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[4]腐敗進行を抑えるために絶対に外せない対応、冷却について

ご遺体の死後変化の1つである腐敗は、適切な管理を行えば進行を抑えることが可能です。管理が十分でないと、腐敗が進んでしまい、告別式のころには棺の蓋に届くほど腹部が膨満してしまうケースもあります。それも自然現象ではありますが、腐敗は死後変化の中でもご家族につらい印象をもたらす要素が多いため、抑える対応はマストです。今回は腐敗とその対処法である冷却について解説していきます。

腐敗はなぜ起こる?

死亡により体内の細菌バランスが崩壊し、生前から存在していた細菌群(中温菌)の異常繁殖により腐敗します。腐敗は、死後6時間くらいから始まり、腹腔内から胸腔内へ、そして全身に広がります。

腐敗が進むと何が起こる?

腐敗の進行とともに水分とガスが生じるため、体腔内圧が高まり、鼻や口から体液が漏れ出たり、肛門から便が漏れたりします。腹部膨満も見られます。また、臭気が発生し、皮下にガスが溜まり、皮膚に水疱ができるといった現象も起こります。

腐敗進行にとっての好条件は「水分が多い、栄養が多い、温かい(死亡時に発熱していた)」です。この条件がそろうとご遺体は腐敗しやすい状態になります。夏場など、ご遺体を取り巻く気温が高いことも腐敗を助長します。

腐敗の抑制手段は「冷却」

腐敗を最小限に抑える手段が「冷却」です。冷却することによって、腐敗をもたらす中温菌が活動しづらい環境にすることができます。エンゼルケアにおける冷却は、葬儀社が対応するドライアイスや冷蔵庫冷却までのつなぎとして実施します。

実施するタイミングは、保清の後の着衣のときがよいでしょう。冷却物としては保冷剤やアイスパック、氷を使用します。それらがなければ、冷凍庫や冷蔵庫に入っており、身体にあてやすい平らな形状のもので代用します(腋窩部、鼠径部、前側頸部には円柱型やボトル型の形状のものも可)。

冷却効果が高いのは冷却物を直接皮膚にあてる方法ですが、ご家族が「冷たそう」と感じることもあります。そうした気持ちに配慮し、下着の上から冷却物をあてたり、和服など衣類によってはすべてを着付けた上からでもよいでしょう。

図1に冷却に使用する物品を、図2に冷却する部位を示します。

図1 冷却に使用する物品と冷却する部位

ご遺体や衣類が濡れることを避けるため、ビニール袋に入れて使用する

図2冷却する部位

通常の冷却 ❶胸部+❷腹部
(腐敗が早く強く出ると予想される場合は、❶胸部+❷腹部+❸腋窩部+❹鼠径部+❺前側頸部を冷却する)

ご家族への説明例

冷却を開始する際の声かけでは「お腹が膨らんだり、体液が鼻から出たり、臭いが強くなったりしないよう、お腹や胸に早めの冷却が大切です。これから行いますね」などと冷却の必要性を伝えます。

しかし、ご家族が「冷たそう」「寒そう」と話し、気が進まないようであれば、次のように説明します。

「さきほどお話したような変化が進んでしまうと、あとから元に戻すことができませんので、冷やすことはとても大事なんです」

それでも難色を示される場合、腐敗が進行することを理解されていないかもしれないと考え、「変化」ではなく「腐敗」という言葉を使って再度説明します。十分に説明したうえでも拒否される場合は無理には行いません。ご家族には、冷却を行っていないことを葬儀社の方に伝えていただくようにお話しします。

ワンポイントメモ
綿詰めは必要ない?
ご遺体の鼻や口、肛門などに綿を詰める行為はこれまで広く行われてきた行為の1つです。しかし、ここ数年の間に、綿は栓の役割を果たさないことがわかってきました。腐敗の進行で内圧が高まれば、綿で漏液や便漏れを阻むことはできません。

鼻や口から漏液がある場合は、適宜拭います。肛門や膣には紙パッドや紙オムツをあてることがおすすめです。分泌物や便を含んだ綿の交換は難しいですが、紙パッドや紙オムツであれば交換も容易ですね。

また、鼻や口への綿詰めは、家族がつらい印象をもつことが多いです。

(なお、便漏れを防ぐために腹部を圧迫し、便を押し出す行為もおすすめできません。腐敗の進行とともに自己融解も始まり、内臓の脆弱化が急激に進んでいるため、圧迫により腸を損傷させる可能性があるためです。)



執筆 小林 光恵
看護師、作家

 
●プロフィール
看護師、編集者を経験後、1991年より執筆業を中心に活躍。2001年に「エンゼルメイク研究会」を発足し、代表を務める。2015年より「ケアリング美容研究会(旧名・看護に美容ケアをいかす会)」代表。漫画「おたんこナース」、ドラマ「ナースマン」の原案者。

記事編集:株式会社照林社

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