災害看護に関する記事

【愛知県蒲郡市の災害対策】複数の自治体との合同訓練&ボートレース場の電源利用
【愛知県蒲郡市の災害対策】複数の自治体との合同訓練&ボートレース場の電源利用
インタビュー
2025年6月3日
2025年6月3日

【愛知県蒲郡市の災害対策】複数の自治体との合同訓練&ボートレース場の電源利用

近年、大規模な自然災害が連続して発生し、南海トラフ地震への備えも求められるなか、医療現場における防災対策の重要性はますます増しています。より質の高い備えに寄与できるよう、先進的な防災対策を行う事例をご紹介。今回は、愛知県蒲郡市医師会の会長を務める近藤耕次先生にお話を伺いました。 【プロフィール】近藤 耕次 先生こんどうクリニック院長/蒲郡市医師会 会長藤田保健衛生大学(現:藤田医科大学)および同大学院を卒業。1989年に蒲郡市民病院に入職し、内科・神経内科部長を経験した後、2002年にこんどうクリニックを開業。2020年に蒲郡市医師会の会長に就任。 周辺自治体や企業と連携。蒲郡市の防災対策 ―蒲郡市では、どのような防災対策をしているのですか? 毎年、市民参加型の「市民総ぐるみ防災訓練」を市内の中学校を中心に実施し、災害初動期における対応を訓練しています。 訓練内容は、 ・多数傷病者を想定したトリアージ訓練・救護本部の設置および情報処理訓練・市民による避難所の開設・運営訓練・避難所と災害対策本部との状況報告訓練 など、多岐にわたります。消防団・警察官、歯科医師会、薬剤師会、蒲郡市医療救護所登録看護師など、多職種の協力を得ながら実践的なプログラムを組んでいるんです。 そのほか、全市民を対象とした「シェイクアウト訓練」や、災害用伝言ダイヤル「171」の体験訓練なども行われているほか、2025年1月には豊橋・豊川・田原の各市の自治体と連携して「東三河南部医療圏災害時保健医療活動訓練」も実施しました。主に南海トラフ地震を想定し、災害時の医療対応をシミュレーション。竹島ふ頭地区の重症患者をドクターヘリで災害拠点病院の蒲郡市民病院まで搬送する流れを確認し、伝達方法やネットワーク体制の課題を洗い出しました。 なお、医師会は蒲郡市防災会議にも参加しており、発災時の救護所の開設方法や医薬品・血液製剤の確保の流れなど、継続的に防災対策の見直しと確認を行っています。今後も繰り返し防災訓練の実施や検討・改善を行い、体制を整えていきたいと考えています。 ―在宅療養者の災害対応についても教えてください。 はい。現段階では、人工呼吸器利用者や在宅酸素療養者、透析が必要な方を対象に、以下のような避難環境の整備を進めています。 人工呼吸器利用者蒲郡市市民病院で優先的に受け入れ。在宅酸素療法療養者災害時も安定的に電源供給ができる「蒲郡競艇場(ボートレース蒲郡)」に救護所を開設し、誘導。医療機器メーカーに必要分の酸素ボンベ等を搬入してもらう。透析が必要な患者市内に2ヵ所ある「透析クリニック」が受け入れ。ポンプ車を稼働させ、クリニックに水を供給する。 ただ、避難先を決めておくだけでは不十分です。特別対応を要するすべての方の安全を守るには、その人数や疾患の詳細を把握しておかなければなりません。医療機関も蒲郡市全体の患者数は把握していませんし、蒲郡市在住で市外の医療機関にかかっているケースもあります。周辺自治体と連携しながら全体把握のためのしくみをつくる必要があったのです。 そこで、人工呼吸器利用者と在宅酸素療養者に関しては、行政に申請して「蒲郡電源あんしんネットワーク」に登録いただくしくみをつくっています。また、複数の自治体が在宅医療・福祉統合型支援ネットワークシステム「東三河ほいっぷネットワーク」(多職種間で情報を共有したり、患者さんやご家族側から情報発信をしたりできるシステム)に、災害関連情報を確認できる機能を新設しています。 「私はどうなるの?」 災害対策に注力するきっかけ ―近藤先生が防災対策に注力されるようになったきっかけについて教えてください。 きっかけは、筋萎縮性側索硬化症(ALS)を患い、意思伝達装置がないと意思表示ができない患者さんから、「もし電気が止まってしまったら、私はどうなるの?」と質問されたことです。当時の私は、その方に何も答えられませんでした。そこで、蒲郡市役所の長寿課や蒲郡市長、中部電力、医療機器メーカーなどに相談し、踏み込んだ防災対策を検討し始めたんです。蒲郡競艇場を避難所として活用する案も、その過程で蒲郡市から提案いただきました。 ―行政を巻き込みながらの対策づくりが実現できた理由や、協力を打診する際に気を付けていることについて教えてください。 私ども医師会が先頭に立ち、行政の中でも医療的観点からの防災対策の強化に課題感を強くもっていた蒲郡市役所の長寿課と、トップである市長の両方に積極的に働きかけたことが功を奏したのではないかと感じています。 また、周囲に相談したり協力を求めたりする際は、笑顔で柔らかいコミュニケーションをとることを意識しています。お互いが安心感をもち、考えをきちんと伝え合える関係を目指したいと思っています。 今後のカギは「共通認識づくり」 ―防災対策のさらなる拡充に向けて、現状課題として考えている点があれば教えてください。 より幅広く、深い共通認識(ルール)づくりをしなければならないと考えています。例えば、「被害状況がどれほどのレベルであればほかの市町村への応援要請を出すか」という基準の設定。これが曖昧だと、判断を間違える可能性が高まり、被害が拡大したり、せっかくの応援をもてあましたりしかねません。報告様式の統一も必要でしょう。現在は市町村ごとに形式や書式が異なるため、情報の漏れや過多が生まれるリスクがあります。災害時の情報整理は非常に難しいので、統一を急ぎたいですね。 また、救護所の備品、管理の見直しも重要です。「災害発生から3日間ほどは外傷の手当てが中心になる」といったように、リアルな状況を想定した上で、フェーズによって必要な備品の検討が必要だと考えています。管理の面では、特に薬剤の使用期限は徹底的にチェックしなくてはなりません。飲み薬は災害発生から1週間程度で供給体制が整うとされており、過度な備蓄はコスト増にもつながる可能性も。慎重な判断が求められます。 そして、連絡手段の確保も大切ですね。携帯電話は電池切れや通信障害で使用できなくなる可能性があるため、それ以外の手段もあらかじめ検討しておく必要があります。安否の情報を関係者で共有するためのルールづくりも含めて、災害の備えとして欠かせません。 ―在宅療養者の方向けの災害対策についてはいかがでしょうか? 人工呼吸器利用者や在宅酸素療養者、透析患者の方々以外にも多様な疾患・障害を持つ方がいらっしゃいますから、対象をより広げて対策を講じなければならないと考えています。 蒲郡市では福祉避難所を設けていますが、現状ではすべての方に対応することはできません。ニーズに応じて複数の福祉避難所をつくる案を検討しているものの、災害時は一人ひとりが「適切な福祉避難所」に移動できない可能性もあるでしょう。ベストな対策を引き続き検討していきたいと考えています。 訪問看護師に伝えたい防災対策のポイント ―災害対策に関して、訪問看護師の皆さまへアドバイスやメッセージをお願いします。 訪問看護の事業所単位で取り組みたいことのひとつに、利用者さんの「要介助度ランク」の検討があります。例えば、災害発生直後に優先して訪問すべき方、1週間以内に訪問すべき方などをあらかじめ設定しておくことで、限られた人員でも効率的に対応することができます。災害時は、基本的に時間の経過とともに支援人員が増えていくもの。だからこそ、特に人手が足りない災害直後の混乱期を乗り切るための備えが重要になります。 また、各事業所でBCP(業務継続計画)を策定しているかと思いますが、日頃から少ない人員で運営している事業所は特に、災害時に単独で対応するのは限界があります。重要なのは、地域の訪問看護ステーションが協力し、「自分たちは同じ地域のグループなんだ」という意識をもって地域BCPを考えていくことではないでしょうか。 関連記事:[7]連携の観点から事業所のリソース不足の解消方法を考えてみよう 最後にお伝えしたいのは、災害時は訪問看護師さんご自身とご家族の安全確保を最優先にしていただきたい、ということです。その上で、可能な範囲内で仕事にあたればよいと思います。どうか「医療従事者だから利用者さんを優先しなければ」と思い詰めないでください。 ※本記事は、2025年3月の取材時点の情報をもとに構成しています。 取材・執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

災害発生時の在宅呼吸管理 訪問看護師への期待
災害発生時の在宅呼吸管理 訪問看護師への期待
インタビュー
2024年2月27日
2024年2月27日

災害発生時の在宅呼吸管理 訪問看護師への期待/福永興壱先生インタビュー

在宅酸素療法(HOT)や在宅人工呼吸療法(HMV)の黎明期にかかわってこられた慶應義塾大学 福永興壱先生。今回は、HOT患者さんやHMV患者さんにとって不安の大きい大震災をはじめとした災害発生時において訪問看護師さんに期待することについてうかがいます。 >>前編はこちら在宅呼吸管理の進歩で「自宅に帰りたい」を実現/福永興壱先生インタビュー 慶應義塾大学医学部 呼吸器内科 教授福永 興壱(ふくなが こういち)先生1994年に慶應義塾大学医学部卒業後、慶應義塾大学大学病院研修医(内科学教室)、東京大学大学院生化学分子細胞生物学講座研究員、慶應義塾大学病院専修医(内科学教室)、独立行政法人国立病院機構南横浜病院医員、米国ハーバード大学医学部Brigham Women’s Hospital博士研究員、埼玉社会保険病院(現:埼玉メディカルセンター)内科医長、慶應義塾大学医学部呼吸器内科助教、専任講師、准教授を歴任。2019年6月に教授に就任し、2021年9月より同大学病院副病院長を兼任。2023年現在、日本で結成されたコロナ制圧タスクフォースの第二代研究統括責任者を務める。 東日本大震災発生時は患者さんの安否を確認 ―今年も新年早々、わが国では大きな震災に見舞われました。近年、毎年のように全国で自然災害が発生しています。在宅で酸素療法(HOT)や在宅人工呼吸療法(HMV)を受ける患者さんにとって災害は大きな不安要素ですが、例えば東日本大震災のとき、先生はどのような対応をされましたか。 患者さんにとってもっとも深刻なのは「停電」の問題です。HOTもHMVも電源の確保が必要不可欠です。電気の供給が止まってしまうと、生命に直結しますから。 東日本大震災が起こったときは、東北だけでなく、関東でも数時間にわたる停電が何度も起こりました。あのとき、当院では患者さん一人ひとりに電話をかけて、状況確認を行いました。当院の患者さんのすべてが在宅医療を受けているわけではないからです。特に心配だったのは、外来に月1回来られる患者さんたちのこと。電話をかけると、皆さん、すごく安心してくださいました。 また、物資面でも医療機器メーカーさんと連携して対応しました。当院の患者さんのリストを作成し、それをメーカーさんに渡したところ、酸素流量から必要な容量を計算して、患者さん一人ひとりに酸素ボンベを届けてくれたんです。心強かったですね。患者さんも、「メーカーの人が酸素ボンベを届けてくれるから」と伝えると安心されていました。 日ごろの病状把握が災害時のトリアージにつながる ―自然災害が発生したとき、在宅で療養されている患者さんに対して訪問看護師さんが果たせる役割や、日ごろから意識してかかわってほしいこと、期待することを教えてください。 先ほどお話しした患者さん一人ひとりへの電話での状況確認の際、月1回外来にいらっしゃる患者さんもその電話で安心してくださったのですが、訪問看護を利用している患者さんはより重症な方が多く、訪問看護師の皆さんはもっと密接に患者さんにかかわっていると思います。だからこそ、災害時に訪問看護師の皆さんとコンタクトをとれることが患者さんの安心感につながるはずです。災害時に迅速に患者さんとコンタクトをとる方法を日ごろから考えていただくことが重要なのかなと、あのときの経験で思いました。 また、HOTを受ける患者さんの状態にもレベルがあります。例えば、動かなければ何とかSpO₂ 90%以上を保てる方もいますよね。患者さんの病状が分かる訪問看護師さんであれば、コンタクトをとるときに「今はあまり動かないで静かにしていましょう」と安静を促すことができます。一方、高流量の酸素療法を受けている患者さんであれば、酸素は命綱ですから、いち早く酸素ボンベを持って行かないといけません。 訪問看護師さんは、われわれ以上に患者さんの病状を把握していると思います。担当患者さんが多くても、日々の病状によってトリアージすることが可能になるのではないでしょうか。既に実施されている方も多いと思いますが、日ごろから病状を把握していることが「緊急時のトリアージにつながる」、そういう観点で普段から備えていただけると、患者さんも安心されるのではないかと思います。 COVID-19で感じた大学の一体感 ―2020年には新型コロナウィルス感染症(COVID-19)が世界規模で流行しました。先生はCOVID-19に対する診療チームのリーダーをされていたとうかがっています。そのときのことも教えてください。 COVID-19のときは、慶應義塾大学全体で、それこそ臨床と研究が協働してCOVID-19に立ち向かいました。診療チームでは、呼吸器内科が先頭に立って、内科、外科、救急科、麻酔科など、さまざまな診療科が連携して患者さんに対応できる体制を整えていきました。 振り返ってもすばらしかったと思うのは、精神科の先生たちが「心のケアチーム」をつくってくれたことです。今でこそ「心のケア」は当たり前のように普及していますが、患者さんだけでなく、看護師をはじめとする医療従事者に対しても専門家がしっかりと心のケアにあたってくれました。 有用な医療情報に積極的にアプローチを ―最後に訪問看護師さんに向けてメッセージをお願いします。 結核病棟を持っていた国立病院で働いていたころ、そこで初めて在宅医療や訪問看護に触れ、地域医療の重要性を実感しました。現在のようなシステム化されていない時代の肺がん患者さんを、その病院の医師や地域の訪問看護師さんは非常にきめ細かくケアされていて、疼痛コントロールや酸素量の調整など、最期の看取りまでかかわっていらっしゃいました。そのときに初心にかえったというか、やはり医療は一気通貫なんだ、こうして成り立つのだと感動した覚えがあります。 在宅での看護は、病院のように整った環境で行う看護以上の大変さがあると思っています。在宅には患者さんの「生活」があります。そのため、訪問看護師さんは患者さんの生活を理解できないといけない、そう考えています。その一方で、在宅酸素療法の指導や援助もそうですが、近年、訪問看護で実施される医療処置の件数は年々増加しています。在宅での看護力が高まっている証だと思いますが、新たに学ぶことも増えてきているのではないでしょうか。生活を支えるケアだけでなく、高度な医療的ケアを実践するには最新の知識と技術が必要だと思います。 近年、デジタル化が急速に進み、手軽にアクセスできるWeb情報も増えています。さまざまなところで発信されている有用な医療情報に積極的にアプローチし、現場での問題解決に活用していただきたいと思います。学び続けることで自分の心の負担も減らせるでしょうし、レベルアップにも役立つ。それが結果的には患者さんのケアにつながっていくはずですから。取材・執筆・編集:株式会社照林社

特集
2021年1月20日
2021年1月20日

いざという時のために。ステーションの災害対策

近年、台風や豪雨による災害が各地で起こっています。特に2011年の東日本大震災では、災害対策の重要性を身をもって感じた方が多いのではないでしょうか。 もし訪問先で地震が起こった時、どう行動したらよいか、あなたのステーションには指針がありますか? これから起こりうる首都直下型地震などの災害に、訪問看護ステーションはどう備えていくと良いのか、特集にまとめました。 「ホームケア防災ラボ」で地域に貢献 都内で展開するケアプロ訪問看護ステーションでは、DMATの経験があるスタッフと災害看護専門看護師の資格を持ったスタッフが中心となり、「ホームケア防災ラボ」を運営しています。 「地域を支えるケアスタッフが災害対策に取り組むことは、発災後の地域資源を守っていくという視点でも効果的である」と在宅医療事業部長の金坂さんは話します。 ホームケア防災ラボでは、情報発信や勉強会を定期的に開き、災害時にサービス提供を継続できるステーションを1ヵ所でも増やす取り組みをしています。詳しくはこちらの取材記事をご覧ください。 災害時対応を変えるためのチャレンジ(ケアプロ株式会社 金坂宇将) 「災害時個別支援計画」で利用者さんにも意識付けを 愛知県にあるテンハート訪問看護ステーションでは、愛知医科大学の下園美保子先生と共同で「災害時個別支援計画」の作成をしています。 作成のきっかけは「一般的な災害対策マニュアルを利用して実施した災害訓練での失敗」だと、管理者の佐渡本さんは語ります。利用者さんの個別性が高く、いかに現実に即していないかを実感したそうです。 そこで下園先生に相談したところ、利用者さんに個別に災害支援計画を作ってみてはどうかという話に至りました。 個別に支援計画を作成することで、災害時に利用者さんが焦らず行動できるだけでなく、普段の生活でも災害に対して準備する行動変容が見られたそうです。 災害が発生した際は、限られた時間とマンパワーの中で、何人もの人が連絡や訪問をするなど、無駄な動きをしているのが現実です。 在宅医療の連携ツールとしても、この災害時個別支援計画は今後広く利用されるようになるかもしれません。 もしもに対応できる!災害時支援計画(テンハート訪問看護ステーション 佐渡本琢也) 高齢者こそ災害準備を 東京都健康長寿医療センター研究所の涌井智子先生は、高齢者にとっての災害準備の必要性を訴えています。 高齢者は、災害発生直後から72時間後までは、体力的・精神的な理由で避難が遅れてしまうと言われています。また、災害発生後72時間以降は、避難所などの生活環境への変化に耐えられず、身体機能や認知機能の低下が起こるリスクがあります。 そこで、災害発生前の対策を充実させることで、高齢者自らが、災害時に生き残る可能性を広げることができるそうです。 高齢者の防災準備あるあるや、今日からできるプチ避難準備について、涌井先生が解説しています。詳しくはこちらのコラムをご覧ください。 高齢者にとっての災害対策(東京都健康長寿医療センター研究所 涌井智子) 異なる支援ニーズへの対応と地域コミュニティ 今日からできるプチ災害準備(東京都健康長寿医療センター研究所 涌井智子) ついつい後回しにしがちですが、いつ起きてもおかしくないのが災害です。これを機に、ステーションの災害対策について見直してみてはいかがでしょうか。

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