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受賞エピソード漫画化!「いつものアップルパイ」前編【つたえたい訪問看護の話】
受賞エピソード漫画化!「いつものアップルパイ」前編【つたえたい訪問看護の話】
特集
2025年9月10日
2025年9月10日

受賞エピソード漫画化!「いつものアップルパイ」後編【つたえたい訪問看護の話】

NsPaceの特別イベント「第3回 みんなの訪問看護アワード」で募集した「つたえたい訪問看護の話」。今回は、ホープ賞を受賞した梶本 聡美さん(訪問看護ステーションかすたねっと/大阪府)の投稿エピソード「いつものアップルパイ」をもとにした漫画をお届けします。  「いつものアップルパイ」前回までのあらすじ作業療法士の梶本さんが、在宅リハビリの仕事を始めて早々に担当した佐藤さん。片麻痺や失語症があり、旦那さんは一生懸命介護に向き合っていました。しかし、ご本人は「希望を持ってもどうせ叶わない」と思っているようで、どうサポートしていけばよいか事業所内で相談。管理者の米島さんも訪問時の「いままでできたことができなくなっている」という佐藤さんの言葉を振り返ります。そして、佐藤さんがもともと料理が得意で、アップルパイづくりにも自信を持っていたことが突破口になるのではと考え…。>>前編はこちら受賞エピソード漫画化!「いつものアップルパイ」前編【つたえたい訪問看護の話】 「いつものアップルパイ」後編   漫画:さじろう山形県在住のイラストレーター/グラフィックデザイナー/漫画家。都内デザイン会社を経て現在フリーランスで活動中。『ダ・ヴィンチ』『東京カレンダー』『Men’s NONNO』『SUUMO』など多数の雑誌のほか、釣り具メーカー『DAIWA』『LIFE LABEL』などのWebやYouTube、CMでもイラスト・漫画制作を手掛ける。投稿者:梶本 聡美(かじもと さとみ)さん訪問看護ステーションかすたねっと(大阪府)この度はホープ賞に選んでいただき、ありがとうございました。訪問看護を始めてまだ日も浅く、迷ったり悩んだりする日々ではありますが、職員の皆さんはいつも私の話に耳を傾け、一緒に悩み、考えてくれます。また、漫画では私を主人公として描いていただきましたが、今回のアップルパイづくりも、スタッフ一丸となってみんなで対応していました。皆さんに改めて感謝の気持ちを伝えたいです。今回のエピソードの関わりは私にとってとても貴重な経験となりました。その後、Tさん(漫画内「佐藤さん」(仮名))はお亡くなりになりましたが、葬儀の際にご主人がアップルパイを作った時の写真を飾ってくださいました。ご夫婦にとって楽しいひと時を過ごすお手伝いが少しでもできたのかなと感じています。訪問看護やリハビリは医療処置や運動だけでなく、こうした関わりを大切に行っているということを漫画化を通して知っていただく機会になれば嬉しいです。 [no_toc]

受賞エピソード漫画化!「いつものアップルパイ」前編【つたえたい訪問看護の話】
受賞エピソード漫画化!「いつものアップルパイ」前編【つたえたい訪問看護の話】
特集
2025年9月9日
2025年9月9日

受賞エピソード漫画化!「いつものアップルパイ」前編【つたえたい訪問看護の話】

NsPaceの特別イベント「第3回 みんなの訪問看護アワード」で募集した「つたえたい訪問看護の話」。今回は、ホープ賞を受賞した梶本 聡美さん(訪問看護ステーションかすたねっと/大阪府)の投稿エピソード「いつものアップルパイ」をもとにした漫画をお届けします。 >>全受賞エピソードはこちら・つたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!大賞・審査員特別賞・ホープ賞・協賛企業賞【2025】・つたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!入賞【2025】 「いつものアップルパイ」前編 >>後編はこちら受賞エピソード漫画化!「いつものアップルパイ」後編【つたえたい訪問看護の話】   漫画:さじろう山形県在住のイラストレーター/グラフィックデザイナー/漫画家。都内デザイン会社を経て現在フリーランスで活動中。『ダ・ヴィンチ』『東京カレンダー』『Men’s NONNO』『SUUMO』など多数の雑誌のほか、釣り具メーカー『DAIWA』『LIFE LABEL』などのWebやYouTube、CMでもイラスト・漫画制作を手掛ける。投稿者:梶本 聡美(かじもと さとみ)さん訪問看護ステーションかすたねっと(大阪府) [no_toc]

細やかな連携で、利用者の生活に安心を~チームで支え合う職場づくり~アルト訪問看護ステーション 小島さんにインタビュー
細やかな連携で、利用者の生活に安心を~チームで支え合う職場づくり~アルト訪問看護ステーション 小島さんにインタビュー
インタビュー
2025年9月9日
2025年9月9日

細やかな連携で、利用者の生活に安心を~チームで支え合う職場づくり~アルト訪問看護ステーション 小島さんにインタビュー

【PR】この記事はNsPace Careerナビ編集部が取材・編集しています。 アルト訪問看護ステーションは、開設から20年近くにわたり地域に深く根差し、利用者様一人ひとりに寄り添う質の高い看護を提供しています。管理者を務める小島様は、このステーションで19年にわたり、訪問看護師としてその歴史を支えてきました。そんな小島様に、アルト訪問看護ステーションの魅力や訪問看護師としてのやりがい、そして今後の展望についてうかがいました。 訪問看護との出会いは「ご縁」 看護学校を卒業後に系列の病院で3年間、急性期の内科や循環器科の病棟に勤め、結婚をきっかけに一度退職しました。28歳頃に、また病棟で2年半ほどパート勤務をしましたね。妊娠・出産を経て、子どもが小さいうちはパートとして診療所に勤めました。そこで3年ほど働き、子どもが小学校に上がるタイミングで一度看護師の仕事をお休みしたんです。 そして38歳のとき、当ステーションにご縁をいただきました。実は身内が当ステーションのグループ系列のサービスを受けていて。その関係で、会社の担当者の方から「働いてみない?」と声をかけられたんです。そのご縁がきっかけで、今に至るまで19年間、このステーションでお世話になっています。 アルト訪問看護ステーションの強み:グループ連携と多職種協働 当ステーションの一番の強みは、グループ全体での密な連携にあります。グループ内では住宅型有料老人ホームや認知症のグループホームも運営しており、在宅でのケアが難しくなった利用者さんも、グループ内の施設で継続してサポートできるんです。利用者さんの状況に合った環境で生活できるようサポートできるのは、私たちにとっても大きな喜びですね。 また、同じグループ内にデイサービスもあるので、利用されている方も多く、グループ全体で利用者さんに関われるので、連携がとてもスムーズなんですよ。利用者さんのちょっとした変化…… たとえば身体に小さな傷を見つけたときには、すぐにデイサービスのスタッフと連絡を取り合い、悪化予防に努めることができます。このような迅速で丁寧な連携は、利用者さんにとって大きな安心につながっているのではないでしょうか。 さらに、ケアマネジャーも同じ建物内にいることがほとんどなので、ひとつのグループ内ですべてのサポートが提供できますし、医療面では系列クリニックとの連携も密に取れています。 このように、多職種と細やかに連携できる環境があるからこそ、利用者さんに質の高い看護を提供できているんです。外部の事業所からの介入がない分、まるで身内のように個別性に応じたサポートができる、そんな環境が整っていると感じています。 働きやすい環境と温かいチームワーク 私が長く働き続けられるのは「働きやすさ」に配慮された環境があるからだと思います。たとえば、有給休暇はほぼ完全に消化できる体制が整っていますし、子育て世代へのサポートも手厚いんですよ。 グループ内に保育園があるので、子どものいるスタッフも安心して働けます。実際に、現在も子育て中のスタッフが数名おり、産休からの復帰実績もあります。お互いに子育てへの理解が深く、子どもの急な発熱や体調不良などにも融通の利く環境が整っているのは、本当に助かるところですね。 当ステーションのチームワークも自慢です。利用者さんの訪問は受け持ち制ではなく、ケアの方針はみんなで相談しながら決めています。訪問業務や勤務形態の都合上、全員がそろってカンファレンスをおこなう時間を取るのは難しいのですが、スタッフ2~3人でも積極的に話し合い、その内容を、全員が見て共有できるように工夫しています。 そうすることで、ステーション内での意見の統一が図れますし、スタッフ一人ひとりの意見を反映したケアを確立できるんです。 オンコール体制についても、今はおもに私が担当していますが、新しく入ってくれた常勤スタッフが慣れてきたら、ひとりに負担が偏らないよう分担していく予定です。現時点で在籍しているスタッフは、半数が訪問看護未経験者でした。当ステーションでは、未経験の方でも働きやすいように、手厚いフォローがありますので安心してもらえると思います。 病院での経験がある方も多いので、そのときにはオリエンテーションを通して、訪問看護の基本や、病院との違いを丁寧に伝えています。あとは日々の訪問を通して、実践的な教育とフィードバックを大切にしているので、しっかりと訪問看護の現場を学んでいける環境です。 これまで、人手が少ない時期が多く、正直大変なこともありました。しかし、利用者さんに対して責任を持って看護を提供している以上、新しいスタッフが入るまでみんなで協力し、なんとか乗り越えてきました。 最も大変だったのは、やはりコロナ禍の時期です。当時は、2〜3週間休みがない状況が続きました……人数が少ないなかで感染症対策にも気を配りながらの仕事は、本当にしんどかったです。でもこの経験を通して、スタッフ間の絆は一層強まったと感じています。みんな優しくて協力的なので、居心地がいいんですよ。長く勤めたいと思える職場だと感じていますし、気遣いなく働ける環境です。 「アルト訪問看護ステーション」の仕事風景 密な連携が訪問看護のやりがいにつながる 訪問看護師のやりがい、魅力は本当に尽きません。当ステーションはクリニックが母体で、診療所と連携しているので、医療的ケアが必要な方、たとえば在宅酸素療法をおこなっている方や、がんのターミナルケア、重症度の高い利用者さんも担当します。看取りのケアや、がん、さまざまな疾患、高齢によって少しずつ状態が悪化していく方々への看護を通して、常に多くの学びがあります。 現在は精神疾患の利用者さんはほとんどいませんが、高齢でさまざまな疾患を抱えた方が多いため、きめ細やかな看護を提供できるのが特徴です。在宅ならではの、利用者さん一人ひとりに時間をかけてじっくりと寄り添うことができるのは、この仕事の醍醐味だと思っています。自分が「こうしていきたい」と思う看護ができる、これは本当に大きなやりがいにつながっていますね。利用者さんが安心して最期まで過ごせる環境をサポートできるよう、施設やご家族、先生方と密に連携を取りながら支援できるよう心がけています。 地域を支えていくために。連携を活かして利用者の願いを叶える 現状は小規模なステーションですが、今後、スタッフが充実すれば、利用者さんからの新規の介入依頼も積極的に受け入れていきたいと考えています。とくに、ターミナルケアの対象者や医療保険を利用される方々への支援を拡大していきたいですね。今は、人手不足で母体のクリニックからの依頼でさえ断らざるを得ないこともあるんです。 利用者さんの生活を地域で支えていくためには、なによりも「人」が必要です。私たちは、利用者さんのためにグループ内で密に連携することを得意としています。この連携を活かし、今後も利用者さんやご家族の「このまま家で過ごしたい」という願いを支え続けたいと思っています。利用者さんやご家族はもちろん、多職種と連携・協力できる訪問看護を提供したいと考えている方に、ぜひ来ていただきたいです。 インタビュアーより 看護師だけでなく、介護士やケアマネジャーとの細やかな連携で利用者さまに質の高い看護を提供されているアルト訪問看護ステーション様。ステーション内のコミュニケーションも活発で、相談しやすく働きやすい職場環境が整っています。「利用者様のために」という想いをスタッフ全員が持ち、同じ方向に進んでいける…そんなチームワークのある素敵なステーション様です。 事業所概要 アルト訪問看護ステーション(大阪府大阪市) 住所:大阪府大阪市西成区南津守1丁目5-24運営方針・理念: 自宅で療養されている利用者様を、主治医や多職種と連携を行いながらサポートします。 利用者様が安心して快適な療養が送れるよう、病状や状態に応じた適切な看護サービスを提供します。 記事提供:NsPace Careerナビ編集部

在宅における透析患者さんの合併症対応【事例あり】&導入時の心理的支援の重要性
在宅における透析患者さんの合併症対応【事例あり】&導入時の心理的支援の重要性
特集
2025年9月2日
2025年9月2日

在宅における透析患者さんの合併症対応【事例あり】&導入時の心理的支援の重要性

透析治療は、身体的な負担だけでなく、生活の変化や将来への不安などから、精神的にも大きなストレスを伴います。うつ状態や孤立感を抱える患者さんも少なくないため、訪問看護においては身体的ケアと並行し、患者さんの心に寄り添うサポートも不可欠です。今回は透析患者さんに対する支援として、事例を交えた合併症対応と、透析受容の心理的段階に応じた関わりについて解説します。 透析患者さんに起こりやすい症状 透析患者さんの状態に変化があった際、「どうしたらよいのか分からない」「自分に対応できるか不安」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。基本的な対応の流れは、透析患者さんでもそうでない方でも大きく変わりません。ただし、透析患者さんには特有の注意点があります。 今回は、「血圧の低下」「高カリウム血症」「溢水」を取り上げ、透析患者さんならではの対応のポイントについてお伝えします。特に、「高カリウム血症」や「溢水」は、心停止や呼吸困難といった重篤な状態を引き起こす可能性があり、緊急透析が必要となるケースも少なくありません。こうした症状を早期に察知し、迅速に対応することが、患者さんの命を守る上で重要です。 1 血圧の低下 透析直後や帰宅後は、脱水傾向により血圧が低下することがあります。透析後は自律神経が不安定になりやすいため、急な立ち上がりや歩行は避けたほうがよいでしょう。 なぜ透析後に脱水が起こるのか?透析では、体内の余分な水分を取り除く「除水」が行われ、体重をドライウェイト(DW:目標体重)に近づけます。その過程で、以下のような場合に脱水状態になることがあります。  大量の除水により循環血液量が減少した場合 DWが適切ではない場合 透析による血管拡張 交感神経活動の低下 急激な電解質変動による循環動態の乱れ これらにより、帰宅途中や直後に立ちくらみ、めまい、ふらつき、倦怠感、冷汗、血圧低下(収縮期血圧が90mmHg以下)の症状を起こすことがあります。 安静を促し、水分補給を行うのが対応の基本(図1) 安静にして様子を見る(横になり下肢を挙上する) 水分摂取を行う(回復が見られない場合は透析施設へ連絡する) 血圧が回復しない、または意識障害がある場合は、速やかに救急要請する 図1 血圧が低下したときの対応 安静を促し、水分補給を行う。血圧低下に加えて、顔面蒼白、冷汗、頻呼吸、意識障害(JCSⅡ以上)などの症状が見られたら、「ショック状態」と判断し、救急要請が必要。 2 手足の「しびれ」と高カリウム血症 透析患者さんは腎機能が低下しているため、体内にカリウムが蓄積しやすく、高カリウム血症を起こしやすい状態です。 高カリウム血症の症状カリウムは筋肉や神経の働きに重要な役割を果たします。濃度が高くなると表1のような症状が現れます。 表1 血清カリウム濃度に応じた症状 5.5mEq/L以上初期症状手足のしびれ(感覚異常)、筋力低下・脱力感、口周囲の違和感、吐き気7.0mEq/L以上重度症状意識障害、不整脈(テント状T波)、心停止のリスク *数値は一般的な数値であり、個人差があります   事例:食事が引き金の高カリウム血症A氏(70代・男性) 息子夫婦と同居 透析スケジュール:火・木・土の週3回 透析歴:1年 現在の状況:透析を開始し、尿量が減少してきている 訪問看護師が月曜日の午前中に訪問すると、A氏から手指のしびれ、口周囲の違和感、軽度の吐き気の訴えがあった。「いつもと特に変わったことはないけれど、朝起きたら唇がしびれていて、何かおかしい。手先もしびれている気がする」とのこと。食事内容を確認すると、「昨日は息子夫婦と一緒に外食をして、生野菜と果物をたくさん食べた」との発言があった。 【訪問看護師の対応】緊急透析検討のため透析施設へ連絡 訪問看護師は、A氏の症状から高カリウム血症とアセスメント。緊急透析を検討する必要があるため、透析施設へ連絡し、症状と食事内容の情報を伝えました。 【透析室での対応】緊急透析および食事指導を実施 来院時の血中カリウム値は7.0mEq/L、心電図ではテント状T波を確認しました。緊急透析を実施し、症状は改善されました。その後、カリウム吸着薬が処方され、カリウム制限に関する食事指導を行いました。 【対応のポイント】しびれの訴えには要注意 しびれの訴えがあった場合は、バイタルサインを確認し、直近の透析状況および食事内容を確認します。予防策として、ブロッコリーやバナナ、生の野菜ジュース、干し芋のような乾物など、カリウムの多く含まれる食品の摂取を控えるよう指導し、食事管理を徹底してもらいます。また、透析の適正な実施が必要です。 3 溢水による心不全 透析患者さんは腎機能が著しく低下しており、水分や塩分を尿として排出できないため、体内に水分が蓄積しやすくなります。この状態を「溢水(いっすい)」と呼びます。 溢水の症状体重増加、頸静脈の怒張、呼吸困難・息切れ・咳嗽・湿性ラ音の聴取・血清泡沫痰、水分蓄積による浮腫 呼吸困難時は安楽な体位をとる呼吸困難は、座位やファウラー位で軽減することが多くあります(図2)。患者さんの安楽な体位を工夫するようにしてください。 図2 呼吸困難時の対応 呼吸困難は、上半身を起こす座位やファウラー位で軽減することが多くある。安楽な体位になるよう工夫する。   事例:会話中の息切れで気づいた、心不全症状B氏(70代、女性) 独居 透析スケジュール:火・木・土の週3回 透析歴:15年 既往歴:心筋梗塞、脳梗塞、気管支喘息 訪問看護師が月曜日の朝に訪問したところ、以下の症状を確認した。 ・呼吸困難(会話時に息切れ)、臥位にて増強(起座呼吸) ・下腿浮腫(+2:4mmのくぼみ) ・体重:前回の透析後より+4.2kgの増加(DW:40kg) ・バイタルサイン:血圧 170/98mmHg、SpO₂ 88%、心拍数 112回/分 ・顔色不良、倦怠感強い 【訪問看護師の対応】心不全を疑い全身状態をアセスメント 心不全を疑い、アセスメントを開始しました。バイタルサインの測定、浮腫・呼吸状態の観察、直近の透析状況(特に最終体重)・体重増加量・食事内容(水分摂取量)を確認し、透析施設へ緊急連絡しました。 【透析室での対応】緊急透析を実施し、DWの見直しも 透析室では、緊急透析を行い、除水3.8Lを実施。透析後は、呼吸状態・浮腫ともに改善しました。あらためてドライウェイトを見直すとともに、塩分・水分管理の再指導を行いました。 体重増加と呼吸状態の変化は心不全のサイン中2日明けの訪問(B氏の場合は火曜日)は特に注意が必要です。その間の体重増加や呼吸状態の変化は、心不全のサインです。患者さんの「いつもと違う」訴えを見逃さず、透析施設・主治医との連携が大切です。 * * * 合併症への対応では、訪問看護師によるアセスメントが不可欠です。異常を察知した際には、ためらわずに透析施設と情報を共有し、重症化の予防に努めましょう。 透析導入時の心理的支援のポイント では次に、患者さんの心のケアにおいて重要な「心理的支援」についてご紹介します。透析を受け入れる過程で患者さんが経験する心理的な段階に応じた支援のあり方や、訪問看護師が果たす役割について解説します。 透析患者さんの多くは、透析治療を生活の一部として受け入れ、前向きに適応していく心理的・社会的なプロセスを辿ります。訪問看護師が理解しておくべき、透析受容の心理的段階と支援のポイントは以下のとおりです。 透析受容の心理的段階(図3) 透析治療の開始から時間の経過とともに、患者さんは以下のような段階を経験します。 図3 透析受容の心理的段階 ●混乱期治療開始時には、「なぜ自分が透析を?」という戸惑いや否定的な感情が強く表れます。病気の受容が難しく、治療や生活の変化に対する不安が大きく、精神的な混乱が生じます。 ●変化期少しずつ治療や生活の制限について理解が進み、自分なりの対処法や工夫を模索するようになり、生活の再構築に向けた前向きな姿勢が見られるようになります。 ●共存期透析治療を日常の一部として受け入れ、前向きに捉えるようになります。自己管理やセルフケアへの意欲が高まり、治療とともに生きる意識が芽生えます。 ただし、すべての患者さんがこのプロセスを順調に進むわけではありません。透析を始めて何年経っても受け入れられず、苦しんでいる方もいます。透析の受容は、性格・価値観・生活背景・家族や社会的支援の有無など、さまざまな要因に左右されるため、画一的な経過をたどるものではありません。 各段階に応じた支援の重要性 患者さんの心理状態に応じた支援は非常に重要です。特に混乱期には、透析に関する詳しい指導を行っても、患者さんが情報を受け取る余裕がなく、内容が頭に入らないことがあります。指導を受ける気持ちになれない場合も少なくありません。 このような時期には、まずは患者さんの気持ちに寄り添い、安心感を与えるかかわりが何よりも大切です。患者さんが少しずつ気持ちを整理し、「透析」という現実を受け止められるようになるまで、焦らずに支援を続ける姿勢が求められます。 透析の受容は一度で完了するものではなく、揺れ動くプロセスです。訪問看護師の皆さんには、患者さんが今どの段階にいるのかを見極め、それぞれの段階に応じた「今の気持ち」に丁寧に寄り添いながら支援していくことが重要です。  執筆:熊澤 ひとみ医療法人偕行会 透析医療事業部 副事業部長透析看護認定看護師【職歴】昭和63(1988)年 名古屋共立病院 入職平成11(1999)年 偕行会 セントラルクリニック 異動平成17(2005)年 透析医療事業部 副事業部長令和3(2021)年 医療法人偕行会 法人本部 理事【所属学会】日本腎不全看護学会 監事日本臨床腎臓病看護学会日本透析医学会編集:株式会社照林社

受賞エピソード漫画化!「意思疎通、出来ます。」前編【つたえたい訪問看護の話】
受賞エピソード漫画化!「意思疎通、出来ます。」前編【つたえたい訪問看護の話】
特集
2025年8月27日
2025年8月27日

受賞エピソード漫画化!「意思疎通、出来ます。」後編【つたえたい訪問看護の話】

NsPaceの特別イベント「第3回 みんなの訪問看護アワード」で募集した「つたえたい訪問看護の話」。今回は、審査員特別賞を受賞した服部 景子さん(愛全会 訪問看護ステーションとよひら・ちゅうおう/北海道)の投稿エピソード「意思疎通、出来ます。」をもとにした漫画をお届けします。  「意思疎通、出来ます。」前回までのあらすじサマリーの「意思疎通不可」にチェックが付いていた利用者のトシ子さん。訪問看護師の服部さんは、トシ子さんと介護を担う娘さんをできるだけサポートしたいと思いながらも、バイタル測定もさせてもらえない状況でした。ベテランの所長さんが訪問しても同様の結果だったことから、「トシ子さんには何か訴えたいことがあるのでは」と考え、改めて担当としてトシ子さんのサポートに向き合う決意を固めました。>>前編はこちら受賞エピソード漫画化!「意思疎通、出来ます。」前編【つたえたい訪問看護の話】 「意思疎通、出来ます。」後編 漫画:広田 奈都美(ひろた なつみ)漫画家/看護師。静岡県出身。1990年にデビューし、『私は戦う女。そして詩人そして伝道師』(集英社)、『ナースのチカラ ~私たちにできること 訪問看護物語~』『おうちで死にたい~自然で穏やかな最後の日々~』(秋田書店)など作品多数。>>『ナースのチカラ』の試し読みはこちら【漫画試し読み】『ナースのチカラ』第1巻1話(その1)投稿者:服部 景子(はっとり けいこ)さん愛全会 訪問看護ステーションとよひら・ちゅうおう(北海道)3年連続で表彰いただき、誠にありがとうございます。授賞式に参加するたびに感じるのは、「全国には、こんなにも熱い想いで訪問看護に取り組んでいる仲間がたくさんいる」ということです。皆さんのエピソードを読み、お話を伺い、笑い、涙し、感動し、共感しながら、たくさんのエネルギーをいただいています。今回エピソードが漫画化されたことを、トシ子さんはもちろん、娘さん、ケアマネジャーさん、上司、同僚、家族がとても喜んでくれており、私自身も幸せな気持ちでいっぱいです。このような機会をくださったトシ子さんと娘さんに、心から感謝申し上げます。また、NsPaceの皆様の活動には、いつも深く感謝しています。これからも訪問看護師の輪がますます広がっていくことを、心より願っています。

受賞エピソード漫画化!「意思疎通、出来ます。」前編【つたえたい訪問看護の話】
受賞エピソード漫画化!「意思疎通、出来ます。」前編【つたえたい訪問看護の話】
特集
2025年8月26日
2025年8月26日

受賞エピソード漫画化!「意思疎通、出来ます。」前編【つたえたい訪問看護の話】

NsPaceの特別イベント「第3回 みんなの訪問看護アワード」で募集した「つたえたい訪問看護の話」。今回は、審査員特別賞を受賞した服部 景子さん(愛全会 訪問看護ステーションとよひら・ちゅうおう/北海道)の投稿エピソード「意思疎通、出来ます。」をもとにした漫画をお届けします。 >>全受賞エピソードはこちら・つたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!大賞・審査員特別賞・ホープ賞・協賛企業賞【2025】・つたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!入賞【2025】 「意思疎通、出来ます。」前編 >>後編はこちら受賞エピソード漫画化!「意思疎通、出来ます。」後編【つたえたい訪問看護の話】   漫画:広田 奈都美(ひろた なつみ)漫画家/看護師。静岡県出身。1990年にデビューし、『私は戦う女。そして詩人そして伝道師』(集英社)、『ナースのチカラ ~私たちにできること 訪問看護物語~』『おうちで死にたい~自然で穏やかな最後の日々~』(秋田書店)など作品多数。>>『ナースのチカラ』の試し読みはこちら【漫画試し読み】『ナースのチカラ』第1巻1話(その1)投稿者:服部 景子(はっとり けいこ)さん愛全会 訪問看護ステーションとよひら・ちゅうおう(北海道)

利用者のため。スタッフのため。求められる場所で貢献したい~しりうす訪問看護ステーション 柴田さんにインタビュー~
利用者のため。スタッフのため。求められる場所で貢献したい~しりうす訪問看護ステーション 柴田さんにインタビュー~
インタビュー
2025年8月26日
2025年8月26日

利用者のため。スタッフのため。求められる場所で貢献したい~しりうす訪問看護ステーション 柴田さんにインタビュー~

 【PR】この記事はNsPace Careerナビ編集部が取材・編集しています。 急性期病棟で働いていた柴田さん。訪問看護へ進むきっかけはどのようなものだったのでしょうか。ご自身で訪問看護ステーションを立ち上げられた経緯や今後のビジョンについて伺いました。 理学療法士として訪問看護の道へ。きっかけは「自分の目で確かめてみたい」という想いから 私が理学療法士になったのは、家系が全員医療系だったことが影響しています。そのような家庭環境だったので、普段の生活でも医療に関する会話が多かったんです。 その頃はそれがあまり好きではなかったのですが、将来を考えたときに、やはり医療系で考えるようになって…当時は理学療法士は今ほど有名ではなかったのですが、資格があればスポーツ関係のことができるし、それだけでなく病院や施設など、興味によって選択肢が広がるなと思いました。それが理学療法士の資格をとったきっかけです。結局、最初の就職先は病院でしたけどね。 最初に就職したのは、埼玉県にある急性期の病院です。呼吸・循環器病棟とICUに勤務していて、患者さんが入院した理由が「自宅でのサービスが行き届いてなかった」とか「一度退院したのに、自宅での体調管理に問題があった」といったことがありました。そのような経験もあり、訪問看護の世界を自分の目で確かめてみたくなったんです。 あと、私は親を早くに亡くしているのですが、自宅で親をみているときに、訪問看護を使っていたことがあるんです。なので、訪問看護についてはだいたいわかっていましたが、当時は訪問看護のサービスに納得いかない部分がありました。 「コミュニケーションや移動距離の問題に疑問を持ったことから、自分で訪問看護ステーションを立ち上げた」とお話しされる柴田さん 自分自身で訪問看護ステーションを立ち上げることを決意した理由 私の親が利用していた訪問看護に納得がいかなかった理由のひとつに「コミュニケーション」があります。 コミュニケーションは、私自身が会社を立ち上げるにあたり、とても気をつけているところでもありますね。 たとえば、訪問看護では利用者さんやご家族の生活を考える必要がありますが、なかには医療従事者が「この手順はこういうふうにしてください」と決めてしまうことも実際にはあるんですよね。 ですが、医療従事者が利用者さんやご家族の生活をすべて決めてしまうと、自宅に帰ってきている意味がないと考えています。だから、利用者さんと同じ目線に立って物事を考え、コミュニケーションをとることを大切にしています。 あと、訪問看護ステーションのなかには「事業所から利用者さん宅への移動距離が長い」という理由で断るところもあります。 自分が訪問看護ステーションを立ち上げてみて、確かに移動距離が長いと訪問しづらいということは実感しています。でも誰かが行かないとその利用者さんは誰がサポートするのでしょうか。サポートが必要な方がいるならば、距離があっても行くべきだと思うんです。 このように、コミュニケーションや移動距離の問題に疑問を持ったことから、自分で訪問看護ステーションを立ち上げることを決めました。 訪問看護ステーション設立時の苦悩とは 急性期病院を経験後、ある会社の訪問看護ステーションで5年ほど働きました。経営に関わってきたときに、現場の想いを伝えても、あまり理解してもらえなくて。このまま働き続けたら自分に嘘をついてしまうことになり、自分のやりたかった訪問看護はできないと考えて退職を選びました。その後、自分で訪問看護ステーションを立ち上げました。 訪問看護ステーションを立ち上げるにあたっては、父が経営者をしていたので、事業を立ち上げるときの流れや必要なことなどはなんとなく頭の中で理解できていました。そのおかげで立ち上げのところまでは問題なかったのですが、実際の数字の部分については、想像と現実とのギャップはすごくありますね。 やりたい理想と、経営者として視点にたったときのギャップに、なかなか折り合いをつけるのが難しいです。自分の理想が高いので、その未来に描いている自分の姿と、今この時点での自分とのギャップに苦しんでいる感覚ですね。 今後のビジョンは「求められる場所で1番に」 高齢化率が高くなっている地域や、基幹病院が少なく入退院が激しい地域は、退院後の受け皿も少ないことがあります。そういった背景から「訪問看護ステーションを作らないか」とお声がけいただくこともあります。 まずは、当ステーションのサテライトを立ち上げようと考えています。現在のメインは北区ですが、地形的に南側への訪問が距離が長く大変なので、ゆくゆくは北と南で事業所を作って、うちで完結できればいいなと思っています。2か所になれば、スタッフの負担が減らせるのも大きいです。 理想の会社像としては、地域で名前を知らない人がいないくらいの会社にしたいという想いがあります。まずは「北区で1番」が最初の目標。基本的には次々と事業所を展開するつもりはありません。展開すればするほど手が回らなくなり結果的にサービスが雑になることはしたくないからです。 展開するのであれば、医師から直接「ここに出してほしい」と依頼があったりしたときや、訪問看護の手がなくて困っている地域で、訪問看護の需要があればそこに展開したいですね。「今求められているところで1番になる」というのが、直近での理想のところです。 その理想を叶えるためにも、多職種との連携は大切にしています。なかでも、相手の期待を超えるようなサービスを提供できるように意識していますね。 たとえば、情報の提供とやりとりの早さ。外部の方との連携はとくに丁寧にやるようにしています。会議や勉強会にお声がけいただいたときは、時間が合えば可能な限り参加して、いろんな事業所の方と顔見知りになれるよう、私が率先してやっています。 スタッフ全員で理念とビジョンに向かう姿勢を スタッフへの教育は、基本理念とビジョン、基本方針を軸にしています。スタッフとのコミュニケーションも大切だと考えているので、年に4回は定期的に面談し、ふり返りをしています。 事業所のミッションやビジョン、バリューは、ただ置いてあるだけだとなにも機能しないので、それを追い求めることを徹底しています。そのおかげか、スタッフにも当ステーションの軸が根付いてきているんじゃないかなと感じますね。 もし仕事で判断に迷うことがあっても、軸があるので、立ち戻れるんですよね。基本理念や方針に紐づいたことだったら、スタッフには自由にやってもらいたいなと思っています。 入職者の採用のときに大事にしているのは、第一印象やフィーリングです。時間を守ることやメールのやりとり、挨拶、笑顔など、基本的なことです。看護技術は身についているに越したことはないですが、重視はしていません。人柄が大切だと思っています。 インタビュアーより ご自身の過去の経験から、訪問看護ステーションを立ち上げられた柴田様。スタッフが働きやすい環境やサポート体制づくりに注力されています。スタッフの皆様の笑顔あふれる素敵なステーション様でした! 事業所概要 しりうす訪問看護ステーション(東京都北区) 住所:東京都北区赤羽北1丁目12-14 運営方針・理念VISION:人の和を大切に信頼を育み、関わるすべての人々に笑顔と安心をMISSION:確かな技術に真心を乗せて地域から最優先に選ばれる会社を目指しますVALUE:①常にお客様起点で物事を考え行動します②時代の最先端を見つめ、他の模範となるサービスを提供します③社会、顧客、働く仲間と共存共栄を図ります 記事提供:NsPace Careerナビ編集部

家族まるごと看るサービスも  「東大看護GNRC目白台プロジェクト」の新たな取り組み
家族まるごと看るサービスも  「東大看護GNRC目白台プロジェクト」の新たな取り組み
特集
2025年8月19日
2025年8月19日

家族まるごと看るサービスも  「東大看護GNRC目白台プロジェクト」の新たな取り組み

東京大学医学部附属病院 分院の跡地(東京都文京区目白台)にヘルスケア複合建物が誕生し、2025年7月にグランドオープンを迎えました。ここには、東京大学大学院 医学系研究科附属グローバルナーシングリサーチセンター(以下「東大GNRC」)のオープンラボや、新たな取り組みに挑戦する看護ステーションも入っています。新たな看護の拠点で行われる取り組みや研究内容に迫ります。 文京区目白台に誕生したヘルスケア複合建物 東京大学医学部附属病院 分院の跡地に誕生したヘルスケア複合建物「Tonowa Garden(トノワ ガーデン)目白台」。「SUSTAINABLE COMMUNITY CAMPUS~地域をむすぶ、世界に広がる、未来へつながる。」というコンセプトで、人同士の多様なつながりが生まれることを目指しています。 建物内には、ヘルスケア関連の施設が多数あります。サービス付き高齢者向け住宅、介護付有料老人ホーム、リハビリ特化型デイサービス、クリニック、調剤薬局、学童保育施設のほか、「東大看護ステーション目白台」、「東大GNRCオープンラボ」という新たな看護の拠点も入っています。 「東大看護ステーション目白台」とは? 東大看護ステーション目白台は、東大GNRCの教員らが立ち上げた「一般社団法人東大看護学実装普及研究所」が運営する看護ステーション。研究者であり臨床経験も積んでいるメンバーが、東大GNRCと連携しながら質の高い看護サービスを提供します。介護保険・医療保険制度による訪問看護はもちろんのこと、新しい保険外看護サービスも提供。世帯単位での月額制看護サービス「GNRCつながるケア」を展開しています。 「家族まるごと支える」新たなチャレンジ 提供:一般社団法人東大看護学実装普及研究所 「GNRCつながるケア」は、個人ではなく世帯単位で看護を提供する点が特徴的です。定期面談、メール・電話での相談、別居のご家族へのレポート送付などに対応しています(※)。介護保険・健康保険による訪問看護の対象にならない方や病院の受診に至っていない方など、これまで医療との接点がなかったご家族にも看護師による健康相談サービスを届けられる新しい取り組みです。 ※プランにより、対象人数や面談頻度、提供サービスなどは異なります。 「東大GNRCオープンラボ」とは? 東大GNRCオープンラボは、東京大学医学系研究科附属の研究機関で、東大看護系教員、大学院生、学部生などによって運営されています。 「誰もが自分と自分のまわりの人たちを大事にできる『幸せ社会』を目指す拠点」として、文京区民が気軽に立ち寄れる暮らしの保健室の機能を持つほか、さまざまな研究・取り組みが行われる予定です。多目的スペースのため、自由度高く活用できます。 直近では、2025年6月~12月に文京区からの委託事業として『共に学ぶ「ケア」講座』を実施しており、学生から高齢者まで幅広い層の方から定員を超える多数の申し込みがあったとのこと。地域住民の関心・ニーズの高さがうかがえます。 東大GNRCセンター長 山本 則子教授。東大医学部衛生看護学科を1963年に卒業した遠藤和枝さんが東大GNRCに寄贈された絵画「酸素を放出する微細藻類」と。 完成見学会も盛況 2025年5月末に行われた東大GNRCオープンラボの完成見学会では、研究分野ごとにコーナーが設けられ、研究内容や開発した商品、取り組みなどを説明。訪れた方々は熱心に聞き入っていました。 2025年5月末に行われた完成見学会での様子 例えば、地域看護学・公衆衛生看護学分野のコーナーでは、「乳児の股関節脱臼の遅診断・見落としゼロ」プロジェクトが紹介されていました。乳児股関節脱臼は、徒手検査では一部見落とされる可能性があり、発見が遅れると高齢期の変形性股関節症に至るリスクもあります。こうしたリスクを減らすために、各自治体が行っている新生児訪問指導時に保健師等による超音波検査を行うことを提案しており、一部地域で試行したことによる成果も出ています。 イベント時には、人形を用いた超音波検査の体験も そのほかにも複数の体験コーナーが設けられ、医療や健康に関心を持ってもらえるような工夫が凝らされており、活発な交流も生まれていました。 イノベーティブな発想で「新しい看護」にチャレンジ 最後に、東大GNRCオープンラボ・東大看護ステーション目白台を運営している皆さまのコメントをご紹介します。 東大GNRCセンター長 山本則子教授 看護が人間の生活にとって重要で欠かせないものであるという点は今後も変わりませんが、ニーズに応じて看護の形、やり方は変わっていきます。だからこそ私たちは、イノベーティブな発想を持ち、勇気をもって新しい取り組みにチャレンジしていくべきだと思っています。 東大GNRCオープンラボ・東大看護ステーション目白台では、多様な方々の力を合わせながら、新たな看護を生み出す研究・開発を進めていきます。 東大看護ステーション目白台 管理者 北村智美さん 「GNRCつながるケア」は保険外サービスであり、ご自宅に限らず入院先や施設での面談、通院への立ち合いなどさまざまな可能性があると思います。利用者のニーズに合わせて、柔軟な形で看護を提供していけたらと思います。 将来的にはここから得た研究知見を発表し、他地域でも提供可能な方法を検討していきたいと考えております。 東大GNRCオープンラボ 広報担当 仲上豪二朗教授 東大GNRCオープンラボは、地域の方々とともに研究を推進できる先進的な場です。 東大病院の分院が閉院した2001年以降、この建物が完成するまでに多数の検討・調整がなされてきました。東大研究者たちの強い想いや努力の積み重ね、そして東大に愛着を持ってくださっている地域の方々からの後押しなどがあったからこそ、東大GNRCオープンラボが誕生できた経緯があります。 先人たちからのバトンをしっかり受け取り、少しでも早く社会に役立つ研究を推進すべく、覚悟と信念をもって取り組んでいきます。 * * * 新たな看護の研究拠点が誕生し、世帯単位での看護サービスや市民参加型の研究活動など、先進的な取り組みが展開されています。ぜひ今後の展開に注目していきましょう。 執筆・取材・編集:NsPace編集部 ■訪問看護の紙芝居データ 公開中! お子様に訪問看護を説明したいときにも使える!未就学児向けの紙芝居「かぞくのみかた ほうもんかんごしさん」のデータを公開中!「お役立ちツール」からダウンロードできます。 >>お役立ちツール

訪問看護の現場で活きる!感染対策の実践【セミナーレポート後編】
訪問看護の現場で活きる!感染対策の実践【セミナーレポート後編】
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2025年8月19日
2025年8月19日

訪問看護の現場で活きる!感染対策の実践【セミナーレポート後編】

2025年5月16日、NsPace(ナースペース)はオンラインセミナー「訪問看護の現場で活きる!感染対策のヒント」を開催。訪問看護の現場で実施したい感染対策について、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行の振り返りをふまえて解説いただきました。講師は、感染管理に造詣が深い松橋 久恵さんです。セミナーレポート後編では、具体的な感染予防のためのアクションをご紹介します。 ※約90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)が特に注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 >>前編はこちら訪問看護の現場で活きる!感染対策の基礎知識【セミナーレポート前編】 【講師】松橋 久恵 さん訪問看護師/元 感染管理認定看護師(2010~2024年)1997年から20年以上にわたって国立がん研究センター東病院にて勤務。2010年には感染管理認定看護師の資格を取得し、院内の感染対策に専門的に取り組む業務にも従事した。2019年に「訪問看護ステーションそら」に入職し、現在に至る。 標準予防策の具体的な実践 前編(>>「訪問看護の現場で活きる!感染対策の基礎知識」)では、新型コロナウイルス感染症の感染対策においても「標準予防策(スタンダードプリコーション)」の徹底が重要であることをお伝えしました。これは在宅医療の現場においても例外ではありません。標準予防策の実施率を高めることは、感染リスクを減らすだけでなく、医療従事者や利用者さん、ご家族を守り、さらには感染拡大を防ぐことにもつながります。 そこで今回は、訪問看護の現場で活用できる、標準予防策の具体的な実践方法をご紹介します。 手指衛生 石けんと流水による手洗い、またはアルコール手指消毒のことです。適切なタイミングと方法で実施することが重要です。 (C)HAICS/T.Torii 手指衛生を実施すべき主なタイミングは以下の通りです。 患者に触れる前 清潔操作の前 患者に触れた後 血液・体液に触れた後 患者周囲の環境に触れた後  特に「血液や吐物、排泄物を扱った」時は、手袋をしていても手に付着している可能性があるので、石けんと流水による手洗いを、目にみえる汚れがなければアルコール手指消毒をしましょう。また、手洗いは、指先、指の間、手のしわなど、汚れが残りやすい部分を意識して丁寧に行うことが大切です。 個人防護具(PPE)の使用 血液や体液、汗を除く分泌物、排泄物、粘膜や損傷のある皮膚を扱う場合、もしくは清潔な取り扱いが必要なケアを行う際は、個人防護具を使います。個人防護具は常に着ける必要はありませんが、使用する際は必ず単回使用としてください。 ■着脱の基本 着用時は最後に手袋を装着し、手の清潔を守ります。反対に、脱ぐときは最も汚染しやすい手袋が最初で、手首から裏返すように外し、フェイスシールドやガウンなど、ほかの防護具は手指衛生の後に脱ぎます。 ■個人防護具は行動に合わせて選択を 「感染症」ではなく「これから自分が何をするか」に合わせて適切な個人防護具を選択しましょう。 (C)HAICS/T.Torii 環境整備 環境整備とは、埃や汚れを除去し、清潔で臭いのない空間を保つことです。 例えば、血液や排泄物、吐物で汚れたリネンには感染性があるため、個人防護具を着用の上、予洗いをしてから塩素系漂白剤で消毒します。血液や排泄物などのタンパク質は塩素系消毒剤を不活化するため、先に取り除いておかないと、消毒の効果を十分に得られない可能性があります。なお、塩素系漂白剤は金属腐食や脱色を招くこともあるので、使用後は触れた箇所を水拭きしましょう。 ほかには熱水消毒(80℃で10分以上煮る)も有効ですが、在宅では難しい場合が多いため、乾燥機やアイロンによる熱処理での代替をおすすめします。また、消毒薬を必ず使う必要はありません。手がよく触れる場所を、洗剤などで丁寧に掃除することも大切です。 器材の管理 器材を消毒する前に、しっかり洗浄して汚れを落とすことが基本です。消毒では、家庭で入手できる消毒薬を利用しましょう。塩素系漂白剤を薄めたものがよく使われますが、適切な濃度にすること、つくり置きしないこと(時間経過で濃度が変化するため)を守ってください。 なお、洗浄消毒の対象となるのは「正常な皮膚のみと接触する器材」「(在宅では)粘膜や創傷に接触する器材」です。「無菌の組織に接触する器材」は医療関連感染を起こさないよう、単回使用が原則とされています。 在宅医療廃棄物の処理・取り扱い 「インスリン注射針が不適切に廃棄されることで、一般の回収業者や商業施設の清掃作業員の方が受傷してしまった」といった医療機関外の事故が、残念ながら起こっています。ご存じかとは思いますが、鋭利なものは耐貫通性の蓋つき容器に入れて持ち運びましょう。また、血液や体液、排泄物が付着した可能性があるものはビニール袋に入れて密封し、ヘルパーさんやご家族などが安全に処理できるよう配慮が必要です。 万が一針刺し事故が起きた場合は、肝炎ウイルスやHIVなどに曝露する可能性があります。すぐに大量の流水と石けんで洗い流し、感染源である利用者さんと自身の採血を行って、受診してください。なお、針を扱う際は手袋を装着していると安全性が高まります。 ■利用者さんからみた在宅医療廃棄物の廃棄方法 インスリン注射針をはじめとした一部の在宅医療廃棄物は、専用容器に入れれば、医療機関や薬局などで回収してくれます。必要に応じてご案内ください。 訪問看護ならではの感染対策 訪問看護の現場では、以下の感染対策も重要になります。 換気 窓を開ければいいというものではなく、ポイントは「一方向の窓を常時少しだけ開けておく」ことです。窓を小さく開けることで、寒い冬や暑い夏でも室温を保ちながら換気できます。換気扇を活用して空気の流れをつくるのもよいでしょう。 空気清浄機はあくまで換気を補完するもので、単体では十分な換気の効果は得られません。空気清浄機があるから大丈夫、と安心してしまわないよう注意が必要です。また、エアコンは室内の空気を循環させているだけで、外の空気を入れたり中の空気を出したりする機能は基本的にありません。つまり、換気の手段にはならないため、窓を開ける、換気扇を使用する、といったほかの方法と併用しましょう。 ゾーニング マスクは「ユニバーサルマスキング」として常に着用しておきます。訪問時はまず、グリーンゾーンに荷物を置き、手指消毒を行います。次に、イエローゾーンで必要なケア物品を準備し、個人防護具を着用します。そして、レッドゾーンでケアを行い、作業が終わったらその場で個人防護具を脱ぎ、適切に廃棄して再度手指消毒を行います。退出前には、持ち帰る物品や荷物を拭いて清掃・消毒し、最後にもう一度手指消毒をして退出する、という一連の流れになります。 ガウンを着る場合は、ケア中にウイルスや細菌が衣服につくのを防止するのが目的なので、イエローゾーンで着用しても問題ないと考えられます。着脱する理由を明確にして、安全に、かつ余裕をもって脱ぎ着できるようにしてください。 BCP(事業継続計画) 職員の健康や生活を維持しつつ、感染拡大防止に努めながら事業を継続するための対策や備えが求められます。以下のような点について、事業所のメンバーやほかの事業者と話し合い、実践、検討しておきましょう。 ・手指衛生の訓練をする・手袋の着脱や使用シーンを含めて個人防護具の使い方を検討する・個人防護具のローリングストック(常に一定量を確保)・体調不良を申告しやすい雰囲気をつくる・余裕をもった訪問計画の検討と柔軟な対応 * * * 訪問先の環境はそれぞれ異なりますが、本セミナーでお伝えした標準予防策の重要性を理解していただければ、現場で求められる感染対策を柔軟に検討・実践できるはずです。また、繰り返しになりますが、在宅医療の現場でも標準予防策の実施率を高めていくことが欠かせません。 「自分がこれから何をするのか」「どのようなケアを行うのか」を常に意識しながら感染対策に取り組むことが、利用者さん、そして私たち自身を守ることにつながります。このセミナーの内容が、みなさんの日々の業務に少しでも役立てば幸いです。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

訪問看護の現場で活きる!感染対策の基礎知識【セミナーレポート前編】
訪問看護の現場で活きる!感染対策の基礎知識【セミナーレポート前編】
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2025年8月5日
2025年8月5日

訪問看護の現場で活きる!感染対策の基礎知識【セミナーレポート前編】

2025年5月16日に開催したNsPace(ナースペース)のオンラインセミナー「訪問看護の現場で活きる!感染対策のヒント」。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行期を振り返り、訪問看護における感染対策についてご講演いただきました。講師は、感染管理に造詣が深い松橋 久恵さんです。セミナーレポート前編では、訪問看護における感染対策の特徴や考え方、直面する課題についてご紹介します。 ※約90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)が特に注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】松橋 久恵 さん訪問看護師/元 感染管理認定看護師(2010~2024年)1997年から20年以上にわたって国立がん研究センター東病院にて勤務。2010年には感染管理認定看護師の資格を取得し、院内の感染対策に専門的に取り組む業務にも従事した。2019年に「訪問看護ステーションそら」に入職し、現在に至る。 「感染」の定義 感染とは、病原体が宿主の体内に侵入し、発育・増殖すること。単に体内に病原体が定着しただけでは発症しません。感染が成立しやすい主な条件は以下のとおりです。 病原性が強い 未知の病原体で抗体をもっていない ウイルス量が多い流行期である 抵抗力が弱っている(高齢者・小児・基礎疾患を持つ人など) 感染予防の考え方 「感染経路」を断ち切る標準予防策 文献1)より引用 人から人への感染は、上図の輪で表した感染経路がつながったときに成立します。この輪を断ち切ることが予防の第一歩。そして、この考えに基づいた対策が「標準予防策(スタンダードプリコーション)」です。 標準予防策では、感染症の有無にかかわらず、すべての対象者の「血液」「体液」「分泌物」「排泄物」「粘膜」「損傷のある皮膚」には感染リスクがあると考えて対応します。代表的な対策は、以下のとおりです。 手指衛生 個人防護具(手袋・マスク・ガウン・ゴーグルなど)の適切な使用 環境整備 器材の管理(洗浄消毒滅菌) 廃棄物の処理や取り扱いへの注意 特に重要なのは手指衛生です。ウイルスや細菌は手によって運ばれるため、感染経路を断つ上で最も有効な手段といえます。感染性のあるものを扱った際には、目・鼻・口といった「侵入門戸」に手が触れないよう特に注意が必要です。たとえ病原体が手に付着していても、これらの部位に触れなければ感染は成立しません。感染を防ぐ上で最終的な防御ラインを担っているのが「手」であるため、やはり手指衛生の徹底は欠かせないのです。 コロナ禍を振り返る 新型コロナウイルス感染症への対応ガイド 2020年以降の新型コロナウイルス感染症感染拡大時には、多くの訪問看護事業所が対応に苦慮したでしょう。2023年1月に環境感染学会が発行した「医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド(第5版)」(以下「ガイド」)では、新型コロナウイルス感染症に対して、これまで多くの医療現場や社会全体が抱えてきた「どこまでやればいいのか」「何が本当に必要なのか」といった疑問に対して、最新の知見をもとに一定の方向性が示されています。基本的には、標準予防策をベースとし、リスクの高い場面では必要な対策を追加するという考え方です。 ■日常ケアは標準予防策の徹底が重要 COVID-19において、特別な対応が必要とされるのは一部の場面に限られます。例えば、吸引や酸素吸入などエアロゾルを発生させる手技を行う場合にはN95マスクの使用が推奨されますが、日常的なケアでは標準予防策を適切に実施することで十分に対応可能とされています。また、互いにマスクを着用していれば飛沫が直接届くリスクは低いため、アクリル板の使用も必須ではないとされています。 なお、新型コロナウイルス感染対策において、医療現場で全員がマスクを着用する「ユニバーサルマスキング」が推奨されており、これも標準予防策の一部のように考えられるようになってきています。COVID-19患者は発症の2日前から他人に感染させる可能性があるため、ケア提供者から利用者さんへの感染リスクを減らす観点から、ユニバーサルマスキングは重要です。なお、マスク素材はサージカルマスクまたは不織布マスクが望ましく、布マスクなどの性能には限界があるため注意が必要です。 ■COVID-19疑い例:状況に応じて個人防護具を選択 COVID-19の疑いがある場合、患者さんとの距離や接触の程度によっても個人防護具の選択は変わります。たとえば、身体接触がほぼ無い場合にはガウンの着用は不要で、環境表面に触れる可能性があるなら手袋を着用する、といったように「目的に応じた選択的な対策」が求められます。 ■COVID-19確定例:原則シューズカバーは不要 文献2)より引用 COVID-19確定例の場合、シューズカバーを脱ぐ際に手指が汚染されるリスクを考慮し、基本的にはシューズカバーの使用は推奨されていません。衣類に付着したウイルスは増殖しないとされているため、たとえ靴下やズボンにウイルスが付着したとしても、過度に心配する必要はないとされています。 訪問看護における感染対策の難しさ 医療現場における感染対策の情報は、多くが病院や施設での実施を前提にまとめられています。環境や条件の違いから、病院と同じ水準の感染対策を訪問看護の現場でそのまま実施するのは、現実的に難しいといえるでしょう。ここからは、訪問看護における感染対策についてみていきます。 感染リスクについて 病院や施設の場合、「集団生活」であることを理由に、患者さんや利用者さんに対して一定の強制力をもって協力を求めることができます。「周囲に迷惑をかけたくない」という雰囲気が自然に生まれる環境ですし、資源(人手・資金・物資等)も比較的整っています。 一方の訪問看護では、基本的に訪問時の一時的な協力依頼にとどまるケースがほとんどです。利用者さんに症状が見られても検査結果を待たずに対応せざるをえず、看護師側が感染リスクを抱えながらケアにあたる場面も少なくありません。 病原体の伝播リスクについて 訪問看護の場合、多数の患者さんが集まる医療機関とは異なり、病原体の伝播リスクは比較的低いとされています。 主な感染源は 感染したサービス提供者や家族 汚染された器材 ですが、訪問看護の現場では、医療処置やケアを行う人は限られています。また、器材の共有が少なく、カテーテル挿入などの侵襲的処置も最小限にとどまります。 訪問看護における感染対策のポイント 標準予防策の実施率アップを目指す 当たり前に感じる方もいるかもしれませんが、スタッフ一人ひとりがきちんと標準予防策を意識し、確実に実施できるかどうかが感染対策の鍵になります。ガイドで繰り返し強調されているように、新型コロナウイルス感染対策においても標準予防策の徹底が重要でした。感染経路が多様であっても、感染対策の基本となる柱は変わりません。 在宅医療の現場でも同様に、標準予防策の実施率を上げていくことが感染リスクを下げ、医療従事者と利用者さんやそのご家族を守り、感染拡大を防ぐことにつながるということを、改めて意識していただきたいと思います。 感染経路別予防策の追加 未知の感染症であっても、基本的にいずれかの感染経路に分類されます。そのため、標準予防策に加えて、感染経路別予防策を追加していくことも必要です。以下に、代表的な感染経路(図)とそれぞれに対する予防策の例をご紹介します。 (C)HAICS/T.Torii■空気予防策長く続く咳や発熱は結核、発疹が伴えば麻疹や水痘の可能性があるため、発症者はサージカルマスク、ケア者はN95マスクを装着。抗体をもっている、罹患歴がある場合は通常のマスクを選択可能。■飛沫予防策呼吸器症状が見られ、流行期にあるときは、ケア者も発症者もサージカルマスク(場合によってはN95マスク)を装着。■接触予防策下痢や嘔吐が見られる場合、ガウンを着用し、ほかの利用者さんとの器材の共有は避ける(共有する場合は消毒する)。次亜塩素酸ナトリウムを含む製品を利用した環境清掃も有効。 感染症発症者にマスクを着用してもらうことは、最も有効な感染拡大防止策のひとつです。咳エチケットの観点から、協力を求めても問題ないと思います。マスク着用が困難な場合は、ケア提供者が目を保護するとよいでしょう。また、換気を徹底することでリスクをさらに軽減できます。(換気については後編「訪問看護の現場で活きる!感染対策の実践」で解説) 症状を確認しながら経験的な経路別予防策を追加することは、訪問看護における感染予防の実践には欠かせません。そのため、標準予防策と組み合わせて、柔軟に対応していくことが重要です。 以下の表は、訪問看護における標準予防策と、実際の場面で求められる経験的な感染対策をまとめています。 例えば、「7. 退室」時の標準予防策は「手指衛生」のみですが、利用者さんが「ノロウイルスかもしれない」と考えられる場合には、退出前にベッド周辺を消毒用クロスでさっと拭き取るなど、「環境整備」の対応を追加することもあります。 感染症まん延に対する心構え 「発生ゼロ」目標と人権侵害 医療関連感染の対策における目標は、「発生ゼロ」を目指すのが基本です。しかし、新型コロナウイルス感染症の流行状況をふまえると、市中感染で同水準を目指すのは非現実的でしょう。 特に感染拡大期には、社会活動そのものを制限するほどの対策が必要となり、社会生活との両立は困難です。その点を理解しないと、感染者や医療従事者が苦しみますし、必要以上に責められる結果になりかねません。例えば、症状を隠して出社する、発症者を非難する、感染は自己責任といわれる…といった、コロナ禍に一部で見られた風潮の背景にも「理解不足」があるでしょう。 市中感染の場合、「発生ゼロ」を目標とするのではなく、感染者への早期対応やサービス・事業を継続していくための体制づくりに力を注ぐことが重要だと考えています。また、感染症には昔から「人権侵害」の問題がつきものです。特に新しい感染症が発生し、正しい知識が浸透していないときは、恐怖感や不安感から差別的行動が生まれやすくなります。 例えば新型コロナの流行時には、訪問看護師が玄関の外で感染防護服を着用する場面も見られました。「慎重な対応をしておくに越したことはない」と思われるかもしれませんが、実際の感染リスクを鑑みると過剰なケースもあり、近隣住民の目に触れることで利用者さんが差別や偏見を受けるリスクもあります。特に防護具を着用する場面や方法には十分な配慮が必要です。 感染対策を行う上では、単にマニュアル通りに動くのではなく、「本当に必要か」「その行動が利用者さんにどのような影響を与えるか」を立ち止まって考えることが求められます。医療従事者には、冷静な判断をする力と、利用者さんの人権を尊重し、生活環境への配慮をする姿勢が不可欠です。 次回はより具体的な標準予防策の実践や訪問看護ならではの感染対策、BCPについて解説していきます。>>後編はこちら訪問看護の現場で活きる!感染対策の実践【セミナーレポート後編】 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア 【引用】1)NPO法人HAICS研究会PICSプロジェクト 編著「オールカラー改訂2版 訪問看護師のための在宅感染予防テキスト」メディカ出版, 2020,p14.2)⼀般社団法⼈ 環境感染学会.「医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド第5版」,2023.

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