コラム

メンバーを褒めるときやってはいけないこと

メンバーを褒めるときやってはいけないこと

この連載は、訪問看護ステーションで活躍するみなさまに役立つコミュニケーションのテーマを中心にお届けします。第7回は、管理者として、メンバーを褒めるときに注意したいことをお伝えします。

うわべだけの「褒める」は失敗する

「褒めて育てる」とは、よくいわれる言葉です。私も基本的に「褒めて育てる」は大賛成です。でも「褒めて育てる」をテクニックとして使っていると、失敗することがあります。

「メンバーの話を聞いても、何が言いたいのかよくわからない」なんてことありませんか。いったい何が言いたのだろう? つじつまが合っていないのではないか? どこまでわかって話をしているのだろう? ……なんて具合に。

私は、マネジャーになりたてのころ、そんな思いを抱きながらメンバーの話を聞くことがよくありました。最後には「結局、何が言いたいの?」とイライラをこらえきれず言ってしまう始末。見かねた上司がアドバイスをくれました。

「話を聞くときは『相手の言っていることはすべて正しい』と思って聞いてみなさい。理解できないのは自分の聞く力が足りないと思いなさい」。

つまり、相手を理解しようと思えば、まずは全部丸ごと受け入れようとする。「ある部分だけは受け入れて、ある部分は受け入れない」と評価するように聞くのではなく、すべてを受け入れることで、相手の言っていること全体が理解できるのだ、と。

部下の良いところをノート見開きいっぱいに書く

もう一つ、新任マネジャー時代の話です。私は年上の部下(Aさん)を持つことになり、その対応に苦慮していました。そのときにまた上司からアドバイスをもらいました。「部下だからといって頭ごなしにものを言わないように。まずはAさんの良いとこを見つけてノートの見開きいっぱいに箇条書きで書く。それができるまでAさんには注意したいことがあっても言わないようにしてみては」と。

私はそのとおりに、Aさんの良いところを見つけてメモしました。そして気になることがあっても注意することはしませんでした。

Aさんにとって私は年下の上司ですから、何か注意されて面白いはずがありません。最初、Aさんからは「何も言うなよ」オーラが満ち溢れていました。ノートの見開きいっぱいにメモが埋まるころ、私は、本人がいないところでほかのメンバーにAさんの良いところを伝えて「Aさんに教えてもらうといいよ」と言うようになりました。すると、しばらくしてAさんから私に話しかけてくるようになりました。

ここでのポイントは「相手の良いところをノートいっぱい見つけるまで注意しなかった」ことです。少し時間はかかりますが、良い関係をつくるには「急がば回れ」です。

「受け入れるふり」は通用しない

マネジャー経験を積んだ後でも失敗談があります。どこの部署でも周囲との関係をうまくつくれなかったメンバー(Bさん)が、私の部署に配属されました。理屈っぽくてプライドが高く、自分にも他人にも厳しい人でした。

私はゆっくりBさんを観察して良いところを探しました。よく話を聞くと、Bさんの言っていることは筋が通っています。それと同時に、融通が利かず多少自己中心的なところがあり、他人の立場を軽んじるところがありました。

そこで面談時に私はBさんの良いところをフィードバックしました。Bさんはそれを受け入れ納得してくれました。でも正直なところ、私はBさんに気持ちよく話を聞いてもらうために、少し『盛り気味』にしました。そしてBさんがいい気持ちになっているところに「でもね、一つだけ気を付けてほしいのはBさんのこういう欠点は直してほしい」と付け加えたのです。

するとBさんの態度は一転硬直し、関係の構築は見事に失敗して、一からやりなおしになりました。いや、一からどころかゼロからです。私のやっていたことは「相手を受け入れるふり」で、じつは相手を受け入れていなかったのです。それがBさんにもばれてしまったのです。テクニックで相手を丸めこもうとしていたのが伝わったのです。

傾聴の三原則

「カウンセリングの神様」ともいわれるカール・ロジャーズは、傾聴の三原則に▷無条件の肯定的配慮 ▷共感的理解 ▷自己一致 ── を上げています。「相手の良いところを見つける」というのは、この三原則と重なります。テクニックではなく、本気で良いところを見つける過程で、相手を尊重し、理解することができるようになる。つまり、相手ではなく自分を変えることで、相手を理解できる。それが「自己一致」でもあります。話を盛っている時点で自己一致していないのです。

褒めることに集中する

人を褒めるときにやってはいけないこと。それは、相手を褒める同じタイミングで、相手を責めたり否定したりしないことです。褒めるときは褒めることだけに集中するほうが、相手にとっても心に響くものになります。注意すべきことと褒めるべきことが同時にあった場合も、よほどのことがないかぎり先に褒めるほうが良い結果につながります。そして注意をすることがあれば改めて場を変えて行うのがよいでしょう。

執筆
松井貴彦・まついたかひこ ライフキャリアコンサルタント
松井貴彦
NPO法人いきいきライフ協会 理事、一般社団法人看護職キャリア開発協会 所属。
1962年生まれ。同志社大学文学部心理学専攻卒(現心理学部)卒。出版社にて求人広告制作(コピーライター、ディレクター)、就職情報誌編集者、編集マネジャー。その後、医療・看護系出版社、関連会社の代表取締役など歴任。
国家資格キャリアコンサルタント、GCDF-Japanキャリアカウンセラー(米国CCE, Inc.認定のキャリアカウンセラー資格)。自分史アドバイザー。YouTubeは「松井貴彦 まっチャンネル」で検索。
 
記事編集:株式会社メディカ出版

【参考】
〇諸富祥彦.『カール・ロジャーズ入門:自分が“自分”になるということ』東京,コスモス・ライブラリー,1997,362p.

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