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[3]訪問看護BCPをリソース中心に考えてみよう

この連載では「訪問看護BCP研究会」の発起人のお一人、日本赤十字看護大学の石田千絵先生に訪問看護事業所ならではのBCPについて解説していただきます。第3回からいよいよ実践的な内容に入っていきます。今回は、全国訪問看護事業協会が作成したBCPのひな形を参照しつつ、リソース(資源)を中心に考えるBCP策定について教えていただきます。

【ここがポイント】
・BCPにおけるリソース(資源)は、事業継続に必要な「ヒト・モノ・カネ・情報」の4つに分けて考えることができます。
・事業者にとっての災害は「事業継続のためのリソースが足りなくなること」であり、リソースの確保と、それを活用するための手立てを整えておくことがリソース中心のBCPといえます。

今回は、全国訪問看護事業協会が作成した「自然災害発生時における業務継続計画(BCP)-訪問看護ステーション向け-」のうち、「Ⅱ 訪問看護ステーションの事業継続計画(BCP) 考え方と記載例」を参考に進めていきたいと思います。

このガイドラインの「1.総論」にまとめられている「基本方針」「推進体制(災害時の対応体制)」「事業所周辺のリスクと被害想定」について具体的に学んだのちに、「2.平常時の対応」と「3.緊急時(~復旧における事業継続にむけた対応)」の要となるリソース(資源)に注目したBCP策定の考え方をご紹介します。

基本方針

BCPのひな形の最初に記すべき事柄が「基本方針」です。事業所の基本方針、または災害対策における基本方針を記載します。BCP策定における基本方針となりますので、概ねの方針だけでも記しておくと一貫性のあるBCPをつくることができると思います。

また「基本方針」は、被災後の「想定外」な出来事への対応の判断基準ともなり得ます。BCPで災害発生後に起こり得る事象を時間軸に応じて想定し、あらかじめ対策を検討しておいても「想定外」な出来事が起こりますので、被災後で混乱している状況下での適切な判断・行動の指針としても「基本方針」が大切なのです。

「基本方針」の記載例1には、「災害時には、事業所職員の命と安全を第一に守り、担当している利用者の安否確認、安全確保に尽力し、早期の事業の復旧、継続を目指す」1)とあります。この事業所の例では、看護職の職務を全うする以前に、「職員の命と安全を第一に守る」とされている点がポイントとなります。BCP策定においても、「想定外」の出来事が起きた場合でも、「職員の命と安全を守る」という方針に基づいて検討することになります。

推進体制(災害時の対応体制)

推進体制として「主な役割」「部署・役職」「氏名」「補足」ほかを示します。責任者・災害対策本部長、スタッフ情報管理担当、利用者・家族情報管理担当、労務管理担当、設備インフラ担当などの「主な役割」に対して事前に役割を決めておきます。その際、それぞれの役割担当者に対して、リーダーやサブリーダーを配置できるとよりよいです。
災害対策や災害マニュアルで取り決めてきた体制を記載するか、BCPの視点で役割を検討して示します。ヒト(スタッフ)・ヒト(利用者/家族)・モノ・カネ・情報に関して網羅されているか、確認をしてください。

事業所周辺のリスクと被害想定

ハザードマップを活用

自然災害のリスクは、市区町村のホームページなどで公開されている「ハザードマップ」で調べましょう。

「ハザード(hazard)」とは日本語で、災害などの危険・危機や、その原因となるものであり、具体的には、地震・洪水・津波・火山、病原菌・ウィルスなどを指します。ハザードマップは、河川や津波による水害、台風や地震による土砂災害など、ハザードの種類毎に危険度が示されたマップ(地図)です。ハザードマップを確認することで、災害の種類ごとに異なる事業所周辺のリスクを適切に把握することができます。

余談ですが、「災害」と「ハザード」は同意語ではありません。災害は、ハザードに人や社会の脆弱性が重なったときに起こるものです。通常地震が起こりにくい国ですと、震度5強の震災で多数の家が倒壊し、多数の死傷者を伴う災害として報道されることがありますが、日本の建築基準法に基づいた家屋であれば倒壊しないことも多く、さらにほかに被害がない場合、「災害」にはならないのです。地震などのハザードを防ぐことはできませんが、地震による災害はある程度の予防ができるのです。

交通やライフラインに関する被害を想定

被害想定としては、市区町村全体でどのようなハザードがあるのか、ハザードにより交通やライフラインに関する被害の想定をするとよいです。例えば、「A町では、〇〇地震が30年以内に70%の確率で起こり、最大で震度6が想定されている。また、毎年のように台風の被害があり、河川の氾濫により事業所が水没する可能性がある」などです。

次に、ハザードマップで最も危険度が高く示されている事象を選択し、想定された被害について具体的にシミュレーションしてみましょう。「震度6の場合、△△線の不通と▲▲通りの閉鎖が想定され、電車や車での訪問は困難になる」「ライフライン(電力・ガス・水道など)」は、「事業所の電力の停電でPCの使用不可・充電不能、固定電話の使用不能、ガスの使用不可、水道の不通により飲料水・手洗いの使用不可」などです。自施設で影響を受ける想定と同時に、それらがいつまで続くのかを想定しておきます。(▶参照ひとくちメモ「ライフラインの応急復旧のめど、どう立てるの?」)

被災から10日程度の自施設を中心とした事象について、より具体的に想定ができるようになると、災害直後から10日程度の対策も十分に検討することができます。もしも、被災状況の時系列での変化が想定できない方は、 BCP を策定したのちに、改めて過去の震災や自然災害の記事をみなさんで読んだり調べたりするような研修も計画されるとよいと思います。まずは、一度、粗くてもよいので、BCP策定を進めていくことをおすすめします。第3回の内容を概ね検討できましたら、第4回の「優先業務・重要業務の選定」に進んでください。

なお、「1.総論」には「研修・訓練の実施」「BCPの検証・見直し」など、事業継続マネジメント(BCM;Business Continuity Management、以下BCMとする)を記す項目が残されていますが、BCMについては第8回で説明をいたします。

リソースに注目したBCP策定の考え方

「1.総論」の推進体制でも責任者・災害対策本部長という災害時の体制のほか、ヒトや情報(スタッフ情報管理担当、利用者・家族情報管理担当)、モノ(設備インフラ担当)・カネ(労務管理担当)というように、ヒト・モノ・カネ・情報といったリソース(資源)の視点で確認をしてきました。事業継続に必要なものも同様に、リソース(ヒト・モノ・カネ・情報)で表すことが可能です。それは、リソースの視点から災害を再定義することができるからです。

先ほど、災害とハザードの関係を説明しましたが、事業所にとっての災害とは、「災害現象によって事業の継続に支障が出る、あるいは事業が継続できなくなること」と言い換えることができます。また、事業継続ができなくなる理由もリソース不足によるものであることから、「事業継続のためのリソースが足りなくなること」が事業者にとっての災害であると再定義できます。このようにリソースの観点から災害を再定義しますと、地震などのハザードが生じても、事業継続のためのスタッフ、カネ、医療資器材などのリソースが潤沢であれば、事業継続は可能であり、事業者にとっては災害にはならないのです2)

「自然災害発生時における業務継続計画(BCP)-訪問看護ステーション向け-」の「2.平常時の対応」と「3.緊急時(~復旧における事業継続にむけた対応)」がリソースに注目したつくりになっているのは、リソース中心のBCP、すなわち「リソース不足が起こることを想定したリソースの確保と、それを活用するための手立てを整えておくこと」2)が、ハザードを災害にしないための重要なポイントとなるためです。

次回は、「1.総論」の中でも策定でつまずくことの多い「優先業務・重要業務の選定」を中心に学んでいきたいと思います。「2.平常時の対応」と「3.緊急時(~復旧における事業継続にむけた対応)」では重要業務・優先業務のリソースについて検討していきますので、とても大切な部分になります。

ひとくちメモ ライフラインの応急復旧のめど、どう立てるの?

電気・ガス・水道が大規模地震で使用できなくなった場合、できなくなった理由にもよりますが、過去の震災ではガスよりも電気の復旧が最も早いことが知られています。
 
東京都防災会議によりますと、電気の応急復旧は、23区部で7日、多摩で7日。上水道は23区部で31日、多摩で13日、下水道は区部で16日、多摩で4日。ガスは57日、電話は区部で14日、多摩は8日で応急復旧がなされることが想定されています3)
 
各都道府県の防災会議などで被害想定やライフラインの応急復旧想定がなされていますので、一度確認されるとよいです。それらの情報は、「自然災害発生時における業務継続計画(BCP)-訪問看護ステーション向け-」のひな形「1.総論 5)災害情報の把握」に災害情報収集先とURLなどを記す欄がありますので、記載しておくとよいでしょう。
 
施設の場合では、ライフラインの復旧は業務継続にとってより重要な要件となります。訪問看護事業所では、業務継続に施設ほどの直接的な影響はないのですが、間接的な影響を与えます。電気が通らないことによるPCやスマートフォンの充電、固定電話の使用ができないなどの情報に関わる問題や、呼吸器を装着している利用者への対応などです。
 
特に呼吸器装着者などの利用者にとっては、命にかかわる重要な問題が関係していますので、いずれにしても、災害時のライフラインについての想定は必要です。



執筆 石田 千絵
日本赤十字看護大学看護学部地域看護学 教授
 
●プロフィール
1989年聖路加看護大学(現 聖路加国際大学)卒業後、聖路加国際病院他で勤務。1995年阪神淡路大震災および地下鉄サリン事件を契機に、地域×災害に関わる教育や研究を始めた。災害の備えは「平時に自分らしく生き、かつ、社会的によい関係性を保つこと」がモットー。看護学博士。
 
「訪問看護BCP研究会」とは、2016年にケアプロ株式会社、日本赤十字看護大学、東京大学他の仲間による訪問看護×BCPに特化した研究会。毎月1~2回程度で研究や研修などを行っている。

▼訪問看護BCP研究会のホームページはこちら
 ※記録様式のダウンロードも可能です。
 
記事編集:株式会社照林社

【引用文献】
1)全国訪問看護事業協会.「自然災害発生時における業務継続計画(BCP)-訪問看護ステーション向け-」,2020,p.10.
2)菅野太郎著.「リソース中心のBCPの考え方」,BCP研究会編著.『訪問看護事業所のBCP』,東京,日本看護協会出版会,2022、p.30-31.
3)東京都防災会議.「東京都における直下地震の被害想定に関する調査報告書」,1997.

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