特集 インタビュー コラム
特集

利用者さんとつながってこその「かかりつけ薬剤師」

新宿区一帯で在宅ケアを提供している事業所の有志が集まった「新宿食支援研究会」。「最後まで口から食べる」をかなえるために、日々、多職種での支援を実践しています。本研究会から、各職種の活動の様子をリレー形式で紹介します。第8回は、薬剤師の齊藤直裕さんから、利用者さんの背景をふまえた「かかりつけ薬剤師」の支援と連携を紹介します。

「間違いのない服薬」だけではない

私は、在宅支援診療所である新宿ヒロクリニックで院内薬剤師をしています。大学卒業後は数年間、救急病院に勤務し、その病院勤務時代の知り合いであった訪問看護師さんに引っ張り出されたことをきっかけに、以来20年ほど薬剤師として在宅医療にかかわっています。

在宅患者さんへの薬剤師のかかわりは、薬の適正使用サポートが大きい部分ではあります。間違った飲みかた・使いかたを防ぐため、患者さんの理解度を確認しながら、管理方法をサポートすることです。

しかし、現実の治療と在宅生活を考えたときに、教科書どおりの「正しい使いかた」はできないことがままあります。たとえば「一日3回服用する」ことだけでも、生活のなかで毎日確実にできるかは難しい人もいます。必要なのは「間違いなく確実に飲ませる」といった厳格な管理ではなく、現在の病状と日常生活のバランスだと考えています。

医療や服薬が中心になりすぎることで、その人の生きがいや満足につながらない可能性を考えなければなりません。在宅療養支援診療所の大きな役割は、地域生活や社会生活のサポートです。その人が何を考え、これからどう生きていきたいかを、地域で一緒にサポートするスタッフと話し合いながら進めていく必要があります。

「一日3回服薬」が難しい場合は

かといって、いい加減な服薬でよいわけでもありません。認知機能の低下などあって、一日に1回の服用なら何とかできるが、一日3回は難しい人がいたとします。それを「しょうがない」ですませるのではなく、たとえば一日1回の服用で長く効くタイプの薬に変更できるかもしれない。そこで仮に変更した場合、長く効き目がある薬はそのぶん、体に薬の成分が長く残ります。腎臓や肝臓の機能はどうか、万が一副作用が出たときにいかに早く気づくことができるか、などを考えて提案や調整を行います。

「薬剤師は医師の処方に従って薬を出すだけの人」と思われがちですが、在宅医療では薬剤師も、その方がどんな暮らしをしており、お体はどんな状況なのか、事前情報の段階でしっかり確認します。

その上で、特に薬を変更した場合などは、どんなタイミングで、何のために、どんな薬に変更して、どんなことに気をつけるのがよいか。地域で一緒に働くスタッフにも「専門家の意見として」共有させていただいています。病院などとは違い、ご自宅では医療従事者が常時いるわけではありません。万一異変があったら誰かが訪問した際に気づけるよう、すぐ連絡できる体制──「連携」が大切だからです。

在宅医療にかかわる薬剤師の多くは、直接患者さんのそばでケアをするわけではありません。病状と想いを共有して、地域の薬局と連携し、ふだんの服薬状況を確認しながら、ケアマネジャーさんを中心として情報共有し「支えようとしている人を支えること」で間接的なサポートができているのだと思っています。

「飲み忘れ」より多い「飲みすぎ」の相談

実際には、「飲み忘れ」でなく「飲みすぎ」の相談が、意外に多くあります。予定より早く薬がなくなってしまうため、管理方法などどうしたらよいかといった内容です。

外来に通院している人なら「薬がない」とご本人が病院に来ることもありますが、ご本人に過量服用している自覚がない場合が多く、対応に苦慮することがあります。

お一人でいる時間に服用してしまうことを防ぐのは難しく、薬を預かったり隠したりすることもご本人の自尊心を傷つけて、不安や不信感につながることがあります。ですから一概に「このようなケースはこうする」と決めることはできません。やはり連携が必要となり、日々変化する感情や病状に合わせての対応が求められます。

ご本人の認知機能はもちろんですが、それまで生きてきた過去(プライドやキャラクターなど)、生活の自立度、そしてどの程度管理すべきかの病状と経過、医師の見解を地域の薬局と共有し、ケアマネジャーさんとはサービスの受け入れ状況や、協力体制、薬剤の支給のタイミングを共有します。

私たちは、異変に気づいたときにすぐに共有できるような体制づくりや、情報共有システムなどの整備にも取り組んでいます。

多職種がともに学び、ともに悩むことの価値

血圧を下げる薬を例にとると、「血圧のコントロール」は手段であって、目的は、「脳卒中や心筋梗塞など大きな病気の予防」「予防した上で地域生活を維持すること」であったりします。前述の、病状や生きがい、人生満足度によっても、血圧のコントロールで考えられるリスクと、地域生活が維持できるかどうかのリスクの許容範囲は変わってきます。

多職種で共有するためには前提が重要です。在宅ケアは、他職種がどのようなことをしているか、同行しないと見えない部分が多くあります。新宿食支援研究会に参加することで、さまざまな職種について学ぶだけではなく、表面上わからなかったそれぞれの想いや現状も、交流を通して知ることができました。

それぞれの義務とプロフェッショナリズムを理解しつつ、病気や障害があったとしても、地域で安心して暮らせる社会をともに目指す。多くの職種が集まるなかで、それぞれのケースでともに悩むことが重要であり、サポートする側も含めた地域づくりをしていくことこそが大切なのだと学ばせていただきました。

執筆
齊藤直裕
薬剤師
新宿ヒロクリニック
新宿食支援研究会

 
記事編集:株式会社メディカ出版

この記事を閲覧した方におすすめ

× 会員登録する(無料) ログインはこちら