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寄り添うケアが旅を可能にする~医療的ケア児のキャンプを支える在宅医療チーム~
寄り添うケアが旅を可能にする~医療的ケア児のキャンプを支える在宅医療チーム~
インタビュー
2026年1月27日
2026年1月27日

寄り添うケアが旅を可能にする~医療的ケア児のキャンプを支える在宅医療チーム~

2025年10月、河口湖を舞台に医療的ケア児と家族のための「第6回 キラキラこどもキャンプ 湖と富士山を見たい! 2025 in河口湖」が開催されました。医療的ケアを必要とする子どもたちとご家族にとって、旅行は大きなハードルであると同時に、かけがえのない体験でもあります。その一歩をどう支え、どのように連携を整えてきたのか、キャンプの企画・運営に携わる木戸さんにお話をうかがいました。 >>前編はこちら医療的ケア児と家族へ届ける自然体験~こどもキャンプ再開に込めた想い~ 木戸 恵子(きど けいこ)さん株式会社ウッディ 訪問看護ステーションはーと 管理者・代表取締役訪問看護師として25年以上の経験を持ち、在宅療養を支える実践を続けている。「ナイトナース」制度を導入し、24時間対応体制の課題に対する新しい働き方を訪問看護業界に提案。看護師の負担軽減と利用者満足度の両立に取り組む。「第3回 みんなの訪問看護アワード」大賞受賞。(エピソード漫画化記事:「お母さん〜看護の襷をつなぐということ〜」) 垣間見えたこどもたちの成長と頼もしさ ―キャンプ内で心に残ったご家族の言葉やエピソードはありますか? 例えば、保護者の方々からは以下のような声をいただいています。 「自分たちが旅行を計画するとなると、部屋のお湯や電子レンジの有無など、細かな確認が必要で本当に大変です。今回はそういった確認が不要で、安心して参加できました」   「娘と一緒にキャンプに行くのがずっと夢でした。普段は旅行に連れていく余裕もなくて…。でも今回は移動中も医療者の方が見てくださって、本当に助かりました」「久しぶりにキャンプが開催されると知って、思い切って申し込みました。シングルなので、一人で子どもたちを旅行に連れていくことが難しい状況があります。キャンプでは子どもたち同士が自然と仲良くなっていました」 自然と打ち解け、あっという間にできた「仲間の輪」。笑顔あふれるキャンプの様子 普段の訪問では、ごきょうだいの揺れ動く気持ちや我慢はどうしても見えにくいものですが、このキャンプはごきょうだいのケアも大切にしたいという思いで運営しています。 あるご家庭からは、どうしても医療的ケアが必要な子に注目が集まり、ほかのごきょうだいが自然と我慢を重ねる場面が多いというお話を伺っていました。そこで、キャンプ中はごきょうだいたちにも小さな役割をたくさんお願いすることにしたんです。バスタオルを配ったり、歯ブラシを届けたり。任せた仕事をどれも丁寧にこなしてくれて、来年に向けての意気込みを語ってくれた子もいました。自己肯定感の向上につながる経験のひとつになったのではないかと思います。 24時間体制での連携 ―キャンプ地でのサポート体制はどのように組んでいたのでしょうか。 キャンプ地で24時間医療的ケアを支えるためには、当日だけでなく、丁寧な準備が欠かせません。キャンプの前日と前週水曜日に往診を行い、参加するすべてのご家庭を医師と看護師が事前に回り、カルテを作成してアレルギーや体調について把握していました。また、事前に必要な情報を共有し、看護師・医師が即時に対応できるよう、さまざまなケースのシミュレーションも重ねていました。 キャンプ当日は、医療従事者20名ほどが参加。夜間は看護師が必要に応じて各部屋を訪問する体制を取り、「一家族一ナース」には至らないものの、必要なタイミングで寄り添う形を重視しました。食事や移動時のトイレ対応、医療的ケアなど、担える部分は積極的に引き受け、ご家族が休息できる時間を確保することを心がけました。 ―想定外の事態などはありましたか。 キャンプ当日にインフルエンザが発生しました。感染症に罹患した場合のこともシミュレーションして臨んでいたので、初動対応は比較的スムーズに進めることができたと感じています。発熱が確認された時点で、運営・看護師・医師がすぐに協議し、感染拡大防止を最優先に対応しました。医師は点滴や検査キット、緊急薬剤を含む医療機材を持参しており、その備えが現場で生きました。 しかし、準備していた抗ウイルス薬が結果的に不足してしまった点が想定外でした。そのため、夜間対応が可能な薬局を手分けして探し、当日中に必要な量の薬剤を調達する対応が発生したんです。最終的には、運営・医療スタッフ・ご家族それぞれの協力によって、影響を最小限に抑えることができたと受け止めていますが、プログラムは変更せざるを得ませんでした。 過去にも、海で鼻血がでてしまったり、夜に興奮しすぎて発熱したり、急な体調変化や疲れによる不調など、想定外の出来事は少なくありません。どれほど準備を重ねても、現場では「想定外」が起こりえます。「次はもっとこうしよう」という振り返りの積み重ねが、より安全で安心できる場づくりにつながるのだと考えています。 参加した医療職の動機と気づき ―今回は、他の事業所の医療職の皆さんも数多く参加されたそうですね。 はい。医療的ケア児の生活により近い形で関わりたい、家族看護の視点を深めたい、自分たちの地域でもキャンプを実現してみたい…。そんな前向きな思いで来てくれていました。若いスタッフから経験豊富なメンバーまで、立場はさまざまでも共通していたのは「現場の外で子どもたちを見る機会がほしい」という願いでした。中には、キャンプの運営方法や広報の工夫、場所選びのポイントなど、すぐに持ち帰って応用したいという情熱を持った方もいました。 実際に参加した医療職からは、「キャンプは非日常の場だけれど、ごきょうだいの関係やご家族の過ごし方を見て、むしろ『日常そのもの』を感じさせていただいた」「訪問看護をしていて利用者さんのことや生活について分かっているつもりでしたが、実際には知らないことも多かったと気づきました」といった声をいただきました。こちらとしても、その場の状況を瞬時に読み取り、柔軟に動いてくださり、本当に心強い存在でした。 医療スタッフとボランティアが一体となって支えたキャンプ どの事業所も当然ながらスタッフ全員がキャンプに参加できるわけではありませんし、スタッフの人数に合わせて受け入れられるご家庭の数も調整が必要になります。それでも、今回他事業所の方々を含めて協力していただいて、「小規模だから無理」ではなく「やると決めて仲間を集めれば実現できる」ということを改めて強く感じました。大事なのは規模ではなく、情熱と連携。この2つがあれば、どの地域でも形になるはずです。 スタッフ・支援者・寄附の力 ―協賛・協力をしてくださった方も多かったと聞いています。 はい。このキャンプは、これまで「地域みんなで育てていく」という思いで続けてきました。私たちの活動は個人ではなく、地域の医師をはじめとした協力やつながりが土台になっています。今回も、日頃から関わってくださっている方々が自然と力を貸してくださり、その温かさに何度も救われました。 クラウドファンディングでは、直接お会いしたことがない方々も理念に共感して寄付してくださいました。その一つひとつの思いに触れ、「世の中にはこんなにも優しさが残っている」と胸が熱くなると同時に、託された責任や期待の大きさも実感しました。 立ち上げの思いに共感した仲間たちが、構成づくりから担ってくれた特設サイト「第6回キッズキャンプ in 河口湖―小児疾患の子どもたちの勇気を膨らます会―」HPより 久しぶりの開催だったこともあり、「待っていたよ」という声をたくさんいただきました。朝早くから駆けつけてくれた方、差し入れで場を盛り上げてくれた方、「本当は企画段階から関わりたかった」と言いながら当日に参加してくれた方……。その気持ちの一つひとつが励みになりましたし、私ひとりの力では絶対に形にできませんでした。 寄付をしてくださった人のなかには、「うちの子も医療的ケア児です。今回は参加しませんが活動を応援したい。来年は参加します」というメッセージもありました。小児科の先生から、支援金とともに「小児科医はいくらいてもいいよね。来年は行くよ」と連絡をいただいたりもしました。 こうした声に触れるたびに思うのは、「このキャンプは、もう私たちの会社だけの取り組みではない」ということです。関わる人が時間も体力も心も注いでくれる。医療的ケアが必要な子どもたちとその家族が「自分たちは支えられている」「未来がある」と感じられる場所であり続けたいし、そのための努力をもっと積み重ねていかなければいけないと感じています。声を上げれば、誰かが応えてくれる。応えた力が、また次の誰かを動かす。この循環を、未来へもっと広げていきたいですね。 未来への展望・これからの活動 ―今後の展望についてお聞かせください。 子どもキャンプは、これからも続けていくつもりです。そのためには募金活動を継続することに加え、いずれはNPO化など、持続可能な体制づくりも必要かもしれません。活動としての「器」を整える段階に入りつつあると感じています。 地域や法人の枠を越えて協力し、より多くのお子さんが参加できる形をつくることが理想です。車の台数やルート調整など運営上の課題もありますが、それも皆でつくり上げるキャンプの醍醐味だと思っています。 また、現地に来られない子どもたちにも、今回のお出かけの楽しさや心に残る風景を映像で届けたら素敵ですね。医療的ケアが必要な子どもが多く通う放課後デイサービスに共有するのもいいと思っています。そんなふうに「体験を分かち合う」ことで、どの子も少しずつキャンプに参加している気持ちになれるのではないかと思っています。 富士山を背に記念撮影 ―最後に訪問看護師の皆さんへメッセージをお願いします。 訪問看護師の皆さんは、日々やることを整理し、チームで助け合いながら、看護に取り組まれていると思います。しかし、看護の本質はそれだけに収まらないと感じています。看護は本来「気づいて、想像して、つくっていく」もの。 少し視野を広げて、どこに本当のニーズがあるのか目を向けてみると、まだ埋まっていない穴がたくさんあることに気づきます。特に医療的ケア児やそのご家族は、日々たくさんの「我慢」が積み重なっているので、ちょっとした声かけや小さな配慮によって救われることがあります。大きなことじゃなくていいんです。そっと差しのべたひと手間。その温かい「気配り」こそ、看護の本質だと思うんです。技術だけでは届かない部分が、確かにそこにあります。 そのためには、何より自分自身が元気でいてください。心身が健康であれば、「ここでこんな関わりをしたら、きっと心が和らぐだろうな」と自然に想像できるようになります。それが、私から訪問看護師の皆さんへ送るエールです。 取材・編集:NsPace編集部執筆:小松原 菜々

“すぐに動く”を支えるしくみ――待たせないケアと、信頼でつながるチームの力~訪問看護ステーションれんげの花 野老さん・富田さんにインタビュー~
“すぐに動く”を支えるしくみ――待たせないケアと、信頼でつながるチームの力~訪問看護ステーションれんげの花 野老さん・富田さんにインタビュー~
インタビュー
2026年1月27日
2026年1月27日

“すぐに動く”を支えるしくみ――待たせないケアと、信頼でつながるチームの力~訪問看護ステーションれんげの花 野老さん・富田さんにインタビュー~

「すぐに動ける」訪問看護――それは決して一人の行動力だけで成り立つものではありません。 今回お話を伺ったのは、「訪問看護ステーション れんげの花」で日々利用者さんに寄り添う野老さんと、ケアマネジャーとして現場を支える富田さん。職種の垣根を越えて支え合う関係性や、日々のちょっとした声かけの積み重ねが、利用者さんの“いま”を守る力になっているといいます。チームの温かな信頼の中で育まれる、「待たせないケア」の真髄とは――その現場をのぞいてみました。 【※本記事はNsPace Career が事業所向けに提供している「特集記事掲載サービス」によるものです。取材・撮影・編集はNsPace Careerが担当しました。】 「待たせないケア」は、チームでつくる 「基本的に、“何とかする”って思ってます」 インタビューの冒頭、野老さんはそう静かに話してくださいました。訪問看護の現場において、“待たせない”ということは、時に大きな意味を持ちます。急な症状の悪化、ご家族の不安、予期せぬ環境の変化――どれも、「すぐに誰かが動く」ことで救われる瞬間があるからです。 「訪問看護は定期的な訪問がベースですが、“今、ちょっとおかしいかも”って連絡が入ったら、まずは“今から行きます”って動ける体制をとってます」 それを支えているのは、野老さん個人の意志だけではありません。管理者という立場にありながら、日々の訪問を自ら担い、チーム全体の動きを把握しているからこそ、瞬時の判断ができる。そして何より、「それを分かって動いてくれる仲間」がいるからこそ可能なのだといいます。 また、こうした体制を維持するために、日頃からスタッフ間での情報共有やケース検討の場も大切にしているとのこと。日常のちょっとした会話の中にも、「あの方、最近どうですか?」といった気づきや声かけが行き交う現場だそうです。 「何かあったときに動けるのは、日頃の関係性があるから。信頼できる人が周りにいると、自分も安心して判断できますし、相談もしやすいんです」 笑顔でスタッフと話し合うケアマネージャー富田さん。併設している居宅介護支援事業所で一緒に働いている。 気軽に相談できる距離の近さ 野老さんは、訪問看護歴10年であり、たくさんの経験や知識を今まで得てきています。そんな野老さんだからこそ、自分で訪問看護を運営する難しさや喜びを実感しています。 「前の訪問看護ステーションを退職して、少し休もうかなと思っていたんです。でも、家族や知人に“訪問看護、立ち上げてみたら?”と背中を押されて。書類や準備など開設の時は大変でしたが、ステキな仲間とのご縁もあって。楽しく続けてこられました」 自身もプレーヤーとして日々、利用者さんの訪問看護を提供する毎日。忙しさの中で、改めて多職種での連携の良さを感じたと話します。 「今まで、ケアマネージャーさんがそばにいる訪問看護ステーションで働いてきたのですが、最初、れんげの花を立ち上げたときは、居宅介護支援事業所を併設していなくて。その時に“いかにケアマネージャーがいたことがありがたかったか”と痛感したんです。富田さんが来てくれて本当によかった!」 改めて、多職種との距離が近いことで気軽に相談し合える良さを感じたと話す、野老さん。その姿に富田さんも笑顔ではにかんでいました。 背景にあるのは、人と人との信頼関係 チームワークの良さ、少数気鋭だからこそ、日々の人間関係が丁寧に築かれていることが伝わってきます。 「私は、“困ったときの富田さん”って勝手に呼んでるんですけど。本当に、何かあるとすぐに相談できる存在なんです」 野老さんがそう語ると、富田さんもまた、「私は“野老さんが行ってくれるなら安心”って思ってますよ」と笑顔で応じました。 職種が違っても、同じ目的で動ける関係性。それは一朝一夕で築けるものではなく、日々の小さな積み重ねによるものだといいます。 こうした連携のしやすさは、単なる業務効率では語れない「人と人の信頼」によって支えられています。 働く人が支えあえる現場づくり 「相談しやすさって、本当に大事なんですよね」 これは富田さんの言葉です。長年ケアマネとして働いてきた中で、職種間の“壁”を感じる場面もあったといいます。 「昔は、“ここからは医療だから看護師さんに”“これは介護の仕事”って線を引く風潮もありました。でも今は、“とにかく目の前の方のために”という軸で動いてくれる人がいると、本当に働きやすくて」 一方の野老さんも、「スタッフにも同じように、“声をかけやすい”って思ってもらいたい」と日頃から意識しているそうです。 「私は管理者ではありますけど、偉そうにしたいわけじゃなくて。“この人に相談しても大丈夫”って思ってもらえるように、毎日の声かけや雑談も大事にしてます」 さらに、業務以外の会話やちょっとした雑談が、チーム全体の関係性を柔らかくしているのだそうです。例えば朝の申し送りのときや訪問から戻ったタイミングで交わす、「今日はどうだった?」「ちょっと大変だったね」などの何気ない会話。その積み重ねが、「困ったときに助け合える」空気を育んでいるのです。 野老さんは、今後地域での活動にも目を向けています。 「精神疾患を抱える人が過ごせる居場所づくりにもチャレンジしていきたいです。今は、保険外の自費訪問看護のサービスも力を入れていて。受診同行や、日中にご家族がお仕事で見守りの支援とか、傾聴相談とか!地域で待っている人にいち早くケアをお届けしたい気持ちは持ちながら、広い視点で活動していきたいです」 スタッフを信頼し、のびのびと支え合いながら育っていくことができる、訪問看護ステーション れんげの花。 まさに、れんげの花の花言葉「あなたがいれば、私の苦痛は和らぐ」のように優しいあたたかな場所です。 てきぱきと業務をこなし、頼れる存在の野老さん。 インタビュアーより “すぐに動ける訪問看護”を実現するには、ただの行動力だけでは成り立ちません。そこには「信頼して任せられる関係性」「相談できる職場の安心感」「柔軟に判断する視点」といった、数えきれないほどの“人の力”が積み重なっています。 今回のインタビューを通して、「人に寄り添うケア」は、「人に支えられながら働ける職場」から生まれるのだと深く感じました。 “何とかする”という想いを、チームみんなで実現できる場所。そんな現場で働く喜びを、少しでも感じていただけたら嬉しいです。 事業所紹介 訪問看護ステーション れんげの花 住所:〒264-0032 千葉県千葉市若葉区みつわ台4-16-2斎木事務所1階102号 訪問エリア:千葉市若葉区、稲毛区、中央区、美浜区、花見川区 スタッフ:20~50代と幅広い。男性看護師も大歓迎。 特徴:タブレット貸与、ユニフォームや靴は会社にて補助している。シフト制、直行直帰も可能。保険外の自費訪問看護のサービスも提供している。 事業所紹介ページ:https://ns-pace-career.com/facilities/14664 この記事を読んで「訪問看護、自分にもできるかも」と感じた方へ 「もっと患者さんと関わりたい」「自分らしい看護を実現したい」そう感じている看護師の方は少なくありません。 NsPace Careerナビでは、訪問看護の現場で働く看護師のリアルな声を多数掲載しています。 精神科訪問看護で活躍する看護師の声 未経験から訪問看護を始めた体験談 育児と両立しながら働く現場の実例 各ステーションの教育体制・チーム文化 さらに、キャリアの悩みやモチベーション維持のコツなど看護師として働くうえで役立つ記事も充実。 「自分に合う訪問看護の職場って、どんなところだろう?」そのヒントが、きっと見つかります。 ▶ 他の訪問看護師インタビューを読むhttps://ns-pace-career.com/media/ 記事提供:NsPace Careerナビ編集部

医療的ケア児と家族へ届ける自然体験~こどもキャンプの意義~
医療的ケア児と家族へ届ける自然体験~こどもキャンプの意義~
インタビュー
2026年1月20日
2026年1月20日

医療的ケア児と家族へ届ける自然体験~こどもキャンプの意義~

外出や旅行に大きなハードルを抱える医療的ケア児と家族に、自然の中での体験を届けたい――。訪問看護師の木戸 恵子さんは、そんな思いから「こどもキャンプ」の企画・運営をしています。コロナ禍で約5年休止していましたが、2025年10月に待望の「第6回 キラキラこどもキャンプ 湖と富士山を見たい! 2025 in河口湖」が開催されました。今回は、木戸さんの本キャンプに込めた想いや運営の裏側を伺います。 木戸 恵子(きど けいこ)さん株式会社ウッディ 訪問看護ステーションはーと 管理者・代表取締役訪問看護師として25年以上の経験を持ち、在宅療養を支える実践を続けている。「ナイトナース」制度を導入し、24時間対応体制の課題に対する新しい働き方を訪問看護業界に提案。看護師の負担軽減と利用者満足度の両立に取り組む。「第3回 みんなの訪問看護アワード」大賞受賞。(エピソード漫画化記事:「お母さん〜看護の襷をつなぐということ〜」) キャンプの再開に向けた想い ―このキャンプは、そもそもどんなきっかけから始まったのでしょうか。 はい。重い病気や障害のあるお子さんのご家庭ほど、どうしても日常がケア中心になり、ごきょうだいが寂しい思いをする場面も出てきてしまいます。家族全員で思い出をつくる機会は限られ、運動会や旅行など、一般的には「当たり前」の体験が叶わないご家庭も多い現実があるのです。 この活動を始めたのは2015年ですが、その原点には、致死性骨異形成症という難病を抱えた「しゅうくん」(当時12歳)の存在がありました。 「しゅうくんの物語」より抜粋。物語全文はリンク先よりご覧ください。 自宅で過ごす時間が長く、公園にすら行ったことがなかった彼に、妹さんが「海みたいよね!」と言ったとき、嬉しそうな表情で頷いていました。その様子を見て、ご家族で行ける海でのキャンプを提案したんです。 これまでに6回キャンプを開催してきたなかで、かけがえのないご家族の思い出づくりの意義を、スタッフ一同強く実感しています。 ―コロナ禍で5年自粛されたようですが、再開に込めた思いについてもお聞かせください。 利用者さん家族から「今年はキャンプありますか?」という問い合わせを毎年いただき、「今年も自粛です」と伝えるのはとても胸が痛みました。また、キャンプを実施する際はスタッフの負担が大きく、体力も時間もエネルギーも必要ですが、それでもスタッフから「今年はやらないんですか?」と声をかけられることが何度もあって。「キャンプを大切に思ってくれているんだ」と胸が熱くなりました。 だからこそ、今回念願の再開を迎えられたことは、大きな希望となりました。再開初年度となる今回は、8家族が参加してくださいました。 キラキラこどもキャンプ2025 協力者募集用のチラシ 思いの根っこはずっと同じで、「子どもたちに自然の中でのびのびと過ごしてほしい」ということ。屋内ではなく外で、風や光や空気を感じながら、五感をいっぱい使ってほしい。そして楽しい思い出をたくさんつくってほしい。それが私たちの願いでした。 実際、キャンプでは毎回、子どもたちの素直な力に驚かされます。初めて出会った子同士でも、いつの間にか打ち解けて一緒に遊び始める。大人が構える前に、子どもたちが「もう仲間だよ」と言わんばかりに自然に輪を広げていく。その姿こそ、このキャンプが持つ魅力のひとつでもあります。 下見で見えた大切な条件と医療者の視点 ―今回の開催地はどのように検討されたのでしょうか? もともとこのキャンプは、夏休みのイベントとして開催していたのですが、昨今の猛暑は本当に厳しいですよね。子どもたちやスタッフの体力的負担も大きく、開催時期は秋にしました。その前提で改めて「どんな場所なら子どもたちが安心して、安全に楽しめるか」を考え、今回は「自然の中で富士山を見よう」「キラキラ光る湖を眺めよう」というテーマで河口湖に行くことにしました。 海・遊園地・山・川などさまざまな方向性を検討し、「沖縄に行けないか?」とも考えましたが、公共交通機関の利用は負担が大きい。また、果物狩りなども素敵だと思いましたが、安定しない土の地面の移動は、バギーを使うお子さんたちにとってハードルが高いんです。さまざまなシーンを想定しながら、最終的に今回のコースがベストだと判断しました。 ―開催場所を決めたあとも、多くの準備が必要だったと思います。重点的にチェックされた部分を教えてください。 どのキャンプでも、開催地の下見には複数回足を運んできました。今回は過去に利用したことのあるコテージだった分、3回の訪問で必要な確認をすべて済ませることができました。 第6回 キラキラこどもキャンプ開催地のコテージとそこから見える景色 下見で大事なのはまず「安全に過ごせるか」という視点です。緊急時の医療体制、宿泊するコテージや出入り口のバリアフリー、設備、停電時の自家発電など、確認しなければいけないポイントは多岐にわたります。感染対策においても、「動線が混雑しないか」「隔離スペースを確保できるか」など、一つひとつ丁寧にチェックしました。 木の温もりがそっと寄り添う、穏やかな雰囲気のコテージ内 また、参加してくださったご家族が「ここなら安心して思い出をつくれる」と心から思えることも大切です。医療的ケア児のキャンプは、一般に想像されるアウトドア体験とは状況が異なり、プライバシーの確保や他の宿泊客と互いに気持ちよく過ごせる環境も重要ですし、ゆっくり身体を休める場所がないと、発熱したり体調を崩したりと、翌日に影響が出てしまうこともあります。 すべての条件を満たす場所を探すことは簡単ではなく、ガイドブックだけでは見えてこない部分が多いので、現地で直接打ち合わせをし、確認する作業が欠かせないと実感しています。 キャンプ当日の移動 ―移動時にはリフト付きの福祉バスを利用されたそうですね。 はい。新幹線や飛行機など一般の交通機関では、どうしても周囲に気を遣いますし、時間の遅れが大きなトラブルにつながることもあります。 リフト付きの貸切バスなら、私たち看護師が車内で医療的ケアを行えるので、その間にご家族も少し肩の力を抜けます。みんなが同じ車内にいることで自然と一体感も生まれ、とても良い選択だったと感じています。 看護師側は吸引やしゃっくりへの対応など、慌ただしい場面もありましたが、途中から運転手さんもお子さんの様子を見て声をかけてくださるなど、とても協力的でした。温かいガイドさんと運転手さんに恵まれたことも、今回の旅を支える大きな力になりました。 ―皆さんで移動する際の工夫や大切にされた点を教えてください。 移動時間そのものが、医療的ケアを含めた大切な「ケアの場」になるため、事前にしっかりスケジュールを組んで臨みました。特に休憩の取り方には気を配りました。サービスエリア等でのトイレの個数、どのお子さんがトイレに行く必要があるか、オムツ交換のスペースが不足した場合どう動くかなど、事前に休憩場所の確認をした上で臨んでいます。 ただの移動で終わらないよう、行き帰りの道中にもお猿さんの観劇や眺望が素敵な大石公園へのお出かけ、車内での映画鑑賞など、楽しめるプログラムを組み込むような工夫もしています。 なお、車で別ルートから来られた方は遊覧船にも乗ったそうです。バギーのまま乗船できるのはいいですよね。貴重な体験になると思います。そうした選択肢の広がりもまた、この旅の魅力のひとつです。 ワクワクがぎゅっと詰まった旅のしおり。移動中にも小さな冒険が散りばめられていました。 ―移動時の下見も入念にされているのですね。 はい。ただ、公共トイレはどうしても混雑があり、予測どおりにいかない場面はあります。また、トイレに行けば水分補給も必要です。バス走行中の経管投与は難しいため、一度停車してもらう必要があります。こうした時間の積み重ねや高速道路の渋滞も重なって、進行は想定より少しゆっくりとしたものになりました。 次のキャンプに向けては休憩時間を少し長めに取ることも検討していますが、今度はごきょうだいが暇を持て余してしまいますよね。休憩中のちょっとした遊びも用意するなど、時間の過ごし方を工夫したいと思います。 * * * 次回は、医療的ケア児とご家族が一歩を踏み出すためにどのように支え、チームとしてどのように連携を整えてきたのか。そして今回のキャンプから見えた子どもたちの成長や、医療連携の課題と可能性について、引き続き木戸さんに伺います。 >>後編はこちら寄り添うケアが旅を可能にする~医療的ケア児のキャンプを支える在宅医療チームの実践~ 取材・編集:NsPace編集部執筆:小松原 菜々

【SCD難病看護事例】難病だけではない 介護職との連携、別疾患発症から看取りまで
【SCD難病看護事例】難病だけではない 介護職との連携、別疾患発症から看取りまで
特集
2026年1月20日
2026年1月20日

【SCD難病看護事例】難病だけではない 介護職との連携、別疾患発症から看取りまで

今回は、脊髄小脳変性症(spinocerebellar degeneration:SCD)を患い、侵襲的人工呼吸器を装着している療養者と、介護を担う高齢家族および介護職員へのアプローチを紹介します。介護職員による医療的ケアに伴う課題の解決や、別の疾患を発症したことで療養生活に生じた変化にどのように対応したかに焦点を当て、行政を含む多面的な連携の実践例をお伝えします。 脊髄小脳変性症(SCD)とは SCDは、主に小脳の神経細胞が変性して現れる症状を中心とした神経変性疾患の総称です。「歩行時にふらつく」「呂律が回らない」「不規則に手が震える」などの症状が出現し、進行していきます。また、SCDは孤発性(非遺伝性)と遺伝性の2つに大きく分けられ、孤発性は全体の約7割で、残り3割が遺伝性です。 事例紹介:Aさん(70代、女性) Aさんは、SCDと診断されてから7年後に気管切開を行い、侵襲的人工呼吸器を導入しました。現在は70代の夫と2人暮らしをしています。別居の長男、長女がいますが、それぞれ仕事の都合や遠方に住んでいるため、介護の協力は得られません。主介護者は夫です。夫は、高血圧や尿管結石といった持病を抱えています。定期的に外来通院をしていますが、病状の悪化により、入院治療を受けた既往もあります。 Aさんは医療保険を利用し、以下のサービスを受けています。訪問看護:週2回訪問リハビリテーション(以下、リハビリ):週1回訪問診療:3週に1回訪問入浴:週1回訪問介護:日中毎日、夜間週3回 在宅難病療養者への支援体制 在宅難病療養者のAさんが住み慣れた地域で自分らしく生活できるよう、各分野の専門職だけでなく、行政や地域を含めたチームが一丸となって支援を行っています。 Aさんと夫(介護者)の思いを尊重し、介護負担の軽減を図りながら、Aさんが安心・安全かつ快適に過ごせるよう、社会資源を活用することが大切です。具体的には、さまざまな訪問系サービス事業所の介入や在宅難病患者一時入院事業によるレスパイトケア入院の利用などがあります。 長期療養による課題と現状 しかしながら、長期にわたる療養や病状の進行、併発する(併存)疾患、新たな疾患の罹患などにより、医療処置が必要となる場面も増えていきます。夫はいつまで続くのか先の見えない、24時間絶え間なく続く介護に対し、精神的にも肉体的にも疲弊してしまうこともあり、夫自身の健康管理もままならず、十分な介護負担の軽減が実現できない現状もありました。 本事例で取り上げる2つのアプローチ 今回は、侵襲的人工呼吸器を装着するSCD療養者のAさんに対して、以下の2つのアプローチを行いました。 ●介護職員による医療的ケアの支援医療的ケアを他者に委ねたいというAさんと家族の思いを尊重し、行政をはじめとした関係機関の介入も含め、介護職員による支援体制を整備しました。 ●別疾患に罹患し、診断を受けてから看取りに至るまでの支援予期せぬ別疾患の発症が療養生活に大きな影響を与えました。これまで穏やかだった日々が、突然目まぐるしい日々へと変化したのです。この突然の変化に対応するため、Aさん、夫、サービス事業所のスタッフに対する支援を行いました。 介護職員による医療的ケアの実施と体制整備 喀痰吸引や胃瘻からの栄養剤注入は研修を受けた介護職員が行っていました*。しかし、その他の医療的ケア(例えば、気管切開部や胃瘻部の処置など)はAさんの夫や訪問看護師が行っていたため、大幅な負担の軽減には至らず、介護職員からも「自分たちが行えるケアについて知りたい」との意見がありました。 *喀痰吸引および経管栄養は研修を修了し、認定証の交付を受け、登録事業者として登録済みの施設で勤務していることを要件に実施可能 県庁や市役所への確認と対応 そこで、県庁の担当者に以下の2点を確認しました。  医療的ケアに該当する業務の再確認 特例として介護職員が医療的ケアを行うことの可否 担当者からは「特例はない」との回答があり、加えて「関係職種の業務内容を整理し確認してみてはどうか」と助言されました。その後、関係各所とカンファレンスを行うなかで、夫から「胃瘻からの内服薬の注入(内服注入)を介護職員にお願いしたい」という意向が示されました。この要望を受け、Aさんが居住する市役所の担当者に「介護職員が胃瘻からの内服注入を行えるか」と確認したところ、以下の条件を満たす場合に認められるとの回答を得ました。  主治医の許可があること 内服薬は分かりやすく一包化され、簡単な手技で注入できること 本人または家族の同意があること これらの条件をふまえ、訪問看護スタッフでカンファレンスを行い、訪問看護師の役割を整理していきました。 手順書作成と介護職員への指導・緊急時対応の整備 主治医に介護職員による内服注入の承諾を得た後、訪問看護師は、実際にAさんに行っている胃瘻からの内服注入の手技を確認しました。そして、写真や注意点を盛り込んだ手順書を作成し、それをもとにチェックリスト(図1)も作成しました。 訪問看護師が介護職員とともに手順書を確認しながら、内服注入の指導を行いました。そして、指導看護師(介護職員等たん吸引等実施研修会に係る指導者講習会を修了した看護師)がチェックリストに沿って介護職員の手技を確認・評価します。さらに、1ヵ月ごとに手技の確認を行い、緊急時に介護職員が対応できるよう、緊急時フローシートの作成も進めていきました。 図1 内服注入のチェックリスト 別の疾患に罹患。診断から看取りまでの支援 侵襲的人工呼吸器の導入から6年後の3月下旬に、Aさんにビリルビン尿、皮膚黄染が出現しました。採血した結果、肝胆道系酵素の値が上昇しており、明らかな異常値を示したため、入院精査をすすめられました。しかし、夫はAさんの身体に負担のかからない、在宅でできる治療を希望されたため、外来でCT検査を実施しました。その結果、黄疸の原因は腫瘍である可能性が高いことが示唆され、主治医から「黄疸の進行が速いと、予後は月単位以下の可能性がある」と説明されました。 訪問看護の回数を増やして対応 夫からは「どのくらいの期間で黄疸が進んでいくのか」「どのようなことに気を付けて過ごせばよいのか」という質問がありました。また、介護職員からは「夫が眠れていない、食欲がない」などの情報提供があり、夫だけでなく、介護職員自身も不安を感じているようでした。 これを受けて、訪問看護スタッフ間でカンファレンスを行い、情報を共有するとともに、訪問看護の回数を増やすことにしました。夫の同意を得た上で、以下のように訪問回数を変更しました。  4月初旬:週2回から週3回に変更 4月中旬:週3回から週5回に変更 図2 Aさんの経過 家族支援への取り組み 訪問看護を増やすことで、別の疾患に罹患したことによる病状変化への対応や、日々変化する病状についての説明、不安の軽減など、家族支援に努めました。具体的には、発熱、下血、尿量減少といった病状変化への対応や病状の経過、今後起こり得る変化について説明し、家族の不安を受け止め、寄り添いながら支援しました。 終末期に関する介護職員への教育 また、終末期についての知識が不足している介護職員に対しては、終末期にたどる経過や症状について説明を行い、症状出現時の対処方法を指導しました。その際に、「些細なことでも気になることがあれば訪問看護師に報告すること」「常時対応できる体制を整えているので、いつでも連絡できること(24時間緊急時対応)」を繰り返し伝えていきました。 緊急時対応と家族への説明 別の疾患に罹患してから看取りまでの1ヵ月間で、症状の出現や状態報告に関する緊急連絡は9回、病状変化や医療機器のトラブルに関する緊急訪問は3回ありました。看取りの3日前には、現状を家族に説明し、症状の変化以外にも不安なことや心配なことがあった場合には直ちに訪問看護師に連絡するよう伝えました。また、再度自宅での看取りの意思を確認し、エンゼルケアの内容について説明を行いました。その後、Aさんは家族に看取られ、穏やかな最期を迎えられました。 難病看護における支援のポイント 「住み慣れた自分の家で自分らしく過ごしたい」「本人の思いを尊重し、本人らしく過ごしてほしい」という、療養者本人とその家族の思いを尊重し、安心・安楽に過ごせるよう支援していくことが大切です。そのために以下の取り組みが必要でしょう。  療養者の変化に迅速に対応し、そのつど適切なケアを提供する 介護者の思いの本質を明らかにし、柔軟に療養支援体制の変更を考慮する 在宅ケアチームが一丸となり、支援する   本事例は、本人の承諾を得た上で掲載しています。個人が特定されないよう、必要な情報を匿名化し、適切に調整を行っています。本内容は教育・研究を目的としており、特定の診療や治療を推奨するものではありません。   執筆:片桐 恵社会医療法人若竹会 ゆうあい訪問看護ステーション日本難病看護学会認定・難病看護師大学病院など病院勤務を経て2007年より現職。3学会合同呼吸療法認定士、在宅褥瘡予防・管理師。編集:株式会社照林社 【参考文献】○王麗華,木内妙子,小林亜由美,他:在宅看護現場において求められる訪問看護師の能力.群馬パース大紀 2008;6:91-99.○阿部まゆみ:神経難病の緩和医療とホスピス.医療2005;59(7):364-369.

切ない思い出エピソード【つたえたい訪問看護の話】
切ない思い出エピソード【つたえたい訪問看護の話】
特集
2026年1月13日
2026年1月13日

切ない思い出エピソード【つたえたい訪問看護の話】

訪問看護師として勤めていると、関わる利用者さんには「元気になってほしい」「希望が叶ってほしい」と願う場面がたくさんあります。しかし全力で支援したとしても、その願いが叶うとは限らないのが医療の現場です。「みんなの訪問看護アワード2023」に投稿されたエピソードから、利用者さんとの切ない別れについて書かれた4つのエピソードをご紹介したいと思います。 「20年を経て続いた訪問看護」 友人の最期の願いを叶える力を持っていても、命の灯は有限で待ってくれないということを思い知らされる切ないエピソードです。 クリスマスの日にメッセージカードが届いた。友人からだった。今年も無事に終わりそうですねと返信。次の日、早朝に電話が鳴った。本来、明るい性格の彼女が、珍しく落ち込んだ様子ですぐにわかった。ご主人が末期癌で入院中。余命宣告されてどうしても家に連れて帰りたい、どうすればいいかの相談だった。20年前、彼女の母をお看取りしたのが私だった。それ以来交流が続いていた。まだ駆け出しの訪問看護師だった私。主治医は超多忙な院長。見つけたと思ったら指示をもらう前に消えてしまう、苦労満載で忘れられないお看取りだった。ご主人のこともよく知っている。準備万全整えた。計画していた館山旅行、最後の思い出に行きたいとの願いを託され叶えるぞ!と毎日訪問した。主治医ともしっかり連携し20年前の苦労はなかった。主治医も旅行は賛成していて誰もが行けることを願ったのだが、叶わなかった。旅立ちにポニーテールを結ぶことができなかった。 2023年2月投稿 「自宅で過ごしたい思いと実現困難な現実」 ご本人の意思を常に尊重したくとも叶わない場面も存在します。やむを得ないと理解をしていても歯がゆさや切なさを感じるエピソードです。 慢性呼吸器疾患を持ちながらも在宅酸素を使用し、在宅療養を続けている男性の利用者さんがいた。昨年の夏頃、捨てられた子猫が家に住み着きそのまま家の猫として飼い始めた。デイサービスの利用をしておらず、娘さんが仕事から帰宅するまでの間一人きりで過ごしていたが、その時間が子猫と過ごす時間になった。 訪問では服薬管理と体調管理を行っていた。訪問時はいつも座ってテレビを見ながら子猫のクロと遊んでおり、「動くとしんどい」と訴えながらも娘とクロと穏やかに暮らしていた。年明け初めての訪問時、寝たきりの状態になっていた。年末に発熱し、以後食欲もなくこのような状態になってしまったと娘さん。主治医の往診があり、自宅で看取るか入院するかという話をされた。「入院はしたくない」小さく首を振る。「そんなこと言っても仕事もあるし…」と娘さん。娘さんと主治医から説得され、寂しそうな目をしながら首を縦に振り、救急搬送され入院となった。救急車を待つ間、クロは伸ばされた手をくんくんと嗅いでいた。 2023年2月投稿 「大丈夫です。何かあったら病院行くので。」 できることは限られていても、利用者さんの心の支えとして大事な存在に…。元気になってほしいと願うも叶わない悲しいエピソードです。 若くして癌を患った一人暮らしの男性。末期の診断を受け、抗癌剤治療を受けていました。訪問看護導入当初、私たちは必要とされていませんでした。しかし、本人と母親と一緒の時間を過ごす中で、いつしか訪問終わりにかけてもらう言葉が変わっていました。「ありがとうございます。次は〇曜日ですよね。またお願いします」。ゆっくり焦らず元気になりたいと話していた矢先、体調が思わしくなく入院となりました。私が次にお会いできたのはお写真の姿でした。「息子も私もあなたのおかげで楽しいひとときを過ごせました。出会えて幸せでした。息子の分まで頑張って生きようと思います。」家族にはいろいろな形があると思います。故人との別れを寂しく名残惜しく、そして残された家族に元気でいてほしいと思うのは、訪問看護師としてだけではなく一人の人間として、一時でも家族の一員になれていたからなのかな…と感じます。 2023年2月投稿 「最後のありがとう」 いつか別れが来るとは知っていても向き合うのが怖くて逃げてしまう…。家族だからこそ、その思いも強くあるのかもしれません。最期の別れを考えさせられるエピソードです。 50代卵巣癌の末期の方でした。消化管閉塞があり、高カロリー輸液で退院。中学の先生になりたての息子さんと2人暮らしでした。経口からは飴やガムしか摂取できないのに、毎日息子の食事の準備、洗濯などの家事に追われていました。息子さんは脱ぎっぱなしで何もしておらず、祝日の訪問でも留守。帰りは夜中で、夕食は彼女と外食。母が準備した食事をとっていないことも度々あり、「末期という説明されてるはずなのにあの息子さんは何を考えてるのか!」と思い、本人に息子さんと話しできてるか確認すると、「私がそんなに長くないことを話そうとすると、話したくないと部屋に行っちゃうの」と。私の息子さんへの不信感は大きくなりました。そのうち、ウトウトしていることが多くなり、訪問時はぐったりしていても息子さんへの食事の準備はしていて、「大したもんはしてないから」と話されてました。ある日緊急携帯に連絡があり、急いで訪問すると、呼吸できておらず、せん妄状態でした。息子さんは緊急搬送を希望していましたが、本人は拒否。息子さんは怒って「なんでだよ」と言うと「あんたのお母さんでいたいからよ」と。翌日永眠しましたが、息子さんから「ちゃんとありがとうが言えました」と。涙混じりの笑顔でした。 2023年2月投稿 現実も受け入れて生きる強さ 訪問看護師は利用者さんの生活に入り込み、人生を共に歩む存在ともいえます。その中では嬉しいことや楽しいこともあれば、辛い悲しいことがあるのが現実です。特に今回のようなエピソードを体験すると、「もっと何かできたのでは?」「最期の希望を実現したかった」と落ち込み悩むこともあるでしょう。そうした辛さや悲しみとも上手に付き合い、前に歩める強さも身につけていきたいですね。 編集: 合同会社ヘルメース イラスト: 藤井 昌子 

小児に関する医療費助成 訪問看護師が知っておきたい基礎知識
小児に関する医療費助成 訪問看護師が知っておきたい基礎知識
特集
2026年1月13日
2026年1月13日

小児に関する医療費助成 訪問看護師が知っておきたい基礎知識

小児の場合、居住地や条件に応じて乳幼児・義務教育就学児を対象とした医療費助成制度や、小児慢性特定疾病医療費助成制度などの対象になります。今回は、訪問看護師が知っておきたい小児の主な医療費助成制度について整理します。 ※本記事は、2025年4月時点の情報をもとに構成しています。 まずは、都道府県・市区町村が実施している子どもの医療費助成制度についてです。 自治体の助成で小児医療費の自己負担が軽減 医療機関受診時の自己負担は、義務教育就学前(未就学児)までは2割、義務教育就学後(小学生以上)は3割ですが、実際には各自治体が発行する「医療費受給者証」と保険証を窓口で提示することで、自己負担額の支払いが援助されます。 自治体によっては「無料」の地域もあれば、1回300円や500円など定額の負担が求められる地域もあります。また、所得制限の有無や対象となる年齢もさまざまで、高校生まで医療費が無料となる自治体も増えています。居住する都道府県を越えて医療機関を受診した場合は、いったん窓口で自己負担分の医療費を支払い、後日、領収書を添付し居住する自治体に申請することで助成が受けられます。 ただし、この助成制度は、医療保険上の自己負担が対象であり、選定療養費(差額ベッド代や紹介状なしの受診など)に当たるものは対象外です。また、居住する地域により支援内容に差があるため、自治体に確認する必要があります。 * * * 小児の医療費助成制度には、一般的な助成だけでなく、長期的・継続的な医療が必要な子どもや、障害のある子どもへの専門的な制度もあります。今回は、小児慢性特定疾病の医療費助成と更生医療、育成医療について解説します。これらの制度の基本を押さえておきましょう。 慢性的な疾患のある小児への支援:小児慢性特定疾病医療費助成制度(公費番号:52) 小児慢性特定疾病医療費助成制度は、小児がんや腎疾患、呼吸器疾患など、特定の疾病に対して医療費の一部を助成する制度です。この制度の対象となるのは、以下の4つの条件を満たす18歳未満の児童です。  1.慢性に経過する疾病であること2.生命を長期に脅かす疾病であること3.症状や治療が長期にわたって生活の質を低下させる疾病であること4.長期にわたって高額な医療費の負担が続く疾病であること文献1)より引用 なお、2025年4月1日より対象となる疾病が拡大され、801疾病になりました。対象疾病の詳細は、小児慢性特定疾病情報センターのウェブサイトから確認できます。>>小児慢性特定疾病情報センター:小児慢性特定疾病の対象疾病リストhttps://www.shouman.jp/disease/search/disease_list 自己負担上限額について この制度では、表1に示すように世帯の所得に応じて、自己負担上限月額が決まっています(0円~15,000円)。 表1 小児慢性特定疾病医療の自己負担上限月額 ※重症:(1)高額な医療費が長期的に継続する者(医療費総額が5万円/月(例えば医療保険の2割負担の場合、医療費の自己負担が1万円/月)を超える月が年間6回以上ある場合)、(2)現行の重症患者基準に適合するもの、のいずれかに該当。文献2)より引用 小児の医療費は自己負担額がない場合が多いですが、図1のとおり、高額療養費制度を適用した後、自治体が小児慢性特定疾患の自己負担上限額を自治体が負担する、という流れです。 なお、訪問看護には直接関係しませんが、入院時の食事療養費は2分の1が助成されます。 図1 月額医療費の自己負担のイメージ 障害のある子どもへの支援:更生医療(15)・育成医療(16) 小児慢性特定疾病とは別に、心身の障害を除去・軽減するための医療に対しても助成があります。それが「自立支援医療制度」であり、「精神通院医療」「更生医療」「育成医療」の3種類があります。 精神通院医療:統合失調症やうつ病などの精神疾患(てんかんを含む)により、通院による精神医療を継続する必要がある方を対象に、医療費の自己負担を軽減する制度。 更生医療:身体障害者手帳を交付された18歳以上の方が対象。その障害を除去・軽減する効果が期待できる医療*の一部費用を助成する制度。 育成医療:身体障害がある、または現存する疾患を放置すると将来障害を残すと認められる18未満の児童が対象。その障害を除去・軽減する効果が期待でき、生活能力を獲得するために行われる医療*の一部費用を助成する制度。 * 対象となる医療について:障害認定を受けた障害のために行われるものであり、身体障害者の疾病に伴うすべての医療を対象とするものではない。対象となる障害と標準的な治療の例は厚生労働省や各自治体のサイトを参照のこと。 訪問看護では、特に更生医療と育成医療を利用しているお子さんに出会う可能性があると思います。 自己負担上限月額について この制度でも、世帯の所得区分によって表2に示すように自己負担額の上限月額が設定されています(0円~20,000円)。育成医療の「中間所得1」「中間所得2」については、総医療費の1割または高額療養費(医療保険)の自己負担限度額までと定められており、軽減措置がとられています。また、一定所得以上の場合、更生医療・精神通院医療・育成医療ともに対象外となっています。 表2 自立支援医療の自己負担上限月額 文献3)を参考に作成 訪問看護ステーションの制度対応 今回紹介した制度における助成を受けるためには、訪問看護ステーションが制度ごとに定められた「指定医療機関」であることが求められます。 小児慢性特定疾病制度の場合は「指定小児慢性特定疾病医療機関」、自立支援医療制度の場合は「指定自立支援医療機関(育成医療・更生医療)」(精神通院医療は別の手続きが必要)の申請が必要です。訪問看護ステーションとして登録されると、指定番号が割り振られます。 訪問看護の利用者は高齢者の方が多い傾向にありますが、近年では新生児医療の進歩や医療的ケア児の増加といった社会的背景を受け、小児の訪問看護の依頼も増えつつあります。訪問看護を利用する小児患者さんに対応するために、助成についての理解を深め、忘れずに施設の届出だけはしておいてください。  執筆:木村 憲洋高崎健康福祉大学健康福祉学部医療情報学科 教授武蔵工業大学(現・東京都市大学)工学部機械工学科卒業、国立医療・病院管理研究所研究科(現・国立保健医療科学院)修了。民間病院を経て、現職。著書に『<イラスト図解>病院のしくみ』(日本実業出版社)などがある編集:株式会社照林社 【文献】1)小児慢性特定疾病情報センター:概要.https://www.shouman.jp/assist/outline2025/4/25閲覧2)小児慢性特定疾病情報センター:小児慢性特定疾病の医療費助成に係る自己負担上限額.https://www.shouman.jp/assist/expenses2025/4/25閲覧3)厚生労働省:自立支援医療の患者負担の基本的な枠組み.https://www.mhlw.go.jp/content/001507772.pdf2025/4/25閲覧

【MSA難病看護事例】ADL低下に気づけない 病識の乏しさがみられたときの対応
【MSA難病看護事例】ADL低下に気づけない 病識の乏しさがみられたときの対応
特集
2026年1月6日
2026年1月6日

【MSA難病看護事例】ADL低下に気づけない 病識の乏しさがみられたときの対応

多系統萎縮症(multiple system atrophy:MSA)のケアでは、対症療法やリハビリテーション(以下、リハビリ)による機能維持やADLの向上が重要です。特に運動機能や嚥下機能の維持に加え、生活環境の整備も欠かせません。今回は訪問看護で実践されているMSA患者への具体的なアプローチを紹介します。患者さんの尊厳を大切にしながら、安全で安心な療養生活を支える工夫や、本人・家族との信頼関係を築くためのポイントを探ります。 多系統萎縮症(MSA)とは MSAは、中枢神経系が進行的に障害される神経変性疾患です。パーキンソン症状、小脳失調症状、自律神経症状など、複数の症状が現れることが特徴です。原因は不明で治療法はありませんが、対症療法とリハビリで症状の緩和を図ります。看護では患者さんの転倒予防や日常生活動作(activities of daily living:ADL)の支援、本人と家族の心理的サポートが重要となります。 事例紹介:Aさん(60代、男性) Aさんは、妻と2人で暮らしており、車で30分ほどの距離に長男が住んでいます。Aさんは事務職に長年従事し、定年まで勤め上げました。退職後にMSAを発症しています。 Ⅹ年-1年 発症(歩行不安定)Ⅹ年 確定診断Ⅹ年+2年4ヵ月 病状評価・リハビリ入院、退院時より訪問看護介入 退院前カンファレンスに参加 Aさんの状態 退院前カンファレンスで初めてAさんにお会いしたときは、呂律不良が進行し、単語レベルでの会話となっていました。表情は硬く、イエス・ノーで意思疎通が可能な状況ですが、笑顔がぎこちない印象です。また、把持物があれば歩行は可能との情報がありましたが、病院内では車椅子を使用して移動されていました。 主治医からの病状説明 主治医から、Aさんの病気が「多系統萎縮症」という進行性の病気であることに加え、以下が説明されました。 小脳・脳幹の萎縮により失調症状があること 一般的に発症から5年で車椅子生活、9年で寝たきりの経過をたどること 声帯の開大不全により突然死の可能性があるが、気管切開をすることで突然死を予防できること 嚥下機能の低下に対して、胃瘻が必要になること 一緒に説明を聞いた妻は、「今まで(突然死のリスクの話は)聞いたことがなかった」と驚いた様子でした。 今後の治療方針と退院後の訪問看護 退院前カンファレンスの時点では、今後の気管切開や胃瘻造設に関する方針はまだ決まっていませんでした。また、Aさん自身は妻への介護負担を心配し、施設入所を検討しているとの情報が共有されました。 今回のリハビリ入院を経て、退院後は訪問看護ステーションから看護師と作業療法士(OT)による訪問が開始されました。 介入前からできる支援 入院中に訪問看護の依頼があった場合、病院で開催される退院前カンファレンスに訪問看護師が参加します。主治医からの病状説明を聞き、内容を確認します。 退院後、会ったことのある看護師が自宅を訪問することで、本人や家族の緊張を和らげることができるでしょう。退院後には、本人と家族が病状や治療方針をどのように理解しているか確認し、追加・修正が必要な場合は補足説明をします。また、今後の方針について、意思決定のために不足している情報提供を行います。例えば、介護は家族だけで負担する必要はなく、介護保険や障害福祉サービスを利用できることを伝える、胃瘻や気管カニューレについて具体的なイメージを持てるような説明をする(写真や図表を使用)、吸引器や吸引チューブを持参して実際の吸引を見ていただくなど、必要に応じて医療的ケアの詳細をお伝えします。 退院当日、多職種で生活環境を整備 退院当日、Aさんの自宅に訪問しました。専門病院から退院調整看護師も同行し、Aさんの表情は病院でお会いしたときとは見違えるほど穏やかで、ニコニコとされていました。 退院当日に、生活環境の整備を行いました。なお、場合によっては退院前の家屋調査等に同行し、自宅内の動線を確認できることもあります。 屋内動線の課題と転倒防止対策 自宅内の動線を確認すると、リビングのベッドからトイレまでの移動に問題が見つかりました。方向転換が3ヵ所も必要で、Aさんは上肢の筋力は維持されているものの、失調と姿勢反射障害によりバランスが悪く、転倒リスクが高い状態でした。 Aさん、妻、ケアマネジャー、福祉用具業者、訪問看護師でサービス担当者会議を行い、ベッドの配置を変更し、トイレまでの動線を直線にし、取り外し可能な置き型の手すりを設置しました。 動線と歩行器選定のポイント MSAの場合、筋力は維持できていてもバランスを崩しやすく、方向転換時に転倒するリスクが高い傾向があります。そのため、方向転換をなるべく減らすような動線の確保に努めましょう。 また、同様の理由から、歩行器の選定にも注意が必要です。力を加えると車輪が動いてしまう歩行器は使いにくい場合が多く、抑速ブレーキ付きのタイプや、ピックアップ方式で使用するタイプの歩行器を導入するとよいでしょう。これにより、歩行器だけが移動してしまい、バランスを崩して転倒することを防ぎます。 退院後の支援の実際 退院日の翌日からは通常の訪問が開始。Mさんの場合、訪問看護ステーションからは、訪問看護とリハビリが週1回ずつ実施される予定です。看護師は、日常生活の状況を把握し、食事・排泄・保清・自主トレーニング(以下、自主トレ)の確認や実施、介護状況の確認を行います。さらに、介護保険を利用して、週1回のデイケアと福祉用具の貸与が行われることになっています。 自主トレに対する消極的な姿勢 リハビリ訪問時、自主トレに積極的でない様子が見られました。理由をたずねると、リハビリ入院中に主治医から余命も含めてIC(インフォームド・コンセント)があったことで、本人から「どうせこの病気は」といったネガティブな発言があり、リハビリに対して消極的になっていることが分かりました。進行のスピードは人によって違うことを説明し、筋力維持の大切さを本人に伝えました。 MSAにおけるリハビリの重要性 MSAのリハビリは、筋力の維持を目標に介入します。握力は比較的保たれる特徴がありますが、振戦があるため、縦型の手すりのほうが持ちやすく、介護保険でレンタル可能な工事不要の置き型手すりがおすすめです。このような手すりを設置し、把持する場所を確保することで、自分で動ける機会が増え、筋力の維持につながります。 水分摂取に関する問題 入院中、水分に軽くとろみをつけるよう言われていましたが、Aさんが嫌がるために、とろみをつけずに水分を摂取していることが妻からの話で明らかになりました。本人に理由を聞いてもニコニコしているだけです。「(とろみ付きでは)おいしくないですか?」という問いに対し、イエスと大きく頷いていました。 入浴方法の現状と今後 入浴については、入院前と同じ方法を続けています。浴室の床に正座をして体を洗い、手すりにつかまり浴槽をまたいで入浴します。今後、進行に伴って入浴方法の再検討が必要であることが、今一つ想像できないようで、またぐ際にバランスを崩しそうになっています。 病状説明と理解の課題 MSAの症状の1つなのか、病状の説明が正しく理解されないことを経験します。個人差はありますが、病識が薄く、食事にとろみが必要であっても使用しないケースや、食欲旺盛となり体重増加が止まらないといったケースもあります。このような状況の修正はなかなか難しいですが、看護師としては諦めずに必要性を伝え続ける姿勢が重要です。誤嚥の確認や体重測定を行い、目の前で数字を示すことや、栄養状態の評価を継続して行うことが大切だと考えます。 進行性神経難病におけるADL低下への対応 MSAに限らず、進行性の神経難病を患う方のADL低下に対し、看護師は代替の方法を提案する場面があります。本人や家族にとっては「今できていること」の継続が日常生活の目標となっている場合もあります。そのため、代替案を伝える際には、本人の意向を大切にしつつ、安全を担保する方法を「いつ」「誰が」「どのように」伝えるかを慎重に検討する必要があります。場合によっては、できている段階で代替案を提案したことで、信頼関係を失ってしまうこともあるほどです。 現状を正しく評価しつつ、代替案を用意しておき、伝えるタイミングを待つ姿勢も大切だと考えています。 本事例は、本人の承諾を得た上で掲載しています。個人が特定されないよう、必要な情報を匿名化し、適切に調整を行っています。本内容は教育・研究を目的としており、特定の診療や治療を推奨するものではありません。   執筆:小林 真理子訪問看護ステーションRNC管理責任者日本難病看護学会認定・難病看護師1996年、鳥取赤十字看護専門学校を卒業後、鳥取赤十字病院、武蔵野赤十字病院にて看護業務に従事。2004年より都内の訪問看護ステーションで勤務し、2013年に訪問看護ステーションRNCを開設。編集:株式会社照林社

誰かの人生に、まっすぐ寄り添いたい──病院から在宅へ転じた看護師の決断~YC町田訪問看護リハビリステーション・吉満さんにインタビュー~
誰かの人生に、まっすぐ寄り添いたい──病院から在宅へ転じた看護師の決断~YC町田訪問看護リハビリステーション・吉満さんにインタビュー~
インタビュー
2026年1月6日
2026年1月6日

誰かの人生に、まっすぐ寄り添いたい──病院から在宅へ転じた看護師の決断~YC町田訪問看護リハビリステーション・吉満さんにインタビュー~

「もっと一人ひとりに寄り添える看護がしたい」 急性期の現場で多くを学び、充実した日々を送っていた吉満さんが、ふと抱いた思いでした。その気づきがきっかけとなり、選んだのは“生活に深く関わる”訪問看護というフィールド。利用者さんとの関係性を丁寧に築きながら、自分らしい看護の形を見つけていったそうです。 今回は、吉満さんのこれまでの歩みと、訪問看護に込める想いを伺いました。 【※本記事はNsPace Careerが事業所向けに提供している「特集記事掲載サービス」によるものです。取材・撮影・編集はNsPace Careerが担当しました。】 准看から正看へ、そして訪問看護の世界へ──キャリアのスタート 吉満さんの看護師としての道は、准看護師としての一歩から始まりました。最初に勤務したのは慢性期病院で、丁寧なケアをじっくりと学ぶ日々。その中で「もっと広い視野で、さらに専門性を高めたい」と正看護師の資格を取得し、20代で急性期病院に転職されました。 「もっと知識や技術を学びたいと思ったんです。急性期の現場は目まぐるしくて、やりがいもありました。循環器が好きで長く勤めていましたが、その後ICUに異動して…ちょうど友人に起業する誘いを受けたんです。病院の外にも関心がありました」 病棟では一日に何人もの患者さんと関わる忙しさの中で、笑顔や感謝の言葉に励まされながらも、病院外で過ごす患者さんにも気持ちが向いていったと話されます。 「友人との起業は、結局流れてしまって。でも訪問看護はやってみたい気持ちがあったので、飛び込んでみたんです。ただ、その訪問看護ステーションの管理者さんがあまり誠実ではない方で…。信頼関係が築けず、離れました」 結婚を機に転居先の横浜で新たな働き方を探していた吉満さん。転職した訪問看護ステーションでは、管理者さんの言動や態度を信頼できず、離れる決心をされたそうです。 「約束が守られないことが続いて、“誰と働くか”って本当に大切だと感じました」 その後は自ら情報を集め、いくつかの訪問看護ステーションを比較。面接での雰囲気や、スタッフ同士の温かいやりとりに惹かれて選んだのが、YC町田訪問看護リハビリステーションでした。 訪問の現場で見つけた「看護師としての軸」 2024年1月、YC町田訪問看護リハビリステーションに管理者として入職。町田市内でも集合住宅が多く、独居の利用者さんが多い地域です。インフラとしても訪問看護がキーになっており、内服管理と状態観察をきっかけに訪問看護を利用し始める利用者さんもいるとか。 「“看護”だけで終わらない、“生きる”を支える仕事なんです」 病棟時代には味わえなかった“密度の濃い関わり”や“信頼関係の積み重ね”に、大きなやりがいを感じているといいます。 「循環器病棟が長かったので、緊急対応は自分の強みだと思っています。たとえば、頻脈が出ている利用者さんに対して、その人の生活背景や考えも考慮した上で、どうしていくか一緒に考えたり、相談したりしますね。ご家族やご本人の意向が大事だと思っていて」 今までのキャリアを存分に活かしながら、新しいスタートを切った吉満さん。訪問看護の世界は、思ったよりもすぐになじめたと話します。 「病院だと先生のレスポンスが早く、すぐに動ける良さがあったんですが、訪問看護だと病院ほど早く解決できないこともあって。あとは社会保険の制度の限界とか。でも、今まで多職種と連携して働いてきた経験もあるし、バランサーとしての役割もあったから、意外とギャップは大きくなかったですね」 笑顔でそう話す吉満さんは、まるで訪問看護師になるべくして、これまでの道のりを歩んできたかのようです。 親しみやすい雰囲気の吉満さん。地域から様々な利用者さんの依頼を受けるそうです。 チームで支える“ひとりじゃない訪問看護” 訪問看護は「一人で完結する仕事」と思われがちですが、YC町田訪問看護リハビリステーションでは、“ちいさな相談”をする機会があり、チームワークを大切にしています。 「週に一回はオンラインも含めて、みんなで顔を合わせる時間を作っています。やっぱり話し合うことは重要だし。それにスタッフと僕との1on1では、今思っていることや困っていること、いろんなことを吸い上げる時間にしています」 同行訪問や定期的なカンファレンス、日々の何気ないやりとりを通して、吉満さんは“ひとりじゃない看護”を実感しています。 「困っている人がいたら、自然にサポートする文化が根付いています。そんなチームだから、安心して利用者さんと向き合えるんだと思います」 未来への展望── 一歩踏み出す人の背中を押せる存在に 吉満さんが大切にしているのは、目の前の一人ひとりと丁寧に向き合う姿勢です。 「訪問看護では、より利用者さんやご家族が“選択する”ということを大切にしています。メニュー表みたいに『これと、これがありますがどうしていきましょうか?』という感じで、その人が自由に選択できることがポイントだなって。」 スタッフにも管理者として、「利用者さんを主に考える」という姿勢を伝えているといいます。 「極論、その人が望んだことならいいと思うんです。もし、ご自宅で亡くなる予定だったとしても土壇場でやっぱり病院に行きたいってなったとしても、それはそれでいいと思うんです。結局は正解なんてないんですから」 まっすぐな目で話してくださった吉満さん。今後は、地域でほかの訪問看護ステーションと連携を強化していきたいと考えているそう。そんな吉満さんに、今後どんな看護師さんと一緒に働いていきたいか伺ってみました。 「そうですね…。仕事はあとで覚えていけるので、それよりもお互いに尊敬の念が消えない関係っていうか、そういう人間関係を築いていける人がいいですね。僕は必ず人は成長すると思っているので、何回でも同行訪問してじっくりやっていけばいいと思います。自分の成長の立ち位置を確認しながらチャレンジしていけるといいかな」 技術や知識以上に“人間性”を重視した考えは、吉満さんだからこそ。 「子育て世代のスタッフも多いので、お子さんのお迎えに合わせて非常勤として働いている方もいます。基本的には9時から17時の勤務なので、プライベートや家庭を大事にしながら働けますよ」 また、YC町田訪問看護ステーションには、働き続けるための土台もあります。勤務時間が原則7時間なのは、子育て世代にとっては非常にありがたい勤務です。土日祝日はお休みで、もし訪問が必要な利用者さんがいる場合は半日勤務して、別の日で代休を取るようにしているそうです。移動時間もできるだけ負担にならないように、ルートを設定しています。 働く人が、働き続けることができるような仕組みを考え、実践しているのです。 スタッフは、日頃の会話から利用者さんの情報共有を大切にしています。 インタビュアーより 吉満さんのお話からは、「人との信頼関係」に対するまっすぐな想いと、訪問看護にじっくりと向きあう姿勢が丁寧に伝わってきました。訪問看護は、看護師としての原点に立ち戻れる場所なのかもしれません。もし今、転職や働き方に悩んでいる方がいたら──吉満さんの言葉が、きっと優しく背中を押してくれるはずです。 事業所概要 事業所名:YC町田訪問看護リハビリステーション 所在地:東京都町田市木曽東3-8-22 3階 アクセス:JR横浜線「町田駅」よりバス10分/「古淵駅」より徒歩15分 電話番号:042-709-3952 スタッフ数:看護師8名、理学療法士3名、作業療法士1名、事務1名 特徴:団地・集合住宅が多く、独居の利用者さんが中心。地域に密着した丁寧な訪問看護を実践している。 運営方針:私たちは、東京都町田市木曽東を拠点に地域に根ざした訪問看護リハビリサービスを提供しています。 私たち看護師・理学療法士・作業療法士は、医師・ケアマネージャーの皆様を始め様々な方々と連携し、24時間・365日、ご利用者様とそのご家族様に安心して日常生活を送って頂けるお手伝いをいたします。在宅医療を支えていらっしゃる皆様と共に地域で最も頼りがいのある事業所となるべく精進して参ります。 一人ひとりのニーズや生活スタイルを大切にし、日常の看護から専門リハビリまで、幅広いサービスをご提供します。温かい環境の中で、皆様と共に過ごしやすい生活を築いていきましょう。 事業所紹介ページ:https://ns-pace-career.com/facilities/16699 この記事を読んで「訪問看護、自分にもできるかも」と感じた方へ 「もっと患者さんと関わりたい」「自分らしい看護を実現したい」そう感じている看護師の方は少なくありません。 NsPace Careerナビでは、訪問看護の現場で働く看護師のリアルな声を多数掲載しています。 精神科訪問看護で活躍する看護師の声 未経験から訪問看護を始めた体験談 育児と両立しながら働く現場の実例 各ステーションの教育体制・チーム文化 さらに、キャリアの悩みやモチベーション維持のコツなど看護師として働くうえで役立つ記事も充実。 「自分に合う訪問看護の職場って、どんなところだろう?」そのヒントが、きっと見つかります。 ▶ 他の訪問看護師インタビューを読むhttps://ns-pace-career.com/media/ 記事提供:NsPace Careerナビ編集部

足のミカタ2~在宅における爪白癬の治療とケア~【セミナーレポート後編】
足のミカタ2~在宅における爪白癬の治療とケア~【セミナーレポート後編】
特集 会員限定
2025年12月23日
2025年12月23日

足のミカタ2~在宅における爪白癬の治療とケア~【セミナーレポート後編】

NsPace(ナースペース)のオンラインセミナー「足のミカタ2~足浴&爪切りをもっと詳しく~」(2025年9月19日開催)では、2024年開催の「足のミカタ~重症化を防ぐフットケア~」に続き、倉敷市立市民病院 形成外科 医長の小山先生を講師に招聘。足病のミカタ(見方)をはじめ、爪切りの方法など日常的なフットケアから治療の考え方まで、実践的な内容について詳しく解説いただきました。 セミナーレポート後編では、主に爪白癬についてまとめました。検査や治療の重要性や、実際の症例などをご紹介します。 ※約80分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 >>前編はこちら足のミカタ 2~爪トラブルの観察と爪切りの実践~【セミナーレポート前編】>>小山先生の過去セミナーレポート記事はこちら【足のミカタ~重症化を防ぐフットケア~】シリーズ記事一覧 【講師】小山 晃子先生倉敷市立市民病院 形成外科 医長平成16年に高知大学を卒業し、倉敷市立児島市民病院にて臨床初期研修を修了。平成18年から川崎医科大学附属病院 形成外科・美容外科にて、褥瘡・創傷治癒を学ぶ。平成24年より現職。入院・外来・在宅で医療を提供しながら、医療者や介護者、市民を対象としたセミナーも行い、褥瘡・フットケアの「ミカタ」を増やすべく活動している。 爪白癬の治療の必要性 爪白癬は、爪の中に白癬菌が多数存在するため、爪を切るたびに粉がパラパラと舞い上がります。その白癬菌を含む粉が、日常生活の中で足趾の間に付着することで、新たな白癬を引き起こすことがあります。同居者に感染が広がるケースも珍しくなく、体や顔にまで白癬が拡大して重症化する場合もあります。 また、爪が変形することによって、靴が履けなくなる、爪が切れなくなる、ひどい場合は分厚くなった爪が皮膚に食い込んでしまう(陥入爪)といったトラブルが起こることも。さらに、二次感染によって指が腫れたり膿んだりすると、歩行障害を招くおそれもあります。最近の研究では、爪白癬の影響で転倒リスクが高まることも指摘されています。 このように、爪白癬は見た目の問題にとどまらず、生活の質や安全にも影響を及ぼすため、適切な治療が推奨されます。 爪白癬の検査と治療 爪白癬にはかゆみや痛みといった症状がないこともあり、「年齢のせいだろう」と深刻に考えていない利用者さんは多くいらっしゃいます。しかし、可能性を否定できない場合はまず「爪白癬ではないか」と疑って検査をすることが重要です。 検査の方法としては、爪のかけらを特殊な薬で溶かし、それを顕微鏡で観察して白癬菌の有無を確認する「直接鏡検」というやり方が古くから行われています。しかし、最近になって抗原検査もできるようになりました。インフルエンザやコロナの抗原検査と同じ原理で、切った爪を溶かしてカートリッジに滴下し、反応があれば陽性です。往診でも特殊な機械を使わずに検査ができるので、重宝しています。 爪白癬の症例 ここからは、症例を通して爪白癬の治療の実際を見ていきましょう。2つのケースをご紹介します。 症例1「爪根部の緑膿菌感染」 「爪の根本が緑になり、触るとぷよぷよしていて、痛みもある」と来院された患者さん。爪白癬を起こし、指先から楔状(くさびじょう)に爪甲の裏へと感染が進んで、白癬菌が爪を食べた部分に水分が溜まっていたと思われます。 そこから緑膿菌や皮膚の常在菌が感染を起こし、根本部分に膿の袋ができて、痛みが生じていたのです。 治療としては、処置を行う指に局所麻酔を使用した上で、駆血。そして、慎重に後爪郭の皮膚を切開し、膿を排出していきます。すると、爪の根元が爪母から離れて隙間ができていました。切開部分は、一時的に開放創として処置・管理します。 その後、創面は上皮化傾向で薄い皮膚が確認され、新しい爪が生えてくる兆候が見られました。 しかし、このままでは白癬菌によって再び膿んでしまう可能性が高いので、まずは軟膏での治療を試みます。ただ、やはり軟膏では爪白癬は治りきらなかったため、爪外用液に変更。それから4ヵ月後には、白癬に感染した爪を端まで追い出せました。 症例2「爪外用液の副作用による皮膚炎」 爪白癬の塗り薬の副作用で皮膚炎が起きてしまった患者さん。爪の甲に薬を塗っていましたが、爪郭に小さい水疱が無数にでき、皮膚には浮腫が見られ、びらんを起こしている箇所もありました。 さらに足趾の間にも小さい水疱が形成され、薬を塗っていない部位にも皮疹が見られており、自家感作性皮膚炎を起こしてしまいました。 写真で振り返ってみると、塗り薬を使用する前から傷があったことが明らかに。そこに爪外用液という強い薬を塗ったことで、副作用が発生したと考えられます。 爪外用液の使用は直ちに中止し、ステロイド薬の服用・外用薬に切り替えると、皮膚の状態は改善しました。 なお、爪白癬を塗り薬で治療する場合は、爪切りをしたり、爪に穴を空けたりして、白癬菌がいる箇所にダイレクトに外用液が届くようにすると効きやすくなります。ただし、過剰に切ってしまうと爪の成長に支障が出る場合もあるので、様子を見ながら慎重に行う必要があります。治療が進んだ際は、爪甲の生え方に問題がないかも確認していきます。 在宅でのフットケアの考え方 在宅の現場では、さまざまな状況にある利用者さんを支えていることと思います。その中には、人生の最終局面を迎えている方もいらっしゃるでしょう。どんな治療目標を立てるにしても、私たち専門職は「ケアが継続される体制」を諦めてはいけないと考えています。 病院、在宅、施設を問わずみんなで力を合わせ、利用者さんの多様な状況や願いに寄り添い、治癒や現状維持に努める。そして、利用者さんが苦痛によって人権、命の質を損なう事態を防ぐ。それが、私が臨床でいつも大切にしていることです。 * * * 今回のセミナーでは、変形爪・白癬といった足病が、歩行障害や全身にかかわる病変につながる可能性について触れてきました。裏を返せば、足のケアをすることで利用者さんの全身の健康、生活を守れるかもしれないということです。 訪問看護師のみなさんには改めて足のミカタ(見方)を意識し、そこからどんな行動を起こすべきかを考えていただけたらと思います。そして、「利用者さんのミカタ(味方)になる」という姿勢でケアに臨んでほしいと考えています。今回の内容が、日々のケアの一助となれば幸いです。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア 【参考】〇日本フットケア・足病医学会(編):重症化予防のための足病診療ガイドライン,2022.〇東 禹彦(著):爪 基礎から臨床まで 改訂第2版,金原出版,2016.

経営と現場の信頼が支える“安心して働ける場所”~あすぽす訪問看護リハビリステーション岩槻 亀谷さん・野口さん・安田さんにインタビュー~
経営と現場の信頼が支える“安心して働ける場所”~あすぽす訪問看護リハビリステーション岩槻 亀谷さん・野口さん・安田さんにインタビュー~
インタビュー
2025年12月23日
2025年12月23日

経営と現場の信頼が支える“安心して働ける場所”~あすぽす訪問看護リハビリステーション岩槻 亀谷さん・野口さん・安田さんにインタビュー~

埼玉県さいたま市岩槻区にある「あすぽす訪問看護リハビリステーション岩槻」。運営法人である株式会社アスポスの代表取締役・亀谷雄志さん、取締役・野口多由美さん、所長・安田隆明さんが三位一体となって築くこのステーションでは、「明日(未来)をサポートする力となり、明るく幸せな時間をお届けする」という理念のもと、地域に根ざした訪問看護が提供されています。 【※本記事はNsPace Career が事業所向けに提供している「特集記事掲載サービス」によるものです。取材・撮影・編集はNsPace Career が担当しました。】 不動産業と両立しながら訪問看護へ――異業種からの挑戦 「私、不動産業の仕事をしているんです」 そう語るのは、株式会社アスポス代表取締役の亀谷雄志さん。不動産会社の社長を続けながら、新たに訪問看護ステーションの立ち上げに挑んだ背景には、偶然と挑戦が重なった経緯がありました。 「コロナ禍で社会が大きく揺れるなか、何か新しいことに挑戦したいという気持ちが芽生えました。そのとき、社員の奥さんが看護師で、『訪問看護という世界がある』と教えてくれたんです」 看護や医療に関する経験は一切なかったものの、不動産業で培った経営の視点を活かしながら、亀谷さんと取締役の野口多由美さんは、自分たちの手で事業を立ち上げようと決意。フランチャイズという選択肢も検討したものの、最終的には自ら制度や支援策を学びながら、ゼロからの自走に踏み出しました。 「開業支援や会計ソフト、管理ツールなど、使えるものは全て活用しました。医療知識がないからこそ、仕組みを整えることで、土台を固めていったんです」(亀谷さん) このように、不動産業とは全く異なる分野への新規参入という大胆なスタートながら、着実な学びと実行力によって、ステーションは少しずつ形になっていきました。 あすぽす訪問看護リハビリステーション岩槻を立ち上げた亀谷さん(写真右)と野口さん(写真左) スタッフの声が届く、風通しの良い運営体制 「一番大変だったのは、やっぱり人材の採用ですね」 そう振り返るのは、取締役の野口さん。医療業界未経験というハンデの中で、看護師という専門職をどう迎え入れるか。初期からの大きな課題だったと語ります。 「SNSでの発信や、人材会社との連携、社員紹介……あらゆる手段を駆使して採用活動を続けてきました。ありがたいことに、少しずつ人とのつながりの中から良いご縁が生まれてきています」(野口さん) その中で、もう一人のキーパーソンとなるのが、現在所長を務める安田隆明さん。彼が参画したことで、現場と経営の間にしなやかな橋がかかり、組織全体の風通しが一段と良くなったといいます。 「管理者としての彼の存在が本当に大きい。スタッフの声を的確に拾い上げ、僕たち経営陣とも密にコミュニケーションを取ってくれる。だから意思決定も早いし、現場の声を柔軟に反映できる体制ができていると思います」(亀谷さん) 現場と経営が尊重し合いながら運営されるこの関係性こそ、アスポスの大きな強みとなっています。 そしてもう一つ、このステーションが大切にしているのが「関係性の見える運営体制」だ。管理者の安田さんはこう語る。 「うちは経営者と現場の距離がとても近いんです。現場の看護師から『こうしたい』という声があれば、すぐに私が聞いて、必要に応じて亀谷社長や野口さんに相談します。意思決定が早く、スタッフが“聞いてもらえている”と実感できる職場だと思います」 実際、記事に登場いただいた3名のやりとりからも、その関係性の温かさと信頼の深さがひしひしと伝わってきました。職種や立場を超えて、互いを尊重し合いながら同じ方向を目指すこのチームワークこそ、最大の魅力ではないでしょうか。 現場で働き続けたい想いと、安田さんの看護観 「現場で働き続けたいという気持ちが強かったんです」 そう語るのは、安田隆明さん。彼は看護専門学校を卒業後、春日部市立医療センターに勤務。手術室、救急外来、消化器科、循環器科など、さまざまな診療科を経験したのち、感染管理認定看護師として病院の感染対策を担う立場に。 「コロナ禍では、コロナ病棟の立ち上げや院内感染管理を任され、地域や病院を守る立場として奮闘していました。でも、管理職としてキャリアを積むよりも、もっと現場で、利用者さんに直接関わる仕事を続けたいと思ったんです」 その想いに共鳴したのが、亀谷さん。「一緒にやらないか」と声をかけ、仲間に迎え入れました。 「訪問看護では、ご利用者さんとそのご家族をまるごと捉えて支援する必要があります。でも、それって看護師自身が“心と体に余裕”を持っていないとできないと思うんです」 だからこそ、訪問件数の調整や急な休みの配慮など、“スタッフの余裕”を最優先にする運営を心がけていると語ります。 優しい笑顔で利用者さんからの電話に対応する安田さん 安心して働ける環境づくりの工夫 あすぽす訪問看護リハビリステーション岩槻では、スタッフ一人ひとりの特性や希望に応じた柔軟な働き方を実現しています。 「共感が得意なスタッフもいれば、指導力のあるスタッフもいる。どちらが正解ではなく、その人に合った利用者さんをマッチングすることで、お互いに無理なく、より良いケアができると考えています」(安田さん) また、訪問体制はチーム制。担当制のように見えても、基本的には「全員で利用者を見る」体制をとっているそうです。 「朝礼・夕礼の時間には、記録を読むだけでは伝わらない“声”での情報共有を重視しています。オンコール中も、困ったらすぐに僕に連絡できる体制を整えています」(安田さん) さらに、教育方針にも特徴があります。 「一番吸収できるのは、“学びたい”と思ったその瞬間。その時に勉強できるよう、件数を減らしたり、研修を支援したりと柔軟に対応しています」(安田さん) 制度面でも、働きやすさを支える仕組みが整っています。タブレット・社用車・携帯電話は原則一人1台。冷蔵庫やウォーターサーバーなど、細かい配慮も行き届いています。 「『あの人は休んでもいいけど、私はダメ』なんてことは絶対にあってはならない。それぞれの事情に配慮し、お互い様の精神でやっています」(野口さん) 次なる挑戦へ――地域に根ざす2拠点目への想い 2025年9月、株式会社アスポスは2拠点目として「東大宮店(さいたま市見沼区)」を開設予定です。 「新しいエリアでは、まだ訪問看護の文化が根付いていないかもしれない。だからこそ、啓蒙的な活動や、地域行事への参加、ボランティアなどを通じて、地域に顔を出していきたいと考えています」(亀谷さん) この拡大にあたり、安田さんは現場の安全性を担保するための「仕組みづくり」にも力を入れたいと話します。 「今やっている取り組みをマニュアル化することで、スタッフが安心して動ける土台を作りたい。店舗が増えても、“アスポスらしいケア”が続けられるようにしたいんです」(安田さん) 新たな挑戦の先にあるのは、“変わらない想い”。 「人数が増えても、働きやすい環境は絶対に変えたくないんです。もっと良くなる可能性もある。だから常に模索して、スタッフと一緒に育てていけたらと思っています」(野口さん) インタビュアーより 亀谷さん・野口さん・安田さん、3名の関係性はとにかく温かく、まるで家族のようでした。経営と現場が互いを尊重し合い、目線を揃えて取り組んでいるからこそ、アスポスの訪問看護には“人に優しい”空気が流れているのだと感じました。 働く人が心と体に余裕を持てる職場は、きっと利用者さんにもそのやさしさが伝わるはず。そんな「看護師にとっての理想の環境」がここにあると思いました。 事業所概要 ステーション名:あすぽす訪問看護リハビリステーション岩槻  運営法人名:株式会社アスポス  開設日:2021年1月1日  所在地:埼玉県さいたま市岩槻区本町3-20-15 亀谷大工町ビル2階  アクセス:東武アーバンパークライン「岩槻駅」より徒歩7分(約600m)  Webサイト:https://aspos-hokan-iwatsuki.com/ 理念:「明日(未来)をサポートする力となり、明るく幸せな時間をお届けする」  サービス対象:乳児から高齢者まで全年齢層対応 特徴:  実務経験豊富なスタッフによる同行・ICT支給による学習支援  駅近で通勤利便性が高く、地域密着型  スタッフの笑顔とライフスタイルを大切にした柔軟な職場文化 事業所紹介ページ:https://ns-pace-career.com/facilities/15760 この記事を読んで「訪問看護、自分にもできるかも」と感じた方へ 「もっと患者さんと関わりたい」「自分らしい看護を実現したい」そう感じている看護師の方は少なくありません。 NsPace Careerナビでは、訪問看護の現場で働く看護師のリアルな声を多数掲載しています。 精神科訪問看護で活躍する看護師の声 未経験から訪問看護を始めた体験談 育児と両立しながら働く現場の実例 各ステーションの教育体制・チーム文化 さらに、キャリアの悩みやモチベーション維持のコツなど看護師として働くうえで役立つ記事も充実。 「自分に合う訪問看護の職場って、どんなところだろう?」そのヒントが、きっと見つかります。 ▶ 他の訪問看護師インタビューを読むhttps://ns-pace-career.com/media/ 記事提供:NsPace Careerナビ編集部

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