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認知症と義歯の関係

この連載では、実例をとおして、口腔ケアの効果や手法を紹介します。今回は、超高齢でも、認知症があっても、義歯の調整と口腔ケアで咀嚼機能が回復した事例を紹介します。

8020運動を知っていますか

1989年、厚生労働省と日本歯科医師会は、80歳で20本の歯を維持することを目指す「8020運動」を制定しました。当時、80歳の平均残存歯はわずか5本でした。28年が経過した2016年の調査では、「80~84歳の約半数が残存歯20本以上」を達成しました。

なぜ20本必要なのか。それは、単純に「タコやイカが食べられるから」だけではありません。20本以上歯があると、医療費の削減(残存歯数が0~4本に比べ総医療費は約17万円/年少ない)、自立歩行ができる、本人の健康感が大きい、などが報告されているのです。

しかし実際には、すでに「20本もありません、入れ歯なんです」といった人も多いのが現実です。今回は、義歯でも咀嚼できれば、全身への好影響につながることを、事例をもとに紹介します。

認知症で入れ歯を入れなくなった例

Bさん、96歳女性。
要介護4、上下総義歯。難聴・認知症ほか既往あり。
「3か月前から入れ歯を入れなくなり、『新しく作ったほうがいいのでは』と家族から相談がありました」と、ケアマネジャーから紹介あり。

初回の介入

歯科医師の診断で、早速、義歯の内側を調整しました。調整では、歯科用の特殊な樹脂を義歯の内面に裏打ちし、接着します。

口の周囲の筋肉のリハビリ後、まず上の義歯だけを装着すると、Bさんはすぐに義歯を取り出してしまいました。懲りずに、私は再び上義歯を装着すると同時に、片手でBさんが外そうとする手と握手し、バナナの薄切りをBさんの奥歯へと運びました(義歯は前歯で噛むと後ろから空気が入りこみ、外れやすくなるので、基本は奥歯で咀嚼します)。

そして耳元で「お好きなバナナですよ」と声掛けしました。すると、何とか義歯を外さずに噛めるようになりました。

その後、下の義歯も装着し、唾液に溶ける赤ちゃん用せんべいを渡すと、ご自分で奥歯に持っていこうとしました。

2か月後の変化

Bさんは、それまで食事は車いす上での全介助でした。数回の訪問診療後(初診から約2か月)には、食卓のいすに座り、箸を使って、自立した食事が可能になりました。

当初、家族は新しい義歯の作製を望まれていましたが、新しい義歯は、型取りから仕上げまで4~5段階を要します。認知症のあるBさんには苦痛になると考えられました。本事例では、旧義歯の調整と、舌や口唇の力をつける機能的ケア、前歯ではなく左右の奥歯でしっかり噛む咀嚼訓練を選択し、それらが回復のスピードアップにつながりました。

さらに、姿勢が起座位であるほうが噛みやすいのですが、起座位の時間が長くなると自立歩行や転倒予防にもつながります。義足や義手がそうであるように、道具(義歯)をうまく使いこなすには、根気強い丁寧なリハビリ職の対応とチーム医療が必須です。Bさんのケースでは、サービス担当者会議にはBさんが通うデイサービスの職員も出席し、デイ利用中の口腔リハビリや食事支援をしてもらいました。それらも早期自立への一助となったと考察します。

機能的ケアで発語が増えた例

Cさん、98歳女性。要介護3、認知症ほか既往あり。上が総義歯、下が部分義歯。義歯破損で訪問歯科を希望された。

下義歯の修理・調整のための訪問のたびに、衛生面の口腔ケアも必要でしたが、機能的ケアも取り入れていきました。

開口訓練、ストロー福笑い、呼吸訓練、パタカラ体操は、認知症でもでき、義歯でうまく噛めるようになる機能的ケアです。

ストロー福笑い
パタカラ体操

介入して1年後の変化として、食事量の増加、食事時間の短縮、自分からの発語や歌が増え、しかも発語が明瞭になりました。

義歯を入れられなくなったケース

これまでに経験した、高齢者で義歯が入れられなくなるケースと、解決法を紹介します。

①認知症により義歯での噛みかたを忘れてしまう

認知症のために、義歯を異物としてとらえてしまうケースもあります。いずれも、段階的な咀嚼訓練を行うことで解決できました。

②義歯を作製したときよりやせた

やせたために義歯が合わなくなるケースはよく耳にされるかと思います。義歯が合わない、外れるなどのために、食事量が減少してやせるといった因果関係もあります。歯科医につなぎ、義歯の内面調整が必要です。

③口腔乾燥

口腔乾燥があると、粘膜に義歯が密着しにくい状態です。義歯が不安定になり口内に傷ができやすくもなります。軽度であれば、保湿剤を義歯の内面に塗布することでも効果がみられます。唾液分泌を促す機能的ケアに、棒付き飴でのストレッチがあります。

棒付き飴を使った口唇・舌・ほおのストレッチ

棒を引き抜こうとすると、唇が飴をとらえて口が閉じる。味覚による唾液分泌と、飴の棒を引っ張ることにより口唇を閉じる訓練になる。
(実施の判断時は、糖尿病のリスクがないことを確認。食前の実施がよい。)

①~③が複合的に生じることもあります。しっかり装着するためにも、市販の義歯安定剤を試していただくのもよいでしょう。

義歯のケア方法

義歯は主にプラスチックです。日ごろの洗浄や消毒を怠ると、プラスチック特有の極微細な気泡中に、口腔内細菌が繁殖します。低栄養や免疫力低下が引き金となり、カンジダ菌(日和見菌)による義歯性口内炎が発症することもあります。

義歯は、最低一日1回の手入れが必要です。歯磨剤は使用せず、流水下で義歯用ブラシ洗浄し、義歯洗浄剤に30分以上浸けます。

おわりに

認知症があっても、あきらめる必要はありません。入れ歯が合わず落ちる、すぐ外してしまうなどの場合は、ご家族にも相談の上、早期に訪問歯科へつないでもらうようケアマネジャーに伝えましょう。

次回は、2回の脳出血後に嚥下困難になった方を、介護負担の軽減へ導いた症例を紹介します。

執筆
山田あつみ
(日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士、歯科衛生士)

記事編集:株式会社メディカ出版

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