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2021年10月26日
2021年10月26日

ハンチントン病

舞踏のような不随意運動があることから、以前は「ハンチントン舞踏病」と呼ばれていた遺伝性の難病です。30歳代以降の発症が主ですが、幼児期に発症する場合もあります。 病態 ハンチントン病は遺伝性の神経変性疾患です。主な症状は、舞踏運動を中心とする運動症状と、精神症状です。以前はハンチントン舞踏病と呼ばれていましたが、主症状は舞踏運動だけではないため、名称が改められました。 ハンチントン病は常染色体優性遺伝様式の疾患です。 遺伝子は対になって存在していますが、親から受け継いだ遺伝子のどちらかにハンチントン病の遺伝子変異があれば発病します。 疾患にかかわる遺伝子は、50%の確率で子どもに伝わります。 そのため、患者の両親どちらかもハンチントン病を発病していることが大半です。家族の中に患者がいる場合、子や兄弟姉妹にも保有者がいる可能性があります。 子どもは親に比べて若い年齢で発病する傾向があり、子どもが親より先に発症する例もみられます。 遺伝子検査が保険診療の対象ですが、安易な遺伝子診断は避けなければなりません。ときには、子どもの遺伝子診断が、発症していない親の発症前診断となってしまいます。関連学会の指針では、「治療法がない成人発症の遺伝性疾患の遺伝子診断については、事前の十分なカウンセリングにより、本人の自発的意思の確認が必須」であり、かつ「検査結果告知後の継続的な心理的支援が不可欠」としています。(※1) 疫学 ハンチントン病の有病率は日本人では人口10万人あたり0.7人と推定されています。(※2)2019年度末現在、ハンチントン病での受給者証所有者数は約900人です。(※3)有病率に男女差はないのですが、人種により異なる傾向があり、有病率はコーカソイドでは高く、アジア人・アフリカ人で低くなっています。 好発年齢は30~50歳ですが、発症年齢は幼児から高齢者まで多様です。20歳以下で発症した場合は、「若年型ハンチントン病」と呼ばれます。若年発症では一般的に症状が重く、速く進行します。 症状・予後 症状は大きく、▷運動症状(不随意運動、運動の持続障害)▷精神症状(感情障害、認知機能障害) ── に分けられます。 症状は次第に進行します。寝たきりになると全介助が必要です。罹病期間は15~20年ほどです。ただし、患者によって症状やその程度はかなり違います。家族でも症状は一様ではありません。 不随意運動 舞踏運動を中心とした不随意運動が現れます。舞踏運動は、意思に関係なく、不規則で細かく速い動きが、四肢や顔面に生じます。 ほかにも、ジストニア(不随意に力が入る)、ミオクローヌス(筋肉がぴくぴくする)などの不随意運動もみられます。 発症早期には巧緻障害として現れ、症状が進むと、嚥下障害や構音・構語障害に進行します。 運動の持続障害 運動の持続障害は、同じ動作を継続することができなくなる症状です。手に持った物を落とす、転ぶなど、日常動作に支障をきたす原因になります。症状が進行するとやがて寝たきりとなります。 感情障害 感情が不安定になる、怒りっぽくなるなどの性格の変化や、何かにこだわり、同じことを繰り返すなど、行動に変化が起こることがあります。不眠やうつなどの感情障害がみられ、自殺企図にも注意が必要です。 一方、暴言や暴力で家族の負担が大きくなることもあります。その場合は速やかな介入が必要です。施設入所なども視野に入れ、多職種を交えて検討します。 認知機能障害 初期には認知機能障害は目立たず、徐々に現れます。アルツハイマー病とは違って記憶障害は軽度で、計画を立てて実行する機能の障害(遂行障害)が中心です。 若年型ハンチントン病では、初期から運動症状が現れるのは3分の1程度で、精神症状や認知機能障害がみられます。てんかん発作の合併が多いのも若年型の特徴です。 治療法 根本的な治療法はなく、不随意運動と精神症状への対症療法が柱になります。 リハビリのポイント ●病状の進行に伴い、活動量が低下するため二次的な運動機能低下が懸念される。予防目的の運動療法を検討する●精神症状や認知機能低下に対しては作業療法が有効な場合がある●状態に合った福祉用具の導入を提案する●車いすでは不随意運動のため滑り落ちることがあるので、座位保持の方法など、状態に合った使用法を助言する 看護の観察ポイント ●運動症状・精神症状により、日常生活・社会生活に問題が生じることがある。早めに課題をキャッチし、多職種で連携し予防および対応策を検討する●症状や程度の変化を観察する●今後の症状を予測し、福祉用具やサービスなどの導入の必要性を前もって検討する●転倒による外傷の有無を観察する●外傷を予防する対策を実施する●食事時の、食物の詰め込みや、嚥下障害などの有無を観察する●上記のような食事時のリスクに対し、必要な介入または助言を行う●体重減少ややせが目立っていないかを観察し、エネルギーを補う必要性をアセスメントする●皮膚の状態を観察する●暴言や暴力などで家族が疲弊していないか、家庭介護が継続できる状況かを観察する ** 監修:あおぞら診療所院長 川越正平 【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】※1 「神経疾患の遺伝子診断ガイドライン」作成委員会『遺伝子診断の目的と概要 神経疾患の遺伝子診断ガイドライン2009』 東京,医学書院,2009,4-8.※2  難病情報センター『病気の解説(一般利用者向け)ハンチントン病(指定難病8)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/175※3  厚生労働省『難病・小児慢性特定疾病 令和元年度衛生行政報告例』2021-03-01. ○難病情報センター『診断・治療指針(医療従事者向け)ハンチントン病(指定難病8)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/318○Huntington病の診断,治療,療養の手引きガイドライン作成委員会『Huntington病の診断,治療,療養の手引き』神経治療学 37(1),2020,68-83.○神経変性疾患領域における基盤的調査研究班『ハンチントン病と生きる:よりよい療養のために』Ver.2.2017.http://plaza.umin.ac.jp/~neuro2/huntington.pdf○日本医学会『医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン』https://jams.med.or.jp/guideline/genetics-diagnosis.pdf

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2021年10月19日
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第2回 生活をよく知る訪問看護師だからこそできること

福岡大学病院循環器内科では、地域の訪問看護ステーションと連携して、心不全患者の急性増悪・再入院を防ぐための取り組みを行って効果を上げています。第1回目は、大学病院と訪問看護ステーションの連携の概要を紹介しました。今回は、患者さん・家族が暮らす生活の場で訪問看護師が行うアセスメントの実際と、大学病院の専門医のサポートの実際を紹介します。 生活の場に密着している訪問看護師への期待 福岡大学病院循環器内科の志賀悠平医師は、「急性期医療を担う大学病院の外来では、多くて月2回、たいていは1~2か月に1回くらいしか患者さんを診ることができません。しかも、私たちは病院に来ている患者さんしか診ていません。お家にいらっしゃる状態というのが見えないため、在宅で食事をめぐる問題や行動面のトラブルが起こっていても把握できません。しかし、訪問看護師さんたちは少なくとも週1回入っていますから、病態の悪化や状態の変化などの細やかなチェックができます。在宅でのチェックにおいては、訪問看護師さんのほうがプロフェッショナルなのではないかと思っています」と訪問看護師への期待の大きさを語ります。 福岡大学病院循環器内科志賀悠平 医師 「病院ではわからない部分を知ることができるのは、私たち訪問看護師の特権だと思っています。患者さんの状態だけでなく家庭内のキーパーソンや家族の支援体制、家屋構造なども、在宅療養における有用な情報です」と博多みずほ訪問看護ステーションの黒木絵巨所長は言います。 博多みずほ訪問看護ステーション黒木絵巨 所長 何らかの症状があっても「年のせいだから」と見過ごされがち 心不全には、心臓の機能低下によって起こる2通りの症状があります。「収縮機能」が低下することによって全身の臓器に十分な血液が行き渡らないことから起こる症状と、「拡張機能」が弱くなり血液がうっ滞することによって起こる症状の2タイプです。血液が十分に行き渡らなくなって起こる症状には、疲労感、不眠、冷感などがあり、血液のうっ滞によって起こる症状には、むくみ(浮腫)、息切れ、呼吸困難などがあります。 黒木さんは特に『むくみ』には十分に注意するそうです。「通常は足背などを見てむくみの程度を判断しますが、訪問してお顔をみたときに『あれ? ちょっとおかしいな』と感じることもあります」と話します。 特に高齢者では、「収縮機能が保たれた心不全(拡張不全)」が多いことがわかってきています。血液を送り出す力が衰え、静脈や肺、心臓などに血液が溜まりやすくなってしまうもので、通常の検査では見つかりにくいとされています。さらに高齢者では自覚症状がはっきりと現れにくく、何らかの症状があっても「年のせいだから」などと見過ごされがちです。日常生活にいつも接している訪問看護師ならではの『直感』が重視される部分も大きそうです。 むくみのほかには、息切れや呼吸困難感も重要なサインの1つで、軽い場合は階段を上がる際に息切れする程度ですが、進行すると少し歩いただけで息苦しくなると言います。さらに悪化すると、夜寝ているときに咳が出て寝られなくなることもあります。「起座呼吸」にまで進んだ場合は入院が必要と言われています。 患者情報がタイムリーに多職種で共有されるメリット このように、訪問看護師の適切なアセスメントがタイムリーに多職種で共有されるメリットは大きいです。そのためには、ICTにより多職種が情報を共有できるツールの介在が欠かせません。 黒木さんはICTによる情報連携について、「現在は福岡大学病院の志賀先生のところと開業医、私たちの訪問看護ステーション、ケアマネジャーがICTツールでつながっています。私たちは医師とすぐに連絡を取りたいと思っても、この時間は電話してもいらっしゃらないだろうなと躊躇してしまうことも多いです。特に大学病院の先生との連絡ツールとして本当に助かっているので、もっともっと取り入れていきたいと思っています。こうやって即座に連携が取れるということは本当に心強いですね」と話しています。 志賀先生も、「訪問薬剤師と共有ツールでつながっていたこともあります。認知機能に少し障害があって服薬カレンダーをうまく使えず服薬管理ができないケースなどでは、薬剤の適正処方や服薬指導をきめ細かく行うために、薬剤師との情報共有ができて非常に有効でした」と、多職種連携のための共有ツールを高く評価されています。 心不全の再入院までの期間が延びているという『手応え』 福岡大学病院と博多みずほ訪問看護ステーションの有機的な連携によって心不全患者の再入院予防を図る取り組みの効果について志賀先生は、「まだまだ数は少ないのですが、確実に地域とつながっているという感触を得ています。少ない症例ではありますが、再入院までの期間が延びているという手応えはしっかり感じています」と述べてくださいました。 急性期病院での診療のかたわら、週1回訪問診療クリニックでの臨床を続けている志賀先生ならではの『地域包括ケアマインド』と、黒木さんをはじめとした訪問看護師の『在宅看護のスペシャリティ』がうまくマッチしたケースと言えるでしょう。 * 心不全看護の専門性をさらに高めるために黒木さんが取得された「心不全療養指導士」資格については、ご存知ですか?心不全療養指導士シリーズでご紹介します。 ** 志賀 悠平福岡大学病院循環器内科 医局長専門は心臓CT、高血圧、心不全、心臓リハビリテーション。日本内科学認定医、日本循環器学会専門医、日本高血圧学会専門医・指導医、日本心臓リハビリテーション学会指導士、医学博士。 黒木 絵巨博多みずほ訪問看護ステーション 所長大分県出身。3児の母。総合病院、透析クリニック勤務の後、2018年から訪問看護師として勤務。2021年3月に心不全療養指導士資格取得。 記事編集:株式会社照林社

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2021年10月19日
2021年10月19日

訪問看護あるある座談会 vol.7 認知症看護編

2025年には日本の65歳以上の高齢者のうち約5人に1人が認知症になると言われています。(引用元:厚生労働省 認知症の人の将来推計について https://www.mhlw.go.jp/content/000524702.pdf  )また、介護や支援が必要になる原因の第1位が認知症で、介護保険を利用した訪問看護おいて関わる機会も多いかと思います。今回は3人の訪問看護師さんにお集まりいただき、在宅での認知症看護の「あるある」についてトークをしてもらいました。 ■座談会に参加してくれた看護師さんプロフィール ゆりやりたいことを支えられる看護に魅力を感じて訪問看護に転職。訪問看護ステーションの管理者経験もあるママナース。訪問看護師7年目。 あい病棟、介護施設を経て、家族が訪問看護を利用していた経験から訪問看護ステーションに転職。訪問看護師2年目。 みほ訪問看護の実習で暮らしが見える面白さを感じ、新卒から訪問看護師に。オンコールやプリセプターもこなす中堅ナース。訪問看護師6年目。 本人に告げずに施設入居することのモヤモヤ あい:最近訪問している利用者さんに徘徊のトラブルがあったんです。認知症の方への対応って悩みますね。 みほ:徘徊ですか…。印象に残ってる利用者さんがいて、一人暮らしで認知症がある方でした。足腰は元気で、近所の食堂にご飯を食べに行くんだけど、お金を払い忘れてしまって。その度に遠方に住んでる息子さんがわざわざ謝罪に来ていました。いろいろ工夫はしたのですが、トラブル続きで息子さんが限界になってしまって、最終的に施設に入ることになったんです。ちょっと徘徊とは違うかもしれませんが。 あい:ご家族もお辛い時期がありますよね…。 みほ:でもご本人に「施設」という言葉を出すと怒るので、最終的には遊びに行くという名目で息子さんが施設まで連れて行ったんです。本人に告げずに施設に入ることにはモヤモヤしましたね…。ご家族の心配とか疲れとの兼ね合いもあるけど、あまり会えないご家族のフォローは難しいですね。 ゆり:あのときご家族にこうフォローしておけばよかった、とか思い返すこともありますよね。コロナ禍になって、直接話せる機会が減って余計に難しくなってる。 みほ:ご本人も一人で暮らすことのつらさを時々話したりはしてたんですけど、それでもやっぱり家にいたいって言っていて。 あい:自分でも忘れちゃうことに葛藤していて、不安だけど家にいたいっていう時期だったんですね。 ゆり:モヤッとしますよね。もともとの家族関係もさまざまだと思うんだけど、なんとなくのニュアンスで伝わるような関係もあれば、はっきり言うことでうまくいく関係のご家族もいたりするし。もしかしたら、何も言わなくても施設に連れて行くときの雰囲気で察せるような家族関係の人もいるかもしれない。そのご家族にどのパターンが合っているのかを探るのも、看護師の大切な役割かもね。 みほ:たしかに。当時はまだ新人で「認知症の方にも正しいことを正しく伝えるべき」って思っていたんですけど、正しい情報を伝えるとか、本人の意思をすべて汲むのが、必ずしも正解ではないなと。ふんわりケアする方向に誘導して、利用者さんの命とか体調を守ることも必要だと最近は思うようになりましたね。 ゆり:そうねー。命に関わるようなお薬を飲むのを見届けなきゃいけないんだけど、利用者さんが他のことに集中して飲んでくれない時とか、お話して気をそらして薬を飲んでもらうとかも必要なことだし。興奮してバイタルサイン測れない時には、お話だけ聞いて帰ってくるときもあるしね。 みほ:バイタルサイン測定できない時は、そっと手首に指当てて、脈は大丈夫、皮膚も熱くないので熱もなさそう、って確認したりします。基本的な視診や触診、会話などから得られるものもありますね。 チームでケアを繋ぐ!奥が深い認知症看護 あい:毎回のケアの順序って大体決まってるじゃないですか。でも認知症の方の訪問は特に毎回違っていて「今日はどこからやろう」ってなります。今日は入浴介助の日だったけど、利用者さんの気分が乗らなくて、じゃあ代わりにこれをしよう、みたいな。決まった流れができるだけではなくて、応用力必要だなって思います。 みほ:めっちゃわかります。訪問時間に収まるようにケアを組み立ててイメトレして行ったけど、おうちに着いてみたら「入れ歯がないのよ」ってずっと探し物をしていて。結局入れ歯を探して訪問時間が終わったこともありました。でも入れ歯も見つかったし、これで食事も食べられるし、利用者さんの心配事も解消されたしオッケーかなと。 あい:そうそう、ポジティブに捉えて置き換えますね。その日のケアができなくても、1人でどうにかするのは難しくても、1週間でチームでケアを繋いでいけば生活を保てるなって。次に行く看護師に「今日はこれができなかったので、次行ってできそうであれば、このケアをお願い」って引き継いでやってもらうとか。 ゆり:ヘルパーさんと連絡ノートを作って、これできましたってリレーしていくのもいいよね。連絡ノート書くの、時間かかるけど。 あい:連携は何かと時間かかりますよね。お薬とか排泄のこととか…。 ゆり:ケア内容を変えるだけでも、試行錯誤して数ヶ月とかかったりしますよね。でもピタッとケアがハマった時って、嬉しいよね。 あい:嬉しいですね。利用者さんで薬の飲み忘れが増えた方がいて、看護師管理で内服カレンダーを使い始めたんですけど、いざ導入してみたら混乱してしまって。色々試していたら「薬は自分でセットできるよ」って仰るのでやってもらったら、自分でセットできたんです。思ったより自分でできるね!ってみんなびっくりして。落ち着くまでに2〜3ヶ月かかりましたけど、利用者さんも慣れればちゃんと自分でできたりするんですよね。 ゆり:こっちができることを奪っている場合もあるから、利用者さんに合う方法を考えるとか、その人がやりやすいような置き場所にするとかも大切。医療的なケアが少ないからか、認知症看護って楽でしょ?って言う人もいるけど、すごく奥が深いんだよね。 記事編集:NsPace

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2021年10月19日
2021年10月19日

第4回 残業・休憩・休日編/[その2]朝礼や昼休みの電話当番、これって労働時間に入りますか?

前回の記事で、労働時間には「所定」と「法定」があること、「1日8時間・1週間40時間」という法定労働時間を超える残業に対しては、時間外割増賃金を支払う必要があることを説明しました。今回は、休憩時間などの周辺知識を含めて、何が「労働時間」とみなされるのかを具体的に検討します。 私の事業所は9時から始業ですが、実際は、毎朝8時30分にみんなで集まり、その日の業務を確認する「朝礼」を行っています。この始業前の朝礼は、労働時間に含まれますか?朝礼への参加を義務づけていれば、労働時間になります。 使用者の指揮命令下にあるかどうかがポイント 労働時間とは、過去の判例で次のように定義されています。 「労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まる」(三菱重工長崎造船所事件・最高裁平成12年3月9日判決) 少し難しい表現ですが、ポイントは、使用者の指揮命令下にあるかどうかということです。あくまで客観的に判断するため、事業所が「始業時間は9時ですので、その前の朝礼は労働時間ではありません」と勝手に(主観的に)決めることはできません。 参加が義務づけられた朝礼は労働時間 質問のケースでは、仮に、朝礼に参加しなくてもよく、参加が完全に自由であれば、「使用者の指揮命令下」にあるとはいえないでしょう。 しかし、参加が義務づけられていたり、参加をしなければ上司から注意を受けたり、処分を受けたりするといった不利益がある場合には、「使用者の指揮命令下」にあるといえ、朝礼に参加している時間は労働時間になります。 私の事業所では、昼の12時から13時までを休憩時間としています。ただし、休憩時間中に利用者様から電話がかかってくることがあるため、その電話には出られるよう、スタッフに交代で電話当番をしてもらっています。先日、あるスタッフから「電話に出なくてはいけないなら、休憩時間といえないのではないか?」と言われました。電話がかかってくることは多くないので、それほど負担になっていないと思うのですが、これは休憩時間とはいえないのでしょうか?休憩時間とはいえず、法定労働時間になります。 必要な休憩時間を正確に把握しましょう 使用者(事業所)は、一定の休憩時間を労働者に与えることが法律で義務づけられています(労働基準法34条1項)。具体的には、図1に示すように、労働時間が6時間を超える場合は少なくとも45分、また8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩時間が必要とされています。ポイントは、「超える」という言葉の意味です。労働時間が8時間ぴったりちょうどの場合は、8時間を「超え」ていませんので、「8時間以内」として45分の休憩を与えればよいということになります。なお、この休憩時間は分割して与えてもよく、例えば1時間の休憩を30分×2回とすることも可能です。 図1 労働基準法上の休憩時間のルール ポイントは、休憩時間は「労働から解放されていなければならない」ということです。法律でも、労働者は、休憩時間を自由に利用できると定められています(労働基準法34条3項)。 休憩中の電話当番は労働時間 ここで質問のケースを振り返ってみましょう。この事業所では、休憩時間中に利用者様から電話があった場合は、当番制でその電話に出てもらうようにしているとのことですが、これはスタッフの立場からすると「電話にすぐに気づけるように、音楽を聞くのはやめておこう」「昼休みの外出はできないな……」というように、休憩時間を自由に利用できなくなってしまいます。そのため、労働から完全に解放されているとはいえず、結果的に電話当番をしている間も労働時間となっています。これは、仮に1本も電話がなかったとしても同じです。 休憩はみんなで一斉にとるの? この事業所の場合、12時から13時まで電話当番をしてもらうスタッフには、この時間帯とは別に休憩時間をとってもらうようにするとよいでしょう。 なお、法律では、休憩は全スタッフに一斉に与えることが原則とされていますが(労働基準法34条2項)、看護事業に関しては、例外的にそのような原則は適用されないこととされています(労働基準法施行規則31条)。そのため、訪問看護の事業所においては、休憩は皆バラバラにとってもよいことになっています。 看護事業に関しては特別な取り扱いが認められていますので、チェックしておきましょう。 上司から指示されているわけではないのですが、業務量が多いため、仕事を自宅に持ち帰ってやらざるを得ません。深夜に上司に対してメールで成果物を提出したりしています。この場合、割増賃金は何ももらえないのでしょうか。事業所が、自宅に持ち帰って仕事をしていることを黙認している場合、労働時間とされ、割増賃金の支払いが必要になることがあります。 使用者の指揮命令下であれば残業代は必要 これまで説明してきたように、労働時間にあたるかどうかは、「使用者の指揮命令下」にあるか否かによって決まります。仕事をする場所が、職場でないといけないという決まりはありません。 上司が、自宅で作業することを指示した場合、それは強制にあたり、仕事をしている時間は労働時間になります。 黙認された持ち帰り残業は労働時間にあたる場合も では、上司からの明確な指示がない場合はどうでしょう。 質問のようなケースでは、上司は、深夜にメールで提出された成果物を受け取っているのですから、スタッフが深夜まで作業をしていることを認識できているといえます。にもかかわらず、深夜の作業は止めるように指導せず、成果物を利用しているならば、結局、その上司は、スタッフが自宅で作業していることを黙認しているといえるでしょう。そのような場合は、作業をしていた時間は労働時間にあたるとされることがあります。そのため、事業所としては、①自宅での持ち帰り残業は「許可制」とし、②仮にスタッフが自宅での持ち帰り残業を事業所の許可なく行っていることがわかった場合は、それを黙認するのではなく、注意して止めさせるべきでしょう。また、スタッフ一人ひとりの業務量を見直すなど、職場環境の整備も必要といえます。 ** 前田 哲兵 弁護士(前田・鵜之沢法律事務所) ●プロフィール医療・介護分野の案件を多く手掛け、『業種別ビジネス契約書作成マニュアル』(共著)で、医療・ヘルスケア・介護分野を担当。現在、認定看護師教育課程(医療倫理)・認定看護管理者教育課程(人事労務管理)講師、朝日新聞「論座」執筆担当、板橋区いじめ問題専門委員会委員、登録政治資金監査人、日本プロ野球選手会公認選手代理人などを務める。 記事編集:株式会社照林社

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2021年10月12日
2021年10月12日

第1回 地域ぐるみで心不全患者を支える

超高齢社会を迎えて心不全患者が増加しています。心不全の主な症状はむくみ(浮腫)、息切れ、呼吸困難などですが、高齢心不全患者は自覚症状に気づかないことが多く、知らない間に急性増悪を起こして再入院するケースが多いといいます。福岡大学病院循環器内科では、地域ぐるみの包括医療を行って再入院を防ぐ好結果を得ています。地域連携の取り組みの実際を2回にわたって紹介します。 必要なのは地域ぐるみの多職種チーム医療 心不全とは、何らかの異常により心臓のポンプ機能が低下して、全身に十分な血液を送り出せなくなった状態をいいます。心不全患者数は全国で約120万人、2030 年には130 万人にもなると推計されています。特に高齢になればなるほど罹患者率が高くなることが知られており、超高齢社会を迎えつつあるわが国では、近未来的に心不全患者数は急増するものと予想されています¹。 そこで、日本心不全学会では2016年に、75歳以上の高齢心不全患者を対象にした治療指針である「高齢心不全患者の治療に関するステートメント」を公表しました。この中で、高齢心不全患者の円滑な診療のためには、基幹病院専門医とかかりつけ医、および多職種チームによる管理システムの構築が必要であることが明らかにされています²。 再発・再入院を防ぐ専門職どうしの密なつながり 急性期循環器医療を担う福岡大学病院循環器内科では、心不全の急性増悪・再発予防のための地域包括ケア活動として、チーム医療を推進しています。 福岡大学病院1973年開院。病床数915床(一般:855床、精神:60床)を有する福岡市西部地区および周辺地域の中核的医療センターの役割を果たす。 志賀悠平医師は、「増加する心不全患者の継続的な管理を考えるとき、急性期を担う循環器医師と地域に密着して活動されている開業医の方々、そして患者さんの生活をいつもそばで看ている訪問看護師や訪問理学療法士が、連携して包括的な医療に取り組む必要があります」と言います。 急性増悪を引き起こす要因としては、水分や塩分の制限の不徹底、治療薬内服の管理不足、さらに過度な活動による過労などが挙げられます。「これらは、患者さん自身の自己管理の不徹底によることもありますが、医療者側がうまくコントロールできていないこともあり、そのアンバランスによって入院になってしまうことが多いです。ですから、在宅で常に日常生活を看ている訪問看護師さんの役割は大きいのです」と志賀先生。 福岡大学病院循環器内科志賀悠平 医師 患者・家族の生活に密着している訪問看護師だからできること 同科と連携を密にしている博多みずほ訪問看護ステーションの黒木絵巨所長は、「在宅に戻られた心不全患者さんでは、特に水分や塩分の適正なコントロールが必要で、そのための食事指導が大切です。家に戻ってくると、どうしても好きなものを食べてしまう方が多く、漬物などが好きな高齢者は過剰な塩分を摂ってしまいがちです。日々の食事の内容は私たち訪問看護師が最も把握しなければならないところだと思います」と言います。 博多みずほ訪問看護ステーション黒木絵巨 所長 〈博多みずほ訪問看護ステーション〉2000年より福岡市で開設。呼吸器疾患の利用者が多く、呼吸リハビリテーションや機器管理などに力を入れて、サービスを提供。 塩分摂取の目安は、軽症ならば1日7g以下、重症では1日3g以下に制限するように指導します。具体的には、黒木さんが言うように漬物や佃煮を減らすこと、香辛料やレモンなど使って味付けや調理法を工夫することによって塩分制限を行います。「患者さんも自分をよく見せたいから、『そんなに漬物は食べていない』などとおっしゃるのですが、実態を把握するのが私たちの役目だと思っています」と黒木さん。 同訪問看護ステーションには訪問リハビリテーションのスタッフもいるため、運動や休息・睡眠にかかわること、さらには家の構造など、病院では知り得ない情報を主治医に伝えて適切な指示をもらうことができます。入院中にはわからない、在宅での日常生活の中に潜んでいる心不全の再発リスクをみつけて医師につなぎ、的確な指示のもと適切にコントロールするのが訪問看護ステーションの大切な役割です。 有機的連携のために必須な多職種の情報共有システム このような有機的な地域連携を実現するために必須なのが、多職種連携のための情報共有システムです。福岡大学病院と博多みずほ訪問看護ステーションでは情報共有のためのICTツールを活用しています。 志賀先生は、「訪問看護師さんが何かを察知した場合、いち早く大学病院に情報提供してくれることで、我々もタイムリーに医療上の指示を出すことができます。患者さんに最も密着している訪問看護師さんの視点だからこその情報も多くあります。家庭内にはさまざまな状況があります。家族間トラブルなどがある場合は、ご家族からの一方的なお話では判断できないこともあります。訪問看護師さんや訪問理学療法士の方々はケアの場面で日々、本人やご家族と接していますから、現場の『空気感』をお持ちです。そうしたリアルな情報を即時にウェブ上で共有できて初めて、有効な地域連携ができるのだと思っています」と話してくださいました。 ** 志賀 悠平福岡大学病院循環器内科 医局長専門は心臓CT、高血圧、心不全、心臓リハビリテーション。日本内科学認定医、日本循環器学会専門医、日本高血圧学会専門医・指導医、日本心臓リハビリテーション学会指導士、医学博士。 黒木 絵巨博多みずほ訪問看護ステーション 所長大分県出身。3児の母。総合病院、透析クリニック勤務の後、2018年から訪問看護師として勤務。2021年3月に心不全療養指導士資格取得。 記事編集:株式会社照林社 【引用文献】1.日本心臓財団『高齢者の心不全』https://www.jhf.or.jp/check/heart_failure/01/ 2.日本心不全学会ガイドライン委員会『高齢心不全患者の治療に関するステートメント』http://www.asas.or.jp/jhfs/pdf/Statement_HeartFailurel.pdf?iref=pc_rellink_01

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2021年10月12日
2021年10月12日

第4回 残業・休憩・休日編/[その1]この違いわかりますか? 割増賃金が発生する残業、しない残業

労働時間の管理は、労務管理の『基本中の基本』です。何が労働時間にあたるのかをきちんと理解していないと、法律で定められた残業代(時間外割増賃金)を適切に支払うことはできません。残業代の未払いに気づかず、ある日突然、スタッフからまとめて請求される……というケースも少なくありません。こうしたトラブルを未然に防ぐためにも、法的に正しい知識を身につけ、日頃からきちんと労働時間を管理しましょう。 私の事業所では、就業時間は9時~17時まで(うち1時間休憩あり)と決まっています。忙しい日にスタッフに18時まで1時間の残業をしてもらった場合、その分の割増賃金を支払う必要はありますか?この場合は法内残業にあたりますので、労働基準法が求める割増賃金の支払いは不要です。  労働時間には「所定」と「法定」がある 労働時間には「所定労働時間」と「法定労働時間」があります。まずはこの違いをしっかりと押さえることが管理におけるポイントです。 まず、「所定労働時間」とは、就業規則や雇用契約書の中で定められた労働時間のことで、始業から終業までの合計時間から休憩時間を差し引いた時間をいいます。所定労働時間は、企業や労働者ごとに自由に決めることができるので、労働契約の内容によってさまざまです。例えば、「9時~18時」と定めているところもあれば、「10時~17時」と定めているところもあるでしょうし、パートについては「13時~17時」としているところもあるでしょう。 対して、「法定労働時間」とは、その名のとおり「法律で定められた=法定」、つまり労働基準法32条で定められた労働時間をいいます。同法で、使用者は、労働者を1日あたり8時間、1週間あたり40時間を超えて働かせてはいけないことになっています。 これを超えて働かせるには、①36協定(※)を締結し、かつ、②労働基準法で定められた割増賃金(時間外労働は原則25%増)を支払う必要があります。 割増賃金の支払いが必要なのは法定外残業 この質問のケースでは、就業時間が「9時~17時、うち1時間休憩あり」なので、所定労働時間は、始業から終業までの8時間から休憩時間の1時間を差し引いた7時間です。 ですので、17時から18時まで1時間の残業を行っても、法定労働時間の「1日8時間」という上限を超えないため、割増賃金を支払う必要がありません。このように、残業はしているけれども法定労働時間内に収まっている残業を「法内残業」といいます。なお、賃金規程などで「法内残業についても割増賃金を支払う」と定めることは自由ですが、定めた場合は、当然その支払いをしなければいけません。 では、19時まで2時間の残業を行った場合はどうでしょうか。この場合、17時から18時までの1時間は法内残業ですが、18時から19時までの1時間は、1日8時間の上限を超えています。このように、法定労働時間を超える残業を「法定外残業」といいます。法定外残業に対しては、労働基準法で定められた25%増の割増賃金を支払う必要があります。 ここまでの内容を図1にまとめましたので、ご参照ください。 図1 所定労働時間7時間の場合の割増賃金 ※36(さぶろく)協定:労働基準法36条(時間外及び休日の労働)に基づく労使協定のこと。使用者が法定労働時間の上限を超えて労働させる場合に必要となる。 ある日、利用者様の体調変化が重なり、とても忙しい日がありました。スタッフのAさんは、午前9時から始業し、昼に休憩を1時間とりましたが、その後、午後11時まで働きました。この場合、13時間労働ということになりますが、割増賃金は1日8時間を超えた分に対して25%増で支払えばよいのですよね?いいえ。午後6時から午後10時までは25%増ですが、午後10時から午後11時までは深夜割増賃金が加算されますので、50%増で支払う必要があります。 割増賃金の3つの種類 割増賃金のしくみをきちんと押さえておきましょう。まず、割増賃金には、①時間外割増(1日8時間、1週間40時間超えの労働)、②休日割増(法定休日における労働)、③深夜割増(午後10時から午前5時までの労働)の3種類があります。それぞれの割増率は図2に示したとおりです。 図2 時間外労働、休日労働、深夜労働の割増率 時間外労働が1か月60時間を超える場合は、時間外割増は50%増となることに注意(ただし、中小企業は2023年4月1日以降から適応) 深夜労働が重なると割増賃金は50%増に 注意しなければいけないこととして、深夜労働の割増賃金は、時間外労働と休日労働の割増賃金に『加算される』ということです。下の図3をご覧ください。 図3 深夜労働と重なった場合 深夜労働をするという時点で、すでに1日8時間の法定労働時間は超過していることが多いですから、深夜に行われた作業に対しては50%増(25%+25%)の割増賃金を支払うことがしばしばあります。事業所としては、スタッフの健康のためのみならず、人件費抑制の観点からも、深夜の作業は可能な限り控えてもらうように指導したほうがよいでしょう。 なお、労働時間の管理については、厚生労働省が出している「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン 」が参考になります。厚生労働省のホームページから誰でもアクセスすることができますので、ぜひ、ご参照ください。 ** 前田 哲兵 弁護士(前田・鵜之沢法律事務所) ●プロフィール医療・介護分野の案件を多く手掛け、『業種別ビジネス契約書作成マニュアル』(共著)で、医療・ヘルスケア・介護分野を担当。現在、認定看護師教育課程(医療倫理)・認定看護管理者教育課程(人事労務管理)講師、朝日新聞「論座」執筆担当、板橋区いじめ問題専門委員会委員、登録政治資金監査人、日本プロ野球選手会公認選手代理人などを務める。 記事編集:株式会社照林社

特集
2021年10月5日
2021年10月5日

第3回 計画的な人材採用と育成/[その4]「目標管理」で“強いステーション”づくりを!

連載:働きやすい訪問看護ステーションにするための労務管理ABC 連載第3回目では[その1]~[その4]にわたり訪問看護ステーションにおける人材採用と育成について解説していきます。今回のテーマは“目標管理”です。ここでいう目標は事業所の理念や基本方針につながるものであり、利用者へのケアをとおして、その実現に貢献できる目標である必要があります。目標管理の重要性を職場にしっかりと周知し、理解を浸透させましょう。 ●ここがポイント!・目標管理とは、職員一人ひとりが目標を設定し、自らを管理することである。・目標設定では、個人と組織のベクトルを合わせることが大切である。・目標管理を形骸化させずより高い成果を得るために目標達成を支援するコーチの存在が必要不可欠である。 目標管理とは 目標管理とは、経営学者ピーター・F・ドラッカーによって提唱されたマネジメント手法です。ドラッカーの著書『現代の経営』の中で目標管理は次のように記載されています。 「今日必要とされているものは、一人ひとりの人の強みと責任を最大限に発揮させ、彼らのビジョンと行動に共通の方向性を与え、チームワークを発揮させるためのマネジメントの原理、すなわち一人ひとりの目標と全体の利益を調和させるためのマネジメントの原理である。これらのことを可能にする唯一のものが、自己管理による目標管理である。自己管理による目標管理だけが、全体の利益を一人ひとりの目標にすることができる。」(P.F.ドラッカー著,上田惇生訳 『現代の経営【上】』ダイヤモンド社,2015,p.187.より引用) 目標管理とは、職員一人ひとりが目標を設定し、自らを管理すること、つまり、目標による管理のことです。 目標管理は「Management by Objectives and Self-Control」と表記します。目標管理を構成する3つのキーワード、「マネジメント」、「オブジェクティブズ」、「セルフ・コントロール」について順に説明していきます。 マネジメント(management)とは 直訳すると「管理」、「経営」ですが、managementの動詞形manageの原義には「馬を手で扱う」という意味があり、そこから転じて「(扱いにくい人や事柄などを)うまく取り扱う」、また「なんとかやり遂げる」という意味があります。ここではマネジメントを英語の訳に即して「工夫や苦労を重ねてやり遂げること」と考えます。 オブシェクティブズ(objectives)とは 複数のストレッチ目標を意味します。ストレッチ目標とは、簡単に達成できる目標ではなく、背伸びをして手を伸ばさないと達成できないような目標のことをいいます。 セルフ・コントロール(self-control)とは 自分自身で目的を定め、計画を立て、意欲的、かつ主体的な行動をとれることをいいます。 目標管理のねらいと効果 目標管理のねらいは、主体的に考えて活動する人材を育成することにあります。 職員自らがストレッチ目標を設定し、目標達成に向けて創意工夫して取り組むことで、自分で考え行動し、壁を乗り切る力が身につきます。何か問題が生じたときにも、常に当事者意識をもって対処できるようになります。 また目標が達成されることで、自信が育まれ、レジリエンス(さまざまな困難な環境や状況に対しても適応し生き延びる能力)が鍛えられます。 目標設定のポイント 目標設定では、個人と組織のベクトルを合わせることが大切です。職員一人ひとりの目標が事業所のめざす最終目標(理念や基本方針)につながることで、事業所全体の利益が調和された状態になり、組織全体のパフォーマンスが向上します。 そして、目標は具体的に設定します。ここでは「グタイテキ」の頭文字に沿って、設定のポイントをご紹介します。 グ:具体的言った人のイメージと受け取った人のイメージが一致する。行動レベルの言葉にする。タ:達成可能ストレッチ目標を設定する。イ:意欲的達成することで自分自身、または周囲にどんな価値やメリット、意味があるのか考える。テ:定量化・数値化例えば、よく使われる「~に貢献する」「~をバックアップする」「~を推進する」「スムーズに~する」「迅速に~する」は具体的ではないため目標設定では不適切。キ:期限を定める 「いつまでに」達成するのかを明確にする。 目標管理の形骸化を防ぐコツ 目標管理を1人で行い続けるのは大変なことです。忙しさのなかで怠けてしまったり、中身が追いつかず形式的なものに陥ってしまったりしがちです。この形骸化を防ぐコツは成果を出して、成功体験を積み上げていくことです。 そして、成果を出すためには目標達成を支援するコーチの存在が不可欠です。コーチがいることで、達成に至るまでの時期が短縮され、成果のレベルが格段に上がります。コーチ役は上司が担うとよいでしょう。信頼関係が深まりチームワークが強化されます。 コーチに期待される役割には以下のようなものがあります。・新しい気づきをもたらす・視点を増やす・考え方や行動の選択肢を増やす・目標達成に必要な行動を促す基本的にコーチは一方的に指導したり、アドバイスを与えたりすることはしません。対話をとおして問いかけ、相手からさまざまな考え方や行動の選択肢を引き出します。この技法を「コーチング」といいます。 コーチ自身も目標管理を支援する能力が必要となりますので、部下の可能性を最大限引き出せるようなコーチングスキルを身につけましょう。 ** 齋藤 暁株式会社ムトウ コンサルティング統括部 部長中小企業診断士・社会保険労務士・医業経営・医療労務コンサルタント 医業経営・医療労務専門コンサルタント。全国の医療機関を対象に、中小企業診断士と社会保険労務士のW資格で経営と労務の両面をサポート。 ▼株式会社ムトウ コンサルティング統括部https://www.wism-mutoh.jp/business/consulting/ 編集協力:株式会社照林社 【引用文献】 P.F.ドラッカー著,上田惇生訳(2015)『現代の経営【上】』ダイヤモンド社

特集
2021年9月28日
2021年9月28日

第3回 計画的な人材採用と育成/[その3]「人材育成」のカギはコミュニケーション力アップ!

連載:働きやすい訪問看護ステーションにするための労務管理ABC 連載第3回目では[その1]~[その4]にわたり訪問看護ステーションにおける人材採用と育成について解説していきます。今回のテーマは“人材育成”です。今回はOJTやOFF-JTといった研修制度とともに、部下の育成に特化した対話形式のマネジメント手法である1on1ミーティングについてご紹介します。 ●ここがポイント!・新任訪問看護師の育成方法にはOJTとOFF-JTがある。・現場での指導だけでなく、その後もフォローと振り返りを促し次の成長につなげるしくみづくりが大切。・1on1ミーティングは、対話を通じて部下自らが問題解決の糸口を見つけ行動できるようにサポートする手法。 OJTとOFF-JT 新任訪問看護師の育成方法には、OFF-JT(Off the Job Training)による事業所外での基礎的な知識・技能の習得とともに、実際の仕事を通じて指導し知識・技術などを身に付けてもらい、担当ケースの難易度のレベルを徐々にあげるOJT(On the Job Training)があります。 さらに、OJTやOFF-JTで学んだ知識や技能を実践し、その結果について気づきや課題、改善点などを振り返るプロセスも育成の過程ではとても重要です。指導後のフォローも忘れずに、日常的に声かけし、振り返りを促し、次の成長につなげるしくみづくりが大切です。 例えば、OJTのしくみづくりに活用できるものとして、東京都福祉保健局のサイトで公表されている「訪問看護OJTマニュアル」と「評価シート」があります。▶東京都福祉保健局 訪問看護OJTマニュアル 「評価シート」をもとに訪問前に目標の意識づけを行い、訪問時に態度・行為全般を管理者がチェックし、訪問後に訪問内容全体の振り返りと次の目標設定を行います。お互いがOJTの状況を共有し、目標設定や振り返りに用いるコミュニケーションツールとして活用できます。 またこうした日々のOJTとは別に、新任訪問看護師以外の職員の人材育成を進めるうえで週1回あるいは月1回などのペースで「1on1ミーティング」と呼ばれる時間をもつことも効果があります。 1on1ミーティングとは 1on1ミーティング(以下、1on1とします)とは、部下と上司が1対1で行う対話のことをいいます。 上司が主体となって実施する業務管理や評価のための面談とは異なり、1on1の主体は部下です。部下のほうから仕事の悩みや問題などを上司に伝え、上司は一方的にアドバイスをするのではなく、問題解決に向けてどうしたらよいか部下と対等に意見を交わします。そして、対話を通じて部下自らが問題解決の糸口を見つけ行動できるようにサポートします。1on1は、職員1人ひとりが自律的な行動をとれるように、人材育成やパフォーマンスの向上を目的に、さまざまな企業で取り入れられています。 組織活動ではコミュニケーションをとることがとても重要です。これが不十分だと、報告や連絡、相談が滞り、お互いに何をしているのかわからなくなってしまいます。1on1では、仕事だけでなく、プライベートな話題も話します。部下とのコミュニケーション不足を解消するしくみとして、1on1を活用するのも1つの方法です。 1on1の進め方 事業所で1on1を導入するには、どのようにすればよいでしょうか。ここでは、1on1の進め方を4つのステップに沿って説明していきます。 Step1 信頼関係をつくる まずは日ごろからコミュニケーションを重ね、信頼関係をつくっておくことが大切です。信頼関係のないところで1on1を行っても、職員から本音を引き出すことは難しいでしょう。 普段の接し方や受け答えから、職員は上司がどのような人物か見ています。職員との関係性を築くためにどうしたらよいか考え、行動することが必要です。「私の話にしっかり耳を傾け、認めてくれる。信頼できる上司だ」と思ってもらえるように心がけます。 Step2 1on1を設定する  1on1を定期的なイベントとしてスケジュールに組み込みます。週に1回、最低でも月に1回の頻度で、1回あたり15~30分程度をめやすに実施します。直接会えない場合は、電話などで柔軟に対応し、短時間でもよいのでコミュニケーションの機会を設けるようにします。1on1は維持・継続することが大切です。 Step3 テーマを決める  テーマを決めずに1on1を始めると、時間がかかってしまいがちです。あらかじめ話すテーマを決めておき、質問事項や伝達事項をお互いに考えておくとよいでしょう。Step2で決めた実施時間を守るためにも効率的に進める工夫が必要です。 Step4 実施と記録  1on1では、部下の意見や考えをしっかり受け止め、認めることが大切です。また、「こういう問題を抱えているのではないか」「前回こう言っていたので今日はこれをアドバイスしよう」といった先読みや深読みはせず、先入観をもたずに、その場で部下が話すことに耳を傾けます。部下が安心して話せるような雰囲気をつくります。 そして、1on1の内容は共有できるように議事録を残すとよいでしょう。記録があれば認識の違いを避けることでき、振り返りにも活用できます。 質の高い1on1で人材育成を 1on1を定期的に行っていると、職員の成長や変化にすぐに気づくことができます。機動的に部下の行動計画をサポートすることができ、その結果として部下自身が自律的にスピーディかつ柔軟に目標達成に向けた行動をとれるようになります。 1on1は最初からスムーズに進むとは限りませんし、その効果はすぐにあらわれないかもしれません。しかし、1on1成功の秘訣は、継続・維持することです。回数を重ねるうちに信頼関係が深まるとともに、部下の実践能力が向上していきます。上司自身が成長する機会にもなるため、組織にとってプラスに働くことが期待できます。ぜひ質の高い1on1を取り入れ、職員の育成に取り組んでください。 ** 齋藤 暁株式会社ムトウ コンサルティング統括部 部長中小企業診断士・社会保険労務士・医業経営・医療労務コンサルタント 医業経営・医療労務専門コンサルタント。全国の医療機関を対象に、中小企業診断士と社会保険労務士のW資格で経営と労務の両面をサポート。 ▼株式会社ムトウ コンサルティング統括部https://www.wism-mutoh.jp/business/consulting/ 編集協力:株式会社照林社

特集
2021年9月21日
2021年9月21日

進行性核上性麻痺(PSP)

パーキンソン病とよく似た症状がみられる難病です。高齢になってからの発症が大半です。さまざまな亜型があることが近年わかってきました。 病態 進行性核上性麻痺(PSP)は、脳の大脳基底核や脳幹、小脳などさまざまな場所の神経細胞が減少する疾患です。神経細胞などへの異常タウタンパクの蓄積が、神経症状を起こす原因と考えられています。根本の発症原因はわかっていません。初期に、歩行障害や動作緩慢など、パーキンソン病と似た症状がみられます。 疫学 中年期以降、主に50歳代以降に発症します。有病率は人口10万人あたり10~20人程度と推測されています(※1)。20年前よりも有病率は高くなっており、新たな臨床病型が明らかになってきたこと、高齢者の増加、周知が進んだことなどが背景として考えられています。性別による発症の男女差については報告によって異なり、一定の見解は得られていません。最近の平均発症年齢は70歳代と高齢化しています。大多数は遺伝性ではありません。 病型 近年、PSPのなかにも、さまざまな病型があることがわかってきました。そのため、典型例(RS)と他の病型(亜型)が区別されるようになりました。 ●リチャードソン症候群(RS)最も典型的で頻度が高い病型。姿勢保持障害や転倒などの運動症状と、非運動症状の認知機能障害が主にみられる。早期から転倒が多いことが特徴。 ●パーキンソン病型PSP(PSP-P)RS型の次に多い。初期は、振戦・無動などパーキンソン病と似た症状が長くみられ、転倒や認知機能障害の出現が遅い。運動症状が抗パーキンソン病薬で緩和される。 ●純粋無動症型PSP(PSP-PAGF)無動の症状、すくみ足が先行する。進行は遅い。 そのほか、失行・失語が主症状の病型や、認知機能の症状のみが出る病型など、いくつかの病型があることが明らかになっています。 症状 易転倒、眼球運動障害、認知機能障害など、さまざまな症状が現れます。以下はRS型の症状を中心に説明します。 ●運動症状初期に現れることが多いのが、易転倒、すくみ足、姿勢保持障害です。病状の進行とともに、体幹や頸部がこわばり、頸部後屈がみられます。眼球運動が障害され、特に下方を見ることが困難になります。眼球運動障害は発症2~3年後に出現することが多く、最初は上下の方向の障害で、進行すると左右方向の動きも障害されます。 ●非運動症状認知機能の障害は、多くは発症から1~2年後に出現します。初期から、目の前にある物に手を伸ばしてつかむ動作が特徴的です。転倒・転落につながるため、環境整備に注意を払う必要があります。危険に対する判断力や注意力が低下し、状況判断ができずに行動してしまうこともあります。 構音障害などさまざまな言語障害のほか、嚥下障害もみられ、中期以降は誤嚥性肺炎にも注意が必要です。 治療法 根本的な治療法はまだなく、対症療法とリハビリテーションを併用します。動作緩慢や筋肉の緊張など運動症状に抗パーキンソン病薬が使用されますが、効果は限定的・一時的です。 リハビリのポイント ●発症初期から長期的にかかわり、障害に応じたリハビリを実施していく●頸部や体幹のストレッチ、筋力の維持、バランスをとる訓練●嚥下訓練●言語訓練●目の前にあるものをつかむといった行動特性をふまえ、転倒予防のため室内環境を整備する●嚥下障害が進行すると経管栄養法の導入も検討される。本人の判断力低下で意思確認が困難になる前に、本人の意向やQOLなどについて話をしておく 看護の観察ポイント ●症状の変化、その程度●転倒の頻度、けがの有無●療養環境に転倒リスクとなるものがないこと●家具の角への緩衝材、保護帽などの対策本人の目に見えるところに気を引くものが置かれていないこと●余裕を持ってトイレに誘導する●視野に入っていない範囲の把握・対応はできているか●嚥下障害の有無●食事量●本人と家族・本人と支援者とのコミュニケーション●ベッドにいる時間が長い場合、褥瘡など皮膚の変化の有無●座位などで過ごす時間をとれているか●家族の介護力●本人 ・家族が不安やストレスを抱えていないか など ** 監修:あおぞら診療所院長 川越正平 【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】※1 進行性核上性麻痺(PSP)診療ガイドライン2020作成委員会編(2020)『進行性核上性麻痺(PSP)診療ガイドライン2020』,神経治療学,37(3), pp.435-93.https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsnt/37/3/37_435/_pdf/-char/ja ・難病情報センター『進行性核上性麻痺(指定難病5) 病気の解説(一般利用者向け)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/4114 ・平成28年度厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業「神経変性疾患に関する調査研究」班(2017)『進行性核上性麻痺(PSP ) ケアマニュアルVer.4』http://pspcbdjapan.org/index.htm/want_to_learn/download/

特集
2021年9月21日
2021年9月21日

第3回 計画的な人材採用と育成/[その2]ミスマッチを防ぐ「採用面接」のポイント

連載:働きやすい訪問看護ステーションにするための労務管理ABC 連載第3回目では[その1]~[その4]にわたり訪問看護ステーションにおける人材採用と育成について解説していきます。今回のテーマは“採用面接”です。求人広告を出し応募者が集まったら、次に行うのが面接です。今回は採用担当者が押さえておきたい求職者の人物像を見きわめるポイントと面接の場を活用した入職後のミスマッチを防ぐ方法をご紹介します。 ●ここがポイント!・面接は事業所の採用担当者と求職者がともに互いの理解を深め、ミスマッチがないか確認する場である。・面接の短い時間で求職者の能力や特性をすべて見きわめることは難しい。求める人物像をイメージし、そこからチェックする項目を絞り込む方法もある。・事業所について正確な情報提供を行い、求職者自身の考えや期待することとのギャップをできるだけ小さくすることが大切。 面接とは 面接は、求職者の性格や仕事に対する意欲や適性、能力の確認を行うために実施します。また質疑応答や意思確認などをとおして、事業所の採用担当者と求職者がともに互いの理解を深め、ミスマッチがないか確認するための場でもあります。 採用担当者の視点 採用担当者としては、大事な利用者を任せるので、本人と家族が安心できる人物を選びたいと考えるのではないでしょうか。例えば「仕事への情熱やプロ意識がある」、「安全な医療行為に関する知識がある」などは確認したい事項です。また、利用者や家族との間に何かトラブルが生じたときに適切に対応できないと、事業所にとっては顧客を手放すことになりかねません。「利用者の話をしっかりと聴くことができる」、「難しい状況や不測の事態に対処できる能力がある」といったスキルや適性も見きわめたいところです。 面接時のポイント 面接の短い時間で求職者の能力や特性をすべて見きわめることは難しいです。そこで、求める人物像をイメージし、そこからチェックする項目を絞り込むという方法を提案します。ここでは、一例として「利用者やその家族、ほかの職員との信頼関係を築ける人かどうか」という観点でチェックする際のポイントについてご紹介します。 相互理解を深めるコミュニケーション能力があるかどうか 訪問看護ステーションではさまざまな人たちとともに働きます。その中で、ほかの人の意見を聴き、気がついたことがあれば助言をしていくことも大切です。ていねいな言葉づかいや相手の話を聞く態度、自分の意見を話すときは5W1H(When・Where・Who・What・Why・How)を意識して相手に伝わる話し方をしているかなども、面接をとおして見ていきます。 基本的な接遇・マナーを身につけているかどうか 好感のもてる身だしなみや誠実な対応は、ぜひ身につけておいてほしいところです。例えば利用者のお宅に伺う際、明るく元気に挨拶をして、靴を揃えて上がれる人なのかどうかといった点は、面接室への入り方や身だしなみ、表情、声の大きさなどから判断します。 責任感があるかどうか 仕事に対する姿勢として責任感も大切です。例えば、過去の職場での不満や失敗などのエピソードからどのように対応したのかを聞き出して、責任感から行動する人物なのか、自分勝手な行動をする人物なのかがある程度推測できます。 学習意欲があるかどうか 学習意欲の有無も重要です。実務経験や資格などから仕事に対する学習意欲があるかどうかなどを判断します。 笑顔 最後に、面接で特に重視してほしいのが笑顔です。人を元気づけられる笑顔をもっているか、面接時の様子からストレートに評価してみてください。 入職後のミスマッチを防ぐために 面接には、求職者の人物像を見きわめる以外に、とても大切な役割があります。それは事業所について正確な情報提供を行い、入職後のミスマッチを防ぐということです。 面接時の質疑応答をとおして、事業所の理念や組織の雰囲気、採用条件や仕事内容、求めるスキルを求職者に伝えて、求職者自身の考えや期待することとのギャップをできるだけ小さくすることが大切です。ギャップが大きいと職員のモチベーションが低下し、入職後の定着に結びつかず、せっかく入ってくれた人材を逃すことになってしまいます。 事業所側は入職につながるよう、よいところだけをアピールしてしまいがちですが、採用前にネガティブな情報も含めてきちんと伝えられるようにしましょう。求職者がその情報も含めて入職を決められるプロセスを経ることが、その後の早期離職を防ぐ一助になるということを忘れないでください。 ** 齋藤 暁株式会社ムトウ コンサルティング統括部 部長中小企業診断士・社会保険労務士・医業経営・医療労務コンサルタント 医業経営・医療労務専門コンサルタント。全国の医療機関を対象に、中小企業診断士と社会保険労務士のW資格で経営と労務の両面をサポート。 ▼株式会社ムトウ コンサルティング統括部https://www.wism-mutoh.jp/business/consulting/ 編集協力:株式会社照林社

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