初めての訪問看護に関する記事

特集
2021年12月7日
2021年12月7日

【座談会】訪問看護師の「寒さ対策」~冬の雨の日どうしてる?~

寒さ対策は必須だけれど、訪問先では上着を脱がないといけない……そんな悩ましい季節がやってきました。今回は東京で訪問看護師として活躍しているお二人に、『パーツ別』の寒さ対策を教えてもらいました。 ■座談会に参加してくれた看護師さんプロフィール 有希さん訪問看護歴5年目。自転車・バイク・公共機関を利用しての訪問経験あり。 香菜さん 訪問看護歴5年目。自転車での訪問経験あり。 冬は雪よりも雨がつらい! 移動時の防寒×室内の服装に悩みます 香菜:今年もやってきましたね、冬。このあと年末年始から2月くらいまではとくに覚悟が必要ですね。 有希:クリスマスを過ぎたあたりからグッと冷え込むよね。冬は雪の日より雨の日がツラくないですか? 香菜:雨で、さらに自転車移動やバイク移動だと、ほんとうに寒いですよね。しっかり防寒したいけど訪問先では上着は脱がないといけないから対策が難しいし。 有希:自転車やバイク移動でなおかつ雨に濡れると、濡れたところから北風が入ってきて、もう寒いというか痛い! ポイントは「なるべく軽く」「薄いものを少しずつ重ねる」こと 香菜:私は「なるべく軽くする」ことをモットーに、寒さ対策してます。もちろんあったかいことは重要なんだけど、洋服が重いとそれだけで体力を消耗してしまうから。いかに『軽さと暖かさを両立するか』を考えて着るものを選びますね。 有希:脱いだり着たりしないといけないから「薄いものを少しずつ重ねる」のも重要ですよね。私は薄いものから暖かいものの順に、十二単を着るみたいに重ねて行きます。少し話が脱線しますけど、十二単は実は防寒具だった説があるって聞いたことがあって、なるほど! って思いました(笑) 上半身の寒さ対策は? 有希:①長袖の発熱性保温肌着+②スクラブ(半袖)+③カーディガン+④ボアフリース素材のジャケット+⑤防風・防水アウターを重ねます。雨でなおかつ自転車移動の日に活躍するのは、防水のポンチョ! フード部分に雨除けのツバがついていて、丈が長くなっている前面を自転車のカゴにかぶせられる「ママチャリ用のポンチョ」を愛用してます。 香菜:私も発熱性保湿肌着は欠かせないです。気温によって厚みも調整して。①長袖の発熱性保温肌着+②スクラブ(半袖)+③ボアフリース素材のジャケット+④薄手の防水・撥水・防寒のフード付きアウター、というのが基本スタイル。雨の日はカッパを重ねます。 有希:やっぱりそういうスタイルになりますよね。 香菜:なりますね。いろいろ試した結果、『安いものよりちょっといいもの』を選ぶようになりました。ワンコインで買ったカッパが水も風も通すのを経験したから(泣) 有希:それはツライ(泣) 日本発のファストファッションブランドとか、最近オシャレな洋服が増えてるワーキングウエアブランドとか、強い味方ですよね。 香菜:あと、アウトドアブランドにもお世話になってます。 手首&手の寒さ対策は? 有希:発熱性保温肌着の袖を手の甲まで引っ張り出して、その上からバイク用の冬用手袋を着けてます。風が入らないようにしっかりカバーするのがコダワリです。 香菜:私はスキー用の手袋を愛用してます! 有希さんとは重ね方が逆で、手袋を着けた上から上着の袖で覆って、さらに上着の袖を絞って風が入るのを防ぐんです。 有希:バイク用の手袋もスキー用の手袋も、手を動かしにくいのが悩ましいですよね。 香菜:着けないわけにもいかないし、ほんと悩ましい。 首&頭部の寒さ対策は? 有希:愛用してるのは、マイクロファイバー素材のネックウォーマー。ワイヤーが入っていて、目の下から首まで全部覆えるデザインのものがお気に入りです。頭はニット帽で守ってます。 香菜:私はマフラー+ニット帽です。もこもこのボアがついてるマフラーで耳や鼻まで覆って、首はフード付きアウターでカバー。以前はイヤーマフを使ってたんですけど、周囲の音に気づけなかったことがあって、ニット帽に切り替えました。 下半身の寒さ対策は? 香菜:①発熱性保温肌着+②ゆるめのチノパンが定番スタイルです。上半身と比較するとかなり軽装ですね。下半身は動くからあまり重ねられないというのもあるし、そもそも動くからこそ、上半身よりは軽装でも大丈夫な気がします。 有希:私はお風呂介助がないときは、①腹巻きつきの毛糸のパンツ+②裏起毛のレギンス+③裾を絞れるタイプのズボン、と重ねます。お風呂介助があるときは①腹巻きつきの毛糸のパンツ+②裏起毛のチノパンだけ。雨の日はズボンの上から防水スプレーを吹きかけて、水のしみ込みを防ぐための対策も欠かせないです。 香菜:私は、雨の日は着脱が楽な防水性のアウトドア用のパンツを重ね着しています。 足首&足の寒さ対策は? 有希:①裏起毛の発熱素材の靴下+②内側がもこもこしているくるぶし丈の雪山用ブーツ、が定番スタイルです。 香菜:もこもこ重要ですよね。私は、①ふくらはぎくらいまでの長さの分厚い靴下+②足首くらいまでの長さの防寒シューズ、が定番です。ズボンの下に穿いている発熱性保温肌着がくるぶしくらいまで長さがあるから、肌着の上から靴下を重ねてます。 最重要アイテムは『一番下に着る肌着』 香菜:お話していて、防寒のために『どんな洋服やアイテムを選ぶか』はもちろん大事なんだけど、結果、一番重要なのは『一番下に着る肌着』かもしれないって思いました。発熱性保温肌着って肌に密着するから、体が守られてる感じがするのも良いのかも。 有希:うん、どれだけ肌を外気から守れるかで勝負が決まる。看護の仕事は体が資本だから、冷え対策は本当に大切だと改めて感じました。良い看護を提供するためにも、まず自分を守ることが大事ですよね。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

特集 会員限定
2021年11月30日
2021年11月30日

【セミナーレポート】看取りの作法 Q&A≪特別先行公開≫

本記事は2021年11月12日に開催したオンラインセミナー「看取りの作法」のレポート≪特別先行公開≫です。 当日は、家庭医療専門医である、杉並PARK在宅クリニック院長の田中公孝先生にご講演いただき、セミナー中にたくさんのご質問をいただきました。今回は先生のご厚意で、時間内に答えきれなかったご質問からいくつか抜粋し、解説いただきました。 在宅医として看取りに向き合う心構えや、訪問看護師さんへの期待について、先生のお考えを記事にいたしましたので、セミナーに参加された方も参加出来なかった方も是非ご覧ください。 老衰の看取りのケース 老衰の看取りの場合、ゆっくり機能が低下していく経過となりますが、ご本人やご家族に、どのようにお話されますか? ご質問ありがとうございます。老衰については、癌末期と違って予後予測が延びたりすることはお話ししています。また、老衰でご本人に説明するというシーンはあまり無いのですが、もしご本人に聞かれたら「もう〇〇歳ですからね、病気も沢山ありますし、年齢による影響は否めないと思います」とやんわり伝えるイメージです。ご家族については、老衰の看取りを自宅で行う決意をされたことを支持することをお伝えし、「病院よりも自然な形で過ごせますしね」や「癌で痛みがある例などに比べると穏やかで寝ているような時間が増えますよ」と声掛けします。また、食事が摂れなくなってきても無理に口には入れず、お楽しみ程度に、数口試して難しければやめるという助言をします。途中、せん妄状態になる方がいることもお話することで、手足をバタバタする、などの状況を理解してもらうように早め早めに説明します。最後の1週間は、講義でもお話した看取りのパンフレットを説明してお渡しし、それに沿って経過が流れることを確認しながら往診します。老衰の看取りはしっかりとサポートするとご家族も満足度が高い印象です。ただ、食事水分がほとんどとれない高齢者が予後予測よりも1週間以上延びたことが経験上あるので、癌末期の事例よりも非癌の事例の方が難しい面があると以前在宅のエキスパートナースの方がおっしゃっていた話は、実感するところです。 ガン末期の方のお看取りの心構え 今まさに、亡くなりそうなガン末期の利用者様がおられます。呼吸が止まれば連絡をいただくようになっています。私自身とても緊張しています。心構えをお教えください。 私も経験がありますので、よくわかります。心構えとしては、呼吸が止まった時の連絡をいただいたとき、どういう声かけや対応するか、死後の対応や説明をどうするか、を想定して詰めておくと少しは不安が和らぐ印象です。 例えば、ご家族の安心と不安の違いを過去に分析して感じたことなのですが、「人間、漠然としたものをそのままにしていると不安が募る」ようです。なので、専門職でも後のことについて漠然としていると不安が募りやすい側面はあると思いますので、この後のことをしっかり具体的に想定しておくことが大事と思います。また、定期の訪問時によくご家族とコミュニケーションをとっておくことも夜間電話がかかってくるかどうかの際の不安軽減につながります。というのも電話しながら、ご家族の表情や感じが目に浮かぶようになれば、呼吸停止の電話でも面と向かって喋っているような感覚で落ち着いて対応できるのではないかなと思います。 普段のケアのコミュニケーションが、いざというときの助けになる、というところは、看取り直前だけではなく、急変の場面でもそうだと思いますので、我々訪問の専門職は日ごろからぜひ意識したいところです。 誤嚥性肺炎を繰り返す方の往診医との連携について 訪問看護師です。現在、誤嚥性肺炎を繰り返している利用者さんがいます。本人は自宅を希望しており、家族も本人の意向を尊重したいと思われています。ただ、妻が食事形態を理解できず普通食を提供することが続いています。自宅看取りの方向ですすんでいますが、往診医はリスク説明をして、何かあれば救急搬送するしかないと言われています。本人家族の意向を叶えつつ、往診医との連携をうまくとっていくのをどうすれば良いか悩んでいます。 それは難しい状況ですね。。往診医との連携についてですが、まずは往診医以外の他職種と相談して、根回しをしながら担当者会議を開くのが良い気がします。本人家族はもちろんのこと、他の職種がリスクを承知でも自宅看取りを支えたいと思っていることを皆で伝えれば、理解を示してもらえる可能性が出てくるやもしれません。 他の手段としては、往診クリニックのスタッフさん(看護師さん、相談員さんなど)で普段からコミュニケーションとっている方がいたら、まずはその方に相談するというのも1つです。もしかしたら伝え方のヒントや一緒に考えてくれるやもしれません。参考にしてみてください。 家族間の看取りの調整 家族での看取りの方法が一致しない場合、どの様に対応したらよいですか? これも難しい場面ですね。。私であれば、まずは家族全員の意見を聞き、家族間の話し合いを促します。ただそれでも難しい場面もあると思いますので、自宅看取りの場面で想定されること、病院への救急搬送を言われる場面など、この後の様々なシチュエーションを想定しておいて、都度都度の対処に臨む心構えを私はしています。 また、意見がそれぞれ違うご家族と一度は直接面談することも重要です。やはりキーパーソンだけ喋っていて、方針の違うご家族と直接しゃべらないとあまりうまくいかない印象で、私も過去にどんでん返しを受けた事例がありました。できる限り意見の違う家族とも会い、この後予想されるシナリオをいくつか想定しながら、集まった情報をもとに多職種で話し合い、ともに考えるといったプロセスが大事かなと思います。 ちなみに多職種で話し合うと別の視点や情報、アイデアなども出てきますので、なかなか担当者会議となると家族もいて目の前ではできないという場合は、点数などは発生しませんが専門職だけで会議することをお勧めします。 特化型ステーションに在宅医が求めること 病院併設の訪問看護ステーションで働いています。緩和ケア病棟から異動になり、終末期に特化したステーションにしたいと思ってます。在宅医が求める訪問看護師について、何を求めるか、何が必要か、教えて頂きたいです。また、先生が考える特化したステーションとは具体的にどのようなステーションか知りたいです。 あと、在宅では介護者の高齢化や子の介入不足、地域性からか子に頼れない親も多く、介護負担で疲弊してしまうケースも少なくありません。初めての待機当番で夜中にオムツ交換で呼ばれ、翌日、主治医や病院側が訪問看護師の負担を考慮して即緩和ケア病棟に入院させたケースもありました。終末期のバルーンカテーテル留置は積極的に行ってよいのか迷います。 もっと在宅医とうまく連携して家族に寄り添ってできたらと日々葛藤です。本人ばかりに注目せず、もっと家族に寄り添い、グリーフケアにつながる看護ができたらと思いますが、なかなかチームでとなると難しいです。 ご質問ありがとうございます。私が看取りに特化した訪問ステーションと呼ぶ訪問看護は、 ・今回お話した看取りの作法ができている・困難だった事例も多く経験していて、イレギュラーな末期事例でも対応できる・麻薬や鎮静薬の提案タイミングが卓越している・グリーフケアの声かけが非常にうまい・家族の療養方針の迷いにしっかり対峙し、アドバイスができる・時には主治医の迷いに対してもしっかり応えられる・ケアマネジャー/サービス担当責任者に報告・連携・フォローしながら進められる あたりができているところだと思います。 私自身、看取りに卓越した訪問看護ステーションと組むと毎回こちらも勉強させられます。それくらい、人の看取りにまつわる技法というものは、医学の知識をしっかり蓄えながら、コミュニケーションの技術も向上させ、経験、心構え、ご自身のあり方を深めることが必要なのだと思います。おっしゃる通り、本人だけのケアでは在宅の看取りケアとしては片手落ちで、家族のケアをしながら、多職種で目線を合わせて迷いや葛藤が現れる過程をしっかりと取り組めるということが大事だと思います。 エピローグ オンラインセミナー「看取りの作法」にご参加いただきました皆さま、ご質問をいただいた皆さま、誠にありがとうございました。 田中公孝 先生のご講演内容やQ&Aセッションの様子を後日、セミナーレポートとして全2回でお送りします。明日からの訪問看護にいきる内容となっておりますので、ぜひご覧ください。 <セミナーレポート前編につづく> ** セミナー講師:田中 公孝 2009年滋賀医科大学医学部卒業。2015年家庭医療後期研修修了し、同年家庭医療専門医取得。2017年4月東京都三鷹市で訪問クリニックの立ち上げにかかわり、医療介護ICTの普及啓発をミッションとして、市や医師会のICT事業などにもかかわる。引き続き、その人らしく最期まで過ごせる在宅医療を目指しながらも、新しいコンセプトのクリニック事業の立ち上げを決意。2021年春 東京都杉並区西荻窪の地に「杉並PARK在宅クリニック」開業。 杉並PARK在宅クリニックホームページhttps://www.suginami-park.jp/ 記事編集:NsPace

コラム
2021年11月30日
2021年11月30日

ALSの平均寿命が2〜5年なんて嘘だ!

ALSを発症して6年、40歳の現役医師である梶浦さんによるコラム連載です。ALSについてインターネット上の情報が示すのは絶望的な情報。でも、アップデートされた正しい情報が示すのは、「ALSはともに生きていく病気だ!」 検索上位は絶望を誘う情報ばかり ALSと診断された患者や家族は、診断を受けたら、インターネットを使ってALSのことを調べるでしょう。 「ALS」と入力したら、検索の上位に出てくるのは「症状」や「寿命」などのワード。 ALSとはどんな病気か、まだほとんど知らない状態で入ってくるのが、平均寿命が2年〜5年という衝撃的な情報です。多くの人が、そこで、「自分はあと数年しか生きられないのか」と理解し、絶望するのです。 恥ずかしながら、医師である私も、そう理解しました。 発症当時34歳だった私は何の持病もなく、健康そのものでした。それなのに、40歳まで生きられないのか……。そう思い、愕然としました。愕然としすぎて、どこか他人事のようで現実感がなかったくらいですが、ただ漠然とした恐怖と不安に押しつぶされていました。 多くのALS患者さんも、同じような感情を抱くのだと思います。 『呼吸筋麻痺は終末期』は本当か インターネット上の多くの情報は、呼吸筋麻痺を「ALSの終末期」ととらえています。 確かに、ALS患者さんの多くは、気管切開による侵襲的人工呼吸療法(TPPV)をして生きていく道を選びません。実際、TPPVの導入割合は、日本で約 20〜30%と推計されています。 (余談ですが、欧米では数%から10%強そこそこなので、これでも日本は世界からみたら飛びぬけて TPPV が多い国ととらえられています。1)) なぜこんなにも、TPPVで生きていく人が少ないのでしょうか? それは多くの人が、ほとんど体が動かせず、治療法もないこの病気に希望が見いだせないからでしょう。 在宅環境のめまぐるしい進歩を味方に 確かに治療法はまだありません。しかしTPPVで在宅療養していく生活環境は、目まぐるしく進歩しています。特にtechnologyの進歩はすごい! 医学の進歩をはるかに凌駕しています。 ここ数年で、体の一部分が動かせさえすれば、iPhoneやiPadを操作できるようになりました。私も、最初のころは手の指で、手が難しくなってきて次は足の指で、その次は歯で、操作しています。私は今でも、これで、医師として仕事もするし、メールやLINEもするし、さまざまな動画コンテンツだって見ることができるし、本や漫画も読めるし、ゲームだってできる。ちなみに私はドラクエをしています(笑)。 たぶんこれからも、technologyはどんどん進歩していくし、それに伴ってALSの在宅療養環境もどんどん改善していくでしょう。 これだけでも、大きな希望です! 『呼吸筋麻痺は維持期』という考えかた だから私は、「呼吸筋麻痺はALSの終末期」ではなく、「呼吸筋麻痺はALSの維持期」と考えます! 実際、「胃瘻造設をして栄養管理を行いながらTPPVをしているALS患者の生存期間中央値は20年」というデータも都立神経病院から出ています2)。ALSの好発年齢が50〜70歳であることを考えると、十分に天寿も全うできる数字です。 これからは「ALSは死ぬ病気ではなく、ともに生きていく病気」になっていくでしょう。 ALSは20年だって生きられる病気だ 私もALS患者です、「ともに生きていく」ことが大変なのはよくわかります。私の考えを押しつけるつもりもまったくありません。TPPVを選ばないことも、立派な選択肢の一つだと思います。 ただ同じALS患者として、医師として、ALS患者さんには、正しい、アップデートされた情報をもって、TPPVをするかTPPVをしないかを選択してほしいと切に思います。私の記事がその一端を担えれば幸いです。 もう一度言います。 「ALSの平均寿命が2〜5年なんて嘘だ!」 「気管切開して、TPPVをした場合、ALSは20年だって生きられる可能性のある病気だ!」 ** コラム執筆者:医師 梶浦智嗣 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】1)荻野美恵子.『日本におけるALS終末期』臨床神経.48,2008,973-5.2)木村英紀.『長期TPPV下における問題点とその対策について』難病と在宅ケア.27(2),2021,60-3.

特集
2021年11月30日
2021年11月30日

訪問看護あるある座談会 vol.8 女性のお悩み編

生理痛、PMS(月経前症候群)、妊娠、出産…女性ならではのさまざまな体調変化に悩まされ、仕事に影響が出るという方も多いのではないでしょうか。今回は3人の訪問看護師さんにお集まりいただき、女性のお悩みをテーマに、訪問看護の「あるある」についてぶっちゃけトークをしてもらいました。 ■座談会に参加してくれた看護師さんプロフィール みほ訪問看護の実習で暮らしが見える面白さを感じ、新卒から訪問看護師に。オンコールやプリセプターもしている中堅ナース。訪問看護師6年目。 あい病棟、介護施設を経て、家族が訪問看護を受けていた経験から訪問看護ステーションに転職。訪問看護師2年目で現在妊娠中。 さき大学病院に勤務していたが、退院支援から在宅に興味を持ち訪問看護の道へ。訪問看護師は6年目。1児の母。 ライフイベントやホルモンに左右される体でも健康的に働きたい! 訪問看護に行けない…焦りや申し訳なさの妊娠期 あい:実は妊娠していて、安定期に入ったんです。みほ:おめでとうございます。体調は大丈夫ですか?あい:今は大丈夫なんですけど、つわりがつらくて仕事はお休みしてたんです。みんなどうやって耐えてるんだろう?って思いました。さき:私は妊娠中も訪問看護をしていたんですが、ハンドクリームとかボディーソープの香りで「ウッ」としちゃって。匂いに敏感になって排泄ケアもできなかったんです。そういう訪問は他のスタッフさんに替わってもらいました。あい:私も一緒でした。匂い、つらいですよね…。さき:ただ、途中で切迫早産になってしまって、仕事を休むことになったんです。急遽他の看護師さんに訪問を代わってもらって。急な調整も対応してもらえて、やっぱり職場環境って大事だなって思いました。 みほ:調整してくれる職場、ありがたいですね。 さき:でも、調整してもらうことへの罪悪感もあったんです。他の看護師さんは訪問が増えて大変だろうなって思うと、申し訳なくて。自分を追い詰めちゃうタイプだったので、体調だけではなくて精神的にもつらかったですね。 あい:わかります。「迷惑かけてるんじゃないか」って思いますよね。 みほ:私の訪問看護ステーションにも妊娠中に体調が安定しない看護師さんがいたのですが、それでも何かできる仕事がないかって言ってくれて。計画書や報告書を書いてもらうとか、デスクワークのフォローに回ってもらっていました。事務さんじゃ難しいけど看護師ならできるような、手が回っていなかった調整業務などをやってもらえたりもして、ありがたかったです。 さき:私もデスクワークはお手伝いさせてもらってました。軽めでも仕事振ってもらってると、気持ちが楽ですね。ずっと自宅待機だと、現場はどうなってるのかなって焦ったり、取り残されている感じがして「仕事がしたい!」って思っていました。 あい:うちのステーションでは代わりにできるようなデスクワークが少なくて、居場所がない感じがして葛藤しています。もともと不妊治療をしていたので、妊娠前から勤務調整をしてもらうことが多かったんです。不妊治療のこと、上司には話していたんですが、それ以外のスタッフには伝えていなくて。体調不良とか受診で急に休んだりしていたので、周りも「どうしたんだろう」って思っていたみたいです。コミュニケーション不足でギクシャクしてしまった時期もあって、とても悩みましたね。 さき:うーん。不妊治療も大変ですよね。 あい:でも職場の協力のおかげで、妊娠に繋がったので感謝しています。家とかステーションの中でできる業務があると、少しでも貢献できている気がして救われますよね。社会との繋がりも感じられそうです。 子育てと仕事の両立は? みほ:もし自分が子供を産むとなった時、育児と仕事の両立で悩みそうです。近所に親がいるから仕事復帰できたという話を先輩から聞いて、近所に親がいない場合とかはどうしてるのかなと思って。 さき:うちは0歳クラスから保育園に入れたので、早い段階で職場復帰ができました。小さい時はよく体調崩していて、迎えに来てほしいと言われることがあったんですが、職場がすぐ調整してくれてお迎えに行ってました、夫はすぐに帰って来れるような仕事じゃなかったので、本当に職場に助けてもらいましたね。あとは自治体の産前産後ヘルパーを利用したりしてました。3時間おきの授乳は大変だったけど、保育園も助けてくれるし、意外とできるんだなって思いました。私も構えてたんですけど、そんなに構えすぎずでも大丈夫かもしれませんよ。 みほ:そう言ってもらえると、ちょっと安心します。 さき:ズボラでも大丈夫です。笑 あい:未知の世界すぎてイメージつかないですよね。妊娠してみて、こんな大変なんだっていうことばかりで。みんな乗り越えてきたんだと思うと、本当にすごいです。 みほ:さきさんはお子さん産んでから体の変化とかありましたか? さき:産後3年くらいは風邪引きやすくなりましたね。何十年かぶりにインフルエンザにかかりました。体質が変わるんでしょうかね。産後は慣れない育児とか睡眠不足もあってか、1人で戦っている気持ちになっちゃって夫にもイライラしたりしちゃいました。産後の体の変化とか育児のことを男性も理解して、サポートしてくれると嬉しいんですけどね。 あい:電車の中や職場でも気を遣うので、家庭のストレスはなるべく少なくしたいですね。パートナーが気に掛けてくれたり、家事を手伝ったりしてもらえるだけでもとっても助かります。 生理痛やPMSのあるある みほ:女性のお悩みといえば、PMSや生理痛もありますよね。私はPMSがひどくて、頭痛やイライラがくると、これは生理が来るかも、ってなります。生理痛で布団から起きられなくて仕事を休んでしまうことも何度かあって、上司から受診をすすめられたりしました。婦人科に行ったら低容量ピルをすすめられて、飲み始めたらだいぶ楽になったんです。 あい:私もピルを飲んでいたことがあるんですけど、副作用で肌が荒れて、ニキビができちゃったんです。やめようか悩んだんですけど、先生に「3ヶ月頑張ってみて」って言われて、しばらくしたら落ち着いてきたのでよかったです。副作用にはびっくりしましたけど、生理の出血量も減って、今までの量が普通じゃなかったって分かりました。 みほ:普通の量がわからないですもんね。ピルを飲んだ方が体調的には楽なんですけど、受診に行くのが億劫で。今通っている婦人科が混んでいて、待ち時間が読めないし、新型コロナもあるしで足が遠のいてしまって、結局今は飲んでいないんですよ。 さき:定期的に病院いかなきゃですもんね。最近はオンラインでも相談できたりもするらしいですよ。 みほ:オンラインは便利ですね。あとピルを飲み忘れることもあって、結局内服リズムがずれちゃったりして。自分の内服コンプライアンスが悪くて、毎日ちゃんと定期内服できている利用者さんがスゴいと思います。 さき:生理痛とかPMSって個人差があったり、仕事が忙しいとつい我慢しちゃうこともありますけど、自分に合った方法を見つけてうまく付き合っていきたいですよね。最近話題のフェムテックの商品やサービスも増えているみたいなので、活用していきたいですね! 記事編集:NsPace

コラム
2021年11月24日
2021年11月24日

COVID-19×訪問看護の最前線から~後編~

COVID-19が世界にとって未知の病気だった2000年初頭。社会全体が恐怖におびえ大きくうねり始めるなかで、いち早く訪問看護師という立場からCOVID-19と対峙し、現在もケアを続けている岩本大希さん。パンデミックのなかで岩本さんが行ったことや、第5波で看たCOVID-19感染者看護の実例、そして第6波に向けての心構えについて寄稿いただきました。後編では、COVID-19感染者看護の実例を中心にお届けします。 ≪ 前編はこちらからご覧いただけます COVID-19感染拡大の最中、命を守れないのではないかと感じることが増えていく 本文医療機関のひっ迫は一向に改善の様子がない。「入院待機者」という人々が在宅領域にもあふれ出し、2021年の8月にはピークを迎えた。1日10件全てコロナの入院待機者への訪問の日があるほどだった。 ・[感染case3]認知症の親御さんと暮らしている50代の方50代で認知症の親御さんと暮らしている方が動けなくなっていた。酸素、点滴を自宅で開始。なんとか酸素飽和度は上がる、でも呼吸回数は落ち着かず、苦しいだろうことが見てとれた。にもかかわらず、「母をなんとか助けてください。母をお願いします」自分より親御さんのことをとにかく心配されていた。ほぼ同時に親御さんも発熱し陽性となり、自宅にいることしかできない状況であった。誰がお世話するのか? 誰もいない。訪問看護師である自分ができることをやるしかない。親御さんは「私はいいから子どもを助けてくださいお願いします」と僕の手を握りしめる。お互いに想い合っていることがわかる。「はい、ちゃんと看ますので安心してください」と握り返す。親御さんも呼吸が悪くなり酸素を始めた。治療も大事だが、それよりも毎日の食べるものが用意できないので、併せて二人の食事を買い出す。重症化リスクも高いため毎日観察しに訪問し、食べやすいようおにぎりやアイス、うどんなどを買って行った。親御さんは顔もわからないような格好をした僕に驚かないどころか、手を合わせて「神様だわ」と言ってくれた。本当の神様だったらもっと色んな人を助けられるだろうが、僕はご飯を買って観察して励まして見守るだけしかできず、入院できるときを毎日待った。 ・[感染case4]家族と暮らす壮健そうな40代の方着いたときには酸素飽和度は80%代で、すぐに酸素開始するが7リットルでも酸素飽和度の上がりが悪い。オキシマイザーを使うとなんとか96%に。一度帰宅し、次の朝イチでまた訪問すると顔色の印象が悪い。呼吸数も多くマズイと冷や汗が出る。でも入院できないのだ。帰り際、小学校低学年くらいのお子さんが心配そうに犬を抱えて僕を見ていた。翌日以降のため、酸素濃縮器7リットル機をもう1台入れて2台連結し14リットルまで増やすため搬入予定とした。そうしているうちに入院が決まった。危機一髪で命を守れてよかったと安堵したことを覚えている。 ・[感染case5]全員がCOVID-19陽性の外国人家族の方40代の方。酸素飽和度が下がり、酸素が玄関先に届けられたと連絡をもらい導入のため向かう。しかし到着したら民間救急車がきていた。「入院が決まりました」とのこと。良かった。「パパどこいくのー??」窓から子ども3人が顔を覗かせていた。搬送される本人に付きそうパートナーを見ると明らかに顔色が悪かった。家族はみんな陽性と聞いていた。パートナーに「体調悪い?」と聞くと、「呼吸は平気だが吐いていて3日食べられていない」と言う。脱水症状だろう。すぐに依頼元から保健所に確認を頼んだが、パートナーは外国の方で日本語はあまり得意ではなさそうだ、聞き取りに工夫がいるため、きっと保健所の電話に的確に答えられておらず、見逃されたのかもしれなかった。この方も入院できるとよい。しかし両親ともに入院になれば、3人の子どもたちはどうするのだろう? どうすればよいかは保健所に任せるしかなく、次の現場に向かった。 ・[感染case6]犬と暮らす50代男性の方50代の男性でお一人暮らし。犬を飼っている。すでに酸素がなければ酸素飽和度は80%台と重症ラインにあった。点滴やステロイドを使って看護していると、保健所から入院の打診が入る。しかしこの男性は、飼い犬の世話があるため入院をお断りしていた。翌日改めて訪問すると、明らかに悪化している。保健所から僕は「どうにか犬の面倒を見られる人を確保してくれ」と言われた。ペットホテルを探したり、友人に頼んだりしたが、犬の面倒を見る人は見つからなかった。このままでは一晩持つかどうか、苦肉の策で「僕が面倒を見るから入院しませんか?」と提案し、無事入院の運びとなった。その日から一人ぼっちの濃厚接触犬へ、毎日トイレとエサ、水の交換のため訪問した。これでよかったのかわからなかったが、人懐こい犬は僕の来訪を毎日喜んでくれた。その様子を見るとやるべきことをやったかな、と思った。 第6波をいつでも迎えられるよう、連携と準備が必要だ 第5波のなかで、僕はこれら数十人と関わった。全員、ワクチンを打てていなかった人たちだった。予約をして待っていたり、1回目が終わっていたりする人たちばかりだった。日本のワクチン接種スピードの加速は諸外国に比べても脅異的で歴史に残るほどだと思う。しかし残念なことに、デルタ株の驚異的な速さに追いつかれてしまった。これから第6波がくることが予想されている。その日をいつでも迎えられるよう、多くの地域と連帯しながら準備を行い、沢山の人たちが予防行動を取れることを祈っている。 ** 岩本大希WyL株式会社 代表取締役 / ウィル訪問看護ステーション江戸川 所長 / 看護師・保健師・在宅看護専門看護師ドラマ『ナースマン』に影響を受け、「最も患者さんに近い存在」として医療に関わりたいと思い、看護師になることを決意。2016年4月にWyL株式会社を創立し、直営で2店舗、関連会社でフランチャイズ4店舗を運営。(2020年12月現在)「全ての人に“家に帰る”選択肢を」を理念に掲げ、小児、精神、神経難病、困難な社会的な背景があるなど、在宅療養のなかでも受け皿の少ない利用者を中心に訪問看護事業を展開している。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

特集
2021年11月24日
2021年11月24日

筋ジストロフィー

筋ジストロフィーとは、遺伝性の筋疾患です。単一の疾患名ではなく、原因の遺伝子変異による影響が共通する多くの疾患を、まとめて指す呼称です。 病態 筋ジストロフィーは、骨格筋の壊れやすさと再生されにくさを特徴とする、遺伝性の筋疾患の総称です。 筋肉の働きにはタンパク質が欠かせません。筋ジストロフィーでは、遺伝子変異により、タンパク質の生成や機能に異常が生じるために、筋肉細胞の変性・壊死、筋肉の萎縮・線維化をきたします。 その結果、筋力が低下してしまいます。運動機能だけでなく、さまざまな器官・臓器の機能が障害され、全身性疾患の側面もあります。 病型と遺伝形式 病型により原因遺伝子が異なり、発症年齢や症状、遺伝のしかたも異なります。 なお、疾患の原因となる遺伝子変異は、親から引き継がれるだけでなく、突然変異で発生することもあります。 疫学 正確な患者数の統計はありませんが、筋ジストロフィーの有病率は人口10万人あたり17~20人程度と推測されています。病型別ではジストロフィン異常症が人口10万人あたり4~5人、肢帯型は1.5~2人、先天性が0.4~0.8人、筋硬直性は9~10人程度です。 2019年度末時点での、筋ジストロフィーの受給者証所持者数は約4500人で、40〜50歳代が最多です。 症状・予後 主な症状は、骨格筋の機能障害による運動機能低下ですが、多様な器官・臓器の機能障害、合併症を伴います。 骨格筋での呼吸機能低下や嚥下障害、構音障害、心筋の障害による不整脈や心不全、平滑筋障害による便秘やイレウスなどの消化管障害などに加え、眼瞼下垂や眼球運動の障害などが生じることもあります。 一方、筋力低下と運動機能障害はゆっくりと進行し、関節の拘縮・変形を起こします。小児期に発症する疾患では、脊椎や胸郭の変形が生じることもあり、二次障害への早期対応も求められます。 これらの機能障害などは、病型により発症傾向が異なります。 ジストロフィン異常症、肢帯型ジストロフィー 初期症状として、あひる歩行(腰を上下に揺らして歩く動揺性歩行)、転びやすさなどの歩行障害が現れる 筋強直性ジストロフィー 初期症状として、筋強直現象、筋力低下、筋萎縮などがみられる合併症が多様。消化管症状やインスリン抵抗性、白内障なども生じることがある 福山型 知的発達障害やけいれん発作がみられる。網膜剥離など眼症状を伴うことがある 予後は病型により異なります。呼吸不全や心不全・不整脈、嚥下障害などの合併症が、生命予後に大きく影響します。 治療・管理など どの疾患も根本的な治療薬はまだありませんが、ジストロフィン異常症のうちデュシェンヌ型筋ジストロフィーで、遺伝情報の読み取りのメカニズムに作用し病状の進行を遅らせる薬が登場しました。 それ以外は、対症療法が中心になります。●リハビリテーションによる機能維持●嚥下障害に対する胃瘻造設●呼吸不全に対する補助呼吸管理●心不全に対してペースメーカーの植込みなど 特に、呼吸不全や心不全・不整脈、嚥下障害などは生命予後に影響するため、定期的に機能障害や合併症の有無、程度などを評価し、必要時に介入することが大切です。 リハビリのポイント 筋力トレーニングは、筋肉を痛めるリスクから推奨されません。適切な負荷の運動を行い、機能維持に努めます。●早い時期から関節可動域訓練を行い、関節の拘縮を防ぐ●手すり設置、室内の片付けなど、環境整備による転倒予防対策を伝える●病状の進行に合わせ下肢の装具や車いすなどを導入し、生活範囲の維持に努める●呼吸リハビリで肺機能維持を図る●非侵襲的陽圧換気(NPPV)導入後は呼吸管理法を指導する●嚥下機能低下がみられた場合は、嚥下機能訓練や、食形態の見直しを行うなど 看護の観察ポイント 疾患により臓器の障害、合併症などが異なるため、医師に今後の病状や機能障害・合併症の見通しを確認し、症状を継続的に観察することが必要です。なお、筋肉を疲労させない程度であれば、日常生活の制限は原則ないため、患者のQOLにも配慮します。●運動機能障害の状態と変化●心機能や呼吸機能など運動以外の機能障害、合併症徴候の有無と変化●運動機能障害による日常生活への支障●環境整備、転倒予防対策の様子●座位保持のときに息苦しさなどはないか●感染予防のためのワクチン接種を受けているか●呼吸器感染の徴候がないか(重篤化しやすいため、早めに医師につなぐ)●食事や水分は十分に摂取できているか●むせなど嚥下機能の低下がみられるか●家族の身体的・精神的負担の程度など ** 監修:あおぞら診療所院長 川越正平【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】 〇厚生労働省『難病・小児慢性特定疾病.令和元年度衛生行政報告例』2021-03-01.〇難病情報センター『病気の解説(一般利用者向け)』『筋ジストロフィー(指定難病113)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/4522〇難病情報センター『診断・治療指針(医療従事者向け)』『筋ジストロフィー(指定難病113)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/4523〇「筋強直性ジストロフィー診療ガイドライン」作成委員会編.『筋強直性ジストロフィー診療ガイドライン2020』東京,南江堂,2020,172p.〇「デュシェンヌ型筋ジストロフィー診療ガイドライン」作成委員会編.『デュシェンヌ型筋ジストロフィー診療ガイドライン2014』東京,南江堂,2014,216p.

コラム
2021年11月16日
2021年11月16日

COVID-19×訪問看護の最前線から~前編~

COVID-19が世界にとって未知の病気だった2000年初頭。社会全体が恐怖感におびえ大きくうねり始めるなかで、いち早く訪問看護師という立場からCOVID-19と対峙し、現在もケアを続けている岩本大希さん。パンデミックのなかで岩本さんが行ったことや、第5波で看たCOVID-19感染者看護の実例、そして第6波に向けての心構えについて寄稿いただきました。前編と後編に分けてお届けします。 COVID-19という未知の感染症拡大を前に、僕たちの毎日は変わろうとしていた 2020年初頭から国内で流行が始まったCOVID-19。2021年8月に第5波と呼ばれるパンデミックまで僕たちは経験した。僕自身のCOVID-19への対応の始まりは2020年の3月ごろだったと思う。今では当たり前になってしまったが、「緊急事態宣言」という言葉がなにを意味するのかも当時十分にはわからず、「緊急事態宣言ってなんだ? 外国のように都市封鎖がされるのか? 訪問はそもそもいけるのか?」とうろたえていたことを覚えている。でも在宅ケア領域ではまだ直接的になにかCOVID-19の対処することもなく、これから自分たちがどうなるのか、どうすればよいのか、対策をとる必要があるのかも不明な状況だった。そこで、自分にできることを探そうと思った。 緊急時、訪問看護の立場からできることはなにか?の模索が始まった まずは緊急事態宣言下で訪問看護活動はそもそも可能なのか?ということを中央行政に確認する必要があった。なぜなら、訪問看護ステーションにおける現場の対処の指針となるものや、運営に関するガイドラインとなり得る情報がどこにもなかったからだ。通常は学会や職能団体から発信されるものであるが、全国において未知の状況ばかりでまとめようがなかったためそれも当然であった。 そこで僕が始めたのは、正式なものが発信されるまでのつなぎとして、自ら信頼できる同業者たちを集め、有志で現場のためのガイドを作成し、FacebookやTwitterなどで発信していくことだった。僕と同じようにうろたえている人のためになにかできればと思った。 2020年8月、ホテル療養を行うCOVID-19感染者へのサポートをいち早く開始 その直後くらいからだろうか。急激に感染者数が増え始め、訪問看護の現場でもCOVID-19の濃厚接触者となったがん末期の方のお看取りの対応をしたり、沖縄県にあるウィル訪問看護ステーション豊見城では看護協会や保健所と協働して全国でも早い段階でホテル療養者へのサポートを開始したりした。 2021年に入り流行はさらに大きくなっていく。関西において極めて厳しい医療ひっ迫が起き、それに対処した北須磨訪問看護リハビリセンターの藤田愛さんをはじめとした訪問看護師や医師らとともに勉強会などを開きながら、その経験や知恵を取り込み、またWEBメディアや雑誌などで発信することを進めていった。 関西の第4波から少しだけ間をおいて、関東でも第5波が始まると、デルタ株の猛威は強く、医療機関のひっ迫まであっという間であった。入院できずに「入院待機者」という人々が在宅領域にもあふれ出し、保健所をはじめとした行政や医師会や看護協会などの職能団体もその急激な変化に追いつけず、皆が必死にどうにかしようとしていた。 2021年8月、COVID-19第5波はピークを迎え状況は様変わりしていく そのなかの一つに僕たちの訪問看護ステーションもあった。2021年の8月にはピークを迎え、1日10件全てコロナの入院待機者への訪問の日があるほどだった。20代、30代、40代、50代の中等症がほぼ全てを占め、明らかにそれまでの流行とは様相が異なっていた。いくつかケースを振り返る。 ・[感染case1]ご両親と同居している20代の方職場で感染し、毎日嘔吐してしまい数日脱水で苦しんでいた。呼吸も苦しく酸素投与も始めた。点滴で補正しなければ命の危険があるため連日でお伺いする。ご両親の不安もいかほどか、涙されながらの親御さんのお話を伺う。何もできないと思いつめなくても、そばで見守っているだけできっと本人は安心ですよ、と伝え続けた。 ・[感染case2]30代、妊娠初期の方僕と同い年くらいの方へ訪問すると、妊婦さんだった。それに気づいて必要以上に緊張を覚えた。呼吸はまだ平気そうであったが、つわりも重なり食べられず脱水になっていた。ここでも点滴を行う。フェイスシールドと手袋の向こう側で脱水の妊婦さんの血管を探すのは困難で、冷や汗をかきながら集中が必要だった。お母さんはお腹の赤ちゃんのことがとにかく不安であろう、しかし赤ちゃんにコロナがどういう影響を及ぼすのか、僕にはわからず、安心してもらえる言葉を探したいがうまく見つけられなかった。パートナーの方も動揺が強い。点滴して、療養についてできる限りのことを伝える。「来てくれるだけで安心しました…」。ほんとはすぐ入院できればいい、でもそれができない状況だったので、とにかくこれ以上悪化しないことを祈るだけ祈った。 後編では、「認知症の親御さんと暮らしている50代の方」のケースや、「全員がCOVID-19陽性の外国人家族の方」のケース、第6波に向けての準備についてお伝えします。 ** 岩本大希WyL株式会社 代表取締役 / ウィル訪問看護ステーション江戸川 所長 / 看護師・保健師・在宅看護専門看護師ドラマ『ナースマン』に影響を受け、「最も患者さんに近い存在」として医療に関わりたいと思い、看護師になることを決意。2016年4月にWyL株式会社を創立し、直営で2店舗、関連会社でフランチャイズ4店舗を運営。(2020年12月現在)「全ての人に“家に帰る”選択肢を」を理念に掲げ、小児、精神、神経難病、困難な社会的な背景があるなど、在宅療養のなかでも受け皿の少ない利用者を中心に訪問看護事業を展開している。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

特集
2021年11月16日
2021年11月16日

大脳皮質基底核変性症

神経系には多くの難病があり、その実態や症状が似通ったものが多く、確定診断が難しいといわれます。大脳皮質基底核変性症も、そうした難病の一つです。 病態 大脳皮質基底核変性症(だいのうひしつきていかくへんせいしょう:CBD)は、その名前のとおり、大脳皮質と、脳の深部にある基底核の神経細胞が壊死し徐々に減少していく疾患です。 そのため、大脳皮質の障害による症状と、筋肉の強張りなど、パーキンソン病に似た症状が一緒に現れます。大脳皮質の障害による症状は、思う通りに手足が動かせないなどです。大脳皮質には、運動を調節する機能があるためです。 また、症状に左右差があることも特徴です。 神経細胞内に、異常化したタウタンパク質が蓄積し、神経細胞の壊死をきたします。根本の発症原因は不明です。アルツハイマー病や進行性核上性麻痺などでも同様の現象がみられます。 近年の研究から、CBDの症状は非常に多彩であることがわかってきています。症状に左右差のないタイプ、進行性核上性麻痺のような症状がみられるタイプ、失語や認知機能障害が主体となるタイプなども報告されています。 疫学 正確な発症頻度はわかっていませんが、推定で人口10万人あたり2~8人程度と、ごくまれな疾患と考えられています。発症年齢は40~80歳代が中心で、平均は60歳代です。発症に男女差はありません。遺伝性も確認されていますがごく一部で、一般的には遺伝はしません。 症状・予後 大脳皮質基底核変性症でまず特徴的なのは、パーキンソン病に似た症状と、大脳皮質障害による症状を併発することです。 パーキンソン様症状 ●筋強剛●動きがゆっくりになる・少なくなる●ジストニア(手足の筋肉の緊張が持続して力が入ったままの状態になる)●手足の振戦(震え)●ミオクローヌス(手足がぴくつく)●進行すると、姿勢保持障害(体のバランスが取りにくく、転倒しやすい) 大脳皮質症状 ●肢節運動失行(単純な動作がスムーズにできず、ぎごちなくなる)●構成失行(描画、立方体の構成など空間的把握が困難になる)●高次脳機能障害(失語、半空間無視など)●他人の手徴候(片側の手が、他人の手のように勝手に動く)●把握反射(手に触れたものを反射的につかむ)●認知機能障害 初期に自覚しやすいのは、片側の手(または足)の動きがぎこちなくなることや、動きの緩慢さなどです。 加えて、症状に左右差がみられる点も特徴です。典型例では、まず片側の手が思うように動かせないなどの症状が出て、それが同じ側の足に広がり、反対側の手足にも進行していきます。画像でみると、大脳の萎縮の程度にも左右差があります。 進行すると、構音障害、嚥下障害、眼球運動障害がみられることもあります。 予後は悪く、発症から5~10年ほどで寝たきりになり、誤嚥性肺炎や、寝たきりに伴う全身衰弱が死因の多くを占めます。 治療・管理など 治療のポイントとしては、生命を脅かす重大な合併症、たとえば転倒・骨折や誤嚥性肺炎の予防や治療が中心となります。 在宅のCBD患者で特に注意したい点があります。CBDは、病期の早い段階から高次脳機能障害も進行し、認知症に近い位置づけとなります。そのために、胃瘻造設の適応になりづらい、といったことが課題になり得ます。 ですから、早期からの意思決定支援が、より重要だといえます。 リハビリテーションのポイント できるだけ長く身体機能やADLを維持できるように、症状に応じて行います。運動療法では、パーキンソン病や進行性核上性麻痺に準じてリハビリが計画されます。 ●筋力の維持のための運動●病状の進行につれ体が固くなるため、緩和するためのストレッチ●動きのぎこちなさを改善する目的での訓練●拘縮を防ぐための関節可動域訓練●嚥下機能低下がある場合は、嚥下機能訓練の検討や、食形態の見直しを考慮する●言語障害がある場合は、言語訓練を検討し、コミュニケーション方法を考慮する●転倒しやすいため、環境を観察し、手すりの設置など対策を検討する●けが防止の環境整備(家具の角を保護材で覆う、物を整理するなど)●左右の手足に症状の差があるため、補助具も有効 など 看護の観察ポイント ●ADLや身体機能の変化●日常生活への支障●転倒の頻度や状況などの確認●家庭環境の転倒リスク●嚥下機能の変化●ADLやコミュニケーション状態、精神状態の変化●半側空間無視の徴候(食卓上の同じ側の食べ物を必ず残すなど)の有無●家族や介護職とコミュニケーションがとれているか●認知症を疑う症状出現の有無●家族の身体的・精神的負担の程度 など ** 監修:あおぞら診療所院長 川越正平 【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】 ○難病情報センター『病気の解説(一般利用者向け)』『大脳皮質基底核変性症(指定難病7)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/142○難病情報センター『診断・治療指針(医療従事者向け) 』『大脳皮質基底核変性症(指定難病7)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/291○「認知症疾患診療ガイドライン」作成委員会『大脳皮質基底核変性症』『認知症疾患診療ガイドライン2017』東京,医学書院,2017,289-94.

特集
2021年11月9日
2021年11月9日

Dr.高山が直伝 在宅のノロウイルス感染症対策(後編)

急性胃腸炎を引き起こす病原体の中でも、特に問題になるノロウイルス。この悩ましい感染症について、在宅ケアでの対策を考えてみましょう。後編では、具体策を解説します。 在宅患者が発症しているとき 接触予防策 訪問スタッフは、厳格な接触予防策をとってケアにあたります。すなわち、手袋と、袖まであるガウンを着用します。 ケアが終了したら、丁寧なガウンテクニック(汚染された外側を触れないこと)に従って手袋とガウンを脱ぎ、家庭の洗面台をお借りして、流水による手洗いを行ってください。 汚染時の処理方法 環境が嘔吐物や排泄物で汚染された場合には、乾燥して飛散する前に処理することが大切です。 家庭における嘔吐物や排泄物の処理方法  1.処理しようとする人は、使い捨ての手袋・マスクを着用する2.嘔吐物や排泄物をペーパータオルなどで静かに集めて、ビニール袋に入れる3.嘔吐物や排泄物で汚染された場所を塩素系消毒薬で浸すように拭き、その後、水で拭く4.使ったペーパータオル・手袋・マスクをビニール袋に入れ、全体が浸る量の塩素系消毒薬をかけてから、しっかり縛って廃棄する5.最後に、流水と石鹸でよく手を洗う 訪問スタッフだけでなく、できれば家族にも指導してください。 器材の取り扱い 血圧計のマンシェットや、聴診器といった、ノンクリティカル器材については、可能なら本人専用として、次の利用者と共用しないことが望ましいでしょう。 大切なことなので繰り返しますが、エタノールで清拭してもノロウイルスは不活性化できません。どうしても共用せざるを得ない場合には、次亜塩素酸ナトリウム溶液で消毒してください。 家庭で適切な濃度の溶液を作製する方法は、前編でお伝えしたとおりです。 いつまで必要か? こうした対策の実施期間については、いまだ考え方は定まっていません。 厳格な立場をとろうとすると、ウイルスが排出されている可能性のある2週間以上は続ける必要があることになってしまいます。しかし、排出されていることと、感染性があることは必ずしも一致しないと考えられます。米国CDCのガイドラインでは、ウイルス排出が「高水準」である期間は隔離を行なうことが望ましいとし、その期間について「通常は症状が軽快した後の24~72時間」という考えを示しています2)。 ちなみに、沖縄県立中部病院の在宅チームでは、少し長めにとって「症状が軽快してから5日間」を接触予防策の期間としています。3~5日間の範囲で、現実的かつ可能な対策を、事業所ごとに決めていただくのがよいと思います。 なお、症状を認める在宅患者のケアを担当した訪問スタッフは、急性胃腸炎の接触者とみなします。これはスタッフの家族に症状を認めているときも同様です。接触後3日間は事業所の責任者が症状を確認し(自己申告はあてになりません)、症状出現があれば、すぐに就業停止としてください。 同居する家族が発症しているとき 非常に悩むところです。正直なところ、ノロウイルスの家庭内における感染拡大を確実に防ぐことは困難だと思います。特に、(在宅患者さんが寝たきりではなく)トイレを家族と共用している場合には、感染してしまう可能性はさらに高まります。 とはいえ、腎不全など基礎疾患がある在宅高齢者にとって、急性胃腸炎は命にかかわりかねない感染症です。現実的な範囲での対策について、家族に提案していきたいところです。 食事の準備 まず、症状のある家族は、在宅患者に提供する食事の準備にかかわらないことが原則です。ほかの家族にがんばっていただくか、ヘルパーさんに集中的に入っていただくなどの対応を、訪問看護師から提案していただければと思います。 どうしても症状のある家族が食事の準備をしなければならないときは、すべての手順において手袋を着用し、サラダなどの生モノの提供は避けること。85℃以上かつ1分以上の加熱調理を原則とします。 食器を共用しないことも大切です。特に、症状のある家族が箸をつけた惣菜を、在宅患者が後から口にしないよう、あらかじめ取り分けておくよう指導しましょう。 手洗い もう一つ大切なことは、こまめに手を洗っていただくことです。特に、トイレの後とケアを開始する前には、石鹸を使って丁寧に洗うように伝えます。 また、風呂については症状がある家族が在宅患者よりも後に入り、リネン類は共用しないようにします。 症状のある家族がトイレや風呂を使用した後には、次亜塩素酸ナトリウム溶液で清拭するほうがよいかもしれません。 ただし、どこまでやれるかは家族次第です。現場で続けられず、破綻することが明らかな対策を、専門家として提案すべきではありません。ある意味、それは責任転嫁ともいえます。家族に挫折感や罪悪感を残すことがないよう、家族ごとに「可能な感染対策のレベル」と「対策疲れに陥らない期間」を見極めてください。 訪問スタッフが発症しているとき 嘔気や下痢、発熱などの症状を認める場合は、診断が確定しているか否かに関わらず、症状が消失するまで仕事を休んでください。 感染対策が励行できることを前提として、症状が消失すれば就業は可能です。すなわち、ケアの前に手を洗い、手袋を着用するなど接触予防策を行ってください。こうした対策は、少なくとも症状が消失してから5日間は徹底するようにします。 ** 執筆者高山義浩沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科 副部長 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】 1)Gerald,LM.et al.Mandell,Douglas,and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases.6th ed.London,Churchill Livingstone,2004.2)CDC.Immunization of health-care workers:Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices(ACIP)and the Hospital Infection Control Practices Advisory Committee(HICPAC).MMWR.46(RR-18),1997,1-42.3)CDC.Prevention and control of influenza.MMWR.53(RR-6),2004,1-40.4)CDC.Updated norovirus outbreak management and disease prevention guidelines.MMWR.60(RR-3),2011,1-15.

特集
2021年11月9日
2021年11月9日

脊髄小脳変性症

脊髄小脳変性症とは、小脳を中心とした神経系の障害によって、運動失調症をきたす複数の疾患を、まとめて指す呼び方です。 病態 脊髄小脳変性症(せきずいしょうのうへんせいしょう)とは、単一の疾患名ではなく、主に小脳の障害による運動失調症をきたす疾患の総称です。例えば、多系統萎縮症の一部に、運動失調症を呈するものがあり、それらは脊髄小脳変性症に分類されます。 小脳失調とは 小脳は、平衡感覚や運動、姿勢を制御しています。姿勢、手足の動きのバランスをとる、体中の複数部位の動きが協調するよう同時にコントロールする、といった運動調節機能を担っています。 小脳が障害されると、小脳失調が現れます。小脳失調とは、スムーズな動きができなくなり、歩行時にふらつく、手が震える、ろれつが回らないなどの症状です。 小脳失調があっても、その原因が特定の要因によるもの(脳梗塞・脳出血や脳腫瘍、感染症、自己免疫疾患、栄養素欠乏、薬剤性など)は、脊髄小脳変性症とは呼びません。 脊髄小脳変性症には、小脳失調だけではなく、脊髄病変もしくは錐体路障害がある場合もあります。 疫学 脊髄小脳変性症の患者数は全国で3万人超と推定されています。 脊髄小脳変性症は、遺伝性のものとそうでないものに大きく分けられます。全体の3分の2が、遺伝性ではない脊髄小脳変性症(孤発性)です。多系統萎縮症と、皮質性小脳萎縮症の2つが、孤発性脊髄小脳萎縮症です。 残り3分の1が遺伝性の疾患で、代表的なものにマシャド・ジョセフ病(SCA3)や、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)などがあります。遺伝性の脊髄小脳変性症では、多くの疾患で、原因となる遺伝子が明らかになっています。 受給者証所持者数 2019年度末時点での、脊髄小脳変性症の受給者証所持者数は約2.7万人です。そのうち、70歳以上が約1.4万人と、過半数を占めています。(※1)なお、制度上、脊髄小脳変性症と多系統萎縮症とは、別の指定難病として認定されています。 症状・予後 脊髄小脳変性症の代表的な症状には、立ち上がりや歩行時にふらつく、手を動かそうとすると震えてうまく使えない、舌がもつれてうまく話せないといったものがあります。体は動かせるのですが、いくつもの動きを協調させることが困難になり、スムーズな動きができなくなるためです。 小脳失調よりも、足の突っ張りや歩行障害などの症状が目立つ、脊髄病変がある疾患もあります。脊髄後索病変があると末梢神経障害の合併、大脳基底核に病変があるとパーキンソン症状や不随意運動の合併がみられます。このような病型は多系統障害型と呼ばれます。 脊髄小脳変性症の予後は疾患によりかなり異なりますが、症状の進行は非常に緩やかで、急激に悪化することはありません。疾患によっては、進行すると嚥下障害や呼吸や血圧の調節障害などが現れることがありますが、多くの場合はコミュニケーションをとることは十分できます。 治療法 疾患により治療法は変わります。症状に応じて対症療法が行われます。小脳失調に対しては、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)製剤などが使用されます。また、足の突っ張りなどの神経症状には筋弛緩薬が使用される場合もあります。 小脳失調を中心とする脊髄小脳変性症では、集中的なリハビリテーションもバランスや歩行の改善に効果があるとされています。 リハビリテーションのポイント ●環境整備や福祉用具の検討など、症状や生活習慣に合わせた対策をとる●本人の歩行能力とバランス能力に応じたプログラムを計画する●基本動作訓練と組み合わせ、ADLに関連した作業療法も検討する●嚥下障害に対し、食形態や食事姿勢、食器の見直しなども含めて摂食嚥下リハビリを検討する など 看護の観察ポイント ●小脳失調以外は患者によって症状が異なるため、疾患名や症状の見通し、ADLへの影響などを、医師に確認する●転倒予防策など環境整備の状況を確認する●どのくらいの頻度・どんな状況で転倒するのか確認する●日常生活やセルフケアに支障をきたす症状の有無を確認する●症状の変化を確認する●患者が、家族・介護職など周囲と意思疎通を十分に図れているかを確認する●患者・家族が不安やストレスを抱えていないかを確認する ** 監修:あおぞら診療所院長 川越正平【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】 ※1 厚生労働省『難病・小児慢性特定疾病.令和元年度衛生行政報告例』2021-03-01.○難病情報センター『病気の解説(一般利用者向け)』『脊髄小脳変性症(多系統萎縮症を除く)(指定難病18)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/4879○難病情報センター『診断・治療指針(医療従事者向け)』『脊髄小脳変性症(多系統萎縮症を除く)(指定難病18)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/4880○「脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン」作成委員会編『脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン2018』東京,南江堂,2018,297p.

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