特集

【管理栄養士のアドバイスvol.2】嚥下機能が低下した方に必要なとろみ付けの技術

この連載では、在宅訪問栄養指導の経験豊富な管理栄養士の稲山さんから、在宅患者さんに接する機会が多い訪問看護師だからこそできる、観察・アドバイスの視点をお伝えします。第2回は、とろみ付けのポイントを紹介します。

はじめに

加齢や障害により嚥下機能が低下すると、「誤嚥をしないように水分にはとろみを付けましょう」と指導を受けることがあります。

このとろみ付けですが、飲料の種類によってはとろみが付きにくい、またダマになりやすいものがあることをご存じですか?

今回は、とろみの濃さの基準や、飲料ごとのとろみ付けポイントをご紹介いたします。

とろみの濃さの基準

「日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2021」1)によると、嚥下障害者のためのとろみ付き液体を「薄いとろみ」「中間のとろみ」「濃いとろみ」の3段階に分けて表示をしており、この段階に該当しない「薄すぎるとろみ」や「濃すぎるとろみ」は推奨しないとしています。

まずは、この3つの段階について確認をしておきましょう。

薄いとろみ(段階1)

薄いとろみとは、嚥下障害が軽度であり、中間のとろみほどのとろみの程度がなくても誤嚥しない人を対象としています。

中間のとろみ(段階2)

中間のとろみとは、嚥下障害の人へまず試されるとろみの程度を想定しています。

濃いとろみ(段階3)

濃いとろみとは、重度の嚥下障害の人を対象にしたとろみの程度であり、中間のとろみで誤嚥のリスクがある人でも、安全に飲める可能性があります。

「日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 2021」より抜粋。参考1または 日本摂食嚥下リハ学会ウェブサイト「嚥下調整食学会分類2021」を必ずご参照ください。表の理解にあたっては、「嚥下調整食学会分類2021」の本文をお読みください。

とろみ付けのポイント

まずはじめに気を付けなくてはいけないことは、とろみ調整食品は複数の食品メーカーが販売しており、販売元・種類ごとに使用量が異なるという点です。

それぞれの商品パッケージには、とろみを3段階に調整するために必要な使用量が記載されていますので、忘れずに確認をしましょう。

とろみが付きにくい飲料

では次に、とろみが付きにくい飲料と、とろみ付けの工夫を以下にまとめます。

冷たい飲み物

飲み物の温度によってとろみの付く速さが変わります。基本的には温かい物は速く、冷たい物はとろみがつくのに時間がかかります。ですが、最終的なとろみの状態は同じなので、とろみの付くスピードが遅いからといって、とろみ調整食品の使用量を増やしてしまうと、ダマになったりとろみが濃くなりすぎたりしてしまいます。

どの温度でも、おおむね10分くらい放置するととろみの濃さが安定しますので、早めに作ってとろみが安定するまでゆっくり待ちましょう。

ジュースやみそ汁

オレンジジュースなどの酸味が強い飲みもの、またみそ汁など塩分が含まれているものも、とろみが付きにくいです。
温度変化によるものと同様に、とろみ調整食品の使用量を増やすのではなく、付け方を工夫しましょう。

ここでご紹介するのは「2度混ぜ法」です。
1.とろみ調整食品を添加して30秒ほどよくかき混ぜます。
2.そのまま5~10分放置します。
3.最後にもう一度しっかりとかき混ぜます。

この2度混ぜ法をする事により、とろみの付きにくい飲料にも均一にとろみが付きダマにもなりません。

とろみが付きにくいランキング第1位? 濃厚流動食品

栄養強化のために飲むことの多い濃厚流動食品ですが、とろみが付きにくく、またダマにもなりやすいため、皆さまも頭を悩ませたことがあるのではないでしょうか。

そこで、濃厚流動食品用の専用とろみ剤をご紹介します。

濃厚流動食品用の専用とろみ剤は、「つるりんこ 牛乳・流動食用」(株式会社クリニコ)や、「リフラノン濃厚流動食専用」(ヘルシーフード)などの商品があります。
特にリフラノンは、粉末ではなくとろみ剤そのものが液体なので、なめらかで均一にとろみをつけることができます。

炭酸飲料

炭酸飲料は、とろみ調整食品を添加すると飲料が泡立ってしまい混ぜにくく、一方、十分に混ぜると炭酸が抜けてしまうため、工夫が困難です。
そこで、以下の方法をご紹介します。
1.提供量の半量を別のコップに注ぎ分けます。
2.取り分けた飲料に規定量のとろみ調整食品を加えてよく混ぜる。
  全提供量に対して必要な量のとろみ調整食品を加えますので、この時点ではとろみは濃くなります。
3.濃くついたとろみ付き飲料と、注ぎ分けておいたとろみなしの飲料を混ぜ合わせる。

この方法でとろみをつけると、炭酸が抜けてしまう事を最小限に防ぎ、ちょうどよいとろみ付き炭酸飲料を作ることが可能です。

おわりに

嚥下障害を抱える方が安心して水分を摂取するには、適切な濃さのとろみに調整する必要があります。

どのくらいのとろみの濃さが適切なのかは、その方の障害や機能に応じて変わりますので、歯科医師や言語聴覚士などの専門家と相談をしましょう。

当記事に掲載している「とろみづけの工夫」をまとめた利用者さん向け資料を【お役立ちツール】に掲載しておりますのでご参照ください。

第3回へ続く

執筆
稲山未来
Kery栄養パーク 代表
管理栄養士、認定在宅訪問管理栄養士、介護支援専門員、認知症ケア専門士、健康咀嚼指導士
新宿食支援研究会認定栄養ケアステーション管理者、東京都栄養士会新宿支部役員

在宅訪問管理栄養士として訪問栄養指導を行う傍ら、フレイル予防講座や栄養講座など地域の高齢者に向けた栄養普及活動も行っている。
 
記事編集:株式会社メディカ出版

【参考】
1)日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食委員会.日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2021.『日本摂食嚥下リハビリテーション学会誌』25(2),2021,135-49.

この記事を閲覧した方にオススメ

× 会員登録する(無料) ログインはこちら