特集

安心感をどう作るか⑤ 感染症版BCPの作成

最初の発生から2年が過ぎても、いまだ終息の見えない新型コロナ。感染防止対策だけではなく、目には見えないスタッフの不安やメンタルヘルスへの対応もステーションの管理者には要求されます。ベテラン管理者のみなさんに、今必要とされるスタッフマネジメントについて語っていただきます。第6回は、第4回第5回に続き、岐阜県看護協会立訪問看護ステーション高山の野崎加世子さんです。

お話
野崎加世子
岐阜県看護協会立訪問看護ステーション高山 管理者


BCP(業務継続計画)の作成が、診療報酬・介護報酬上でも、強く求められるようになりました。今回は、そのうちの感染症版BCPについての話ですが、感染症版BCPについては、厚生労働省のHPで「新型コロナウイルス感染症発生時の業務継続ガイドライン」が発行されており、私たちの訪問看護ステーションでも、それを参考にBCPを策定しました。そのプロセスで最も重視したのは、「自分たちのこととしてBCPを作成する」という強い姿勢です。

自分たちのBCP

私たちの訪問看護ステーションでの感染症版BCPは、「感染対策委員会」と「BCP委員会」の共同で策定しました。これは、同BCPの策定は、「感染症対応マニュアル」の刷新と切り離せないという考えかたによります。

その過程で重視したのは、管理職などの委員会のメンバーだけではなく、すべてのスタッフが、「自分のこと」「自分の課題」として積極的に策定に参画するということでした。
「自分が感染したらどうするか?」
「自分が濃厚接触者になったらどうするか?」
「そのとき、自分の家族はどうするか?」
「自分が担当している利用者への訪問はどうするか?」
「自分のチームのメンバーが訪問に行けなくなったらどうするのか?」
そのようにスタッフに問いかけていきます。

事業の継続を個人目線でみれば、「今の仕事が続けられるかどうか」です。それは、「いかにして、自らの生活と利用者の健康を守るか」という真剣な問いであり、感染症版BCPの策定に参画することで、「他人事ではない」といった当事者意識が芽生えます。

しかし、そうした問いに関する回答は容易ではありません。スタッフの考えかたと事業所の方針とを合わせながら、具体的な回答を見つけ出すプロセスで、当事者であるスタッフは、「安心」を手にします。

具体的なシミュレーション

もしも○○となった場合にはどうするか?──感染症BCPの策定プロセスは、具体的なシミュレーションの積み重ねです。たとえば、このように決めていきます。

チーム5人で訪問看護を行なっていたとします。うち1人が濃厚接触者になって訪問から離脱した場合は、チーム内で補い合い、現行のサービスを維持します。

2人が濃厚接触者になった場合は、ほかのチームから応援し、現行のサービス量を何とか保ちます。

3人が濃厚接触者になり、チーム内の戦力が2人になった場合には、現行のサービス量の維持は困難になるものと考えます。そこで、訪問の回数を調整したり、ご家族でできるところをお願いしたりします。ふだんから、もしものときにご家族の協力をどこまで得られるか、セルフケア能力をアセスメントしておくことが重要となります。また、かかりつけの診療所などにも協力を求め、訪問診療時に家族ケアを行なってもらうなど、あらゆる可能性を視野に入れた計画を立てます。

法人としての対応

感染または濃厚接触者になった場合の休業の扱いについても、法人として確定しておく必要があります。私たちの事業所では、「業務命令」として自宅待機してもらう観点から、感染したり、濃厚接触者になったりした場合には、「特別休暇」扱いとして給与を支給します。

スタッフは、それを知ることで、安心して働くことができます。

自然災害版BCPとの違い

自然災害版と感染症版のBCPは、共通点が少なくありませんが、明らかな違いもあります。その一つは「予防」の視点です。

自然災害に対して、私たちはきわめて非力です。ところが感染症の場合は、感染予防を行うことで感染拡大を未然に食い止めることができます。この点が、感染症対応マニュアルとセットで考えることが求められる理由です。

地域連携の内容も自然災害版BCPとは異なります。自然災害では、地域がまるごと被害を受けることが想定されます。一方、感染症の場合は、いわゆる「無傷」の事業所が数多く温存されていることが想定できます。そうした認識に立ち、感染拡大時の事業所連携の内容を平時から詰めておくことが重要です。

実際、私たちの地域でも、ほかの訪問看護ステーションが新規の受け入れを休止した際に、私たちの事業所が新規受け入れを代替したことがありました。また、訪問看護ステーションどうしはもとより、介護系サービスとの連携も考慮しておく必要もあるでしょう。

BCPの策定では、国からいわれたからではなく、「自分たちと利用者の安心のために作る」という積極的な姿勢が、もしものときの有効性を担保します。「事業所をつぶさないために作ろうよ」。それが私たちの合い言葉です。

第7回に続く

記事編集:株式会社メディカ出版

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