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安心感をどう作るか⑥ 感染予防対策とコストのバランスをどう考えるか

感染予防対策とコストのバランスをどう考えるか

最初の発生から2年が過ぎても、いまだ終息の見えない新型コロナ。感染防止対策だけではなく、目には見えないスタッフの不安やメンタルヘルスへの対応もステーションの管理者には要求されます。ベテラン管理者のみなさんに、今必要とされるスタッフマネジメントについて語っていただきます。今回は、岐阜県看護協会立訪問看護ステーション高山の野崎加世子さんによるお話の最終回です。

お話
野崎加世子
岐阜県看護協会立訪問看護ステーション高山 管理者

「事業継続」という責任

コストを考えるときに、いつも頭に浮かぶのは、一人の利用者さんの言葉です。

その方は、ある訪問看護ステーションを利用していたのですが、そこが閉鎖されてしまい、私たちが引き継ぎました。利用者さんは「昨日まで来ていた看護師さんは、どうして来られなくなったの?」と嘆き、「自分が死ぬまで、あの看護師さんに来てもらおうと思っていたのに……」と暗い表情で続けます。

そんな利用者さんの嘆きを聞くにつれ、閉鎖の理由がなんであれ、事業の継続は私たちの重い責任だと、あらためて襟を正しました。

コロナ禍は終わりがみえず、PPE(個人防護具)の購入費など、感染予防対策のコストがかさんでいます。加えて、ロシアのウクライナ侵攻の影響や円安の進行により、燃料費、光熱費、衛生資材、事務機器・用品などの相次ぐ値上げにより、確実にコスト負担が増えています。

削れるもの、削れないもの

支出抑制を考えるとき、「何もかもコスト削減」では、現場の士気は低下してしまいます。管理サイドの意思決定に不満を抱くスタッフも増えるでしょう。

訪問看護ステーションの「ハート」を示す意味でも、コストを削れるものと削れないものとに分けることが重要です。

削れないものは、コロナ禍においては、感染予防対策が該当します。私たちのステーションでは、基本的にN95マスクをつけて訪問します。使い捨てエプロンを使用することも多く、それらの費用負担はとても大きいのが現状です。しかし、利用者さんとスタッフの安全・安心のためには出費を惜しみません。「何としても、利用者さんもスタッフも守る」。それが、ステーションのハートです。

コスト削減のプロが示す「見えるデータ」

一方、削れるものについては、コスト削減のプロフェッショナルである事務スタッフが大きな力を発揮してくれます。

私たち看護師は、「だって利用者さんのために必要だから、しかたがない」と考えがちです。そんな私たちに向けて、事務スタッフは冷静に、データを提示してくれます。

たとえば、「2年前に比べてガソリン代が○%増えていますよ」とデータを「見える化」してくれるのです。そんな形で示されたら、対策をとらないわけにはいきません。

たとえば、ガソリン代

私たちの訪問エリアは広大で、山間僻地もあります。片道50km(往復100km)の利用者さん宅にも訪問します。ガソリン代が1割増えただけでも、出費はばかになりません。私たちのステーションは規模が大きく、ガソリン代の増加分は、パート社員1人分の人件費に匹敵しました。

そこで、訪問の順序を見直すなど、移動距離が短くなるように知恵を出し合いました。並行して、市にもガソリン代の補助を根気強く要請しました。その際には事務スタッフが作ってくれたデータが抜群の説得力をもちました。結果として、片道20km以上の訪問には、補助金が出るようになりました。

ケチケチ作戦とスケールメリットの創出

ガソリン代だけではありません。小まめな消灯、裏紙使用、洗濯物を一定量ためてから洗濯機を回すなど、あらゆる場面でケチケチ作戦を行いました。

仕入れコストにも着目しました。サテライトを含めて、事業所単位で行っていた仕入れを一本化し、スケールメリットを狙いました。私たちのステーションが比較的大規模といっても、病院のスケールにはかないません。そこで、事業所をまとめることで、仕入れの単位を大きくしました。その結果、自動車保険や火災保険にも、このスケールメリットを生かすことができました。

経営規模の小さい訪問看護ステーションならば、地域でまとまって共同仕入れを行う方法も十分に検討に値すると思います。

「その気」になってもらうための、あの手この手

コスト削減で重要なのは、スタッフに「その気」になってもらうことでしょう。そのためには、事務スタッフを含めて、それぞれの専門性に最大限の敬意を払うことです。それに加えて、管理職が上から目線をやめることではないでしょうか。

「いろんな物が値上がりして大変だよね」と家計の話題からもっていったり、職員が相談に来たときは、仕事の手をとめて、しっかり向かい合って聴いたりするなど、スタッフと同じ目線に立つことが大切だと考えています。特に年に2回行う個人面談では、スタッフの話を聴くことに全力を傾けます。

コスト削減よりもケアの質に目が向くのは、看護師として素晴らしいことだと思います。だからこそ、何としても事業が継続できるように、あの手この手でコスト削減を行っています。

次回は、医療法人ハートフリーやすらぎの常任理事・統括管理責任者(訪問看護認定看護師)、大橋奈美さんにお話しいただきます。

記事編集:株式会社メディカ出版

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