インタビュー

看護師を支援するICTと教育のしくみ

精神科訪問看護に特化して運営しているN・フィールド。多くのステーションが人材不足で悩むなか、24時間オンコールの廃止、残業なしなどの「働きやすさ」で注目を集めています。しかしそれだけではありません。
人材育成やICTの活用などについて、取締役の郷田泰宏さんと看護師の中村創さん、精神保健福祉士の谷所敦史さんに語っていただきました。(以下敬称略

お話
郷田 泰宏
 株式会社N・フィールド 取締役
中村 創
 株式会社N・フィールド 看護師
谷所 敦史
 株式会社N・フィールド 精神保健福祉士


人材育成に独自の研修プログラムを整備

[郷田]
N・フィールドでは、入社した看護師の教育研修のため、「教育専任部」を設置し、独自のマニュアルや研修プログラムに沿って、体系的な教育を行っています。前回お話しした、オンコール体制をとらない、18時までの勤務などもそうしたプログラムの一環です。

精神科経験のないスタッフには、入社後にまず、定められている3日間の「精神科訪問看護基本療養費算定要件研修」を受講してもらいます。その後、マニュアルや動画を使用した社内研修で、精神疾患や精神科訪問看護の知識を身につけたうえで、同行研修を実施します。経験の少ない看護師には、自信がつくまで2人ひと組の同行訪問でOJTを実施し、ひとり立ちできるよう育成しています。

AIを活用してアセスメントを可視化する

精神科医療は他の診療科に比べ、アセスメントや診断に科学的根拠を示しにくい領域です。精神科訪問看護においても、アセスメントは看護師一人一人の観察眼や感覚に頼るところが大きく、客観性や科学的根拠についての課題が指摘されていました。

そこで当社では2020年にアセスメントを可視化し、判断に科学的根拠を提供する看護支援システム「TWiNSS」を導入しました。

「TWiNSS」とは、看護師が訪問後に作成し、蓄積された日々の看護記録をAIが読み込み、記述されているキーワードの集積から、個々の利用者の症状の変化をグラフと点数で可視化するというものです。

「TWiNSS」はコミュニケーションを活発にする

利用者さんの心身の調子の「波」を可視化することで、入院のリスクを早めにキャッチでき、早期対応が可能になります。また、どのような治療や支援が有効であったか、これから必要になりそうかなどを、担当看護師とは違う視点からの情報が提供されるため、ステーション内のカンファレンスでの議論が活発になってきました。

ベテラン看護師でも、自分のアセスメントと異なる情報が「TWiNSS」から示されることがあります。それもまた意義があると私たちは考えています。

どちらのアセスメントがよい、ということではありません。アセスメントの違いをどう分析するのか。いろいろな可能性があるなかで、利用者さんにどのようなかかわりをするのか。そこに議論が生まれることで、ステーションとしての一体感が高まります。看護の「熱」を増すことにつながるコミュニケーションツールだと感じています。

もちろん、人がつくるこうしたシステムに完璧はありません。「TWiNSS」も、まだ改良の余地があると思っています。看護記録の様式や用語の統一など、これからさらに精度を上げていって、将来的には病院でも導入してもらえれば、退院時にスムーズに利用者さんの情報を在宅に引き継ぐことができます。

看護師の『肌感覚』ではつかめない異変をキャッチ

[中村]
「TWiNSS」を現場で活用していると、しばしばびっくりするぐらい的中することがあります。

支離滅裂な言動もなく、安定していたためノーチェックだった利用者さんがいました。ただ看護記録には、「『少し足が痛い』と言っている、せかせか歩いている」という記述がありました。そういった記録が増えた月の翌月初に、その方の入院リスク値が40%から70%にポーンと高くなったのです。

どうしたのだろうと思っていたら、その月に実際、入院されてしまいました。記録を丁寧に見直したら、せかせか歩いていたのは、近隣とちょっとしたトラブルがあって、不安から落ち着かなくなっていたからでした。結果的に、焦って歩いて転倒し、骨折してしまったのです。

看護師の肌感覚では「逸脱した精神症状はみられないので入院からは遠い」と思っていた人でしたが、これはまったく別の視点ですよね。なるほどそういうことだったのかと思いました。

ベテランスタッフが一人増えたような感覚

[谷所]
私は、「TWiNSS」の導入はベテランのスタッフが増えたような感覚だと思っています。
一人で利用者の家を訪れる訪問看護師は、十分な自信がないと「これで大丈夫だろうか」と不安になることがあります。利用者のわずかな異変に気づけるか気づけないかは、訪問した看護師しだいともいえるからです。

これまで異変を見出す感覚・視点は、精神科においては、職人芸的なものとして醸成されてきました。しかし、「TWiNSS」はそれを、「ここもちゃんと見てきた?」と、気づきにくかったところを補完する役割を果たしてくれます。

これからは「TWiNSS」のようなICTツールの活用によって、もっとアセスメントの客観的根拠を増やしていきたいと考えています。

記事編集:株式会社メディカ出版

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