特集 インタビュー コラム

特集

特集 限定

【セミナーレポート】vol.1 フットケア アセスメント ‐訪問看護のフットケア・爪のケアのポイント‐

2022年5月27日のNsPace(ナースペース)主催オンラインセミナーでは、訪問看護師の方に向けて「フットケア・爪のケアのポイント」をご紹介しました。講師は、皮膚科医の高山かおる先生と、介護福祉士でフットヘルパー協会理事の大場マッキー広美さん。3回に分けてセミナーの様子をお届けします。第1回の本記事では、高山先生にお話いただいた「高齢者のフットケア アセスメント」についてまとめます。※約90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】高山 かおる先生日本皮膚科学会認定皮膚科専門医/済生会川口総合病院皮膚科 部長病院で診療にあたる傍ら、2015年には一般社団法人 足育研究会を設立。親子教室や検診などを通じ、足の健康を維持する重要性の啓発活動に取り組む。著書に「足爪治療マスターBOOK」「足育学 外来でみるフットケア・フットヘルスウェア」(全日本病院出版会)「医療と介護のための爪ケア」(新興医学出版社)など。 大場 マッキー 広美さん介護福祉士2020年にプライベートサロン「トータルフットケア足助人(あしすけっと)」を開設。訪問看護ステーションと業務提携し、サロンを訪れる顧客だけでなく、訪問看護利用者にもフットケアを提供している。また、一般社団法人 フットヘルパー協会の理事として、全国各地での講演や書籍の執筆などのフットケア普及活動にも注力する。 目次▶ フットケアの重要性 ・足元のトラブルは子ども時代から始まる生活習慣病▶ 足や爪のトラブルの原因 ・白癬 ・皮膚の老化 ・筋力や関節可動域の低下▶ フットケアに期待される効果 ・足浴の効果は絶大▶ 爪切り難民を救うために必要なこと ▶ フットケアの重要性 日本は人生100年時代を迎え、超高齢社会に突入しました。そこで考えなければならないのが、介護を要する年数を短くする方法です。介護を要する年数とは、すなわち経済を圧迫する年数。私たち足育研究会は、国民にのしかかる負担をこれ以上増やさないためにはどうしたらいいか、足元に着目してその解決策を模索しています。なぜなら、足や爪のトラブルは歩行に支障をきたすため。歩けなくなることは、介護が必要になるリスクに直結します。 足元のトラブルは子ども時代から始まる生活習慣病 足元のトラブルは生活習慣病であり、そのスタートは子ども時代にあります。私は日ごろから子どもたちの足を見ていますが、すでに足趾の変形が認められ、爪のトラブルが発症しているケースは少なくありません。これを放っておくと、加齢に伴い足趾の変形はさらに強まり、爪に不可逆的なトラブルが起こり、重症化します。そうして転倒しやすくなったり、痛みなどが生じて歩けなくなれば、フレイルや寝たきりになるリスクが高まったりもするでしょう。私たちは、この負のスパイラルをできるだけ早く断ち切るべく取り組んでいます。訪問看護師のみなさんにおかれましても、ぜひ足元のトラブルの成り立ちや患者さんが被る不利益を理解し、積極的にケアにあたっていただければと思います。 ▶ 足や爪のトラブルの原因 高齢者の足や爪のトラブルの代表的な原因としては、以下の3つが挙げられます。 白癬 非常に多くの高齢者が罹患している白癬は、爪を悪くする原因になります。爪は、爪母と呼ばれる皮膚に隠れた根元の部位でつくられ、爪床という『爪のベッド』に沿って前へと運ばれて、常に新しいものに置き換わる構造になっています。 そもそも、白癬というのは、足の白癬から始まります。①足の水虫(白癬)を放置してそれが爪に入ると②のような「くさび形」になるなどの変化が生じます。②の状態であれば、まだ爪の形を保ち、爪としての機能も果たせているケースが多いです。しかし、そのまま放置して重症化すると③のように変化して、爪の機能を果たせなくなるほどになります。糖尿病や下肢の末梢動脈疾患を抱えている方、もしくは透析を受けている方などのケースでは、④のような壊疽にもつながります。 皮膚の老化 高齢者の皮膚は、褥瘡をつくりやすい状態にあります。具体的な特徴は以下のようなものです。 【表皮】表皮細胞が減少し、免疫やターンオーバー、皮膚感覚が低下します。また、角層では皮脂の分泌が減り、天然保湿因子が枯渇して、強い乾燥が起こります。これによりバリア機能が低下したり、亀裂が生じたりして、アレルゲンや細菌などが皮膚内部に入りやすくなります。 【真皮】コラーゲンや弾力繊維が減少し、血管に変化が起きます。それが外力に対しての脆弱化を招き、創傷治癒力のさらなる低下、血管の閉塞をもたらします。 【脂肪組織】著明に萎縮します。とくに踵は筋肉がなく、脂肪組織だけで守っているため、ダメージを受けやすくなります。 筋力や関節可動域の低下 関節可動域が低下することで通常の歩行ができなくなり、皮膚や爪に過度な、もしくは不適切な負荷がかかって、指先を傷めたり爪が変形したりします。私たち足育研究会の調査では、巻き爪は足趾間力の低下がもたらしているというデータも得られました。 また、膝や股関節の可動域の低下、さらには筋力の低下によって座り方も変化します。大腿部をそろえて座ることができなくなり、足がパカッと開いてしまうのです。すると、踵の外側に強い圧力がかかり、褥瘡が現れやすくなります。 このように足や爪のトラブルの背景には、皮膚や関節、筋肉の変化など、さまざまな要因があります。これ以外にも、靴の問題なども深く関係してきます。こうした全身的な老化現象、生活習慣の果てにあるのが、高齢者の足の問題なのです。 先ほども少し触れたとおり、問題の発端は子ども時代にさかのぼります。柔らかい足で合わない靴を履いたり、運動量が不足したり。そして、足のケアが不足した状態も続き、やがては白癬や膝・腰の痛み、糖尿病、脳梗塞などの合併症が起きて、足元のトラブルにたどり着く……足や爪の状態は、その人の人生を色濃く反映しているといえます。 ▶ フットケアに期待される効果 そんな足や爪のトラブルを抱えた高齢者にぜひ行ってあげてほしいのが、フットケアです。肥厚した爪甲のケアは、フレイルやサルコペニアなどの予防につながることがわかっています。歩いても痛みがない状態、靴下などに引っかからない状態に爪を整えてあげることで、下肢機能の低下を改善できるからです。現場では、フットケア後に今まで運動できなかった方が歩き出したというケースはよく見られます。 また、爪白癬を患う要介護者に積極的にフットケアを行ったところ、実施期間中は介護度が上がらなかった、つまりADLを維持できたという研究結果もあります。歩ける期間をできるだけ長くするために、そして歩けない方も安全・安楽・衛生的に過ごすために、フットケアをやらない理由はありません。 足浴の効果は絶大 フットケアの中でぜひ行っていただきたいのが、足浴です。利用者さんに気持ちいいと感じてもらえることはもちろん、皮膚や粘膜の機能と関連のある器官を正常に保って感染を予防できる、筋肉を温めながらマッサージすることで運動効果を得られるなど、さまざまな効果が期待できます。継続的に足浴を実施すると、足関節の背屈可動域が改善するというデータも出ているほどです。足は『感覚臓器』。足浴で触ってあげる、少し動かしてあげることで、正常な感覚を呼び戻してあげてください。 ▶ 爪切り難民を救うために必要なこと このように、高齢者へのフットケアは大変重要であるにもかかわらず、『爪切り難民』は少なくありません。とくに介護を受けておらず、病院にも通っていない方は、多くの場合適切な爪のケアを受けられずにいます。 近年、足育研究会では爪切り難民対策として薬局に専門家を派遣してフットケアを行う取り組みを全国で始めていますが、こちらは要介護予備軍の方々を対象としています。介護を受けている方は自宅や施設で爪切りができることが前提の取り組みです。訪問看護の現場や、高齢者施設などは、当然『患者さんの足を守る場所』であってほしいと考えています。 みなさんには、高齢者の足の衛生や機能を守るという意識をもって、ぜひできる範囲でフットケアに取り組んでいただければと思います。 次回は、「在宅でのフットケアの実際」についてお伝えします。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

特集

管理者の役割、リーダーシップとは

この連載は、訪問看護ステーションで活躍するみなさまに役立つコミュニケーションのテーマを中心にお届けします。第1回は管理者のリーダーシップについてです。 リーダーは何をする人? リーダーシップとコミュニケーションには、すごく深い関係があります。なぜなら、「リーダーシップはコミュニケーションによって発揮される」と言っても過言ではないからです。 ところで管理者はふつう「マネジャー」と呼ばれることも多いと思いますが、「リーダー」と「マネジャー」の違いって何でしょうか(施設内で役職名としてリーダーとかマネジャーとか呼ばれることもあるかもしれませんが、ここでは役職ではなく役割として書きますね)。 結論からいうと、リーダーとは「目的地を示す人」で、マネジャーとはその目的地にうまく到着するように「成果を上げる人」です。 リーダーは目的地を提案できる たとえば、仲間でどこかに遊びに行こうとしたとします。みんなが「やっぱりテーマパークかな」と言っているときに「今回はどこかのフィールドアスレチックにしてみない?」と言い出す人がいたとします。「ええ? なんで」と言われたら「コロナでしばらく家にこもっていたから青空の下でのびのびしたくない? 最近人気のある大自然の冒険テーマパークがあって意外と穴場らしいよ。入場料は三千円くらい。子ども連れで行けるしバーベキュースペースもあるらしいよ。イルミネーションもキレイなんだって」とみんなにプレゼンテーションして、「それもいいかもね」とみんなに思わせる人。 これが「目的地を決める人」です。 みんながテーマパークに行きたいと思っているときに、テーマパークに決める人もいますが、それよりもみんなが思ってもいないところに着目して、目的地を提案して、みんなを連れて行ける人。そんな人ほどリーダーシップを発揮している人といえます。そしてみんながその目的を果たしたときに「いい場所に来られてよかった!」「今まででいちばんいい経験ができた!」「ついてきてよかった!」と言われれば、リーダーの役割を果たせたことになります。 まずはリーダーとして目的地を示す これに対してマネジャーは、その目的地にいかにうまく到着するかを考えて実行する人です。 交通アクセスは車なのか公共機関なのか。集合場所や集合時間はどうするのがいちばんみんなにとって都合が良いのか。食事はバーベキューなのかお弁当を持参するのか。予算はどれくらいにするのか……そんなことを考えて実行します。 私が30年前、初めて管理職になったときに教えてもらったことが記憶に残っています。 「リーダーは正しくやる人。マネジャーはうまくやる人」 つまり、リーダーは正しい目的地を示す人で、マネジャーはその目的地にうまくたどり着かせる人です。 訪問看護ステーションの現場では、管理者はリーダーでありマネジャーであることも多いと思います。そんなときでもまずはリーダーとして目的地を示すこと。どんな訪問看護ステーションを目指すのか。それはなぜなのか。いつまでにその目的を果たすのか。どのメンバーとそれを実現するのか。つまりこれは「戦略」です。リーダーは目的地(ゴール)とその戦略を示すのです。 マネジャーがいればマネジャーにその方向性を示しながら。自分がマネジャーであれば自らで。その方向に向かって、どんな方法で、予算はどれくらいで、達成のための目標値はどれくらいに定めて……といった具合に、実現の方法を決めていきます。これは「戦術」ですね。 自分は今どちらの役割かを意識する 小さな組織ではリーダーがマネジャーを兼ねることも多いです。しかし役割としてはリーダーとマネジャーは違います。ですから、兼務しているときも、自分は今リーダーとして意思決定しているのか、マネジャーとして意思決定しているのかは意識をしておくべきです。 リーダーが目的地を決めるには「思い」や「志」が必要です。そしてそれをメンバーにわかる言葉にして伝えることが大切です。何のためにそこに行くのか。組織でいえばそれが経営理念や事業理念です。そしてマネジャーはそれをしっかり理解したうえでうまくみんなを目的地に連れていくのです。 いかがでしょう。リーダーとマネジャーの役割の違いをおわかりいただけましたか。リーダーとは、狭義では役職を指すことがありますが、広い意味では「目的地を示す」能力(リーダーシップ)を持った人のことを指すのです。 執筆松井貴彦・まついたかひこ ライフキャリアコンサルタントNPO法人いきいきライフ協会 理事、一般社団法人看護職キャリア開発協会 所属。1962年生まれ。出版社にて求人広告制作(コピーライター、ディレクター)、就職情報誌編集者、編集マネジャー。その後、医療・看護系出版社、関連会社の代表取締役など歴任。国家資格キャリアコンサルタント、GCDF-Japanキャリアカウンセラー(米国CCE,Inc認定のキャリアカウンセラー資格)。自分史アドバイザー。YouTubeは「松井貴彦 まっチャンネル」で検索。 記事編集:株式会社メディカ出版

特集

ケアマネは多職種との信頼あってこそ司令塔

新宿区一帯で在宅ケアを提供している事業所の有志が集まった「新宿食支援研究会」。「最後まで口から食べる」をかなえるために、日々、多職種での支援を実践しています。本研究会から、各職種の活動の様子をリレー形式で紹介します。第6回は、ケアマネジャーの森岡真也さんから、訪問看護師を含む多職種チーム構築を紹介します。 サービス調整だけではないケアマネの仕事 私が担当している地域、東京都新宿区は人口343,662人、高齢者人口67,187人、高齢化率19.6%(2022年5月1日現在)。新宿というと、一般的には高層ビル群や歌舞伎町の繁華街がクローズアップされるため、生活している人が少ない印象ですが、実際にはかなりの数の高齢者が住んでいる地域です。 地域的な特徴としては、独居高齢者・高齢者のみ世帯の比率が多く、また高齢化率が50%を超える大規模な都営住宅が2ヵ所あります。区内には大規模な病院が数多くあり、難病などで療養生活を送る方も多くいらっしゃいます。そのためか、訪問診療や訪問看護などの在宅医療が昔から充実している地域でもあります。 そんな新宿区で私がケアマネジャーの仕事を始めて16年になります。ケアマネジャーは一般的に、利用者に適したケアプランを作成し、利用者とサービス提供事業者の間に立って連絡調整をする、いわば介護保険の道先案内人のような専門職。最近では、介護保険外のサービスを調整する機会も多くあります。 ケアマネジャーとして働くためには、もちろん介護保険の幅広い知識が必要ですが、活動する地域のさまざまなフォーマル・インフォーマルサービスを提供する方々と関係を作り、利用者に紹介できるよう準備することも重要なのです。 顔の見える関係で把握できた情報が在宅ケアチーム構築につながる 新宿食支援研究会に参加したのは、同会設立時の2009年。以降、研修会やワーキンググループ、イベントなどでさまざまな方と出会い、その出会いが現在の私の仕事の糧となっています。 在宅生活の支援では、さまざまな問題が複合的に重なるケースが少なくありません。訪問看護師さんには、疾病上の管理のみならず、生活上の支援や家族関係の情報収集など、さまざまなことをお願いしています。また、看護師さん個々人のスキルや資質を頼ってケースを依頼することもあります。 新宿食支援研究会に関係している看護師さんとは、研修会などを通してスキルと顔の見える関係ができており、また食支援全般に深い知識と興味がある方が多いため、摂食嚥下機能障害をはじめ、さまざまな問題のある利用者の支援をお願いすることが多くあります。 病院などで組織内にすでにある多職種チームで支援を行うのとは違い、在宅ではさまざまな制約があり、支援の工夫が必要です。たとえば、本来必要な専門職が地域に不足している、または経済的な面で導入ができないため、多職種からその役割を補完してケアチームを組み立てることが多くあります。本来ならばST(言語聴覚士)の導入が必要なケースに、摂食嚥下訓練に詳しい看護師さんに入ってもらうことなどが過去にありました。 また、摂食嚥下機能に問題があり、一回の食事介助で少量しか食べられない方の食事回数・水分補給の回数を増やすため、ヘルパー・看護師・理学療法士・言語聴覚士・医師・歯科医師・管理栄養士など訪問するすべての職種の方々に、こまめな食事介助、水分補給の介助をお願いしたケースもあります。 このように、在宅ケアチームの構築には、地域の専門職個々人のスキルや資質を把握しておくことが重要となります。この把握にはやはり、実際に一緒にケアチームとして仕事をする前に、さまざまな研修会などで知り合えていることが役立っています。 多職種が常駐し、介護相談できるカフェをオープン 新宿食支援研究会でよく使われる「MTK-H®」という言葉があります。「M」は「見つける」、「T」は「つなぐ」、「K」は「結果を出す」、「H」は「広める」という、食支援にかかわる人の役割を表しています。 私たちケアマネジャーの役割の一つは、「T」、つなぐこと。在宅生活を希望されているご本人にとって、現況最適な在宅ケアチームを構築する役割です。そのためには、まず「M」、見つける役割を担う人が必要となります。われわれケアマネジャーが見つける人はもちろん、ご家族や地域住民の方です。ケアマネジャーとして、地域住民の方とつながって地域の社会資源を育んでいくことも、重要な仕事です。 新宿食支援研究会では、現在ワーキンググループとして地域住民の方とともにプロジェクトを進めています。 また法人事業として2022年6月に介護事業所併設のカフェ「介護相談もできるカフェ Sunnydays Café」をオープンしました。このカフェは、地域の喫茶店として機能しつつ、ケアマネジャーをはじめ介護の専門職がカフェに常駐し、地域の方の介護相談がある場合にはさりげなく寄り添いたいという思いでつくりました。Sunnydays Café内には、地域の方と医療・介護・福祉の関係者をつなぐ、さまざまなしくみを用意しています。 ケアマネジャーとして、多くの「K」、つまり結果を出す看護師さんをはじめとする医療・介護・福祉の専門職と、地域住民をつなぐ役割をこれからも果たしていこうと考えています。 訪問看護師さんには、ぜひ私たちケアマネジャーと直接つながる機会を持っていただき、地域の看護師さんの情報を気軽に利用者・家族・地域住民・専門職の方と共有できるよう、必要な情報をケアマネジャーに教えていただければと思います。 ー第7回へ続く 森岡真也ケアマネジャー株式会社モテギ新宿ケアセンター長新宿食支援研究会Sunnydays Caféhttps://sunnydayscafe.hp.peraichi.com/記事編集:株式会社メディカ出版

特集

コーチングと口腔ケア

この連載では、実例をとおして、口腔ケアの効果や手法を紹介します。今回と次回は、コミュニケーションが困難だった人への対応事例を紹介します。 コミュニケーションが難しい方への対応 事例 Lさん、76歳男性、要介護Ⅱ。上総義歯、下部分義歯。義歯不安定、残存歯2本のみ。痰の喀出困難、OHAT唾液-1、帯状疱疹後神経痛、前立腺肥大症ほか。6年前に妻を亡くして以降、日々、機嫌が変わりやすくなった。内科からの紹介で、義歯不安定を主訴に訪問歯科診療にかかわる。帯状疱疹後神経痛(腰痛)がつらく、口腔ケア時にも、顔をしかめるほどの痛みが発作的に襲うことがあった。 Lさんには「なんで毎週来るんだ、毎週来なくてもいいんだよ! 床が傷付くから、荷物を床に置くんじゃない!」と、初診時からしばらくは、頭ごなしに怒鳴られることもありました。対応に苦慮しながら、ひたすら寄り添い傾聴し、ハフィング(痰を吐き出しやすくする方法)の指導や、義歯の内面調整を行いました。 コーチングスキルを取り入れる Lさんとのコミュニケーションに悩んでいたころ、コーチングの研修に参加することができました。「コーチ」の語源は「馬車の町」で、コーチングとは、人を馬車に乗せて目的地に運ぶ、つまり目標達成を支援するための、対話的コミュニケーションの技法です1)。 研修で教わったコミュニケーション技法を、Lさんとの会話で試みました。ペーシング(歩調合わせ)やリフレイン(繰り返し)の技法により、難解と思われた関係性が、少し開けてきたように思いました。 以下、Lさんとの会話の一部を示します。(下線部がリフレインの箇所) L「独りで暮らす自信がないなあ、もう僕、独りでは無理だと思う、歯科さん(筆者のこと)どう思う?」山田「そうですか。お独りではご無理がありますよね、不安ですよね」L「娘は仕事があるから、わがまま言えないし……」山田「娘さん、お仕事を持っていらっしゃるのですね、お忙しいのですね」 相手主導で、相手の言葉をリフレインし、傾聴すると、こちらが積極的に問わなくても、Lさんが独り暮らしを不安に思っていること、娘さんがお仕事を持っていて、Lさんの娘さんへの気遣いがわかりました。初診のころの機嫌の悪さは、腰痛のせいだけでなく、孤独感の影響が大だったのだと理解しました。 サービス担当者会議の開催 Lさんへの口腔ケアの指導も順調に進み、もう「毎週来るな」とは言われなくなったころ、チームにLさんの腰痛が周知され、介護支援専門員から、腰痛対策のためのサービス担当者会議が招集されました。 コロナ下のことで、会議は文書でのやりとりでしたが、介護支援専門員がそれぞれの意見をまとめ、Lさんに丁寧に説明が行われました。 その説明を受けた後も、Lさんは不安げで、「歯科さん、僕にはよくわからないので、説明してくれるかい」とおっしゃるので、図のようにそれぞれの職種の意見を示し、「皆さんが、Lさんのことをたいへん心配されていますよ。でも、何を選ぶかは、Lさんご自身ですよ」と伝えました。 Lさんの顔は生き生きと見えました。訪問鍼灸師のお試し施術も受けられましたが、慣れない鍼灸への怖さと、施術中の姿勢保持が困難だったため、自分でできるストレッチと、内科医提案の鎮痛薬治療を選ばれたのでした。 行動変容が促される その後は、訪問のたびに、ストレッチに歯磨き、舌の訓練も見せてくれるようになり、ご自分の話をしてくれるようにもなりました。あるときは、亡くなられたご自慢の奥様の写真も見せてくださいました。 義歯の安定には機能的なケアと唾液が必要です。精神的なストレスにより、唾液が減少することもあるので、訪問時のLさんとの何気ない会話に、心理面・体調面の好不調を探ることもありました。 コーチングは初心者ですが、基本的な介入を試みてから、急速にラポール形成が進行し、行動変容も促され、実際に口腔内環境が改善されたことには驚きでした。 残念ながら、腰痛はその後も大きく改善することはなく、ベッド上での時間も長くなり、ずいぶんと痩せられて、義歯も不安定になりました。 歯科医による義歯再調整のとき、そばで心配する私に、「歯科さん、あなたがいちばん、僕のことをわかってくれている。入れ歯が合わないのはね、歯科さんのせいではないからね。心配しなくていいよ、僕が悪いんだ」と笑顔で、おっしゃるのでした。 介入して2年半、Lさんは、そんな優しい言葉とたくさんの思い出を遺したまま、入所したばかりの施設で体調が急変され、愛する奥様のもとへ旅立たれました。 ー第10回へ続く 執筆山田あつみ(日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士、歯科衛生士) 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】1)出江紳一ほか.『医療コーチングワークブック』東京,中外医学社,2019,168p.

特集

移動式スーパーが買物難民高齢者を救う

在宅医療のキーマンである川越正平先生が、生活全般を支える「真の地域包括ケア」についてさまざまな異業種から学ぶ対談シリーズ。第1回は移動スーパーが果たす驚くべき役割について紹介します。 ゲスト:住友達也氏1957年徳島県生まれ。タウン誌の発行やプランナーとして活躍後、買物困難者の実情を知り、2012年、社会貢献型移動式スーパー「株式会社とくし丸」を創業。買い物できない高齢者や限界集落へ食と見守りの視点を届けている。現在、株式会社とくし丸取締役ファウンダー。 おばあちゃんのセレクトショップ 川越●とくし丸は買物難民の高齢者宅を一軒一軒周って食品を販売していますが、生協の個別配送などとは違い、事業主であるオーナーが車を持って、地元のスーパーが商品を委託してお客さんに届けるという、すべて地元に還元されるビジネスモデルですね。 住友●おばあちゃんたちにとって、買物に出かけられなくなっても、日々の食材の買物は最後のエンターテイメントだと思うんです。地域の資本、地域の人材で地域の困っている人を助ける循環をつくって、とくし丸というキーワードで地方のスーパーが有機的に手を組んで、大手に対抗できるゆるやかなネットワークをつくりたいんです。 川越●売れ筋の商品はどんなものですか。 住友●お惣菜やお寿司のほか、肉や魚などの生鮮品が特に喜ばれます。 川越●新鮮なお刺身や出来たての総菜を届けてもらうのはうれしいでしょう。 対面だからこそわかる「異変」を包括へ相談 川越●とくし丸のビジネスモデルでユニークだなと思ったのは、1品につき10円上乗せして販売するというしくみです。10円高くても、みなさん買ってくださる? 住友●われわれは「商品をスーパーの店頭からおばあちゃん家まで届ける手間賃で10円ください」という発想なんです。 川越●お客さんの足代もかからないし、それで限界集落でも買物ができるならお安いものですね。買物難民を直接たずねて食品を販売することで高齢者の食や栄養を支える介護予防になっていますし、会話があるのもいい。 住友●介護予防につながる見守り協定を自治体と交わしています。電気や水道の検針、新聞配達は毎回対面まではしません。とくし丸は直接対面して販売するので、これまでいわゆる孤独死の方を9人発見していますし、その何倍もの人を事前に発見しています。 川越●認知症の方などもわかるんじゃないですか。 住友●同じものをたくさん買うお客さんがいて、認知症かもしれないと思ったら、まずご家族に、独居の方なら地域包括支援センター(包括)につないでいます。 川越●オーナーさんが包括とつながっているんですか。それはまさに地域包括ケア的な動きですね。 冷蔵庫の中までわかる絶対の信頼関係 川越●行政は一人暮らし高齢者の生活状況を知りたいと思い、アンケートを送ったりしているんですが、実は返ってこない人のリスクがいちばん高いんです。訪ねても会ってくれない人とか。 住友●われわれは直接会って話しますから、お客さんの好みや健康状態まで把握しています。オーナーはお客さんの冷蔵庫の中が全部わかると言ってます(笑)。あるおばあちゃんは、「今日、私、何食べたらいい?」って聞くそうです。すると、先週と先々週はこれを食べたから、そろそろ違うのがいいよねっておすすめするような会話がふつうに成立する関係なんです。 川越●高齢者のニーズはマーケティングが難しいと言われています。特に自分で買物ができなくなっている方の声は、いままで拾えなかったと思います。直接会って、欲しいものが聞けるというのは強みですね。 住友●おばあちゃんたちはネットスーパーは使えない、配食のお弁当は飽きる。やはり自分で買物したいんですよ。そこから「衣類が欲しい」「眼鏡を作りたい」などの要望もでてきて、衣類など別ラインの専用とくし丸も動き始めました。 移動スーパーはインフラでありメディア 川越●一台の車はだいたいどれくらいお客さんを持っているんですか。 住友●1人でだいたい150人。1つのエリアを週2回ずつ、計3エリア廻るので、1エリア約50人ほどです。全国で1000台走れば、15万人以上のおばあちゃんたちに会えるボリュームになるので、次のビジネスができます。 川越●そうなったら大手とも十分戦えますね。見守りだけでもいいですが、さまざまなデータが取れますから行政も喜びます。在宅医療をやっていると、病気だけの問題ではないことがわかって、地域や行政とも深くかかわっていかないと救えない場面に多く遭遇します。病院にも行っていない人は、重度化してから発見されることもままあります。だから、とくし丸のように別チャンネルでつながっている存在は意味があるんです。 住友●僕らは移動スーパーをやっているつもりはなくて、インフラでありメディアだと思っています。おばあちゃんたちと週2回会っていると、異変を感じて、ある日突然ガクッとくる方もいらっしゃる。 川越●「検診受けた?」とか声をかけてくれるだけでも意味がありそうです。市の広報紙で注意喚起してもなかなか読みませんが、会う人が一声かけてくれれば、ああそうかと思ってくださるかも。販売のついでに簡単な健康チェックや認知症スクリーニングができれば、行政は泣いて喜ぶと思います。 住友●第一線のオーナーには認知症サポーター養成講座を受けてもらっています。スーパーの協力で、助手席に看護師さんを乗せて血圧測定をしたり、AEDがどこにあるかがわかるアプリを使ってお客さんを蘇生させたりしたこともあります。 川越●それはすごい。とくし丸の販売ネットワークは、福祉面でもいろいろなことに使えそうですね。高齢社会は当分続きますから、医療介護にとってもすごく参考になるお話でした。 ー第2回へ続く あおぞら診療所院長 川越正平【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 とくし丸 https://www.tokushimaru.jp/記事編集:株式会社メディカ出版 『医療と介護Next』2017年10月発行より要約転載。本文中の数値などは掲載当時のものです。

特集

スタッフの不安解消、安心できる仕事環境の整備は管理者の責務

最初の発生から2年が過ぎても、いまだ終息の見えない新型コロナ。感染防止対策だけではなく、目には見えないスタッフの不安やメンタルヘルスへの対応もステーションの管理者には要求されます。ベテラン管理者のみなさんに、今必要とされるスタッフマネジメントについて語っていただきます。第1回は、東久留米白十字訪問看護ステーション所長の中島朋子さんです。 お話中島朋子東久留米白十字訪問看護ステーション 所長  「スタッフを感染させない!」 新型コロナウイルス感染症が国内でくすぶりはじめたとき、私の頭はその思いでいっぱいになりました。精神的緊張状態のなか、「今このときに、管理者として何をすれば最善なのか」を考え続け、一つひとつ実行してきました。 先手先手のPPEストック 感染症対策は、見えない相手との闘いです。闘いには武器が必要です。有力な武器の筆頭は、PPE(個人防護具)です。2020年2月早々には、PPEのストックを始めました。その費用が持ち出しになる心配はありましたけれど、スタッフの安全には代えられません。 日本国内では、感染者もまだまだ少なく、死者も出ていない段階でしたが、2月7日には、感染・リスクマネジメント係に、ストックを急ぐようにハッパをかけました。 個別事情に応える本音アンケート スタッフが抱く不安には個人差があります。その不安を「本音」で聞くために、アンケートを実施しました。質問は、感染、または、感染の疑いのある利用者宅を訪問できるかどうかを尋ねるものです。 事業所の看護師は13人です。そのうち、1人が「行きたくない」、数人が「できれば行きたくない」と答えました。一方で、半数が「職務上の使命から必要があれば行く」、4人が「積極的に行く」と答えてくれました。 「行きたくない」には、個別の事情もあります。「訪問したら発熱していたということもあるからPPEは持参してね」と言ったうえで、希望に添うようにシフトを組みました。 必要に応じて、躊躇なく 国内の感染者が拡大するにつれ、PPE関連が品薄になりました。ストックのおかげで少しだけ余裕がありましたが、先行きを考えると、PPEの在庫には不安を覚えます。 100均ショップなどで、代替品を工夫し補充するとともに、「どのような場合に、どの防護具を選択するのか」の白十字版の簡易マニュアルを作成し、「必要に応じて、躊躇なく使える」判断基準を示しました。これには、かなり時間を掛けました。 利用者への協力要請で働きやすくする 利用者への手紙も4報まで出しました。内容は、発熱時の事前連絡、訪問を受ける前の換気、発熱時は個人防護具を着用など、スタッフを感染から守るためのお願いです。こちら側からの要望ではあったわけですが、感染予防を徹底したスタッフが訪問してくれるとの印象を与えたのでしょう。利用者側からの苦情はありませんでした。 働きかたの環境整備 働きかたの環境も、非常時に合わせる必要が出てきます。そこで、社労士(社会保険労務士)と入念な話し合いを重ねながら、在宅ワークができるように就業規則を改変していきました。具体的には、事務職の在宅ワーク移行、直行・直帰による訪問の実施などです。 事務所レイアウトと雰囲気づくり 事務所レイアウトを大きく変更。部屋を三つに分散、デスクは壁向きなど、3密を徹底的に避けました。ただ、管理者の死角で、愚痴を言い合い気分的な負の連鎖が起きないようにする対策も必要でした。そこで、「完璧な職場なんてないんだから」と前置きしたうえで、愚痴や不満は、建設的な意見として言えるような雰囲気づくりに注力しました。 事業所連携でBCP構築 地域にはさまざまな事業所があります。コロナ禍での活動内容にも温度差があります。そのなかで、価値観を共有する訪問看護事業所に、BCP(事業継続計画)の協働を持ちかけました。どちらかの事業所が感染で休止になった場合には、代替でケアが提供できるようにするものです。その準備として、約200人の利用者をトリアージしました。事業所との連携は、管理者どうしで愚痴をこぼしあえる関係もつくれ、とても大切です。 管理者としての責務 そのほか、正しく怖がるための最新情報の収集と提供、PPE研修会の開催、スタッフの自己免疫力を高めるための残業の軽減、連携在宅診療医との発熱者対応の方向性共有、会議のオンライン化、ICT化の推進、事業所の換気工事、事務所内にシャワーと宿泊場所の確保など、さまざまな対策を講じてきました。 とはいえ、ウィズコロナへの道は、平坦ではありません。発熱した利用者宅に訪問してくれているスタッフを思うと涙が滲んだこともありました。 当初、「所長の私が発熱者宅を訪問する」と提案もしてみましたが、もちろん、副所長やスタッフから反対され、管理者としてやるべきことに注力するように割り切りました。本当にスタッフには感謝の気持ちでいっぱいです。これからは、管理者としてのプレッシャーを一人で抱え込まず、「私も不安なの」と本音をこぼせるような風土づくりも必要かもしれないと思っています。 ―第2回に続く 記事編集:株式会社メディカ出版

特集

CASE1スタッフナースが利用者に過度に感情移入している心配があるとき_その1:状況をどうとらえるか?

管理者として課題に直面したとき、自分以外の管理者がどう判断するかを知りたくなることはありませんか? この連載は、参加者どうしで考えをシェアしあう研修手法である、ケースメソッド注1セミナーの形式に沿って、訪問看護管理者が直面する課題を考えていきます。第1回は、利用者に感情移入しすぎているように見えるスタッフナースに対して、管理者としてその状況をどうみるかを考えます。 はじめに 合同会社manabico代表の鶴ケ谷理子と申します。弊社は、訪問看護管理者に対するコンサルティングやセミナーを行なっている会社です。この連載は、私が講師を務めて開催しているケースメソッドセミナーの形式をもとに展開します。皆さまもセミナーに参加したつもりで、「自分だったらどうするだろう」と考えながら読んでいただければと思います。 ケースと設問 CASE1 スタッフナースが利用者に過度に感情移入している心配があるとき スタッフナースの佐藤さんについて、「担当利用者さんに感情移入しすぎなのではないか?」と別のスタッフナースから相談があった。どうやら寝ても覚めても利用者のことを考えているらしい。佐藤さんは、在宅看取りの看護に携わることを希望して、病院から訪問看護に転職してきた背景がある。終末期の利用者を担当するのは2回目、今回は主担当として任されている。そのためか思いが強くなりすぎているように見える佐藤さんに対して、管理者としてどのような支援ができるだろうか? 設問あなたがこの管理者であれば、佐藤さんのようなスタッフへの支援はどのようにすべきと考えますか。ご自身の経験から考えたアイデアをみなさんにシェアしてください。 佐藤さんの状況を多面的にとらえる 講師 このケースで議論したいことは、「管理者として佐藤さんにどのような支援ができるか」です。その前にまず、佐藤さんの状況について、皆さんはどのように考えますか? Aさん注2 佐藤さんのように利用者さんに対して思い入れがあることは、看護師として悪いことではないと思います。ただ、思いが強すぎる と、利用者さんが亡くなった後に、佐藤さんが無力感や喪失感を感じることが心配です。そこへのフォローを考えたいです。 Bさん 佐藤さんは、一人で背追い込みすぎていると感じます。ほかのメンバーも含めたケアカンファレンスを実施して、佐藤さんの気持ちのケアや、どういった看護をしていけばよいかを話し合えるといいと思います。でも忙しいからなかなかメンバーが集まらないのかもしれませんね。 Cさん Aさんも言われたように、利用者への感情移入が大きいと、利用者がお亡くなりになられた際の喪失感も大きくなります。どの利用者のかたに、どのスタッフが訪問に行くか、最終決定は管理者がしているはずです。管理者は、利用者だけでなく、スタッフも大切に考えて判断をすべきだと私は考えます。もっとこまめに佐藤さんに対して支援をすべきだったのではないでしょうか。 Dさん 佐藤さんの精神状態も心配ですが、ルールから逸脱がないかどうかも私は気になります。佐藤さんのような様子だと、計画外の訪問や、個人的なやり取りを利用者さんとしているかもしれないと思って。金銭や物品の受け渡しがあったりしたら、加えて別の対処も必要になるので。 「佐藤さんの状況をどうとらえるか」の小括 まずは、「佐藤さんの置かれている状況をどのようにとらえるか」について、それぞれの考えを出しあいました。 ●思い入れがあること自体が悪いわけではないが、佐藤さんの精神状態をよく観察し、フォローが必要。●佐藤さんが一人で背追い込みすぎている。ケアカンファレンスを開いて、ほかのメンバーとともに話し合いたい。●そもそも、この利用者さんへの訪問を佐藤さんに続けさせてよかったのか。佐藤さんが行くなら管理者から何かしらの支援が必要だった。●訪問看護のルールから外れていないかを確認する。 一人で考えるだけでは思いつかないこともあり、A・B・C・Dさんは、ほかの人の意見を聞きながら気づきを得ていたようです。 次回は、「管理者として、佐藤さんに対してどのような支援ができるか」を考えていきます。 ─第2回に続く 注1ケースメソッドとは、架空事例(ケース)について、参加者それぞれの考えをシェアしあうことで、学びを得ていく授業形式です。ケースの教材には、訪問看護管理者が問題に直面している状況が、物語風に構成されています。参加者は、ケースの教材を予習し、自分がこのケースの主人公ならどうするかを事前に考えた状態で、授業に参加します。ケースメソッドの授業では、講師のリードのもと、参加者どうしでアイデアをシェアしながら議論をすることによって学びます。これは講義形式のセミナーとはずいぶん違ったものです。参加者の発言が何よりもセミナーを豊かにする鍵となります。 注2発言者はA・B・C・Dとしていますが、常に同一の人物ではありません。別人であっても便宜上そのように表記しています。 執筆鶴ケ谷理子合同会社manabico代表慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。看護師、保健師、MBA。大学病院(精神科)、訪問看護、事業会社での人事を経験後、株式会社やさしい手看護部長として訪問看護事業の拡大に寄与。看護師250人超の面談を実施し、看護師採用・看護師研修などのしくみづくりをする。看護師が働きやすい職場環境作りの支援を目指し合同会社manabicoを立ち上げる。【合同会社manabico HP】https://manabico.com 記事編集:株式会社メディカ出版

特集

利用者を通して実感する多職種とのつながり

新宿区一帯で在宅ケアを提供している事業所の有志が集まった「新宿食支援研究会」。「最後まで口から食べる」をかなえるために、日々、多職種での支援を実践しています。本研究会から、各職種の活動の様子をリレー形式で紹介します。第5回は、言語聴覚士の佐藤亜沙美さんから、連携で気づきを得た経験を紹介します。 在宅医療の世界へ 私は新宿にある訪問看護ステーションで働いている言語聴覚士(以下ST)です。 以前は急性期病院で働いていました。在職中、脳卒中で高次脳機能障害のみが残存してしまい、回復期病院にも転院できず不安を抱えたまま自宅退院される方。誤嚥性肺炎で入院後、ご家族へ食事指導をして退院となっても、再度誤嚥性肺炎を発症し入院される方。病院所属での力不足を感じることが多くありました。 縁があり、現在働いている訪問看護ステーションでSTを募集していると知り、在宅で働ければ私が感じていたモヤモヤは解消されるのではないかと思い、在宅医療の世界に仲間入りしました。 STへの需要に追いついていない 私が新宿で働きだした2015年、新宿区で常勤で働く訪問STはほかにいませんでした。現在でも、新宿区内全体(人口約33万人)で一桁しかいない状況です。需要に対し、供給が追いついていない現状です。 2022年4月、当社にSTが一人入職しましたが、1か月ほどで十数人分の枠が埋まりました。それだけST訓練を待っている方がいるのだと実感しました。 訪問で伺う利用者さんには、脳卒中後に自宅退院はしたものの、言語障害や高次脳機能障害に悩まされている人が多くおられます。そして病院で想像していたとおり、継続したリハビリを必要としていました。 誤嚥性肺炎を繰り返す事例では、病院でご家族に食事指導をしていましたが、実際食事を作り、介助していたのはヘルパーさんだったのかもしれないと、今の私なら考えることができます。 他職種との連携の実際 現在訪問しているALS(筋萎縮性側索硬化症)の方では、嚥下機能に合わせて、ヘルパー、管理栄養士とともに、理想の食形態を追求して調理方法を試行錯誤しています。 まず、訪問歯科の先生にVE(嚥下内視鏡)をやってもらい、食形態を決定します。食事の内容については、なるべく少量でも栄養が確保できるように、管理栄養士からアドバイスをもらっています。介入から2年が経ち、嚥下機能も徐々に低下がみられていますが、今のところ、誤嚥性肺炎や窒息などの問題は起きていません。 このように現在、他職種と連携して介入を行えるようになったのは、「新宿食支援研究会」に出会えたおかげだと思います。同会に参加させていただくようになったころは、まだ訪問に転職したばかりで、右も左もわからない状況だったので、他職種の方は何をしているのか、そして多職種連携の大切さをイチから教えてもらいました。 多職種連携については何となく知っていましたが、STとどんな連携ができるのか、そして他職種が何をやっているのかを細かく知ることで、私自身も視野が広くなりました。何より、私には解決できない問題があるときに、誰に頼ればよいのかがわかるようになりました。 以前の私なら気づけなかったかもしれない 在宅では、病院で働いていたときよりもたくさんの職種の方がいます。病院勤務時代は聞いたことがなかった職種もありました。新宿食支援研究会に参加する方だけでも30近い職種の方々がいます。そのそれぞれの仕事を知れただけでも、ご利用者様を助ける術が増えるのだと心強く感じました。 その一つとして、失語症の訓練で依頼が来たSさんの事例を経験しました。 初回訪問時、とても痩せている方だなと思い、体重の変化をご家族に確認すると、4か月で5kg体重が減少していたことがわかりました。食欲がなくなっているのは年齢的にしかたがないと思っていたとのことでした。Sさんは軽度の嚥下障害がありましたが、ご家族が作ってくれる食事を食べていたため、管理栄養士の力を借りて、食事内容を少量でカロリーがとれるように少し工夫し、間食で高カロリー食を摂取してもらいました。また薬剤師に確認したところ、副作用として食欲の低下がある薬剤を内服していたため、医師に相談し量の調整をしてもらいました。 体重は半年で4kgと少しずつですが増加し、以前よりもリハビリに対して意欲的になってきました。自分から散歩に行きたいと言うなど、体を動かすことが苦ではなくなってきたようだとご家族も嬉しそうでした。 恥ずかしながら以前の私なら、言語訓練のみに視点が向いてしまい、体重の変化には気づけなかったかもしれません。新宿食支援研究会に参加してよかったと思えた一例です。 「食べる」リハビリに密接にかかわるST 福祉系の方やご家族から、いまだによく聞かれることがあります。「STって何をしてくれるんですか?」と。 STは言語訓練をする人、摂食・嚥下訓練をする人などのイメージはあると思います。食べることは、生きていくうえで大事なことですよね。しかし栄養をとるだけが「食べる」ではないと思います。 家族と食べる、おいしく食べる、外食をする、旅行先で地元のものを食べるなど、「食べる」から連想されることはいろいろあると思います。でも、そのためには、いすに座る、口腔内を清潔に保つ、食事を食べる体力がある、などさまざまな条件が整わないと「食事」はできないのです。 ST一職種だけではどうにもできないこともたくさんあります。そんなとき、他職種の手を借りることの大切さを学びました。食べること、栄養、お口の中、何か困っていることがあれば、ぜひSTにご相談ください。 ー第6回へ続く 執筆佐藤亜沙美言語聴覚士訪問看護ステーションリカバリー・新宿食支援研究会記事編集:株式会社メディカ出版

あなたにおすすめの記事

× 会員登録する(無料) ログインはこちら