コラム

ALS患者の皆さん、自分らしく生きよう!

エンジョイALS

ALSを発症して8年、42歳の現役医師である梶浦さんによるコラム連載です。今回は、困難と向き合い、乗り越えていくための、梶浦さん自身の考えかたを紹介します。

ALS患者が「自分らしく生きる」とは

ALS患者が自分らしく生きていく。それは、趣味や、生きがいを見つけながら、少しずつ今の自分の状態を受け入れていき、最終的には「これが今の自分!」と胸を張って(開き直って!?)生きることではないでしょうか。

言うのは簡単ですが、誰でも簡単にできることではありません。この連載第11回(「難病患者の病気を受容するプロセス 〜希望を持つことの大切さ〜」参照)で書いたように、「受容」に至る過程で、多くの苦悩や挫折を乗り越えないといけません。

今回は、この困難を乗り越えるための、私自身の考えかたを書こうと思います。

困難を乗り越えていくために!

「遠い未来のことは考えすぎない!」
「将来どうなるかではなく、今何ができるかを考える!」

これは、これまで私がたびたび書いてきたことですが、病気を乗り越えていくために最も大切ではないかと思います。ALSという病気は、進行に個人差があります。なかには発症してから10年以上経っても、症状があまり進まない人もいます。なので、絶望的な未来を想像しすぎても落ち込んでしまうだけで、良いことはありません。

大事なのは、今の自分の症状と向き合いながら、少し先の未来を想像して、対策をしていく、その積み重ねです。

たとえば、「指先の動きが悪くなってきて普通の箸が使いにくくなったら、介護用の箸(※)を使うようにしよう」。そして「今後もっと指先の動きが悪くなって、介護用の箸も使えなくなることも想定できる。おかずを、小鉢に分けるのではなく、食べやすいワンプレートにしよう。介護用のスプーンも用意しておこう」など、そのつど工夫と対策を繰り返していくことです。

はじめから遠くにある大きな山(困難)をひとりで登ろうとしても、とうてい無理です。必ず挫折してしまいます。

近くにある小さな山を、仲間たち(家族、ヘルパーさん、医療スタッフさんなど)と協力して一つずつ登っていく。振り返ってみたら、もうこんなに登ってきたのかと思えるような登りかたが理想的なのだと思います。

山登り

医師の多くは、大きな山の存在は教えてくれますが、山の登りかたを教えてはくれません。それもそのはずです。山の大きさや登りかたは人それぞれ違いますし、当事者でないとなかなかわからないことが、とても多いのです。なので、医師であり患者でもある私が発信しなくてはならない。そう思って、意気込んで今までいろいろ書いてきました。

※連載第12回「ALS患者に必要な情報「実用編」 ~上肢①〜」の「指先の筋力が低下しても使える箸」参照

人工呼吸器を着けて外に出かけよう!

多くのALS患者さんは、病気の進行とともに、あまり外に出なくなります。歩けなくなるといった物理的な障害もありますが、気持ちの面で前向きになれないといった精神的な要因もあると思います。

私の場合は、歩けなくなっても電動車いすを操作できる間は、積極的にいろいろな所に出かけていました。しかし、腕もまったく動かなくなって、電動車いすを操作できなくなり、人工呼吸器を装着するようになってからは、あまり外に出なくなりました。人手が必要だったり、用意に時間がかかったりと物理的な障害もありましたが、「人工呼吸器を着けている自分を世間の人は好奇な目で見てくるのではないか」……そんなふうに考えてしまい、なかなか外に出る気分になれませんでした。

そんななかで、息子の幼稚園最後の運動会がありました。妻と息子には来てほしいと言われていましたが、「変な目で見られたら嫌だなぁ」「息子が私のせいでイジメられたりしないか?」など、いろいろと考えてしまい、なかなか行く勇気が出ませんでした。しかし、この機会に行かなかったら外に出るきっかけを失ってしまうと思い、ドキドキしながら運動会に行きました。いざ行ってみたら、周りの人たちは私のことなど気にもしません。皆さん他人の私なんかより自分の子どもの活躍に夢中です。そのときに、世間から特別な目で見られると思っていた私は自意識過剰だったんだなぁと気づかされました。

そして、息子が「わーい、パパ来てくれたんだ」と、満面の笑顔で私のところに走って来てくれたことが、何よりも嬉しかったです。息子は私がつらいときに救ってくれる存在であることをつくづく感じました。

「世間の人は私のことなど気にしていない。私が勝手に世間の人から特別扱いされていると思い込んでいただけなんだ」

そう思えるようになってからは、積極的に外に出るようになり、今でも公園に行ったり、電車やタクシーに乗って遠出したりと、毎週外出しています。(私のわがままを快く聞いてくださるヘルパーの皆さま、いつも本当にありがとうございます!)

たまに外に出て、日光を浴びて、風を感じながら、暑さや寒さを通して季節を体感する。以前は当たり前だったそんな行為が、気分をリフレッシュさせ、日々の生活にメリハリをつけて豊かにしてくれますし、体調管理にもつながってきます。

なので、体が動かなくなっても、人工呼吸器を着けていても、周りの人を巻き込んで外に出かけよう!!

発信しよう!

ALSは徐々に全身の筋肉が動かせなくなっていく難病中の難病です。有病率は10万人あたり7~11人程度1)と推計されており、非常にまれな疾患です。今のところ治療法もなく、それぞれの症状に合わせて対症療法や生活の工夫を凝らしていくしかありません。ただ、症状や療養環境などの個人差も大きいことから、すべての患者さんに当てはまるような工夫はなかなかないのが現実です。

神経難病のケアを専門とされている先生がたが、いろいろな工夫を発信してくださっていますが、ALSはかなり特殊な病気です。意識はハッキリとしており、やりたいことや訴えたいことは明確にあるのにもかかわらず、体が動かせず、声も出せないので、うまく伝えられない。ただのジレンマとも違うこの独特な感覚は、当事者にしかわかりえない感覚であり、だからこそ当事者にしか思いつかない発想や、当事者にしか語れない経験談があるはずです。

なので、ALS患者自身がそれぞれの工夫や経験を発信して、それをつないでいくことが、ALS患者の未来を豊かにしていく方法なのだと思います。

それが可能なのは10万人のうち、たった7~11人しかいないのです!

ALS患者が自らのことを発信する。その行為自体にとても価値があり、それが誰かのためになる。そう思えれば、自分自身の生きがいにもつながっていきます。

自分の病気の経過を日記のようにブログに書くのもおすすめです。ちょっとした生活の工夫、介護者にされて嬉しかったこと、反対に嫌だったこと、など、内容は何でもよいのだと思います。今は誰でもSNSで発信できる時代です。一人でも多くの人が経験談を発信して、それを参考にして一人でも多くの人の生活が豊かになれたらいいなぁと思います。

コラム執筆者:医師 梶浦 智嗣
 
編集:株式会社メディカ出版

【参考・引用】
1)「筋萎縮性側索硬化症診療ガイドライン」作成委員会編.筋萎縮性側索硬化症診療ガイドライン2013.東京,南江堂,2013,2.

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