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訪問看護の「医療DX」対応 総点検~2024年度診療報酬改定・介護報酬改定前に~

訪問看護の「医療DX」対応 総点検~2024年度診療報酬改定前に

今回は、2024年度のトリプル改定(診療報酬改定、介護報酬改定、障害福祉サービス等報酬の同時改定)に向けた準備として、すでに導入が決定・実施されている「医療DX」のしくみについて取り上げます。新たなシステム導入が必要なケースもあるため、早期の準備が求められます。

医療DX(ディーエックス)とは

今回取り上げる改定事項の前提として、改革の大枠となる「医療DX」について簡単に説明しておきましょう。DXとは、「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」の略称で、デジタル技術によって社会や生活のしくみを変えることです。これを医療に適用する「医療DX」とは、保健、医療、介護などで発生するデータをデジタル化し、クラウド活用によって現場の業務効率化や医療の質の向上に向けた情報の利活用を進めていくというビジョンです。

*「Transformation」の「Trans」は「X」に省略され「X-formation」と表記されることもある。そのため「Digital Transformation」の略称は「DX」と表記される。

対応の義務化や稼働予定のシステムについて

この医療DXに向け、2024年度の実施が決まっているのが、以下の2項目です。

(1)訪問看護レセプト(医療保険分)のオンライン請求の義務化(2024年5月から)
(2)利用者情報のオンライン資格確認の開始(2024年4月から)

また、すでにスタートしているしくみとして、以下があげられます。

(3)介護保険事業所の指定申請等にかかる電子申請・届出システム(2022年11月から順次実施)
(4)介護保険におけるケアプランデータ連携システムの稼働(2023年4月から)

いずれもオンライン対応のための端末やソフトが必要になるという点で、事業所としてシステム整備が必要です。中でも(1)は義務化が迫っており、事業所の対応は急務。そこで、まずはこの「オンライン請求の義務化」について取り上げます。

義務化される医科レセプトのオンライン請求

「医科レセプトのオンライン請求」は、2023年4月から原則義務化されていますが、訪問看護については義務化が先延ばしとなり、先に述べたように2024年5月(2024年4月診療分)から実施されます。ただし、介護保険分については、すでに2018年4月からオンライン請求が原則義務化(一定の要件を満たす場合には届出によって紙請求は可能)されています。

すでに介護保険分のオンライン請求を行っていれば、システム整備の土台はできていると思われますが、もう一度確認しましょう。

まずオンライン請求のシステム整備に必要なものは以下のとおりです。

【1】レセプト作成用の端末・ソフト
【2】オンライン請求用の端末とネットワーク回線
【3】電子証明書

導入に向けての作業としては、セキュリティ対策の実施、運用に向けたフロー・ルールの確認などが必要です。なお、【1】~【3】の準備の後は、システムベンダ(レセプトコンピュータシステム、医事会計システムの開発・導入事業者)が対応します。ベンダには、以下の「技術解説書」を示してください。

厚生労働省保険局「訪問看護レセプト(医療保険請求分)のオンライン請求開始に係るシステムベンダ向け技術解説書技術解説書案(最新)」(令和5年10月)
https://shinryohoshu.mhlw.go.jp/shinryohoshu/file/spec/R04_insurance_claims_v1.7_231026.pdf

事業者側の準備で戸惑いがちなのは、【2】のネットワーク回線でしょう。これについては、介護保険請求の場合と異なるので注意してください。ネットワーク回線への接続には、「IP-VAN接続(閉域の環境を確保して接続する方法)」か「IPsec+IKEサービスの利用」が必要です。いずれも、高いセキュリティが確保できる方法です。基本的には、どのインターネットサービス・プロバイダでも接続可能ですが、念のため以下の接続可能事業者一覧を参照してください。

社会保険診療報酬支払基金「オンライン請求及びオンライン資格確認等システム接続可能回線・事業者一覧表」(2023年5月1日現在)
https://www.ssk.or.jp/seikyushiharai/online/online_04.files/claimsys35.pdf

オンライン資格確認への対応も同時に

医療レセプトのオンライン請求と同時期(2024年4月)にスタートするのが、「オンライン資格確認」です。これは、利用者の保険資格の情報や薬剤情報等をオンラインで確認できるしくみ。審査支払機関のシステムに接続することで、その場で利用者の保険資格が確認でき、資格過誤によるレセプトの返戻が減り、業務負担の軽減が図れます。

オンライン資格確認は、保険医療機関・薬局等は2023年4月から原則義務化(やむを得ない事情がある場合の経過措置あり)となりました。ただし、訪問看護は対象外で、2024年4月からのスタートも「活用の義務化」ではなく、あくまで「利用可能」になるというものです。

とはいえ、訪問看護でも「オンライン請求」と「オンライン資格確認」をセットで考えておきたい事情があります。

例えば、「オンライン請求」と「オンライン資格確認」は端末の兼用が可能です。また、端末をオンライン資格確認用として、あるいはオンライン請求とオンライン資格確認を同時に開始できるよう準備した場合に、前者で「端末の導入費用」、後者で「ネットワーク回線の敷設費用」などの補助に向けた調整が国で進められています。

オンライン請求の準備で、導入・設置に向けたコスト負担をどうするか悩んでいる場合、オンライン資格確認への対応も同時に進めることで、補助金による費用捻出が可能になるかもしれません。

▼訪問看護レセプトの電子化に関する最新情報は下記サイトをご参照ください。
厚生労働省Webサイト「訪問看護レセプト(医療保険請求分)の電子化」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000190624_00002.html
(2023/9/15閲覧)

介護関連の届出・申請のオンライン化

次に、すでにスタートしているしくみへの対応です。

まずは、「介護保険事業所の指定申請等にかかる電子申請・届出システム」です。これは、介護サービスの指定や加算にかかる申請届出について、介護サービス情報公表制度の機能拡張により、オンライン上で行うことができるしくみです。

2022年11月から自治体ごとに順次スタートしていて、厚労省による2023年5月12日時点の調査では「2023年度の上半期までの実施意向」を示した都道府県および市町村は126にのぼります1)。現行で事業所に電子申請等が義務づけられてはいませんが、国としては活用を強く推奨しています。

まずは、各種届出先となる自治体がシステムに対応しているかどうかを各自治体HPで確認しましょう。その上で、電子申請・届出の手順としては、介護サービス情報公表制度にログインし、メニュー選択を行った上で申請届出内容を入力します。

システムの画面イメージは以下のとおりです。
厚生労働省「別添2_1 本システムの画面イメージ(事業者側)」
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000908038.pdf

その他Q&Aを含む総合資料は、以下のサイトを参照してください。

▼厚生労働省「介護事業所の指定申請等のウェブ入力・電子申請の導入、文書標準化」
https://www.mhlw.go.jp/stf/kaigo-shinsei.html
(2023/9/15閲覧)

ケアプランデータ連携システムはすでに稼動

介護保険の訪問看護を提供する事業所として注目したいのが、2023年4月から運用がスタートしている、「ケアプランデータ連携システム」です。これは、居宅介護支援事業所のケアマネジャーが作成する居宅サービス計画書(以下、ケアプラン)を、居宅サービス事業所(訪問看護事業所や訪問介護事業所、通所介護事業所など)とデジタルデータ(CSVファイル等)によってクラウド上で共有するしくみです。

これにより、ケアプラン1・2票の共有が図りやすくなるだけでなく、ケアプラン6・7票の提供票データをそのまま各事業所の介護ソフトに取り込むことが可能になります。居宅介護支援事業所にとっては、提供票の「実績」の転記が不要となるため、例えば転記ミスによる報酬請求の返戻を防ぐことができます。

同システムの詳細については、以下を参照してください。
国民健康保険中央会「ケアプランデータ連携システムについて」(令和4年10月 Ver.2)
https://www.kokuho.or.jp/system/care/careplan/lib/221125_5113_setumei.pdf

※本記事は、2023年9月15時点の情報をもとに記載しています。

執筆: 田中 元(介護福祉ジャーナリスト)
編集協力: 株式会社照林社


【参考】
1)厚生労働省「電子申請・届出システム 利用開始時期意向調査回答状況等について」(2023年5月12日時点)
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001099529.pdf
(2023/9/15閲覧)

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