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インタビュー
2021年4月27日
2021年4月27日

低い離職率を実現する採用戦略と教育システム

人材不足が大きな問題となっている訪問看護業界。株式会社ツクイは訪問看護事業を拡大しつつも、低い離職率を実現しています。 今回は、事業企画推進部部長の竹澤仁美さんに、離職率低下につながる採用戦略や教育システムについて詳しくお話を伺いました。 採用プロセスの工夫 ―看護師の採用において何か工夫されていることは? 竹澤: 特別なことはしていないですが、採用説明会は時間とお金をかけて必ず3日間ほど開催し、私も必ず行くようにしています。その後体験会も実施しています。説明会の参加者は多いときで1日10~20人ほどで3回に分けて行うこともあります。 応募は、ハローワーク経由でも十分にありますし、友達の紹介や、社内の紹介制度で社内移動してくる人もいます。また、各地域に配属されている、リクルーターという採用担当者から、各地域の状況や分析した情報をもらっています。 ―説明会の後はどのような採用プロセスなのでしょうか。 竹澤: そのあとは一次面接が管理者、二次面接は私かエリア長が行います。管理者面接の場合は、私が一次面接から行きます。採用面接は大事にしていて、会社の概要から訪問看護の説明も含め一時間くらい話し、そこから面接に入ります。 その後着任するまでは、リクルーターから状況確認や必要資料の手配など、しっかりフォローをするようにしています。 ―応募される人は、病院に勤めている人が多いですか?皆さん、どのような理由でツクイを選ばれるのでしょうか。 竹澤: 休職中の方もいますし、病院勤務の方もいます。会社が大きいということと、会社としての教育体制が整っているという部分をご評価いただいているようです。 給与体系が東京を標準として全国で概ね一緒であることや、管理者にも残業代が出るという部分も理由かもしれません。 採用時大切にしているポイント ―採用する側として、こういう人を採用しているとかはありますか。 竹澤: 採用基準は設けていませんが、「つくいびと」という社内の指針に合っているかを面接で見ます。人間性が一番のポイントですね。看護経験はあとから積算できますし、看護技術や知識はこちらで教育することができるので。 最近、経験年数は少ない若い看護師が入りましたが、病院の経験に根付いているベテランよりも、若い子の方がスッと入り込める部分もあり、お客様からのクレームもすごく少なかったりします。そのとき最善の判断や、対応ができるようになるには時間がかかるかもしれませんが、新人の看護師でも採用して育てられる土壌にしていくのが目標です。 ―管理者はどのように探し、アサインされるのでしょうか? 竹澤: 知人の紹介などもありますが、他社と同様に人材紹介会社やハローワーク経由での募集もします。ツクイブランドの力もあってか、応募は結構あります。皆さん一般職で応募されてきますが、その中から「この人なら管理者に向いているな」と思った方をアサインします。 管理者になる人は、管理者経験や病院などで主任や副師長などをやっていた人が多いのは事実ですが、ツクイの管理者業務は明確に文章化されていて、わからない事を聞ける体制もしっかりしているので、引き受けてくれる方が多いです。 ―離職率はどのくらいですか。低い離職率を実現するためには何が必要でしょうか。 竹澤: 一年間で辞めた人は、10%ほどです。ミスマッチがないよう、採用面接のときにツクイの将来性も含めて、働くイメージをわかりやすく伝えるようにしています。 訪問看護だけでずっと働いて、疲れ果てて辞めてしまうということにならないよう、社内で異動ができたり、次のステージを用意したりして、夢を持って仕事をしてほしいという話もします。ご縁があってツクイで働いてくれている看護師には、「ツクイで働いてよかった」と思ってもらいたいです。 管理者には「10褒めて、1指導する」ということを伝えています。この仕事はストレスも多いので、スタッフに感謝を伝えることを大切にしています。 教育システムを効率化する ―教育についてはどのようなシステムになっているのでしょうか。 竹澤: 最初に、「ツクイの基本」を身に着けてもらいます。e-ラーニングを使って、制度の事や記録、ハラスメント、ダイバーシティ、コンプライアンス、ツクイの考える育成、衛生管理などさまざまな内容を3日間で受講します。 その後、管理者や所長によって看護のオリエンテーションを行い、現場でのOJTとなります。現場が忙しい事業所だとOJTに入りながらオリエンテーションを行うところもありますが、2021年度からは管理者に負担をかけないよう、WEBでも教育サポートができる体制を整えていく予定です。 ―OJTの後はどのようなフォローを?教育パスはあるのですか。 竹澤: 看護ではおおまかな教育パスのようなものがあります。一人ひとり経験値が異なるので、目標設定は管理者がそれぞれに応じて行い、フォローしていきます。 管理者教育に関しては、定期的なe-ラーニング研修を年に2回行い、数字の見方、営業戦略、医療的な内容などを学びます。新しく入った人が管理者になる場合は、導入研修のあとに試験があり、それに受からないと管理者にはなれません。 また、ツクイではキャリアパス制度を設けていて、スペシャリストコースとマネジメントコースに分かれています。eラーニングの中にも、それぞれのコースに沿った内容があり、一人ひとり、特性に合ったコースを選択できます。 管理者にはなりたくないと思っていても、スペシャリストとしてキャリアアップすれば給料もあがりますし、専門性も高めることができます。 ―それらの教育システムは誰が作っているのですか? 竹澤: 人事です。項目は100から200ほどありますが、今後は訪問看護ならではの項目も入れたいと考えています。日本訪問看護財団が出しているeラーニング(※1)も受講してもらっています。 教育システムはすべてマニュアル化され、eラーニングの見方から、いつ管理者になっても困らないようなシステムを整えています。 また、サービス管理部では、事故起こしたときの対応から書類の書き方まで、管理者がそれを見れば対応できるようなシステムを作っています。まだ足りていない部分もありますが、介護事業でツクイが培ってきた経験が、教育システム作りに活かされていると思います。 ―今後、教育に関して取り組んでいきたいことはありますか? 竹澤: ラダーにそった教育を可視化できるようにしたいです。導入研修や管理者研修など、管理者向けの部分が多いので、スタッフもスキルアップできる制度を作りたいと思っています。 他社のような研修室をつくるのもいいなと思います。オンラインもいいですが、対面でできる研修も大事にしたいです。   【参考】 ※1 公益財団法人 日本訪問看護財団 eラーニング https://www.jvnf.or.jp/e-learning/ ** 株式会社ツクイ 事業企画推進部 医療系事業プロジェクト 部長 竹澤仁美

特集
2021年4月21日
2021年4月21日

訪問看護あるある座談会 vol.3 服装・持ち物編

前回のインタビューでも少し出てきた、訪問看護の冬の寒さ対策。それ以外にも、雨の日の服装や訪問看護バッグなど制服以外についても悩む訪問看護師さんも多いのではないでしょうか。前回に続き、3人の訪問看護師さんにお集まりいただき、服装・持ち物をテーマに訪問看護の「あるある」についてぶっちゃけトークをしてもらいました。 冬の雨が辛い!訪問看護の冬の服装どうしてる? ゆり:何が言いたいって、雨で一番つらいのって冬の雨だと思うんですけど、どう思います? りさ:本当にそう!手袋選びからですよね。毛糸の手袋とかは使えない…。 ゆり:ワークマンの手袋知ってます?内側にフリース素材入ってて暖かいんです。内側がもこもこのブーツもワークマンにあるんですよ。 みほ:うちのステーションでもワークマン流行ってて。あったかグッズが安く買えていいですよねー。 りさ:ワークマン人気ですよね。横浜のほうにワークマン女子のお店がありますね。 ゆり:まさに訪問看護師こそワークマン女子になるべきですよ! みほ・りさ:笑 ゆり:バイクで訪問してるときは防水防風のジャケット着てたけど、リーズナブルでしたよ。訪問看護師にはワークマンかファストファッションブランドがおすすめ! みほ:きっとみんなお世話になってるはず! りさ:暖かい靴下も欲しいですよねー。 ゆり:たしかそれもワークマンに売ってると思う。作業員さんが着るようなやつ。ほら、私たちも外出る仕事だからぴったりじゃない!? みほ:確かに! 悩める訪問看護バッグ。経費で落ちるのはどこまで? りさ:訪問カバンも良いのがあるといいですよね。 みほ:迷いますよね。訪問カバン。 ゆり:既製品で売ってる訪問バッグって小さいし、ポケットが多いのはいいけど、どのポケットに何入れたかわからなくなるんですよね。 りさ:そうなんですよね。小物がどこ入れたか分からなくなりますよね。 ゆり:小物整理は100円ショップのメッシュポーチを何個か持つようにしてて、マスク、処置材、不織布とか入れてますね。 りさ:私も同じようなポーチ使ってます!はさみとか手袋とか入れてます。 ゆり:こういうメッシュポーチ使いやすいですよね。あと、認知症の利用者さんなどにメモを残すのに、A4のメモも100円ショップで買って。 みほ:A4メモとふせんはマストですね。ヘルパーさんにもメモ書いたりしますし。 ゆり:経費で落ちるといいんですけど、結局自分で買っちゃってるんですよね。 みほ:私も自腹で買ってます…。細かいので経費で落とすのも面倒になっちゃうというか。 ゆり:事務所にあるものもあるけど、それ以外は割と持ち出し多いよね。訪問看護師。 りさ:たしかに。意外とそうですね。 みほ:ちなみに、アウターとか訪問バッグって経費で落ちますか?アウターが意外と高いから経費で落としてもらえないか交渉したんですが、ダメだったことがあって。バッグは補助出るんですけど、他のところはどうなんだろうと思って。 ゆり:うちはアウターは出ない。バッグは貸し出しがあるけど、直行直帰の人は自分で買うルールになってる。カッパも経費出ない。 りさ:カッパ、意外と高くないですか? ゆり:ちょっと高いよね。バイクの時は上下のカッパ着てたけど、今は自転車だからカゴまで覆えるポンチョを着てる。雨が強い時はその上にもう1枚ポンチョを重ねて、長靴履いてしのいでる。 みほ:なるほど!うちはカッパは支給があるんですけど、ボロボロになっちゃったので結局買いましたね。 りさ:うちはカッパはわりとしっかりしたやつを支給してもらいました。制服代として年間2万円まで支給するから自由に買っていいよっていうスタイルで、それを使ってスクラブとかヒートテックを買っていますけど、結局お金が回らないからアウターは自費ですね。 みほ:でも支給でるのはいいですね。 ゆり:税理士さんに聞いたことがあるんだけど、制度的に経費で落ちる物もあるはずなんですよ。お金関連のところ、看護師は疎いと思います。 みほ:たしかに。善意で持ち出しばかりするんじゃなくて、会社に負担してもらえる部分もあることを看護師側も知っておくことが大事ですね。 ゆり:これは必ずかかるから経費に計上してもらいたいとか。でもなかなか難しいですね。 りさ:お金の話は疎い自覚あるし、詳しい友達の方が少ないですね。その辺りをもっと知れるといいです。 ゆり:税理士さんとかから話聞けるといいよね。 ** NsPace編集部より本記事掲載にあたり、NsPace編集部がワークマン様に掲載許可をいただきました。ありがとうございました。 記事編集:NsPace

インタビュー
2021年4月20日
2021年4月20日

多職種スタッフ連携による訪問看護サービス

せわのわでは、調剤薬局が在宅医療の支援に力をいれていることが一つの特徴になっています。第2回は、訪問看護ステーションと調剤薬局、栄養ケア・ステーションとの連携について、引き続き、事業支援部長の半田さん、せわのわ事業本部長の目井さん、そして訪問看護管理者の竹之内さんに伺います。 在宅支援に力を入れる調剤薬局 半田: うちの調剤薬局は、「せわのわ在宅支援&健康薬局」というように在宅という名前を入れているのが象徴的で、とにかく地域の在宅医療に深くコミットするというのが一番の理念です。 もちろん処方箋の対応など一般的な機能は持っていますが、処方箋を多くさばくということより、地域の医療に必要とされるタイミングで必要とされることをやるというのが大きな目標です。そのため、薬剤師二人で毎日のように訪問もしているので、在宅はちょっと…という方は採用できないですね。 目井: 薬剤師がもっと在宅にも出ていくべきで、意識改革が必要という話は、昔から代表取締役の田中ともしていました。今後のことを考えると、薬局も店舗閉鎖していくところは増えるでしょうし、薬剤師も余る時代が来るはずですから。 ただ、現実には在宅をやりたいという薬剤師はまだ少ないですね。薬剤師は病院や薬局で白衣を着て、カウンターで受付をする仕事というイメージがあると思うので。 半田: 今は薬学部で在宅医療についてもカリキュラム化しているので、若い世代は比較的在宅のイメージを持っている人もいるようですが、これまでの環境でやってきた人には訪問で個人宅にあがりこむ…となると、ギャップが大きいでしょうね。 竹之内: 今、うちにいる薬剤師は、在宅がやりたくて来てくれた人です。あれこれと意見を言い合えますし、お互いに連携、協力できる環境にあると思います。 例えば、利用者さんが「やっぱり薬は自分で入れないと…」と焦るような気持ちがあったり、薬の残数が合わなくなってしまったりすることがありますが、うちでは処方箋を一枚持ってきてもらえれば薬剤師にカレンダーセットしてもらえて手間がなくなるよと言えますし、僕らもその分、他のケアにまわせます。それをきっかけに次から頼んでくれる方もいますね。 そのほかにも訪問看護先で、利用者さんの薬のフォローをしてもらう場面が多いです。今出されている処方と前の病院で出されていた処方が混在していると、どれをどのようにしたらいいのか迷いますが、そこに薬剤師が入ってくれることでスムーズに確認ができます。また、在宅では麻薬の管理も難しいところがありますが、ICTを活用してオンタイムでアドバイスをもらえたりすることが、安心材料にもつながっています。 病院にいる感覚と近く、お互いに情報共有することで利用者さんにとってもプラスになるし、協力関係がいい形で結果につながっていると思います。 ―認知症で薬の管理が難しい方とかの依頼は? 竹之内: 調剤薬局と一緒に訪問に入ってほしいと言われるのは、認知症やターミナルの方が多いです。一度訪問すると、リピーターになっていただける確率が高いですね。 こうした在宅の取り組みが増えれば、これまでの調剤薬局とは全く違う形になると思います。 栄養ケア・ステーションの位置づけ 目井: 認定栄養ケア・ステーションは、地域の方々の栄養ケアの支援・指導をする拠点として日本栄養士会から認定されている施設です。管理栄養士が常駐して、栄養の相談を受けています。 また、食堂では調理師がメインで働いていますが、メニューの一部アドバイスなどもやってくれています。毎日栄養相談がある訳ではないので、ここでは事務スタッフ兼管理栄養士として働いていてくれていて、通常は訪問看護や薬局の事務をやりつつ、必要が生じたときに管理栄養士として動いてもらう形です。 ―褥瘡の方や低栄養の方の食事管理やアドバイスなどは? 目井: 元々は、摂食や嚥下障害の方の栄養指導などで、言語聴覚士(ST)と栄養ケア・ステーションが密接なつながりをもって展開していきたいと思っていました。2020年の4月から栄養ケア・ステーションにも保険点数がつくようになったのですが、まだ件数も少ないのでこれからですね。栄養ケアというニーズが世の中にあまり出てきていないので、しっかり稼働している栄養ケア・ステーションは多くはないかもしれません。 専任スタッフをどのように配置するか、事業制度としてどうするのかなど課題は多いですけれど、東京栄養士会がイメージしているのは、せわのわのようなモデルだと言って期待してくださっているので、調剤薬局、訪問看護ステーション、食堂、栄養ケア・ステーションの4部門で、このまま頑張っていきたいです。 ** 株式会社キュアステーション24 せわのわ事業支援部 部長 半田 真澄 30年以上臨床検査領域で働いた後、2013年にTRホールディングスグループに入社。代表取締役の田中氏とは社会人1年目が同期という縁。せわのわでは主に業務全般のサポートを行っている。 株式会社キュアステーション24 取締役/せわのわ事業本部 本部長 目井 俊也 ゼネコンや外資系保険会社などを経て、まったく畑違いの介護業界に。訪問介護ステーションやデイサービス、サービス付き高齢者向け住宅などの開業・運営経験がある。 株式会社キュアステーション24 訪問看護事業責任者/管理者 竹之内 航輝 総合病院の脳外科や透析外来に勤務後、訪問看護ステーションの管理者になるための経験として看護師の人材紹介会社で働いた経験を持つ。代表の地域貢献に関するビジョンや、スタッフに対する思いなどに共感し、せわのわ訪問看護ステーションに入職。

インタビュー
2021年4月20日
2021年4月20日

1年間で10拠点!スピード出店の秘訣

訪問看護事業に参入し、1年間で10拠点の出店を果たした、株式会社ツクイ。大手介護事業所が訪問看護事業に参入するにあたり、様々な課題にたいして地道な取り組みをされたそうです。 今回は、事業企画推進部部長の竹澤仁美さんに訪問看護事業参入の実態や、新拠点での運営戦略、今後の出店戦略について詳しくお話を伺いました。 介護事業所が訪問看護事業に参入するときのハードル ―ツクイさんは多くの事業を展開してきた中で、なぜ今、訪問看護なのでしょうか。 竹澤: 実は7年前に、既に広島と札幌、横浜に訪問看護ステーションがありました。しかし、売り上げが伸びなかったり、看護師のコントロールができなかったりと、福祉を軸としてやってきた会社としては、医療系事業の訪問看護ステーション運営は中々難しかったようです。そのため、あえて最初は3拠点から増やしませんでした。 その後は地域連携を進めながら、複合的にサービスを展開している地域や、会社が定める重点地域に立てていきました。 今は全国にあったほうが、その地域の既存サービスとのシナジーや、日本全土での自社サービスのシェア状況、地域差など見られるのでいいと思っています。 ―介護の会社で訪問看護を行う難しさってなんでしょう? 竹澤: 絶対的価値観をもって働く専門性の高い看護師と、相対的価値観でお客様の考えや思いに寄り添う介護士の考え方のギャップだと思います。そこをマネジメントするのが難しかったです。 あとは、給料のこと。看護師の専門性に見合った給料体系でないと訪問看護は成立しないと考え、私は給料の見直しからはじめました。 今でも苦戦しているのは、今ある社内ルールの中で新しくルールを作り上げていくことです。 ツクイでは1事業所あたりの付与されるパソコンや車の数が、利用者数やスタッフ数など、事業所の規模によって決まっています。そのため、パソコンや車をすごく少ない数で回すことになるので、訪問が終わってから記録をするのにパソコンが空くのを待たなければならず、その間どんどんコストがかかってしまいます。数千円のリースでそれぞれにパソコンを貸与したほうが効率は上がると思うのですが、「看護師だけ特別扱いはできない」と言われることもありますし、違和感を持たれることもあると思います。 ―竹澤さんは現場と経営陣との間にいる立場かと思いますが、どのように調整をされるのでしょうか? 竹澤: 経営陣と考え方が違って相いれないときでも、喧嘩するのではなく、粘り強くこちらの意図を説明して落としどころをちゃんと見つけるようにしています。訪問看護の責任者である私と経営陣との間に溝ができると、全国の看護師が損をするので、時間も体力も必要ですが、経営陣とは一枚岩になるように対話を重ねることを大切にしています。 ―今の組織体制はどのようになっているのですか? 竹澤: エリア長がいて、部長、所長、管理者がいます。私は部長とエリア長を兼務しています。現在、エリア長は1人ですが、いずれは西東北の3つのエリアに配置したいと思っています。エリア長はプレイヤーにはなりませんが、他はプレイヤーにもなります。 管理者として配置はできませんが、理学療法士を採用し、所長となって管理者を育成する立場で働いていたりもします。 ほかにも、決まった拠点を持たずにいくつかの事業所をみる主任所長というポジションもあり、これをエリア長が管理しています。 新しく出店する際の運営ポイント ―出店拠点を広げていますが、新しい拠点での運営方法のポイントはなんでしょう? 竹澤: 重点地域では、いろんなケアマネージャーさんや病院との関わりがあるので、ツクイの事業所が多くある拠点に行くと、「ツクイさんがやっている訪問看護」という信頼感があるようです。ツクイブランドに信頼感を持っていただけていると、訪問看護の出店もしやすく感じます。 新しい拠点のアプローチは、病院などの医療連携を先に行い、医療依存度の高い利用者さんや特別訪問看護指示書に基づいて頻回訪問が必要な利用者の受け入れを行っていきます。だんだんと訪問枠が埋まってきたら、隙間を埋めるようにして、ケアマネージャーから紹介を受けた介護保険の利用者さんの受け入れに力を入れていきます。 会社としては、訪問件数が増えることは望ましいことですが、むやみに多くすることはしません。訪問件数や訪問単価等は全部数値化していますが、1時間換算で一人あたり月80件訪問くらいが、経営的にもスタッフの負担感も丁度良いと思っています。 ―今後の訪問看護ステーション出店戦略について教えてください。 竹澤: 今、M&A含めて動いているものもありますが、一気に増やすというよりは、一拠点一拠点を少しずつ増やそうと考えています。重点拠点とマッチしたところに、ご縁があればいいですね。 目標は6年くらいで47都道府県に展開することです。2021年度に伸びてきそうな拠点がいくつかあるので、サテライトも3店ほど、新店舗は5か所ほど、ホスピスも考えています。 一人の利用者さんを要支援のときから、要介護度が上がって要介護になったとき、そしてお看取りまでみられる流れを作っていきたいと思っています。せっかくお世話させていただいても、「要介護度が高くなったらみることができない」というのはしたくないですね。 ** 株式会社ツクイ 事業企画推進部 医療系事業プロジェクト 部長 竹澤仁美

インタビュー
2021年4月20日
2021年4月20日

地域密着型のオンリーワン戦略を貫く

さまざまな先進的な取り組みを実践し、精神障害を持った方々の在宅支援を行うKAZOCの看護師とは、どのような人が適しているのでしょうか。最終回は、KAZOCで求める看護師と、今後の事業展開について邊乾さんに伺いました。 病院職員の地域での受け皿として 渡邊: 訪問看護ステーションを作ったとき、患者さんだけではなく病院スタッフの地域移行も重要と考え、その受け皿を作ることもコンセプトに入れました。 うちのスタッフは、8割ほどが精神科病院の経験者ですが、訪問看護は未経験が多い。中には精神科未経験のスタッフもいますが、僕らがやろうとしているのは日本の精神科病院の問題を解消することなので、むしろ精神科未経験のほうが業界の変な刷り込みがなくて支援においては良かったりします。 「精神科の経験がなくても大丈夫か」と気にする人が多いのですが、一般科を経験した人は、ケア技術や対人援助などの部分ですごくホスピタリティが高いことがよくある。そういう面では精神障害を持った方々にもいい影響を与えるため、そのスキルを活かしてほしいと思います。 -新しく入職した人はどういうステップを踏んでいくのでしょうか。 渡邊: 今まで新卒は採用したことはありませんが、新人のステップとしては、まず訪問先の人と知り合いになることからはじまります。最初の2~3か月は同行訪問としてついていく感じですね。 能力差が出ることはわかっているので、質を均一にするために利用者さん一人に対して3~4人のチームで回していきます。若くて経験が浅い人がついても、次はベテランに入ってもらえますから。 またステーションのコンセプトが、「管理しない、変容を求めない」なので、ここは一番徹底したいところです。 他のスタッフのやり方をみて、自分だったらどうするかを考えて欲しいです。そのために相談できる時間があるし、一人で抱え込まなくて済む構造にしているので自分のペースで少しずつマイスタイルを作っていく感じです。 統一した型や技を求めるところもあると思いますが、うちはマイスタイルで、いかに多様な価値観を持ち込み、広げていくかというところを重視しているし、それが専門性なんだと思っています。 -採用のときには、どういうところをみますか。 渡邊: チームワークがとれるかは大きいですね。チームで動いていくので、個人のスキルアップを重視している人は、個人担当制の事業所の方がいいかもしれません。 先ほどマイスタイルでいいと言いましたが、その中でも権利擁護の部分はかなり意識しています。権利をちょっと抑制してでも治療を優先するというのがマジョリティ側の考え方かもしれませんが、そこに問題意識を持っているのがKAZOCなので。 例えば、生活保護を受けている利用者さんが引っ越したいと言ったときに、福祉事務所はなかなかOKを出さないので、あの手この手の作戦が必要となります。僕らからすると、エビデンス的にも引っ越ししたほうが在宅維持率は高くなるし、引っ越しは支援すべきなんですが、別の視点でいうと、引っ越しといっても税金はかかるし、手続きは面倒だし、それはわがままじゃないか…ということもあるわけですよね。 ましてや、それは医療ではないし、訪問看護の枠を出ている、私たちのやることなのか?という人が出てくると、チーム内でしんどいことになるので、採用のときにそうした考え方はある程度はすり合わせていますね。 地域密着型のオンリーワン戦略を貫く -今後、渡邊さん個人、またはグループ全体で取り組みたいことはありますか。 渡邊: 僕らは、入院中心から地域生活支援への転換が大義名分なので、そこに挑戦し続けることが第一です。そのために、自分たちが地域資源となり、その資源を増やしていく…。基本的には地域密着型のローカルなネットワークをつないで機能させていきたい、全国展開というよりは今の地域の資源を強化していきたいという思いが強いですね。 その意味で言うと、ネイバーフッドプロジェクトには作業所と不動産部門がまだなくて、そこを作りたいという考えもあります。宅建を持っているスタッフもいるし、融通の利く不動産屋が自前であると強いですからね。 ビジネス的な話をすると、精神科の訪問看護は雨後の筍状態。そこのパイを取り合うので、営業体制がしっかりしている大資本は優位になりますよね。大手が同じエリアに出てきた瞬間に、僕らのような小規模事業所は依頼が厳しくなるので、新しいルートの顧客開拓を考えないといけません。 大手にできなくて僕らだからできること…と考えると、やっぱり顔繋がりみたいなローカルネットワークなんです。そのパイプが大きな生命線となります。 僕がわざわざ精神科に特化させた理由は、一般的な地域包括システムとは違う精神科独自のネットワークを持っているということで、それが存在意義そのものだと思います。スペック勝負になってしまうと大手などには到底敵わないので、これからもニッチな領域でオンリーワンの存在として奮闘していきたいです。 その意味で、新規で訪問看護ステーションを立ち上げたい人がいたら、僕はオンリーワン戦略を勧めますね。 自分の旗を立てて、そこに賛同する人たちで集まって一点突破を狙う。そして、それは社会的なものであったほうがいい。自分たちがうまくいけば、業界全体が良くなる可能性を秘めているという思いを持てるので。とはいえ国際的なエビデンスは大事なので、外のものを取り入れて自分たちの取り組みとすり合わせていく。そういうフットワーク足腰の軽さや、柔軟性など…、取り入れと融合がオンリーワン戦略には非常に重要だと思っています。 ** 株式会社Neighborhood Project 代表取締役 訪問看護ステーションKAZOC 作業療法士・精神保健福祉士 渡邊 乾 都内の精神科病院に就職し、日本の精神科医療の現実を知る。その後、浦河べてるの家、イタリア・トリエステの活動を視て地域支援を志す。2013年に精神科訪問看護ステーションKAZOC(かぞっく)を開設。当事者研究、ハウジングファースト、オープンダイアローグなどの先進的な手法を取り入れ、精神疾患を持った人たちの在宅生活を支援している。

コラム
2021年4月20日
2021年4月20日

訪問看護の社長業~創業経営者 水谷氏から学んだこと 営業編②~

第6弾は前回に引き続き、営業に関する方針を列記します。「営業」という言葉やその活動に違和感を訴える医療職が多いのは事実ですが、「営業」をしなければ健全で永続的な経営が成立しないのもまた事実です。経営者・幹部の皆さんは建前ではなく、真に地域や社員に利益を還元する為にも、是非「営業」を実践してください。 営業方針 ①お客様・ご紹介先への訪問によって、お客様や市場の要求の本質、変化を知ることができます。さらに、ライバル(競合事業所)の動向も具体的に情報が入ります。相手の手の内が解れば、打つ手は無限です。ただし地域には不正・不当を行う競合事業所が存在し、(医療介護業界においても一般社会と同様です) 他社の模倣ばかりを行なったり、横取りも平気で行います。これらとは毅然と対峙し、営業力・経営力で凌駕(りょうが)(=上回ること)します。 ②安定とは現在のお客様をよく守ること、成長とは新しいお客様が追加されることです。どんな事業でも売上増の原則は、単価×数量です。訪問看護の制度上、単価は一緒なので、数量を獲得する為の追及が重要です。その為の営業方針であり、営業戦略・戦術なわけですが、ソフィアメディ(株)創業経営者の水谷氏は「1年前と同じお客様数しかいない経営者に敬意を持ちません。成長が止まっており不遇を味わうのは社員だ。」と経営幹部に指導していました。 ③決めたエリアの市場占有率(シェア)が大きいか?小さいか?が優良・限界企業の定義です。一定地域内で市場占有率がどの位置にあるかということに、常に留意しなければなりません。 そして質の高い経営とは、全て単位あたりの数値(※1)で他社と比較して有利を得ていることです。 ※1:事業所あたりの売上・利益、1人あたりの労働生産性、社員の給与、社内教育の投資額、お客様や社員の満足度等々、全てにおいて1番を目指すことが質の高い経営だと、水谷氏は説きます。その大前提が地域内でシェアが1番大きいことなのです。 ④営業戦術を実施する際、例えば営業のツール1つを作成して地域へ案内するだけでも、シリーズ化、ストーリー型、派生型等があり、唐突な内容ではなく脈略のある手の打ち方、機微を読むセンスが肝心です。とくに「感動を与える」と、その内容を人に喋りたくなり、口コミでお客様が増えていきます。感動する「コト」を実践し続ける企画力が、営業コミュニケーションの一つのコツです。 ⑤定期訪問営業の信頼性の上に立った提案、企画はよく通ります。不定期で洗練されていない、欲しいときだけの自分都合の営業は、不快感を与えます。ご都合主義の営業にならないよう計画を立て、実践してください。また、年数回でかまいませんが、社長・幹部・管理者・専門職の同行営業も実施すると営業効果は抜群に上がります。節目節目で時間を作って、こちらも計画的に実践することが大切です。 一方、地域の競合事業所において、非医療職の総合職が定期訪問をしている場合は要注意です!彼らは、医療介護業界の慣例・常識にとらわれず、成果を上げる為の知恵を駆使してきます。裏に参謀・軍師の存在がありますので、戦略・戦術のレベルを上げる必要があります。戦略・戦術のレベルを上げるのは一朝一夕では成せませんが、まずはそういった競合他社がいないかアンテナを張る、その上で前述のとおり相手の手の内を研究し、一つ一つ課題をクリアしていってください。 ちなみに、専門職がたまに営業をしている組織は放置しても問題ありません。仲良くしてください。 ⑥紹介成果は、訪問回数の二乗に比例します。これはランチェスター戦略の基本ですが、期待以上の効果を発揮します。 営業訪問した際、ご不在時でも必ず置き名刺にコメントを書いてください。また、名刺を工夫する、時流/自社ニュースを提供する、時節の挨拶関連、はがきのお礼は必須です。すべて接触頻度を上げる為の知恵ですが、ただ実践すれば良いということではなく、感性(センス・先読み)と人間性(気が利く、誠実)が最高の差別化になります。 ⑦メーリングリストやライングループ、クラウドのプラットフォーム等は、毎日の共通認識手段です。競合情報・必要な指示・評価・労いは、遠慮なく書込むこと。社長は営業現場を大事に考え、毎日確認するのが必須です。 ⑧基本である訪問営業と併せて、SNS・ICTの駆使、メディアの活用、双方向性のある媒体営業の活用が医療介護業界の課題です。これを制する事業者が次世代の医療介護業界を牽引していくものと見ています。 ⑨営業がわからない・嫌い、売り方が下手な者は、経営幹部として通用しません。 大きな会社になると分業化が加速しますが、商売の基本は、まず営業です。利益・成果は外部・お客様からのみ得られます。この原理原則がわからず、社内仕事や仕組み作り、コストカットにばかり没頭する幹部は良くない、というのが水谷氏のもっぱらの口癖でした。 いかがでしたでしょうか。ソフィアメディ(株)創業経営者の水谷氏は、創業から一貫して営業現場に拘り続け、社長を退くまで第一線で指示をし続けて参りました。定期的に営業マンと泥臭く同行営業、月2回の営業会議には全て参加、どんなに多忙でも営業報告には全て目を通して細かく指導する。おそらく最も身近で見続けてきた私からしても、その営業姿勢はまさに「営業の鬼」でした。(水谷氏本人も、よくそう申しておりました。) 従業員やお客様が少なかろうが多かろうが、営業現場を知らずに健全経営ができるわけがない、という経験に基づいた思想ですが、それが業界オピニオンリーダーたる所以であります。 「着眼大局着手小局」。よく水谷氏より指導された言葉ですが、経営と営業活動の関係性に当てはめるとたいへんわかりやすく、具体的に行動しやすいかと思います。是非貴社事業所でも実践してみてください。 ** 一般社団法人訪問看護エデュケーションパーラー理事長  上原良夫 【 略歴 】 2012年 ソフィアメディ(株)入社。訪問看護事業の営業開発課長・教育研修事業部長・介護事業統括部長・医療連携推進室長を経て、(株)CUCの支援医療法人の訪問診療事務長、在宅事業企画担当。 2020年7月より一般社団法人訪問看護エデュケーションパーラー理事長に就任。訪問看護事業の教育研修企画・ 各種 コンサルティング、業務委託においてアームエイブル(株)ゼネラルマネージャー兼務  【 参考 】 水谷和美著「訪問看護の社長業」

特集
2021年4月20日
2021年4月20日

【訪問看護ステーション】重度者対応は拡充、前途多難なリハビリ型

4月からの介護報酬が改定。その中から、訪問看護ステーションに関連の深い項目を紹介します。ステーションからの訪問のうち、「看護」は拡充ですが、理学療法士などリハビリ専門職の派遣を中心に行なっている事業所には厳しい改定内容となりました。 ※本記事は2021年4月に公開されたものです。 法令や制度、関連ガイドラインは変更される場合がありますので、最新情報をご確認ください。 リハビリ職の訪問、要支援者1日3回の報酬は5割減 令和3年度の介護報酬改定は、0.7%のプラス改定でした。コロナ禍での対応として半年間基本報酬の引き上げが行われ、全体が上げの基調の中にあって、マイナスが際立ったのが重点化対象とされた訪問看護ステーションのリハビリ専門職の訪問に対する報酬です、 介護給付(訪看Ⅰ5)では297単位が293単位、予防給付(予訪看Ⅰ5)の287単位が283単位でともにマイナス4単位。1日2回を超える(3回以上)の訪問の場合は1割減ですが、予防給付では、5割減と大幅減額。計算すると、20分2,830円、40分5,660円、60分になると4,250円になります。 「ちょっと触って、たくさん回れば儲かる。そんなビジネスモデルを吹聴する儲け主義の経営者がいたのも事実。ただ、真面目にやっているところも一律にカットされるのは残念」リハビリ職でもある介護経営者は話していた。リハビリ中心の事業所では軽度者の割合も多く、経営に与える影響は大きいと考えられます。 消えた「看護職が6割以上」、看護強化体制加算の要件で復活 訪問看護ステーションからのリハビリ職派遣は、2012年度に20分単位のリハビリ体系に改訂されるまでは報酬も訪問看護と同じでした。もともとは「おまけ」の位置付けで、今のように数が増えることは想定していなかったと言えます。無視できないほどの量になり、地域包括ケアシステムの構築が目指される中で、訪問看護ステーションの役割や、訪問リハビリとの関係は本来どうあるべきかという議論になっていきました。 2018年度の介護報酬改定では、訪問看護ステーションは看護が中心であることを明確にする見直しが行われました。看護師が定期的に評価を行い訪問看護計画書や訪問看護報告書を理学療法士等と連携し作成することや、リハビリ職が中心でも看護師の代わりの訪問であることを利用者に説明して同意を得ることが算定要件となるとともに、予防の報酬の引き下げが行われ差がつけられました。 そして迎えた今回の改定は前回改定の方向性をより強化する内容です。厚労省は、昨年、11月、ステーションの設置要件を「看護職の割合を6割以上」とし、リハビリ型を事実上排除することを提案しました。これに対し、日本理学療法士協会など職能3団体は猛反対。「規制強化により、8万人が介護サービスを利用できなくなり、5千人のリハ職が失職する」と訴えて署名活動を展開し、政治に働きかけて規制案を撤回させた経緯があります。 しかし、「看護職が6割以上」の要件は、看護体制強化加算の要件として取り入れられました。報酬額は看護体制強化加算(Ⅰ)が月600単位から550単位に、看護体制強化加算(Ⅱ)が月300単位から200単位に下がったものの、クリアするのが厳しい特別管理加算を算定している利用者の割合が「30%」から「20%」に引き下げられたことで算定しやすくなりました。また、退院当日に訪問ができる対象者も拡大され、医師が必要と認めれば訪問できるようになり、中重度者の在宅療養を支える訪問看護の役割は強化されました。「看護職が6割以上」は医療保険の機能強化型の算定要件にすでに導入されており、いわば厚労省の推奨事業モデルです。 中重度者対応の強化が経営面でも重要に 「需要があるからといって漫然とリハビリ職を増やしていたところもやっていけなくなるでしょう。経営的にも看取りや医療ニーズの高い中重度者の対応を増やしていく必要がある」と別の経営者はこの先を予測しています。看護職割合での参入規制は、今回は撤回されましたが、先送りになっただけというのが関係者の共通の見方となっています。 医療機関や老人保険施設での訪問リハビリの報酬は、要支援者・要介護者ともに307単位に引き上げとなり、訪問看護からの訪問と報酬上の評価は初めて逆転しました。訪問看護からのリハビリ職の訪問について、「通所リハビリだけでは屋内のADLが自立できない場合」限定という規定が追加され、運用上の扱いは訪問リハビリと同じになりました。介護予防・重度化防止に力を入れる厚労省は、近年、介護保険の中でのリハビリ職の役割を強化してきていますが、医療機関での通所リハビリテーションや、訪問リハビリを伸ばしていく考えです。 リハビリステーションの必要性指摘する意見も 医療機関での訪問リハビリは、原則事業所の医師の診察を受けることが必要で、事業所数そのものが少ない中で、利用しづらいという問題があります。かかりつけ医師の指示書一枚で済む訪問看護ステーションのほうが、利用者にとって利便性は高く、需要を増やしたと考えられます。職能団体はリハビリ専門のステーションの設置を可能とすることを求めて活動を続けており、介護報酬を議論する介護給付費分科会では、自治体代表の委員から強く支持する意見もありました。職域や専門性からのあるべき論だけでなく、利用者の目線からも検証していいってほしい問題と思われます。 ** 介護・福祉ジャーナリスト 川名佐貴子 介護保険の専門新聞、ケアマネ向け月刊紙の編集長を長年務めた。現在、フリーで活動中。介護保険制度の創設前から、介護福祉分野の幅広く取材してきた。

特集
2021年4月14日
2021年4月14日

訪問看護あるある座談会 vol.2 感染対策編

訪問看護のお悩みあるあるの中に、感染対策があるのではないでしょうか。病院では清潔・不潔をはっきり分けられる反面、在宅では病院ほど明確に清潔・不潔を区別することへの難しさもあります。前回に続き、3人の訪問看護師さんにお集まりいただき、感染症対策をテーマに訪問看護の「あるある」についてぶっちゃけトークをしてもらいました。 コロナ感染対策の悩み。手袋NG!?訪問看護の入浴介助 りさ:悩みあるあるは感染対策です。 ゆり:あるよね。エプロンしないとか「これも素手でやっちゃうの?」みたいな。 りさ:在宅の利用者さんは手袋すると嫌がるんだよって言われたことがあったんです。それで手袋付けずに入浴介助してるお家もあります。 ゆり:その家の清潔の具合によるかもしれないけど、自分の感染リスクもあるし、他の家に菌を持っていっちゃうリスクもあるよね。お風呂場で「こんなの裸足で入るのよ!」って入っていく看護師もいるけど。笑 りさ:えっ、むしろ裸足以外で入浴介助してるんですか? ゆり:うちでは長靴持っていったり、家によっては買ってもらったりしてます。ステーションごとに感染対策って違うんじゃないかな。 みほ:うちのステーションではご自宅で使ってるバスシューズを借りることもありますね。 りさ:へー、そうなんですね。イヤイヤ裸足で入ってました…。 ゆり:他のステーションではこうしているらしいから、感染対策の見直しをするのはどうですかって提案してみるのはどう?今はコロナもあるし。 りさ:そうですね。素手でストマを洗うのとか、粘膜だから抵抗あって悩んでたんです。 ゆり:だって便とか触れるからね。 りさ:信頼関係を大事にしすぎて、手袋をつけて嫌われるんじゃないかって思っている先輩もいて…。 ゆり:でも自分は守らないといけないもんね。最近は新型コロナで自宅に消毒液置いてくれてる家も多くなったし、看護師は働きやすきなったんじゃないかな。 みほ:そうですね。新型コロナを理由に何かと感染対策できるようになったのは、よかったのかもしれないですね。「新型コロナなので」って説明して、今まで抵抗あったお宅でもエプロンとか手袋を付けさせてもらえたり。 りさ:マスクもしてもらいやすくなりましたね。 みほ:今までそのまま咳されてましたからね…。 ゆり:唾飛んだよ!みたいな。気になってコンビニのトイレで顔洗ったこともありました。笑 みほ:帰り際に洗面所で手洗いできなかった時、コンビニのトイレとか公園で手洗ったりしますね。 ゆり:公園の子供たちに混ざって手洗いますよね。訪問先で「さようなら〜」って挨拶してそのまま手洗うタイミング逃しちゃったり。手指消毒で済ませるときもありますけどね。 看護師、膀胱炎になりがち。訪問看護のトイレ問題 ゆり:最近はコロナでトイレ使えなかったですよね。 みほ:めっちゃ不便でした。 ゆり:ですよね!私、膀胱炎になりました。 りさ:えー!わかります!私もなりかけましたもん。 みほ:ひえー。今年じゃないけど私も前なりました。 ゆり:病棟でもそうでしたけど、トイレ我慢しちゃうじゃないですか。在宅だとトイレにいつでも行ける環境じゃないので、尚更。 りさ:私も水飲むの控えちゃってました。去年の夏に突然38度くらいの熱が出て「コロナか!?」って思ったんですけど、実は脱水で。 ゆり:わかるー。私もおなかの調子が悪くて腸炎かと思ったら高熱出て。OS1を一気飲みしたらおいしくて。こんな美味しい飲み物だったかなっていう。笑 手足の痺れもあって、今思うと重度の熱中症でしたね。 みほ:やばいやばい。 ゆり:夏、高齢の方ってなかなか熱中症に気づかないじゃないですか。クーラー付けてないのも怖いですよね…。 りさ:クーラー自体無いおうちもありますね。必死でアイスノン当てたりしてました。 ゆり:看護師側も夏と冬は辛いですよね。冬は着込んで自転車乗るので、利用者さんの家に着く頃にじんわり汗かいてて。訪問中もケアして汗かいて、外出ると寒くて。風邪引きそうになっちゃいます。 みほ:分厚いダウンだけだと利用者さんの家出てすぐ着るには暑いこともあって。フリースの上に薄手のダウンの重ねてますね。 ゆり:うん、上着は重ねて調節できないと体調崩しますね。朝に子どもを保育園送るのが重労働で、出勤する頃には冬でも汗だくで。笑 着る物失敗すると、夏みたいに汗かきますね。 ー③に続きますー 記事編集:NsPace

インタビュー
2021年4月13日
2021年4月13日

多機能複合型店舗「せわのわ」モデルとは?

株式会社キュアステーション24が運営するせわのわ訪問看護ステーションは、地域に開かれた医療と介護サービスを提供する「せわのわ」のサービスの一つです。第1回は多機能複合型店舗「せわのわ」について、事業支援部長の半田さん、せわのわ事業本部長の目井さんにお話を伺いました。 「せわのわ」モデル第1号店として ―せわのわのような多機能展開しているところは珍しいと思いますが、実際にはどのような事業を行っているのでしょうか。 半田: 「せわのわ」は株式会社キュアステーション24が運営していて、TRホールディングスグループの傘下にあります。株式会社TRホールディングスは、医薬品・化粧品・医療機器等の販売や調剤薬局の運営、精密機器開発製造やシステム開発販売など、幅広く事業を行っていますが、基本理念は人々の健康な生活と笑顔にどれだけ医療面から貢献できるかで、医療を通して住民の方々に貢献するというのが一番のベースですね。 キュアステーション24は、調剤薬局・訪問看護・栄養ケアステーションの3業態の複合事業を新たに展開するために2019年4月に設立した法人です。 ここは、実験店でもあり基幹店でもあります。いわば我々が考えているせわのわの機能のフルバージョンで、飲食部門をつけたことが特に新たなチャレンジでもあります。 目井: この構想自体は2014年頃から出ていて、代表取締役である田中といろいろ話をしていました。元々調剤薬局を抱えていたので、薬局が今後も生き残りをかけていくには、地域や在宅の分野もしっかりやらないといけないと…。調剤薬局と訪問看護としたのは、経営サイドからすると、収益性の面が一番大きいですね。 半田: ただ、外来中心になっているような薬局だと、急に在宅に行けと言われてもなかなか動きづらい。でもこの先絶対、在宅をやっていかないと調剤薬局はもたない、下手をすると淘汰されてしまうと思っていたので、訪問看護とのペアリングを考えました。 目井: そうした話を重ねるうち、2018年頃には地域に貢献するのであれば、カフェや薬膳料理などもどうか、という案があがりました。薬局と訪問看護だけではなく、飲食と栄養面からも地域支援ができないかというのが最初のアイデアで、要介護の人よりもフレイルの人をターゲットに考えていましたね。 実際には、調剤薬局と訪問看護ステーション、コミュニティサロンも兼ねた健康食堂、栄養ケア・ステーションを運営しています。 組織内でのミニ包括ケアチームを目指して 半田: 地域包括ケアシステム、チーム医療とはよく言われていますけれど、本当に多職種連携が機能しているのかというと、実際は難しいところもありますよね。所属している組織も職種も違う中では、サービス担当者会議などの集まりでも、お互いに遠慮して言いたいことが言えないことも多いです。 それだったら、我々の組織でミニ包括ケアチームを作ってしまえばいいのではないかと。それが多職種業態にしようと思ったねらいです。 うちでは主に薬剤師、看護師、管理栄養士、理学療法士、言語聴覚技師、調理師などがいます。一つの組織の中でケアにあたる専門職をチーム化すれば、他の機能していないところより機能的に動けると思いました。まだ道半ばではありますけどね。 目井: 看護師と薬剤師が働くことのメリットがどのようなところにあるのかは、仮説のもとでやりはじめましたが、実際、お互いに相談しやすい環境であり、親和性は高いということはわかりました。 ―事業性としてはいかがですか。 目井: うちの特徴としては、住宅地のど真ん中にあります。ビジネスとして考えれば、調剤薬局はクリニックの横やショッピングモールなどに出店した方が集客もできてベストかもしれません。けれど、このモデルとしては地域に貢献するということを第一に考えていたので、その選択肢は外しました。この地域の半径500mをすべてカバーしようという考えではじめましたから…。 苦労も相当多いですが、「今のせわのわのモデルいいね」と言われることも多い。まだこうしたモデルは日本ではないと思うので、今は1号店として知見をためているところです。 半田: 調剤薬局にも訪問看護にも医療の専門家がいて、何かあれば相談できる。しかもみなさんが利用できるレストランもあって普段使いができるわけで、機能性の面だけでいえば便利に決まっています。 ただ、事業性をどう確保するかが最大の課題ですよね。ボランティアでやるわけにはいきませんし…。 このモデルの良さに加えて、きちんと事業性を証明していくことが、この先展開していく上での大きなキーになると思います。 目井: いずれは横展開をしていくことも考えていますが、展開自体は、私どもが独自に出すことは考えていなくて、FCやボランタリーでなどいろいろな方法があると思います。このモデル自体、誰がやったら相性がいいのか、クリニックかもしれない、調剤薬局かもしれない。そうしたことも含めて可能性を探っていて、どこからでもせわのわモデルに入っていけるような仕組みにしていきたいと思っています。 まだ実験段階ではありますが、ある程度の方向性は見えてきていますね。 半田: 今は広大な実験場にいるという感じですね。いずれビジネスモデルが固まってきたら、社会に貢献できる形で広げて行きたいと思っています。 ** 株式会社キュアステーション24 せわのわ事業支援部 部長 半田 真澄 30年以上臨床検査領域で働いた後、2013年にTRホールディングスグループに入社。代表取締役の田中氏とは社会人1年目が同期という縁。せわのわでは主に業務全般のサポートを行っている。 株式会社キュアステーション24 取締役/せわのわ事業本部 本部長 目井 俊也 ゼネコンや外資系保険会社などを経て、まったく畑違いの介護業界に。訪問介護ステーションやデイサービス、サービス付き高齢者向け住宅などの開業・運営経験がある。 株式会社キュアステーション24 訪問看護事業責任者/管理者 竹之内 航輝 総合病院の脳外科や透析外来に勤務後、訪問看護ステーションの管理者になるための経験として看護師の人材紹介会社で働いた経験を持つ。代表の地域貢献に関するビジョンや、スタッフに対する思いなどに共感し、せわのわ訪問看護ステーションに入職。

インタビュー
2021年4月13日
2021年4月13日

訪問看護事業参入で地域包括ケアシステムの実現へ

  『介護のことならツクイ』。株式会社ツクイは介護事業に参入してから35年以上、顧客や社会のニーズにあわせて事業を拡大してきました。 今回は、ツクイの訪問看護事業参入プロジェクトを牽引されている事業企画推進部部長の竹澤仁美さんに、ツクイ入社までの経緯や訪問看護事業参入の経緯、ツクイが手掛けている事業についてお話を伺いました。 患者さんは、退院した後が本当の生活との闘い ―竹澤さんのこれまでのご経歴を教えてください。 竹澤: 看護師になろうと思ったのは、学校の先生に強く勧められてです。看護学校卒業後は、長野県内の病院に就職し、救急外来やオペ室、外科、ICU、脳外科、循環器など様々な経験をし、トータル10年ほど働きました。夫の転勤で上京後は、元々ケアマネージャーの資格を初年度に取って、違う環境で資格を活かせたらいいなと思っていました。それが病院から介護業界に入ったきっかけです。 ケアマネージャーとして働きはじめてからは、病院できちんと管理されていた、服薬や食事、排泄、保清などが行き届いていない生活状況を目にしました。老々介護で追い詰められて自死を選択するという、テレビで見ていた悲惨な状況も目の当たりにし、衝撃を受けました。 病院にいたら、「おめでとうございます」と言って患者さんを退院させますが、退院した後が本当の生活との闘いだと感じました。在宅の現状を知り、私の中で病院に戻る選択肢はなくなりました。在宅業界で自分の資格を活かして働いていこうと思いました。 ―その後どのように働かれたのですか。 竹澤: ケアマネージャーを4年ほどやりました。その後、都内に新しくできるショートステイに施設長として行きました。いろいろな課題がありましたが、訪問看護事業や有料老人ホーム事業、生活に関わる周辺の事業にも関わり、15年ほど働いていました。施設長は8年ほど、訪問看護の統括のような立場にもいました。 前社ではM&Aの関係もあり、ショートステイやデイサービス、訪問看護ステーションが一緒になったりしました。他の会社に買ってもらうときは、ルールに従わなきゃいけない難しさはありましたけど、柔軟に対応していました。逆に、他の会社を買ったときは、社内のルールや介護のしかた、有休の使い方など、文化が違うということで苦労しました。 経営陣の思いがまっすぐで同じベクトルであること ―ツクイに入った経緯は?決め手は何だったのでしょう。 竹澤: 元々は社長の会などに参加させてもらっていて、女子会のような流れでツクイの取締役と知り合いました。その当時、前社では訪問看護事業を拡大していくことはないといった感じで。管理の仕事をしていましたが、「訪問看護の仕事がしたい」、「自分はサービスに出たい」と思い、訪問看護での独立を考えていました。それを聞きつけたツクイの取締役が、「うちでやってみないか?」と声をかけてくださったんです。 ツクイは福祉事業だけで35年間真面目にやってきた会社ですし、これから全国展開していく中で、その拠点ごとに訪問看護を増やしていきたいという思いがあったのが入社の決め手です。あとは、経営陣たちの思いがまっすぐで同じベクトルだったので、ここなら思う存分訪問看護ができるなと感じました。 ―取締役は竹澤さんのどのようなところを見込んで、声をかけられたんでしょう? 竹澤: 在宅のときから地域に根付いてやってきたことを、お世話になっていたコンサルタントさんから聞いてご存じだったのかもしれません。また、私は数字を見ながらきちんと売り上げをあげることも意識しています。思い通りじゃないと嫌というわけでなく、柔軟に対応できるタイプだと思うので、そこがツクイに入ってもやっていけると思ってもらえたんじゃないでしょうか。 その後はコンセプトなどを1年くらいかけて聞かせていただいて、医療系事業プロジェクトをつくるためにいろいろ調べ、多くの方にお会いして、3年前にツクイに入社しました。 地域包括ケアシステム実現のために必要なこと ―今ツクイさんで手掛けている事業と、今後の展望について教えてください。 竹澤: グループ全体では734の事業所があり、デイサービスが527、グループホームが45、介護付き有料老人ホームが28、住宅型有料老人ホームが2、サービス付き高齢者向け住宅が22、訪問看護ステーションは14です。(2021年2月時点) ツクイでは、「人生100年(幸福に生きる)時代へ。」というコンセプトを掲げています。また、「ツクイは、地域に根付いた真心のこもったサービスを提供し、誠意ある行動で責任を持って、お客様と社会に貢献します。」という事業理念のもと、各種事業を展開しています。 その中の地域戦略推進の一つが訪問看護事業です。ツクイでは、人々が地域で暮らすために、福祉を軸として周辺の事業や医療との連携を強め、地域価値を創造していくという方向性で事業に取り組んでいます。 地域包括ケアシステムを実現するには、介護だけでも医療だけでもだめで、介護と医療の融合が必要です。そのために、医療系事業の訪問看護もしっかり伸ばしていく必要があると思っています。 ** 株式会社ツクイ 事業企画推進部 医療系事業プロジェクト 部長 竹澤仁美

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