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2022年7月12日
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【セミナーレポート】訪問看護の診療報酬改定ポイント~2022年改定の目的とは~

2022年4月20日、NsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー『訪問看護の診療報酬改定ポイント』を開催しました。講師は、株式会社リンクアップラボの代表取締役、医業経営コンサルタントの酒井麻由美さん。3回に分けてセミナーの様子をお届けします。※約60分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】酒井 麻由美さん株式会社リンクアップラボ代表取締役。医業経営コンサルタント。急性期病院の医事課に勤務した後、2002年から医療や介護領域のコンサルタントとして活動。2018年には独立、自身の会社を設立する。「月刊保険診療」(医学通信社)、「看護管理」(医学書院)、「月刊WAM」(福祉医療機構)など医業・介護経営雑誌に多数寄稿。 目次▶ 高齢者の支え手、医療人材の不足を受けた診療報酬改定▶ 地域医療構想のこれまでの変遷と、2024年以降の見通し▶ 病床削減に向けて22年改定で示された2つの方針 ・方針1:地域包括ケア病棟機能の見直し ・方針2:在院日数の短縮・入退院支援機能の強化▶ 訪問診療、オンライン診療のニーズはますます拡大する --> ▶ 高齢者の支え手、医療人材の不足を受けた診療報酬改定 2022年の診療報酬改定の背景には、深刻な少子高齢化があります。高齢者が増えると同時に、その方々を支える若い人が減っていることは、我が国が抱える重大な問題です。具体的には、2012年はひとりの高齢者を2.4人で支えていたのに対し、2050年にはひとりあたり1.2人で支えるところまで減少する見通しになっています。そこで必要なのが、支え手を増やす努力。今回の診療報酬改定にもその方針が反映されました。また、少子高齢化に紐づく問題として、労働人口の減少も挙げられます。医療資源が限られるなかで、高品質のサービスを効率的に提供し続けられるしくみづくり、すなわち「地域医療構想」も、今回の改定でさらにその内容が見直されています。 ▶ 地域医療構想のこれまでの変遷と、2024年以降の見通し 2012年から始まった地域医療構想は、以下のように段階を踏んで、医療現場が抱える課題の解決を目指しています。 2012年〜2017年:機能分化、役割分担まず2017年までには、機能分化と役割分担が進められました。具体的には、これまで精神科を除く病院の病床は「一般/療養」の2種類に分けられていたものを、2014年6月には「高度急性期/急性期/回復期/慢性期/自宅・介護施設・高齢者住宅」の5つに細分化しています。 2018年〜2023年:機能強化続いて2018年からは、各役割の業務内容の見直しが進められ、機能強化を図っています。急性期・高度急性期は医師・看護師の人員配置が厚いのだから、相応の取り組み、救急医療や専門・集中的な治療を中心にやるなどといった具合です。 2024年以降:病床削減そして2024年以降は、主に急性期を中心に病床削減が進むことが予想されています。コロナ禍でも2022年の改定が厳しい内容となったのは、2024年からの病床削減に向けた準備が必要だったからであると考えられます。 ▶ 病床削減に向けて22年改定で示された2つの方針 2024年からの病床削減に向け、今回の診療報酬改定では大きく2つの方針が示されました。 ・方針1:地域包括ケア病棟機能の見直し まずは、地域包括ケア病棟の機能の見直しです。加齢に伴って増える肺炎や尿路感染、脱水、骨折などの疾病は、高度急性期・急性期ではなく、より看護師配置の割合が低い(10:1〜13:1)地域包括ケア病棟で対応することが求められています。これによって実現するのが、急性期の病床削減、すなわち人材不足問題の解消と医療費の削減です。看護師配置が5:1〜7:1の急性期の入院単価は、40,000円以上。看護師配置20:1、単価19,000円の慢性期と比較すると、急性期を減らすことでどれだけ大きな効果が得られるかがわかるでしょう。 ・方針2:在院日数の短縮・入退院支援機能の強化 そしてもうひとつが、在院日数の短縮。患者さんが今より短い期間で退院すれば、自ずとベッドの使用率を下げることができます。そうして病棟全体の病床数を減らし、その代わり看護師配置30:1の自宅・介護施設・高齢者住宅のベッドを増やすのです。 これはすなわち、疾病によっては病院の外の領域で治療をしていくということになります。実際に2021年の介護報酬改定では、介護老人保健施設で肺炎、尿路感染、帯状疱疹、蜂窩織炎の治療をする場合、1日475単位、つまり4,750円を10日間算定できると定められました。訪問看護においても、今回の改定で同じような変更がありました。医師が指示書と手順書を発行すれば特定行為の研修を受けた看護師が、在宅で褥瘡や脱水などの治療をして良いと明確に認められたのです。これからの時代は「完治したら退院」ではなく、「完全には治ってはいないけれど、続きの治療は老健や在宅で行う」という考え方になっていくことが予想されます。 ▶ 訪問診療、オンライン診療のニーズはますます拡大する 今後、訪問看護のニーズは確実に拡大していきます。なぜなら、2025年には団塊の世代の方々が全員75歳以上に突入し、85歳以上の人口がどんどん増大していくからです。年齢別に要介護認定を受けている方の割合を見ていくと、75歳以上では約3割なのに対し、85歳以上になると約6割にも上ります。これはつまり、6割の方は外来受診が難しくなるということを指します。 実は現在ほとんどの地域で、外来患者数はすでにピークを過ぎています。「新型コロナの影響で患者数が減った」とおっしゃる医師も少なくありませんが、実際は新型コロナの流行と外来患者が減る時期とが重なったのです。オンライン診療が推進された理由も、医療費削減だけではなく、そもそも病院に通えない患者さんが増えていることがあります。また、これからの10年間は亡くなる方が増えます。しかも単身世帯や、老老世帯が増えている状況下にありますから、診療だけでなく、看取りの対応も課題になってくるでしょう。 次回は、「これからの訪問看護ステーションに求められること」についてお伝えします。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

特集
2022年7月12日
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[2]訪問看護師に求められるメールのマナー

訪問看護師の方に知ってほしいマナーについての連載です。今回はビジネスマナーの基本でもある、仕事上のメールのやりとりにおけるマナーのポイントをご紹介します。 「会ってやりとりするような気持ち」が、その場の判断を助ける 訪問看護師のAさんは、早急に謝罪メールを送信する必要が生じました。メールを急いで書かなければならないのに、どのような文面にしたらよいのか、特に出だしの挨拶に非常に悩み、切羽詰ってしまいました。 とにかく、いち早く謝罪をしなければと思い、まずは電話で謝罪したそうです。その相手は、メールでのやりとりを希望している方でしたが、電話に出られない状況ならば出ないだろう、出られないようならメールを書こう、と考えて。 果たして、電話で謝罪すると相手から「わかりました」という返答がありました。まずは急いで電話してよかった、と考えたAさんでしたが、その後、相手からAさんの上司に抗議のメールがあったそうです。メールではなく電話で謝罪したことについて。 Aさんは、上司から、相手がメールを希望しているうえに、メールのほうが記録としても残るためメールを送るべきだった、電話をする前に上司に相談するべきだった、と注意を受けました。 Aさんのように、メールの出だしの挨拶などで悩んでしまったり、メールを書くのが毎回非常に面倒だと思う方などにお伝えしたいコツは、「会ってやりとりするような気持ちでメールを書く」ということです。 ここで、対面の場合にはどのようにするか考えてみましょう。流れは次のとおりになると思います。①会ったらまず挨拶する②用件を伝える(または、何かを話し合う)③挨拶をして辞する この流れは基本の流れと言えます。つまり、「直接会う」、「メール」、「FAX」、「電話」のいずれの方法においても、この①~③の流れは相手と仕事上のやりとりをする際の鉄板ともいえる流れですね。 Aさんのような急ぎの事態になった場合、もし直接会ったなら、時候の挨拶や日頃お世話なっている感謝の言葉などは省略し、ごく手短に挨拶を済ませるはずです。そして、用件(謝罪の内容)を伝え、また改めて説明と謝罪に伺うことを伝えて、辞する挨拶をするのだと思います。 メール文もそれと同じで、「お世話になっております」で①を済ませ、「さっそくですが、」などの前置きをして②を書き、「取り急ぎ、ご報告にて。失礼いたします」といった文言を③とします。 会っていれば、帰りの挨拶をせずに帰ることはないでしょう。ですから、会っている気持ちでいれば、うっかり挨拶が抜けてしまうといったことは回避できます。つまり、「会ってやりとりするような気持ち」は、マナー不足を避けてくれるのです。 メールの件名を必ず書く ここからは、メール文の構成に沿って、メール作成のポイントを解説していきます(図1)。 私の場合、件名がないと迷惑メールの可能性もあるため基本的にはメールを開きません。しかし、メールアドレスから想像して、仕事関係のメールかもしれない、と考えて開くと、本文を書きあげて、件名を書くのを忘れて送信してしまったのかな、と思われるメールが届くことがあります。 いろいろな方からメールが届く中、件名がないとメールを整理しづらく、やりとりもしづらいため、マナー不足です。件名は、メールの内容にタイトルをつける感覚で短めに書きます。 前述のAさんの謝罪メールであれば、「お詫び 〇〇訪問看護ステーション A」(※「A」は名前)といった件名がいいでしょう。 図1 メール文の構成 宛名(受信者の名前)の記入 メールを受け取った相手に、自分宛のメールであることを認識してもらうため非常に大事です。電話では間違い電話だとすぐにわかりますが、メールでは宛名がないと誤送信の疑いが出てきます。 「事業所名+部署名+氏名」、あるいは「事業所名+氏名」でもよいので明記します。氏名は苗字だけでなく、名前も書くのが基本マナーです。苗字と名前の間は半角1文字分空けることを推奨します。 また、相手からメールを受け取っていれば、そこに記された相手の苗字と名前の空き具合と同じにします。例えば、「森林太郎」という名前の場合、「森林太郎」、「森 林太郎」(全角1文字分の空き)、「森 林太郎」(半角1文字分の空き)など、ご本人の記載方法はいろいろですので。 挨拶の一行目に神経を使う 宛先を記入したら改行し挨拶文を書きますね。 考え方次第ではありますが、仕事上のメールのやりとりでは時候の挨拶を入れることを基本としなくてもよいと考えます。それよりも、挨拶の一行目に神経を使うことがおすすめです。その一行が現実に即していないと、通り一遍のうわべだけの挨拶である印象をもたらします。 ここでもまた「会ってやりとりするような気持ち」が大事になります。初めて会った方に「お世話になっております」と言うのは少しずれていますね。<まだ、お世話していませんけど>と相手は内心思うかもしれません。もちろん、「いつも」をつけるのもおかしいです。しかし、メールだと「お世話になっております」がパターンになってしまい、初めての方からのメールの出だしに書いてあることもあります。 これからお世話になることがわかっている相手であれば「お世話になっております」ではなく、「これから」という前置きを省略した形として「お世話になります」であれば状況にあった挨拶になるでしょう。 たとえ相手の顔はわからなくても、想像で顔をイメージして挨拶文を書きます。それが血の通った一行になります。以下にいろいろなシチュエーションに応じた挨拶文の例をご紹介します。 【初めてメールを送信する場合】「突然のご連絡失礼いたします」「はじめまして」「はじめてご連絡を差し上げます」 【初めてメールを受け取った相手に返信メールを送信する場合】「はじめまして。ご連絡いただきありがとうございます」「お世話になります」 【すでにやりとりをしている相手とメールを送受信する場合】「お世話になっております」「いつもお世話になっております」「平素より大変お世話になっております」「お世話になっております。いつもありがとうございます」 【上司や同僚とのメールを送受信する場合】「お忙しいところ、失礼いたします」「お疲れ様です」 ※「ご苦労様」は目上の人に対しては使用しない「おはようございます」 【久しぶりにメールを送信する場合】「ご無沙汰しております」※「お久しぶりです」は、ややくだけた印象を与えるので、使用する場合は関係性を配慮します。「長らくご無沙汰してしまい申し訳ございません」 【続けてメールを送信する場合】「度々失礼いたします」「前送メールに追加でご連絡です」 あるいは、件名に「追伸」と追加します。 【電話で話した後にメール送信する場合】「さきほどはお電話をありがとうございました。追加でお伝えしたいことがあります」「さきほどお電話させていただきました件に、追加でご連絡です」 名乗りのタイミング 挨拶文の後、名乗ります。「事業所名+氏名」、「部署+氏名」、「氏名のみ」、など適宜判断します。苗字のみならず名前も必ず記入します。看護師であることを示したほうがよい場合は、氏名の前に「看護師」と入れます。 件名に名前を記入している場合や、1つの用件で何度もメールのやりとりをしている場合などは、挨拶の後に何度も名乗るのは相手にわずらわしい思いをさせるため、省略してもよいでしょう。 用件を伝えるときは「箇条書き」を活用しよう 挨拶文の後、「以下についてご検討のほど、何とぞよろしくお願いします。」といった文を記入し、用件を箇条書きにすると、書きやすく、相手にも伝わりやすいです。「以下について」を「下記について」に変えて、「記」と題をつけて箇条書きにするのもよいでしょう。 返信などの対応についての希望も忘れずに 用件の前に、「以下、ご報告です。」と入れるか、用件の末尾に「以上、〇〇日ごろまでにご検討をお願いします。」など、いつまでにどのようなアクションを求めているのかについても必ず記入します。 同じテーマのやりとりは、返信を繰り返して過去分をすぐ確認できるように やりとりの経緯がすぐにそのメールで確認できるように、やりとりの途中でメールを新規作成して送信しないことがおすすめです。その際、こちらの住所や電話番号、URLなどの情報は、1回目のやりとりのときだけ文末に記入し、それ以降は名前のみにします。 入力ミス、変換ミスにご注意! この記事を作成するために、訪問看護師の方や日頃仕事でメールをやりとりする方たち数名にお話をうかがったところ、この点を指摘する方が予想以上に多数でした。 送信前に必ずメールを読み返し、誤入力や誤変換がないかチェックします。相手の名前や会社名に誤りがないかは重要なポイントです。送信前の再チェックを習慣づけるとよいでしょう。入力ミスや変換ミスは誰にでもあることですが、私も含め、注意しなければなりませんね。 ー第3回へ続く 執筆 小林 光恵看護師、作家 ●プロフィール看護師、編集者を経験後、1991年より執筆業を中心に活躍。2001年に「エンゼルメイク研究会」を発足し、代表を務める。2015年より「ケアリング美容研究会(旧名・看護に美容ケアをいかす会)」代表。漫画「おたんこナース」、ドラマ「ナースマン」の原案著者。記事編集:株式会社照林社

特集
2022年7月12日
2022年7月12日

「最後まで口から食べる」をかなえるために

新宿区一帯で在宅ケアを提供している事業所の有志が集まった「新宿食支援研究会」。「最後まで口から食べる」をかなえるために、日々、多職種での支援を実践しています。本研究会から、各職種の活動の様子をリレー形式で紹介します。第1回は、本研究会代表の五島先生(歯科医)です。 訪問歯科をご存じですか 皆さんは訪問歯科の存在をご存じでしょうか。 20年以上訪問歯科診療を実践してきた者としては、「実践してくれる歯科医師が増えたなぁ」と思ってしまいますが、社会的にメジャーとは、まだ言い切れません。しかし、今後も続くわが国の高齢化を考えると、訪問歯科は在宅高齢者を支える重要な一つのキーになるはずです。 私が訪問歯科を始めたきっかけ 私が東京都新宿区で訪問歯科診療を始めたのは、1997年です。偶然知り合った訪問の内科医に、「在宅医療の現場に歯医者さんがいないんです」と言われました。最初は興味本位でその医師に同行訪問し、見学をしました。 そこで出会った皆さんは全員、入れ歯を外され、食べられるものだけ食べる、食べられなかったらミキサーにして飲む、ダメだったら点滴、ダメだったら鼻からチューブ、ダメだったら死ぬ……という世界でした。 歯科医師としてはとても悔しい現実を目にして、「私が外された入れ歯を入れに行きます!」と宣言したのが訪問歯科を始めるきっかけでした。 役割が加わっていった 最初は入れ歯の修理・調整から始めたのですが、当時話題になっていたのが「口腔ケアによって誤嚥性肺炎が予防できる」ということでした。誤嚥性肺炎は当時も現在も、高齢者の死因の上位にランクインしています。そこで、訪問歯科診療の役割として口腔ケアも加わりました。 時を同じくして、摂食嚥下障害のリハビリテーションが話題に上がってきました。まだまだ新しい学問で、私自身は大学でも学んでいませんでした。しかし、現実問題として口から食べられない人は多くいました。入れ歯を治しても飲み込めない人や、飲み込むとむせる人。外来診療では見たことのないような現実がありました。そこから、摂食嚥下障害に関して学ぶようになりました。 訪問歯科の三つの軸 現在、訪問歯科診療には三つの軸があります。歯科治療、口腔ケア、そして摂食嚥下障害への対応です。 歯科治療に関しては、各医院によって装備が異なるので、できる範囲が異なります。歯科診療室とまったく同じように診療できる体制をとっているところもありますが、器材の用意がない場合もあり、すべてが院内と同じ診療ができるわけではありません。ただ、訪問歯科診療の依頼で最も多いのが入れ歯に関するものなので、入れ歯の調整に関してはどの医院でも対応可能です。 保険診療の訪問歯科 保険診療で訪問歯科の対象者は、通院が困難な患者さんと定められています。診療場所は、施設や居宅に限られ、通所(デイサービスやデイケアなど)では行えません。 よく「どうすれば訪問歯科診療に来てもらえますか」と尋ねられます。 依頼方法としては、直接訪問歯科診療を実施している歯科医院に連絡してもいいですし、わからなければ地域の歯科医師会に連絡すると紹介してもらえます。地域によってはケアマネジャーが情報を持っているので、介護保険を利用している方は聞いてみるといいでしょう。 口腔ケアの意義 口腔ケアのいちばんの問題は実施体制です。介護保険の居宅療養管理指導として、歯科衛生士が訪問できるのは、月に4回です。週1回のペースでしっかりケアができたとしても、それ以外に誰もケアをしなければ、十分な効果は期待できません。本人の自立度、各家庭の介護力によって大きく異なります。だからこそ、訪問看護師やホームヘルパーにも、その意義と技術を知ってほしいと思います。 口腔ケアは誤嚥性肺炎を予防することで注目されましたが、効果はそれだけではありません。口腔ケアには二つの意義があります。一つは細菌を除去すること。もう一つは、しっかりと口を刺激することです。 口腔内細菌には、肺炎の起因菌や、ウイルス感染をしやすくする細菌も存在します。口腔ケアをすることによって、これらの細菌数を抑えていきます。 口腔内をないがしろにすることによって、むし歯や歯周病が進行することはもちろん、味覚低下にもつながります。これらはすべて、食の機能低下、意欲の低下につながります。 口から食べられない人こそ、しっかりとした口腔ケアが必要 ここで一つ、覚えておいてもらいたいのは、口腔ケアのほかにも、口腔内細菌を減少させられるものがあります。それは、しっかり噛んで食べることです。噛むことで唾液が分泌され、細菌を食物と一緒に消化していきます。ですから、しっかり噛んで食べることができなくなった人は、口腔ケアでそれを補っていかなくてはなりません。 また、口腔内を刺激することによって、飲み込みの反射が良くなることがわかっています。飲み込みの反射が良くなるということは、誤嚥を予防する効果があるということです。 口腔ケア自体は誰もがやらなければならないものです。しかも、口から食べる機能が低下した人ほど、しっかりとしたケアが必要になります。 かなり昔の話ですが、ある病院の病棟で口腔ケアをしているとき、主治医から「口から食べていないんだから歯磨きはいらない」と声を掛けられたことがあります。もう皆さんはおわかりですね。口から食べていないからこそ、しっかりとケアをして細菌を除去し、しっかり口腔内を刺激して誤嚥を予防することを考えなければならないのです。 訪問歯科診療を実践して、歯科が食に近い存在だということに初めて気づきました。そして、地域には、口から食べることに問題がある人が多くいることも知りました。 ー第2回へ続く 五島朋幸ふれあい歯科ごとう新宿食支援研究会代表記事編集:株式会社メディカ出版

特集
2022年7月5日
2022年7月5日

[1]相手を思う気持ちを伝える、それがマナーの基本姿勢

訪問看護師の方に知ってほしいマナーについての新連載です。第1回は筆者が経験したさまざまなエピソードをもとに「マナーとは何か」を考えてみます。利用者さんのお宅でどうすればよいか迷ったときにも参考にしていただけるお話です。 訪問看護師に必要なマナーとは 訪問看護師は、訪問する個々のご家庭の価値観に基づいたマナーに加えて、連携する医療・介護従事者や自治体の方たち、福祉用具業者の方など、まさに多職種とやりとりする際のマナーが必要となります。 また、事業所の規模にもよりますが、病院であれば事務部、総務部などが担当する業務を看護師が担うケースも少なくありません。ビジネスの基本に関するマナーも知っておく必要があります。 ゆえに、さまざまな局面において柔軟にマナーを発揮できる「マナー力」を備えることが望ましいでしょう。 そのためには、事業所としてのマナーのスタンスを具体的に検討・整理し、職員全員で共有するのが基本策といえます。NsPaceサイト内の「お役立ちツール」では「接遇マナーマニュアル」が用意されています。このマニュアルをベースに、事業所オリジナルの申し合わせ書の作成をおすすめします。 私は看護師として病院2年・血液センター2年・フリーナース1年、編集者として約5年、その後フリーライターとなり30年余り。数年間、小さな会社の代表も務めました。 また、インターネットが普及する前からナースが横につながるためのネットワーク活動にも取り組みました。2001年にはエンゼルメイク研究会を発足して、例えば、大手化粧品会社を訪ねて「エンゼルメイク専用の化粧品セット開発の必要性」などについてプレゼンテーションを行ったこともあります。仕事ではなく活動としてグリーフワークにまつわる取材をさせていただいたりもしました。 社会人となってからの39年間、このようにさまざまな立場となり、いろいろな方との仕事上のやりとりを経験しました。 連載第1回目の今回は、そんな私が「マナーとは何か」を考えるうえで非常に勉強になったエピソードをご紹介します。みなさまが、申し合わせ書を作成される際の参考になりましたら幸いです。 マナーとは……、相手の価値観を優先し、相手に余計な心の負担をかけないように配慮すること 編集者時代、俳句集の編集を数年間担当しました。 その時代のある冬の日のこと、高齢の女性俳人Aさんのお宅を訪れました。原稿を受け取り、出版スケジュールなどを打ち合わせるためです。都会のど真ん中にある一軒家で、庭木がきちんと手入れされているお宅でした。 Aさんは茶道を教えもする礼儀作法に厳しい方で、その日も失礼のないように気をつけなければと緊張しながらインターフォンを押したのでした。 応接室で、Aさんに促されてソファに座りました。もちろん、下座にあたる出入口にいちばん近い位置の席にです。そして、Aさんのご機嫌を損ねることなく打ち合わせが進み、そろそろ失礼するという段になると、Aさんはぴりっとした表情になり、言いました。 「残念だわ。今日のあなた、ひとつだけ、マナーが足りない点があったわ。脱いだコートを中表にして丸めなかったこと」 やはりそこか、と思いました。 この日は、強めの埃っぽい風が吹いており、道中わずかに霧雨も降りました。ウールコートの表面が少し湿り、埃を含んでしまったので、寒いけれど、脱いで小さく丸めてから玄関に入ったのです。それだけでも相当、相手に負担をかけないように気を遣っているじゃないか、という不満をもちながら、私は「失礼しました」と返しました。 すると、Aさんは私の顔を覗き込みながら続けたのです。 「あなた、27歳だったわよね。これからのあなたのために言いますが、中表にしなかったのは、たぶん、あなたの価値観や都合を優先したからですよね。今どき、コートを中表にしたりするマナーなんて必要ないでしょ、よほど汚れているなら別だけど、って思ったかもね。でも、相手の価値観を優先して、相手に余計な心の負担をかけないように配慮する。それがマナーですからね」 「はい。実はコートがとてもくたびれており、中表にするのが恥ずかしかったもので。でも、私の都合でそうしたわけですから、恐縮です」 「そうね」と言い、Aさんは私を睨みました。(このエピソードは、以下に続きます) 全体の態度でマナー不足はカバーされる ソファから立ち上がり、ていねいにお辞儀をして顔を上げると、何と意外にもAさんは笑顔になっていました。 「でもね、誰でも相手の価値観にぴたりと合わせるのは難しいわけだし、全体の態度がマナー不足を補完できるのよ。あなたの全体の態度は悪くない印象だから、大丈夫。萎縮しないで、これからもよろしくね。相手を大切に思い、自身の言動を考える。それがマナーの基本姿勢です。それと、形だけのマナーの実行だと、ケースに応じた対応ができないことがあることも覚えておいてね」 そう言ってAさんは、私の背中をぽんと叩きました。 それから30年経った、ある暑い夏の日のことです。フリーライターの女性Bさんが、私の仕事場兼自宅にインタビューに来てくれました。 玄関で出迎えると、Bさんは挨拶を済ませた後、「ごめんなさい、失礼します」と言って、フットカバータイプの靴下をバッグから取り出し、それを素早く履いてから、こちらが出したスリッパに足を入れたのでした。 こちらとしては、素足でスリッパを履いていただいてもまったく問題ないのですが、Bさんの気遣いに感動しました。そして、Aさんの言葉「ケースに応じた対応」を思い出しました。 ここでご紹介したエピソードは、いずれも仕事の目的や相手との関係性が訪問看護の場面とは異なりますが、病院など施設で働くときとは違う、訪問仕事をする際のマナーの方向性として共通しているように思います。 マナーの形は一定ではない マナーについてのAさんの金言を、肝に銘じたはずの私でしたが……。 今から数年前の冬、編集者の女性Cさんと私は、ある医師の訪問診療に同行し見学させていただきました。 その際に私とCさんは、それぞれのお宅の訪問時にコートを脱がなかったのです。それは私の判断でした。訪問先の患者さんやご家族、そして訪問する医師、それぞれに微塵も迷惑をかけたくない、いるのを忘れるくらいお邪魔にならないようにしたい、と頭の中でぐるぐる考えた結果、黒子のような存在になろうとしたのです。 移動用の車にコートを脱いだままにしておけば、脱ぎ着に手間取ることもなく、わずらわせたりしなくてよいのではとも思いました。しかし、それではCさんに寒い思いをさせてしまいそうでやめたのでした。 こんなマナー違反をしてしまったのは私の中の感覚も関係しています。私はかつて出身地で、誰かがどちらかの家を訪ねた際、家の人にお茶の準備などの負担をかけないよう、「すぐに帰るのだからおかまいなく」という気持ちの表明として、コートも上着も脱がず、すすめられた座布団も使わないようにするのを幾度となく見てきたのです。 以上は、私ならではの間抜けなエピソードですが、みなさまも、マナーの形の地域差、年代差などを感じたことがあるのではないでしょうか。 迷うときは率直に相談 あるベテランの訪問看護師さんに訪問時のマナーのポイントを問うてみたら、「ひととおりのマナーの基本知識を得ておき、訪問先の相手のマナーの感覚に触れて、自身のマナーの形を調整し、その訪問先でのマナーのルールをつくっていく(例えば、荷物の置き場など)。どうしても判断に迷うことがあるなら、そのときは率直に相手(利用者さんやそのご家族)に相談してみるのが一番」とのことでした。 そう。私も同行させてくれた医師に、コートのことを率直に相談すればよかったのです。 ー第2回へ続く 執筆 小林 光恵看護師、作家 ●プロフィール看護師、編集者を経験後、1991年より執筆業を中心に活躍。2001年に「エンゼルメイク研究会」を発足し、代表を務める。2015年より「ケアリング美容研究会(旧名・看護に美容ケアをいかす会)」代表。漫画「おたんこナース」、ドラマ「ナースマン」の原案著者。記事編集:株式会社照林社

特集
2022年7月5日
2022年7月5日

【管理栄養士のアドバイスvol.8】塩分制限が必要な方への食事

この連載では、在宅訪問栄養指導の経験豊富な管理栄養士の稲山さんから、在宅患者さんに接する機会が多い訪問看護師だからこそできる、観察・アドバイスの視点をお伝えします。第8回は、心疾患や高血圧など、塩分制限が必要な人への食事の工夫を紹介します。 はじめに 日本人の死亡原因1)は、1位の悪性新生物(がん)に続き、2位は心疾患です。 心疾患のなかでも特に、虚血性心疾患が約4割と多くを占めています。虚血性心疾患は、冠動脈の動脈硬化により心筋血流の減少や途絶を生じる疾患であり、基礎疾患や生活習慣の影響を受けることがわかっています。日本循環器学会「虚血性心疾患の一次予防ガイドライン(2012年改訂版)」2)には危険因子として以下の内容が記載されています。 虚血性心疾患に関連する危険因子(虚血性心疾患の一次予防ガイドライン(2012年改訂版)) ・加齢・虚血性心疾患の家族歴・喫煙習慣・脂質異常症・高血圧・肥満・糖尿病あるいは境界型・メタボリックシンドローム・慢性腎臓病・精神的・肉体的ストレス これらをみると、虚血性心疾患の予防には、栄養バランス良く健康的な食生活が重要であることがわかります。 今回はこのなかでも高血圧に注目して、予防のために必要な簡単減塩ポイントをお伝えします。 塩分はどのくらい控えればよい? 「高血圧治療ガイドライン2019」3)によると、高血圧患者における減塩目標は6g/日未満としています。 一方で、「高齢者高血圧予防診療ガイドライン2017」4)では、 「味覚の低下がある高齢者の食事の味つけが減塩により極端に変化すると、食事摂取量の低下から低栄養をきたすことがあるため、全身状態の管理に留意が必要。6g/日未満を目標とするが、味覚や摂取量、栄養状態などを個別に判断し、過度の減塩にならないよう個別に減塩の指導をする。」 と記載されています。すなわち、高齢者においても減塩は行うべきだが、減塩により食事摂取量が低下しないように、全身的な観察が大事ということです。 簡単食生活チェック まずは、塩分摂取量が多くなりがちな食生活をしていないか、国立循環病研究センターの「かるしおチェック」5)で簡単に確認してみましょう。 □ みそ汁やスープを1日2回は飲む。または、ごはんにみそ汁は欠かせない。□ ちくわやかまぼこなどの練り製品、ハム、ウインナーなどの加工品が好き。□ ごはんの友(梅干しや佃煮、つけものなど)が好きで、常備している。□ 外食することが多い。または、外食が好き。□ ごはんよりおかずのほうが、食べる量が多い。□ 市販のおそうざいやインスタント食品を、よく利用する。□ うどん、そば、ラーメンなどめん類のスープは半分以上は飲む。□ すしやどんぶりものが大好き。□ 魚の干物や、明太子などの塩蔵品、よく利用する。□ おせんべいやスナック菓子をよく食べる。 一つでもチェックが付いたら、塩分のとりすぎにつながる食習慣があるということです。日常的に塩分摂取量が過剰であるという可能性がありますので、どんな食事を召し上がっているのか確認して、必要であれば減塩についてのアドバイスを行いましょう。 減塩の簡単ポイント 高血圧や心疾患予防のために減塩をしなくちゃ!と意気込んで塩分を控えるあまり、食事が味気なくなってしまうことがあります。いくら健康のためといっても、おいしくない料理を毎日食べることは苦痛ですし、それによって減塩対応を諦めてしまうこともあります。 無理なく毎日続けられるように、おいしく減塩するコツを覚えておきましょう。 ①酸味を利用しようお酢やかんきつ類などの酸味を活用すると、味にメリハリがつきます。 ②香辛料や香味野菜を使おうスパイスやハーブ、またニンニクやシソなど香味野菜を使うと、塩分控えめでも味にアクセントがつき、香りによって食欲増進効果も期待できます! ③汁物はだしを利かせて具材をたっぷりにだしの旨味で減塩効果、また具だくさんにすると相対的に汁の量が少なくなるので、おいしく減塩できます。 ④献立にはメリハリをすべての料理を薄味にすると、物足りなくて毎日続きません。どれか一品はしっかりと味つけをすることで、食事の満足感が上がります。 ⑤漬物や練り物を避ける漬物や練り物などの加工食品は食塩を多く含んでいるので、注意しましょう。 ⑥減塩調味料を使用減塩醤油や、減塩みそを使うと、手間をかけず、簡単に減塩をすることができます。 ⑦食べるものの表面に味をつけよう食べるときに舌に当たる部分に塩味がついていると、おいしさを感じます。下味は控えめにして、食材の表面に味をつけるようにしましょう。 ⑧汁物の汁は残そう特に麺類の汁は塩分が多く含まれていますので、なるべく汁は残すようにしましょう。 高齢者の減塩は要注意! 前述したように、高齢者における減塩対応は、食欲や食事摂取量を観察しながら進めることが大切です。 減塩にしたことでおいしさを感じずに食事量が激減して、低栄養につながることがありますし、一見して塩分過剰に見える食事でも、摂取できている総量が少ないために実際の摂取量は適正量である場合もあります。 また、長年の食習慣はなかなか変えることが難しいので、改善に苦慮する場合は訪問管理栄養士に介入を依頼することも、対策の一つとしてぜひ覚えておいてください。 当記事に掲載している「おいしく続ける減塩のコツ」について記載した資料を【お役立ちツール】に掲載しておりますのでご参照ください。 ー第9回へ続く 執筆稲山未来Kery栄養パーク 代表管理栄養士、認定在宅訪問管理栄養士、介護支援専門員、認知症ケア専門士、健康咀嚼指導士新宿食支援研究会認定栄養ケアステーション管理者、東京都栄養士会新宿支部役員在宅訪問管理栄養士として訪問栄養指導を行う傍ら、フレイル予防講座や栄養講座など地域の高齢者に向けた栄養普及活動も行っている。 記事編集:株式会社メディカ出版 【引用・参考】1)厚生労働省.『令和2年(2020)人口動態統計月報年計(概数)の概況』2021.2)日本循環器学会ほか.『虚血性心疾患の一次予防ガイドライン(2012年改訂版)』https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/JCS2012_shimamoto_h.pdf 2022/05/09閲覧3)日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会.『高血圧治療ガイドライン2019』2019,282p.4)日本老年医学会.『高齢者高血圧予防診療ガイドライン2017』2017,63p.5)国立循環病研究センター.『減塩食について』https://www.ncvc.go.jp/hospital/pub/knowledge/diet/low-salt/ 2022/05/09閲覧

特集
2022年7月5日
2022年7月5日

胃瘻でも餃子が食べたい! 慢性期の摂食嚥下リハビリテーション③

この連載では、実例をとおして、口腔ケアの効果や手法を紹介します。今回は、食事時の姿勢調整などで経口へ導いた事例です。 急性期・回復期・慢性期で嚥下障害は変化する 急性期では、重篤な嚥下反射遅延や誤嚥といった咽頭期(連載第3回を参照)の嚥下障害が発症し、経管栄養管理下に置かれることが、しばしばあります。回復期・慢性期になると体調が回復しますが、食べこぼす、噛みづらいなど、準備期(連載第3回を参照)の障害に変化するケースがあります。 急性期から回復期~慢性期へと、各々のステージで嚥下の再評価が必要です。その結果から、5期モデルのどこに障害があるのか、個々の回復の変化に応じて、適切な対応が可能になります。 事例 Hさん、69歳女性・要介護5。施設入所。脳梗塞発症後の左側片麻痺あり、歩行不能。 残存歯数が15本、重度歯周病と上下部分義歯不安定があることから、入所施設のケアマネジャーからの依頼で訪問となりました。 簡易検査はほぼ正常で、準備期の改善と姿勢の調整で、直接訓練が可能と判断しました。 初診時の嚥下評価 RSST注13回/30秒ODK注2パ3.2回/秒、タ2.8回/秒、カ2.0回/秒改訂水飲みテスト注34点 頸部聴診音清明頬の膨らまし左右 十分にできるうがい問題なくできる 間接訓練 準備期の主役は、歯や義歯です。「餅つき」に例えれば、歯はうす・・やきね・・です。 ときどき手水をつけた手で餅を返すことで、おいしい餅(食塊)になります。手水は唾液に相応し、返す手である舌や唇、頬の筋肉をうまく動かす間接訓練が、準備期にはとても大切です。 Hさんの間接訓練は順調に進み、早速、ベッド上の段階的摂食訓練を開始しました。 直接訓練 ファーラー位で右側を下にした側臥位に姿勢を調整しながら、「学会分類2021」の「0j」を試しました。1か月ほどで、「2-2」まで可能になりました。 ところがここで、義歯の装着が困難になるという問題が発生しました。 Hさんは、喫煙の影響から、歯周病(重度の骨吸収)がありました。義歯の内面調整後も、粉末やゼリータイプの義歯安定剤を使用しなければ咀嚼できない状況でした。さらに、装着時の鉤歯の動揺もあり、ときおり、義歯の装着を拒否することもありました。 そこで、食前に口腔ケアと間接訓練をすませ、義歯安定剤を貼付した義歯を装着するという条件を満たした場合にのみ食べる訓練(直接訓練)をしましょうと提案し、すぐに承諾していただきました。 姿勢を調整する Hさんは左側に麻痺があるので、体幹は自然に左へと傾斜します。重力の影響で水分などが麻痺側の左に流れて、ムセや誤嚥を発生させます。 まず、車いすにカットテーブルを装着しました。 患側の左側が下がってしまうことを防ぐために、患側の左手をカットテーブル上にのせます。さらに、背中にクッションを入れて患側の左側を高く、健側の右側を低く、勾配をつける姿勢に調整しました。これがうまくいき、ムセが軽減しました。 水分にはとろみ調整剤で交互嚥下法(連載第3回を参照)を取り入れ、UDF区分「舌でつぶせる」の、ソフト食が可能になりました。 餃子の自食をきっかけに その後看護師から、Hさんが、餃子を食べたがっていることを聞きました。 早速、市販の餃子を一口大にカットして提供しました。タレにはとろみを付け、まとめてかけます。おいしそうに自食され、これをきっかけに、一気に食上げが進みました。 介入から2年近く経過した現在は、姿勢調整することなく、UDF区分「容易にかめる」を自食されています。 食事介助に摂食嚥下リハを応用する 認知症の方などの食行動には、さまざまなパターンがあります。 ある人は、はがき一枚分の空間認識しかできない視野狭窄がありました。別の人は、口に食べ物が入れば咀嚼できるのに、認知症のために、食事に手をつけようとしませんでした。 このような場合、食事介助時に摂食嚥下リハビリテーションを応用すると、食支援につながる可能性があります。 認知症等の食行動に対応するためには、➀食に集中できる環境②おかずを目の前に多く置かない③患者の右側から介助する(右側嚥下法注4)──などの基本と、④食欲の低下には、食前に手のマッサージと口腔ケア⑤口が閉じにくい方は、口唇閉鎖訓練注5、「パ」の発声、口を閉じたり開けたりする口唇のストレッチ──も有効です。 認知症の食支援例 症状          対応法(例)食べ物に興味を示さない声掛け/食べ物の匂い/触感や味覚刺激を入れる/おにぎり早食い、かきこみ食べ一皿ずつ出す、小さいスプーン時間がかかるなるべく30~40分で切り上げる/間食で補う口の中に溜め込む食前に棒つき飴などで味覚刺激を入れるムセ、嗄声姿勢調整/食前に氷なめ/口唇閉鎖訓練 次回は、口腔粘膜疾患や衛生面での口腔ケアについてお話しします。 注1 RSST(反復唾液嚥下テスト):65歳以上では、3回/30秒で正常注2 ODK(オーラルディアドコキネシス):1秒間に「パ」「タ」「カ」をそれぞれ何回発音できるかをカウントする注3 改訂水飲みテスト:3mLの冷水を飲み、呼吸や嚥下の状態を評価する。4点以上でほぼ正常注4 右側嚥下法:食道は人体の左側で胃へつながっており、体が左側を向くと、食道入口部が閉まってしまう。この場合、30度ほど右側を向くと食道が開きやすくなり、物を飲み込みやすくなる注5 口唇閉鎖訓練の一例 執筆山田あつみ(日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士、歯科衛生士) 記事編集:株式会社メディカ出版

インタビュー
2022年6月28日
2022年6月28日

訪問看護サービスの規模拡大や株式上場を目指す方へ

2022年2月3日、リカバリーインターナショナル株式会社が東証マザーズに上場。訪問看護サービス事業を専門に行う会社として、唯一の上場企業(2022年3月現在)となりました。vol.3では、代表取締役社長である大河原さんから、訪問看護ステーション事業の拡大を目指す方や、株式上場を志している方に向けたメッセージをお伝えします。 Profile/リカバリーインターナショナル株式会社代表取締役社長/看護師大河原峻 看護師として9年間、手術室や救急外来・ICUなどで従事。27歳のとき参加した海外ボランティアを通して、アジア各国では在宅看護が当たり前であることを目の当たりにする。「在宅死を希望する方の願いを、地域に密着し、もうひとりの家族のような存在で叶えていく。そんな訪問看護ステーションを運営したい」という想いを抱き、帰国後2013年にリカバリーインターナショナル株式会社を設立。現在18店舗を展開(2022年4月現在)。 目次▶ 上場に向けて学んだ知識と、上場後にアクセスしている情報▶ 上場前後でのライフスタイルの変化▶ リカバリーインターナショナル株式会社が目指す訪問看護の理想形▶ 規模拡大や株式上場を目指す方へのメッセージ ▶ 上場に向けて学んだ知識と、上場後にアクセスしている情報 ――上場に向けて、意識的に吸収した知識や情報はありますか? P/L(Profit and Loss Statement)など会計管理や、最新の法令について情報収集しました。方法としては、周りの経営者に話を聞いたり、日本看護協会、財団の研修に参加したり。必要に迫られる前に、自分で早めに情報を集めるのが大事だと思います。 ――上場後の主な業務と、アクセスしている情報について教えてください。 上場前から変わらず、業務の中心は役職者への教育や新規出店の計画です。また、利用者様にも看護師にも訪問看護のことをもっと知ってもらいたいと考え、IRにも注力するようになりました。 意識的に見る機会が増えたのは、他業種や他社のマーケティング手法。移動中には、街中の広告や、新規開店した店舗の業態、逆に閉店した店舗の業態などを観察しています。そして、自分たちの会社だけを潤わせるのではなく、訪問看護の業界全体を大きくしていきたいという想いから、さまざまな企業の方と対話する機会を設けています。デイサービスや訪問介護を始めた会社に当社の取り組みをお伝えしたり、飲食のフランチャイズ展開をしている会社やコンサルティング会社の方と意見交換を行ったりしています。どの業界も会社の構造などの基本は同じだと感じていて、経営者として参考になります。 ▶ 上場前後でのライフスタイルの変化 ――株式上場したことで、ライフスタイルに変化はありましたか? ライフスタイルについては正直、まったく変化がありません(笑)。月曜日から土曜日の午前中まで目いっぱい仕事をして、土曜日の午後から日曜日はプライベートの時間を確保しています。毎週月曜日は、「自分がしなければならない仕事」と「誰かに任せられる仕事」を振り分けることから始まります。上場にあたり組織図や業務分掌規程などの整理を行い、自分が担う仕事が明確になったため、今のほうが時間はあるかもしれません。 ――プライベートはどんなふうに過ごしていますか? 「今、世の中が求めているもの」に対して敏感でいるために、プライベートでは視野を広げる時間をつくることを意識しています。部下の好きなことにも興味をもつようにしていて、Aという漫画が好きだと聞けばそれを読んでみる、Bというアーティストが好きだと聞けばその展覧会に行ってみる、という具合です。共通言語をつくり一緒に楽しみながら距離を近づけられたらいいなと思っています。 ▶ リカバリーインターナショナル株式会社が目指す訪問看護の理想形 ――訪問看護の、将来的な理想の形について教えてください。 現在の訪問看護は利用者様が看護師を指名する、あるいは少し気に入らないと交代させるといったことが許されてしまう世界。私も看護師なのでわかるのですが、利用者様に「あなたに来てほしい」と言われると嫌な気はしません。しかし指名方式だと看護師の精神的な負担が重くなるだけでなく、訪問時間を守れなかったり、利用者様の健康面の判断に思い込みが生じてしまったりというリスクもあります。さらにコロナ禍において、より個人に依存することのデメリットが明確になりました。看護師が感染症にかかり、利用者様との調整に追われたステーションもあったのではないでしょうか。これらのリスクを回避するためには、複数の看護師による多様な視点で利用者様を看ることが必要です。当社が大事にしているのは、ひとりで完璧な看護を目指すのではなく、チームとしてまずは全員が70~80点の看護を目指し、徐々に100点に近づけていく意識。訪問看護のチーム制はマネジメントの効率化とともに、利用者様やご家族様の理想を叶えることにつながると考えています。 ――チーム制にすることで、訪問看護師の働き方も変わっていくでしょうか? 訪問看護は、看護師の「利用者様に寄り添いたい」という気持ちを実現できる仕事です。しかし一方で、オンコールやご指名制に不安を感じ訪問看護業界への転職を躊躇したり、早期退職につながったりする方も少なくありません。そうならないように、仕事の日は仕事、休みの日は休みと、きっちりメリハリをつけて働くことが理想だと考えています。 また心身への負荷を減らすため、看護師同士お互いを承認し合い、成長できる環境も大事。優秀な看護師ほど「ひとりで120点の看護」を目指してしまい、1度の失敗でドロップアウトしてしまうケースも多く見てきました。信頼し合えるチームでは、休みやすく、相談もしやすく、そして一緒に働く仲間の意見が気づきになって成長できます。 オンオフのメリハリをつけて笑顔で働ける環境は、時代にも合っていますし、今後、訪問看護師の理想の働き方となっていくと考えています。 ▶ 規模拡大や株式上場を目指す方へのメッセージ ――訪問看護サービスの規模拡大や上場を志す方にメッセージをお願いします。 私は病院でリーダーや訪問看護管理者を経験しました。その中で、自分を犠牲にして働いたことが多かったですし、そういう先輩や同志を多く見てきました。当時はそれが正しいと思っていましたが、今は継続性という観点から、チームとして動くことが大事だと考えています。組織の規模拡大は間違いなく、チームがないと成り立ちません。 チームで動ける組織にする第一歩は、ご自分や部下の目指す姿・解決したいことなどをしっかりと話し合うことです。部下の目標や理想の姿をしっかり聞き、自分がどうなりたいか、どうしていきたいかを伝える必要があります。もしコミュニケーションが難しいと感じているなら、コーチングを受けてみることをおすすめします。 私自身、起業後3年間は休みなく働いてきましたが、今は時間に余裕が生まれました。組織が育ち、仕事の委任や業務分掌規程などの整理ができたからです。事業規模の拡大や株式上場を目指す人は、自分だけで抱えることのないよう、周りの人との相互理解を深めていってください。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

コラム
2022年6月28日
2022年6月28日

難病患者の病気を受容するプロセス 〜希望を持つことの大切さ〜

ALSを発症して7年、41歳の現役医師である梶浦さんによるコラム連載です。今回は、キューブラー=ロスの「死の受容過程」を梶浦さんが考察します。 E・キューブラー=ロスの『死ぬ瞬間』 ALSのような治療法のない難病を告知された患者は、それを受け入れるまでには相当な覚悟と時間が必要です。 アメリカの精神科医であるエリザベス・キューブラー=ロスは、200人以上の末期患者の心理状態の変化を、5段階で表現した著書『死ぬ瞬間』を1969年に発表しました。 これは、医師が初めて、医学がおよばない「死」という領域を科学的にとらえようとした画期的な本です。もう50年以上前のものであり、そこからさまざまな考えかたが波及しましたが、今でもサナトロジー(死生学)の基本的なテキストとして世界的に広く普及しています。 私も学生時代に授業で学んだことを思い出し、今回は、本書でキューブラー=ロスが示した「死の受容過程」1)を考察してみたいと思います。 ALS患者の受容過程と私の場合 キューブラー=ロスは、末期患者が病気を告知されてからの心理状態の変化を1 否認と孤立2 怒り3 取り引き4 抑うつ5 受容──の5段階で示しています。 このような心理状態の変化は、末期患者にしか当てはまらないのではありません。ALSのような難病患者や、自分の力ではどうしようもない困難に直面した人たちにも、広く当てはまります。 私は、これをALS患者に当てはめて、実際に私が経験した心理状態の変化と比較してみました。 第1段階「否認と孤立」 自分がALSであるという事実に衝撃を受け、それを頭では理解しようとするが、感情的にその事実を否認(逃避)している段階。「何かの間違いだ」というような反論をするものの、それが否定しきれない事実であることは知っている。周囲の人たちも自分をALS患者として見るため、そうした周囲から避けるように距離をとり、孤立するようになっていく。 私の場合もまさしくそうでした。この連載の第2回で書きましたが、なぜこんなことになってしまったのか? 何かの間違いではないか? と、自問自答を繰り返す日々が続きました。そして、自分はALS患者であり、これから先は周りの友人や同僚たちとはまったく違う人生を送っていかないといけないのか……。そう思うと、それまでどおりに笑って話すことができず、自然と周りの人たちと距離をとるようになっていきました。 第2段階「怒り」 自分がALS患者であるという事実は認識できた。しかし、どうして悪いことをしていない自分がこんなことにならないといけないのか?というような漠然とした怒りや、憤りにとらわれる段階。イライラが抑えられず、周囲の人に怒りを発散してしまう。 第3段階「取り引き」 信仰心がなくても、神や仏にすがり、どうにかしてほしいと願う段階。これまでの行為を改めるから嘘であってほしいといった「取り引き」をしようとする感情。 第4段階「抑うつ」 徐々に進行していく症状に直面して「死」を意識するようになり、悲観と絶望に打ちひしがれ、憂うつな気分になる段階。 私の場合は、この第2~4段階の感情は特にありませんでした。医師という仕事柄、「病気」とは非常に身近にあるものであり、誰にもいつでも起こりうるものという感覚がありました。また、ALSとはどういう病気であるかを詳しく調べることができ、「ともに生きていく」選択肢があることを理解できたことも要因だと思います。もし私が医師でなかったら、このような感情がわいてきたのかもしれません。 第5段階「受容」 これまでは、自分がALS患者であることを拒絶し、何とか回避しようとしていたが、進行していく症状にあらがえず、自分がALS患者であることを受け入れる段階。 遅かれ早かれ、この「受容」の段階に至ります。時間をかけて少しずつ受け入れていくことになるのですが、私は完全に受け入れるには5年近くかかりました。 ここで私が特に強調したいのは、キューブラー=ロスは これらのすべての段階を通してずっと存在しつづけるのは『希望』である。 と書いていることです。 現実を冷静に受け入れている人でも、新薬や新たな治療法が開発されるかもしれないということにわずかな希望を持ち、それを糧に気力を保っている人も多いでしょう。 たとえその希望が非現実的なものであっても、患者は、希望を与えてくれる医師や看護師を最も信頼するものである。 私もそうでした。診断されて間もないころは、まだ治験段階の薬を自費で購入し、わずな希望にすがり、それを肯定してくれる医師を信頼しました。 ALSと診断されて、それを受け入れられないでいる患者さんへ この病気を簡単に受け入れられる人なんて一人もいません。 孤独になったっていい。怒ったっていい。何かにすがりついたっていい。落ち込んでも、ふさぎ込んでもいい。それがふつうの感覚なんだから、そんな自分を肯定してほしい。この病気を受け入れるには、長い時間がかかるのだから、あまり先のことは考えすぎず、目の前の症状と少しずつ向き合っていけばいい。 そして、どんな病気にも希望はあることを忘れないでほしい。 そして、ALS患者さんを支える人たちには、患者さんのこのような感情を理解し、共感し、希望を持って寄り添ってほしいと思います。 私の二つの希望 ちなみに、私の今の希望(野望?)は、筋肉を使わずに正確にスイッチを押せるようにならないかな?ということです。 ALS患者の課題の一つは、「残存している筋力をいかに効率よく使い、パソコンやiPadなどのツールを操作できるか?」ということです。しかし発想を変えて、そもそも筋力以外で操作できれば、この問題は解決できるのではないでしょうか。たとえば、脳波を使ってスイッチを押すことができれば、筋力がいくら落ちても、コミュニケーションはとれるはずです。 今はまだ開発・発展段階ですが、今のtechnologyがあれは、きっと脳波でスイッチを押してiPadを操作できる日が来るはずです! お詳しい方がおられましたら、こちらまでご連絡ください。 そして、もう一つは、この連載を読んでくださっているALS患者さんに、少しでも「生きる希望」を提供できますように。 コラム執筆者:医師 梶浦智嗣 記事編集:株式会社メディカ出版 【引用・参考】1)E・キューブラー=ロス,鈴木晶訳.『死ぬ瞬間:死とその過程について』東京,中央公論新社,2001,468p.

特集 会員限定
2022年6月28日
2022年6月28日

【セミナーレポート】エンゼルメイクの正しいやり方とコツ -QAセッション編-

2022年3月17日(木)に、「エンゼルメイク研究会」代表の小林光恵さんを講師にお迎えして開催したNsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナーの様子をお届けします。『訪問看護のエンゼルケア』全3回のセミナーレポートのうち最終回となる今回は、Q&Aセッションの様子を抜粋してご紹介します。 【講師】小林 光恵さん看護師、作家。編集者を経験後、1991年からは執筆業を中心に活躍しており、漫画「おたんこナース」、ドラマ「ナースマン」の原案者としても知られる。2001年には、看護師としての経験を活かして「エンゼルメイク研究会」を発足し、代表に就任。2015年より「ケアリング美容研究会(旧名・看護に美容ケアをいかす会)」代表も務める。 目次Q1 湯灌前のエンゼルケアはどこまで行うべき?Q2 まぶたが閉じられないときはどうすればいい?Q3 口の閉じ方で有効な方法は?Q4 詰め物は入れたほうがいい?Q5 皮膚からところどころ滲出液が出てくる場合の対処法は?Q6 体を拭くとき、腐敗対策として冷たいタオルを使うべき?Q7 ご家族に用意していただく衣服についての声がけは?Q8 貼ってあるテープを剥がすときに利用できるものはある? --> Q1 湯灌前のエンゼルケアはどこまで行うべき? 【質問】湯灌前のエンゼルケアをどこまで行うべきかいつも悩みます。【回答】業者によってサービス内容が異なるため難しいところではありますが、エンゼルケアの目的を「看取りの場で穏やかに過ごせるようにすること」とするなら、最低限の対応として保湿を行い、あとは時間が許す範囲でエンゼルケアを行います。多くの場合、湯灌では下地やファンデーションを使ってフルでメイクをするので、その前段と考えてもいいでしょう。ちなみに葬儀社の方は「ナースの方、唇にだけには油分をつけておいて」とおっしゃいます。乾燥が進みやすい唇は、表面の変化だけでなく放っておくと厚みがなくなってしまうこともあり、そうなってから整えるのは難しいのです。時間がなくても、せめて唇には油分をつけて乾燥対策をしてください。 Q2 まぶたが閉じられないときはどうすればいい? 【質問】眼球が乾燥して萎縮するなど、まぶたが閉じられないときはどうすればいいですか?【回答】まぶたを手で動かしても閉じられないときは、クレンジングマッサージがおすすめです。皮膚が柔らかくなって閉じられることがあります。それを行うまでは油分を塗布したり、ガーゼをかけておいたりしましょう。なお、クレンジングマッサージができないときやマッサージ後もまぶたが閉じないときは、二重まぶた用の糊を使ってみてください。糊を両まぶたのふちに塗って合わせ、しばらく押さえると、自然な様子に閉じます。二重まぶた用の糊はゴムを液状にしたもので、やり直しがききますし、死後変化が生じても引きつれることはありません。 Q3 口の閉じ方で有効な方法は? 【質問】お口を閉じる効果的な方法を教えてください。【回答】枕を高くし、顎の下に筒状に丸めた硬めのタオルを入れるといいでしょう。それから、エンゼルメイク用の『エンゼルデンチャー』を使って歯のスペースが充たされた状態にすると、閉じやすくなる場合もあります。また、顎は閉じているのに口元が開いてしまうケースもあります。その場合は、入れ歯安定剤を歯の表面や歯の表面が接している粘膜に薄く伸ばし、少し押さえておくと自然に閉じた印象になります。 Q4 詰め物は入れたほうがいい? 【質問】詰め物はどこまでするのがいいでしょうか?【回答】エンゼルメイク研究会では、詰め物は一切必要ないと考えています。含み綿は見た目が不自然になりますし、漏液を防ぐ栓としても役割を果たさないからです。鼻や口からの漏液の原因は、おおむね体内で腐敗が進んで内圧が高まることにあるので、対策としては冷却が有効です。それでも漏液が生じた場合は都度ぬぐい、ご家族にそのやり方を説明します。なお、これは肛門や膣も同じで、内圧が高まれば詰め物をしても液や便は漏れてきます。その場合は紙オムツや吸水パッドをつけておけば交換ができます。綿を詰めると交換できず、臭気の原因にもなるおそれもあるのでおすすめしません。 Q5 皮膚からところどころ滲出液が出てくる場合の対処法は? 【質問】全身浮腫が強く、皮膚から滲出液が出てくる場合、エンゼルケアでしてあげられることはありますか?【回答】残念ながらいい方法はありません。滲出液は一定の間出続けるようです。死後も療養中と同様に布で吸収するなどの対応を続けることになりますから、ご家族にもその旨を説明するのがいいでしょう。 Q6 体を拭くとき、腐敗対策として冷たいタオルを使うべき? 【質問】エンゼルケアで体を拭く際、腐敗しないように冷たいタオルを使うべきでしょうか?【回答】温かいタオルで大丈夫です。死後、体表面や末端部分は早く体温が下がり、かつ体内での循環は止まっているため、温かいタオルで拭いても体幹内部に熱が伝わりにくく腐敗を助長することはありません。温かいタオルを使ったほうがご家族も喜ぶので、ぜひそうしてあげてください。なお、お風呂に入る場合も、ぬるま湯のシャワー浴なら問題ありません。 Q7 ご家族に用意していただく衣服についての声がけは? 【質問】エンゼルケアの際、ご家族に用意していただく衣服について、いつどのようにお声がけしていますか?【回答】タイミングについては、あらかじめ看取りの準備をするケースでは、生前からしっかり伝えておくのがおすすめです。実際に経験者にご意見を伺っても、「そういうことは早めに声をかけてほしい」とおっしゃいます。ご家族の方はなかなか衣服のことまで気が回らないものですから、そのときに焦ったり、葬送後に本人が用意していた服が見つかって後悔したりということがないようにサポートしてあげましょう。主治医が病状の説明をする際に、「万が一に備えてお着替えを用意しておくといいかもしれません」「もしかしてご本人が準備しているかもしれないので、確認してみてください」などと、業務連絡の雰囲気で伝えてください。ただ、看取りを覚悟しているとしてもやはり辛いもの。必ず「万が一のときのために」と前置きするといいと思います。 Q8 貼ってあるテープを剥がすときに利用できるものはある? 【質問】肌にテープ類が貼られているときは、剥がすときに何を利用するといいでしょうか?また、褥瘡や創部などがある部位にテープが貼ってある際の対処法を教えてください。【回答】粘着力が強いテープなどで剥がしにくい場合は「剥離剤」を使うのがおすすめですが、ない場合はオイルなどで代用してみてください。また、開放創は蓋をしていないと乾燥して収縮し、色が変わってきます。いつもの褥瘡ケアと同じように、患部を泡ソープなどで洗浄し、再度保護テープを貼っておきましょう。保護テープの代わりにフィルム材やラップ(周りをテープでとめてください)を使っても構いません。特に患部が体の背面にある場合は重力の影響で早くから液が漏れやすいので、しっかりカバーし、紙オムツなどを敷くと安心です。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

特集
2022年6月28日
2022年6月28日

【専門家執筆&監修】認知症患者が異食を行う原因は?対応方法・NG行動を解説

患者さんの言動の背景には何があるのか? 訪問看護師はどうかかわるとよいのか? 認知症を持つ人の行動・心理症状(BPSD)をふまえた対応法を解説します。最終回の第12回は、食べられないものを食べる患者さんの行動の理由を考えます。 事例背景 70歳代女性。食事はあっという間に食べてしまい、食べたことを覚えていない。家族が目を離すとティッシュペーパーをお茶に浸けて食べたり、消しゴムや煮ていない豆類を食べ、嘔吐や下痢をする。 なぜ患者さんは異物を食べるのか? 認知症が重度になると、食物とそうでないものとの区別がつかず、異食が起きることがあります。異食とは、食べられないものを口に入れることや、食べてしまうことです。 味覚がしっかりあれば、異食した場合にも吐き出すことができますが、味覚が障害されていると飲み込んでしまいます。 また、満腹中枢の鈍化も、異食や過食を招くことになります。心理的に、孤独感や満たされない欲求などの代償として、異食が起こることもあります。 患者さんをどう理解する? このような認知症患者さんへの対応としては、苦痛や不安な思いに寄り添い、患者さんの苦痛を取り除くと混乱がしずまるといわれています。 異食に遭遇したら 異食をしている場面に遭遇した場合は、患者さんを驚かせないように、落ち着いた対応が大切です。 まずは、異食の患者さんを見かけたら、大きな声を出さないようにしましょう。その声に驚いて患者さんが反射的に飲み込むことがあります。 異食をしたものをすぐに口外に出そうと、患者さんの口の中に無理やり手を入れようとすると、患者さんは驚いて口を開かなかったり、噛んだりすることがあります。 慌てずに、患者さんの名前をゆっくり呼び、体にそっと触れて注意を向けてから、患者さん自身に口を開けてもらうようにお願いし、吐き出せるように促していきます。 異食の例 異食するものには、実にさまざまなものがあります。 異食の例 ・新聞・ティッシュペーパー・花・草・土・洗剤・薬品・化粧品・電池・タバコ・ゴミ・自分の便・布類(タオル等)・紙オムツ・花瓶の花 命に危険が及ばないものの場合は、他の食品(たとえばお菓子など)を用意して交換する方法もあります。 薬品・電池など命に危険があるものを食べた場合には、各製品に添付されている応急処置(吐かせる・水を飲ませて薄めるなど)をすると同時に、医師による処置を受けます。 異食により命に危険がおよぶものは、見えないところや手の届かないところに片付けて、患者さんの生活する空間の環境整備を行います。ティッシュペーパーや布などのように窒息に結びつくものにも注意を払い、患者さんの安全を守ることが必要です。 こんな対応はDo not! × 異食を発見したときに、驚いて大きな声を出す× 異食した物を慌てて口から出そうとする こんな対応をしてみよう! 異食は食欲の異常ではなく、欲求不満に伴う反射的、衝動的な行為であることが多いので、まずは患者さんの周囲に危険なものを置かないようにしましょう。また、異食をしていないかどうか、患者さんが口を動かしているときなどに声を掛け、見守るようにするとよいでしょう。 栄養素として鉄やカルシウム不足などが異食の原因となることもありますので、認知症の症状と決めつけてしまわず、きちんと検査し原因を明らかにすることも必要です。 執筆茨城県立つくば看護専門学校佐藤圭子 監修堀内ふき(ほりうち・ふき)佐久大学 学長 記事編集:株式会社メディカ出版 【引用・参考】1)諏訪さゆりほか.「認知症高齢者の看護計画」『医療依存度の高い認知症高齢者の治療と看護計画』諏訪さゆりほか編.愛知,日総研出版,2006,179-85.2)油野規代ほか.『認知症を伴う大腿骨頚部骨折患者に関わる整形外科看護師の対応困難な場面における臨床判断』金沢大学つるま保健学会誌.34(1),2010,91-9. 3)長嶋紀一.「認知症の人の医学知識」『認知症介護の基本』長嶋紀一編.東京,中央法規出版,2008,39-40.

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