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ダニアレルギーはどんな症状が出る?見分け方と対処法・治療法
ダニアレルギーはどんな症状が出る?見分け方と対処法・治療法
特集
2025年5月13日
2025年5月13日

ダニアレルギーはどんな症状が出る?見分け方と対処法・治療法

ダニアレルギーは、ダニの死骸やフンが原因で発症し、くしゃみや鼻水、皮膚のかゆみ、喘息などの症状を引き起こすアレルギー疾患です。ダニは目に見えないほど小さな生物ですが、私たちの生活空間に広く存在し、特に寝具やカーペットなどに潜んでいます。 本記事では、ダニアレルギーの症状や見分け方、発症時の対処法について解説します。訪問看護の利用者さんやご自身・ご家族の健康管理のためにも確認しておきましょう。 ダニアレルギーとは ダニアレルギーは、私たちの身の回りに存在するダニの死骸やフンが原因となって発症するアレルギー疾患です。アレルギーは、私たちの体の免疫システムが特定の物質(アレルゲン)を異物と認識し、排除しようとする反応のこと。ダニそのものが直接人体に害を及ぼすわけではなく、ダニの微細な粒子が空気中に漂い、吸い込むことでアレルギー反応を引き起こします。 最初にダニのフンや死骸が体内に入ると、免疫細胞が異物とみなして「IgE抗体」を作ります。これを「感作」といい、次にダニアレルゲンが体内に入った際、IgE抗体が反応します。そうすると、マスト細胞からヒスタミンなどの化学伝達物質が放出され、くしゃみ、鼻水、目や皮膚のかゆみ、気管支の炎症などのアレルギー症状が現れるのです。 ダニアレルギーの症状 ダニアレルギーの症状は、主に呼吸器症状と皮膚症状に分けられます。 呼吸器症状(くしゃみ・鼻水・咳・喘息など) くしゃみや鼻水、鼻づまりといったアレルギー性鼻炎の症状のほか、咳が続いたり喘息を発症したりすることもあります。気管支が敏感な人は症状が重くなりやすく、夜間の咳や喘鳴(ゼーゼー・ヒューヒューする音)が生じることもあるため、早期の対処が必要です。 >>関連記事アレルギー性鼻炎の種類&原因|訪問看護の場での対応方法・予防法 皮膚症状(湿疹・かゆみ・じんましんなど) 湿疹やかゆみ、じんましんなどが現れます。アトピー性皮膚炎の方は症状が悪化しやすい傾向にあります。かゆみが強く、かいてしまうことで皮膚が傷つき、二次感染を引き起こすことも。 ダニが繁殖しやすい季節と環境 ダニは高温多湿の環境を好み、気温20〜30℃、湿度60〜80%の条件で急激に増殖します。そのため、ダニの繁殖が最も活発になるのは梅雨から夏にかけてです。布団やカーペット、ソファ、ぬいぐるみなどの布製品にはダニが多く生息しており、こまめな掃除や換気をする必要があります。 また、冬場はダニの繁殖は落ち着くものの、暖房を使用することで室内が乾燥しやすくなり、すでに増えたダニの死骸やフンがハウスダストとして空気中に舞うことでアレルギー症状が悪化することがあります。 ダニアレルギーの対策 ダニアレルギーの症状を抑え、快適に生活するためには、環境管理が欠かせません。室内の清潔を保ち、アレルゲンの発生を抑えることで、症状の悪化を防ぐことができます。 室内環境の管理(掃除・換気・除湿など) ■湿度:なるべく60%以下に保ちます。定期的に窓を開けて換気を行い、エアコン・除湿機等を活用して湿気をコントロールしましょう。 ■掃除:ダニのエサとなるホコリやフケを減らすために、こまめな掃除が大切です。掃除機を使う際は、フローリングや家具の表面だけでなく、カーペットや畳の隙間までしっかり吸い取りましょう。 ダニが繁殖しやすい布団やマットレスは防ダニカバーを使用し、シーツや枕カバーは週に1回以上洗濯するのが理想的です。布団乾燥機を活用すると、より高い効果が期待できます。カーペットはダニの温床になりやすいため、可能であれば撤去し、フローリングにしましょう。 なお、衣類も長期間クローゼットにしまっておくとダニが繁殖しやすいため、収納時は防ダニ収納袋を活用したほうがよいでしょう。また、衣替えをして時間をあけて着用する際は、洗濯することをおすすめします。 ダニアレルギーの症状が現れたときの対処法 ダニアレルギーの症状が現れた際の対処法についても見ていきましょう。 対症療法で症状を改善させる ダニアレルギーによる発疹は、主に衣服で覆われる部分に現れ、赤みを帯びたしこりを生じるのが特徴です。かゆみが強く、無意識にかいてしまうことで皮膚が傷つき、さらに炎症が悪化することがあります。そのため、症状が出た際には、医師の指示に従ってステロイド外用薬を用いて早めに炎症を鎮めます。かゆみがひどい場合には、抗ヒスタミン薬を服用します。 免疫療法で根本から治せる可能性も 免疫療法は、アレルギーの原因となる物質(アレルゲン)を少しずつ体内に取り入れ、過剰な免疫反応を徐々に弱めていく治療法です。症状を一時的に抑える対症療法とは異なり、根本的な体質改善を目指します。 ダニアレルギーの免疫療法には、皮下免疫療法(SCIT)と舌下免疫療法(SLIT)の2種類があります。皮下免疫療法は、アレルゲンを一定の間隔で注射しながら体を慣れさせる方法で、主にアレルギー性鼻炎・アトピー型喘息が適応。一方、舌下免疫療法は、アレルゲンを含んだ薬を舌の下に置いて体内に吸収させる方法で、現状ではアレルギー性鼻炎のみが適応とされます。どちらも数年単位の継続が推奨されており、SLIT はアナフィラキシーをはじめとした全身副反応が比較的少ないといわれています。 なお、小児については、本剤を適切に舌下投与できると判断された場合にのみ使用可能ですが、5歳未満の幼児に対する安全性は確立されていません。どちらを選択するかは、年齢や症状の現れ方、検査結果など、さまざまな情報をもとに医師が判断します。 * * * ダニアレルギーは、日々の環境管理を徹底することで症状を軽減できる疾患です。こまめな掃除や換気、寝具の適切な管理を心がけることで、アレルゲンの発生を抑え、快適な生活を送ることができます。今回、解説した内容をご自身やご家族の体調管理、利用者さんのアセスメントにお役立てください。 >>関連記事梅雨の時期の感染症に注意!カビやダニによる感染症の症状や予防法を解説 編集・執筆:加藤 良大監修:瀬尾 達(せお わたる)医療法人瀬尾記念会瀬尾クリニック理事長。耳鼻咽喉科専門医。クリニックでの診療の他、京都大学医学部講師や大阪歯科大学講師を兼任。祖父から代々の耳鼻科医の家系。兄は、聖マリアンナ医科大学耳鼻科教授。テレビやマスコミ出演多数。 【参考】〇東京都福祉保健局.「健康・快適居住環境の指針― 健康を支える快適な住まいを目指して ―」https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/hokeniryo/web_zenbun12025/5/9閲覧〇日本アレルギー学会「ダニアレルギーにおけるアレルゲン免疫療法の手引き」(2018年6月29日)https://www.jsaweb.jp/uploads/files/180618dani.pdf2025/5/9閲覧

大賞エピソード漫画化!「お母さん~看護の襷をつなぐということ~」第1話【つたえたい訪問看護の話】
大賞エピソード漫画化!「お母さん~看護の襷をつなぐということ~」第1話【つたえたい訪問看護の話】
特集
2025年4月30日
2025年4月30日

大賞エピソード漫画化!「お母さん~看護の襷をつなぐということ~」第1話【つたえたい訪問看護の話】

NsPaceの特別イベント「第3回 みんなの訪問看護アワード」で募集した「つたえたい訪問看護の話」。大賞を受賞したのは、株式会社ウッディ 訪問看護ステーションはーと(東京都)の木戸 恵子さんの投稿エピソード、「お母さん~看護の襷をつなぐということ~」です。 本エピソードを『ナースのチカラ ~私たちにできること 訪問看護物語~』著者の広田 奈都美先生に、漫画にしていただきました。ぜひご覧ください! >>全受賞エピソードはこちらつたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!大賞・審査員特別賞・ホープ賞・協賛企業賞【2025】つたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!入賞【2025】 「お母さん~看護の襷をつなぐということ~」第1話 続く。第2話は、約2ヵ月後に公開予定です。 漫画:広田 奈都美(ひろた なつみ)漫画家/看護師。静岡県出身。1990年にデビューし、『私は戦う女。そして詩人そして伝道師』(集英社)、『ナースのチカラ ~私たちにできること 訪問看護物語~』『おうちで死にたい~自然で穏やかな最後の日々~』(秋田書店)など作品多数。>>『ナースのチカラ』の試し読みはこちら【漫画試し読み】『ナースのチカラ』第1巻1話(その1)投稿者: 木戸 恵子(きど けいこ)さん株式会社ウッディ 訪問看護ステーションはーと(東京都) >>「第3回 みんなの訪問看護アワード」特設ページ [no_toc]

私は難病ALSを発症して10年になる44歳の現役医師です
私は難病ALSを発症して10年になる44歳の現役医師です
コラム
2025年4月30日
2025年4月30日

私は難病ALSを発症して10年になる44歳の現役医師です

「enjoy!ALS」の第2弾が始まりました!今回のシリーズでは、梶浦智嗣先生に寄せられた在宅療養に関する疑問や悩みをもとに、さまざまな疾患の方にも役立つ実践的な情報をお届けします。 再開!「enjoy!ALS 2」 皆さん、こんにちは。私は2021~2023年までの2年間、こちらで「enjoy!ALS」のタイトルでコラムの連載をしておりました。 ありがたいことに、連載が終了してからもたくさんの反響をいただきました。訪問看護師さんや訪問リハビリスタッフさん、在宅療養中のALS当事者の方やその介護士の方々から、「今このような状況なのですが、この場合どうすればよいでしょうか?」との質問が多く寄せられ、実際に家に来ていただいて説明したこともありました。質問の中には工夫次第で解決できるものも多くあり、似たような質問も少なくありませんでした。 いただいたご質問の一部をご紹介します。 【訪問看護師さん】・侵襲の少ない気管吸引や鼻・口吸引のコツ・安全な人工呼吸器のホースの固定方法 など【訪問リハビリスタッフさん】・体や胸郭(肺)の拘縮予防に関するリハビリテーションの工夫【ALS当事者】・安楽な体位(仰臥位や座位、側臥位)のとり方・身の回りに置く必要がある物品(人工呼吸器や吸引器、吸引カテーテルなど)の配置方法・最新のコミュニケーションツール(コミュニケーション方法全般)・ALSの最新の治療について など 実際の在宅療養の現場では、居住スペースの広さや環境は整っているか、ケアに必要な物品が充実しているか、介助者の人数は足りているか、当事者がどこまで積極的なケアの介入を望んでいるかなど、家庭ごとに状況が異なります。そのため、個々に合ったケアプランを立てていく必要があり、なかなか皆さんに共通して当てはまるよいケア方法を見つけていくのは難しいのが現状です。 ただ、そんな中でも皆さんが困っていることには似ているところも多くありました。そこで、ALSに限らず、在宅療養を必要としている、さまざまな疾患の皆さんにも応用できる内容を「enjoy!ALS 2」として、連載していく運びとなりました。 連載終了後の私の経過と現在の状況 はじめに、前回の連載が終了してからの2年間の私の経過と現在の状況を説明させていただきたいと思います。 体調面での大きな変化はなし すでに4年前くらいから全身の運動機能はほぼ全廃しておりましたので、ほとんど変わっていません。唯一自分の意思で動かせるわずかな嚥下機能と噛む力も、さほど変わらず残っていますので、工夫をした飲食方法(>>「気管切開+誤嚥防止術」という考えかた!参照)や歯を使ったタブレット端末の操作(今後の連載で詳しく書きます)は現在もできています。 呼吸機能は、毎日の呼吸リハビリテーション(こちらも今後の連載で詳しく書きます)のおかげで、気管切開を行い侵襲的人工呼吸器(TPPV)を着けた4年前と比べても全然変わっていません。(むしろ、呼吸器の設定は変えていないのに、座位での一回換気量は上がっているので、よくなってるともいえます!) ただ、まぶたを上げる力の低下(眼瞼下垂)と目を動かす力の低下は徐々に進んできています……。 仕事面では新しく始めたことも 約2年前より、訪問診療を行っている「さくらクリニック」の中野の本院と練馬の分院で皮膚科医として働くようになりました。私のように在宅療養を必要とする患者さんたちの主治医と情報を共有して連携しながら、皮膚病変の診療を行っています。 このような体で、どのように患者さんたちの診療しているのか、皆さん、想像できないと思います。参考までに、下記に実際のカルテの一部を載せておきます(図1)。 図1 実際のカルテ(一部) ODT:occlusive dressing technique ※カルテの掲載に関しては、本人・家族、関係者の了承を得ています。 その他、コラムの執筆を行ったり、医師向けのサイトで全科横断コンサルトドクターとしても活動しています。 * * * 以上のように、私の経過を書かせていただきましたが、客観的に見て、私のALSの進行スピードは特別速くもなく、遅くもなく、標準的な範囲だと思います。 たとえALSを発症して10年も経ち、運動機能がほぼ全廃し、声も出せず、人工呼吸器を装着していても、適切なリハビリテーションと、日々の生活の工夫次第で、今までとはまったく違う形で自分らしい充実した人生を見つけていけると私は信じています! ALSを知ってほしい:私の経験から伝えたいこと 今はまだ、日々の診療もコラムの執筆もすべて、歯のわずかな噛む力でタブレット端末を操作して行えています。しかし、ALSは進行性の病気であり、正直に言って、私もあとどのくらいの期間文字を打てるかは分かりません。 それでも、文字が打てるうちに、たとえALSと診断されたとしても「生きたい」と願う人が生きる希望を持てる世の中をつくりたいと考えています。私の10年間にわたる闘病生活の経験と医師としての知識を生かして、後に続く同じ病気の方々の生活が少しでも豊かになるよう、ALS当事者や支援者の皆さんにとって参考になる情報を具体的に、分かりやすく書いていこうと思っています。 そのためには、まず、ALS当事者や支援者の皆さんが、少しでもよいのでALSという病気・病態について理解していただくことが大切と感じています。どんなことができなくなり、何が最後までできるのかを、私なりに説明してから、冒頭でご紹介した皆さんからの質問に答えていく形でコラムを書いていきたいと思います。  コラム執筆者:医師 梶浦 智嗣「さくらクリニック」皮膚科医。「Dermado(デルマド)」(マルホ株式会社)にて「ALSを発症した皮膚科医師の、患者さんの診かた」を連載。また、「ヒポクラ」にて全科横断コンサルトドクターとしても活躍。編集:株式会社照林社

水疱性類天疱瘡とは? 原因や症状、ケアの注意点が分かる【多数の症例写真で解説】
水疱性類天疱瘡とは? 原因や症状、ケアの注意点が分かる【多数の症例写真で解説】
特集 会員限定
2025年4月30日
2025年4月30日

水疱性類天疱瘡とは? 原因や症状、ケアの注意点が分かる【多数の症例写真で解説】

在宅療養者によくみられる皮膚症状を、皮膚科専門医の袋 秀平先生(ふくろ皮膚科クリニック 院長)が写真を見比べながら分かりやすく解説。今回は水疱性類天疱瘡を取り上げます。これだけは知っておきたい基本的な知識をお伝えします。  本記事では基本的に日本皮膚科学会策定のガイドライン『類天疱瘡(後天性表皮水疱症を含む)診療ガイドライン』に沿った記載をしておりますが、一部筆者の私見も含まれております。その点を踏まえてお読みいただければ幸いです。 水疱症 外傷、熱傷、虫刺され、接触皮膚炎などでも水疱は形成されますが、通常「水疱症」(すいほうしょう)という場合は自己免疫性または遺伝子の異常による先天性の特定の疾患を指します。後者の表皮水疱症という遺伝性の疾患はまれですのでここでは述べません。 自己免疫性水疱症には、表皮細胞間の接着構造に対して抗体をつくってしまう天疱瘡(てんぽうそう)群と、表皮と真皮の結合部位に対して抗体をつくる類天疱瘡(るいてんぽうそう)群があります。類天疱瘡群は類天疱瘡と後天性表皮水疱症に大別され、さらに類天疱瘡は水疱性類天疱瘡(bullous pemphigoid:BP)と粘膜類天疱瘡に分類されます(図1)。今回は頻度が高く問題になることが多いBPについて述べたいと思います。図1 水疱症の分類 高齢者に多い水疱性類天疱瘡(BP) BPは高齢者に多く、全国の患者数は、資料によって約7,000~8,000人と記載されている場合もあれば、約15,000~20,000人と記載されている場合もあり、正確には不明です。筆者の感覚では軽症の患者さんを含めればもっと多く、「それなりの規模の高齢者施設であれば、1人や2人の患者さんがいても不思議はない」という印象です1)。 神経疾患(脳梗塞、認知症、パーキンソン病など)との合併や悪性腫瘍との合併率が高いことも指摘されていますが、どちらも因果関係ははっきりしていません。後者に対しては、可能であれば侵襲のない範囲での検索を考慮してもよいでしょう。 自己抗体が基底膜を破壊しBPが発症 表皮と真皮は基底膜という構造で接着されています(図2)。BPでは、この接着に関与するタンパク質に対する自己抗体がつくられ、基底膜が破壊されることによって症状が発生します。基底膜を構成するタンパク質にはいくつかありますが、主なものはBP180とBP230です。それぞれに対する抗BP180抗体と抗BP230抗体が産生されます。 なお、天疱瘡群は、表皮または粘膜上皮の細胞を接着するタンパク質に対する自己抗体がつくられることによって生じます。 図2 表皮・真皮間の微細構造 典型的な症状は水疱とかゆみ 典型的な例では水疱が多数出現します(図3)。基底膜が破壊されると、表皮と真皮の間に隙間ができて水疱が生じます。表皮全体が水疱の「蓋」になるため水疱の膜は厚く、中には液体が充満してテンションが高くなることから「緊満性」水疱と呼ばれます。水疱が破れるとびらんになります。 図3 BPでみられるさまざまな水疱 A:緊満性水疱とびらんを認めます。B:浸潤のある紅斑局面があり、その中に小さい水疱や大きい緊満性水疱がみられます。C、D:緊満性水疱、びらん、痂皮などが多数みられ、皮膚の症状としては重症の例です。E:診察するタイミングにもよりますが、この例のように血痂(「けっか」と読む。血液が乾固した状態のもの)やびらんがメインで、緊満性水疱が見当たらない場合もあります。 一方で、先に述べた尋常性天疱瘡では水疱は表皮内に生じます。水疱の蓋が薄く、すぐにびらんになってしまいます(図4)。水疱の中に出血して血疱になったり、診察する時期によっては水疱がつぶれて乾燥していたり、痂皮になっている場合もあります(図5)。 BPはかゆみが強いことが多く(「痒みシュラン」2)の三ツ星です)、炎症も起こるため紅斑もみられます。しかし、はっきりした水疱がみられないこともあるため注意を要します。 今回は省略しますが、結膜や口腔内、性器などの粘膜に病変が出る例(粘膜類天疱瘡)や、水疱が目立たず結節を形成する例(結節性類天疱瘡)もあります。 図4 尋常性天疱瘡 水疱蓋が薄いため、すぐにびらんになってしまいます。 図5 血疱や血痂となった例 水疱内に出血して血疱となり、さらにそれが破れて乾燥し、血痂になったもの/なりつつある状態が混在しています。 鑑別に迷うことがあり、意外に多くみられる疾患がネコノミ刺症(ししょう)です(図6)。BPと同様に緊満性水疱となりますが、ノミが跳ぶ高さである足首や下腿に水疱が集中する、野良猫が周囲にいるなどのエピソードから鑑別します。難しい場合は抗体の検査も考慮します。 図6 ネコノミ刺症 BPの検査と診断 BPは血液検査、蛍光抗体、皮膚生検から診断を行います。 (1)血液検査 血液中の抗BP180抗体の有無を調べます。2018年から保険収載されるようになり、BPの診断の助けになっています。これに加えて白血球中の好酸球の割合が増加したり、IgEが上昇したりする場合もあるため参考にします。 いくつか、注意点があります。a)一定の割合で抗BP180抗体が検出されず、抗BP230抗体が陽性となる例がある臨床症状でどちらの抗体が出そうか区別できれば楽ですが、今のところはっきりしていません。b)抗BP180抗体と抗BP230抗体の両者ともに陽性になることもある最初から両方検査したいものですが、抗BP230抗体は保険収載されていないので、自費での検査になります。検査会社によっても異なりますが、8,000円程度の費用がかかることが多いです。c)当初陰性であった自己抗体が、その後陽性になることもある症状からBPを疑ったにもかかわらず、抗BP180抗体が陰性で、その後時間をおいた再検査で陽性になった例を多数経験しています。 (2)蛍光抗体 直接法皮膚生検を行い、病変部(ここでは基底膜部)に自己抗体である免疫グロブリン(や補体)が沈着しているかどうかを、蛍光標識抗体を用いて調べる検査です。 間接法患者さんの血清が別の皮膚組織に反応するかどうかを評価する方法です。 (3)皮膚生検 皮膚生検では、まずヘマトキシリン・エオジン法と呼ばれる通常の組織染色法を用いて検査します。表皮の下に水疱がみられ、真皮内の細胞浸潤も一般には強く、好酸球も混ざっています。皮膚生検が行えるようなら、できれば(2)で述べた蛍光抗体直接法も行いたいところですが、一般の検査会社では取り扱いが(おそらく)ありません。総合病院や大学病院の病理部門や研究室に依頼するしかないと思われます。在宅では生検を行うこと自体のハードルがやや高いので、行えない場合も多いです。 BPの診断3)は、症状、検査所見(病理組織学的診断と免疫学的診断)、鑑別診断の3点からなり、一定の基準を満たした場合に確定診断となります。 DPP-4阻害薬によるBP発症に注意 以前から降圧薬、利尿薬、抗生物質などの薬剤によりBPが発症することが指摘されていました。近年では、糖尿病治療に用いられるDPP-4(dipeptidyl peptidase-4)阻害薬内服中の患者さんにBPが多くみられることも観察されており、薬歴の聴取は重要です。DPP-4阻害薬内服中の患者さんにBPが発症した場合、内科主治医に連絡して薬剤変更の依頼をしましょう。 重症度はBPDAIを用いて評価 BPDAI(bullous pemphigoid disease area index、略称は「ビーピーダイ」と呼びます)という、BPの重症度を判定するための基準があります3)。(1)皮膚のびらん/水疱(2)皮膚の膨疹/紅斑(3)粘膜のびらん/水疱について、個数や大きさをもとに点数化します。(1)から(3)それぞれの合計スコアを算出して軽症・中等症・重症を判定し、3つのうち最も高い重症度を採用します。 治療はステロイド内服で自己抗体を抑制 重症度により治療方針が決定されます。BPDAIの採点はそれほど難しくないので、BPDAIを用いて軽症から重症までの分類を行います。 軽症の場合 ごく軽い場合はⅡ群(very strong)またはⅠ群(strongest)のステロイド外用で症状を抑えられることもありますが、一般的には内服治療を必要とします。ステロイド内服が著効しますが、プレドニゾロン1日20mg程度でコントロールできることが多いです。治療が長期にわたることが多いため、感染対策、胃粘膜保護、骨粗鬆症対策を同時に行います。 BPに対する特殊な治療として、テトラサイクリンとニコチン酸アミドの併用療法が奏効することがあります。比較的軽症である場合や合併症でステロイド内服が困難である場合などに選択されます。 中等症・重症の場合 多い量のステロイド内服(プレドニゾロン換算で1日30~60mg程度)や、状況により免疫抑制剤や血漿交換なども必要となる場合があります。在宅での治療は難しいかもしれません。 指定難病の医療費助成が受けられる 類天疱瘡(後天性表皮水疱症を含む)は2015年7月から難病指定を受けており、医療費が助成されます。助成を受けるには難病指定医による届け出が必要です。また、届け出る前に先に述べた確定診断を行わなくてはいけません。BPDAIを用いた評価で中等症以上が対象となります4)。 患部の清潔を保ち感染予防ケアを 皮膚病変が広範囲にあると患部を洗うことを躊躇する患者・介護者もいると思います。ですが、水疱内から出てきた血漿成分や血液などが皮膚に残っていると細菌増殖の温床になる可能性もあるため、清潔にすることが重要です。低刺激の洗浄剤をよく泡立てて、泡で洗い、やさしくていねいにすすぎます。入浴についてはこすらないようにすれば構いませんが、シャワーにとどめておいたほうが無難かもしれません。 また、わずかな外力で水疱形成を誘発することがあるため、絆創膏を直接貼るのは避けます。病変部はガーゼ(場合によっては非固着性のガーゼ)を当てて、ネットや包帯などで固定しましょう。二次感染予防のために清潔に保つことも必要です。  執筆:袋 秀平ふくろ皮膚科クリニック 院長東京医科歯科大学医学部卒業。同大学学部内講師を務め、横須賀市立市民病院皮膚科に勤務(皮膚科科長)。1999年4月に「ふくろ皮膚科クリニック」を開院。日本褥瘡学会在宅担当理事・神奈川県皮膚科医会副会長・日本専門医機構認定皮膚科専門医編集:株式会社照林社 【引用文献】1)袋秀平:水疱性類天疱瘡.Visual Dermatology 2020:19(12);1257-1259.2)塩原哲夫:痒みシュランとは…….Visual Dermatology 2003:2(9);873.3)類天疱瘡(後天性表皮水疱症を含む)診療ガイドライン作成委員会:類天疱瘡(後天性表皮水疱症を含む)診療ガイドライン).日皮会誌 2017:127(7);1483-1521.4)厚生労働省:162類天疱瘡(後天性表皮水疱症を含む。) 指定難病の概要、診断基準等.https://www.mhlw.go.jp/content/10905000/001174368.pdf2024/12/13閲覧

新任訪問看護師の戸惑い 育成の課題と行動指針【セミナーレポート後編】
新任訪問看護師の戸惑い 育成の課題と行動指針【セミナーレポート後編】
特集 会員限定
2025年4月22日
2025年4月22日

新任訪問看護師の戸惑い 育成の課題と行動指針【セミナーレポート後編】

2025年1月23日に実施したNsPace(ナースペース)のオンラインセミナー「新任訪問看護師の戸惑いあるある~ギャップを感じるのはなぜ?~」。聖路加国際大学 講師の佐藤直子先生をお招きし、新任訪問看護師の戸惑いをテーマに講演いただきました。セミナーレポート後編では、新人育成における業界の課題や、東京ひかりナースステーションでの実際の取り組みなどをまとめます。 ※60分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 >>前編はこちら新任訪問看護師の戸惑い 困難感への理解と支援【セミナーレポート前編】 【講師】佐藤 直子 先生聖路加国際大学 講師/東京ひかりナースステーション 顧問/在宅看護専門看護師2003年より訪問看護に携わり、2019年~東京ひかりナースステーションクオリティマネジメント部部長。2010年に聖路加国際大学大学院の修士課程(CNSコース)を、2020年には博士課程(DNPコース)を修了。 訪問看護業界全体の育成の課題 業界全体の教育における課題には、以下のようなものがあります。 即戦力人材の減少 訪問看護が急拡大したのは、介護保険制度が始まり、ステーションが増えた2000年からです。当時は、再就職を考えている、もしくはブランクがある病院出身の看護師を即戦力として採用するのが一般的でした。しかし、病院の機能分化が進み、入院期間も短くなるにつれて、「生活を支援する」という視点で即戦力となれる看護師は、ほとんど見かけなくなっています。 育成体制が追い付いていない 人手も資金も時間も限られているステーションでは、育成体制を十分に整えることが難しいといわれています。 「病院や病棟の色」がついた看護師の増加 訪問看護に求められるのは「看護師基礎教育で学んだ内容」であり、特別に学ぶことはほとんどありません。しかし、例えば急性期医療の経験があると、安全や感染の知識に偏って重きを置いてしまうケースも。その結果、訪問看護の現場でギャップに苦しみます。 事業所の育成力 もちろん個人差がありますが、ベテラン訪問看護師はノウハウや思考の言語化が苦手な傾向があり、新任者にうまく伝わらないケースが多いです。 こうした訪問看護業界の現状をふまえ、新任者には「自分が先輩も新人もお互いに学べる職場を作る」という意識をもってもらえるとありがたいです。また、「訪問看護」と一口にいっても、事業所ごとに性質は異なります。新任者にとっては、入職したステーションの性質とやりたいことが合わないと、つらさの一因になるでしょう。訪問看護ステーションの内実がわかりづらい点も業界の課題であり改善が必要ですが、新任者の方は、就活中も入職後も時間をかけて慎重に見極めてください。 東京ひかりナースステーションの取り組み 訪問看護師の育成では、知識・技能・態度が重要です。そこで、東京ひかりナースステーションでは、以下の取り組みを実践しています。 知識の支援 レベル別の知識テスト(基本知識、特定の利用者さんを担当する際に必要な知識など)を実施。正解を伝えるだけでなく、足りない知識の勉強方法も解説します。 技術の支援 爪切りや巻き爪のケア、胼胝と鶏眼の処理、スキンテアの対処法など「病院では頻度が低いけれど訪問看護ではよく実践する技術」をリスト化し、演習を行います。演習は訪問予定に応じて都度実施し、「忘れてしまった」ということがないようにします。 態度や姿勢の支援 態度や姿勢を支えるのは、「考え方や行動の指針」です。正解はないので、各ステーションで「何を大切に看護するか」を考えてください。 なお、当ステーションでは毎週2時間のミーティングを行い、お互いのケースについて相談し合います。全員が自分ごととして考え、行動レベルのプランを協力して構築。態度や姿勢を言葉で伝えるのは難しいですが、実例を挙げて対話し、「自分たちが大切にしたいこと」を共通認識にしていくと、自ずと行動指針ができてきます。 普遍的な訪問看護の行動指針 ステーションごとに指針を確立し、共有することが重要とお話ししましたが、一方で「訪問看護の普遍的な考え方、行動指針」もあると思います。 利用者さんが暮らすこと、生きることを支援する 「生きる」は「命がある」だけを指すのではなく、生きがいや役割をもつことも含みます。1秒でも長く生きられるように支援するだけでは、十分とはいえないでしょう。また、暮らしに焦点を当てるからこそ、短期目標に加えて超長期目標を立てることも特徴です。数年先の暮らしを想像しながら看護を展開します。 セルフケアの維持・向上を目指す 訪問看護師の多くは、自分ではなく「利用者さん」を主語にしてケアを語ります。例えば「(私が)患者を立たせる」とはいわずに「(支援したら)患者が立った」と表現するのは、利用者さんの能動的・自律的な行動を支援したいと考えているからでしょう。 利用者さんごとに正常・異常を判断する 訪問看護師のアセスメントの基準は、「前回訪問時の利用者さんの様子や個々人にとっての正常」です。病院では驚かれる数値でも、訪問看護師は利用者さんの軌跡をふまえて評価します。 利用者さんを含めたチームでアプローチする 訪問看護師は、利用者さんの目標に向かってチームでアプローチします。ポイントは、「チーム」に利用者さんやご家族も含まれること。ご本人やご家族が行動しないと目標を達成できませんし、彼らが最も真剣に目標と向き合っていることをわかっているからこその考え方です。 また、訪問看護師だけでは何もできないことを理解し、多職種やフォーマル、インフォーマルを含めたチームでの協働を目指します。そして、そのために必要な合意や情報共有を大切にしています。 * * * 訪問看護は地域医療において重要な役割を担い、その支え手である看護師の育成と意識づけは欠かせません。より良い看護を提供できる環境を整えるためには、皆で成長できる環境を目指すことが大切です。新任者の皆さまも、より良い職場を作るために積極的にアプローチしていく姿勢で臨んでいただけたら幸いです。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

ヒトメタニューモウイルスの症状・原因・RSウイルスとの違いとは?
ヒトメタニューモウイルスの症状・原因・RSウイルスとの違いとは?
特集
2025年4月22日
2025年4月22日

ヒトメタニューモウイルスの症状・原因・RSウイルスとの違いとは?

ヒトメタニューモウイルス感染症は、乳幼児や高齢者を中心に発症しやすい呼吸器感染症の1つです。症状はRSウイルス感染症とよく似ており、発熱や鼻水、咳が現れるほか、重症化すると呼吸困難を引き起こすこともあります。 本記事では、ヒトメタニューモウイルス感染症の症状や原因、RSウイルスとの違い、感染経路や治療法について解説します。訪問看護の利用者さんが風邪のような症状を訴えた際のアセスメントに役立ててください。 ヒトメタニューモウイルス感染症とは ヒトメタニューモウイルス(human metapneumovirus:hMPV)感染症は、特に乳幼児に多くみられる呼吸器感染症です。健康な成人や児童では、軽い風邪症状のみで経過することが多く、無症状のまま終わる場合もあります。しかし、乳幼児や高齢者、心肺疾患や神経筋疾患などの基礎疾患がある方、免疫不全状態の患者では重症化する危険があるため、RSウイルス感染症と並び、注意が必要な病気の1つとされています。 RSウイルス感染症は感染症法に基づく届出対象疾患であり、発生状況の把握が行われていますが、ヒトメタニューモウイルス感染症は届出対象ではないため、正確な流行状況を追跡できません。 ヒトメタニューモウイルス感染症の症状 ヒトメタニューモウイルス感染症は、感染後3~5日以内に鼻水や発熱が見られることが一般的です。軽症の場合は、発熱や咳嗽、鼻汁、咽頭痛、倦怠感など風邪に似た症状が現れますが、重症化すると、喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒューという呼吸音)や呼吸困難感が生じ、肺炎、細気管支炎へ進行することがあります。 初めて感染する小児では咳や喘鳴が生じることもあります。特に、生後6ヵ月未満の乳児の場合、初期症状として一時的に呼吸が止まる無呼吸発作が起こることがあります。 ヒトメタニューモウイルス感染症の原因 ヒトメタニューモウイルス感染症は、ヒトメタニューモウイルスによって引き起こされる急性呼吸器感染症です。このウイルスは2001年にvan den Hoogen(オランダ)らによって小児の気道分泌物から初めて分離されました。その後の研究で、ヒトメタニューモウイルスは世界中に広く分布し、呼吸器感染症の主要な原因の1つであることが明らかになりました。 ヒトメタニューモウイルス感染症と他の感染症の違い ヒトメタニューモウイルスはRSウイルスと同じニューモウイルス科に属しているため、症状や感染の広がり方がよく似ています。鼻水や発熱といった軽度の症状から、咳や喘鳴、呼吸困難といった重症化したケースまで幅広い症状を引き起こします。 >>関連記事RSウイルス感染症の症状・原因・治療法は?子どもも大人も注意 ヒトメタニューモウイルス感染症の感染経路 ヒトメタニューモウイルス感染症の感染経路は、飛沫感染と接触感染です。感染した人が咳やくしゃみをした際に放出されたウイルスを吸い込むことで感染が成立します。 また、ウイルスが付着した手指や物を介して口や鼻、目の粘膜に触れることでも感染が広がります。 ヒトメタニューモウイルス感染症の好発年齢 生後6ヵ月から2歳頃までの子どもが最も感染しやすく、初めての感染となるケースが多いため、免疫が十分に備わっておらず重症化しやすい傾向があります。また、多くの場合、5歳~10歳までに感染するとされています。一回の感染では再感染を防ぐための十分な終生免疫が得られず、再感染を繰り返します。 ヒトメタニューモウイルス感染時の登園・登校・通勤について ヒトメタニューモウイルス感染症は乳幼児や高齢者の感染のリスクが高く、無理に登園・登校・通勤すると感染拡大につながる可能性があります。感染拡大を防ぎながら日常生活へ復帰するための基準や注意点について解説します。 登園・登校の基準 ヒトメタニューモウイルス感染症は、第三種感染症・その他の感染症に該当し、校長が学校医の意見を参考に出席停止の判断を行うことができます。 保育園や幼稚園、小学校では、解熱後24時間以上が経過し、全身状態が良好であれば登園・登校が可能とされることが多いですが、咳や鼻水といった症状が強く、周囲に感染を広げる可能性が高い場合は、さらに数日間の経過観察を求められることもあります。 職場・通勤時の注意点 体調が優れない場合や発熱が続いている場合は無理に出勤せず、自宅での療養が推奨されます。通勤時にはマスクを着用し、手洗いや咳エチケットを徹底することで、周囲への感染拡大を防ぐことが重要です。 ヒトメタニューモウイルス感染症の治療・対応法 ヒトメタニューモウイルス感染症に対する特効薬は現在のところ存在せず、対症療法が中心です。発熱がある場合は解熱剤を使用し、咳や痰がひどい場合は鎮咳薬や去痰薬を用います。十分な水分補給と休養をとりながら、体力の回復を促すことが重要です。 ヒトメタニューモウイルス感染症で医療機関を受診する目安 医療機関を受診する目安は、高熱が続く、息苦しさを感じる、喘鳴がひどくなっているときなどです。特に乳幼児では、無呼吸発作やぐったりしている様子が見られた場合、速やかな受診が必要です。また、基礎疾患のある方や高齢者は重症化しやすいため、症状が悪化する前に医療機関に相談しましょう。 * * * 訪問看護の現場では、感染の初期症状を見逃さず、適切な対策を講じることが重要です。呼吸の変化や発熱などに注意を払いながら、必要に応じて医療機関の受診を促しましょう。 編集・執筆:加藤 良大監修:久手堅 司せたがや内科・神経内科クリニック院長 医学博士。「自律神経失調症外来」、「気象病・天気病外来」、「寒暖差疲労外来」等の特殊外来を行っている。これらの特殊外来は、メディアから注目されている。著書に「気象病ハンドブック」誠文堂新光社。監修本に「毎日がラクになる!自律神経が整う本」宝島社等がある。 【参考】〇国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト「COVID-19流行下の小児基幹病院における当院に入院した重症ヒトメタニューモウイルス感染症の状況」(2022年8月30日)https://www.niid.go.jp/niid/ja/route/respiratory/1744-idsc.html?start=62025/4/15閲覧〇島根県感染症情報センター「ヒトメタニューモウイルス(hMPV)」(2018年4月)https://www1.pref.shimane.lg.jp/contents/kansen/topics/hMPV/index.htm2025/4/15閲覧

新任訪問看護師の戸惑い 困難感への理解と支援【セミナーレポート前編】
新任訪問看護師の戸惑い 困難感への理解と支援【セミナーレポート前編】
特集 会員限定
2025年4月15日
2025年4月15日

新任訪問看護師の戸惑い 困難感への理解と支援【セミナーレポート前編】

2025年1月23日、NsPace(ナースペース)はオンラインセミナー「新任訪問看護師の戸惑いあるある~ギャップを感じるのはなぜ?~」を開催。新任訪問看護師の戸惑いをテーマに、聖路加国際大学 講師の佐藤直子先生にお話を伺いました。セミナーレポート前編では、新任者の悩みと、それらを解消するサポート方法を紹介します。 ※約60分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)が特に注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】佐藤 直子 先生聖路加国際大学 講師/東京ひかりナースステーション 顧問/在宅看護専門看護師2003年より訪問看護に携わり、2019年~東京ひかりナースステーションクオリティマネジメント部部長。2010年に聖路加国際大学大学院の修士課程(CNSコース)を、2020年には博士課程(DNPコース)を修了。 訪問看護入職者の一般的な戸惑い・困難感 訪問看護師が感じる戸惑いや困難感に関して、いくつかの研究をもとに、以下のように分類しました。 ■個人の課題(仕事がうまくできない情けない思い)・知識や技術の不足・単独訪問の判断の難しさと責任・時間内にケアが終わらない など■場やシステムの課題、職場全体で取り組むべき問題・勤務体制(24時間対応、休みのとりにくさ)・(薬剤を含む)医療データが少ない、かつ入手が困難・他職種連携(これまで関わったことがない職種との連携) など■訪問看護特有ではない問題・職場内の人間関係・家庭との両立 など文献1)-3)の結果を集約 私が問いたいのは、「これらの問題は本当に『問題』なのか」ということです。例えば、ベテラン訪問看護師の多くは「介護保険制度や医療保険制度の理解は追い追いで良い」と話します。 また、単独訪問の判断の難しさと責任については、考え方を変える必要があるでしょう。訪問看護では、「患者の管理」を行うのではなく「ケアの管理」をします。患者管理をしようとすると、判断することや責任を負うことがつらくなってしまうでしょう。具体例として、訪問看護師が「この利用者さんは次回の訪問まで転倒しない」と判断することはできませんよね。「転ばせない」ことを主軸に患者管理をしようとすると、訪問の後も不安感が募ってしまうのです。それよりもちゃんと動けるケア、転んだらどのように起き上がるのかを考えるほうが良いです。 さらに、時間内にケアが終わらないのも新任者なら当たり前のことであり、問題ありません。技術は経験を重ねることで向上します。まずはそのことを上司や同僚に相談しましょう。 誤解されがちな「現場での判断のあり方」 「訪問看護師は一人で現場に行き、判断する」と考えている方もいますが、これは誤りです。テクノロジーの発達により、現場で個人が判断する時代は終わりました。例えば、利用者さんの体に新しい傷があれば、共有アプリに写真をアップロードし、先輩やドクターにその場で処置方法を確認できます。 また、私は訪問看護の最大の強みは、利用者さんと一緒に判断できることだと考えています。「私は看護師としてこのように判断しましたが、いつもどのように対処していますか?私はこの対応が良いと思いますが。」と利用者さんにぜひ尋ねてみてください。本来、医療やケアの選択は、利用者さんご自身が最も強い決定権をもつものです。 ただし、自分で判断するのが難しい利用者さんには噛み砕いて伝えたり、過去の記録に基づいて検討したりすることは必要です。 先輩看護師のフォローについて ここからは、主に新任者本人ではなく、サポートする先輩看護師に向けてお話しします。新任訪問看護師が一人で訪問するようになった際、「電話があるから大丈夫」「カメラがあるから大丈夫」ではなく、適切なフォローをすることが大切です。 例えば、よく言われる「何かあったら言ってね」という言葉は、一見親切そうで、実はとても不親切。新任者はその「何か」を判断できないからこそ困っているのです。 「どう?何か気になることはある?」「特に問題がなくても、訪問終わる前に連絡してね」といった積極的な声かけが大切です。新任者が自信を持って判断できるようになるまで、少ししつこいくらいに寄り添う(やりすぎかどうかは本人に聞いてくださいね)ことが、本当の支援につながります。 アンラーニングについて 訪問看護の新任者の葛藤を理解するためには、「アンラーニング」への理解も不可欠です。アンラーニングとは、既存の知識や価値観を捨て、新たに学び直すことを指します。 新任者は、前の職場の価値観を新しい職場で少なからず捨てるものがあります。捨てて新しい価値観を受け入れる過程では、苦しさを感じ、その気持ちを怒りとして表すことがあります。「このやり方は間違いだ」「前の職場ではこうしていた」と主張したり、悶々としたりといった具合です。受け入れる側には、その苦しみを理解するとともに、現在の職場の価値観を言葉にすることが求められます。サポーティブに関わることを意識しましょう。 なお、こうした苦しみは、キャリアを積んだ方でも感じます。なぜなら、看護理論家のパトリシア・ベナーさんもおっしゃっている通り、「経験がない部門に移れば、誰もが初心者になる」から。そして、初心者は行動指針やルールが分からず、状況に応じた行動ができないので、職場のローカルルールや大事にしていることを伝えてくださいね。 実践の原則を学ぶポイントは「経験の質」 初心者の成長に必要なのは、時間ではなく「経験の質」です。 経験学習のコツ経験すれば理解するのではなく、その経験にどんな意味があったのか、なぜそうなったのかを振り返り次に活かす。その振り返りは、なぜそうなったのかが分かるベテラン先輩が支援すべし! 「経験による学習」をうまくできない方は多く、周りが支援をしないと「ただ経験しただけ」になってしまいます。ベテラン先輩が「振り返り」の部分を支援しましょう。私が顧問を務めるステーションでは、クラウド上で「振り返りノート」をやりとりします。新任者の記録に先輩がフィードバックする形式です。 フィードバックのコツ 入職したてはすべての事象が新鮮で、情報を「そのまま」受け止めがち。そこで私は、振り返りノートで「起きた行為の意味」を説明します。また、「印象的だった」「勉強になった」という記述があれば、「具体的に何が印象的で、何を学んだか」を繰り返し聞きます。 特に注意すべきは「印象的」という言葉で、これは予想と違うことを意味します。先輩の仕事に「感動したケース」もあれば、「教科書と違って違和感を持ったケース」もあるでしょう。そこを明確にしないと、アンラーニングにおける葛藤や、誤った価値観の構築を招きます。 また、教訓が身についてくると、さまざまなケースで使いたくなるもの。その際は、どんなケースで教訓を適用できるかといった留意点をフィードバックします。 次回は、新人育成における業界の課題や、東京ひかりナースステーションでの実際の取り組みについてお話しいただきます。 >>後編はこちら新任訪問看護師の戸惑い 育成の課題と行動指針【セミナーレポート後編】 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア 【引用文献】1)森 陽子ら著.「新たに訪問看護分野に就労した看護師が訪問看護への移行期に経験した困難とその関連要因」日本看護管理学会誌,2016,20(2),p104-1142)平尾 由美子ら著.「病棟業務から訪問看護業務に移行した直後に看護師が感じる戸惑い・困難,8(1)」千葉県立保健医療大学紀要,2017,p169-176.3)柴田 滋子ら著.「訪問看護師が抱く困難感」日本農村医学会雑誌,2018,66(5),p.567-572 【参考文献】〇P.ベナーら著.早野ZITO真佐子訳.「ベナー ナースを育てる」医学書院,2011〇松尾 睦.『職場が生きる人が育つ 「経験学習」入門』ダイヤモンド社,2011

腹膜透析の普及と支援の現場:教育体制、多職種連携、訪問看護の課題【特別対談】
腹膜透析の普及と支援の現場:教育体制、多職種連携、訪問看護の課題【特別対談】
インタビュー
2025年4月15日
2025年4月15日

腹膜透析の普及と支援の現場:教育体制、多職種連携、訪問看護の課題【特別対談】

小倉記念病院腎センター科長の栗本幸子さんと、在宅看護センター北九州管理者の坂下聡美さんによる特別対談。後編では、腹膜透析(Peritoneal Dialysis:PD)の実践に携わるスタッフの育成・研修体制のほか、多職種連携で重視すること、訪問看護における制度上の課題などについてお話をうかがいました。 >>前編はこちら地域で支える腹膜透析:病院×訪問看護ステーションの連携【特別対談】 ※本記事は、2024年12月の取材時点の情報をもとに構成しています。 ▼プロフィール栗本 幸子(くりもと ゆきこ) 氏一般財団法人平成紫川会 小倉記念病院看護部 腎センター 科長 認定看護管理者同院の循環器病棟および腎臓内科病棟の科長を経て、2023年11月より現職。2017年に認定看護管理者の資格を取得。坂下 聡美(さかした さとみ) 氏一般社団法人 在宅看護センター北九州 代表理事(管理者・看護師)パーキンソン病療養指導士北九州市立看護専門学校を卒業後、病院や地域のクリニックでの勤務を経て、2000年より訪問看護に従事。2018年、公益財団法人笹川保健財団の支援を受け、北九州学術研究都市「ひびきの」に日本財団在宅看護センター「一般社団法人 在宅看護センター北九州」を開設。※文中敬称略 PDの研修方法と新人教育の工夫 ー病院や事業所ではどのような方法でPDの研修をされていますか。 栗本: 小倉記念病院では、新人のときから「PD患者さんは特別な存在ではない」という意識をもってもらうようにしています。新人の集合研修の中にもPDを取り入れているほか、どの病棟にもPD患者さんが入院できるようにしているので、病棟ごとに教育担当者から指導を受け、経験を積んでいきます。 また、当院は日本腹膜透析医学会(JSPD)の教育研修医療機関でもあるので、年に4回ほど外部向けの教育研修も実施しています。PD患者さんが多いため、他の病院の方々から見学の依頼を受けることも多く、個別のプログラムを組んで対応することもありますね。 坂下: 在宅看護センター北九州でも、PDに関してはOJTで研修を行います。新人が入職したときは最初の3回ほどは必ず先輩について実習を行い、4回目以降から少しずつ独り立ちします。自信がない場合は、遠隔作業支援システムを活用しバックアップしています。患者さんの同意が必要ですが、ウェアラブルカメラを新人が装着し、リアルタイムで先輩が状況を確認。音声も届けられるので、必要なときには声をかけます。 新人にとっても、実際に隣に先輩がいるよりも遠隔で見守ってもらうほうが緊張せず、落ち着いて作業できるようです。スタッフのストレスを軽減しつつ、患者さんにとっても安心感を提供できるツールであると感じています。 看護の連携が患者さんの大きな安心につながる ーPDにまつわる多職種連携の取り組みについて教えてください。 栗本: 当院では2週間に1回、「PDカンファレンス」を行っており、そこには医師、外来看護師、病棟看護師、管理栄養士、ソーシャルワーカー、理学療法士、薬剤師など、PD療法に関わる全職種が参加します。もうすぐ退院される患者さんや、これから入院される患者さんについて情報を共有し、ディスカッションを行うんです。例えば、退院前の患者さんの場合、無事に自宅に戻れるかどうか、栄養状態やADL(日常生活動作)などさまざまな視点でチェックし、必要に応じて訪問看護の導入や家族のサポート体制を整えています。患者さんの生活状況を多角的に把握し、多職種と連携しながら進めていくことが重要だと考えています。 ー多職種が関わるからこそ、患者さんが安心して自宅に戻れるのですね。 栗本: そうですね。そこで、ひとつの大きな課題になるのが、「訪問看護が必要かどうか」ということです。本当に家族だけのサポートでよいのか、その家族もいない場合にはどうしたらよいのか。こういったことは家族だけで考えてもなかなか解決しません。それを、ソーシャルワーカーや、当院のような訪問看護と連携している病院が協力することで、ある程度、その患者さんが安心して地域に戻っていただけるベースをつくることができると思います。そこは、本当に大事にしたいと考え、取り組んでいるところです。 坂下: 訪問看護の立場からみると、退院前のカンファレンスで話をうかがえること、何かあったときに病院の看護師さんたちに質問できる環境があることは、大きな安心につながります。 あとは、医療機器メーカーとの連携も欠かせません。在宅では、さまざまなメーカーのいろいろな機器を患者さんが使用されているので、1個ずつの使用方法についていくのが大変です。でも、メーカーに相談したら、すぐに勉強会を組んでくださり、訪問看護ステーションにも出向いてくださって使用方法を教えてもらいました。こういった連携がとてもありがたいです。 ー訪問看護導入にあたり、患者さんにとってどういった点がハードルになることが多いのでしょうか。 栗本: やはり、経済的な問題です。費用負担を心配される患者さんもいらっしゃるので、カンファレンスでは制度面・費用面のことも話し合っています。私たちがいかにサポートできるか、患者さんに喜んでいただけるかを考えながら調整していくようにしています。 坂下: 一般的に、訪問看護での24時間対応をつけると一割負担で月に600円程度が目安ですが、「払えないからつけなくていい」と言われることがあります。数百円単位でも患者さんにとっては大きな負担になることがありますし、医療制度のしくみの中で使える支援やサービスに関する知識も、訪問看護師にとってはとても大事だと思います。 PDという選択肢を提示できる土壌をつくる ー患者さんにPDという選択肢が提示されないケースが多い現状に対し、今後どういった取り組みが必要だと思われますか。 栗本: 選択肢を提示し、患者さんが望む治療を選べるように、まずはPDを提供する側の土壌をつくっていくことが重要だと考えています。継続的な治療をサポートできるように病院や訪問看護が連携すること、院内や事業所内でPDを継続できるような教育・指導体制の強化を積極的に進めていくことが大切だと思います。 その一環として、当院では情報連携のICTツール「バイタルリンク(R)」を活用して3つの訪問看護ステーションと連携し、高齢独居のPD患者さんをフォローしているケースがあります。この方は、1日3回のPDが必要なのですが、病院と各ステーションが患者さんの1日の状態をリアルタイムで把握できる体制になっているので、切れ目のない看護を提供できている実感があります。ICTの活用は今後ますます重要になってくるのではないでしょうか。 坂下: そうですね。さまざまなケースに対応できる体制の整備は必要ですね。あとは、PDという治療法の存在をしっかり広めていくことも、医療を提供する側の大切な役割と感じています。 例えば、山間部にお住まいの患者さんが血液透析に通うのが難しくなったため、訪問看護が入ってPDを選択されるといったケースもあります。PDは自宅で治療ができるので、通院の負担も減り、1回の治療にかかる時間も比較的短め。透析のタイミングを調整すれば、自由に使える時間が増え、患者さんの生活の質(QOL)を保つことができるでしょう。最近は、60代や70代でバリバリ仕事をされている方が多いので、そういう方たちの希望のひとつにPDがなるのかなと思っています。また、自宅で最期まで過ごしたいと希望される方が増えてきていますが、その場合には「PDラスト」という選択肢もあります。在宅医の先生がついていれば、PDをしながらでも最期まで看取れるようになります。 患者さん、ご家族、医師、看護師などでACP(Advance Care Planning、または人生会議)を行い、患者さんにとっての最善を選べるサポートができるとよいですね。 栗本: 当院のような基幹病院が、PDをサポートする訪問看護師さんや在宅医に対して「何かあればいつでも連絡ください」と言える体制を整えていくことも大切ですね。逆に、訪問看護師さんから「こうしてほしい」といったご提案をいただき、それをもとに改善を重ねながら、今後も連携を続けさせていただきたいなと思っています。 坂下: そうですね。お互いに意見を交換しながら、利用者さんが安心して治療を続けられるよう、よりよい連携・支援体制をつくっていきたいですね。今後ともよろしくお願いします。 取材・編集: NsPace編集部執筆: 株式会社照林社

ちば看多機研究会「看多機を広めよう・つなげよう・深めよう」イベントレポート
ちば看多機研究会「看多機を広めよう・つなげよう・深めよう」イベントレポート
特集
2025年4月15日
2025年4月15日

ちば看多機研究会「看多機を広めよう・つなげよう・深めよう」イベントレポート

2025年2月8日(土)、千葉県看多機連絡協議会による「第2回ちば看多機研究会」が千葉中央ホールにて開催されました。同協議会は、「看多機」の普及促進と社会福祉の増進を目的に設置された任意団体です。看多機について学びを深めるべく、「看多機を広めよう・つなげよう・深めよう」をテーマに、イベントの目的や方針を語る基調講演をはじめ、現場での事例共有やグループワークが行われました。今回は、その様子をダイジェストでお届けします。 ちば看多機研究会とは? 「看多機」とは、「看護小規模多機能型居宅介護」の略で、主治医との連携のもと、医療処置も含めた多様なサービス(訪問看護、訪問介護、通い、泊まり)を24時間365日提供する点が特徴です。医療依存度が高い方、体調が不安定な障害を抱えている方などが、住み慣れた自宅で生活しながらケアを受けることができる介護保険サービスです。 そして、ちば看多機研究会は、千葉県看多機連絡協議会(2023年設立)が主催する、看多機について学びを深めるためのイベント。看多機の管理者はもちろんのこと、看護学校の教員や訪問看護師、ケアマネジャー、医師、経営者、看多機の利用者など、看護や介護に関わる方が千葉県内外から多く集まり、看多機について語り合っていました。 関連記事:看多機(かんたき)を通じて広げる「輪」 【訪問看護認定看護師 活動記/北関東ブロック】 看多機の現状と今後の展望 千葉県看多機連絡協議会の会長 福田裕子氏のご挨拶を皮切りに、日本看護協会常任理事の田母神 裕美氏による基調講演が行われました。 日本看護協会常任理事 田母神 裕美 氏 日本赤十字社医療センターや日本赤十字社本社医療事業推進本部看護部などでの勤務を経て、2021年に公益社団法人日本看護協会の常任理事に就任。看護制度(基礎教育・准看護師含む)や在宅医療・訪問看護、介護保険制度・介護報酬に関することなどを担当し、各種看護政策の実現に向けた取り組みを推進。 田母神氏は、全国の40歳以上の男女を対象にした調査において、全体の約7割が「在宅で看護を受けたい」と回答している結果を紹介。また、その中には「家族に依存せずに生活ができるような介護サービスがあれば自宅で介護を受けたい」と考える人が多く、まさに「国民のニーズ」として、在宅看護を望む人が多い実情を紹介しました。 また、千葉県の高齢化の状況と今後の見込みを例に、看多機の必要性を語りました。例えば、千葉県の総人口は減少局面にあるにもかかわらず、65歳以上の要介護高齢者は増加しており、2040年には一般世帯のうち高齢世帯数が約44%にも達する見込み。その約44%のうち、夫婦のみや一人暮らしの世帯が約7割を占めると推定されているそうです。 さらに、全国的にも人口に対する訪問看護の手が足りておらず、看多機を増やしていく必要があると警鐘を鳴らしました。いまだ看多機の事業所がひとつもない自治体もある現状を見つめながら、田母神氏は次のように語りました。 「医療依存度が高まるほど複数サービスの組み合わせが必要となり、看多機の必要性が高まります。看多機に欠かせない看護師の人員不足解消のためには、看護師の就業先として割合が高い病院と連携していくことが不可欠です。今後、病院から訪問看護ステーションや看多機への出向システムの整備も必要でしょう。 また、職種間の相互理解不足や病院との連携窓口の不明確さ、独居高齢者の在宅療養支援のあり方など、地域にはさまざまな課題があります。これらの課題を積極的に共有し合い、多職種連携や看看連携を図っていくことで、患者・住民に質の高い保険・医療・介護等のサービスを提供できるようになります。看多機は、医療職・介護職が力を合わせて働く場です。お互いに働きかけ、連携を強化していきましょう」 看多機での困難事例の共有 基調講演の後は、ケアマネジャーの川名 延江氏(複合型サービス事業所フローラ)と、杉浦 さな江氏(コープ夢みらい四街道)が、現場で「困った!」と感じた事例について紹介しました。 1件目は、利用者さんとご家族とで「自宅で暮らしたい」「施設に入所してもらった方が安心」とご要望が食い違っていたケース。2件目は、利用者さんだけではなく、ご家族も精神的・身体的な疾患を抱えていたケースです。 ご家族への対応の難しさをはじめ、家族間で異なる意見に対し、どういった調整を行うか、悩みながら検討した過程も伝えられました。「看多機は『世帯ごとに看る』ことに長けたサービスである」というコメントもあり、事例の内容からも看多機の意義や必要性が参加者に伝わる発表となりました。 参加者との意見交換では、「居宅介護等に比べて看多機は受け入れまでのスピード感が速い」という声があり、発表者の川名氏からは「関わっている訪問看護ステーションなどと連携しながら、少しでも多く情報を得ることが大事」というアドバイスもありました。 グループごとのディスカッション 最後は、「看多機を広めよう!こんな利用者に看多機は向いている」をテーマに、グループに分かれてディスカッションと発表が行われました。ディスカッションでは、時間が足りなくなるほど、さまざまな意見が飛び交いました。 実際に挙がった意見(抜粋)は次のとおりです。 ◆こんな利用者に看多機は向いている! ・基本的に自宅にいたいと思っている方 ・退院後の調整が必要な方やまだ要望が不明確な方 ・介護と医療が混ざったケアが必要な方 ・家族が遠方にいる方 ・仕事の都合で、家族のみの介護が難しい方 ・人見知り、認知症、嚥下に困難がある方 ・若い方でデイサービスには抵抗がある方 など 看多機は多様なサービスを提供しているため、「結局、全員が看多機に向いているのでは?」という意見や、「限られたリソースを活用するために、現実的にすべて受け入れることが難しい」という悩みも語られました。また、「看多機は『最期まで見守る』『ほかのサービスにつなげる』など、複数の意味で『渡し舟』のような役割ではないか」という意見も印象的でした。 ときに各事業所の事例や悩みなどを共有し合うシーンも見られ、連絡先を交換し合う参加者もいるなど、ディスカッションは大きな盛り上がりをみせました。 千葉県看多機連絡協議会 会長コメント 最後に、本会を主催した千葉県看多機連絡協議会 会長で、「まちのナースステーション八千代」統括所長・管理者の福田裕子氏のコメントを紹介します。 第1回に引き続き、70名近くの方にご参加いただく貴重な機会となりました。看多機について、職種の垣根を超えて情報共有できる会はなかなかなく、参加者の皆さんの反響から、日々の業務や課題を共有し合うニーズが大きいことを実感しました。利用者さんごとの事情はもちろん、各事業所の困り事や各自治体の課題などもそれぞれ異なります。多様なサービスをワンストップで提供する看多機が力を発揮できる場面は多いにあると考えています。しかし、看多機というサービスの全容が見えづらいせいか、現状まだ「看多機は不要」と考える自治体もあります。看多機を普及させるためには、各所とつながりを持ちながら、地域の中でハブ的機能として対応していくことが重要です。看多機の意義や必要性、今回のイベントで挙がったような現場の声を、行政に積極的に伝えていく姿勢も必要でしょう。看多機の魅力は、可能な限り時間をかけて本人の意思決定を支えていける点です。看多機では多様な職種が活躍しており、看護師さんは、職種同士を結び、利用者さんの自立支援につなげる重要な役割を担っています。訪問看護ステーションの管理者さんの中には、「泊まりの施設を持ちたい」「より多くのサービスを提供したい」と感じている方もいらっしゃるかと思います。看多機を立ち上げて運営したいという方がいらっしゃれば、ぜひ看多機を一緒に普及させていけたらと思います。 * * * 本イベントでは、登壇者や参加者がお互いの意見に真剣に耳を傾け合い、ディスカッションする様子が印象的でした。興味のある方は、ぜひ千葉県看多機連絡協議会の今後の活動にもご注目ください。 執筆: 高橋 佳代子取材・編集: NsPace編集部 【参考】〇内閣府.「第1章 高齢化の状況(第2節 2)」https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2018/html/zenbun/s1_2_2.html2025/4/8閲覧〇千葉県.『第2章 高齢者の現状と見込み』「(3)高齢者のいる世帯の状況と今後の推移」12P.https://www.pref.chiba.lg.jp/koufuku/iken/2023/documents/shian0-2.pdf2025/4/8閲覧

地域で支える腹膜透析:病院×訪問看護ステーションの連携【特別対談】
地域で支える腹膜透析:病院×訪問看護ステーションの連携【特別対談】
インタビュー
2025年4月8日
2025年4月8日

地域で支える腹膜透析:病院×訪問看護ステーションの連携【特別対談】

在宅で自分で行える透析療法「腹膜透析(Peritoneal Dialysis:PD)」は、患者さんのライフスタイルに柔軟に対応できる点が大きな特徴です。今回は、小倉記念病院 腎センター・科長の栗本幸子さんと、在宅看護センター北九州・管理者の坂下聡美さんに、病院と訪問看護ステーション、それぞれの立場からPDの普及に向けた取り組みについてお話をうかがいました。 ※本記事は、2024年12月の取材時点の情報をもとに構成しています。 ▼プロフィール栗本 幸子(くりもと ゆきこ) 氏一般財団法人平成紫川会 小倉記念病院看護部 腎センター 科長 認定看護管理者同院の循環器病棟および腎臓内科病棟の科長を経て、2023年11月より現職。2017年に認定看護管理者の資格を取得。坂下 聡美(さかした さとみ) 氏一般社団法人 在宅看護センター北九州 代表理事(管理者・看護師)パーキンソン病療養指導士北九州市立看護専門学校を卒業後、病院や地域のクリニックでの勤務を経て、2000年より訪問看護に従事。2018年、公益財団法人笹川保健財団の支援を受け、北九州学術研究都市「ひびきの」に日本財団在宅看護センター「一般社団法人 在宅看護センター北九州」を開設。※文中敬称略 PD患者への支援と地域連携の取り組み ー小倉記念病院と在宅看護センター北九州でのPDに関する取り組みについて教えてください。 栗本: 小倉記念病院では、2005年に腎臓内科を立ち上げ、PDの導入を開始しました。当初はPDを経験したことがないスタッフばかりだったので、研修に力を入れ、育成に取り組んできました。また、2010年からは地域でPD患者さんをフォローできる体制をつくるため、クリニックや訪問看護ステーション向けの研修会を実施してきました。 現在、当院には約280名のPD患者さんがいます。そのうち地域の開業医と連携を取りながらフォローしていただいている患者さんは約1/3。専門的な治療なので、受け入れをしていただけるところが少ない状況です。今後、老老介護や高齢者の独居がますます増えていくなかで、患者さんのご家族のみにサポートを頼るには限界があります。クリニックの医師だけでなく、訪問看護師の方々にもPDについて知っていただき、患者さんを支える仲間になっていただければと考えています。 坂下: 在宅看護センター北九州は開設7年目に入り、現在160名前後の患者さんに在宅訪問看護を行っています。その中でPD患者さんは2名です。今はPD診療を行うクリニックと連携しながら、患者さんがご自宅でPD治療をどう行っていくか、具体的なイメージをもっていただけるようなお手伝いをしています。クリニックでは患者さんを対象にしたPDの勉強会もされていて、そこで訪問看護の導入についても説明をしてくださっています。 私たちが勉強会に参加し、患者さんと直接お会いできる機会もあります。「自宅に戻られたら私たちがサポートさせていただきますので安心してください」とお伝えしています。そういった流れを、少しずつですが、最近つくり始めたところです。 ー全国的にはPD導入率は3.1%*と低めの傾向にあるかと思いますが、小倉記念病院では多数のPD患者さんがいらっしゃいます。具体的な割合や導入時の流れについて教えてください。 栗本: はい。2023年度に当院で透析療法を新たに開始した151名の患者さんのうち、59名がPDを選択されましたので、約4割ですね。 当院では、外来で腎代替療法の説明と共同意思決定(Shared Decision Making:SDM)での選択の支援を行っています。PD認定指導看護師が1回約1時間ほどかけて、患者さんやご家族の生活状況、本人の意欲、価値観、疑問点などを聴き取りながら、腎移植、PD、血液透析(Hemodialysis:HD)といった腎代替療法の決定を支援しています。 特にPDについてはご存じない方が多く、「腹部からチューブが出る」という治療法もイメージしづらいことがほとんどです。PDのお腹のモデルを見たり、触ったりしていただきながら、フラットかつ丁寧にご説明した結果、PD導入率が上がったんです。 なお、カテーテルと称されるチューブを出す位置も患者さんの生活スタイルや環境に応じて決めています。ベルトや着物の帯で覆われない位置にすることもありますし、レアケースですが、障害のある方で腹部だとどうしてもご自身でカテーテルを抜去してしまう場合に背中から出したケースもありました。 *日本透析医学会がPDと認識しているHD併用を含めた透析全体での導入率。正木崇生,花房規男,阿部雅紀,他:わが国の慢性透析療法の現況(2023年12月31日現在).透析会誌 2024;57(12):543-620.https://docs.jsdt.or.jp/overview/file/2023/pdf/2023all.pdf2025/2/15 閲覧 「パリアティブPD」という考え方 ーPDを行っている患者さんや訪問看護利用者さんで、お2人にとって印象に残っているエピソードを教えてください。 栗本: もともとHDをされていた90代男性のケースですね。この方は、治療中に血圧が大きく下がるなど、血行動態が不安定なためHDの継続が困難になり、PDを導入することになりました。 ご家族は「おじいちゃんには、好きなことをして余生を過ごしてほしい」と話され、とても手厚いサポートがありました。最終的には訪問看護も利用され、ご自宅でお看取りとなりました。最期まで穏やかな日々を過ごされたという話を聞いて、この患者さんにはPDが最適な選択肢だったのだなと感じました。 高齢でもご家族や訪問看護といった周囲のサポートがあればPDは可能ですし、最近では、「パリアティブPD」という考え方も浸透してきています。1日4回、しっかり除水しなくても、例えば終末期なら1日2回ぐらいの交換で緩やかに進めていくやり方です。高齢者にとって、やさしい透析の選択肢だと思います。 当院では、患者さん一人ひとりの状況に合わせて、パリアティブPDのような方法も含めて、積極的にご紹介しています。「これくらいならできそう」と導入に前向きになる患者さんやご家族もいらっしゃいますよ。 訪問看護利用者さんから教わった成長の一歩 坂下: 私は「第一号」の患者さんが印象に残っています。私が在宅看護センター北九州を立ち上げたとき、以前勤めていた訪問看護ステーションでPDをされていた方が「あなたの第一号の患者さんになってあげるから、地域の裾野を広げる訪問看護ステーションとしてがんばりなさい」と言ってくださいました。当時はPDのケアに自信を持てずにいたのですが、そのステーションからも背中を押してもらい、最初の患者さんになっていただいたんです。 この方は、私が新人のころからのPD看護の「指導者」でもあります。特に印象に残っているのは、透析のチューブを持って「あなた、ここを握ってごらん。これが温かいうちはまだまだ出ている証拠。冷めてきたら、もう出ていないから。そこからゆっくり落ち着いてやりなさい」と、時間で判断するわけではないのだということを教えてくださって。そうやって患者さんから指導を受けながら、訪問看護師として少しずつ成長させてもらったんです。 PDの普及はまだこれからと思っていますが、「よく知らないから看護ができない」、「不安だから患者さんを受け入れられない」、となってしまうことが訪問看護の課題でもあります。まずはPDについて勉強して、1例でも経験できれば、不安の種が少しずつ小さくなって、看護ができるという自信に変わっていくように思います。 また、訪問看護師にとっては、いざというときに相談できる先があることが大事なポイントです。その体制が整っていれば、PD患者さんの受け入れを後押しする安心材料になると考えています。 感染対策だけじゃない、環境整備 ー坂下さんは、患者さんのご自宅でPDをサポートする中で、どのようなことに注意されていますか。  坂下: 病院のような清潔な環境をそのまま再現はできませんが、腹膜炎を起こさせてはいけないので、感染の原因になり得るものを一つひとつ解消し、家庭の環境を整備するようにしています。 例えば、シャワーヘッドのカビやボディソープの容器のぬめりが感染源になる可能性があるので、チェックリストを作成し、週に1度は確認しています。お部屋の状況によっては、空調を切ってほこりが舞わないようにして作業することもあります。 排便コントロールや食事を始め、いろいろな面で患者さんの生活を整えることも重要です。ご家族の生活リズムも含めて、患者さんの生活がうまく回るために、透析の手技やタイミングも含めて調整しています。 ただし、看護師の価値観だけで「こうしなきゃいけない」と意見を押し付けてしまうと、利用者さんから一切シャットアウトされてしまうこともあります。「患者さんやご家族のために」という気持ちを持ちながら信頼関係を築き、少しずつ歩み寄ることを意識しています。PD療法で特に注意する感染対策では、「なぜこれが必要なのか」の背景をお伝えすることも重要ですね。 ー患者さんがPDを継続する上で、重視されている関わりを教えてください。 坂下: ケアの手順をしっかり守ることで、腹膜炎を防ぎ、長く在宅生活を続けられる例もあるので、そういったエピソードを共有しながら、「きちんとされているから入院せずに済んでいますね」と伝えるようにしています。患者さんの自信につながりますし、「やっぱりちゃんとしないと」という動機づけにもなります。 栗本: 病院では、入院中に患者さんが自分でPDができるように指導することはもちろんですが、患者さんをサポートしてくれる方を1人選んでもらい、その方にも手技を習得してもらうようにしています。お2人に病院で作成したパンフレットをお渡しし、「ここはこうしましょう」と指導して、最終的にはお2人が習得した時点で退院していただくのです。そして、退院されるときに「手の消毒」や「マスクの着用」など、忘れがちなところを一言添えて、パンフレットとともにお帰りいただくようにしています。 >>後編はこちら腹膜透析の普及と支援の現場:教育体制、多職種連携、訪問看護の課題【特別対談】 取材・編集:NsPace編集部執筆:株式会社照林社

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