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訪問看護のカスタマーハラスメント しくみ作りと対策【セミナーレポート後編】
訪問看護のカスタマーハラスメント しくみ作りと対策【セミナーレポート後編】
特集 会員限定
2025年10月7日
2025年10月7日

訪問看護のカスタマーハラスメント しくみ作りと対策【セミナーレポート後編】

NsPace(ナースペース)のオンラインセミナー「訪問看護のカスタマーハラスメント対策~安心して訪問看護ができるために~」(2025年6月20日開催)では、医療現場のカスタマーハラスメント(以下「カスハラ」)対策に詳しい坪田康佑先生を講師にお迎えし、訪問看護業界のハラスメントの実態や、講じるべき対策について教えていただきました。セミナーレポート後編では、具体的なカスハラ対策についてご紹介します。 ※約75分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 >>前編はこちら訪問看護のカスタマーハラスメント 実態と制度【セミナーレポート前編】 【講師】坪田 康佑さん看護師/国会議員政策担当秘書/日本男性看護師會代表理事慶應義塾大学 看護医療学部を卒業。米国 Canisius 大学で MBA 取得。看護 DX や医療現場のカスタマーハラスメント対策など、さまざまな角度から看護師支援に取り組む。 カスハラ対策は組織の責務 訪問看護現場におけるカスハラに対しては、訪問看護ステーションや経営者が対策を講じる必要があります。 2020年6月には、厚生労働省が「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して、雇用管理上講ずべき措置等についての指針」で、事業主が職場全体で対策を進めるべきという告示を出しました。 また、労働安全衛生法の第69条には「労働者の健康の保守増進を図るため必要な措置を継続的かつ計画的に講ずるよう努めなければいけない」と定められており、労働契約法でも「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるように、必要な考慮をする」という安全配慮義務が規定されています。事業所の規模を問わず、暴力・ハラスメント対策は、事業主や管理者の義務なのです。 事業所で講じるべきカスハラ対策 適切なカスハラ対応ができる体制・しくみ作りのため、まず必要なのは「カスハラをカスハラとして認識する」こと。現時点では「嫌な気持ちになったら報告する」という当たり前の行動ができていないことを理解し、「これってハラスメントなのでは?」という段階で声を上げられるしくみ作りを目指してください。そのために、まず事業所内で暴力・ハラスメントの定義を理解しておく必要があります。(暴力・ハラスメントの定義については前編「訪問看護のカスタマーハラスメント 実態と制度」参照) 上記をふまえ、以下のような体制・しくみを構築しておけば、発生後の対応で難しいとされる「速やかな指示」もできるはずです。 適切に警察に連絡できる体制 暴力をふるう、襲いかかる、凶器を持ち出すといった、暴行・傷害につながる事案は、警察に相談しなければなりません。いざというときに躊躇しないために、事前に警察へご挨拶に伺っておく、関係機関との協力体制を確認しておくのがおすすめです。また、警察に連絡する基準を明確にし、一人ひとりが認識することも必要でしょう。警察への相談窓口「#9110」では、緊急性のないトラブルや不安にも対応してくれます。 利用者さんとの関係の悪化を心配して通報を控えていると、カスハラは止まらず、悪循環を招きます。その利用者さんを担当する事業所が変わった場合、被害者はさらに増えるでしょう。訪問看護業界からの人材流出という問題にもつながるので、通報する勇気をもってください。 なお、こうしたしくみ作りは、利用者さんと訪問看護師がよい関係を築き、質の高い看護を提供していくためのものです。その想いと対策の内容を利用者さんやスタッフに伝え、みんなで理想的な関係を作っていくことが重要です。 被害者の心情に配慮した対応 ハラスメントが発生した際、スタッフへの最初の指示は「逃げて」です。スタッフが身の安全を確保できたら、客観的に問いかけて被害状況を記録していきます。 当たり前ですが、悪いのはハラスメントをした人間です。すべてのハラスメントは、被害者の尊厳や自尊心を傷つけるもの。被害者にはしっかりと「あなたは何も悪くない」と伝えてください。 そして被害者となったスタッフには、心理的ケアが必要です。状況に応じた受診方法を定めた上で事務所全体に共有し、それに則ってサポートしましょう。なお、被害状況によっては労災に該当することもあるため、医師に診断を受けるのは重要です。 また、継続的にケアを続けるのもポイント。時間が経ってから精神的な後遺症が表れることもあるので、管理職を中心に事業所全体でケアをしてください。専門家によるカウンセリングが受けられるしくみを用意しておくのもおすすめです。 さらに、被害を受けたスタッフが十分な休息をとれるよう、早退や休暇の取得ができる体制も必要です。なお、休むことで収入が減るという状況だと、カスハラは隠蔽する方向にイニシアティブが働きます。体制づくりの際にご注意ください。 二次被害になりやすい言い方の例と改善方法 ハラスメントへの対応時に意識したいのが、二次被害の防止です。「なぜすぐに相談しなかった?」「なぜ利用者を怒らせた?」といった「Why don’t you~?」型の言葉で原因追及をするのは、傷つけや行動否定といった二次被害につながるため、あくまで状況の整理に徹しましょう。気をつけなければならない点を洗い出すまでで終わりにしてください。 また「飲んで忘れよう」「遊んで気晴らしをしよう」といった逃避行動をすすめるのも二次被害につながります。事実から目をそらさず、問題を丁寧に取り扱っていきましょう。 感受性を高める実践的対策 カスハラ対策には、スタッフ一人ひとりの「暴力・ハラスメントへの感受性」を高めることも重要です。ポスターを貼って理解を促す、勉強会や研修を行うなどして、感受性を高めてください。ポイントは、定期的に行うこと。これまでのキャリアの中で培われた価値観は根強く、ハラスメントの定義を誤って認識していると簡単には正せないので、継続的なアプローチが必要です。 それから、「相談」をしやすいしくみ作りも求められます。相談ができるようになると連絡、やがては報告もできるようになっていくので、まずは嫌な思いをしたときに気持ちを話す習慣をつけられるようにしてください。 また、通報ツールや防犯グッズをスタッフに配布するのも効果的。カスハラが起こったときに録音や警備会社への連絡ができる商品があります。カスタマーハラスメント防止対策推進事業の奨励金や、地域医療介護総合確保基金の補助などの支援策もあるので、ぜひ活用してください。 * * * 看護師の笑顔は利用者さんの笑顔を、利用者さんの笑顔は家族の笑顔を、家族の笑顔は地域の笑顔を生むと私は考えています。看護師の笑顔を守ることは、たくさんの人々を笑顔にする第一歩。ぜひ一緒に看護師の笑顔を作っていきましょう。 【講師・坪田 康佑さんよりコメント】2025年9月30日、私が理事を務める二団体が、東京都産業労働局より「カスタマーハラスメント対策団体」として認証されました。今後は東京都の予算を活用し、相談窓口の設置や啓発活動を進めてまいります。専用サイトなども準備中ですので、何かありましたらお気軽にご連絡ください。・一般社団法人日本男性看護師會 代表理事 https://nursemen.net/・一般社団法人訪問看護支援協会 理事 https://kango.or.jp/ 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア 【参考文献】〇厚生労働省:事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)【令和 2年6月1日適用】.https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000605661.pdf2025/9/4 閲覧〇坪田 康佑・池田 智・矢山 壮:訪問看護のハラスメントの実態と対策に関して.日本在宅看護学会第 14 回学術集会(2024 年 11 月 17 日),配布資料.〇三木 明子 監修・著:訪問看護・介護事業所必携! 暴力・ハラスメントの予防と対応,メディカ出版,2019〇日経ヘルスケア著・編:患者トラブル解決マニュアル,日経BP出版センター,2009

訪問看護のカスタマーハラスメント 実態と制度【セミナーレポート前編】
訪問看護のカスタマーハラスメント 実態と制度【セミナーレポート前編】
特集 会員限定
2025年9月30日
2025年9月30日

訪問看護のカスタマーハラスメント 実態と制度【セミナーレポート前編】

2025年6月20日、NsPace(ナースペース)はオンラインセミナー「訪問看護のカスタマーハラスメント対策~安心して訪問看護ができるために~」を開催。医療現場のカスタマーハラスメント(以下「カスハラ」)対策に詳しい坪田康佑先生に、訪問看護における暴力・ハラスメントの実態や対策について伺いました。セミナーレポート前編では、カスハラの基礎知識や、現場が抱える課題などをまとめます。 ※約75分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】坪田 康佑さん看護師/国会議員政策担当秘書/日本男性看護師會代表理事慶應義塾大学 看護医療学部を卒業。米国Canisius大学でMBA取得。看護DXや医療現場のカスタマーハラスメント対策など、さまざまな角度から看護師支援に取り組む。 カスハラの定義と分類 訪問看護現場でのカスハラについて考えるにあたり、最初に「暴力、ハラスメントの定義」を明確にしておきましょう。 【身体的暴力】身体的な力を使って危害を及ぼす行為。実際に触れていなくても、拳を上げた時点で身体的暴力に該当します。 例叩かれる、つねられる、爪で引っかかれる、ものを投げられる、唾を吐かれる、背後から蹴られる 【精神的暴力】個人の尊厳や価値を言葉によって傷つけたり、貶めたりする行為。 例強い口調や大きな声で文句をいわれる、人格を否定される、理不尽なクレームで長時間拘束される 【セクハラ】性的な誘いや嫌がらせ、好意的態度の過度な要求など。 例体に触れられる、卑猥なことをいわれる、(訪問看護師の)身体的な特徴を話題にする、(利用者さん自身の)陰部を触るように要求される 新潟県はハラスメントを「暴言型」「暴力型」「時間拘束型」「リピート型」「SNS/インターネット上での誹謗中傷型」などの9つに分類し、対策を定めた「ペイシェントハラスメント対策指針」を発表しました。「ペイシェントハラスメント」と明記された行政文書は、これが初めてです。都道府県を越えて活用できる内容なので、ぜひ参考にしてください。 ハラスメントの定義に「原因」は含まれない カスハラが起こったとき、管理職が被害を受けたスタッフ側のサービスや態度、または利用者さんの病気に原因を探してしまうケースはよく見られます。しかし、ハラスメントの定義に原因は含まれません。原因に関係なく、「ハラスメントがあった」のであれば、その事実を否定してはいけません。再発防止に向けた検討を行いましょう。 訪問看護現場におけるカスハラの実態 2019年に行われた全国訪問看護事業協会の調査では、訪問看護師の45%が「身体的暴力」を、53%が「精神的暴力」を、利用者さんやその家族から受けたことがあると答えています。また、セクハラを受けた方の割合も48%に上りました。 さらに、2020年に福岡県の訪問看護ステーションを対象に実施された実態調査では、訪問看護師の約40%が、利用者さんやその家族などから暴力を受けた経験があることが明らかに。しかも、そのうちの半数は「1年以内」に暴力を受けています。現場でのカスハラは、「過去」ではなく「今」起こっているのです。 訪問看護業界では早急に対策を講じ、スタッフを守っていかなければなりません。 「声を上げられない」現場の空気 多くの訪問看護師がカスハラを受けているにも関わらず、被害の声が上がりにくいという現状もあります。その一因となっているのが、以下のような被害者の心理的背景です。 被害者の心理的背景・痛みはあったが、ケガには至らなかった・私のかかわり方が悪かったのかもしれない・管理者に説明するのは気が進まない・ことを大きくしたくない・利用者さんのために我慢しよう・認知症の方だから仕方がない こうした自責思考や「利用者さんのためを思っての選択」が、訪問看護現場のカスハラをなかったことにしてきました。しかし、起こった事案はきちんと共有し、対策を考えていかなければなりません。また、管理者は「声が上がらない=問題は起きていない」と捉えず、背景を考慮して「声を上げられる環境づくり」に取り組む必要があります。 訪問看護のハラスメント相談率は、訪問介護よりも低い 相談の意志という観点では、訪問看護のほうが訪問介護よりもハラスメントに関する相談率が低いことが厚生労働省の調査でわかっています。ハラスメントについて「些細な内容でも相談した」と回答した人の割合は、訪問看護は40%を下回りました。「ハラスメントを受けた際に、内容によっては相談した」という回答を含めてやっと80%を超える状況で、ハラスメントを受けても相談しなかった人が約20%もいます。 相談しない理由は、「利用者やその家族に病気、障害があるから」との回答が約半数を占めました。続いて「自分自身でうまく対応できていたから」が約34%、「問題が大きくなると面倒だから」が約16%となっています。 「利用者さんは病気だから」と考えない 「精神疾患がある方のほうがカスハラを起こしがち」と考える方は少なくありませんが、精神科とそれ以外の訪問看護での暴力発生率を比べると、精神科以外のほうが多いことがわかっています。精神疾患だから、認知症だからと考えず、カスハラへの感受性を高め、きちんと対策を講じなければなりません。 国や警察の取り組み カスハラに対する国の取り組みとして、厚生労働省は2021年に「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を発表しています。 また2022年6月には、警視庁から各都道府県警に対して医療機関との連携を推進するよう促す通知が出されました。これを受けて警察では、医療機関や医師会からの通報・相談は関係部門で連携し、必要に応じて助言・対応・検挙などを行う体制の整備が進められました。さらに2024年2月には体制強化を明記した再通知が出されており、医療従事者の安全を守るため、的確かつ確実な対応に努める構えです。 ここで重要なのが「警察に電話する」ことが即「逮捕」につながるわけではないことです。生活安全部門も関わりながら、指導や助言などの対策をしてくれます。必要なときは躊躇せずに相談してください。 次回は事業所で講じるべき具体的なカスハラ対策や被害者の心のケア、二次被害の予防などについて解説いただきます。 >>後編はこちら訪問看護のカスタマーハラスメント しくみ作りと対策【セミナーレポート後編】 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア 【参考文献】〇滋賀県・公益社団法人滋賀県看護協会: 訪問看護・訪問介護事業所における暴力・ハラスメント対策マニュアル.令和元年度滋賀県委託事業 訪問看護師・訪問介護職員安全確保・離職防止対策事業. 2020.〇新潟県 病院局業務課:新潟県病院局 ペイシェントハラスメント対策指針,令和6年5月https://www.pref.niigata.lg.jp/uploaded/life/677384_2027172_misc.pdf2025/9/4 閲覧〇全国訪問看護事業協会:訪問看護師が利用者・家族から受ける暴力に関する調査研究事業報告,2019〇坪田 康佑・池田 智・矢山 壮:訪問看護のハラスメントの実態と対策に関して.日本在宅看護学会第14回学術集会(2024年11月17日),配布資料.〇厚生労働省:事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)【令和2年6月1日適用】.https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000605661.pdf2025/7/31閲覧〇厚生労働省.:介護現場におけるハラスメントに関する調査研究(2019年3月)https://www.mhlw.go.jp/content/12305000/000947359.pdf2025/9/4 閲覧〇厚生労働省:カスタマーハラスメント対策企業マニュアル,2022https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000915233.pdf2025/9/4 閲覧〇警察庁:医療機関等との連携によるストーカー事案等の適切な対応について(令和6年1月22日付 警察庁丙企発第3号).https://www.npa.go.jp/laws/notification/2024iryoukikanrenkei.pdf2025/9/4 閲覧

その人らしさを支えたい~楽しく働ける職場環境づくり~わかちな訪問看護ステーション 佐藤さんにインタビュー
その人らしさを支えたい~楽しく働ける職場環境づくり~わかちな訪問看護ステーション 佐藤さんにインタビュー
インタビュー
2025年9月30日
2025年9月30日

その人らしさを支えたい~楽しく働ける職場環境づくり~わかちな訪問看護ステーション 佐藤さんにインタビュー

介護の現場で長く従事されていた佐藤様。現在はわかちな訪問看護ステーションの管理者として、利用者さまへのサポートだけでなく、スタッフの皆さまが楽しく働ける環境づくりにも注力されています。 そんな佐藤様が訪問看護師の道に進むきっかけはどのようなものだったのでしょうか。これまでの経緯や今後のビジョンについてうかがいました。 【※本記事はNsPace Careerが事業所向けに提供している「特集記事掲載サービス」によるものです。取材・撮影・編集はNsPace Careerが担当しました。】 介護福祉士から看護師へ。原点は利用者への想い 佐藤様:もともとは介護福祉士としてグループホームやホームヘルパーの仕事をしていました。介護の仕事が楽しくて、働いているうちに、利用者さんに対して「もっと何かしてあげられることを増やしたい」「医療面や生活面を支えたい」という強い想いをもつようになったのです。それが訪問看護師を目指した原点ですね。 看護師資格を取得するための勉強は大変でしたよ。 ですが、介護福祉士として働いてきた経験を、今度は看護師として利用者さんに還元するんだと自分を奮い立たせて頑張りました。 無事に看護師資格を取得してからは、1年ほど病棟で経験を積みました。病棟で働いているときも、生活面で患者さんを支えていきたいという想いはずっとありましたね。 ですから、病棟を1年経験してから、訪問看護の道へ進むことを決めました。 病院では内科病棟に勤務していたので、在宅の現場で活きる知識やスキルは身についていました。痰の吸引や経管栄養のスキル、フィジカルアセスメントなど……自宅に退院する患者さまへの支援も含め、病棟での経験は、今でも活きています。 曾田様:当ステーションの前任の管理者が退職したとき、当時スタッフとして働いていた佐藤さんに「管理者をやってみないか」と声をかけました。 佐藤さんより経験の長い看護師もいますが、佐藤さんの利用者さんへ関わる姿勢や看護が好きだという素敵な姿が、みんなに伝わっているんですよ。 だから「佐藤さんに頑張ってもらいたい、応援したい」という気持ちがスタッフみんなにあるんです。みんなの想いに佐藤さんも応えてくれ、管理者として頑張ってくれています。 佐藤様:私は看護師の経験が少ないので、訪問看護ステーションの管理者にならないかと声をかけられたときは正直できる気はしませんでした。 実際、管理者になったときは本当に苦労して、自分の知識や技術不足で壁にぶつかることがたくさんありました。手探り状態で始まった管理者業務でしたが、スタッフの皆さんの支えと、関わる利用者さんからもらったパワーでさまざまなことを乗り越え、今に至ります。 曾田さんが言ってくれたように、スタッフの皆さんが応援してくれていたのを知ったので、利用者さんのためはもちろん、一緒に働くスタッフの人たちのために頑張ろうという気持ちになりましたね。本当に感謝しています。 訪問看護の醍醐味や「わかちな訪問看護ステーション」の特徴をお話しいただいた佐藤さん 多職種の連携が職場の強み 佐藤様:当ステーションには看護師だけでなくリハビリスタッフも在籍し、ひとりの利用者さんに対して多職種で意見を交わしたり相談したりしながら、方向性を決めていく体制が整っています。 たとえば、だんだん状態が悪くなり寝たきりになった利用者さん。最初は看護のみの介入でしたが、状態に合わせてリハビリも訪問するようになったんですね。その利用者さんには、ベッド近くの自分のテーブルまで行き、ステーキを食べたいという希望がありました。 看護師とリハビリスタッフが協力しながら、利用者さんの目標に向けて進んでいく……そういった連携はステーション内でたくさんできますね。 「訪問看護は大変」というイメージをお持ちの方もいると思いますが、それは利用者さんの自宅に訪問して看護師ひとりで判断しなくてはならない場面を考えてのことがあると思います。 当ステーションでは入社後のフォロー体制が整っており、困ったことや不安なことがあればすぐに相談できますよ。ひとりでの訪問に自信がもてるまでは、先輩スタッフと一緒に訪問できるように調整しています。 医療の知識以外でも、自分の趣味や好きなことなどで利用者さんと話すきっかけになることもあり、医療従事者としてだけでなくひとりの人間として利用者さんと関われるので、とても楽しいと思います。訪問看護に興味のある方は、ぜひ当ステーションに来ていただけたらうれしいです。 地域との交流も大切に 佐藤様:現在は、当ステーションの利用者さんだけでなく、地域の方々との交流を深めることにも注力しています。たとえば、他事業所に声をかけていただいた勉強会や研修に参加したり、地域のお祭りに参加したりしていますよ。 最近では、訪問診療クリニックの先生主催の夏祭りに参加させていただきました。そこでカホンという打楽器を演奏したのです。 地域の住民の方々や関係事業者の方々と顔を合わせられ、とても素敵な機会をいただきました。これからも地域のイベントには積極的に参加したいと思っています。 利用者さんのしたいことを叶えるため、スタッフ同士情報共有も大切にしています。 「その人らしさ」をサポートする存在を目指して 佐藤様:今後は、利用者さんの「〇〇がしたい」という希望をどんどん引き出して、積極的にサポートしていきたいです。それには利用者さんとの信頼関係づくりも大切ですね。 先ほどの「ステーキをテーブルで食べたい利用者さん」を例にしていえば「ステーキをテーブルで食べる」ということは普段の生活では当たり前にできることですよね。 看護師や医療者としてだけでなく、医療的な処置以外のところで「本来なら当たり前にできることだけど難しいこと」を利用者さんからの言葉から拾って、積極的に実行できたらいいなと思っています。 利用者さんの希望を叶えるには、もちろん企画や準備は大変だと思います。ですが、利用者さんが普段の生活のなかで楽しめることを実現したいのです。今後は、当ステーションでできることを発信したり、利用者さんの声を積極的に拾っていきたいと思っています。 曾田様:過去にはディズニーランドが好きな利用者さんのご希望を実現し、一緒にディズニーランドに行ったことがあるんです。普通に行くのが難しい状況のなかで「どうやったら実現できるか」を考えるのを当ステーションでは大事にしています。 できないことを挙げるとたくさんありますが、実現する方法を探したり、ディズニーランドに問い合わせたりして、スタッフ全員で取り組みました。 結果的に、佐藤さんが同行し、ディズニーランドに利用者さんをお連れすることができました。そういった経験があるので「当たり前の日常の中で、利用者さんができなかったことを実現すること」だけでなく「一度やってみたかったこと」や晴れの日などイベントの希望を叶えられたら嬉しいですね。 インタビュアーより 自宅で過ごす利用者様を支えたいという熱い想いから看護師資格を取得された佐藤様。利用者様を支えることが何より楽しいと話される姿が印象的でした。職場全体の雰囲気が温かく、スタッフの皆さんがひとつになって利用者様を支えていくという姿勢がとても素敵なステーション様です。訪問看護に興味をお持ちの方は、ぜひお問合せください! 事業所概要 わかちな訪問看護ステーション(東京都八王子市) 住所:東京都八王子市浜衛2-3-9エスポワール203 運営方針・理念:利用者の心身状態に応じた適切な訪問看護のサービスを、24時間体制で提供します。訪問看護のサービス実施にあたり、サービス従事者の確保・教育・指導に努め、利用者個々の主体性を尊重して、地域の保健医療・福祉など関係機関との連携により、総合的な訪問看護のサービス提供に努めます。 記事提供:NsPace Careerナビ編集部

第7回 日本在宅医療連合学会大会の舞台裏と2040年に向けての展望【学会レポート】
第7回 日本在宅医療連合学会大会の舞台裏と2040年に向けての展望【学会レポート】
特集
2025年9月16日
2025年9月16日

第7回 日本在宅医療連合学会大会の舞台裏と2040年に向けての展望【学会レポート】

第7回日本在宅医療連合学会大会は、2025年6月14日(土)・15日(日)に出島メッセ長崎にて開催されました。テーマは、「在宅医療の未来を語ろう。~2025年問題に向き合い、2040年に備える~ 長崎から全国へ」です。本記事では、石垣 泰則氏(日本在宅医療連合学会 前代表理事)のインタビューと、学会大会のプログラムのレポートをお届けします。 ※本記事は、2025年6月時点の情報をもとに制作しています。 石垣 泰則氏インタビュー 2025年6月に開催された第7回日本在宅医療連合学会大会では、医師、看護師、リハビリ職、介護士、ケアマネジャー、管理栄養士、薬剤師、医療ソーシャルワーカー(MSW)など、数多くの職種の方々が参加していました。行政や企業などとも連携した多様な各地域の事例が共有され、ハラスメントにまつわる問題やICT利活用をはじめ、対応を急ぐべきテーマについても活発な議論が行われていました。 ここでは、前代表理事(~2025年6月12日)である石垣 泰則氏に、学会大会の舞台裏や、訪問看護の皆さまに知っていただきたいポイントなどを伺いました。 石垣 泰則氏日本在宅医療連合学会 理事(前 代表理事)/医療法人社団悠輝会 コーラルクリニック 院長 ―在宅医療連合学会大会のプログラム選定や準備はどのようにされているのでしょうか。 多職種連携や災害対応、教育・人材育成などは重要性が高いため、毎年継続的にプログラムに組み込むようにしています。一方、大会長が独自に選定するテーマもあり、今年は「2025年問題・2040年問題」がそれにあたります。運営は大会長や運営委員会に一任されていますが、過去の大会長も委員として参加し、経験・ノウハウを共有しています。会場の確保なども含めて、準備期間は通常4~5年です。 在宅医療連合学会は、医師が中心だった「日本在宅医学会」と、病院医師と在宅多職種が中心だった「日本在宅医療学会」がその名のとおり連合してできた学会で、学会大会にも幅広い職種の方々にご参加いただいています。運営委員会にも若手からベテランまで、在宅医療の分野で活躍する多職種の方々が集まっており、皆さんに有意義な時間を過ごしてもらうべく、丁寧にテーマを検討してくださっています。 ―今回の大会ではサブテーマの中に「長崎から全国へ」という言葉が入っていますが、訪問看護師の方々に特に知ってほしい取り組みなどはありますか? 長崎は在宅医療先進地域で、「長崎在宅Dr.ネット」や「あじさいネット」といった多職種連携のしくみが整っています。病院と診療所、医師同士の連携もしっかりしており、訪問看護師にとっても、非常に働きやすい環境といえるでしょう。こうした長崎の事例を多くの方々に知っていただき、各地域で連携を進める際のヒントにしていただきたいです。 ―訪問看護師さんたちへのメッセージをお願いします。 訪問看護は在宅医療の大きな推進力です。ぜひ、皆さんも日本在宅医療連合学会に参加いただき、声を大にしてアピールしてください。2026年は、札幌市(北海道)で第8回大会が開催されます。大会長の大友 宣先生がユニークな企画を数多く計画しており、SNSでも随時情報を発信していく予定ですので、ぜひご覧になってください。オンデマンド配信もありますが、ぜひ現地に集ってface-to-faceで話し合い、学び合いましょう。 また、日本在宅医療連合学会では、今年度に在宅医療における特定研修終了看護師の活用ガイドの作成を委託されています。我々も、訪問看護師の皆さんが一層活躍できるよう、尽力していきます。 第7回日本在宅医療連合学会大会 ピックアップ紹介 シンポジウム「医療依存度の高い患者様、これで安心して引き受けられます」 座長 中田 隆文氏(マリオス小林内科クリニック)座長 中山 優季氏(公益財団法人東京都医学総合研究所難病ケア看護ユニット) 在宅医療において、医療的ケア児や神経難病患者等、医療依存度の高い患者さんへの対応が求められるケースが増えており、特に在宅呼吸管理・ケアは呼吸器疾患以外の対象者の増加や機器の多様化が進み、受け入れに悩む場面が多いでしょう。本シンポジウムでは、患者さんの「やりたいこと」「したい暮らし」を実現するための支援のヒントが数多く提供されました。 どこにいても気道クリアランス法が実施でき、安全に呼吸ケアが行える環境づくりや、神経難病患者さん自身が主体的に生活を継続していくための支援のポイント、多機能型療養通所介護における支援の現状、栄養指導や舌トレーニングによる生活改善事例等が共有されました。 また、特に小児をサポートする制度・サービスは少ない現状があります。例えば、多機能型の療養通所介護を運営するにあたっては、「療養通所介護」「生活介護」「児童発達支援」「放課後等デイ」という4つの手続き・処理が必要になっているとのこと。こうした現場の実情を踏まえ、制度のアップデートの必要についても活発にディスカッションされました。 シンポジウム「長崎市の地域包括ケアシステムと多職種連携 20年の総括と検証」 座長 藤井 卓氏(藤井外科医院) 長崎在宅Dr.ネット 代表の藤井 卓氏 在宅医療先進地域である長崎の取り組みについて、これまでの約20年の歴史を振り返り検証するシンポジウム。長崎では、地域包括ケアシステムの構築に向けて、以下のような新しい取り組みを次々と行ってきました。 長崎の取り組み(一部)・長崎在宅Dr.ネット導入・あじさいネット導入長崎県内の総合病院の診療情報を、他の医療機関で活用できるしくみ・P-ネット(長崎薬剤師在宅医療研究会)導入訪問薬剤管理指導等にグループとして対応するしくみ。在宅診療所等からP-ネットの窓口に依頼すると、薬局・薬剤師が割り振られる・OPTIM(緩和ケア普及のための地域プロジェクト)への参加 これらの取り組みを推進してきた医療者たちは、在宅医療自体がまだ一般的ではなかった頃から、まるで学校の部活動のように日々仕事後に集まり、「みんなと一緒ならできる」「失敗したらまた考えればいい」という思いを持って議論を重ねてきたとのこと。 「困っている人がいるならなんとかしたい」「医療者側の都合で病院から自宅に戻れない人を出したくない」と、一人ひとりの患者さん・利用者さんに真摯に熱く向き合ってきた事例も複数紹介されました。シンポジウム内では、多職種が集まって勉強会をしている様子や飲食している姿なども写真で投影され、施設や職種の垣根を越えて、顔の見える関係性を維持しつづけてきたことがうかがえました。 シンポジウム「この町で暮らし、最期まで、自分らしく活き、逝くことは、叶えられてますか?」 ~先駆者たちが語る、目指したいこと~ 座長 白髭 豊氏(白髭内科医院)座長 安中 正和氏(安中外科・脳神経外科医院) 過去に毎年シンポジウムが開催されていた「30年後の医療の姿を考える会」(会長 秋山 正子氏)。この会にゆかりのある方々からこれまでの取り組みの紹介が共有されるとともに、2040年に向けての展望がディスカッションされました。 随時事例を交えながら、秋山 正子氏の暮らしの保健室やお看取り支援の取り組み、市原 美穗氏のホームホスピスの運営や全国ホームホスピス協会の取り組み、宇都宮 宏子氏の在宅ケア移行支援の取り組みなどが共有されました。また、座長の安中氏からは、ZEVIOUS研究(在宅医療のアウトカムと質を「見える化」するための研究)の背景にもある在宅医療現場の質に対する課題感なども提示されました。 「最期まで自分らしく生きる」ことを支えるために、利用者・患者さんご本人に寄り添い、その人の人生や思いを聴くことの重要性。そして、在宅医療を提供する施設が増えて選択肢が多様になっているからこそ、ご本人の望む暮らしをサポートするためには地域のネットワークを構築して、ひとつのチームとして利用者・患者さんを支えていくことが必要であるというメッセージが語られました。 シンポジウム「あなたの地域が被災した時、助けに行きます ~助けて欲しい診療所あつまれ~」 座長 市橋 亮一氏(医療法人かがやき 総合在宅医療クリニック 名駅)座長 佐々木 淳氏(医療法人社団悠翔会) 座長・HoMAT発起人の一人である市橋氏 本シンポジウムでは、災害時における医療福祉支援の新たな形としての「間接支援」や「広域BCP(事業継続計画)」のあり方について、能登半島地震での実体験などをもとに議論が行われました。 座長の市橋氏や佐々木氏は、被災地の災害関連死を阻止するための支援をするDC-CATの活動などと並行して、「外部支援者が日常業務を肩代わり」する間接支援の体制づくりを推進しています。市橋氏いわく「これまでの災害支援は、短期間の自発的支援が中心。業務の重複や混乱が発生しやすかった」とのこと。 「HoMAT」:https://homat.net/ HoMATは広域でのネットワーク連携により、災害時に被災の影響を受けていない地域が支援できる体制づくりを目指している。HoMAT派遣医療者は、災害対応に出向く医療者の地元の通常支援を代診する。上記ウェブサイトから登録可能 間接支援の取り組みは、2024年の能登半島地震の際にすでに実践されています。被災地に出向いた医療従事者の地元での診療を代行する体制は、災害特有の業務に集中できるため、持続可能で再現性が高く、有効であることが確認されています。 一方で、診療体制・デバイス・電子カルテ等が異なることによる戸惑いや支援者の体力的負担やストレス管理の難しさ、受援側の内部調整が必要だという課題も浮き彫りになったとのこと。実際に能登半島地震の支援に行った医師や、支援に行った医師の地元の診療を代わりに行った医師から、「受援力」の大切さや、平時からの関係性構築・双方向的人材交流の重要性等が共有されました。 交流集会「全国の看多機メンバー・興味のある方、みんな集まれ!」 座長 山崎 佳子氏(千葉県看多機連絡協議会) 左)千葉県看多機連絡協議会 会長 福田 裕子氏  右)山崎 佳子氏 本交流会では、千葉県における看多機(看護小規模多機能型居宅介護)の現状やメリット・デメリット、「千葉県看多機連絡協議会」設立の経緯、取り組み内容等が共有されるとともに、参加者がグループに分かれて、看多機における実践例や困りごと、悩みごと、疑問点等を語り合う場がもたれました。 看多機は、主治医との連携のもと、医療処置も含めた多様なサービス(訪問看護、訪問介護、通い、泊まり)を24時間365日提供する点が特徴的。医療依存度が高い方、体調が不安定な障害を抱えている方などが、住み慣れた自宅で生活しながらケアを受けることができる介護保険サービスです。看多機がスタートしたのは2012年のことですが、いまだ看多機が設立されていない市町村も多く、普及に向けて課題があります。 会場には、看多機経営者や看多機運営に興味がある人たち等が集まっており、「運営・経営がうまくいっている看多機の特徴は?」「〇〇のような患者さんは受け入れ可能なのか」「包括料金のため『使いたい放題』にならないか」「介護職にどこまで業務を任せられるのか」といった話題で活発にディスカッションされていました。 関連記事:・ちば看多機研究会「看多機を広めよう・つなげよう・深めよう」イベントレポートhttps://www.ns-pace.com/article/category/feature/multi-functional-care-event おなかの保健室 運営:よかケアネット(長崎くらしに寄り添うネットワーク) 長崎の「よかケアネット」(代表:下屋敷 元子氏)は、人生の終末期にある方やその人を支える方たちのサポートを行うボランティア団体。高齢者の方のお話を聞いて本にまとめる「聞き書きボランティア」や排泄ケアの啓発活動(POOマスター長崎)などをしています。 本学会大会の一角には、よかケアネットを中心に「おなかの保健室」を開室しており、気軽に立ち寄り、お腹のことを相談できる場所がありました。便育ハンドブック「KAIUN BENIKU HANDBOOK」(うんこ文化センター おまかせうんチッチ発行)などをもとに排泄に関する啓蒙活動を行っているほか、男性の尿漏れを防ぐための最新機器や健康的な排泄を促すサプリメントの情報なども得ることができました。 編集部メンバーも、「おまかせうんチッチ」代表でPOOマスター養成カリキュラムを考案した榊原 千秋氏による排泄ケアを贅沢にも体験。セルフケアについてのアドバイスもいただいた。 * * * 在宅医療連合学会大会では、在宅医療にまつわるさまざまなテーマで活発な議論が行われ、各地域・各分野の先進的な取り組みが紹介されていました。現場の知見や多職種連携の工夫に触れる機会となり、在宅医療の未来を考える上で多くの示唆が得られる貴重な場です。第8回大会(北海道札幌市)にも注目していきましょう。 取材・編集・執筆:NsPace編集部

受賞エピソード漫画化!「いつものアップルパイ」前編【つたえたい訪問看護の話】
受賞エピソード漫画化!「いつものアップルパイ」前編【つたえたい訪問看護の話】
特集
2025年9月10日
2025年9月10日

受賞エピソード漫画化!「いつものアップルパイ」後編【つたえたい訪問看護の話】

NsPaceの特別イベント「第3回 みんなの訪問看護アワード」で募集した「つたえたい訪問看護の話」。今回は、ホープ賞を受賞した梶本 聡美さん(訪問看護ステーションかすたねっと/大阪府)の投稿エピソード「いつものアップルパイ」をもとにした漫画をお届けします。  「いつものアップルパイ」前回までのあらすじ作業療法士の梶本さんが、在宅リハビリの仕事を始めて早々に担当した佐藤さん。片麻痺や失語症があり、旦那さんは一生懸命介護に向き合っていました。しかし、ご本人は「希望を持ってもどうせ叶わない」と思っているようで、どうサポートしていけばよいか事業所内で相談。管理者の米島さんも訪問時の「いままでできたことができなくなっている」という佐藤さんの言葉を振り返ります。そして、佐藤さんがもともと料理が得意で、アップルパイづくりにも自信を持っていたことが突破口になるのではと考え…。>>前編はこちら受賞エピソード漫画化!「いつものアップルパイ」前編【つたえたい訪問看護の話】 「いつものアップルパイ」後編   漫画:さじろう山形県在住のイラストレーター/グラフィックデザイナー/漫画家。都内デザイン会社を経て現在フリーランスで活動中。『ダ・ヴィンチ』『東京カレンダー』『Men’s NONNO』『SUUMO』など多数の雑誌のほか、釣り具メーカー『DAIWA』『LIFE LABEL』などのWebやYouTube、CMでもイラスト・漫画制作を手掛ける。投稿者:梶本 聡美(かじもと さとみ)さん訪問看護ステーションかすたねっと(大阪府)この度はホープ賞に選んでいただき、ありがとうございました。訪問看護を始めてまだ日も浅く、迷ったり悩んだりする日々ではありますが、職員の皆さんはいつも私の話に耳を傾け、一緒に悩み、考えてくれます。また、漫画では私を主人公として描いていただきましたが、今回のアップルパイづくりも、スタッフ一丸となってみんなで対応していました。皆さんに改めて感謝の気持ちを伝えたいです。今回のエピソードの関わりは私にとってとても貴重な経験となりました。その後、Tさん(漫画内「佐藤さん」(仮名))はお亡くなりになりましたが、葬儀の際にご主人がアップルパイを作った時の写真を飾ってくださいました。ご夫婦にとって楽しいひと時を過ごすお手伝いが少しでもできたのかなと感じています。訪問看護やリハビリは医療処置や運動だけでなく、こうした関わりを大切に行っているということを漫画化を通して知っていただく機会になれば嬉しいです。 [no_toc]

受賞エピソード漫画化!「いつものアップルパイ」前編【つたえたい訪問看護の話】
受賞エピソード漫画化!「いつものアップルパイ」前編【つたえたい訪問看護の話】
特集
2025年9月9日
2025年9月9日

受賞エピソード漫画化!「いつものアップルパイ」前編【つたえたい訪問看護の話】

NsPaceの特別イベント「第3回 みんなの訪問看護アワード」で募集した「つたえたい訪問看護の話」。今回は、ホープ賞を受賞した梶本 聡美さん(訪問看護ステーションかすたねっと/大阪府)の投稿エピソード「いつものアップルパイ」をもとにした漫画をお届けします。 >>全受賞エピソードはこちら・つたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!大賞・審査員特別賞・ホープ賞・協賛企業賞【2025】・つたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!入賞【2025】 「いつものアップルパイ」前編 >>後編はこちら受賞エピソード漫画化!「いつものアップルパイ」後編【つたえたい訪問看護の話】   漫画:さじろう山形県在住のイラストレーター/グラフィックデザイナー/漫画家。都内デザイン会社を経て現在フリーランスで活動中。『ダ・ヴィンチ』『東京カレンダー』『Men’s NONNO』『SUUMO』など多数の雑誌のほか、釣り具メーカー『DAIWA』『LIFE LABEL』などのWebやYouTube、CMでもイラスト・漫画制作を手掛ける。投稿者:梶本 聡美(かじもと さとみ)さん訪問看護ステーションかすたねっと(大阪府) [no_toc]

細やかな連携で、利用者の生活に安心を~チームで支え合う職場づくり~アルト訪問看護ステーション 小島さんにインタビュー
細やかな連携で、利用者の生活に安心を~チームで支え合う職場づくり~アルト訪問看護ステーション 小島さんにインタビュー
インタビュー
2025年9月9日
2025年9月9日

細やかな連携で、利用者の生活に安心を~チームで支え合う職場づくり~アルト訪問看護ステーション 小島さんにインタビュー

アルト訪問看護ステーションは、開設から20年近くにわたり地域に深く根差し、利用者様一人ひとりに寄り添う質の高い看護を提供しています。管理者を務める小島様は、このステーションで19年にわたり、訪問看護師としてその歴史を支えてきました。そんな小島様に、アルト訪問看護ステーションの魅力や訪問看護師としてのやりがい、そして今後の展望についてうかがいました。 【※本記事はNsPace Careerが事業所向けに提供している「特集記事掲載サービス」によるものです。取材・撮影・編集はNsPace Careerが担当しました。】 訪問看護との出会いは「ご縁」 看護学校を卒業後に系列の病院で3年間、急性期の内科や循環器科の病棟に勤め、結婚をきっかけに一度退職しました。28歳頃に、また病棟で2年半ほどパート勤務をしましたね。妊娠・出産を経て、子どもが小さいうちはパートとして診療所に勤めました。そこで3年ほど働き、子どもが小学校に上がるタイミングで一度看護師の仕事をお休みしたんです。 そして38歳のとき、当ステーションにご縁をいただきました。実は身内が当ステーションのグループ系列のサービスを受けていて。その関係で、会社の担当者の方から「働いてみない?」と声をかけられたんです。そのご縁がきっかけで、今に至るまで19年間、このステーションでお世話になっています。 アルト訪問看護ステーションの強み:グループ連携と多職種協働 当ステーションの一番の強みは、グループ全体での密な連携にあります。グループ内では住宅型有料老人ホームや認知症のグループホームも運営しており、在宅でのケアが難しくなった利用者さんも、グループ内の施設で継続してサポートできるんです。利用者さんの状況に合った環境で生活できるようサポートできるのは、私たちにとっても大きな喜びですね。 また、同じグループ内にデイサービスもあるので、利用されている方も多く、グループ全体で利用者さんに関われるので、連携がとてもスムーズなんですよ。利用者さんのちょっとした変化…… たとえば身体に小さな傷を見つけたときには、すぐにデイサービスのスタッフと連絡を取り合い、悪化予防に努めることができます。このような迅速で丁寧な連携は、利用者さんにとって大きな安心につながっているのではないでしょうか。 さらに、ケアマネジャーも同じ建物内にいることがほとんどなので、ひとつのグループ内ですべてのサポートが提供できますし、医療面では系列クリニックとの連携も密に取れています。 このように、多職種と細やかに連携できる環境があるからこそ、利用者さんに質の高い看護を提供できているんです。外部の事業所からの介入がない分、まるで身内のように個別性に応じたサポートができる、そんな環境が整っていると感じています。 働きやすい環境と温かいチームワーク 私が長く働き続けられるのは「働きやすさ」に配慮された環境があるからだと思います。たとえば、有給休暇はほぼ完全に消化できる体制が整っていますし、子育て世代へのサポートも手厚いんですよ。 グループ内に保育園があるので、子どものいるスタッフも安心して働けます。実際に、現在も子育て中のスタッフが数名おり、産休からの復帰実績もあります。お互いに子育てへの理解が深く、子どもの急な発熱や体調不良などにも融通の利く環境が整っているのは、本当に助かるところですね。 当ステーションのチームワークも自慢です。利用者さんの訪問は受け持ち制ではなく、ケアの方針はみんなで相談しながら決めています。訪問業務や勤務形態の都合上、全員がそろってカンファレンスをおこなう時間を取るのは難しいのですが、スタッフ2~3人でも積極的に話し合い、その内容を、全員が見て共有できるように工夫しています。 そうすることで、ステーション内での意見の統一が図れますし、スタッフ一人ひとりの意見を反映したケアを確立できるんです。 オンコール体制についても、今はおもに私が担当していますが、新しく入ってくれた常勤スタッフが慣れてきたら、ひとりに負担が偏らないよう分担していく予定です。現時点で在籍しているスタッフは、半数が訪問看護未経験者でした。当ステーションでは、未経験の方でも働きやすいように、手厚いフォローがありますので安心してもらえると思います。 病院での経験がある方も多いので、そのときにはオリエンテーションを通して、訪問看護の基本や、病院との違いを丁寧に伝えています。あとは日々の訪問を通して、実践的な教育とフィードバックを大切にしているので、しっかりと訪問看護の現場を学んでいける環境です。 これまで、人手が少ない時期が多く、正直大変なこともありました。しかし、利用者さんに対して責任を持って看護を提供している以上、新しいスタッフが入るまでみんなで協力し、なんとか乗り越えてきました。 最も大変だったのは、やはりコロナ禍の時期です。当時は、2〜3週間休みがない状況が続きました……人数が少ないなかで感染症対策にも気を配りながらの仕事は、本当にしんどかったです。でもこの経験を通して、スタッフ間の絆は一層強まったと感じています。みんな優しくて協力的なので、居心地がいいんですよ。長く勤めたいと思える職場だと感じていますし、気遣いなく働ける環境です。 「アルト訪問看護ステーション」の仕事風景 密な連携が訪問看護のやりがいにつながる 訪問看護師のやりがい、魅力は本当に尽きません。当ステーションはクリニックが母体で、診療所と連携しているので、医療的ケアが必要な方、たとえば在宅酸素療法をおこなっている方や、がんのターミナルケア、重症度の高い利用者さんも担当します。看取りのケアや、がん、さまざまな疾患、高齢によって少しずつ状態が悪化していく方々への看護を通して、常に多くの学びがあります。 現在は精神疾患の利用者さんはほとんどいませんが、高齢でさまざまな疾患を抱えた方が多いため、きめ細やかな看護を提供できるのが特徴です。在宅ならではの、利用者さん一人ひとりに時間をかけてじっくりと寄り添うことができるのは、この仕事の醍醐味だと思っています。自分が「こうしていきたい」と思う看護ができる、これは本当に大きなやりがいにつながっていますね。利用者さんが安心して最期まで過ごせる環境をサポートできるよう、施設やご家族、先生方と密に連携を取りながら支援できるよう心がけています。 地域を支えていくために。連携を活かして利用者の願いを叶える 現状は小規模なステーションですが、今後、スタッフが充実すれば、利用者さんからの新規の介入依頼も積極的に受け入れていきたいと考えています。とくに、ターミナルケアの対象者や医療保険を利用される方々への支援を拡大していきたいですね。今は、人手不足で母体のクリニックからの依頼でさえ断らざるを得ないこともあるんです。 利用者さんの生活を地域で支えていくためには、なによりも「人」が必要です。私たちは、利用者さんのためにグループ内で密に連携することを得意としています。この連携を活かし、今後も利用者さんやご家族の「このまま家で過ごしたい」という願いを支え続けたいと思っています。利用者さんやご家族はもちろん、多職種と連携・協力できる訪問看護を提供したいと考えている方に、ぜひ来ていただきたいです。 インタビュアーより 看護師だけでなく、介護士やケアマネジャーとの細やかな連携で利用者さまに質の高い看護を提供されているアルト訪問看護ステーション様。ステーション内のコミュニケーションも活発で、相談しやすく働きやすい職場環境が整っています。「利用者様のために」という想いをスタッフ全員が持ち、同じ方向に進んでいける…そんなチームワークのある素敵なステーション様です。 事業所概要 アルト訪問看護ステーション(大阪府大阪市) 住所:大阪府大阪市西成区南津守1丁目5-24運営方針・理念: 自宅で療養されている利用者様を、主治医や多職種と連携を行いながらサポートします。 利用者様が安心して快適な療養が送れるよう、病状や状態に応じた適切な看護サービスを提供します。 記事提供:NsPace Careerナビ編集部

在宅における透析患者さんの合併症対応【事例あり】&導入時の心理的支援の重要性
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特集
2025年9月2日
2025年9月2日

在宅における透析患者さんの合併症対応【事例あり】&導入時の心理的支援の重要性

透析治療は、身体的な負担だけでなく、生活の変化や将来への不安などから、精神的にも大きなストレスを伴います。うつ状態や孤立感を抱える患者さんも少なくないため、訪問看護においては身体的ケアと並行し、患者さんの心に寄り添うサポートも不可欠です。今回は透析患者さんに対する支援として、事例を交えた合併症対応と、透析受容の心理的段階に応じた関わりについて解説します。 透析患者さんに起こりやすい症状 透析患者さんの状態に変化があった際、「どうしたらよいのか分からない」「自分に対応できるか不安」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。基本的な対応の流れは、透析患者さんでもそうでない方でも大きく変わりません。ただし、透析患者さんには特有の注意点があります。 今回は、「血圧の低下」「高カリウム血症」「溢水」を取り上げ、透析患者さんならではの対応のポイントについてお伝えします。特に、「高カリウム血症」や「溢水」は、心停止や呼吸困難といった重篤な状態を引き起こす可能性があり、緊急透析が必要となるケースも少なくありません。こうした症状を早期に察知し、迅速に対応することが、患者さんの命を守る上で重要です。 1 血圧の低下 透析直後や帰宅後は、脱水傾向により血圧が低下することがあります。透析後は自律神経が不安定になりやすいため、急な立ち上がりや歩行は避けたほうがよいでしょう。 なぜ透析後に脱水が起こるのか?透析では、体内の余分な水分を取り除く「除水」が行われ、体重をドライウェイト(DW:目標体重)に近づけます。その過程で、以下のような場合に脱水状態になることがあります。  大量の除水により循環血液量が減少した場合 DWが適切ではない場合 透析による血管拡張 交感神経活動の低下 急激な電解質変動による循環動態の乱れ これらにより、帰宅途中や直後に立ちくらみ、めまい、ふらつき、倦怠感、冷汗、血圧低下(収縮期血圧が90mmHg以下)の症状を起こすことがあります。 安静を促し、水分補給を行うのが対応の基本(図1) 安静にして様子を見る(横になり下肢を挙上する) 水分摂取を行う(回復が見られない場合は透析施設へ連絡する) 血圧が回復しない、または意識障害がある場合は、速やかに救急要請する 図1 血圧が低下したときの対応 安静を促し、水分補給を行う。血圧低下に加えて、顔面蒼白、冷汗、頻呼吸、意識障害(JCSⅡ以上)などの症状が見られたら、「ショック状態」と判断し、救急要請が必要。 2 手足の「しびれ」と高カリウム血症 透析患者さんは腎機能が低下しているため、体内にカリウムが蓄積しやすく、高カリウム血症を起こしやすい状態です。 高カリウム血症の症状カリウムは筋肉や神経の働きに重要な役割を果たします。濃度が高くなると表1のような症状が現れます。 表1 血清カリウム濃度に応じた症状 5.5mEq/L以上初期症状手足のしびれ(感覚異常)、筋力低下・脱力感、口周囲の違和感、吐き気7.0mEq/L以上重度症状意識障害、不整脈(テント状T波)、心停止のリスク *数値は一般的な数値であり、個人差があります   事例:食事が引き金の高カリウム血症A氏(70代・男性) 息子夫婦と同居 透析スケジュール:火・木・土の週3回 透析歴:1年 現在の状況:透析を開始し、尿量が減少してきている 訪問看護師が月曜日の午前中に訪問すると、A氏から手指のしびれ、口周囲の違和感、軽度の吐き気の訴えがあった。「いつもと特に変わったことはないけれど、朝起きたら唇がしびれていて、何かおかしい。手先もしびれている気がする」とのこと。食事内容を確認すると、「昨日は息子夫婦と一緒に外食をして、生野菜と果物をたくさん食べた」との発言があった。 【訪問看護師の対応】緊急透析検討のため透析施設へ連絡 訪問看護師は、A氏の症状から高カリウム血症とアセスメント。緊急透析を検討する必要があるため、透析施設へ連絡し、症状と食事内容の情報を伝えました。 【透析室での対応】緊急透析および食事指導を実施 来院時の血中カリウム値は7.0mEq/L、心電図ではテント状T波を確認しました。緊急透析を実施し、症状は改善されました。その後、カリウム吸着薬が処方され、カリウム制限に関する食事指導を行いました。 【対応のポイント】しびれの訴えには要注意 しびれの訴えがあった場合は、バイタルサインを確認し、直近の透析状況および食事内容を確認します。予防策として、ブロッコリーやバナナ、生の野菜ジュース、干し芋のような乾物など、カリウムの多く含まれる食品の摂取を控えるよう指導し、食事管理を徹底してもらいます。また、透析の適正な実施が必要です。 3 溢水による心不全 透析患者さんは腎機能が著しく低下しており、水分や塩分を尿として排出できないため、体内に水分が蓄積しやすくなります。この状態を「溢水(いっすい)」と呼びます。 溢水の症状体重増加、頸静脈の怒張、呼吸困難・息切れ・咳嗽・湿性ラ音の聴取・血清泡沫痰、水分蓄積による浮腫 呼吸困難時は安楽な体位をとる呼吸困難は、座位やファウラー位で軽減することが多くあります(図2)。患者さんの安楽な体位を工夫するようにしてください。 図2 呼吸困難時の対応 呼吸困難は、上半身を起こす座位やファウラー位で軽減することが多くある。安楽な体位になるよう工夫する。   事例:会話中の息切れで気づいた、心不全症状B氏(70代、女性) 独居 透析スケジュール:火・木・土の週3回 透析歴:15年 既往歴:心筋梗塞、脳梗塞、気管支喘息 訪問看護師が月曜日の朝に訪問したところ、以下の症状を確認した。 ・呼吸困難(会話時に息切れ)、臥位にて増強(起座呼吸) ・下腿浮腫(+2:4mmのくぼみ) ・体重:前回の透析後より+4.2kgの増加(DW:40kg) ・バイタルサイン:血圧 170/98mmHg、SpO₂ 88%、心拍数 112回/分 ・顔色不良、倦怠感強い 【訪問看護師の対応】心不全を疑い全身状態をアセスメント 心不全を疑い、アセスメントを開始しました。バイタルサインの測定、浮腫・呼吸状態の観察、直近の透析状況(特に最終体重)・体重増加量・食事内容(水分摂取量)を確認し、透析施設へ緊急連絡しました。 【透析室での対応】緊急透析を実施し、DWの見直しも 透析室では、緊急透析を行い、除水3.8Lを実施。透析後は、呼吸状態・浮腫ともに改善しました。あらためてドライウェイトを見直すとともに、塩分・水分管理の再指導を行いました。 体重増加と呼吸状態の変化は心不全のサイン中2日明けの訪問(B氏の場合は火曜日)は特に注意が必要です。その間の体重増加や呼吸状態の変化は、心不全のサインです。患者さんの「いつもと違う」訴えを見逃さず、透析施設・主治医との連携が大切です。 * * * 合併症への対応では、訪問看護師によるアセスメントが不可欠です。異常を察知した際には、ためらわずに透析施設と情報を共有し、重症化の予防に努めましょう。 透析導入時の心理的支援のポイント では次に、患者さんの心のケアにおいて重要な「心理的支援」についてご紹介します。透析を受け入れる過程で患者さんが経験する心理的な段階に応じた支援のあり方や、訪問看護師が果たす役割について解説します。 透析患者さんの多くは、透析治療を生活の一部として受け入れ、前向きに適応していく心理的・社会的なプロセスを辿ります。訪問看護師が理解しておくべき、透析受容の心理的段階と支援のポイントは以下のとおりです。 透析受容の心理的段階(図3) 透析治療の開始から時間の経過とともに、患者さんは以下のような段階を経験します。 図3 透析受容の心理的段階 ●混乱期治療開始時には、「なぜ自分が透析を?」という戸惑いや否定的な感情が強く表れます。病気の受容が難しく、治療や生活の変化に対する不安が大きく、精神的な混乱が生じます。 ●変化期少しずつ治療や生活の制限について理解が進み、自分なりの対処法や工夫を模索するようになり、生活の再構築に向けた前向きな姿勢が見られるようになります。 ●共存期透析治療を日常の一部として受け入れ、前向きに捉えるようになります。自己管理やセルフケアへの意欲が高まり、治療とともに生きる意識が芽生えます。 ただし、すべての患者さんがこのプロセスを順調に進むわけではありません。透析を始めて何年経っても受け入れられず、苦しんでいる方もいます。透析の受容は、性格・価値観・生活背景・家族や社会的支援の有無など、さまざまな要因に左右されるため、画一的な経過をたどるものではありません。 各段階に応じた支援の重要性 患者さんの心理状態に応じた支援は非常に重要です。特に混乱期には、透析に関する詳しい指導を行っても、患者さんが情報を受け取る余裕がなく、内容が頭に入らないことがあります。指導を受ける気持ちになれない場合も少なくありません。 このような時期には、まずは患者さんの気持ちに寄り添い、安心感を与えるかかわりが何よりも大切です。患者さんが少しずつ気持ちを整理し、「透析」という現実を受け止められるようになるまで、焦らずに支援を続ける姿勢が求められます。 透析の受容は一度で完了するものではなく、揺れ動くプロセスです。訪問看護師の皆さんには、患者さんが今どの段階にいるのかを見極め、それぞれの段階に応じた「今の気持ち」に丁寧に寄り添いながら支援していくことが重要です。  執筆:熊澤 ひとみ医療法人偕行会 透析医療事業部 副事業部長透析看護認定看護師【職歴】昭和63(1988)年 名古屋共立病院 入職平成11(1999)年 偕行会 セントラルクリニック 異動平成17(2005)年 透析医療事業部 副事業部長令和3(2021)年 医療法人偕行会 法人本部 理事【所属学会】日本腎不全看護学会 監事日本臨床腎臓病看護学会日本透析医学会編集:株式会社照林社

受賞エピソード漫画化!「意思疎通、出来ます。」前編【つたえたい訪問看護の話】
受賞エピソード漫画化!「意思疎通、出来ます。」前編【つたえたい訪問看護の話】
特集
2025年8月27日
2025年8月27日

受賞エピソード漫画化!「意思疎通、出来ます。」後編【つたえたい訪問看護の話】

NsPaceの特別イベント「第3回 みんなの訪問看護アワード」で募集した「つたえたい訪問看護の話」。今回は、審査員特別賞を受賞した服部 景子さん(愛全会 訪問看護ステーションとよひら・ちゅうおう/北海道)の投稿エピソード「意思疎通、出来ます。」をもとにした漫画をお届けします。  「意思疎通、出来ます。」前回までのあらすじサマリーの「意思疎通不可」にチェックが付いていた利用者のトシ子さん。訪問看護師の服部さんは、トシ子さんと介護を担う娘さんをできるだけサポートしたいと思いながらも、バイタル測定もさせてもらえない状況でした。ベテランの所長さんが訪問しても同様の結果だったことから、「トシ子さんには何か訴えたいことがあるのでは」と考え、改めて担当としてトシ子さんのサポートに向き合う決意を固めました。>>前編はこちら受賞エピソード漫画化!「意思疎通、出来ます。」前編【つたえたい訪問看護の話】 「意思疎通、出来ます。」後編 漫画:広田 奈都美(ひろた なつみ)漫画家/看護師。静岡県出身。1990年にデビューし、『私は戦う女。そして詩人そして伝道師』(集英社)、『ナースのチカラ ~私たちにできること 訪問看護物語~』『おうちで死にたい~自然で穏やかな最後の日々~』(秋田書店)など作品多数。>>『ナースのチカラ』の試し読みはこちら【漫画試し読み】『ナースのチカラ』第1巻1話(その1)投稿者:服部 景子(はっとり けいこ)さん愛全会 訪問看護ステーションとよひら・ちゅうおう(北海道)3年連続で表彰いただき、誠にありがとうございます。授賞式に参加するたびに感じるのは、「全国には、こんなにも熱い想いで訪問看護に取り組んでいる仲間がたくさんいる」ということです。皆さんのエピソードを読み、お話を伺い、笑い、涙し、感動し、共感しながら、たくさんのエネルギーをいただいています。今回エピソードが漫画化されたことを、トシ子さんはもちろん、娘さん、ケアマネジャーさん、上司、同僚、家族がとても喜んでくれており、私自身も幸せな気持ちでいっぱいです。このような機会をくださったトシ子さんと娘さんに、心から感謝申し上げます。また、NsPaceの皆様の活動には、いつも深く感謝しています。これからも訪問看護師の輪がますます広がっていくことを、心より願っています。

受賞エピソード漫画化!「意思疎通、出来ます。」前編【つたえたい訪問看護の話】
受賞エピソード漫画化!「意思疎通、出来ます。」前編【つたえたい訪問看護の話】
特集
2025年8月26日
2025年8月26日

受賞エピソード漫画化!「意思疎通、出来ます。」前編【つたえたい訪問看護の話】

NsPaceの特別イベント「第3回 みんなの訪問看護アワード」で募集した「つたえたい訪問看護の話」。今回は、審査員特別賞を受賞した服部 景子さん(愛全会 訪問看護ステーションとよひら・ちゅうおう/北海道)の投稿エピソード「意思疎通、出来ます。」をもとにした漫画をお届けします。 >>全受賞エピソードはこちら・つたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!大賞・審査員特別賞・ホープ賞・協賛企業賞【2025】・つたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!入賞【2025】 「意思疎通、出来ます。」前編 >>後編はこちら受賞エピソード漫画化!「意思疎通、出来ます。」後編【つたえたい訪問看護の話】   漫画:広田 奈都美(ひろた なつみ)漫画家/看護師。静岡県出身。1990年にデビューし、『私は戦う女。そして詩人そして伝道師』(集英社)、『ナースのチカラ ~私たちにできること 訪問看護物語~』『おうちで死にたい~自然で穏やかな最後の日々~』(秋田書店)など作品多数。>>『ナースのチカラ』の試し読みはこちら【漫画試し読み】『ナースのチカラ』第1巻1話(その1)投稿者:服部 景子(はっとり けいこ)さん愛全会 訪問看護ステーションとよひら・ちゅうおう(北海道)

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