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【管理栄養士のアドバイスvol.9】高齢期の糖尿病管理

この連載では、在宅訪問栄養指導の経験豊富な管理栄養士の稲山さんから、在宅患者さんに接する機会が多い訪問看護師だからこそできる、観察・アドバイスの視点をお伝えします。第9回は、高齢期糖尿病管理の注意点と実際を紹介します。

最近歩けなくなってしまったんです……

あるとき、私のもとにこんな相談がやってきました。相談者は、80歳代のお母さまを介護する息子さんです。お母さまは、元気だったころから糖尿病を患っていました。要介護状態となり自分で食事の準備ができなくなった今は、息子さんが食事の管理をされています。

「最近歩けなくなってしまったんです」。相談内容は、お母さまの体力が落ちて、歩くのが困難になってしまったということでした。

「主治医の先生には、『糖尿病の数値は落ち着いていて、食事の管理がしっかりできている』ってほめられます。でも体力が落ちてきてしまって、どうしたら母は元気になるんでしょうか? 糖尿病だから好きなものを何でも食べさせるわけにはいかないし」

糖尿病だからたくさん食べてはいけない、でも体力をつけるためには栄養をとらなければいけない。こんなジレンマに悩まされていたのです。

これが、高齢期の糖尿病管理の難しさです。壮年期に行っていた厳しいエネルギー管理を継続することは、ときに、低栄養やサルコペニアの引き金になってしまう可能性があるのです。

高齢期糖尿病の管理方針

日本糖尿病学会の「糖尿病診療ガイドライン2019」1)には、高齢者の糖尿病について以下のように記載されています。

高齢者の低血糖は、自律神経症状である発汗、動悸、手のふるえなどの症状が減弱し、無自覚低血糖や重症低血糖を起こしやすい。低血糖の悪影響が出やすい。

厳格な血糖コントロールよりも、安全性を重視した適切な血糖コントロールを行う必要がある。

高齢者糖尿病の血糖コントロール目標は、(中略)「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)」を参考にして、さらに心理状態、QOL、社会・経済状況、患者や家族の希望などを考慮しながら、個々の患者ごとに個別に設定する。

ガイドラインの記載からもわかるように、高齢期の糖尿病管理は血糖値やHb1Acの推移だけをみていてはいけなのです。周辺情報を確認しながら、ときには、厳しい食事制限を緩和し適切に「食べる」サポートをすることも重要です。

実際の指導

私が行った実際の指導方針は以下のとおりです。

コントロール目標の緩和

真面目な息子さんは、お母さまの病状が悪化しないように、HbA1c6.0%未満を維持するように食事管理をしていました。

そこで、
・高齢期の血糖コントロールについては、生活機能を維持するという視点から目標を緩和して構わないこと
・今は、糖尿病の病態だけでなく、生活機能をどう維持するかを考えなければならない時期であること
をお伝えしました。

お母さまは、重症低血糖が危惧される薬剤の使用はなく、基本的ADL低下の状態であり、主治医と相談し、コントロール目標をHbA1c8.0%未満注1と設定しました。

注1「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)」で、重症低血糖が危惧される薬剤の使用なし・基本的ADL低下の状態の高齢者では、目標値は8.0%未満とされている2、3)

具体的な食事のとりかた

糖尿病のコントロール目標を明確化したうえで、改めて食事のとりかた(お役立ちツールの「糖尿病食事管理のコツ」を参照)を指導しました。

・ 食事全体の量:糖尿病の病態や年齢、ADLによって適正量が変わるので、主治医の先生や管理栄養士に確認しましょう。
・ バランス良く:主食・主菜・副食を揃えて、バランス良く栄養をとりましょう。
・ 食べる順番:野菜から先に食べることで血糖値の急な上昇を抑えることができます。

このような指導を行い、食欲の維持、また不足していたビタミンの摂取を目的として、それまで控えてきた果物の提供を再開することとなりました。

血糖測定時間の改善

息子さんがお母さまの血糖測定をご自宅で行っており、測定値がカレンダーに記載されていました。その血糖値ですが、食べている量やHbA1cを考慮するとどうも高いのです。

不思議に思って詳しく聞くと、食後2時間の血糖を測定するつもりが、食事開始から2時間後の血糖を測っていることが判明。そして、このお母さまは食事に約1時間かかっていたので、すなわち食後1時間の時点で血糖を測っていたのです。

食後1時間ではまた血糖が下がりきっていないので、測定値が高く出ていたというわけです。息子さんに、食事が終わってから2時間後に測定することを指導し、その後は正確な測定値の推移を知ることができました。

おわりに

このように高齢者の糖尿病管理は、その方の生活や暮らし、ADLなど、多角的に判断をしながら食事療法を行う必要があります。皆さんの周りの糖尿病の方はどのような管理を行っているでしょうか? コントロールに苦慮する場合は、ぜひ訪問の管理栄養士に介入を依頼することも検討してみてください。

第10回へ続く

執筆
稲山未来
Kery栄養パーク 代表

管理栄養士、認定在宅訪問管理栄養士、介護支援専門員、認知症ケア専門士、健康咀嚼指導士
新宿食支援研究会認定栄養ケアステーション管理者、東京都栄養士会新宿支部役員

在宅訪問管理栄養士として訪問栄養指導を行う傍ら、フレイル予防講座や栄養講座など地域の高齢者に向けた栄養普及活動も行っている。

記事編集:株式会社メディカ出版

【引用・参考】
1)日本糖尿病学会.『糖尿病診療ガイドライン2019』東京,南江堂,2019,319-28.
2)日本老年医学会・日本糖尿病学会.『高齢者糖尿病診療ガイドライン2017』東京,南江堂,2017,46.
3)日本糖尿病学会.『高齢者糖尿病の血糖コントロール目標について』
http://www.jds.or.jp/modules/important/index.php?content_id=66 
2022/06/22閲覧
4)後藤昌義ほか.『新しい臨床栄養学』改訂第4版.東京,南江堂,2005,305p.

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