訪問看護師のマナー講座

特集
2022年7月26日
2022年7月26日

[4]知っておきたい、結婚式の席に同行するときのマナーや事前準備

訪問看護師の方に知ってほしいマナーについての連載です。今回は、利用者さんが出席される結婚式に同行するときのマナーや事前準備について解説します。付き添い看護のプロにもお話を伺っていますので、参考になさってください。 大切な日だからこそ利用者さんに「恥をかかせない」看護を 訪問看護を担当する利用者さんから「結婚式に出席するため同行してほしい」と依頼された経験はあるでしょうか? このような依頼があったら、頼りにしていただけたことがうれしい反面、慣れていないために不安な気持ちになるかもしれません。 今回は、結婚式などのお祝いの日に、日頃から担当している訪問看護師として利用者さんに同行する際のマナーや事前準備のポイントを考えます。 某看護雑誌の企画で、看護部長のみなさまのインタビュー記事を連載したことがあります。そのときのある看護部長のコメントが大変印象的でした。「患者さんに恥をかかせない。それが看護よ」この言葉は、特別な行事に参加する利用者さんをサポートする訪問看護師のみなさまにとってもキーワードになるのではないでしょうか。 付き添い看護のプロ、前田和哉さんにお話を伺う オーダーメイドの付き添い看護サービス「かなえるナース」を立ち上げられた株式会社ハレ取締役代表の前田和哉さんに伺ったお話をご紹介します。同行する際のマナーから、事前に準備しておくこと、確認しておくことなど、知っておきたいポイントを教えていただきました。 ― 結婚式に出席する方に同行する場合、服装はどのようにされていますか? [前田さん]礼服にしています。ラフな平服で同行したケースで、両家対面の際に、同行した側の方たちではなく、相手方のご家族が看護師の服装について難色を示した、という話を聞きまして。依頼者のご迷惑にならないよう、そして式に礼意を表すためにも基本的に礼服を着用するようになりました。 ― 服装は、礼服か礼服に準じたものが適切と考えたほうがよいですね。必要物品を入れるバッグなどの持ち物も、その場にマッチした外見かどうか、事業所内で確認しておくとよいかもしれませんね。できるだけ物々しくならないように配慮することも必要そうです。同行する対象の方の病状によって持参する物品は違ってくると思いますが、マナーの観点から現場で「持参すればよかった」と思われた物品はありますか? [前田さん]はい。まず思い出すのは、粘着テープでできたクリーナーです。依頼者である男性が着用された礼服にフケが目立ったときがありまして。髪に寝癖がついたまま、といったこともあり、ドライシャンプーなどでさっと保清して差し上げるなどもよいと思い、準備したりもします。 それから、「替え用のマスク」。感極まって、涙を流されてマスクが濡れてしまったためです。 他は「ストロー」でしょうか。水分摂取をするためにご自宅では吸い飲みを使っているとしても、祝宴の場ですからストローのほうがよいようです。会場の方にご準備をお願いすることもよいと思います。ただ、持参していたほうがさっと使えてよいですね。 在宅療養では、自然にそろっている何気ない用品がありませんから、その点を意識して持参物品をそろえるといいでしょうね。 ― なるほど。確かに、と思うことばかりです。式次第などスケジュールへの配慮にはどのようなことがあるでしょうか。 [前田さん]何といっても記念写真の撮影への配慮は欠かせません。みなで記念写真などを撮影するタイミングに、トイレに行っていたとか、別室で何かしら処置をする必要ができたなどで、写れなかったら大変残念です。また、例え写真に入れたとしても、そのときに疲れ果てた状態で、疲れた表情のまま写ってしまわないように、と考えます。いつごろ何をどう対応するべきか、と考えながら注力します。 ― 大事な点ですね。ご本人は、写真にはよい表情で写りたいでしょうし、ご家族や縁者の方たちもそれを望んでいると思いますし。式には最初から最後まで出席する方が多いのでしょうか。 [前田さん]いえ、そんなことはないです。容態によっては、式の最初から最後まで出席することにこだわらず、乾杯とか、写真撮影とか、要所のみ出席していただくような方向も看護職としてご提案します。 ― どのくらいの時間でお疲れになるとか、望ましい姿勢やお薬を飲むタイミングなど、状況に応じて看護判断を行い、おすすめの方法をご提案できるとよいですね。依頼したご本人やご家族も安心して過ごすことができると思います。 最後に、日ごろ訪問看護をしている方から結婚式の付添いの依頼があり、慣れていない対応のため不安のある方に向けてアドバイスをお願いできますか? [前田さん]特に付き添い看護は難しいことではないです。基本的に病院受診に同行することなどと同じですよ。 ― ありがとうございました。 事前準備も十分に行うことが大切 同行当日までに、主治医とご本人やご家族と打ち合わせ、輸液ポンプや酸素ボンベ、吸引器などを持ち込む必要がある場合は、それらをどのように配置し、使用するかをしっかり検討し、結論を出します。結論は、ご本人やご家族と共有するだけでなく、会場の担当者とも必要な部分のみ共有しておくとよいでしょう。 また、会場までの交通や会場の下見も必要です。車椅子で利用できるエレベーターがあるかなどバリアフリーに関する情報も調べておきます。会場の担当者とは、容態が変化したときに使用できる別室があるかどうか、横になったほうがよいときの対応方法なども打ち合わせておきます。当日、何かあったときにすぐに連携できる体制を整えておくと安心です。 なお、当日の飲食については、こちらの役割をまっとうするために遠慮させていただくことを伝えておくとよいです。 事前準備を十分に行っておけば、当日は、普段どおり、病院受診に同行するときと同じように、観察し判断し、必要な対応をとれるのだと思います。 * 以上、計4回にわたって、マナーにまつわる記事を連載いたしました。参考になる点がありましたら幸いです。 わが国では1992年に訪問看護ステーション制度が発足し、看護職の所長が誕生して30年たちました。今後も、訪問看護時のマナーを継続的に話題にしていくことが、訪問看護領域のさらなる成熟につながるように思います。 ワンポイントメモ●同行に訪問看護指示書は必要?今回ご紹介したような結婚式への同行は保険外対応として行います。そのため訪問看護指示書は必須ではありません。ただし、利用者さんの状態によっては、出先の状況に応じて医師の指示に基づく医療行為が必要であるなど、訪問看護指示書が重要となるケースも少なくないと思います。主治医と利用者さん、ご家族と事前の打ち合わせする際に、訪問看護指示書の必要性について確認しておくとよいでしょう。 執筆 小林 光恵看護師、作家 ●プロフィール看護師、編集者を経験後、1991年より執筆業を中心に活躍。2001年に「エンゼルメイク研究会」を発足し、代表を務める。2015年より「ケアリング美容研究会(旧名・看護に美容ケアをいかす会)」代表。漫画「おたんこナース」、ドラマ「ナースマン」の原案著者。記事編集:株式会社照林社

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2022年7月19日
2022年7月19日

[3]FAXを送るときに気をつけたい! 6つのポイント

訪問看護師の方に知ってほしいマナーについての連載です。第3回は仕事でFAXを使ってやりとりする際のポイントをマナーの視点で考えます。FAXを送る際に気に留めてほしいポイントをまとめましたので、ぜひご覧ください。 FAXは、一般には利用頻度が減少傾向にありますが、訪問看護領域やその周辺ではまだまだ活用されている印象があります。私は日ごろから、FAXを使ったやりとりには、マナーに対する姿勢や考え方が反映されやすいと感じています。今回は、FAXを送るときに留意してほしいポイントを6つご紹介します。どれも普段から心がけているという方には確認としてお読みいただけましたら幸いです。 ポイント① 情報漏えいのリスクに配慮する FAXの送り先がどのような環境で受信するかは、先方の事業所の規模や業務内容などによってさまざまです。受信機が相手のデスクのすぐそばにあることもあれば、小さくない事業所でも建物内に1か所にしかなく、多くのスタッフで受信機を共有している場合もあります。受信機の場所によっては、来訪者の目に触れる可能性もあります。考えてみると、FAXは電話やメールよりも情報漏えいのリスクが高い通信手段ですね。 情報漏えいが起こってしまうことで、利用者さんや関係者にも迷惑がかかってしまいます。こうしたことが起こらないように配慮するのは、FAXのやりとりにおいて最も重要なマナーといえるでしょう。当然ながら、機密文書や親展の書類はFAXでの送信を避けるべきです。 情報漏えいを防ぐ観点から、次の点にも留意します。 FAXの送信前後に電話で連絡をする 忙しい中、相手をわずらわせるのではないかと電話連絡を控えるのは、逆にマナー違反といえるでしょう。送信相手に確実にFAXを届けるために、できるだけ送信する旨を電話で伝えてから送信するようにします。状況により事前に連絡できなかった場合は、送信後に電話をします。送信相手が不在の場合は、電話に出た人に、FAXを送信相手の机上に置いていただけるようにお願いします。 FAX番号の確認 送り先のFAX番号の押し間違いが絶対に起こらないとは言えません。あわてずにしっかりと番号を確認し、入力します。頻繁にやりとりすることが考えられる相手は、テスト送信を行った後、番号を登録しておいたほうがよいでしょう。便利なだけでなく誤送信のリスクを減らせます。 もし誤送信してしまったら、即座に誤送信先に連絡をとり謝罪します。そして、送信した書類を破棄していただくようお願いします。FAX番号しかわからなければ、誤送信のお詫びと書類破棄のお願いを記載したFAXを送信します。 ポイント② 送信する書類は黒い部分をできるだけ少なく 送信書類の文字や段落に黒やグレーでアミ掛けをし、紙面にめりはりをつけて見やすく工夫している事業所があります。その配慮はうれしい反面、受信機のインクが大量に消費されてしまうので少し迷惑でもあります。電話やメールのやりとりに比べると、インクコストがかなりかさみます。ですから、できるだけ送信先の負担が小さくなるよう配慮することも大切なマナーです。 実は以前、ある事業所から大変アミ掛けの多いFAXを頻繁に受信した時期がありました。FAX受信機には、スキャナー機能も有した複合機(複合機を使用している小規模事業所は少なくないと思います)を利用していたのですが、インクがすぐになくなり交換頻度が高くなってしまい、残念な思いをしました。 しかし、そのことを先方には告げづらく、そのうち、こちらからはその事業所に積極的に連絡をしなくなってしまいました。 このような経緯があり、黒い部分が少ないFAXを受け取ると、マナー意識が高いと感じるようになりました。FAX送信する書類では、黒やグレーのアミ掛けは控えて、罫線も必要最小限に、イラストを配するならシンプルな線画にしてみるのはいかがでしょうか。インクの消費量を抑えるだけでなく、読みやすさもアップするのではないかと思います。 ポイント③ 写真のFAX送信は慎重に 皮膚症状や創部の変化などを知らせるために、その部位を写真撮影し、プリントした画像をFAXで送信することもあるかと思います。 しかし、この方法はおすすめできません。手元のカラープリントではしっかりと認識できている写真でも、FAXで送信してしまうと、受信側ではただただ一面に黒く、何が写っているのかさえわからない画像に変わってしまう場合があります。 前出のインクコストのことも考えると、写真はデータをメールで送付する方法が一番伝わりやすい手段だと思われます。 それでもFAXで送信しなければならない場合は、送信後に相手に電話で写真の状態を確認し、補足説明をする必要があるかもしれません。 ポイント④ ファイリングしづらくないよう書類を作成する FAXで届いた書類は、ポケット式ファイルやパンチ式ファイルなどに綴じることが多いと思います。ファイルに綴じたときのことを考え、書類のレイアウトにも配慮するとよいでしょう。 文書の左側や上側は、ファイリングするときにパンチで穴を空ける可能性があるため十分にスペースを空けます。紙面いっぱいに文字があると、文字の位置とパンチの穴が重なってしまい、報告書の項目が見えなくなってしまったという話を何件か聞きました。 また、パンチ式もポケット式も書類の数が多くなると、ファイルを開いた際に開ききらず綴じ側が見えづらくなることがあります。その点も配慮してスペースをつくる必要があります。 加えて、各書類の書式やデザインは、頻繁に変更しないことをおすすめします。ファイリングすると、落ち着きがなくうるさい印象をもたらし、安定感のない事業所であるようなイメージにつながってしまいます。 ポイント⑤ 書類に使う文字サイズや書体選びにも配慮を 最近は文字書体のバリエーションが豊富になり、手軽に自由にさまざまな書体を選んで使えるようになりました。 しかし、ビジネスシーンでは書体選びに慎重にならなければなりません。書体は思った以上に、書類の印象を左右します。 私の出身地の茨城県行方市では数年前から株式会社モリサワの連携協力を得て、市報などにUD(ユニバーサルデザイン)フォントを使用しています。以前のものと書体の変化はあまり感じないのですが、読みやすさなど細部に多くの工夫が施されたフォントなので、市報を読んだ知り合いの多くが「どこが変わったかよくわからないが、すごく読みやすくなり、雰囲気がよくなった」と言います。このように、書体1つで紙面の印象が変わるケースはよくあります。 ちょっとした工夫のつもりで、例えばFAX送信状の一部の文字に少し変わった書体を使用すると、小細工感が漂うとでもいいましょうか、うるさく感じる人もいるようです。デザインのプロでなければ、少し変わった書体をバランスよく配置するのは難しいのです。 ですから、使用する文字の書体は、一般的な明朝体やゴシック体がマナーの観点からはおすすめです。 また、小さな文字は避けるなど、文字のサイズにも配慮が必要です。小さな文字は送信先の受信機によってはつぶれて読めなくなることもあります。 ポイント⑥ 手書きの部分はていねいに書く この記事を書くにあたり、訪問看護師のみなさまと、業務でやりとりしている方たち数名にお話を伺ったところ、FAXの宛名に関するお話がいくつか聞かれました。FAX送信状の宛名部分は手書きで記すことが多いと思います。宛名の文字が雑に書かれていると、いかにも忙しそうな雰囲気が伝わり、あまり気持ちのよいものではないそうです。 パソコンで作成した文書の中、少ない手書きの文字は目立ちます。心を込めて、ていねいに書きたいものですね、自戒の念も込めて。 ー第4回へ続く 執筆 小林 光恵看護師、作家 ●プロフィール看護師、編集者を経験後、1991年より執筆業を中心に活躍。2001年に「エンゼルメイク研究会」を発足し、代表を務める。2015年より「ケアリング美容研究会(旧名・看護に美容ケアをいかす会)」代表。漫画「おたんこナース」、ドラマ「ナースマン」の原案著者。記事編集:株式会社照林社

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2022年7月12日
2022年7月12日

[2]訪問看護師に求められるメールのマナー

訪問看護師の方に知ってほしいマナーについての連載です。今回はビジネスマナーの基本でもある、仕事上のメールのやりとりにおけるマナーのポイントをご紹介します。 「会ってやりとりするような気持ち」が、その場の判断を助ける 訪問看護師のAさんは、早急に謝罪メールを送信する必要が生じました。メールを急いで書かなければならないのに、どのような文面にしたらよいのか、特に出だしの挨拶に非常に悩み、切羽詰ってしまいました。 とにかく、いち早く謝罪をしなければと思い、まずは電話で謝罪したそうです。その相手は、メールでのやりとりを希望している方でしたが、電話に出られない状況ならば出ないだろう、出られないようならメールを書こう、と考えて。 果たして、電話で謝罪すると相手から「わかりました」という返答がありました。まずは急いで電話してよかった、と考えたAさんでしたが、その後、相手からAさんの上司に抗議のメールがあったそうです。メールではなく電話で謝罪したことについて。 Aさんは、上司から、相手がメールを希望しているうえに、メールのほうが記録としても残るためメールを送るべきだった、電話をする前に上司に相談するべきだった、と注意を受けました。 Aさんのように、メールの出だしの挨拶などで悩んでしまったり、メールを書くのが毎回非常に面倒だと思う方などにお伝えしたいコツは、「会ってやりとりするような気持ちでメールを書く」ということです。 ここで、対面の場合にはどのようにするか考えてみましょう。流れは次のとおりになると思います。①会ったらまず挨拶する②用件を伝える(または、何かを話し合う)③挨拶をして辞する この流れは基本の流れと言えます。つまり、「直接会う」、「メール」、「FAX」、「電話」のいずれの方法においても、この①~③の流れは相手と仕事上のやりとりをする際の鉄板ともいえる流れですね。 Aさんのような急ぎの事態になった場合、もし直接会ったなら、時候の挨拶や日頃お世話なっている感謝の言葉などは省略し、ごく手短に挨拶を済ませるはずです。そして、用件(謝罪の内容)を伝え、また改めて説明と謝罪に伺うことを伝えて、辞する挨拶をするのだと思います。 メール文もそれと同じで、「お世話になっております」で①を済ませ、「さっそくですが、」などの前置きをして②を書き、「取り急ぎ、ご報告にて。失礼いたします」といった文言を③とします。 会っていれば、帰りの挨拶をせずに帰ることはないでしょう。ですから、会っている気持ちでいれば、うっかり挨拶が抜けてしまうといったことは回避できます。つまり、「会ってやりとりするような気持ち」は、マナー不足を避けてくれるのです。 メールの件名を必ず書く ここからは、メール文の構成に沿って、メール作成のポイントを解説していきます(図1)。 私の場合、件名がないと迷惑メールの可能性もあるため基本的にはメールを開きません。しかし、メールアドレスから想像して、仕事関係のメールかもしれない、と考えて開くと、本文を書きあげて、件名を書くのを忘れて送信してしまったのかな、と思われるメールが届くことがあります。 いろいろな方からメールが届く中、件名がないとメールを整理しづらく、やりとりもしづらいため、マナー不足です。件名は、メールの内容にタイトルをつける感覚で短めに書きます。 前述のAさんの謝罪メールであれば、「お詫び 〇〇訪問看護ステーション A」(※「A」は名前)といった件名がいいでしょう。 図1 メール文の構成 宛名(受信者の名前)の記入 メールを受け取った相手に、自分宛のメールであることを認識してもらうため非常に大事です。電話では間違い電話だとすぐにわかりますが、メールでは宛名がないと誤送信の疑いが出てきます。 「事業所名+部署名+氏名」、あるいは「事業所名+氏名」でもよいので明記します。氏名は苗字だけでなく、名前も書くのが基本マナーです。苗字と名前の間は半角1文字分空けることを推奨します。 また、相手からメールを受け取っていれば、そこに記された相手の苗字と名前の空き具合と同じにします。例えば、「森林太郎」という名前の場合、「森林太郎」、「森 林太郎」(全角1文字分の空き)、「森 林太郎」(半角1文字分の空き)など、ご本人の記載方法はいろいろですので。 挨拶の一行目に神経を使う 宛先を記入したら改行し挨拶文を書きますね。 考え方次第ではありますが、仕事上のメールのやりとりでは時候の挨拶を入れることを基本としなくてもよいと考えます。それよりも、挨拶の一行目に神経を使うことがおすすめです。その一行が現実に即していないと、通り一遍のうわべだけの挨拶である印象をもたらします。 ここでもまた「会ってやりとりするような気持ち」が大事になります。初めて会った方に「お世話になっております」と言うのは少しずれていますね。<まだ、お世話していませんけど>と相手は内心思うかもしれません。もちろん、「いつも」をつけるのもおかしいです。しかし、メールだと「お世話になっております」がパターンになってしまい、初めての方からのメールの出だしに書いてあることもあります。 これからお世話になることがわかっている相手であれば「お世話になっております」ではなく、「これから」という前置きを省略した形として「お世話になります」であれば状況にあった挨拶になるでしょう。 たとえ相手の顔はわからなくても、想像で顔をイメージして挨拶文を書きます。それが血の通った一行になります。以下にいろいろなシチュエーションに応じた挨拶文の例をご紹介します。 【初めてメールを送信する場合】「突然のご連絡失礼いたします」「はじめまして」「はじめてご連絡を差し上げます」 【初めてメールを受け取った相手に返信メールを送信する場合】「はじめまして。ご連絡いただきありがとうございます」「お世話になります」 【すでにやりとりをしている相手とメールを送受信する場合】「お世話になっております」「いつもお世話になっております」「平素より大変お世話になっております」「お世話になっております。いつもありがとうございます」 【上司や同僚とのメールを送受信する場合】「お忙しいところ、失礼いたします」「お疲れ様です」 ※「ご苦労様」は目上の人に対しては使用しない「おはようございます」 【久しぶりにメールを送信する場合】「ご無沙汰しております」※「お久しぶりです」は、ややくだけた印象を与えるので、使用する場合は関係性を配慮します。「長らくご無沙汰してしまい申し訳ございません」 【続けてメールを送信する場合】「度々失礼いたします」「前送メールに追加でご連絡です」 あるいは、件名に「追伸」と追加します。 【電話で話した後にメール送信する場合】「さきほどはお電話をありがとうございました。追加でお伝えしたいことがあります」「さきほどお電話させていただきました件に、追加でご連絡です」 名乗りのタイミング 挨拶文の後、名乗ります。「事業所名+氏名」、「部署+氏名」、「氏名のみ」、など適宜判断します。苗字のみならず名前も必ず記入します。看護師であることを示したほうがよい場合は、氏名の前に「看護師」と入れます。 件名に名前を記入している場合や、1つの用件で何度もメールのやりとりをしている場合などは、挨拶の後に何度も名乗るのは相手にわずらわしい思いをさせるため、省略してもよいでしょう。 用件を伝えるときは「箇条書き」を活用しよう 挨拶文の後、「以下についてご検討のほど、何とぞよろしくお願いします。」といった文を記入し、用件を箇条書きにすると、書きやすく、相手にも伝わりやすいです。「以下について」を「下記について」に変えて、「記」と題をつけて箇条書きにするのもよいでしょう。 返信などの対応についての希望も忘れずに 用件の前に、「以下、ご報告です。」と入れるか、用件の末尾に「以上、〇〇日ごろまでにご検討をお願いします。」など、いつまでにどのようなアクションを求めているのかについても必ず記入します。 同じテーマのやりとりは、返信を繰り返して過去分をすぐ確認できるように やりとりの経緯がすぐにそのメールで確認できるように、やりとりの途中でメールを新規作成して送信しないことがおすすめです。その際、こちらの住所や電話番号、URLなどの情報は、1回目のやりとりのときだけ文末に記入し、それ以降は名前のみにします。 入力ミス、変換ミスにご注意! この記事を作成するために、訪問看護師の方や日頃仕事でメールをやりとりする方たち数名にお話をうかがったところ、この点を指摘する方が予想以上に多数でした。 送信前に必ずメールを読み返し、誤入力や誤変換がないかチェックします。相手の名前や会社名に誤りがないかは重要なポイントです。送信前の再チェックを習慣づけるとよいでしょう。入力ミスや変換ミスは誰にでもあることですが、私も含め、注意しなければなりませんね。 ー第3回へ続く 執筆 小林 光恵看護師、作家 ●プロフィール看護師、編集者を経験後、1991年より執筆業を中心に活躍。2001年に「エンゼルメイク研究会」を発足し、代表を務める。2015年より「ケアリング美容研究会(旧名・看護に美容ケアをいかす会)」代表。漫画「おたんこナース」、ドラマ「ナースマン」の原案著者。記事編集:株式会社照林社

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2022年7月5日
2022年7月5日

[1]相手を思う気持ちを伝える、それがマナーの基本姿勢

訪問看護師の方に知ってほしいマナーについての新連載です。第1回は筆者が経験したさまざまなエピソードをもとに「マナーとは何か」を考えてみます。利用者さんのお宅でどうすればよいか迷ったときにも参考にしていただけるお話です。 訪問看護師に必要なマナーとは 訪問看護師は、訪問する個々のご家庭の価値観に基づいたマナーに加えて、連携する医療・介護従事者や自治体の方たち、福祉用具業者の方など、まさに多職種とやりとりする際のマナーが必要となります。 また、事業所の規模にもよりますが、病院であれば事務部、総務部などが担当する業務を看護師が担うケースも少なくありません。ビジネスの基本に関するマナーも知っておく必要があります。 ゆえに、さまざまな局面において柔軟にマナーを発揮できる「マナー力」を備えることが望ましいでしょう。 そのためには、事業所としてのマナーのスタンスを具体的に検討・整理し、職員全員で共有するのが基本策といえます。NsPaceサイト内の「お役立ちツール」では「接遇マナーマニュアル」が用意されています。このマニュアルをベースに、事業所オリジナルの申し合わせ書の作成をおすすめします。 私は看護師として病院2年・血液センター2年・フリーナース1年、編集者として約5年、その後フリーライターとなり30年余り。数年間、小さな会社の代表も務めました。 また、インターネットが普及する前からナースが横につながるためのネットワーク活動にも取り組みました。2001年にはエンゼルメイク研究会を発足して、例えば、大手化粧品会社を訪ねて「エンゼルメイク専用の化粧品セット開発の必要性」などについてプレゼンテーションを行ったこともあります。仕事ではなく活動としてグリーフワークにまつわる取材をさせていただいたりもしました。 社会人となってからの39年間、このようにさまざまな立場となり、いろいろな方との仕事上のやりとりを経験しました。 連載第1回目の今回は、そんな私が「マナーとは何か」を考えるうえで非常に勉強になったエピソードをご紹介します。みなさまが、申し合わせ書を作成される際の参考になりましたら幸いです。 マナーとは……、相手の価値観を優先し、相手に余計な心の負担をかけないように配慮すること 編集者時代、俳句集の編集を数年間担当しました。 その時代のある冬の日のこと、高齢の女性俳人Aさんのお宅を訪れました。原稿を受け取り、出版スケジュールなどを打ち合わせるためです。都会のど真ん中にある一軒家で、庭木がきちんと手入れされているお宅でした。 Aさんは茶道を教えもする礼儀作法に厳しい方で、その日も失礼のないように気をつけなければと緊張しながらインターフォンを押したのでした。 応接室で、Aさんに促されてソファに座りました。もちろん、下座にあたる出入口にいちばん近い位置の席にです。そして、Aさんのご機嫌を損ねることなく打ち合わせが進み、そろそろ失礼するという段になると、Aさんはぴりっとした表情になり、言いました。 「残念だわ。今日のあなた、ひとつだけ、マナーが足りない点があったわ。脱いだコートを中表にして丸めなかったこと」 やはりそこか、と思いました。 この日は、強めの埃っぽい風が吹いており、道中わずかに霧雨も降りました。ウールコートの表面が少し湿り、埃を含んでしまったので、寒いけれど、脱いで小さく丸めてから玄関に入ったのです。それだけでも相当、相手に負担をかけないように気を遣っているじゃないか、という不満をもちながら、私は「失礼しました」と返しました。 すると、Aさんは私の顔を覗き込みながら続けたのです。 「あなた、27歳だったわよね。これからのあなたのために言いますが、中表にしなかったのは、たぶん、あなたの価値観や都合を優先したからですよね。今どき、コートを中表にしたりするマナーなんて必要ないでしょ、よほど汚れているなら別だけど、って思ったかもね。でも、相手の価値観を優先して、相手に余計な心の負担をかけないように配慮する。それがマナーですからね」 「はい。実はコートがとてもくたびれており、中表にするのが恥ずかしかったもので。でも、私の都合でそうしたわけですから、恐縮です」 「そうね」と言い、Aさんは私を睨みました。(このエピソードは、以下に続きます) 全体の態度でマナー不足はカバーされる ソファから立ち上がり、ていねいにお辞儀をして顔を上げると、何と意外にもAさんは笑顔になっていました。 「でもね、誰でも相手の価値観にぴたりと合わせるのは難しいわけだし、全体の態度がマナー不足を補完できるのよ。あなたの全体の態度は悪くない印象だから、大丈夫。萎縮しないで、これからもよろしくね。相手を大切に思い、自身の言動を考える。それがマナーの基本姿勢です。それと、形だけのマナーの実行だと、ケースに応じた対応ができないことがあることも覚えておいてね」 そう言ってAさんは、私の背中をぽんと叩きました。 それから30年経った、ある暑い夏の日のことです。フリーライターの女性Bさんが、私の仕事場兼自宅にインタビューに来てくれました。 玄関で出迎えると、Bさんは挨拶を済ませた後、「ごめんなさい、失礼します」と言って、フットカバータイプの靴下をバッグから取り出し、それを素早く履いてから、こちらが出したスリッパに足を入れたのでした。 こちらとしては、素足でスリッパを履いていただいてもまったく問題ないのですが、Bさんの気遣いに感動しました。そして、Aさんの言葉「ケースに応じた対応」を思い出しました。 ここでご紹介したエピソードは、いずれも仕事の目的や相手との関係性が訪問看護の場面とは異なりますが、病院など施設で働くときとは違う、訪問仕事をする際のマナーの方向性として共通しているように思います。 マナーの形は一定ではない マナーについてのAさんの金言を、肝に銘じたはずの私でしたが……。 今から数年前の冬、編集者の女性Cさんと私は、ある医師の訪問診療に同行し見学させていただきました。 その際に私とCさんは、それぞれのお宅の訪問時にコートを脱がなかったのです。それは私の判断でした。訪問先の患者さんやご家族、そして訪問する医師、それぞれに微塵も迷惑をかけたくない、いるのを忘れるくらいお邪魔にならないようにしたい、と頭の中でぐるぐる考えた結果、黒子のような存在になろうとしたのです。 移動用の車にコートを脱いだままにしておけば、脱ぎ着に手間取ることもなく、わずらわせたりしなくてよいのではとも思いました。しかし、それではCさんに寒い思いをさせてしまいそうでやめたのでした。 こんなマナー違反をしてしまったのは私の中の感覚も関係しています。私はかつて出身地で、誰かがどちらかの家を訪ねた際、家の人にお茶の準備などの負担をかけないよう、「すぐに帰るのだからおかまいなく」という気持ちの表明として、コートも上着も脱がず、すすめられた座布団も使わないようにするのを幾度となく見てきたのです。 以上は、私ならではの間抜けなエピソードですが、みなさまも、マナーの形の地域差、年代差などを感じたことがあるのではないでしょうか。 迷うときは率直に相談 あるベテランの訪問看護師さんに訪問時のマナーのポイントを問うてみたら、「ひととおりのマナーの基本知識を得ておき、訪問先の相手のマナーの感覚に触れて、自身のマナーの形を調整し、その訪問先でのマナーのルールをつくっていく(例えば、荷物の置き場など)。どうしても判断に迷うことがあるなら、そのときは率直に相手(利用者さんやそのご家族)に相談してみるのが一番」とのことでした。 そう。私も同行させてくれた医師に、コートのことを率直に相談すればよかったのです。 ー第2回へ続く 執筆 小林 光恵看護師、作家 ●プロフィール看護師、編集者を経験後、1991年より執筆業を中心に活躍。2001年に「エンゼルメイク研究会」を発足し、代表を務める。2015年より「ケアリング美容研究会(旧名・看護に美容ケアをいかす会)」代表。漫画「おたんこナース」、ドラマ「ナースマン」の原案著者。記事編集:株式会社照林社

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