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利用者の負担軽減も。訪問看護師がポータブルエコーを使うメリット&課題

訪問看護師が使うメリット

近年、手軽に利用できる低価格のポータブルエコーが、訪問看護の現場でもみられるようになりました。アセスメントツールのひとつとして医師への報告や多職種連携に活用され、ケアの質向上にも期待が高まっています。しかし、ポータブルエコー購入や技術習得にかかる経済的・時間的な負担が大きく、ハードルの高さを感じる方が多いのではないでしょうか?

今回は、看護師がポータブルエコーを使うメリットと課題について、褥瘡・排便ケアにポータブルエコーを活用する東葛クリニック病院の皮膚・排泄ケア特定認定看護師の浦田克美先生にお話を聞きました。

ポータブルエコーの主なメリット3つ

ポータブルエコーのメリット(1)ケアの客観的な根拠にできる

看護師がポータブルエコーを使う第一のメリットは、画像をケアの根拠にできる点です。看護師にとってポータブルエコーは、さまざまな場面で役に立ちます(図1)。

ポータブルエコーが役立つ場面の一例
図1:「ポータブルエコーが役立つ場面の一例」(提供:浦田克美氏)

たとえば、褥瘡ケアの分野では、褥瘡の深さ、発赤、DTI(深部組織損傷)など、皮膚表面からの観察は看護師の経験値や知識レベルに左右されます。しかし、ポータブルエコーの使用によって、皮下脂肪や筋肉組織内に隠れている褥瘡を可視化できます。

排泄ケアの分野でも、通常、直腸まで便が下りてきているかどうか、看護師の経験や肛門診をした際の感覚で想像し、判断することが多くあります。そこでポータブルエコーを使えば、直腸に便が溜まっていることが可視化され、浣腸、摘便といったケアも明確な根拠のもと行うことができます。

ポータブルエコーのメリット(2)客観性のある画像で判断に自信が生まれる

第二に、客観性のあるポータブルエコー画像で、判断に自信が生まれます。五感による観察は、看護師として必要ですが、経験値の格差は少なからずあります。ポータブルエコーは、必要なケア方法を導くための補完的なツールとなる可能性を秘めています。一歩立ち止まって、果たしてこれでよいのかと考える時、ポータブルエコーの画像は大きな判断材料になるでしょう。

訪問看護の現場では、膀胱留置カテーテルからの尿流出がなくなった時、カテーテル交換で済むレベルなのか、急な受診を要するレベルなのか、判断を迫られる場面があると思います。カテーテルの閉塞・屈曲などのトラブルなのか、尿閉・乏尿などの問題なのかを一人で見極めなければなりません。

しかし、ポータブルエコーがあれば、より根拠を持って、直ちに見分けられます。画像でカテーテルは膀胱内にあるけれども、膀胱内に尿がたまっていないのを確認すれば、尿閉・乏尿で腎機能低下の可能性があるため、受診をすすめる根拠として画像提供できます。利用者さんやご家族にとって、急な受診は大きな負担となるため、救急車を呼ぶのか、明日の外来まで待てるか、それは大きな違いではないでしょうか。画像を撮影しておけば、医師が不在でも後で所見を聞き、利用者さん宅を出た後でも対応できます。

ポータブルエコーのメリット(3)多職種や利用者さんと現状を共有できる

第三のメリットは、医師や多職種、利用者さん、ご家族との情報共有による関係性の向上です。ポータブルエコー導入前から同僚や多職種との情報共有のメリットは予想していましたが、これは予想外のメリットでした。利用者さんやご家族など、医療の専門性に関わらず画像提示し、褥瘡の深さや便、尿の貯留部位を見せると納得が得られやすく、ケアに説得力が生まれます。

当院での事例ですが、「毎日便が出ないと気持ち悪い」と下剤に固執していたある患者さんは、食事摂取量が少なく、活動性も低いため、毎日便が出る状態ではありませんでした。そこで、ポータブルエコーを使い、その画像を患者さんと見ながら「便は今、ここにありますよ」と画像を共有しました。便は白くモコモコした雲のように画像化されるのでわかりやすく、患者さんも画像を見ることで「排便は今日じゃないな」というのを理解できるのです。

一方、排便がしばらくみられないことを心配した看護師が、患者さんの訴えがなくても浣腸や摘便を実施することがあります。

しかし、実際には直腸には便が溜まっていなかったり、摘便を実施したけど便が下りていない状態であったり、結果的に浣腸は不必要な排便ケアだった、というケースも多くあります。ポータブルエコーを用いることで、便が下りていないことが分かれば、患者さんは不必要な排便ケアを免れ、苦痛を回避することができます。また、直腸に便があれば浣腸や摘便、無ければ下剤と便秘の状態に合わせてケア方法を選択できます。例えば、「直腸に便が溜まってないから今日は浣腸しません」と伝えることができるので、訪問看護師にとっても業務の効率化に繋がるのではないでしょうか。

ポータブルエコーは、患者さんとの情報共有や信頼関係形成といった面でも、とても有益だと感じます。患者さん自身が排便の時期を予測できると、ポータブルエコーが患者さんのセルフケアに貢献できる部分もあります。

訪問看護師のポータブルエコー活用の課題

ポータブルエコー活用の課題(1)機材が身近にない

訪問看護師がポータブルエコーを使うケースも出てきましたが、大きな壁が2つあります。1つ目はポータブルエコーの機材そのものがないことです。最近、ポータブルエコーは手頃な価格のものも増えましたが、まだまだ浸透していません。やはり、血圧計やサチュレーションモニターのように、ポータブルエコーがもっと身近に判断できるツールとなればと思います。

ポータブルエコー活用の課題(2)技術習得までのサポートを得にくい

2つ目は、ポータブルエコーを学ぶ看護師の環境が十分に得られにくいことです。看護師にとって、基礎教育でまったく学ばなかったポータブルエコーの走査や画像の読み方を、一人で学ぶことは難しいと思います。質問したらすぐ答えてくれる指導者がいるといった、学びの環境を整えることが重要でしょう。

私たちの医療チームでは、褥瘡回診からポータブルエコーの使用を始めました。検査部がポータブルエコーを持って参加し、チームメンバーと一緒に画像を読影しています。その中で、プローブ走査のコツや持ち方、見やすく説得力のある画像の描出方法を教えてもらいます。気長に分かりやすく教えてくれる指導者がそばにいることが大きなカギになります。

ポータブルエコー活用で質の高いケアを提供する

訪問看護でポータブルエコーの活用をしていくためには、管理者が根拠を持ち、質の高いケアを行っていこうという風土を作ることも重要です。確かにポータブルエコーを活用しなくても質の高い看護は提供できます。多くの看護師は、使った事もないポータブルエコーをゼロから学ぶ時間も余力も無いと感じているでしょう。

しかし、褥瘡写真はどうでしょう。カメラの購入やカルテに貼り付ける手間があっても、以前に比べかなり一般化しました。

それは、ケア方法の統一や医師や家族と情報共有するメリットの方が大きく、診療報酬がつかなくても費用対効果が高いと感じているからです。

デジタル時代となり、医師と褥瘡の写真をやりとりするなどの情報共有が一般的になりつつあります。褥瘡を画像化する事で、ケアの統一や教育、家族指導にも活用できるようになりました。これからは、皮膚表面から見えない領域を、ポータブルエコーで見ることもできます。五感を使ったプロの技と客観的な画像を掛け合わせれば看護の質はもっと発展していくはずです。

また、ポータブルエコーの採用を検討している管理者の方には、ポータブルエコーでおこなったアセスメントとケアに対して、適宜フィードバックしてあげてください。上司からのフィードバックがあるだけで、ポータブルエコーを使ったアセスメントに自信を持ち、ケアする喜びにつながるはずです。

取材協力
浦田克美氏(皮膚・排泄ケア特定認定看護師)

編集:メディバンクス株式会社

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