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引きこもる大人にどう手をさしのべるべきか

在宅医療のスペシャリスト・川越正平先生がホストを務め、生活全般を支える「真の地域包括ケア」についてさまざまな異業種から学ぶ対談シリーズ。第5回は、全国に100万人以上いるといわれる「大人の引きこもり」、いわゆる8050問題を追いつづけるジャーナリストと、問題解決の方法などについて話し合った。(内容は2019年11月当時のものです。) ゲスト:池上正樹フリージャーナリスト。ひきこもり問題、東日本大震災などのテーマを追う。NPO法人KHJ全国ひきこもり家族会連合会理事、日本文藝家協会会員。おもな著書に「ルポ「8050問題」~高齢親子“ひきこもり死”の現場から」(河出書房新社)、「ルポひきこもり未満」(集英社新書)などがある。 世間に隠された引きこもりという存在 川越●最近、高齢の親と引きこもりの子という8050問題がクローズアップされています。池上さんは引きこもりに関する著書も多く、実際に家族会の運営などにもかかわっていますね。 池上●社会保障的な支援の対象から外れる、中高年の引きこもる人が100万人以上いることがわかりました。行政は支援したくても、どこにどうつなげていいのかわからないため、まず引きこもりについて勉強したいということで、講演の要望が多くなっています。 川越●在宅医療で伺うと、やはりそういう人に出会うことがありますが、何か事件が起こったりすると急に注目を浴びるわけです。 池上●引きこもる人の多くは、本当は真面目で優しくて、頼まれたことを断れなかったり、助けを求められなかったりする人たちです。職場でさんざん傷つけられて、誰も自分の話を聞いてくれない、受け止めてもらえないと絶望した結果、引きこもりに至っている状況です。 病気や障害ではないという思いから医療機関は受診しておらず、何十年も引きこもっている子どもの存在を、高齢になった親は世間に対して隠している。それでますます身動きが取れず、一種の精神的虐待を受けているようになっています。 川越●そもそも存在が把握できていない、診断も受けていないということで放置されてしまうんですかね。 学校での体験が就職後の引きこもりの原因に 池上●以前、ある県の社会福祉協議会で高齢者の居場所づくりのための調査をしたところ、「私のことより子どもを何とかしてほしい」という高齢者が多かったことがわかりました。地方には、都会で働いて傷ついて帰ってきたり、親の介護のために戻ったりした人が、看取り後に仕事に戻ろうとしても、持っているスキルが時代遅れになっていて職場に復帰できない。そこで社会福祉協議会が引きこもりの人の居場所をつくって、資格の勉強会をしたり仕事自体を創出したりすることで、引きこもる人が激減したと話していました。 川越●ご本人がチャンスだと思って出ていったのなら、いいことですね。 池上●ほかの例では、引きこもっている子どものためにお金を残さないといけないからと、介護サービスを拒否する人もいました。親とのつながりが唯一なので、親が亡くなると、お金があっても手をつけずに後を追うように亡くなる例もありました。お金も大事ですが、それぞれ本人が生きたいと思える意思や希望が大事だと思うんです。 川越●子どもの引きこもりはどうでしょう。本来なら学校で把握しているはずですよね。 池上●不登校でなくても、学生時代のいじめの後遺症やトラウマで、社会に出てから引きこもる人が結構います。 学校に行きたくなくても、親を悲しませないために通いつづけてしまうから、引きこもりに至る背景までは学校も想像できない。むしろ、学校や教師が組織防衛のため加害者側についてしまうと致命的になる。何とか卒業できても、社会に出てから、たまたま同じようなシチュエーションに遭うと、トラウマがよみがえって会社に行けなくなることもある。 また、発達障害の人は頭のいい方が多いので、学生時代は気づかずに大学を卒業し、社会に出てから集団生活の人間関係でつまずいて引きこもりになる人も多いですね。 世間に迷惑をかけたくないという日本的価値観 川越●独居の引きこもりでは、生活インフラも止まったような、ごみ屋敷に住んでいる人もいますね。 池上●周囲からみると「ごみ」でも、楽しかったころの大事な思い出だったり、生きていくための安心材料になっていたりすることもあります。片付けられない特性もあるのかもしれません。歩けるし買い物もできるけれど、社会と接点を持っていないので、周囲からも問題視されてしまうんです。 川越●どうして相談しないのと聞いても、そういう方法を知らないし、お役所は敷居が高いと思っているのかもしれません。 池上●相談しない人や引きこもりの子どもを隠す人たちには、国や世間に迷惑をかけられないとか、他人に頼らずに自力で何とかしなければという日本人特有の腹切り文化の遺伝子がいまだに脈々と受け継がれているような気がします。 川越●生活保護を申請したがらない人も、お上に申し訳ないからといった理由が多いように思います。税の滞納、保険料滞納、家賃や給食費滞納などは実はSOSで、行政がつながるチャンスなんですけどね。 ただそこにいていいと思える居場所づくりを 川越●親の高齢化に伴う問題も、これから深刻化してくるでしょうね。 池上●私がかかわった案件でも、母親が認知症になり、父親が亡くなったけれど相続の手続きもしていない。口座も母親が管理しているのでわからない、というケースがありました。引きこもり問題は複数の部署が連携しないと支援できないので、縦割り行政に横串を入れないと難しいと思います。 川越●私が最近経験した例では、両親と娘の三人暮らしで、お父さんが肺がん末期で診療を依頼され訪問したものの、いるはずのお母さんの姿が見えない。やがてお父さんが亡くなり、包括が訪問してもお母さんに会わせてもらえない。最後は警察や消防のレスキュー隊と突入したら、お母さんはごみの中で足が壊死して動けない状態でした。もともとはお母さんが引きこもりはじめたのが始まりのようです。 池上●そういう場合は、先生のところに連絡すると対処してもらえるんですか? 川越●松戸市は医師会の医師が地域包括や行政職員と一緒に訪問できるしくみを作っているのですが、介護保険ではすべての市町村の義務として、認知症の疑いがある人のところへは認知症初期集中支援チームを派遣することができます。受診していなくても「疑い」さえあれば可能です。 池上さんがかかわっている「居場所づくり」では、どのような活動をしていますか。 池上●当事者たちに「居場所には何があったらいい?」と聞くと、「何もないのがいい」と言うんです。支援者はどうしてもメニューをつくってしまいがちですが、何もやらされないのがいいんです。 川越●ただそこにいていい、ということですね。 池上●社会が怖くて家にいる人たちなので、就労支援を急いだりせず、生きていくための支援を必要としている人には誰でもサポートが受けられるような、引きこもり支援法のような法整備も考えてもらいたいですね。 あおぞら診療所院長 川越正平【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版 「医療と介護 Next」2019年11月発行より要約転載。本文中の状況などは掲載当時のものです。

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[4]教員との密な連携で、スタッフも学生も『やってよかった』と思える実習を!

この連載では、大変そう…と思われがちな訪問看護実習の受け入れについて意外とそうじゃないかも、と思ってもらえるようなあれこれをご紹介します。最終回の今回は、実習の実施にあたって順調に進める秘訣をご紹介します。 実習中の連絡方法を事前に取り決めておくことが重要 実習でお世話になっている訪問看護ステーションは、小規模のステーションが多く、受け入れていただける学生の人数が限られています。そのため多くのステーションに学生を受け入れていただいているので、実習中教員は複数のステーションを巡回指導することになります。 このような状況なので、いざ実習が始まってしまうと、なかなか実習指導担当者や学生との連絡が取りづらく、すれ違いになってしまう場合があります。まったく連絡が取れないと、教員、実習指導担当者ともに不安になると思うので、私は、必ず実習が始まる前に時間調整し、情報共有を図る機会を設けていただけるように訪問看護ステーションにお願いをしています。 実習中は直接会えないことも多いので、電話やFAX、メールを活用しています。話し合う必要がある場合、Web会議を設定することもあります。なるべく連携不足を解消できるような手段を講じていくことが大切ではないかと思っています。 また、これまでの経験から、実習前のほうが実習指導担当者とも連絡が取りやすいので、実習が始まるまでの間に、効率よく、かつ十分な情報共有を行う取り組みを行っています。 具体的には、訪問看護ステーションの基本情報の確認、実習の目的・目標・実施方法の共有を行っています。具体的な内容を順に説明していきます。 訪問看護ステーションの基本情報の確認 実習先の情報を学生にも把握してもらうため、訪問看護ステーションの基本情報をシートに記載しまとめています。図1に実際に使用しているシートをお示しします。 図1 実習時に活用している訪問看護ステーションの基本情報シート 青字は記載例。訪問看護ステーションの名称、所在地・行き方、実習指導に関わるメンバーの名前と連絡先、特記事項、服装、持ち物なども記載しています。このシートを見れば基本的なことは何でもわかるようにしています。 実習の目的・目標・実施方法の共有 学校側で定めた実習の目的や目標を訪問看護ステーションの実習指導担当者と共有します。そして、実習目標に到達できる実習方法をステーションの特徴に合わせて検討します。 実習の実施方法を具体的に検討することで、実習指導に必要な情報が見えてきますので、よりスムーズに実習を進めることができます。また、学校のほうで実習指導に活用してもらえる内容をまとめたファイルを作成し、訪問看護ステーションにお渡ししています。このファイルについては次の項目で詳しくご紹介します。 訪問看護ステーションに『学校発の実習ファイル』を設置 実習指導担当者からある時、指導する学生さんについてもっと知りたいという要望を受けたことがありました。実習に出るまでにどういったことを学んできているのか、学習への取り組み姿勢など、実習指導に活かせる情報を共有してほしいと言われました。 そこで、私の学校では『学校発の実習ファイル』を作成し、実習期間中ステーション内に置かせてもらっています(図2)。ファイルには、教員の連絡網や学生の実習配置表(どの学生がどこの実習先に行っているかをまとめた表)、実習要綱、学生の評価方法をまとめた資料に加えて、学生が実習までに取り組んできた課題やレポートなどを綴じています。他に、学生のアレルギー情報を記載した資料も入れています。 こういった資料を通して、学生のことを少しでも知ってもらいたいと考えていますし、実習への考え方を伝えることができればと思っています。 図2 実習ファイル このファイルには学生のアレルギー情報も記載しています。動物を飼っている利用者さんもいらっしゃるので、動物アレルギーの有無は事前にお伝えしています。なお、ファイルは実習終了後に回収します。 学校側はこんなことを知りたいと思っています 最後に、学校側から訪問看護ステーションの方へのお願いとして2つあります。 連絡の取りやすい時間帯を教えてください 実習指導担当者は、訪問看護業務のためステーション内にいらっしゃらない時間や申し送り、定例会議の時間帯があるかと思います。そういった時間を避けて、比較的連絡がつながりやすい日時を教えていただければ、タイミングのよいときにこちらからご連絡します。カンファレンスの日程調整や実習指導のお打ち合わせもスムーズに進むと思いますので、ぜひ学校側に遠慮なく『この時間なら空いているよ!』と声をかけていただけるとうれしいです。 訪問看護ステーションのスタッフの方からも実習に対するご意見を伺いたいです 我々教員は、管理者や実習指導担当者とお話しする機会は多いのですが、他の訪問看護師やリハビリテーションのスタッフとは、実習開始後の巡回指導のとき以外、交流する機会がほとんどありません。限られた時間しかお会いできませんが、実習指導に関して日ごろ感じていらっしゃることなどを気軽に話していただけると幸いです。教員の多くは、スタッフのみなさんとも交流を深め、指導に関する助言や考えに触れたいと思っているのではないでしょうか。 実習以外の交流も進めています! 私の大学ではちょうど実習が始まる前の時期に在宅看護の実際をテーマにした講義を実習先の訪問看護師の方にお願いしています。 学生にとっては現場の訪問看護師から直接話を聞ける機会であり、訪問看護師さんにとっては実習前に学生の雰囲気を感じてもらうよい機会になっています。また、実習が始まれば、講義で一度会っているので、共通の話題もあり、コミュニケーションを図りやすいそうです。 講義を引き受けてくださった「訪問看護ステーション彩」の管理者・上野朋子さんは、授業の資料準備は大変だけれど、準備の過程で日々実践している訪問看護の振り返りができ、学生に伝えたいことを整理するチャンスになっていると話してくれました。 「ニーズ訪問看護・リハビリステーション西大宮」の所長・金子孝奈さんは、大学での講義について、看護の実践や経験などを後輩に聞いてもらえることをうれしく思うと話してくれました。 * 今回、この記事の執筆をきっかけに日ごろお世話になっている訪問看護ステーションの管理者や実習指導担当者に、訪問看護実習の受け入れについてじっくりとお話を伺うことができました。 みなさん、未来を担う訪問看護師の育成に少しでも貢献したいという気持ちで受け入れてくださっていることがわかり、学生を送り出す側として感謝の気持ちでいっぱいになりました。 この記事を通して訪問看護実習の受け入れについて、読者の皆様に少しでも関心を持っていただければ幸いです。 ■取材協力者(登場順)訪問看護ステーション彩~いろどり~管理者 上野 朋子さんhttps://tact-company.com/ ニーズ訪問看護・リハビリステーション 西大宮所長 金子 孝奈さんhttps://www.needs-houmonkango.com/ 執筆 王 麗華大東文化大学 スポーツ・健康科学部 看護学科 教授 ●プロフィール1999年、国際医療福祉大学保健学部看護学科を卒業。看護師と保健師資格取得後、地域の病院と訪問看護ステーションでの勤務を経験。その後、国際医療福祉大学看護学科准教授などを経て、2018年より現職。 記事編集:株式会社照林社

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管理者に必要な「自己効力感」とは

この連載は、訪問看護ステーションで活躍するみなさまに役立つコミュニケーションのテーマを中心にお届けします。第4回は、「自分ならうまくできる」と思える、自己効力感のお話です。 うまくできる!と思える力 チーム運営をするときに、誰もが「明るく前向きなチームにしたい」と思います。しかし、実際にやってみると「うちのメンバーはネガティブな人が多くて、前向きなコミュニケーションがとりにくい」と思うことがあるかもしれません。そんなときはコミュニケーションの方法だけではなく、メンバーの「自己効力感」にも目を向けてみましょう。 自己効力感とは「自分がどんな状況に置かれても適切な行動がうまくできる予測、および確信」のことをいいます。社会的学習理論アプローチとして、カナダの心理学者アルバート・バンデューラが唱えたものです。 自己効力感が高い人 どんな逆境においても最後の最後まであきらめず勝利を狙うスポーツの世界では、ときどきそんな姿を見ることができます。 ピンチに強い人、チャンスに強い人、どちらも自己効力感の高い人です。自分は絶対にこのピンチを乗り越えられる、このチャンスをモノにできる! そんな人が率いるチームは、最後まであきらめなくなります。だから奇跡の大逆転が起こったりするのです。 自己効力感が低い人 一方、自己効力感が低い人はどうなるか。ものごとにうまく対処できる自信がないため失敗をイメージしてしまい、そのとおりになってしまう。 チャンスが来ても「どうせうまくいくはずがない」と勝手に失敗をイメージする。ピンチがくると「ほら、やっぱりここでやられてしまう」と、これまた失敗や負けをイメージしてしまう。 自己効力感は持って生まれたもの? みなさんはいかがでしょうか。どちらの面もあるのではないでしょうか。 先天的に自己効力感を高く持っている人もいます。根拠のない自信のある人もいます。こういう人がいちばん強い。何があっても「たぶん大丈夫」って人。本人もよくわからないけど「うまくいく感じがする」って人。 これは、ある種のメタ認知能力かもしれません。たとえば運動能力の高い人は、初めてチャレンジする種目でもそこそこ良い結果を出したりします。そんな人が、仕事でもいきなり結果を出したりします。それこそ天性ですね。 しかし、そうではない人もいます。でも安心してください。自己効力感は育てられるのです。 自己効力感を育てるには 自己効力感を高められない理由は大きく二つです。 一つは「自分の過去」です。いつまでも過去の失敗を忘れられない。また失敗するのではないかと恐れる。人間の体は不思議なもので、頭でイメージすると体もそのとおりに動くようにできているのだそうです。 子どものころ自転車に乗りはじめたときに、「コケる」と思ったら本当にコケたことはありませんか。スキーであっちのほうに行ってはいけないと思ったら、なぜかそっちへ行ってしまった経験はありませんか。それです。 もう一つは「他人との比較」。どうしても他人と比べてしまう自分がいます。自分がうまくいっているときでも「きっと他人はもっとうまくいくだろう」とか「私なんてあの人に比べたら」と勝手に考えて自滅してしまうなんてことがありませんか。 そんなときに思い出してほしい、心理学者エリック・バーンが言った有名な言葉があります。 「過去と他人は変えられない。変えられるのは未来と自分だけ」 きっとどこかで聞いたことがあるのではないでしょうか。 ではどうやって未来と自分を変えていけばよいのか。先ほど「人はイメージをすると体もそれに反応して動く」と言いました。それをプラスに活用するのです。成功をイメージすれば、体も成功するように動いていきます。 「それができれば苦労はない!」と思うかもしれません。次回は、その方法をもう少し深掘りしていきます。 松井貴彦・まついたかひこ ライフキャリアコンサルタントNPO法人いきいきライフ協会理事、一般社団法人看護職キャリア開発協会所属。1962年生まれ。同志社大学文学部心理学専攻卒(現心理学部)卒。出版社にて求人広告制作(コピーライター、ディレクター)、就職情報誌編集者、編集マネジャー。その後、医療・看護系出版社、関連会社の代表取締役など歴任。国家資格キャリアコンサルタント、GCDF-Japanキャリアカウンセラー(米国CCE, Inc.認定のキャリアカウンセラー資格)。自分史アドバイザー。YouTubeは「松井貴彦まっチャンネル」で検索。 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】〇Albert Bandura.本明寛ほか翻訳.『激動社会の中の自己効力』東京,金子書房,1997,368p.〇安部朋子.『ギスギスした人間関係をまーるくする心理学:エリック・バーンのTA』大阪,西日本出版社,2008,228p.

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親と子のおなかと心を満たす訪問の食事支援「おうち食堂」

在宅医療のスペシャリスト・川越正平先生がホストを務め、生活全般を支える「真の地域包括ケア」についてさまざまな異業種から学ぶ対談シリーズ。第4回は、いち早く子どもの食の貧困に注目し、独自の施策を実施する東京都江戸川区の児童女性課課長、野口さんと語り合った。(内容は2019年3月当時のものです。) ゲスト:野口 千佳子江戸川区子ども家庭部児童女性課課長。 住民が若く子どもも多い地域の課題はやはり「貧困」 川越●子ども食堂が全国的な広がりを見せていますが、江戸川区では、個々の世帯に食事支援ボランティアが入って、買い物・調理・片づけまで行う「おうち食堂」に力を入れていると伺いました。 野口●江戸川区は、東京23区のなかでは年少人口率が高く、一方で離婚率も高く、複数の子どもを育てている一人親世帯が多いのが現状です。昔からそういう状況でしたので、地域の力を活用した事業を以前から実施しています。たとえば、子育て経験者の方のお宅でゼロ歳児を預かる「保育ママ制度」や、放課後の小学校を利用して、定員を設けず誰もが利用できる居場所事業「すくすくスクール」を実施しています。 川越●すくすくスクールで対応しているのはボランティアですか? 野口●指導員のほかに年間延べ2万人以上のボランティアがスポーツや囲碁・将棋などを教えています。なかには80歳代以上の方で「子どもたちに教えることが生きがい」という方もいます。子どもたちは正直なので、教える側の自己満足でやっていると「つまんない」とすぐ来なくなる(笑)。どうやったら面白さが伝わるか、反応をもらうことが続けるパワーになっているようです。 三食とれず夏休みにやせてしまう子どもたち 川越●子ども食堂もそうですが、子どもをキーワードにすると、自然に人が集まります。それが「おうち食堂」にもつながっているんですね。 野口●子どもの貧困ということが言われるようになって、江戸川区でも実態調査を行いました。すると、小学生でひらがなが読めない、自分の名前が書けない、きょうだいが多く上の兄姉が小さい子の面倒をみている、経済的問題で高校進学を諦めるなど、学習支援が必要な子や経済的困窮が浮き彫りになりました。なかには一日三食とれずに、給食だけが頼りで夏休みにやせてしまう子どもがいることもわかりました。 川越●深刻ですね。生活保護世帯との重なりはありますか。 野口●生活保護世帯は行政としっかりつながっているので逆に大丈夫なんです。それよりも、行政が把握していない世帯、どうしても生活保護を受けたくなくて一人親で頑張っているとか、福祉サービスにつながっていない家庭のほうがかなり深刻ですね。 週1回の支援で驚くほどの変化が 野口●江戸川区では子ども食堂は以前からあったのですが、本当に助けが必要な子が来ているか確認のしようがないんですね。実際、ダブルワークやトリプルワークのお母さんが子どもに一日500円渡して「これで何か買って食べなさい」と言っても、子どもはゲームのカードを買ってしまったり、困っているという認識がないという現実がありました。そこで、実際に家庭に入り食事をつくる「おうち食堂」と、お弁当を届ける「CODOMOごはん便」の二つの食支援事業を立ち上げました。 川越●困っていても自ら情報も取れない世帯に、食を直接届けようという発想ですね。利用者負担や利用回数に制限はありますか。 野口●「ごはん便」は非課税世帯対象で一食100円、「おうち食堂」は支援が必要な家庭対象で、無料です。保健師や虐待を扱うケースワーカーなど、家庭の実態を知っている人から紹介してもらい、職員が家庭訪問をして課題を把握しながら支援につなげています。利用は年48回としています。 川越●だいたい週1回のペースですね。お弁当を届けるだけでも家の様子は観察できますし、「おうち食堂」となるとさらに長い時間、ボランティアと一緒にいるわけですね。 野口●有償ボランティアは短くても2時間は家にいます。精神疾患のあるお母さんなど、最初は人とのかかわりの苦手な人もいましたが、繰り返し週に1回入っていくことで本当に変わっていくんです。そして食の支援が必要な家庭は学習支援や経済的支援、健康面などほかにも支援が必要であることがみえてくるので、課題発見と、医療機関や福祉など必要なサービスにつなぐのが目的です。 家庭との距離を測れるボランティアの力 川越●ただ栄養を満たすとか、お母さんの心の支援だけでない効果もありそうで、これはボランティアさんの力が大きいですね。 野口●そうなんです。われわれはつい「こうしたらだめよ」と言ってしまいがちですが、支援を必要としている世帯は、親も子どもも怒られてばかりの人が多く、言ったら叱られるからと相談せずに孤立していく。でも、おうち食堂で「おいしい」という会話から少しずつ、硬かったところがやわらかくなっていくし、ボランティアの皆さんは世帯ごとの踏み込まれたくない部分などを肌で感じながら、家庭との距離をつくってくださっています。 川越●そういうことは行政ではなかなか難しいですね。このような食をきっかけにしたアプローチは子どもだけでなく、たとえば引きこもりの人、ゴミ屋敷の住民や独居の認知症の方にも使えそうですね。 野口●医療と連携した例もあって、中学生で肥満と糖尿で入院した子の退院後の食生活が心配だということで、ごはん便の支援を続けたら1ヵ月後に5キロ痩せたんです。届いたお弁当を、ふだん家で使っている器にあけてみて「あ、普通の人はこれぐらいしか食べてないんだ」と、いかに自分たちが食べすぎていたかがわかったとご家族が言っていました。食生活改善につながり体重が落ちてきていい方向に向かっていると、医師からもほめられたそうです。 川越●お話を伺っていると、食を中心とした支援、年齢を問わない居場所・交流の場づくりなど、江戸川区は今の地域課題解決の優れたモデルですね。いろんな部署が横断的にかかわらないと解決できない複合的な問題が増えているので、ほかの市区町村でもそうした取り組みが広がるといいですね。 〇東京都江戸川区子育て支援事業 > おうち食堂https://www.city.edogawa.tokyo.jp/e077/kosodate/kosodate/kosodateshienjigyo/syokunosien.html あおぞら診療所院長 川越正平【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。記事編集:株式会社メディカ出版 『医療と介護Next』2019年3月発行より要約転載。本文中の状況などは掲載当時のものです。

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[2]たくさんあります! ぜひ、知ってほしい、実習受け入れのメリット

この連載では、大変そう…と思われがちな訪問看護実習の受け入れについて意外とそうじゃないかも、と思ってもらえるようなあれこれをご紹介します。今回は、実習受け入れのメリットについて訪問看護ステーションの管理者の方のお話をもとにご紹介します。 実習受け入れのメリットを教えていただきました 訪問看護実習を受け入れることが、訪問看護ステーションにどのような影響を与えるのか、学生を送り出す側としてはとても気になるところです。そんな中、私たちの実習施設「ニーズ訪問看護・リハビリステーション西大宮」の管理者、金子孝奈さんから受け入れの実際についてお話を伺う機会がありました。 日々とても忙しい業務の中で実習にご協力いただいているので、実習受け入れの負担が大きいのではないかと考えていましたが、意外にも「実習を受け入れるメリットがあるよ」と教えていただきました。教えていただいたいくつかの例をご紹介します。 自分の行っているケアを言語化する貴重な機会に 利用者さんのお宅では、訪問看護師は学生に一つひとつ順を追って行っているケアについて説明していきます。手技の根拠や観察のポイント、注意点を言語化することで、普段何気なく実施しているケアを振り返る機会になっているとのことでした。 そして、その場にいる利用者さんやご家族からも「これはこんな意味があったのね」「注意して見てくれているのね」といった反応があり、訪問看護師に対する信頼がさらに増したそうです。 実習は、学生にとって実際に訪問看護師が行う点滴や吸引などを間近で見学できる貴重な場です。それが指導を担当する看護師や利用者さん、ご家族にとってもプラスになっていることがわかり、とてもうれしく思いました。 学生の新鮮なアイディアが課題解決の糸口に 時には学生の思いも寄らないアイディアに助けられ、利用者さんが抱える課題の解決方法が見つかることもあるようです。 例えば……。どうしても薬を飲み忘れてしまう利用者さんの服薬支援に着目し、実習指導を担当する看護師と学生でアセスメントを行いました。すると、学生から「その利用者さんは携帯電話を持っていますか?」という質問が出てきました。看護師は質問の意図がわからなかったので、学生に理由をたずねると「服薬時間に合わせて、目覚まし時計のように携帯電話にタイマー設定をすればよいかと思いました」との答えが返ってきました。この発想は、看護師にとってとても新鮮に思えたそうです。 さっそくこのアイディアを、利用者さんの服薬支援の一環として使ってくださり、利用者さんはアラーム音をきっかけに服薬のことを思い出すので飲み忘れの軽減につながったとのことでした。これは、利用者さんが使用している身近なものを使って、セルフケアの援助が可能になった例です。生活の場のことですから、とてもよいアイディアだったと思います。 学生の発想や個性を大切にし、吟味したうえで、訪問看護の現場で活かしていただいたことをとても感謝しています。 学生の学ぶ姿にエネルギーをもらえる 同行訪問では、学生はバイタルサインの測定やおむつ交換、体位変換、清拭などのケアに参加させていただくことがあります。ケアへの参加を通じて、例えば「体位変換にはこのくらいの体力を使うんだ」と実体験でき、学ぶ姿勢がどんどん変わってくるそうです。 いろいろな気づきを得て、感じた疑問を実習指導の担当者に話し、活発なディスカッションが展開されることもあると聞きました。学生との会話を通じて、『フレッシュなエネルギーをもらった気がします』と話してくださる訪問看護師の方もいらっしゃいました。 さらに、学生は訪問看護師が利用者さんお一人おひとりの病状や体調、生活スタイルに合わせてケアを行う様子を間近で見学しながら、在宅ならではのケアや援助に対する理解を深めていきます。その人らしい暮らしを支える訪問看護に感動し、実習前よりも興味・関心を高める学生もいます。 また、学生と会話をする利用者さんにはいつもとは違う表情やしぐさがあるそうです。いきいきとした表情が見られることもあり、こうしたさまざまなできごとから、実習指導担当者がエネルギーをもらい、訪問看護の楽しさを再発見することもあると教えていただきました。 若い人に訪問看護に携わってもらえるように希望を込めて 金子さんは、訪問看護実習を受け入れる理由について、次のようにお話しされます。「若い人にこれからも訪問看護に携わってもらえるように、という希望を込めて実習を受け入れています」 そして、受け入れにおいて大切にしていることについて、「実習の受け入れは不安があるかもしれませんが、実際にやってみないとわからないこともあります。やってみて問題に感じたところは改善しながら進めることも大切です。また、利用者さんの中には、孫を見るような目で学生さんに接してくれる人もいます。学生さんにとっても、利用者さんとのそうした触れ合いは、看護師になってからもいろいろな意味で役立つと考えています。ですから、できる限り在宅で暮らす利用者さんとふれ合える機会をつくっていますよ」と教えていただきました。 金子さんのお話の中にあった、「やってみて問題に感じたところ」については、学校の教員にもぜひ頼っていただければと思います。些細な問題でもフィードバックいただき、共有できれば幸いです。 ■取材協力者ニーズ訪問看護・リハビリステーション 西大宮所長 金子 孝奈さんhttps://www.needs-houmonkango.com/ 執筆 王 麗華大東文化大学 スポーツ・健康科学部 看護学科 教授 ●プロフィール1999年、国際医療福祉大学保健学部看護学科を卒業。看護師と保健師資格取得後、地域の病院と訪問看護ステーションでの勤務を経験。その後、国際医療福祉大学看護学科准教授などを経て、2018年より現職。 記事編集:株式会社照林社

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管理者に求められる「対話力」とは

この連載は、訪問看護ステーションで活躍するみなさまに役立つコミュニケーションのテーマを中心にお届けします。第3回は、チーム運営に必要な対話力のお話です。 前回のおさらい 前回は「父性原理」と「母性原理」を生かしたマネジメントとコミュニケーションの話をしました。「父性原理」は「良い子だけがわが子」、母性原理は「わが子はすべて良い子」という対立した原理でしたね。みんなが心地良く働く職場には母性原理が働く風土が良いですが、ぬるま湯になる可能性もあり変化に対応できないかもしれません。現状を打破して建設的に打って出るには、父性原理を生かして外界と戦いに出るような風土が必要です。若手の育成には母性原理、組織の発展には父性原理が生かされるといわれます。 管理者には「対話力」が求められる 人にはそれぞれ得意なマネジメントがあります。新人や若手を育てるのが得意な人は、組織のボトムを支えていく人です。いっぽうで、最前線のリーダーに高い目標を与えるのが得意な人は、組織をぐいぐい引っ張っていく人です。あなたはどちらが得意でしょうか。 しかし、マネジメントの経験を積んでいくと、組織がどちらも必要とするタイミングが必ず来ます。そのときは自分が果たす役割に対して、もう一方の役割を果たしてくれる仲間(経営パートナーだったり、メンバーであったり)とバランスをとりながらチーム運営をしていく必要があります。そのために必要なのが「対話」です。したがって管理者には「対話力」が求められます。 対話とよく混同されるのが「会話」や「情報交換」です。対話が必要というと「はい、バッチリやってます!」と言う人がいるんですが、じつはなされているのは「会話」や「情報交換」だったりします。 対話のスキルが組織の未来を変える 「会話」は、それぞれの価値観は発信しても、そこからは立ち入りません。ランチタイムの「私は〇〇が好き」「へー、そうなんだ」のような感じです。これを重ねても行動の変化は生まれません。また、「情報交換」はその名のとおり情報を交換するだけで、価値観はフラットです。 これに対して「対話」は、あるテーマについてお互いの意見や考えかたを交換することです。これは必ずしも「合意する」「納得する」に至ることを指しません。意見は違ってもいいのです。「違うことを理解すること」が大事なのです。理解したうえで「聞き流す」こともアリです。対話で大切なのは相手と向き合うこと、相手の人格を尊重することです。 組織のなかにこのような対話の風土をつくれるかどうかは、管理者(マネジャー)のスキルしだいです。これはリーダーシップでもマネジメントスキルでもなく、「ファシリテーションスキル」です。組織のトップが対話の重要性を理解して、そのスキルを持っているかどうかで、その組織の成長、人材育成、そして組織の未来が変わるといっても過言ではありません。 対話力をつけるには時間がかかります。トップがいつも「右向け、右!」と号令を掛けていたほうが組織の意思決定が早いといえば早いです。しかし、それでは組織内での対話力は育たないし、その組織の未来はないでしょう。 対話力をつけるために気をつけることは ①自分の経験則だけが正しいと思わないこと。②人の考えかたはいろいろあると知ること。③相手を否定しないこと。「Aという意見の代わりにB」ではなく「Aという意見に加えてBも考えることはできないか」と考えてみること。否定をしてしまうと意見が出なくなります。④自分の意見も変える勇気をもつこと。いったん出した意見を変えたり取り下げたりすることは、ときに勇気がいります。 ときどき観客席から好き勝手なことを言って高みの見物ばかりをする人もいますが、対話をするには、自分が相手の土俵に降りて向き合う覚悟が必要です。 執筆松井貴彦・まついたかひこ ライフキャリアコンサルタントNPO法人いきいきライフ協会理事、一般社団法人看護職キャリア開発協会所属。1962年生まれ。同志社大学文学部心理学専攻卒(現心理学部)卒。出版社にて求人広告制作(コピーライター、ディレクター)、就職情報誌編集者、編集マネジャー。その後、医療・看護系出版社、関連会社の代表取締役など歴任。国家資格キャリアコンサルタント、GCDF-Japanキャリアカウンセラー(米国CCE, Inc.認定のキャリアカウンセラー資格)。自分史アドバイザー。YouTubeは「松井貴彦まっチャンネル」で検索。 記事編集:株式会社メディカ出版

特集

医療的ケアが必要な子どもに当たり前の経験を提供

在宅医療のスペシャリスト・川越正平先生がホストを務め、生活全般を支える「真の地域包括ケア」についてさまざまな異業種から学ぶ対談シリーズ。第3回は、NHKアナウンサーから、50歳をすぎて福祉の世界に転身した内多勝康さん。医療的ケアを必要とする子どもたちを取り巻く問題がクローズアップされた。(内容は2017年3月当時のものです。) ゲスト:内多 勝康1963年生まれ。東京大学卒業。1986年、NHKに入局。アナウンサーとしてローカルニュースや生活情報番組を多く担当した。2016年3月退職し、国立成育医療研究センターが運営する医療型短期入所施設「もみじの家」のハウスマネージャーに就任。社会福祉士。 概念自体が新しい「医療的ケアが必要な子ども」 川越●NHKのアナウンサーから、「もみじの家」(国立成育医療研究センターに設立された子どものための医療型短期入所施設)への転身には驚きました。ハウスマネージャーというのは、どのようなお仕事なんでしょう。 内多●子どもたちとときどき交流しながら、主に事務的な仕事を行っています。寄付集めの対外活動、マスコミや見学者の対応、ホームページの管理やニュースレターの編集といった広報活動、ボランティアさんとの連絡調整など、組織運営全般にかかわっています。 川越●これまで主に医療的ケア児を対象とした短期入所施設があまりなかったのは意外です。 内多●医療的ケアが必要なお子さんという概念自体が新しいもので、そういうお子さんと家族をまるごと支えるような制度は、整っていないのが実情です。子どもはワクワクする体験や多世代の子どもたちとの触れ合いが必要ですから、遊びの時間を十分楽しんでもらうために、保育士や介護福祉士も配置しています。 合理的でなくても家庭のやり方にこだわる 川越●レスパイトなら本来、家族は家で休めるわけですが、「もみじの家」を利用する子どもたちは、必ずご家族が一緒なのですか。 内多●初めて利用するときの初日はお母さんと一緒に来ていただいて、自宅でされているノウハウを看護師たちが引き継ぎます。後は自宅に帰ってもいいし、一緒に泊まってもいいんです。 家ではずっと「介護する親とされる子ども」という関係だった親子が、ここにきて「安心してケアを任せることができて、初めて子育てができた」とおっしゃるお母さんもいました。 川越●「もみじの家」のような短期入所施設と日中預かりの施設が、どちらも全国に増えていってほしいですね。ところで、「もみじの家」運営のための報酬の出どころは障害者総合支援法ですか。 内多●はい、障害福祉サービス費が主な収入源です。しかし、福祉の枠だけでは支えることができないのが現実です。 医療型短期入所施設は、濃厚な医療が必要な子たちを受け入れると加算がつきますが、金額としては非常に少ないので、民間で事業としてやるには厳しい。今は運営上、寄付も重要な収入源ですが、政策に訴えるのならきちんと数字を出さなければと思っています。 医療と介護のハイブリッドな制度が待たれる 川越●病院ではなく施設で預かることで費用を節減できるという政策提言や、親御さんの負担軽減を訴えるといいかもしれませんね。それに親御さんが高齢になりケアが継続できなくなるという現実が起こりはじめていますから。 内多●それは非常に大きな問題だと思います。われわれが受け入れられるのは19歳未満のお子さんが対象なので、今でも「何とか延ばしてもらえませんか」という声は頻繁にいただきます。 川越●介護保険も特定疾病の場合で40歳から、一般には65歳からしか利用できません。でも本来、どんな年齢であれ、医療も介護も福祉も必要な方はおられます。 内多●医療的ケアが必要な、今ある制度では狭間に落ちている子を救えないのは確かです。どういう制度があればいいのか、子どもたちが置かれている環境や、お母さんがどのように在宅で支えているのかという実態を、より多くの人に知っていただき、支えるのは家族だけではなく社会的な問題なんだと思っていただくことに力を入れていくつもりです。 楽しい雰囲気の中で社会性をはぐくむ経験 川越●ご家族からの具体的な訴えを聞くこともありますか。 内多●自分の子どもが、ずっと社会との接点が持てないまま成長するという不安がすごく大きなストレスになっているようです。外出するチャンスがあっても受け入れてもらえる場所がない。だから、まず居場所をつくらないと。 川越●「もみじの家」が、その社会との接点になるわけですね。 内多●そうなんです。子どもたちは2階のプレイコーナーに集まって活動するんですが、自分ではそんなに動けない子も、楽しい雰囲気のなかにいることで「ふだんは見せない表情を見せる」とお母さんが気づくんです。居場所があると役割ができるし、親以外の大人がかかわることで社会性をはぐくむ経験になると思います。 教育の現場では医療的な保証がないので、今は、入学できても「ずっと親御さんがついていてください」というケースが多いです。医療的ケアが必要な子どもと家族も社会で支えていくコンセンサスが生まれるのが理想です。 川越●今は出産年齢も高年齢化していて、出産のリスクが高くなると、医療的ケアを必要とする子どもたちはこれからも増えていくことが予想されます。みんなで支えていくほうが、トータルでみれば国のためになるというシミュレーションができるといいですね。 内多●皆さんの意識がそうなっていってほしいと思います。最初の年の大事なテーマとして、医療的ケアが必要な子や家族の現状を知っていただくことを掲げてきましたが、今後は地域連携を進めていって、「もみじの家」が情報発信のハブ機能を備えた場所になれたらうれしいですね。 ー第4回へ続く 〇国立成育医療研究センター2002年に東京都世田谷区に設立された子どものための高度専門医療機関。http://www.ncchd.go.jp/ 〇もみじの家http://home-from-home.jp/ あおぞら診療所院長 川越正平【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。記事編集:株式会社メディカ出版 『医療と介護Next』2017年3月発行より要約転載。本文中の状況などは掲載当時のものです。

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父性・母性を生かしたマネジメントとは

この連載は、訪問看護ステーションで活躍するみなさまに役立つコミュニケーションのテーマを中心にお届けします。チームメンバーとコミュニケーションをとるにあたり、どのようなマネジメントスタイルをとっていくかも大きくかかわってきます。今回はその観点からお話しします。 父性原理と母性原理 河合隼雄さんという心理学者が「父性原理」「母性原理」という言葉を今から40年以上前の1976年に発表されました。ちょっと難しそうに聞こえるかもしれませんが、子育てとマネジメントを重ねて考えるとわかりやすいので紹介します。 簡単にいえば、父性原理は「良い子だけがわが子」であり、母性原理は「わが子はすべて良い子」だというものです。この対立した原理が社会や組織のなかに存在しているという理論です。 それぞれに、ポジティブな面とネガティブな面があります。 父性原理のポジティブな面は、力強く建設的なところ。ネガティブな面は切り捨て、破壊に至るところ。 母性原理のポジティブな面は、産み育てるところ。ネガティブなところは「呑み込み、しがみつき、死に至らせる面」と河合氏は言っています。 両者が働きバランスを保つ 人が成長するプロセスにおいては「自分の存在は認められている」と安心することが大切で、それがあってこそ子どもは冒険やチャレンジすることができます。ここでは「母性原理」が大切なわけです。母性原理は「場の倫理」としてみんなが居心地の良い状態に保とうとします。これがポジティブな一面です。しかし、その居心地の良い状態にずっといると冒険心やチャレンジ精神を忘れて、変化に対して対応ができなくなるかもしれないというのがネガティブな一面です。 それに対して「父性原理」は、個人の欲求や成長に高い価値を置きます。ですから組織に変化が必要なときは、それまで与えられていた「良い子」の枠から抜け出して外の世界で冒険、チャレンジをしなければなりません。 「わが子はすべて良い子」から「良い子だけがわが子」への変化が求められるとき。ここで父性原理の出番となるわけです。 家庭内に父親・母親の役割があるように、組織内でも、組織が置かれた状況によって父性原理・母性原理がそれぞれ働いてバランスを保つ必要があります。 組織の置かれた状況に父性原理と母性原理を生かす 河合氏がこの本を書いた1976年当時では「日本は母性原理優位の社会だ」と書かれていました。年功序列で場の倫理を重んじてきたからです。高度成長期でみんなが一つの目標に向かって力を合わせれば成果が上がる時代はそれでよかったのでしょう。 その後、バブル期、バブル崩壊期を経て、現在の日本は低成長期となりました。そこで組織が取り入れたのが「成果主義」です。プロセスなんてどうでもよい、結果だけですべてが評価されるという経営。まさに「良い子だけがわが子」という父性原理です。 生き残るために成果主義バリバリで組織運営をするとどうなるか? チャレンジする人、成果を上げられる人だけが評価されていくとどうなるか……組織は殺伐とします。まだ成果を上げる前の段階の人、つまり発展途上の人は切り捨てられて、行き場を失い離職にもつながります。 また、逆もあります。母性原理ムンムンの居心地の良い職場は、自分を成長させたい人にとっては、刺激がなく離職につながるかもしれません。 したがって、組織を存続し成長させていくには、父性原理・母性原理の両方のマネジメントスタイルが必要です。大切なのはそのバランスです。男だから、女だからという話ではありません。マネジメントの機能として、事業や人材を伸ばしていく父性、産み育てていく母性の原理が必要だということです。 マネジメントスタイルとコミュニケーションの方法を合わせる 自分のマネジメントのスタイルとしては、父性原理、母性原理のどちらが強いでしょうか。そのスタイルによってメンバーとのコミュニケーションのとりかたも変わってきます。父性原理を生かす場合は、組織の現状と目指す目標を明確にして、実現に向けてのサポートや助言を行う。母性原理を生かす場合は、個々の状況に合わせて成長を見守りながらフォローを行っていく。掛ける言葉にも違いが出てくるのではないかと思います。 父性原理だけの職場は、殺伐としがちですから離職につながる可能性がありますし、母性原理だけだとチャレンジしない職場になるかもしれないので、こちらも離職につながる可能性があることは先に述べました。それを防ぐためには、父性原理と母性原理の管理者が対話をきちんとすることです。対話をベースとした人間関係の醸成ができるしくみがあるとよいです。 組織にマネジャーが複数いてそれぞれの役割を分担できるときは対話を進めながらメンバーと接していきますが、マネジャーが一人で、事業の拡大・推進と人材の育成・教育の両方を並行して進めなければならないかもしれません。その場合、役割とコミュニケーションの方法がちぐはぐにならないように注意が必要です。そういうときは、自分と違うマネジメントスタイルに強いメンバーの力を借りて、チームビルディングする機会ととらえてもよいと思います。詳しくは次回にお話しします。 執筆松井貴彦・まついたかひこ ライフキャリアコンサルタントNPO法人いきいきライフ協会理事、一般社団法人看護職キャリア開発協会所属。1962年生まれ。同志社大学文学部心理学専攻卒(現心理学部)卒。出版社にて求人広告制作(コピーライター、ディレクター)、就職情報誌編集者、編集マネジャー。その後、医療・看護系出版社、関連会社の代表取締役など歴任。国家資格キャリアコンサルタント、GCDF-Japanキャリアカウンセラー(米国CCE, Inc.認定のキャリアカウンセラー資格)。自分史アドバイザー。YouTubeは「松井貴彦まっチャンネル」で検索。 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】〇河合隼雄.『母性社会:日本の病理』東京,講談社,1976.

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