コラム

ALSの平均寿命が2〜5年なんて嘘だ!

ALSを発症して6年、40歳の現役医師である梶浦さんによるコラム連載です。ALSについてインターネット上の情報が示すのは絶望的な情報。でも、アップデートされた正しい情報が示すのは、「ALSはともに生きていく病気だ!」

検索上位は絶望を誘う情報ばかり

ALSと診断された患者や家族は、診断を受けたら、インターネットを使ってALSのことを調べるでしょう。

「ALS」と入力したら、検索の上位に出てくるのは「症状」や「寿命」などのワード。

ALSとはどんな病気か、まだほとんど知らない状態で入ってくるのが、平均寿命が2年〜5年という衝撃的な情報です。多くの人が、そこで、「自分はあと数年しか生きられないのか」と理解し、絶望するのです。

恥ずかしながら、医師である私も、そう理解しました。

発症当時34歳だった私は何の持病もなく、健康そのものでした。それなのに、40歳まで生きられないのか……。そう思い、愕然としました。愕然としすぎて、どこか他人事のようで現実感がなかったくらいですが、ただ漠然とした恐怖と不安に押しつぶされていました。

多くのALS患者さんも、同じような感情を抱くのだと思います。

『呼吸筋麻痺は終末期』は本当か

インターネット上の多くの情報は、呼吸筋麻痺を「ALSの終末期」ととらえています。

確かに、ALS患者さんの多くは、気管切開による侵襲的人工呼吸療法(TPPV)をして生きていく道を選びません。実際、TPPVの導入割合は、日本で約 20〜30%と推計されています。

(余談ですが、欧米では数%から10%強そこそこなので、これでも日本は世界からみたら飛びぬけて TPPV が多い国ととらえられています。1)

なぜこんなにも、TPPVで生きていく人が少ないのでしょうか?

それは多くの人が、ほとんど体が動かせず、治療法もないこの病気に希望が見いだせないからでしょう。

在宅環境のめまぐるしい進歩を味方に

確かに治療法はまだありません。しかしTPPVで在宅療養していく生活環境は、目まぐるしく進歩しています。
特にtechnologyの進歩はすごい! 医学の進歩をはるかに凌駕しています。

ここ数年で、体の一部分が動かせさえすれば、iPhoneやiPadを操作できるようになりました。私も、最初のころは手の指で、手が難しくなってきて次は足の指で、その次は歯で、操作しています。
私は今でも、これで、医師として仕事もするし、メールやLINEもするし、さまざまな動画コンテンツだって見ることができるし、本や漫画も読めるし、ゲームだってできる。ちなみに私はドラクエをしています(笑)。

たぶんこれからも、technologyはどんどん進歩していくし、それに伴ってALSの在宅療養環境もどんどん改善していくでしょう。

これだけでも、大きな希望です!

『呼吸筋麻痺は維持期』という考えかた

だから私は、「呼吸筋麻痺はALSの終末期」ではなく、「呼吸筋麻痺はALSの維持期」と考えます!

実際、「胃瘻造設をして栄養管理を行いながらTPPVをしているALS患者の生存期間中央値は20年」というデータも都立神経病院から出ています2)。ALSの好発年齢が50〜70歳であることを考えると、十分に天寿も全うできる数字です。

これからは「ALSは死ぬ病気ではなく、ともに生きていく病気」になっていくでしょう。

ALSは20年だって生きられる病気だ

私もALS患者です、「ともに生きていく」ことが大変なのはよくわかります。私の考えを押しつけるつもりもまったくありません。TPPVを選ばないことも、立派な選択肢の一つだと思います。

ただ同じALS患者として、医師として、ALS患者さんには、正しい、アップデートされた情報をもって、TPPVをするかTPPVをしないかを選択してほしいと切に思います。
私の記事がその一端を担えれば幸いです。

もう一度言います。

「ALSの平均寿命が2〜5年なんて嘘だ!」

「気管切開して、TPPVをした場合、ALSは20年だって生きられる可能性のある病気だ!」

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コラム執筆者:医師 梶浦智嗣

記事編集:株式会社メディカ出版

【参考】
1)荻野美恵子.『日本におけるALS終末期』臨床神経.48,2008,973-5.
2)木村英紀.『長期TPPV下における問題点とその対策について』難病と在宅ケア.27(2),2021,60-3.

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