アセスメントに関する記事

エンバーミングの手順とは? 専門的な処置について解説
エンバーミングの手順とは? 専門的な処置について解説
コラム
2025年11月18日
2025年11月18日

エンバーミングの手順とは? 専門的な処置について解説

エンバーミングには、大きく分けると「防腐」「消毒」「修復・化粧」の3つの目的があります。今回は、これらの目的のために、実際にどのような処置が行われているのか、現役のエンバーマーである牛渡一帆氏に解説していただきます。 エンバーミングの手順 エンバーミングは、体内・体外、両方からのアプローチによってご遺体の状態を安定させ、感染症に対する安全な環境をつくり、お姿を整える処置です。エンバーマーは、こうした処置を通じて、ご遺族が安心して最後のお別れに向き合うことができるよう支援しています。 エンバーミングは、大まかにまとめると次のような手順で行われます。 1. ご遺体の施設への受け入れ、必要書類やお預かり品の確認2. ご遺体体表の汚れの洗浄・消毒および状態確認3. 薬液の調合4. 表情の整え5. 血管の剖出6. 薬液の注入・排血7. 胸水や腹水、体腔内残渣物などの吸引8. 体腔内への薬液充填9. 各所切開部の縫合10. 全身の洗浄・洗髪11. 治療痕や点滴痕などの処置12. 着せ替え13. 表情の再調整・メイク14. ヘアセット15. 布団への安置または納棺 通常、処置に要する時間はおおよそ3時間ですが、ご遺族の要望や故人の体格、身体の状態によっては時間が前後したり、処置内容が追加されたりする場合もあります。広範囲にわたる損壊や欠損などがある場合では、丸一日お預かりすることもあります。 次に、エンバーミングの専門的な処置について詳しく解説していきます。 ご遺体に対する専門的な処置の実際 薬液の注入・排血 通常、生体では体内に取り込まれた酸素や栄養、水分は、動脈血によって全身の組織に運ばれ、各臓器で代謝や処理が行われます。そして、その過程で生じる二酸化炭素や老廃物、余分な水分は静脈血によって回収され、最終的に呼気や便、尿として体外へ排出されます。エンバーミングでは、この脈管の機能を利用し、動脈からの薬液注入と静脈からの血液排出(排血)を行います。 動脈を流れる薬液は、組織に作用し、防腐や消毒、血色をよくするといった効果を与え、静脈に入ると、残留している血液とともに老廃物や余分な水分など、腐敗の元になるものと混ざり合って流れていきます。 しかし、生体と違い代謝機能が失われているご遺体は、自力で不要な物質を体外へ排出することができません。したがって、静脈の一部を開放し、直接体外へ排血する必要があります。 薬液の注入に使用する動脈には、基本的に頸部や上腕、大腿にある血管を選択し、左右いずれか一側、または複数の箇所を切開します。排血には右内頸静脈を使用することが多いです。ただし、血流が滞るような障害(動脈硬化や血栓など)がみられる場合は、該当箇所に皮下注射で薬液を直接注入したり、皮膚に塗布して浸透させたりする方法をとることもあります。 血管の剖出と切開部の縫合 上記で述べた動脈と静脈を取り出すために、血管を覆っている疎性結合組織や脂肪組織を取り除く必要があります。この作業は解剖で行う「剖出」と同じです。該当箇所に2~3cmほどの切開を行い、血管を剖出します。薬液の注入と排血が完了した後は、最終的に切開部を縫合し、テープや修復用ワックスなどで目立たないように隠します。 胸水や腹水、体腔内残渣物などの吸引と薬液充填 さらに、脈管からでは対応しきれない部位にある胸水や腹水、胃の内容物、尿、便などを吸引します。腹部に1cm程度の穴を開けて、体腔内に残った腐敗要因となる物質を除去します。吸引後は、同じ場所から直接薬液を体腔内に充填します。 なお、エンバーミングで使用する薬液には、特殊なケースにも対応できるよう、さまざまな種類があります。状況に応じて、最適な薬液をそのつど選択しています。  組織の保湿や水分補給効果がある薬液 脱水や乾燥を促す薬液 やつれてしまった部位に組織の代わりとして充填する薬液 欠損箇所を補うためのワックス など 最後に、全身を洗浄します。 ここまでの処置は、あくまで「ご遺体の保全」を目的とした、エンバーミングならではの内容ですが、エンバーマーの仕事はそれだけではありません。 着せ替えや表情の再調整、ヘアセット われわれエンバーマーが、ご遺族と接することができる時間はあまり長くはありませんが、その中でできる限り、ご遺族の要望や故人への想い、エンバーミングに期待していることなどを教えていただきます。その情報に基づいて、故人の表情や髪型を整えたり、衣装の着付け、ひげや爪の手入れ、化粧を施したりします。 そのため、エンバーミングのご依頼時には、故人についての具体的な情報のご提供をお願いしています。 エンバーミングの依頼に必要なもの エンバーミングを依頼する際は、「死亡診断書(検案書)のコピー」と「エンバーミング依頼書」(以下、依頼書)の2点が必要です。また、故人に着せたい衣装や生前の写真、場合によっては入れ歯やウィッグ、アクセサリーなどをお預かりすることもあります。 依頼書には、ご遺族の要望を記入する欄があり、表情の整え方、ひげ剃りの要・不要、髪型、服の着せ方、メイクの希望などをご記入いただきます。内容によっては、高度な修復が必要になることもあります。 なお、依頼書には、2親等以内のご遺族による署名が求められます。 ご家族が立ち会えないからこそ依頼書が必要 エンバーミングでは、先述したような外科的な処置に加えて、ホルマリンを始めとする医薬用外劇物の使用を伴います。また、死亡診断書に記載された死因だけでは分からない、何かしらの感染症に故人が罹患している可能性もあります。こういったことを考慮し、エンバーミングは曝露対策や感染防御、故人のプライバシーに最大限配慮された「エンバーミングセンター」という専門の施設で行われます。 またエンバーミングは「日本遺体衛生保全協会」の認定資格を持つ専門のエンバーマーが実施するものであり、原則としてご遺族を含む第三者が立ち会うことはできません。 このような事情から、故人のお姿をご遺族の希望に近づけるためにも、依頼書の質問にお答えいただくようにお願いしています。 最後に エンバーミングの依頼は、特別な場合に限られたものではありません。最近では、「できるだけゆっくりと故人と過ごす時間をとりたい」「冷たくて重たそうなドライアイスをあの人の身体に乗せるのはかわいそう」「病気でやつれた顔を元気な頃のようにきれいにしたい」といった想いから、エンバーミングに価値を感じて依頼されるケースも増えています。 エンバーミングの一番の目的は、故人のお身体の状態を安定させることによって、ご遺族が安心して最後のお別れに向き合えるように時間を確保することだと考えています。そして、「大切な人の死」という現実を受け入れ、気持ちの整理をするための時間と場を提供するグリーフサポートの一環であると考えます。 担当するエンバーマーは、責任をもって、書類や写真を参考にしながら、目の前のお身体に向き合います。最後の時間に、ご家族が「大切な人にどのような姿でいてほしいか」「故人はご家族とどのようなお姿でお別れしたいか」を想像しながら、エンバーミングの処置を行っているのです。  執筆:牛渡 一帆(うしわた かずほ)株式会社ジーエスアイ エンバーミングセンター長一般社団法人日本遺体衛生保全協会(IFSA) 認定エンバーマー、スーパーバイザー一般社団法人グリーフサポート研究所認定 グリーフサポートバディ2011年にIFSAのエンバーマーに認定。2012年に株式会社ジーエスアイに入社。2020年、厚生労働行政推進調査事業費補助金新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業「遺体における新型コロナウイルスの感染性に関する評価研究」に参加。エンバーミングの普及に努める。編集:株式会社照林社

皮膚トラブルのアセスメント 疥癬の見極めと対応【セミナーレポート後編】
皮膚トラブルのアセスメント 疥癬の見極めと対応【セミナーレポート後編】
特集 会員限定
2025年11月11日
2025年11月11日

皮膚トラブルのアセスメント 疥癬の見極めと対応【セミナーレポート後編】

本記事は、医療関係者のスキルアップを目的として医療行為に関する詳細な記述や症例写真等を掲載しています。また、損傷を伴う皮膚画像を含みますので、あらかじめご了承ください。 2025年7月25日、NsPace(ナースペース)はオンラインセミナー「写真で解説!皮膚トラブルのアセスメント」を開催。皮膚科専門医である袋 秀平先生を講師にお招きし、訪問看護の現場で役立つ皮膚トラブルのアセスメントについて学びました。 セミナーレポート後編では、疥癬の基礎知識や対応方法をメインにご紹介します。 ※約70分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)が特に注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 >>前編はこちら皮膚トラブルのアセスメント 視診のコツと真菌症【セミナーレポート前編】>>袋先生の連載記事はこちら【多数の症例写真で解説】皮膚症状シリーズ記事一覧 【講師】袋 秀平 先生日本皮膚科学会 専門医/ふくろ皮膚科クリニック 院長東京医科歯科大学 医学部を卒業。1999 年にふくろ皮膚科クリニックを開業して以降、長らく在宅医療に取り組む。日本褥瘡学会監事(前在宅担当理事)、日本フットケア・足病医学会 在宅医療委員長、神奈川県皮膚科医会 副会長など、さまざまな学会で主要な役職に就き、知識の共有や医療の発展に尽力している。 ステロイド外用薬の基礎知識 ステロイド外用薬(塗り薬)は、抗炎症作用の強さによって5段階に分類されます。 strongest(I群)クロベタゾールプロピオン酸は別格に強い薬なので、やむを得ない場合にだけ使うと考えてください。very strong(II群)ややひどい湿疹によく使われます。顔にはおすすめしません。strong(III群)一般に使われている薬です。薬局で売られている薬の多くはstrongに該当します。moderate(IV群)、weak(V群)通常の湿疹に処方されることが多い薬です。 ステロイド外用薬の副作用として皮膚の菲薄化(皮膚が薄くなること)があるので、長期使用には注意が必要です。 >>関連記事ステロイド外用薬について症例とともに詳しく解説しております。湿疹皮膚炎とは? 種類や症状、改善方法が分かる【多数の症例写真で解説】 疥癬とは 疥癬は、ヒゼンダニが皮膚に寄生することによって発症します。症状の特徴は激しい痒みで、利用者さんが「夜も眠れないくらい痒い」と訴えたら、疥癬を疑う必要があります。なお、痒みの原因はダニに噛まれることではなく、その死骸や卵、糞などにアレルギー反応を起こすことです。 皮膚症状としては、首から下に結節や「疥癬トンネル(以下トンネル)」が見られます。結節にも表面にトンネルがあることが多く、肉眼で観察できるケースも珍しくありません。 >>関連記事疥癬とは? 特徴や症状、感染予防策を正しく知ろう【多数の症例写真で解説】 診断 血液では診断できないので、虫や卵の存在を証明することが必要です。在宅では、病変部の組織を眼科用のハサミをはじめとした器具で採取し、持ち帰って顕微鏡で検査する方法が一般的。また最近では、ダーモスコピーという機材を使って証明するのも有効な手段とされています。 写真(左):結節にみられた疥癬トンネル(ダーモスコピーにて撮影)写真(右):このトンネルから検出したヒゼンダニの虫体と虫卵ふくろ皮膚科クリニック症例 上の写真は、ダーモスコピーでトンネルを見つけ、その部分を顕微鏡で見た様子です。産みたての卵は無構造に見えますが、時間が経ったものは中に虫の姿が見えます。 治療 かつて、疥癬の治療にはγ-BHCやイオウの入浴剤が使われてきました。しかし、γ-BHC は毒性の強さから2010年の法律改正で人体への使用は禁止に。イオウ入浴剤も現在は発売中止となっています。またクロタミトンも、かぶれのリスクがあることから、最近は以前ほど使われなくなりました。 そんな中、2006年には内服薬「イベルメクチン」が、2014年には外用薬「フェノトリン」が使えるようになり、疥癬の治療は格段に進歩しています。 イベルメクチン1日1回、体重に合わせた量を空腹時に内服します。1週間後に2回目の内服を行いますが、それだけでは再発例が非常に多いので、最低でも3回の内服がおすすめです。フェノトリンフェノトリンはイベルメクチンを投与できない生後2ヵ月未満の乳児や妊婦、授乳婦にも使用できるので、困ったときは選択するとよいでしょう。ただし、イベルメクチンとフェノトリンの併用は、角化型疥癬にのみに許されている地域もあります。保険適用の可否と併せて確認が必要です。 角化型疥癬とは 角化型疥癬とは重症型の疥癬で、名前のとおり角化が特徴です。通常疥癬との違いは、寄生された宿主人間の免疫力に影響を受ける点。同じヒゼンダニによる感染ですが、免疫力が低いと重症化します。 角化型疥癬になると、手や足などの摩擦が生じやすい箇所に、灰白色や黄白色の厚い鱗屑が付着します。通常疥癬は首から下にのみ発症するのに対し、角化型疥癬は頭や耳にも見られます。爪に入ると、爪が肥厚、混濁して崩壊する場合もあり、爪白癬との鑑別が必要です。 ふくろ皮膚科クリニック症例 上記のa)とb)は同じ方で、内科疾患による免疫低下が見られます。顔や頭、耳もガサガサしている状態です。c)の方は湿疹と誤診をされ、ステロイド外用が長期間行われていました。 ふくろ皮膚科クリニック症例 上の写真は、c)の方の手のひらの角化した部分を取り顕微鏡で見た様子。1つの顕微鏡の視野にこれほど多くの虫や卵が見つかるのは、重症型だけです。 なお角化型疥癬では、全身性疾患や誤ったステロイド外用の継続によって免疫力の低下が起きているため、虫が爆発的に増加します。一方で、免疫低下によってアレルギーが起きにくくなり、痒みを感じにくい場合もあります。早期発見に努めたい疾患です。 現場で実践したい対策 ヒゼンダニは、人の皮膚から離れると2〜3時間で死滅し、室温でも48時間を超えて生存できないとされています。50℃では10分で完全に死滅するため、洗濯に熱湯を用いる必要はありません。 こうした性質をふまえ、疥癬の感染予防には、日本皮膚科学会が示すガイドラインに沿った対応が推奨されています。介護する家族や介護スタッフが疥癬を発症し、本人が気づかないまま感染源となるケースもあるため、周囲も含めた感染リスクに注意し、適切な対策を行う必要があります。 角化型疥癬の場合は厳重な対応が求められますが、ガイドラインにおいて通常疥癬では以下3点の対策が基本とされています。 1. 手洗いを励行する2. 診察室や検査室ではディスポーザブルシーツを使用し、患者ごとに必ず交換する3. 洗濯物を運ぶ際は落屑が飛び散らないようポリ袋などに入れる 雑魚寝状態であれば、同居者や友人などの予防治療を検討しますが、個室隔離や殺虫剤散布は不要です。 疥癬が発生した際に慌てることのないよう、以上の内容をふまえ、施設であらかじめ対策マニュアルを作成しておくことをおすすめします。 * * * 今回ご紹介した内容は、NsPace(ナースペース)に掲載されている私の連載記事でも触れています。併せてご覧いただき、日々のアセスメントにお役立ていただければ幸いです。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア 【参考】〇日本皮膚科学会.疥癬診療ガイドライン策定委員会:疥癬診療ガイドライン(第3版),日皮会誌,125(11), 2023-2048, 2015 

皮膚トラブルのアセスメント 視診のコツと真菌症【セミナーレポート前編】
皮膚トラブルのアセスメント 視診のコツと真菌症【セミナーレポート前編】
特集 会員限定
2025年11月4日
2025年11月4日

皮膚トラブルのアセスメント 視診のコツと真菌症【セミナーレポート前編】

本記事は、医療関係者のスキルアップを目的として医療行為に関する詳細な記述や症例写真等を掲載しています。また、損傷を伴う皮膚画像を含みますので、あらかじめご了承ください。 2025年7月25日に開催したNsPace(ナースペース)オンラインセミナーのテーマは、皮膚トラブルのアセスメント。25年以上にわたり在宅医療に取り組む皮膚科専門医である袋 秀平先生に、訪問看護師が知っておきたい皮膚トラブルのアセスメントに必要な知識を教えていただきました。 セミナーレポート前編では、皮膚症状の見方や真菌症(白癬)の情報をまとめます。 ※約70分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)が特に注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】袋 秀平 先生日本皮膚科学会 専門医/ふくろ皮膚科クリニック 院長東京医科歯科大学 医学部を卒業。1999年にふくろ皮膚科クリニックを開業して以降、長らく在宅医療に取り組む。日本褥瘡学会 監事(前在宅担当理事)、日本フットケア・足病医学会 在宅医療委員長、神奈川県皮膚科医会 副会長など、さまざまな学会で主要な役職に就き、知識の共有や医療の発展に尽力している。 皮膚症状を「みる」 「スナップ・ダイアグノーシス(一発診断、一瞥診断)」という言葉がありますが、皮膚科においては「目でみる」こと、特に「形態(皮膚科においては発疹)覚」と「色覚」がとても重要です。 今回は、実践で役立てやすいようわかりやすさを重視し、 「皮膚面にあるもの」「皮膚面より隆起しているもの」「皮膚面より陥凹しているもの」「発疹の上に乗っているもの」の順に分類して、発疹と色の判別方法を見ていきます。 >>関連記事皮膚症状の見方や医師への報告のしかたについては、以下の記事もご覧ください。訪問看護で皮疹を発見 もう迷わない医師への皮膚症状の伝え方【多数の症例写真で解説】 (1)皮膚面にあるもの 皮膚面にあるものとは、色の変化を指します。代表的なものとして 血管拡張 紅斑 紫斑 白斑 色素斑 などがあります。病変部の色を正しく識別することで、どのような病態を反映しているかを判断し、適切な対処方法を明確にしていきます。色の変化で重要なのは、「紅斑」と「紫斑」でしょう。 写真(左)紅斑:圧迫にて色が消退する 写真(右)紫斑:圧迫しても色が消退しないふくろ皮膚科クリニック症例 ガラスやアクリルなどの透明な板で病変部を圧迫し、色が消える、または薄くなれば紅斑。変化しなければ紫斑です。紅斑は真皮浅層で血管が拡張したり、充血したりしているので、圧迫すると一時的に血管から血液が圧排されて色が消退します。 一方の紫斑は、真皮または皮下組織に出血しているため、圧迫しても色は消えません。紫斑であれば血管の障害や血液に問題があることが推測されます。皮疹を区別することで、病態も想像できることになります。 (2)皮膚面より隆起しているもの 皮膚面より隆起しているものとしては以下のようなものが挙げられます。 丘疹 結節 水疱 膿疱 嚢疱 膨疹 写真(左):丘疹 写真(右):結節ふくろ皮膚科クリニック症例 炎症をはじめとしたトラブルによって細胞や液性成分が増加し、体積が増えて皮膚が盛り上がったものは「丘疹」です。直径1センチを超える丘疹は「結節」、さらに大きいものは「腫瘤」と呼ばれ、腫瘤の多くは腫瘍性です。 写真(左・中央):水疱 写真(右):膿疱ふくろ皮膚科クリニック症例 内部に液体成分が貯留しているものは「水疱」か「膿疱」です。写真左は単純ヘルペスで、中央は水疱性類天疱瘡(すいほうせいるいてんぽうそう)。右のように、内容液に好中球が集まってきたものは膿疱で、細菌がいない無菌性膿疱の場合もあります。 こちらの写真は、患者さんが「水疱ができました」と言って見せてくれたものです。しかし実際には水が溜まっておらず、この場合は水疱ではなく結節と判断することができます。 膨疹(ぼうしん)ふくろ皮膚科クリニック症例 次に、皮膚が盛り上がりとして見られるのが「膨疹」です。主に真皮に見られる一過性の浮腫であり、患者さんが「水疱」と表現することも少なくありません。ただし患者さんは皮疹の種類を区別できないため、訴えをそのまま鵜呑みにせず、観察によって正しく判断することが重要です。膨疹は多くの場合、蕁麻疹の際に認められる症状です。 (3)皮膚面より陥凹しているもの 皮膚面より陥凹しているものとしては、 萎縮 びらん 潰瘍 亀裂 などが挙げられます。 ふくろ皮膚科クリニック症例 このうち「びらん(写真左)」は表皮が欠損している状態を指し、欠損がさらに真皮まで及ぶ場合を「潰瘍(写真右)」と呼びます。 (4)発疹の上に乗っているもの 次に発疹の上に乗っているものです。主に 鱗屑(りんせつ) 痂皮(かひ) 浸軟 が挙げられます。 ふくろ皮膚科クリニック症例 鱗屑とは、角化あるいは不全角化した角層が皮膚表面に付着している状態を指します。これが皮膚から離れ、剥がれ落ちたものを「落屑(らくせつ)」と呼びます。 一般に「フケ」といわれるのは、頭部の鱗屑や落屑にあたります。また「垢」は、落屑に皮脂などの分泌物が混じったものと定義されています。これらは区別して理解する必要があります。 ふくろ皮膚科クリニック症例 痂皮(写真左)は、一般に「かさぶた」と呼ばれるものです。分泌物が乾燥し、角質とともに皮膚表面に付着している状態を指します。つまり、痂皮が形成されているということは、皮膚表面が障害され、滲出液や出血が生じていることを意味します。なお、写真右のように血液が固まって形成されたものは「血痂(けっか)」といいます。 ふくろ皮膚科クリニック症例 表皮と角質の水分量が増加してふやけて見える状態は「浸軟」といいます。左の写真は、鱗屑の解説で紹介した白癬の患者さんのもので、中央部が浸軟しています。 また、中央の写真のように、褥瘡の潰瘍部の周囲が浸軟することもよくあり、これは TIME コンセプトの Mで問題となります。滲出液の状態が適切でなく、過湿潤の状態にあると判断されます。 右の写真は、足底のウイルス性疣贅(いわゆるイボ)にサリチル酸ワセリンを貼った後の状態です。 真菌症(白癬)とは 真菌症は、文字どおり真菌(カビ)が原因で起きる疾患です。真皮までの炎症にとどまる「浅在性真菌症」と、より深い部分に達する「深在性真菌症」とがありますが、今回は白癬による浅在性真菌症についてお話しします。 >>関連記事真菌症とは? フットケアにも活かせる知識【多数の症例写真で解説】 診断と治療 真菌症の診断は、まず視診で疑い、ついで病変部に真菌の存在を証明することが重要です。 これによって初めて真菌症と確定診断されます。 治療には抗真菌薬を用いますが、診断確定前に使用するのは避けていただきたいです。抗真菌薬で改善しなかった場合に、「そもそも真菌がいなかったのか」「薬が中途半端に効いているのか」などの判断が困難になるためです。 過去には、褥瘡の表面に白い膜が出現し、真菌を検査することなく「真菌が原因だろう」と考え抗真菌薬を外用した例が報告されています。しかし、これは正しい診断・治療のアプローチとはいえません。 >>関連記事「診断を確定してから抗真菌薬を使用する」という考え方は、失禁関連皮膚炎(IAD)の対応にも共通しています。治療指針を示したアルゴリズムは以下の記事で確認できますので併せてご覧ください。IAD(失禁関連皮膚炎)とは? 鑑別が必要な疾患も紹介【多数の症例写真で解説】 部位別の特徴や治療法 【足白癬】 ふくろ皮膚科クリニック症例 上の写真は、足白癬の典型例です。指の間の「趾間型」、水疱が目立つ「水疱型」、角化がメインとなる「角化型」に分類できます。 検査では、病変部の組織を顕微鏡で確認します。写真の赤丸で囲われた箇所を採取すると、真菌が検出されやすいです。 治療では、病変部だけでなく両足全体に外用を行うのが原則。外用薬の量は、世界標準の「フィンガー・ティップ・ユニット(FTU)」(大人の手のひら2枚分の面積に対し人差し指の末節分の長さをチューブから押し出した外用薬(0.5グラムに相当)を使用)に基づいて調整してください。なお、FTUの概念は、ステロイドをはじめとした他の外用薬にも適用できます。 【体部白癬】 体部白癬は境界鮮明・堤防状隆起・中心治癒傾向という特徴を持つふくろ皮膚科クリニック症例 足(足白癬)、頭(頭部白癬)、手(手白癬)、鼡径部(股部白癬)にできる白癬はそれぞれ固有の名前がありますが、それ以外にできた場合は一般に体部白癬としてまとめてしまいます。体部白癬では、白癬菌は周囲に向かって皮膚を侵していきます。 写真にあるとおり、辺縁部の炎症が強く、堤防状に隆起しており、その境界は明瞭。中心部は治ったように見えます。そのため、「境界鮮明」「堤防状隆起」「中心治癒傾向」という3つの言葉で特徴を表現します。 【爪白癬】 足爪白癬のさまざまな症状「混濁・肥厚・崩壊」ふくろ皮膚科クリニック症例 爪白癬には、爪が濁る「混濁」、厚くなる「肥厚」、ボロボロになる「崩壊」という特徴があります。これら3つの所見がそろっていれば、爪白癬の可能性が高いといえるでしょう。 エフィナコナゾール外用による足爪白癬の治療経過(70代男性)ふくろ皮膚科クリニック症例 治療には外用薬と内服薬が用いられます。上の写真は、外用薬(エフィナコナゾール)で爪白癬を治療した例です。根元から新しい爪に生え変わり、この方の場合は5ヵ月ぐらいでかなり良くなりました。しかし、外用薬の完全治癒率は20%以下で、継続できる状況であれば1年を目安に使うことになっています。 内服薬は外用薬に比べて治癒率は高いですが、肝機能や腎機能の数値に異常が出たり、併用薬に制限があったりします。そのため、使用の際は血液検査を定期的に行わなければならず、在宅ではハードルが高いかもしれません。しかし、爪白癬の放置は感染の原因になるだけでなく、転倒リスクも高まることが証明されており、治せるうちに治しておきたい疾患です。 次回はステロイド外用薬の基礎知識や疥癬の治療法・対処法について解説します。 >>後編はこちら皮膚トラブルのアセスメント 疥癬の見極めと対応【セミナーレポート後編】>>袋先生の連載記事はこちら【多数の症例写真で解説】皮膚症状シリーズ記事一覧 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア 【参考文献】〇一般社団法人 日本老年医学会. 公益社団法人 全国老人保健施設協会:介護施設内での転倒に関するステートメント(発行日2021年6月11日)

【ALS難病看護事例】長期の経過を支える難しさ 変化に応じたケアの試行錯誤
【ALS難病看護事例】長期の経過を支える難しさ 変化に応じたケアの試行錯誤
特集 会員限定
2025年10月28日
2025年10月28日

【ALS難病看護事例】長期の経過を支える難しさ 変化に応じたケアの試行錯誤

本記事は、医療関係者のスキルアップを目的として医療行為に関する詳細な記述や症例を掲載しています。 筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)をテーマに、訪問看護師としての取り組みをご紹介します。ALSは突然発症し、残酷な内容の告知をされ「どうしたらよいのか分からない」状況のまま、急な意思決定を迫られることが少なくありません。そのような状況の療養者に訪問看護師としてどのようにかかわればよいのか、日々悩まれている方も多いのではないでしょうか。 本記事では、初回訪問時からの難病看護師の専門的な視点やアセスメント、本人やご家族への具体的な対応についてご紹介します。訪問看護の現場で役立てていただければ幸いです。 筋萎縮性側索硬化症(ALS)とは ALSは、運動ニューロンが障害を受け、手足や舌などがうまく動かせなくなり、筋肉が痩せていく病気です。個人差はありますが、徐々に症状が進行し、ADL(activities of daily living:日常生活動作)の低下や嚥下困難などの症状が顕著になっていきます。 そうなると、今までの日常生活が困難となり、諦めや選択を迫られます。また、症状の進行に伴い、情動制止困難な症状が出現することがあり、介護者やかかわる多職種は精神的に追い詰められ、サービスの継続が困難になる場合もあります。 事例紹介:Aさん(60代、男性) 主介護者は妻で、中学生の息子との3人家族です。Aさんは、就労中の電話対応で呂律が回っていないことを指摘され、医療機関を受診しALSと診断されました。セカンドオピニオンを受けているうちに症状が進行し、経口摂取が困難となり、脱水症状で緊急搬送されました。その後、胃瘻を造設され、退院時に訪問看護を紹介されました。以下は、初回訪問時の状況です。Aさんご夫婦は、当初、訪問看護の利用には消極的でした。  【初回訪問時の状況】Aさん(椅子に座り筆談):「喉は開けるつもりはないので、訪問看護はいらないです」妻(落ち着いた様子):「主人もいらないと言っていますし、まだ大丈夫です」「なんとか工夫して食べていますし」「最近、座ってでないと眠りにくいようですけど」訪問看護師:「そうなんですね」「あまり睡眠がとれていないですかね。頭痛など大丈夫でしょうか」「胃瘻も気になりますし、2週間に1回だけでもお顔を見せていただけませんか」「少し飲み込みづらさがあると思いますので、リハビリをしてみるのはいかがでしょうか」「次回の病院受診時にご一緒させていただいてよろしいでしょうか。お願いします」「何か困ったことがあればいつでもご連絡くださいね」Aさん・妻:「まあ……そこまで言うなら。そのくらいなら、いいかな」 初回訪問:難病看護師としての視点 (1)身体面・精神面のアセスメント 【身体面】球麻痺が進行し、唾液が流れるため、タオルを常に噛んでいる状態でした。誤嚥のリスクが非常に高いと考え、誤嚥による肺副雑音の出現、SpO2の低下を確認します。夜間も座位でないと睡眠がとれないことから、呼吸筋麻痺の進行が想定され、CO2ナルコーシスの症状も確認します。 【精神面】診断されて間もない時期であり、詳しく状況を理解されておらず、病気の進行に対する理解や気持ちが追いついていないと考えられます。ご夫婦に危機感はないように見られましたが、初回訪問であり、装っておられる可能性もあります。 (2)訪問体制のアセスメント 最初は少ない訪問回数の提案でつながりを確保し、徐々に訪問サービスに慣れていただきます。また、初期は特に症状の改善に期待を持たれているため、訪問リハビリテーション(以下、リハビリ)のほうが受け入れもよく、スムーズに開始できる場合が多いです。その場合はリハビリから開始し、スタッフと情報共有しながら進行状況に応じ看護師の訪問を開始します。 初回のアセスメントで「リスクが高い状態である」と考えられる場合は、必ず緊急体制の必要性を説明し、早期に契約します。また、緊急訪問時に重要となる吸引器はすぐに準備し、自治体が行う日常生活用具給付等事業の利用申請を促します。吸引器は、制度の申請から実際に手元に届くまでに数ヵ月かかる場合が多いです。そのため、まずは訪問看護ステーションの吸引器を持参するか、レンタルするなどして緊急時に備えておきます。 (3)意思決定支援のためのアセスメント Aさんが、医師からの説明内容や自身で検索された情報から、どの程度の知識があり、どのように理解されているのか、また何を大切にされており、何が自尊心の維持につながるのかを情報収集します。 早い段階から保健師やケアマネジャーらと多職種カンファレンスを行い、本人と妻の「今の」意思を共有します。意思は変化しますので、意思確認に必要な情報を継続的に共有することも大切です。また、同じ疾患の方の情報も伝え、今後起こり得る状況を想定できるように、精神状況に配慮しながら意思決定支援につなげていきます。  ワンポイントアドバイス●意思決定支援はていねいに進めるAさんのように進行が早く、気持ちの準備ができていない場合は、タイミングを見て、ていねいに時間をかけた意思決定支援を進めることが大切です。●焦ってリスクを伝えない関係性ができていない状態で、看護師が焦ってリスクを伝えようとすると、受け入れができずに怒りを表出される可能性があります。その結果、訪問を拒否されてしまうこともあるため、注意が必要です。●初期段階の連携が重要診断後の初期には、大学病院や総合病院の主治医から訪問看護指示書を受けるケースが多く、連携が取りにくいことがあります。その場合には、FAXで状態報告を行うのもよいですが、可能な限り受診に同行することをおすすめします。病院との連携がスムーズになるだけでなく、診察を待つ間に本人や介護者とゆっくり話すことができるので、信頼関係の構築にもつながります。 家族(介護者)への支援 Aさんは呼吸状態が悪化し、緊急入院となりました。そして、ご家族で相談され、気管切開・気管食道分離術を受けました。その後、妻から「病院の先生に施設をすすめられましたが、私は自宅で介護をしたいです。どうしたらよいでしょうか」と泣きながら連絡がありました。 妻には、自宅での介護生活をイメージできるように24時間必要なケアについて、「利用できるサービスや制度」「機器を利用することにより負担が軽減できるケア」「妻が行う必要があるケア」の3つに分けて具体的に説明しました(表1)。サービスを利用していない時間は、基本的に介護者がケアを行います。訪問看護師は24時間体制で支えますが、「介護者は覚えることが多く、負担が大きくなる可能性がある」ことを伝え、事前に介護者の意思を確認しておくことも重要です。 希望があれば実際にご自宅で介護されているお宅に一緒にうかがいます。また、病院には、妻の意思を伝え、退院前の指導項目やカンファレンスに参加すべきサービス事業所を提案します。 表1 妻に伝えた24時間必要なケアの内容 利用できるサービスや制度・ 訪問看護・訪問リハビリ・ 訪問診療・ 訪問介護(介護ヘルパー・重度障害ヘルパー)・ 訪問入浴・ 療養通所介護(人工呼吸器装着状態でも利用可能なデイサービス)・ 日常生活用具給付事業(吸引器、パルスオキシメータなどの支給を受けることができる)機器を利用することにより負担が軽減できるケア・ 福祉用具のレンタルや購入:移動や体位変換、排泄、入浴時などの介護負担を軽減させる→福祉用具:介護ベッド、マットレス、クッション、ポータブルトイレ、手すり、車椅子、シャワーチェアー、バスボードなど在宅人工呼吸療法関連機器[強力な助っ人]の一例●唾液吸引チューブ(メラ唾液持続吸引チューブ:泉工医科工業)●喀痰吸引器(アモレSU1:トクソー技研株式会社)●気道粘液除去装置(カフアシストE70:株式会社フィリップス・ジャパン)妻が行う必要があるケア・ 呼吸器管理(画面表示内容の理解、アラーム対応、回路・加湿器対応など)・ 気管カニューレの管理(吸引)・ 胃瘻管理(注入)・ 体位変換・ 療養者のメンタルケア など 本人が抱える苦痛への対応 Aさんは、症状の進行に伴う喪失体験を繰り返すたびに、妻に厳しく当たるようになりました。「妻だから、介護はおまえの仕事」と介護サービスを拒否し、妻を頻回に呼び出します。妻は、どのように夫にかかわればよいか悩み、息子と過ごす時間もとれなくなったことで精神的に追い込まれていきました。 妻には1人で悩まないように伝え、Aさんには「望まれる在宅生活を続けていくなら、奥様の協力が必要ですが、このままでは奥様は体調を壊してしまいます。ご協力をお願いします」と伝えました。Aさんは怒りを表出し、拒否されました。 情動制止困難への対応 ALSでは「情動静止困難」と呼ばれる、こだわりが強くなる、怒りが強く継続する、思いやりや気遣いができなくなる、といった自身の元来の性格では考えられないような症状を認めることがあります。 情動制止困難の症状が出現すると、主介護者のご家族はもちろん、多職種のチームメンバーが精神的に追い込まれ、在宅生活が継続できなくなる可能性があります。そのため、難病看護師は、症状が出現するとチームの中心となり、症状の説明やかかわり方を検討し、伝えていく役割を担います。以下は、かかわり方の具体的な例です。  (1)身体面のアセスメントを行い、さまざまな症状への対応を工夫し、苦痛の除去を検討する【さまざまな症状と対応例】● 四肢と腰部に疼痛がある:体位の工夫(クッションやマットレスなどの福祉用具の利用)、リハビリテーション、マッサージ、鎮痛薬の開始● 全身掻痒感がある:訪問入浴の導入、清拭の強化(ハッカ水を利用)、軟膏・アレルギー薬の開始● 不眠、不安が見られる:例えば、車椅子に移乗し外を見る、といったような気分転換を取り入れる、会話・傾聴の時間をつくる、パソコンによる動画視聴、抗うつ薬や睡眠導入薬の開始(2)本人に「なぜそのように感じたのか」、「なぜそのような態度をとったのか」を問う(3)本人の身体状況や精神状況のタイミングを見て、現状を説明する(説明中に本人の怒りが表現された場合も冷静に説明する。落ち着くまで、説明の中断もあり得る)(4)本人の希望を実現するための手段を提案し、本人と一緒に考え選択する(できること、できないことを分かりやすく伝える。落ち着くまで、説明の中断もあり得る)このほかに、看護師や介護ヘルパーが精神的苦を受けないように、事業所ができる対応もあります。例えば、1人で訪問せずに2人体制にしたり(複数名訪問看護:看護補助者や介護ヘルパーが同行する)、特定のスタッフをターゲットとして攻撃するような場合は、そのスタッフは無理をせず訪問を控えるといった方法があります。 妻に対しては、時間をかけて思いを何度も傾聴し、いつでも相談できる体制をつくりました。追い込まれて精神的に耐えられないときには、外出し距離を置くことを提案し、サービスの調整を行いました。レスパイト入院や通所サービスは、Aさんの拒否が特に強かったので、制度を利用することで訪問看護や訪問リハビリテーションの回数を増やし、何とか妻のレスパイトができるようになりました。 ワンポイントアドバイス●レスパイト:地域の資源を知り、組み合わせて利用する・地域の病院を利用したレスパイト入院・在宅人工呼吸器使用患者支援事業 ・1週間に5回、年間260回を限度に利用できる ・1日に複数の訪問看護ステーションを利用できる など・重症障害者医療的ケア支援事業 ・各市町村が独自に行う支援で、医療的ケアを行う看護師を派遣するもの ・月4時間を限度とし、自己負担分は支援に要する費用の1割(原則)・療養通所介護・ショートステイ地域には、上記以外にもさまざまな制度やサービスが整備されています。ご家族(介護者)の状況に応じてレスパイトを利用し、長期にわたる療養を支え続けられるようサポートできるとよいでしょう。 本人・介護者と向き合い解決策を探し続ける 自尊心の維持につながるケア 本人やご家族が表出した感情を受け止め、それに向き合うことが大切です。問題に対して「何かできることはないか」をあきらめずに探し続ける姿勢が求められます。訪問看護師は、本人やご家族の精神的苦痛やスピリチュアルペインを一番身近に感じ、理解し、共感できる存在だと感じています。 Aさんは、その後、長い在宅療養生活を経て症状が進行し、意思疎通が困難になりました。しかし、これまでの経験から、本人の機嫌や好みなどをある程度想像することができました。脈の速度や顔色、呼吸回数などを手がかりに、妻と「今、笑っているね」「機嫌が悪そうですね」とAさんの気持ちを読み取りながらケアを行うことで、妻のメンタルケアにもつながりました。 徐々に妻は、花見に出かけたり、喫茶店で過ごしたり、ケアグッズを工夫したりと、生活の中に楽しみを取り入れる余裕ができました。そんななか、難病看護師から妻に、これまでの介護経験を活かせる資格の取得を提案しました。 こうしたかかわりを続けていくなかで、妻は「主人がリビングで寝ている。この生活がうちの家族の形です」「自分のことはあきらめていましたが、今は介護の仕事が気分転換になっています」と笑顔で話されるようになりました。 介護者の精神面・社会面の支援も必要 進行期における精神的に不安定で過酷な状況をご家族とともに乗り越えてきた経験が、信頼関係の構築につながると考えます。本人の希望に寄り添い、毎日のケアに工夫を取り入れ、「楽しみながら」支援することで、つらいなかでも笑顔のあふれる在宅療養生活が継続できます。 長時間介護する妻が、介護から離れて社会参加できる環境を整えることは、妻自身が人生を歩むための大切な時間をつくり、生きがいにつながっていると考えます。療養者への支援はもちろん重要ですが、療養者を支える介護者の支援も大切です。制度を最大限に利用し、療養者の負担を軽減すると同時に、介護者にも自分自身の時間や場を提供する支援が求められます。 また、悩み試行錯誤しながらの「難病ケア」は訪問看護師やリハビリスタッフの「やりがい」「自信」にもつながっていると感じています。  本事例は、本人の承諾を得た上で掲載しています。個人が特定されないよう、必要な情報を匿名化し、適切に調整を行っています。本内容は教育・研究を目的としており、特定の診療や治療を推奨するものではありません。   執筆:西尾 まり子地域ケアステーション・八千代 訪問看護ステーション 管理者近畿大学病院 難病患者在宅医療支援センター所属日本難病看護学会認定・難病看護師、在宅ケア認定看護師訪問看護師として神経難病療養者の在宅支援に携わりながら、相談・指導を行う。在宅医療現場での特定行為実践にも力を入れている。編集:株式会社照林社 【参考文献】○ 荻野美恵子,小林庸子,早乙女貴子,他編:神経疾患の緩和ケア.南山堂,東京,2019.○ 髙橋一司医学監修,中山優季,原口道子,松田千春編著:神経難病の病態・ケア・支援がトータルにわかる.照林社,東京,2024.

腹膜透析ケアの基本 病院と在宅における看護師の役割とは
腹膜透析ケアの基本 病院と在宅における看護師の役割とは
特集
2025年10月21日
2025年10月21日

腹膜透析ケアの基本 病院と在宅における看護師の役割とは

腎代替療法の1つである腹膜透析(Peritoneal Dialysis:PD)は、在宅で治療を続けられる利点がありますが、適切な管理が必要です。患者さんが安全なPD療法を継続するためには、特に訪問看護師の支援が不可欠です。今回は、PDの基礎知識を概観した上で、病院および在宅における看護師の役割と、患者さんの支援に必要なケアの基本スキルについて解説します。 腹膜透析(PD)の基礎知識 腹膜透析(PD)は、患者さんの腹腔内に留置したカテーテルを通じて透析液を注入し、腹膜を透析膜として利用する治療法です(図1)。体液過剰や老廃物・電解質異常を補正するため、透析液の注液と排液を1日数回、毎日繰り返す必要があります。 図1 PDのしくみ 腹腔内に透析液を注入し、一定時間ためておくと、腹膜の毛細血管を介して老廃物や過剰な水分が透析液へ移動する。十分移動した時点で、透析液を体外に排出することで、血液がきれいになる。 PDには患者さん自身や介助者が注液と排液の操作を行う連続携行式腹膜透析(ContInuous Ambulatory Peritoneal Dialysis:CAPD)と、主に就寝中に機器によって自動的に注液と排液を行う自動腹膜透析(Automated Peritoneal Dialysis:APD)があります。患者さんの希望や生活リズムに合わせ、高い自由度で治療を計画できるのもPD療法の特徴です。いずれの治療法もカテーテル管理や体液異常、感染症(特に腹膜炎や出口部感染、皮下トンネル感染)の予防および早期発見が重要で、継続的な観察と異常の早期対応が求められます。 これらを的確に行うためには、看護師による継続的な関わりが欠かせません。ここからは、病院看護師と訪問看護師、それぞれの役割についてみていきましょう。 病院看護師の役割 病院看護師は、PD療法を選択した患者さんに、治療の導入前から計画的に、手技指導のみならず、自宅環境や在宅療養に必要な社会資源を含めた支援の必要性を聞き取っていきます。カテーテル挿入後は、カテーテルケアや入浴時の注意点など、日常生活の指導を継続するとともに、頻度が高く緊急性の高い合併症を早期に発見できるよう多岐にわたる指導を行います。導入期に特に重要な支援は以下のとおりです。  自己管理支援患者さんが手技を安全に行えるまで、無菌的操作や透析液の取り扱い、記録方法を繰り返し指導します。感染予防教育腹膜炎(排液混濁、腹痛など)や出口部感染、皮下トンネル感染(出口部や皮下トンネル部の発赤、腫脹、圧痛、膿性浸出液など)の早期発見のため観察と指導を行います。多職種連携医師や栄養士、薬剤師、訪問看護師、ソーシャルワーカーなど多職種と連携し、患者さんの生活全体を見据えた支援体制を構築します。 訪問看護師の役割 在宅でPD療養を開始した後、訪問看護師が担う役割はより実践的かつ包括的になります。 日常療養支援生活環境を確認し、PD療法に適した清潔な環境が確保されているか、出口部ケアがなされているか、注排液の量・時間に問題がないか、体重や血圧が安定しているかなどを評価します。異常の早期発見排液混濁(腹膜炎)、出口部や皮下トンネル部の発赤、腫脹、圧痛、膿性浸出液(出口部感染、皮下トンネル感染)など感染症の兆候、さらに体重や血圧の変化から体液過剰の兆候を早期に発見します。再教育・モチベーション維持長期にわたるPD療法において、患者さんの不安や手技の質の低下を予防するため、継続的な情報共有や手技指導のために声かけを行うことも必要です。病院看護師・医師との連携異常発生の際に速やかに情報を共有し対応することで、病状の悪化を未然に防ぎ、入院を回避することができます。 ケアの基本スキルと意識すべき視点 病院看護師・訪問看護師ともに、基本スキルは共通しています。 無菌的操作の徹底無菌状態でチューブの接合や切り離しができる装置も普及してきました。しかし、停電や災害時など器具が使えない状況でのPD療法を想定すると、安全なPDのためのバッグ交換時の無菌的操作は基本スキルといえます。日々の観察・アセスメント能力体液管理では、体重や浮腫、血圧などの経過を観察・評価して、体液過剰を早期に発見します。カテーテル出口部や皮下トンネル部の観察では発赤、腫脹、圧痛や膿性浸出液など感染症の早期発見に努めます。排液は白濁や血性腹水といった腹膜炎の兆候を見逃さないことが重要です。患者さんとの信頼関係の構築在宅治療の質の向上のため、患者さんがPD療法に対し日々感じていることを率直に語ってもらう必要があります。互いに何でも相談できる信頼関係を早期に構築することも基本スキルの1つといえます。説明力異常を早期発見した際に、何が起こっているかを患者さんに説明し、その状況を主治医に報告するための説明力も重要です。ただし、近年では言葉やテキストによる情報共有以外に、画像共有が可能な連携アプリケーションを利用したスムーズな情報共有も可能となっています。教育スキル在宅で手技指導や食事指導を繰り返すことで、患者さんの清潔操作や食事管理が改善し、PD療法が安定しやすくなります。 両者に共通する意識すべき視点は、「患者さんが安定した生活やPD療法を継続できること」を最大の目標にすることです。ケアの場面では常に“患者さん中心”の視点を最優先にしてください。PD患者さんの治療の質のみならず生活の質の向上のために、単なる技術的支援にとどまらず、心理的・社会的支援も含めた包括的な支援を心がけるようにしましょう。 おわりに PDは、患者さんの生活の質を保ちながら実施できる優れた透析治療である一方で、継続には一定の在宅管理と専門的支援が必要です。訪問看護師は専門性を発揮しつつ、在宅治療であるPD療法を行う患者さんに最も身近なところで寄り添うことができる数少ない存在です。 さらに進行する高齢化時代に、在宅で専門的知識を持ち、生活者としてのPD患者さんに伴走できる訪問看護師の役割はますます重要になります。患者さんと訪問看護師、そして病院スタッフの円滑な情報共有にて、患者さん一人ひとりに合わせた支援を実践することで、素晴らしいPD療養生活がかなうと思います。 本記事では、PD療法の支援に活用できる「訪問看護師用チェックリスト」をご用意しました。各チェック項目に基づいて、評価や対応内容を記録できるようになっています。日々のケアにぜひお役立てください。>>訪問看護師用チェックリスト ~在宅腹膜透析の安定継続のために~  執筆:上村 太朗松山赤十字病院 腎臓内科 部長2001年 愛媛大学医学部卒業関西圏の市中基幹病院で研修2005年 松山赤十字病院入職2016年 松山赤十字病院腎臓内科部長前任部長・原田篤実より受け継いだラストマンシップを診療の軸に、地域と連携し、すべての腎臓病患者さんが困らない医療を心がけています。編集:株式会社照林社 【参考文献】○日本透析医学会学術委員会腹膜透析ガイドライン改訂ワーキンググループ 編:腹膜透析ガイドライン2019.医学図書出版,東京,2019.

ALSの4大陰性徴候を活用して日常生活を豊かにしよう!
ALSの4大陰性徴候を活用して日常生活を豊かにしよう!
コラム
2025年10月14日
2025年10月14日

ALSの4大陰性徴候を活用して日常生活を豊かにしよう!

ALSを発症して10年、現役医師・梶浦先生によるコラム連載、第2弾。今回は、ALSの重要なポイントである「4大陰性徴候」について取り上げます。症状が進行する中でも最後まで残る機能に注目し、それを日常生活でどのように活用していくかについて、実際に取り組まれている先生の工夫や実践例とともに解説していただきます。 4大陰性徴候とは何か ALSは全⾝の筋⾁が徐々に動かせなくなっていく病気です。教科書やインターネットなどでALSについて調べてみても、この「全⾝の筋⾁が徐々に動かせなくなっていく」というメインの症状に焦点が当てられており、「ALSに出にくい症状」にはあまり触れられていません。しかし、ALS当事者にとっては、こうした出にくい症状を理解し、将来を⾒据えて⽇常⽣活にうまく取り⼊れていくことがとても⼤切なのです! ALSには、出にくい症状が4つほどあり、これを「4大陰性徴候」といいます。このコラムの2回目(>>「分かりやすい! ALSの病態と症状」)でもお伝えしましたが、非常に重要なポイントですので、ここであらためて紹介します。 (1)目は最後まで動かせる! 手足や身体・顔がまったく動かなくなっても、目を動かす筋肉が最終的にある程度は残ることが多いです。 (2)尿意や便意はがまんできることが多い! 尿道や肛門をキュッと締める括約筋も筋肉ですが、障害は受けにくいです。つまり、尿や便が勝手に漏れて、垂れ流しにはなりにくいということです。 (3)感覚障害が起こりにくい! 見たり聴いたり、味覚を感じたり、冷たさや痛さなどを感じる感覚は最後まで残ります。 (4)「褥瘡」、いわゆる「床ずれ」ができにくい! 徐々に寝たきりになっていきますが、褥瘡はできにくいです。これは(3)で書いた、痛みなどの感覚は最後まで残ることが関係します(床ずれは痛いです)。 今回は、4大陰性徴候のうち(1)~(3)について、日常生活でどう活用しているか、私の実践を交えながら紹介していきます。 最後まで動く目を早めに活用しよう 「目は最後まで動かせること」が4⼤陰性徴候の中でも⼀番重要な症状になってきます。 コミュニケーションを取るとき、声が出せるうちは、がんばって声で会話をするでしょう。⼿が動かせるうちは、タブレットやパソコンの操作も、がんばって⼿を使って⾏うでしょう。しかし、それらもいずれできなくなっていきます……。 ここでとても⼤事なポイントは、「完全にできなくなる前に、目を使った⽅法も取り⼊れて、併⽤しながらやっていったほうがいい!!」ということです。完全にできなくなってからでは、絶望感と虚無感に襲われ、そこから目を使った⽅法に切り替えるのが難しくなります。 目を使った⽅法は「アナログな⽅法」と「デジタルな⽅法」の2つに分けて考えることができ、どちらも⽇常⽣活の中でとても重要な役割を果たします。それぞれの方法について説明していきたいと思います。 アナログな方法:⽂字盤を使って会話しよう! 声が出せなくなったら、いずれ「⽂字盤」を使った会話⽅法に切り替えていく必要があります。⽂字盤については第1弾コラムの10回目(>>「⽂字盤を使わない⽂字盤!?〜エアーフリック式⽂字盤〜」)に詳しく書いていますのでご参照ください。ここからは上記のコラムを読んでいただいたことを前提として書いていきます。●エアーフリック式文字盤私が使っているエアーフリック式⽂字盤について、「ALS当事者は文字の配置を覚えられるのですが、介助者が覚えて使いこなすのが⼤変です」との声を何件かいただきました。そこで、文字盤を使っていく上でのポイントを紹介します。また、実際に私が会話している解説動画を作りましたのでこちらも参考にしてください。 ▼ALS_エアーフリック式文字盤https://youtu.be/-qwhvTesF4I?si=CwubuZ04OB6rcylV ※リンク先はYouTube(外部サイト)となります。 動画について:分かりやすいように目の動きをスローモーションにして編集しています。実際にはもっと速く動きます。(「さくらクリニック練馬」が動画編集に協力してくれました) ALS当事者は、毎⽇繰り返し使っていきますし、⾃分のQOLを上げることにもつながるため、わりと皆さん文字盤を覚えられます。⼤事なポイントは、「介助者は無理して⽂字盤を覚える必要はありません!」ということです。 図1は実際の私の部屋を撮影した写真です。私の後ろの壁には、介助者⽤の⽂字盤が常に貼ってありますので、介助者は文字の配置を覚えていなくても、それを⾒ながら読み取ることができます。 図1 介助用文字盤の配置 さらに余裕が出てきたら、各行の頭文字が並ぶ9マスの位置だけでも覚えることで、会話のスピードが格段に上がります。ぜひチャレンジしてみてください。参考までに、私の介助者の中には、右の列を「あたま(頭)」、左の列を「さはら(サハラ砂漠)」と覚えている⼈も多くいます。 デジタルな方法:目の動きでタブレットを操作しよう! ⼿を使ってタブレットやパソコンなどが操作できなくなったら、⼀番スムーズに動かせる目の動きを活⽤することが多くあります。 視線⼊⼒を使った⽅法については、第1弾コラムの13回目(>>「ALS患者に必要な情報「実用編」 ~上肢②コミュニケーションツール~」)をご覧ください。 ここからは、上記のコラムを読んでいただいていることを前提に書いていきます。なお、そのコラムを執筆したのは2022年ですが、それ以降、画期的な出来事が起こりました! なんと、2024年に視線⼊⼒を使った操作が「iPad Pro」に標準機能として搭載されたのです!!▼Apple、視線トラッキング、ミュージックの触覚、ボーカルショートカットなどの新しいアクセシビリティ機能を発表(プレスリリース 2024年5月15日)https://www.apple.com/jp/newsroom/2024/05/apple-announces-new-accessibility-features-including-eye-tracking ほとんどの⽅はピンとこないと思いますが、これまでALS患者やその関係者は、「なんとか視線を使ってタブレットやパソコンを動かせないか」と試⾏錯誤を繰り返してきました。そして、パソコンについては外部装置を接続することで操作を可能にしてきましたが、純正の機械ではないため、機能を最⼤限に活⽤するには難しい面がありました。 そのような中、Appleが⾝体障害者のために、「iPad Pro」に視線⼊⼒装置を標準搭載してくれたことで、その機能を⼗分に活⽤できるようになりました。これによりタブレットも視線の動きで操作できるようになり、利便性が大きく向上し、⾝体障害者の社会的活動の可能性が広がりました。 一番⾃由に動かせる目を活⽤することは、最初の「とっかかり」としてはスムーズかと思います。ただし、目は⽂字盤をはじめさまざまなことに使いますので、酷使するとどうしても疲労が溜まりやすくなります。 また、いくら「目は最後まで動かせる」といっても、私のように10年⽣きていると、徐々に目も動かしづらくなってくることもあります。(もちろん10年経っても変わらず目を⾃由に動かせる⽅もいらっしゃいますので、ALS当事者の⽅は必要以上に不安にならないでください。) このような理由からも、目を使った⽅法以外にもタブレットを操作できる手段を知っておいてほしいと思います。 ちなみに私は、疲労を分散させるために、用途に応じて操作方法を使い分けていました。例えば、⼤学で講義をする時は、目を使ってパソコンを操作し資料を作成し、医師として診療を⾏う時には、歯の噛む⼒を使って空圧センサーを押し、タブレットを操作していました(空圧センサーについても第1弾コラムの13回目に詳しく書いています)。 私は現在、目が⾃由に動かしにくくなってきたため、空圧センサーのみを使用しています。以下にセンサーに接続するセンサーチューブの作り方と、吸引カテーテル(口腔内の唾液を低圧持続吸引してくれるカテーテル)との連結方法をまとめたのでご覧ください。>>センサーチューブの作成方法と吸引カテーテルとの連結方法はこちらから ※リンク先は「さくらクリニック練馬」のWebサイト(外部サイト)となります。 この⽅法は、口周りに障害物が何もないことが前提となるため、NPPV※を装着している方には使用できません。一方、気管切開をしている⽅で、わずかでも噛む⼒が残っている⽅にとっては、⼝腔内の唾液を吸引しながらタブレットを操作できる、とてもよい⽅法だと思います。ぜひ参考にしてみてください。 ※NPPV:非侵襲的陽圧換気。気管切開を行わないで、マスクを着用するだけの人工呼吸器。 ちなみに、私がNPPVをやめて気管切開を決断した理由の1つには、目と⻭以外に⾃由に動かせる場所がなくなり、早くこの⽅法を試してみたかったということもあります。 実際に私が⻭の動きでiPadを操作している動画も載せておきます。よく⾒ないと分からないですが、2mmくらい⻭が動かせれば操作できます。 ▼ALS_空圧スイッチを使ったiPadの操作方法https://youtu.be/EgM5bV9HIxs?si=BErItzSlxNqOKwfV ※リンク先はYouTube(外部サイト)となります。 この動画の撮影と編集は、私の息⼦が⼿伝ってくれました。息⼦よ、いつもありがとう!! 衣類を工夫し尿器で排泄:がまんできる力を活かす 四肢や体幹が動かせなくなると、「ベッド上でおむつで排泄しないといけない」と思っている⼈も多いかもしれませんが、ALSでは膀胱直腸障害は起こりにくいため、排泄をがまんすることができます(もちろん⼀般論であり、個⼈差があります)。⼯夫次第ではポータブルトイレや尿器を使って排泄できます。 ポータブルトイレでの排泄⽅法は、第1弾コラムの 18回目(>>「ALS患者に必要な情報「実用編」 ~下肢(2)ベッド上生活~」)に詳しく書いてますので、ご参照ください。 尿器を使用したベッド上での排尿の工夫として、これは男性の場合に限りますが、ズボンの前面を切り、スナップボタンを取り付けることで、ズボンを脱がずに陰茎を出して尿器をセットする方法があります。 ちなみに私は、尿器をセットしやすくするために下着は履かず、加工したズボンを直接履き、毎⽇⼊浴後に着替えています(⼊浴⽅法についても、18回目のコラムをご参照ください)。 実際に加⼯した私のズボンは図2をご覧ください。図2 加工したズボン(男性用) 「感じる力」を大切に:感覚が残ることを活かす ⾒たり聴いたり、味覚を感じたり……五感をフルに活⽤して、⽇々の⽣活をより豊かにしていきましょう! 上述した⽅法でタブレットを⾃分で操作できるようになれば、世界は格段に広がります。自分の好きなタイミングで読書をしたり、ドラマや映画を観たり、好きな⾳楽を聴いたりすることができます。 また、気管切開をして⼈⼯呼吸器を装着していても、誤嚥防⽌術さえ行っていれば、⼯夫次第で⽐較的⻑い期間、飲⾷を楽しむこともできます(もちろん個⼈差はあります)。誤嚥防止術の詳細については第1弾コラムの16回目(>>「「気管切開+誤嚥防止術」という考えかた!」)を参照してください。 * * * このように「できなくなっていくこと」ではなく、「何が最後までできるのか」に焦点を当ててALSという病気と向き合ってみると、⾒えてくる世界がまったく違ってきます。ALSという病気は、⼈間の可能性についてあらためて考えさせられる病気だなぁと、つくづく思う次第です。  コラム執筆者:医師 梶浦 智嗣「さくらクリニック」皮膚科医。「Dermado(デルマド)」(マルホ株式会社)にて「ALSを発症した皮膚科医師の、患者さんの診かた」を連載。また、「ヒポクラ」にて全科横断コンサルトドクターとしても活躍。編集:株式会社照林社

訪問看護のカスタマーハラスメント しくみ作りと対策【セミナーレポート後編】
訪問看護のカスタマーハラスメント しくみ作りと対策【セミナーレポート後編】
特集 会員限定
2025年10月7日
2025年10月7日

訪問看護のカスタマーハラスメント しくみ作りと対策【セミナーレポート後編】

NsPace(ナースペース)のオンラインセミナー「訪問看護のカスタマーハラスメント対策~安心して訪問看護ができるために~」(2025年6月20日開催)では、医療現場のカスタマーハラスメント(以下「カスハラ」)対策に詳しい坪田康佑先生を講師にお迎えし、訪問看護業界のハラスメントの実態や、講じるべき対策について教えていただきました。セミナーレポート後編では、具体的なカスハラ対策についてご紹介します。 ※約75分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 >>前編はこちら訪問看護のカスタマーハラスメント 実態と制度【セミナーレポート前編】 【講師】坪田 康佑さん看護師/国会議員政策担当秘書/日本男性看護師會代表理事慶應義塾大学 看護医療学部を卒業。米国 Canisius 大学で MBA 取得。看護 DX や医療現場のカスタマーハラスメント対策など、さまざまな角度から看護師支援に取り組む。 カスハラ対策は組織の責務 訪問看護現場におけるカスハラに対しては、訪問看護ステーションや経営者が対策を講じる必要があります。 2020年6月には、厚生労働省が「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して、雇用管理上講ずべき措置等についての指針」で、事業主が職場全体で対策を進めるべきという告示を出しました。 また、労働安全衛生法の第69条には「労働者の健康の保守増進を図るため必要な措置を継続的かつ計画的に講ずるよう努めなければいけない」と定められており、労働契約法でも「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるように、必要な考慮をする」という安全配慮義務が規定されています。事業所の規模を問わず、暴力・ハラスメント対策は、事業主や管理者の義務なのです。 事業所で講じるべきカスハラ対策 適切なカスハラ対応ができる体制・しくみ作りのため、まず必要なのは「カスハラをカスハラとして認識する」こと。現時点では「嫌な気持ちになったら報告する」という当たり前の行動ができていないことを理解し、「これってハラスメントなのでは?」という段階で声を上げられるしくみ作りを目指してください。そのために、まず事業所内で暴力・ハラスメントの定義を理解しておく必要があります。(暴力・ハラスメントの定義については前編「訪問看護のカスタマーハラスメント 実態と制度」参照) 上記をふまえ、以下のような体制・しくみを構築しておけば、発生後の対応で難しいとされる「速やかな指示」もできるはずです。 適切に警察に連絡できる体制 暴力をふるう、襲いかかる、凶器を持ち出すといった、暴行・傷害につながる事案は、警察に相談しなければなりません。いざというときに躊躇しないために、事前に警察へご挨拶に伺っておく、関係機関との協力体制を確認しておくのがおすすめです。また、警察に連絡する基準を明確にし、一人ひとりが認識することも必要でしょう。警察への相談窓口「#9110」では、緊急性のないトラブルや不安にも対応してくれます。 利用者さんとの関係の悪化を心配して通報を控えていると、カスハラは止まらず、悪循環を招きます。その利用者さんを担当する事業所が変わった場合、被害者はさらに増えるでしょう。訪問看護業界からの人材流出という問題にもつながるので、通報する勇気をもってください。 なお、こうしたしくみ作りは、利用者さんと訪問看護師がよい関係を築き、質の高い看護を提供していくためのものです。その想いと対策の内容を利用者さんやスタッフに伝え、みんなで理想的な関係を作っていくことが重要です。 被害者の心情に配慮した対応 ハラスメントが発生した際、スタッフへの最初の指示は「逃げて」です。スタッフが身の安全を確保できたら、客観的に問いかけて被害状況を記録していきます。 当たり前ですが、悪いのはハラスメントをした人間です。すべてのハラスメントは、被害者の尊厳や自尊心を傷つけるもの。被害者にはしっかりと「あなたは何も悪くない」と伝えてください。 そして被害者となったスタッフには、心理的ケアが必要です。状況に応じた受診方法を定めた上で事務所全体に共有し、それに則ってサポートしましょう。なお、被害状況によっては労災に該当することもあるため、医師に診断を受けるのは重要です。 また、継続的にケアを続けるのもポイント。時間が経ってから精神的な後遺症が表れることもあるので、管理職を中心に事業所全体でケアをしてください。専門家によるカウンセリングが受けられるしくみを用意しておくのもおすすめです。 さらに、被害を受けたスタッフが十分な休息をとれるよう、早退や休暇の取得ができる体制も必要です。なお、休むことで収入が減るという状況だと、カスハラは隠蔽する方向にイニシアティブが働きます。体制づくりの際にご注意ください。 二次被害になりやすい言い方の例と改善方法 ハラスメントへの対応時に意識したいのが、二次被害の防止です。「なぜすぐに相談しなかった?」「なぜ利用者を怒らせた?」といった「Why don’t you~?」型の言葉で原因追及をするのは、傷つけや行動否定といった二次被害につながるため、あくまで状況の整理に徹しましょう。気をつけなければならない点を洗い出すまでで終わりにしてください。 また「飲んで忘れよう」「遊んで気晴らしをしよう」といった逃避行動をすすめるのも二次被害につながります。事実から目をそらさず、問題を丁寧に取り扱っていきましょう。 感受性を高める実践的対策 カスハラ対策には、スタッフ一人ひとりの「暴力・ハラスメントへの感受性」を高めることも重要です。ポスターを貼って理解を促す、勉強会や研修を行うなどして、感受性を高めてください。ポイントは、定期的に行うこと。これまでのキャリアの中で培われた価値観は根強く、ハラスメントの定義を誤って認識していると簡単には正せないので、継続的なアプローチが必要です。 それから、「相談」をしやすいしくみ作りも求められます。相談ができるようになると連絡、やがては報告もできるようになっていくので、まずは嫌な思いをしたときに気持ちを話す習慣をつけられるようにしてください。 また、通報ツールや防犯グッズをスタッフに配布するのも効果的。カスハラが起こったときに録音や警備会社への連絡ができる商品があります。カスタマーハラスメント防止対策推進事業の奨励金や、地域医療介護総合確保基金の補助などの支援策もあるので、ぜひ活用してください。 * * * 看護師の笑顔は利用者さんの笑顔を、利用者さんの笑顔は家族の笑顔を、家族の笑顔は地域の笑顔を生むと私は考えています。看護師の笑顔を守ることは、たくさんの人々を笑顔にする第一歩。ぜひ一緒に看護師の笑顔を作っていきましょう。 【講師・坪田 康佑さんよりコメント】2025年9月30日、私が理事を務める二団体が、東京都産業労働局より「カスタマーハラスメント対策団体」として認証されました。今後は東京都の予算を活用し、相談窓口の設置や啓発活動を進めてまいります。専用サイトなども準備中ですので、何かありましたらお気軽にご連絡ください。・一般社団法人日本男性看護師會 代表理事 https://nursemen.net/・一般社団法人訪問看護支援協会 理事 https://kango.or.jp/ 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア 【参考文献】〇厚生労働省:事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)【令和 2年6月1日適用】.https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000605661.pdf2025/9/4 閲覧〇坪田 康佑・池田 智・矢山 壮:訪問看護のハラスメントの実態と対策に関して.日本在宅看護学会第 14 回学術集会(2024 年 11 月 17 日),配布資料.〇三木 明子 監修・著:訪問看護・介護事業所必携! 暴力・ハラスメントの予防と対応,メディカ出版,2019〇日経ヘルスケア著・編:患者トラブル解決マニュアル,日経BP出版センター,2009

訪問看護のカスタマーハラスメント 実態と制度【セミナーレポート前編】
訪問看護のカスタマーハラスメント 実態と制度【セミナーレポート前編】
特集 会員限定
2025年9月30日
2025年9月30日

訪問看護のカスタマーハラスメント 実態と制度【セミナーレポート前編】

2025年6月20日、NsPace(ナースペース)はオンラインセミナー「訪問看護のカスタマーハラスメント対策~安心して訪問看護ができるために~」を開催。医療現場のカスタマーハラスメント(以下「カスハラ」)対策に詳しい坪田康佑先生に、訪問看護における暴力・ハラスメントの実態や対策について伺いました。セミナーレポート前編では、カスハラの基礎知識や、現場が抱える課題などをまとめます。 ※約75分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】坪田 康佑さん看護師/国会議員政策担当秘書/日本男性看護師會代表理事慶應義塾大学 看護医療学部を卒業。米国Canisius大学でMBA取得。看護DXや医療現場のカスタマーハラスメント対策など、さまざまな角度から看護師支援に取り組む。 カスハラの定義と分類 訪問看護現場でのカスハラについて考えるにあたり、最初に「暴力、ハラスメントの定義」を明確にしておきましょう。 【身体的暴力】身体的な力を使って危害を及ぼす行為。実際に触れていなくても、拳を上げた時点で身体的暴力に該当します。 例叩かれる、つねられる、爪で引っかかれる、ものを投げられる、唾を吐かれる、背後から蹴られる 【精神的暴力】個人の尊厳や価値を言葉によって傷つけたり、貶めたりする行為。 例強い口調や大きな声で文句をいわれる、人格を否定される、理不尽なクレームで長時間拘束される 【セクハラ】性的な誘いや嫌がらせ、好意的態度の過度な要求など。 例体に触れられる、卑猥なことをいわれる、(訪問看護師の)身体的な特徴を話題にする、(利用者さん自身の)陰部を触るように要求される 新潟県はハラスメントを「暴言型」「暴力型」「時間拘束型」「リピート型」「SNS/インターネット上での誹謗中傷型」などの9つに分類し、対策を定めた「ペイシェントハラスメント対策指針」を発表しました。「ペイシェントハラスメント」と明記された行政文書は、これが初めてです。都道府県を越えて活用できる内容なので、ぜひ参考にしてください。 ハラスメントの定義に「原因」は含まれない カスハラが起こったとき、管理職が被害を受けたスタッフ側のサービスや態度、または利用者さんの病気に原因を探してしまうケースはよく見られます。しかし、ハラスメントの定義に原因は含まれません。原因に関係なく、「ハラスメントがあった」のであれば、その事実を否定してはいけません。再発防止に向けた検討を行いましょう。 訪問看護現場におけるカスハラの実態 2019年に行われた全国訪問看護事業協会の調査では、訪問看護師の45%が「身体的暴力」を、53%が「精神的暴力」を、利用者さんやその家族から受けたことがあると答えています。また、セクハラを受けた方の割合も48%に上りました。 さらに、2020年に福岡県の訪問看護ステーションを対象に実施された実態調査では、訪問看護師の約40%が、利用者さんやその家族などから暴力を受けた経験があることが明らかに。しかも、そのうちの半数は「1年以内」に暴力を受けています。現場でのカスハラは、「過去」ではなく「今」起こっているのです。 訪問看護業界では早急に対策を講じ、スタッフを守っていかなければなりません。 「声を上げられない」現場の空気 多くの訪問看護師がカスハラを受けているにも関わらず、被害の声が上がりにくいという現状もあります。その一因となっているのが、以下のような被害者の心理的背景です。 被害者の心理的背景・痛みはあったが、ケガには至らなかった・私のかかわり方が悪かったのかもしれない・管理者に説明するのは気が進まない・ことを大きくしたくない・利用者さんのために我慢しよう・認知症の方だから仕方がない こうした自責思考や「利用者さんのためを思っての選択」が、訪問看護現場のカスハラをなかったことにしてきました。しかし、起こった事案はきちんと共有し、対策を考えていかなければなりません。また、管理者は「声が上がらない=問題は起きていない」と捉えず、背景を考慮して「声を上げられる環境づくり」に取り組む必要があります。 訪問看護のハラスメント相談率は、訪問介護よりも低い 相談の意志という観点では、訪問看護のほうが訪問介護よりもハラスメントに関する相談率が低いことが厚生労働省の調査でわかっています。ハラスメントについて「些細な内容でも相談した」と回答した人の割合は、訪問看護は40%を下回りました。「ハラスメントを受けた際に、内容によっては相談した」という回答を含めてやっと80%を超える状況で、ハラスメントを受けても相談しなかった人が約20%もいます。 相談しない理由は、「利用者やその家族に病気、障害があるから」との回答が約半数を占めました。続いて「自分自身でうまく対応できていたから」が約34%、「問題が大きくなると面倒だから」が約16%となっています。 「利用者さんは病気だから」と考えない 「精神疾患がある方のほうがカスハラを起こしがち」と考える方は少なくありませんが、精神科とそれ以外の訪問看護での暴力発生率を比べると、精神科以外のほうが多いことがわかっています。精神疾患だから、認知症だからと考えず、カスハラへの感受性を高め、きちんと対策を講じなければなりません。 国や警察の取り組み カスハラに対する国の取り組みとして、厚生労働省は2021年に「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を発表しています。 また2022年6月には、警視庁から各都道府県警に対して医療機関との連携を推進するよう促す通知が出されました。これを受けて警察では、医療機関や医師会からの通報・相談は関係部門で連携し、必要に応じて助言・対応・検挙などを行う体制の整備が進められました。さらに2024年2月には体制強化を明記した再通知が出されており、医療従事者の安全を守るため、的確かつ確実な対応に努める構えです。 ここで重要なのが「警察に電話する」ことが即「逮捕」につながるわけではないことです。生活安全部門も関わりながら、指導や助言などの対策をしてくれます。必要なときは躊躇せずに相談してください。 次回は事業所で講じるべき具体的なカスハラ対策や被害者の心のケア、二次被害の予防などについて解説いただきます。 >>後編はこちら訪問看護のカスタマーハラスメント しくみ作りと対策【セミナーレポート後編】 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア 【参考文献】〇滋賀県・公益社団法人滋賀県看護協会: 訪問看護・訪問介護事業所における暴力・ハラスメント対策マニュアル.令和元年度滋賀県委託事業 訪問看護師・訪問介護職員安全確保・離職防止対策事業. 2020.〇新潟県 病院局業務課:新潟県病院局 ペイシェントハラスメント対策指針,令和6年5月https://www.pref.niigata.lg.jp/uploaded/life/677384_2027172_misc.pdf2025/9/4 閲覧〇全国訪問看護事業協会:訪問看護師が利用者・家族から受ける暴力に関する調査研究事業報告,2019〇坪田 康佑・池田 智・矢山 壮:訪問看護のハラスメントの実態と対策に関して.日本在宅看護学会第14回学術集会(2024年11月17日),配布資料.〇厚生労働省:事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)【令和2年6月1日適用】.https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000605661.pdf2025/7/31閲覧〇厚生労働省.:介護現場におけるハラスメントに関する調査研究(2019年3月)https://www.mhlw.go.jp/content/12305000/000947359.pdf2025/9/4 閲覧〇厚生労働省:カスタマーハラスメント対策企業マニュアル,2022https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000915233.pdf2025/9/4 閲覧〇警察庁:医療機関等との連携によるストーカー事案等の適切な対応について(令和6年1月22日付 警察庁丙企発第3号).https://www.npa.go.jp/laws/notification/2024iryoukikanrenkei.pdf2025/9/4 閲覧

在宅における透析患者さんの合併症対応【事例あり】&導入時の心理的支援の重要性
在宅における透析患者さんの合併症対応【事例あり】&導入時の心理的支援の重要性
特集
2025年9月2日
2025年9月2日

在宅における透析患者さんの合併症対応【事例あり】&導入時の心理的支援の重要性

透析治療は、身体的な負担だけでなく、生活の変化や将来への不安などから、精神的にも大きなストレスを伴います。うつ状態や孤立感を抱える患者さんも少なくないため、訪問看護においては身体的ケアと並行し、患者さんの心に寄り添うサポートも不可欠です。今回は透析患者さんに対する支援として、事例を交えた合併症対応と、透析受容の心理的段階に応じた関わりについて解説します。 透析患者さんに起こりやすい症状 透析患者さんの状態に変化があった際、「どうしたらよいのか分からない」「自分に対応できるか不安」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。基本的な対応の流れは、透析患者さんでもそうでない方でも大きく変わりません。ただし、透析患者さんには特有の注意点があります。 今回は、「血圧の低下」「高カリウム血症」「溢水」を取り上げ、透析患者さんならではの対応のポイントについてお伝えします。特に、「高カリウム血症」や「溢水」は、心停止や呼吸困難といった重篤な状態を引き起こす可能性があり、緊急透析が必要となるケースも少なくありません。こうした症状を早期に察知し、迅速に対応することが、患者さんの命を守る上で重要です。 1 血圧の低下 透析直後や帰宅後は、脱水傾向により血圧が低下することがあります。透析後は自律神経が不安定になりやすいため、急な立ち上がりや歩行は避けたほうがよいでしょう。 なぜ透析後に脱水が起こるのか?透析では、体内の余分な水分を取り除く「除水」が行われ、体重をドライウェイト(DW:目標体重)に近づけます。その過程で、以下のような場合に脱水状態になることがあります。  大量の除水により循環血液量が減少した場合 DWが適切ではない場合 透析による血管拡張 交感神経活動の低下 急激な電解質変動による循環動態の乱れ これらにより、帰宅途中や直後に立ちくらみ、めまい、ふらつき、倦怠感、冷汗、血圧低下(収縮期血圧が90mmHg以下)の症状を起こすことがあります。 安静を促し、水分補給を行うのが対応の基本(図1) 安静にして様子を見る(横になり下肢を挙上する) 水分摂取を行う(回復が見られない場合は透析施設へ連絡する) 血圧が回復しない、または意識障害がある場合は、速やかに救急要請する 図1 血圧が低下したときの対応 安静を促し、水分補給を行う。血圧低下に加えて、顔面蒼白、冷汗、頻呼吸、意識障害(JCSⅡ以上)などの症状が見られたら、「ショック状態」と判断し、救急要請が必要。 2 手足の「しびれ」と高カリウム血症 透析患者さんは腎機能が低下しているため、体内にカリウムが蓄積しやすく、高カリウム血症を起こしやすい状態です。 高カリウム血症の症状カリウムは筋肉や神経の働きに重要な役割を果たします。濃度が高くなると表1のような症状が現れます。 表1 血清カリウム濃度に応じた症状 5.5mEq/L以上初期症状手足のしびれ(感覚異常)、筋力低下・脱力感、口周囲の違和感、吐き気7.0mEq/L以上重度症状意識障害、不整脈(テント状T波)、心停止のリスク *数値は一般的な数値であり、個人差があります   事例:食事が引き金の高カリウム血症A氏(70代・男性) 息子夫婦と同居 透析スケジュール:火・木・土の週3回 透析歴:1年 現在の状況:透析を開始し、尿量が減少してきている 訪問看護師が月曜日の午前中に訪問すると、A氏から手指のしびれ、口周囲の違和感、軽度の吐き気の訴えがあった。「いつもと特に変わったことはないけれど、朝起きたら唇がしびれていて、何かおかしい。手先もしびれている気がする」とのこと。食事内容を確認すると、「昨日は息子夫婦と一緒に外食をして、生野菜と果物をたくさん食べた」との発言があった。 【訪問看護師の対応】緊急透析検討のため透析施設へ連絡 訪問看護師は、A氏の症状から高カリウム血症とアセスメント。緊急透析を検討する必要があるため、透析施設へ連絡し、症状と食事内容の情報を伝えました。 【透析室での対応】緊急透析および食事指導を実施 来院時の血中カリウム値は7.0mEq/L、心電図ではテント状T波を確認しました。緊急透析を実施し、症状は改善されました。その後、カリウム吸着薬が処方され、カリウム制限に関する食事指導を行いました。 【対応のポイント】しびれの訴えには要注意 しびれの訴えがあった場合は、バイタルサインを確認し、直近の透析状況および食事内容を確認します。予防策として、ブロッコリーやバナナ、生の野菜ジュース、干し芋のような乾物など、カリウムの多く含まれる食品の摂取を控えるよう指導し、食事管理を徹底してもらいます。また、透析の適正な実施が必要です。 3 溢水による心不全 透析患者さんは腎機能が著しく低下しており、水分や塩分を尿として排出できないため、体内に水分が蓄積しやすくなります。この状態を「溢水(いっすい)」と呼びます。 溢水の症状体重増加、頸静脈の怒張、呼吸困難・息切れ・咳嗽・湿性ラ音の聴取・血清泡沫痰、水分蓄積による浮腫 呼吸困難時は安楽な体位をとる呼吸困難は、座位やファウラー位で軽減することが多くあります(図2)。患者さんの安楽な体位を工夫するようにしてください。 図2 呼吸困難時の対応 呼吸困難は、上半身を起こす座位やファウラー位で軽減することが多くある。安楽な体位になるよう工夫する。   事例:会話中の息切れで気づいた、心不全症状B氏(70代、女性) 独居 透析スケジュール:火・木・土の週3回 透析歴:15年 既往歴:心筋梗塞、脳梗塞、気管支喘息 訪問看護師が月曜日の朝に訪問したところ、以下の症状を確認した。 ・呼吸困難(会話時に息切れ)、臥位にて増強(起座呼吸) ・下腿浮腫(+2:4mmのくぼみ) ・体重:前回の透析後より+4.2kgの増加(DW:40kg) ・バイタルサイン:血圧 170/98mmHg、SpO₂ 88%、心拍数 112回/分 ・顔色不良、倦怠感強い 【訪問看護師の対応】心不全を疑い全身状態をアセスメント 心不全を疑い、アセスメントを開始しました。バイタルサインの測定、浮腫・呼吸状態の観察、直近の透析状況(特に最終体重)・体重増加量・食事内容(水分摂取量)を確認し、透析施設へ緊急連絡しました。 【透析室での対応】緊急透析を実施し、DWの見直しも 透析室では、緊急透析を行い、除水3.8Lを実施。透析後は、呼吸状態・浮腫ともに改善しました。あらためてドライウェイトを見直すとともに、塩分・水分管理の再指導を行いました。 体重増加と呼吸状態の変化は心不全のサイン中2日明けの訪問(B氏の場合は火曜日)は特に注意が必要です。その間の体重増加や呼吸状態の変化は、心不全のサインです。患者さんの「いつもと違う」訴えを見逃さず、透析施設・主治医との連携が大切です。 * * * 合併症への対応では、訪問看護師によるアセスメントが不可欠です。異常を察知した際には、ためらわずに透析施設と情報を共有し、重症化の予防に努めましょう。 透析導入時の心理的支援のポイント では次に、患者さんの心のケアにおいて重要な「心理的支援」についてご紹介します。透析を受け入れる過程で患者さんが経験する心理的な段階に応じた支援のあり方や、訪問看護師が果たす役割について解説します。 透析患者さんの多くは、透析治療を生活の一部として受け入れ、前向きに適応していく心理的・社会的なプロセスを辿ります。訪問看護師が理解しておくべき、透析受容の心理的段階と支援のポイントは以下のとおりです。 透析受容の心理的段階(図3) 透析治療の開始から時間の経過とともに、患者さんは以下のような段階を経験します。 図3 透析受容の心理的段階 ●混乱期治療開始時には、「なぜ自分が透析を?」という戸惑いや否定的な感情が強く表れます。病気の受容が難しく、治療や生活の変化に対する不安が大きく、精神的な混乱が生じます。 ●変化期少しずつ治療や生活の制限について理解が進み、自分なりの対処法や工夫を模索するようになり、生活の再構築に向けた前向きな姿勢が見られるようになります。 ●共存期透析治療を日常の一部として受け入れ、前向きに捉えるようになります。自己管理やセルフケアへの意欲が高まり、治療とともに生きる意識が芽生えます。 ただし、すべての患者さんがこのプロセスを順調に進むわけではありません。透析を始めて何年経っても受け入れられず、苦しんでいる方もいます。透析の受容は、性格・価値観・生活背景・家族や社会的支援の有無など、さまざまな要因に左右されるため、画一的な経過をたどるものではありません。 各段階に応じた支援の重要性 患者さんの心理状態に応じた支援は非常に重要です。特に混乱期には、透析に関する詳しい指導を行っても、患者さんが情報を受け取る余裕がなく、内容が頭に入らないことがあります。指導を受ける気持ちになれない場合も少なくありません。 このような時期には、まずは患者さんの気持ちに寄り添い、安心感を与えるかかわりが何よりも大切です。患者さんが少しずつ気持ちを整理し、「透析」という現実を受け止められるようになるまで、焦らずに支援を続ける姿勢が求められます。 透析の受容は一度で完了するものではなく、揺れ動くプロセスです。訪問看護師の皆さんには、患者さんが今どの段階にいるのかを見極め、それぞれの段階に応じた「今の気持ち」に丁寧に寄り添いながら支援していくことが重要です。  執筆:熊澤 ひとみ医療法人偕行会 透析医療事業部 副事業部長透析看護認定看護師【職歴】昭和63(1988)年 名古屋共立病院 入職平成11(1999)年 偕行会 セントラルクリニック 異動平成17(2005)年 透析医療事業部 副事業部長令和3(2021)年 医療法人偕行会 法人本部 理事【所属学会】日本腎不全看護学会 監事日本臨床腎臓病看護学会日本透析医学会編集:株式会社照林社

訪問看護の現場で活きる!感染対策の実践【セミナーレポート後編】
訪問看護の現場で活きる!感染対策の実践【セミナーレポート後編】
特集 会員限定
2025年8月19日
2025年8月19日

訪問看護の現場で活きる!感染対策の実践【セミナーレポート後編】

2025年5月16日、NsPace(ナースペース)はオンラインセミナー「訪問看護の現場で活きる!感染対策のヒント」を開催。訪問看護の現場で実施したい感染対策について、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行の振り返りをふまえて解説いただきました。講師は、感染管理に造詣が深い松橋 久恵さんです。セミナーレポート後編では、具体的な感染予防のためのアクションをご紹介します。 ※約90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)が特に注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 >>前編はこちら訪問看護の現場で活きる!感染対策の基礎知識【セミナーレポート前編】 【講師】松橋 久恵 さん訪問看護師/元 感染管理認定看護師(2010~2024年)1997年から20年以上にわたって国立がん研究センター東病院にて勤務。2010年には感染管理認定看護師の資格を取得し、院内の感染対策に専門的に取り組む業務にも従事した。2019年に「訪問看護ステーションそら」に入職し、現在に至る。 標準予防策の具体的な実践 前編(>>「訪問看護の現場で活きる!感染対策の基礎知識」)では、新型コロナウイルス感染症の感染対策においても「標準予防策(スタンダードプリコーション)」の徹底が重要であることをお伝えしました。これは在宅医療の現場においても例外ではありません。標準予防策の実施率を高めることは、感染リスクを減らすだけでなく、医療従事者や利用者さん、ご家族を守り、さらには感染拡大を防ぐことにもつながります。 そこで今回は、訪問看護の現場で活用できる、標準予防策の具体的な実践方法をご紹介します。 手指衛生 石けんと流水による手洗い、またはアルコール手指消毒のことです。適切なタイミングと方法で実施することが重要です。 (C)HAICS/T.Torii 手指衛生を実施すべき主なタイミングは以下の通りです。 患者に触れる前 清潔操作の前 患者に触れた後 血液・体液に触れた後 患者周囲の環境に触れた後  特に「血液や吐物、排泄物を扱った」時は、手袋をしていても手に付着している可能性があるので、石けんと流水による手洗いを、目にみえる汚れがなければアルコール手指消毒をしましょう。また、手洗いは、指先、指の間、手のしわなど、汚れが残りやすい部分を意識して丁寧に行うことが大切です。 個人防護具(PPE)の使用 血液や体液、汗を除く分泌物、排泄物、粘膜や損傷のある皮膚を扱う場合、もしくは清潔な取り扱いが必要なケアを行う際は、個人防護具を使います。個人防護具は常に着ける必要はありませんが、使用する際は必ず単回使用としてください。 ■着脱の基本 着用時は最後に手袋を装着し、手の清潔を守ります。反対に、脱ぐときは最も汚染しやすい手袋が最初で、手首から裏返すように外し、フェイスシールドやガウンなど、ほかの防護具は手指衛生の後に脱ぎます。 ■個人防護具は行動に合わせて選択を 「感染症」ではなく「これから自分が何をするか」に合わせて適切な個人防護具を選択しましょう。 (C)HAICS/T.Torii 環境整備 環境整備とは、埃や汚れを除去し、清潔で臭いのない空間を保つことです。 例えば、血液や排泄物、吐物で汚れたリネンには感染性があるため、個人防護具を着用の上、予洗いをしてから塩素系漂白剤で消毒します。血液や排泄物などのタンパク質は塩素系消毒剤を不活化するため、先に取り除いておかないと、消毒の効果を十分に得られない可能性があります。なお、塩素系漂白剤は金属腐食や脱色を招くこともあるので、使用後は触れた箇所を水拭きしましょう。 ほかには熱水消毒(80℃で10分以上煮る)も有効ですが、在宅では難しい場合が多いため、乾燥機やアイロンによる熱処理での代替をおすすめします。また、消毒薬を必ず使う必要はありません。手がよく触れる場所を、洗剤などで丁寧に掃除することも大切です。 器材の管理 器材を消毒する前に、しっかり洗浄して汚れを落とすことが基本です。消毒では、家庭で入手できる消毒薬を利用しましょう。塩素系漂白剤を薄めたものがよく使われますが、適切な濃度にすること、つくり置きしないこと(時間経過で濃度が変化するため)を守ってください。 なお、洗浄消毒の対象となるのは「正常な皮膚のみと接触する器材」「(在宅では)粘膜や創傷に接触する器材」です。「無菌の組織に接触する器材」は医療関連感染を起こさないよう、単回使用が原則とされています。 在宅医療廃棄物の処理・取り扱い 「インスリン注射針が不適切に廃棄されることで、一般の回収業者や商業施設の清掃作業員の方が受傷してしまった」といった医療機関外の事故が、残念ながら起こっています。ご存じかとは思いますが、鋭利なものは耐貫通性の蓋つき容器に入れて持ち運びましょう。また、血液や体液、排泄物が付着した可能性があるものはビニール袋に入れて密封し、ヘルパーさんやご家族などが安全に処理できるよう配慮が必要です。 万が一針刺し事故が起きた場合は、肝炎ウイルスやHIVなどに曝露する可能性があります。すぐに大量の流水と石けんで洗い流し、感染源である利用者さんと自身の採血を行って、受診してください。なお、針を扱う際は手袋を装着していると安全性が高まります。 ■利用者さんからみた在宅医療廃棄物の廃棄方法 インスリン注射針をはじめとした一部の在宅医療廃棄物は、専用容器に入れれば、医療機関や薬局などで回収してくれます。必要に応じてご案内ください。 訪問看護ならではの感染対策 訪問看護の現場では、以下の感染対策も重要になります。 換気 窓を開ければいいというものではなく、ポイントは「一方向の窓を常時少しだけ開けておく」ことです。窓を小さく開けることで、寒い冬や暑い夏でも室温を保ちながら換気できます。換気扇を活用して空気の流れをつくるのもよいでしょう。 空気清浄機はあくまで換気を補完するもので、単体では十分な換気の効果は得られません。空気清浄機があるから大丈夫、と安心してしまわないよう注意が必要です。また、エアコンは室内の空気を循環させているだけで、外の空気を入れたり中の空気を出したりする機能は基本的にありません。つまり、換気の手段にはならないため、窓を開ける、換気扇を使用する、といったほかの方法と併用しましょう。 ゾーニング マスクは「ユニバーサルマスキング」として常に着用しておきます。訪問時はまず、グリーンゾーンに荷物を置き、手指消毒を行います。次に、イエローゾーンで必要なケア物品を準備し、個人防護具を着用します。そして、レッドゾーンでケアを行い、作業が終わったらその場で個人防護具を脱ぎ、適切に廃棄して再度手指消毒を行います。退出前には、持ち帰る物品や荷物を拭いて清掃・消毒し、最後にもう一度手指消毒をして退出する、という一連の流れになります。 ガウンを着る場合は、ケア中にウイルスや細菌が衣服につくのを防止するのが目的なので、イエローゾーンで着用しても問題ないと考えられます。着脱する理由を明確にして、安全に、かつ余裕をもって脱ぎ着できるようにしてください。 BCP(事業継続計画) 職員の健康や生活を維持しつつ、感染拡大防止に努めながら事業を継続するための対策や備えが求められます。以下のような点について、事業所のメンバーやほかの事業者と話し合い、実践、検討しておきましょう。 ・手指衛生の訓練をする・手袋の着脱や使用シーンを含めて個人防護具の使い方を検討する・個人防護具のローリングストック(常に一定量を確保)・体調不良を申告しやすい雰囲気をつくる・余裕をもった訪問計画の検討と柔軟な対応 * * * 訪問先の環境はそれぞれ異なりますが、本セミナーでお伝えした標準予防策の重要性を理解していただければ、現場で求められる感染対策を柔軟に検討・実践できるはずです。また、繰り返しになりますが、在宅医療の現場でも標準予防策の実施率を高めていくことが欠かせません。 「自分がこれから何をするのか」「どのようなケアを行うのか」を常に意識しながら感染対策に取り組むことが、利用者さん、そして私たち自身を守ることにつながります。このセミナーの内容が、みなさんの日々の業務に少しでも役立てば幸いです。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

× 会員登録する(無料) ログインはこちら