ブレずに生きるには ~「自分なりの方針」を決めよう~

この連載は、訪問看護ステーションで活躍するみなさまに役立つコミュニケーションのテーマを中心にお届けします。第9回は、「ブレない」ためにはどうすればよいかを考えてみましょう。
「ブレる」とは?
よく「あの人の言っていることはブレブレだなぁ」とか「私はブレずにやっていきたい」などと言います。「ブレない」は、どちらかといえば褒め言葉です。なぜ「どちらかといえば」なのかは後で触れます。
「ぶれる」を辞書で調べると「正常な位置からずれ動く。とくに写真で写す瞬間にカメラが動く」とあります。イメージがわかりやすいですね。もともとは、「写真を写す瞬間にカメラが動く」状態をいいます。そこから、「心がブレる」は、「何かの瞬間に、ふだんの言動と違うことをしてしまう」ことを指します。
「正しい位置からずれ動く」のは、「正しい位置」がわかっていないから、シャッターを切る瞬間にどこに焦点を当てればよいか、どういう構図にすればよいかわからずに動いてしまうということでしょう。
ブレない人は、自分の本来の姿を知っている
写真写りのよい人には自分のキメ顔があります。どの方向からどの角度で、どんな表情をしたときがいちばんよい顔かを知っていて、シャッターを切る瞬間に最高の表情にもっていくのです。つまり「ブレない」というのは、戻るべき場所、立つべき場所、あるべき姿を知っている、ということです。それって自分探しみたいなものです。
まぁ、わざわざ探さなくてもわかりきっていることもあります。たとえば「映画ならエンターテイメントが好きで、ホラーやスプラッターが苦手。小説なら歴史ものが好きで海外ものより日本もの」とか、「音楽なら70年代ロックが好き、でもテクノっぽい80年代サウンドもけっこう好き」とか、自分の好みがありますよね。それがわかっていると、友だちにホラー映画に誘われても「ごめん、私それ苦手なの」とすぐに反応できるのではないでしょうか。
ところが、仕事とか世の中のことや政治のような、あまり自分の立つ場所がまだはっきりしていない話になると、「あれもいいな」「こっちもいいな」といろんな人の姿や意見に振り回されてしまう。若いころや、新しい世界に飛び込んだときだと、特にそうです。
ブレずに生きるには、自分の方針に沿って生きよう
「自分らしくブレずに生きたい」という声をよく聞きます。では「ブレずに生きる」にはどうするか、が今回のテーマです。それは「自分の方針に沿って生きる」ということです。「自分の方針? そんなの考えたこともない」という人もおられるでしょう。そんな人でも、「自分の方針」が実はあるのです。
人にはそれぞれ「自分なりの方針」があります。それが自分のなかで言語化されていて、そこから逸れない人が「ブレない人」です。自分に正直に生きている人といってもよいでしょう。自分のありたい姿や自分の好みがはっきりしていて、それを大事にしている人です。たとえば先の例の「好きな映画」について、その理由をはっきり言える人です。
ぼんやりと思っているだけでなく、言葉にすることが大事です。「映画を見ることで、日常では体験できないようなことを楽しみたいから」「悲しいことやつらいことがあっても映画を見ることで自分の気持ちの整理をしたり、主人公の生き方にヒントを見つけ出したりしたいから」といった言葉にするのです。これが自分の映画に関する「方針」です。見る映画を選ぶときにこの方針を貫けば、映画についてはブレなくなります。もし人からこの方針に合わない映画に誘われたら断ればよいのです。
長所と短所は裏表
人の意見に左右されない。そんなところから「ブレない自分」を鍛えていけます。ランチは自分の食べたいものを食べる。休日の予定は自分の意思を優先する。頼まれごとも気の向かないことは引き受けない……など。
もしかしたらそれは「自分勝手」と言われるかもしれません。それでもいいんだと思ってください。冒頭に、「ブレない」は「どちらかといえば褒め言葉」と書きました。ブレないことは場合によっては「自分勝手」「融通が利かない」などと言われてしまうこともあるのです。
長所と短所はつねに裏表です。ブレない人は「信念のある人」「自分軸がある人」であると同時に、「自分勝手」「融通の利かない人」なのです。それを受け入れることができればブレない人になれます。ある意味、開き直れるかどうかです。
開き直れるとブレにくくなります。「だってそれが私だから」「ごめんなさい。それは私以外の人にお願いしてください」と言いやすくなります。そして自分の思いどおりにならなかったときは「まっ、そんなこともあるさ」とあっさりあきらめて、自分のやりたいほうにハンドルを切る。自分の好みに合う人、方針が似ている人を見つけたら「気が合いそうですね」「ご一緒しましょう」と声を掛けていけばよいのです。
「ブレない生きかた」とは、前回までに取り上げた言葉で言えば「自己一致している」ということです。自分の判断基準を持って、それに正直に生きていくということなのです。
執筆 松井貴彦・まついたかひこ ライフキャリアコンサルタント ![]() NPO法人いきいきライフ協会 理事、一般社団法人看護職キャリア開発協会 所属。 1962年生まれ。同志社大学文学部心理学専攻卒(現心理学部)卒。出版社にて求人広告制作(コピーライター、ディレクター)、就職情報誌編集者、編集マネジャー。 その後、医療・看護系出版社、関連会社の代表取締役など歴任。 国家資格キャリアコンサルタント、GCDF-Japanキャリアカウンセラー(米国CCE, Inc.認定のキャリアカウンセラー資格)。自分史アドバイザー。YouTubeは「松井貴彦 まっチャンネル」で検索。 記事編集:株式会社メディカ出版 |