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元気をもらえるエピソード【つたえたい訪問看護の話】
元気をもらえるエピソード【つたえたい訪問看護の話】
特集
2026年5月22日
2026年5月22日

元気をもらえるエピソード【つたえたい訪問看護の話】第2回vol3

訪問看護の現場では、疾患・障害などがある中でも懸命に前向きに生きる利用者さんがたくさんいます。「みんなの訪問看護アワード2024」に投稿されたエピソードから、利用者さんの前向きな姿勢に力を分けてもらえるエピソードをご紹介します。 「かぶってない」 精神疾患と知的障害を抱える利用者さんと信頼関係を築き、安定した療養生活をサポートできたエピソード。 精神疾患と知的障害、糖尿病を患う彼女の自宅に4人の看護師が交代で訪問している。内服管理、血糖値確認、生活リズムの確立、対人関係の援助などで訪問している。彼女の希望は“話をしたい”。病院の受診以外で人と交流する機会もない彼女にとって、私たちの訪問は唯一の楽しみである。自分からは話さず、私たちが話をしても返ってくる言葉は単語のみ。沈黙の時間が続くが、彼女はあまり気にならない様子。そんな沈黙を破り、彼女は突然言葉を発した。彼女の訪問時の様子は、看護師同士で情報共有していたが、突然「かぶってない」と言われた看護師は頭をフルに回転させて考えた。彼女の目線の先には、袋がかぶってない陰部洗浄用のボトルがあった。精神科勤務の経験のない私たちは、彼女のケアを手探りの状態で続けているが、この1年間入院することなく自宅で生活する事ができた。 2024年1月投稿 「看護の心~お孫さんからの学び~」 癌末期のAさんを献身的に介護するお孫さんから、看護の心は資格ではなく相手を慮る気持ちだと学んだエピソード。 Aさんはがん末期で、奥さんと息子さん家族と住んでいます。Aさんは入院中に転院の話に納得されず、在宅療養を希望し訪問看護が開始となりました。高齢の奥さんに代わり、お孫さんが献身的に介護を担っていました。徐々に経口摂取もままならず、点滴の可否を決定する時期となりました。奥さんと息子さんは「これ以上辛い思いはさせたくない。自然な形がいい」と点滴は希望されませんでしたが、お孫さんは「まだ生きる可能性があるのに自分たちが諦めてしまっていいのか」と涙ながらに訴え、話し合いの結果、点滴を実施することとなりました。せん妄でお孫さんに暴力を振るうこともありましたが「明日はじいじはいないかもしれないという思いで介護をしている」と話し常に寄り添っていました。最後は3人のお孫さんとお嫁さんが交替で介護にあたり、みんなに囲まれて旅立たれました。看護の心というのは、資格の有無ではなく”どれだけ相手を慮ることができるのか“ということをお孫さんから学びました 2024年1月投稿 「ひ孫に会いたい!」 韓国人の利用者さんが、うろ覚えの韓国語で通訳を受けながら無事に帰国し、ひ孫に会えた笑顔の写真が送られてきたエピソード。 私には幼少期を韓国で過ごしたという、バックグラウンドがあります。近年、外国籍の利用者さんも増えてきており、私は韓国人の利用者さんを担当することになりました。ご本人は40年前に来日しており日本語は上手ですが、韓国に住んでいる娘さん夫婦は日本語を話せず、初めての介護でした。そして「これから生まれるひ孫に会いたい、会わせたいから韓国に帰りたい」と希望がありました。うろ覚えの韓国語と携帯の翻訳機能を使いヘルパーさんやケアマネさん、訪問診療時の通訳をしていました。なかなかうまく通訳できず苦労しましたが、帰国に向けて準備の手伝いをする中で、「同じ言葉で話せる人がいるだけでも安心です」とおっしゃっていただきました。体調が落ち着き、娘さんも介護できるようになったので無事に帰国しました。帰国前、お互いに「サランヘヨー」とハグをしお別れ。そして、ひ孫に会えて笑顔いっぱいの写真が送られてきました。 2023年12月投稿 「あなたが来てくれるだけで」 新人作業療法士が、「あなたが顔出してくれるだけで元気がでる」と利用者さんに言われて涙したエピソード。 私は臨床2年目、訪問看護師としては1年目のひよっこ作業療法士です。利用者さんは透析をしており、透析後は疲労感が強いため積極的にリハビリを行うのが難しい様子でした。ご本人も頑張りたいのに体が動かない、私も何かできると良いのだけど難しい。何もできないのにこのまま訪問を続けて良いものか悩んで、思わずご本人に「何もできなくてごめんね」と言ってしまいました。ところが「何バカなこと言っているの!あなたが顔を出してくれるだけで元気がでるんだから!」と言われ、ハッとしたと同時に涙がでました。リハビリらしいリハビリはできていませんが、私を必要としてくれている人がいる。少しでもその人の生活の一部になっていることを忘れずに、そしてこれからもそう思ってもらえるように頑張っていこうと思いました。 2023年12月投稿 「母にしてあげたかったこと」 母を膵臓癌で亡くした看護師が、訪問看護の研修で感動し、母にしてあげたかった看護を利用者さんに届けようと決意したエピソード。 私が病棟勤務で毎日忙しくしていたころ、母に膵臓癌が見つかった。すでに末期の状態で、みるみる体調が悪くなり3ヶ月で旅立った。実家は県外で頻繁に会いに行くこともできず、看護師なのに私は母に何もしてあげられなかったと後悔する毎日。何のために看護師をしているのか分からなくなり、17年勤めた病院を数ヶ月後退職した。気力もなく過ごしていた時、看護協会から訪問看護に関する研修案内メールが届いた。なぜか心が動いて“行ってみたい”と思った。その研修は数日間あり、その中の半日は指定されたステーションで同行研修をする。学生時代の実習気分で懐かしい感じもあり、ドキドキしながら同行させてもらった。そこで出会った看護師さんの、利用者さんに対する温かさと丁寧さにとても感動し、管理者さんからの「あなた訪問看護師向きだと思いますよ」の一言に“ここで働きたい!”と直感で思い、すぐにスタッフ募集しているか調べて採用してもらうことができた。終末期の利用者さんも多く、母と重なる部分もあるが、母にしてあげたかった看護をここで精一杯頑張っていこうと思う。 2023年12月投稿 利用者さんの前向きな姿勢や人生の歩みは、関わる訪問看護師だけではなく読者にまで元気や力を与えてくれます。あらためて、訪問看護師と利用者さんの関係は共鳴するのだと考えさせられます。 編集: NsPace編集部

腎不全の緩和ケアがよく分かる 在宅での保存的腎臓療法(CKM)とは
腎不全の緩和ケアがよく分かる 在宅での保存的腎臓療法(CKM)とは
特集
2026年5月19日
2026年5月19日

腎不全の緩和ケアがよく分かる 在宅での保存的腎臓療法(CKM)とは

非がん疾患の患者さんに質の高い緩和ケアを届けるための知識・視点を整理。訪問時のケアの実践につながるヒントをお届けします。今回のテーマは「腎不全」。その中でも末期腎不全(ESKD)に対する在宅での保存的腎臓療法(CKM)について、東京ふれあい医療生活協同組合 梶原診療所の岡田絵里先生に、進行に伴う苦痛症状とその対応、患者さんのQOL向上のために検討すべきことを解説いただきます。 はじめに わが国では、慢性腎臓病(CKD)を有する患者数は約2,000万人(成人の約5人に1人)1)とされ、75歳以上の高齢者における有病率は34.6%(約3人に1人)に上ると推算されます2)。また、ESKDに対して血液透析を中心とした腎代替療法が行われてきましたが、透析導入患者の平均年齢は今や約71歳3)を超え、重度の心不全や認知症など、体外循環がハイリスクとなるケースも少なくありません。 超高齢社会における腎不全治療の在り方が問われており、近年は腎代替療法を選択せず、ESKDに伴う症状緩和を主軸とするCKMを選択する症例も増加しています。本稿では在宅療養下でCKMを選択された腎不全患者さんを対象とした緩和ケアについて概説します。 腎不全とは 疾患の概要 腎不全とは、腎臓の機能が低下し、老廃物や余分な水分、電解質の排泄や調整ができなくなる状態です。高齢腎不全の多くの症例では、糖尿病・高血圧・加齢などを背景に緩徐に腎機能の低下が進行し、ESKDに至ります。このようなケースでは亡くなる1~2ヵ月前まで身体機能が比較的保たれ、末期がんのような病の軌跡をたどることが特徴です。 一方で、腎不全の原疾患や他臓器の併存症によって、腎機能の急性増悪を繰り返しながら段階的に腎機能が低下していく症例もあり、過去の腎機能の推移から今後の経過を個別に予測する必要があります。 進行の特徴と終末期の変化 病期の進行とともに、浮腫、倦怠感、食欲不振、呼吸困難、皮膚のかゆみ、意識障害などが段階的に現れます。糸球体濾過量(eGFR)が10mL/分/1.73m2未満となり終末期が近づくと、尿量の著しい減少、傾眠傾向の増加、せん妄、けいれん、昏睡といった尿毒症による症状もみられます4)。特にCKMを選択される場合は、終末期に向けて症状のコントロールがより重要になってきます。 ESKDに伴う主な苦痛症状とその対応 米国で腎緩和ケアサービスを受けていたESKD患者335 名における5大症状は、呼吸困難(63.7%)、倦怠感(51.8%)、浮腫(48.2%)、疼痛(44.2%)、食欲不振(38.1%)5)であったと報告されています。そのほかの苦痛症状も含め、観察ポイントとケア・対応を表1にまとめました。 表1 ESKDに伴う主な苦痛症状と観察ポイントおよびケア・対応 苦痛症状観察ポイントケア・対応呼吸困難・浮腫・体液過剰   ・血圧・体重・SpO2・塩分制限・在宅酸素療法・ベッドのギャッジアップ・顔に冷風を当てる・利尿薬の増量・薬物治療:オピオイド※、抗不安薬(オピオイド無効時)倦怠感・高度の貧血や心不全の有無・薬剤性(抗ヒスタミン薬、オピオイド※、睡眠薬など)・抑うつ・貧血の是正(薬物治療:腎性貧血治療薬〔ESA やHIF-PH 阻害薬など〕)・原因薬剤の減量・中止:抗ヒスタミン薬、オピオイド※、睡眠薬などによる倦怠感の可能性を検討・抑うつがある場合は抗うつ薬を検討疼痛・NRS(数値的評価スケール)・痛みの性質・増悪寛解要因・神経障害性疼痛の場合:薬物治療(プレガバリン、ガバペンチンなど)・侵害受容性疼痛の場合:薬物治療(アセトアミノフェン、トラマドール、オピオイド※など)食思不振・悪心・嘔吐・食事量・体重・排便管理・食事の少量頻回摂取・薬物治療:制吐薬、六君子湯など・リン吸着薬やカリウム吸着薬などの減量・中止の検討・難治性の場合:薬物治療(オランザピン)せん妄・意識障害・意識レベル・症状の変動・羽ばたき振戦の有無・介入可能な原因検索(電解質異常や感染症、便秘や尿閉など)・せん妄に対する環境調整(日中の覚醒を促す、眼鏡や補聴器の適正使用など)・活動性せん妄に対する薬物治療:抗精神病薬(クエチアピン〔糖尿病患者では禁忌〕、ペロスピロンなど)・臨死期における尿毒症による意識障害は苦痛がなければ介入を行わないことも多い皮膚掻痒・掻把痕・皮膚乾燥の確認・スキンケア、保湿、天然繊維の肌着の使用・薬物治療:抗ヒスタミン薬、ナルフラフィン(抗ヒスタミン薬が効きにくい場合。保存期CKD では適応外)むずむず脚症候群・日内変動の確認・鉄欠乏の有無・薬剤性(抗精神病薬や抗うつ薬など)・カフェインやアルコール摂取を控える・鉄分の補充・薬物治療:プレガバリン、プラミペキソールなど便秘・便の性状・薬剤性(リン吸着薬、カリウム吸着薬など)・原因薬剤の減量・変更:リン吸着薬、カリウム吸着薬・薬物治療:上皮機能変容薬(ルビプロストン、エロビキシバット)、浸透圧性下剤(ポリエチレングリコール)など⇒腎機能低下患者では酸化マグネシウムを避ける(高マグネシウム血症への注意が必要) ※腎不全におけるオピオイドの使用モルヒネは、有害な代謝産物(モルヒネ-3-グルクロニド〔M3G〕)が蓄積し、せん妄やミオクローヌスなどを起こしやすくなるため、eGFR30mL/分以下の場合、使用は原則禁忌とされています。オキシコドン、ヒドロモルフォン、トラマドールは、減量して慎重に投与します。ブプレノルフィンやフェンタニルは腎不全でも比較的安全に使用可能ですが、いずれも内服薬がない点に留意する必要があります。非がん進行性疾患の呼吸苦に対するオピオイドの使用は知見に乏しく、現状はエビデンスが担保されていませんが、一定の効果が得られることもあり、使用を検討します。 患者さんのQOL向上のためにできること ポリファーマシー対策 腎不全患者さんは、高血圧や糖尿病、脂質異常症、心疾患などの多疾患並存を抱える場合、内服薬が多くなる傾向にあります。ある研究によると、CKDステージG4(腎機能が高度に低下した状態)およびG5(ESKDの状態)では、6剤以上のポリファーマシー状態にある患者さんの割合が、それぞれ84%、74%であったと報告されています6)。 CKMを選択される患者さんにおいては、長期的な生命予後よりも、QOLや短期予後をより重視した処方設計が望ましい場合もあります。例えば、便秘になりやすい症例や服薬アドヒアランスに懸念がある症例においては、血清リンのコントロール目標は緩くし、リン吸着薬の減量・中止を検討してもよいかもしれません。高カリウム血症を呈する症例では、アシドーシスに対する炭酸水素ナトリウムを使用することで、カリウム吸着薬による便秘を避けられる可能性があります。 個々の症例に応じて処方を見直し、患者さんの治療負担の低減を図ることができるとよいでしょう。 食事制限は患者さんのQOLを重視 CKDの食事療法に関しては、一般的にタンパク・リン・カリウムなど、多くの制限が提示されます。しかし、高齢CKD患者さんではそもそも食事摂取量が低下し、サルコペニアの合併例も多いことから、栄養指導にも留意が必要です。 『CKD診療ガイド2024』(日本腎臓病学会編)では、サルコペニアを合併したCKDでのタンパク制限の緩和についても言及されています7)。食事はQOLに直結する人生の愉しみでもあり、高齢CKM症例における食事制限に関しても、主治医と相談の上で適宜緩和を検討すべきでしょう。 アップデートしておきたい知識 腎不全の緩和ケアに対する関心の高まりから、令和 8 年度診療報酬改定において緩和ケア病棟の対象疾患として新たに腎不全が加わり、また腎臓病対策推進の一環として緩和ケア提供体制の整備を含めた診療加算が新設されました8)。 在宅で受けることができる透析治療として、腹膜透析(PD)への関心も高まっています。血液透析と比較し、通院負担や体外循環による心血管系の負担が少ないことがメリットである一方、高齢患者さんでは自身での管理が難しいケースも少なくありません。訪問看護師によるサポートで在宅PDを導入・継続するassisted PDの広がりが期待されます。 本文で使用した略語一覧(本文登場順)ESKD:end-stage kidney disease(末期腎不全)CKM:conservative kidney management(保存的腎臓療法)QOL:quality of life(生活の質)CKD:chronic kidney disease(慢性腎臓病)eGFR:estimated glomerular filtration rate(推算糸球体濾過量(値))SpO2:saturation of percutaneous oxygen(経皮的動脈血酸素飽和度)ESA:erythropoiesis stimulating agent(赤血球造血刺激因子製剤)HIF-PH:hypoxia-inducible factor-prolyl hydroxylase(低酸素誘導因子プロリン水酸化酵素)NRS:numerical rating scale(数値的評価スケール)PD:peritoneal dialysis(腹膜透析) 執筆:岡田 絵里東京ふれあい医療生活協同組合 梶原診療所 筑波大学医学類卒業後、腎臓専門医・透析専門医・総合内科専門医を取得。在宅医として高齢者腎不全診療にアプローチしていきたいと考えています。 編集:株式会社照林社 【引用文献】1)日本腎臓学会編:CKD診療ガイド 2024.東京医学社,東京,2024:ⅳ.2)Kobayashi A,Hirano K,Okuda T, et al.:Estimating the prevalence of chronic kidney disease in the older population using health screening data in Japan.Clin Exp Nephrol 2025;29(3):276-282.3)正木崇生,花房規男,阿部雅紀,他:わが国の慢性透析療法の現況.日本透析医学会雑誌 2024;57(12):543-620.4)鈴木利彦監修,坂井正弘編:腎不全の緩和ケア.東京,南山堂,2025:47.5)Kwok AO,Yuen SK,Yong DS,et al.:The Symptoms Prevalence, Medical Interventions, and Health Care Service Needs for Patients With End-Stage Renal Disease in a Renal Palliative Care Program.Am J Hosp Palliat Care 2016;33(10):952-958.6)坂本愛,浦田元樹,岩川真也,他:慢性腎臓病を有する高齢者のポリファーマシーにおける有害事象の潜在的リスク因子に関する検討.日本腎臓病薬物療法学会誌 2018;7(1):13-23.7)日本腎臓学会編:成人CKD患者への栄養管理.CKD診療ガイド 2024,東京医学社,東京,2024:55-58.8)厚生労働省:令和8年度診療報酬改定について 【医科全体版】 令和8年3月6日版.2026:379.2026/4/27閲覧

梅雨バテ 訪問看護師向けケアガイド
梅雨バテ 訪問看護師向けケアガイド
特集
2026年5月19日
2026年5月19日

梅雨バテと隠れ脱水を見逃さないために|1,030人調査×内科医監修の訪問看護師向けケアガイド

梅雨の時期に体調不良を感じる人は約4割——。株式会社リーフェホールディングスが2026年3月に1,030人を対象に実施した調査で、そんな実態が明らかになりました。さらに2026年は3月の寒暖差が例年より大きく、自律神経がすでに消耗した状態で梅雨を迎えるため、例年以上に症状が深刻化しやすいと考えられます。支援が必要な訪問看護の利用者さんにとって、梅雨バテは脱水・転倒・既往症悪化への入口になり得る見逃せない症状です。本記事では内科医の立場から、現場で今すぐ使えるアセスメント・ケアの知識を解説します。 梅雨バテとは——夏バテとの違いを理解する 梅雨バテとは、梅雨の時期に特有の環境変化(気圧の低下・高湿度・日照不足)が複合的に重なることで自律神経が乱れ、心身にさまざまな不調をきたす状態の総称です。「夏バテ」と混同されることが多いですが、発症のメカニズムは異なります。 梅雨バテ夏バテ主な時期6月〜7月上旬7月〜8月主な原因気圧変動・高湿度・日照不足高温・高湿度・冷房による体温調節の乱れ中心症状だるさ・頭痛・メンタル不調・睡眠障害食欲不振・疲労感・体力消耗特徴自律神経の乱れが主体体力・栄養の消耗が主体 この違いが訪問看護の現場で重要なのは、「気温がまだ高くないから大丈夫」という先入観が、梅雨バテや隠れ脱水の見落としにつながりやすいからです。また、気圧変化に伴う不調は「気象病」「天気痛」とも呼ばれ、日本生気象学会の研究によると天気の変化で体調不良を訴える人は全体の約7割にのぼるとされています。 潜在的な患者数は国内に1,000万人以上と推計されており、梅雨バテはその代表的な症状です。訪問看護の利用者さんだけでなく、訪問看護師のみなさん自身にも影響が出やすい時期であることを覚えておいてください。 梅雨バテの症状【1,030人調査データ】 株式会社リーフェホールディングスが2026年3月に実施した「春の不調に関する実態調査」(n=1,030人)では、6月に不調を感じた402人に対して具体的な症状を尋ねました(複数回答可)。上位5位の結果は以下の通りです。 順位割合 割合1位 だるさ 73.1%2位 頭痛・眩暈 60.4%3位 肩こり・腰痛 45.5%4位 無気力 39.1%5位 眠りが浅い 35.6% (株式会社リーフェホールディングス「春の不調に関する実態調査」2026年3月・n=1,030人) 注目したいのは、「だるさ」「頭痛」といった身体症状に加え、「無気力(39.1%)」という精神面の不調が4位に入っている点です。 訪問看護の現場でこうした変化に気づいたとき、それは「異変を察知するきっかけ」になります。ただし、反応の鈍さや意識の変化は脳血管障害・重度脱水・低ナトリウム血症など重大な疾患でも現れるため、まずバイタル測定と意識レベルの確認を行い、重篤な原因を除外することが先決です。そのうえで環境的な背景(梅雨・気圧変化)と照らし合わせ、梅雨バテの関与を考えてください。 支援が必要な利用者さんにとって、梅雨バテの症状は日常生活に直結します。だるさや無気力が続けば活動量が落ち、廃用症候群につながる可能性があります。頭痛や眩暈があれば立ちくらみから転倒につながることもありますし、食欲不振が重なると服薬が不規則になり既往症に影響が出ることも考えられます。「なんとなく元気がない」というサインを早めにキャッチして関わることが、在宅生活の安定を支える第一歩です。 梅雨バテが日常生活に与える影響【調査データ】 同調査で4〜6月に不調を経験した980人に「不調時に本来の自分の何%で動けているか」を尋ねたところ、78.9%が「80%未満」と回答しました。 パフォーマンス割合80〜100%(ほぼ変わらない)21.1%50〜79%(ミスが増える・動きが遅い)57.0%20〜49%(最低限のことしかできない)18.1%0〜19%(休みたい・何も手につかない)3.8% (株式会社リーフェホールディングス「春の不調に関する実態調査」2026年3月・n=1,030人) 不調を感じた人の約6割が「ミスが増える・動きが遅い」状態にあります。訪問看護の利用者さんの場合、このパフォーマンス低下は服薬管理のミス・転倒リスクの上昇・水分摂取量の低下として現れやすく、より深刻な事態に発展するリスクがあります。 また見落としがちですが、介護をしているご家族も同様の影響を受けている可能性があります。ケアの質が全体的に落ちやすい時期として認識しておくことが大切です。最悪の場合、うっかり服薬管理のミスにつながることもゼロではありません。「家族の介護力も季節によって変わる」という視点を持ちながら、訪問時に服薬カレンダーの確認や一包化の提案をさりげなく行うことが、利用者さんとご家族の両方を支えることになります。 梅雨バテの3つの原因——医学的メカニズム (1)気圧の低下による自律神経の乱れ 梅雨は低気圧が長期間持続します。耳の奥にある「内耳」は気圧を感知する精密なセンサーとして機能しており、気圧が低下すると前庭神経が過剰に反応し、自律神経のバランスが崩れます。自律神経には「交感神経(活動モード)」と「副交感神経(休息モード)」の2系統があり、低気圧が続くと副交感神経が優位になりやすく、体が常に「休息モード」に傾きます。これがだるさ・眠気・意欲低下の本質的な原因です。 また、低気圧の影響でヒスタミンという炎症・発痛物質の産生が増えることが知られており、頭痛・肩こりの増悪につながります。 (2)高湿度による体温調節機能の低下と「隠れ脱水」 梅雨時期は湿度が80〜90%に達することもあります。高湿度環境では汗が蒸発しにくく、体内に熱がこもった状態(うつ熱)が続きます。これがだるさや倦怠感の主な原因のひとつです。 さらに見落とされがちなのが「隠れ脱水」のリスクです。「梅雨はまだ涼しいから水を飲まなくていい」という認識のまま、気づかないうちに水分不足が進行するケースが多くあります。高齢者は口渇感が鈍化していることが多く、自覚なく脱水が進むリスクが特に高い点に注意が必要です。 (3)日照不足によるセロトニン・メラトニン分泌の乱れ 太陽光を浴びることで分泌されるセロトニン(幸福ホルモン)は、気分の安定や意欲の維持に不可欠な神経伝達物質です。梅雨の時期は晴天が少なくなることでセロトニンの分泌が低下し、気分の落ち込み・無気力感・不安といった精神症状が現れやすくなります。 またセロトニンは睡眠ホルモン「メラトニン」の前駆体でもあるため、睡眠の質の低下や日中の眠気にも直結します。 訪問看護師が押さえておきたいポイント 梅雨バテは自己申告されにくい症状です。特に高齢の利用者さんは「年のせい」「大げさにしたくない」と思い、体調変化を積極的--に伝えないことが多くあります。以下のチェックリストを訪問時のアセスメントにそのままご活用ください。なお、チェックリストの使用はバイタルサインと意識レベルに大きな変化がないことを確認したうえで行ってください。 【梅雨バテチェックポイント】 表情・言動の変化 いつもより口数が少ない・反応が遅い 「なんとなくだるい」「ぼーっとする」という訴えがある 何もしたくない、外に出たくないという意欲の低下がある ぼんやりしている・会話が噛み合わない 隠れ脱水のサイン 口腔内・口唇の乾燥がある 皮膚をつまんで戻りが遅い 尿の色が濃い・回数が少ない 腋窩に発汗がない(体温調節機能低下の危険なサイン) 血圧低下・脈拍増加がある 生活環境の確認 室温28℃以上・湿度60%以上になっていないか エアコンを使っていない・使い慣れていないか 水分補給がアルコールやコーヒー中心になっていないか 食事量や睡眠に変化が出ていないか 服薬が正しく行われているか 【特に注意が必要な利用者さん】 高齢(口渇感の鈍化により自覚なく脱水が進みやすい)  心疾患・腎疾患・糖尿病などの基礎疾患がある  利尿薬・降圧薬・抗コリン薬など脱水リスクを高める薬剤を服用中  日中独居、またはほぼ動かない生活をしている  エアコンを使わない、または使い慣れていない 1つでも該当する項目がある場合は、梅雨バテの可能性を念頭に置いた観察と早めのケア介入を検討してください。 最新研究に基づく梅雨バテの対策 (1)内耳ケア——耳まわりのマッサージ 内耳は気圧変化を感知するセンサーとして機能しており、血流を改善することで自律神経の過剰反応を抑える効果が期待できます。道具は不要で座ったままできるため、利用者さんへそのまま指導しやすいケアです。訪問時に一緒に実施してみるのもよいでしょう。 やり方(1回約1〜2分) 両手の親指と人差し指で耳全体を軽くつまみ、上・下・横に5秒ずつゆっくり引っ張る 耳全体を後ろ方向にゆっくり5回まわす 耳を折り畳むように前に倒し、5秒キープする 手のひらで耳全体を覆い、後ろ方向に円を描くように5回まわす 雨の日の朝や、体調変化を感じたタイミングで行うのが効果的です。 (2)腹式呼吸——迷走神経を刺激して副交感神経を整える 深くゆっくりとした腹式呼吸は横隔膜を動かし、迷走神経を介して副交感神経を直接活性化します。 座位・臥位どちらでも実践できるため、在宅でのケアに取り入れやすい方法です。 手順:鼻から4秒吸ってお腹を膨らませ、口から8秒かけて吐く。5〜10回を目安に、起床時・就寝前に習慣化する。 (3)適切な水分補給と経口補水ドリンク 水分摂取量は1日の目安として1.5〜2リットルで、時間を決めてこまめに摂ることが大切です(腎疾患・心不全のある方は担当医の指示量を優先してください)。水や麦茶が適していますが、身体がだるい場合には水と電解質を同時に補給できる経口補水液が特に有効です。以下のレシピで自宅でも簡単に作ることができます。 橋本医師考案:手作り経口補水ドリンクレシピ(コップ1杯・約200ml分) 材料分量水200mlレモン汁大さじ1リンゴ酢小さじ1オリゴ糖大さじ1はちみつ大さじ1+小さじ1塩ひとつまみ コップに水を注ぎ、すべての材料を加えてよくかき混ぜるだけで完成です。ビワ・パイン・キウイ・梅・桃・ミントなど旬のフルーツを加えるとさらに飲みやすくなります。なお、アルコールやコーヒー・緑茶には利尿作用があるため、水分補給の代わりとして摂取すると脱水が進む可能性があります。飲み物の「量」だけでなく「中身」も確認することが重要です。 [注意事項]・塩分・糖分の制限がある利用者さんへの提供は、事前に担当医または管理栄養士へご相談ください。・作り置きは雑菌繁殖のリスクがあるため、作ったその日のうちに飲み切るようにしてください。 (4)栄養バランスのとれた食事 梅雨バテの症状を和らげるためには、自律神経のサポートに関わる以下の栄養素を意識した食事が効果的です。 栄養素 期待できる効果 主な食材ビタミンB群 疲労回復・自律神経のサポート 豚肉・玄米・納豆・バナナビタミンC 抗酸化作用・免疫力の向上 レモン・キウイ・ピーマンマグネシウム 自律神経の安定 豆腐・ひじき・アーモンドタンパク質 免疫力の維持・疲労回復 鶏肉・魚・大豆製品発酵食品 腸内環境を整え自律神経に好影響 ヨーグルト・納豆・キムチ 食事の準備が難しい利用者さんには、品数の多い定食や宅配食の活用もご提案ください。腸内環境と自律神経には密接な関係があることが近年の研究で示されており、発酵食品の積極的な摂取は梅雨バテ対策としても注目されています。 (5)生活リズムの維持と室内環境の整備 自律神経の乱れを防ぐためには、規則正しい生活リズムを保つことが基本です。毎朝同じ時間に起床し、雨天でも室内の電気をつけて明るい環境を作ることで、体内時計のリセットを促せます。また37〜38℃のぬるめの入浴は副交感神経を適度に活性化させ、睡眠の質向上にも効果的です。 室内環境については、高齢の利用者さんが「暑くないからエアコンは不要」と判断して室温・湿度が上がり続けているケースが多く見られます。訪問時に室温28℃以下・湿度60%以下を目安に環境を確認し、必要であればエアコンの適切な使用を促してください。 利用者さん・ご家族への現場での活用ポイント 訪問看護の現場では「気持ちの問題だと思っていた」「梅雨だから仕方ない」という声が多く聞かれます。まず「気圧変化による医学的な症状であること」を伝えることが、利用者さんの安心感と行動変容の第一歩になります。現場では次の3点を優先して確認・指導するのが実践的です。 水分補給の中身を確認する:量だけでなく、アルコール・コーヒー中心になっていないかをさりげなく聞く。「1時間に1回コップ半分」を目安として伝えると習慣化しやすい。 室内環境を目で確認する:エアコンの使用状況・室温・湿度を訪問のたびにチェックする。「電気代より命が大事」と丁寧に伝えることが高齢の利用者さんには特に有効。 介護家族にも声をかける:ご家族自身も梅雨バテの影響を受けているケースが多い。「一緒にケアしましょう」というスタンスが介護の持続性にもつながる。 こんな症状は受診を——梅雨バテと他疾患の見極め 「梅雨バテかもしれない」と思っても、他の疾患が隠れているケースがあります。以下の症状が続く場合や、梅雨バテ対策をとっても改善しない場合は、早めに受診を促してください。 症状・所見 疑われる疾患 受診先だるさ・むくみ・寒がり・体重増加が続く 甲状腺機能低下症 内科著明な倦怠感・動悸・顔色不良 鉄欠乏性貧血 内科市販薬が効かない持続的な頭痛・吐き気片頭痛・高血圧・脳血管疾患 内科・神経内科強いめまい・耳鳴り・難聴 メニエール病・突発性難聴 耳鼻咽喉科気分の落ち込み・無気力が2週間以上続く うつ病・適応障害 心療内科・精神科 訪問看護師として大切なのは、「梅雨バテかもしれないが、梅雨バテではないかもしれない」という視点を常に持つことです。症状が想定より強い・長引く・急激に悪化する際は、積極的に担当医師へ報告・相談してください。 まとめ 梅雨バテは「気のせい」でも「年のせい」でもなく、医学的な根拠をもつ体調不良です。適切なケアで症状を大きく和らげることができます。訪問看護の現場で「なんとなく元気がない」利用者さんに気づいたとき、本記事のアセスメントの視点とケアの知識がその一助になれば幸いです。また、皆さん自身の体調管理にもお役立ていただければ幸いです。 【調査概要】調査名:春の不調に関する実態調査実施者:株式会社リーフェホールディングス調査対象:全国の男女有効回答数:1,030人調査方法:インターネット調査 執筆:橋本 将吉現役内科医。『西新宿セルフライフ内科クリニック 』院長。2011年に「医学教育という専門領域から、日本と世界の明るい未来を創造する」という理念のもと、株式会社リーフェホールディングス(旧株式会社リーフェ)を設立。将来の医師を育てる医学生向けの個別指導塾『医学生道場』の運営や、自らが『ドクターハッシー(内科医 橋本将吉)』というYouTubeで健康教育を行う。2022年9月に、健康や医学を医師から学ぶ事のできるサービス『ヘルスケアアカデミー』をリリース。ヘルスケアアカデミー事業の一環として企業や学校などでセミナーを開催している。また、2023年11月には現役の医師目線で日々を健康に暮らすためのアイテムを扱うライフスタイルブランド「ハシモトマサヨシ」を立ち上げ、乳酸菌飲料「乳酸菌V28」や睡眠グッズ「お疲れさまくら」などの商品を展開している。「めざましテレビ」「ホンマでっか!TV」「櫻井・有吉THE夜会」など多数のテレビ番組の出演、「世界一受けたい授業」「林修の今、知りたいでしょ!」など、人気番組の医療監修を手掛け、著書に『薬のトリセツ』(自由国民社)『「老いても元気な人」と「どんどん衰えていく人」ではなにが違うのか』(アスコム)などがある。リーフェホールディングス:https://li-fe.co.jp/医学生道場:https://igakuseidojo.com/ヘルスケアアカデミー:https://healthcare-academy.co.jp/ハシモトマサヨシ:https://hashimotomasayoshi.co.jp/

元気をもらえるエピソード【つたえたい訪問看護の話】
元気をもらえるエピソード【つたえたい訪問看護の話】
特集
2026年5月15日
2026年5月15日

元気をもらえるエピソード【つたえたい訪問看護の話】第2回vol04

訪問看護の現場では、疾患や障害などがある中でも懸命に前向きに生きる利用者さんがたくさんいます。「みんなの訪問看護アワード2024」に投稿されたエピソードから、利用者さんの前向きな姿勢に力を分けてもらえるエピソードをご紹介します。 「大切なご家族に会いながらの長距離移動」 医療的なケアが必要な方にとって、長距離移動は大きな負担を伴います。今回ご紹介するのは、九州の病院から都内の施設へ移動された80代女性のエピソードです。看護師が付き添いながら移動を支え、ご家族の「安心して新しい生活を迎えてほしい」という思いをつないだ支援の記録です。 弊社は民間救急や移動支援の事業を行っている会社です。今回の事例のA様は80代の女性で、肝不全や心不全、認知症を患われており、九州のとある山間部の病院に入院中の方でした。ある日、長男様より、A様を都内の施設に移動したいが、看護師の付き添いをお願いしたいとのご依頼をいただきました。状況をお聞きすると、認知症がかなり進行しており、体力的にも弱ってきていたため、移動するなら早いタイミングが良いと考え、ご依頼されたとのことでした。移動に先立ち、入院中の病院との打ち合わせ、新幹線の手配、現地で対応する看護師との打ち合わせを行いました。当日、移動を開始しましたが、新幹線内で利用者様がせん妄を起こしたため、看護師が息子様にお電話をお繋ぎしました。その後、精神安定剤を内服されたところ落ち着かれました。途中、関西で1泊され、ご親戚にもお会いになることができました。施設到着後はお疲れの中、笑顔でご入所されました。 2023年12月投稿 「『あした』の使者」 落ち込みやすかった利用者さんが、ある日突然、驚くほど明るい笑顔を見せてくれました。その変化のきっかけは、散歩中に出会った“見知らぬ女性”の何気ない言葉。「“あした”を大切にしている」という言葉に込められた前向きな想いが、Oさんの心を少しずつ変えていきました。 下肢リンパ浮腫があり、落ち込みやすい性格のOさん。ある日訪問するとものすごく明るい笑顔にびっくり!思わず「何かあったんですか?」と聞くと、こんな話を聞かせてくれました。「外に散歩に出かけたら、近所で見かけないおばさんから急に声をかけられたの。その人も病気で辛い思いをたくさんしたと話していたけれど、とてもハツラツとしていて、『その元気の源は何ですか?』と聞くと『私は“あした”を意識しているんだ』って」「“あした”は頭文字になっていて『“あ”は歩く、“し”は喋る、“た”は食べる。毎日この“あした”を頑張ることがより良い“明日”に繋がるんだ』って話していたの」そう話したあと、「あれはきっと、落ち込んでいる私に神様が遣わせた使者だったのよ!」と真剣に話すOさんが忘れられません。そして今では私が“あしたの使者”となり、利用者さんに“あした”のお話をしています。もしかしたらOさんが出会った“あしたの使者”は未来の私だったのかもしれません。 2023年11月投稿 利用者さんの前向きな姿勢や人生の歩みは、関わる訪問看護師だけではなく読者にまで元気や力を与えてくれます。あらためて、訪問看護師と利用者さんの関係は共鳴するのだと考えさせられます。 編集: NsPace編集部

元気をもらえるエピソード【つたえたい訪問看護の話】
元気をもらえるエピソード【つたえたい訪問看護の話】
特集
2026年5月8日
2026年5月8日

元気をもらえるエピソード【つたえたい訪問看護の話】第2回vol02

訪問看護の現場では、疾患・障害等がある中でも懸命に前向きに生きる利用者さんがたくさんいます。「みんなの訪問看護アワード2024」に投稿されたエピソードから、利用者さんの前向きな姿勢に力を分けてもらえるエピソードをご紹介します。 「~最期まで残る"生きる力"を奪わないために~」 在宅で看取ったO様から、緩和ケアでも最期まで尊厳を大切にし生きる力を奪わないことの大切さを学んだエピソード。 在宅で看取ったO様。ご本人の体調に変動があり、ご家族の負担が大きくなっていました。ご家族は、できるだけ車いすでトイレに連れて行っていました。「看護師さんには迷惑をかけたくない」という思いがあり、はじめはうまく介入できませんでした。カンファレンスを繰り返し、ご主人の想いを傾聴して、愛犬レオくんの話や福祉用具の提案をしました。徐々に看護師の提案を受け入れ、夫婦での思い出話を伺うなど、ユマニチュードの実践もすることで、ご主人は心を開いてくれました。その結果、一緒にO様を支えることができる良い関係が築けました。ご主人の希望により、下肢からの点滴をおこなっていましたが、「怖くて離床ができなかった」と言われました。点滴の必要性や、部位の選択など検討するべきだったと思いました。緩和ケアの段階であっても、最期まで尊厳を大切にし、その人に残る「生きる力」を奪わないようにすることを、ご主人から教えてもらいました。 2024年1月投稿 「認知症があっても覚えていられること」 認知症でいろいろ忘れてしまうはっちゃんが、お誕生日のケーキという楽しみにしていた約束は、しっかり覚えていた心温まるエピソード。 認知症のはっちゃんを、近所に住む娘さんが食事を届けながら一生懸命お世話しています。でもはっちゃんは「おかずをレンジに入れたことを忘れちゃう。ご飯が何もないからカップラーメンを食べたの」と。娘さんは、いろいろなことを忘れてしまうはっちゃんに対し、苛立ちと責任感との狭間で葛藤しています。そんなはっちゃんのお誕生日に訪問看護で伺いました。玄関に入るやいなや「今日はおやつがあるの」とはっちゃん。娘さんからも「春山さん、誕生日なので一緒にケーキを食べてあげてください」とメモがありました。「じゃあお風呂に入ってから食べましょう!」と私が提案すると、いつもは拒否気味のはっちゃんが、テキパキと準備して入浴しました。そして、急ぎ足で冷蔵庫へ向かってケーキを取り出していました。覚えている!今日はお風呂前に話したことが、お風呂後にも繋がっている。楽しみにしている約束は覚えてくれているのかな。その作戦で、もっといろんなこと覚えていられるように伝え方を工夫してみるね。いつまでも、はっちゃんらしい無邪気な笑顔を見ていたいから。 2024年1月投稿 「今まで気が付かなくてごめんなさい。」 妻が冷たくなった理由は、実は一緒にケアに参加したかっただけだったと気づいた心温まるエピソード。 N様は妻と2人暮らし。訪問看護が始まったが、N様は他者を受け入れることに抵抗があり、サービスが軌道に乗るまでにかなり時間がかかった。「もう入院させてほしい」と強く希望され、主治医と何度か話し合うこともあった。それでも少しずつ看護師を受け入れてくれてようやく定期的に入浴する事ができ、軟膏処置も継続できるまでになった。妻も安心したのか、今までのようにたくさんお喋りすることがなくなり、口数が減って急に静かになった。最初は安心したからかなと思っていた。担当である私に対し娘と妻の態度が変わり、些細なことで急に怒り出して、協力的ではなくなっていった。何がいけないのか。どうして冷たくなったのか、考えてもわからない日々が続いた。妻に、軟膏処置を一緒にしませんかと提案した。小躍りするくらい喜んだ妻を見て初めて、本当はケアに一緒に参加したかったのだと気が付いた。それから妻の態度はもとに戻った。今まであなたの気持ちに気が付かなくてごめんなさい。 2024年1月投稿 「『俳人』Mさんの物語のワンシーン」 俳句を愛する肝臓癌末期のMさんが、家族に感謝を伝え、まるで物語のワンシーンのように旅立ったエピソード。 「道普請終らぬままの梅雨入りかな」句集に載ったと本を広げ、誇らしげに一句一句丁寧に解説してくださったMさん。肝臓癌末期で、希望通り最期を自宅で迎えられた時の60分の物語です。奥さんより「昨夜寝なくて大変だった」と電話を受け訪問。全身状態は悪化していましたが、会話はしっかりできました。「顔を拭いて」と言われ顔を拭き、「脇を拭いて」と脇を拭き、いつもの笑顔で「気持ち良かった。ありがとう」と。ご自分で水を飲み「末期の水や。そろそろ先生呼ばんとね」と。奥さんの手を握り「迷惑かけたね。ありがとう」と。すぐに別室の娘さんも呼び「ありがとう」と。長男さんへ電話が繋がった時には話せない状態でしたが、最後の力を振り絞るように「お!」と声を出され、静かに息を引き取られました。間もなく大好きだった先生が来られ、「僕もこんなふうに最期を迎えたいな」とお別れされました。ドラマのようなMさんらしい物語の一場面でした。 2024年1月投稿 「手のひらから伝わる温もり」 多発性骨髄腫で予後3ヵ月の88歳女性が、毎日手引き歩行を続け、笑顔を見せてくれた温もりが忘れられないエピソード。 「あ~よかった。来てくれた。待ってたよ」多発性骨髄腫で予後3か月の診断を受けたとは思えないほど、屈託のない皺くちゃな笑顔を見せたのは、御年88歳、米寿を迎えた女性Tさん。ここは住宅型ホスピスであり、Tさんも激しい癌性疼痛と血糖コントロール不良で、全身状態は決して良好とは言えない状態だった。しかし、往診医の的確な診療と薬剤調整により、疼痛と血糖コントロールは改善し、入居当初とは見違えるほど状態が回復した。体動による疼痛を避けるため、膀胱留置カテーテルは入っていたが、Tさんは「少しでも歩かないとね」と言い、毎日のように手引き介助で歩いていた。Tさんと私は同じ誕生日ということもあり、私を見ると冒頭のような声をかけてくれた。しかし、命尽きることに抗うことはできず、Tさんは娘様に見守られ天国へと旅立たれた。Tさんのことだから天国でも元気に歩いて、皺くちゃな笑顔を振りまいているのだろう。手引き歩行で感じたTさんの手の温もり、忘れないよ! 2024年1月投稿 利用者さんの前向きな姿勢や生き様は、関わる訪問看護師だけでなく読者にまで元気や力を与えてくれる、そんなエピソードばかりでした。訪問看護は医療者から一方向的にケアを提供するのではなく、双方的な関係性であることを改めて感じますね。 編集: NsPace編集部

特集
2026年5月8日
2026年5月8日

元気をもらえるエピソード【つたえたい訪問看護の話】第2回vol01

訪問看護の現場では、疾患や障害などがある中でも懸命に前向きに生きる利用者さんがたくさんいます。「みんなの訪問看護アワード2024」に投稿されたエピソードから、利用者さんの前向きな姿勢に力を分けてもらえるエピソードをご紹介します。 「私の恩師」 100歳の利用者さんが最期まで笑顔で過ごすことができた心温まるエピソード。 訪問看護師になりたての私は深呼吸をして玄関の扉を開けた。入浴介助をしたら「100歳の体を見てどうするんだ」と怒られた。突然、化粧を頼まれ「私が死んだ時に写真を仏壇の壁に並べて貼ってね。Hの生き様って筆で題名を書いておくから」と笑みをこぼした。数ヶ月後、心不全が悪化し救急搬送され救急外来の医師より「数時間で亡くなります」と説明を受けた。約40年入退院した病院でたくさんのスタッフに囲まれ「後、死ぬばかりだしもう来ないからお元気で」と笑顔で握手をしていた。自宅に戻ると安らかな表情に変わった。私は涙が止まらなかった。伝えたい気持ちで胸がいっぱいになり手を握り「みんな、いますからね」と。ただ“ありがとう”って言葉が“さようなら”をするようで言えなかった。ふと目を開けた。私を見て「ありがとう。あんたは私の神様みたいだった」と。4年間の看護任務を終えた。2週間後、主治医がそっと私にダンボールを差し出した。直筆で「ありがとう H」と書いてあった。主治医から「開業して35年も通ってくれた患者さんを大事にしてくれてありがとう」と。仏壇の壁にはたくさんのHさんの笑顔が飾られ、息子さんが宝物だと涙されていた。 2024年1月投稿 「1年に1回の書道の先生」 褥瘡治療のために訪問している80代の書道の先生。毎年子どもたちに書き初めを教える生きがいを持つ前向きなエピソード。 数年前から足の褥瘡のために介入している80代男性の利用者さん。独学で書道を学び、書道の先生をされていた方です。昨年はご本人の希望もあり、訪問看護ステーションのスタッフの地域包括支援センター、ケアマネジャーも参加しました。その後、利用者さんのところを訪問する際は、毎回書道教室での子どもたちの笑顔が忘れられないという話をされていました。今年は会場の関係で、男性宅にて数名の子どもに書き初め練習会を開催。見事2人の子どもが金賞を取りました。また来年も開催できることを子どもたちは楽しみにしています。 2024年1月投稿 「訪問看護の魅力」 新米訪問看護師がこだわりの強い利用者さんと、あうんの呼吸で関われるようになっていくエピソード。 私は、昨年の春から訪問看護の世界に飛び込みました。子どもを産んでからはクリニック勤めで、流れ作業のような、とにかく外来を早くまわすことに重きをおくような働きかたをしていました。もともと人と関わることが好きで、人との深いつながりを大切にしたい私は、1人の患者さんとじっくり向き合える訪問看護に魅力を感じていました。受け持ち看護師として、入浴介助をさせていただいた患者さん。とてもこだわりが強く、物の場所やお湯の温度から水圧まで、細かな好みがありました。また、スタッフが変わることにとても不安を感じており、私もとても不安でした。ですが、回数を重ね訪問をしていくうちに、お互いに慣れていき、あうんの呼吸で入浴介助ができるようになっていきました。大きな耳垢が取れた時には、「こんなことまでしてくれるのあんたぐらいや。先生みたい。とっておかんなんくらい立派な耳垢やね」と冗談まで言い合える仲になり、とても嬉しい気持ちになりました。「もういつ死んでもいいんや。でもあんたが風呂に来てくれる間は頑張るわ。」と新米訪問看護師の私にとっては涙が出るほど嬉しいお言葉を頂戴しました。これからも頑張る勇気をもらえ、とても感謝しています。 2024年1月投稿 「うなぎのタレ」 うなぎが大好きな90代女性が、最期まで大好きなうなぎのタレを味わい、笑顔で旅立ったエピソード。 昨年の春より週1回の訪問看護が始まった90代女性。パーキンソン病と肺炎を経て寝たきりになり、同居する息子の妻の強い希望で在宅介護となりました。食へのこだわりが強く、何よりうなぎが大好き。訪問当初は常食を介助で摂取していましたが、レスパイト入院と肺炎治療をしてからは禁食、点滴静脈内注射、皮下注射となり、それでもうなぎが食べたいと言うので息子の妻がうなぎのタレを口に含ませていました。息を引き取り、弔問に行くと、枕もとには鰻重が置かれており表情も笑顔で印象的でした。 2024年1月投稿 「忘れられない表情」 全身の疼痛がある中、大好きなカレーを食べたときの生気に満ちあふれた表情が忘れられないエピソード。 肺癌により緩和ケア目的介入させていただいていたH様。徐々にADLも低下し、ベッド上で過ごす中、離床を強く望まれていました。“どうすればその人らしく過ごせるのか”と、訪問看護ステーション内でカンファレンスを繰り返しながら、痛み止めの評価や、独居でいらっしゃるため安心感も持っていただけるよう、毎日複数回訪問していました。血液検査のデータも悪く、離床にはリスクが伴うため看護師としての葛藤をしながらご本人の希望をいちばんに考え、その日は車椅子への移乗をしました。そしてお好きだったカレーライスをご用意しました。食事量も減っていましたが、その日はカレーを黙々と召し上がり、「やっぱりこっちのほうが食べやすいよね。」と、H様は食後に一言お話くださいました。全身の疼痛もあり短時間の離床でしたが、普段は寡黙なH様のその時の生気に満ちあふれた何ともいえない表情が印象的でした。その後、ご自宅で最期を迎えられましたが、あの時の表情が忘れられず、今でも鮮明に覚えています。 2024年1月投稿 利用者さんの前向きな姿勢や人生の歩みは、関わる訪問看護師だけではなく読者にまで元気や力を与えてくれます。あらためて、訪問看護師と利用者さんの関係は共鳴するのだと考えさせられます。 編集: NsPace編集部

非がん性呼吸器疾患の緩和ケアがよく分かる 予後・在宅リハビリ・呼吸困難対応
非がん性呼吸器疾患の緩和ケアがよく分かる 予後・在宅リハビリ・呼吸困難対応
特集
2026年4月21日
2026年4月21日

非がん性呼吸器疾患の緩和ケアがよく分かる 予後・在宅リハビリ・呼吸困難対応

非がん疾患の患者さんに質の高い緩和ケアを届けるための知識・視点を整理。訪問時のケアの実践につながるヒントをお届けします。今回は、慢性的に呼吸機能を低下させる非がん性呼吸器疾患(NMRD)を取り上げます。東京ふれあい医療生活協同組合 研修・研究センターの平原佐斗司先生に、各疾患の予後や在宅でのリハビリ・呼吸困難への対応について詳しく解説いただきます。 非がん性呼吸器疾患(NMRD)の緩和ケアの基本 非がん性呼吸器疾患(NMRD)は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)や間質性肺疾患(ILDs)、気管支拡張症(BE)、非結核性抗酸菌症(NTM)など、呼吸器の慢性疾患を総称する言葉として提唱されています。 私どもの診療所では、新規に在宅医療が導入される人のおよそ1割が、NMRDを主病名とする方々です。 NMRDの緩和ケアの特徴は、標準的な治療(薬物治療)と運動療法やコンディショニング(後述)などの呼吸リハビリテーションの継続が症状緩和にとっても重要であるということです。呼吸困難を改善し、QOLを高めるためには、標準的治療、呼吸リハビリテーション、緩和ケアをNMRDの病の軌跡の中で一体的・統合的に提供することが大切になります。 つまり、病状が進行し末期となってからも、治療や呼吸リハビリテーションをアレンジしながら継続し、これらによって改善しない呼吸困難などの苦痛がある場合には、オピオイドなどの緩和ケア的な手技を上乗せしていきます。 各疾患の病の軌跡と予後 NMRDは、急性増悪と寛解を繰り返しながら、徐々に全体的な機能が低下し、最期は比較的急速に悪化し、死に至るという軌跡をたどることが多いとされています。 慢性閉塞性肺疾患(COPD) COPD患者の予後は病期の進行とともに悪化します。特に「%1秒量」*が50%を下回ると増悪の頻度が増し、併存症による死亡も増加します。呼吸機能以外の予後不良因子には、やせ、栄養障害、ADL(歩行距離)の低下、自覚的呼吸困難感、合併症・併存症、最近の急性増悪や入院回数などがあります。 * %1秒量:年齢や性別、身長などから予測される本来あるべき予測1秒量に対しての、実測1秒量(努力性肺活量のうち、最初の1秒間で吐き出された空気量)の割合 また、長期喫煙歴のある高齢者に発症することが多いため、併存症の合併が多く、COPD患者の約4分の3は併存症や合併症によって死亡しています。代表的な併存症・合併症には、喘息、肺線維症、肺がん、肺炎、気胸などの肺合併症に加え、栄養障害や骨格筋機能障害、心血管疾患、骨粗しょう症などが知られています1)。 急性増悪で入院した患者の死亡率は4.6%で、1年以内の再入院は45%、1年以内の死亡は20.2%と報告されています2)。また、長期在宅酸素療法登録患者の5年生存率は40%と報告されています1),3)。 COPDの代表的な予後予測指標は2004年に開発されたBODEインデックスです。これは、前述の予後不良因子(body mass index〔BMI〕、気流閉塞度〔obstruction〕、呼吸困難〔dyspnea〕、運動能力〔exercise capacity〕)を点数化したもので、数年単位の予後予測スコアとしては有効4)です。 間質性肺疾患(ILDs) ILDsはNMRDの中でCOPDに次いで多い疾患で、その多くは原因不明の特発性間質性肺炎(IIP)です。IIPの中でも特発性肺線維症(IPF)が50~60%を占めます。IPFにおける診断時からの生存期間中央値は35ヵ月であり、極めて予後不良の疾患として知られています。 IPFの死亡原因の4分の3は、原疾患やその増悪です。慢性安定期から投与された抗線維化薬(ピルフェニドン、ニンテダニブ)は、IPFの予後を改善することも報告されています。IPFの軌跡は、緩徐に進行する群、長期に安定する群、急速に進行していく群など多様であり、予後予測は極めて困難な疾患群です。また、在宅酸素療法(HOT)導入からの平均生存期間は約18ヵ月で5)、HOT導入後のIPF患者に対しては、EOL期と認識して対応する必要があります。 予後予測スコアとして、GAPスコア6)が開発されていますが、肺拡張能力試験(DLCO)を含むため、専門医のいる病院でなければ評価が困難という欠点があります。 気管支拡張症(BE) BEでは慢性の膿性痰や時に血痰を伴う咳、繰り返す気道感染に伴う呼吸困難、発熱、倦怠感などが苦痛となります。BEの多くは小児期に発症し、青年期に一時期改善がみられた後、中高年期に症状が悪化し、呼吸機能が低下してから医療機関を受診することが多く、約10%が呼吸不全に陥ると推定されています。 BEの18%がNTMを原因とし、両疾患は相互に関連しています。治療は、気道クリアランスを中心とした呼吸リハビリテーションが重要で、薬物治療ではマクロライド療法が有効です。予後についての大規模な研究はなく、フォローアップ中央値18年の死亡率が20.4%、13年では死亡率29.7%という海外の報告があります7),8)。高齢、呼吸機能の低下、高PaCO2、緑膿菌感染などは予後不良因子と考えられています。 非結核性抗酸菌症(NTM) NTMは近年増加しているNMRDです。特に基礎疾患のない中年以降の女性に発症しやすいMAC症が最も多く、顕著に増加しています。MAC症の死亡率は、追跡期間4.3年で16.6%、5年で28%というわが国の報告があります9),10)。 在宅における呼吸リハビリテーションの要点 呼吸リハビリテーションは、「病気や外傷によって呼吸器に障害が生じた患者さんに対して、可能な限り機能を回復し、あるいは維持することによって、症状を改善し、患者さん自身が自立した日常や社会生活を送れるように継続的に支援する医療」と定義されています11)。 呼吸リハビリテーションのプログラムの構成要素には主に以下のものが含まれます。 吸入療法を含めた薬物療法 ワクチン接種 酸素療法 人工呼吸療法 禁煙・ニコチン置換療法 コンディショニング(肺理学療法、リラクゼーション、呼吸法、胸郭可動域訓練、排痰訓練など) 全身持久力トレーニング ADLトレーニング 呼吸筋トレーニング 栄養療法 教育:教育的アプローチ、心理的サポート 社会参加(日常活動、就労、旅行支援など) これらの要素の中でも、運動療法の実施が重要であり、運動療法を行う前提として(1)基本的治療(吸入療法を含めた薬物療法、場合によってはHOTやNPPV(非侵襲的陽圧換気)などの人工呼吸療法)によって病状を安定させること、(2)教育・心理的アプローチを行い、(3)適正な栄養管理(高カロリー、高タンパク食)の実施が必要になります。 在宅医療における呼吸リハビリテーションにおいては、在宅主治医が個別の呼吸リハビリテ―ションのプログラムをつくり、訪問看護師や理学療法士などのリハビリ専門職が協力して実施していきます。呼吸法や肺理学療法、呼吸ストレッチ体操を行った後、中等度の息切れを感じる程度、あるいは最大心拍の60~80%を目安にして、下肢を中心とした運動療法を行うことがポイントです。在宅患者は、フィットネスレベルが極めて低い重症者が多いため、低強度負荷の運動から開始し、徐々に負荷を高めていく方法が推奨されます。 最初に集中的に6~8週間の導入プログラムを行い、その後、運動療法を継続するようにします。呼吸リハビリテーションの効果は中断後6ヵ月後も残存するといわれており、導入後は週1回の歩行トレーニングでも効果の維持が期待できます。また、春や秋などの気候のよい時期に集中的に運動療法を行い、真夏や冬には負荷の少ない簡単な運動で維持するという戦略をとるようにするとよいでしょう。 NMRD終末期の呼吸困難と緩和ケア 前述したようにCOPDを代表とするNMRDの終末期は、非がん疾患の中でも呼吸困難などの苦痛が大きい疾患群です。NMRD患者にとっては呼吸困難が最大の苦痛であり、その頻度と持続時間は末期の肺がんの苦痛をも凌ぐといわれています。 終末期の呼吸困難に対しては、それまで行ってきた標準的な薬物治療や呼吸リハビリテーション(酸素療法、肺理学療法、呼吸筋マッサージなど)をできる限り継続することが重要です。しかし、それでも改善しない強い呼吸困難には、積極的なモルヒネの使用が推奨されます。 モルヒネの使用 NMRD終末期のモルヒネ投与の基本は以下のとおりです。 ・頓用使用:1回2.5mg(2~3mg)・徐放剤内服:1日10mgから開始 通常は頓用使用から始め、使用回数が増えてきたら徐放剤に変更していくようにするとよいでしょう。しかし、わが国においては、がんで使用される徐放剤は非がん疾患の保険適応がなく、またモルヒネ徐放剤の1日最小量は20mgであるため、非がん疾患の呼吸困難に対してはモルヒネ徐放剤を使用しにくい状況にあります。そのため、実際には以下のような方法で定期投与を行うことがあります。 ・塩酸モルヒネ粉末:2.5mgを6時間ごと(1日4回)・モルヒネ硫酸塩細粒(2%):1回0.25gを12時間ごと(保険適応外) 重症COPDに対しては、30mgまでのモルヒネの使用は、入院率および死亡率を上げないことが分かっており、効果と副作用を確認しながら、内服30mg相当までは1.3~1.5倍ずつ引き上げていくとよいでしょう。 ●モルヒネ以外のオピオイドオキシコドンやフェンタニール、ヒドロモルフォンなどモルヒネ以外のオピオイドについては、NMRDを含めた非がん疾患の呼吸困難への有効性に関して、ランダム化試験といった質の高いエビデンスはありません。何らかの理由でモルヒネが使用できない場合、特に腎不全や心腎症候群を伴う心不全などでは、オキシコドンなどを選択することがあります(保険適応外)。 ●経口投与が困難な場合嚥下障害が強くなったり、臨死期となり経口摂取が困難となった場合は、持続皮下注射(CSI)に切り替えます。通常モルヒネの場合、内服量の2分の1で調整します。例えば、CSIでモルヒネ投与を開始する場合は、塩酸モルヒネ注1%を時間0.25mg(1日量6mg)を基本とし、年齢や腎機能などで調整するようにします。 ●不安の強い場合モルヒネによって呼吸困難が緩和せず、とりわけ不安が強いケースには、個別にベンゾジアゾピンの使用が検討されます。ただし、呼吸抑制を起こしやすく、死亡率を高める可能性があるため注意を要します。 HOT HOTでは、SpO2が 90%以上を維持できる酸素投与を行います。高濃度の酸素吸入が必要な場合は、酸素供給デバイスにはカニュレではなく、リザーバー付カニュレ、さらにリザーバー付マスク、あるいはオキシマスクなどを用います。リザーバー付マスクには、容量600mLのリザーバーが付属しています。リザーバーに貯まった酸素を一度に吸入するため、高濃度の酸素吸入が可能です。リザーバーマスクは二酸化炭素の貯留を防ぐため、6L/分以上の酸素流量で使用します。 NPPV NPPVは、COPDや拘束性換気障害、神経筋疾患などの慢性期管理や、COPDの急性期管理で広く用いられています。終末期での緩和ケアのエビデンスは乏しいですが、内因性PEEPが高い末期COPDなど、症例を選んで実施すると呼吸困難の緩和につながることがあります。 体位と環境の工夫 ケアにおいては、まず安楽な体位(ファーラー位など)をとることが重要です。臨死期になると寝返りやわずかな動きでも酸素飽和度が低下し、呼吸苦が出現するため、最も安楽な体位を工夫します。室内の十分な換気、顔面のクーリングや送風、音楽やリラクセーション、喀痰管理なども有効です。 疾患別の対応 ●IPF呼吸困難に対する最近のシステマティックレビューでは、エビデンスレベルは弱いものの、COPDと同様に酸素療法やモルヒネ、呼吸リハビリテーションの有効性など12)が示されています。 ●BEやNTM最期まで喀痰の分泌が問題となることが多く、吸入や肺理学療法などを駆使し、十分な気道のクリアランスを確保することが求められます。在宅では、非専門家でも実施できる体位ドレナージの指導が大切です。痰の喀出が多い場合や痰による無気肺などがある場合は呼吸理学療法を行います。 本文で使用した略語一覧(本文登場順)NMRD:non malignant respiratory disease(非がん性呼吸器疾患)COPD:chronic obstructive pulmonary disease(慢性閉塞性肺疾患)ILDs:interstitial lung disease(間質性肺疾患)BE:bronchiectasis(気管支拡張症)NTM:non-tuberculous mycobacteria(非結核性抗酸菌症)IIP:idiopathic interstitial pneumonia(特発性間質性肺炎)IPF:idiopathic pulmonary fibrosis(特発性肺線維症)HOT:home oxygen therapy(在宅酸素療法)DLCO:diffusing capacity of the lungs for carbon monoxide(肺拡張能力試験)NPPV:non-invasive positive pressure ventilation(非侵襲的陽圧換気療法)CSI:continuous subcutaneous injection(持続皮下注射) 執筆:平原 佐斗司東京ふれあい医療生活協同組合 研修・研究センター1987年に島根大学医学部卒。現在、東京ふれあい医療生活協同組合 研修・研究センター長ならびに、同オレンジほっとクリニック 地域連携型認知症疾患医療センター長として在宅医療、認知症診療に従事。専門は、在宅医療、非がん疾患の緩和ケアで、研修・研究センターでは在宅医療専門医・指導医として、多くの在宅専門医の育成を行う。学会活動では、日本在宅医療連合学会 代表理事、日本認知症の人の緩和ケア学会 理事長、日本エンドオブライフケア学会 副理事長を務めている。 編集:株式会社照林社 【引用文献】1)Miyamoto K,Aida A,Nishimura M,et al:Gender effect on prognosis of patients receiving long-term home oxygen therapy. The Respiratory Failure Research Group in Japan.Am J Respir Crit Care Med  1995;152(3):972-976.2)茂木孝,山田浩一,木田厚瑞:慢性閉塞性肺疾患の急性増悪による入院医療費とこれに関与する因子の検討.日呼吸会誌 2006;44(11):787-794.3)Aida A,Miyamoto K,Nishimura M,et al:Prognostic value of hypercapnia in patients with chronic respiratory failure during long-term oxygen therapy.Am J Respir Crit Care Med 1998;158(1):188-193.4)Celli BR,Cote CG,Marin JM,et al:The body-mass index, airflow obstruction, dyspnea, and exercise capacity index in chronic obstructive pulmonary disease.N Engl J Med 2004;350(10):1005-1012.5)Kataoka K,Oda K,Takizawa H,et al:Multi-institutional prospective cohort study of prognostic factors in patients with idiopathic pulmonary fibrosis receiving long-term oxygen therapy.European Respiratory Journal 2019;54(63):PA1723.6)Ley B,Ryerson CJ,Vittinghoff E,et al:A multidimensional index and staging system for idiopathic pulmonary fibrosis.Ann Intern Med 2012;156(10):684-691.7)Goeminne PC,Nawrot TS,Ruttens D,et al:Mortality in non-cystic fibrosis bronchiectasis: a prospective cohort analysis.Respir Med 2014;108(2):287-296.8)Loebinger MR,Wells AU,Hansell DM,et al:Mortality in bronchiectasis: a long-term study assessing the factors influencing survival.Eur Respir J 2009;34(4):843-849.9)Gochi M,Takayanagi N,Kanauchi T,et al:Retrospective study of the predictors of mortality and radiographic deterioration in 782 patients with nodular/bronchiectatic Mycobacterium avium complex lung disease.BMJ Open 2015;5(8):e008058.10)Ito Y,Hirai T,Maekawa K,et al:Predictors of 5-year mortality in pulmonary Mycobacterium avium-intracellulare complex disease.Int J Tuberc Lung Dis 2012;16(3):408-414.11)日本呼吸ケア・リハビリテーション学会:呼吸リハビリテーションとは.https://www.jsrcr.jp/citizen/rehabilitation.html2026/4/16閲覧12)Ryerson CJ,Donesky D,Pantilat SZ,et al:Dyspnea in idiopathic pulmonary fibrosis: a systematic review.J Pain Symptom Manage 2012;43(4):771-782.

南海トラフ地震発生時の対応とは?災害への備えと応急処置を解説
南海トラフ地震発生時の対応とは?災害への備えと応急処置を解説
特集
2026年4月7日
2026年4月7日

南海トラフ地震発生時の対応とは?災害への備えと応急処置を解説

訪問看護師として日々利用者さんの健康を支える中で、南海トラフ巨大地震のような大規模災害が発生した際には、適切な対応が求められます。地震の影響で交通機関が麻痺し、ライフラインが途絶える状況下では、訪問先での対応や移動中のトラブルにも備えておく必要があります。 本記事では、南海トラフ巨大地震発生時における災害看護の対応について、防災対策や応急処置の方法を解説します。 南海トラフ巨大地震とは 南海トラフ巨大地震は、駿河湾から日向灘沖を震源域として起きるとされている地震です。過去に100~150年の間隔で大地震が発生しており、甚大な被害をもたらすことが想定されています。 南海トラフ巨大地震がもたらす影響範囲 政府の中央防災会議が公表した被害想定によると、最大クラスの南海トラフ地震が発生した場合、静岡県から宮崎県にかけての一部では震度7の揺れが発生する可能性があります。隣接する周辺地域では広範囲にわたって震度6弱から6強の強い揺れが生じると考えられています。 さらに、関東から九州にかけての太平洋沿岸では10メートルを超える津波が発生し、沿岸地域に大きな影響を及ぼす可能性が指摘されています。 避難方法のノウハウ 災害発生時に備えて、避難方法のノウハウを習得しておきましょう。 火災発生時の避難方法:煙と炎から命を守る 火災の初期段階から大量の煙が発生し、数分以内に室内を充満することがあるため、ためらわずに避難を開始することが必要です。外出先や宿泊施設では、事前に避難経路を確認し、非常口の位置を把握し、万が一の際にも落ち着いて行動できるよう備えておきましょう。 また、酸素濃縮装置等を使用している利用者さんがいる場合、装置の2m以内に火気を置かないようにし、日頃から火の取扱いに十分注意しておくことが重要です。災害時には電力供給が停止し、酸素濃縮装置を使用できなくなる可能性があるため、十分な容量のバッテリーや酸素ボンベを備えておきましょう。 津波発生時の避難方法:素早く高台へ避難する 津波は、短時間で沿岸部に到達します。津波から命を守るためには、迷わずにすぐに高台や津波避難ビルなどの安全な場所へ移動することが最も重要です。 地震発生時に強い揺れを感じた場合や、長時間にわたる揺れが続いた場合は、ただちに津波の発生を想定し、避難行動を開始する必要があります。 高齢者の避難方法 高齢者が安全に避難するために、避難行動要支援者名簿や個別避難行動および福祉避難所について行政に確認しておきましょう。 自宅には、食料や水、懐中電灯、救急セットといった基本的な防災用品に加え、高齢者向けの必需品も用意しておきます。たとえば、嚥下機能が低下している方のためにお粥やとろみ剤を準備し、排泄に不安のある方にはおむつや尿取りパッドを多めに備えておきましょう。また、持病がある場合は、常備薬とお薬手帳をすぐに持ち出せるようにしておきます。 車椅子を使用している方や寝たきりの方は、シーツや毛布を活用した搬送方法を習得しておくと役立ちます。まず毛布やシーツで全身を包み、頭部を安定させた上で、両肩を少し浮かせるようにして頭側から引っ張ります。この際、床面の凹凸や障害物に注意しながら、安全に移動できるよう慎重に進めることが大切です。 自宅の災害対策のポイント 地震や火災などの危険から命を守るためには、事前の対策が不可欠です。下記のように対策しましょう。 カテゴリ対策内容詳細耐震対策建物の耐震診断自宅の耐震性能を専門家に診断してもらい、必要に応じて耐震補強を行う。家具・家電の固定本棚や食器棚、テレビなどをL字金具や耐震マットで固定し、転倒・落下を防ぐ。ブロック塀や屋根の点検ひび割れや老朽化がないか確認し、必要なら補強工事を実施する。火災対策火災警報器・消火器の設置各部屋に住宅用火災警報器を設置し、消火器の設置と定期点検を行う。プロパンガスの固定ガスボンベが倒れないよう、鎖や固定具でしっかり固定する。感震ブレーカーの導入地震時に自動で電気を遮断し、火災の発生を防ぐ。避難計画家の中の安全な場所の確認家族で話し合い、地震や火災時に安全を確保できる場所を決める。避難経路の確保家から避難所までの経路を確認し、障害物がないか定期的にチェックする。連絡方法と集合場所の決定災害時に連絡が取れない場合の集合場所や連絡手段を事前に決めておく。非常用品の準備飲料水・食料の備蓄最低3日分(できれば1週間分)の水・食料を準備する。緊急時の必需品懐中電灯、携帯ラジオ、予備の電池、カセットコンロなどを用意する。高齢者・乳幼児向けの備えお薬手帳、常備薬、おむつ、粉ミルクなど、個々のニーズに応じた備蓄を行う。防災意識の向上防災訓練への参加地域の防災訓練に参加し、避難手順や消火方法を学ぶ。近隣住民との連携近所の人と防災に関する情報を共有し、助け合いの体制を整える。災害時の知識の習得家族全員で防災に関する知識を学び、実践できるようにする。 >>関連記事震災時に医療機関や訪問看護の現場はどうなった?事例から知る必要な備え 南海トラフ地震ガイドラインについて 南海トラフ地震に備えるための指針として、内閣府が策定した「南海トラフ地震の多様な発生形態に備えた防災対応検討ガイドライン」があります。 地方自治体や指定公共機関だけでなく、病院や劇場、百貨店、宿泊施設など多くの人が利用する施設、また石油・火薬・高圧ガスを扱う事業所などの管理者が参考にできるように設計されています。それぞれの施設に適した防災対応を計画し、いざというときに円滑に実行できるように備えることが重要です。 参考:内閣府「南海トラフ地震の多様な発生形態に備えた 防災対応検討ガイドライン 【第1版】」 南海トラフ地震に備えた医療分野の動き 南海トラフ地震に備え、医療分野では多方面での準備が進められています。 広域災害・救急医療体制(DMAT) DMATは、災害急性期に活動できる機動性を持ち、専門的な訓練を受けた医療チームです。医師、看護師、業務調整員(医療職や事務職員)がチームを構成し、大規模災害や多くの傷病者が発生した事故の現場で、発災から48時間以内の急性期に活動することを目的としています。 災害拠点病院と地域医療連携の強化 災害時の医療提供を強化するためには、地域全体で連携し、迅速かつ的確な対応を行うことが重要です。その中心的な役割を担うのが、災害拠点病院です。災害拠点病院は、被災地域における医療の中核として機能し、負傷者の受け入れや治療を行うだけでなく、地域の医療機関と連携しながら、医療提供体制を維持するための支援を行います。 災害発生時には、多くの負傷者が一度に発生するため、災害拠点病院単独での対応には限界があります。そのため、地域の一般病院や診療所ともネットワークを構築し、役割を分担しながら医療を提供できる体制を整えておくことが求められます。 利用者情報や対応についてまとめておく 訪問看護においてBCPの策定が義務付けられていますが、災害時に適切に対応できるよう、利用者さんに関する情報を整理し、必要な対応を事前に準備しておくことが求められます。 利用者さんの緊急連絡先リストを作成し、家族や主治医、ケアマネジャー、かかりつけの医療機関など、災害時に連絡を取るべき相手を整理しておきます。電子データだけでなく、紙媒体でも管理し、停電や通信障害が発生した場合にも活用できるようにしましょう。 訪問看護師が単独で情報収集や安否確認を行うのではなく、地域のサービス事業者や自治体と協力しながら、迅速な対応ができる体制を作っておくことで、混乱を避け、利用者さんの安全を確保することにつながります。 避難が必要な場合に備えて、利用者さんごとに適切な避難場所を確認し、本人やご家族と共有しておくことも重要です。避難場所が遠い場合や、体調の問題で移動が難しい利用者に関しては、早めに代替案を検討し、地域の支援機関と協力しながら適切な避難支援を行えるように準備しておく必要があります。 訪問看護師の訪問先、移動中怪我をした人の応急処置の方法 訪問看護師は、利用者の自宅を訪問する際に、移動中や訪問先で怪我をした人に遭遇することがあります。こうした場面では、迅速かつ適切な応急処置を行い、症状の悪化を防ぐことが重要です。応急処置の方法について詳しく見ていきましょう。 出血時の応急処置 出血は、適切な止血によって重症化を防ぐことができます。成人の体には、体重のおよそ7~8%にあたる約4~5リットルの血液が流れています。例えば、体重50kgの人の血液量は約4リットルです。全血液量のうち30%(約1.2リットル)以上を短時間で失うと、生命に危険が及ぶ可能性があります。止血方法には、直接圧迫止血法と止血帯止血法があります。 直接圧迫止血法は、出血部位に清潔なガーゼやハンカチを当て、手でしっかりと圧迫することで出血を止める方法です。可能であれば傷口より心臓に近い部分を軽く押さえながら止血を行います。 止血帯止血法は、大量出血がある場合や直接圧迫止血法で効果が見られない場合に行います。腕や足などの出血部位の上部に布や専用の止血帯を巻き、適度に締めて血流を制限します。ただし、長時間の圧迫は神経や血管に損傷を与える可能性があることに注意が必要です。 骨折や捻挫への対応 骨折や捻挫は、転倒や事故によって発生することが多く、訪問先や移動中にも十分に起こり得る怪我です。 打撲の場合は、患部を氷や冷水で冷やし、炎症を抑えることが基本です。 捻挫では、無理に動かさず、患部を冷やして安静に保つことが大切です。伸縮性のある包帯で軽く圧迫し、枕やタオルを使って患部を少し高くすることで腫れを抑えることができます。 骨折が疑われる場合は、むやみに動かさず、可能な限り患部を固定することが重要です。骨折した部分の周囲を布やタオルで覆い、ダンボールや板などを添えて固定するとよいでしょう。腕の場合は三角巾やスカーフを使って吊るし、下肢の場合はまっすぐ伸ばした状態で安静に保ちます。 *** 南海トラフ巨大地震のような大規模災害は、いつ発生してもおかしくありません。適切な避難計画や防災対策を立てることはもちろん、応急処置のスキルを磨き、利用者さんの命を守るための知識を身につけておくことが重要です。日頃から災害時の対応を意識し、訓練や情報共有を行いながら、いざというときに備えていきましょう。 編集・執筆:加藤 良大監修:寺西 貞昭【所属団体・職】・NPO 法人高齢者住まいる研究会 理事長(事務局住所:愛知県一宮市木曽川町黒田字山 72 番地)・老人総合福祉施設グリーンヒルみふね デイサービス職員災害支援マネージャー(施設住所:熊本県上益城郡御船町辺田見840-9)【経歴】・介護現場での業務を続けながら高齢者施設・障がい者施設・保育施設等における BCP 策定等に関する支援を目的として平成25年1月に NPO 法人高齢者住まいる研究会を設立し現在の活動に続く。・介護施設が大地震に襲われるという状況を想定した災害想定ゲーム「KIZUKI」を開発する。・上記「KIZUKI」ゲームと平成 28 年熊本地震被災施設の事例をあいちなごや強靭化共創センター「要配慮者利用施設防災講習会」「要配慮者利用施設 BCP 講習会」等にて講演あいち・なごや強靱化共創センター (gensai.nagoya-u.ac.jp/kyoso/)(研修等の実施状況は NPO 法人高齢者住まいる研究会のホームページ福祉防災ドットコム (fukushibosai.com)を参照)【保有資格】・介護福祉士、防災士、防災士アドバイザー・介護支援専門員令和元年 愛知から熊本へ移住。 【参考】〇気象庁「南海トラフ地震について」https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/jishin/nteq/index.html2026/4/1閲覧〇内閣府.防災情報ページ みんなで減災「避難行動要支援者の避難行動支援に関すること」https://www.bousai.go.jp/taisaku/hisaisyagyousei/yoshiensha.html2026/4/1閲覧〇東京都防災ホームページ「災害が起きる前に(自宅編)」https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/bousai/1000027/1000286.html2026/4/1閲覧〇国立健康危機管理研究機構 危機管理・運営局DMAT事務局「DMATとは」http://www.dmat.jp/dmat/dmat.html2026/4/1閲覧〇総務省消防庁「救助」https://www.fdma.go.jp/relocation/e-college/cat65/cat65/cat46/6-9.html2026/4/1閲覧

生活保護制度(医療扶助) 訪問看護師が知っておきたい基礎知識 サムネイル
生活保護制度(医療扶助) 訪問看護師が知っておきたい基礎知識 サムネイル
特集
2026年3月31日
2026年3月31日

生活保護制度(医療扶助) 訪問看護師が知っておきたい基礎知識

レセプト業務を行っていると、患者さんの自己負担金が発生しないケースに出合うことがあります。これまで取り上げてきた医療費助成制度の中でも、生活保護制度による医療扶助は異質かもしれません。生活保護については、訪問看護ステーションにおけるレセプトの公費の欄に医療券番号を入力することになっているため、生活保護における医療扶助のしくみについて知っておく必要があります。 ※本記事は、2025年6月時点の情報をもとに構成しています。 生活保護制度とは 訪問看護を利用している方の中には、生活が困難な状況にあると思われる方もいます。所得が低く、自己負担額の支払いが難しい場合には、生活保護制度(以下、生活保護)の対象となるかもしれません。 日本国憲法第25条は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と定めています。生活保護は、最低生活の保障と自立の助長を図ることを目的とし、生活に困窮している人々に対し「健康で文化的な最低限度の生活」を保障し、自立した生活ができるように積極的に援助する制度です。 生活保護は世帯単位で申請しますが、世帯に資産や能力などがある場合には、まずは世帯員全員がそれらを活用し、最低限度の生活を維持することが求められます。言い換えると、生活保護を受けるには、資産や能力などが活用できないことが要件になります。また、扶養義務の履行ができるかどうかも保護の決定に影響を与えます。扶養義務者が扶養できるのであれば、生活保護は期待できません。 生活保護には8つの扶助があります。このうち、訪問看護ステーションに関係するのは、「(4)医療扶助」と「(5)介護扶助」です。 (1)生活扶助:日常生活に必要な費用(食費・被服費・光熱費等)(2)住宅扶助:アパート等の家賃(3)教育扶助:義務教育を受けるために必要な学用品費(4)医療扶助:医療サービスの費用(5)介護扶助:介護サービスの費用(6)出産扶助:出産費用(7)生業扶助:就労に必要な技能の修得等にかかる費用(8)葬祭扶助:葬祭費用 生活保護が決定されれば、「最低生活費」といわれる決められた生活費が支払われます。この最低生活費は、年金や児童扶養手当など受給できる費用(収入)を控除して支払われます(図1)。 図1 収入がある場合の最低生活費(生活保護費) 生活保護を受けるまでの流れ 生活保護を受けたい場合、住所地の市区町村を管轄する福祉事務所の生活相談窓口に相談するところから始まります。生活保護の申請を行うと、主に福祉事務所が訪問調査や資産調査などを実施し、申請から原則14日以内に生活保護を受けることができるかどうかを審査し、判断します。生活保護の受給が開始されると、ケースワーカーが年数回の訪問調査を行い、生活に関する指導を行います。 このようなことから、市区町村のケースワーカーと訪問看護ステーションが連携し、生活保護の対象者について情報を共有しておくことも、訪問看護において有効でしょう。 生活保護による医療扶助とは 生活保護を受けている場合、国民健康保険の被保険者から除外され、「医療扶助」により医療サービスを受けられることが保障されています。 医療に関する制度として、健康保険法・国民健康保険法などの医療保険制度や、これまで解説してきたさまざまな医療費助成制度がありますが、これらの制度では支給の適用範囲に限りがあります。この範囲から外れるものについて、生活保護の医療扶助で賄われることになるのです。 訪問看護ステーションは指定医療機関として要届け出 生活保護を受ける方が医療扶助を受ける場合、福祉事務所などに申請しなければなりません。申請に基づいて認められると、「生活保護法医療券」(以下、医療券)または「診療依頼書」が発行され、この医療券によって指定医療機関で診療を受けることができます。 訪問看護ステーションも生活保護法の指定医療機関として都道府県に届出をし、健康保険や国民健康保険などと変わらないサービスを提供することが求められます。 なお、訪問看護療養費のレセプト請求は、都道府県の社会保険診療報酬支払基金へ請求します。医療券は1ヵ月ごとに発行されます。医療券から請求明細書に必要事項を間違いなく入力し、請求しなくてはなりません。また、医療券は1年間保管する義務があります。 医療扶助によって支給される可能性があるもの 医療扶助では医療のほかに次のものが支給される場合があります。 入院患者に対する日用品費 おむつ代 寝巻などの被服費 入院や退院、通院のための移送費 治療材料費(義肢や装具、眼鏡、収尿器、ストマ用装具など) 訪問看護には関係ありませんが、保険外併用療養費に当たる部分は、原則として医療扶助の対象として認められていません。 【生活保護による介護扶助について押さえておこう】医療扶助に関連する制度として、介護扶助についても簡単に紹介します。介護サービスも介護扶助として生活保護の対象です。介護保険では自己負担の割合は1割ですが、医療保険未加入者の場合、介護報酬の全額を介護扶助で負担します。介護扶助の場合、介護サービス指定事業者や指定居宅介護支援事業者が「介護券」を受け取ります。請求時は、介護券の必要事項を介護報酬明細書へ転記し、介護レセプトを国民健康保険団体連合会に提出します。 * * * 在宅医療において療養生活が長くなると生活が困窮する可能性があります。訪問看護師の皆さんも、基本的な生活保護に関する知識を身に付けた上で、利用者さんやそのご家族を支えていくとよいでしょう。 執筆:木村 憲洋高崎健康福祉大学健康福祉学部医療情報学科 教授武蔵工業大学(現・東京都市大学)工学部機械工学科卒業、国立医療・病院管理研究所研究科(現・国立保健医療科学院)修了。民間病院を経て、現職。著書に『<イラスト図解>病院のしくみ』(日本実業出版社)などがある編集:株式会社照林社 【参考文献】○ 厚生労働省:生活保護制度.https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/seikatuhogo/index.html2025/6/27閲覧

心不全の緩和ケアがよく分かる 症状・治療・在宅支援のポイント
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2026年3月24日
2026年3月24日

心不全の緩和ケアがよく分かる 症状・治療・在宅支援のポイント

非がん疾患の患者さんに質の高い緩和ケアを届けるために、訪問看護師が知っておきたい知識・視点を整理します。今回のテーマは「心不全」。息切れや浮腫、倦怠感など心不全特有の症状とその観察ポイント、薬物治療やアドバンス・ケア・プランニング(ACP)を含む在宅での支援について、東京ふれあい医療生活協同組合 梶原診療所の藤田真奈先生に分かりやすく解説していただきます。 心不全とは 心不全診療のガイドラインでは、次のように定義されています1)。 心臓の構造・機能的な異常により、うっ血や心内圧上昇、およびあるいは心拍出量低下や組織低灌流をきたし、呼吸困難、浮腫、倦怠感などの症状や運動耐容能低下を呈する症候群 また、2017年10月31日には、日本心不全学会と日本循環器学会が、国民向けの定義として以下のように合同で記者発表しました2)。 心不全とは、心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気 心不全の分類として代表的なのが、左室の収縮機能(EF:駆出率)によるものです。 ●HFrEF:EFが低下した心不全●HFpEF:EFが保たれた心不全●HFmrEF:EFが軽度低下した心不全●HFimpEF:EFが改善した心不全※特に重要な分類を太字にしています。 最近増えている高齢者の心不全では、HFpEFが多いことが特徴です。 心不全の主な症状 心不全では主に「肺うっ血」「体うっ血」「低心拍出・組織低灌流」の3つが原因となり、さまざまな症状が現れます。それぞれの原因によって、次のような症状がみられます。 ●肺うっ血息切れや呼吸苦など●体うっ血下肢を中心とした全身の浮腫、腹部膨満感、食欲低下など●低心拍出・組織低灌流疲れやすさ、倦怠感、めまい、失神、認知機能の低下、せん妄など 心不全末期ではこれらの症状が重なり、不安や不眠が加わることで、より多様な症状となって患者さんを苦しめます(表1)。実際、末期には6~7種類の症状を有するという報告もあります3)。 表1 終末期における身体および精神症状 症状がん(%)心不全(%)倦怠感23~10042~82痛み30~9414~78悪心・嘔吐2~782~48呼吸困難16~7718~88不眠3~6736~48せん妄・認知機能障害2~6815~48抑うつ4~806~59不安3~742~49文献4)を参考に作成 なお、こうしたさまざまな症状が起こる末期であっても、心不全の場合、症状緩和と並行して病態の改善をめざした治療もできる限り継続します(治療の詳細については後述します)。 症状の分類にはNYHA心機能分類(表2)があります。訪問看護が必要な患者さんはNYHAⅢ度以上の方が多いですが、苦しみの程度や日常生活にどのような影響が出ているかは個々で異なります。そのため、実際の生活状況を見ながら、丁寧に評価することが重要です。 表2 NYHA心機能分類 NYHA Ⅰ   通常の心不全に起因する身体活動の制限はない。NYHA Ⅱ安静時には快適であるが、日常的な身体活動で心不全に起因する症状(呼吸困難、疲労、ふらつき)がわずかにみられる。NYHA Ⅲ安静時には快適であるが、日常的な身体活動以下で心不全の症状がみられる。NYHA Ⅳ 安静時にも心不全の症状がみられる。文献5)を参考に作成 心不全の進行の特徴 心不全は、急性増悪と治療による部分的な回復を繰り返しながら、徐々に進行していきます。急性増悪時にそのまま死に至ることもありますし、また致死的不整脈で突然死する可能性もあり、がんと比較すると予後の予測が困難です。 心不全患者の観察ポイント:変化に注目 バイタルサインは必須の確認指標ですが、「体重」も重要です。一般的に1週間で2kg以上の増加があると、生理的な体重増加を超えている可能性があります。その場合には、食事量の変化や息切れの有無を確認します。また、呼吸の様子(起座呼吸の有無、呼吸補助筋の利用の有無など)を観察しながら、慎重に身体所見をとりましょう。観察ポイントは以下のとおりです。 不整脈の有無 下腿浮腫の程度 頸静脈(特に内頸静脈)の怒張 肝腫大の有無 四肢冷汗の有無 聴診における湿性ラ音や過剰心音(Ⅲ音・Ⅳ音)、心雑音の有無 など 大切なのは「いつもと違う所見か」「安定時と比較して、新たに出現もしくは増悪している所見なのか」という視点です。なお、長期の低心拍出により悪液質や筋量減少をきたし、体重減少を生じる場合もあります。体重の増加だけでなく、減少にも注意が必要です。 心不全の治療 心不全の治療は、病態改善のための積極的治療と、症状緩和のための治療を並行して行っていきます(図1)。ここでは主に薬物治療について述べます。 図1 心不全の緩和ケアモデル 【参考】がんの緩和ケアモデル 文献6)を参考に作成 心不全の場合、緩和ケアと並行して、病態の改善をめざした積極的治療もできる限り継続される。 病態改善を目的とした薬物治療 代表的な薬には以下のようなものが用いられます。 ACE阻害薬:エナラプリル、カプトプリル、イミダプリル アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB):ロサルタン、カンデサルタン、アジルサルタン アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI):サクビトリルバルサルタン ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA):スピロノラクトン、エプレレノン β遮断薬:カルベジロール、ビソプロロール SGLT2阻害薬:ダパグリフロジン、エンパグリフロジン こうした薬を、患者さんの病状や病態、血圧や心拍数、血液検査結果などを見ながら調整していきます。また、病態改善薬は心不全末期でも継続することが原則ですが、血圧低下や心拍数低下が患者さんの苦痛につながる場合は、減量や中止を検討することもあります。 症状緩和を目的とした薬物治療 代表的な薬剤は利尿薬です。【主な薬剤】 ループ利尿薬(フロセミド、アゾセミド、トラセミドなど) 【上記薬剤で効果が不十分な場合に併用される薬剤】 サイアザイド系利尿薬(トリクロルメチアジド、ヒドロクロロチアジドなど) バソプレシンV2受容体拮抗薬(トルバプタン) また、前述したMRAやSGLT2阻害薬にも利尿作用があります。 利尿薬は浮腫や胸腹水の軽減に有効ですが、漫然とした使用は脱水や腎機能低下、電解質異常、血圧低下にもつながるため、避けるべきです。 その他にも状況に応じて以下の薬剤を使用します。 低心拍出、組織低灌流による症状:経口強心薬(ピモベンダン、ドカルパミンなど) 治療抵抗性の呼吸苦:少量のオピオイド(心不全で使用可能なオピオイドとしてコデインリン酸塩、塩酸モルヒネがあります) 不安症状や不眠症状:抗不安薬や睡眠薬(非ベンゾジアゼピン系睡眠薬やメラトニン受容体作動薬等が望ましいです) さまざまな治療やケアでも耐え難い苦痛が残存する場合は、多職種で検討し、患者さんやご家族と十分に話し合った上で、鎮静薬の使用も検討します。 薬物治療以外の治療・ケア 薬物だけでなく、以下のような介入も有効かつ重要です。 心臓リハビリテーション 非侵襲的陽圧換気療法(NPPV) 在宅酸素療法(HOT) 心負荷が軽減される食生活や生活環境の調整 高齢者の心不全へのアプローチ 最近、急増している高齢者の心不全では、認知症や悪性疾患、骨折後のADL低下、独居、フレイルなど、心臓以外にもさまざまな疾患や問題を多く合併していることも特徴です。これらは心不全の治療・管理だけでは解決しないことも忘れてはいけません。 訪問看護師が大切にすべき視点と役割 患者さんの在宅生活を捉える視点 訪問看護師は、患者さんの在宅生活を見ることで、心不全が患者さんの生活にどれくらい影響しているのか、日々の生活で何に困っているかを直接見て把握することができます。そして、それを在宅チームに還元し、改善策をチームで話し合うことができます。訪問看護師の適切な観察と評価は、患者さんのQOLの改善に直結します。 ●食事や内服状況の評価例えば、高血圧が続いている心不全の方の食生活が塩分過多になっていることに気付いた場合、栄養指導や配食弁当の導入で改善が期待できます。また、服薬管理ができていないことが分かった場合には、訪問薬剤指導の導入や薬の一包化、服薬回数の調整(1日1回への整理)などで改善するかもしれません。 ●住環境の評価階段昇降やトイレの様子、手すりやベッドの有無など、在宅生活における患者さんの心負荷の程度を評価します。その情報をもとに改善策を、医師やリハビリ、介護スタッフと共有し、話し合うことで、心不全患者さんの在宅生活は確実に向上します。 ●アドバンス・ケア・プランニング(ACP)への取り組み心不全は予後予測が難しい疾患です。だからこそ、日々の生活の中で患者さんの意思や価値観を理解し、終末期も含め、将来どのような医療・ケアを受けたいのか、人生の最期の時間をどうやって過ごしたいのかを、患者さんの気持ちに寄り添いながら、ともに考えていきます。医師やほかのチームメンバーと情報共有・協力しながら意思決定支援を行っていくことも重要です。 訪問看護師が築く信頼と安心 もちろん医療者であっても、患者さんの私生活や個々の事情に自由に踏みこんでよいわけではありません。少しずつ信頼関係を築きながら患者さんの気持ちを理解し、生活を改善するために必要な情報を得ていくことが重要です。 大切なのは、患者さんの病状や状況を理解し、患者さんに寄り添い、安心してもらうことです。心不全の薬や治療にはさまざまなものがありますが、状態をよく分かっている訪問看護師が、患者さんの話を傾聴したり、背中をさすったりするだけで、苦痛や症状が緩和されることはよくあります。看護師の寄り添いとケアには、大きな力があると感じています。 まとめ 日本の心不全患者数は、2030年には約130万人に達するといわれています7)。入院ベッドの不足やコロナ禍を経て、在宅で療養する心不全患者さんも増加の一途をたどっています。 そのような中、訪問看護師の存在は極めて重要です。訪問看護師が中心的な役割を担い、医師や理学療法士、ヘルパー、ケアマネジャー、薬剤師、栄養士などと協力し、多職種連携による「在宅ハートチーム」をつくることが求められています。訪問看護師がハブとなって情報共有と多職種との協力を続けながら、患者さんに寄り添い、患者さんやご家族が安心して在宅療養生活を送れるように応援・サポートします。こうした支援の輪を広げていくことは、多くの心不全患者さんを救うことになるでしょう。 本文で使用した略語一覧(本文登場順)ACP:advance care planning(アドバンス・ケア・プランニング)EF:ejection fraction(駆出率)HFrEF:heart failure with reduced ejection fraction(EFが低下した心不全)HFpEF:heart failure with preserved ejection fraction(EFが保たれた心不全)HFmrEF:heart failure with mid-range ejection fraction(EFが軽度低下した心不全)HFimpEF:heart failure with improved ejection fraction(EFが改善した心不全)NYHA:New York Heart Association(ニューヨーク心臓協会)ACE:angiotensin converting enzyme(アンジオテンシン変換酵素)ARB:angiotensin II receptor blocker(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)ARNI:angiotensin receptor neprilysin inhibitor(アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬)MRA:mineralocorticoid receptor antagonist(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)SGLT2:sodium glucose cotransporter 2(ナトリウム・グルコース共輸送体2)NPPV:noninvasive positive pressure ventilation(非侵襲的陽圧換気療法)HOT:home oxygen therapy(在宅酸素療法)ADL:activities of daily living(日常生活動作)QOL:quality of life(生活の質) 執筆:藤田 真奈東京ふれあい医療生活協同組合 オレンジほっとクリニックふれあいファミリークリニック、梶原診療所高知大学医学部を卒業後、自治医大病院で初期研修を行う。一般内科・循環器内科の修練を積んだ後、在宅医療の世界へ。独居や認知症を合併した高齢心不全の方たちが一人でも多く心地よい在宅生活を送れるよう、日々患者さんと向き合っている。資格:循環器内科専門医・在宅医療専門医・総合内科専門医・認知症サポート医 編集:株式会社照林社 【文献】1)日本循環器学会,日本心不全学会,日本心臓病学会,他:2025年改訂版 心不全診療ガイドライン.日本循環器学会.2025:19.https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2025/03/JCS2025_Kato.pdf2025/10/23閲覧2)日本循環器学会,日本心不全学会:『心不全の定義』について.https://www.j-circ.or.jp/five_year/teigi_qa.pdf2025/10/23閲覧3)Nordgren L,Sörensen S:Symptoms experienced in the last six months of life in patients with end-stage heart failure.Eur J Cardiovasc Nurs 2003;2(3):213-217.4)Moens K,Higginson IJ,Harding R:Are there differences in the prevalence of palliative care-related problems in people living with advanced cancer and eight non-cancer conditions? A systematic review.J Pain Symptom Manage 2014;48(4):660-677.5)Heidenreich PA,Bozkurt B,Aguilar D,et al:2022 AHA/ACC/HFSA Guideline for the Management of Heart Failure: A Report of the American College of Cardiology/American Heart Association Joint Committee on Clinical Practice Guidelines.Circulation 2022;145(18):e895-e1032.6)Gibbs JS, McCoy AS, Gibbs LM, et al. Living with and dying from heart failure:the role of palliative care. Heart 2002;88(Suppl 2):ii36-ii39. 7)Okura Y,Ramadan MM,Ohno Y,et al:Impending epidemic: future projection of heart failure in Japan to the year 2055.Circ J 2008;72(3):489-491.

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