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つたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!【みんなの訪問看護アワード】

訪問看護アワード2023受賞エピソード

NsPaceの特別イベント「みんなの訪問看護アワード」で募集した「つたえたい訪問看護の話」。厳正な審査を経て、受賞作品が決定しました。大賞1件、審査員特別賞4件、入賞6件のエピソードを一挙にご紹介します!

大賞エピソード

「七夕の奇跡」

投稿者: 石井 啓子(いしい けいこ) さん

公益社団法人山梨県看護協会ますほ訪問看護ステーション(山梨県)

昨年7月7日、山間地域の鈴木きくよさんの訪問に、笹の枝を持っていきました。きくよさんは転倒を機にベッド上の生活となりました。認知症もあり簡単なコミュニケーションがとれるような状態でしたが、気配りが細やかで、ケアの後は必ず精一杯の笑顔で「ありがとう」と言ってくれました。その日はケアの後、持ってきた笹の葉を見せ、「今日は七夕ですよ。何か願い事を書いてみますか?」と私の持っていたノートを差し出すと、しばらく考えた後、震える手でぺンを持ちノートに『喜代子さん ありがとう』と書いてくれました。喜代子さんはいつも一生懸命に介護してくれている1人娘さんです。ケア後娘さんにノートを切って渡すと娘さんは「え?字が書けるんだね」と涙を流しました。先日老衰により自宅で亡くなられたきくよさん。娘さんときくよさんの身体を綺麗にし、気に入っていた洋服に着替えてもらいながら、あんな事があったよね等思い出話をしていると、娘さんは「あの七夕の日は奇跡だったよね。お母さんが書いた最後の字だったし、ありがとうなんて書いてくれて…私の宝物です」と言ってくれました。私にとっても宝物のようなエピソードです。

2023年2月投稿


審査員特別賞

「担当看護師からパパママ友へ」

投稿者: 櫛野 秀原(くしの しゅうげん) さん

ウィル訪問看護ステーション江東サテライト(東京都)

私は今まで小児看護の経験がなく訪問看護に就いてから初めて経験しました。小児の利用者の中でも初めて担当した生後3か月の鎖肛のお子さんが一番印象に残っています。3か月という月齢に加えて、ストーマがあり、正直なところどう介入したら良いのだろうと不安になっていました。ストーマのケアの方法や発育発達について調べたり、ママも初めてのお子さんということもあり育児のことも一緒に悩みながら、試行錯誤していました。チーム内の助産師にも育児相談などの介入をしてもらい、すくすく成長し無事にストーマを閉鎖することができ卒業になりました。私自身に子供ができたときにママから育児本やグッズを教えてもらい、一人の父親として、多くのことを学ばせてもらいました。

今では自分の子供と同じ保育園に通っていてパパママ友になりました。その子の成長を見ていると、まるで親戚のおじさんになった気持ちです。こうして卒業した後も、その子の成長を実際に目で見て知ることができることが、訪問看護のやりがいの一つだと感じます。担当した子や家族に関わったことで看護師として、一人の人として成長させてもらったと感じており感謝の気持ちでいっぱいです。

2023年1月投稿


「利用者さんは私の先生」

投稿者: 中島 絵理子(なかじま えりこ) さん

一般財団法人同友会 藤沢訪問看護ステーション(神奈川県)

私の初めての受け持ちであり、忘れられない利用者さんは、小学校の元教員Bさん(男性)でした。
60代という若さで難病を患っており、教員をリタイアして間もなくの発症でした。
Bさんの亡くなられている奥様も元教員で、私の兄の担任の先生をしていた経緯もあり、地元で仕事をするということは運命のような巡り合いがあるのだな、と新人の頃から私は訪問看護に魅了されていました。

長女が小学校に入学してから、軽いいじめに遭ってしまった事がありました。幼稚園から小学校という、自立への階段を登る第一歩で躓いてしまった長女が私は不憫でたまらなくなり、Bさんへ相談をしました。Bさんは難病で上手く喋ることができず、唾液の誤嚥もあり、咳込むことも多々ありました。そんな中、ゆっくりゆっくりと、子供を見守ることの大切さ、子供の持っている強さを教えてくれました。私はその言葉の暖かさに涙が出ました。看護というものは与えるだけではない、人生の先輩から与えられる物も大きいのだということを痛感しました。

今は天国にいるBさん。優しいあの笑顔が忘れられません。私の子育て見守っていて下さいね。ありがとうございました。

2023年2月投稿


「そうだ、訪看がある」

投稿者: 梁井 史子(やない ふみこ) さん

愛全会 訪問看護ステーションとよひら・ちゅうおう(北海道)

2年前、乳がんが再発した。転移もあった。3年前に手術・抗がん剤化学療法・放射線治療をして、やっと全て抜けた髪の毛も以前に近いほど伸びそろって、訪問看護の仕事もがんばっているそんな時に診断された。

最初に病名を告知された時よりショックだった。再手術の後の抗がん剤治療が予定され、独身・独居で、近所に80代の年老いた母親が住んでいるだけで、日常生活での介護をしてくれる人など近くにいなかった私は不安で孤独でしかたなかった。その時私は「そうだ、訪看がある」と思った。私は以前勤務していた訪看ステーションに訪問看護を依頼した。

結局抗がん剤の副作用に襲われ10ヶ月もの間休職した。激しい倦怠感や痛み、肝機能異常、糖尿病発症、全身の浮腫、皮膚炎、そして死への恐怖などとにかく苦しい日々だった。そんな毎日を支えたくれたのは、訪問看護だった。訪問看護は、とにかく心強く、やさしく、頼りになった。

今現在も訪問看護師として働く私を救ったのも救うのも訪問看護だった。そして今は一人でも多くの利用者さんを救いたいと、改めて思っている。

2023年2月投稿


「冷え性なのに… 」

投稿者: 川上 加奈子(かわかみ かなこ) さん

よつば訪問看護リハビリステーション(神奈川県)

100歳のKさんはいつも「出来ることは自分でやらないとね」と着替えなどもお手伝いなしで頑張られる方でした。

あの日も体温計を挟む為に服を下から捲り始めたのですが、2枚3枚と捲っても中々肌は見えてきません。5枚目でようやくお腹が出てきたのですが、Kさんは息も絶え絶え。暫く沈黙の後、2人で「タケノコみたい!」と大笑いしたのを覚えています。

そんな寒がりのKさんに体温計を挟もうとした時の事です。「ひゃっ!」
冬場、中々温まらない冷え性の私の手がKさんのお腹に触れてしまったのです。
私は「ごめんなさい!」と慌てて手を引っ込めようとしましたが、Kさんは意外にも私の手をがっしりと掴んで自分のお腹に押し当てたのです。そして「そのまま動かないの!ここが1番温かいんだから」と。私はびっくりすると同時に、自分の体温で私の手を温めようとして下さるKさんに、亡くなった母が重なり、目頭が熱くなったのを覚えています。そんなKさんとの思い出です。

2023年1月投稿


入賞エピソード

「爪切りを通して」

投稿者: 古橋 笑生(ふるはし えみ) さん

ひだかK&F訪問看護ステーション(埼玉県)

Mさんはケアが終わるとすぐに「はい、またね」と切り上げてしまう節がありました。

ある日Mさんの足の爪が伸びており、Mさんに爪切りを提案しました。すると「そんなことお願いしてもいいの?すごく助かるよ!!」と喜び、その後「今日爪切りお願いできる?」と頼まれることや、家族や日常生活での心配事など想いを話してくれるようになりました。

しかし、徐々にMさんの状態が悪化していきました。福祉用具等について私が提案すると「よく見てるね…そうだね、そろそろ必要かもしれないね」と導入を受け入れてくれました。また、「本当に良く見てくれるんだ、少し違っただけでもすぐ気づいてくれて…」と笑顔で話して下さいました。残念ながら、昨年の暮れにMさんは急逝されました。最後の訪問時、自分の体調が悪い中でも奥さんを想う気持ちを話してくれました。たった1つ、『爪切り』という何気ないケアがMさんからの信頼を得るきっかけとなりました。

2023年2月投稿


「104歳の日常」

投稿者: 長尾 弥生(ながお やよい) さん

白川訪問看護ステーションこだま(岐阜県)

訪問看護と言うと介護度の高い人や、医療依存度の高い人が使うイメージで少し敷居が高い気がするかもしれない。もちろん医師の指示書は必要であるが、訪問看護など必要ないと言う医師はほぼいない。訪問看護は医療的な処置は勿論、人生の最後のケアもおこなうが、介護指導、介護相談、病気の予防、家族支援まで多岐にわたる。

私達のステーションの最高齢104歳の男性。かれこれ20年あまりのお付き合いになる。高齢者アパートに一人暮らしで、通所介護、ヘルパーの支援を受けているものの、身の回りの事はほぼ自立。マイペースな毎日が故に、エピソードが盛り沢山。決してアルコール中毒ではないが、お酒を飲んで人と話す事が大好きで、朝から一人で飲酒をされ呂律が回らない事もしばしば。訪問の度に一升瓶と缶ビールの数を数えるのも私達の仕事のひとつ。尿瓶の隣にあじのみりん干しが置いてあるが、本人が気にならなければそれでいい。はちゃめちゃな日常であるが、この日常はこの人にとって生きる力である。

訪問看護とは病気を治すのではなく、その人の生活に寄り添い人生を支える仕事だと思う。

その事を教えて下さった104歳の日常に感謝したい。

2023年2月投稿


「きっかけはポーカー」

投稿者: 服部 景子(はっとり けいこ) さん

愛全会 訪問看護ステーションとよひら・ちゅうおう(北海道)

受け持ち利用者さんへ入浴を促しても「入りません」と拒否をされ、私では駄目なのかと落ち込む日々。ある日ふとテーブルにあるトランプが視界に入りました。「今日は二人でトランプしませんか?」と声をかけると意外にも「いいよ」と返事が。

それ以降、ケアの後にポーカーをするのが定番となりました。政治、スポーツ、昔話など色々話しながらの真剣勝負、五分五分の戦いです。

それから数ヶ月後、突然「頭洗ってくれる?」と声をかけられました。嬉しくて嬉しくてステーションに戻ってすぐ、仲間やケアマネさんに話し、皆で喜びを分かち合いました。

訪問看護は利用者さんのご自宅にお邪魔してケアをさせていただく仕事です。利用者さんのテリトリーに入っての看護ですから気を遣う事も多い一方、利用者さんの生活や嗜好や信条に触れ易い環境下でケアをさせてもらえる喜びや楽しみも沢山あり、訪問看護の醍醐味なのだと感じた出来事でした。

2023年2月投稿


「ちょっと早めの金婚式」

投稿者: 村田 実稔(むらた みのる) さん

ウィル訪問看護ステーション江東サテライト(東京都)

結婚50周年を迎える夫婦に対し、娘さんと作戦をたてサプライズ金婚式を行った話。

尿管癌末期で病院から自宅に帰ってきたご主人。はじめは家の中を自由に動いていたが、病状の進行と共に、1日の大半をベッドで過ごすようになっていった。その頃奥様より「もう少しで結婚50周年なのよ」と一言があり、どうにかしてお祝いをしてあげたいと考えた。そこで、近くに住む娘さんと相談をし、急遽サプライズの自宅金婚式を行うこととした。計画をした1週間後、黄色や白の花がたくさん入った大きな花束と一緒にお祝いをした。前日はずっと横になっていたご主人であったが、この瞬間だけはお座りになって笑顔でピースする姿まであった。食欲もまったくなかったのにこの日だけは一杯のビールとお寿司をつまんだとか。

そして、その一週間後にお看取りとなった。奥様からは「金婚式行えてよかった。悔いが残るところだった。」との声をいただくことができた。

2023年1月投稿


「新任訪問看護師からの学び」

投稿者: 佐藤 理恵(さとう りえ) さん

一般財団法人同友会 藤沢訪問看護ステーション(神奈川県)

私の勤務する訪問看護ステーションは、スタッフの平均年齢が50代、訪問看護師歴10年以上とベテラン揃いの事業所です。そんな事業所に昨年30代の新任訪問看護師が採用され、私が教育担当を任される事になりました。

新任を迎え入れるにあたり、「今までの看護経験を活かし、その人らしい看護が実践できる看護師」を育成したいと意識して取り組んでいきました。訪問看護師としては新人でも、看護経験は10年あります。彼女が実践してきた糖尿病やフットケアの知識と経験が発揮できるような受け持ち利用者の選定を行い、自信をもって単独訪問ができるように進めていきました。また彼女が主催の勉強会を実施した事で、スタッフの意識も変わり、今では全員が糖尿病やフットケアの視点をもって利用者と関わっています。彼女の存在がとても良い刺激となっています。まさに「教育」とは「共育」であると実感しています。    

今後も成長し合える職場づくりを目指していきます。

2023年2月投稿


「人生最高のラブレター」

投稿者:高倉 陽子(たかくら ようこ) さん

帝人訪問看護ステーション株式会社 望星台訪問看護ステーション厚木(神奈川県)

間質性肺炎で在宅酸素導入中。米寿間近で、ほぼ寝たきりの生活レベルでありながら、スマホをサクサク使いこなす患者様でした。「今日はギャル?それとも熟女が来たの?」など、毎回どの看護師が来るのか想像して楽しみにされていました。こちらから見るととても仲良し夫婦なのに「看護師さんが来ると、夫婦の会話が弾みます」とユーモア溢れるチャーミングな患者様でした。

病状は徐々に進行していきます。医師から余命3ヶ月と宣告され、間もなく「苦しい。こんなに苦しいなら死にたい」と発熱するたびに肺へのダメージが顕著に現れはじめました。「最期まで家で看取りたい。でも苦しむ姿を見ていられない。自分の介護に自信がない」。奥様の葛藤のサポートも行って参りました。

呼吸困難で会話は出来ず、筆談も手が震えて難しくなっていました。死後、亡くなる前日にスマホに残した奥様宛てのラブレターを息子様が発見しました。「かあさんへ。色々面倒かけました。本当にありがとう。余生を楽しんで慌てずにね。出来れば次も結婚して下さい」。粋な計らいに感無量でした。素敵なご夫婦の人生に寄り添えた事。在宅看護ならではの貴重な経験でした。

2023年2月投稿


受賞された皆さま、おめでとうございます! 今後、「みんなの訪問看護アワード」表彰式のレポートやエピソードの漫画記事公開も予定しています。そちらもぜひご覧ください。

編集: NsPace編集部

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