セミナーレポートに関する記事

利用者・家族からの暴力・ハラスメント 対策&対応
利用者・家族からの暴力・ハラスメント 対策&対応
特集 会員限定
2024年9月3日
2024年9月3日

利用者・家族からの暴力・ハラスメント 対策&対応【セミナーレポート後編】

NsPace(ナースペース)が2024年5月10日・24日に開催したオンラインセミナー、「【訪問看護】利用者・家族からの暴力・ハラスメント対策(全2回)」。訪問看護師への暴力・ハラスメント対策に取り組む北須磨訪問看護・リハビリセンター所長 藤田愛さんを講師にお招きしました。 セミナーレポートの後編では、暴力・ハラスメントへの具体的な対策、対応方法をご紹介します。 >>前編はこちら利用者・家族からの暴力・ハラスメント 基礎知識【セミナーレポート前編】 【講師】藤田 愛さん医療法人社団 慈恵会 北須磨訪問看護・リハビリセンター 所長/慢性疾患看護専門看護師/ヘルスケア・マネジメント修士(専門職)取得神戸市立中央市民病院、兵庫県立西宮保健所に勤務した後、1998年から訪問看護師として活動。2004年の北須磨訪問看護・リハビリセンター開設時から現職。訪問看護師が利用者やその家族から受ける暴力・ハラスメントの予防・改善に長年取り組む。2022年より「訪問看護師等の暴力・ハラスメント研修プログラム」の開発研究も行っている。 暴力・ハラスメント対策は法的な責務 令和3年度(2021年度)の介護報酬改定に伴い、ハラスメント対策は事業者の法的な責務として義務づけられました。利用者や家族から行われるものは、現在のところセクシュアルハラスメントのみが対象ですが、カスタマーハラスメントや暴力への対策も努力義務とされています。暴力・ハラスメントへの対策は、事業所が取り組むべき課題です。 暴力・ハラスメントへの具体的な対応 暴力やハラスメントへの具体的な対策としては、以下の5つが挙げられます。 対策1:管理者の意思決定、表明 まずは、管理者が暴力・ハラスメントを容認しない、職員を自らが守るという意思決定をし、それを表明する必要があります。事業所の基本方針として書面で共有するのもよいでしょう。ポイントは、繰り返し表明すること。そうでないと、「認知症の利用者さんだから仕方がない」「この程度なら我慢できる」などと、次第に元の状態に戻ってしまいます。 対策2:マニュアルの作成 厚生労働省をはじめ、さまざまな機関や組織でつくられたマニュアルを参考に、まずは1ページだけ作成しましょう。立派なマニュアルを用意しても活用できない場合が多いので、最初は簡単なものを目指すのがおすすめです。 対策3:重要事項説明書への記載 重要事項説明書に暴力・ハラスメントへの対応について明記し、利用者や家族に説明の上、合意をとることも大切です。 とはいえ、初回訪問時の契約の段階で暴力・ハラスメントについて言及すると、関係構築に影響するのではないかと心配される方も多いでしょう。これについては、重要事項説明書の前置きとして「質の高いサービスを提供するためにも、利用者・家族のみなさんに協力してほしい」といった内容を記載し、「お茶やお菓子、お礼の品物を受け取らない」といった事業所の方針のあとに、暴力・ハラスメント行為について触れるとよいでしょう。 信頼関係の構築に配慮しつつ、「職員への暴力・ハラスメント等により、サービスの中断や契約を解除することがある」と説明し、事業所としてのスタンスを明確に示すことが重要です。 対策4:発生時の報告・対応フローの取り決め 職員に「暴力やハラスメントがあれば報告してほしい」と働きかけても、実際はなかなか声が上がりません。虐待と同じで、「これは暴力(またはハラスメント)なのだろうか」といった「ためらい」が報告を遅らせます。 そこでフローに明記したいのは、「暴力・ハラスメントかもしれない」レベルで報告や相談すべきという点です。また、いきなり上司に相談するのは抵抗があるケースも多いでしょうから、被害者が話しやすい同僚からの報告も可能とするとよいでしょう。管理者の耳に話が入れば、当人からでなくても構いません。 対策5:全職員の意識、対応力の向上 職場全体で暴力・ハラスメント対策について繰り返し話し合い、意識を一致させましょう。また、訪問前にリスクを想定する、暴力やハラスメントの予兆に敏感になる、必要に応じて2人訪問を選択するといった対応力の向上にも努める必要があります。 暴力・ハラスメント被害者への歩み寄り 暴力・ハラスメントの被害者が出てしまった場合、非常に大きな精神的ダメージを受けているため、「被害に遭った人ファースト」を徹底しましょう。何よりも心情理解を優先し、寄り添うことが大切です。 二次被害の防止を 暴力・ハラスメント行為は一次被害。二次被害とは、上司や同僚など周囲の人々の言動で傷つけることを指します。被害に遭った医療従事者の多くは「自身の能力が原因で暴力やハラスメントを予測・抑制できなかった」と捉える傾向があり、周囲のスタッフも被害者に原因を探してしまうケースが少なからずありますので注意しましょう。利用者の疾患の有無や境遇に関わらず、暴力・ハラスメントを受けた被害者は悪くありません。 相談シートを活用して歩み寄りを よかれと思って見守るのみにとどめると、被害者が孤立する可能性があります。厚生労働省のハラスメント報告用「相談シート」を活用して歩み寄ることをおすすめします。このシートには現在の心の状態を数字で表現する項目があり、「今はここだけの話にしてほしい」「少人数であれば共有可」「全体に共有可」といったように、共有可否も確認できます。被害者の多くは、「大丈夫?」と聞かれれば「大丈夫」と答えがちです。このシートを使えば、本人の意向に沿った対応を目指せるでしょう。 なお、暴力・ハラスメントは記録する必要がありますが、多くの人の目に触れるカルテにはなかなか書きにくいはず。カルテとは別で記録を残す工夫をすることをおすすめします。 * * * 本セミナーの第2回で行われたグループディスカッションでは、参加者の暴力・ハラスメントへの価値基準の確認や、リスクを判断・回避するための「KYT(K:危険、Y:予知、T:訓練/トレーニング)」ワークを実施しました。各事業所でも定期的なトレーニングや情報共有の場を設けていただき、一人でも多くの訪問看護師が主体的に暴力・ハラスメント対策に取り組めるよう、体制を整えていただけたらと思います。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア 【参考】〇厚生労働省.「介護現場におけるハラスメント対策」https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_05120.html2024/8/22閲覧〇厚生労働省. 社会保障審議会「令和3年度介護報酬改定における改定事項について」(2021年1月18日)https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000750362.pdf2024/8/22閲覧〇厚生労働省. 株式会社 三菱総合研究所.「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」令和4(2022)年3月改訂https://www.mhlw.go.jp/content/12305000/000947524.pdf2024/8/22閲覧

利用者・家族からの暴力・ハラスメント 基礎知識
利用者・家族からの暴力・ハラスメント 基礎知識
特集 会員限定
2024年8月27日
2024年8月27日

利用者・家族からの暴力・ハラスメント 基礎知識【セミナーレポート前編】

NsPace(ナースペース)では、2024年5月10日・24日に、オンラインセミナー「【訪問看護】利用者・家族からの暴力・ハラスメント対策(全2回)」を開催しました。講師として登壇してくださったのは、北須磨訪問看護・リハビリセンター所長で、利用者・家族からの暴力・ハラスメント対策に長らく尽力している藤田愛さんです。 本セミナーでは講義とグループディスカッションを行いましたが、今回は講義の内容を前後編に分けて記事化。前編では、暴力・ハラスメントの基礎知識として、その内容や実態、訪問看護の現場ならではのリスクなどをまとめます。 【講師】藤田 愛さん医療法人社団 慈恵会 北須磨訪問看護・リハビリセンター 所長/慢性疾患看護専門看護師/ヘルスケア・マネジメント修士(専門職)取得神戸市立中央市民病院、兵庫県立西宮保健所に勤務した後、1998年から訪問看護師として活動。2004年の北須磨訪問看護・リハビリセンター開設時から現職。訪問看護師が利用者やその家族から受ける暴力・ハラスメントの予防・改善に長年取り組む。2022年より「訪問看護師等の暴力・ハラスメント研修プログラム」の開発研究も行っている。 暴力・ハラスメントの種類と内容 訪問看護において発生しうる暴力・ハラスメントは、以下の4つが挙げられます。 身体的暴力 殴る、蹴る、ものを投げるといった物理的な攻撃を加える暴力。 精神的暴力 大声で怒鳴る、または怒鳴り続けるなど、苦情・クレームの範囲を超えた言葉や態度で攻撃する暴力。 セクシュアルハラスメント 性的嫌がらせ全般。例えば、訪問時にわざとアダルトビデオを流したり、入浴介助のために看護師が着替えているところを盗撮したりといった例がみられます。 カスタマーハラスメント 看護師の些細なミスをあげつらって執拗に攻撃する、土下座を要求するなどといった、過剰な要求や不当な言いがかり。近年特に増えており、相談や研修の依頼が多く寄せられています。 暴力・ハラスメント行為者は、看護師に対し、「利用者およびその家族の要求にはすべて応えるべき」と考えています。その要求の背景には、訪問看護サービスへの過剰な期待や、社会への不満、孤独感、挫折感の発散といった自己中心的な理由がある場合が多いのです。 暴力・ハラスメントの実態 一般社団法人全国訪問看護事業協会から2019年に発表された「訪問看護師が利用者・家族から受ける暴力に関する調査研究事業 報告書」1)によると、全業務期間の中で何らかの暴力・ハラスメントを受けた経験がある方は、全体の半数近くに上りました。具体的な内訳は、身体的暴力が45.1%、精神的暴力が52.7%、セクシュアルハラスメントが48.4%です。 訪問看護師は「よい看護を提供したい」という思いが強いがゆえに、利用者からの過剰な要求に応じることがあります。そして、利用者やその家族からの暴力・ハラスメントに直面しても「仕方がない」と諦め、受け入れてしまう状況が少なくありません。しかし、利用者や家族を大切にし、よりよい看護を提供することと、暴力やハラスメントを受け入れることは同義ではありません。これらをきちんと区別し、暴力やハラスメントを容認しない姿勢が必要です。 自宅訪問における暴力・ハラスメントのリスク 訪問看護における利用者・家族からの暴力・ハラスメントのリスク要因をみていきましょう。 利用者・家族側のリスク要因 利用者・家族側のリスク要因としては、以下のようなものがあります。 疾患に伴う幻覚やせん妄などの症状がある治療や介護について適切な支援を受けられていない違法行為や暴力行為をした過去がある、攻撃的な言動がみられる、人間関係にトラブルを抱えているといった生活歴や背景がある訪問看護サービスへの過度な期待や誤解がある 利用者の症状や生活背景の把握に努めるとともに、サービスの提供範囲や看護の内容を契約書や看護計画に反映し、正確に理解していただくよう働きかけることが大切です。 事業所側のリスク要因 事業所の管理者・経営者の暴力やハラスメントに対する意識が低いと、トラブルが起きた際に初動が遅れてしまい、同様のトラブルが繰り返されるリスクも高まるでしょう。暴力・ハラスメントの予防や撲滅には管理者・経営者の意識が重要です。 環境のリスク要因 訪問看護は、基本的に密室で1対1、家族がいれば1対多数の状況になるため、暴力やハラスメントが行われた際、判断や証明が難しい環境といえるでしょう。病院や施設のように近くにほかの職員がいないので、応援要請にもすぐには応えてもらえません。また、一般家庭にはさまざまな物品があるため、それらが暴力に使用される可能性も。これも大きなリスクと考えられます。 暴力・ハラスメント対策を行う目的と目標 利用者や家族から訪問看護師への暴力・ハラスメント対策の目的は、訪問看護師の基本的人権を尊重することと、質の高いケアを提供することにあります。訪問看護師の安全が脅かされ、心身に悪影響があれば、質の高いケアの継続的な提供は阻害されます。 ここで忘れてはいけないのが、「被害者の心への影響」です。暴力・ハラスメントが起こると、「適切なアセスメントがされなかったのでは」と被害者である訪問看護師個人の問題にされる傾向があります。これによって被害者が我慢したり、自身の未熟さを責めたりして、心の健康を損なうケースが生じるのです。 そして暴力・ハラスメント対策の目標は、暴力・ハラスメントの発生防止に努めること。また、被害が起きてしまったら最小限にとどめることです。 次回は暴力・ハラスメントへの具体的な対応や被害者への理解・二次被害の防止について解説します。>>後編はこちら利用者・家族からの暴力・ハラスメント 対策&対応【セミナーレポート後編】 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア 【参考】1)一般社団法人全国訪問看護事業協会「訪問看護師が利用者・家族から受ける暴力に関する調査研究事業 報告書」平成31(2019)年3月https://www.zenhokan.or.jp/wp-content/uploads/h30-2.pdf2024/8/22閲覧

【現地開催】専門家に学ぶ!奥の深い爪のケア セミナーレポート
【現地開催】専門家に学ぶ!奥の深い爪のケア セミナーレポート
特集
2024年8月20日
2024年8月20日

【現地開催】専門家に学ぶ!奥の深い爪のケア セミナーレポート(6/2開催)

2024年6月2日(日)に、東京の銀座駅すぐの会場にてNsPace主催の対面セミナー「専門家に学ぶ!奥の深い爪のケア」を開催しました。ご登壇いただいたのは、看護におけるフットケアの第一人者である西田壽代さん。アシスタント講師として医療フットケアスペシャリストの大慈めぐみさんにもお越しいただき、「見る・聞く・触れるでコツをつかんでやってみる!」をテーマに、爪ケアのイロハを講義いただきました。約4時間にわたるセミナーの様子をダイジェストでお届けします。  【講師】西田 壽代さんJTFA(日本トータルフットマネジメント協会)会長足のナースクリニック代表/足の専門校スクールオブぺディ専任講師皮膚・排泄ケア認定看護師/日本フットケア・足病医学会認定フットケア指導士聖路加国際病院、東京海上ベターライフサービス株式会社、駿河台日本大学病院を経て2010年より「足のナースクリニック」代表を務める。病院や高齢者施設、訪問看護ステーションなどと提携し、フットケアや皮膚・排泄ケア分野におけるスタッフ教育や患者ケア、多職種連携などに取り組む。著書に『実践!介護フットケア 元気に歩く「足」のために』(講談社)など。【アシスタント講師】大慈 めぐみさん訪問看護ステーション ナースであんしん湘南 管理者JTFA(日本トータルフットマネジメント協会)認定の医療フットケアスペシャリストとして活躍し、NsPaceの特別イベント「第2回 みんなの訪問看護アワード」にて入賞。「足の爪切りから始まる看護」と題して、心に響くエピソードを投稿してくださいました。 座学で爪ケアの基礎知識を学習 巻き爪や肥厚爪、白癬菌に感染した爪など、在宅療養者の爪は十人十色。座学では、動画を用いながら、爪ケアの重要性や医療行為の範囲、爪切り前のアセスメントのポイントなどが解説されました。爪の構造を理解し、器具を正しく使用することは、安全な爪ケアの第一歩となります。 中でも参加者が興味深く取り組んでいたのは、一人ひとりの爪の形に合わせた「爪切り設計図」。鉛筆等で爪に直接ガイド線を書き込み、その線に沿って爪切りを進めます。参加者は、真剣に爪各部の名称や構造を確認しながら設計図作成のポイントを学習していました。座学の終盤には「爪白癬で爪がポロポロと崩れてきてしまう方は、どこまで切れば良いのか?」「上を向いて生えている爪はどう対処すべきか?」などの質問も飛び交いました。 西田さんの分かりやすい講義に引き込まれる参加者の皆さん 専門家が爪ケアのプロセスを実演 座学の後は、アシスタント講師の大慈さんがモデルになり、爪切りのデモンストレーションが行われました。ニッパーや爪用ゾンデ、爪やすりなどの専用器具の紹介や使用方法をはじめ、足指の支え方から角質や爪垢除去のポイントも丁寧に解説。爪切り設計図を作成する際の視点や爪切りのコツ、爪やすりの使い方のコツなども実演されました。 実演中、スクリーンに映し出された先生の手元を参加者全員が食いいるように見つめ、講義に熱中していました。 専用器具の使い方も丁寧に実演 デモンストレーションの後は、各テーブルに配置された足型模型を使用し、参加者の皆さんも技術習得に向けて練習をスタート。2人1組になり、爪切り設計図の作成から爪切りの実践まで、正しく安全にケアするための実技演習を進めました。 誤った爪切りは、皮膚の損傷や出血などのトラブルにつながるだけでなく、巻き爪の原因にもなります。お互いにニッパーの持ち方や使い方などを丁寧に確認し合いながら、慎重に実技を進める様子が印象的でした。  先生のアドバイスをもとに足型模型で爪ケアを実践 バケツや洗面器不要の泡足浴を体験 模型での練習を終えた後は、いよいよ参加者同士で爪ケアの実践です。まずは医療的スキンケア(保清)のひとつである「泡足浴」から実践。ビニール袋と少量の水、ボディーソープを使用した画期的な洗浄方法に参加者からは驚きの声が上がりました。 「この方法ならバケツや大きい洗面器などの道具がそろわなくても、すぐに実践できる」「寝たきりの患者さんの保清にも活かせそう」といった声が聞かれたほか、「ビニールのくしゅくしゅとした感覚や泡が気持ち良い!患者さんのケアに役立てたい」といった声も挙がり、会場全体が一気に賑やかな雰囲気に包まれました。 泡足浴を実践し合い、会場は明るい雰囲気に 爪切りも実習し、現場での実践力を養う 保清の後は、参加者同士で爪周りの角質除去や爪切りを実践。講師の西田さんと大慈さんが各テーブルを回りながら、正しい爪切りに欠かせない「爪切り設計図」の作成のコツをはじめ、足の支え方、ニッパーの持ち方などの一連の流れを直接指導しました。 専門家から直接指導を受け、すぐに実践 参加者の皆さんは、日頃から患者さんの爪ケアに取り組んでいても、「爪」に特化した研修を受けた経験がある方は少なく、爪ケアのプロセスを改めて学び、不安や疑問が解消されるシーンも見受けられました。 道具の使い方も目の前で分かりやすく解説 特にフットケアの第一人者から直接指導を受ける機会はなかなかなく、参加者からは「変形して盛り上がった爪はどう切ればいいのか」「ニッパーの種類はどのようなものを選ぶといいか」「巻き爪で痛みのある方にはどのように対応すべきか」など、質問が多数。訪問看護師さんの日頃の悩みがひしひしと伝わってきました。 参加者の皆さんのお困り事にも丁寧に回答 実技演習の終盤には、参加者同士で爪ケアの流れをおさらいし、確認し合う様子も。終始、明るい雰囲気でセミナーを終えました。 不安や不明点が解消されたとの声も セミナー終了後は、懇親会も開催。参加者は担当患者さんのケア方法を西田さんや大慈さんに相談したり、業務の中で困ったシーンなどを共有したりと、お互いに学びを深め合っていました。 すっかり打ち解け合い、懇親会を楽しむ皆さん ■参加者の感想 「セミナーに参加するまでは、自己流で患者さんの爪を躊躇なく切ってしまっていました。でも、ニッパーの刃先の当て方や切り方、洗浄方法などを実際に練習して、正しいケア方法の基本が理解できました。今回の学びを活かし、患者さんの安全な暮らしに貢献していきたいです。」 「実技演習では、こんなに頻回にテーブルを回ってきてくれると思わず、手厚い指導に驚きました。講義自体の内容も分かりやすく、悩んでいた爪白癬に対しての対応も分かり、現場ですぐに取り組みやすいと感じました。ゆっくり丁寧に教えてもらえて、とても良かったです。」 そのほかにも、「今後の爪ケアへの不明点が解消された」「自分の『くせ』が分かった」「我流で爪をカットしていたことを反省しつつ、注意する点が分かった」といった声も。 講師を務めた西田さんも、大きな手ごたえを感じたご様子。 「訪問看護師さんの中にもさまざまな経験値の方がおられ、不安を感じながらも懸命にケアに当たっている方がいることを改めて実感しました。対面セミナーでは、参加者お一人おひとりのお悩みを聞きながら、直接ケア方法をレクチャーし、より実践的な講義ができたかと思います。私は全国各地でこうしたセミナーや講演を開催していますが、実はあと2県(岩手県と島根県)で全国制覇達成なんです!今後も自身の活動を通して、看護師の皆様のスキルアップに貢献できればと意気込んでいます。」 また、アシスタント講師の大慈さんも、「自分の普段の経験からアドバイスできるシーンもあり、少しでも参加者の皆さんのお役に立てたのであれば何よりです」と明るい笑顔を見せてくださいました。 * * * NsPaceでは今後も訪問看護師さんのためのセミナーを企画していく予定です。その道の専門家から直接指導を受けられるチャンスをぜひご活用ください。 取材・執筆・編集:高橋 佳代子

アロマテラピー 代表的な精油&訪問看護での活用法【セミナーレポート後編】
アロマテラピー 代表的な精油&訪問看護での活用法【セミナーレポート後編】
特集 会員限定
2024年7月23日
2024年7月23日

アロマテラピー 代表的な精油&訪問看護での活用法【セミナーレポート後編】

NsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー「アロマテラピーの基礎知識&活用術~毎日に癒しを~」を2024年4月19日に開催しました。講師として登壇してくださったのは、アロマアドバイザーの資格をもつ訪問看護師の有賀莉奈さん。訪問看護の現場を知る有賀さんに、アロマテラピー(アロマセラピー)の基本的な楽しみ方や注意点、訪問看護での活用方法などを教えていただきました。 今回はそのセミナーの内容を、前後編に分けて記事化。後編では、アロマテラピーの具体的な実践方法をまとめます。 ※約60分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)が特に注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 >>前編はこちらアロマテラピー 基礎知識&医療現場での注意点【セミナーレポート前編】 【講師】有賀 莉奈さん訪問看護師/アロマアドバイザー(ナード・アロマテラピー協会)看護師として諏訪赤十字病院で8年間勤務した後、出産・育児に専念する期間を経て、yui訪問看護ステーションにて臨床現場に復帰。アロマテラピーを深く学ぼうと考えたきっかけは、自身の母親が闘病中に「アロマの力」に救われた場面を目の当たりにしたこと。現在は看護業務の傍らメディカルアロマセラピストとして、利用者さんの心身を支えるケアに取り組んでいる。 代表的な精油とその特徴 精油にはさまざまな種類がありますが、その中でも初心者の方が使いやすい、手に入れやすいものを以下にまとめました。 ラベンダー・アングスティフォリア     アロマテラピーの万能薬と言われている。精神的・肉体的にリラックスさせてくれ、ストレス・不眠症の助けになる(使用方法・量を守れば注意事項・禁忌なし)オレンジ・スイート柑橘系のオレンジの香り。気分を軽くさせてくれ、リフレッシュさせてくれる(使用方法・量を守れば注意事項・禁忌なし)ゼラニウム・エジプトバラに似た甘い香り。お肌のケア・リラクゼーションによく使われ、鎮静作用がある成分を多く含んでいる(使用方法・量を守れば注意事項・禁忌なし)マジョラム爽やかでスパイシーな香り。副交感神経を刺激する作用があり、リラックスさせてくれる。精神神経系の不調を感じた時に助けになる(使用方法・量を守れば注意事項・禁忌なし)ユーカリ・ラディアタツーンとした、少し湿布に似た香り。ユーカリの中でも最も刺激が少ない。風邪や呼吸器系の疾患、花粉症の予防や回復の助けになる(使用方法・量を守れば注意・禁忌なし)レモングラス強いレモンの香り。ストレス解消や痛みの軽減に役立ってくれる。冷え性やむくみの改善の助けにも(注意:50%に希釈して使用する)イランイラン高級な香水の香料に使われることも多い。海外では緩和ケアに使用されることもあり、痛みの緩和や入眠の助けになる(使用方法・量を守れば注意事項・禁忌なし) なお、精油は複数の種類を混ぜることで相乗効果が期待できます。気分や体調に合わせて、ぜひ以下の「おすすめレシピ」を試してみてください。 簡単にできる 自分のためのアロマケア 看護師のみなさんの中には、日々忙しい生活を送り、ストレスを抱えている方もいらっしゃることでしょう。そこで、ご自身の生活にもアロマをとり入れてみてはいかがでしょうか。以下に、手軽に実践できる方法をご紹介します。 日々のストレス緩和に   ・精油を瓶ごと持ち歩く・アロマペンダントを使用する・ハンカチに精油を垂らすリラックスタイムに・アロマディフューザーを使用する・アロマバス(湯船に精油を入れる。バスオイル20mlに対して精油15~20滴)・アロマストーンや布・ティッシュに精油を数滴垂らす・アロマトリートメント(植物オイル5mlに対して精油1~2滴を混ぜてケアに使用 ※濃度1~2%)体調管理に・除菌スプレー(無水エタノール18ml、精製水2ml、精油12~20滴 ※濃度3~5%)・加湿機能付きのアロマディフューザーを使用する 医療現場での活用方法 医療現場で利用者さんにアロマテラピーを行うにあたっては、安全性の確保が大前提となります。コストや手間も考慮すると、禁忌や注意事項がない精油を何種類かそろえ、その中で組み合わせていくのがよいでしょう。 具体的な楽しみ方として、簡単に実践できる「芳香浴」「手浴・足浴」「アロマトリートメント」をご紹介します。 芳香浴 精油の香りを部屋に拡散させて楽しむ方法。専用のストーンやディフューザーを使わなくても、ティッシュや布に垂らすだけで十分です。そんな芳香浴のメリットは、同じ空間にいる方と一緒に香りを楽しめるところ。利用者さんだけでなく、日々の介護でストレスを感じているご家族にも喜ばれます。 手浴・足浴 乳化剤と精油を混ぜたものを垂らしたお湯で、手浴・足浴を行います。清拭に使うお湯に垂らす方法もありますが、その際も必ず乳化剤と混ぜて使用してください。 また、清拭のお湯に精油を混ぜるのは、エンゼルケアにも適しています。故人の好きな香り、日頃から使っていた香りを最後のご準備で使えば、ご家族が香りを嗅ぎながら故人との思い出を振り返ったり、心を落ち着かせたりする手助けになるでしょう。 アロマトリートメント 植物オイルに精油を混ぜて、それを塗布しながらアロマトリートメントを行います。肩こりやむくみなどの不調の緩和・改善を目指すものですが、長い時間行うと疲労感が出る場合もあるため、5~10分で十分でしょう。また、姿勢も無理がないように配慮してください。 訪問看護でのアロマテラピーのコスト&説明 アロマテラピーを実践する際にかかるコストとしては、まず精油の費用が挙げられます。精油は多くが1本あたり5~10mlの容量で販売されており、値段は2,000円~10,000円を超えるものまでさまざま。希少な植物から抽出された精油ほど値段は高くなります。ただし、一度に使うのは数滴で、一滴あたりの値段は数十円であることがほとんどです。 精油のほかには、ホホバオイルをはじめとした「キャリアオイル」や、精油を湯に浮かべる際に使う乳化剤などの費用もかかります。 時間としては、手浴・足浴、アロマトリートメントを行った場合で5~10分程度です。特にアロマトリートメントは体に負担をかける可能性があるため、体調不良者や病態の変動を起こしやすい方が多い医療現場では、短めの時間で行うことをおすすめします。 訪問看護でのアロマテラピー導入の流れ 私が所属する訪問看護ステーションでは、まず訪問看護の契約時に、内容や注意事項、料金などを記載したパンフレットを配布します。それを読んで興味をもたれた方には、さらに詳しくご説明。そして、主治医の許可を得てお試しケアを実施します。その際、利用者さんには、アロマテラピーはあくまでリラクゼーションや症状の緩和を目指して行うことをしっかりと説明します。 アロマの施術は訪問看護の時間内に行いますが、治療ではないため、訪問看護指示書には記載されていません。当ステーションの場合、現状では施術料は請求せず、材料費のみいただいています。 施術の内容は、「芳香浴」「手浴・足浴」「オイルトリートメント」から利用者さんに選んでいただきます。当ステーションで採用している精油や植物オイルは以下のとおりです。 使用する精油ラベンダー・アングスティフォリア、マジョラム、オレンジ・スイート、ゼラニウム・エジプト、ラヴィンツァラをそろえています。症状や使用箇所などを考慮し、この中からいくつかを組み合わせて使います。使用する植物オイルオイルトリートメントには「ホホバオイル」を使っています。肌に優しく、敏感肌の方を含め、あらゆる肌質の方に使えるといわれているためです。 * * * 今回はアロマテラピーの基本をご紹介しましたが、お伝えしきれていない魅力がまだまだあります。心地よいアロマの香りは利用者さんの心をほぐし、ストレスを緩和する手助けをしてくれます。これをきっかけにアロマテラピーについて興味を持っていただき、ご自身のケアや日常の看護に取り入れるきっかけとなれば嬉しく思います。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

アロマテラピー 基礎知識&医療現場での注意点【セミナーレポート前編】
アロマテラピー 基礎知識&医療現場での注意点【セミナーレポート前編】
特集 会員限定
2024年7月16日
2024年7月16日

アロマテラピー 基礎知識&医療現場での注意点【セミナーレポート前編】

2024年4月19日に開催されたNsPace(ナースペース)主催オンラインセミナー「アロマテラピーの基礎知識&活用術~毎日に癒しを~」。アロマアドバイザーの資格をもつ訪問看護師の有賀莉奈さんを講師にお招きし、アロマテラピー(アロマセラピー)に期待できる効能や訪問看護の現場での活用方法などを教えていただきました。 今回はそのセミナーの内容を、前後編に分けて記事化。前編では、アロマテラピーの基礎知識と、医療現場で実践する際の注意点をご紹介します。 ※約60分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)が特に注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】有賀 莉奈さん訪問看護師/アロマアドバイザー(ナード・アロマテラピー協会)看護師として諏訪赤十字病院で8年間勤務した後、出産・育児に専念する期間を経て、yui訪問看護ステーションにて臨床現場に復帰。アロマテラピーを深く学ぼうと考えたきっかけは、自身の母親が闘病中に「アロマの力」に救われた場面を目の当たりにしたこと。現在は看護業務の傍らメディカルアロマセラピストとして、利用者さんの心身を支えるケアに取り組んでいる。 アロマテラピーとは アロマテラピーとは、植物の香り成分を抽出した精油(アロマオイル)を用いて、心と体の不調の改善を目指す健康管理法です。精油とは、植物から採取・生成した香りの油(揮発油)のこと。その香りはとても強く、植物の有効成分も高濃度に含んでおり、たった一滴でも十分に楽しめるものが多いです。 代表的なメリットは、心身のリラックス。精油の力で自律神経やホルモンバランスを整え、体の緊張をほぐし、気持ちを落ち着け、心身ともに心地よい状態をつくることを目指します。 なお、精油を活用する方法は、大きく以下の2種類に分かれます。 活用方法1:精油を嗅ぐ 嗅覚は、五感の中で唯一、脳へダイレクトに刺激を伝えられます。精油を嗅ぐと、香り成分が鼻の粘膜から脳に伝わり、自律神経系や内分泌系、免疫系などの神経系に影響を与えます。感情や本能を司る大脳辺縁系にも刺激が直接伝わるため、人は「そのときの自分の体が求めている香り」を嗅ぎ分けられるといわれています。 活用方法2:精油を塗る 精油を体に塗ると、その部位に作用します。中には、皮膚から吸収されて血管に入り、体をめぐって作用する精油もあります。 精油を安全に使用するための原則 精油を扱う際は安全への十分な配慮が必要です。以下の点を必ず守ってください。 ・パッチテストを行うアレルギー反応が出る可能性があるため、使用前はパッチテストを行いましょう。・原液のまま使用しない精油は、ホホバオイルやスイートアーモンドオイルなどの「キャリアオイル(精油を体へ運ぶためのオイル)」で薄めて使用します。精油は「油」なので水には溶けません。そのため、手浴や足浴で楽しむ場合には、乳化剤を使用します。精油が直接皮膚に付着すると皮膚トラブルを起こす可能性があるので、十分に注意してください。・異変を感じたら使用を中止するかゆい、ヒリヒリする、気分が優れないなどの異変を感じた場合は、すぐに使用を中止しましょう。体に精油を塗った場合は、塗布した部位を水で洗い流したり、濡れたタオルで拭きとったりしてください。・安全に配慮して保管する引火性があるため、火のそばに置かないでください。また、子どもやペットの手が届かない場所に保管することも重要です。 なお、使用期限は開封後半年から一年程度と考えてください。それ以上経つと、酸化が進んで香りが変わってしまいます。特に柑橘系の香りは酸化の影響を受けやすいので、半年を目安に使い切りましょう。 医療現場で実践する際の注意点 訪問看護にアロマテラピーをとり入れる場合は、精油の特徴や利用者さんに与える影響、起こりうるトラブルを整理して医師に説明した上で、必ず使用の許可を得てから実践してください。 精油ごとの禁忌事項と、利用者さんの既往歴を照らし合わせることも大切です。例えば、高血圧の方、婦人科系疾患がある方、アスピリンアレルギーの方などには使用できない精油もあります。また、精油を塗布する場合、傷や炎症を起こしている箇所には原則使用しません。 そのほか、以下の2点もチェックしてください。 利用者さんの反応 過去に同じ精油を使ったことがある場合や、パッチテストで問題がなかった場合でも、使用後の利用者さんの反応は必ず毎回確認しましょう。その日の体調によってアレルギー反応が出る場合もあります。また、体調が優れないときは使用を控えてください。 精油の濃度 精油を体の広い範囲に使うときは「3%以下」の低い濃度に調整しましょう。特定の部位に作用させたい場合には、30%以上の濃い濃度で使用することもありますが、皮膚が弱い高齢者の方も多くいらっしゃるので、低濃度にするのがおすすめです。 アロマテラピーの資格 2024年4月現在、日本にはアロマテラピーに関する国家資格はなく、すべて民間資格です。資格ごとに合格条件は異なりますが、教室やサロン、オンライン等で講義を受けて、試験に合格すれば資格を取得できるものがほとんどです。 アロマテラピーを深く学んで資格をとるメリットは、やはり精油の特徴や注意事項などを理解した上で、ケアに活用できる点にあるでしょう。例えば、アロマテラピーの本場であるフランスでは、精油を薬の代わりに使うケースもあります。近年は精油を認知機能低下の予防・改善、精神疾患の治療に活用する研究も進められており、医療現場でのアロマテラピーの注目度は、日本でもさらに高まっていくと予想しています。 >>後編はこちら アロマテラピー 代表的な精油&訪問看護での活用法【セミナーレポート後編】 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

麻痺に伴う痙縮とは~治療のフェーズと実際
麻痺に伴う痙縮とは~治療のフェーズと実際
特集 会員限定
2024年7月2日
2024年7月2日

麻痺に伴う痙縮とは~治療のフェーズと実際~【セミナーレポート後編】

2024年3月15日、御所南リハビリテーションクリニック院長・児玉万実先生を講師に迎え、オンラインセミナー「麻痺に伴う痙縮とは〜その症状には治療法があります!〜」を開催しました。セミナーレポートの後編では、ボツリヌス療法の6つのフェーズや、ボツリヌス治療の実際と目指すことなどをご紹介します。 ※約60分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。※帝人株式会社・帝人ファーマ株式会社・帝人ヘルスケア株式会社による共催セミナーです。 >>前編はこちら麻痺に伴う痙縮とは~基礎知識~【セミナーレポート前編】 【講師】児玉 万実(こだま まみ)先生京都大原記念病院グループ 御所南リハビリテーションクリニック 院長/京都府立医科大学 臨床講師/日本内科学会 認定医、日本リハビリテーション医学会 専門医、代議員。獨協医科大学 医学部を卒業後、大学病院、民間病院での勤務を経て、2006年から京都大原記念病院で診療にあたる。2015年には御所南リハビリテーションクリニックに移り、2018年に同院の院長に就任。 ボツリヌス療法6つのフェーズ 私は、ボツリヌス療法は以下の6つのステップに大きく分けられると考えています。 STEP1 お困りごとに患者自身が気づき受診 患者さんご自身が「この筋緊張の症状には治療法があるんだ」と知り、受診いただくことから治療が始まります。 この段階できちんとボツリヌス療法について説明を行います。症状に関係する筋肉に複数の注射を打たなければならないこと、注射をしてもすぐに手足が動きだすわけではないこと、継続が必要なこと、リハビリにも取り組む必要があることなども伝えます。 STEP2 客観的評価 医師や療法士(リハビリスタッフ)が客観的な評価を行い、ボツリヌス治療の適応かどうかを判断。痙縮評価指標のMAS(Modified Ashworth Scale)やMMT(Manual Muscle Test/徒手筋力テスト)だけでなく、装具の適合性や使用頻度、疼痛の有無なども確認します。 STEP3 目標をもとに治療戦略を立てる どんな症状で悩んでいるのか細かくヒアリング。STEP2の評価の内容に加え、どういう目的で手足をスムーズに動かしたいか、患者さん自身の現実的な目標に基づき、治療戦略を立てます。中枢をメインにするか、末梢を多めにするかなども考えていきます。 STEP4 施注(注射) 戦略に沿って注射を打ちます。 STEP5 情報共有 注射後は、すぐにマンツーマンのリハビリを行います。注射した箇所の筋肉をしっかりとストレッチしつつ、自宅での自主トレーニングのやり方をお伝えします。 ただし、疾患別リハビリテーション期限を越えている方で介護認定がおりている患者さんの場合、基本的には医療保険を使ったリハビリはできません。そこで、注射した箇所や単位、在宅で必要なリハビリなどについて申し送りをしています。情報共有は患者さん本人だけでなく、訪問看護師のみなさんをはじめとした、在宅で患者さんを支える方々にも行っています。 ちなみに、医療保険によるリハビリには期限の定めがあります。脳卒中をはじめとした痙縮の原因になる病気を発症して急性期の病院での治療が落ち着くと、回復期リハビリテーション病院に転院して本格的なリハビリテーションが始まります。しかし、国が定めた「医療保険を使って医療機関で密度の濃いリハビリができる期間」は、発症した日から半年のみ。これは制度上仕方のないことなのですが、ボツリヌス療法と濃いリハビリを組み合わせることが難しいのが問題点です。半年を過ぎた後の生活期は、介護保険を使った訪問リハビリや、デイケア(通所リハビリ)などを利用することになります。ですので、介護保険サービスの担当の方々ともしっかり連携を取ることが重要です。 STEP6 効果的な自主トレとフィードバック 指導に沿った自主トレーニングを患者さんに行ってもらい、訪問リハビリやデイケアの方などとも連携をとり、3ヵ月後に2回目の注射をします。来院時にフィードバックをし、注射とリハビリを繰り返し、3回目、4回目と続けていきます。 施注(注射)の実際 施注について、もう少し詳しくご紹介しましょう。 筋緊張が見られる箇所を針筋電図や超音波で細かく確かめながら注射を打っていきます。私は痛みのない超音波を選択することが多く、注射針が狙った箇所に刺さっているか、液体(薬剤)をきちんと注入できているかも超音波で確認。左手に超音波の機器を持ち、右手で注射を打ちます。なお、筋肉に注射すると体が反射的に動くこともあるので、療法士と看護師さんと3人1組で治療は行います。 注射箇所を見極めるためどうしても施注時間が長くなりがちですが、患者さんにとっては苦痛が大きい時間。なるべく短い時間で終えられるように心がけています。正確に、でもなるべく早く。そうやって患者さんの苦痛を最小限にすることが、継続のためのコツだと考えています。 ご本人と介護者のよりよい生活を目指して 痙縮へのボツリヌス療法は、医療従事者でも知らない方がまだまだ多いのが現状です。訪問看護師のみなさんには、ぜひ、痙縮に悩む患者さんをボツリヌス療法につなげてほしいと考えています。 経験豊富な医師に超音波で確認しながら施注してもらうのが理想ではありますが、比較的大きな筋肉や触診でわかる筋肉にはブラインドで注射を打つことも可能です。「オムツの交換が難しいので、硬くなっている太ももの内側の筋肉に注射する」といったやり方でも、筋肉の緊張を緩和し介護負担の軽減につながる可能性はあります。困難を抱えている患者さんや介護者の方に、まずはボツリヌス治療にどうにか結びついていただきたいと思っています。 訪問リハビリの担当者さんから、ボツリヌス治療を受けた患者さんが「新聞をとりにいったり、食器を洗ったりと、家庭での役割が増えた。IADL(手段的日常生活動作)が着実に拡大している」といったうれしい報告をいただくことが多々あります。 ボツリヌス治療の目的は、数値の改善ではなく、ご本人や介護者の生活が変わっていくこと。痙縮に悩む方々がひとりでも多くよりよい毎日を過ごせるよう、お伝えした知識をぜひ現場でいかしていただけたらうれしいです。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

麻痺に伴う痙縮とは~基礎知識~【セミナーレポート前編】
麻痺に伴う痙縮とは~基礎知識~【セミナーレポート前編】
特集 会員限定
2024年6月25日
2024年6月25日

麻痺に伴う痙縮とは~基礎知識~【セミナーレポート前編】

2024年3月15日、オンラインセミナー「麻痺に伴う痙縮とは〜その症状には治療法があります!〜」を実施しました。講師としてお招きしたのは、痙縮に対するボツリヌス療法を数多くの患者さんに実践する医師の児玉万実先生。今回はそのセミナーの内容を、前後編に分けて記事化。前編では、痙縮によって生じる問題、治療方法とその課題など、基礎知識をまとめます。 ※約60分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。※帝人株式会社・帝人ファーマ株式会社・帝人ヘルスケア株式会社による共催セミナーです。 【講師】児玉 万実(こだま まみ)先生京都大原記念病院グループ 御所南リハビリテーションクリニック 院長/京都府立医科大学 臨床講師/日本内科学会 認定医、日本リハビリテーション医学会 専門医、代議員。獨協医科大学 医学部を卒業後、大学病院、民間病院での勤務を経て、2006年から京都大原記念病院で診療にあたる。2015年には御所南リハビリテーションクリニックに移り、2018年に同院の院長に就任。 痙縮とは 痙縮とは、脳卒中や頭部外傷、頚髄損傷などに伴って起こる運動障害です。本人の意思とは関係なく手足の筋緊張が高くなり、スムーズに動かせなくなって、日常生活に支障をきたします。 痙縮の具体的なパターン1)は以下のとおりです。 脇が開かない肘や手首、指が曲がる手のひらが上を向かない股関節が内転する膝が曲がる内反尖足(足の裏全体が床につかない、踵がつかない) 痙縮によって生じる問題はさまざまです。スパズム(攣縮/れんしゅく:筋肉が不随意に収縮)やクローヌス(筋肉が不随意・リズミカルに収縮と弛緩を繰り返す)、疼痛、容姿の変化などの症状が見られるほか、ものを握る・放す・移動させる、歩行、体重支持といった動作が困難になることも。 日常生活でサポートを受けている方の場合、服の着替えや食事をはじめとした身の回りのケアが難しくなるため、本人だけでなく介護者にとっても負担となります。たとえば、オムツをしている方が痙縮で股関節が内転し、足が開きづらくなると、介護者1人ではオムツ交換が難しくなり、2~3人の手が必要になることもあるでしょう。 また、皮膚トラブルにも注意が必要です。高温多湿になる梅雨には、脇が蒸れてカビが生えてしまうことも。手指の握りこぶし状変形がある場合は、爪切りが困難なため、爪が皮膚に食い込んで潰瘍になってしまうこともあります。 痙縮と拘縮の違い 拘縮は、手術や交通事故の外傷などによって関節を動かす機会が減少し、関節自体がカチカチに固まってしまった状態のことです。五十肩などの痛みによって動かす機会が減り、拘縮につながることもあります。この場合はボツリヌス治療の適応ではありません。痙縮も適切な治療をせずに放っておくと、筋肉が固まってしまい関節の運動が制限される拘縮につながります。 痙縮の評価 痙縮の評価方法2)は、以下のとおりです。 (1)臨床的評価【主観的】疼痛・衛生、皮膚の状態、睡眠、気分、患者および介助者のQOL【診察】運動麻痺、関節可動域(ROM)、腱反射、筋緊張、感覚、姿勢【日常生活動作(QOL)】 上肢:つかむ、放す、運ぶ、の各動作 下肢:移動、歩行(2)神経生理学的評価(表面筋電図、動作解析、反射など)(3)生体力学的評価(伸張反射) 評価方法の中でぜひ訪問看護師のみなさんに知ってほしいのは、上記の(2)にあたる「打腱器」によるチェックです。痙縮がある方の肘の腱や膝を打腱器でポンポンと叩くと、筋緊張が高いため、反射が亢進しています。 治療方法の選択 さまざまな治療方法がある痙縮ですが、その中でも今回は、「ボツリヌス療法」についてご紹介します。脳卒中、頚髄損傷、多発性硬化症などがベースにあり、交通事故をはじめとした整形外科疾患ではないことがボツリヌス療法適応の判断基準です。 ボツリヌス療法硬くなった筋肉にボツリヌス毒素を注射する治療法で、歩きやすくなる、手を使いやすくなるといった機能改善を目的に行います。筋緊張が弱まることで、筋肉のつっぱりによる痛み(こむら返りのような手足がつる痛み)の緩和や介護の負担軽減につながる可能性があります。 内服治療も選択肢のひとつですが、比較的症状が軽い方が対象となります。 その他の治療法として、両手・両足、体幹など、痙縮の範囲が広く症状が強い場合、バクロフェン髄腔内投与療法(ITB療法)を選択することもあります。バクロフェンという液体が入った容器を腹部に埋め込み脊髄へ点滴の要領で流していく治療方法です。 >>関連記事ITB療法についてはこちら訪問看護師に知ってほしい!脳卒中再発予防策 後遺症「痙縮」【セミナーレポート後編】https://www.ns-pace.com/article/category/feature/stroke-prevention-3/ 継続治療の難しさ ボツリヌス療法は推奨度の高い治療であり、症状が緩和するケースが多い一方で、治療を継続できないケースも多く見受けられます。 その理由は、まず治療費が高額であること。そして、3ヵ月ごとに繰り返し注射を打たなければならず長期的に治療を継続する必要があること。さらに、比較的痛みの強い筋肉注射を複数箇所に実施するため、治療に対する恐怖心を抱く方もいらっしゃることなどが挙げられます。 抗生剤や抗がん剤、降圧剤、鎮痛剤など一般的な薬は使用目的が明確で、医師と患者さんの間で認識のズレが起こりにくいものです。これに対してボツリヌス療法は、継続治療の難しさから実施にあたり工夫が必要で、多職種で連携して患者さんを支えていくことが求められます。 次回はボツリヌス療法のフェーズ、治療の実際や多職種連携について解説します。>>後編はこちら麻痺に伴う痙縮とは~治療のフェーズと実際~【セミナーレポート後編】 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア 【参考】1)Brin MF, et al. Muscle Nerve.1997,20(Suppl 6): S208-S2202)正門由久.「痙縮の治療選択-その評価とマネジメント」臨床脳波2006;48:241-247

訪問看護認定看護師トークセッション 地域連携編
訪問看護認定看護師トークセッション 地域連携編
インタビュー 会員限定
2024年6月11日
2024年6月11日

訪問看護認定看護師トークセッション 地域連携編【セミナーレポート後編】

NsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー「訪問看護認定看護師によるトークセッション〜人材育成と地域連携の実例紹介~」を2024年2月3日に実施しました。スピーカーにお迎えしたのは、訪問看護認定看護師の野崎加世子さんと富岡里江さん。トークセッション形式で、訪問看護が抱える課題やその解決方法を議論しました。 今回はそのセミナーの内容を、前後編に分けて記事化。後編では地域連携について、実際の事例を紹介しながら考えていきます。 ※約60分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 >>前編はこちら訪問看護認定看護師トークセッション 人材育成編【セミナーレポート前編】 【講師】野崎 加世子さん初代訪問看護認定看護師協議会代表理事、現監事。「これからの在宅医療看護介護を考える会」代表。富岡 里江さん訪問看護ステーションはーと勤務。POO マスター、「渡辺式」家族看護認定インストラクター。東京都訪問看護教育ステーション事業における研修の企画・運営も担当。【ファシリテーター】中村 優子さんフリーアナウンサー・インタビュアー。著名人の YouTube チャンネル運営他、著者インタビューを多数手掛ける。 ※本文中敬称略 地域連携における現状と課題 中村: 野崎さんが活動する岐阜県における地域連携の現状と、連携強化のために実践している工夫について教えてください。 野崎: 私が活動しているのは人口10万人ほどの山間地が多いエリアで、地域サービスの不足が課題になっています。 その課題解消に向けて、地域の方たちと「顔の見える連携」を実践しています。なるべく直接顔を合わせるよう意識しつつ、ICTも活用。コロナ禍の連携にはオンラインミーティングを利用しました。 また、タブレット端末に専用ソフトをインストールし、利用者さんの情報を関係者間で共有しています。訪問範囲が広く、連携先の機関に出向くには時間がかかるので、とても便利です。 中村: 地域連携の難しさを感じるのはどんなときですか? 野崎: 病院から退院された利用者さんがスムーズに在宅での生活に移るには、訪問看護師と、医師や薬剤師、ケアマネジャー、ヘルパー、リハビリ職など、多職種が密に連携し、情報を共有する必要があります。しかし、ひとり暮らしや高齢の利用者さんが多く、民生委員やご近所の方などインフォーマルなサービスの方々が連携メンバーに加わるケースも。すると、個人情報保護の観点で話せないことも出てきます。さじ加減が難しいですね。 中村: 本当に多様な方々と連携されているんですね。連携時に意識なさっていることはありますか? 野崎: 会議の際に、参加者全員がわかる言葉選びを意識しています。医師や看護師が難しい医療用語を使うと、ほかの方々が発言しなくなってしまうケースもあるので。それぞれがお互いの立場や役割を理解し、わかりやすい言葉でコミュニケーションをとり、しっかり支え合えるよう心がけています。 地域連携の活動事例 中村: ここからは、地域連携の事例をお聞きできればと思います。まずは富岡さん、いかがでしょうか。 富岡: 私からは、予期せぬ手術で気管切開、人工呼吸器管理になったALS(筋萎縮性側索硬化症)の男性、Aさんの事例をご紹介します。 Aさんは奥さまに先立たれ、お子さん2人をひとりで育ててきた男性です。ALSに消化器疾患を併発し、状態が悪化。医師から「看取りが近い」と宣告され、長女さんは大学を休学して介護することを決意されました。 しかし、そのことを知った地域連携室が「本当にこれでよいのか」と悩み、私に相談をいただいたんです。 実際にAさんにお会いすると、病室にいながらインターネットでお子さんたちの日用品や食料品を手配したり、「家の中なら動ける」とおっしゃったりと、看取りが近いと宣告されたとは思えない様子でした。自身の最期を気にするよりも、お子さんの将来を楽しみにしているのが伝わってきましたね。 在宅ならもう少しADLの回復が見込めるかもしれないと考え、ケアマネジャーを含め各方面と相談。ご家族にも長期的な介護になる可能性を伝え、長女さんの就職も見据えて、在宅チームを結成しました。 そしてAさんは自宅に戻ると、やはりADLが回復。家庭の中心的な役割を担われるまでになりました。チームで介護にあたった結果、長女さんも大学を卒業し、就職できています。早期に関係者間の共通理解を図れたことで、連携、協働がうまく実現できた事例です。 中村: 非常に印象深いケースのご紹介をありがとうございます。野崎さんの活動事例も教えてください。 野崎: 私からは、気管切開を経て頻回の吸引が必要になった小児・Bさんの事例をご紹介します。 Bさんは「お兄ちゃんと同じ普通小学校に行きたい」という希望をもっていましたが、当時は特別支援学校にも看護職員がいない時代。教育委員会は普通小学校に吸引が必要なBさんの通学を許可してくれませんでした。私は、厚生労働省や他県の認定訪問看護師に相談しつつ、自分でも調査しました。すると、決して入学は無理ではないとわかってきたんです。 かかりつけ医や地域への協力を打診し、訪問看護師とBさんのお母さんとが交代で吸引を行う体制を整えました。そして、3年かけてやっと普通小学校への通学許可を得たんです。その後Bさんは、成長するにつれ自身で吸引を行うようになり、普通高校、国立大学へ進学したんですよ。そして、「普通小学校に通える子を増やしたい」という想いをもって2023年度から教員として小学校に就職し、今も元気に働いています。訪問看護師・認定訪問看護師になったからこそ支援できた事例でした。 中村: お二方とも、まさに訪問看護認定看護師の強みを活かされた貴重な情報の共有をありがとうございました。最後に、訪問看護師のみなさまへのメッセージをお願いします。 野崎: 訪問の現場では、日々つらいことや思い通りにならないことがあったり、孤独を感じたりするのではないかと思います。でも、相談に乗ってくれる人は必ずいます。目の前の利用者さんを大事にし、楽しみながら訪問看護を実践していきましょう。 富岡: ひとりで不安を抱えているなら、今回ご紹介した相談先に連絡したり、訪問先でもICTを活用して同僚とつながったりして、ぜひ周りに頼ってください。そして、できるだけ楽しく日々看護にあたり、利用者さんの笑顔を引き出してもらえたらと思います。全国の仲間と一緒に頑張りましょう! 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

訪問看護認定看護師トークセッション 人材育成編
訪問看護認定看護師トークセッション 人材育成編
インタビュー 会員限定
2024年6月4日
2024年6月4日

訪問看護認定看護師トークセッション 人材育成編【セミナーレポート前編】

2024年2月3日に実施した、NsPace(ナースペース)主催オンラインセミナー「訪問看護認定看護師によるトークセッション〜人材育成と地域連携の実例紹介~」。訪問看護認定看護師の野崎加世子さん、富岡里江さんをスピーカーにお迎えし、トークセッション形式で、訪問看護が抱える課題や解決方法を考えました。 今回はそのセミナーの内容を、前後編に分けて記事化。前編では、訪問看護師や新任管理者の教育についての議論をまとめます。 ※約60分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】野崎 加世子さん初代訪問看護認定看護師協議会代表理事、現監事。「これからの在宅医療看護介護を考える会」代表。富岡 里江さん訪問看護ステーションはーと勤務。POOマスター、「渡辺式」家族看護認定インストラクター。東京都訪問看護教育ステーション事業における研修の企画・運営も担当。【ファシリテーター】中村 優子さんフリーアナウンサー・インタビュアー。著名人のYouTubeチャンネル運営他、著者インタビューを多数手掛ける。 ※本文中敬称略 人材不足の現場における教育の難しさ 中村: 訪問看護師の人材不足についてはよく耳にしますが、実際のところはいかがでしょうか? 富岡: 看護師のみなさんは、訪問看護に対して「緊急時にひとりで対応できるか不安」「オンコール対応の負担が大きいのでは」といった懸念を抱くようです。確かに、訪問看護はあらゆる年齢層や疾患、障害をお持ちの利用者さんを看ます。豊富なスキルや経験が必要だと考えて、不安ゆえになかなかチャレンジできない気持ちもわかります。 また、訪問看護師の中にも勤務時間を限定する雇用形態を選ぶ方は多いため、現場ではオンコール当番を含めてスタッフの確保に苦労していると思います。 中村: そのような厳しい状況下で、教育面ではどのような課題がありますか? 富岡: 全国の訪問看護ステーションにおける看護職の平均在籍人数は、わずか5人程度。看護職の人数が少ない小規模な訪問看護ステーションでは、OJT、OFF -JTを行おうにも限界があるのが現状です。 たとえば新任者教育のために同行訪問を行うにしても、得られる訪問料はひとり分なのに対し、ステーションは2人の訪問看護師を派遣した分の負担を背負うことになります。また、スタッフを外部研修に参加させると、訪問の計画を組むのが難しくなるでしょう。 中村: 人手不足な中で、収益や日程調整などの課題があるのですね。 富岡: そうですね。それに利用者さんが置かれている状況は実にさまざまで、同じケースは一例もなく、学びには終わりがありません。これも訪問看護の難しさではないかと思います。 新任管理者に対する教育の重要性 中村: 新任管理者の教育にも大きな課題があると伺っています。 富岡: はい。最近は訪問看護未経験のまま管理者になる方が増えていて。訪問看護に関する制度や適切な運営方法、利用者さんやご家族との適切な関わり方などがわからないまま管理業務に当たらなければならず、悩む新任管理者さんが多いようです。 野崎: 2023年4月時点で、全国の訪問看護ステーションは1万5,000ヵ所を超え、新設数は1年間で約1,800に上ります。一方で1年間に700〜800の事業所は閉鎖、もしくは休止してしまうんです。 その主な原因は、富岡さんがおっしゃったように、管理者に訪問看護ステーションをきちんと運営する知識やノウハウが不足していること。せっかく「訪問看護をやりたい」と情熱をもった新任管理者さんが行動を起こしても、在宅特有のレセプト業務や地域連携といった難しい壁にぶつかり疲弊してしまいます。こうした問題をなんとか解決すべく、私たちも研修を行っているんです。 中村: どのような研修なんですか? 野崎: たとえば、岐阜県では訪問看護認定看護師協議会に所属する15人の訪問看護認定看護師が集まって、地域の新任管理者や着任3年以内の訪問看護師が悩みを打ち明け、解消できる場を提供しています。管理者同士、新人同士でお互い悩みを話し合ってもらうんです。 こうした研修会は、日本訪問看護財団や事業協会が全国で行っています。新任管理者、新人訪問看護師の育成のためには、研修会やステーション内のケアカンファレンスなどを頻回に行うのが重要だと考えています。 富岡: 私が所属する事業所にも、新任管理者の方が体験研修にいらっしゃり、その後も引き続き相談を受けるケースは多いです。ただ、時間がないために相談先を探せず、ひとりで問題を抱え込んでしまう方も少なくないと思います。 >>関連記事日本訪問看護認定看護師協議会や訪問看護認定看護師の取り組みについてはこちら「訪問看護認定看護師」シリーズ一覧https://www.ns-pace.com/series/certification-nurse/ 訪問看護師、新任管理者の相談先 中村: 今問題を抱えている方は、どちらに相談するのがよいでしょうか? 野崎: 各都道府県にある訪問看護ステーション連絡協議会や、訪問看護支援センターが相談に乗ってくれますよ。私たちのような訪問看護認定看護師や在宅ケア認定看護師も頼ってほしいです。訪問看護認定看護師は全都道府県にいるので、訪問看護ステーション連絡協議会ホームページを参照し、ぜひお近くの者にご連絡ください。 また、連絡協議会では、コンサルテーション事業やメール相談も行っています。実際にたくさんの管理者さんから相談を受けているので、みなさまも遠慮なく活用してください。あとは、経験豊富な訪問看護師からアドバイスをもらうのも手だと思います。 中村: ありがとうございます。 >>後編はこちら訪問看護認定看護師トークセッション 地域連携編【セミナーレポート後編】 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

訪問看護師のためのリハビリ知識 実践ノウハウ編
訪問看護師のためのリハビリ知識 実践ノウハウ編
特集 会員限定
2024年5月28日
2024年5月28日

訪問看護師のためのリハビリ知識 実践ノウハウ編【セミナーレポート後編】

2024年2月3日に開催した、NsPace(ナースペース)オンラインセミナー「訪問看護師向けのリハビリセミナー ~実践的な知識を身につけよう!~」。京都大学大学院の教授で医学博士の青山朋樹先生を講師に迎え、訪問看護の現場で活きるリハビリテーションの知識を教えてもらいました。 今回はそのセミナーの内容を、前後編に分けて記事化。後編では、訪問看護で実践できる具体的なリハビリテーション(以下、リハビリ)と、訪問看護師自身の負担軽減にもつながるボディメカニクスのポイントについてご紹介します。 ※約60分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 >>前編はこちら訪問看護師のためのリハビリ知識 基礎&環境調整編【セミナーレポート前編】 【講師】青山 朋樹先生医学博士/京都大学大学院 医学研究科 人間健康科学系専攻 先端理学療法学講座 教授整形外科医として長らく病院で臨床経験を積んだ後、2009年から京都大学大学院で学生の指導、研究にあたる。専門は再生医学、リハビリテーション医学。近年はリハビリテーションのDX化に取り組んでいる。 円背の方におすすめのストレッチ 特に高齢者の方に多く見られる円背は、股関節や膝関節の屈曲にもつながり、「お年寄りっぽい姿勢」の原因になります。改善のためには、背中だけではなく、股関節や膝関節も一緒に伸ばすストレッチがおすすめです。 円背のある高齢者の方は体のバランスが不安定なので、こちらの左の画像のように、まず壁にしっかりと手をついてもらってください。そして可能な範囲でつま先立ちになり、3秒かけて背中を伸ばします。その後、同じく3秒かけてかかとを戻しましょう。 続いて、右の画像のようなストレッチも行います。先ほどと同じように壁に手をついたら、足を前後にずらし、背中と太もも、膝の裏を左右10秒ずつ伸ばします。 このストレッチを行うと、背中が丸まっているせいで硬くなっていた胸筋が伸びて、とても気持ちがよいはずです。訪問看護師のみなさんも、日々の処置で前かがみの姿勢をとることが多いと思いますので、ぜひ利用者さんと一緒にストレッチをやってみてください。 なお、このストレッチは、腰椎圧迫骨折後の方でも骨が固まっていれば実践可能です。転倒にはくれぐれも注意しながら行ってください。また、骨はすでに完治しているにもかかわらずストレッチができない場合は、ぜひ理学療法士や作業療法士に意見を聞いてもらえたらと思います。 呼吸困難感がある方向けのトレーニング 呼吸困難感は、PaO2低下やPaCO2上昇による化学受容器への刺激や肺や胸郭の広がりが悪い場合に生じます。 一方、慢性呼吸不全の利用者さんは、呼吸不全、困難になることへの恐怖心が強いことがほとんどです。そのため、「リハビリのためにどんどん動きましょう」と提案しても承諾してもらえないケースが多いと思います。「動くことで苦しくなるんじゃないか」と警戒してしまうんですね。 そんな利用者さんには、運動強度があまり高くないストレッチを提案してみてください。まずは無理のない範囲から始めて、自信をもってもらうのがよいと思います。 上の写真は、胸郭周辺を柔らかく動かせるようにするストレッチです。これらを継続することで、だんだんと胸郭を大きく広げられるようになり、胸郭が動かないことによって生じる呼吸困難感の解消につながります。写真のストレッチすべてを行う必要はないので、利用者さんの様子や意向を確認しながら、できそうなものをピックアップしてチャレンジしてください。また、先ほどご紹介した円背の方向けのストレッチも有効です。 ストレッチを習慣化してどんどん自信がわいてきたら、長距離を歩いたり、少し速度を上げて歩いたりといった「持久力を強化するトレーニング」へ徐々に移行してもらえたらと思います。 認知・運動機能の同時刺激トレーニング フレイル予防のためにも、ぜひ取り入れていただきたい運動。しかし運動習慣がなく、体を動かすことに抵抗がある方は少なくありません。 そんな利用者さんにトレーニングをすすめるときに重要なのは、「体を動かさないと寝たきりになってしまうよ」といった恐怖訴求をしないこと、そして「運動」や「筋トレ」といった言葉を使わないことです。ゲームのような感覚で楽しめるトレーニングを用意し、「気づいたら体を動かしていた」という状況をつくることが望ましいでしょう。 具体的には、認知機能と運動機能の両方を同時に刺激できるトレーニングがおすすめです。例えば、イスに座ってできるだけ早く足踏みをしながら、5秒間でお題に答えてもらいます。お題は「【あ】から始まる言葉」や「日本の県庁所在地」など、一人ひとりに合わせて難易度を調整してください。このようなトレーニングのメニューは、ほかにもたくさんあります。 チャンネル名:京都市左京区地域介護予防推進センター「おうちでもアタマとカラダを同時に刺激! ~ステッププラス シート編~」 YouTubeに動画をアップしているので、ぜひ「ステッププラス」と検索してご参照ください。 看護師のボディメカニクスについて 看護師のみなさんにとっては、自身の体の負担を軽減し腰痛や膝痛を予防する、もしくは大きな体格の利用者さんを介助するためのボディメカニクスも気になるポイントではないでしょうか。 ボディメカニクスの細かな手法については各種文献をご覧いただければと思いますが、重要なポイントは、体の軸をつくって下半身を安定させることです。しっかりと足を開き、膝を曲げ、腰を落とす。そして、脇をきちんと締める。これを徹底すると、自然と体の軸が安定します。 この軸がブレると、バランスが不安定になり、特定の筋肉に負荷をかけすぎてしまいます。さらに、不安定な状態で介助を行うと、利用者の方が恐怖心を抱き、体に余計な力を入れてしまいます。そうすると、介助する側の負担もより大きくなるため注意が必要です。 * * * 訪問看護師のみなさんとリハビリ職が連携したり、看護の中でストレッチやトレーニングに取り組んでもらったりすれば、訪問リハビリの可能性はもっと広がると考えています。かつては「ADLをこれ以上低下させないこと」が目標になっていましたが、これからの時代は、むしろ身体機能を回復するために訪問リハビリが行われるようになるのではないでしょうか。利用者さんのより健やかな生活を目指して、訪問看護師のみなさんも、ぜひリハビリに対するアンテナを高く張ってもらえたらと思います。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

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