コラム

看護師の皆さん!ALSに対するイメージで勝手に壁を作っていませんか?

ALSを発症して6年、40歳の現役医師である梶浦さんによるコラム連載です。難病患者とあまりかかわったことのない看護師さんに特にお伝えしたい、ALS患者の願いです。

ALSに対するイメージで、壁を作っていませんか?

看護師の皆さんはALS患者に対してどんなイメージを持っているでしょうか。

ALS患者とあまり接したことがない看護師さんの多くは、
「コミュニケーションのとれないやっかいな患者」
「何を考えているのかわからない」
「どう接すればよいのかわからない」
そんなイメージを持っているのではないでしょうか。

入院は「どaway」

私は2021年2月に気管切開と声門閉鎖手術を行いました。コロナの影響でヘルパーさんの付き添いが認められず、一人きりの入院でした。

ふだんは、私の性格や行動パターンを理解して、会話もスムーズにできる家族やヘルパーさんや看護師さんたちに囲まれて、楽しく快適に暮らしています。まさに「home」です。しかし、一人きりの入院となると、私のことをまったく知らない人たちに囲まれての生活です。まさに「どaway」。

主治医を信頼していたので手術に対する不安は全然ありませんでしたが、一人きりになることが、不安で不安でしかたありませんでした。

皆さんも、自分に置き換えて想像してみてください。体が動かせず、通訳もいない状態で、言葉の通じない病院に一人きりで入院する感じです。想像しただけも恐ろしい……。

文字盤も説明書も手作りボードも使われず……

なので、いろいろ対策をしていきました。もちろん初対面で文字盤を使い、コミュニケーションをとることは難しいとよくわかっていたので、文字盤の使いかたを書いた説明書と、いろいろな種類の文字盤を持参しました。それでも使えないときのために、あらかじめ、「頭を置き直して」「足を曲げて」「iPadをセットして」「痛い」「苦しい」など、伝えたくなるであろうことを書いたボードも持参しました。

実際に持参したボード

ですが、それすらほとんど使ってもらえませんでした。声も出せず、目以外ほとんど動かせない自分と、積極的にコミュニケーションをとってくれようとした看護篩さんは、ほとんどいませんでした。ある程度想像していたものの、ここまでとは思いませんでした。

誰か一人でもコミュニケーションをとろうとしてくれたら

入院中にこんなことがありました。

手術後ICUにいたとき、体勢を整えた際に枕が高すぎて首が前屈し、気切部のカニューレが圧迫されていました。このときから、部屋にいた看護師さんに苦しい合図を出していましたが、目を合わせてもらえず、合図は届きません。看護師さんが離れ、何とか足元のナースコールを押そうとしてもがいていたら、体がずり下がり、首の前屈が強くなりました。徐々に気切部のカニューレが閉塞し、呼吸ができなくなっていきました。

SpO2が下がりアラームが鳴って、看護師さんたちが集まって来たときには、すでにSpO2は80%台。私は必死で「首」「首」と心で叫びながら目で合図を送り続けていましたが、誰にも届きません。

SpO2が70%台まで下がり、苦しすぎて気を失いかけたとき、ようやく首が前屈しておりカニューレが閉塞していることに気がついてくれて、首の位置を直してもらい、なんとか立ち直りました。

誰か一人でも私とコミュニケーションをとろうとしてくれていれば、こんなことにならなかったのに……。

下手でもいいんです

なぜコミュニケーションをとろうとしてくれないのだろうか? 看護をしたい気持ちがないからだろうか?

違います。看護師の皆さんからは、看護をしたい気持ちは伝わってきます。

ただ、
「話し掛けてもコミュニケーションをとれるのだろうか」
「話し掛けてもコミュニケーションがとれないなら、なるべくかかわらないほうがよいのでは」

そんなふうに考え、未知のものに触れる不安で、一歩を踏み出す勇気が出ないのだと思います。

私のような難病患者は、はじめから上手にコミュニケーションをとれるなんて、思っていません。たどたどしくてもいい、下手でもいい、ただ勇気を出して話し掛けてくれさえすれば、こちらはコミュニケーションをとれる方法を準備して、待っています。

なので、ALSなどの難病患者とあまりかかわったことのない看護師の皆さんには、この記事を読んで、一歩前に踏み出す勇気を持ってもらえたら嬉しいです。

コラム執筆者:医師 梶浦智嗣

 記事編集:株式会社メディカ出版

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