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腹膜透析におけるトラブル&訪問看護師による対応の実際
腹膜透析におけるトラブル&訪問看護師による対応の実際
特集
2025年12月2日
2025年12月2日

腹膜透析におけるトラブル&訪問看護師による対応の実際

腹膜透析(Peritoneal Dialysis:PD)は患者さんの自宅で行う治療のため、医療者の直接介入が限られ、合併症やトラブルへの対応が本人や支援者の判断に委ねられることが少なくありません。そのため、訪問看護師が定期的に介入し、問題を早期に把握・対応することがPD療法の安定継続においてきわめて重要です。今回は、PDの代表的なトラブルと訪問時に実施できることを解説します。 腹膜透析(PD)における代表的なトラブル PDの代表的なトラブルには、腹膜炎、カテーテル関連感染、注液・排液の異常、体液量の異常、操作エラー・コンプライアンス低下が挙げられます。順に解説していきます。 PD腹膜炎(PD peritonitis) PD療法離脱の主要原因で、さらに生命予後にも影響しうる最も重大な合併症の1つです。排液混濁が典型的な所見で、腹痛、発熱、悪心・嘔吐を伴うこともあります。 診断には排液の細胞数と細菌培養など病院での検査が必要であり、在宅と病院の速やかな連携が早期の治療開始につながります。原因は手技不良による細菌感染やカテーテル関連感染(出口部感染・皮下トンネル感染)からの波及、腸管由来の内因性感染があり、感染経路によって病原微生物も異なり迅速かつ正確な診断が重要です。表1に腹膜炎の診断基準を示します。 表1 腹膜炎の診断基準 項目内容診断のポイント排液混濁米のとぎ汁状に排液が白濁することが特徴。腹膜炎が強い場合、血性排液となることもある迅速な診断のために、すぐに排液白血球数と好中球割合、培養検査を行う排液白血球数排液検査で白血球数100/μL以上、かつ好中球50%以上を占める新鮮な排液を用い、採取後迅速に検査を行う排液培養検査排液のグラム染色や培養検査で細菌や真菌を検出するグラム染色で迅速診断、培養検査で確定診断を行い、薬剤感受性検査も実施する腹痛や圧痛腹痛を伴うこともあるが、軽微あるいは無症状のことも多い自覚症状の頻度は低く、ほかの基準と総合的に腹膜炎を診断する カテーテル関連感染(出口部感染、皮下トンネル感染) 出口部感染は、出口部の発赤、腫脹、膿性浸出液、圧痛、発熱などを認める場合に強く疑われます。特に膿性浸出液が持続したり、皮下トンネルに波及している場合には、腹膜炎のリスクが上昇します。出口部の評価として「CAPD出口部スコア」があります(表2)。 表2 CAPD出口部スコア 項目0点1点2点腫脹なし<0.5cm 出口部のみ>0.5cm and/or トンネル部痂皮なし<0.5cm>0.5cm発赤なし<0.5cm>0.5cm疼痛なし軽度重度排膿なし漿液性膿性 4点以上を出口部感染と判断するCAPD:Continuous Ambulatory Peritoneal Dialysis、連続携行式腹膜透析文献1を参考に作成 注液・排液の異常 排液が困難であったり、注液時に抵抗感がある場合、カテーテル位置異常や腸管癒着、フィブリン閉塞などが原因として考えられます。注液・排液不良があるとPD療法が継続できないため、速やかな対応が必要になります。便秘もカテーテル位置異常や排液不良の原因となるため、日々の便通管理も重要です。 体液量の異常 体重増加、浮腫、血圧上昇は体液過剰の最初の兆候で、進行すると胸水貯留や呼吸困難をきたし、緊急対応が必要となる危険があります。反対に除水過剰による脱水、それによる低血圧、倦怠感も見逃してはなりません。 操作エラー・コンプライアンス低下 キャップの閉め忘れや不足のチューブ破損を含めた無菌的操作の手技エラーは腹膜炎を引き起こします。また、日々のPD療法が計画通り遵守されない場合は、十分な溶質除去ができず、電解質異常が悪化する恐れがあります。 訪問時における看護師の対応 感染兆候を認めたら速やかに医師に連絡 訪問時に排液の色調・透明度を確認します。混濁がある場合は腹膜炎の可能性があるため、患者さんの腹部症状や体温などの観察と合わせ、速やかに主治医への連絡が必要です。出口部や皮下トンネル部は視診・触診により発赤、腫脹、圧痛や浸出液の有無を確認します。特に膿性浸出液は感染症の重要な所見です。主治医に早期に相談して培養検体の採取を行います。 注液・排液状態を確認し原因に応じ対処 排液不良(出が悪い)はカテーテル位置異常の可能性があるため、体位変換(座位→側臥位での排液)や、軽い腹部マッサージ、深呼吸などを行い、排液状態の変化を確認します。排液不良が持続する場合は速やかに主治医に相談してください。 注液に抵抗がある場合は、カテーテルがフィブリンで閉塞している可能性があります。透析バッグを加圧し透析液の圧入で改善する場合もありますが、改善しない際は、同じく主治医へ報告してください。 便秘が排液不良の原因となることもあり、排便状況の聴取も大切です。 バイタルサイン・体重・浮腫を評価 体重とその変化、血圧・脈拍・SpO₂の測定、下肢浮腫の有無で体液バランスの異常を推察できます。体重増加や浮腫の悪化があれば、除水量や食事内容などから原因を推測して指導を行ったり、透析条件の見直しの必要性について主治医と相談したりすることもあります。 手技の観察、必要に応じて再指導 患者さんの実際の手技(注液・排液操作)を観察し、無菌的操作が遵守されているか、接続・切断操作が正しいかを確認します。問題があれば、その場で指導を行い、必要に応じて主治医や病院看護師に教育用の資料を提供してもらい、再指導計画について相談をしてください。 精神的サポートで治療継続を支援訪問時に日常生活の不安や抑うつ傾向を訴える患者さんもいます。傾聴と共感を基本とした関わりが重要です。治療継続のモチベーションを維持するため、小さな成功体験の共有やPD療法の意義の再確認も効果的と考えています。 訪問看護の意義と今後の展望 PD患者さんの在宅療養の質を維持・向上させる上で、訪問看護の果たす役割は極めて大きくなっています。単なる観察だけでなく、「異常の予兆の察知」「緊急時の初動対応」「治療継続の支援」という多面的機能が求められています。 近年ではICTを活用した遠隔支援やAIを活用した意思決定支援ツールも登場し、訪問看護師の在宅での判断支援を強化する環境も整いつつあります。 今後は、訪問看護師がPDの専門性を高め、PDチームの主要メンバーとして積極的に治療管理に参画する体制の構築が不可欠です。その結果、病院内外での多職種連携が強化され、患者さん一人ひとりに合わせた柔軟な個別支援の提供が可能となり、PD療法の継続性と安全性が高まっていくものと考えます。 * * * PD療法の支援に活用できる「訪問看護師用チェックリスト」をご用意しました。各チェック項目に基づいて、評価や対応内容を記録できるようになっています。また、本記事でご紹介した「腹膜炎の診断基準」や「CAPD出口部スコア」もあわせてご確認いただけますので、日々のケアにぜひお役立てください。>>訪問看護師用チェックリスト ~在宅腹膜透析の安定継続のために~  執筆:上村 太朗松山赤十字病院 腎臓内科 部長2001年 愛媛大学医学部卒業関西圏の市中基幹病院で研修2005年 松山赤十字病院入職2016年 松山赤十字病院腎臓内科部長前任部長・原田篤実より受け継いだラストマンシップを診療の軸に、地域と連携し、すべての腎臓病患者さんが困らない医療を心がけています。編集:株式会社照林社 【参考文献】○Schaefer F,Klaus G,Müller-Wiefel DE,et al:Intermittent versus continuous intraperitoneal glycopeptide/ceftazidime treatment in children with peritoneal dialysis-associated peritonitis. The Mid-European Pediatric Peritoneal Dialysis Study Group(MEPPS).J Am Soc Nephrol 1999;10(1):136-145.○日本透析医学会学術委員会腹膜透析ガイドライン改訂ワーキンググループ 編:腹膜透析ガイドライン2019.医学図書出版,東京,2019.

忘れられない思い出エピソード【つたえたい訪問看護の話】
忘れられない思い出エピソード【つたえたい訪問看護の話】
特集
2025年12月2日
2025年12月2日

忘れられない思い出エピソード【つたえたい訪問看護の話】

訪問看護師の仕事は、人との出会いの連続です。「みんなの訪問看護アワード2023」に寄せられた投稿から、そうした出会いの中で、今でも忘れることができない利用者さんやご家族に関わるエピソードを4つご紹介します。 「ラブレターと、家で叶った2人の外出」 健やかなる時も病めるときも…。夫婦になる際の誓いの言葉を、最後まで行動で示す夫婦愛に感動するエピソードです。 仲良し夫婦の妻が入院。お見舞いに制限ある中、夫は「あなたが家にいなくて寂しい。元気になって帰ってきてください」と手紙を送る。入院中に胃ろう造設。手技が定着しないまま退院。訪問看護とリハが関わる。訪問看護師の指導で夫は胃ろうの手技をマスター。リハでの離床・移乗練習も行い、車いすで近所の公園に外出。2人で桜を見て満面の笑顔。妻はその後しばらくしてご逝去されたが、夫は最期をともに過ごせて安堵した表情がとても印象的でした。 2023年2月投稿 「最期の直前に電話してくださって眠るように旅立たれたAさん」 最期まで自分の生き方を全うした利用者さんが印象に残るエピソードです。 奥様が他界されてからは、独居のAさん。心不全で在宅酸素療法、尿道留置カテーテルを挿入している90代の方。今まで緊急訪問や救急搬送での入退院がたびたびありました。独居生活も厳しくその都度話し合いを重ねてきましたが主治医にはどうか自宅で看取ってくださいと懇願しておられました。Aさんは亡くなる当日の朝ご飯も食べ、ヘルパーさんに調子悪いので昼来て欲しいと言われました。午後看護師につらいので来てほしいと電話があり30分後に駆けつけました。携帯電話を握りしめまるで眠っておられるように安らかな最期でした。私たちの心配をよそに、きれいに安らかに旅立たれたAさん。最期まで希望を持って生き抜いたAさん。言葉で言い表せないことを教えていただきました。 2022年12月投稿 「白いごはんが食べたい」 大切な思い出は疾患を凌駕する原動力にもなると思い知らされるエピソードです。 アルツハイマー型認知症、脳梗塞後の80代女性で、娘さんと仲の良い方だった。こちらの言っていることは理解できていたが、自ら主体的に動くことはなく文字通りされるがままの様子だった。入院先の病院では食べる力はあるものの、食べることをやめていたのか食事がまったく進まなかったようである。娘さんから女性は畑仕事が好きだったこと、仕事に向かう旦那さんには両手に収まらない程の大きなオニギリを作って仕事に送り出していたことを聞き、自宅でゆっくり関われば食べる力を取り戻すと信じ、娘さんと一緒に食事を口元に運び続けた。訪問を続けたある日。「白いごはんが食べたい」と、その女性ははっきりと口にした。そのうちに表情が戻り、箸を使って食事を食べるようになった。あの日、驚き娘さんと顔を見合わせ、手を叩いて喜んだことは今でも忘れられない。 2023年2月投稿 「2人の時間を今も内緒にしていること。」 前向きに笑顔で疾患に立ち向かうことを約束した二人だからこそ、儚くも代えがたい大切な時間をつくれたのかもしれませんね。 訪問看護1年目(26歳)、初めての癌末期自宅での看取りでした。(70代女性)先輩と2人で同行訪問して、利用者様からいただいた初めての言葉は「あなたもっと笑いなさい。こっちはこういう状況でただでさえ暗くなるのに余計暗くなるわ」と。訪問が初めてな上、利用者様に言われた言葉は重く訪問する度に私自身気まずい想いでした。その後は訪問にも慣れ、プライベートな話を沢山し笑い合いました。(私の恋愛や仕事、利用者様の若い時の話等)ある時は、利用者様の旦那様に関しての愚痴や感謝していること。ある時は当時流行っていた加工アプリで一緒に写真を撮ったり、マニキュアを塗ったりと病院では考えられない看護をしていたと当時は思いました。最期が近くなってお酒好きということもあり、ご本人様希望で、往診医、先輩、利用者様家族皆でお酒を飲みながら晩酌をしました。それから2週間程で息を引き取りました。あれから数年経ちましたが今でも1番印象に残っている利用者様で、たまに写真を見返し嫌なことがあった時は当時を思い出し活力をいただいています。 2023年2月投稿 いつまでも心の中に生きる姿 「人生で印象的だった場面を思い出してください」。そう言われて思い出すことができる出来事はどのくらいあるでしょう。訪問看護師は、人の感情が大きく揺れ動く場面に遭遇する機会が多い仕事。ぜひ、一つひとつの出会いを大事にしていきたいものですね。 編集: 合同会社ヘルメース イラスト: 藤井 昌子  2026年1月23日(金)17時まで「第4回 みんなの訪問看護アワード」エピソード募集中!↓

信頼&絆エピソード【つたえたい訪問看護の話】
信頼&絆エピソード【つたえたい訪問看護の話】
特集
2025年11月25日
2025年11月25日

信頼&絆エピソード【つたえたい訪問看護の話】

訪問看護は利用者さんやそのご家族、医療・介護従事者などたくさんの方々と関わり合いがあるため、多様な人間関係や人間模様が存在します。「みんなの訪問看護アワード2023」から、訪問看護の絆にまつわるエピソードを5つご紹介したいと思います。 「これからもよろしく」 互いに訪問看護に携わるご夫婦の、夫から妻へのメッセージ。夫婦で支え合う二人の絆を強く感じるエピソードです。 私の妻は、私が代表を務める訪問看護ステーションの管理者です。向上心の高い彼女は一昨年、「私は訪問看護認定看護師の勉強がしたい」と言い出しました。うちは福岡ですが、私は「どうせ勉強するならば東京に行って学びなさい」と、つい言ってしまいました。彼女は勇んで聖路加国際大学で学びました。彼女が東京に滞在しながらの実習期間中は大変でした。毎日の生活はもとより、小4息子の遠足のお弁当作りや誕生日の食事の準備の時は台所でうなってしまいました。しかし本当に大変なのは彼女の方で、事例レポートや発表プレゼン作成など、質が高く内容の濃い勉強に自問自答し、時には目を潤ませながら一生懸命に取り組んでいる姿は「すごい」の一言でした。正直お互い苦しかったけれど、リモートで東京と結んで息子の誕生日のお祝いが出来たことは家族の癒しになった良い思い出です。妻へ、「認定看護師試験合格おめでとう。これからも一緒に頑張ろう。」 2023年1月投稿 「Hさんについて」 所作一つから愛情が溢れ出ているのが伝わり、利用者さんとその息子さんの親子の絆の強さが垣間見えるエピソードです。 Hさんは看多機開設当時から利用されていた方で、物知りでお話上手。「何事も感謝、感謝ですよ」が口癖の方。重い病気が見つかり、息子さんが仕事を辞めご自宅で介護することになった。一時期ショートステイされていた時に面会に来られても、どこかぎこちなく他人行儀に見え、介護経験のない息子さんが最後まで続けられるのだろうかとスタッフ皆が案じていた。ある日の夕方の訪問。その日は心無い利用者の言動に心が沈み、「利用者に寄り添うとは、看護とは、介護とは。」自問自答していた。お部屋に入るとHさんが静かに微笑まれていた。排尿介助の場面で「お母さん僕の肩につかまって」と息子さん。Hさんは細く痩せた腕を息子さんの肩に回した。息子さんはしっかり大地のように優しく、Hさんを抱きかかえていた。訪問を終え外に出る。街灯の灯が眩しい。何か元気をもらった気がした。親子の絆。信頼と愛情。その後、息子さんは立派にご自宅でHさんを看取られた。 2023年1月投稿 「看護を超えた、心のつながり」 職業人としては、利用者さんには公平で適切な距離感を保つことが必要である一方、感情や気持ちはそう割り切れない、人間らしさを感じるエピソードです。 脳腫瘍のIさんの訪問看護を開始して、1年半が経ちました。シャワー浴を実施していましたが、徐々にADLは低下していき、訪問看護で実施することが難しくなっていきました。自分たちよりも大きな男性の移乗や更衣を全介助で行うのは正直大変でしたが、元気な奥様と息を合わせて行うシャワー浴はわたしにとってはとても楽しみな時間でした。訪問中に、これまでのお二人のお話や、ちょっとした世間話などをすることも楽しみに訪問をしていました。しかし、ある時、シャワー浴がいよいよ安全に実施できないということで、訪問入浴導入が決定しました。訪問看護は状態観察で30分訪問を実施することになりました。何度目かの30分訪問を実施した時、奥様が話しました。「訪問が30分になってしまい、みんなが、急いで帰ってしまう様子が寂しい、これまで通り60分の訪問というわけにはいかないだろうか」と。それを聞いた時、看護を提供する者として、正解かは分かりませんが、私も、同じ気持ちですと、心の中で伝えました。看護は、誰しもに公平でなければならないと思います。ですが、看護師も人間です。こんな風に、心が繋がることもあるんだなぁと、実感した瞬間でした。 2023年2月投稿 「絶対に守る!」 新型コロナウイルスの蔓延により、本来必要であった看護や介護の手が届けることができない状況下でのリアルなエピソードです。夫婦の絆だけではなく、訪問看護師への強い信頼があったからこそ為し得た看護です。 新型コロナウイルスが蔓延したため、とても気を付けていましたが、介護者である奥様が感染してしまいました。本人でなくても介護者が陽性の場合、ヘルパーさん、訪問入浴、デイケア、ショートステイも断られました。神経難病で寝たきり、気管支瘻で吸引も必要、経管栄養、尿留置カテーテル、浣腸も毎日必要でした。ご主人の介護をどうしよう…と、奥様が泣かれました。訪問看護で毎日訪問することにしました。防護服を着て、最後の時間に訪問し、保清と排便処置を主に、ケア時の注意、立ち位置から消毒、換気まで細かく指導し、奥様と「絶対移さない!」を合言葉に頑張りました。症状はなくても奥様が心配で精神的に参ってしまわれ、1日ごとに抗原検査しました。奥様の発熱から最終10日目も陰性で万歳しました。「奥様凄いことです」。褒めて差し上げると、ご本人様は、強ばった身体で一生懸命頷いて笑顔を作って、ポロポロと涙を流されました。一番緊張して、奥様の体調も心配されてたんだと気付かされ感動しました。 2023年1月投稿 「事務さんの仕事はご利用者様への支援に繋がっている。」 勤めていると当たり前になりがちかも知れませんが、同じ職場のスタッフ同士でも信頼や絆があってこそ、良いサービスを届けることができるのだと気付くメッセージです。 いつも事業所でさまざまな業務をこなしてくれる事務さん。事務さんが請求業務を行ってくれるから、会社が成り立ちます。事務さんが医療機関へ訪問看護指示書を手配してくれるから私たちはご利用者様へサービスを届けることができます。事務さんが労務的な手続きを行ってくれるから、私たちは健康保険証で医療機関を受診できたり、保育園の入園申請が行えます。私たちが安心してご利用者様へケアを届けることができるのは、事務さんのバックアップがあるからです。事務さんがいるからご利用者様は安心してケアを受けることができ、ご自宅で過ごすことができています。事務さんの仕事はご利用者様へのケアに繋がっています。事務さん本当にありがとう。 2023年2月投稿 医療や介護のベースには思いやりを 家族間、スタッフ間、訪問看護師と利用者間とさまざまな間柄でのエピソードでしたが、苦労がある中でもお互いの絆を感じるものでした。相手への思いやりを持っているから築けた絆なのでしょう。医療や介護も常に人が関わる仕事。信頼や絆を築いていくためにも、日頃の接遇やコミュニケーションなどに配慮するとともに、相手への気遣いや思いやりを忘れないようにしていきたいものですね。 編集: 合同会社ヘルメース イラスト: 藤井 昌子  2026年1月23日(金)17時まで「第4回 みんなの訪問看護アワード」エピソード募集中!↓

エンバーミングの手順とは? 専門的な処置について解説
エンバーミングの手順とは? 専門的な処置について解説
コラム
2025年11月18日
2025年11月18日

エンバーミングの手順とは? 専門的な処置について解説

エンバーミングには、大きく分けると「防腐」「消毒」「修復・化粧」の3つの目的があります。今回は、これらの目的のために、実際にどのような処置が行われているのか、現役のエンバーマーである牛渡一帆氏に解説していただきます。 エンバーミングの手順 エンバーミングは、体内・体外、両方からのアプローチによってご遺体の状態を安定させ、感染症に対する安全な環境をつくり、お姿を整える処置です。エンバーマーは、こうした処置を通じて、ご遺族が安心して最後のお別れに向き合うことができるよう支援しています。 エンバーミングは、大まかにまとめると次のような手順で行われます。 1. ご遺体の施設への受け入れ、必要書類やお預かり品の確認2. ご遺体体表の汚れの洗浄・消毒および状態確認3. 薬液の調合4. 表情の整え5. 血管の剖出6. 薬液の注入・排血7. 胸水や腹水、体腔内残渣物などの吸引8. 体腔内への薬液充填9. 各所切開部の縫合10. 全身の洗浄・洗髪11. 治療痕や点滴痕などの処置12. 着せ替え13. 表情の再調整・メイク14. ヘアセット15. 布団への安置または納棺 通常、処置に要する時間はおおよそ3時間ですが、ご遺族の要望や故人の体格、身体の状態によっては時間が前後したり、処置内容が追加されたりする場合もあります。広範囲にわたる損壊や欠損などがある場合では、丸一日お預かりすることもあります。 次に、エンバーミングの専門的な処置について詳しく解説していきます。 ご遺体に対する専門的な処置の実際 薬液の注入・排血 通常、生体では体内に取り込まれた酸素や栄養、水分は、動脈血によって全身の組織に運ばれ、各臓器で代謝や処理が行われます。そして、その過程で生じる二酸化炭素や老廃物、余分な水分は静脈血によって回収され、最終的に呼気や便、尿として体外へ排出されます。エンバーミングでは、この脈管の機能を利用し、動脈からの薬液注入と静脈からの血液排出(排血)を行います。 動脈を流れる薬液は、組織に作用し、防腐や消毒、血色をよくするといった効果を与え、静脈に入ると、残留している血液とともに老廃物や余分な水分など、腐敗の元になるものと混ざり合って流れていきます。 しかし、生体と違い代謝機能が失われているご遺体は、自力で不要な物質を体外へ排出することができません。したがって、静脈の一部を開放し、直接体外へ排血する必要があります。 薬液の注入に使用する動脈には、基本的に頸部や上腕、大腿にある血管を選択し、左右いずれか一側、または複数の箇所を切開します。排血には右内頸静脈を使用することが多いです。ただし、血流が滞るような障害(動脈硬化や血栓など)がみられる場合は、該当箇所に皮下注射で薬液を直接注入したり、皮膚に塗布して浸透させたりする方法をとることもあります。 血管の剖出と切開部の縫合 上記で述べた動脈と静脈を取り出すために、血管を覆っている疎性結合組織や脂肪組織を取り除く必要があります。この作業は解剖で行う「剖出」と同じです。該当箇所に2~3cmほどの切開を行い、血管を剖出します。薬液の注入と排血が完了した後は、最終的に切開部を縫合し、テープや修復用ワックスなどで目立たないように隠します。 胸水や腹水、体腔内残渣物などの吸引と薬液充填 さらに、脈管からでは対応しきれない部位にある胸水や腹水、胃の内容物、尿、便などを吸引します。腹部に1cm程度の穴を開けて、体腔内に残った腐敗要因となる物質を除去します。吸引後は、同じ場所から直接薬液を体腔内に充填します。 なお、エンバーミングで使用する薬液には、特殊なケースにも対応できるよう、さまざまな種類があります。状況に応じて、最適な薬液をそのつど選択しています。  組織の保湿や水分補給効果がある薬液 脱水や乾燥を促す薬液 やつれてしまった部位に組織の代わりとして充填する薬液 欠損箇所を補うためのワックス など 最後に、全身を洗浄します。 ここまでの処置は、あくまで「ご遺体の保全」を目的とした、エンバーミングならではの内容ですが、エンバーマーの仕事はそれだけではありません。 着せ替えや表情の再調整、ヘアセット われわれエンバーマーが、ご遺族と接することができる時間はあまり長くはありませんが、その中でできる限り、ご遺族の要望や故人への想い、エンバーミングに期待していることなどを教えていただきます。その情報に基づいて、故人の表情や髪型を整えたり、衣装の着付け、ひげや爪の手入れ、化粧を施したりします。 そのため、エンバーミングのご依頼時には、故人についての具体的な情報のご提供をお願いしています。 エンバーミングの依頼に必要なもの エンバーミングを依頼する際は、「死亡診断書(検案書)のコピー」と「エンバーミング依頼書」(以下、依頼書)の2点が必要です。また、故人に着せたい衣装や生前の写真、場合によっては入れ歯やウィッグ、アクセサリーなどをお預かりすることもあります。 依頼書には、ご遺族の要望を記入する欄があり、表情の整え方、ひげ剃りの要・不要、髪型、服の着せ方、メイクの希望などをご記入いただきます。内容によっては、高度な修復が必要になることもあります。 なお、依頼書には、2親等以内のご遺族による署名が求められます。 ご家族が立ち会えないからこそ依頼書が必要 エンバーミングでは、先述したような外科的な処置に加えて、ホルマリンを始めとする医薬用外劇物の使用を伴います。また、死亡診断書に記載された死因だけでは分からない、何かしらの感染症に故人が罹患している可能性もあります。こういったことを考慮し、エンバーミングは曝露対策や感染防御、故人のプライバシーに最大限配慮された「エンバーミングセンター」という専門の施設で行われます。 またエンバーミングは「日本遺体衛生保全協会」の認定資格を持つ専門のエンバーマーが実施するものであり、原則としてご遺族を含む第三者が立ち会うことはできません。 このような事情から、故人のお姿をご遺族の希望に近づけるためにも、依頼書の質問にお答えいただくようにお願いしています。 最後に エンバーミングの依頼は、特別な場合に限られたものではありません。最近では、「できるだけゆっくりと故人と過ごす時間をとりたい」「冷たくて重たそうなドライアイスをあの人の身体に乗せるのはかわいそう」「病気でやつれた顔を元気な頃のようにきれいにしたい」といった想いから、エンバーミングに価値を感じて依頼されるケースも増えています。 エンバーミングの一番の目的は、故人のお身体の状態を安定させることによって、ご遺族が安心して最後のお別れに向き合えるように時間を確保することだと考えています。そして、「大切な人の死」という現実を受け入れ、気持ちの整理をするための時間と場を提供するグリーフサポートの一環であると考えます。 担当するエンバーマーは、責任をもって、書類や写真を参考にしながら、目の前のお身体に向き合います。最後の時間に、ご家族が「大切な人にどのような姿でいてほしいか」「故人はご家族とどのようなお姿でお別れしたいか」を想像しながら、エンバーミングの処置を行っているのです。  執筆:牛渡 一帆(うしわた かずほ)株式会社ジーエスアイ エンバーミングセンター長一般社団法人日本遺体衛生保全協会(IFSA) 認定エンバーマー、スーパーバイザー一般社団法人グリーフサポート研究所認定 グリーフサポートバディ2011年にIFSAのエンバーマーに認定。2012年に株式会社ジーエスアイに入社。2020年、厚生労働行政推進調査事業費補助金新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業「遺体における新型コロナウイルスの感染性に関する評価研究」に参加。エンバーミングの普及に努める。編集:株式会社照林社

開催間近!学術集会長 藤野泰平氏 特別インタビュー【第15回日本在宅看護学会学術集会 11/29&30開催】
開催間近!学術集会長 藤野泰平氏 特別インタビュー【第15回日本在宅看護学会学術集会 11/29&30開催】
インタビュー
2025年11月11日
2025年11月11日

開催間近!学術集会長 藤野泰平氏 特別インタビュー【第15回日本在宅看護学会学術集会 11/29&30開催】

2025年11月29日(土)・30日(日)に、ウインクあいち(愛知県/JR名古屋駅より徒歩5分)にて「第15回日本在宅看護学会学術集会」が開催されます。テーマは、「訪問看護と社会インフラ~医療・ケアを地域の当たり前に~」。開催が目前に迫る中、学術集会長の藤野 泰平さんに、地域での暮らしを支え続ける訪問看護の意義や、社会インフラとしての可能性についてお話をうかがいました。 >>関連記事11月29日&30日開催!第15回日本在宅看護学会学術集会 見どころ紹介見どころやシンポジウムの紹介もされています。 藤野 泰平さん第15回日本在宅看護学会学術集会 学術集会長 名古屋市立大学看護学部卒業後、聖路加国際病院に入職。訪問診療クリニック、訪問看護ステーションの勤務を経て、2014年11月に株式会社デザインケア・みんなのかかりつけ訪問看護ステーションを設立。日本看護管理学会 看護の適正評価に関する検討委員会副委員長、一般社団法人日本男性看護師会 共同代表、オマハシステムジャパン理事、東京大学、慶應義塾大学非常勤講師などを歴任。 訪問看護を「社会インフラ」として考える ―前回の記事で、瀬戸内海の島で生まれたことがきっかけで訪問看護を「社会インフラ」と表現するようになったと教えていただきました。経緯について、もう少し詳しく教えてください。 はい。私が生まれ育った島では、「住みたい場所で暮らしたい」という願いが病気をきっかけに叶わなくなったり、緊急対応が間に合わず命に関わる事態になったりすることがありました。私自身も、家族として大きな無力感を覚えた経験があります。訪問看護や救急医療が十分でない地域では、日常生活や生き方にさまざまな制約が生じやすいことを実感したんです。 電気・ガス・水道と同じように、医療やケアが当たり前に届く社会をつくりたい――。この想いが、私の原点です。そして、「家族やペット、友人などと年を重ね、住み慣れた場所で日々穏やかに過ごしたい」という多くの人の願いに、医療や福祉がきちんと応えられる社会を実現したいと思っています。 ―そのために、訪問看護ができることは何でしょうか。 医療や介護は、当事者にならなければ実感しづらいものですよね。 例えば、私はこれまで「娘に迷惑をかけたくない」と施設に入った方が「娘に会いたい」と涙を流す姿や、亡くなった後にご家族が「母は幸せだったのでしょうか」「私は親孝行できたのでしょうか」と悔やむ姿などを何度も見てきました。「本当にこれでよかったのか」という後悔は、心に深く残るものです。 訪問看護の出発点は、利用者さんの「どう生きたいか」「どんな暮らしを望むのか」という声に丁寧に耳を傾け、受け止めることだと私は考えています。 そして、訪問看護師は日々多くの「最期」に立ち会います。その経験を通して得た声や気づきを地域で生きる人たちに伝えながら、「どうすればより良い最期を迎えられるか」「どう生きていけるか」という未来を描いていく。そうやって、まちの中で人と人との思いをつなぐことこそが、訪問看護という仕事の大切な一面なのだと、私は考えています。 ―藤野さんは、どのように「伝える」活動をされているのでしょうか。 例えば、書籍の執筆やホームページでのケア症例事例集の公開などを行っています。医療やケア、「生きる」ことに関する情報を、市民の方々へ還元していきたいと思っています。 人生の歩みや病気との向き合い方など、その方の「物語」がみえるケア症例事例集。(みんなのかかりつけ訪問看護ステーションHPより) 社会のしくみをより良くしていくために ―藤野さんは、幅広くご活動をされていますが、具体的な活動内容や、その背景にある想いについて教えてください。 まずは、なんといっても訪問看護事業です。世界的には、地域でのプライマリ・ケアを基盤に、生活に根ざした支援を重視する国が多い一方、日本では病院中心の体制が長く続いており、看護職の多くが病院に勤務しています。しかし、人が実際に生活するのは病院ではなく自宅です。生活の場で支える存在がもっと必要だと考えて訪問看護を始めました。スタッフが長く安心して働ける環境を整えることが、地域支援の持続可能性を保つことにもつながると考え、教育のオンライン化やオンコール専用コールセンターの設置などにも取り組んでいます。 また、学会活動にも力を入れています。今回は日本在宅看護学会の学術集会長を担当していますが、日本看護管理学会や日本在宅連合学会などでも委員会に参加し、さまざまな職種の方と協働して、社会のしくみをよりよく動かすための議論や提案を行っています。 医療や介護の現場は、「診療報酬」「介護報酬」という制度のもとで成り立っています。制度をどの方向に動かすのが望ましいのかを考える上で、学会は非常に有効なチャネルです。職種の枠を超え、仲間たちとともに、「社会にとってより良い形とは何か」について、議論を重ねながら社会をリードしていく。そんな役割を担えたらと考えています。 そのほか、ケアの質を見える化する「オマハシステム」や、看護職の多様なキャリアを支援する「日本男性看護師会」など、いくつかの団体や企業活動を通じて、看護のしくみづくりや社会的な基盤づくりにも携わっています。データやDXを活用して、社会全体を少しでも早く、より良い方向へと変えていけるよう、仲間と力を合わせて活動を続けています。 未来をつくるために意識したいこと ―今回の学術集会の運営にあたり、特に意識されたポイントについて教えていただけますか。 意識したのは、「未来をどうつくっていくか」ということです。今回の学術集会では、主に以下の3つを柱に据えました。 人づくり:未来を担う世代を育てる 社会を支えていくためには、「人づくり」がとても大切だと感じています。これは、法人の中で人材を育成するという狭い話ではありません。病院も在宅も大学も含めて、どのように人を育てていくかを考える。そこにこそ、学会が果たせる役割があると思うんです。生産性:力を発揮できる環境づくり 日本の一人あたり労働生産性は、主要国と比べて十分に高くはありません。裏を返せば「伸びしろが大きい」ということでもあります。人口減少が進む中でも、働く環境の整備やDXの推進によって、より多くの人が力を発揮できるようになれば、医療や福祉を含む社会全体の活力を高めていけると考えています。想像力:多様な人々の暮らしを想像する 社会の未来を考える上で、想像する力は欠かせません。医療者にとっても重要な力だと思っています。例えば、子どもを亡くした親の気持ち、仕事に失敗して家にこもる人の孤独、災害に遭った方々の日々などをどれだけ想像できるかが、行動を起こす上での鍵になります。遠く離れた国の子どもたちの現実を自分ごととして捉えるのは難しいのは、無関心なのではなく、単に経験の差や情報の届き方が影響している側面もあると思います。利用者さんの心に触れる経験を通じて、「自分たちの未来はどうあってほしいのか」「どんな社会にしていきたいのか」を想像する。その想像力をもとに、当事者意識を持って未来を考えていく。この学術集会が、そのきっかけになれば嬉しいと思っています。 視野を広げ、つながりを知り、自分を主語に語る ―若手看護師をはじめ、あまり学術集会に参加したことがない方へのアドバイスやメッセージがあれば教えてください。 臨床で働く中では、どうしても自分にできないことや職場の空気に意識が向きがちです。しかし、実際には世界はもっと広がっています。自分が大切にしている価値観やこだわりが認められなくても、別の場所では評価されることがある。広い視野を持つことは、一歩を踏み出す勇気につながることを、私自身も実感しています。 また、「自分たちの仕事がどこで、どのように、つながっているのか」を知ることも大切です。多種多様な立場の人の試行錯誤を知ることは、大きな学びになります。現場で一生懸命取り組むことが、退院後の患者さんの人生に影響を与えることもあります。その影響が、やがて家族や地域へと広がっていくことだってあるでしょう。こうしたつながりを実感できるのが、看護の醍醐味だと思っています。 そして、学術集会の場などで誰かと話すときは、「自分を主語に語ること」です。「『私は』こう思った」「『私は』困った」と、自分の言葉で表現すると良いと思います。明確な正解はありませんし、同じ出来事でも、背景や経験によって受け取り方は違います。自分を主語にすることで、「それいいね」という共感や、「こう考えてみたら?」という助言が生まれ、次の一歩につながるのです。皆さんには、さまざまな人の話を聞きながら、「自分にとっての意味」を感じ取ってほしいと思います。 ―最後に、学術集会の具体的なまわり方に関して、アドバイスをお願いします。 学会やセッションでは、ぜひ自分が興味を持ったテーマの場に足を運んでください。今の自分が求めていることは、きっとその中にあります。また、少し勇気がいるかもしれませんが、終わった後に登壇者等に「少しお話ししてもいいですか?」と声をかけてみてください。それだけで人生が大きく変わることもあります。自分の仕事に誇りを持てるきっかけになるかもしれません。 そして、11月29日(土)17時からの懇親会も、肩の力を抜いて語り合える貴重な時間だと思っています。第14回学術集会の懇親会も多くの若い方が参加してくださり、「あの話に共感しました」「こんな苦労がありました」といった会話が自然に生まれました。そんな何気ない交流が、自分を磨くきっかけになります。ぜひ積極的に参加して、声をかけてください。私もその場にいますので、話しかけてもらえれば、どんな質問にもできる限りお答えします。 そうした「有機的な出会い」の中で、一緒に未来をより良くしていく仲間として、互いに成長していけたらと思います。 2025年11月29日(土)、30日(日)開催の「第15回日本在宅看護学会学術集会」にご参加希望の方は、学術集会ウェブサイトよりご登録ください。また、学術集会の1日目終了後(17時~)には、懇親会も開催されます。ぜひあわせてご参加ください。・学術集会への登録はこちら第15回日本在宅看護学会学術集会 ウェブサイト・懇親会の情報はこちら 11/29・30開催「第15回日本在宅看護学会学術集会」に協賛!懇親会も開催 編集:NsPace編集部 【参考】〇プライマリ・ケア連合学会「プライマリ・ケアとは」https://www.primarycare-japan.com/about.htm2025/11/5閲覧〇厚生労働行政推進調査事業.筑波大学附属病院 総合診療・プライマリ・ケア推進事業報告書「わが国の総合診療はどうあるべきか 第4部 総合診療に関する国際比較」https://soshin.pcmed-tsukuba.jp/education/report/pdf/04_001.pdf2025/11/5閲覧〇厚生労働省「看護師等(看護職員)の確保を巡る状況に関する 参考資料」(令和5年5月29日)https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001101182.pdf2025/11/5閲覧〇厚生労働省「令和6年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/eisei/24/dl/gaikyo.pdf2025/11/5閲覧〇公益財団法人日本生産性本部「労働生産性の国際比較2024」https://www.jpc-net.jp/research/list/comparison.html?utm_source=chatgpt.com2025/11/5閲覧

【ALS難病看護事例】長期の経過を支える難しさ 変化に応じたケアの試行錯誤
【ALS難病看護事例】長期の経過を支える難しさ 変化に応じたケアの試行錯誤
特集 会員限定
2025年10月28日
2025年10月28日

【ALS難病看護事例】長期の経過を支える難しさ 変化に応じたケアの試行錯誤

筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)をテーマに、訪問看護師としての取り組みをご紹介します。ALSは突然発症し、残酷な内容の告知をされ「どうしたらよいのか分からない」状況のまま、急な意思決定を迫られることが少なくありません。そのような状況の療養者に訪問看護師としてどのようにかかわればよいのか、日々悩まれている方も多いのではないでしょうか。 本記事では、初回訪問時からの難病看護師の専門的な視点やアセスメント、本人やご家族への具体的な対応についてご紹介します。訪問看護の現場で役立てていただければ幸いです。 筋萎縮性側索硬化症(ALS)とは ALSは、運動ニューロンが障害を受け、手足や舌などがうまく動かせなくなり、筋肉が痩せていく病気です。個人差はありますが、徐々に症状が進行し、ADL(activities of daily living:日常生活動作)の低下や嚥下困難などの症状が顕著になっていきます。 そうなると、今までの日常生活が困難となり、諦めや選択を迫られます。また、症状の進行に伴い、情動制止困難な症状が出現することがあり、介護者やかかわる多職種は精神的に追い詰められ、サービスの継続が困難になる場合もあります。 事例紹介:Aさん(60代、男性) 主介護者は妻で、中学生の息子との3人家族です。Aさんは、就労中の電話対応で呂律が回っていないことを指摘され、医療機関を受診しALSと診断されました。セカンドオピニオンを受けているうちに症状が進行し、経口摂取が困難となり、脱水症状で緊急搬送されました。その後、胃瘻を造設され、退院時に訪問看護を紹介されました。以下は、初回訪問時の状況です。Aさんご夫婦は、当初、訪問看護の利用には消極的でした。  【初回訪問時の状況】Aさん(椅子に座り筆談):「喉は開けるつもりはないので、訪問看護はいらないです」妻(落ち着いた様子):「主人もいらないと言っていますし、まだ大丈夫です」「なんとか工夫して食べていますし」「最近、座ってでないと眠りにくいようですけど」訪問看護師:「そうなんですね」「あまり睡眠がとれていないですかね。頭痛など大丈夫でしょうか」「胃瘻も気になりますし、2週間に1回だけでもお顔を見せていただけませんか」「少し飲み込みづらさがあると思いますので、リハビリをしてみるのはいかがでしょうか」「次回の病院受診時にご一緒させていただいてよろしいでしょうか。お願いします」「何か困ったことがあればいつでもご連絡くださいね」Aさん・妻:「まあ……そこまで言うなら。そのくらいなら、いいかな」 初回訪問:難病看護師としての視点 (1)身体面・精神面のアセスメント 【身体面】球麻痺が進行し、唾液が流れるため、タオルを常に噛んでいる状態でした。誤嚥のリスクが非常に高いと考え、誤嚥による肺副雑音の出現、SpO2の低下を確認します。夜間も座位でないと睡眠がとれないことから、呼吸筋麻痺の進行が想定され、CO2ナルコーシスの症状も確認します。 【精神面】診断されて間もない時期であり、詳しく状況を理解されておらず、病気の進行に対する理解や気持ちが追いついていないと考えられます。ご夫婦に危機感はないように見られましたが、初回訪問であり、装っておられる可能性もあります。 (2)訪問体制のアセスメント 最初は少ない訪問回数の提案でつながりを確保し、徐々に訪問サービスに慣れていただきます。また、初期は特に症状の改善に期待を持たれているため、訪問リハビリテーション(以下、リハビリ)のほうが受け入れもよく、スムーズに開始できる場合が多いです。その場合はリハビリから開始し、スタッフと情報共有しながら進行状況に応じ看護師の訪問を開始します。 初回のアセスメントで「リスクが高い状態である」と考えられる場合は、必ず緊急体制の必要性を説明し、早期に契約します。また、緊急訪問時に重要となる吸引器はすぐに準備し、自治体が行う日常生活用具給付等事業の利用申請を促します。吸引器は、制度の申請から実際に手元に届くまでに数ヵ月かかる場合が多いです。そのため、まずは訪問看護ステーションの吸引器を持参するか、レンタルするなどして緊急時に備えておきます。 (3)意思決定支援のためのアセスメント Aさんが、医師からの説明内容や自身で検索された情報から、どの程度の知識があり、どのように理解されているのか、また何を大切にされており、何が自尊心の維持につながるのかを情報収集します。 早い段階から保健師やケアマネジャーらと多職種カンファレンスを行い、本人と妻の「今の」意思を共有します。意思は変化しますので、意思確認に必要な情報を継続的に共有することも大切です。また、同じ疾患の方の情報も伝え、今後起こり得る状況を想定できるように、精神状況に配慮しながら意思決定支援につなげていきます。  ワンポイントアドバイス●意思決定支援はていねいに進めるAさんのように進行が早く、気持ちの準備ができていない場合は、タイミングを見て、ていねいに時間をかけた意思決定支援を進めることが大切です。●焦ってリスクを伝えない関係性ができていない状態で、看護師が焦ってリスクを伝えようとすると、受け入れができずに怒りを表出される可能性があります。その結果、訪問を拒否されてしまうこともあるため、注意が必要です。●初期段階の連携が重要診断後の初期には、大学病院や総合病院の主治医から訪問看護指示書を受けるケースが多く、連携が取りにくいことがあります。その場合には、FAXで状態報告を行うのもよいですが、可能な限り受診に同行することをおすすめします。病院との連携がスムーズになるだけでなく、診察を待つ間に本人や介護者とゆっくり話すことができるので、信頼関係の構築にもつながります。 家族(介護者)への支援 Aさんは呼吸状態が悪化し、緊急入院となりました。そして、ご家族で相談され、気管切開・気管食道分離術を受けました。その後、妻から「病院の先生に施設をすすめられましたが、私は自宅で介護をしたいです。どうしたらよいでしょうか」と泣きながら連絡がありました。 妻には、自宅での介護生活をイメージできるように24時間必要なケアについて、「利用できるサービスや制度」「機器を利用することにより負担が軽減できるケア」「妻が行う必要があるケア」の3つに分けて具体的に説明しました(表1)。サービスを利用していない時間は、基本的に介護者がケアを行います。訪問看護師は24時間体制で支えますが、「介護者は覚えることが多く、負担が大きくなる可能性がある」ことを伝え、事前に介護者の意思を確認しておくことも重要です。 希望があれば実際にご自宅で介護されているお宅に一緒にうかがいます。また、病院には、妻の意思を伝え、退院前の指導項目やカンファレンスに参加すべきサービス事業所を提案します。 表1 妻に伝えた24時間必要なケアの内容 利用できるサービスや制度・ 訪問看護・訪問リハビリ・ 訪問診療・ 訪問介護(介護ヘルパー・重度障害ヘルパー)・ 訪問入浴・ 療養通所介護(人工呼吸器装着状態でも利用可能なデイサービス)・ 日常生活用具給付事業(吸引器、パルスオキシメータなどの支給を受けることができる)機器を利用することにより負担が軽減できるケア・ 福祉用具のレンタルや購入:移動や体位変換、排泄、入浴時などの介護負担を軽減させる→福祉用具:介護ベッド、マットレス、クッション、ポータブルトイレ、手すり、車椅子、シャワーチェアー、バスボードなど在宅人工呼吸療法関連機器[強力な助っ人]の一例●唾液吸引チューブ(メラ唾液持続吸引チューブ:泉工医科工業)●喀痰吸引器(アモレSU1:トクソー技研株式会社)●気道粘液除去装置(カフアシストE70:株式会社フィリップス・ジャパン)妻が行う必要があるケア・ 呼吸器管理(画面表示内容の理解、アラーム対応、回路・加湿器対応など)・ 気管カニューレの管理(吸引)・ 胃瘻管理(注入)・ 体位変換・ 療養者のメンタルケア など 本人が抱える苦痛への対応 Aさんは、症状の進行に伴う喪失体験を繰り返すたびに、妻に厳しく当たるようになりました。「妻だから、介護はおまえの仕事」と介護サービスを拒否し、妻を頻回に呼び出します。妻は、どのように夫にかかわればよいか悩み、息子と過ごす時間もとれなくなったことで精神的に追い込まれていきました。 妻には1人で悩まないように伝え、Aさんには「望まれる在宅生活を続けていくなら、奥様の協力が必要ですが、このままでは奥様は体調を壊してしまいます。ご協力をお願いします」と伝えました。Aさんは怒りを表出し、拒否されました。 情動制止困難への対応 ALSでは「情動静止困難」と呼ばれる、こだわりが強くなる、怒りが強く継続する、思いやりや気遣いができなくなる、といった自身の元来の性格では考えられないような症状を認めることがあります。 情動制止困難の症状が出現すると、主介護者のご家族はもちろん、多職種のチームメンバーが精神的に追い込まれ、在宅生活が継続できなくなる可能性があります。そのため、難病看護師は、症状が出現するとチームの中心となり、症状の説明やかかわり方を検討し、伝えていく役割を担います。以下は、かかわり方の具体的な例です。  (1)身体面のアセスメントを行い、さまざまな症状への対応を工夫し、苦痛の除去を検討する【さまざまな症状と対応例】● 四肢と腰部に疼痛がある:体位の工夫(クッションやマットレスなどの福祉用具の利用)、リハビリテーション、マッサージ、鎮痛薬の開始● 全身掻痒感がある:訪問入浴の導入、清拭の強化(ハッカ水を利用)、軟膏・アレルギー薬の開始● 不眠、不安が見られる:例えば、車椅子に移乗し外を見る、といったような気分転換を取り入れる、会話・傾聴の時間をつくる、パソコンによる動画視聴、抗うつ薬や睡眠導入薬の開始(2)本人に「なぜそのように感じたのか」、「なぜそのような態度をとったのか」を問う(3)本人の身体状況や精神状況のタイミングを見て、現状を説明する(説明中に本人の怒りが表現された場合も冷静に説明する。落ち着くまで、説明の中断もあり得る)(4)本人の希望を実現するための手段を提案し、本人と一緒に考え選択する(できること、できないことを分かりやすく伝える。落ち着くまで、説明の中断もあり得る)このほかに、看護師や介護ヘルパーが精神的苦を受けないように、事業所ができる対応もあります。例えば、1人で訪問せずに2人体制にしたり(複数名訪問看護:看護補助者や介護ヘルパーが同行する)、特定のスタッフをターゲットとして攻撃するような場合は、そのスタッフは無理をせず訪問を控えるといった方法があります。 妻に対しては、時間をかけて思いを何度も傾聴し、いつでも相談できる体制をつくりました。追い込まれて精神的に耐えられないときには、外出し距離を置くことを提案し、サービスの調整を行いました。レスパイト入院や通所サービスは、Aさんの拒否が特に強かったので、制度を利用することで訪問看護や訪問リハビリテーションの回数を増やし、何とか妻のレスパイトができるようになりました。 ワンポイントアドバイス●レスパイト:地域の資源を知り、組み合わせて利用する・地域の病院を利用したレスパイト入院・在宅人工呼吸器使用患者支援事業 ・1週間に5回、年間260回を限度に利用できる ・1日に複数の訪問看護ステーションを利用できる など・重症障害者医療的ケア支援事業 ・各市町村が独自に行う支援で、医療的ケアを行う看護師を派遣するもの ・月4時間を限度とし、自己負担分は支援に要する費用の1割(原則)・療養通所介護・ショートステイ地域には、上記以外にもさまざまな制度やサービスが整備されています。ご家族(介護者)の状況に応じてレスパイトを利用し、長期にわたる療養を支え続けられるようサポートできるとよいでしょう。 本人・介護者と向き合い解決策を探し続ける 自尊心の維持につながるケア 本人やご家族が表出した感情を受け止め、それに向き合うことが大切です。問題に対して「何かできることはないか」をあきらめずに探し続ける姿勢が求められます。訪問看護師は、本人やご家族の精神的苦痛やスピリチュアルペインを一番身近に感じ、理解し、共感できる存在だと感じています。 Aさんは、その後、長い在宅療養生活を経て症状が進行し、意思疎通が困難になりました。しかし、これまでの経験から、本人の機嫌や好みなどをある程度想像することができました。脈の速度や顔色、呼吸回数などを手がかりに、妻と「今、笑っているね」「機嫌が悪そうですね」とAさんの気持ちを読み取りながらケアを行うことで、妻のメンタルケアにもつながりました。 徐々に妻は、花見に出かけたり、喫茶店で過ごしたり、ケアグッズを工夫したりと、生活の中に楽しみを取り入れる余裕ができました。そんななか、難病看護師から妻に、これまでの介護経験を活かせる資格の取得を提案しました。 こうしたかかわりを続けていくなかで、妻は「主人がリビングで寝ている。この生活がうちの家族の形です」「自分のことはあきらめていましたが、今は介護の仕事が気分転換になっています」と笑顔で話されるようになりました。 介護者の精神面・社会面の支援も必要 進行期における精神的に不安定で過酷な状況をご家族とともに乗り越えてきた経験が、信頼関係の構築につながると考えます。本人の希望に寄り添い、毎日のケアに工夫を取り入れ、「楽しみながら」支援することで、つらいなかでも笑顔のあふれる在宅療養生活が継続できます。 長時間介護する妻が、介護から離れて社会参加できる環境を整えることは、妻自身が人生を歩むための大切な時間をつくり、生きがいにつながっていると考えます。療養者への支援はもちろん重要ですが、療養者を支える介護者の支援も大切です。制度を最大限に利用し、療養者の負担を軽減すると同時に、介護者にも自分自身の時間や場を提供する支援が求められます。 また、悩み試行錯誤しながらの「難病ケア」は訪問看護師やリハビリスタッフの「やりがい」「自信」にもつながっていると感じています。  本事例は、本人の承諾を得た上で掲載しています。個人が特定されないよう、必要な情報を匿名化し、適切に調整を行っています。本内容は教育・研究を目的としており、特定の診療や治療を推奨するものではありません。   執筆:西尾 まり子地域ケアステーション・八千代 訪問看護ステーション 管理者近畿大学病院 難病患者在宅医療支援センター所属日本難病看護学会認定・難病看護師、在宅ケア認定看護師訪問看護師として神経難病療養者の在宅支援に携わりながら、相談・指導を行う。在宅医療現場での特定行為実践にも力を入れている。編集:株式会社照林社 【参考文献】○ 荻野美恵子,小林庸子,早乙女貴子,他編:神経疾患の緩和ケア.南山堂,東京,2019.○ 髙橋一司医学監修,中山優季,原口道子,松田千春編著:神経難病の病態・ケア・支援がトータルにわかる.照林社,東京,2024.

腹膜透析ケアの基本 病院と在宅における看護師の役割とは
腹膜透析ケアの基本 病院と在宅における看護師の役割とは
特集
2025年10月21日
2025年10月21日

腹膜透析ケアの基本 病院と在宅における看護師の役割とは

腎代替療法の1つである腹膜透析(Peritoneal Dialysis:PD)は、在宅で治療を続けられる利点がありますが、適切な管理が必要です。患者さんが安全なPD療法を継続するためには、特に訪問看護師の支援が不可欠です。今回は、PDの基礎知識を概観した上で、病院および在宅における看護師の役割と、患者さんの支援に必要なケアの基本スキルについて解説します。 腹膜透析(PD)の基礎知識 腹膜透析(PD)は、患者さんの腹腔内に留置したカテーテルを通じて透析液を注入し、腹膜を透析膜として利用する治療法です(図1)。体液過剰や老廃物・電解質異常を補正するため、透析液の注液と排液を1日数回、毎日繰り返す必要があります。 図1 PDのしくみ 腹腔内に透析液を注入し、一定時間ためておくと、腹膜の毛細血管を介して老廃物や過剰な水分が透析液へ移動する。十分移動した時点で、透析液を体外に排出することで、血液がきれいになる。 PDには患者さん自身や介助者が注液と排液の操作を行う連続携行式腹膜透析(ContInuous Ambulatory Peritoneal Dialysis:CAPD)と、主に就寝中に機器によって自動的に注液と排液を行う自動腹膜透析(Automated Peritoneal Dialysis:APD)があります。患者さんの希望や生活リズムに合わせ、高い自由度で治療を計画できるのもPD療法の特徴です。いずれの治療法もカテーテル管理や体液異常、感染症(特に腹膜炎や出口部感染、皮下トンネル感染)の予防および早期発見が重要で、継続的な観察と異常の早期対応が求められます。 これらを的確に行うためには、看護師による継続的な関わりが欠かせません。ここからは、病院看護師と訪問看護師、それぞれの役割についてみていきましょう。 病院看護師の役割 病院看護師は、PD療法を選択した患者さんに、治療の導入前から計画的に、手技指導のみならず、自宅環境や在宅療養に必要な社会資源を含めた支援の必要性を聞き取っていきます。カテーテル挿入後は、カテーテルケアや入浴時の注意点など、日常生活の指導を継続するとともに、頻度が高く緊急性の高い合併症を早期に発見できるよう多岐にわたる指導を行います。導入期に特に重要な支援は以下のとおりです。  自己管理支援患者さんが手技を安全に行えるまで、無菌的操作や透析液の取り扱い、記録方法を繰り返し指導します。感染予防教育腹膜炎(排液混濁、腹痛など)や出口部感染、皮下トンネル感染(出口部や皮下トンネル部の発赤、腫脹、圧痛、膿性浸出液など)の早期発見のため観察と指導を行います。多職種連携医師や栄養士、薬剤師、訪問看護師、ソーシャルワーカーなど多職種と連携し、患者さんの生活全体を見据えた支援体制を構築します。 訪問看護師の役割 在宅でPD療養を開始した後、訪問看護師が担う役割はより実践的かつ包括的になります。 日常療養支援生活環境を確認し、PD療法に適した清潔な環境が確保されているか、出口部ケアがなされているか、注排液の量・時間に問題がないか、体重や血圧が安定しているかなどを評価します。異常の早期発見排液混濁(腹膜炎)、出口部や皮下トンネル部の発赤、腫脹、圧痛、膿性浸出液(出口部感染、皮下トンネル感染)など感染症の兆候、さらに体重や血圧の変化から体液過剰の兆候を早期に発見します。再教育・モチベーション維持長期にわたるPD療法において、患者さんの不安や手技の質の低下を予防するため、継続的な情報共有や手技指導のために声かけを行うことも必要です。病院看護師・医師との連携異常発生の際に速やかに情報を共有し対応することで、病状の悪化を未然に防ぎ、入院を回避することができます。 ケアの基本スキルと意識すべき視点 病院看護師・訪問看護師ともに、基本スキルは共通しています。 無菌的操作の徹底無菌状態でチューブの接合や切り離しができる装置も普及してきました。しかし、停電や災害時など器具が使えない状況でのPD療法を想定すると、安全なPDのためのバッグ交換時の無菌的操作は基本スキルといえます。日々の観察・アセスメント能力体液管理では、体重や浮腫、血圧などの経過を観察・評価して、体液過剰を早期に発見します。カテーテル出口部や皮下トンネル部の観察では発赤、腫脹、圧痛や膿性浸出液など感染症の早期発見に努めます。排液は白濁や血性腹水といった腹膜炎の兆候を見逃さないことが重要です。患者さんとの信頼関係の構築在宅治療の質の向上のため、患者さんがPD療法に対し日々感じていることを率直に語ってもらう必要があります。互いに何でも相談できる信頼関係を早期に構築することも基本スキルの1つといえます。説明力異常を早期発見した際に、何が起こっているかを患者さんに説明し、その状況を主治医に報告するための説明力も重要です。ただし、近年では言葉やテキストによる情報共有以外に、画像共有が可能な連携アプリケーションを利用したスムーズな情報共有も可能となっています。教育スキル在宅で手技指導や食事指導を繰り返すことで、患者さんの清潔操作や食事管理が改善し、PD療法が安定しやすくなります。 両者に共通する意識すべき視点は、「患者さんが安定した生活やPD療法を継続できること」を最大の目標にすることです。ケアの場面では常に“患者さん中心”の視点を最優先にしてください。PD患者さんの治療の質のみならず生活の質の向上のために、単なる技術的支援にとどまらず、心理的・社会的支援も含めた包括的な支援を心がけるようにしましょう。 おわりに PDは、患者さんの生活の質を保ちながら実施できる優れた透析治療である一方で、継続には一定の在宅管理と専門的支援が必要です。訪問看護師は専門性を発揮しつつ、在宅治療であるPD療法を行う患者さんに最も身近なところで寄り添うことができる数少ない存在です。 さらに進行する高齢化時代に、在宅で専門的知識を持ち、生活者としてのPD患者さんに伴走できる訪問看護師の役割はますます重要になります。患者さんと訪問看護師、そして病院スタッフの円滑な情報共有にて、患者さん一人ひとりに合わせた支援を実践することで、素晴らしいPD療養生活がかなうと思います。 本記事では、PD療法の支援に活用できる「訪問看護師用チェックリスト」をご用意しました。各チェック項目に基づいて、評価や対応内容を記録できるようになっています。日々のケアにぜひお役立てください。>>訪問看護師用チェックリスト ~在宅腹膜透析の安定継続のために~  執筆:上村 太朗松山赤十字病院 腎臓内科 部長2001年 愛媛大学医学部卒業関西圏の市中基幹病院で研修2005年 松山赤十字病院入職2016年 松山赤十字病院腎臓内科部長前任部長・原田篤実より受け継いだラストマンシップを診療の軸に、地域と連携し、すべての腎臓病患者さんが困らない医療を心がけています。編集:株式会社照林社 【参考文献】○日本透析医学会学術委員会腹膜透析ガイドライン改訂ワーキンググループ 編:腹膜透析ガイドライン2019.医学図書出版,東京,2019.

ALSの4大陰性徴候を活用して日常生活を豊かにしよう!
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コラム
2025年10月14日
2025年10月14日

ALSの4大陰性徴候を活用して日常生活を豊かにしよう!

ALSを発症して10年、現役医師・梶浦先生によるコラム連載、第2弾。今回は、ALSの重要なポイントである「4大陰性徴候」について取り上げます。症状が進行する中でも最後まで残る機能に注目し、それを日常生活でどのように活用していくかについて、実際に取り組まれている先生の工夫や実践例とともに解説していただきます。 4大陰性徴候とは何か ALSは全⾝の筋⾁が徐々に動かせなくなっていく病気です。教科書やインターネットなどでALSについて調べてみても、この「全⾝の筋⾁が徐々に動かせなくなっていく」というメインの症状に焦点が当てられており、「ALSに出にくい症状」にはあまり触れられていません。しかし、ALS当事者にとっては、こうした出にくい症状を理解し、将来を⾒据えて⽇常⽣活にうまく取り⼊れていくことがとても⼤切なのです! ALSには、出にくい症状が4つほどあり、これを「4大陰性徴候」といいます。このコラムの2回目(>>「分かりやすい! ALSの病態と症状」)でもお伝えしましたが、非常に重要なポイントですので、ここであらためて紹介します。 (1)目は最後まで動かせる! 手足や身体・顔がまったく動かなくなっても、目を動かす筋肉が最終的にある程度は残ることが多いです。 (2)尿意や便意はがまんできることが多い! 尿道や肛門をキュッと締める括約筋も筋肉ですが、障害は受けにくいです。つまり、尿や便が勝手に漏れて、垂れ流しにはなりにくいということです。 (3)感覚障害が起こりにくい! 見たり聴いたり、味覚を感じたり、冷たさや痛さなどを感じる感覚は最後まで残ります。 (4)「褥瘡」、いわゆる「床ずれ」ができにくい! 徐々に寝たきりになっていきますが、褥瘡はできにくいです。これは(3)で書いた、痛みなどの感覚は最後まで残ることが関係します(床ずれは痛いです)。 今回は、4大陰性徴候のうち(1)~(3)について、日常生活でどう活用しているか、私の実践を交えながら紹介していきます。 最後まで動く目を早めに活用しよう 「目は最後まで動かせること」が4⼤陰性徴候の中でも⼀番重要な症状になってきます。 コミュニケーションを取るとき、声が出せるうちは、がんばって声で会話をするでしょう。⼿が動かせるうちは、タブレットやパソコンの操作も、がんばって⼿を使って⾏うでしょう。しかし、それらもいずれできなくなっていきます……。 ここでとても⼤事なポイントは、「完全にできなくなる前に、目を使った⽅法も取り⼊れて、併⽤しながらやっていったほうがいい!!」ということです。完全にできなくなってからでは、絶望感と虚無感に襲われ、そこから目を使った⽅法に切り替えるのが難しくなります。 目を使った⽅法は「アナログな⽅法」と「デジタルな⽅法」の2つに分けて考えることができ、どちらも⽇常⽣活の中でとても重要な役割を果たします。それぞれの方法について説明していきたいと思います。 アナログな方法:⽂字盤を使って会話しよう! 声が出せなくなったら、いずれ「⽂字盤」を使った会話⽅法に切り替えていく必要があります。⽂字盤については第1弾コラムの10回目(>>「⽂字盤を使わない⽂字盤!?〜エアーフリック式⽂字盤〜」)に詳しく書いていますのでご参照ください。ここからは上記のコラムを読んでいただいたことを前提として書いていきます。●エアーフリック式文字盤私が使っているエアーフリック式⽂字盤について、「ALS当事者は文字の配置を覚えられるのですが、介助者が覚えて使いこなすのが⼤変です」との声を何件かいただきました。そこで、文字盤を使っていく上でのポイントを紹介します。また、実際に私が会話している解説動画を作りましたのでこちらも参考にしてください。 ▼ALS_エアーフリック式文字盤https://youtu.be/-qwhvTesF4I?si=CwubuZ04OB6rcylV ※リンク先はYouTube(外部サイト)となります。 動画について:分かりやすいように目の動きをスローモーションにして編集しています。実際にはもっと速く動きます。(「さくらクリニック練馬」が動画編集に協力してくれました) ALS当事者は、毎⽇繰り返し使っていきますし、⾃分のQOLを上げることにもつながるため、わりと皆さん文字盤を覚えられます。⼤事なポイントは、「介助者は無理して⽂字盤を覚える必要はありません!」ということです。 図1は実際の私の部屋を撮影した写真です。私の後ろの壁には、介助者⽤の⽂字盤が常に貼ってありますので、介助者は文字の配置を覚えていなくても、それを⾒ながら読み取ることができます。 図1 介助用文字盤の配置 さらに余裕が出てきたら、各行の頭文字が並ぶ9マスの位置だけでも覚えることで、会話のスピードが格段に上がります。ぜひチャレンジしてみてください。参考までに、私の介助者の中には、右の列を「あたま(頭)」、左の列を「さはら(サハラ砂漠)」と覚えている⼈も多くいます。 デジタルな方法:目の動きでタブレットを操作しよう! ⼿を使ってタブレットやパソコンなどが操作できなくなったら、⼀番スムーズに動かせる目の動きを活⽤することが多くあります。 視線⼊⼒を使った⽅法については、第1弾コラムの13回目(>>「ALS患者に必要な情報「実用編」 ~上肢②コミュニケーションツール~」)をご覧ください。 ここからは、上記のコラムを読んでいただいていることを前提に書いていきます。なお、そのコラムを執筆したのは2022年ですが、それ以降、画期的な出来事が起こりました! なんと、2024年に視線⼊⼒を使った操作が「iPad Pro」に標準機能として搭載されたのです!!▼Apple、視線トラッキング、ミュージックの触覚、ボーカルショートカットなどの新しいアクセシビリティ機能を発表(プレスリリース 2024年5月15日)https://www.apple.com/jp/newsroom/2024/05/apple-announces-new-accessibility-features-including-eye-tracking ほとんどの⽅はピンとこないと思いますが、これまでALS患者やその関係者は、「なんとか視線を使ってタブレットやパソコンを動かせないか」と試⾏錯誤を繰り返してきました。そして、パソコンについては外部装置を接続することで操作を可能にしてきましたが、純正の機械ではないため、機能を最⼤限に活⽤するには難しい面がありました。 そのような中、Appleが⾝体障害者のために、「iPad Pro」に視線⼊⼒装置を標準搭載してくれたことで、その機能を⼗分に活⽤できるようになりました。これによりタブレットも視線の動きで操作できるようになり、利便性が大きく向上し、⾝体障害者の社会的活動の可能性が広がりました。 一番⾃由に動かせる目を活⽤することは、最初の「とっかかり」としてはスムーズかと思います。ただし、目は⽂字盤をはじめさまざまなことに使いますので、酷使するとどうしても疲労が溜まりやすくなります。 また、いくら「目は最後まで動かせる」といっても、私のように10年⽣きていると、徐々に目も動かしづらくなってくることもあります。(もちろん10年経っても変わらず目を⾃由に動かせる⽅もいらっしゃいますので、ALS当事者の⽅は必要以上に不安にならないでください。) このような理由からも、目を使った⽅法以外にもタブレットを操作できる手段を知っておいてほしいと思います。 ちなみに私は、疲労を分散させるために、用途に応じて操作方法を使い分けていました。例えば、⼤学で講義をする時は、目を使ってパソコンを操作し資料を作成し、医師として診療を⾏う時には、歯の噛む⼒を使って空圧センサーを押し、タブレットを操作していました(空圧センサーについても第1弾コラムの13回目に詳しく書いています)。 私は現在、目が⾃由に動かしにくくなってきたため、空圧センサーのみを使用しています。以下にセンサーに接続するセンサーチューブの作り方と、吸引カテーテル(口腔内の唾液を低圧持続吸引してくれるカテーテル)との連結方法をまとめたのでご覧ください。>>センサーチューブの作成方法と吸引カテーテルとの連結方法はこちらから ※リンク先は「さくらクリニック練馬」のWebサイト(外部サイト)となります。 この⽅法は、口周りに障害物が何もないことが前提となるため、NPPV※を装着している方には使用できません。一方、気管切開をしている⽅で、わずかでも噛む⼒が残っている⽅にとっては、⼝腔内の唾液を吸引しながらタブレットを操作できる、とてもよい⽅法だと思います。ぜひ参考にしてみてください。 ※NPPV:非侵襲的陽圧換気。気管切開を行わないで、マスクを着用するだけの人工呼吸器。 ちなみに、私がNPPVをやめて気管切開を決断した理由の1つには、目と⻭以外に⾃由に動かせる場所がなくなり、早くこの⽅法を試してみたかったということもあります。 実際に私が⻭の動きでiPadを操作している動画も載せておきます。よく⾒ないと分からないですが、2mmくらい⻭が動かせれば操作できます。 ▼ALS_空圧スイッチを使ったiPadの操作方法https://youtu.be/EgM5bV9HIxs?si=BErItzSlxNqOKwfV ※リンク先はYouTube(外部サイト)となります。 この動画の撮影と編集は、私の息⼦が⼿伝ってくれました。息⼦よ、いつもありがとう!! 衣類を工夫し尿器で排泄:がまんできる力を活かす 四肢や体幹が動かせなくなると、「ベッド上でおむつで排泄しないといけない」と思っている⼈も多いかもしれませんが、ALSでは膀胱直腸障害は起こりにくいため、排泄をがまんすることができます(もちろん⼀般論であり、個⼈差があります)。⼯夫次第ではポータブルトイレや尿器を使って排泄できます。 ポータブルトイレでの排泄⽅法は、第1弾コラムの 18回目(>>「ALS患者に必要な情報「実用編」 ~下肢(2)ベッド上生活~」)に詳しく書いてますので、ご参照ください。 尿器を使用したベッド上での排尿の工夫として、これは男性の場合に限りますが、ズボンの前面を切り、スナップボタンを取り付けることで、ズボンを脱がずに陰茎を出して尿器をセットする方法があります。 ちなみに私は、尿器をセットしやすくするために下着は履かず、加工したズボンを直接履き、毎⽇⼊浴後に着替えています(⼊浴⽅法についても、18回目のコラムをご参照ください)。 実際に加⼯した私のズボンは図2をご覧ください。図2 加工したズボン(男性用) 「感じる力」を大切に:感覚が残ることを活かす ⾒たり聴いたり、味覚を感じたり……五感をフルに活⽤して、⽇々の⽣活をより豊かにしていきましょう! 上述した⽅法でタブレットを⾃分で操作できるようになれば、世界は格段に広がります。自分の好きなタイミングで読書をしたり、ドラマや映画を観たり、好きな⾳楽を聴いたりすることができます。 また、気管切開をして⼈⼯呼吸器を装着していても、誤嚥防⽌術さえ行っていれば、⼯夫次第で⽐較的⻑い期間、飲⾷を楽しむこともできます(もちろん個⼈差はあります)。誤嚥防止術の詳細については第1弾コラムの16回目(>>「「気管切開+誤嚥防止術」という考えかた!」)を参照してください。 * * * このように「できなくなっていくこと」ではなく、「何が最後までできるのか」に焦点を当ててALSという病気と向き合ってみると、⾒えてくる世界がまったく違ってきます。ALSという病気は、⼈間の可能性についてあらためて考えさせられる病気だなぁと、つくづく思う次第です。  コラム執筆者:医師 梶浦 智嗣「さくらクリニック」皮膚科医。「Dermado(デルマド)」(マルホ株式会社)にて「ALSを発症した皮膚科医師の、患者さんの診かた」を連載。また、「ヒポクラ」にて全科横断コンサルトドクターとしても活躍。編集:株式会社照林社

11月29日&30日開催!第15回日本在宅看護学会学術集会 見どころ紹介
11月29日&30日開催!第15回日本在宅看護学会学術集会 見どころ紹介
特集
2025年10月7日
2025年10月7日

11月29日&30日開催!第15回日本在宅看護学会学術集会 見どころ紹介

2025年11月29日(土)、30日(日)に開催される予定の「第15回日本在宅看護学会学術集会」。ウインクあいち(愛知県/JR名古屋駅より徒歩5分)で開催され、オンデマンド配信も行われます。テーマは、「社会インフラとしての在宅看護~在宅看護は、社会を変えられるのか?~」。今回は、学術集会長の藤野 泰平氏に見どころをご紹介いただきます。 執筆:藤野 泰平第15回日本在宅看護学会学術集会 学術集会長名古屋市立大学看護学部卒業後、聖路加国際病院に入職。訪問診療クリニック、訪問看護ステーションの勤務を経て、2014年11月に株式会社デザインケア・みんなのかかりつけ訪問看護ステーションを設立。日本看護管理学会 看護の適正評価に関する検討委員会副委員長、一般社団法人日本男性看護師会 共同代表、オマハシステムジャパン理事、東京大学、慶應義塾大学非常勤講師などを歴任。 【社会インフラ】というテーマに込めた思い 今や、訪問看護がないと家に帰ることができない人も多いと思います。それは、田舎でもそうでしょうか?  令和に入ってからの調査によると、訪問看護ステーションのない市区町村は全国で約25%1)あります。こうした地域では家に帰れず、病気になると家族や友人と離れ離れの生活を余儀なくされる人が多くいます。読者の中にも、「家に帰りたかった」という家族の思いを叶えられず、悲しい思いをした人もいらっしゃるのではないでしょうか。 私の故郷の景色 瀬戸内海の島で生まれた私もその一人です。日本中どこに住んでいても、電気・ガス・水道が整備されているのと同じように、必要なケアが当たり前に受けられる社会には、訪問看護が欠かせないと考えています。だからこそ、学術集会のテーマにもあるように、私は訪問看護を「社会インフラ」と表現しています。 また、孤独死が年間約2万人いる2)ことから、都市部であっても、ケアにつながる人は恵まれているのかもしれません。 今回目指していた2025年を迎え、これから2040年に向けて、日本中どこにいても必要なケアを受けられること、そしてどんな疾患や家族構成、どんな環境であっても、「住みたい場所で、住みたい人と、幸せに生きる」ことを支える訪問看護の価値を、市民の方に提供したいと考えています。そのために何ができるのかということを、参加者の皆さんと各セッションを通じて考えていけるような会にしたいと思っています。 日本在宅看護学会 理事長の山田雅子先生と 少子高齢化の中でも、人がいきいき、力を発揮できる環境を創る 少子高齢化が進む中で、少ない人数で多くの人を支えることになります。そのため、一人の医療職が、環境に左右されずに持っている力を発揮できることや、さらに力を高めることが重要となると思います。 シンポジウムの中でも、以下の3つはまさにそのような、人が力を発揮し成長できる環境やしくみづくりにフォーカスを当てたものになります。 ・シンポジウム1「在宅ケアの未来を創る(担う)実践者をどう育てるかー多様化する現場と学びの接続を考えるー」日本における在宅看護の「いま」と「これから」を見据え、現場で活躍する看護師、大学等の教育者等と、現場の実践と教育・育成の接続について多角的に検討する予定です。・シンポジウム4「訪問先でのカスハラにどう向き合うか~スタッフを守るための対策を考える~」多くの学会等でご講演をされている、武ユカリ先生と、実践者、管理者、弁護士の先生に、カスハラの対応方法について具体的な挑戦を話していただきます。・シンポジウム7「人が辞めずに、いきいき育つ! 心理的安全性の高い組織の創り方」『25の事例から学ぶ 看護のための心理的安全性』(弘文堂)を執筆された、秋山美紀先生にも登壇いただき、看護職が幸せに働けるように、「心理的安全性・ウェルビーイング・ポジティブ心理学」を中心に据えた看護管理、看護実践の提案を行ってもらいます。 ケアをする我々も人であるため、環境によって、パフォーマンスの程度は変わってしまいます。チームで助け合える、言いたいことを言える心理的安全が高い組織を目指し、力が発揮できる環境を創ることが、少子高齢化が進む日本の未来を考える上で必要不可欠だと考えています。 想像力を発揮し、今苦しんでいる人と、未来をイメージすること 我々は、世の中のすべてを見ているわけではなく、「選択的注意(Selective Attention)」といって、興味があることなどに目がいきやすいといわれています。 人によっては、知らないこともあると思います。例えば、訪問看護がない地域で処置が必要な人がどう暮らしているか、災害になった地域での1日はどのように流れているのか、災害を経験した人と経験してない人の想像力の違い、直接ケアを提供しない職種の人が社会課題をどう考えているか、在宅看護CNS(Certified Nurse Specialist:専門看護師)が政治家になる覚悟などです。 知らなければ想像できないこれらの情報は、「選択的注意」の観点から、頭に入りにくいこともあるでしょう。ただ、未来を創る当事者である我々にとって、想像することはとても大切なこと。だからこそ、そういった思いを持つ演者の先生からお話をうかがい、我々の視野を広げ、想像力を共に育てていきたいと思っています。 各セッションでは、訪問看護の質向上、災害時の備え、人口減少社会での看護の役割、技術革新と多職種連携など、未来を形づくるために欠かせない幅広いテーマも取り上げます。いくつかのシンポジウムをご紹介しましょう。 ・シンポジウム2「訪問看護の質向上に向けた評価指標の標準化のための研究:長寿科学政策研究事業からの報告」研究者の皆さんが質を上げるアプローチについてどう考え、日々努力をしているかを知ってほしいと思っています。・シンポジウム3「南海トラフ地震・複合災害に備える愛知・東海:BCP進化・名古屋モデル・仲間づくりで築く在宅ケアのレジリエンス」南海トラフ地震がいつ起きてもおかしくないと考えられています。災害経験者も含めて、どういうことを準備し、行っていけばいいかを、机上でBCPを作成するだけではなくて、より自分ごとになるようなコンテンツを用意しています。・シンポジウム5「”減る”社会でも、看護でつなぐー支え合う持続可能なケアとは」人口減少と超高齢化が進行し、在宅ケアの前提条件が大きく変わっていく中で、家族の介護力の低下、独居高齢者の増加、医療・介護分野における人材不足といったさまざまな課題があります。看護職は単なる医療提供者の枠を超え、「人と人」「人と地域」「人とテクノロジー」をつなぐ存在として、新たな役割について考えます。・シンポジウム6「今起きている技術革新から紐解く、「自分らしく生きる」を実現するための連携」利用者様に寄り添い声を聴いてきた看護師だからこそ、「今ここ」の支援に応える多職種連携と、「これから」の暮らしを創る連携の両面が重要です。メディア、企業、大学、政治などの人々とも手を取り合うことで、目の前の利用者様のニーズにこたえるだけでなく、誰もが「自分らしく生きられる社会」という未来を共に創っていくことを考えていきたいと思っています。 そのほか、未来を創造するために、臨床倫理の観点や、CNSかつ政治家の立場の方の思いを、講演を通じて知っていただくことで、参加者の皆さんの想像力を一層高める機会になるはずです。 想像力を高めることは、ケアを十分に受けることができない地域の人々の状況を理解することにもつながります。未来を創る当事者の一人として、より一層アクションを起こしていけるのではないかと思っています。 「学会」というツールとは。 学会に参加したことがないという人もいらっしゃるかもしれません。私の思いとしては、20代30代の学会に参加したことがない人も参加していただきたいと思っています。なぜなら、今20代の看護師さんは、2040年に35歳から45歳くらいになり、未来の日本を支え、課題を解決する中心的な人となっていると思うからです。私も20歳くらいから学会に参加をしていて、視野を広げさせてもらい、成長させてもらいました。だからこそ、今の自分があると思っています。学びを加速するという意味で、あまり学会に参加したことがない、若手にもぜひ参加してほしいと思います。 学術集会の企画委員会の皆さんと。少しでも良い学術集会にすべく、絶賛検討中です! また学会は、実践の発表や対話を通じて、価値観やスタンスを磨く絶好の場でもあります。若手だけではなく、病棟の看護師も含めて、在宅看護に関わる全ての方に、参加していただき、未来を創る当事者として、大いに語り合い、学び合いたいと思っております。ぜひ名古屋にお越しいただけると嬉しいです!よろしくお願いします。 2025年11月29日(土)、30日(日)開催の「第15回日本在宅看護学会学術集会」にご参加希望の方は、学術集会ウェブサイトよりご登録ください。また、学術集会の1日目終了後には、懇親会も開催されます。ぜひあわせてご参加ください。・学術集会への登録はこちら 第15回日本在宅看護学会学術集会 ウェブサイト・11/29・30開催「第15回日本在宅看護学会学術集会」に協賛!懇親会も開催 編集:NsPace編集部 【参考】1)一般社団法人 全国訪問看護事業協会「アクションプラン 2025 評価チーム」「訪問看護アクションプラン2025の最終評価(案)」(令和4年11月)https://www.zenhokan.or.jp/wp-content/uploads/evalulation.pdf2025/10/2閲覧2)内閣府.「孤立死者数の推計方法等について ~「警察取扱死体のうち、自宅において死亡した一人暮らしの者」をもとに~「孤独死・孤立死」WG取りまとめ」https://www.cao.go.jp/kodoku_koritsu/torikumi/wg/r6/pdf/houkokusyo.pdf2025/10/2閲覧

訪問看護のカスタマーハラスメント しくみ作りと対策【セミナーレポート後編】
訪問看護のカスタマーハラスメント しくみ作りと対策【セミナーレポート後編】
特集 会員限定
2025年10月7日
2025年10月7日

訪問看護のカスタマーハラスメント しくみ作りと対策【セミナーレポート後編】

NsPace(ナースペース)のオンラインセミナー「訪問看護のカスタマーハラスメント対策~安心して訪問看護ができるために~」(2025年6月20日開催)では、医療現場のカスタマーハラスメント(以下「カスハラ」)対策に詳しい坪田康佑先生を講師にお迎えし、訪問看護業界のハラスメントの実態や、講じるべき対策について教えていただきました。セミナーレポート後編では、具体的なカスハラ対策についてご紹介します。 ※約75分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 >>前編はこちら訪問看護のカスタマーハラスメント 実態と制度【セミナーレポート前編】 【講師】坪田 康佑さん看護師/国会議員政策担当秘書/日本男性看護師會代表理事慶應義塾大学 看護医療学部を卒業。米国 Canisius 大学で MBA 取得。看護 DX や医療現場のカスタマーハラスメント対策など、さまざまな角度から看護師支援に取り組む。 カスハラ対策は組織の責務 訪問看護現場におけるカスハラに対しては、訪問看護ステーションや経営者が対策を講じる必要があります。 2020年6月には、厚生労働省が「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して、雇用管理上講ずべき措置等についての指針」で、事業主が職場全体で対策を進めるべきという告示を出しました。 また、労働安全衛生法の第69条には「労働者の健康の保守増進を図るため必要な措置を継続的かつ計画的に講ずるよう努めなければいけない」と定められており、労働契約法でも「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるように、必要な考慮をする」という安全配慮義務が規定されています。事業所の規模を問わず、暴力・ハラスメント対策は、事業主や管理者の義務なのです。 事業所で講じるべきカスハラ対策 適切なカスハラ対応ができる体制・しくみ作りのため、まず必要なのは「カスハラをカスハラとして認識する」こと。現時点では「嫌な気持ちになったら報告する」という当たり前の行動ができていないことを理解し、「これってハラスメントなのでは?」という段階で声を上げられるしくみ作りを目指してください。そのために、まず事業所内で暴力・ハラスメントの定義を理解しておく必要があります。(暴力・ハラスメントの定義については前編「訪問看護のカスタマーハラスメント 実態と制度」参照) 上記をふまえ、以下のような体制・しくみを構築しておけば、発生後の対応で難しいとされる「速やかな指示」もできるはずです。 適切に警察に連絡できる体制 暴力をふるう、襲いかかる、凶器を持ち出すといった、暴行・傷害につながる事案は、警察に相談しなければなりません。いざというときに躊躇しないために、事前に警察へご挨拶に伺っておく、関係機関との協力体制を確認しておくのがおすすめです。また、警察に連絡する基準を明確にし、一人ひとりが認識することも必要でしょう。警察への相談窓口「#9110」では、緊急性のないトラブルや不安にも対応してくれます。 利用者さんとの関係の悪化を心配して通報を控えていると、カスハラは止まらず、悪循環を招きます。その利用者さんを担当する事業所が変わった場合、被害者はさらに増えるでしょう。訪問看護業界からの人材流出という問題にもつながるので、通報する勇気をもってください。 なお、こうしたしくみ作りは、利用者さんと訪問看護師がよい関係を築き、質の高い看護を提供していくためのものです。その想いと対策の内容を利用者さんやスタッフに伝え、みんなで理想的な関係を作っていくことが重要です。 被害者の心情に配慮した対応 ハラスメントが発生した際、スタッフへの最初の指示は「逃げて」です。スタッフが身の安全を確保できたら、客観的に問いかけて被害状況を記録していきます。 当たり前ですが、悪いのはハラスメントをした人間です。すべてのハラスメントは、被害者の尊厳や自尊心を傷つけるもの。被害者にはしっかりと「あなたは何も悪くない」と伝えてください。 そして被害者となったスタッフには、心理的ケアが必要です。状況に応じた受診方法を定めた上で事務所全体に共有し、それに則ってサポートしましょう。なお、被害状況によっては労災に該当することもあるため、医師に診断を受けるのは重要です。 また、継続的にケアを続けるのもポイント。時間が経ってから精神的な後遺症が表れることもあるので、管理職を中心に事業所全体でケアをしてください。専門家によるカウンセリングが受けられるしくみを用意しておくのもおすすめです。 さらに、被害を受けたスタッフが十分な休息をとれるよう、早退や休暇の取得ができる体制も必要です。なお、休むことで収入が減るという状況だと、カスハラは隠蔽する方向にイニシアティブが働きます。体制づくりの際にご注意ください。 二次被害になりやすい言い方の例と改善方法 ハラスメントへの対応時に意識したいのが、二次被害の防止です。「なぜすぐに相談しなかった?」「なぜ利用者を怒らせた?」といった「Why don’t you~?」型の言葉で原因追及をするのは、傷つけや行動否定といった二次被害につながるため、あくまで状況の整理に徹しましょう。気をつけなければならない点を洗い出すまでで終わりにしてください。 また「飲んで忘れよう」「遊んで気晴らしをしよう」といった逃避行動をすすめるのも二次被害につながります。事実から目をそらさず、問題を丁寧に取り扱っていきましょう。 感受性を高める実践的対策 カスハラ対策には、スタッフ一人ひとりの「暴力・ハラスメントへの感受性」を高めることも重要です。ポスターを貼って理解を促す、勉強会や研修を行うなどして、感受性を高めてください。ポイントは、定期的に行うこと。これまでのキャリアの中で培われた価値観は根強く、ハラスメントの定義を誤って認識していると簡単には正せないので、継続的なアプローチが必要です。 それから、「相談」をしやすいしくみ作りも求められます。相談ができるようになると連絡、やがては報告もできるようになっていくので、まずは嫌な思いをしたときに気持ちを話す習慣をつけられるようにしてください。 また、通報ツールや防犯グッズをスタッフに配布するのも効果的。カスハラが起こったときに録音や警備会社への連絡ができる商品があります。カスタマーハラスメント防止対策推進事業の奨励金や、地域医療介護総合確保基金の補助などの支援策もあるので、ぜひ活用してください。 * * * 看護師の笑顔は利用者さんの笑顔を、利用者さんの笑顔は家族の笑顔を、家族の笑顔は地域の笑顔を生むと私は考えています。看護師の笑顔を守ることは、たくさんの人々を笑顔にする第一歩。ぜひ一緒に看護師の笑顔を作っていきましょう。 【講師・坪田 康佑さんよりコメント】2025年9月30日、私が理事を務める二団体が、東京都産業労働局より「カスタマーハラスメント対策団体」として認証されました。今後は東京都の予算を活用し、相談窓口の設置や啓発活動を進めてまいります。専用サイトなども準備中ですので、何かありましたらお気軽にご連絡ください。・一般社団法人日本男性看護師會 代表理事 https://nursemen.net/・一般社団法人訪問看護支援協会 理事 https://kango.or.jp/ 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア 【参考文献】〇厚生労働省:事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)【令和 2年6月1日適用】.https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000605661.pdf2025/9/4 閲覧〇坪田 康佑・池田 智・矢山 壮:訪問看護のハラスメントの実態と対策に関して.日本在宅看護学会第 14 回学術集会(2024 年 11 月 17 日),配布資料.〇三木 明子 監修・著:訪問看護・介護事業所必携! 暴力・ハラスメントの予防と対応,メディカ出版,2019〇日経ヘルスケア著・編:患者トラブル解決マニュアル,日経BP出版センター,2009

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