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[2]一方的に進めない! エンゼルケアでもコミュニケーションが重要

日ごろより、コミュニケーションに留意していることと思いますが、エンゼルケアでもご家族とのコミュニケーションがとても大切です。ケアする側からの一方的なケアになってしまう部分がないよう、適切な声かけや説明、相談を行いましょう。看取りの場では、ご家族の意向を最優先するという心構えが必要です。

これまでの「死後処置」を見直す

北は網走から南は奄美大島まで、全国各所にエンゼルケアの講演や研修会に伺いました。それで見えてきたことの1つは、長らく行われてきた「死後処置」の内容は全国的におおむね標準化されていたということ。実施の流れだけでなく、お顔用の、充実しているとは言い難い化粧品類がお菓子の缶などに入れてある、といったことまで多くの現場で一致しており、そのことに驚きました。

「こうするもの」と伝えられてきたこの死後処置を、看護師の皆さんは真摯にていねいに実践してきたことと思います。

しかし、ご家族の希望や意向をしっかり伺うようになり、それまでの実施には一方的な面があったことがわかってきました。

例えば、亡くなった方の口が開いている場合、これまでは当然閉じることがベストだと考えた対応が行われてきましたが・・・・・・。

あるケースではこんなやりとりがありました。

看護師「開いているお口ですが、いくつか閉じる方法がありますので、これからご説明します」
ご家族(亡くなった男性の妻)「いえ、無理に閉じなくていいです。亡くなったときに口が開いていたなら、それが楽なのかもしれないから。もう、夫には微塵も頑張らせたくないんです」

亡くなった男性は白血病で何度目かの化学療法にトライしていました。闘病生活を支えてきたご家族だからこそ「これ以上はがんばらせたくない」と感じたのだと思います。

また、幅広の包帯を顎下にぐるりと回して頭頂部で結び、顎を引き上げて口を閉じる対応がなされた方のご家族は、そのときの思いをこう話しました。

「縛られて、苦しそうで、痛そうで、つらかったけれど、そうしなければいけないのかと思い、口に出せませんでした。それからずいぶん経ちますが、つらい記憶として今も残っています」

ケアする側がよかれと思って実施することでも、ご家族は希望しない場合があります。十分にコミュニケーションを取りながら、ご家族の希望や意向にできる範囲で対応することが大切です。

ご家族の希望に柔軟に対応するための留意点

さまざまなご家族の希望に柔軟に対応するためにも、コミュニケーションを取る際は以下の2つのことに留意します。

①ご家族はご遺体を生きているときと同様に気遣うことが多い、予想を超える希望も少なくない、と含んでおく

死亡告知を受けており、頭では死亡したことを理解していても、ご家族はご遺体を生きているときと同様に気遣っていることが多いです。これは、さまざまなケースからわかってきました。

前出のケースのように、口が開いていたほうが楽かもしれないから閉じないでほしい、縛られて苦しそう、という思いもその例ですね。

他にも「痛み止めの坐薬を入れてほしい」と希望したり、顔に四角い白い布をかけるかどうかの問いに対して「夫はまだ心臓が止まっただけだから、亡くなった人みたいにしないで」と応えたり、冷却の説明に対して「冷たくて寒そう」と応えたケースもあります。

ある在宅での看取りの場面では、ご遺体を「一度起立させてほしい」との希望があり、担当の看護師がサポートして実現したこともあります。

②ご家族の承諾は不可欠

第1回でもふれましたが、エンゼルケアの場面では、ご家族の承諾を得て進めることがポイントです。

また、ご家族に判断して承諾していただくためには、それをなぜ行うのか、どんなふうに行うのか、など実施内容についての適切な説明と提案をし、希望や意向を伺うことが必要です。

入浴についてのコミュニケーション例

では、具体的にどのようなコミュニケーションを行えばよいでしょうか。ここでは入浴を実施する場合を例にご説明します。

看護師「それでは、よろしかったら、これから○○さんにお風呂に入っていただきませんか? 介助する人数としても可能な状況ですので。お身体の今後の変化のことを配慮し、ぬるま湯でシャワー浴の形で。いかがでしょう?」

エンゼルメイクの入浴では、身体をあたため腐敗を助長する恐れがあるため湯船につかることは避け、ぬる湯によるシャワー浴が望ましいのです。

ご家族「えー!? お風呂はうれしいけれど。おじいちゃんは湯船につかるのが何よりも好きだったんです。最近ずっと湯船に入れていなかったんだから、最後くらい入れてあげたいわ。絶対、入れてあげたいです!」

この希望を受けて、あらためてご遺体の状況や気温から腐敗リスクを評価し、この後の葬儀社による冷却が始まる時間も合わせて検討し、次のように提案します。

看護師「それでは、短時間になりますが湯船に入っていただきましょう。そして、お風呂から出られたらすぐに胸とお腹を冷やしましょう。そうすれば、その後のお身体の変化をかなり抑えられると思います。いかがでしょうか?」

この提案に対し、ご家族が承諾したなら、入浴を実施してすぐに冷却を行います。ご家族が承諾せず、「ゆっくり湯船に入れてあげたい」と希望されたなら、腐敗現象による漏液など、つらい事態について理解されていないかもしれないと考え、あらためて説明し、承諾を得られるようにします。

ご家族への説明や提案は簡潔にわかりやすく

ご家族は、エンゼルケアの場面について何もご存じではないことが多いのですが、死後の身体の変化のことなどから一つひとつ説明することは現実には時間的に限界があります。

そのため、エンゼルメイクを始める前に、

看護師「これから清拭や着替え、お顔のスキンケアやお顔色のカバーなどを始めたいと思います。ご質問や気になる点、また『こういうふうにしてほしい』といったご希望がありましたら、遠慮なく仰ってください。では、始めてよろしいでしょうか?」

というようにおおまかに説明し、承諾を得てから実施します。そして、ケアを行いながら可能な範囲でご家族への声かけと説明を行うとよいでしょう。

適宜簡略化しながら説明や提案を行うためにも、ご家族に渡す文書の作成がポイントとなります。文書を受け取ったご家族もたいへん安心されるのでおすすめします。文書の活用については連載の第8回で詳しくご紹介します。

ワンポイントメモ
同席していただく際の声かけは「お願いします」がおすすめ
声かけでは「ご家族に同席していただかなければエンゼルケアを行えない」という状況を伝える表現が必要です。
例えば、次のような声かけがおすすめです。
「これから、○○さんらしく身だしなみを整えたいと思いますので、(ご家族の)どなたかにご同席をお願いします(or どなたかに、付き添っていていただきたいです)」
 
ある緩和ケア病棟では、声かけを「ご一緒になさいませんか?」から「同室をお願いします」に変更したところ、ほぼ皆さんが同室されるようになったとのことです。



執筆 小林 光恵
看護師、作家

 
●プロフィール
看護師、編集者を経験後、1991年より執筆業を中心に活躍。2001年に「エンゼルメイク研究会」を発足し、代表を務める。2015年より「ケアリング美容研究会(旧名・看護に美容ケアをいかす会)」代表。漫画「おたんこナース」、ドラマ「ナースマン」の原案者。

記事編集:株式会社照林社

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