特集

褥瘡エコー 深部損傷褥瘡の鑑別・程度を評価 活用の実際

褥瘡エコーの活用

褥瘡エコーは皮膚表面の観察だけでは分からない皮膚内部の観察が可能です。そのため、発赤・深達度の評価やDTI(深部損傷褥瘡)、ポケットの評価に有用です。とくにDTIは、急速に深い褥瘡に進行するリスクがあるため、ポータブルエコーでいち早く発見することで創部の悪化を防ぐことができます。

今回は東葛クリニック病院の皮膚・排泄ケア特定認定看護師の浦田 克美氏と、臨床検査技師の佐野 由美氏に、褥瘡へのポータブルエコー使用のポイントと活用についてうかがいました。

正常な皮膚構造と正常な画像を覚える

褥瘡エコーを正しく扱うには、正常な組織と損傷を受けた組織を見極める必要があります。そのため、皮膚構造の解剖学を知っておくことが大前提になります。皮膚は外側から表皮、真皮、皮下組織(脂肪組織・筋組織)で構成されています。その構造を、画像でも見慣れておく必要があるでしょう(図1)。表皮や真皮の損傷は肉眼でも評価することができますが、皮下組織である脂肪組織、筋肉組織の損傷の観察は肉眼で見ることは難しく、ポータブルエコーを用いることで正確に判断することができます(写真1)。

画像から見る皮膚の構造
図1 「画像から見る皮膚の構造」(提供:浦田 克美氏)


ポータブルエコーで褥瘡を観察
写真1 「ポータブルエコーで褥瘡を観察」(提供:浦田 克美氏)

利用者さんの褥瘡を画像として描出する前に、まずは正常な皮膚の部位から観察していきます。そこからプローブの位置を褥瘡部に近づけながら進めていくと、皮下の組織損傷部位が境界明瞭な黒い領域として現れてきます(図2)。必ずしも発赤の直下にあるわけではないので、どの部位から組織が崩れ始めているのかを意識しながら観察していきましょう。皮下脂肪の厚さ、皮膚構造には個人差があるため、対象となる患者さんの正常組織を把握しておくことも重要です。

仙骨部の褥瘡
図2 「仙骨部の褥瘡」(提供:浦田 克美氏)

ずれ・たるみの周囲を定期的に観察

褥瘡は、創部だけを観察するのではなく、褥瘡周辺の外力によって起こるずれとたるみの周囲も必ずチェックしておきましょう。なぜなら、褥瘡の発生要因は摩擦とずれの影響も大きいためです。引っ張られている組織は変化が起こりやすく、皮下損傷に陥りやすくなります。このような部位は黒い低エコーの所見が見られ、黒い部分がどこまであるかをモニタリングすることで、DTIの拡がりや悪化の程度が分かります。そのため、ポータブルエコーで観察する際は、損傷部位の経過を定期的に見ることが重要です。初回時に褥瘡を認めた位置にマーキングをして、一週間後にどのように変化しているのか評価するために、同じ条件で経時的に観察できるようにしておきましょう。

また判断に迷う場合は、対側部位も観察してみましょう。例えば、踵外側部の発赤の皮下にDTI疑いの低エコー所見が観察できたら反対側の左足にも同じ所見があるかどうか比較します。同じ所見があれば褥瘡ではないことが分かります。

ポケット褥瘡への対処や緊急性の判断も

ポケット褥瘡の壊死組織を認めた場合、完成したポケットの範囲がどこまであるのか、治療のためにどこまで切開する必要があるのかを判断する際にもポータブルエコーは有用です。ポケットの内部には空気が入っているので、白い高エコーが連続した所見を探します。

近年ポータブルエコーの性能は著しく進化しているため、エコー技術の熟達レベルに関わらず、皮下や筋肉組織の結合の弱い部分を観察できるようになってきました。組織の結合が弱い部分は、DTIやポケット拡大のリスクが高いという予測がつき、ポジショニングや体圧分散など、早期での治療や予防ケアにつなげることができます。

さらに、緊急性の判断にもポータブルエコーが役立ちます。黒色壊死組織で覆われた褥瘡で感染の判断がつかない場合でもエコーで観察することで、膿の貯留の有無を確認できます。直ちに受診し切開排膿が必要なのか、次の受診日まで待っていいのかという、重症化の判断をしやすくなるのではないかと思います。

創傷の正しい判断とケアのために

以前は、DTIがあったら必ず悪化すると感じていましたが、褥瘡エコーによる観察に基づき、ポジショニングを工夫して除圧を徹底すると悪化せずに吸収され、治癒に至るケースがあることを体験しました。褥瘡は予防が最大の治療と言われますが、ポータブルエコーによる皮膚の深部までの観察で、褥瘡をいかに予防できるかを実感しています。

また、末梢動脈疾患(PAD)による虚血潰瘍なのか、褥瘡なのかという見極めにもポータブルエコーは有効です。例えば踵部の褥瘡にDTI疑いの低エコー所見(図3)がある場合は、治療方針を検討するために血流のアセスメントが必要です。

まずはポータブルエコーや触診で、足背・後脛骨の動脈の血流評価をしましょう。血流の確認ができなければ虚血性潰瘍の可能性が高いため医師やご本人と共に血行再建術の検討をします。もしくは積極的治療やデブリードマンなどをせずに保存療法となります。血流が確認できれば褥瘡です。除圧の徹底と必要時デブリードマンを実施して、完全治癒を目指します。

踵部の褥瘡DTI疑い
図3 「踵部の褥瘡DTI疑い」(提供:浦田 克美氏)


取材協力・監修
浦田 克美氏(皮膚・排泄ケア特定認定看護師)
佐野 由美氏(臨床検査技師)

編集:メディバンクス株式会社

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