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大賞エピソード漫画化!「お母さん~看護の襷をつなぐということ~」【つたえたい訪問看護の話】
大賞エピソード漫画化!「お母さん~看護の襷をつなぐということ~」【つたえたい訪問看護の話】
特集
2025年7月22日
2025年7月22日

大賞エピソード漫画化!「お母さん~看護の襷をつなぐということ~」第3話【つたえたい訪問看護の話】

NsPaceの特別イベント「第3回 みんなの訪問看護アワード」で募集した「つたえたい訪問看護の話」。今回は、株式会社ウッディ 訪問看護ステーションはーと(東京都) 木戸 恵子さんの大賞エピソード「お母さん~看護の襷をつなぐということ~」をもとにした漫画の第3話(最終話)をお届けします。 >>全受賞エピソードはこちらつたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!大賞・審査員特別賞・ホープ賞・協賛企業賞【2025】つたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!入賞【2025】  「お母さん~看護の襷をつなぐということ~」前回までのあらすじ4人のお子さんがいるえみさんは、末期の肺がんを患っている。子どもたちと最後の思い出をつくるために、主治医の許可も得て宮崎から東京に飛行機で移動していたが、容体が急変して緊急入院。移動には高いリスクを伴うが、えみさんや夫は「宮崎へ帰りたい」と切望しており、病院は訪問看護師の木戸さんに相談した。その後、えみさんは木戸さんが運営するホームホスピスで、体力をつけるために3日ほど休養。いよいよ、在宅医のW先生やドライバーさんたちとともに、車で宮崎へ向かう。<主な登場人物>>>第1話はこちら大賞エピソード漫画化!「お母さん~看護の襷をつなぐということ~」第1話【つたえたい訪問看護の話】>>第2話はこちら大賞エピソード漫画化!「お母さん~看護の襷をつなぐということ~」第2話【つたえたい訪問看護の話】 「お母さん~看護の襷をつなぐということ~」第3話(最終話)   漫画:広田 奈都美(ひろた なつみ)漫画家/看護師。静岡県出身。1990年にデビューし、『私は戦う女。そして詩人そして伝道師』(集英社)、『ナースのチカラ ~私たちにできること 訪問看護物語~』『おうちで死にたい~自然で穏やかな最後の日々~』(秋田書店)など作品多数。>>『ナースのチカラ』の試し読みはこちら【漫画試し読み】『ナースのチカラ』第1巻1話(その1)投稿者: 木戸 恵子(きど けいこ)さん株式会社ウッディ 訪問看護ステーションはーと(東京都)大賞をいただき、とても光栄で、嬉しく思います。私は訪問看護師になって27年になります。確実な医療ケアや医療処置が求められる緊張の現場ですが、まずは患者さんやご家族のお話を伺い、患者さんの心の風景を垣間見られるように、という意識を持って接しています。えみさん(仮名)も、お話を傾聴し、心の風景を共有することから関わりました。課題や心配はありましたが、ご本人・家族と医療者すべての思いを繋ぐために覚悟を決め、その場の雰囲気を瞬間的に察知しながらアセスメントに努めました。私は、常日頃から出会った関係性や連携を大切にしています。例えば、研修で学びを共にした仲間とは情報交換や視察をし合ったり、仕事仲間とはカンファレンスを繰り返したりと、絆づくりをしています。えみさんの事例においても、相談した仲間たちすべてが自分事のように対応してくれました。普段の連携力や繋がりを生かせたことは、今後のやりがいにもなります。私が出会ったとき、えみさんの体力は限界アラームが鳴り始めていましたが、たくさんの方の心に響く、熱くて強い命の炎を持っておられた方でした。改めて振り返ると、えみさんの原動力が私たちをさらに強く繋げてくださったのだと思い、感動しています。貴重な体験をさせていただきました。最後に、えみさんのご冥福を祈るとともに、ご家族様や関わってくださった仲間たちに感謝申し上げます。ありがとうございました。 >>「第3回 みんなの訪問看護アワード」特設ページ [no_toc]

無理なくみんなで備える。日本訪問看護認定看護師協議会の災害対策【後編】
無理なくみんなで備える。日本訪問看護認定看護師協議会の災害対策【後編】
インタビュー
2025年7月8日
2025年7月8日

無理なくみんなで備える。日本訪問看護認定看護師協議会の災害対策【後編】

地震・大雨・台風等、各地で災害が起きているなか、医療現場における防災対策の重要性はますます増しています。今回は、日本訪問看護認定看護師協議会でBCP作成支援活動を行ってきた戸崎さんと碓田さんに、今後のBCP作成支援活動や災害対策に対する考え方などを伺います。 >>前編はこちら手探りで始めたBCP作成支援 日本訪問看護認定看護師協議会の災害対策【前編】  日本訪問看護認定看護師協議会訪問看護認定看護師のネットワーク構築と、訪問看護全体の質向上を目指して2009年に誕生。訪問看護・在宅ケアのスペシャリストである認定看護師が集い、情報交換をしつつ自己研鑽を積み、地域包括ケアシステムの推進に貢献できるように活動している。参考:日本訪問看護認定看護師協議会 立ち上げ経緯&想い【特別インタビュー】戸崎 亜紀子さん星総合病院法人在宅事業部長/在宅ケア認定看護師/日本訪問看護認定看護師協議会 理事。総合病院で急性期看護を経験した後、育児・介護のため一時退職。クリニック勤務を経て星総合病院に入職し、精神科病棟を経験した後、訪問看護ステーションへ。訪問看護ステーション管理者、在宅事業部事務局長、法人看護部長を経て、現職。東日本大震災(2011)や令和元年東日本台風(台風19号)(2019)では、被災者・支援者の両方を経験。碓田 弓さん訪問看護認定看護師。総合病院にて外科病棟、緩和ケア病棟、透析室を経験した後、病院系列の訪問看護ステーションに異動し、12年勤務。介護施設併設の訪問看護ステーションの立ち上げおよび管理者を経験したのち、2023年9月よりみんなのかかりつけ訪問看護ステーション四日市に入職。 ※本文中敬称略 地域に広がっていくBCP 2024年度BCP作成支援 セミナーの様子 ―前編ではこれまでのBCP作成支援活動について伺ってきましたが、今後の活動について教えてください。 戸崎: 活動内容は未定ですが、アンケートの反応も良かったので、可能であればニーズに応じて実施していきたいと思っています。いろいろな方向性が考えられますが、碓田さんは今後どういった活動が重要だと思いますか? 碓田: 個人的には、連携型BCP・地域BCP策定モデル事業が推進されているので、これをどう地域に広げていくか、というところが重要になってくるのではないかと思っています。 戸崎: 確かに、それは大切ですね。私は今後、事業所によってBCPへの温度差が広がっていくのではないかと考えています。BCPに関しては、「委託会社を利用してとにかく作成を間に合わせた」というケースもある一方で、「もっと連携を強めて地域に広げていきたい」という取り組みをしているケースもあります。 すでにBCPに関連する無料の研修やツールもかなり増えてきましたが、それでも「どうすればよいかわからない」「参加できていない」という方がいらっしゃる現状があります。基本のところからわからないと言っている方々を底上げした方がいいのか、それとも先を見据えているステーションに対してもっと先に行けるように支援していけばいいのか……。慎重に検討したいところです。 碓田: そうですね。私の体感としては「とにかく間に合わせた」事業所が大半なのではないかなと思っています。シミュレーションについても、「やってはいるけど、これでいいのかどうか分からない」という声をよく聞きます。 だからこそ、自分たちのステーションだけでやろうとするのではなく、「地域のステーションみんなでやろう」となれば、「自分はこれができてないな」とか「あの事業所はここまでやってるのか。真似してみよう」といった気づきや底上げに繋がるのではないかと考えています。 無理なく、できることから始める ―ありがとうございます。近年、南海トラフ地震に対する警戒も強まっていますが、災害に対する心構えを教えてください。 戸崎: はい。不安を抱えていらっしゃる方が多いと思います。私自身の経験として、2011年の東日本大震災の2年前に「宮城県沖地震の再発率が80%」という話があったことを思い出します。当時、「本当に来るんだろうか」という半信半疑の空気感がありましたが、「何か防災訓練をしておこう」という比較的気軽な気持ちで、事業所のスタッフと阪神淡路大震災の被災の記録や、日本海沖地震の新潟のステーションの手記などを読み合わせしました。「大変だったんだね」と感想を言い合い、「やっぱり対応マニュアルを少し見直しておこうか」という話になりました。 本当に肩の力を抜きながらやった訓練でしたが、振り返ってみれば、このときの話し合いや見直しが、東日本大震災での対応に活かされたと感じる部分がいくつもあるのです。災害について「みんなで話し合っておく」ことは本当に大事だと思います。 2023年度の研修(「どうする!うちのBCP」)に参加してくださった管理者さんも、「研修を機にみんなで話し合う場を持ってみたら、確かに質の向上につながると思った。みんながまとまったようにも感じた」とお話ししてくださいました。BCPを作るだけではなく、みんなで取り組むことが減災につながる。災害は起きてしまうから完全には防げませんが、「減災」には必ずつながります。 BCP作成支援活動をしていて、管理者や担当者が誰か一人で作っているケースが多いと感じたのですが、それではなかなか進まないんです。「ああでもない」「こうでもない」とみんなで議論する時間がとても大事だと思います。 ハードルを上げず、一人で抱え込まないことが大事 碓田: そうですね。BCPも一人で作っていると不安になり、手が止まってしまうと思います。事業所内外を問わず、まわりの人と相談しながら進めることが大事ですね。 戸崎: はい。つい忘れがちなのですが、BCPは「業務継続計画」なので、主語は利用者さんではなく「自分たち」。「私たちが」業務を継続できるための計画であり、「職員が何らかの事情で来られなくなっちゃったときにどうしましょう?」という計画も含まれるわけですよね。例えば、感染症が地域で流行り、子どもがいるスタッフが軒並みダウンする……といったこともあるかもしれません。想像以上に身近なんです。 「人が少なくなったときに、どの業務を優先し、どの業務を後回しにするか」を考えるのがBCPの基本ですから、事業所でスタッフと一緒に「どうする?」って考えたほうがいいでしょう。一度やってみると、きっと有意義だと感じるのではないかと思います。 碓田: 地域BCPに関しても、地域の人たちで一度でも実際に集まって話し合っておく、ということがとても大事になりそうですね。私も自分の地域でやっていきたいと思います。 戸崎: それも大切ですね。郡山でも最近、事業所の垣根を超えて、行政も入った机上訓練を初めて実施しています。地域の全員が参加できなくても、机上訓練だったとしても、1回実施するだけでも、やるとやらないとでは大きく異なります。机上訓練であれば、そこまでハードルは高くありませんしね。 碓田: あまりハードルを上げないことが大事ですね。立派な計画書を作ろう、完璧に訓練しようと思うと、何から手をつけていいのかわからなくなってしまいます。まずは災害について気軽に話せる場をつくるところから始めたいですね。そこから、「じゃあ〇〇が必要だ」などと繋げていける。そういったことの積み重ねでブラッシュアップしていけるのではないかと思います。 戸崎: そうですね。あとは、災害は、本当にどこでいつ、何が起きるかわかりません。2025年に入ってからだけでも、大規模な地震や山火事、道路の陥没やそれに付随するインフラ停止など、さまざまな災害がありました。「こんなことが起こるなんて」と驚くような災害も起こってしまいました。 不安になると思いますが、災害は「想定できるもの」と「想定できないもの」に分かれることを意識するといいかと思います。例えば台風は事前に気象予報で来ると知ることができますし、地震や停電などに関しては、事前にシミュレーションして対応方法を決めておき、マニュアルを作っておけば対応しやすくなるでしょう。 すべて想定することはできなくても、少しでも考えておけば、応用できることがきっとあります。「どうせわからないから」とやらないのではなく、やっぱり少しでも準備しておくことが大切なんです。自分事になっていないスタッフがいても、気軽に事業所内で話し合うだけでも、気負ってしまってやらないよりずっといいんです。ぜひ、そのことを意識していただきたいです。 ―ありがとうございました。 取材・編集・執筆:NsPace編集部

手探りで始めたBCP作成支援 日本訪問看護認定看護師協議会の災害対策【前編】
手探りで始めたBCP作成支援 日本訪問看護認定看護師協議会の災害対策【前編】
インタビュー
2025年7月1日
2025年7月1日

手探りで始めたBCP作成支援 日本訪問看護認定看護師協議会の災害対策【前編】

地震・大雨・台風等、各地で災害が起きているなか、医療現場における防災対策の重要性はますます増しています。より質の高い備えに寄与できるよう、災害対応に取り組む事例をご紹介します。今回は、日本訪問看護認定看護師協議会のBCP作成支援活動について、当協議会の戸崎さん、碓田さんにお話を伺いました。前編では、BCP作成支援活動を始めたきっかけや内容について教えていただきました。  日本訪問看護認定看護師協議会訪問看護認定看護師のネットワーク構築と、訪問看護全体の質向上を目指して2009年に誕生。訪問看護・在宅ケアのスペシャリストである認定看護師が集い、情報交換をしつつ自己研鑽を積み、地域包括ケアシステムの推進に貢献できるように活動している。参考:日本訪問看護認定看護師協議会 立ち上げ経緯&想い【特別インタビュー】戸崎 亜紀子さん星総合病院法人在宅事業部長/在宅ケア認定看護師/日本訪問看護認定看護師協議会 理事。総合病院で急性期看護を経験した後、育児・介護のため一時退職。クリニック勤務を経て星総合病院に入職し、精神科病棟を経験した後、訪問看護ステーションへ。訪問看護ステーション管理者、在宅事業部事務局長、法人看護部長を経て、現職。東日本大震災(2011)や令和元年東日本台風(台風19号)(2019)では、被災者・支援者の両方を経験。碓田 弓さん訪問看護認定看護師。総合病院にて外科病棟、緩和ケア病棟、透析室を経験した後、病院系列の訪問看護ステーションに異動し、12年勤務。介護施設併設の訪問看護ステーションの立ち上げおよび管理者を経験したのち、2023年9月よりみんなのかかりつけ訪問看護ステーション四日市に入職。 ※本文中敬称略 BCP作成支援活動を始めたきっかけ ―日本訪問看護認定看護師協議会(以下「協議会」)では、2023年度からBCP作成支援活動をされています。まずは、こちらの活動を始めたきっかけや想いについて教えてください。 戸崎: はい。協議会では、かねてより地域貢献活動事業を行ってきましたが、2023年度の活動を理事会で決めていく際、義務化が迫っているBCP策定に関連する事業を行ってはどうか?という提案をしたことがきっかけです。 私は福島県郡山市に住んでおり、東日本大震災や令和元年東日本台風の際は、自分自身が、そして地域が被災しています。また、災害時に地域の人たちをどうやって支援していくか、試行錯誤しながら対応してきました。新型コロナウイルスの感染拡大時も、住民や職員が罹患することもありながら、保健師のチームを行政に応援派遣するなどの取り組みを行っています。振り返ってみると、地域のつながりの中で、支援する側とされる側の両方を体験してきたように思います。 訪問看護師の皆さんも、地域に根差しているお仕事だからこそ、被災者であり支援者の立場になる可能性があります。私は、自分が大きな災害を経験しているからこそ、少しでも災害発生時に備えることの重要性を皆さんに伝えたいと考えているんです。参考:地域住民の心身の健康のために【訪問看護認定看護師 活動記/東北ブロック】実は、当時BCP作成支援の研修を運営する自信はなかったのですが、協議会の理事たちから「経験者が想いを直接伝えたほうがいい」という後押しをもらい、思い切ってチャレンジしてみることにしました。そして、活動メンバーを募ったところ、碓田さんを含めて6名の方が手を挙げてくださったんです。 ―ありがとうございます。碓田さんは、なぜ活動メンバーに入ろうと思ったのでしょうか。 碓田: コロナ禍での経験が大きく影響しています。新型コロナウイルス感染症が拡大していた当時、私は介護施設に併設する訪問看護ステーション(以下「ステーション」)の立ち上げをしていたのですが、施設内でクラスターが発生してしまったんです。情報が錯綜し、みんな得体の知れないウイルスへの恐怖感を抱えていました。 医師に診察を頼んでも断られる状況でしたし、介護施設のスタッフのなかには比較的高齢な方がいて、「自分たちの命の問題に関わるから、もう働けません」というお話がありました。働くスタッフが極端に減り、どうやって事業を継続すればいいのか、途方に暮れる経験をしたんです。 だからこそ、「BCP作成は絶対に必要だ」という強い想いを持っています。しかし、当時はBCPをどう作成すればよいのか、私もよくわかっていませんでした。「自分自身も学びながら支援したい」という思いがあって、運営委員に立候補したんです。 何度も集まり方向性を検討 ―どういった支援を提供すればいいのか、正解がなかなか見えないなかでのチャレンジだったと思いますが、実際に活動をスタートさせるまでの経緯を教えてください。 戸崎: はい。運営メンバーの中には、災害対応にまつわる講師の経験もある稲葉典子さん(西宮協立訪問看護センター/兵庫)や、杉山清美さん(大野医院/愛知)がいらしたので、お二人に色々と教えてもらいながら検討していきました。稲葉さんは在宅医療のBCP策定に関わる研究(厚生労働科学特別研究事業)の訪問看護BCP分科会メンバーでしたし、杉山さんは「まちの減災ナース」(日本災害看護学会)の認定を受けていますから、大変心強かったです。 ただ、それでも方向性を含めてゼロから作っていったので時間がかかり……。開始までに合計7回ほど打ち合わせをしました(笑)。 碓田: そうでしたね(笑)。でも、これを機に「まちの減災ナース」の活動なども知ることができましたし、個人的にはとても勉強になりました。当初は現地に出向いてBCP作成支援をしていくことも検討していましたが、なかなか時間も取れないだろうということで、オンラインでやることにしましたよね。 戸崎: そうですね。中身についてもかなり悩みましたが、BCP作成にお困りの事業所に対して、ある程度の形になるところまで寄り添っていくことにしました。初めての試みということもあり、定員は3事業所に絞りました。  当時の募集案内より抜粋 ―研修当日、どのように進行したのかについても教えてください。 戸崎: 合計3回のプログラムで、1回目は1時間。BCPに関する解説(座学)と、みなさんのBCP作成進捗状況に応じて、次回までの宿題を決めていく、という流れです。基本的には、厚生労働省が提供しているBCP策定の手引き(オールハザード型BCP)を埋めていく、という作業ですが、「どう埋めればいいかわからない」と悩んでいる方もいたので、ヒアリングしながらアドバイスしていきました。 2回目は、随時講義を挟みながら、3時間ほどかけて個別にしっかりとBCPに関する質疑応答をしました。「ここがうまく埋められない」などの悩み事を伺いながら、一つひとつアドバイスしていくという流れです。 最後となる3回目は、研修実施支援として、洪水が起こった際のシミュレーションを体験いただきました。3回目だけは、ご参加いただいた事業所のスタッフの方々も参加可としています。なお、個別にお話を伺う際はオンラインビデオツールでグループを分割し、1事業所につき2人ぐらい担当がついてBCP作成のサポートを行っていきました。順次、講師もグループを巡回するという形式です。  当時の募集案内より抜粋 ―シミュレーションの設定として「洪水」を選んだのはなぜでしょうか。 碓田: 災害時にトイレの使用ができなくなることや、避難所に移動できなくなる、といった状況を一度想定しておいたほうがいいだろうという意見が委員内で出たためです。洪水の場合、そういった困りごとが発生する可能性が高いそうです。 翌年度はオンラインのセミナー形式へシフト ―ありがとうございます。その後、2024年度のBCP作成支援では、オンラインで単発のセミナーを開催されています。これについては、どういった経緯で内容を決定されたのでしょうか。 戸崎: はい。支援のニーズは引き続きあったものの、皆さん2024年度からの義務化に合わせて一旦BCPの作成自体はされているはずなので、「研修・訓練・見直し」部分を中心に講義を展開することにしました。 碓田: 2023年度の対象を絞った支援も密度が濃く有意義だったと思いますが、2024年度はより多くの方々に聞いていただき、最終的に地域BCPにもつなげていけるような研修を目指そうというお話にもなりましたね。 戸崎: はい。そのため、訪問看護師だけではなく、ケアマネジャー、理学療法士、作業療法士、事務職など、さまざまな職種の方々に門戸を開きました。参加しやすい日程で参加してもらえるよう、同内容を2回行うことにし、合計86名の方々に参加いただくことができました。  当時の募集案内 アンケートも好評で、「BCPは災害マニュアルではないことがわかった」「事業所で研修担当になったが、何をすればいいかイメージがついた」といったお声もいただきました。 ―知りたいことをコンパクトにまとめたセミナーを展開されたのですね。ありがとうございます。後編では、今後の活動についてや、災害対策に対する考え方を伺います。 >>後編はこちら無理なくみんなで備える。日本訪問看護認定看護師協議会の災害対策【後編】 取材・編集・執筆:NsPace編集部

大賞エピソード漫画化!「お母さん~看護の襷をつなぐということ~」【つたえたい訪問看護の話】
大賞エピソード漫画化!「お母さん~看護の襷をつなぐということ~」【つたえたい訪問看護の話】
特集
2025年6月17日
2025年6月17日

大賞エピソード漫画化!「お母さん~看護の襷をつなぐということ~」第2話【つたえたい訪問看護の話】

NsPaceの特別イベント「第3回 みんなの訪問看護アワード」で募集した「つたえたい訪問看護の話」。今回は、株式会社ウッディ 訪問看護ステーションはーと(東京都) 木戸 恵子さんの大賞エピソード「お母さん~看護の襷をつなぐということ~」をもとにした漫画の第2話をお届けします。 >>全受賞エピソードはこちらつたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!大賞・審査員特別賞・ホープ賞・協賛企業賞【2025】つたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!入賞【2025】 「お母さん~看護の襷をつなぐということ~」前回までのあらすじ4人のお子さんがいるえみさんは、末期の肺がんを患っている。子どもたちと最後の思い出をつくるために、主治医の許可も得て宮崎から東京に飛行機で移動していたところ、容体が急変してしまい、緊急入院することになった。えみさんや夫は「子どもたちのいる宮崎に帰りたい」と言っており、J病院の医師・看護師たちはリスクが大きいため悩んだが、訪問看護師の木戸さんに相談することにした。<主な登場人物>>>第1話はこちら大賞エピソード漫画化!「お母さん~看護の襷をつなぐということ~」第1話【つたえたい訪問看護の話】 「お母さん~看護の襷をつなぐということ~」第2話 >>第3話(最終話)はこちら大賞エピソード漫画化!「お母さん~看護の襷をつなぐということ~」第3話【つたえたい訪問看護の話】 漫画:広田 奈都美(ひろた なつみ)漫画家/看護師。静岡県出身。1990年にデビューし、『私は戦う女。そして詩人そして伝道師』(集英社)、『ナースのチカラ ~私たちにできること 訪問看護物語~』『おうちで死にたい~自然で穏やかな最後の日々~』(秋田書店)など作品多数。>>『ナースのチカラ』の試し読みはこちら【漫画試し読み】『ナースのチカラ』第1巻1話(その1)投稿者: 木戸 恵子(きど けいこ)さん株式会社ウッディ 訪問看護ステーションはーと(東京都) >>「第3回 みんなの訪問看護アワード」特設ページ [no_toc]

大賞エピソード漫画化!「お母さん~看護の襷をつなぐということ~」【つたえたい訪問看護の話】
大賞エピソード漫画化!「お母さん~看護の襷をつなぐということ~」【つたえたい訪問看護の話】
特集
2025年4月30日
2025年4月30日

大賞エピソード漫画化!「お母さん~看護の襷をつなぐということ~」第1話【つたえたい訪問看護の話】

NsPaceの特別イベント「第3回 みんなの訪問看護アワード」で募集した「つたえたい訪問看護の話」。大賞を受賞したのは、株式会社ウッディ 訪問看護ステーションはーと(東京都)の木戸 恵子さんの投稿エピソード、「お母さん~看護の襷をつなぐということ~」です。 本エピソードを『ナースのチカラ ~私たちにできること 訪問看護物語~』著者の広田 奈都美先生に、漫画にしていただきました。ぜひご覧ください! >>全受賞エピソードはこちらつたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!大賞・審査員特別賞・ホープ賞・協賛企業賞【2025】つたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!入賞【2025】 「お母さん~看護の襷をつなぐということ~」第1話 >>第2話はこちら大賞エピソード漫画化!「お母さん~看護の襷をつなぐということ~」第2話【つたえたい訪問看護の話】 漫画:広田 奈都美(ひろた なつみ)漫画家/看護師。静岡県出身。1990年にデビューし、『私は戦う女。そして詩人そして伝道師』(集英社)、『ナースのチカラ ~私たちにできること 訪問看護物語~』『おうちで死にたい~自然で穏やかな最後の日々~』(秋田書店)など作品多数。>>『ナースのチカラ』の試し読みはこちら【漫画試し読み】『ナースのチカラ』第1巻1話(その1)投稿者: 木戸 恵子(きど けいこ)さん株式会社ウッディ 訪問看護ステーションはーと(東京都) >>「第3回 みんなの訪問看護アワード」特設ページ [no_toc]

新任訪問看護師の戸惑い 育成の課題と行動指針【セミナーレポート後編】
新任訪問看護師の戸惑い 育成の課題と行動指針【セミナーレポート後編】
特集 会員限定
2025年4月22日
2025年4月22日

新任訪問看護師の戸惑い 育成の課題と行動指針【セミナーレポート後編】

2025年1月23日に実施したNsPace(ナースペース)のオンラインセミナー「新任訪問看護師の戸惑いあるある~ギャップを感じるのはなぜ?~」。聖路加国際大学 講師の佐藤直子先生をお招きし、新任訪問看護師の戸惑いをテーマに講演いただきました。セミナーレポート後編では、新人育成における業界の課題や、東京ひかりナースステーションでの実際の取り組みなどをまとめます。 ※60分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 >>前編はこちら新任訪問看護師の戸惑い 困難感への理解と支援【セミナーレポート前編】 【講師】佐藤 直子 先生聖路加国際大学 講師/東京ひかりナースステーション 顧問/在宅看護専門看護師2003年より訪問看護に携わり、2019年~東京ひかりナースステーションクオリティマネジメント部部長。2010年に聖路加国際大学大学院の修士課程(CNSコース)を、2020年には博士課程(DNPコース)を修了。 訪問看護業界全体の育成の課題 業界全体の教育における課題には、以下のようなものがあります。 即戦力人材の減少 訪問看護が急拡大したのは、介護保険制度が始まり、ステーションが増えた2000年からです。当時は、再就職を考えている、もしくはブランクがある病院出身の看護師を即戦力として採用するのが一般的でした。しかし、病院の機能分化が進み、入院期間も短くなるにつれて、「生活を支援する」という視点で即戦力となれる看護師は、ほとんど見かけなくなっています。 育成体制が追い付いていない 人手も資金も時間も限られているステーションでは、育成体制を十分に整えることが難しいといわれています。 「病院や病棟の色」がついた看護師の増加 訪問看護に求められるのは「看護師基礎教育で学んだ内容」であり、特別に学ぶことはほとんどありません。しかし、例えば急性期医療の経験があると、安全や感染の知識に偏って重きを置いてしまうケースも。その結果、訪問看護の現場でギャップに苦しみます。 事業所の育成力 もちろん個人差がありますが、ベテラン訪問看護師はノウハウや思考の言語化が苦手な傾向があり、新任者にうまく伝わらないケースが多いです。 こうした訪問看護業界の現状をふまえ、新任者には「自分が先輩も新人もお互いに学べる職場を作る」という意識をもってもらえるとありがたいです。また、「訪問看護」と一口にいっても、事業所ごとに性質は異なります。新任者にとっては、入職したステーションの性質とやりたいことが合わないと、つらさの一因になるでしょう。訪問看護ステーションの内実がわかりづらい点も業界の課題であり改善が必要ですが、新任者の方は、就活中も入職後も時間をかけて慎重に見極めてください。 東京ひかりナースステーションの取り組み 訪問看護師の育成では、知識・技能・態度が重要です。そこで、東京ひかりナースステーションでは、以下の取り組みを実践しています。 知識の支援 レベル別の知識テスト(基本知識、特定の利用者さんを担当する際に必要な知識など)を実施。正解を伝えるだけでなく、足りない知識の勉強方法も解説します。 技術の支援 爪切りや巻き爪のケア、胼胝と鶏眼の処理、スキンテアの対処法など「病院では頻度が低いけれど訪問看護ではよく実践する技術」をリスト化し、演習を行います。演習は訪問予定に応じて都度実施し、「忘れてしまった」ということがないようにします。 態度や姿勢の支援 態度や姿勢を支えるのは、「考え方や行動の指針」です。正解はないので、各ステーションで「何を大切に看護するか」を考えてください。 なお、当ステーションでは毎週2時間のミーティングを行い、お互いのケースについて相談し合います。全員が自分ごととして考え、行動レベルのプランを協力して構築。態度や姿勢を言葉で伝えるのは難しいですが、実例を挙げて対話し、「自分たちが大切にしたいこと」を共通認識にしていくと、自ずと行動指針ができてきます。 普遍的な訪問看護の行動指針 ステーションごとに指針を確立し、共有することが重要とお話ししましたが、一方で「訪問看護の普遍的な考え方、行動指針」もあると思います。 利用者さんが暮らすこと、生きることを支援する 「生きる」は「命がある」だけを指すのではなく、生きがいや役割をもつことも含みます。1秒でも長く生きられるように支援するだけでは、十分とはいえないでしょう。また、暮らしに焦点を当てるからこそ、短期目標に加えて超長期目標を立てることも特徴です。数年先の暮らしを想像しながら看護を展開します。 セルフケアの維持・向上を目指す 訪問看護師の多くは、自分ではなく「利用者さん」を主語にしてケアを語ります。例えば「(私が)患者を立たせる」とはいわずに「(支援したら)患者が立った」と表現するのは、利用者さんの能動的・自律的な行動を支援したいと考えているからでしょう。 利用者さんごとに正常・異常を判断する 訪問看護師のアセスメントの基準は、「前回訪問時の利用者さんの様子や個々人にとっての正常」です。病院では驚かれる数値でも、訪問看護師は利用者さんの軌跡をふまえて評価します。 利用者さんを含めたチームでアプローチする 訪問看護師は、利用者さんの目標に向かってチームでアプローチします。ポイントは、「チーム」に利用者さんやご家族も含まれること。ご本人やご家族が行動しないと目標を達成できませんし、彼らが最も真剣に目標と向き合っていることをわかっているからこその考え方です。 また、訪問看護師だけでは何もできないことを理解し、多職種やフォーマル、インフォーマルを含めたチームでの協働を目指します。そして、そのために必要な合意や情報共有を大切にしています。 * * * 訪問看護は地域医療において重要な役割を担い、その支え手である看護師の育成と意識づけは欠かせません。より良い看護を提供できる環境を整えるためには、皆で成長できる環境を目指すことが大切です。新任者の皆さまも、より良い職場を作るために積極的にアプローチしていく姿勢で臨んでいただけたら幸いです。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

新任訪問看護師の戸惑い 困難感への理解と支援【セミナーレポート前編】
新任訪問看護師の戸惑い 困難感への理解と支援【セミナーレポート前編】
特集 会員限定
2025年4月15日
2025年4月15日

新任訪問看護師の戸惑い 困難感への理解と支援【セミナーレポート前編】

2025年1月23日、NsPace(ナースペース)はオンラインセミナー「新任訪問看護師の戸惑いあるある~ギャップを感じるのはなぜ?~」を開催。新任訪問看護師の戸惑いをテーマに、聖路加国際大学 講師の佐藤直子先生にお話を伺いました。セミナーレポート前編では、新任者の悩みと、それらを解消するサポート方法を紹介します。 ※約60分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)が特に注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】佐藤 直子 先生聖路加国際大学 講師/東京ひかりナースステーション 顧問/在宅看護専門看護師2003年より訪問看護に携わり、2019年~東京ひかりナースステーションクオリティマネジメント部部長。2010年に聖路加国際大学大学院の修士課程(CNSコース)を、2020年には博士課程(DNPコース)を修了。 訪問看護入職者の一般的な戸惑い・困難感 訪問看護師が感じる戸惑いや困難感に関して、いくつかの研究をもとに、以下のように分類しました。 ■個人の課題(仕事がうまくできない情けない思い)・知識や技術の不足・単独訪問の判断の難しさと責任・時間内にケアが終わらない など■場やシステムの課題、職場全体で取り組むべき問題・勤務体制(24時間対応、休みのとりにくさ)・(薬剤を含む)医療データが少ない、かつ入手が困難・他職種連携(これまで関わったことがない職種との連携) など■訪問看護特有ではない問題・職場内の人間関係・家庭との両立 など文献1)-3)の結果を集約 私が問いたいのは、「これらの問題は本当に『問題』なのか」ということです。例えば、ベテラン訪問看護師の多くは「介護保険制度や医療保険制度の理解は追い追いで良い」と話します。 また、単独訪問の判断の難しさと責任については、考え方を変える必要があるでしょう。訪問看護では、「患者の管理」を行うのではなく「ケアの管理」をします。患者管理をしようとすると、判断することや責任を負うことがつらくなってしまうでしょう。具体例として、訪問看護師が「この利用者さんは次回の訪問まで転倒しない」と判断することはできませんよね。「転ばせない」ことを主軸に患者管理をしようとすると、訪問の後も不安感が募ってしまうのです。それよりもちゃんと動けるケア、転んだらどのように起き上がるのかを考えるほうが良いです。 さらに、時間内にケアが終わらないのも新任者なら当たり前のことであり、問題ありません。技術は経験を重ねることで向上します。まずはそのことを上司や同僚に相談しましょう。 誤解されがちな「現場での判断のあり方」 「訪問看護師は一人で現場に行き、判断する」と考えている方もいますが、これは誤りです。テクノロジーの発達により、現場で個人が判断する時代は終わりました。例えば、利用者さんの体に新しい傷があれば、共有アプリに写真をアップロードし、先輩やドクターにその場で処置方法を確認できます。 また、私は訪問看護の最大の強みは、利用者さんと一緒に判断できることだと考えています。「私は看護師としてこのように判断しましたが、いつもどのように対処していますか?私はこの対応が良いと思いますが。」と利用者さんにぜひ尋ねてみてください。本来、医療やケアの選択は、利用者さんご自身が最も強い決定権をもつものです。 ただし、自分で判断するのが難しい利用者さんには噛み砕いて伝えたり、過去の記録に基づいて検討したりすることは必要です。 先輩看護師のフォローについて ここからは、主に新任者本人ではなく、サポートする先輩看護師に向けてお話しします。新任訪問看護師が一人で訪問するようになった際、「電話があるから大丈夫」「カメラがあるから大丈夫」ではなく、適切なフォローをすることが大切です。 例えば、よく言われる「何かあったら言ってね」という言葉は、一見親切そうで、実はとても不親切。新任者はその「何か」を判断できないからこそ困っているのです。 「どう?何か気になることはある?」「特に問題がなくても、訪問終わる前に連絡してね」といった積極的な声かけが大切です。新任者が自信を持って判断できるようになるまで、少ししつこいくらいに寄り添う(やりすぎかどうかは本人に聞いてくださいね)ことが、本当の支援につながります。 アンラーニングについて 訪問看護の新任者の葛藤を理解するためには、「アンラーニング」への理解も不可欠です。アンラーニングとは、既存の知識や価値観を捨て、新たに学び直すことを指します。 新任者は、前の職場の価値観を新しい職場で少なからず捨てるものがあります。捨てて新しい価値観を受け入れる過程では、苦しさを感じ、その気持ちを怒りとして表すことがあります。「このやり方は間違いだ」「前の職場ではこうしていた」と主張したり、悶々としたりといった具合です。受け入れる側には、その苦しみを理解するとともに、現在の職場の価値観を言葉にすることが求められます。サポーティブに関わることを意識しましょう。 なお、こうした苦しみは、キャリアを積んだ方でも感じます。なぜなら、看護理論家のパトリシア・ベナーさんもおっしゃっている通り、「経験がない部門に移れば、誰もが初心者になる」から。そして、初心者は行動指針やルールが分からず、状況に応じた行動ができないので、職場のローカルルールや大事にしていることを伝えてくださいね。 実践の原則を学ぶポイントは「経験の質」 初心者の成長に必要なのは、時間ではなく「経験の質」です。 経験学習のコツ経験すれば理解するのではなく、その経験にどんな意味があったのか、なぜそうなったのかを振り返り次に活かす。その振り返りは、なぜそうなったのかが分かるベテラン先輩が支援すべし! 「経験による学習」をうまくできない方は多く、周りが支援をしないと「ただ経験しただけ」になってしまいます。ベテラン先輩が「振り返り」の部分を支援しましょう。私が顧問を務めるステーションでは、クラウド上で「振り返りノート」をやりとりします。新任者の記録に先輩がフィードバックする形式です。 フィードバックのコツ 入職したてはすべての事象が新鮮で、情報を「そのまま」受け止めがち。そこで私は、振り返りノートで「起きた行為の意味」を説明します。また、「印象的だった」「勉強になった」という記述があれば、「具体的に何が印象的で、何を学んだか」を繰り返し聞きます。 特に注意すべきは「印象的」という言葉で、これは予想と違うことを意味します。先輩の仕事に「感動したケース」もあれば、「教科書と違って違和感を持ったケース」もあるでしょう。そこを明確にしないと、アンラーニングにおける葛藤や、誤った価値観の構築を招きます。 また、教訓が身についてくると、さまざまなケースで使いたくなるもの。その際は、どんなケースで教訓を適用できるかといった留意点をフィードバックします。 次回は、新人育成における業界の課題や、東京ひかりナースステーションでの実際の取り組みについてお話しいただきます。 >>後編はこちら新任訪問看護師の戸惑い 育成の課題と行動指針【セミナーレポート後編】 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア 【引用文献】1)森 陽子ら著.「新たに訪問看護分野に就労した看護師が訪問看護への移行期に経験した困難とその関連要因」日本看護管理学会誌,2016,20(2),p104-1142)平尾 由美子ら著.「病棟業務から訪問看護業務に移行した直後に看護師が感じる戸惑い・困難,8(1)」千葉県立保健医療大学紀要,2017,p169-176.3)柴田 滋子ら著.「訪問看護師が抱く困難感」日本農村医学会雑誌,2018,66(5),p.567-572 【参考文献】〇P.ベナーら著.早野ZITO真佐子訳.「ベナー ナースを育てる」医学書院,2011〇松尾 睦.『職場が生きる人が育つ 「経験学習」入門』ダイヤモンド社,2011

ちば看多機研究会「看多機を広めよう・つなげよう・深めよう」イベントレポート
ちば看多機研究会「看多機を広めよう・つなげよう・深めよう」イベントレポート
特集
2025年4月15日
2025年4月15日

ちば看多機研究会「看多機を広めよう・つなげよう・深めよう」イベントレポート

2025年2月8日(土)、千葉県看多機連絡協議会による「第2回ちば看多機研究会」が千葉中央ホールにて開催されました。同協議会は、「看多機」の普及促進と社会福祉の増進を目的に設置された任意団体です。看多機について学びを深めるべく、「看多機を広めよう・つなげよう・深めよう」をテーマに、イベントの目的や方針を語る基調講演をはじめ、現場での事例共有やグループワークが行われました。今回は、その様子をダイジェストでお届けします。 ちば看多機研究会とは? 「看多機」とは、「看護小規模多機能型居宅介護」の略で、主治医との連携のもと、医療処置も含めた多様なサービス(訪問看護、訪問介護、通い、泊まり)を24時間365日提供する点が特徴です。医療依存度が高い方、体調が不安定な障害を抱えている方などが、住み慣れた自宅で生活しながらケアを受けることができる介護保険サービスです。 そして、ちば看多機研究会は、千葉県看多機連絡協議会(2023年設立)が主催する、看多機について学びを深めるためのイベント。看多機の管理者はもちろんのこと、看護学校の教員や訪問看護師、ケアマネジャー、医師、経営者、看多機の利用者など、看護や介護に関わる方が千葉県内外から多く集まり、看多機について語り合っていました。 関連記事:看多機(かんたき)を通じて広げる「輪」 【訪問看護認定看護師 活動記/北関東ブロック】 看多機の現状と今後の展望 千葉県看多機連絡協議会の会長 福田裕子氏のご挨拶を皮切りに、日本看護協会常任理事の田母神 裕美氏による基調講演が行われました。 日本看護協会常任理事 田母神 裕美 氏 日本赤十字社医療センターや日本赤十字社本社医療事業推進本部看護部などでの勤務を経て、2021年に公益社団法人日本看護協会の常任理事に就任。看護制度(基礎教育・准看護師含む)や在宅医療・訪問看護、介護保険制度・介護報酬に関することなどを担当し、各種看護政策の実現に向けた取り組みを推進。 田母神氏は、全国の40歳以上の男女を対象にした調査において、全体の約7割が「在宅で看護を受けたい」と回答している結果を紹介。また、その中には「家族に依存せずに生活ができるような介護サービスがあれば自宅で介護を受けたい」と考える人が多く、まさに「国民のニーズ」として、在宅看護を望む人が多い実情を紹介しました。 また、千葉県の高齢化の状況と今後の見込みを例に、看多機の必要性を語りました。例えば、千葉県の総人口は減少局面にあるにもかかわらず、65歳以上の要介護高齢者は増加しており、2040年には一般世帯のうち高齢世帯数が約44%にも達する見込み。その約44%のうち、夫婦のみや一人暮らしの世帯が約7割を占めると推定されているそうです。 さらに、全国的にも人口に対する訪問看護の手が足りておらず、看多機を増やしていく必要があると警鐘を鳴らしました。いまだ看多機の事業所がひとつもない自治体もある現状を見つめながら、田母神氏は次のように語りました。 「医療依存度が高まるほど複数サービスの組み合わせが必要となり、看多機の必要性が高まります。看多機に欠かせない看護師の人員不足解消のためには、看護師の就業先として割合が高い病院と連携していくことが不可欠です。今後、病院から訪問看護ステーションや看多機への出向システムの整備も必要でしょう。 また、職種間の相互理解不足や病院との連携窓口の不明確さ、独居高齢者の在宅療養支援のあり方など、地域にはさまざまな課題があります。これらの課題を積極的に共有し合い、多職種連携や看看連携を図っていくことで、患者・住民に質の高い保険・医療・介護等のサービスを提供できるようになります。看多機は、医療職・介護職が力を合わせて働く場です。お互いに働きかけ、連携を強化していきましょう」 看多機での困難事例の共有 基調講演の後は、ケアマネジャーの川名 延江氏(複合型サービス事業所フローラ)と、杉浦 さな江氏(コープ夢みらい四街道)が、現場で「困った!」と感じた事例について紹介しました。 1件目は、利用者さんとご家族とで「自宅で暮らしたい」「施設に入所してもらった方が安心」とご要望が食い違っていたケース。2件目は、利用者さんだけではなく、ご家族も精神的・身体的な疾患を抱えていたケースです。 ご家族への対応の難しさをはじめ、家族間で異なる意見に対し、どういった調整を行うか、悩みながら検討した過程も伝えられました。「看多機は『世帯ごとに看る』ことに長けたサービスである」というコメントもあり、事例の内容からも看多機の意義や必要性が参加者に伝わる発表となりました。 参加者との意見交換では、「居宅介護等に比べて看多機は受け入れまでのスピード感が速い」という声があり、発表者の川名氏からは「関わっている訪問看護ステーションなどと連携しながら、少しでも多く情報を得ることが大事」というアドバイスもありました。 グループごとのディスカッション 最後は、「看多機を広めよう!こんな利用者に看多機は向いている」をテーマに、グループに分かれてディスカッションと発表が行われました。ディスカッションでは、時間が足りなくなるほど、さまざまな意見が飛び交いました。 実際に挙がった意見(抜粋)は次のとおりです。 ◆こんな利用者に看多機は向いている! ・基本的に自宅にいたいと思っている方 ・退院後の調整が必要な方やまだ要望が不明確な方 ・介護と医療が混ざったケアが必要な方 ・家族が遠方にいる方 ・仕事の都合で、家族のみの介護が難しい方 ・人見知り、認知症、嚥下に困難がある方 ・若い方でデイサービスには抵抗がある方 など 看多機は多様なサービスを提供しているため、「結局、全員が看多機に向いているのでは?」という意見や、「限られたリソースを活用するために、現実的にすべて受け入れることが難しい」という悩みも語られました。また、「看多機は『最期まで見守る』『ほかのサービスにつなげる』など、複数の意味で『渡し舟』のような役割ではないか」という意見も印象的でした。 ときに各事業所の事例や悩みなどを共有し合うシーンも見られ、連絡先を交換し合う参加者もいるなど、ディスカッションは大きな盛り上がりをみせました。 千葉県看多機連絡協議会 会長コメント 最後に、本会を主催した千葉県看多機連絡協議会 会長で、「まちのナースステーション八千代」統括所長・管理者の福田裕子氏のコメントを紹介します。 第1回に引き続き、70名近くの方にご参加いただく貴重な機会となりました。看多機について、職種の垣根を超えて情報共有できる会はなかなかなく、参加者の皆さんの反響から、日々の業務や課題を共有し合うニーズが大きいことを実感しました。利用者さんごとの事情はもちろん、各事業所の困り事や各自治体の課題などもそれぞれ異なります。多様なサービスをワンストップで提供する看多機が力を発揮できる場面は多いにあると考えています。しかし、看多機というサービスの全容が見えづらいせいか、現状まだ「看多機は不要」と考える自治体もあります。看多機を普及させるためには、各所とつながりを持ちながら、地域の中でハブ的機能として対応していくことが重要です。看多機の意義や必要性、今回のイベントで挙がったような現場の声を、行政に積極的に伝えていく姿勢も必要でしょう。看多機の魅力は、可能な限り時間をかけて本人の意思決定を支えていける点です。看多機では多様な職種が活躍しており、看護師さんは、職種同士を結び、利用者さんの自立支援につなげる重要な役割を担っています。訪問看護ステーションの管理者さんの中には、「泊まりの施設を持ちたい」「より多くのサービスを提供したい」と感じている方もいらっしゃるかと思います。看多機を立ち上げて運営したいという方がいらっしゃれば、ぜひ看多機を一緒に普及させていけたらと思います。 * * * 本イベントでは、登壇者や参加者がお互いの意見に真剣に耳を傾け合い、ディスカッションする様子が印象的でした。興味のある方は、ぜひ千葉県看多機連絡協議会の今後の活動にもご注目ください。 執筆: 高橋 佳代子取材・編集: NsPace編集部 【参考】〇内閣府.「第1章 高齢化の状況(第2節 2)」https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2018/html/zenbun/s1_2_2.html2025/4/8閲覧〇千葉県.『第2章 高齢者の現状と見込み』「(3)高齢者のいる世帯の状況と今後の推移」12P.https://www.pref.chiba.lg.jp/koufuku/iken/2023/documents/shian0-2.pdf2025/4/8閲覧

指定難病に関する医療費助成 訪問看護師が知っておきたい基礎知識
指定難病に関する医療費助成 訪問看護師が知っておきたい基礎知識
特集
2025年3月25日
2025年3月25日

指定難病に関する医療費助成 訪問看護師が知っておきたい基礎知識

指定難病の医療費助成制度においては、患者さん自身が「自己負担上限額管理票」を使って毎月の自己負担額を管理しています。そのため、月初からのレセプト処理が終わると、患者さんの自己負担上限額管理票を確認した上で、訪問看護の利用料金を請求しなければならないことがあります。自己負担上限額管理票からもらう金額が毎月バラバラになるため、患者さんや家族から説明をしてほしいと言われることもあります。今回は、指定難病と医療費助成制度について解説します。 ※本記事は、2025年2月時点の情報をもとに構成しています。 指定難病とは 難病および指定難病は「難病の患者に対する医療等に関する法律」(難病法)により、次のように定義されています。 難病とは発病の機構が明らかでなく、治療法が確立されていない希少な疾病で、長期にわたり療養を必要とするもの指定難病とは上記のうち、患者数が本邦において一定の人数(人口の約0.1%)に達しておらず、客観的な診断基準(またはそれに準ずるもの)が確立している疾病 2024年4月現在、指定難病に該当する疾患は341あります1)。 なお、難病法は、難病の克服をめざすこと、難病患者さんが社会参加の機会を確保できること、地域社会において尊厳を保ちながら他の人々と共生できることを基本理念としています。 指定難病の医療費助成制度のしくみ 指定難病に対する医療費助成制度は、難病法の第5条で、その対象や助成額などが規定されています。 医療費助成の対象 指定難病は、個々の疾病ごとに診断基準と重症度分類が設定されています。その基準に基づき、指定難病と診断され、以下に該当する場合、難病法による医療助成の対象になります。 重症度分類で病状が一定程度以上 軽症高額該当(重症度分類を満たさない軽症者でも、月ごとの医療費総額が33,330円を超える月が3ヵ月以上ある場合2)) 医療費助成を受けるには申請が必要 指定難病の医療費助成を受けるには、医療受給者証が必要です。医療受給者証は、都道府県や指定都市の窓口(住所地を管轄する保健福祉事務所や保健所など)に申請を行い、審査の結果、認定されると交付されます。 交付された医療受給者証を、指定医療機関(病院、診療所、薬局、訪問看護ステーションなど)に持参し提示することで、医療費の助成を受けられます。なお、認定審査には時間がかかるため、申請日から医療受給者証が交付されるまでの間に指定医療機関でかかった医療費は、払戻し請求ができます。 医療費助成の開始時期と有効期間 医療費助成の開始時期は、前倒しすることも可能です。さかのぼりの期間は、原則として申請日から1ヵ月です。また、医療費助成の支給認定には有効期間があり、原則1年。治療の継続が必要な場合には更新の申請が必要です。 医療費助成における自己負担上限額 指定難病の医療費助成には、自己負担の上限額が設定されています。医療費が高額になった場合でも、この上限額を超えて支払うことはありません。自己負担上限額は、表1に示したとおり、患者さんの所得や治療の状況に応じて設定されています。 例えば、医療サービスを多く受けて医療費が高額になり、自己負担額が50,000円になった場合でも、「低所得Ⅰ」の患者さんは2,500円、「上位所得」の患者さんは30,000円が支払いの上限額となります。 自己負担割合は3割負担から2割負担に 医療保険や介護保険の負担割合が3割の場合、助成を受けている医療費は2割に軽減されます。ただし、年齢・年収等の条件によりすでに医療保険の負担割合が2割や1割に軽減されている場合は、それ以上負担割合が減ることはありません。介護保険も同様です。 表1 医療費助成における自己負担上限額(月額) (単位:円) ※「高額かつ長期」とは、月ごとの医療費総額が5万円を超える月が年間6回以上ある者(例えば医療保険の2割負担の場合、医療費の自己負担が1万円を超える月が年間6回以上)。 文献2)より引用 自己負担上限額管理票の記載方法 指定難病患者さんは、公費負担者番号が54番から始まる医療受給者証を持っており、この医療受給者証を持つ患者さんの自己負担額は、毎月「自己負担上限額管理票」で管理する必要があります。レセプト処理後、指定難病の医療費助成を受けている患者さんについては、自己負担上限額管理票をもとに自己負担分を請求します。 この自己負担額に入院・入院外(外来)の区別はありません。複数の指定医療機関で負担した自己負担額をすべて合算し、患者さんが自己負担額の上限を超えて支払うことがないように毎月管理しているのです。 患者さんは受診した指定医療機関で、管理票に医療費総額や自己負担額、自己負担の累積額(月額)などを記入してもらいます。指定医療機関では累積額を確認し、自己負担上限額に達していなければ本人に請求し、達した場合は上限額を超える分をすべて公費請求するという流れです。 自己負担上限額管理票の各記載項目と記載方法については図1で説明します。 図1 自己負担上限額管理表の記載項目(例) ※自己負担上限管理票は都道府県ごとに様式が異なります。ここでは、東京都保健医療局が作成した資料に掲載されている管理票の様式を例に解説します。東京都保健医療:特定医療費に係る自己負担上限額管理票等の記載方法について(指定医療機関用).https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/hokeniryo/r3kisai 1患者さんの自己負担上限月額が記載されています。この例では10,000円が上限額です。2自己負担額を徴収した日付を記載します。3自己負担額を徴収した指定医療機関名を記載します。4医療費・介護サービス費の総額を記載します。54の自己負担額を記載します。2割負担の患者さんであれば、総額の2割の金額を記載します。6自己負担の累積額を記載します。その月支払った合計額です。7自己負担の累計額は、A病院の自己負担額2,000円とB薬局の4,000円を合計した6,000円になります。8D訪問看護ステーションが医療費50,000円を請求しました。本来、50,000円×2割負担で、自己負担額は10,000円ですが、患者さんはすでにC診療所までで合計7,600円を負担しています。そのため、この日は上限額との差額分2,400円のみを患者さんに請求します。上限額を超える分は、すべて公費請求します。9上限月額(10,000円)に達したため、同月内のそれ以降の医療費は患者さんに請求せず、斜線を引きます。10上限月額(10,000円)に達したときの指定医療機関が記載します。 訪問看護師としてサポートできること 指定難病の医療費助成制度は、患者さんやご家族の経済的な負担を軽減する大切なしくみですが、自己負担上限額管理票の管理が必要となり、手間がかかることが課題です。今後、マイナンバーカードをはじめとしたICTを活用することで、管理の簡素化が期待されます。それまでは訪問看護師として、しっかりと制度を理解し、患者さんとご家族が適切に管理できるようサポートすることが大切です。 執筆:木村 憲洋高崎健康福祉大学健康福祉学部医療情報学科 教授 武蔵工業大学(現・東京都市大学)工学部機械工学科卒業、国立医療・病院管理研究所研究科(現・国立保健医療科学院)修了。民間病院を経て、現職。著書に『<イラスト図解>病院のしくみ』(日本実業出版社)などがある 編集:株式会社照林社 【引用文献】1) 厚生労働省:指定難病.https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000084783.html2025/2/21閲覧2) 難病情報センター:指定難病患者への医療費助成制度のご案内.https://www.nanbyou.or.jp/entry/54602025/2/21閲覧

訪問看護師が知っておきたい医療費助成制度 基礎知識&概要
訪問看護師が知っておきたい医療費助成制度 基礎知識&概要
特集
2025年3月4日
2025年3月4日

訪問看護師が知っておきたい医療費助成制度 基礎知識&概要

医療費助成制度は、患者さんの自宅療養を支える上で欠かせないサポートですが、複雑で分かりにくい側面があります。そのため、訪問看護師として助成制度についてしっかりと理解しておくことが重要です。今回は、訪問看護にかかわる代表的な助成制度を取り上げ、その概要を分かりやすく解説します。 ※本記事は、2025年1月時点の情報をもとに構成しています。 医療費助成制度の基礎知識 患者さんから質問されて、特に答えにくいのが医療費に関することではないでしょうか。健康保険証を持っている場合、医療費の自己負担割合は、原則として高齢者は1割、未就学児は2割、それ以外の人は3割と決められており、年齢によって割合が異なります。また、高齢者の医療費は1ヵ月の上限が18,000円だったり、自治体によっては小児の医療費がかからなかったりと、条件によってまちまちで複雑です。 改めて、医療費助成制度に関する考え方を図1で簡単に示します。 図1 医療費と自己負担分、助成制度 (1)は、治療を受けたときの医療費の総額を示しています。(2)は、医療費の保険者負担分と自己負担分を表しています。(3)は自己負担分に対して医療費が助成される場合を示しています。(4)は、自治体からさらに助成を受けられる場合のイメージです。 訪問看護においては、患者さんの金銭的な負担を減らすさまざまな制度があります。病院では相談室の社会福祉士や事務が対応しますが、訪問看護ステーションでは訪問看護を担当する看護師が直接質問を受けることも多いでしょう。 ここからは、訪問看護を行う上で知っておいたほうがよい医療費に関する代表的な助成制度の概要を説明したいと思います。 指定難病に関する助成制度 指定難病患者さんへの医療費助成は、患者さんの自己負担が所得に応じて1,000円から30,000円まで変化します。病院や診療所、薬局、訪問看護ステーションなどの自己負担額は、患者さんごとに決められた上限額までです。 なお、患者さんによって月初に「自己負担上限額管理票」の記入が必要となる場合があります。その際は、毎月月末に患者さんの自己負担額が確定してから記入します。 高額療養費制度 医療機関を受診し、自己負担額が高額になったときに、患者さんの負担を少なくしてくれるのが高額療養費制度です。医療機関や薬局に支払った額が、上限額を超えた場合に、その超えた金額が支給されます。一時的な自己負担はありますが、申請すれば、後から払い戻されます。 支払いを上限額までに抑えたい場合は、「限度額適用認定証」またはマイナンバーカードによる健康保険証(マイナ保険証)※1を利用します。限度額適用認定証は、訪問看護がスタートした患者さんから、健康保険証と別に確認してほしいと言われることがあります。 ※1 マイナンバーカードによる健康保険証(マイナ保険証)は、限度額適用認定証を兼ねています。 高額療養費制度は患者さんが恩恵を受けることが多く、大抵の場合、70歳以上であれば18,000円、70歳未満であれば85,000円以内に収まります※2。また、「世帯合算」や「多数回該当」のしくみにより、さらに負担額を減らすことも可能です。 ※2 上限額は、年齢や所得によって異なります。適用区分と上限額に関する詳細は厚生労働省のサイトをご参照ください。▼厚生労働省:高額療養費制度を利用される皆さまへhttps://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/juuyou/kougakuiryou/index.html さらに、介護サービスを利用していれば「高額介護合算療養費制度」が活用できます。この制度は、医療保険と介護保険における1年間の自己負担の合算額が高額な場合に、自己負担を軽減する制度です。 自立支援医療制度(精神通院医療、更生医療、育成医療) 自立支援医療制度は、心身の障害を除去・軽減するための医療を提供するにあたり、患者さんの医療費の自己負担を軽減する制度です。 小児に関する支援医療制度が更生医療と育成医療、精神科系の疾患に関する支援医療制度が精神通院医療として区分されています。 更生医療は、身体障害者福祉法第4条に規定された身体障害者が対象となります。また、育成医療は、児童福祉法第4条第2項に規定される障害児(幼児:満1歳から、小学校就学の始期に達するまでの者)が対象となります。精神通院医療は、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第5条に規定された統合失調症、精神作用物質による急性中毒またはその依存症、知的障害、その他の精神疾患を有する者が対象となります。 自己負担額は0円から20,000円までですが、一定所得以上に該当する場合や「重度かつ継続」(継続的に相当額の医療費負担が発生する方1))に該当しない場合は対象外となります。 その他の医療支援制度 生活保護の医療扶助と介護扶助 その他の医療費に関する支援制度として生活保護における医療扶助と介護扶助があります。医療・介護サービスは公費で負担されるため自己負担はありません。 特定疾病療養費 特定疾病療養費は、慢性腎不全や血友病、HIV感染者の高度な治療を長期間にわたって継続しなければならない療養について、自己負担限度額を減額する高額療養費の特例の制度です。 基本的には、毎月10,000円の負担となりますが、透析については70歳未満の標準報酬月額53万円以上の方は自己負担限度額が20,000円になります。 * * * 医療費には、各地方が独自に実施する助成制度もあります。都道府県や市区町村ごとに異なる助成が行われています。 代表的なものとして子どもの医療費にかかる助成が挙げられます。「中学卒業まで」や「高校卒業まで」と住んでいる自治体によって対象となる年齢の違いがあります。さらに、乳幼児医療やひとり親家庭医療、重度心身障害者医療に対する支援も行われています。支援内容は、地域による差が大きく、その違いは各自治体を比較してみると分かると思います。 医療費助成制度を正しく理解しよう 訪問看護ステーションでの毎月のレセプト作成や、患者さん・利用者さんから自己負担額を受け取るにあたって疑問に思うことも多くあると思います。それは医療保険制度や医療費助成制度が複雑で理解しづらいためです。 今回は訪問看護に関連する助成制度の概要を解説しました。今後は、各助成制度の具体的な利用方法や申請のポイントをさらに詳しく紹介していきます。患者さんや家族が適切な支援を受けられるよう、必要な知識をしっかりと身につけましょう。知識を深めることで、あなたの仕事にもきっと役立つはずです。 【今後のラインアップ】第2回 指定難病に関する助成制度について第3回 高額療養費制度について第4回 小児に関する医療支援制度について第5回 精神科領域に関する医療支援制度について第6回 その他の医療支援制度について(生活保護、特定疾病療養など) 執筆:木村 憲洋高崎健康福祉大学健康福祉学部医療情報学科 教授 武蔵工業大学(現・東京都市大学)工学部機械工学科卒業、国立医療・病院管理研究所研究科(現・国立保健医療科学院)修了。民間病院を経て、現職。著書に『<イラスト図解>病院のしくみ』(日本実業出版社)などがある 編集:株式会社照林社 【引用文献】1)厚生労働省:障害者福祉.https://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/jiritsushienhou04/ 2025/1/31閲覧

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