コラム

民間救急 搬送事例~超高流量の酸素投与をしながら自宅へ~

民間救急 搬送事例~超高流量の酸素投与をしながら自宅へ~

「最期は自宅で過ごしたい」ーー。そう希望しても、医療的ケアが必要な患者さんが自宅へ戻ることは簡単ではありません。特に、高度な酸素管理が必要な状態では、移動中の安全確保だけでなく、退院後の医療体制まで見据えた準備が求められます。今回は、ネーザルハイフローを使用しながら自宅退院を希望された患者様の搬送事例をご紹介します。病院、訪問診療、訪問看護、ケアマネジャー、そして民間救急がどのように連携し、「自宅で過ごしたい」という願いを支えたのか。その実際をお伝えします。

執筆:藤 健二郎(とう けんじろう)
執筆:藤 健二郎(とう けんじろう)
社会人経験を経て看護師となり、済生会福岡総合病院の救命救急センターで勤務。重症患者の看護に従事した後、大学院で看護師のストレスに関する研究を行い、急性・重症患者看護専門看護師を取得。現在は東京女子医科大学病院CCUでの臨床と並行し、ケアプロ株式会社 交通医療事業部長として、重症患者搬送や外出支援など「医療×移動」の分野で事業を展開している。
■ケアプロ株式会社「ドコケア」:https://dococare.com/transport

民間救急とは?
緊急性の低い患者の搬送を行う民間サービスのこと。多くは、消防庁の認可を受けて「患者等搬送事業(一般乗用旅客自動車運送業)」を行っている。

「自宅に帰りたい」という願いを支える搬送

前回の記事では、民間救急が「ただ移動を支援するサービス」ではなく、医療・生活・移動をつなぐ役割を担っていることをお伝えしました。
今回は、その具体例として、実際に私たちが対応した搬送事例をご紹介します。

患者様は、高流量鼻カニュラ酸素療法(High flow nasal cannula oxygen therapy:HFNC)の装置(以下「HFNC装置」)を使用して、超高流量の酸素投与をしながら、ご自宅への退院を希望されていました。

病院からご自宅までは車で約10分。
一見すると短距離の搬送ですが、超高流量の酸素を必要とする状態であり、搬送前の準備や関係職種との連携、車内での観察と対応が重要となるケースでした。

「自宅に帰りたい」という願いを支える搬送

事前準備と車内での医療的対応

搬送前には、退院前カンファレンスに参加し、病院スタッフ、訪問診療、訪問看護、ケアマネジャーと情報を共有しました。

ご自宅に戻った後も医療が途切れないよう、在宅チームとの連携を確認し、当日の流れを整えました。また、搬送中は弊社所有のHFNC装置を使用するため、酸素ボンベの残量確認や高流量に対応した流量計の準備も行いました。

FiO₂95%、50Lという設定では酸素消費量が非常に多くなるため、短距離であっても酸素不足が起きないよう準備する必要があります。

搬送当日は、車内でもバイタルサインを観察し、呼吸状態に合わせて酸素を調整しました。
また、呼吸が少しでも楽になるよう、呼吸法について声かけを行いながら、ご自宅まで慎重にお送りしました。

「自宅で過ごしたい」を支える搬送

ご自宅到着後は、待機していた訪問診療、訪問看護、ケアマネジャー、ご家族へ状態を引き継ぎました。

搬送中は弊社のHFNC装置と酸素ボンベを使用していましたが、ご自宅では同じ酸素量を継続することはできません。そのため、到着後は事前に相談していた方針に沿って、弊社の機器を切り離し、ご自宅で対応可能な最大量の酸素投与へ切り替えました。

そのうえで、訪問診療チームにより苦痛をできる限り和らげるための薬剤調整が行われ、ご家族に見守られながら、ご本人は静かに息を引き取られました。
この流れは、搬送後に突然決まったものではありません。

退院前カンファレンスの時点で、病院、訪問診療、訪問看護、ケアマネジャー、搬送チームが集まり、ご本人の状態やご家族の希望、自宅で可能な医療体制を確認したうえで共有していた方針でした。

「最期は自宅で過ごしたい」

その願いを叶えるためには、病院から自宅へ運ぶだけではなく、自宅に着いた後の医療やケアまで見据えた連携が欠かせません。

民間救急は、ただ患者様を移動させる仕事ではありません。
医療的な安全を守りながら、その人が望む場所へ移動することを支え、病院から在宅へ医療をつなぐ役割を担っています。

私たちはこれからも、患者様とご家族の想いに寄り添いながら、医療と移動をつなぐ搬送を一つひとつ丁寧に行っていきます。

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