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インタビュー

入院によるサルコペニアがフレイルを招く

在宅医療のスペシャリスト・川越正平先生がホストを務め、生活全般を支える「真の地域包括ケア」についてさまざまな異業種から学ぶ対談シリーズ。第6回は、高齢者の入院後・治療後に寝たきりにさせないため、早期の栄養介入やリハビリが必要と訴える若林先生。フレイル、サルコペニア予防について在宅医療関係者にもぜひ知ってほしい。(内容は2019年1月当時のものです。)

ゲスト:若林秀隆
1995年横浜市立大学医学部卒業。2016年東京慈恵会医科大学大学院医学研究科臨床疫学研究部卒業。専門はリハビリテーション栄養、サルコペニア、摂食嚥下障害。対談当時は横浜市立大学附属市民総合医療センター所属。


長生きをすれば誰でもフレイルになる?

川越●今日はフレイル、サルコペニアについて教えていただこうと思います。在宅を支える専門職のなかには、この二つの厳密な違いを理解していない人が多い印象です。

若林●定義でいうと、サルコペニアは「筋肉が減って筋力が落ちている状態」です。若い人でも筋力は落ちるので、定義では「加齢」が外され、「進行性、全身性の骨格筋疾患」とされていますが、長生きをすれば誰だってなりえます。

川越●身体機能も含めると、フレイルとかなり近いですね。

若林●フレイルは、要介護の前段階というとわかりやすいと思います。フレイルの主な原因は、サルコペニア、低栄養、ポリファーマーシー(多剤服用)といわれていますが、ほかにも活動量不足、疾患や認知症の影響などがあります。

身体的な面だけでなく、精神的フレイル、社会的フレイル、オーラルフレイルとさまざまあって、実はややこしいんです。

在宅療養者は肺炎になっても入院させない

川越●よく「高齢者が肺炎で入院すると2週間後には寝たきりになっている」といわれますが、絶対安静、禁食となったら、当然でしょうね。

若林●サルコペニアは急性期病院でつくられる場合が多くて、栄養サポートとリハを行えば改善する可能性もあります。でも肺炎などで入院すると、ほとんどの場合サルコペニアは進んでしまいます。なぜかというと、肺炎だと体内で炎症が起こっていて、炎症があるときは、自分の筋肉を分解してエネルギーをつくるからです。

川越●私のところでは肺炎になっても9割がたは入院させません。高齢者の場合、入院すると必ずせん妄が起きるし、せん妄が起きたら間違いなく縛られます。家にいたらせん妄は起きにくいし、少なくともトイレは自力で行くし、抑制もしない。食べられるうちは食事もするから禁食もしません。

若林●それが正解です。入院させないのが一番なんです。嚥下に関しても、病院ではリスク管理的に禁食にしがちなので、基本的には在宅でやったほうがいい。環境因子的には、在宅のほうが嚥下機能・認知機能に良い影響を与えていて、病院のほうが悪いんですね。

ベストは入院しないこと。入院しても、一日も早く退院することです。

川越●環境因子の影響を知っているかどうかは重要ですね。

若林●私も在宅リハを10年以上やっていますが、在宅での評価は入院中とは違うことに気づいている医療者は少ないと思います。

低栄養改善にはたんぱく質が重要

川越●低栄養と身体機能の関係についてはどうでしょう。

若林●低栄養の原因は三つあります。一つはエネルギー不足・たんぱく質不足で、拒食症や、入院中に禁食で不適切な点滴だけ、といった人などです。二つめは侵襲です。骨折や手術、誤嚥性肺炎の急性期などで炎症が強い場合、人の体は一日に1kg自分の筋肉を分解することもあります。三つめは悪液質です。がん、慢性心不全、COPD(慢性閉塞性肺疾患)などで認めることが多いです。

川越●どのようにすれば栄養改善できるんでしょうか。

若林●エネルギーとたんぱく質を多めにとることです。しかし、その攻めの栄養管理が今の栄養サポートではできていないことが多いです。

川越●在宅の場合、そもそも何キロカロリーとれているかも難しいものです。

若林●細かく把握しなくても、むくみ以外で体重が増えていて、ざっくりエネルギー量とたんぱく質がとれていればよいと判断します。たくさん食べられない人が太るためには、こまめに間食や夜食をとることをおすすめしています。

栄養と運動はセットで

川越●リハが大事なことは介護職も含めてみんなわかっていますが、本当は運動と栄養とセットでやらないと効果がない。でも栄養の知識は、医療者も介護者も不足しています。

若林●なぜサルコペニアになるのかを考えたときに、運動は頑張っているけど力が出ないという人が多いんです。つまり食べていない。

筋トレで一度筋肉を分解した後、たんぱく質やエネルギーがあって初めて筋肉をより合成できるので、運動だけして栄養をとらないと、結局筋肉はつくどころか落ちていきます。

川越●なのに在宅高齢者には三食炭水化物という人が実際にいて、たんぱく質が圧倒的に不足しています。訪問リハが入っていれば、それだけで運動できていると思っているのも深刻です。「歯科衛生士が週1回口腔ケアに行けば歯磨きしなくていい」とは誰も思わないのに、リハはリハ職が訪問したときだけでいいと、みんな誤解しています。

若林●リハの定義が正しく理解されていないからでしょうね。セラピストが行うのは機能訓練などですが、その人の生活機能を高めることすべてがリハビリです。サルコペニアから寝たきりになるのは、活動量減少、栄養不足、疾患などが原因で、全員が改善するのは難しいですが、改善可能性のある人も確実にいます。在宅でも質の高いセラピストや管理栄養士が介入することで、改善できるものは改善させないといけません。

川越●たいへん勉強になりました。

第7回に続く

あおぞら診療所院長 川越正平
【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。
 
記事編集:株式会社メディカ出版

「医療と介護 Next」2019年1月発行より要約転載。本文中の状況などは掲載当時のものです。

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