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マネジメントに必要な心構えとは 訪問看護管理者のためのメンタルヘルスケア
特集

マネジメントに必要な心構えとは 訪問看護管理者のためのメンタルヘルスケア

この連載では産業医学が専門の精神科医・西井重超先生に、訪問看護にまつわるキャリア別メンタルヘルスケアについて解説いただきます。今回は、管理者としての心構えをご紹介しつつ、ストレスとの向き合い方を考えていきます。 訪問看護ステーションで働く看護師は20~60代まで幅広い年齢層の方がいますが、特に多い世代は40~50代のようです。管理者の年齢層も40~50代が多く、非常勤で働く訪問看護師も同年代が多いようです1)。この年代に限っていうと、管理者か非常勤かの二極化と言ってもよいかもしれません。キャリアとしては訪問看護10年目前後から管理者になる人が出てきます。 スタッフはサラッと辞めてしまうと理解しておく 管理者はマネジメントが業務として含まれてくるので、看護技術とは別のスキルと心構えが必要になってきます。まず、マネジメントにおいて理解しておくとよいのは「スタッフは辞める」ということです。極端な表現かもしれませんが、ビックリするほどサラッと辞めます。 スタッフのマネジメントも管理者の重要な業務ですので、突然の退職は、当然想定しておく必要があります。 よくあるハラスメントと捉えられかねない事例ですが「長く続けるのが当然、途中でやめるのは問題」などと自身の人生観やキャリアを他人に押し付けることはよくありません。相手にも苦痛になりますし、自分と重ね合わせようとする考え方自体が柔軟な対応の邪魔になり、自分自身を悩ませ苦しめることになります。 スタッフを信頼しても過剰な期待はしない マンパワーは流動的で、いつ誰が急に休んだり辞めたりするかはわかりません。そのため経営する側としてはマンパワー的に少なくとも0.5人分程度の余剰人員で回すくらいの人員管理は必要でしょう。もしあなたが経営者でない管理者であって、経営者が余裕を持った人員配置を理解してくれない職場で働いているなら、その職場自体は今後改善の余地が非常に大きいと思われます。  管理者の苦労は管理者にならないとわかりません。管理者をめざそうとしている人であれば少しはわかってくれるかもしれませんが、そうでない人にとってはわかる必要のない世界なのです。管理者業務もステーション業務の1つなのだから理解しようとするのは当然ではないかとの意見もあるでしょう。でもそれは、あなたが管理者になるキャリアを歩んできた人だからそう思うのであって、他の人も同じ考えであるとは限りません。 主人公が海賊王をめざす某人気漫画を例示してよく言われるように、今の世代は、導くリーダーよりも一緒に戦う仲間を欲しているという感覚を知っておいてもよいでしょう。管理者のメンタルヘルスがテーマなのに、管理者にとって厳しい話をしているようですが、「スタッフを信頼するけれど非現実的な期待をしない」ことが上手に管理者を務めるための心構えです。思い通りにならないことが多いと非常にストレスを感じます。精神医学で言う認知(物事の受け止め方)を変える、つまりこの場合は思い通りにならないと理解することがストレス軽減につながります。 板挟みの孤独と強すぎる正義感 日常診療をしていると、訪問看護ステーションの管理者が受診されることはしばしばあります。管理者が抱える悩みは大体2つのパターンに分けられます。 最も多いのは、裁量権の小さい管理者で経営者と他のスタッフとの間に挟まれているパターンです。結果、自身が業務を背負ってしまい、過重労働に陥ってしまいます。管理者は自分自身がトップ、もしくはトップに近い立場であるため、相談先がほとんどありません。まじめで考え込んでしまう人ほど、一人で悩みを抱えこみがちになります。 割合は減りますが、もう1つは自分の正義感に振り回されるパターンです。「スタッフがよく辞めていく」「スタッフから怖いと言われる」「正しいことを伝えているのに相手がなぜか泣き出す」、このような経験がある場合、注意が必要です。「あなたのためを思っている」「患者さんのためを思っている」といった言葉とともに強い怒り、もしくは強い悲しみが湧き出てくるタイプの人が多いです。 このパターンの方は周囲に疲弊して受診をされるのですが、実は周囲もこの人に疲弊しているという負の連鎖が起こっています。正論を突き通そうとするあまり、バランスのよい最適解に妥協することができず、周囲とぶつかることが多いです。そして、自分の正論を押し付けて揉めに揉めた結果、スタッフへのパワーハラスメントになることがあります。この場合、本人も周囲が理解してくれず自分がしんどくなっていき、被害者のような感覚になります。さらに収拾がつかず、スタッフもあきれ果てて次々に辞職していくパターンを取ります。 仲間を作ってストレス発散 このように厳しい立場にある管理者ですが、行き詰まらないためにも取り組んでおきたいことがあります。それは仲間を作ることです。トップになれば自分と同列で話せる人は職場にはほとんどいないかもしれません。その場合、職場以外のコミュニティで仲間を作り、相談してみるのはいかがでしょう。業務上の役割や立場を意識せずに、悩みを話したりもできますし、人の話を聞くことで自分と他の人の違いを知ることもできます。暴走しているようであれば気づきを得ることも可能です。よいストレス発散にもなります。 通院してくる方に聞くとストレスの発散が苦手な人もいます。問題解決に目を向けすぎて、問題が消えていない状況で小休止を取るのはよくないことだと考えてしまい、上手に発散ができないのです。旧知の知人と疎遠になっているなら、習い事を始めて新しい仲間を作ってもいいですし、学会のような懇親会に参加するのもよいでしょう。医療分野に限らず、経営者勉強会の集まりもありますし、今はSNSのようにインターネットを利用していろいろな人とつながることもできます。職場の行き来だけになっている人は、人と会うことを考えてみてはいかがでしょうか。 執筆 西井 重超はたらく人・学生のメンタルクリニック 院長 ●プロフィール日本精神神経学会専門医・指導医。元東京アカデミー看護師国家試験対策講座講師。奈良県立医科大学病院精神科を経て産業医科大学精神医学教室へ移り、在籍中に助教・教育医長を歴任。現在は大手企業の専属産業医・次長として勤務しながら、「はたらく人・学生のメンタルクリニック」の院長を務める。専門は医学教育、職場・学校のメンタルヘルス、成人期ADHD。著書に『精神疾患にかかわる人が最初に読む本』(照林社) がある。 記事編集:株式会社照林社 【引用文献】1)日本看護協.「2014 年 訪問看護実態調査 報告書」,https://www.nurse.or.jp/home/publication/pdf/report/2015/homonjittai.pdf 2022/10/25閲覧

その「偶然」は「偶然」ではない
コラム

その「偶然」は「偶然」ではない

スタッフマネジメントに役立つコミュニケーションの話題を、訪問看護管理者のみなさまへお届けしてきました。最終回は、看護師としてのあなたのキャリアを考えるときに思い出してほしい、「計画された偶然」に関するお話です。 計画された「偶然」 世の中で成功を収めたとされる人たちに「そのような成功に至るまでにどのように計画を立て、どのような努力を重ねたのですか」と質問してみると、意外や意外、8割が「いや、計画したというより偶然こうなったのです」と答えるといいます。「そんなバカな」と思うかもしれません。しかし、これはきちんと研究された理論なのです。 心理学者のジョン・D・クランボルツは、ある調査の結果、18歳のときに考えていた職業に就いている人は全体の2%にすぎない、というのです。慎重に立てた計画よりも、想定外や偶然の出来事が人生やキャリアに影響を与えているのではないか。クランボルツはこれを「計画された偶発性理論(Planned Happenstance Theory)」と名付けました。 キャリアというと、「しっかりと目標を立ててそれに向かって一つひとつ努力を重ねるもの」だと一般的に思われています。しかし、今の世の中はVUCA(不確実、不安定、複雑、曖昧)の時代といわれています。いくら緻密に計画を立てても、予測不能の変化や技術の進歩、気候変動、グローバルな出来事で思うとおりにいかず、個人の意思でコントロールできることはほとんどありません。 個人のキャリアも、最初に立てた計画に固執してはかえって変化に対応しそこなう。そうではなく、大きな方向性は決めておきながらも、人生の瞬間・瞬間で判断をして行動をすることで、チャンスを生かすことができる。それがこの理論の考えかたです。 偶然の出来事が人生を変える 私は仕事上、いろんな看護師さんのキャリアに出会います。 看護師になる人は、専門学校や大学に進学する時点で「看護師になろう」と決めていることが多いです。ところが看護師になってから、思ってもいなかった道に進む人がいます。 たとえば、看護師の臨床経験をもとに、新たなテクノロジーを医療現場に適した形に応用する会社をつくった人。訪問看護師をやりながら、訪問看護ステーションの経営コンサルタントをしている人。昔から漫画を描くのが得意で、看護師になってから医療のことをわかりやすくイラストで描いているうちにイラストレーターになった人。ファッションが大好きで看護師になってからもファッションモデルをやっていたら、いつの間にかファッションプロデューサーになっていた人……など。 もちろん、みなさん看護師ですから、看護学校や看護大学を卒業して国家試験を受けて合格しているところまでは共通したキャリアです。看護師になってからの偶然の出来事が、それぞれの人生を変えています。 技術会社の社長になった人は、大学生のときに医療ミスが原因で病状が悪化した患者さんと出会い、ナースになってから「あの人の命をテクノロジーで救えなかっただろうか」と思い、働きながら勉強を始めました。イラストレーターになった人は、仕事中の出来事を院内勉強会でイラスト資料にしたら大好評となり、出版社にそのイラストを持ち込んだのがきっかけで思いがけない道が広がりました。 偶然をキャリアのきっかけにできる人 こうしてみるとすごく行動力のある看護師さんのようですが、ご本人たちは「いたってふつうのナースです」と言います。しかし、このような人には共通点があります。 ・好奇心が強い。自分のやりたいことに正直。・あきらめない。失敗してもまたチャレンジする。・楽観的。きっとうまくいくと信じている。・こだわらない。「ぜったいにこうあるべき」と思わず、状況に応じて柔軟に対応する。・冒険的。新しい世界に飛び込むことをいとわない。 目の前の出来事にこうした態度で取り組んでいると、もともと自分が望んでいた方向に知らないうちに進んでいるというのです。なので「偶然」が「必然」となって自分のキャリアをつくっていくことになります。 「偶然」の受け止めかたは人それぞれです。ある人にとっては失敗体験になる同じ出来事が、ある人にとっては大きなヒントになり、何かのスタートのきっかけになるかもしれません。 偶然の出会いは必然かもしれない 人との出会いも同じです。偶然出会った人が、あなたの人生に大きな意味をもたらします。出会おうとしても出会えない。しかし、出会ってしまうと「このタイミングで出会ったことは奇跡としか思えない!」と思ってしまうこと、ありませんか。 人間関係はさまざまな出会いによって生まれ、コミュニケーションによって育まれます。「一期一会」という言葉があります。一生に一度だけの機会だと思って真摯に取り組むという意味です。上司、同僚、部下、患者さん、利用者さん……。いろんな出会いは、あなたに何かを教えてくれ、何かの転機になってくれる、一つひとつが大切なものなのです。 この2年間の世界では、以前は想像もできなかったコロナ禍で、予測不能な出来事がたくさん起こりました。しかし、この偶然もあなたにとっての「必然」かもしれません。この変化をどう生かしていくかはあなたしだいです。 12回にわたりコミュニケーションをテーマにいろいろな話を書かせていただきました。これもまたみなさまにとって何かの「必然」となりますことを願っています。ありがとうございました。 執筆松井貴彦・まついたかひこ ライフキャリアコンサルタントNPO法人いきいきライフ協会 理事、一般社団法人看護職キャリア開発協会 所属。1962年生まれ。同志社大学文学部心理学専攻卒(現心理学部)卒。出版社にて求人広告制作(コピーライター、ディレクター)、就職情報誌編集者、編集マネジャー。その後、医療・看護系出版社、関連会社の代表取締役など歴任。国家資格キャリアコンサルタント、GCDF-Japanキャリアカウンセラー(米国CCE, Inc.認定のキャリアカウンセラー資格)。自分史アドバイザー。YouTubeは「松井貴彦 まっチャンネル」で検索。記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】〇白石弓夏.『Letters~今を生きる「看護」の話を聞こう』大阪,メディカ出版,2020,192p.〇J.D.クランボルツ,A.S.レヴィン著.花田光世ほか訳.『その幸運は偶然ではないんです!』東京,ダイヤモンド社,2005,232p.

コミュニケーション力で教育や医療を変革し地域を創生する
インタビュー

コミュニケーション力で教育や医療を変革し地域を創生する

在宅医療のスペシャリスト・川越正平先生がホストを務め、生活全般を支える「真の地域包括ケア」についてさまざまな異業種から学ぶ対談シリーズ。第13回は、演劇というツールを使いコミュニケーション教育に取り組んでいる劇作家・演出家の平田オリザさんと、医療や教育に必要なものについて話し合った。(内容は2018年7月当時のものです。) ゲスト:平田オリザ劇作家・演出家こまばアゴラ劇場芸術総監督・城崎国際アートセンター芸術監督。国際基督教大学教養学部卒業。1995年「東京ノート」で第39回岸田國士戯曲賞受賞。大阪大学COデザインセンター特任教授、東京藝術大学特任教授、四国学院大学客員教授・学長特別補佐、京都文教大学客員教授、(公財)舞台芸術財団演劇人会議理事長、埼玉県富士見市民文化会館キラリ☆ふじみマネージャー、日本演劇学会理事などを歴任。 医師の診療は患者との対話である 川越●平田さんは、劇作家、演出家としてだけでなく、教育の現場や自治体の依頼で演劇を用いたコミュニケーションデザインを教えていると伺いました。コミュニケーションをデザインするとは、どのようなことなんでしょう。 平田●たとえば「患者が医者に質問しにくいのは、医者が高圧的なのではなく、病院に来るまでに交通機関を乗り継いでへとへとになっているからかもしれない。それなら交通行政を変える必要があり、医療行政だけでは解決しない」というのがコミュニケーションデザインの考えかたです。 川越●がん治療中の人が、電車やバスを乗り継いで1時間以上かけて病院に来ても、外来で医師と話すのはせいぜい15分。医師がその時間で何もかも説明するのは難しく、ましてや患者さんが的確な質問をするのはより難しいでしょうね。 平田●あるセンテンスのなかで、本当に伝えたいこと以外の言葉がどれくらい入っているかを、冗長率といいます。家族との世間話がいちばん冗長率が高いように思えますが、ふだんの会話では、実は冗長率はそんなに高くならないんです。 川越●言いたいことだけを言っているわけですね。 平田●そうです。いちばん冗長率が低いのは、長年連れ添った夫婦間の「飯、風呂、新聞」という会話です(笑)。逆に冗長率が高くなるのは「会話」ではなく「対話」なんです。異なる価値観のすり合わせや新しいことを伝える瞬間なので、どうしても時間がかかってしまう。 川越●医者と患者の関係がまさにそうですね。医師の診察が「対話」だという認識はなかったです。どうしても問診をして、説明するという感じになっています。 平田●いわゆる家庭医、ファミリークリニックで実績のある方たちは、そこがうまい。 都会でも地方でも子どもの地域社会がない 川越●これだけコミュニケーションが大事といわれるのは、現代社会は人と人とのつながりが希薄になってきているからでしょうか。 平田●コミュニケーション能力とは本来、子どもがままごとやごっこ遊びで自然に身につけるものなんですが、少子化や核家族化、地域社会の崩壊などで、そういうことを経験していない子が増えています。特に小学校から私立だと、まず地域社会がない。 地方でも少子化で、隣の友だちの家まで1時間とか、学校の統廃合が進んでスクールバス通学になると、寄り道ができない。子どもにとって通学路ってとても大事なコミュニケーションの場所なんですが、社会が合理的になっていくと、どんどんコミュニケーションの機会が失われます。 川越●確かに電車通学だと、放課後一緒に遊べないですね。 平田●それに習い事などで忙しくて、同じ階層の子としか付き合わなくなってしまう。都心部だと7~8割が中学受験をするので、地域社会が完全に崩壊しているわけです。 川越●都心に住んでいても、遠くの大病院にわざわざ1時間かけて行くのと似ていますね。 平田●私は都内の国立大学でも教えているんですが、学生の8割が男子、7割が関東出身、6割が中高一貫校の出身で、ディスカッション型の授業をやっても、みな同じ意見になってしまう。「貧乏って何?」という感じで、実感としてわからないんですね。 川越●在宅医療はご自宅に行くので、さまざまな家庭があることを自然に経験できて、医療は画一的にはできないことを学ぶんですが、病院しか知らないと、ベッドの上の患者さんは生物としての対象になってしまうのと同じですね。 勉強はできても異性とちゃんと話せない 平田●ある進学校で演劇教育を取り入れているんですが、男子校なので、うちの劇団に「女性との付き合いに慣れさせたいので、そういう劇をやってほしい」というオーダーがくるんです。 それで行ったら、うちの女優が初対面の高校生にいきなり「バストいくつですか」と聞かれたことがあって、保護者会などでこの話をすると、さすがにお母さんたちも焦る。だってそういう子たちが弁護士や医者になるんですから(笑)。勉強はできても、異性とちゃんと話せないんですね。 川越●男性の生涯未婚率が23パーセント(注:2018年時点で最新のデータであった2015年数値)という現実もあり、均質化やコミュニケーション能力が乏しいことが少子化の原因の一つかもしれません。男女交際の話は、もう国家施策としてやったほうがいいかもしれませんね(笑)。でないと国が滅びます。 文化による社会包摂の機能が見直される 川越●これから都市部では孤独死などが増えていくと思いますが、あれはインフォーマルな見守り機能が崩壊しているからだと思うんです。 平田●あとは行政もなかなか手が出せないようなごみ屋敷の問題。あれも完全に社会と隔絶してしまった結果でしょうね。 川越●毎日、何らかのかたちで自然に社会とつながっていれば、そういうことは抑止されるかもしれないですね。 平田●最近、文化による社会包摂機能というものが見直されています。何でもいいから、とにかく社会とつながっていてもらいたいと。 川越●コミュニティとしてのつながりが増えないかぎり、包摂機能は尻すぼみになって、ごみ屋敷や孤独死として顕在化するのでしょうね。 今まで、学校は知識を与える場所、医療機関は医療を施す場所のように思われていましたが、そんな単純な話ではなくなっていて、これからは社会のあらゆるところにコミュニケーション教育をビルトインしていくことが求められているんですね。 ─第14回に続く あおぞら診療所院長 川越正平【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版 「医療と介護Next」2018年7月発行より要約転載。本文中の数値は掲載当時のものです。

CASE3 ドクターをどう動かせばいいのか _その1:なぜ連携しにくいのか?
特集

CASE3 ドクターをどう動かせばいいのか_その1:なぜ連携しにくいのか?

管理者として課題に直面したとき、自分以外の管理者がどう判断するかを知りたくなることはありませんか? この連載は、参加者どうしで考えをシェアしあう研修手法である、ケースメソッド注1セミナーの形式に沿って、訪問看護管理者が直面する課題を考えていきます。第7回は、連携がしにくいと評判のドクターについて、なぜ連携がしづらいのかについて多角的に考えます。 はじめに 「ドクターをどう動かせばいいのか」という悩みは、看護管理者の方からよく聞くテーマです。みなさんもセミナーに参加したつもりで、「自分だったらどうするだろう」と考えながらこの連載を読んでいただければと思います。 ケースと設問 CASE3 ドクターをどう動かせばいいのか   「K医師と連携がしにくい。どうしたらよいか」とスタッフナースから相談を受けている。K医師は、地域で在宅療養支援診療所を複数経営している大きな医療法人に所属している。K医師はふだん大学病院で働いており、在宅医療は初めてだそうだ。  K医師が担当する利用者の多くは内科疾患を持つ人だが、なかには認知症を疑わせる症状がある人や、専門的なリハビリが必要と思われる人もいる。訪問看護としては、それらの症状に対して専門の医師にもみてもらいたいと考えているが、K医師は取り合おうとしない。利用者本人や家族は、「他の医師にみてもらったとわかったら主治医であるK医師が怒るのではないか」と考えているようで、自ら他院を受診はできないと言っている。管理者としてどうしたらよいだろうか?   設問 あなたこの管理者であれば、連携がしにくいという評判があるK医師に対して、どのような働きかけをすべきだと考えますか。ご自身の経験から考えたアイデアをみなさんにシェアしてください。 連携しにくいと評判の医師について 講師このケースで議論したいことは、「管理者として連携しにくいドクターをどのように動かすか」です。その前にまず、連携しにくいと評判のK医師の特徴や、そのK医師に関係する周囲の人々の状況について、皆さんはどのように考えますか? Aさん注2K医師はふだんは大学病院で働いていますし、在宅医療の経験があまりないので、訪問看護の状況をよくわかっていないと思います。こういうことってよくあるのではないでしょうか。 Bさんすごく対応のよい医師とそうでない医師の差が大きいですよね。もともとの性格などもあるかもしれませんが、医師の経験や価値観が、在宅医療へのかかわりに影響していそうだと個人的には思っています。ここは訪問看護としてはどうしようもないですが。 Cさん医師はどうしても治療に目が行きがちなのかもしれません。特に、病院勤務で、在宅の経験があまりないとその傾向が強い気がします。でも訪問看護の目的は、在宅生活の維持・向上です。私の経験上、ここが一致しないためになかなか話が進まないことがよくありました。 DさんK医師は、利用者の状況を、診察時点の「点」でしかみていないのではないかと思います。利用者やご家族のなかには、「医師に生活全体の状況や困っていることを率直に伝えられない」という人もいらっしゃいます。 「連携しにくいと評判の医師について」の小括 最初の議論は、「連携しにくいと評判のK医師の特徴やそのK医師に関係する周囲の人々の状況について」、それぞれの考えを出しあいました。 これらの発言は、①個人の特徴 ②多職種連携の際に生じる問題、の大きく二つに分類できます。 ①K医師の特徴・本業は病院の医師であり、かつ在宅医療の経験があまりない。・在宅医療への理解が不足しており、自己の価値観を優先している。②多職種連携の際に生じる問題・K医師は治療を、訪問看護は在宅生活の維持・向上を目指しており、目標が一致していない。・医師の立場では、看護師に比べて、利用者の細かな生活状況がわかりにくい。 発言をこのように分類してみると、管理者として働き掛けることができる部分は、②多職種連携の際に生じる問題であることが、参加者のみなさんには見えてきたようです。 次回は、「なぜ連携がうまくいかないのか」について、この二つの面から考えていきます。 ー第8回に続く 注1ケースメソッドとは、架空事例(ケース)について、参加者それぞれの考えをシェアしあうことで、学びを得ていく授業形式です。ケースの教材には、訪問看護管理者が問題に直面している状況が、物語風に構成されています。参加者は、ケースの教材を予習し、自分がこのケースの主人公ならどうするかを事前に考えた状態で、授業に参加します。ケースメソッドの授業では、講師のリードのもと、参加者どうしでアイデアをシェアしながら議論をすることによって学びます。これは講義形式のセミナーとはずいぶん違ったものです。参加者の発言が何よりもセミナーを豊かにする鍵となります。 注2発言者はA・B・C・Dとしていますが、常に同一の人物ではありません。別人であっても便宜上そのように表記しています。 執筆鶴ケ谷理子合同会社manabico代表慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。看護師、保健師、MBA。大学病院(精神科)、訪問看護、事業会社での人事を経験後、株式会社やさしい手看護部長として訪問看護事業の拡大に寄与。看護師250人超の面談を実施し、看護師採用・看護師研修などのしくみづくりをする。看護師が働きやすい職場環境作りの支援を目指し合同会社manabicoを立ち上げる。【合同会社manabico HP】https://manabico.com 記事編集:株式会社メディカ出版

【セミナーレポート】「だから」が分かると腑に落ちる精神看護
特集 限定

【セミナーレポート】「だから」が分かると腑に落ちる精神看護

2022年9月30日に実施したNsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー「『だから』が分かると腑に落ちる精神看護」。講師として登壇してくださったのは、精神看護専門看護師であり、現在は訪問看護事業を展開する株式会社N・フィールドで広報部長を務める中村創さんです。病院での勤務や「べてるの家」での生活経験をふまえ、訪問看護現場での精神疾患を抱える患者さんとの向き合い方、看護師にできることなどを教えてもらいました。 ※約60分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】中村 創さん 株式会社N・フィールド 事業管理本部 広報部 部長/精神看護専門看護師/公認心理師精神看護専門看護師として、急性期病棟や閉鎖病棟を含む複数の病院に勤務。精神疾患を抱えた方々の地域活動拠点である「べてるの家」の一室で暮らし、当事者研究のイベント運営にも携わる中で、地域の受け入れ体制を整備する必要があると実感する。訪問看護にその可能性を感じ、2019年より株式会社N・フィールドで活動。 目次 ▶ 精神看護では患者さんとの関係構築が重要 ▶ 感情をぶつけられたらその裏側を想像しながら対応を ▶ 統合失調症の看護では「安心」を一緒につくる ▶ 自殺を考える人との対話では、自殺の話題から逃げない ▶ 精神看護では患者さんとの関係構築が重要 精神疾患の治療において、優れた臨床成績を出している療法を学び、実践することはもちろん大事です。しかし、患者さんと治療者との間に関係が構築されていなければ、どんな療法も効果が発揮されないと私は考えています。 また、私が病院、訪問の別なく看護の現場で何よりも重要だと実感しているのは、「患者さんの語り」に耳を傾けること、「この人になら話してみよう」と思ってもらえる関係を構築することです。安全が担保されている関係が構築されなければ、患者さんが語り始めることはありません。 ▶ 感情をぶつけられたらその裏側を想像しながら対応を 臨床で患者さんから怒りをぶつけられた経験がある方は少なくないと思います。そんなときは、「怒りの裏側」に思いを巡らせると、同じ場面が違って見えます。 人は、他者との関わりにおいて自己が傷つくのを防ぐため、つまり自己防衛のために怒りを手段として使うことがあります。もしくは、相手を支配し、自分が主導権を握りたいときにも怒りを用います。 このように、怒りの奥には何らかの思いが潜んでいます。そして、怒っている瞬間は心に余裕がなく、根底にある「自分が傷つけられそうになっている」「相手を思いどおりにしたい」「正しいのは私」といった思いを修正することはできません。 臨床で患者さんの強い怒りに触れたとき、そういった怒りの感情を無理に鎮めようとするのではなく、鎮まるのを待つほうがいいでしょう。精神看護においては、こうした「見えない部分」を想像しながら対応を考えていくことが重要になります。 ▶ 統合失調症の看護では「安心」を一緒につくる 統合失調症は、英語で「Schizophrenia」といいます。「schizo」は分裂、「phrenia」は連想という意味です。頭の中で情報をまとめる、統合することが難しくなる状態です。急性期では、自他の境界が分からなくなり、強い恐怖を感じています。怖くてしかたがないから眠れなくなり、さらに神経が過敏になって、症状も強くなります。 そんなときに私たち看護師ができるのは、「あなたは安全だから大丈夫」と説得することではなく、患者さんが安心できる環境を一緒につくること、相手の内側で何が起こっているかを想像し寄り添うことです。「説得は無理に抑えつけようとする行為である」と心に留める必要があります。 また、看護師自身が「この状態はいずれおさまる」と信じることも重要です。念じるだけでも構いません。看護師の回復への信頼は、患者さんにも伝わります。その信頼が伝わることで少しずつ気持ちが落ち着き、話ができるようになっていくのです。 ▶ 自殺を考える人との対話では、自殺の話題から逃げない 自殺の行動化で搬送される人の中には、周囲からみれば些細に思える動機を淡々と話される方もいます。例えば、「水たまりを踏んで靴下が濡れたので死のうと思いました」といった具合です。耳を疑ってしまいますが、これは、その人が行動を起こす瞬間に至るまでに、多くの荷物を背負ってきたからです。靴下が濡れた瞬間、積荷の重さが限界を超えてしまったということです。 そんな精神状態にある方は、視野が狭くなり、自殺という選択肢しか見えなくなります。「自殺が唯一の解決策」と考えるようになり、周囲にいるかもしれない家族や仲間、支援者が見えなくなっているのです。 そうした方と対話する際、私たちは誠実な態度で話を聴かなければなりません。自殺の話題から逃げず、はっきりと尋ねましょう。例えば、私は「今死にたいという気持ちはどのくらいでしょうか?」「『死なない』と私に一言いってもらえませんか?」などと伝えます。真正面から受け止める人が「そこにいる」ことが、自殺を思いとどまるひとつのファクターになります。 また私たち看護師は、一人で抱え込まないことも大切です。チームのメンバーに状況を共有し、個人ではなく、チームで対処するという姿勢で臨みましょう。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

困難事例は精神科の知識で対応 中堅訪問看護師のためのメンタルヘルスケア
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困難事例は精神科の知識で対応 中堅訪問看護師のためのメンタルヘルスケア

この連載では産業医学が専門の精神科医・西井重超先生に、訪問看護にまつわるキャリア別メンタルヘルスケアについて解説いただきます。今回は、中堅訪問看護師が出会いがちな困難事例を取り上げ、精神医学で解消できる部分をアドバイスしていきます。 対応困難例に生かす精神医学的アプローチ 今回の対象である中堅訪問看護師は、受け持ちの患者さんに難しいケースが多いため対応に苦慮するあまり、ご自身のメンタルヘルスに影響することも多いようです。そこで訪問看護師の精神的負担を少しでも軽減できるように、対応困難例への精神医学的アプローチの方法を紹介しましょう。 中堅の訪問看護師が直面する関わりの難しいケースの中には、精神医学で言う「パーソナリティ障害」や「発達障害」の方がいらっしゃるように思われます。特にパーソナリティ障害の患者さんの場合、ご本人は「普通のこと」「常識的なこと」と思い込んでいることが多くあります。そんなとき、「できないことはできません」とお断りすると、「裏切られた」と感じられてしまうこともあります。こうした反応は、訪問看護師にとってはとてもストレスフルで疲弊してしまいます。 そこで今回は、接し方が難しい患者さんへの対応に役立つ、精神科の知識をご紹介します。特に看護の現場で困ることの多い、「パーソナリティ障害」と「発達障害」を取り上げ、それぞれの疾患の特徴と対応をお伝えしますので、ぜひ現場でお役立てください。 パーソナリティ障害の患者さんの特徴と対応 まずは、クレーム対応の話でも話題に上がるパーソナリティ障害に比重を置いてお話しします。なお、パーソナリティ障害にはいくつか種類がありますが、ここでは「境界性パーソナリティ障害」を取り上げます。境界性パーソナリティ障害は期待感に関しての問題を持っています。自分の常識を世間の常識だと思い込み、自分の思いを相手がくみ取ってくれると過剰に期待して、断られるといった期待外れに直面すると激怒するのが特徴です。 「付かず離れず」で過剰な期待をさせない 対応方法としては期待をさせないことが大事です。具体的には「すべての要望に応えることはできない」と相手に伝えます。少しストレートで言葉が悪いように聞こえてしまうかもしれませんが、言い換えたフレーズとしては「ここまではできて、これ以上はできない」となります。一定の距離を保つということです。これは「付かず離れず」の関係であり、大きく距離を取ったり見捨てたりすることではありません。 境界性パーソナリティ障害の人は一度行ったサービスの基準を下げると「嫌われた」「見捨てられた」と思う傾向があります。こちらが親切心から一度だけした行為を「次回もまたしてくれるのでは」と思ってしまい、過剰な期待を寄せてしまうのです。この心理は思い当たる人も多いと思いますが、境界性パーソナリティ障害の人では期待外れのときの落ち込み具合や怒り具合が病的に強いのです。 例えば、パートナーからのクリスマスプレゼントで考えてみます。2年前は「3万円のネックレス」で、去年は「3万円の指輪」でした。そして、今年は「5千円のマフラー」でしたとなるとショックを受け、嫌われたのだろうか? 他に好きな人ができたのだろうか? と大きな不安を感じてしまうと思います。大概はそこで我慢するのですが、境界性パーソナリティ障害の場合、我慢ができず、大声を出したり、暴力をふるったりと、過剰な反応や行動に出てしまうのです。 いつもと変わらないケアをいつもと同じように提供する 大事なことは常に一定のサービスを提供し、それ以上の過大な期待を抱かせないことです。サービスという言葉から「いつもよりも喜ばしいことを相手に提供する」というニュアンスを抱きがちかもしれません。しかし、トラブルにならないサービスとは「いつもと変わらないものをいつものように提供すること」なのです。 私の診療は、境界性パーソナリティ障害の人に対してかなり淡々としていると診察を見学した研修医から言われたことがあります。「いつもの先生がいつものように診察をしてくれて、特別なこともせず見捨てることもせず、裏切らない世界が診察室にあるという安心感」が狙いなので、それでいいわけです。境界性パーソナリティ障害の人は、最初は愛想のよい人が多いので、こちらも気分をよくしてしまい特別扱いしてあげたくなるのですが、そこはぐっとがまんして常に同じ内容の看護を提供し続けてください。 チームで対応方法を情報共有する 境界性パーソナリティ障害の人に関しては情報共有も大事です。なぜなら自分だけが特別なことをしないように心がけていても、他の人がはみ出たことをやってしまうと「あの人はやってくれたのにあなたはやってくれないのか」ということになるからです。 他にもトラブルを起こしやすいパーソナリティ障害に「自己愛性パーソナリティ障害」と「反社会性パーソナリティ障害」があります。パーソナリティ障害のタイプの中でもいずれもトラブルを起こしやすいB群パーソナリティ障害に属しています。興味のある人は調べてみてください。 発達障害の患者さんの特徴と対応 主な発達障害に注意欠如・多動症(ADHD ※1)と自閉スペクトラム症(ASD ※2)がありますが、ASDの患者さんへの対応を知っておくとよいでしょう。 パーソナリティ障害もコミュニケーションがうまくいかないといった特徴がありますが、比較的社交的な人もいらっしゃり、コミュニケーションが巧みでこちらを操作してくるケースもあります。それに対し、ASDの人は人間関係やコミュニケーションが苦手でうまく意思疎通が図れません。 伝えたいことは口頭ではなくメモを活用 ASDの人は細かいことにこだわってしまい、全体的に大切なことを見渡すことができません。こだわりのあまり不安が強く、いろいろ訴える面倒な人と思われがちです。話をまとめることも下手なのでダラダラと話してしまい、何がポイントの会話であるかはっきりしません。想像力を働かせるのも苦手で、口で伝えたことが頭に入りにくい傾向があります。そのためメモに残したり、見える形で一つひとつ確認したりすることが重要になります。 障害の特徴を知って対応におけるストレスを減らす パーソナリティ障害や発達障害の特徴を知っておくと、訪問看護師としてストレスを抱えずに対応できるケースもあるでしょう。「普通では考えにくい独特な考え方をすることがある」「そういう不思議なところがある」と認識しておくだけでもこちらのストレスが大きく減ります。患者さんと向き合いつつ、自分の心の負担を少しでも軽くするために精神科のエッセンスを活用していただければ幸いです。 そのほか、知的障害の人も、説明をうまく理解することが難しいなど対応に困ることがあります。ただし、会話内容に裏表がなく揚げ足取りをするようなこともほぼないため、シンプルに短い文章で説明することが大事になってきます。一気に複数の指導をすると混乱しがちなので、「まずこれだけする」と1つのことに絞り、徐々にできるようになれば次の課題を促していくとよいでしょう。発達障害と同様に、ポイントを口頭で伝えず、文章で伝えることも有効です。 ※1 ADHD:attention-deficit hyperactivity disorder ※2 ASD:autism spectrum disorder 執筆 西井 重超はたらく人・学生のメンタルクリニック 院長 ●プロフィール日本精神神経学会専門医・指導医。元東京アカデミー看護師国家試験対策講座講師。奈良県立医科大学病院精神科を経て産業医科大学精神医学教室へ移り、在籍中に助教・教育医長を歴任。現在は大手企業の専属産業医・次長として勤務しながら、「はたらく人・学生のメンタルクリニック」の院長を務める。専門は医学教育、職場・学校のメンタルヘルス、成人期ADHD。著書に『精神疾患にかかわる人が最初に読む本』(照林社) がある。  記事編集:株式会社照林社

融通と雑談も大切 新人訪問看護師のためのメンタルヘルスケア
特集

融通と雑談も大切 新人訪問看護師のためのメンタルヘルスケア

この連載では産業医学が専門の精神科医・西井重超先生に、訪問看護にまつわるキャリア別メンタルヘルスケアについて解説いただきます。今回は、新人訪問看護師に必要な心構えや注意したいメンタルヘルスの症状をお伝えします。 要望ばかりでは心に負担も 「融通」も忘れずに 訪問看護の新人看護師は、どのくらいの臨床経験があるのでしょう。看護師国家試験を合格してすぐに訪問看護ステーションに就職する人はほとんどおらず、早くても5年程度の臨床経験を経てから訪問看護師になる人が多いのではないでしょうか。10年程度してから訪問看護師になる人も結構多く、訪問看護は年齢を気にせずに新しい世界にワクワクして入職できる分野かもしれません。 新しい世界はどんなことが待ち受けているかわかりません。想像するような仕事かどうかは、入職時にはある程度知っておきたいものです。もしあなたが入職前にこの記事を読んでいるのであれば、どういう仕事があるかは調べたりたずねたりしておきましょう。予想外の仕事が来た場合にメンタルを崩すことが減ります。 ただ、ここで大事なキーワードは「融通」です。ある程度の柔軟さは仕事をする上で大事ですし、人間関係のこじれを少なくすることもできます。働きだしてからの自分のためにも、要望ばかりにならないよう、与えられた仕事に対して臨機応変に処理することも大切です。自分の中で折り合いを付けられるように融通を利かせる許容範囲も考えておきましょう。 もうすでに入職している人は、職場でのキャリアプランやスキルアップについてはどこかの時点で上司に聞きつつ、自分のビジョンも伝えておくとよいでしょう。ギャップが少なければストレスが溜まりにくくなります。 焦りは禁物! 落ち着いた心持ちで働く 一方で、特に若い方は「医療は作業」という側面もあると改めて認識しておくとよいかもしれません。少しずつ自分のスキルや提供できる看護技術は上がっていきますが、月日を経て患者さんが変わりはすれども基本は同じような日々の繰り返しです。その中で自分の気持ちをどう安定させたり維持させたりできるかも大事になってきます。 さて「どうやって気持ちを維持させるか?」ですが、最初に意気込んでしまう人ほど慣れてくると意気消沈してしまうことがあります。また、まじめで責任感が強い人も、一生懸命がんばりすぎて気力を維持できなくなることもあります。 どちらの場合も「まずは急いでパワーアップしようと思わず、勤務を続けること」が大事です。最初の1~2ヵ月は言われたことを落ち着いた気持ちで遂行することを目標にしてください。ポイントは落ち着いた気持ちで仕事ができることです。 職場に相談できる人をつくる 気持ちがいっぱいいっぱいになったり、落ち込んできたりしたときは自分だけで抱え込まず職場の人に相談しましょう。訪問看護は1人業務になりやすい業態ですが、職場の中で話しやすい人を1人でよいので見つけておくとよいでしょう。職場に相談できる人がいるかどうかが、職場での気持ちの安定につながります。 とはいえ、入職後すぐは話しやすい人なんて誰もいない状態からスタートします。なるべく自ら話しかけることにトライしてみてください。話すきっかけとしては興味を持たれなくてもよいので雑談をしてみましょう。自分とまったく同じ人はいませんので、話したことすべてに興味を持ってもらえることはまずありません。 話題を考える時に参考になる有名なフレーズがあります。それは「木戸に立ちかけし衣食住」というものです。「季節(気象)」「道楽、趣味」「ニュース」「旅」「知人」「家庭」「健康」「仕事」の頭文字に「衣・食・住」を加えたフレーズで、これらの話題のうちどれかを選んで話すと雑談がしやすいと言われています。逆に、避けたほうがよいとされる「話題の3S」というものもあります。これは、話題にするとトラブルになる可能性がある「スポーツ」「政治」「宗教」のローマ字の頭文字Sを取った覚え方です。 うつを見抜くサイン こんな症状に気をつけて! 最後は、しんどくなったときに備え、知っておいてほしい内容をお伝えします。うつ病や適応障害によるうつ状態のときに出る症状は、気分の落ち込みや意欲の低下だけではありません。他にも注意してほしい症状があるのでご紹介します。同じ症状が見られる場合は早めに受診をしましょう。 不眠 代表的な症状が不眠です。寝られなくなったら何らかの精神的な不調が隠れている可能性を考えてください。少なくとも無理をしてしまっている可能性は大いにあります。 食欲低下 食欲低下は食べられないということ以外にも、おいしく感じなかったり、無理に食べている感覚が出たりします。 消化器症状や身体症状 うつ病の診断基準にはありませんが、下痢、便秘、胃痛、腹痛といった消化器症状、頭痛や動悸や呼吸困難感といった身体症状も出てくる場合があります。他に、涙が出る、仕事に行くのに足がすくんでしまうこともあります。 自責感・罪責感 自分で気づきにくい症状としては自責感・罪責感があります。自分を責めてしまう、迷惑をかけていると思ってしまう症状です。「今、休むと他の人に迷惑が掛かってしまう」。このセリフがよぎったときは危険信号だと思ってください。案外耳にしそうなセリフですが、精神的に追い込まれている状況でもこのセリフを言い続けて自分を責めてしまいます。 * 精神科に通院しながら働いている人は近年非常に増えており、受診を気に病む必要はありません。受診したことで何か冷たい扱いを受けるようであれば、逆にそういう職場であることを早めに知ることができて幸運だと思うくらいでよいかもしれません。 執筆 西井 重超はたらく人・学生のメンタルクリニック 院長 ●プロフィール日本精神神経学会専門医・指導医。元東京アカデミー看護師国家試験対策講座講師。奈良県立医科大学病院精神科を経て産業医科大学精神医学教室へ移り、在籍中に助教・教育医長を歴任。現在は大手企業の専属産業医・次長として勤務しながら、「はたらく人・学生のメンタルクリニック」の院長を務める。専門は医学教育、職場・学校のメンタルヘルス、成人期ADHD。著書に『精神疾患にかかわる人が最初に読む本』(照林社) がある。 記事編集:株式会社照林社

あなたには師匠と呼べる人がいますか
コラム

あなたには師匠と呼べる人がいますか

この連載は、訪問看護ステーションで活躍するみなさまに役立つコミュニケーションのテーマを中心にお届けします。第10回は、師匠を見つけることのすすめです。 師匠と弟子の関係 前回、「ブレずに生きるには自己一致すること」と書きました。ちょっと抽象的でわかりにくいという人のために、今回はより具体的に書きます。仕事や生きかたでブレないためのポイント。それは「師匠を見つける」ということです。 「師匠」といえば、芸事を思い浮かべる人も多いと思います。たとえば落語の世界では師匠は絶対的な存在です。師匠につかなければ落語の世界で生きていくことはできません。 師匠につくことは「入門」といわれ、それがまず落語の世界で生きることの絶対条件です。入門すれば師匠の言うことが「絶対」で、すべてにおいて師匠の判断が必要です。極端にいえば「弟子は師匠の所有物」といっても過言ではありません。なので師匠はいつでも弟子を破門することもできます。師匠のいない人は落語会では生きていけませんから、「破門」=「落語会からの追放」を意味します。 落語界の弟子は芸を習うだけでなく、寄席に行けば下働きをしますし、朝は早くから師匠の家で掃除や洗濯、身の回りのお世話、家事全般をします。それも落語の修行の一部だとみなされるのです。 師匠は教えてくれる人ではない 「師匠」を英語に置き換えると、和英辞書によれば「マスター」「ティーチャー」「メンター」などが当てはまるようです。しかし一般的にティーチャーは「先生」と訳されます。ティーチャーは「教える人」ですが、師匠は必ずしも教えません。 師匠はその姿を見せることで、弟子に体験的で直感的な育成を行うのです。弟子は「教わる」よりも「見て学ぶ」のです。 「学ぶ」は、もともと「真似(まね)ぶ」から転じた言葉だともいわれます。そこには弟子の主体性が必要です。師匠は手とり足とり教えるというよりも、日常生活も含めて弟子にその生きかたを見せて、そこから学ばせるという関係性です。ここに、「師弟関係」といわれる独特のコミュニケーションがあります(ある意味、この師弟関係でいちばん学ぶものは、芸そのものよりも師匠とのコミュニケーションのとりかたではないかと私は思っています)。 今の時代、「そんなの古いよ」と思う人もいるかもしれません。実際、落語の世界でも師弟関係は昔とは少しずつ変わっているようでもあります。とはいっても基本はやはり主体的に真似ることです。師匠とは、命令や指示・強制で弟子を育てるのではなく、その姿・立ち居振る舞いで、弟子を感化していくもの。弟子は、教えてもらうのではなく自ら学ぶものです。 師と仰ぎたい人を見つける だから「ブレない自分」をつくろうと思うなら「教えてくれる人」ではなく「自ら求めていきたい」人を探してください。 仕事で身近にそういう人がいれば、めちゃくちゃラッキーです。その人のやりかたを徹底的に真似てみてください。何か困ったことがあれば「あの人ならどうするだろう。どんな判断をするだろう」とその人になったつもりで考えるのです。 師と仰ぐ人の行動や判断が、理解できないことがあるかもしれません。そのときも成長のチャンスです。成長は、必ずしも現在の延長線上にあるとはかぎりません。違和感があることもあるでしょう。成長には「違和感を受け入れる」ことによって開花する段階もあります。 まずは型を身に付ける 日本の茶道や武道の世界には「守破離(しゅはり)」という言葉があります。 まずは師匠から教わった型を徹底的に「守」る。それができたうえで他流派の型と照らし合わせる。自分に合ったよりよい型を模索し試すことで、既存の型を「破」ることができる。そうして、師匠に教わった型と自分で見いだした新しい型の双方に精通すれば、既存の型にとらわれず、自在に型から「離」れることができる。これが「守破離」です。 ちなみに型のできた人が型を破ることを「型破り」、型のない人が型を破ったら「形無し」というそうです。「型破り」になるためには、まずは基本である型を身に付けることから始まるのです。 仕事に置き換えると、「守」は半人前から一人前の段階。指導を仰ぎながら仕事をし始めて、自律的に仕事できる状態くらいまで。「破」は、一人前になってから現状の仕事を分析して、さらに改善や改良をできる段階。いわゆる「一人前に毛が生えたくらい」です。そして「離」は、新しい知識や技術を取り入れて、仕事を新たに創造できる状態を指します。 身の回りを見渡して師匠と呼べる人がいない場合は、歴史上の人物でも、小説上の人物でも構いません。自分が岐路に立ったとき「その人ならどうするだろう」と思える人を見つけ、その人から生きる哲学を学ぶのです。「なぜその人を師匠とするのか」、それを一度言語化してみてください。抽象的な言葉になってもよいのです。むしろ師匠の存在は一言では言い表せない抽象度の高いものかもしれません。 執筆松井貴彦・まついたかひこ ライフキャリアコンサルタントNPO法人いきいきライフ協会 理事、一般社団法人看護職キャリア開発協会 所属。1962年生まれ。同志社大学文学部心理学専攻卒(現心理学部)卒。出版社にて求人広告制作(コピーライター、ディレクター)、就職情報誌編集者、編集マネジャー。その後、医療・看護系出版社、関連会社の代表取締役など歴任。国家資格キャリアコンサルタント、GCDF-Japanキャリアカウンセラー(米国CCE, Inc.認定のキャリアカウンセラー資格)。自分史アドバイザー。YouTubeは「松井貴彦 まっチャンネル」で検索。記事編集:株式会社メディカ出版

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