コミュニケーションに関する記事

つたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!入賞【2025】
つたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!入賞【2025】
特集
2025年3月11日
2025年3月11日

つたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!入賞【2025】

NsPaceの特別イベント「第3回 みんなの訪問看護アワード」で募集した「つたえたい訪問看護の話」。厳正な審査を経て、受賞作品が決定しました。本記事では、入賞エピソード16件をご紹介します! 大賞・審査員特別賞・ホープ賞・協賛企業賞はこちらつたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!大賞・審査員特別賞・ホープ賞・協賛企業賞【2025】 「看護の灯」 投稿者: 饗庭 康太朗(あいば こうたろう) さん TSUKASA訪問看護ステーション(神奈川県) 玄関のチャイムは壊れている。引き戸を開けると目前に階段が現れ、埃が掃除しきれない階段を、スリッパの形についた足跡を辿り2階にあがる。そこらかしこに積み上げられた本がFさんの人生を物語る。ながらく編集者として活躍されたのち、様々な会社の社史を担当したFさん。決して人付き合いが上手い人ではなく、遠方に住む娘さんとの関係性も良好とは言い難かったが、ウィットにとんだ会話と、なんとも言えない浮世離れした雰囲気は地域の皆に好かれていた。肺がんが末期となり、Fさんの療養生活を少しでも快適にしようとN看護師は根気よく取り組んでいた。生活に寄り添うN看護師のナーシングは親子のわだかまりも少しずつ解いていった。Fさんが亡くなったあとの娘さんからの手紙にはこうかかれていた。「最後に父にあった日、アパートの門灯をつけておいてくださったのはNさんかと思います。あの暖かい灯を一生忘れません。」スイッチひとつの気遣いだ。そこには確かに看護の技がひかっていた。 2025年1月投稿 「訪問看護の『正解』とは」 投稿者: 有川 美紀(ありかわ みき) さん 八幡医師会訪問看護ステーション(福岡県) Nさんと奥様との出会いは今から1年前になります。その数か月前にALSと診断を受けられ、初めて会った時はすでに多くの介助が必要な状態でした。進行は早く、当初より「人工呼吸器は絶対につけない」と強い意志をお持ちでした。元々大きな会社の管理職をされていたこともあってか、弱音を吐くことなくいつも毅然としておられ、スタッフを笑わせてくれていました。しかし、リハビリに対しては前向きになれず、ベッド上での生活となっており、ALSという病気を受け入れることができていない様子がうかがえていました。そんな時訪問診療の先生より「ALS患者家族の交流会」のお知らせがありました。やはり「絶対に行かない」とのことでしたが、スタッフでどうしたら参加できるのか話し合いを重ねました。不安に対して一つ一つ解決策を考え、参加したいという奥様のお気持ちを伝え何とか説得することができました。当日会場で「妻に迷惑だけはかけたくない。これから恩返しをしようと思っていた時だったのに」と心の内を明かされ涙されました。先日Nさんは肺炎を起こし永眠されました。奥様から「あなた達に出会えて本当に良かった。主人はとっても幸せだったと思う」と言われました。訪問看護では、正解が分からず本当にこの関わりで良かったのかと考えることが多々あります。しかし奥様のこの言葉で「よし!また頑張ろう!」と元気と勇気をいただきました。 2025年1月投稿 「訪問看護の魅力を伝えてくださったお嫁さん」 投稿者: 五十嵐 いずみ(いがらし いずみ) さん リハビリこんぱす訪問看護ステーション(埼玉県) 先日、ある病院の地域懇談会に出席しました。終了後、ほかの事業所の訪問看護師に声をかけられました。見覚えがなく、「誰だったかしら」と思っていると、「おばあちゃんがお世話になっていました」と。なんと、私が訪問看護1年目(20年以上前)に担当していた方のお孫さんでした。「母が、『訪問看護はいい仕事よ。私は訪問看護さんに救われたの』と、私に訪問看護を勧めてくれたんです」と。その利用者は認知症があり、苦悩する介護者のお嫁さんに3年間伴走したのです。聞くと、お母様は昨年亡くなったとのこと。私が提供した訪問看護が、介護者の心に残って、娘に訪問看護の魅力を伝えてくれたことは、驚きでした。が、とてもうれしくて、温かい気持ちになりました。 2025年1月投稿 「とびきりの薬になった花見」 投稿者: 植村 優衣(うえむら ゆい) さん 訪問看護ステーションハートフリーやすらぎ(大阪府) 新卒から訪問看護師になり、夜間待機を始めた頃、明け方4時に電話がなった。Aさんから息苦しさの訴えで臨時訪問の依頼だった。その時の私はとにかく緊張と不安でいっぱいだった。というのも、Aさんは、契約はしていたが、初回訪問は緊急電話があった日の夕方だったため、何も情報がわからなかった。真っ暗の中、地図を頼りに家を探すところから始まった。なんとかたどり着くと、不安で申し訳なさそうなAさんの家族が迎えてくれた。肺炎を起こしていたため、連日の抗生剤治療が始まったが、軽快する様子がなかった。その時、家族から、Aさんは広島出身で原爆を経験し辛い経験が多かったから、「少しでも今を幸せな時間にしたい。桜を見せに行きたい」と相談があった。主治医からは、現状では外出は控えてと言われたが、何度も相談をし、外出許可をもらった。すぐに、ケアマネに、リクライニング車椅子を手配してもらい、「当日はカメラマンとして同行する」と協力してもらった。理学療法士に相談すると、「出発前に呼吸リハを行って呼吸状態を整えよう。移動は男手がいるから一緒に行くよ」と話してくれた。とんとん拍子で話がまとまり、無事に花見を迎えられた。その後、驚くことにAさんの肺炎は軽快し、花見がとびきりの薬になっていた。今でも家族と会うと、「桜を見に行けて良かった」と話してくれる。ドキドキから始まった出会いだったが、ホッと心温まる看護を行えた経験である。 2025年1月投稿 「五臓六腑に染み渡る」 投稿者: 大日向 麻子(おおひなた まこ) さん 訪問看護ステーションリカバリー 東村山事務所(東京都) 「食べられない。これがどんなに辛いことか、わかるか?」心臓を掴まれた気がした。初めて会った日に交わした最初の会話。咽頭癌末期、胃瘻造設し経口摂取禁止の指示で帰宅されたSさん。「悔しい」と歯を食い縛るSさんを、家族が宥める。私が関われるのはほんの少しの時間、ご家族はここから毎日どんな思いでこのやりとりをすることになるだろう。ある日の訪問、Sさんが「あんた、好きな物あるか」と呟いた。「うーん、悩みますね。でも、特別美味しいと思うのは愛がこもった料理ですよね」と伝えると「だよなぁ」とにやり。初めて笑った!と感動したと同時に、「愛のこもった料理」に対して笑顔を見せてくれたということは…。「もしかして、奥様の料理が一番の食べたいものですか?」しばらくの沈黙があり、「そうだな」と話すSさんに、ミキサー状にすれば奥様のお料理も注入できることをお伝えすると、すぐに実践。「おまえのご飯が、食べたかったんだ。これが本当の五臓六腑に染み渡るだな」プロポーズ以来の素直な言葉に奥様は笑い泣き。その後、奥様は手作りご飯をよく作るようになり、Sさんは来る人来る人に「これ愛妻ごはんなんだよ」と私たちにも笑顔をくれた。食べることは、生きること。その人にとっての「食べたいもの」は、もしかすると味や風味より、大事なものがあるのかもしれない。Sさんが教えてくれた、大切な学びです。 2025年1月投稿 「パティシエナースが未来を笑顔にする。」 投稿者: 佐藤 律子(さとう りつこ) さん 訪問看護・リハビリステーション 在宅看護センター北九州(福岡県) 「僕の誕生日にケーキ作りがしたい」とその子はそっと話してくれた。特別支援学校へ通うH君17歳の誕生日は来週だった。平日は学校併設の寮に入り週末だけ自宅に帰る生活を送る。多動性障害、知的障害があり社会との関わり方や人間関係、性教育等の支援を訪問看護で行っていた。父子家庭であり父親と祖母との生活の中、H君がケーキを作りたい理由は、今までの父親、祖母への「感謝」を形にしたいからだと教えてくれた。誕生日当日は、真っ白のスポンジケーキの土台に家族の大好きな苺とマスカットやチョコレート、生クリームのトッピングを準備しH君は一生懸命ケーキを作った。もともと工芸や絵の得意なH君は、とても綺麗にそして鮮やかに一つ一つを丁寧に仕上げて完成。完成したケーキを持ち「大好きなお父さん、おばあちゃん。いつもありがとう。」と感謝の言葉を伝えることが出来た。父親と祖母は大変驚き、感動し涙を流して喜ばれた。その後の3人で最高の笑顔でケーキを食べている姿は忘れる事が出来ない。私は、看護師になる前15年間パティシエとして働いた後に看護師へ転職。今回、看護師とパティシエをコラボさせて自立支援の一環とし支援する事で、利用者のみではなく利用者家族の幸せも感じることが出来た。また、私自身も今まで培った知識や技術が活かされただけではなく、これからはパティシエと看護師を組み合わせて多くの笑顔を引き出せるパティシエナースになると強く思う。 2025年1月投稿 「おとうさんの、宝物。」 投稿者: 篠原 真菜美(しのはら まなみ) さん 正峰会訪問看護ステーション(兵庫県) ALSを患った70代女性の利用者さん。ご主人と2人暮らしです。少しずつ病状が進み、身体を思うように動かすこと、話すことが難しくなり、吸引などの処置が増えていきました。ずっと側にいていつも支えてくれているご主人に、普段言えない感謝の気持ちを、Sさんの今できる力を使ってお手紙にしてみたらどうだろうか、と先輩看護師の言葉を受け、Sさんに提案してみました。上手く文字が書けるかどうか不安がありつつも、「書く」と言われたSさん。病状の進行に伴い、車椅子にしっかり座っていることや、マジックペンを持つことも大変ですが、ぎゅっと握りしめ、一生懸命に想いを文字に乗せ、画用紙いっぱいに書き綴られました。ご主人が定期的に歯科受診で外出される時間に書く機会を一緒に作り、密かに少しずつ書きすすめられました。そして遂に、ご主人・家族への想いがたくさん詰まったお手紙が完成しました。そこには沢山の感謝と、"おとうさん 大すきですよ"の言葉がありました。家族が集合し、お手紙を渡した次の日の朝、Sさんは、眠るように息を引き取られました。「大すきだなんて…初めて言われたわ!これは、わしの、たからもんや!!」と、ご主人は涙を流しながらも、笑顔でそう言われました。 2025年1月投稿 「司令塔が遺したもの」 投稿者: 立川 尚子(たちかわ なおこ) さん 共立女子大学 看護学部(東京都) Aさんが奥さんを看取った後の某日、グリーフケアへうかがった。山積みになったアルバムを広げ、結婚式からエピソードを語るAさんの笑顔からは、訪問看護が入った当初の憤慨や困惑を思い出せないくらいだった。「あいつが最期に俺に遺してくれたのはさ、生活する力だね」家族の指令塔だった奥さんの余命宣告は、昭和生まれの男の人生へ大きな混乱をもたらしたけれど看取りまでの在宅生活では、二人で喧嘩しながら料理や洗濯ができるようになった。整理整頓された居間の奥から、奥さんの声が聞こえてほしい。「良くやってるじゃん」って。 2024年12月投稿 「1ヶ月の奇跡」 投稿者: 西田 歩惟(にしだ あい) さん 香住ヶ丘リハビリ訪問看護ステーション(福岡県) 「家に帰りたいけど家族には迷惑かけられない」「連れて帰りたいけど病院にいる方が安心」病棟で働いていた時に、よく耳にした。その方とその家族の力になりたいと思い、私は訪問看護に進んだ。Iさんは終末期癌。独居、家族は遠方にお姉さんが一人。カニューレや点滴管理、清潔支援で1日3回の訪問。最期は家で過ごすと決めていたIさん。在宅生活が厳しくなり、医師が入院を勧めたが頑なに断り、看護師がお姉さんに来てもらうように声をかけた。Iさんは頷いたが「私達姉妹には確執がある」と表情を強張らせた。お姉さんも同じ言葉を口にされ、入院させるべきか、妹の意思を尊重するべきか、煮え切らない気持ちで過ごされていた。スタッフ皆が処置やケアの合間で時間を設け、寄り添いながら関わった。ある日私が訪問すると、お姉さんは涙ながらに「妹の意思を貫くって決めた」と言った。全力でサポートします!と伝えると、笑顔で頷かれた。その2日後、Iさんは穏やかな表情で永眠され、優しい眼差しで見送るお姉さんの姿があった。あれから3年。お姉さんより『皆様に勇気を戴いた』『在宅で過ごした時間は奇跡のよう』と、今も感謝の言葉が届く。Iさんが望んだ家で、お姉さんと共に生きたこと。訪問看護師の存在が、最期まで在宅で過ごす架け橋になったこと。私の初心を照らしてくれる大切な経験となった。 2025年1月投稿 「家族写真」 投稿者: 原田 三樹子(はらだ みきこ) さん 青山訪問看護ステーション(愛知県) 「看護師さんが来てくれると嬉しくて安心するよ」と毎回涙目で迎えてくれるAさん。ほとんど口から食べることもできなくなり、点滴が命綱の胃がん末期の70歳男性。とても笑顔が素敵だ。奥さんのことを○○ちゃんと呼ぶほど仲良し。ある訪問で「本当は家族写真を撮りに写真館に行きたいんだ。自分の目標にしたいんだ」と教えてくれた。「でも点滴があるからいけないよね」点滴スタンドにセットしバックに入れて持ち運べることを提案すると「わー行かれる。手伝ってくれる?」と。当日、奥さんはすでにきれいな着物を着ており、Aさんは素敵なスーツに着替える。点滴をスタンドにセットし目立たないような色の紙袋に入れ、送り出す。後日「記念に紙袋も撮ってもらったよ」と笑いながら言っていた。写真の中のAさんは家族に囲まれ、とびきりの笑顔だった。そこから芋ほり、孫の誕生日会、自分の誕生日と、どんどん目標を更新していった。ただ、最後の目標である自分の誕生日には二日届かず、亡くなってしまった。お参りに伺うと、あの時撮った写真が遺影になっていた。同じように笑顔で家族を見守っている。 2025年1月投稿 「桜の約束」 投稿者: 古川 莉沙(ふるかわ りさ) さん ヒーリングケア訪問看護ステーションみなと(大阪府) 90代男性Sさん。訪問介入当初は、声をかけても開眼する事なく無表情で寝たきり状態でした。半年前に桜を見に外に行ったのが最後だと息子さんがお話しされていて「来年も桜一緒に見に行きましょうね!」と言っても「行かん。もうやり残した事ない。死ぬだけ」と断固拒否でした。日々介入していく中で、少しずつではありましたが目を開けてくれるようになり、帰る時には「ありがとう」と言ってくれるようになりました。そのたった一言だけでも最初は嬉しくて感動していました。秋になり、紅葉が綺麗ですよとお話しすると、「紅葉を見に行きたい」と言ってくれて、大きすぎる進歩だと思いました。ケアマネージャーさんやヘルパーさんにも相談して、身体がしんどくない時に車椅子で紅葉を見に行けるよう調整していましたが…なかなか行けず。でもどうにかして秋を感じて欲しい…と考えに考えているうちに私はひらめきました。"紅葉を持っていけばいいんだ"と。綺麗に咲いていた紅葉を2枚持って行くと、涙を浮かべながら「ありがとう、姉ちゃん…」と言ってくれていつでも見えるところに飾ってくれました。そして、来年一緒に桜を見る約束が出来ました。看護師として体調管理はもちろんですが、それだけではなく、少しでも利用者さんの生きる活力になれるような、「まだ元気で過ごしたい」そう思ってもらえるような関わりをしていきたいです。 2025年1月投稿 「私たちの足跡は残さない」 投稿者: 松橋 久恵(まつはし ひさえ) さん 訪問看護ステーションそら(東京都) ある女性との出会いです。がんの症状が出現したため訪問看護が始まり、症状緩和、生活の工夫、家族支援を模索しながら訪問していました。女性は薬の管理が負担だったので、薬カレンダーを使おうと思いました。しかし部屋は子供の写真や絵が一杯で、薬カレンダーは相応しくありません。そこで薬をファイルにセットして本棚に入れました。女性は子供が学校にいる時間に訪問を希望しました。私は訪問の形跡を残さないよう努めました。女性はよく家族への思いを話し、「手紙を残したい」とも話していました。字を書くことが難しくなりそうなときに手紙について尋ねると「なんとなく書けない」とのことで、私が聞いてきた話を文章にする承諾をもらいました。それから数日後に家族に見守られながら息を引き取り、家族に文章を渡しました。病気が進行しても、いつもの暮らしを維持することを考え、希望を叶える手伝いをすることが大事だと教えてもらった出会いでした。 2025年1月投稿 「最後の約束」 投稿者: 松元 春華(まつもと はるか) さん 楽らくサポートセンター レスピケアナース(福岡県) 往診医の要請を受け、夜間の呼吸状態急変に対して緊急訪問した時のことです。終末期にある女性の利用者さんで、苦痛を緩和するため、鎮静剤の投与を検討されていた時期でした。到着した時は、既に朦朧とした意識の中で一生懸命呼吸する彼女を、大学を休んでお母さんに会いに来ていた息子さんとご主人が、心配そうに気遣っているところでした。往診医が到着し、ご家族と相談して鎮静剤の投与が決定したその時です。息子さんが「ちょっとだけ待ってください!」と、席を外されました。そして次に現れた時、息子さんはスクラブを着て、首から聴診器を下げた、“医者”の姿をしていたのです。県外の医大に通っていた息子さんは、彼女の前に立ち、「お母さん見て。僕が医者になった時の姿だよ!」と、鎮静を開始する前のお母さんに、彼女が見ることのできない、将来の自分の姿を見せてくれました。虚ろな目で息子を見る彼女の手を取り、息子さんは「立派な医者になって、お母さんみたいな人をたくさん救うからね」と、声を震わせながら何度も何度も約束したのです。とても尊いそんな時間を過ごした数日後、彼女は息を引き取りました。夢に向かう息子さんのこれからに、色んな想いを込めながらした、母との最後の約束が、力を与えてくれるよう願っています。 2025年1月投稿 「仲良し夫婦」 投稿者: 水島 真由美(みずしま まゆみ) さん 訪問看護ステーションひだまり(京都府) Aさん御夫婦。長年連れ添ってほぼ同じタイミングで、同じ胃癌。余命宣告。長年一緒に過ごした自宅に帰りたい。との気持ちを大切に大急ぎで在宅調整し退院してこられました。初めましての挨拶からすぐにケアが始まりました。御夫婦は日当たりのいい部屋にレンタルのベッドを並べほっと一息。二人で一緒に逝けたらな…と言うご主人の言葉でしたがその日のうちに奥様の容態が急変。帰らぬ人になりました。はじめはご主人も気持ちの整理がつかず点滴の合間に葬儀などが慌ただしく終わりました。すぐに奥様のところにと言う言葉もありましたが悲しみのまま残された時間を過ごしてほしくないと思いました。奥様との思い出、ご主人の好きなことなどたくさんお話をして少し先に逝った奥様へのお土産話をたくさん作りましょうと、声をかけ少しずつあれが食べたい、何をしたいと希望をおっしゃってくれるようになりました。奥様を見送ってひとつき。そろそろかな。今月が終わったら奥さんに会いに行くと笑顔で話され、もう少しお土産話作りましょうねと声をかけましたが、本当にその月の最終日に穏やかに息を引き取られました。その穏やかな顔をみて人生の最終段階、少しでも悲しみではなく穏やかな気持ちでその日を迎えられるよう身体も心も支えていける訪問看護師であろうと改めて誓った出会いでした。 2024年12月投稿 「思いに寄り添う訪問看護」 投稿者: 吉崎 由希子(よしざき ゆきこ) さん 医療法人社団成美会 訪問看護ステーションあさがお(茨城県) 定年を迎え、妻と旅行を楽しもうとしていた矢先、病院で末期の食道癌と診断されたAさん。転移があり医師から治療は困難と、セカンドオピニオンでも診断は変わらず。訪問診療と共に訪問看護も介入し、連日訪問。【また家族で出かけたい】との思いを叶える為、DRはIVHポート挿入、栄養状態が改善。輸液をバッグに入れ、家族とドライブ、ふきのとう狩り、山菜取り等に外出し思いが叶ったと。在宅では、愛する妻がそばにいて、子供たちに毎日会え、孫は保育園から帰るとジイジの頬にチュッとパワーを注入。愛犬も家族、常に一緒の生活が幸せと。ある日Aさんより「吉崎さん、お願いがあるんだ。絶対俺が痛んだり苦しんだりする事が無いようにしてくれな。吉崎さんの事は俺がちゃんと天国に連れてってやるからな」と死を受容しての言葉。疼痛にはPCAを使用。苦痛は最小限に在宅で大好きな家族と毎日Aさんらしく生活できるよう訪問しました。大好きな家族、妻、子供、孫、愛犬に見守られ、穏やかな最期でした。エンゼルケアは家族と泣き笑いながら、生前に決めていた素敵なスーツに着替えました。その後も残された家族に会いに行き、車ですれ違えば大きく手を振り合っています。私が亡くなったらAさんに会え、Aさんが私を天国に連れて行ってくれます。その時まで、私は訪問看護師をしながら、Aさんのように自分らしく精一杯生き抜こうと思います。 2025年1月投稿 「今日は〇点!」 投稿者: 渡邉 凪沙(わたなべ なぎさ) さん セコム大田訪問看護ステーション(東京都) これは私が新卒で訪問看護ステーションに就職し1ヶ月経った頃、初めて入浴介助を行ったFさんの話です。Fさんは80代の男性です。若いころからお風呂が大好きで、湯船に浸かった時には歌を歌い、「気持ちよかったぁ」と言いながら上がるのがお決まりでした。私が初めて入浴介助を行ったとき、部屋に戻るとFさんが突然「今日は80点!」と言いました。何についてかと聞くと介助に対しての点数でした。減点の理由は、頭をもっと強く洗ってほしい、ここが洗い足りない・流したりないなどでした。このとき私は、次は絶対に100点を取るぞ!と心に決め、教えていただいたところを特に気を付け介助しました。すぐに100点とはならず、今日はここが物足りなかったなど、毎回教えていただき、4回目の訪問でついに「今日は100点!」をもらうことが出来ました。私はこれを通して、自分の勉強や練習だけではなく、利用者さんにも成長させていただける訪問看護はとても魅力的だと感じました。未熟な私に、根気強く教えていただいたFさんに感謝しながら、これからも、一人前の訪問看護師になれるように頑張りたいと思います。 2025年1月投稿 * * * 皆さま、おめでとうございます!今後、「みんなの訪問看護アワード」表彰式の様子をご紹介する記事や、大賞・審査員特別賞・ホープ賞を受賞したエピソードの漫画記事も順次公開予定です。ぜひご覧ください。 編集: NsPace編集部 [no_toc]

【3月11日up】つたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!大賞・審査員特別賞・ホープ賞・協賛企業賞【2025】
【3月11日up】つたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!大賞・審査員特別賞・ホープ賞・協賛企業賞【2025】
特集
2025年3月11日
2025年3月11日

つたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!大賞・審査員特別賞・ホープ賞・協賛企業賞【2025】

NsPaceの特別イベント「第3回 みんなの訪問看護アワード」で募集した「つたえたい訪問看護の話」。厳正な審査を経て、受賞作品が決定しましたので発表いたします。本記事では、大賞1件、審査員特別賞3件、ホープ賞1件、協賛企業賞5件のエピソードをご紹介します! 「お母さん~看護の襷をつなぐということ~」 投稿者: 木戸 恵子(きど けいこ)さん 株式会社ウッディ 訪問看護ステーションはーと(東京都) 浦安にある、とある病室での20時半すぎ。重い空気が流れるカンファレンスが行われていた。患者さんは、31歳のえみさん。肺がんで12L/分の酸素投与をうけている。えみさんは、涙ながらに、家に帰りたいと医師に訴えていた。えみさんは、1~7歳までの4人お子さんをもつお母さん。憧れの東京ディズニーランドに行くため家族で宮崎から上京した。途中、機内で呼吸困難が出現。着陸後、病院に運ばれた。急展開の中、子供たちと別れた。「お母さん、お母さん」と子供たちの泣く声が聞こえた。必要な治療と厳しいICを受けた。宮崎に帰る体力は乏しく、予断の許さない命と説明されたが、えみさんの強い意思と覚悟に医療者も心揺れた。療養の場は在宅医療と訪問看護へと襷(たすき)が渡った。帰郷を目標に在宅で3日間体調を整える。緩和ケアだけではなく、身体と心に栄養を蓄える。看護師は精一杯、気力を高める手当てをした。一方、静岡・神戸・岡山・宮崎の訪問看護の仲間の協力を仰ぎ陸路帰郷に決定、準備に入った。サロンカーに酸素ボンベを25本備え、エアマットを敷いた。在宅医師と看護師が同乗し宮崎を目指して出発した。20時間後、えみさんの笑顔は子供たちの中にあった。「お母さん、お母さん」とはしゃぐ声が聞こえる。在宅医療と訪問看護は地元のステーションへ襷がつながった。長い1200kmであり、貴重な5日間となった。翌日、えみさんは家族に囲まれ旅立った。 2025年1月投稿 「ハッピーライフ通信を活用してから意味のある看看連携ができた」 投稿者: 大橋 奈美(おおはし なみ) さん 訪問看護ステーションハートフリーやすらぎ(大阪府) ハッピーライフ通信は、退院後、訪問看護の現場を経験していない病院看護師が具体的に想像できるといいなと思い訪問看護での事実を病院へフィードバックしてみようと考えたことから始まった。病院と在宅の看護師間で意味のある連携ができるよう、紹介元へ退院後2~3週間の療養者の様子を写真付きのお手紙『ハッピーライフ通信』にして送る。退院指導された内容の中で、退院後変更した点を肯定的にフィードバックする。ある病院看護師からは、「急性期のベッドサイドケアのみの看護だったが、外の世界を見ることで看護の意味が繋がった。病院ではベッドの回転率に振り回され、看護の喜びが薄れてきて、自分の看護への思いが枯渇してきていると感じることがあった。そんな現状の中で読んだハッピーライフ通信は心に沁みた。良い看取りだったと泣ける喜びを知った。日常の看護では、看護師は泣いていられないくらい忙しい。療養者の安らかな看取りを手紙で届けてくれることは、自分たちの看護が決して無駄ではなく、本当に繋がったということを実感した」とお返事をいただいた。看護師は日常業務に追われ、退院後を知る機会は多くはない。訪問看護師たちも病院看護師もやりとりを通じて、互いの立場や役割、看護への理解が深まり、まさに愛のある看看連携の役に立つ連携、やりがいに繋がっていくと実感する。 2025年1月投稿 「看護師にご褒美をくれたA氏」 投稿者: 田端 支普(たばた しほ) さん 訪問看護ステーションハートフリーやすらぎ(大阪府) A氏は腎臓がん末期、多発肺転移、酸素が必要な状態で1人暮らしの自宅に退院してきました。自宅に帰って第一声は「あ~やっぱり家がいいわ。死ぬまで家にいたい」でした。そして酸素を外し「タバコは死んでもやめへんで」と言って一服したのでした。その時のA氏の幸せそうな顔を今でも覚えています。そんなA氏から夜になると電話が鳴るのです。ターミナル期のA氏からの夜の電話にドキッとしながら電話に出ると「布団がおちた」「明日何時に来る?」という内容に、緊急電話違うやんとホッとしながら返事をして電話を切るのでした。ターミナル期のA氏からの夜の電話は心臓に悪いので、私はこちらから先に電話して「明日は10時に訪問するよ」「もう寝たらすぐ明日やで。お休み」とお休み電話をするようにしたのでした。そんなA氏とのお別れの時が近づいてきたころA氏に「病院と違って夜は1人になるけど退院してきてよかった?」と聞いてみました。するとA氏は、「こんな風に、皆が毎日、来てくれて淋しくなかった」「毎晩、看護師さんとおやすみって電話して、おやすみって答えてくれて、それが嬉しかった」「1人じゃないって思った」「不安で帰って来たけど、不安が安心に変わった」と話してくれました。このA氏の言葉に私は目頭が熱くなりました。A氏の「不安で帰って来たけど、不安が安心に変わった」という言葉に、看護師へご褒美をもらった気持ちになりました。 2025年1月投稿 「意思疎通、出来ます。」 投稿者: 服部 景子(はっとり けいこ) さん 愛全会 訪問看護ステーションとよひら・ちゅうおう(北海道) 80代女性、脳梗塞、失語、介護5。ケアマネより「意思疎通不可の方。大声を上げる為2箇所のデイサービスから利用終了と言われ困っている」と訪問依頼。トシ子さんは身体を固くし大きな声を上げ続けており、バイタルどころか全てのケアを拒否されます。表情を固くしたままの娘さんとも会話が続きません。4回目の訪問時、玄関の外までトシ子さんの声が響いていました。「デイサービスから迷惑と言われてしまいました。マンションからも苦情が来ないか気がかりです」と娘さんがうつむきます。「意味無く声を上げている訳では無いと思います。一生懸命何か伝えて下さっているのに、汲み取れない私が悪いんです。鈍い看護師でごめんなさい」。そう伝えると、娘さんの頬が緩んだように見えました。いつもは娘さんだけを目で追うトシ子さんが、突然私と視線を合わせ顔をしかめて声を上げます。「トシ子さん何処か辛いのですか?」と尋ねると、微かに頷いて返事をしてくれました。その様子を見て、娘さんも私もびっくり。腕?腰?足?には無反応、お腹?に"うん"と。便は2日置きに出ていると聞いていましたが、浣腸で大量排泄。その後、整腸剤内服と週1回の摘便で、大声を上げる事が無くなりました。今では、バイタルはもちろんリハビリも出来ます。ニコッと微笑んでくれますし、一緒にハミングしたり、テレビを見て笑ったり、デイサービスにも通っています。皆様!トシ子さんは意思疎通可です! 2025年1月投稿 ※訪問看護歴3年未満の方対象 「いつものアップルパイ」 投稿者: 梶本 聡美(かじもと さとみ) さん 訪問看護ステーションかすたねっと(大阪府) 脳腫瘍により片麻痺や失語症があるTさんはご主人の介護を受けて生活しており、台所に立つこともなくなっていた。訪問看護に対していつも受け身で淡々としているTさんはどこか諦めを感じているように見えた。作業療法士としてどう関わればいいか悩んでいた私に、管理者が「Tさんとアップルパイ作らない?」と声をかけてくれた。管理者が訪問した時にTさんが「私の作るアップルパイ美味しいのよ」と言っていたらしい。こうして始まった訪問看護でのアップルパイ作り。Tさんは言葉が出難いながらも作業の助言をしたり、煮詰めたりんごの火加減を確認するなど、表情豊かで精力的に動いていた。アップルパイ作りが気になるスタッフやケアマネも訪問し、賑やかになった空間の中心にはTさんの笑顔があった。焼きたてのアップルパイを食べ「いつもの味」と呟いたTさん。今後できないことが増えても、今できること、楽しめることを探して関わっていきたいと思った。 2025年1月投稿 看護のアイちゃん:本物の看護がしたい賞 協賛企業: セントワークス株式会社処置屋さんでも報告屋さんでもない、本物の看護がしたい!として誕生したソフト『看護のアイちゃん』です! 「パソコンの得意な看護師さん」 投稿者:小出 真理子(こいで まりこ) さん 訪問看護ステーション オリーヴ(長野県) 数年前に受けたALSの男性のお話です。一年前から急激に進行しており退院したいがこれが最後かもしれないと病棟でカンファレンスに呼ばれました。数名の医師や病棟看護師、ケアマネージャーなど見たこともない数の専門職が集まっていました。本人は気管切開を拒否しており病棟看護師が泣き出すくらい悲壮な雰囲気が漂っていました。訪問2日目、私たちも緊張しながら医療機器を操作したり本人の希望であるノートパソコンを起動。呼吸苦の中やっとのことでパソコンを開けると画面には初期化しますか?という見慣れない表示。困惑して諦めようとしていたので操作を代わりました。彼が指示した場所を開けてみると画像添付されており元職場の部下からでした。画像を開けると、今より自信に満ちて笑顔の健康的なご本人の証明写真でした。開けた時に、私はハッとして遺影にされるつもりなのだと感じました。彼は私に「これだけが心残りで、パソコン操作をしたかった」と満足げでした。それからすぐ病院に戻られ数ヶ月後に亡くなられました。奥様にお悔やみのハガキを送ると「パソコンの得意な看護師さんだったんだぞ」と妻に語っていたと記されていました。数回しか関わりの無かった方でしたが、心残りのない人生を支援したいという看護観があの時形成されたのを感じます。 2024年12月投稿 「無人島に街を!」メディヴァ賞 協賛企業: 株式会社メディヴァ患者視点の医療改革を理念に、医療・介護・予防分野において、革新と価値創造を目指すコンサルティング企業 「地域に開かれた場所として」 投稿者: 馬場 直子(ばば なおこ) さん 訪問看護サボテン砂町(東京都) 脳梗塞後遺症、糖尿病による褥瘡悪化の創処置にて訪問看護利用となった80代女性。夫と息子と3人暮らし。夫、心臓の持病を抱え介護のストレスを訴えていた。数カ月後、妻の容態が急変し入院。入院後コロナ禍で面会が出来ない状況となり、頻回にステーションに立ち寄り妻の心配を話し帰られる。それがしばらく来ない日が続き心配していた矢先、亡くなったとケアマネより連絡あり。お悔やみに訪問した際、もっと色々としてあげたらと後悔を口にする。その後、1人になった寂しさや自身の体調の不安定さから、以前の様に頻回にステーションへ顔を出すようになる。朝早くまた昼、夜と。ステーションに居るスタッフが血圧測定や健康相談、何気ない話で安心した顔で帰って行く。下町の商店街にあるステーションで、子供や高齢者、海外の方など知らない方でも気軽に立ち寄れる場所。これからも、地域の輪が広がってほしいと思います。 2025年1月投稿 東洋羽毛賞 協賛企業: 東洋羽毛工業株式会社私たちは現場で頑張る訪問看護師の皆様を快適な眠りでサポートします。 「マクワウリ」 投稿者: 木内 亜紀(きうち あき) さん 地域ケアステーションゆずり葉(埼玉県) 初めて訪問した日、彼は怒っていた。これまでの医療者との関わりに不満を募らせる彼にどうしたら傍に寄せてもらえるのか。彼の心が穏やかだった頃ー。そうだ、子供の頃美味しかったものはなんですか?季節は6月終わり。夏の暑い最中に食べた懐かしい味を思い浮かべてもらう。「マクワウリかな。井戸水で冷やして食べた。美味かったなぁ」。一瞬、子供に戻って教えてくれた。心の扉がほんの少しだけ開いたけど、マクワウリって?すぐにステーションの皆にヘルプ。最年長看護師が休日に青果市場で発見!早速お届けすると目をまん丸にさせて「どこにあったの?」とクシャクシャな笑顔。その日から少しずつ目が優しくなった。怒っている人は、大切にされたい人。ある日、彼から「病院にいた時にお世話になった人にお礼がしたい」と頼まれた。名前もしっかり覚えている。一か八か、その場で病院に連絡してみた。するとたまたま出勤日で、電話にも出てくださった。彼は電話口で大泣きしながら「ありがとう。あなただけが僕に親身になってくれた。本当に感謝してる」と伝えていた。電話を切った後、まだ泣いていた。私もちょっと泣いた。それから数日、彼はひとり暮らしのベッドの上で亡くなっていた。社会的には孤独死というのかもしれない。でもきっと彼はひとりじゃなかった。そう思う。天国で、先に逝った大切な人とマクワウリの話をしてくれていたら嬉しいな。 2025年1月投稿 Tomopiia賞 協賛企業: 株式会社 Tomopiia看護師の『聴く』を育てる、新しい看護のカタチ「SNS看護」が学べるTomopiia(トモピィア)です。 「経験年数を超えて」 投稿者: 越村 麻子(こしむら あさこ) さん なないろ訪問看護ステーション(千葉県) 血管性認知症の利用者さん。いつも無表情でいわゆる易怒性があり、看護師へ怒鳴ることは日常茶飯事、時にはケア中手を上げることも。彼を担当しているのは、ブランク25年を経て訪問看護師1年目となったNさん。ある日Nさんと同行することになりました。ケア中、髭剃りのため首にかけたタオルを外そうとする利用者さん。私は咄嗟に「外さないで大丈夫です、これから髭剃りをしますから。」と伝えたが、Nさんは利用者さんの行動を不思議そうに見ていた。すると利用者さんは緩慢な動作で、Nさんの手についた汚れをそのタオルで拭き「わりぃね」と一言。「何かと思った、ありがとうございます」と返すNさん。2人で朗らかに笑っていました。私は、認知症の利用者さんが「状況理解ができずタオルを外そうとした」と決めつけていた自分に気付きハッとしました。Nさんは「何かは分からないけど、何かをしたいんだろうと思って」と言っていました。良いケアの提供に、経験年数は関係ないな。誰のためのケアなのか、心地よいケアとは。ケア専門職として忘れてはいけないことを、Nさんから学んだ日でした。 2024年11月投稿 NTTプレシジョンメディシン賞 協賛企業: NTTプレシジョンメディシン株式会社業務をまるごとDX。訪問看護ステーション用電子カルテ「モバカルナース」 「後悔しない人生」 投稿者: 鈴木 沙恵子(すずき さえこ) さん ハレノヒ訪問看護ステーション(東京都) 利用者様から学ばせていただいたお話です。「人生はあっという間に終わってしまうんだよ。後悔しないために毎日努力を続けなさい。」90代男性Kさん。職業元デザイナー。人生の終末期にいただいた言葉でした。Kさんはそう言いながら笑顔で私の首にスカーフを巻いてくれました。どの色が合うかコーディネートするその表情はとても真剣で、Kさんであり続けるその姿勢に胸が熱くなりました。この3日後、Kさんは永眠されました。相手の気持ちを受けとめること。丁寧にお辞儀をすること。感謝すること。いただいた笑顔に、もっと大きな笑顔でお返しするとその場の空気が変わること。在宅の現場で仕事をしている私は人生の大先輩方にたくさんのことを学ばせていただいています。利用者様が医療者にお世話になっていると感じるのではなく、利用者様が辛いときや苦しい時にはたくさんの人が自分を支えてくれるんだと思える環境を提供することが、在宅医療だと感じています。これからも私のありがとうの気持ちは心からのありがとうだと伝わるように、ひとつひとつ丁寧にケアを行っていきたいと思います。私の人生の最期に、Kさんのように前向きで真っすぐで、誠実な言葉を誰かに残せるだろうか。その時伝えられる言葉が、看護師として努力してきた自分の証となる言葉だといいな、と心から思っています。 2024年12月投稿 皆さま、おめでとうございます! 入賞作品については、こちらの記事をご覧ください。つたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!入賞 編集: NsPace編集部 [no_toc]

ニャースペースのつぶやき 夏
ニャースペースのつぶやき 夏
特集
2025年3月4日
2025年3月4日

世代を越えた関わりがほほえましい ニャースペースのつぶやき【訪問看護あるある】

家にいるから家族と触れ合える 在宅療養をしているからこそ、お孫さんとの関わりが持てることも。ほほえましいにゃ 在宅で療養していると、世代を越えた家族との触れ合いがあったり、利用者さんがご家族のケアを担っていたりすることも。訪問看護師さんからは、「車椅子の利用者さんが、幼児のお孫さんの食事のお世話をしているケースもあります。関わりや役割を持てて利用者さんも嬉しそうです」「ベッド上の生活をしている利用者さんがいらっしゃいましたが、お孫さんがベッドに乗って一緒に遊んだり、添い寝したりしていることもあり、とても良い表情をしていました」といった声が聞かれました。 ニャースペース病棟経験5年、訪問看護猫3年目。好きな言葉は「猫にまたたび」「わかる!」「こんな『あるある』も聞いて!」など、みなさんの感想やつぶやき、いつでも投稿受付中にゃ!>>投稿フォーム

励みになったエピソード【つたえたい訪問看護の話】
励みになったエピソード【つたえたい訪問看護の話】
特集
2025年2月25日
2025年2月25日

励みになったエピソード【つたえたい訪問看護の話】

訪問看護師として働いていると大変な出来事もたくさんありますが、利用者さんが自身の訪問を楽しみにし、感謝してもらえると心の励みになることでしょう。「みんなの訪問看護アワード2023」に投稿されたエピソードの中から、支援を通じて利用者さんやご家族から元気をもらったエピソードを5つご紹介します。 「本人と家族の意思を尊重できたことで…」 利用者さんとのお別れで悲しい中でも、訪問看護を楽しみにしてくれていた利用者さんの想いやご家族からの感謝が励みになるエピソードです。 利用者様は、直腸がん末期の方でした。訪問看護導入時はADLも自立されて、ご家族と自宅周囲の散歩をおこなっておりました。訪問時は、毎回笑顔で「よく来たね」と看護師を暖かく迎えてくださいました。がん末期であり疼痛増強にて、ADLは徐々に低下していきました。また肺転移もみられており、呼吸困難感も出現いたしました。予後が週単位となり、症状が増強しているため本人に入院をすすめると「まだ家にいたい」とおっしゃっており、家族も「本人の意見を尊重してまだ家でみます」との意向により在宅療養が継続になりました。意識レベルの低下がみられ、主治医の医療機関へ救急搬送になり、同日お亡くなりになりました。グリーフケアで後日訪問した際にご家族より「本人の希望通り、ぎりぎりまで家にいられてよかったです。毎回お父さんは看護師さんが来るのを楽しみで看護師さんが来ると元気になるんですよ」とおっしゃっていただきました。 2023年2月投稿 「訪問が楽しみ…それだけで頑張れる」 利用者さんにとって、訪問看護の時間が希望に近づくための大切で待ち遠しい時間だと受け止めてもらえた励みになるエピソードです。 在宅HOTを導入されている利用者様でした。ご自宅の敷地内にぶどう棚や畑、ビニールハウスなどでいろんな野菜や果物を育てておられご本人様の希望も今までどおり、作物の手入れができるようになりたいというものでした。訪問内容としては、呼吸訓練を主に呼吸法の訓練も取り入れておりました。天候や体調が良い日にはご自宅敷地内の畑やぶどう棚を見に散歩をしておりました。敷地内の散歩の際には本人も気持ちが昂るのか足早となり、呼吸困難がでてしまうこともありました。ご本人の嬉しい気持ちも察しておりますが、時には少し厳しく指導させていただくこともありました。その後、呼吸状態が安定せず逝去となりました。この後、長女様よりご連絡をいただき、訪問のある日は早くに着替えをし、来るのを楽しみにされていたとうかがい嬉しく思いました。 2023年2月投稿 「こころに寄り添う家族の絆」 故人とのお別れやお見送りは、看護師として経験を重ねても辛く、心苦しい場面です。しかし、ご家族が心残りなく見送れるよう支援できたときには、嬉しさを感じることもあります。そんな訪問看護のリアルが伝わるエピソードです。 お看取りで関わらせていただいたIさんとご家族のお話です。Iさんは、自宅退院後1週間ほどでご自宅にて亡くなられました。奥様は、亡くなる直前の数時間「苦しい」「痛い」と話すIさんの体をさすったり、手を握ったりしていたそうです。最後までIさんの心に寄り添うご家族の姿に、強さと絆を感じました。エンゼルケアのご依頼があり、奥様やお嫁さんと一緒に体拭きをさせていただきました。その際、ご家族の皆さまから、Iさんはずっと「家で死にたい」とおっしゃっていたという話を聞きました。ご本人の想いに寄り添ったからこそ、できたことなのだと思います。後日談ですが、偶然会ったお嫁さんから「体拭きが一緒にできてよかった。実の両親の時はできなかったから。」とお礼の言葉をいただき、とても嬉しかったです。弊社の理念は「こころに寄り添い、地元で生きることを支援します」ご利用者さんはもちろん、家族の想いにも寄り添う訪問看護をしていきます。 2023年2月投稿 「その言葉で頑張れる」 垣間見える本心にこそ力をもらえる、そんなエピソードです。 90代 認知症の利用者様。排便コントロールで訪問させていただいていますが、ケア中はいつも全力で抵抗。ご家族も「なんでこんなに力があるの」と手を焼くほど。その日も抵抗されながら、気持ち悪いよね、もうすぐ終わりますよ、と声を掛けながらケア実施。たっぷりお通じが出た後の達成感をご家族と称えあっていると、ご家族ではない小さな声が「ありがとう」と。びっくりして思わずご家族と顔を見合わせてしまいましたが、ふとした言葉が日々の励みになります。今日も変わらず抵抗されながらの排便コントロール。私も全力で応えます。 2023年2月投稿 「笑顔いっぱい」 利用者さんの生き生きとした様子や素敵な場の雰囲気が伝わってくるエピソードです。 90代男性、心不全で在宅生活。元々社交的でボランティア活動などを積極的にしたりと、しっかりした方でした。心不全で入退院を繰り返すようになってから外出はデイサービス程度でした。ある日、趣味のマジックショーを開催できないかと家族より相談を受けました。体調のことを考えて自宅で家族と看護師を集めて会を開き、その後サプライズでお誕生日会を開きました。普段見ることのないイキイキした素敵な表情をされ、「ありがとう。みんなの笑顔とみんなが喜んでくれたことがとても嬉しい」と言ってもらいました。訪問看護師として利用者さんの生活を支えるだけでなく、本当の意味で利用者さんに支えられ支えあっていると感じました。さらにあたたかい幸せな気持ちになれ、感謝でいっぱいでした。 2023年1月投稿 利用者さんと励まし合う関係 利用者さんの人生や生活とともに歩む訪問看護では、ときに家族の一員かのようにあたたかい言葉をかけられ、「また頑張ろう」と思える活力をもらえることも。そうした人とのつながりがたくさんできるのも訪問看護の魅力のひとつかもしれませんね。 編集: 合同会社ヘルメース イラスト: 藤井 昌子 

「褥瘡の評価とケアの実践」 対面実技セミナーレポート(12/7開催)
「褥瘡の評価とケアの実践」 対面実技セミナーレポート(12/7開催)
特集
2025年2月4日
2025年2月4日

「褥瘡の評価とケアの実践」 対面実技セミナーレポート(12/7開催)

2024年12月7日(土)に、帝人株式会社の東京本社にてNsPace主催の対面セミナー「褥瘡の評価とケアの実践」を開催しました。ご登壇いただいたのは、皮膚・排泄ケア認定看護師で、教育支援やコンサルティングのトップランナーとして活躍する岡部美保さん。デモンストレーションを交えた実践的なケア方法のレクチャーはもちろん、現場における不安や疑問解決につながる知識やリアルなテクニックを幅広くご講義いただきました。約4時間にわたるセミナーの様子をダイジェストでお届けします。 【講師】岡部 美保さん皮膚・排泄ケア認定看護師 在宅創傷スキンケアステーション代表1995年より訪問看護ステーションに勤務し、管理者も経験した後、2021年に「在宅創傷スキンケアステーション」を開業。在宅における看護水準向上を目指し、おもに褥瘡やストーマ、排泄に関する教育支援やコンサルティングに取り組んでいる。 褥瘡の評価やケア方法のイロハを復習 まずは講義形式での学習。参加者の皆さんには、以下のセミナーレポートをあらかじめお読みいただいた上で受講いただきました。 過去に岡部さんにご登壇いただいたオンラインセミナーのレポート記事 写真で解説!訪問看護の褥瘡ケア 褥瘡の評価/セミナーレポート前編 写真で解説!訪問看護の褥瘡ケア 事例に学ぶ創部の見方/セミナーレポート後編 治りにくい褥瘡ケア~低栄養への対応と基本指針~【セミナーレポート前編】 治りにくい褥瘡ケア~代表例と具体的なケア~【セミナーレポート後編】 講義では、褥瘡の定義や原因はもちろん、褥瘡状態の評価スケール「DESIGN-R(※)2020」について解説。特に評価に迷いやすい「G:肉芽組織」や「N:壊死組織」といった項目を評価する際のポイントや、外用薬・創傷被覆材選びの指標などを教えていただきました。「不良肉芽と壊死組織の見分けに悩む」「良性肉芽か不良肉芽か判断しにくい」といった不安に対しても、組織の硬さや色合い、見た目など、評価の具体的なポイントを解説いただき、参加者の皆さんは熱心にメモを取っていました。 褥瘡ケアにおいて重要な外用薬については、薬効成分だけでなく「基材」を考慮することも重要。また、創傷被覆材は「被覆材の大きさ、厚さ、吸水量などの特徴を理解した上で、創傷の状態に応じて選ぶこと」が基本とのこと。過去に開催されたオンラインセミナーの復習だけに留まらず、プラスαの知識も得られる贅沢な内容となりました。 より実践的な知識も解説された座学の時間 チームに分かれて症例の評価やケアを検討 座学の後は4人1組に分かれ、症例検討会が実施されました。【症例検討会の流れ】 具体的な症例に対する評価とケア方法を検討 創傷模型にケアを実施 上記の内容と理由を発表 岡部先生による解説 参加者には、療養者の資料や創傷模型、ケア用品などが配布され、まずはDESIGN-R2020を使った褥瘡の評価からスタート。「深さ(Depth)はd2(真皮までの損傷)かD3(皮下組織までの損傷)のあたりでしょうか」「サイズ計算は私が担当しますね」「壊死組織(Necrotic tissue)とポケット(Pocket)はないので、NとPは0点で良さそうですね」などと意見を交わし、お互いに協力し合いながら進めていきました。 外用薬は講義資料を参考に選定。講師の岡部さんから「外用薬は評価スケールの大文字に着目して、改善するための優先順位を考えながら選んでみましょう」といったヒントがあると、「やはりヨウ素系の外用薬ですよね」などとケア方法を確かめ合っていました。 評価スケールをもとに真剣にケア方法を協議 創傷模型を使ったケアの実践では、創傷被覆材やテープの厚さや大きさ、貼る位置を確かめながら丁寧に進めていました。「外用薬はこのくらいの量をガーゼに塗ってから貼るのが良さそう」「仙骨部の褥瘡の場合、肛門側は八の字貼りが良いのではないか」など、議論が活発に行われていました。 外用薬の塗り方や創傷被覆材の貼り方も検討 褥瘡の状態評価とケアが終わると、いよいよ発表の時間です。DESIGN-R2020の点数をはじめ、外用薬の選定理由やケアのポイントが各チームから発表されました。どの参加者も真剣に聞き入り、発表が終わると拍手が起きていました。 その後、岡部さんが評価とケア方法を解説。チームによって個性が出ていましたが、岡部さんの評価と大きくずれることはなく、外用薬の分類も岡部さんの選んだものと一致。 各チームの発表も先生の解説も真剣そのもの 前半の講義が活かしつつ、具体的な症例をもとに評価・ケア方法を検討し、ディスカッションすることで、褥瘡に対する学びをさらに深めていきました。 気づきの多いデモンストレーション 最後は岡部さんによるデモンストレーション。褥瘡周囲皮膚の洗浄や拭き方、外用薬の塗り方や創傷被覆材の当て方など、一連のケア方法を見せていただきました。 「洗浄料は何プッシュくらいすると思いますか?」という質問からスタートした実演は、いきなり参加者を驚かせる展開に。岡部さんは10プッシュ以上の泡を手に取り、多くの参加者が「泡はこんなに山盛りでいいんだ!」「こんなに使っていなかった!」などの声があがりました。また、ポケットがある方の洗浄方法やカテーテルの使い方、拭き方のコツまで丁寧にレクチャー。 食い入るように先生の手元を見つめる参加者の皆さん 外用薬の塗り方や量、臀裂部のケア方法、ワセリンの塗り方、患部を観察する際の注意点なども伝えられました。 参加者からは「褥瘡は治癒傾向なのに対し、ポケットが縮小しない場合のケア方法は?」「高機能な創傷被覆材を使用したいが、購入していただくのが難しい場合はどうすれば良いか」「褥瘡を繰り返している方で、皮膚に盛り上がりや凹凸がある場合のケア方法は?」などの具体的な質問が寄せられ、訪問看護現場での褥瘡処置に対する真剣な姿勢が感じられました。 参加者からの質問にも丁寧に回答する岡部さん 現場の「リアル」を語り合った懇親会 セミナー終了後は、懇親会も開催。参加者の皆さんから「状態にあった外用薬を処方してもらうには、担当医に対してどのように報告・相談したらよいか」「創傷被覆材を代用する場合、どのようなものが使用できるか」など、質問も多く挙がっていました。 NsPaceの「N」マークを作って記念撮影も ◆参加者の感想「DESIGN-R2020の重要性を改めて認識しました。セミナーを通して各項目の評価のポイントを学ぶことができて良かったです。これまで良性肉芽か不良肉芽か迷うことがあったのですが、具体的な判断の目安も知れたので、現場ですぐに活かせそうです」「この秋に新たに事業所を立ち上げて、管理や教育が必要な立場になったのでセミナーに参加しました。評価やケア方法を再確認する良い機会になったので、今日のセミナーを参考に、事業所の看護の質向上に努めたいです」 そのほかにも、「受講前は評価方法や外用薬の選定基準が曖昧でしたが、受講してみて不安が解決しました」「知識を得たことで、今後は根拠をもとに自信を持ってケアを実践できそう」といった声も聞かれました。 ◆講師 岡部さん コメント「普段から訪問看護の現場で褥瘡ケアを実践されている方々にご参加いただいたので、評価もケア方法の検討も非常に的確で、皆さまの日頃の看護風景が目に浮かぶようでした。肉芽組織や壊死組織の見分け方、炎症の有無など、参加者の皆さんが評価に悩まれているシーンもありましたが、評価スケールを日常的に使用することで、自身の評価の精度が向上します。ぜひケア方法を検討する指標としても、苦手意識を持たずに評価スケール を活用していただければと思います。また、私は今後、褥瘡の患者さんは増えていくと想定しています。看護の質を保ち、さまざまな職種がチームとなって、褥瘡に悩む患者さんを少しでも減らしていけると良いですね」 * * * NsPaceでは、月に1回程度、オンラインセミナーも開催しています。ぜひ学びの場をご活用ください。 ※ DESIGN-Rは、一般社団法人日本褥瘡学会の登録商標です。 取材・執筆・編集:高橋 佳代子

心温まるエピソード【つたえたい訪問看護の話】
心温まるエピソード【つたえたい訪問看護の話】
特集
2025年1月21日
2025年1月21日

心温まるエピソード【つたえたい訪問看護の話】

訪問看護で利用者さんを支援していると、利用者さんやご家族の心情や感情を垣間見て心温まる瞬間があります。「みんなの訪問看護アワード2023」への投稿から、胸がほっこりするエピソードを5つご紹介したいと思います。 「みんなと“同じ“になるために。」 目標達成のため努力する利用者さんにエールを送りたくなるエピソードです。 10歳女の子の輝かしい第一歩のお話です。白血病に対する骨髄移植、重症GVHDに悩む女の子です。一般の小学校に通い、周囲のお友達と「同じように」を強く望んでいました。その一つが自転車に乗ることです。お友達と同じ場所や同じ速度感で遊べないことに、もどかしさを感じていました。練習を始めるも課題は多く、特に皮膚トラブルや免疫力の影響で一度でも転んでしまえば入院は免れません。転ばないよう注意しますが、手の巧緻動作や握力が十分でなく、ブレーキが上手くかかりませんでした。本人の強い想いと周囲のサポートにより、最後にはすべての課題を克服し自転車に乗ることができました。練習はとても大変で、「つらい…」と泣いてしまうこともありましたが、最後は笑顔で締めくくることができました。女の子はこの先も、周囲と「同じように」という大きな壁に次々とぶつかると思いますが、今回の成功体験を思い出し、前向きに生きて行くことを願います。 2023年1月投稿 「私を呼ぶ、あなたの声がきけた」 家族の強い愛情が通じ合う瞬間を感じ取れるエピソードです。 5月のうりずん(※)の時期、しとしと雨が降る中でMさんの訪問看護は始まった。Mさんは交通事故に遭われ、持病も重なり長く入院生活を過ごされた後で、ご家族の強い希望で自宅退院された。訪問が始まった時は、脈も早く、口呼吸をし、意識も朦朧としており、いのちの灯火は消えかけていた。Mさんとのコミュニケーションは難しく、声かけに頷いているか明らかでないことも多かった。ある日、それまでは少し遠巻きで見ていた父のことが大好きな長女さんに声かけをし、一緒にMさんの洗髪、足浴、清拭を行った。痩せ細り骨ばった父のからだに愛おしそうに触れ、涙しながら父に話しかけていた。そのとき、意識も朦朧としていた父がはっきりと娘の名前を呼んだ。その呼び声は娘への愛情に満ちていた。この時、この場面でしか出なかった声かもしれない。「こんなに安心して手厚い看護を受けられるなら、早く帰ってくればよかった。お父さん、ごめんね」。長女さんからは、涙がとめどなく流れていたが、どこか父に触れ、大切なことをしてあげられたことへの清々しい笑顔もあった。時期が遅かったかもしれない。しかし、その時間の中でできる最善を尽くす、それだけだ。 2023年1月投稿 ※編集部注:うりずん: 沖縄の古語で、春分から梅雨入りの頃までを指す 「やっぱりお風呂が1番」 乗り気ではなかった利用者さんの様子が変わっていく姿に、見守る私たちも思わず笑顔になってしまうエピソードです。 80代の男性の方でケアハウスに入所している方です。多発性筋痛症、認知症を患っている方でバイタル値は安定し室内は独歩、廊下や少し距離のある場所への移動はシルバーで移動していました。お風呂は週に一回は施設の大浴場で貸切で入っています。倦怠感や全身の関節痛は自制内で経過していますが面倒なことはあまり好きではない性格もあり入浴に対して少し億劫になることも時折見られています。私たち訪問看護師もそのお風呂介助に携わり、一緒に大浴場まで付き添い、背中や手の届かない部分の洗浄をお手伝いします。訪問時は入浴に対して乗り気じゃなく、今日はやめておこうと言われていましたが清潔への大切さや爽快感の話をすると渋々納得され一緒に大浴場へ移動していきます。そしていざ浴槽へ入るとそれまでに固かった表情がなくなり、すごい爽快感が溢れる表情へと変わりました。浴槽に入りながら歌も歌い、心地よい時間を過ごしており私も見守っていました。居室へ戻る時にはやっぱりお風呂が1番と言われ優しく癒された表情にホッコリしたエピソードでした。 2023年1月投稿 「夜空の花火」 利用者さんのご家族かのように思い出を共有する関係に心温まるエピソードです。 大きな家で1人暮らしのAさん。たくさんの薬を自己管理するのが難しくなったり1人でお風呂に入るのが危ない状況となり訪問看護が始まりました。Aさんは「娘ができたみたいで嬉しいよ。」と訪問看護の日をいつも楽しみにしてくれていましたが、「1人はさみしいよ。夕方になると本当にさみしい。」といつも言っていました。ある夏の日ステーションの携帯電話にAさんから電話があり、電話に出た看護師に「○○さん(担当の看護師)いる?」と。携帯に転送になっており、別の看護師が携帯当番なので「ここにはいないですよ。」と伝えると「なら○○さんに伝えて!空を見てごらん。花火がキレイだよ」と言い電話を切ったそうです。携帯当番の看護師が私に電話をくれ、電話の内容を伝えてくれました。Aさんの家から少し離れている私の家からは花火は見えなかったのですが、いつも1人でさみしい思いをしているAさん。「今日はキレイな夜空を見ているんだなぁ。」と花火は見えなくても心がほっこり温かくなりました。今は亡きAさん。夏の夜空に花火を見ると思い出します。 2023年2月投稿 「ちょうだいできた!」 日々の子どもの成長をご家族とともに喜べる微笑ましいエピソードですね。 顔を覗き込んで「こんにちは」と声をかけると、K君は小さなふたつの人差し指をペコリと曲げた。「こんにちは」のサインです。K君がコロナに感染するのが怖くて、外出は病院との往復のみ。補聴器と気管カニューレ、経管栄養の管理も家族だけで頑張っていました。2歳半を過ぎて「社会の中で普通に生きていってほしい」というご両親の思いから、私たちとの関わりが始まりました。K君は難聴で自閉傾向、偏食があり、食事テーブルにつけず、自分から何かしてほしいと伝えることもできませんでした。食事や人との関りを持てるように、K君のペースに合わせ、一緒にお気に入りの電車で遊ぶ、サインや絵カードで対話するなどし、日々、K君の心と体の状態をご家族と共有していきました。訪問看護を開始して数ヵ月、「ちょうだいできた!」とお母さんから連絡がきました。お母さんに空のマグを持ってきたそうです。来週には、春から幼稚園に通うための担当者会議をします。 2023年2月投稿 訪問看護師もまるで家族の一員 訪問看護の利用者さんはお子さんからご高齢の方まで幅広い年代の方がいらっしゃいますが、時には親のように、時には子どものように利用者さんと絆が生まれることもあります。日々の支援の中で、微笑ましい出来事や楽しい時間を共有することができるのも、訪問看護師としてのやりがいのひとつなのかもしれません。こうした心温まるエピソードを見ていると、「明日からも頑張ろう!」と力を分けてもらえる気がしますね。 編集: 合同会社ヘルメース イラスト: 藤井 昌子 

想いに寄り添うエピソード【つたえたい訪問看護の話】
想いに寄り添うエピソード【つたえたい訪問看護の話】
特集
2024年12月24日
2024年12月24日

想いに寄り添うエピソード【つたえたい訪問看護の話】

訪問看護をしていると、利用者さんやご家族のたくさんの想いと向き合います。「みんなの訪問看護アワード2023」に投稿されたエピソードから、利用者さんやそのご家族の想いに胸が迫るエピソードを5つご紹介します。 「最期まで、妻・母・娘として生きたN子さん。」 末期のがんに罹りながら家族とともに懸命に生き、最期の場面でも家族を想う姿に胸が打たれるエピソードです。 63歳のN子さんは肺がん末期で骨転移等もあった。12月初めの退院前カンファレンスでは、クリスマスは迎えられてもお正月は厳しい、と告げられていた。自宅に戻る際も頸部・体幹のコルセットは外せず、不本意ではあるが夜間はおむつ内で排泄するよう指導されていた。しかし、63歳という年齢、夫にも気兼ねがありコッソリと夜間もポータブルトイレに座っておられた。クリスマスが過ぎお正月が過ぎ、期待と不安を抱え桜の季節を迎えた。担当ケアマネから、近所の川沿いにある桜並木の下でお花見をさせてあげたい!と声が上がり、ご主人・ヘルパー・看護師・ケアマネとともに小春日和の中、ゆっくりと桜の下を車いすで散歩することができた。その後、「最後になるかも知れないけれど、家族のために料理がしたい。お風呂に入りたい」とご本人から希望があり、短期間であったが調理や入浴をすることができた。秋が過ぎ骨盤に転移した腫瘍が急激に大きくなり、みるみる体調は悪化傾向になっていったが、お酒の好きな夫の健康を気遣い、高齢のご両親より先に逝くことを詫び、夏に生まれた孫の成長を楽しみに、初冬、最期まで弱音を吐かず笑顔の素敵な母の姿を残して旅立たれた。 2023年1月投稿 「涙あり、笑いあり、そんなお看取り。」 故人との別れに悲しみもある中、家族総出でのお見送りの準備に愛情が感じられるエピソードです。 最期が近いAさん。お正月というのもあって娘様家族が来ている。同じ空間にベッドで寝ているAさん。とても穏やかな時間が流れていた。Aさんは声掛けに「はい」と吐息で答えてくれる。何か言いたげだが言葉にならない。(今日中かな…)そう思いながら明日も訪問することを伝え退室。その日の夜、ご家族から「息が止まりました」と連絡が入った。私は車で向かう。到着すると家族に見守られながら眠っているAさん。娘様は涙を流している。湯灌の予定だったが、それが高いことを知り、急遽フルエンゼルケアをさせていただくことに。お孫さんも含め全員で行った。みんなで役割分担しながらあーでもない、こーでもないと言いながら娘様を中心に。そこには涙は無くて笑顔が溢れていた。うるさすぎて奥様に怒られるほどだった。最後に奥様に口紅を塗ってもらったが、グロスだったのかな?「女装したみたいになったね」と笑い合う。ご家族に囲まれて幸せだなぁ。 2023年2月投稿 「患者の最期の願いを叶えた自宅での看取り」 最期に願いを叶えられた利用者さんの心からの感謝が胸に響くエピソードです。 私は訪問看護ステーションに配属された新人訪問看護師。肺癌の診断で自宅療養中のA氏から訪問看護利用の依頼があった。呼吸苦はあるが園芸の話をする、好きなサイダーを飲む等病状は安定していた。1ヵ月後、病状は増悪し「30年かけ作った庭をもう一度見たい。ほかに思い残すことはない。」と言葉が聞かれるようになった。自宅前に本人が作った庭があった。願いを叶えるためケアマネ、家族と協力しスロープと車椅子を準備した。当日本人から「体調が悪い、庭へ行くのは諦める。」と電話があった。短時間で行えるようがんばるので庭を見ましょうと励まし私、ケアマネ、家族で本人を庭へ移動した。涙を浮かべ「庭を見られて良かった。ありがとう。」と言葉が聞かれた。翌日、肺から出血し麻薬投与が開始され家族に見守られながら永眠された。後日訪問時、香典返しの挨拶状に庭を見た日のことが記載されており庭を見た後「幸せな人生だった。」と話していたことが分かった。 2023年2月投稿 「思い出の一場面」 ひとりでも自宅にいたいと思う利用者さんの気持ちが伝わってくるエピソードです。 24時間緊急対応の当番は電話が鳴るとビクビクする。何年やっていても緊張する。そんな中、Aさんからの緊急電話はなんだかホッとしてしまう。よく緊急電話をかけてくるAさん。尿カテトラブルが多く、呼ばれるのは大抵尿漏れ。夕飯時に呼ばれることが多く、またかぁ、という気持ちになるけれど、「こんな時間に悪いねぇ。」と申し訳なさそうに言うAさんの顔を見ると、そんな嫌な気分は吹き飛んでしまう。ある時、いつも通り夜に呼ばれて処置をしていると犬の遠吠えが聞こえてきた。そこから、かつてラブラドールを飼っていたと話し出すAさん。奥さんも子どももいて、よくラブラドールを家の庭で走らせていたという。「家の周りぐるぐる回るんだけど、曲がり損ねて転んじゃって。妻と大笑いしたよ。13年間、楽しませてもらったよ。」と嬉しそうに話すAさん。楽しい話なのになんだか切なくなり泣きそうになってきた。広い家に一人暮らしのAさん。話を聞いていて、楽しかったころの情景がパッと頭の中に浮かんできた。思い出たくさんの家で、少しでも長く過ごせるようお手伝いしていきたいと切に思った出来事だった。 2023年2月投稿 「優しく切ないけれど、温かい話」 相手を想うからこその奥様の配慮と、その優しさに気付きながらも配慮したご主人。どんな時でもお互いを想い合う夫婦に胸が温かくなるエピソードです。 ALSの60代男性。点滴加療の入院中に、可愛がっていた小鳥が突然死んでしまいました。奥さんと子どもは「とても可愛がっていたので、悲しんで気落ちすると病状も進行してしまう」と心配しました。そこで退院までに同じ種類の小鳥を手配して取り繕うことにしました。皆ハラハラしましたが、ご主人は亡くなるまで特に変わりなく小鳥に接していたので安心していました。初盆参りの時に奥さんは「小鳥が変わっていたことに本当は気が付いていたと思います」「主人にもっと優しく接することができたら良かったのに」と涙を流されていました。それから1年と経たないうちに、奥さんから私を看取って欲しいと驚きの連絡がありました。末期の肺がんでした。3ヵ月後、気丈で美しい最期を子どもさんとともに看取らせていただきました。命の儚さについて、改めて考えさせられた小鳥とご主人、そして奥さん。きっとどこかで再会しているはずだとスタッフ一同、信じています。 2023年2月投稿 利用者さんとそのご家族の想いを支える 今回は、投稿者の皆さんが利用者さんを大切にする姿勢が垣間見えるお話ばかりでした。訪問看護では、利用者さんやそのご家族の立場、背景、想いなどをくみ取って理解し、それぞれにあった支援をしていくことが求められます。正解がわからず模索するケースも多い中で、勇気づけられるエピソードですね。 編集: 合同会社ヘルメース イラスト: 藤井 昌子 

訪問看護の認知症ケア 学べる情報まとめ
訪問看護の認知症ケア 学べる情報まとめ
特集
2024年12月24日
2024年12月24日

訪問看護の認知症ケア 学べる情報まとめ コミュニケーション、栄養、口腔ケアetc.

訪問看護では、認知症の利用者さん・ご家族との関わりも多いですよね。NsPaceでは、これまで認知症に関連する多くの記事やセミナーをお届けしてきました。今回は、知りたい情報にアプローチしやすいように、記事をピックアップしてご紹介。気になる記事からチェックしていただき、日々の看護に役立てていただけたら嬉しいです。 「認知症」疾患の知識を深める! 認知症という病気がもたらす事象の原因や理由を理解することで、対応が変わり、できることが増えます。利用者さん・ご家族への貢献度が上がることはもちろんのこと、日々の看護の喜びも増えるはず。ケアする側のこころの状態が相手に大きく影響するので、好循環が生まれます。 【在宅医が解説】「認知症」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】 認知症の鑑別、認知症以外の可能性や治る認知症を見逃さない、悪化させないなどの視点で、わかりやすく解説いただいています。 また、鑑別に役立つ「せん妄アセスメントシート」を以下記事にてご紹介しています。ぜひご活用ください。>>せん妄への対応【精神症状の緩和ケア】 「高齢者のうつ病の特長」などについて解説されている以下の記事もおすすめです。>>【在宅医が解説】「うつ病」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】 【セミナーレポート】看護師が意識したい7つのポイント -在宅で行う認知症看護-   講師の福岡裕行さん(認知症看護認定看護師)の優しい言葉と関わりが心に染みる記事です。ポイントがわかりやすく紹介されていて、「すぐにやってみよう!」と楽しみになる内容です。後編では、「認知症患者を支えることは、その家族の心を癒すこと」という言葉が印象的。Q&Aセッションも学びが深まる内容です。あわせてお読みください。>>セミナーレポート後編【セミナーレポート】ご家族とのかかわり方 -在宅で行う認知症看護- 高齢者の栄養ケアマネジメント~窒息・認知症対応~【セミナーレポート後編】 高齢者の栄養管理を専門とする医師の吉田 貞夫先生にご登壇いただいたセミナーのレポート記事です。認知症の方に対しての具体的な食事支援や認知症予防につながる食事について学ぶことができます。 事例を通じてケアを磨く! 認知症のある方やそのご家族へのケアは多種多様。事例を通じて、引き出しを増やしていきましょう。 認知症のある患者さんに接するときの7か条(前編)   シリーズ「認知症患者とのコミュニケーション(全12回)」の第1弾の記事です。シリーズ第1回~2回では認知症患者さんと接するときのポイントを、第3回~12回では、「言葉による返事がない」「物盗られ妄想がある」など、ケースごとにケアのポイントを解説いただいています。実践に生かせる内容なので、興味のあるテーマから学んでみてください! >>認知症のある患者さんとのコミュニケーションシリーズhttps://www.ns-pace.com/series/dementia-patient-communication/ 自己流の介護を続ける家族への関わり【家族看護 事例】 認知症のある利用者さんのご家族は、複雑な心情や多くのストレスにさらされているからこそ、訪問看護師との関係性が難しくなってしまうこともありますよね。本記事では、「渡辺式家族アセスメント/支援モデル」を用いた事例解説を通じて、訪問看護ならではの家族看護について学ぶことができます。 認知症と義歯の関係 認知症があると口腔ケアに難色を示されることや意思の疎通が難しい状況で効果的なケアが行えないこともありますよね。咀嚼機能が回復した事例を通して、工夫のしかたを学べる記事です。 高齢者の頭の体操10選 脳トレに期待できる効果や方法について解説 脳トレや「脳トレ+運動」で、認知機能の向上、身体機能の向上が期待できます。具体的な方法と効果についてご紹介しています。利用者さんが楽しめるケアのヒントになれば幸いです。 「上手く伝えられない」に対応する! 認知症では、辛さや症状を上手く表現できないからこそ、看護師が異常を察知し、適切に評価できることが求められます。場合によっては表現通りの意味とは限らない訴えや拒否をいかに捉えられるかが重要です。利用者さんの価値観をおもんぱかるために、見識を拡げていきましょう! 悪性消化管閉塞への対応【がん身体症状の緩和ケア】 認知症の終末期は、症状マネジメントに苦慮しますよね。事例をとおして、悪性消化管閉塞について学びつつ、認知症の在宅看取りについてイメージを持てる記事です。 大学教授が解説!大量嘔吐でイレウスが疑われる場合のアセスメント 「イレウスの既往のあり、認知症が進み、自分からは訴えられない方が大量に嘔吐…。あなたはどう考えますか?」という事例とおして、フィジカルアセスメントについて学べる記事です。なお、このフィジカルアセスメントシリーズは全12回です。ほかにも『認知症のある患者さんが「転んだけど大丈夫」と話している場合』など、認知症の方の事例解説がありますので、あわせてご覧ください。 >>訪問看護のフィジカルアセスメントシリーズhttps://www.ns-pace.com/series/physical-assessment/ もしかしてネグレクト? 訪問看護師は虐待疑いにどう対応すべきか 虐待が疑われる場合、どのように行動すればよいか。状況に合わせた慎重な対応が求められ、特に認知症が疑われる場合は、判断が難しくなることもあります。このようなセンシティブな状況では、多角的な視点で考え、細心の注意を払った言動が求められます。本記事は、弁護士の外岡潤先生に解説いただいた、法律・制度を踏まえた事例解説記事です。訪問看護に発生する義務は何か?という点も含めて確認しておきましょう。 * * * 認知症のある方は、今後もますます増加すると予測されています。地域を支える訪問看護師のサポートへの期待もさらに高まっていくでしょう。認知症のある方が幸せに生きられる社会になるヒントは、日々のケアの蓄積の中から見出されていくようにも感じます。NsPaceでは、今後も日々の学びの機会を通して、訪問看護に携わる皆さまの力になる企画を提供していきます。 執筆・編集: NsPace編集部

人が最期まで豊かに生きるために訪問看護で出来ること【トークセッションレポート】
人が最期まで豊かに生きるために訪問看護で出来ること【トークセッションレポート】
特集
2024年12月17日
2024年12月17日

人が最期まで豊かに生きるために訪問看護で出来ること【トークセッションレポート】

2024年11月17日(日)の日本在宅看護学会 第14回学術集会では、NsPaceの運営元である帝人株式会社が共催し、ランチョンセミナー「人が最期まで豊かに生きるために訪問看護で出来ること」を実施しました。座長に山本 則子氏、演者(ファシリテーション)に長嶺 由衣子氏をお迎えし、「第2回 みんなの訪問看護アワード」の受賞者のお二人とともにトークセッションで盛り上がりました。当日の内容をダイジェストでお届けします。 座長:山本 則子氏 東京白十字病院、虎の門病院に勤務した後、東大大学院医学系研究科修士課程修了。米カリフォルニア大ロサンゼルス校(UCLA)nurse practitioner programを修了。現在、東京大学大学院医学系研究科 教授。公益社団法人 日本看護協会 副会長。   演者:長嶺 由衣子氏沖縄県 粟国島で離島医療に取り組んだ後、東京や英国で地域医療、公衆衛生、社会疫学を学ぶ。東京科学大学(旧:東京医科歯科大学) 公衆衛生学 非常勤講師。厚生労働省 老健局老人保健課 課長補佐。訪問診療医。新田 光里氏第2回 みんなの訪問看護アワード 審査員特別賞受賞。@(あっと)訪問看護ステーション 訪問看護師。幼い頃体が弱かったことをきっかけに看護師を志す。救急救命士の資格を習得して病院の救急部門で働いた後、在宅看護の重要性を感じて訪問看護の道へ。日高 志州氏第2回 みんなの訪問看護アワード 入賞。ひだかK&F訪問看護ステーション 訪問看護師。病院の救命センターで働き、救急看護認定看護師資格取得。慢性疾患の急性増悪や終末期の患者さんを看護する中で在宅看護の重要性を感じ、訪問看護師へ。 ※プロフィール情報は、2024年11月時点。※本文中敬称略。 訪問看護の魅力・やりがいとは? 山本: 今回は、「人が最期まで豊かに生きるために訪問看護で出来ること」をメインテーマに、訪問看護の現場で活躍されているお二人のお話を伺います。訪問看護は、利用者さんの生活や価値観に深く触れるケアが求められる分野です。具体的なエピソードも交えながら、その魅力や課題についてざっくばらんにお話ししていきたいと思います。では、長嶺先生お願いします。 長嶺: ありがとうございます。最初のテーマはこちらです。訪問看護師の新田さん、日高さんの考える訪問看護の魅力について教えてください。 新田: はい。訪問看護は毎日新しい経験の連続で飽きることがありませんし、多様な利用者さんと深く関わることができる点が魅力だと感じています。私は元々病院の救急部門で働いていたのですが、訪問看護は「利用者さんに関わりたい」と思ったら、どこまでも深く看護ができる仕事だと思っています。 日高: 私も以前は救急の仕事をしていたのですが、訪問看護は救急の経験を活かしやすい点も魅力だと思っています。ちょっとした変化を早期に察知し、医師に繋いで状態の悪化を防ぐことができると、やりがいを感じます。 また、多様な働き方ができる点も魅力です。副業や起業をしながら訪問看護をされている方もいますよね。 長嶺: ありがとうございます。 たまたまですが、救急経験のある人が集まりましたね。実は、私が沖縄で離島医療をしていた際、日高さんと一緒に働いていたことがあるんです!日高さんがフライトナースをされていて、ドクターヘリで飛んできてくださいました。まさか訪問看護師さんとしてお会いすると思いませんでしたね(笑)。 では、座長の山本先生も、訪問看護の魅力に関するお考えをお聞かせください。 山本: そうですね。審査員として「みんなの訪問看護アワード」のエピソードを読んでいても、改めて訪問看護には「究極の個別性」があると感じます。利用者さんがどんな生き方をしてきて、残された時間をどんな風に過ごしたいと思っているのか。ご本人が必ずしも意識していないようなところまで入り込み、希望される生き方や想いを実現するところまで入っていくのが訪問看護です。「訪問看護師はここまでできるのか」と驚くことがとても多く、そこが魅力だと思います。 長嶺: ありがとうございます。私が行っている訪問診療にも通じるものがありますね。 病院では「点」でしか患者さんと関われないように感じますが、訪問診療では地域の方々やご家族との関わりもあって「面」になり、だんだんと「立体」になっていくようなイメージを持っています。訪問看護・訪問診療ともに、そういった点は魅力ですよね。 エピソード1:「100年ぶりに入浴したU子さん」 長嶺: ここからは新田さん、日高さんが「第2回 みんなの訪問看護アワード」で受賞されたエピソードをもとに、お話を伺っていきたいと思います。まず、こちらが新田さんのエピソードです。事業所の所長さんの言葉をきっかけに心持ちの変化があったと思いますが、その点はいかがでしょうか。 「100年ぶりに入浴したU子さん」(投稿者:新田 光里) ・関連記事受賞作品漫画「100年ぶりに入浴したU子さん<前編>」【つたえたい訪問看護の話】 新田: はい。それまでは「入浴・内服管理の依頼を達成しなければ」という問題解決思考で考えていたのですが、所長の言葉を機に、「ケアの達成度合いは一旦置いておこう」「まずはU子さんと信頼関係を築こう」と思ったんです。 そこからは、私が訪問看護師だと理解していただくために、仏壇の横に私の写真を飾る、なんてこともしました(笑)。 久しぶりに入浴され、「う~ん、気持ちいい!100年ぶり!」とおっしゃったU子さんの笑顔は、私にとって忘れられない瞬間です。 日高: このエピソード、とても感動しました。利用者さんの心を開くまでのプロセスが本当に丁寧で、新田さんの根気と工夫が伝わってきます。 長嶺: 日高さん、涙ぐんでいますもんね…!これは、医療従事者の成長過程の「あるある」ではないかと思います。医療者自身が「主語」になるのではなく、患者さん・利用者さん等の相手を主語にしたときに、「そうか、ご本人にとっては〇〇のほうがいいんだ」といった気付きがあると思うんです。 U子さんはすでにお亡くなりになっているそうですが、今回のテーマである「人が最期まで豊かに生きるために訪問看護で出来ること」という点については、いかがでしょうか。 新田: はい。実はU子さんはその後ずっとお風呂に入れたわけではなく、私が子どもの発熱で急遽担当が変わった日を境に、また入れなくなってしまい…。認知症の利用者さんをケアする難しさを感じました。 でも、訪問看護師が中心になって、状況にあわせてケアプランの変更を相談し、寝たきりになっても、歯がなくても最期まで好きな桃のゼリーを召し上がるなど、多職種で協力しながらケアを行いました。U子さんの「家で逝きたい」という願いを支えられたのではないかと思っています。 長嶺: ありがとうございます。 利用者さんと深く関われていると、自然と願いに沿ったケアができる、そんなお話を伺えたように思います。山本先生、いかがでしょうか。 山本: はい。エピソードについては、地道に関係性を築いていき、1年経ってからおもむろに発した一言がヒットしたという部分に「技」を感じましたし、とても感動しました。 また、担当が変わって入浴できなくなったとのことでしたが、これは認知症のある利用者さんだったから、ということだけが理由ではなく、おそらくU子さんがお風呂に入るにあたって新田さんが実践した上手なアプローチ方法、ノウハウがあったんだと思うんです。今後、そういったノウハウを言語化して共有できれば、担当が変わってもうまくいくかもしれません。 新田: ありがとうございます! エピソード2:「最期の友人」 長嶺:続いては、日高さんのエピソードです。この利用者さんは最終的に施設に入ることになったそうですが、当時の心境や経緯について教えてください。 「最期の友人」(投稿者:日高 志州) 日高: この利用者さんは、ご家族とは疎遠になっている一人暮らしの方でした。退院後もお酒を飲んだり、スナックに行ったり…という生活を続けていたのですが、次第に体が動かなくなり、楽しみが減っていってしまったんです。訪問看護やヘルパーの支援があっても、一人の時間をすべて埋めることはできず、ご本人が心細く感じるようになって、施設入所を選択されたという経緯です。私は、在宅看取りのみが最善の選択とは限らないと考えているので、この利用者さんにとって一番いい選択は何か、たくさん話し合って検討しました。 長嶺: ともすると、感情移入をして「在宅でずっと看たい」という気持ちになることもあると思いますが、「ご本人にとって何が一番いいのか」を最優先にして、ディスカッションしてこられたんだなということがよくわかりました。 利用者さんが笑顔で施設に行かれた描写が印象的でしたが、「最期までこの方が豊かに生きる」ということに対してのヒントを教えてください。 日高: この利用者さんは、深刻な場面もおちゃらけた様子で切り抜けるような性格の方で、真面目に問いかけても冗談で返されることが多かったんです。なので、こちらも冗談で応じながら親しくなり、徐々に価値観や想いを引き出せるよう努めました。深刻になりすぎず、「その方の世界」に寄り添うアプローチが、結果的によかったのではないかと感じています。 山本: この方は、ご家族とも疎遠ということなので、元々は「一人でよい」と考えていたのですよね。しかし、晩年に日高さんに対して「最期の友人」とおっしゃったことから、心のどこかで友人や仲間を求めていたのではないかと感じました。その想いを最期に実現させた日高さんの存在は非常に大きく、「最期まで豊かに生きる」ことを支えたことが感動的です。 長嶺: 本当ですね。私は医師なので「先生」と付けられると距離を感じることもありますが、看護師さんも一定の距離を取られがちなところを、「友人」と表現されたところはすごいと思います。 利用者さんやご家族の意思を尊重するために大切なこと 長嶺: ここからは、利用者さんやご家族の意思を尊重するために大切なことは何か?について、ディスカッションしたいと思います。新田さんいかがですか? 新田: 難しいテーマですが、「その方がどのように生きてこられたか」「どんな最期を迎えたいのか」を理解することを大切にしています。利用者さんがお話できる場合は極力丁寧に耳を傾け、生活歴やサマリーから背景を想像する…ということを訪問のたびに行っています。 日高: 私も同じです。時間が許すなら、できるだけ「どんな最期を迎えたいですか?」などと直球で質問することはせず、雑談から自然にご本人の価値観を引き出すよう心がけています。 長嶺: 確かに、直球で聞かれて明確な答えが返ってくることは少ないですよね。 私自身が当事者だったとしても、看取るご家族をはじめ「残される人たち」のことを考えると即答できませんし、一人では決められません。 山本: そうですね。多くの人はご自身の最期について明確な希望をもっていませんし、誰しも死ぬのは初めてなので、イメージもできません。だからこそ、看護師が選択肢を伝えることで、利用者さんのやりたいこと、できることが広がりますよね。例えば、「もうお風呂には入れない」「散歩ができない」と考えている方に、「できる」とお伝えできるケースもあります。これも大切なことではないでしょうか。 また、洗髪や足浴等をする際、目線は必ずしも合っていなくても、体をタッチしていますよね。そんなときに、何気なく利用者さんから出る言葉が重要なような気がしているんです。それを聞き出すことができるのは、看護の強みだと思いますね。 長嶺: 確かに、具体的な提案を通じて意思決定を支えることは重要ですね。また、「触れ合いながら引き出す」アプローチは、なかなか医師には難しく、看護師さんならではのアプローチだと感じます。日高さん、いかがですか。 日高: はい。訪問回数が多い分、看護師は怒り、悲しみ、苦しみなどを打ち明けられることが多いと思いますし、山本先生がおっしゃるように、リラクゼーションやタッチングをしながらお話を聞くと、最初はとてもいらだっていた方の感情がスーッとおさまったり、急に昔の話をしてくださったりする経験をしたことがあります。これは本当に看護師だからこそだと思いますし、私もそういうケアを大切にしたいと思っています。 山本: そうですよね。 また、私は「尊厳を保つ」ことがとても大事だと思っており、看護だからこそできることがたくさんあると思っているんです。清潔を保つこと、症状をマネジメントすることは、ケアや医療として大事であると同時に「尊厳を守る」ことでもあるんです。 「尊厳を保てないぐらいだったら、私を生かしてくれるな」というような発言を利用者さんから聞くことがあるくらい、人の尊厳は大事だと言えますし、人生の最終段階で本当に自分でできることがなくなったり、症状が強くなったりしたときに、看護の強みが発揮されると思っています。私たちはそういった仕事ができることを誇りに思ってよいと思うんです。 長嶺: ありがとうございます。 本当に在宅医療の現場は自分が持っているものをすべて総動員しないといけない場ですし、皆さんもそこにやりがいや魅力を感じていると感じました。 さて、早いもので終わりが近づいてまいりました。皆さん、素敵なセッションをありがとうございました。 こういった学術集会では学術的な発表はもちろん大切ですが、全国から同じ現場を共有できる方々が集まる場なので、今回のように感情面を共有することも非常に大切だと感じました。訪問看護の魅力を伝えるためには、皆さんが「なぜ訪問看護をしているのか」、その根底にある想いや教育課程では教わらなかった人と関わる上での工夫を共有できる場も大切だと思います。最後に、皆さんのご感想もお聞かせください。 日高: 山本先生、長嶺先生とディスカッションさせていただける大変貴重な場でした。ありがとうございます。 全国で働く訪問看護師の皆さんは、それぞれ素敵なエピソードを持っていると思うので、ぜひ皆さんのエピソードも伺いたいと思いました。 新田: ありがとうございました。こういった学術集会の場に来ると、訪問看護業界を牽引する方々がビジョンを描き、課題解決のために動いてくださっていることを実感します。また、ディスカッションを通じて、改めて自分にできることを日々一生懸命実践していきたいと思いました。 山本: 私も、改めて訪問看護の持つ力の強さを感じました。訪問看護の魅力が、一般の方々も含めて多くの人に伝わればよいなと思います。 * * * 本ランチョンセミナーは、立ち見が出るほど盛況で、参加者の皆さまは熱心に耳を傾けていました。会場にお越しくださった方々、ありがとうございました。 受賞者の皆さまをご招待する「みんなの訪問看護アワード」の表彰式では、このように訪問看護の未来について意見交換するトークセッションや懇親会の場も提供しています。 皆さまのご応募をお待ちしております!>>みんなの訪問看護アワード特設ページはこちらみんなの訪問看護アワード2025 執筆・編集: NsPace編集部

在宅TPPV療法中の看護 観察ポイントや呼吸ケア、栄養管理、外出支援
在宅TPPV療法中の看護 観察ポイントや呼吸ケア、栄養管理、外出支援
特集 会員限定
2024年11月26日
2024年11月26日

在宅TPPV療法中の看護 観察ポイントや呼吸ケア、栄養管理、外出支援

呼吸ケアにより生命の安全が確保できると、日常生活は安定していきます。その先にある、その人らしい生活や自己実現に、療養者さんやご家族が目を向けられるよう、在宅での支援を模索し続けることが大切です。今回は在宅でのTPPV(気管切開下陽圧換気)療法の看護のポイントやコツについて解説します。 安全・快適に過ごすための観察ポイント ベッド周りや物品配置などの環境調整 退院当初は、療養者さんの生活の場を考慮してベッドの位置、周辺環境を調整します。よく使用する吸引用具や気管カニューレ、蘇生バッグ(バッグバルブマスク)などはベッドサイドに誰もがわかるように整理しておきます。移動が簡単にできるようカートにまとめて整理されている方もいます(図1)。 図1 ベッドサイドのカートの例 家族の手技や健康状態 退院当初は手技獲得のための支援を行いますが、慣れてくると徐々にご家族のやりやすい方法に変化していきます。ご家族のちょっとした言動や療養者さんの訴えから、「吸引圧が40cmH2Oを超えていた」「吸引時間がやけに長い」「経管栄養注入時間が異様に短い」等に気づくこともあるでしょう。ご家族を否定せず、なぜその方法に変化したのか背景を把握しつつ安全な支援方法に修正していきます。 医療依存度の高い療養者さんの支援は介護負担が大きくなるため、ご家族の健康状態や疲労にも目を向けて観察します。 医療機器の管理状況 安全対策のため、次の点を確認します。 呼吸器回路をはじめとしたチューブ類がギャッジアップ時にベッド柵に挟まったり引っ張られたりしてないか固定方法は安全か吸引器・呼吸器などのコンセントの差し込みプラグがゆるんでないか電源ランプがついているか など 特に呼吸器や吸引器を移動する頻度が多い方は、気付かないうちにコンセントの接続がゆるみ、内部バッテリーに切り替わり、突然電源が切れるといったことが起こり得ます。ヘルパーさんやご家族とヒヤリハットを共有し、事故防止につなげましょう。トラブル発生時の対応や連絡先をすぐ分かるところに掲示する工夫も大切です。 療養者の表情や言動、全身状態、呼吸状態 療養者さんの表情や言動、バイタルサイン、視診、触診、聴診、痰の性状や胸郭の動き、浮腫の有無などの全身状態、呼吸状態を観察します。圧管理であれば、モニター表示を見て、最高気道内圧(peak inspiratory pressure:PIP)、1回換気量(Vt)や分時換気量(Mv)、呼吸数等の実測値を確認します(図2)。発熱や何か苦しさを感じる時には呼吸数の変化やVt・呼吸パターンの変化が生じますが、普段の実測値を把握しておくことで変化に気づけます。 図2 呼吸器のモニター表示の例 圧管理では赤枠で囲んだ項目の実測値を確認する。モニター画面の緑色のバーは気道にかかる圧力をリアルタイムで表示している。青色のラインはPIPを示し、現在の圧力は12.9hPaで吸気中であることを示す 例えば、呼吸器回路のわずかな振動や音、触診による胸骨周囲でのラトリング(胸壁の振動)、Vtのわずかな減少、療養者さんの表情で痰吸引のタイミングが分かることもあります。 また、痰がつまってくるとPIPの上昇やVtの低下が見られることもあります。胸郭や肺が徐々に固くなることでも少しずつPIPが上昇しVtが低下します。呼吸数が上昇しMvを維持しますが、それも徐々に低下していきます。 このような長期的な変化は呼吸器のログデータからも把握できますが、その兆候が分かれば早めに対応策を検討できます。グラフィック波形では気道の状態や呼吸器との同調など今の呼吸状態を推測できます。 人工呼吸療法は、換気量の維持と酸素化の改善により安楽な呼吸を支援するものです。ただ、長期療養により人工呼吸器関連肺損傷(ventilator-induced lung injury:VILI)などの弊害も出てきます。呼吸器を使用しているのに苦しい状態を作り出さないよう呼吸の変化を観察し、異常を早期に発見し対処できるように取り組みます。 呼吸ケア:唾液処理、排痰支援、痰の硬さ調整 気道クリアランスケアにおいて重要なのは唾液処理と排痰支援、痰の硬さの調整です。 唾液を吸引する低圧持続吸引器(図3)や痰吸引器(図4)を活用し、唾液や痰の垂れ込みをできる限り予防します。 図3 低圧持続吸引器 図4 痰吸引器 商品の例:アモレSU1(画像提供:トクソー技研株式会社) 排痰補助装置の使用により、痰の喀出を助け、深呼吸代わりにしっかり肺を膨らますケアにつなげます。神経難病患者では、肺や胸郭の柔軟性を維持するために呼吸のリハビリテーション機器(図5)を活用している方もいます。看護師が訪問した時に積極的に身体を動かし、さらに訪問リハビリテーションによる呼吸リハや身体リハにも積極的に活用します。 図5 呼吸のリハビリテーション機器と実際のリハビリテーションの場面 機器の例:LICトレーナー(R)声をかけて人工呼吸器を外し蘇生バッグで加圧する。圧は医師の指示のもと、40cmH2Oまでかけて息止めを3~5秒実施。その後、呼気ラインを解除し、息を吐いてから呼吸器を装着し、呼吸を整える。1日数回実施している*写真は療養者さんご本人・ご家族の同意を得て掲載しています。 これらの専門性を活かしたケアのほかに、ベッド上で側臥位にしたり、ギャッジアップで身体を動かしたりします。また、車椅子移乗をはじめとした離床は痰を動かし胸郭を広げるケアにつながると考え、生活の中に取り入れるよう提案しています。 痰が硬い場合は、加湿の調整や水分量・薬剤調整を検討します。 できるだけカフ圧計を使用してカフ圧を管理し、合併症を防ぐことも大切です。 長期人工呼吸管理が必要なALS(筋萎縮性側索硬化症)の療養者さんの中には、胸郭の柔軟性低下によりPIP上昇やカフリークといった対応困難な症状を生じる方がいます1)。積極的な呼吸ケアがこれらの症状緩和の一助となり、VILIのリスクを少しでも予防することができるのではと考えケアを継続しています。 栄養管理:過剰な栄養の回避、摂取カロリーの減量 在宅でのTPPVによる人工呼吸管理は、主に慢性期の支援になります。ALSにおいては発症初期〜進行期は体重減少が独立した予後予測因子となりますが、人工呼吸管理期は過剰な栄養の回避、摂取カロリーの減量が必要です2)。TPPV療法の導入後、そのままの栄養量で在宅療養を継続していると、体重が急激に増えていく場合があります。定期的な採血や体重測定などにより、栄養状態を評価し、栄養量を訪問診療医や管理栄養士と相談していくことが必要です。 入浴支援:他職種や関係機関との協働が大切 在宅では、入浴支援は訪問入浴を活用します。入浴スタッフが3名で訪問し、持参した浴槽で入浴をサポートします(図6)。入浴に訪問看護師が同席するわけではありませんが、その時間帯にご家族が休息を希望される場合や、呼吸や全身状態が不安定な状況により入浴スタッフが不安を感じる場合は同席しています。 入浴は療養者さんにとって楽しみの1つですが、特に終末期が近くなると体調が安定せず入浴できる機会が減ってしまいます。療養者さんやご家族の意向を汲み取り、少しでも安楽への支援の1つとなるよう関係機関と恊働しています。 図6 入浴時の様子 呼吸器につないだ状態で入浴の介助を行う。入浴中にご本人の訴えが分かるように文字盤をそばに置くようにしている(写真では机の上にある)*写真は療養者さんご本人・ご家族の同意を得て掲載しています。 外出時の支援:移動方法や物品、人手を確認 外出はご家族やヘルパーさんと行うことが多く、持参物品、機器類の管理、呼吸トラブル時の対応などを想定し指導を行います。 療養者さんが初めて外出する場合、車椅子移乗動作を支援します。ほかに、室内廊下のクランクに車椅子が通るのか、階段の昇降方法など部屋から道路までの動線を確認します。公共交通機関を使用する場合は乗車場所の確認や支援依頼のための事前連絡などが必要となります。 持参物品も人工呼吸器、吸引器などの医療機器類が多くを占めます。呼吸器のバッテリー耐用時間を確認し、外出時間により予備の外部バッテリーの準備、それ以上の時間を要する場合は携帯型の蓄電池を準備します。 また、外出先や外出時間によって支援者の人数がどの程度必要か、ご家族やヘルパーさんと相談します。 コミュニケーションの実際 まずは安全のために誰かを呼べる手段を確立します。手足が動けばスイッチやボタンを設置します。身体を動かせない療養者さんの場合、視線入力装置やピエゾセンサーを活用します。中には呼吸器のアラームを鳴らしてコール代わりにする方もいます。 近年は、さまざまなコミュニケーション手段が増えましたが、ケア中は処置をしながらコミュニケーションをとることが多く、原始的な透明文字盤や口文字盤を活用します。ただ、ALSの療養者さんの場合、病状が進行すると眼球の動きを捉えづらくなります。療養者さんがよく希望されることをまとめた文字盤に切り替えますが(図7)、それも難しくなると「はい」「いいえ」で微かに反応のある方で意思確認を行います。表情や呼吸数、Vt、脈拍などの変化から普段と違う「何か」を読み取ります。 コミュニケーション手段を活用できない療養者さんの意思を汲み取るため、それまでの関係性から、「この場面ではこれを希望することが多かった」「このような反応を示していた」など、推測することも多くなります。療養者さんと支援者の信頼関係の構築により成り立つコミュニケーションがとても大切になると感じています。 図7 文字盤の例 療養者さんがよく希望することをまとめてオリジナルの文字盤を作成している 執筆:温盛 由紀子あい訪問看護ステーション平尾 所長監修:森下 裕地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪はびきの医療センター呼吸ケアセンター センター長竹川 幸恵地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪はびきの医療センター呼吸ケアセンター 副センター長編集:株式会社照林社 【引用文献】1)芝崎伸彦,小西かおる,宮川哲夫.「長期人工呼吸、合併症とその対応(ALSの気管拡張に着目して)」.日本難病看護学会誌 2021;25(3):226-229.2)清水俊夫.「筋萎縮性側索硬化症の代謝異常と栄養療法」.神経治療 2022;39(1):22-26. 【参考文献】〇山本美保.「TPPV管理中の呼吸状態のアセスメントとケア」.みんなの呼吸器Respica 2022;20(6):795-801.〇本間武蔵.「支援経験での気づき」.難病と在宅ケア 2021;26(12):32-36.

あなたにオススメの記事

× 会員登録する(無料) ログインはこちら