高齢者の栄養ケアマネジメント~窒息・認知症対応~【セミナーレポート後編】
2023年8月25日、9月8日に開催したNsPace(ナースペース)オンラインセミナー「超高齢社会における栄養ケアマネジメント~通所施設や在宅における低栄養への挑戦~」。ネスレ日本株式会社 ネスレ ヘルスサイエンス カンパニーとの共催でお届けしました。ご登壇いただいたのは、高齢者の栄養管理を専門とする医師の吉田 貞夫先生。利用者さんの食事、栄養摂取に関して、訪問看護師が知っておきたい知識を紹介くださいました。 今回はそのセミナーの内容を、前後編に分けて記事化。後編では、利用者さんの食事支援のポイントや、トラブルが起きた際の対処方法をまとめます。 ※約45分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 >>前編はこちら高齢者の栄養ケアマネジメント~食支援・栄養指導~【セミナーレポート前編】 【講師】吉田 貞夫先生ちゅうざん病院 副院長/沖縄大学 客員教授、金城大学 客員教授高齢者医療、高齢者の栄養管理、認知症ケアなどを専門とする医師・医学博士。日本静脈経腸栄養学会 認定医、日本病態栄養学会 専門医、日本臨床栄養学会 指導医をはじめ、数多くの資格を取得。栄養経営実践協会の理事も務める。医師として患者の診療にあたるかたわら、全国で年間80件以上の講演も行っている。 在宅における嚥下機能確認のポイント 在宅における利用者さんの食事支援では、最初に嚥下機能をきちんと評価することを心がけてください。 評価の方法としては、すでに実践している方も多いと思いますが、「反復唾液嚥下テスト(RSST)」や「水飲みテスト」が挙げられます。ゼリーをはじめとした嚥下しやすい食品をどれくらい食べられるかをチェックしている方もいらっしゃいますね。また最近は、在宅であっても、耳鼻科医や歯科医と連携して嚥下機能を確認しているケースもあるようです。 ただ、嚥下機能を評価する際は、「飲み込みの機能」だけに注目すればよいわけではありません。口腔が清潔に保たれているか、噛み合わせが悪くなっていないか、噛む力が十分にあるかといった「口腔の機能」も確認する必要があります。ぜひ視野を広げて評価してください。また、血管障害の後遺症で嚥下障害がある利用者さんや、認知症と嚥下障害を併発している利用者さんの場合は、誤嚥しやすいためとくに注意深く確認しましょう。 嚥下機能に問題があると判断した場合には、「嚥下調整食」を活用してみてください。 窒息への対策と対処方法 高齢者の食事に潜むリスクとしては、やはり窒息があります。窒息というと「餅を食べると起こりやすい」とイメージされる方が多いと思いますが、実はお米やパン、肉、魚で窒息してしまう方も多くいます。それから、ぶどうやプチトマト、飴など、小さくて丸い形状のものは気管にすっぽり入ってしまうので要注意です。窒息の危険度が高いものは利用者さんの手に届かないようにする、飴は棒つきのものを選ぶなど、十分に配慮してください。 窒息が起きてしまった際の対処法 利用者さんが窒息してしまった際は、後ろから利用者さんを抱え込むようにして腹部を圧迫する「腹部突き上げ法(ハイムリック法)」や、背中を何度も叩く「背部叩打法」を試してみてください。詳しいやり方は、日本医師会の救急蘇生法のサイトに掲載されています。 >>日本医師会サイト「救急蘇生法」気道異物除去の手順 また、窒息への対処法として「吸引」を選択する方はよく見られますが、このやり方にはリスクもあります。痰の吸引に使うような細いチューブでは、詰まっている異物を吸えないどころか、さらに奥へ押し込んでしまうことも。なお、掃除機の利用は、圧が強すぎて臓器を損傷する可能性があるので推奨されていません。 ご紹介した方法を実践しても異物を取り除けず、利用者さんのバイタルサインが悪化してきたときは、迷わず救急車を呼んでください。必要に応じてAEDの準備も検討しましょう。 認知症の方への食事支援 認知症の方に対しては具体的にどのような支援をすればよいのかについてもお伝えします。ぜひ以下の4つのポイントを念頭においてサポートしてください。 ご家族に適切な食事介助の方法を伝える食事を配膳しても反応がない、食べ物で遊んでしまう、食器の使い方がわからない。こういった様子が見られる方は、認知機能がかなり低下しており、目の前に食事を出すだけでは食べてくれません。ご家族をはじめとした介助者の方に、食べ物を口元まで運ぶ必要があることを伝えてください。嚥下機能に問題があれば食事を見直す 食べ物を口の中に溜め込んでいる、飲み込んでも喉に残っている、むせている、痰が多い。これらは嚥下機能に問題があるサインです。食事内容の調整を検討しましょう。 食事を嫌がる場合は味つけや見た目を変える 認知症を発症すると、味覚障害になる方が多くいます。そのため、食事を嫌がる場合は味つけが原因であることも。濃い味つけにすると食べてくれるケースもありますよ。また、認知症独特の摂食障害で食が進まない可能性もあります。例えば、ふりかけが虫に見えてしまったり、粒状の食品が小石に見えたりするのです。食事の見た目にも着目してみてください。 食事の時間や形状を合わせる 認知症になると「1日=24時間」ではなくなってしまうことがあります。そのため、食事の時間にこだわりすぎず、起きている時間に食べられるようにするのもポイントです。ゼリーをはじめ、すぐに食べられるものを用意しておくとよいでしょう。また、じっとしていられない利用者さんも、手に持って食べられるスナックタイプの食品なら食べられることも。その方の状態に合わせた食事のあり方を模索してみてください。 認知症の予防につながる食事 認知症の「予防」についても確認しておきましょう。認知症は介護依存度が高い病気で、転倒による骨折リスクが高かったり、問題行動を起こしやすかったりといった特徴があります。また、発症するとずっと治療を続けていかなければならず、予防が大切です。 認知症を予防するには、多様性のある食事をとるとよいといわれています。具体的には、さまざまな種類のメニューを食べる、毎日違うものを食べるといったことですね。そして最大のポイントは、自分自身で食事を用意することです。 食事の用意と一口にいっても、メニューを考え、買い物に行き、料理し、後片づけをするといった数多くのステップがあります。その上で多様性のある食事を目指せば、考えるべきことの幅はさらに広がるでしょう。これが認知症予防につながると考えられます。利用者さんの食事のサポート、アドバイスを行うにあたり、ぜひ知っておいてもらえたらと思います。 * * * 毎日の食事は、生命維持に欠かせない行為であると同時に、多くの利用者さんにとって「楽しみな時間」でもあるでしょう。ぜひ今回ご紹介した知識を食事支援や栄養管理に活かして、利用者さんの体づくり、そして豊かな生活づくりをサポートしてください。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア