界になるべく、私も働きかけていきたいと思っております。 <Q8>訪問看護ステーションで用意しておくべき詰め物や、詰める際の道具についてアドバイスをお願いします。詰める際に割り箸をつかうことが多いのですが、ご家族がみていらっしゃることを思うと、心苦しいです。また、肛門に詰め物をせずに面で抑える際には、具体的にどのような処置をするとよいのでしょうか。 詰め物は、綿花が扱いやすいかと思います。詰める際には、可能ならエンゼルケア専用の鑷子(せっし/ピンセット)をご用意いただけたらベストです。 肛門については、肛門を覆うようにガーゼ・綿花・尿パット等でふさぎ、紙おむつと空間ができないようにしておくイメージです。 エンゼルケア・保湿について <Q9>ご遺体の手は組んだほうがよいのでしょうか。 死の習俗として手を組むイメージを持たれている方が多いのですが、そうしなければいけないという根拠はありません。ご家族のご要望があった場合に組む、という対応でよいかと思います。葬儀社では、搬送の際にストレッチャーに手が挟まってけがをさせないようにするために手を組んだり、合掌バンドを装着したりしている現状があります。 なお、例えば拘縮があるような場合は、手を組むことが難しいかと思います。ご家族に対して「無理に組まなくても問題はない」というお声がけをすると、安心いただけるかと思います。中には、「組まなければ成仏できない」と考え、不安に思われるご家族もいらっしゃいます。 ここで拘縮がある方のお身体を無理に伸ばしてしまうと、骨折してしまうこともあります。葬儀社は、制限はあるものの、ある程度高さ・幅に余裕のある棺をご用意するかと思いますので、ご安心ください。 <Q10>目の閉じ方を教えてください。目が閉じずに、眼球が乾燥している場合はどうしたらよいですか? 文章での説明がなかなか難しいのですが、目が薄く開いている程度でしたら、綿を眼球の上に乗せて閉じています。イメージとしてはコンタクトレンズのように薄く綿花をのせていただき、下まぶたを上げて上まぶたを下げます。 綿で閉じることが難しい場合は、エンゼルケア用の整容ゲルを用います。整容ゲルにはアルコールが含まれているのですが、アルコールを注入することで、体液と混ざって膨らみ、目が閉じやすくなります。 <Q11>保湿について、使用する保湿剤や頻度、ポイントなどを教えてください。メイク後の保湿方法や、白色ワセリンを使用してよいかについても教えてください。 保湿剤は、お手持ちの保湿剤でよろしいかと思います。頻度は、あくまで目安ですが一日一回程度です。お顔だけでなく、唇、耳、首などの周辺も忘れないようにしてください。 メイク後の保湿のやり方ですが、オイル系でもクリーム系でも、メイクスポンジに保湿剤を含ませてそっとおさえるように足していきます。白色ワセリンでも問題はありませんが、保湿効果が高い一方で、少しべっとり感があり、テカリが強く出ます。気を付けないと仕上がりに違和感が生じることがありますので、塗りすぎないようにお気を付けください。 <Q12>特別な化粧品を使ったほうがよいのでしょうか。ご本人が使用したものを使っていますが、問題ありませんか? また、自然に見せるためにはどうすればいいかについても教えてください。 我々はご遺体専用の化粧品を使用していますが、皆さんはご本人使用のお化粧品があればそちらでよいかと思います。ただし、ご遺体は体温が低いので、温度で発色するタイプの化粧品は使用することができません。また、クレンジング後、ベースメイクの前に保湿するようにしてください。保湿剤を充分にお持ちでない場合、足して差し上げてください。ベビーオイル・ハンドクリーム・ワセリンなどでも問題ありません(ワセリンは塗りすぎ注意)。 自然に見せる方法については、亡くなられた方によって好みが違うため、どのような見せ方が「その方にとっての自然」と感じるメイクなのか、非常に難しいところです。ただ、どのようなメーカーの化粧品でも、「保湿効果が高いものを選ぶこと」「色の濃淡の種類を多く用意すること」がポイントだと思います。 湯灌(ゆかん)について <Q13>湯灌の定義や、葬儀社が行う湯灌の内容について教えてください。また、訪問看護で清拭を行った場合も、湯灌は行うのでしょうか。 湯灌は、なかなか一口に説明をするのが難しいものですが、温かいお湯に入っていただく、火葬前の最後のお風呂です。洗髪・洗顔・お顔剃りなどを行い、全身を丁寧にボディソープで洗い流します。ただし、地域によっては清拭を「湯灌」と呼ぶこともあります(特に、関東より東の地域)。 湯灌は葬儀のプランの中でご家族が希望された場合に行うことなので、訪問看護でお体をきれいにされていた場合、通常は湯灌しないケースが多いかと思います。 <Q14>湯灌の前に、詰め物やエンゼルケアを行っても問題ないのでしょうか。詰め物がとれてしまうことはありませんか。湯灌する場合、ポリマーの詰め物はよくないというお話も聞きました。 問題ありません。特別なことがない限り、湯灌の際に詰め物が出ることはないでしょう。詰め物は、濡れるため湯灌後に葬儀社で交換するのですが、それでも意味があります。亡くなられてから湯灌されるまで間に、寝台車で移動されたり、安置されたりとお身体を動かすことが多いため、体液漏れの予防処置としての詰め物をお願いしたいです。 ポリマーは水を含むと100倍近く増えるため、どうしてもあふれ出ますが、湯灌をされるかどうかはエンゼルケア時には不確定のため、ポリマー処置されていても問題ありません。ただし、鼻腔については副鼻腔内ではなく、より奥にポリマーを注入しておいていただければと思います。 葬儀社の対応と訪問看護との連携について <Q15>訪問看護では、エンゼルケアは自費負担をしていただいています。葬儀は費用を抑えたものや湯灌なしのものなど、さまざまなプランがあるようで、どこまで自分たちが行うべきか迷います。訪問看護と葬儀社で、対応の違いはあるのでしょうか? 訪問でするべき対応は何だと思われますか。ご家族に説明するためにも知りたいです。 皆さんをはじめ医療者の方々が行うエンゼルケアは、病気と闘い人生を終えられた後、その方らしく身支度を整えること、本来の姿へ戻ること、という意味合いが強いと考えております。一方、我々葬儀社が行うケア・身支度は、「宗教儀式に向けての準備」という意味合いが強いです。 私は葬儀社サイドの者なので、ご家族に会うのは亡くなられた後になります。でも、皆さんは訪問看護でご家族のことも、亡くなられた方のこともよくご存知のはず。私がご家族だったら、故人が生前からお世話になった方に最後の身支度をしてほしいと思います。ですから、訪問看護師さんができる限り亡くなられたときの身支度をされるのが、ご家族の心情としてはベストではないでしょうか。ご家族のご要望に沿うことが基本ですが、場合によっては髪の毛を解くだけだったり、ご本人の口紅を塗ったりするのみでもよろしいかと思います。私は、ご家族が葬儀社に対し、「訪問看護師さんに綺麗にしてもらったからもう大丈夫です」とおっしゃるケースがもっと増えたらよいのではないかと考えています。 また、費用の兼ね合いから葬儀を当初の想定より縮小される方も大変多くいらっしゃいますので、結果的に訪問看護師さんによるエンゼルケアが最後のお支度になることもあります。 <Q16>訪問看護師がご遺体のお着替えをした後、葬儀場でもまたお着替えをすることになるのでしょうか? また、エンゼルケアのやり直しを行うことはありますか? ご家族に、看護師とエンゼルケアをしたいか、葬儀社にお任せしたいかの確認を行っていますが、看護師と行う場合も、例えば詰め物のやり方が不十分だったのではないか、やり直しをするのであれば無駄に金銭的負担をかけているのではないか、と不安になります。 ご家族の金銭的ご負担も考慮の上、そのようなお声がけをしていただいていること、大変ありがたく思います。 ご家族がどの葬儀社に依頼されるかによって異なりますが、弊社の場合は、訪問看護師さんがご遺体のお着替えやメイクをされていた場合、ご家族がそれを望まれたと判断し、特にご要望がない限りはお着替えやメイクをいたしません。 ただし、葬儀社によっては、例えば「白装束を販売したい」という都合によって、お着替えをしているにも関わらず「仏着に着替えないといけません」といった言い方をする良くないケースもあるようです。基本的には、ご家族から再度の着替え要望がなければ、する必要はないと私は考えております。メイクについても、ご家族から「イメージと違うのでやり直してほしい」というようなご要望がない限り行いません。 詰め物については、時間経過とともに変化が起きることも多いため、「完璧な処置」というのはどの時点であっても不可能だと思っています。状況に応じてやり直しが発生します。しかし、詰め物をしていただくことで、体液漏れの予防処置になりますので決して無駄にはなりません。ご遺体・ご家族のためにも大変ありがたいです。 <Q17>小児の場合にも大人と同じような処置をしていますか? 小児の方の場合、綿花詰をしないことが多いです。小さなお鼻やお口に詰め物をすることに、大変心苦しさを感じるためです。ご両親、特にお母様のご要望に寄り添い、どうされたいのかを充分に聞き取って対応するようにしています。また、ご両親がお見送りまでの間に何度も抱っこできる状態にしておけるように気を付けております。訪問看護師の皆さんも、ぜひご両親に対して、「抱っこしてもよい」ということをお伝えいただければと思います。 * * * 後日、オンラインセミナー「【納棺師解説】死後24時間以降のご遺体変化&最新詰め物事情」の講義内容をダイジェストにしたレポート記事も公開いたします。ぜひそちらもご覧ください。 >>シリーズ一覧はこちら「死後24時間以降のご遺体変化&最新詰め物事情」セミナーレポート>>お役立ちツールはこちら「死後24時間以降のご遺体変化&最新詰め物事情」 Q&A一覧 編集: NsPace編集部

特集
2022年7月26日
2022年7月26日

[4]知っておきたい、結婚式の席に同行するときのマナーや事前準備

訪問看護師の方に知ってほしいマナーについての連載です。今回は、利用者さんが出席される結婚式に同行するときのマナーや事前準備について解説します。付き添い看護のプロにもお話を伺っていますので、参考になさってください。 大切な日だからこそ利用者さんに「恥をかかせない」看護を 訪問看護を担当する利用者さんから「結婚式に出席するため同行してほしい」と依頼された経験はあるでしょうか? このような依頼があったら、頼りにしていただけたことがうれしい反面、慣れていないために不安な気持ちになるかもしれません。 今回は、結婚式などのお祝いの日に、日頃から担当している訪問看護師として利用者さんに同行する際のマナーや事前準備のポイントを考えます。 某看護雑誌の企画で、看護部長のみなさまのインタビュー記事を連載したことがあります。そのときのある看護部長のコメントが大変印象的でした。「患者さんに恥をかかせない。それが看護よ」この言葉は、特別な行事に参加する利用者さんをサポートする訪問看護師のみなさまにとってもキーワードになるのではないでしょうか。 付き添い看護のプロ、前田和哉さんにお話を伺う オーダーメイドの付き添い看護サービス「かなえるナース」を立ち上げられた株式会社ハレ取締役代表の前田和哉さんに伺ったお話をご紹介します。同行する際のマナーから、事前に準備しておくこと、確認しておくことなど、知っておきたいポイントを教えていただきました。 ― 結婚式に出席する方に同行する場合、服装はどのようにされていますか? [前田さん]礼服にしています。ラフな平服で同行したケースで、両家対面の際に、同行した側の方たちではなく、相手方のご家族が看護師の服装について難色を示した、という話を聞きまして。依頼者のご迷惑にならないよう、そして式に礼意を表すためにも基本的に礼服を着用するようになりました。 ― 服装は、礼服か礼服に準じたものが適切と考えたほうがよいですね。必要物品を入れるバッグなどの持ち物も、その場にマッチした外見かどうか、事業所内で確認しておくとよいかもしれませんね。できるだけ物々しくならないように配慮することも必要そうです。同行する対象の方の病状によって持参する物品は違ってくると思いますが、マナーの観点から現場で「持参すればよかった」と思われた物品はありますか? [前田さん]はい。まず思い出すのは、粘着テープでできたクリーナーです。依頼者である男性が着用された礼服にフケが目立ったときがありまして。髪に寝癖がついたまま、といったこともあり、ドライシャンプーなどでさっと保清して差し上げるなどもよいと思い、準備したりもします。 それから、「替え用のマスク」。感極まって、涙を流されてマスクが濡れてしまったためです。 他は「ストロー」でしょうか。水分摂取をするためにご自宅では吸い飲みを使っているとしても、祝宴の場ですからストローのほうがよいようです。会場の方にご準備をお願いすることもよいと思います。ただ、持参していたほうがさっと使えてよいですね。 在宅療養では、自然にそろっている何気ない用品がありませんから、その点を意識して持参物品をそろえるといいでしょうね。 ― なるほど。確かに、と思うことばかりです。式次第などスケジュールへの配慮にはどのようなことがあるでしょうか。 [前田さん]何といっても記念写真の撮影への配慮は欠かせません。みなで記念写真などを撮影するタイミングに、トイレに行っていたとか、別室で何かしら処置をする必要ができたなどで、写れなかったら大変残念です。また、例え写真に入れたとしても、そのときに疲れ果てた状態で、疲れた表情のまま写ってしまわないように、と考えます。いつごろ何をどう対応するべきか、と考えながら注力します。 ― 大事な点ですね。ご本人は、写真にはよい表情で写りたいでしょうし、ご家族や縁者の方たちもそれを望んでいると思いますし。式には最初から最後まで出席する方が多いのでしょうか。 [前田さん]いえ、そんなことはないです。容態によっては、式の最初から最後まで出席することにこだわらず、乾杯とか、写真撮影とか、要所のみ出席していただくような方向も看護職としてご提案します。 ― どのくらいの時間でお疲れになるとか、望ましい姿勢やお薬を飲むタイミングなど、状況に応じて看護判断を行い、おすすめの方法をご提案できるとよいですね。依頼したご本人やご家族も安心して過ごすことができると思います。 最後に、日ごろ訪問看護をしている方から結婚式の付添いの依頼があり、慣れていない対応のため不安のある方に向けてアドバイスをお願いできますか? [前田さん]特に付き添い看護は難しいことではないです。基本的に病院受診に同行することなどと同じですよ。 ― ありがとうございました。 事前準備も十分に行うことが大切 同行当日までに、主治医とご本人やご家族と打ち合わせ、輸液ポンプや酸素ボンベ、吸引器などを持ち込む必要がある場合は、それらをどのように配置し、使用するかをしっかり検討し、結論を出します。結論は、ご本人やご家族と共有するだけでなく、会場の担当者とも必要な部分のみ共有しておくとよいでしょう。 また、会場までの交通や会場の下見も必要です。車椅子で利用できるエレベーターがあるかなどバリアフリーに関する情報も調べておきます。会場の担当者とは、容態が変化したときに使用できる別室があるかどうか、横になったほうがよいときの対応方法なども打ち合わせておきます。当日、何かあったときにすぐに連携できる体制を整えておくと安心です。 なお、当日の飲食については、こちらの役割をまっとうするために遠慮させていただくことを伝えておくとよいです。 事前準備を十分に行っておけば、当日は、普段どおり、病院受診に同行するときと同じように、観察し判断し、必要な対応をとれるのだと思います。 * 以上、計4回にわたって、マナーにまつわる記事を連載いたしました。参考になる点がありましたら幸いです。 わが国では1992年に訪問看護ステーション制度が発足し、看護職の所長が誕生して30年たちました。今後も、訪問看護時のマナーを継続的に話題にしていくことが、訪問看護領域のさらなる成熟につながるように思います。 ワンポイントメモ●同行に訪問看護指示書は必要?今回ご紹介したような結婚式への同行は保険外対応として行います。そのため訪問看護指示書は必須ではありません。ただし、利用者さんの状態によっては、出先の状況に応じて医師の指示に基づく医療行為が必要であるなど、訪問看護指示書が重要となるケースも少なくないと思います。主治医と利用者さん、ご家族と事前の打ち合わせする際に、訪問看護指示書の必要性について確認しておくとよいでしょう。 執筆 小林 光恵看護師、作家 ●プロフィール看護師、編集者を経験後、1991年より執筆業を中心に活躍。2001年に「エンゼルメイク研究会」を発足し、代表を務める。2015年より「ケアリング美容研究会(旧名・看護に美容ケアをいかす会)」代表。漫画「おたんこナース」、ドラマ「ナースマン」の原案著者。記事編集:株式会社照林社

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2022年7月19日
2022年7月19日

[3]FAXを送るときに気をつけたい! 6つのポイント

訪問看護師の方に知ってほしいマナーについての連載です。第3回は仕事でFAXを使ってやりとりする際のポイントをマナーの視点で考えます。FAXを送る際に気に留めてほしいポイントをまとめましたので、ぜひご覧ください。 FAXは、一般には利用頻度が減少傾向にありますが、訪問看護領域やその周辺ではまだまだ活用されている印象があります。私は日ごろから、FAXを使ったやりとりには、マナーに対する姿勢や考え方が反映されやすいと感じています。今回は、FAXを送るときに留意してほしいポイントを6つご紹介します。どれも普段から心がけているという方には確認としてお読みいただけましたら幸いです。 ポイント① 情報漏えいのリスクに配慮する FAXの送り先がどのような環境で受信するかは、先方の事業所の規模や業務内容などによってさまざまです。受信機が相手のデスクのすぐそばにあることもあれば、小さくない事業所でも建物内に1か所にしかなく、多くのスタッフで受信機を共有している場合もあります。受信機の場所によっては、来訪者の目に触れる可能性もあります。考えてみると、FAXは電話やメールよりも情報漏えいのリスクが高い通信手段ですね。 情報漏えいが起こってしまうことで、利用者さんや関係者にも迷惑がかかってしまいます。こうしたことが起こらないように配慮するのは、FAXのやりとりにおいて最も重要なマナーといえるでしょう。当然ながら、機密文書や親展の書類はFAXでの送信を避けるべきです。 情報漏えいを防ぐ観点から、次の点にも留意します。 FAXの送信前後に電話で連絡をする 忙しい中、相手をわずらわせるのではないかと電話連絡を控えるのは、逆にマナー違反といえるでしょう。送信相手に確実にFAXを届けるために、できるだけ送信する旨を電話で伝えてから送信するようにします。状況により事前に連絡できなかった場合は、送信後に電話をします。送信相手が不在の場合は、電話に出た人に、FAXを送信相手の机上に置いていただけるようにお願いします。 FAX番号の確認 送り先のFAX番号の押し間違いが絶対に起こらないとは言えません。あわてずにしっかりと番号を確認し、入力します。頻繁にやりとりすることが考えられる相手は、テスト送信を行った後、番号を登録しておいたほうがよいでしょう。便利なだけでなく誤送信のリスクを減らせます。 もし誤送信してしまったら、即座に誤送信先に連絡をとり謝罪します。そして、送信した書類を破棄していただくようお願いします。FAX番号しかわからなければ、誤送信のお詫びと書類破棄のお願いを記載したFAXを送信します。 ポイント② 送信する書類は黒い部分をできるだけ少なく 送信書類の文字や段落に黒やグレーでアミ掛けをし、紙面にめりはりをつけて見やすく工夫している事業所があります。その配慮はうれしい反面、受信機のインクが大量に消費されてしまうので少し迷惑でもあります。電話やメールのやりとりに比べると、インクコストがかなりかさみます。ですから、できるだけ送信先の負担が小さくなるよう配慮することも大切なマナーです。 実は以前、ある事業所から大変アミ掛けの多いFAXを頻繁に受信した時期がありました。FAX受信機には、スキャナー機能も有した複合機(複合機を使用している小規模事業所は少なくないと思います)を利用していたのですが、インクがすぐになくなり交換頻度が高くなってしまい、残念な思いをしました。 しかし、そのことを先方には告げづらく、そのうち、こちらからはその事業所に積極的に連絡をしなくなってしまいました。 このような経緯があり、黒い部分が少ないFAXを受け取ると、マナー意識が高いと感じるようになりました。FAX送信する書類では、黒やグレーのアミ掛けは控えて、罫線も必要最小限に、イラストを配するならシンプルな線画にしてみるのはいかがでしょうか。インクの消費量を抑えるだけでなく、読みやすさもアップするのではないかと思います。 ポイント③ 写真のFAX送信は慎重に 皮膚症状や創部の変化などを知らせるために、その部位を写真撮影し、プリントした画像をFAXで送信することもあるかと思います。 しかし、この方法はおすすめできません。手元のカラープリントではしっかりと認識できている写真でも、FAXで送信してしまうと、受信側ではただただ一面に黒く、何が写っているのかさえわからない画像に変わってしまう場合があります。 前出のインクコストのことも考えると、写真はデータをメールで送付する方法が一番伝わりやすい手段だと思われます。 それでもFAXで送信しなければならない場合は、送信後に相手に電話で写真の状態を確認し、補足説明をする必要があるかもしれません。 ポイント④ ファイリングしづらくないよう書類を作成する FAXで届いた書類は、ポケット式ファイルやパンチ式ファイルなどに綴じることが多いと思います。ファイルに綴じたときのことを考え、書類のレイアウトにも配慮するとよいでしょう。 文書の左側や上側は、ファイリングするときにパンチで穴を空ける可能性があるため十分にスペースを空けます。紙面いっぱいに文字があると、文字の位置とパンチの穴が重なってしまい、報告書の項目が見えなくなってしまったという話を何件か聞きました。 また、パンチ式もポケット式も書類の数が多くなると、ファイルを開いた際に開ききらず綴じ側が見えづらくなることがあります。その点も配慮してスペースをつくる必要があります。 加えて、各書類の書式やデザインは、頻繁に変更しないことをおすすめします。ファイリングすると、落ち着きがなくうるさい印象をもたらし、安定感のない事業所であるようなイメージにつながってしまいます。 ポイント⑤ 書類に使う文字サイズや書体選びにも配慮を 最近は文字書体のバリエーションが豊富になり、手軽に自由にさまざまな書体を選んで使えるようになりました。 しかし、ビジネスシーンでは書体選びに慎重にならなければなりません。書体は思った以上に、書類の印象を左右します。 私の出身地の茨城県行方市では数年前から株式会社モリサワの連携協力を得て、市報などにUD(ユニバーサルデザイン)フォントを使用しています。以前のものと書体の変化はあまり感じないのですが、読みやすさなど細部に多くの工夫が施されたフォントなので、市報を読んだ知り合いの多くが「どこが変わったかよくわからないが、すごく読みやすくなり、雰囲気がよくなった」と言います。このように、書体1つで紙面の印象が変わるケースはよくあります。 ちょっとした工夫のつもりで、例えばFAX送信状の一部の文字に少し変わった書体を使用すると、小細工感が漂うとでもいいましょうか、うるさく感じる人もいるようです。デザインのプロでなければ、少し変わった書体をバランスよく配置するのは難しいのです。 ですから、使用する文字の書体は、一般的な明朝体やゴシック体がマナーの観点からはおすすめです。 また、小さな文字は避けるなど、文字のサイズにも配慮が必要です。小さな文字は送信先の受信機によってはつぶれて読めなくなることもあります。 ポイント⑥ 手書きの部分はていねいに書く この記事を書くにあたり、訪問看護師のみなさまと、業務でやりとりしている方たち数名にお話を伺ったところ、FAXの宛名に関するお話がいくつか聞かれました。FAX送信状の宛名部分は手書きで記すことが多いと思います。宛名の文字が雑に書かれていると、いかにも忙しそうな雰囲気が伝わり、あまり気持ちのよいものではないそうです。 パソコンで作成した文書の中、少ない手書きの文字は目立ちます。心を込めて、ていねいに書きたいものですね、自戒の念も込めて。 ー第4回へ続く 執筆 小林 光恵看護師、作家 ●プロフィール看護師、編集者を経験後、1991年より執筆業を中心に活躍。2001年に「エンゼルメイク研究会」を発足し、代表を務める。2015年より「ケアリング美容研究会(旧名・看護に美容ケアをいかす会)」代表。漫画「おたんこナース」、ドラマ「ナースマン」の原案著者。記事編集:株式会社照林社

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2022年7月12日
2022年7月12日

[2]訪問看護師に求められるメールのマナー

訪問看護師の方に知ってほしいマナーについての連載です。今回はビジネスマナーの基本でもある、仕事上のメールのやりとりにおけるマナーのポイントをご紹介します。 「会ってやりとりするような気持ち」が、その場の判断を助ける 訪問看護師のAさんは、早急に謝罪メールを送信する必要が生じました。メールを急いで書かなければならないのに、どのような文面にしたらよいのか、特に出だしの挨拶に非常に悩み、切羽詰ってしまいました。 とにかく、いち早く謝罪をしなければと思い、まずは電話で謝罪したそうです。その相手は、メールでのやりとりを希望している方でしたが、電話に出られない状況ならば出ないだろう、出られないようならメールを書こう、と考えて。 果たして、電話で謝罪すると相手から「わかりました」という返答がありました。まずは急いで電話してよかった、と考えたAさんでしたが、その後、相手からAさんの上司に抗議のメールがあったそうです。メールではなく電話で謝罪したことについて。 Aさんは、上司から、相手がメールを希望しているうえに、メールのほうが記録としても残るためメールを送るべきだった、電話をする前に上司に相談するべきだった、と注意を受けました。 Aさんのように、メールの出だしの挨拶などで悩んでしまったり、メールを書くのが毎回非常に面倒だと思う方などにお伝えしたいコツは、「会ってやりとりするような気持ちでメールを書く」ということです。 ここで、対面の場合にはどのようにするか考えてみましょう。流れは次のとおりになると思います。①会ったらまず挨拶する②用件を伝える(または、何かを話し合う)③挨拶をして辞する この流れは基本の流れと言えます。つまり、「直接会う」、「メール」、「FAX」、「電話」のいずれの方法においても、この①~③の流れは相手と仕事上のやりとりをする際の鉄板ともいえる流れですね。 Aさんのような急ぎの事態になった場合、もし直接会ったなら、時候の挨拶や日頃お世話なっている感謝の言葉などは省略し、ごく手短に挨拶を済ませるはずです。そして、用件(謝罪の内容)を伝え、また改めて説明と謝罪に伺うことを伝えて、辞する挨拶をするのだと思います。 メール文もそれと同じで、「お世話になっております」で①を済ませ、「さっそくですが、」などの前置きをして②を書き、「取り急ぎ、ご報告にて。失礼いたします」といった文言を③とします。 会っていれば、帰りの挨拶をせずに帰ることはないでしょう。ですから、会っている気持ちでいれば、うっかり挨拶が抜けてしまうといったことは回避できます。つまり、「会ってやりとりするような気持ち」は、マナー不足を避けてくれるのです。 メールの件名を必ず書く ここからは、メール文の構成に沿って、メール作成のポイントを解説していきます(図1)。 私の場合、件名がないと迷惑メールの可能性もあるため基本的にはメールを開きません。しかし、メールアドレスから想像して、仕事関係のメールかもしれない、と考えて開くと、本文を書きあげて、件名を書くのを忘れて送信してしまったのかな、と思われるメールが届くことがあります。 いろいろな方からメールが届く中、件名がないとメールを整理しづらく、やりとりもしづらいため、マナー不足です。件名は、メールの内容にタイトルをつける感覚で短めに書きます。 前述のAさんの謝罪メールであれば、「お詫び 〇〇訪問看護ステーション A」(※「A」は名前)といった件名がいいでしょう。 図1 メール文の構成 宛名(受信者の名前)の記入 メールを受け取った相手に、自分宛のメールであることを認識してもらうため非常に大事です。電話では間違い電話だとすぐにわかりますが、メールでは宛名がないと誤送信の疑いが出てきます。 「事業所名+部署名+氏名」、あるいは「事業所名+氏名」でもよいので明記します。氏名は苗字だけでなく、名前も書くのが基本マナーです。苗字と名前の間は半角1文字分空けることを推奨します。 また、相手からメールを受け取っていれば、そこに記された相手の苗字と名前の空き具合と同じにします。例えば、「森林太郎」という名前の場合、「森林太郎」、「森 林太郎」(全角1文字分の空き)、「森 林太郎」(半角1文字分の空き)など、ご本人の記載方法はいろいろですので。 挨拶の一行目に神経を使う 宛先を記入したら改行し挨拶文を書きますね。 考え方次第ではありますが、仕事上のメールのやりとりでは時候の挨拶を入れることを基本としなくてもよいと考えます。それよりも、挨拶の一行目に神経を使うことがおすすめです。その一行が現実に即していないと、通り一遍のうわべだけの挨拶である印象をもたらします。 ここでもまた「会ってやりとりするような気持ち」が大事になります。初めて会った方に「お世話になっております」と言うのは少しずれていますね。<まだ、お世話していませんけど>と相手は内心思うかもしれません。もちろん、「いつも」をつけるのもおかしいです。しかし、メールだと「お世話になっております」がパターンになってしまい、初めての方からのメールの出だしに書いてあることもあります。 これからお世話になることがわかっている相手であれば「お世話になっております」ではなく、「これから」という前置きを省略した形として「お世話になります」であれば状況にあった挨拶になるでしょう。 たとえ相手の顔はわからなくても、想像で顔をイメージして挨拶文を書きます。それが血の通った一行になります。以下にいろいろなシチュエーションに応じた挨拶文の例をご紹介します。 【初めてメールを送信する場合】「突然のご連絡失礼いたします」「はじめまして」「はじめてご連絡を差し上げます」 【初めてメールを受け取った相手に返信メールを送信する場合】「はじめまして。ご連絡いただきありがとうございます」「お世話になります」 【すでにやりとりをしている相手とメールを送受信する場合】「お世話になっております」「いつもお世話になっております」「平素より大変お世話になっております」「お世話になっております。いつもありがとうございます」 【上司や同僚とのメールを送受信する場合】「お忙しいところ、失礼いたします」「お疲れ様です」 ※「ご苦労様」は目上の人に対しては使用しない「おはようございます」 【久しぶりにメールを送信する場合】「ご無沙汰しております」※「お久しぶりです」は、ややくだけた印象を与えるので、使用する場合は関係性を配慮します。「長らくご無沙汰してしまい申し訳ございません」 【続けてメールを送信する場合】「度々失礼いたします」「前送メールに追加でご連絡です」 あるいは、件名に「追伸」と追加します。 【電話で話した後にメール送信する場合】「さきほどはお電話をありがとうございました。追加でお伝えしたいことがあります」「さきほどお電話させていただきました件に、追加でご連絡です」 名乗りのタイミング 挨拶文の後、名乗ります。「事業所名+氏名」、「部署+氏名」、「氏名のみ」、など適宜判断します。苗字のみならず名前も必ず記入します。看護師であることを示したほうがよい場合は、氏名の前に「看護師」と入れます。 件名に名前を記入している場合や、1つの用件で何度もメールのやりとりをしている場合などは、挨拶の後に何度も名乗るのは相手にわずらわしい思いをさせるため、省略してもよいでしょう。 用件を伝えるときは「箇条書き」を活用しよう 挨拶文の後、「以下についてご検討のほど、何とぞよろしくお願いします。」といった文を記入し、用件を箇条書きにすると、書きやすく、相手にも伝わりやすいです。「以下について」を「下記について」に変えて、「記」と題をつけて箇条書きにするのもよいでしょう。 返信などの対応についての希望も忘れずに 用件の前に、「以下、ご報告です。」と入れるか、用件の末尾に「以上、〇〇日ごろまでにご検討をお願いします。」など、いつまでにどのようなアクションを求めているのかについても必ず記入します。 同じテーマのやりとりは、返信を繰り返して過去分をすぐ確認できるように やりとりの経緯がすぐにそのメールで確認できるように、やりとりの途中でメールを新規作成して送信しないことがおすすめです。その際、こちらの住所や電話番号、URLなどの情報は、1回目のやりとりのときだけ文末に記入し、それ以降は名前のみにします。 入力ミス、変換ミスにご注意! この記事を作成するために、訪問看護師の方や日頃仕事でメールをやりとりする方たち数名にお話をうかがったところ、この点を指摘する方が予想以上に多数でした。 送信前に必ずメールを読み返し、誤入力や誤変換がないかチェックします。相手の名前や会社名に誤りがないかは重要なポイントです。送信前の再チェックを習慣づけるとよいでしょう。入力ミスや変換ミスは誰にでもあることですが、私も含め、注意しなければなりませんね。 ー第3回へ続く 執筆 小林 光恵看護師、作家 ●プロフィール看護師、編集者を経験後、1991年より執筆業を中心に活躍。2001年に「エンゼルメイク研究会」を発足し、代表を務める。2015年より「ケアリング美容研究会(旧名・看護に美容ケアをいかす会)」代表。漫画「おたんこナース」、ドラマ「ナースマン」の原案著者。記事編集:株式会社照林社

特集
2022年7月5日
2022年7月5日

[1]相手を思う気持ちを伝える、それがマナーの基本姿勢

訪問看護師の方に知ってほしいマナーについての新連載です。第1回は筆者が経験したさまざまなエピソードをもとに「マナーとは何か」を考えてみます。利用者さんのお宅でどうすればよいか迷ったときにも参考にしていただけるお話です。 訪問看護師に必要なマナーとは 訪問看護師は、訪問する個々のご家庭の価値観に基づいたマナーに加えて、連携する医療・介護従事者や自治体の方たち、福祉用具業者の方など、まさに多職種とやりとりする際のマナーが必要となります。 また、事業所の規模にもよりますが、病院であれば事務部、総務部などが担当する業務を看護師が担うケースも少なくありません。ビジネスの基本に関するマナーも知っておく必要があります。 ゆえに、さまざまな局面において柔軟にマナーを発揮できる「マナー力」を備えることが望ましいでしょう。 そのためには、事業所としてのマナーのスタンスを具体的に検討・整理し、職員全員で共有するのが基本策といえます。NsPaceサイト内の「お役立ちツール」では「接遇マナーマニュアル」が用意されています。このマニュアルをベースに、事業所オリジナルの申し合わせ書の作成をおすすめします。 私は看護師として病院2年・血液センター2年・フリーナース1年、編集者として約5年、その後フリーライターとなり30年余り。数年間、小さな会社の代表も務めました。 また、インターネットが普及する前からナースが横につながるためのネットワーク活動にも取り組みました。2001年にはエンゼルメイク研究会を発足して、例えば、大手化粧品会社を訪ねて「エンゼルメイク専用の化粧品セット開発の必要性」などについてプレゼンテーションを行ったこともあります。仕事ではなく活動としてグリーフワークにまつわる取材をさせていただいたりもしました。 社会人となってからの39年間、このようにさまざまな立場となり、いろいろな方との仕事上のやりとりを経験しました。 連載第1回目の今回は、そんな私が「マナーとは何か」を考えるうえで非常に勉強になったエピソードをご紹介します。みなさまが、申し合わせ書を作成される際の参考になりましたら幸いです。 マナーとは……、相手の価値観を優先し、相手に余計な心の負担をかけないように配慮すること 編集者時代、俳句集の編集を数年間担当しました。 その時代のある冬の日のこと、高齢の女性俳人Aさんのお宅を訪れました。原稿を受け取り、出版スケジュールなどを打ち合わせるためです。都会のど真ん中にある一軒家で、庭木がきちんと手入れされているお宅でした。 Aさんは茶道を教えもする礼儀作法に厳しい方で、その日も失礼のないように気をつけなければと緊張しながらインターフォンを押したのでした。 応接室で、Aさんに促されてソファに座りました。もちろん、下座にあたる出入口にいちばん近い位置の席にです。そして、Aさんのご機嫌を損ねることなく打ち合わせが進み、そろそろ失礼するという段になると、Aさんはぴりっとした表情になり、言いました。 「残念だわ。今日のあなた、ひとつだけ、マナーが足りない点があったわ。脱いだコートを中表にして丸めなかったこと」 やはりそこか、と思いました。 この日は、強めの埃っぽい風が吹いており、道中わずかに霧雨も降りました。ウールコートの表面が少し湿り、埃を含んでしまったので、寒いけれど、脱いで小さく丸めてから玄関に入ったのです。それだけでも相当、相手に負担をかけないように気を遣っているじゃないか、という不満をもちながら、私は「失礼しました」と返しました。 すると、Aさんは私の顔を覗き込みながら続けたのです。 「あなた、27歳だったわよね。これからのあなたのために言いますが、中表にしなかったのは、たぶん、あなたの価値観や都合を優先したからですよね。今どき、コートを中表にしたりするマナーなんて必要ないでしょ、よほど汚れているなら別だけど、って思ったかもね。でも、相手の価値観を優先して、相手に余計な心の負担をかけないように配慮する。それがマナーですからね」 「はい。実はコートがとてもくたびれており、中表にするのが恥ずかしかったもので。でも、私の都合でそうしたわけですから、恐縮です」 「そうね」と言い、Aさんは私を睨みました。(このエピソードは、以下に続きます) 全体の態度でマナー不足はカバーされる ソファから立ち上がり、ていねいにお辞儀をして顔を上げると、何と意外にもAさんは笑顔になっていました。 「でもね、誰でも相手の価値観にぴたりと合わせるのは難しいわけだし、全体の態度がマナー不足を補完できるのよ。あなたの全体の態度は悪くない印象だから、大丈夫。萎縮しないで、これからもよろしくね。相手を大切に思い、自身の言動を考える。それがマナーの基本姿勢です。それと、形だけのマナーの実行だと、ケースに応じた対応ができないことがあることも覚えておいてね」 そう言ってAさんは、私の背中をぽんと叩きました。 それから30年経った、ある暑い夏の日のことです。フリーライターの女性Bさんが、私の仕事場兼自宅にインタビューに来てくれました。 玄関で出迎えると、Bさんは挨拶を済ませた後、「ごめんなさい、失礼します」と言って、フットカバータイプの靴下をバッグから取り出し、それを素早く履いてから、こちらが出したスリッパに足を入れたのでした。 こちらとしては、素足でスリッパを履いていただいてもまったく問題ないのですが、Bさんの気遣いに感動しました。そして、Aさんの言葉「ケースに応じた対応」を思い出しました。 ここでご紹介したエピソードは、いずれも仕事の目的や相手との関係性が訪問看護の場面とは異なりますが、病院など施設で働くときとは違う、訪問仕事をする際のマナーの方向性として共通しているように思います。 マナーの形は一定ではない マナーについてのAさんの金言を、肝に銘じたはずの私でしたが……。 今から数年前の冬、編集者の女性Cさんと私は、ある医師の訪問診療に同行し見学させていただきました。 その際に私とCさんは、それぞれのお宅の訪問時にコートを脱がなかったのです。それは私の判断でした。訪問先の患者さんやご家族、そして訪問する医師、それぞれに微塵も迷惑をかけたくない、いるのを忘れるくらいお邪魔にならないようにしたい、と頭の中でぐるぐる考えた結果、黒子のような存在になろうとしたのです。 移動用の車にコートを脱いだままにしておけば、脱ぎ着に手間取ることもなく、わずらわせたりしなくてよいのではとも思いました。しかし、それではCさんに寒い思いをさせてしまいそうでやめたのでした。 こんなマナー違反をしてしまったのは私の中の感覚も関係しています。私はかつて出身地で、誰かがどちらかの家を訪ねた際、家の人にお茶の準備などの負担をかけないよう、「すぐに帰るのだからおかまいなく」という気持ちの表明として、コートも上着も脱がず、すすめられた座布団も使わないようにするのを幾度となく見てきたのです。 以上は、私ならではの間抜けなエピソードですが、みなさまも、マナーの形の地域差、年代差などを感じたことがあるのではないでしょうか。 迷うときは率直に相談 あるベテランの訪問看護師さんに訪問時のマナーのポイントを問うてみたら、「ひととおりのマナーの基本知識を得ておき、訪問先の相手のマナーの感覚に触れて、自身のマナーの形を調整し、その訪問先でのマナーのルールをつくっていく(例えば、荷物の置き場など)。どうしても判断に迷うことがあるなら、そのときは率直に相手(利用者さんやそのご家族)に相談してみるのが一番」とのことでした。 そう。私も同行させてくれた医師に、コートのことを率直に相談すればよかったのです。 ー第2回へ続く 執筆 小林 光恵看護師、作家 ●プロフィール看護師、編集者を経験後、1991年より執筆業を中心に活躍。2001年に「エンゼルメイク研究会」を発足し、代表を務める。2015年より「ケアリング美容研究会(旧名・看護に美容ケアをいかす会)」代表。漫画「おたんこナース」、ドラマ「ナースマン」の原案著者。記事編集:株式会社照林社

特集 会員限定
2022年6月28日
2022年6月28日

【セミナーレポート】エンゼルメイクの正しいやり方とコツ -QAセッション編-

2022年3月17日(木)に、「エンゼルメイク研究会」代表の小林光恵さんを講師にお迎えして開催したNsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナーの様子をお届けします。『訪問看護のエンゼルケア』全3回のセミナーレポートのうち最終回となる今回は、Q&Aセッションの様子を抜粋してご紹介します。 【講師】小林 光恵さん看護師、作家。編集者を経験後、1991年からは執筆業を中心に活躍しており、漫画「おたんこナース」、ドラマ「ナースマン」の原案者としても知られる。2001年には、看護師としての経験を活かして「エンゼルメイク研究会」を発足し、代表に就任。2015年より「ケアリング美容研究会(旧名・看護に美容ケアをいかす会)」代表も務める。 目次Q1 湯灌前のエンゼルケアはどこまで行うべき?Q2 まぶたが閉じられないときはどうすればいい?Q3 口の閉じ方で有効な方法は?Q4 詰め物は入れたほうがいい?Q5 皮膚からところどころ滲出液が出てくる場合の対処法は?Q6 体を拭くとき、腐敗対策として冷たいタオルを使うべき?Q7 ご家族に用意していただく衣服についての声がけは?Q8 貼ってあるテープを剥がすときに利用できるものはある? --> Q1 湯灌前のエンゼルケアはどこまで行うべき? 【質問】湯灌前のエンゼルケアをどこまで行うべきかいつも悩みます。【回答】業者によってサービス内容が異なるため難しいところではありますが、エンゼルケアの目的を「看取りの場で穏やかに過ごせるようにすること」とするなら、最低限の対応として保湿を行い、あとは時間が許す範囲でエンゼルケアを行います。多くの場合、湯灌では下地やファンデーションを使ってフルでメイクをするので、その前段と考えてもいいでしょう。ちなみに葬儀社の方は「ナースの方、唇にだけには油分をつけておいて」とおっしゃいます。乾燥が進みやすい唇は、表面の変化だけでなく放っておくと厚みがなくなってしまうこともあり、そうなってから整えるのは難しいのです。時間がなくても、せめて唇には油分をつけて乾燥対策をしてください。 Q2 まぶたが閉じられないときはどうすればいい? 【質問】眼球が乾燥して萎縮するなど、まぶたが閉じられないときはどうすればいいですか?【回答】まぶたを手で動かしても閉じられないときは、クレンジングマッサージがおすすめです。皮膚が柔らかくなって閉じられることがあります。それを行うまでは油分を塗布したり、ガーゼをかけておいたりしましょう。なお、クレンジングマッサージができないときやマッサージ後もまぶたが閉じないときは、二重まぶた用の糊を使ってみてください。糊を両まぶたのふちに塗って合わせ、しばらく押さえると、自然な様子に閉じます。二重まぶた用の糊はゴムを液状にしたもので、やり直しがききますし、死後変化が生じても引きつれることはありません。 Q3 口の閉じ方で有効な方法は? 【質問】お口を閉じる効果的な方法を教えてください。【回答】枕を高くし、顎の下に筒状に丸めた硬めのタオルを入れるといいでしょう。それから、エンゼルメイク用の『エンゼルデンチャー』を使って歯のスペースが充たされた状態にすると、閉じやすくなる場合もあります。また、顎は閉じているのに口元が開いてしまうケースもあります。その場合は、入れ歯安定剤を歯の表面や歯の表面が接している粘膜に薄く伸ばし、少し押さえておくと自然に閉じた印象になります。 Q4 詰め物は入れたほうがいい? 【質問】詰め物はどこまでするのがいいでしょうか?【回答】エンゼルメイク研究会では、詰め物は一切必要ないと考えています。含み綿は見た目が不自然になりますし、漏液を防ぐ栓としても役割を果たさないからです。鼻や口からの漏液の原因は、おおむね体内で腐敗が進んで内圧が高まることにあるので、対策としては冷却が有効です。それでも漏液が生じた場合は都度ぬぐい、ご家族にそのやり方を説明します。なお、これは肛門や膣も同じで、内圧が高まれば詰め物をしても液や便は漏れてきます。その場合は紙オムツや吸水パッドをつけておけば交換ができます。綿を詰めると交換できず、臭気の原因にもなるおそれもあるのでおすすめしません。 Q5 皮膚からところどころ滲出液が出てくる場合の対処法は? 【質問】全身浮腫が強く、皮膚から滲出液が出てくる場合、エンゼルケアでしてあげられることはありますか?【回答】残念ながらいい方法はありません。滲出液は一定の間出続けるようです。死後も療養中と同様に布で吸収するなどの対応を続けることになりますから、ご家族にもその旨を説明するのがいいでしょう。 Q6 体を拭くとき、腐敗対策として冷たいタオルを使うべき? 【質問】エンゼルケアで体を拭く際、腐敗しないように冷たいタオルを使うべきでしょうか?【回答】温かいタオルで大丈夫です。死後、体表面や末端部分は早く体温が下がり、かつ体内での循環は止まっているため、温かいタオルで拭いても体幹内部に熱が伝わりにくく腐敗を助長することはありません。温かいタオルを使ったほうがご家族も喜ぶので、ぜひそうしてあげてください。なお、お風呂に入る場合も、ぬるま湯のシャワー浴なら問題ありません。 Q7 ご家族に用意していただく衣服についての声がけは? 【質問】エンゼルケアの際、ご家族に用意していただく衣服について、いつどのようにお声がけしていますか?【回答】タイミングについては、あらかじめ看取りの準備をするケースでは、生前からしっかり伝えておくのがおすすめです。実際に経験者にご意見を伺っても、「そういうことは早めに声をかけてほしい」とおっしゃいます。ご家族の方はなかなか衣服のことまで気が回らないものですから、そのときに焦ったり、葬送後に本人が用意していた服が見つかって後悔したりということがないようにサポートしてあげましょう。主治医が病状の説明をする際に、「万が一に備えてお着替えを用意しておくといいかもしれません」「もしかしてご本人が準備しているかもしれないので、確認してみてください」などと、業務連絡の雰囲気で伝えてください。ただ、看取りを覚悟しているとしてもやはり辛いもの。必ず「万が一のときのために」と前置きするといいと思います。 Q8 貼ってあるテープを剥がすときに利用できるものはある? 【質問】肌にテープ類が貼られているときは、剥がすときに何を利用するといいでしょうか?また、褥瘡や創部などがある部位にテープが貼ってある際の対処法を教えてください。【回答】粘着力が強いテープなどで剥がしにくい場合は「剥離剤」を使うのがおすすめですが、ない場合はオイルなどで代用してみてください。また、開放創は蓋をしていないと乾燥して収縮し、色が変わってきます。いつもの褥瘡ケアと同じように、患部を泡ソープなどで洗浄し、再度保護テープを貼っておきましょう。保護テープの代わりにフィルム材やラップ(周りをテープでとめてください)を使っても構いません。特に患部が体の背面にある場合は重力の影響で早くから液が漏れやすいので、しっかりカバーし、紙オムツなどを敷くと安心です。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

特集 会員限定
2022年6月21日
2022年6月21日

【セミナーレポート】これだけは外せない! エンゼルケアの実践方法

2022年3月17日(木)に実施されたNsPace(ナースペース)のオンラインセミナー『訪問看護のエンゼルケア』。「エンゼルメイク研究会」代表の小林光恵さんを講師に招き、エンゼルケアの基本から現場で役立つノウハウまで教えていただきました。全3回のレポートのうち2回目となる今回は、とくに実践的なテクニックをご紹介します。※全90分間のセミナーのなかから一部ピックアップしてお届けします。 【講師】小林 光恵さん看護師、作家。編集者を経験後、1991年からは執筆業を中心に活躍しており、漫画「おたんこナース」、ドラマ「ナースマン」の原案者としても知られる。2001年には、看護師としての経験を活かして「エンゼルメイク研究会」を発足し、代表に就任。2015年より「ケアリング美容研究会(旧名・看護に美容ケアをいかす会)」代表も務める。 目次▶ 生体と同じ感覚で皮膚を扱ってはいけない▶ 「冷却」はマスト対応と心得て▶ エンゼルケア時に意識したいコミュニケーション▶ エンゼルメイクはご家族の大切な記憶になる▶ 「その人らしい」エンゼルメイクのポイント▶ 地域の「ならわし」についてのとらえ方 --> ▶ 生体と同じ感覚で皮膚を扱ってはいけない エンゼルメイクでまず気をつけるべきは、皮膚の扱いです。生体とご遺体とでは、肌の状態がまったく異なります。生体は常に循環しながら内側から肌表面を保湿しますが、ご遺体はそれができないため、どんどん乾燥していくのです。そのため、できるだけ速やかに肌を保湿してあげましょう。特に露出している頭部は乾きやすく、中でもまぶたが閉じていないため外気にふれている眼球の表面や唇は急激に乾燥が進むので注意が必要です。なお、体内に水分が多い子どもは、成人に比べてよりこの傾向が強くなります。 以前によく聞かれた失敗としては、「ひげ剃り」が挙げられます。死後、看護師がよかれと思ってひげを剃ったところ、その数時間後に皮膚の一部の色が変化して硬くなる、「革皮様化」という状態になってしまったというものです。これは、乾燥によって皮膚が脆弱になっており、カミソリの刺激で表面が削れることにより起こります。革皮様化を防ぐためには、シェービングクリームや低刺激性のカミソリを使うなどし、さらに剃った後にはたっぷり油分を塗布することが必要です。 ▶ 「冷却」はマスト対応と心得て ご遺体の冷却は、エンゼルケアにおいてマストの対応です。ご遺体の体内では、腹部の細菌バランスが急激に崩れ、腐敗をもたらす細菌群、中温菌が異常繁殖して腐敗が進みます。季節にもよりますが、少なくとも腹部と胸部は必ずすぐに冷却し、葬儀社の方の対応(ドライアイスや冷蔵庫での冷却)につなげるようにしてください。水分量の多い方、肥満で栄養が多い方、臨終時に熱の高かった方などは要注意。鼠蹊部や腋窩なども冷却したほうがいいでしょう。 なお、冷却には保冷剤や冷却まくら、水を入れたフリーザーバッグを平らにして凍らせたものなどがあてやすいです。製氷機にある氷を袋に詰めたものでも代用できます。これらを肌の上か下着と衣類の間に置いてください。 関連記事:[4]腐敗進行を抑えるために絶対に外せない対応、冷却について ▶ エンゼルケア時に意識したいコミュニケーション エンゼルケアを実践するにあたっては、ご家族とのコミュニケーションが大切になります。私たちの予想以上に、ご家族の希望は多岐にわたるもの。意に添わない場面とならないように「ご希望があればおっしゃってください」と声をかけながら進めることがおすすめです。 なお、ご家族との十分なコミュニケーションには、看護師側を守る意味合いもあります。コミュニケーション不足により「望んでいないことを勝手にされた」と考え、近年では訴訟という言葉が発せられたケースもあります。基本的には一つひとつの行動にご家族の承諾が不可欠と考え、こちらが「絶対にしたほうがいい」と判断したことでも、ご家族が了承しない限りは控えたほうがいいでしょう。大事な家族を亡くしたご家族は平静の心理状態ではない場合が多く、十分な配慮が求められます。 関連記事:[2]一方的に進めない! エンゼルケアでもコミュニケーションが重要 ▶ エンゼルメイクはご家族の大切な記憶になる エンゼルメイクは、ご家族にとって貴重な看取りの記憶をつくる機会でもあります。ご遺体に直接触れ、何かをしてあげる……そんな体験は心に残るものです。具体的にできることとしては、例えば手浴・足浴が挙げられるでしょう。温かいお湯を準備し、「ぜひ、ご一緒にお願いします」と声をかけてみてください。可能であればお湯に入浴剤やエッセンシャルオイルを入れるのもおすすめです。そのほかには、靴下や足袋を履かせたり、爪切りをしたりするのもいいですね。様子を見ながら、「これは息子さんにやっていただけますか?」「これなら小さなお孫さんもできるでしょうか」などと気を配ってあげると喜ばれると思います。 ▶ 「その人らしい」エンゼルメイクのポイント エンゼルメイクでその人らしさを表す方法はいくつかありますが、中でもポイントになるのは、やはりその人らしさが凝縮された顔の整えでしょう。顔の対応時には、ぜひご家族と「元気だったころはこんな眉の形でしたか?」などと話しながら進めてください。ご家族にとっての「その人らしさ」とは「元気だったときの様子」であることが多いので、看護師は知らない場合もあるからです。 顔のエンゼルメイクの方法の一部を、以下に挙げます。 乾燥防止策 先述のとおり、ご遺体の肌は強い乾燥傾向にあるため、乾燥防止策は必ず行いましょう。唇を含めた顔全体に、乳液やクリーム、ワセリンなどの油分をたっぷりと塗布してください。時間がとれる場合は、油分を塗布する前にクレンジングマッサージを行うのがおすすめです。クレンジング・マッサージクリームをたっぷり塗って優しくマッサージし、汚れと油分をティッシュでおさえ、次に蒸しタオルをあて、そのタオルを外して残りの油分をしずかに拭います。ご家族からも「気持ちがよさそう」「顔が穏やかになった」と喜ばれますよ。 血色を入れる 死後の体内では、重力の影響で赤血球が下方に移動し、体の上面が白くなります。特に顔は白さが目立つため、失われた血色を補ってあげてください。このとき、メイクアップにおけるチークの感覚で頬にだけ入れるのではなく、額やまぶた、顎先、耳などにも赤みを足します。そうすると一気に穏やかな印象になります。なお、可能であればクリームファンデーションとパウダーで肌を整えたうえで行うと、さらに血色が十分になります。ファンデーションはピンク系のものを選ぶといいでしょう。 眉を整える 眉はその人らしさが表れやすい重要な部分。ブラシで眉をとかして整え、毛が足りない部分はペンシルやパウダーで描き足していきます。ご家族に確認しながら眉の印象を調整してください。 ▶ 地域の「ならわし」についてのとらえ方 ご遺体の手を組ませる、顔に四角い白い布をかける、和服を逆さ合わせにするなどの「ならわし」については、エンゼルメイク研究会は行わなくていいという立場をとっています。そもそもこれらの慣習は、死やご遺体への恐れの感覚に由来している面があり、医療の段階では必要がないという判断です。また、後から対応することも可能なので、儀式の際に必要に応じて行ってもらうといいでしょう。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

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