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心肺停止時の蘇生の方針
心肺停止時の蘇生の方針
特集
2023年5月16日
2023年5月16日

「救急車は呼ばないで」と言われたら?―多職種連携で適切な対応を

この連載では、訪問看護師のみなさんが現場で遭遇しそうなケースをもとに、利用者さんからの相談内容に関連する法律や制度についてわかりやすく解説します。法律に苦手意識がある方でも自信をもって対応できるよう、役立つ知識をお届けします。今回は利用者さんからDNARの意向が示されたときの対応や、そもそもDNARとは何か、終末期医療、ACPの違いなどについても解説します。 事例 お子さんと同居する利用者Iさん(70代女性)。間質性肺炎を患っており、在宅酸素療法を導入しています。最近は呼吸が苦しそうなときが目立ってきました。 そんな中、訪問看護師のJさんは、Iさんから次のように言われました。「これ以上、みんなの世話になりながら生き続けたいと思えなくなった。そろそろ私も潮時ということだと思う。もし、明日私の呼吸が止まったとして、救急車を呼んで一命をとりとめたとしても、意識がないまま生かされ続けるようなことはごめんだ。だから、呼吸が止まっても、救急車を呼ばないでほしい。そのときが来たら無駄なあがきはせず、死を受け入れたい。」  これまで前向きに在宅での療養生活を送り、芯の強い人と思っていただけに、Iさんの言葉に動揺するJさん。「救急車を呼ばない」とは? もし、自分の目の前でIさんが心肺停止したとき、亡くなっていく様子をただ見ていなければいけないの? それって罪に問われないの? と急に不安が襲ってきました。 追い打ちをかけるように、Iさんの発した次の言葉はJさんの頭を真っ白にさせました。「家族には今の話は言わないでほしい。余計な心配をかけたくないし、このことを知ったら、きっともっと生きてほしいと説得されるだけだから。」 さて、困ったことになりました。同居のお子さんに搬送拒否の希望を知らせないとは……。いざというとき大混乱に陥ってしまうことは明白です。Jさんは一体、どのように対応すればよいでしょうか。 対応例 まずはIさんの話を傾聴し、Iさんがどうしたいのかをよく確認します。その後、ステーションの管理者や同僚に情報共有し、必要時、カンファレンスを行います。そして、IさんがDNARを希望されていることを医師に伝え、インフォームド・コンセント(IC)を行ってもらえるように調整。訪問診療のタイミングでもよいですが、Iさんご本人と医師が話をできる機会をつくります。 また、Iさんが「家族に話したくない」と言う段階では、ご家族には話しません。なぜ話したくないのかを傾聴し、リスクやデメリットを説明しつつ、医師を巻き込みながら、なるべくご本人が自発的にご家族と話すことを選べるように支援することが大切です。 DNARは心肺停止時の蘇生の方針を定めるもの みなさんは、DNARという言葉をご存知でしょうか。これは「Do Not Attempt Resuscitation」の略で、「心肺停止時に、患者本人または家族の希望により、成功する可能性が乏しい状況下での心肺蘇生を行わない」ことを意味します。 まさに今回の事例に合致する場面ですね。まずは「Iさんは、DNARを希望されているのだ」と認識しましょう。 また、Jさんが感じた「もし自分の目の前で心肺停止したとき、亡くなっていく様子をただ見ていなければいけないの? それって罪に問われないの?」という疑問については、まさにその点を関係者間で協議する必要があるわけです。 DNARの場合、基本的には心肺停止状態の利用者さんを発見したら、訪問看護師は主治医に連絡し、指示を待つことになります。その間、少しでも苦痛が取り除かれるよう手を握ったり、背中を擦ったりすることは可能です。 ただし、それを超えて心臓マッサージや人工呼吸といった心肺蘇生措置をしてしまうと、DNARに反することになってしまいます。ご本人の意思に沿った対応をとるためにも、ご本人やご家族の同意書とともに、緊急時の対応マニュアルを文章化しておくとよいでしょう。そして、いつでも誰でもが参照できるよう枕元に備えておくと安心です。 蘇生措置を行わないことが犯罪に相当するかという点については、刑法上「業務上過失致死罪」に当たる可能性はあります。しかし、ご本人の意思であることが確認できれば違法性が阻却され、罪に問われることはありません。 もっとも、最終的にその事実を確認するには、何らかの証拠となるものが必要です。そのためにも、ご本人の同意書を取ることは必須といえます。他に、医療機関を交えたカンファレンスの記録やケアマネジャーの支援経過記録なども証拠になり得ます。 まずは関係者で話し合いの場を設ける 利用者さんからDNARの意向が示されたら、訪問看護師としてどのように対応すればよいでしょうか。 日々のケアの中で、利用者さんからふと気がかりなことや願いなど、何らかの思いが表出されるときがあります。そのようなとき、まずは、ご本人の思いを聴き取る機会と捉えて、傾聴をすることが大切です。そして、対応例のとおり、ステーションの管理者や同僚に報告するとともに、ご家族とご本人、また主治医やケアマネジャー、ヘルパーなども交えて対応を協議することが必要です。 極端な話、出入りするヘルパー1人でもIさんのDNARの希望を知らなければ、そのヘルパーの訪問時に容態が急変することで救急車を呼んでしまい、Iさんの希望が叶えられない…という事態になりかねないからです。これを回避するには、すべての関係者がDNARの事実を把握し、いざというときに適切に対応できなければなりません。 そのため、すべての関係者と情報共有する必要性についてIさんに十分説明した上で、理解を得た後に本格的な協議を開始します。 ACPを行い人生の最期に向けて話し合う このように、ご本人とご家族、医療・ケアチームが、将来の医療およびケアについて、ご本人の価値観や人生の目標などをもとに話し合いを行い、ご本人の意思決定を支援するプロセスをACP、アドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning)といいます。ACPは別名「人生会議」とも呼ばれ、その人の人生全般について対応を検討することが目的です。 その中でも、今回の事例のように、心肺停止時に限局された場面でどう対応するのか、その方針を決定するのがDNARです。また、人生の終末期に向け、残された時間を平穏に過ごし、身体的・精神的苦痛を取り除くための措置を終末期医療(ターミナルケア)といいます。 DNARも、終末期医療も、看取りも、すべてACPで話し合うべき重要なテーマなのです。 ACPは、人生のどのステージでも始めることができます。病状や療養環境などの変化に応じて、何度も繰り返し実施することが大切です。 ACPについては厚生労働省発出の「人生の最終段階における医療・ケアの 決定プロセスに関するガイドライン」(改訂 平成30年3月)に詳しくまとめられています。在宅や介護の現場でも活用できるように作成されているので、ぜひご参照ください。 「大ごとにしたくない」と言われたら? もし、IさんがACPに対して乗り気でない場合、どうすべきでしょうか。法的な立場からいうと、現状DNARに関して法令による明確な定めはなく、ACPを経ずともDNAR対応することは可能です。 「とにかく大ごとにしたくない。紙に書いておけばいいんでしょ。あなたたちは医療のプロなんだから、なんとかして」とおっしゃった場合はどう対応すべきでしょう。 Iさんの意思尊重の観点からは判断が難しいところですが、ご家族に何も伝えずDNARを進めることは現実的に不可能です。いざとうときにご本人の意に反した結果にならないためにも、ご家族や近しい人たちと十分に話し合っておくことが大切です。 もし、Iさんとご家族の意向が異なったとしても、原理原則論としてはご本人の意向が優先されます。しかし、ご家族に何も伝えずDNARが実行されてしまうと、「これは母の意思ではなかった」と主張され、刑事告訴されてしまうかもしれません。 どうしてもIさんの望みどおりDNARを遂行したいのであれば、極論すると関わる事業所数を減らし、限られたメンバーだけで日々のケアを行っていく必要があるでしょう。いずれにせよ、救命に関することですから最低限、医師は把握する必要があります。 Iさんに対しては「在宅であってもチームケアでなければ利用者さんを支えることはできず、一事業所や一人の医師が単独で決定し、運営できるものではない」ことを繰り返し伝え、話し合いを重ねる他ないかと思います。それでも同意いただけない場合、「うちではDNARの対応はできない」とお断りせざるを得ないでしょう。 DNARを含め、ACPという概念がより世間一般に拡がることが期待されます。 家族の意向よりご本人の意思が優先される法的根拠 先ほど「刑事告訴」と言いましたが、この言葉にどきっとされた方もいらっしゃると思います。訴訟を回避する方法も知っておきたいところです。ご家族の意向よりご本人の意思が優先される法的な根拠を確認しておきましょう。 法的根拠としては、憲法第13条の幸福追求権が挙げられます。当然のことですが、ご本人の人生はご本人が主役であり、ご本人に決定権があるものです。このことは「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」にも明記されています。 ただし、ご本人の判断力が何らかの理由で著しく落ちている場合や、精神的に不安定な状況下では、冷静な判断ができないものとして、ご家族の意向が重要となってきます。先のガイドラインには「家族等が本人の意思を推定できる場合には、その推定意思を尊重し、本人にとっての最善の方針をとることを基本とする。」1)と記されています。 ACPの内容は必ず記録しよう いずれにせよ、最終的にものをいうのは「証拠」です。できるだけ多くの場面におけるやり取りの経過を丁寧に記録していくことが大切です。Iさんとの最初のやり取りから医療・ケアチームとの話し合い、ACPでの協議内容など、多職種間での情報共有のためにもACPのプロセスで話し合った内容は必ず記録してください。 また、「言った、言わない」にならないよう、録音することも一法です。DNARという概念はまだまだ未整備の部分が多く、平穏死までもっていくことは実は険しい道のりかもしれません。ですが、いかなる場合でも「同意」と「記録」、そして「連携」の重要性を頭に入れておきましょう。 執筆:外岡 潤介護・福祉系 弁護士法人おかげさま 代表弁護士 ●プロフィール弁護士、ホームヘルパー2級介護・福祉の業界におけるトラブル解決の専門家。介護・福祉の世界をこよなく愛し、現場の調和の空気を護ることを使命とする。著書に『介護トラブル相談必携』(民事法研究会)他多数。 YouTubeにて「介護弁護士外岡潤の介護トラブル解決チャンネル」を配信中。https://www.youtube.com/user/sotooka 編集:株式会社照林社 【引用】1) 厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(改訂 平成30年3月),p.2.https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10802000-Iseikyoku-Shidouka/0000197701.pdf2023/1/25閲覧 【参考】〇日本集中治療医学会倫理委員会「DNAR(Do Not Attempt Resuscitation)の考え方」(日集中医誌 2017;24:210-215)〇日本老年医学会 倫理委員会「エンドオブライフに関する小委員会」編「ACP推進に関する提言」,2019.〇AMED 長寿・障害総合研究事業 長寿科学研究開発事業「アドバンス・ケア・プランニング支援ガイド 在宅療養の場で呼吸不全を有する患者さんに対応するために」,2022.

ポータブルエコーの可能性3
ポータブルエコーの可能性3
特集
2023年5月16日
2023年5月16日

ポータブルエコー活用のための技術習得のポイントと利用者さんの利点

訪問看護の現場を支えるアセスメントツールのひとつとして注目されているポータブルエコー。しかし、使い慣れない医療機器に対して、どのように技術を習得し進めていけばよいのでしょうか。また、利用者さんにとっての利点が気になるところです。 今回は、東葛クリニック病院の皮膚・排泄ケア特定認定看護師の浦田克美先生と、臨床検査技師の佐野由美先生にお話を伺いました。 ポータブルエコー技術習得のポイント (1)ハンズオンセミナーや自主練動画を活用 訪問看護師がポータブルエコーを用いることに法律上の問題はありません。医師、看護師、准看護師、臨床検査技師、診療放射線技師が使うことができます。ポータブルエコーは、利用者さんの身体情報をリアルタイムで可視化することができ、かつ非侵襲的な検査であるため、臨床看護における有用性は高いと言われています。 技術習得の場としては、実際に体験することを目的としたハンズオンセミナーが最も習得しやすいでしょう。ポータブルエコーの専門企業が開催する訪問看護師向けセミナーでは、訪問看護師自らポータブルエコーを活用できる症例として、排尿、排便、褥瘡、嚥下、心機能、腹水、胸水、深部静脈血栓症等を挙げています。このように、アセスメントや看護ケアにつなげることを目的として、症例に関する症状の評価や病態の観察を行うセミナーが開催されています。 訪問看護師がポータブルエコーを使う領域は主に褥瘡、膀胱、便が多いと思いますが、始めから利用者さんに使用するのではなく、まずは自分やスタッフの体で練習するとよいでしょう。例えば、自分の上腕動脈を描出し、短軸像と長軸像で撮影しながら練習を重ね、その動画を共有していくことで、最低限のプローブを当てる感覚や画像を見る目が養われていきます。 (2)画像の読み方から段階的に習得する ポータブルエコーの技術習得には段階的なトレーニングが必要です。第1段階は、頭の中で臓器の位置関係や形をイメージできるように、解剖を理解します。第2段階は、エコーの基礎的な知識を学び、撮影断面像を理解する事です。第3段階は、観察したい部位にプローブをあてて、目的の臓器を描出できるように練習を繰り返します。 心電図も同様だと思いますが、平常時をまず知ること、その後に逸脱するものを疑って見てみるのが分かりやすくスムーズでしょう。 利用者さんにとっての利点 (1)利用者さんの心理的負担を軽くする 以前、泌尿器科外来で、「尿が出ない」と話す患者さんにポータブルエコーを当てると、膀胱内の残尿を確認しました。「尿がいっぱいあるので、とりあえず出してみましょう」と看護師が言うと、排尿が見られました。画像を一緒に確認することで、患者さんの気持ちが排尿に向き、看護師が誘導しやすくなる点もポータブルエコーの強みなのかなと思います。 また、便秘の利用者さんをポータブルエコーでアセスメントすることを標榜したことで、サービス契約に繋がり、利用者さんが増えたと事例もお聞きしています。利用者さんやその家族にとっては、ポータブルエコーで専門的に見てもらうことで安心し、結果的に心理的満足度が上がるのかもしれません。利用者さんも便の状態を可視化することで納得されますし、無理な排便ケアを行う必要もなくなります。正確な便秘評価をすることで、自分の便秘としっかり向き合ってくれることに対しても安心されると思います。 (2)利用者さんの生活がスムーズに ポータブルエコーを用いることで、利用者さんが在宅生活のスケジュールを組みやすくなる、という面があります。便秘が気になってしまうあまり、「リハビリに行かない」「お風呂に入らない」という利用者さんは少なくないですよね。その原因のひとつは、外出中や入浴時の失禁に怖さを抱えています。 ポータブルエコーを用いて計画的に排便を促すことができれば、利用者さんも心置きなく外出や入浴ができるのではないでしょうか。ポータブルエコーで便の貯留部位を確認し、下剤を飲む時間を調整したり、可能ならば摘便をしたりします。そうすることで、利用者さんが納得した状況で安心した生活を送ることができるのだと思います。 ポータブルエコー活用のための土台作り 訪問看護師が使用するポータブルエコーは、診断を目的としていません。あくまでもアセスメントツールのひとつであり、医師が診断のために実施するものとは異なります。例えば、在宅利用者さんに何か問題が生じた場合、訪問看護師自らポケットエコーで身体状況を観察し、その情報を素早く医師に情報共有することができると、診療の補助として医師の助けとなるのではないでしょうか。 医師に画像を提示する際にも、「ケアに活かしたい」という看護寄りの視点から提案していくことが良いでしょう。そのためには、日頃からきちんと根拠を調べ、看護ケアにあたることが重要です。医師との関係性の土台ができれば、ポータブルエコーをコミュニケーションツールにできるかと思います。 診療報酬上では、訪問看護師のポータブルエコー使用は加算対象となっていません。しかし、訪問診療では、医師がポータブルエコーを使うと400点算定されます。在宅領域で、医師のポータブルエコー使用が進めば、看護師にタスクシフトされる時代が遠からず来るだろうと予測されます。訪問診療は看護師も同行するので、まずは医師指導のもと実施し、経験を積めると良いでしょう。 取材協力・監修:浦田 克美氏 (皮膚・排泄ケア特定認定看護師)佐野 由美氏 (臨床検査技師) 編集:メディバンクス株式会社 【参考】〇令和2年度診療報酬改定についてhttps://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000590611.pdf(2023年1月現在)

訪問看護の褥瘡ケア
訪問看護の褥瘡ケア
特集 会員限定
2023年5月9日
2023年5月9日

写真で解説!訪問看護の褥瘡ケア 褥瘡の評価/セミナーレポート前編

2023年2月10日に開催されたNsPace(ナースペース)のオンラインセミナー「写真事例で解説!訪問看護の褥瘡ケア」。在宅創傷スキンケアステーションの代表で、皮膚・排泄ケア認定看護師でもある岡部美保さんを講師としてお迎えし、褥瘡の評価やケアのポイントについて、実際の事例を交えながら教えていただきました。 今回はそのセミナーの内容を、前後編に分けて記事化。前編では、「DESIGN-R2020」(※1)に基づく評価の方法や、注意すべき褥瘡の特徴とケア方法などをご紹介します。 ※約90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】岡部 美保さん皮膚・排泄ケア認定看護師/在宅創傷スキンケアステーション代表赤十字病院や複数の訪問看護ステーションにて勤務し、管理者も経験した後、2021年に在宅創傷スキンケアステーションを開業。在宅における看護水準向上を目指し、おもに褥瘡やストーマに関する教育支援やコンサルティングに取り組んでいる。  「DESIGN-R2020」の評価方法 「DESIGN-R2020」は、病院でも訪問看護の現場でも使用されている、褥瘡状態の評価スケールです。 ▼DESIGN-R2020(一般社団法人日本褥瘡学会)http://www.jspu.org/jpn/member/pdf/design-r2020.pdf 最初は、深さ(Depth)・滲出液(Exudate)・大きさ(Size)・炎症と感染(Inflammation/Infection)・肉芽組織(Granulation)・壊死組織(Necrotic tissue)・ポケット(Pocket)の頭文字をとった「DESIGN」という評価スケールからスタートしました。その後、評価をつけるという意味のレーティング(Rating)の頭文字をとって「DESIGN-R」に進化し、2020年には現在の「DESIGN-R2020」になっています。 「DESIGN-R2020」は、褥瘡の状態を0〜66点で採点する方式で、合計点数が大きいほど重症度が高くなります。また、各項目の文字での評価では、大文字は重症、小文字は軽症という決まりです。 ちなみに、褥瘡を黒色期・黄色期・赤色期・白色期という創面の色で分類(色調分類)する考え方もありますが、これを「DESIGN-R2020」に照らし合わせると上記のようになります。 合計点数を下げていく、そして小文字にしていくことが、「DESIGN-R2020」における基本の考え方です。具体的には壊死組織を除去し、肉芽を増殖させて、創を小さくするという流れで創部の治癒を促していきます。 「DESIGN-R2020」の変更点 「DESIGN-R2020」では、「深さ」と「炎症・感染」の項目がそれぞれ以下のように変更されました。 深部損傷褥瘡(DTI)の追加 深さの項目に、「深部損傷褥瘡(DTI)疑い」が追加されました。表記は「DDTI」とし、ハイフンをつけてE(滲出液)以降の評点を続けます。(表記例)DDTI-E6s6I3G5N3P6:29点 こちらは、「DESIGN-R2020」の評価(d1~DU)と「NPIAP分類(深達度分類)」をまとめた資料です。「DESIGN-R2020」における「DDTI」は、NPIAP分類では「DTI(SDTI)疑い」にあたります。 では、DTI疑いとは具体的にどのような状態なのでしょうか。DTIは、皮下組織よりも深いところの組織の損傷が疑われる急性期褥瘡のことを指します。深さの項目では、真皮までの損傷なのか、皮下組織より深い損傷なのかを評価しますが、DTIは見ただけでは損傷があるかどうかの判断が困難です。短期間で悪化する褥瘡として注意しておきましょう。 上記のスライドはDTIの例を2つ挙げたもので、左のケースは5日間で、右のケースは10日間で状態が悪化しています。 臨界的定着(3C)の追加 炎症・感染の項目には、大文字のIのところに「臨界的定着疑い(3C)」という基準が追加されました。 3C(臨界的定着疑い)の褥瘡の特徴としては、滲出液が多く、創面がぬめっています。過剰な滲出液の影響により創周囲は浸軟し、肉芽はあるけれど、ぶよぶよとしていて非常に脆弱です。数週間や数ヵ月、何年経っても改善しないという例もあります。 臨界的定着疑いのある褥瘡の感染リスク 臨界的定着(クリティカルコロナイゼーション)の疑いがある褥瘡は、炎症兆候が見られなくても創面には細菌が付着しており、実は感染を起こす一歩手前の危険な状態。一刻も早く改善に向けた対応が必要です。 臨界的定着疑いのある創面は、滲出液が多くなります。過剰な滲出液により創周囲が浸軟すると、褥瘡はさらに治癒が遅延します。また、慢性的な圧迫や摩擦、ずれが加わると、周囲の皮膚が肥厚していきます。そして、創部の辺縁部が内側に巻き込んでしまい、いよいよ治りにくい状態になってしまいます。 創面に存在するバイオフィルム バイオフィルムとは微生物が固着して形成されるコミュニティで、白血球や消毒に対するバリアをつくって、傷を治りにくくします。健常者は細菌に対する抵抗力がありますが、全身状態が低下していたり、低栄養であったりして抵抗力が落ちている利用者さんの場合は、臨界的定着になりやすく、難治性創傷につながるのです。難治性創傷の6〜9割には、このバイオフィルムが存在するといわれています。 感染を起こしている褥瘡のコントロール 感染を起こしている褥瘡は、適切な治療が行われないと、敗血症を引き起こし、死に至る可能性があります。そのため、できるだけ早く感染を抑えることが重要です。 上のスライドの左の傷をご覧ください。このように感染を起こし、また壊死組織で覆われている傷では、皮下組織が傷んで創周囲にポケットを形成している可能性もあります。以下は局所ケアのポイントです。 ・抗菌作用のある薬を使って局所ケアを行う。・創面の密閉をせず、マイクロクライメット(※2)の管理を行う。・圧迫、摩擦、ずれを回避できる超低圧保持のエアマットを使用し、頭側挙上を行っている場合はその時間をきちんと管理をして、体圧分散・除圧を徹底する。・創部は、微温湯(水道水や生理食塩水)で十分な圧力をかけて洗浄する。・創周囲は、皮膚洗浄剤を用いて洗浄し、皮膚に付着した細菌を減少させる。 ※1 DESIGN-Rは、一般社団法人日本褥瘡学会の登録商標です。※2 マイクロクライメット:皮膚局所の温度・湿度 >>後編に続く写真で解説!訪問看護の褥瘡ケア 事例に学ぶ創部の見方/セミナーレポート後編 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

家族看護総論【前編】
家族看護総論【前編】
特集
2023年5月9日
2023年5月9日

家族看護とは何か、看護職に求められることは【総論 前編】

この連載では、訪問看護ならではの家族看護について「渡辺式家族アセスメント/支援モデル」を通して考えます。総論前編となる今回は、このモデルの提唱者である渡辺先生に、そもそも家族看護とは何か、ご家族をケアする上で大切なことを教えていただきます。 「家族看護」を整理しよう 訪問看護師である皆さんは、きっとこれまでにどこかで一度は「家族看護」という言葉を聞いたことがあるでしょう。ただ、「家族看護」と一口にいっても、人によってその捉え方はさまざまです。最初に、家族看護とはいったい何なのかを整理したいと思います。 家族という集団を対象に看護する 「家族看護」の「家族」とは誰のことを指すのでしょうか? 多くの方は、「介護者」を思い浮かべるかもしれません。あるいは、療養者と最も近しい関係にある妻や夫、母親や父親などを挙げる方もいらっしゃるでしょう。 これらはいずれも誰か特定の個人を指していますね。実は、家族看護における「家族」とは、特定の個人を指すのではなく「家族」というひとつの集団を指しています。家族という集団、すなわちひとつのチームを対象とした看護が、家族看護なのです。 例えば、80代の片麻痺のAさんが、夫と2人で暮らす自宅に退院してきたとしましょう。近くに暮らす長女がしばらく通って介護や家事を手伝うことになりました。Aさんと夫、長女のこの3人のチームが、最高のパフォーマンスを発揮してさまざまな困難を乗り切っていけるよう支援することが「家族看護」です。 目的は家族のパフォーマンスを上げること 「チームとしてのパフォーマンスを最大のものにする」これが家族看護の目的です。学問的には、「家族のセルフケア機能を高める」といいます。 介護や病、看取りといった課題をもつチーム(家族)が最大のパフォーマンスを発揮するためには、一人ひとりの健康と日々の生活の質がある程度良好に保持されていることが大切です。そして、メンバー間の関係性も鍵になるでしょう。 例えば、Aさんの自宅での療養を支える訪問看護師は、Aさんの健康状態や生活だけでなく、夫や長女の健康状態や日々の生活にも目配り・気配りを欠かさず、介護役割の獲得に向けた支援を行います。さらに、3人の関係性がより良好であるように、少なくとも介護をめぐる緊張や対立が起こらないようアプローチすることでひとつの家族を看護します。 多様なアプローチを組み合わせ看護する それでは、あらためて家族というチームのパフォーマンスを上げるために必要なアプローチを整理してみましょう。 一人ひとりをターゲットにしたアプローチとしては、まずは挨拶をするところから始まります。挨拶を通して、徐々に顔見知りになり、関係を築きます。次に、労をねぎらい、話に耳を傾け、健康を気遣います。そして、上手な気分転換をすすめ、介護やお世話をしながらもその人らしい生活を送れるように支援します。さらに、病気や障害の理解を促し、この先起こり得ることとそれへの対処の方法を示します。 また、ご本人と家族メンバー間の関係性に働きかけることが必要なケースもあります。その場合、中心になるのは、コミュニケーションを円滑にする支援です。ご本人の思いをご家族に投げかけたり、また逆にご家族の思いをご本人に投げかけたり、あるいは話し合いの場を設けたりすることもあるでしょう。今後の療養や治療の方針に対する合意形成の支援などが含まれます。 加えて、ご家族が、周囲の社会に用意されているサポート資源を活用できるように支援することも家族看護の重要なアプローチです。 このような多様なアプローチを組み合わせながら、ひとつのチームの力を高めていくのです。 家族看護に求められる3つのポイント 最後に、家族看護に求められる3つの大切なポイントをご紹介します。 (1)中立性を保持する 例えば、ご本人の支援に一生懸命になるがあまり、協力的とはいえないご家族に苦手意識を持つことはありませんか? 反対に、ご家族の日々の苦労に深く共感し、家族に無理難題をつきつけるご本人に複雑な思いを抱くことはありませんか?  ひとつのチームを丸ごと支援するためには、誰かだけに深く「肩入れ」するというのではなく、等しくだれにも同じように「肩入れ」することが必要になります。つまり、中立性の保持が重要です。 (2)メタ認知を働かせる もし、家族の中の誰かと関わるのが苦手だと感じたら、ご自分の家族観を振り返ってみるのも役に立つかもしれません。 例えば、「妻というものは夫が病気になったら支えるものだ」という価値観が強いと、そうではない妻に寄り添うことが難しいと感じるでしょう。また、自分の母親が長年介護を続け、その苦労を間近に見てきたとしましょう。すると、訪問先で介護を続ける妻と自分の母親が重なって、妻に深く共感し、中立ではいられなくなるかもしれません。 こうしたことに気づくのは、冷静で客観的な判断をしてくれる「もうひとりの自分」がいればこそです。「もうひとりの自分」が、自分の認知や他者の認知について、考えたり理解したりすることを「メタ認知」といいます。中立性を保持するためには、このメタ認知がひとつの鍵になります。 (3)鳥の目と虫の目を使い分ける 家族というひとつのチームを看護するためには、個々を理解するだけではなく、チーム全体が果たしてうまく機能しているのかを把握することが必要です。「全体を把握する」ためには、まるで悠々と空を飛ぶ鳥のように、一段高いところからひとつの家族を見下ろし全体を把握する、つまり俯瞰するという頭の働きが必要になります。その一方で、療養者のケアをする場合には、物事を微細に診て変化に気づく虫の目が必要です。 療養者を含め、ひとつの家族を看護するためには、この虫の目と鳥の目の両者を適切に使い分けることも大切なポイントといえるでしょう。 >>後編はこちら家族看護 渡辺式家族アセスメント/支援モデルとは【総論 後編】 執筆:渡辺 裕子NPO法人日本家族関係・人間関係サポート協会 理事長「渡辺式」家族看護研究会 副代表 ●プロフィール1982年千葉大学大学院看護研究科修了後、市町村保健師として勤務。その後「家族看護研究所」「家族ケア研究所」を立ち上げ、2022年から現職。長年、患者・家族、職場の人間関係に悩む看護職のサポートを行ってきた。 「NPO法人日本家族関係・人間関係サポート協会」では、「ケアが循環する社会の実現」を理念に掲げ、一般市民を対象とした「かぞくのがっこう」のほか、「渡辺式家族アセスメント/支援モデル」に関する各種セミナーを実施している。 ▶NPO法人日本家族関係・人間関係サポート協会のホームページ※渡辺式シートのダウンロードも可能です。編集:株式会社照林社 【参考】〇渡辺裕子著.「家族について学ぶ」,渡辺裕子監修.『家族看護を基盤とした地域・在宅看護論 第6版』,東京,日本看護協会出版会,2022,p.42-157.〇鈴木和子著.「家族看護学とは何か」,鈴木和子,渡辺裕子,佐藤律子著『家族看護学 : 理論と実践 第5版』,東京,日本看護協会出版会,2019,p.3-25.〇鈴木和子著.「看護学における家族の理解」,鈴木和子,渡辺裕子,佐藤律子著『家族看護学 : 理論と実践 第5版』,東京,日本看護協会出版会,2019,p.27-60.

ニャースペースのつぶやき
ニャースペースのつぶやき
特集
2023年5月9日
2023年5月9日

利用者さんが一人暮らしで認知症の場合…ニャースペースのつぶやき【訪問看護あるある】

よかった、今日はセーフ! 認知症の利用者さんは、訪問したときに不在のことがあるにゃ…。無事に会えるとホッとするにゃ 訪問時に利用者さんが不在だったり、ご自宅に入れてもらえなかったりすると、焦ってしまいますよね。特に認知症の利用者さんが一人暮らしをしている場合に、よく聞かれるケースです。安否確認も必要なので、玄関前でしばらく待ったり、探しに出かけたり、ケアマネジャーさんに連絡をとったりすることも。訪問看護師さんからは、「お買い物に出かけているのかなかなかお戻りにならず、結局訪問がキャンセルになったことがある」「お出かけしようとしているタイミングで偶然出会えて、ホッとしたことがある」といった声も聞かれました。 ニャースペース病棟看護経験5年、訪問看護猫3年目。好きな言葉は「猫にまたたび」「わかる!」「こんな『あるある』も聞いて!」など、みなさんの感想やつぶやき、いつでも投稿受付中にゃ!>>投稿フォーム

運営指導 制度解説
運営指導 制度解説
特集
2023年5月9日
2023年5月9日

運営指導(実地指導)制度解説 名称変更で何が変わったの?

2022年度から「実地指導」は「運営指導」に名称が変更されました。この変更によって何が変わったのでしょうか。この記事では、訪問看護事業に関わる方のために変更ポイントだけでなく、行政機関による運営指導の意味や内容、向き合い方についてお伝えします。 「運営指導」とは事業所を正しい方向へ導く制度 「運営指導」とは介護保険法に基づき、行政機関が事業所に対し、適正な事業運営が実施されているか指導するものです。もともと「実地指導」と呼ばれていましたが、2022年度から、指導に際しオンライン会議ツールの活用が明記され、指導場所が必ずしも「実地」ではなくなることから名称が「運営指導」に改められました。 なお、ここでいう行政機関とは、利用者が介護サービスを受けた場合にその費用を支払う「保険者」でもあり、介護サービスを行う事業所に対し、指定または許可した事業所を所管する「指定等権者」としての立場にあります。 いうまでもなく介護保険事業は、保険料と公費で賄われる公益性の高いサービスです。介護保険法(以下「法」とします)の第1条には、その目的として介護や看護、医療が必要な人の「尊厳の保持」、および「自立した日常生活の支援」が謳われています。したがって、サービスの担い手である事業所は、利用者さんに対し、この目的を果たすよう適切にサービスを行わなくてはなりません。 そして、行政機関は、各事業所がこうした責任を果たし、適正にサービスを行うことができるよう指導・支援する必要があります。そのため、行政は定期的に指導に入り、事業所を正しい方向に導いているのです。 「運営指導」と「監査」はまったく違う 行政機関が行う指導には、運営指導とは別に「監査」と呼ばれるものがあります。言葉がよく似ているので混同されるケースがあるようですが、まったく違います。ここで、介護保険制度における指導監督の全体像について確認しておきましょう。 厚生労働省による「介護保険施設等運営指導マニュアル(令和4年3月)」を見ると、指導監督について次のように説明されています。「介護保険制度の健全かつ適正な運営及び法令に基づく適正な事業実施の確保のため、法第23条又は法第24条に規定する権限(中略)に基づき行う介護保険施設等に対する『指導』、不正等の疑いが認められる場合に行う法第76条等の権限(中略)に基づき行う『監査』により行われます」1)。ここで言う「指導」とは運営指導を含みます。 指導と監査の違いについて具体的に説明しましょう。 (1)指導 指導には、集団指導と運営指導があります。 ■集団指導集団指導は事業所を1ヵ所に集めて開催されます。現場において対応が必要な法改正や留意点等、事業運営について必須の情報を伝達・共有することで、介護保険サービスの質の確保と保険給付の適正化を目的としています。 ■運営指導一方、運営指導は事業所ごとに行われます。先述のとおり、介護サービスの質、運営体制、介護報酬請求の実施状況などの確認のために実施するもので、契約書や計画書・記録等の文書提示の求めや質問によって行われます。 (2)監査 監査とは、事業所に運営基準違反や介護報酬の不正請求等が認められる場合、またそのおそれがある場合に行われる「強制調査」です。行政は違反や不正等の事実関係を明確にした上で、それらが認められる場合、勧告または指定取消等の行政処分を行います。 * 指導は、あくまで事業所側の任意の協力によるものですが、監査には強制力がある点が最大の違いです。立入検査の権限も監査に含まれます。運営指導で違反や不正等の疑いがあった場合、運営指導では立入検査ができないため、途中で監査に切り替えて事実確認が行われるケースもあります。 「運営指導」に移行し「効率化」が強化 「運営指導」に変更するに伴い強化されたこと、それは「効率化」です2)。ポイントは次の3つ。冒頭で述べた「オンラインの活用」、そして「ローカルルールの是正」と「実施頻度の明記と推進」です。 (1)オンラインの活用 運営指導は基本的に実地で行うことが想定されていますが、最低基準等運営体制指導や報酬請求指導については、実地でなくとも確認できる内容であるため、オンライン等の活用が可能であることが明記されました。 (2)ローカルルールの是正 効果的、効率的な指導を推進するため、自治体ごとの異なる指導ルール(いわゆるローカルルール)について是正が図られました。具体的には次のようなことが明記されました。 ・標準的な確認項目や確認文書(※)以外の項目は原則として確認しないこと※厚生労働省「介護保険施設等運営指導マニュアル(令和4年3月)」の別添資料「確認項目及び確認文書」にサービス種別ごとの確認項目と確認文書がまとめられています。例えば、訪問看護における「サービス提供記録」であれば「訪問看護計画にある目標を達成するための具体的なサービスの内容が記載されているか」、「日々のサービスについて、具体的な内容や利用者の心身の状況等を記録しているか」が確認項目として挙げられています。・1回の指導にかかる時間をできる限り短縮すること・提出を求める書類の写しは1部とすること・自治体がすでに保有している文書は再提出を求めないこと (3)実施頻度の明記と推進 運営指導の実施頻度は、原則、指定または許可の有効期間(6年)内に少なくとも1回以上と定められました。 運営指導は業務改善のチャンス 運営指導と聞くと、どうしても身構えてしまい、指導通知が来ると「運が悪い」と感じたり、慌ててしまったりすることがあるかもしれません。ですが、これまで解説してきたとおり、運営指導は正しく質の高いサービスをしっかり利用者さんに提供できているかどうかを外部の目で点検してくれる機会です。「業務の確認や改善のチャンス」とプラスに受け止められるとよいでしょう。 もし、運営指導で法令違反があった場合、軽微なものであれば口頭、あるいは後日書面で改善点が指摘されます。また、不正請求ではなく、単なる請求上の誤りがあった場合は、過誤調整(報酬返還)を要することもあります。いずれにせよ、これらに速やかに対応し改善すれば、運営指導の段階ではそこで終了です。指定取消といった厳しい処分に進むことはまずないため、安心してください。 「運営指導対策」という言葉を見聞きしますが、手を抜いたり、即席で対策が完了したりといった楽ができるような方法は存在しません。真に有効であり、唯一の対策は「普段からきちんとやる」ことにほかならないのです。それは、利用者さんとの契約や同意の書面を忘れずに取り交わす、利用者さんごとに計画をしっかり協議し立案する、計画に沿ったケアを提供するといった当たり前のことであり、これらを丁寧に記録化していく作業が大切です。日々の業務をきちんとこなすことが運営指導の準備につながります。 また、運営指導にリニューアルしたことで効率化の観点からチェックするポイントが絞られ明確化されました。各自治体から配布されている自己点検票が役に立ちます。問われるポイントが絞られたことから、事業所側としてはより対応しやすくなったといえるでしょう。 執筆:外岡 潤介護・福祉系 弁護士法人おかげさま 代表弁護士 ●プロフィール弁護士、ホームヘルパー2級介護・福祉の業界におけるトラブル解決の専門家。介護・福祉の世界をこよなく愛し、現場の調和の空気を護ることを使命とする。著書に『介護トラブル相談必携』(民事法研究会)他多数。 YouTubeにて「介護弁護士外岡潤の介護トラブル解決チャンネル」を配信中。https://www.youtube.com/user/sotooka 編集:株式会社照林社 【参考・引用】1)厚生労働省.「介護保険施設等運営指導マニュアル 令和4年3月」https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000949269.pdf2023/3/20閲覧 2)厚生労働省.「介護保険施設等指導指針」(2022年3月31日)

教育×訪問看護
教育×訪問看護
特集 会員限定
2023年5月2日
2023年5月2日

オンライン実習事例から学ぶ 教育×訪問看護の連携【セミナーレポート】

2023年1月28日に開催した「【トークセッション】教育×訪問看護の連携」。フリーアナウンサーの中村さん進行のもと、山形大学の松田教授と訪問看護師の川俣さんによるトークセッションを実施しました。山形大学の看護学科で行った「訪問看護ステーションと連携したオンライン実習」の事例を通し、教育と訪問看護が今後どう関わっていくべきかについて考えます。 ※約50分間のトークセッションから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】松田 友美 さん山形大学大学院医学系研究科看護学専攻 在宅看護学分野 教授川俣 沙織 さん山形県訪問看護ステーション連絡協議会 副会長訪問看護ステーションにこ 管理者【ファシリテーター】中村 優子 さんフリーアナウンサー。著名人のYouTubeチャンネル運営、著者インタビューなどを多数手がける※本文中敬称略 オンライン実習で知識と考える力をつける 中村:川俣さんが管理者を務める「訪問看護ステーションにこ」が山形大学看護学科の在宅看護オンライン実習(以下「オンライン実習」) に協力されたきっかけは、松田先生からのお声がけだったと伺っています。依頼された経緯について教えてください。 松田:コロナ禍で在宅看護実習をすべて中止せざるをえなくなり、川俣さんに藁にもすがる思いで、初めは実習の導入講義をお願いしたんです。 川俣:協力させていただくからには、訪問看護の楽しさや臨場感が伝わる内容にしたくて。私がただ講義をしても面白くないので、ステーション内で相談し、スタッフの協力のもと、現場と学生さんをオンラインで繋いで「同行しているような実習」を行うことになりました。 松田:オンラインではどうしても実際に体験することは難しいですが、訪問看護の重要な視点を事前学習した上で実習を行うことによって、知識とそれを使う思考回路が鍛えられました。技術は社会人になってからでも磨けるけれど、知識や考える力を養うのは学生のうちでないとなかなかできないので、とても良い内容だったと思っています。 実習で訪問看護の力、あり方が伝わった 中村:実際にオンライン実習を受講した学生のみなさんの反応はいかがでしたか? 松田:学生たちの反応は、予想以上に良いものでした。まず、実習はできないだろうと諦めていたのに、現場を見られたことに対する喜びですね。そして何より、看護の力を実感できたようです。教科書には「看護はその人の力を引き出す」と書いてあるけれども、いまいちピンとこない。でも、実際に看護師さんが利用者さんに接する様子を見て、生の声を聞いて、どういうことか理解できた、と。 川俣:複数の学生さんが同じ利用者さんの看護現場を共通体験できるメリットも大きかったと思います。 私たちは日ごろ、ひとりの利用者さんに複数のスタッフが関わるようにしています。利用者さんは「多面体」なので、複数人で関わったほうが気づきを得られると考えているからです。そして、その結果をもとに、どういう方針で看護をしていくかチームで考えます。 今回のオンライン実習では、学生さんたちに、その過程と似たような体験をしてもらえました。お互いに意見を交換する中で、「ほかの人はそう考えるんだな」という、他者の視点からの学びがあったはず。また、「多様な意見があっていい」ということも理解してもらえたと思います。 これは通常の実習ではなかなか得られない学びだと思うので、今後の看護師人生にいい影響を与える経験になったのではないでしょうか。 松田:そうですね。学生からも、「ほかの人から自分では思いつかない意見が聞けて勉強になった」「信頼関係の築き方の多様性を学べた」といった声が寄せられました。 新卒で訪問看護に携わる道もつくりたい 中村:オンライン実習の取り組みを経ての今後の展望について教えてください。 川俣:オンライン実習は臨地実習の代替ではなく、演習と臨地実習の間に挟むことで、学びを効率的に補完できる可能性があると評価しています。コロナ禍に限らず、よりよい形を模索しながら継続できればと思っています。 松田:卒業生に対するアンケートで「どんな教育が今役に立っていると感じるか」という質問をしたところ、「在宅看護のオンライン実習」と答えてくれる学生が多くいました。川俣さんのおっしゃるとおり、今後も積極的に導入していくべきではないかと考えます。 次のステップとしては、実際に在宅看護に関わりたい、訪問看護ステーションに就職したいという人材を増やしていくことではないでしょうか。 川俣:現段階では、新卒看護師を訪問看護ステーションで採用できる事業所はまだまだ少ないと感じています。病院で経験を積んでから訪問看護に移行するというのが多いと思いますが、今回の経験で考えが変わりました。利用者さんの人生に寄り添うという観点では、新卒であっても十分に活躍できると思います。もちろん、技術的な部分での医療機関との連携をはじめとしたフォロー体制は必要で今後の課題でもあります。地域の医療機関等のみなさんと協力体制を構築して、新卒から訪問看護に携わるというキャリアの実現に向けて、頑張っていきたいです。 松田:訪問看護に従事するにあたり、しっかりとした知識や技術、マナー、判断力などが必要なことは確かです。でも、コミュニケーションってそんなに構えなくても良い、難しいことではない、訪問看護はやりがいがあって楽しいということを、私たちも講義や実習で伝えていきたいと思います。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア * * * ※本トークセッションと同日開催した録画配信セミナー、アンコール開催セミナーに関しましては、以下のセミナーレポートをご覧ください。 >>【セミナーレポート】vol.1 BCP策定の基礎知識/BCP策定へのSTEP~いのちと暮らしを守る、継続可能な業務計画を考える~ >>【セミナーレポート】調整役としても活躍する -訪問看護師によるエンゼルケア-

これからの医療的ケア児と訪問看護
これからの医療的ケア児と訪問看護
インタビュー
2023年5月2日
2023年5月2日

親子の夢が広がる 医療的ケア児の就学支援事例 【長野県 小布施町】

清泉女学院大学の北村千章教授が主宰するNPO法人「親子の未来を支える会」では、学校への看護師をはじめとした医療的ケア児の就学支援を行っています。今回は、そんな「親子の未来を支える会」と自治体が連携を図り、医療的ケア児の就学支援に成功した事例をご紹介します。北村教授と長野県 小布施町教育委員会 関口氏にお話を聞きました。 >>前回の記事はこちら見落としがちな親視点 保護者に聞く&寄り添う看護-医療的ケア児と訪問看護 清泉女学院大学 小児期看護学北村 千章(きたむら ちあき)教授看護師・助産師。新潟県立看護大学大学院看護学研究科修士課程修了。「全国心臓病の子どもを守る会」にボランティアとして参加したのをきっかけに、先天性心疾患および22q11.2欠失症候群の子どもたち、医療的ケアが必要な子どもたちを、地域ボランティアチームをつくってサポート。2019年、清泉女学院大学看護学部に小児期看護学准教授として着任。慢性疾患のある子どもたちが大人になったときに居場所を持ち、ひとり立ちできるための必要な支援や体制つくりについて研究している。同年、NPO法人「親子の未来を支える会」の協力を得て、医療的ケア児の就学サポートを開始。医療的ケアが必要な子どもが、教育を受ける機会が奪われないしくみづくりを目指す。2023年4月より、清泉女学院大学看護学部 小児期看護学 教授に就任。小布施町教育委員会関口 和人(せきぐち かずと)氏2002年長野県の小布施町役場に入職し、建設水道課、健康福祉課等を経て、2022年度より教育委員会子ども支援係の係長に就任。子ども支援係では、保育園・幼稚園~小・中学校までの支援を担当している。 ※本文中敬称略 行政との連携で子どもたちの自立をサポート ―小布施町教育委員会と、「親子の未来を支える会」との関係性について教えてください。 北村: 最初に、「親子の未来を支える会」と小布施町教育委員会とが連携したのは、胃ろうからの経管栄養が必要な医療的ケア児のAさん・Bさん(下記)の事例でした。このお二方は、看護師や学校の先生、自治体といった多職種の連携サポートによって小学校に通えるようになったあと、「胃ろうから自己注入ができるようになった」「経口摂取が可能になった」など、大きな成長が見られたんです。子どもたちには、我々には分からない未知数の「持っている力」があって、そうした力を引き出せるということが看護師にとっての一番の魅力であり、やりがいだと思います。一方、看護師だからできる医療的ケアもあるものの、当然学校の先生や教育委員会の方々との協力体制がなくてはサポートが実現できません。 関口: 教育委員会の者は、当然ながら医療従事者に比べてずっと医療的な知識が少なく、それまで医療的ケア児の就学支援を行った前例もありませんでした。各ご家庭のニーズ・状況に合わせて医療従事者に適宜質問しながら対応策を考え、行動するしかなかったんです。Aさん・Bさんの事例以降、マニュアルの作成や支援会議の開催などの準備段階から、その都度、北村先生にはご相談をしていて、助言のおかげで比較的スムーズで柔軟な対応ができていると思います。■小布施町教育委員会と親子の未来を支える会との連携事例 【事例】・医療的ケア内容:Aさん・Bさんともに「胃ろうからの経管栄養」 ・Aさん:町外の特別支援学校に通っていたが、小布施町の小学校に転入し、学校看護師を配置して通常級へ。 栄養剤からミキサー食に変更したほか、現在は中学校の通常級に通いながら、胃ろうからの自己注入も可能に。自立への道が開けた。 ・Bさん:Aさんの転入前は、訪問看護ステーションの協力を得ながら小布施町の小学校に通学。Aさんの転入に伴い、学校看護師によるBさんの医療的ケアが可能に。現在は給食の経口摂取をしている。 ―Bさんがもともと通っていた小学校にAさんが転入したことがきっかけで、小布施町との連携事例が始まったと伺っています。詳しく経緯を教えてください。 関口: もともとその小学校がBさんを受け入れることができていた理由は、主に2点あります。まずは、訪問看護ステーションの協力を得られ、学校に看護師を派遣してくださっていたこと。ふたつ目は、Bさんが常時医療的ケアが必要なお子さんではなく、給食を胃ろうから注入するケアのみで、サポートのハードルが低かったことです。 そこに、Aさんの転入を受け入れるお話があり、どうすればいいか検討していく過程で「親子の未来を支える会」と出会い、連携が始まりました。 北村: Aさんのご自宅から小学校までは徒歩5分。学習能力も十分にあるのに、胃ろうがあるために小学校に受け入れてもらえず、隣の市の支援学校に入学することになったんです。隣の市へ毎日送迎するお母さんは、とても大変なご様子でした。そんな中で、我々「親子の未来を支える会」に、小布施町の相談支援員さんからAさんの件でご相談をいただいて、関わらせてもらったのです。 その後、Aさんは小布施町の小学校に転入し、学校看護師を配置して通常学級へ通えるようになりました。総合栄養剤からミキサー食に変更したほか、転校から4年経った現在は、中学校の通常級に通いながらいろいろと学習され、自己注入もできるようになっています。「医療的ケア児」の定義から外れるまでに、Aさんが自分でできることが増えていったのです。 以前は「高校に通う」ことも想像できなかったかもしれませんが、今は家族も本人も高校に通う夢を叶えたいと思っていらっしゃると思います。 ―Bさんについてはいかがでしょう。 北村: 低体重で生まれて嚥下障害もあったBさんは、保育園や小学校の低学年のころは、訪問看護師さんが経管栄養の管理だけサポートしていました。その訪問看護師さんが介入していたことがとても大きくて、例えば、給食を注入しているときにBさんが欲しがるそぶりを見せた際、少し口から摂取できていたそうなんです。それを見ていた訪問看護師さんが、「口からも食べている」「もしかしたら、もうちょっと口から食べられるんじゃないか」といった情報を我々に提供してくださいました。また、通っていた放課後等デイサービスの看護師さんからも、「子どもたちが集まる場所だとBさんは口から食べようとするし、実際に少し食べている」という情報も得ることができた。こうした情報がなければ、ずっと注入だけを続けていたかもしれません。もちろん家でケアをする親御さんも、経口摂取を諦めず、チャレンジされていました。 ただ、学校側としては当然主治医の指示書通りにやらねばならず、給食を口から食べさせるチャレンジはできていませんでした。そこで私は、まず小布施町のかかりつけ医のところに行き、経口摂取へのチャレンジをすすめる意見書を書いていただけないか相談しました。その意見書や諸々の根拠・データ類を持ってBさんが通っていた小児専門の主治医に会いに行ったんです。最初は、「何言っているの?先天的に嚥下障害があるんだよ?」と言われました。でも、データを見せながらお話していくと、「少しだけなら食べさせてもいい」とおっしゃったんです。Bさんに以前から関わっている看護師さんたちのアセスメントも強い追い風になり、私たちは少しずつですが給食の経口摂取にチャレンジできるようになりました。現在のBさんは、注入しないで給食を食べられるまでになっています。 やはりBさんは、幼いころから専門性が高い訪問看護師のケアを受けていたことがとても大きかったと思います。そこで「食べられるかもしれない」と看護師が気づかなければ、我々がサポートしても、注入なしで給食を食べさせるといったチャレンジには到達できなかったでしょう。 ―AさんもBさんも、胃ろうによる経管栄養のケアをしているなかで、自立への道が広がったのですね。改めて、「食の自立」の重要性についても教えてください。 北村: まず、総合栄養剤とミキサー食では栄養がまったく異なりますし、ミキサー食のほうが当然ながら体重も増えます。 Bさんが「食べたい」と思ったのは、友達が給食を食べている様子を見たからではないかなとも思うんですね。みんなと同じ給食のメニューを、目の前に運んできます。「これをミキサーするね」と見せるんです。この時点で他のお友達と一緒のメニューだとBさんは分かります。おいしそうなごはんやみんなが食べる様子を見て、自分も食べたいという欲求が湧く。それに訪問看護師さんが気づいて、口から給食を食べるという支援につながっていきました。食べることは五感を使いますし、幸せなことです。五感を働かせる環境をつくることはとても大切だと思います。 子どもの「やりたい」「うれしい」が波及 ―通常学級で医療的ケア児を受け入れることのハードルの高さは感じますか? 北村: そうですね。全国的にもまだ難しいと思います。例えば、小布施町の事例ではないですが、15年ほど前に総合栄養食を使っていた福祉施設に疑問を感じて、ミキサー食を実施しようとしたのですが、「二回調理することになるからNG」と言われてしまいました。この施設に限らず、NGと言われるケースは結構多いと思います。そのときは、やる気のある施設長が「そんなことできるの?やってみよう!」と言ってくれたので、最終的にミキサー食を作ることができ、ご本人も親御さんも喜んでいました。でも基本的には、学校の教育現場でも調理現場でも「何かあったら困る」という考えになってしまいがちです。 初めて医療的ケア児を受け入れるのですから、先生たちが心配されるのは無理もありません。だから私たちは、Aさん・Bさんのケースでも先生たちが安心するまでは終日看護師がつかなければいけないと考え、それに賛同してくださった小布施町が予算をつけてくれたんです。看護師がケアする様子を実際に見て、学校の先生たちの不安も軽減していきました。「もう大丈夫だな」と思ったところで、看護師の派遣時間を減らしていきました。 ―多職種の連携によって、学校側も次第に安心して支援ができるようになっていったのですね。 北村: そうですね。例えばAさんの場合、地元のこども病院も協力してくださいました。たまたまAさんが入院することになったとき、訪問看護師さんや我々が作った自己注入のマニュアルを病院に持って行き、病院の看護師さん立ち会いのもと、Aさん主体で自己注入を実践しました。これが「見守りのもとなら自己注入ができる」という実績になりましたし、「これほどしっかり手技を取得できているのだから、学校でもできるよね」という考えが広がっていったのです。医療従事者や学校の先生、自治体などがひとつのチームになって連携すると、「安心」が増えていくのだと思います。 でも、やはり最も影響力があるのが、お子さん自身の「自分でできる」「できてうれしい」というメッセージですね。Aさんからは、「もう自分でいろんなことができるようになったから、そんなに看護師さんたちがケアしてくれなくてもいいよ」との言葉がありました。Aさんの成長やうれしそうにしている様子は、学校の先生や教育委員会の人たちへの最も強いメッセージになったんです。 ―子どもの自立をサポートしたい気持ちはひとつだからこそ、子どもからのメッセージは影響力があるんですね。関口さん、医療的ケア児の就学支援について、行政側が考える課題も教えてください。 関口: はい。そもそも自治体としてまだ医療的ケアが必要なお子さんを受け入れる体制が作れていない現実があります。やはり、自治体側の医療的ケア児に関する知識が根本的に足りないんです。例えば、医療的ケア児の保護者様から入園に関するご相談をいただく際も、ケア内容がケースバイケースですし、柔軟・スピーディに対応しきれていない状況なんです。 そのため、医療従事者を教育委員会内に入れたほうがよいと考えました。 教育委員会内で看護師を雇用 ―小布施町では、2023年度より教育委員会として看護師配置が決まったのですよね。 関口: はい、2023年4月以降、教育委員会内に看護師を配置しました。NPO法人「親子の未来を支える会」と契約しての連携も非常に良かったですが、契約によってどうしても業務内容が限られてしまい、やれることの限界があります。今後は保護者の相談をはじめとした初期対応や学校の先生・外部の医療従事者との連携など、フットワーク軽く柔軟な対応ができる体制に整えるようにしていきたいと思っています。 ―保健師さんがそういった動きを担うことは、やはり難しいものなのでしょうか。 関口: そうですね。そういったご質問をいただくこともあります。制度が変われば保健師が介入する道もあるかもしれません。ただ、現状保健師は母子保健のほうで手一杯で、実際に医療的ケア児やそのご家族と関われるのは、基本的に就学前だけなんです。 北村: その現状がありますね。その中で、小布施町教育委員会内の看護師配置は、今後につながるとても良い取り組みだと思います。これを機に、医療的ケア児や保護者の環境がより良くなっていくことを期待しています。 ―ありがとうございました。 ※本記事は2022年12月および2023年1月の取材内容をもとに構成しています。 執筆:高島三幸取材・編集:NsPace 編集部

ピラティス×訪問看護
ピラティス×訪問看護
インタビュー
2023年5月2日
2023年5月2日

【ピラティス×訪問看護】初心者でもOK。気軽にできるピラティス基本動作

全国の主要都市などに100店舗以上のピラティス・ヨガスタジオを運営する株式会社ZEN PLACEは、ピラティスのノウハウを在宅医療へ導入するという新しい取り組みを行っています。今回は、ZEN PLACE訪問看護師の日高さんに、看護師がピラティスを行うメリットや今後の展望についてその熱い思いをお伺いするとともに、簡単にできるピラティスの動作をご紹介いただきました。 これまでの記事はこちら>>【ピラティス×訪問看護】病棟看護師から訪問看護師へ転職したきっかけ>>【ピラティス×訪問看護】ZEN PLACE のキャリアパス&訪問時のピラティス活用法 日高 優(ひだか ゆう)2008年より急性期病院での看護師(ICUや救急外来など)を経て、2020年よりZEN PLACE訪問看護ステーションにて勤務。病院勤務時代にピラティスのインストラクターコースを修了。カウンセリング技術を学び、SNSを通して看護師に自分と向き合うことの大切さを発信している。ZEN PLACE訪問看護ウェルビーイング創造のリーディングカンパニーであるZEN PLACEが運営する訪問看護ステーション。ピラティスの技術を医療や介護の場に用い、働くスタッフから利用者様すべての人が心身ともに健康で豊かな人生が歩めることを目指している。「したい看護をするのではなく利用者様とご家族が望む生活のサポートをすること」がモットー。 看護師がピラティスをするメリットとは? ―日高さんが「看護師自身がピラティスを行ったほうが良い」と思われる理由について教えてください。 ピラティスはやればやるほど身体が変わっていきます。利用者さんの心身に良いことはもちろん、自分自身のケアにも使えます。看護師は「大変」「つらい」というイメージがありますし、離職率も高いですよね。まずは自分が満たされないと、「サポートしたい」という気持ちは生まれづらくなると思うんです。「看護が楽しい」と思える人を増やすためのひとつの手段として、ピラティスはとても良いのではないかと思っています。 私も、ピラティスを始めてから自分を俯瞰して見られるようになり、余裕が出てきました。自分が感情的になっている時にすぐに気づき、落ち着いて対応ができるようになったと思います。「これは私個人の感情だな」「ここは対話が必要だな」「私はここができないけれど、ここはできている」という感じで。そうなってくると、利用者さんの表情や様子の変化も見落とさず、気づけるようにもなるんですよね。 ―時間に追われることも多い職業だと思いますが、焦ることやイライラしてしまうことはないのでしょうか。 そうですね。特に訪問看護師になってから、「やらないといけない」「できないとダメ」という自分自身の考えを押し付けないようになりました。 病院にいたときは、「医師に言われたらそれが絶対」「治療優先」という考えも強かったんです。そうなってくると、「○か×」あるいは「100か0」という考えに囚われやすいですし、命を預かっている以上、できない自分や周りの人たちを許せない。新人の看護師に対して「なんでできないの?」というネガティブな言葉を投げる人が多かったり、自分を責めて離職につながってしまったりします。患者さんに対してもそうですね。例えば、処方した薬を飲んでいなかったら、「薬は飲まないといけないものだから、ちゃんと飲んでくださいね!」とお伝えしていました。 でも、在宅医療では、利用者さんやご家族の意思や生活の質が大切になってきます。看護師は利用者さんの「生活」を支援する立場なので、さまざまな考えや価値観を尊重しやすいんですよね。薬が飲めていなくても、「〇〇さんはどうしたいですか?」と利用者さんの意思を確認できます。また、「歩きたいけど練習をさぼってしまって歩けない」ということでも、それも含めてその人。さぼりたいならさぼってもいいのかなと思っています。利用者さんご本人の意思を尊重し、かつその方の頑張れる範囲や現状を受け止めて、サポートするようにしています。 「できない=ダメ」ではない ―訪問看護とピラティスの理念との相性が良い、という側面があるのでしょうか。 そうですね。ピラティスの中にも「できないことは『ダメ』じゃない」という考え方があります。「できない自分」も今の自分として気付いて受け入れてあげるんですよね。 医療現場では、問題にフォーカスして原因を究明し、解決を図る考え方が必要になってきます。でも、そこには本来、人の感情や気持ちも存在していて、そこに気付き感じ取ることも大事だと思うんです。 利用者さんには「できない」ことを理由に落ち込んでほしくないですし、そうした自分の状態を受け止めてもらえるように声かけをしています。こういうピラティスの考え方は、とても訪問看護に活きているなと感じています。 ―看護師さんたちにも、そういったありのまま自分を受け入れてほしい、ということですね。 そうですね。私が看護師こそピラティスをして欲しいなと思っているのはまさにそこです。看護師も職場に対して安心感を求めているはずなんですよね。「できない自分やダメな自分もいて良いんだ」と思えれば気持ちが少し楽になると思っています。 仕事上つらい経験をすることもありますが、それに耐えて慣れていくのが当たり前という認識からか、自分のつらさに気付かず、心が疲弊していく方がたくさんいると感じています。また医療機関は閉鎖的で保守的、職種階級的な部分もあるので、内部で何か問題が発生しても解決できず、同じ悩みやストレスを持ち続けてしまうこともしばしばあります。 看護師がまず自分の状態に気付き、発散することで自分を整えて、心の余裕を持つことができれば、好循環ができます。自分だけではなく利用者さんやご家族、スタッフなど誰に対しても気持ちに余裕を持って接することができるはず。仕事もプライベートも良い方向に向きやすくなるのではないでしょうか。 だからこそ、医療従事者にもっとピラティスが広まってくれたら嬉しいですし、ピラティスを身近で楽しめる環境が増えればいいなと思っています。もちろん、私は自身のケアとしても引き続きピラティスを続け、利用者さんやご家族にも良い看護を提供し続けることを目標としていきたいと思います。 初めてでも気軽にできるピラティスの基本動作の紹介 ―ありがとうございます。では、ピラティスをやったことがない看護師さん向けに、気軽にできる基本動作を教えてください 今回は3つのエクササイズをご紹介します。(1)ピラティスの胸式呼吸(2)ピラティスの骨盤矯正(3)体幹を鍛えるロールアップとロールダウン ピラティスマットを使用しますが、なければヨガマットやバスタオルの上でも大丈夫です。 ベッド上だと身体が安定しにくいので、床の上で行うようにしましょう。 写真提供:ZEN PLACE (1)ピラティスの胸式呼吸 よく「腹式呼吸」という言葉は聞くと思いますが、ピラティスの呼吸法は「胸式呼吸法」といいます。胸式呼吸は交感神経を優位にさせ、全身に血液を送り出そうとして血管収縮が起こり、血圧も上昇し、脈や呼吸も速くなります。また頭が冴えてきて集中力や記憶力などが高まりやすくなるのも特徴的です。 床の上にあぐらをかいて、背筋を伸ばして顎を引いて座って行うのですが、このとき正しい姿勢になることが大事です。背筋が伸びておらず肩が内巻になっていると、心窩部や胸郭が広がりにくいので、胸を広げて肋骨を閉じましょう。 呼吸をする際には、両手を胸の下辺りに添えると胸の膨らみを意識しやすいです。息を吸うときは、胸の下辺りに当てた手が外側に開いていく感じを、吐く際は手が中心に寄っていく感覚を持ち、肋骨が開閉されているかチェックすることが大事です。 口から息を吐き出しながらお腹に力を入れへこませます。そのまま胸を膨らませるように鼻から息を吸い、そのまま口から息を吐きだしましょう。 (2)ピラティスの骨盤矯正 骨盤の位置を把握して正しい位置に戻すことを目的としています。 骨盤ニュートラル 特に女性には、反り腰の方が多いと言われています。脚を組む、バッグをいつも同じ肩に掛けるなど、身体の重心を片側にかけることで骨盤は歪んでしまうと考えられます。特に看護師の場合はベッドに向かってかがんで作業することもあるので、腰に負担がかかりやすく歪みも出やすいのでしょう。 骨盤の歪みは血行不良による身体の不調や痛みの原因にもなるため、まず行っていただきたい基本動作ですね。 反り腰の場合、骨盤が前傾しているので、それを後ろに倒して元に戻す動作を行います。骨盤を立てることでお尻が少し下がるイメージです。ピラティスでは寝ながら骨盤矯正を行います。 マット上で仰向けになり、膝を立てた状態になりましょう。肩の力みを抜きます。この時点で手を腰の下に入れ、手のひらが簡単に入るようであれば前傾、手のひらもまったく入らないようであれば後傾している状態です。 手のひらがぎりぎり入るくらいの状態だとピラティスでいう「ニュートラルポジション」となります。この状態で骨盤を前傾、後傾、戻すという動作を繰り返します。 ペルビックカール ピラティスには「ペルビックカール」という骨盤や腰椎を安定させるエクササイズがあります。 仰向けに寝て膝を曲げ、息を吐きながら骨盤を傾けるように上げて脊柱をマットから離し、息を吸って上でホールド。息を吐きながら、膝を曲げた仰向けの状態に戻るという動作を繰り返します。 (3)体幹を鍛えるロールアップとロールダウン 仰向けに寝て手は拳を向かい合わせにして頭の上に伸ばし、両脚は真っ直ぐ揃えたまま足の爪先まで伸ばします。 息を吸って腕を体の前方に向かって上げていき、腹筋をしめ息を吐きながら起き上がり股関節の上に肩がある姿勢で息を吸ってキープ(Cカール)。息を吐きながら体を倒していくという動作を繰り返します。 そして息をゆっくりと吐きながらお腹を引き締めて、腹筋の力で背中を丸めて足元まで起き上がっていきます。この時、はずみをつけないよう注意し、しっかりと腹筋と身体の軸を意識してゆっくり起き上がりましょう。 起き上がったら手順を逆に行い、元の体勢に戻ります。 * ピラティスは10回やると違いを感じ、20回やると見た目がかわり、30回やると身体のすべてがかわるといわれています。「ちょっと疲れているな」「ジムに行くのは大変だけど自宅で軽く運動をしたいな」という方はもちろん、日々の姿勢や体型を良くしたいという方でも気軽にスタートできるのがピラティスの魅力です。ぜひ一度試していただき、継続していただければいいなと思っています。皆様に少しでもピラティスの魅力が伝われば幸いです。 ―日高さん、どうもありがとうございました。 取材: NsPace編集部編集・執筆: 合同会社ヘルメース

ケースメソッドで考える管理業務
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特集
2023年5月2日
2023年5月2日

CASE4 クレームを受けるスタッフをどうするのか_その2:桐山さんが抱えている問題は何か

管理者として課題に直面したとき、自分以外の管理者がどう判断するかを知りたくなることはありませんか? この連載は、参加者どうしで考えをシェアしあう研修手法である、ケースメソッド注1セミナーの形式に沿って、訪問看護管理者が直面する課題を考えていきます。第11回は、このクレームをスタッフナースの成長支援の機会ととらえ、管理者として支援を行うために、まずは「桐山さんが抱えている問題」を考えます。 はじめに 前回(「その1:まずすべきことは何か」参照)は、利用者からのクレームがあったときの初動対応について、それぞれの考えを出しあいました。続く今回は、前回のCさんの発言を受け、桐山さんが抱えている問題に注目することで、どんな支援ができるかのヒントを明らかにしていきます。 議論の題材となっているケースと設問は以下のとおりです。 ケースと設問 CASE4 クレームを受けるスタッフをどうするのか 入職3ヵ月になるスタッフナースの桐山さんから、「利用者のJさんから『桐山さんには訪問に来ないでほしい』と言われた」と報告を受けた。 桐山さんは病院で3年、いくつかの介護施設で6年、他社訪問看護で1年の経験のある看護師。とても真面目な性格で、職場で冗談を言うこともなく、むしろ冗談を間に受けてしまう様子がある。何かを伝えると一語一句漏らさずに細かな字でメモをとるが、肝心なときにそのメモがどこにあるのかわからずミスをしてしまうのだ。 当ステーションは、管理者と桐山さんを除くと20歳代の看護師が2人。入職時期は2人のほうが早いが、年齢的にも看護師としての経験年数も桐山さんのほうが上である。ほかのスタッフと軽く雑談をすることも桐山さんには難しいようだ。そして他スタッフからは「桐山さんとは一緒に働きづらい」と相談を受けている。管理者として、どうすればよいだろうか? 設問もしあなたがケースに登場する管理者であれば、桐山さんやほかのスタッフに対してどのような働きかけをすべきだと考えますか。ご自身の経験から考えたアイデアをみなさんにシェアしてください。 桐山さんが抱えている問題は何か 講師桐山さんはこのステーションで力を発揮しているとは言い切れないと思います。その原因はなんでしょうか。どんな問題を桐山さんは抱えていると考えますか。 Aさん注2入職3ヵ月とあるので、まだこのステーションには慣れていないと思います。しかも、すでにいるほかのスタッフよりも看護師経験は長く、即戦力というプレッシャーもあって、ほかのスタッフにSOSを出すのも難しいのではないでしょうか。 Bさん経歴をみてみると、以前働いていた訪問看護ステーションの経験が、今の仕事に悪影響を及ぼしているのかもしれません。ステーションごとに記録のしかたのような基本的なところでもいろいろ違いがあるでしょうし、そのほかにも暗黙の前提とかもよくありますよね。ステーションからどんな働きを期待されているかも、明確にされていなくてわからないですよね。 Cさん仕事をしていて疑問に思ったことを誰に聞いていいのかわからない可能性はありそうです。本人の性格もあるかもしれませんが、ほかのスタッフに気軽に聞ける状況ではなさそうです。 Dさん桐山さんの看護技術が劣っているとは思いませんが、もしかすると、クレームがあった利用者のケアには必要な知識やスキルが不足していたのかもしれませんね。 「桐山さんが抱えている問題は何か」の小括 桐山さんが抱えている問題はいくつもあることがみえてきました。ではこの問題についての理解をより深めるために、問題の前提となっている状況と、その状況をふまえた上で生じる課題についてみていきましょう。 桐山さんが置かれている状況の特徴 桐山さんを「中途採用で新しくステーションに入職した人」ととらえると、桐山さんが困難な状況に陥りやすい特徴が二つみえてきます。 1つ目は、即戦力とみられることから周囲のサポートが低くなり、それに伴い、社会的なプレッシャーにさらされることです。 2つ目は、前職で獲得した業務のやりかたや信念といったもののうち、新しい職場では通用しないものを捨て去る必要があることです。 桐山さんが抱えている課題 議論のなかで、桐山さんが抱えている課題が4つ出てきました。 ・ 今の職場だと通用しないことを捨て去る必要がある(学習棄却課題)・ 職場からどのような役割を期待されているのかわからない(役割学習課題)・誰に質問してよいかわからない(人脈学習課題)・必要なスキルが不足している(スキル課題) 次回は、このような状況や課題を理解し、管理者として桐山さんに対してどのような支援ができるのかについて考えていきます。 >>次回「その3:管理者としてどのような支援ができるか」はこちら 注1ケースメソッドとは、架空事例(ケース)について、参加者それぞれの考えをシェアしあうことで、学びを得ていく授業形式です。ケースの教材には、訪問看護管理者が問題に直面している状況が、物語風に構成されています。参加者は、ケースの教材を予習し、自分がこのケースの主人公ならどうするかを事前に考えた状態で、授業に参加します。ケースメソッドの授業では、講師のリードのもと、参加者どうしでアイデアをシェアしながら議論をすることによって学びます。これは講義形式のセミナーとはずいぶん違ったものです。参加者の発言が何よりもセミナーを豊かにする鍵となります。 注2発言者はA・B・C・Dとしていますが、常に同一の人物ではありません。別人であっても便宜上そのように表記しています。 執筆鶴ケ谷理子合同会社manabico代表慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。看護師、保健師、MBA。大学病院(精神科)、訪問看護、事業会社での人事を経験後、株式会社やさしい手看護部長として訪問看護事業の拡大に寄与。看護師250人超の面談を実施し、看護師採用・看護師研修などのしくみづくりをする。看護師が働きやすい職場環境作りの支援を目指し合同会社manabicoを立ち上げる。【合同会社manabico HP】https://manabico.com 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】〇中原淳.『経営学習論』東京,東京大学出版会,2012,155-184.

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