【ALS患者に必要なリハビリテーション【四肢編:拘縮予防が最大のポイント】

ALSを発症して10年、現役医師・梶浦先生によるコラム連載、第2弾。ALSは筋肉そのものの病気ではないため、過度な筋力トレーニング(以下、筋トレ)は逆効果になることもあります。では、どのようなリハビリテーション(以下、リハビリ)が適切なのでしょうか。今回は、病気の進行に応じた適切なリハビリや、四肢の拘縮を防ぐ工夫について、梶浦先生ご自身の実践を交えて解説していただきます。
目次
ALS患者にとってのリハビリとは
これまでのコラムでも書いてきましたが、ALSは運動ニューロンが障害されることで、脳からの命令が筋肉に伝わらず、結果的に筋肉が動かせなくなっていく病気です。
筋肉自体の病気ではありません。
そのため、リハビリのポイントは、
| 適度に筋肉や関節を動かしていくことで、残存する運動機能をできる限り温存し、筋肉や関節が硬くなるのを予防していくこと |
につきます。
過度な筋トレは逆効果
徐々に筋肉が細くなり、筋力が落ちていくため、筋トレがよいリハビリだと思われる方もしばしばいらっしゃいます。しかし、過度な筋トレは以下の理由により、ALS患者には逆効果となってしまいます。
| (1)ALSでは運動ニューロンが徐々に壊れていき、正常に機能している筋肉も少なくなっていくため 残された筋肉を無理に使いすぎると、その筋肉やそれを支配する神経に過剰な負荷がかかり、症状の進行を早める可能性があります。 |
| (2)ALS患者は筋肉の再生能力が健常者より低下しており、筋トレによるダメージからの回復が不十分になるため 過度な筋トレによってダメージを受けた筋肉が修復されないまま疲労が蓄積され、結果的に筋力が低下してしまうことがあります。 |
体が動かせるうちにできるリハビリ
まだ体が動かせるうちは「今できる日常動作を無理のない範囲で、できる限り継続していく」というのが、適切なリハビリです。
例えば、まだ歩ける方は、歩くこと自体がよいリハビリになります。過度な負荷をかけずに、歩くことをできる限り継続してください。ただし、転倒するようになってきたり、足元がおぼつかないと感じるようになったときには、無理せず主治医に相談してください。
ベッド上の生活でできる四肢のリハビリ
私のように、四肢体幹が動かせなくなり、人工呼吸器を装着して、主にベッド上での生活がメインになってからは、四肢と体幹(呼吸筋)の2つに分けてリハビリを考えるとよいでしょう。今回はそのうちの、「四肢のリハビリ」について書いていきたいと思います。
筋力が落ちて、自分の力では四肢体幹が動かせなくなると、体は自然と筋肉の緊張がゆるみ、安静に保つための基本的な姿勢をとるようになります(図1)。
図1 安静を保つ姿勢のイメージ

この姿勢が楽だからといって、長時間同じ姿勢でいると、徐々に関節や筋肉がその状態で硬くなってしまいます。この現象を「拘縮」と呼びます。
拘縮が引き起こす問題
拘縮を起こしてしまうと、次のような理由から、日常生活の中でさまざまな弊害が出てきてしまいます。
- 血流が悪くなる
- 関節痛や筋肉痛の原因になる
- 関節の可動域が制限される(例えば、着衣や車椅子への移乗などの動作が難しくなる)
ベッド上での生活がメインになっている段階では、自分の力で筋肉や関節を動かすことが難しいため、以下のいずれかが必要です。
- 他者に動かしてもらう
- 自分でもできる拘縮を予防する工夫を取り入れる
他者に体を動かしてもらう場合
ALS患者さんによって、硬くなる部位は異なります。
- 上位運動ニューロンが優位に障害されている部位:緊張性麻痺(筋緊張が亢進)
- 下位運動ニューロンが優位に障害されている部位:弛緩性麻痺(筋緊張が低下)
リハビリスタッフさんや看護師さんは、これを前提に、個々の症状に合った可動域訓練をはじめとしたリハビリテーションを行うようしてください。
ただ、一般的に「硬くなりやすい動き」もあります。例えば、
- 手指の関節を屈曲・伸展する動き(こぶしを握ったり、開いたりする動き)
- 前腕を回外する動き(前腕を前に出し、手のひらを上に向ける動き。ちなみに、手のひらを下に向ける動きは回内です)
- アキレス腱を伸ばす動き
などが多いです。そのことを意識しながら、可動域訓練をするとよいでしょう。
私が実践している拘縮の予防方法
拘縮を予防していく上で最も重要なのは、「頻度」です。いくらリハビリスタッフや看護師さんたちに体を動かしてもらったとしても、時間は限られています。そこで、ポイントとなるのが、「拘縮を予防する動きをできるだけ日常生活の姿勢の中に取り入れること」です。ここからは、私が行っている拘縮予防の工夫をご紹介します。
尖足(せんそく)拘縮の予防
尖足拘縮とは、足関節が足底のほうへ屈曲し、つま先が下を向いた位置で固まってしまうことをいいます(図2)。これはALS患者によく見られる代表的な拘縮の1つなので、早期から予防していくことを強くおすすめします。
図2 尖足拘縮とは

私はサポート器具を自作し、尖足拘縮を予防しています。今回はその作り方をご紹介します。
- ベッドのフットボード側の長さを測り、その長さに収まるように、木の板をカットする(板のカットはホームセンターで行ってもらえます)
- 木の板の上に発泡スチロール製のブロックをボンドで貼り付ける(発泡スチロールのブロックはホームセンターで購入可)
・図3のようにゴムバンドを板とブロックに巻き付けるとさらに強度が上がる
図3 ゴムバンドで固定した板とブロック
- 2をベッドの足元に置いて、図4のように足首が垂直になるようにする
図4 ベッドの足元に置いた板とブロック



作り方は以上です。足が届かない場合は、板の後ろにクッションを入れて厚みを調整してみてください。足を伸ばしている間は、なるべくこの姿勢を維持することで尖足を予防することができます。
前腕の回内拘縮の予防
まずは、図5のようにベッド上で上腕・前腕をなるべく外側にひねり、手のひらを上に向けます(回外肢位をとる)。
図5 回外肢位

このとき、クッションのように軽い重りとなるものを手のひらに乗せて、回外肢位を保持します(図6)。
図6 回外肢位を保持する工夫


余力があれば、かかとをお尻につけるように膝を曲げ、膝をクッションにもたれさせます。そうすることで、回外肢位に負荷をかけつつ、アキレス腱の伸展も同時に行え、尖足予防にもなるため一石二鳥です。
私はベッドの上にいる時は、ほとんどこの2つの姿勢で過ごしています。ぜひ参考にしてみて下さい。
実際のポジショニングの様子は、動画でもご覧いただけます。
▼enjoy ALS (YouTubeチャンネル)
https://www.youtube.com/@S.Kaji_SND
※リンク先はYouTube(外部サイト)となります。
※チャンネル内の「ALS_自分でできる四肢の拘縮予防」の動画をご参照ください。
注意点:必ず専門家と相談を!
今回ご紹介した拘縮予防の方法は、個人の拘縮の部位や症状によります。必ず、主治医やリハビリスタッフの同意のもとで行ってください。
| コラム執筆者:医師 梶浦 智嗣 「さくらクリニック」皮膚科医。「Dermado(デルマド)」(マルホ株式会社)にて「ALSを発症した皮膚科医師の、患者さんの診かた」を連載。また、「ヒポクラ」にて全科横断コンサルトドクターとしても活躍。 編集:株式会社照林社 |