コミュニケーションに関する記事

教育×訪問看護
教育×訪問看護
特集 会員限定
2023年5月2日
2023年5月2日

オンライン実習事例から学ぶ 教育×訪問看護の連携【セミナーレポート】

2023年1月28日に開催した「【トークセッション】教育×訪問看護の連携」。フリーアナウンサーの中村さん進行のもと、山形大学の松田教授と訪問看護師の川俣さんによるトークセッションを実施しました。山形大学の看護学科で行った「訪問看護ステーションと連携したオンライン実習」の事例を通し、教育と訪問看護が今後どう関わっていくべきかについて考えます。 ※約50分間のトークセッションから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】松田 友美 さん山形大学大学院医学系研究科看護学専攻 在宅看護学分野 教授川俣 沙織 さん山形県訪問看護ステーション連絡協議会 副会長訪問看護ステーションにこ 管理者【ファシリテーター】中村 優子 さんフリーアナウンサー。著名人のYouTubeチャンネル運営、著者インタビューなどを多数手がける※本文中敬称略 オンライン実習で知識と考える力をつける 中村:川俣さんが管理者を務める「訪問看護ステーションにこ」が山形大学看護学科の在宅看護オンライン実習(以下「オンライン実習」) に協力されたきっかけは、松田先生からのお声がけだったと伺っています。依頼された経緯について教えてください。 松田:コロナ禍で在宅看護実習をすべて中止せざるをえなくなり、川俣さんに藁にもすがる思いで、初めは実習の導入講義をお願いしたんです。 川俣:協力させていただくからには、訪問看護の楽しさや臨場感が伝わる内容にしたくて。私がただ講義をしても面白くないので、ステーション内で相談し、スタッフの協力のもと、現場と学生さんをオンラインで繋いで「同行しているような実習」を行うことになりました。 松田:オンラインではどうしても実際に体験することは難しいですが、訪問看護の重要な視点を事前学習した上で実習を行うことによって、知識とそれを使う思考回路が鍛えられました。技術は社会人になってからでも磨けるけれど、知識や考える力を養うのは学生のうちでないとなかなかできないので、とても良い内容だったと思っています。 実習で訪問看護の力、あり方が伝わった 中村:実際にオンライン実習を受講した学生のみなさんの反応はいかがでしたか? 松田:学生たちの反応は、予想以上に良いものでした。まず、実習はできないだろうと諦めていたのに、現場を見られたことに対する喜びですね。そして何より、看護の力を実感できたようです。教科書には「看護はその人の力を引き出す」と書いてあるけれども、いまいちピンとこない。でも、実際に看護師さんが利用者さんに接する様子を見て、生の声を聞いて、どういうことか理解できた、と。 川俣:複数の学生さんが同じ利用者さんの看護現場を共通体験できるメリットも大きかったと思います。 私たちは日ごろ、ひとりの利用者さんに複数のスタッフが関わるようにしています。利用者さんは「多面体」なので、複数人で関わったほうが気づきを得られると考えているからです。そして、その結果をもとに、どういう方針で看護をしていくかチームで考えます。 今回のオンライン実習では、学生さんたちに、その過程と似たような体験をしてもらえました。お互いに意見を交換する中で、「ほかの人はそう考えるんだな」という、他者の視点からの学びがあったはず。また、「多様な意見があっていい」ということも理解してもらえたと思います。 これは通常の実習ではなかなか得られない学びだと思うので、今後の看護師人生にいい影響を与える経験になったのではないでしょうか。 松田:そうですね。学生からも、「ほかの人から自分では思いつかない意見が聞けて勉強になった」「信頼関係の築き方の多様性を学べた」といった声が寄せられました。 新卒で訪問看護に携わる道もつくりたい 中村:オンライン実習の取り組みを経ての今後の展望について教えてください。 川俣:オンライン実習は臨地実習の代替ではなく、演習と臨地実習の間に挟むことで、学びを効率的に補完できる可能性があると評価しています。コロナ禍に限らず、よりよい形を模索しながら継続できればと思っています。 松田:卒業生に対するアンケートで「どんな教育が今役に立っていると感じるか」という質問をしたところ、「在宅看護のオンライン実習」と答えてくれる学生が多くいました。川俣さんのおっしゃるとおり、今後も積極的に導入していくべきではないかと考えます。 次のステップとしては、実際に在宅看護に関わりたい、訪問看護ステーションに就職したいという人材を増やしていくことではないでしょうか。 川俣:現段階では、新卒看護師を訪問看護ステーションで採用できる事業所はまだまだ少ないと感じています。病院で経験を積んでから訪問看護に移行するというのが多いと思いますが、今回の経験で考えが変わりました。利用者さんの人生に寄り添うという観点では、新卒であっても十分に活躍できると思います。もちろん、技術的な部分での医療機関との連携をはじめとしたフォロー体制は必要で今後の課題でもあります。地域の医療機関等のみなさんと協力体制を構築して、新卒から訪問看護に携わるというキャリアの実現に向けて、頑張っていきたいです。 松田:訪問看護に従事するにあたり、しっかりとした知識や技術、マナー、判断力などが必要なことは確かです。でも、コミュニケーションってそんなに構えなくても良い、難しいことではない、訪問看護はやりがいがあって楽しいということを、私たちも講義や実習で伝えていきたいと思います。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア * * * ※本トークセッションと同日開催した録画配信セミナー、アンコール開催セミナーに関しましては、以下のセミナーレポートをご覧ください。 >>【セミナーレポート】vol.1 BCP策定の基礎知識/BCP策定へのSTEP~いのちと暮らしを守る、継続可能な業務計画を考える~ >>【セミナーレポート】調整役としても活躍する -訪問看護師によるエンゼルケア-

ピラティス×訪問看護
ピラティス×訪問看護
インタビュー
2023年5月2日
2023年5月2日

【ピラティス×訪問看護】初心者でもOK。気軽にできるピラティス基本動作

全国の主要都市などに100店舗以上のピラティス・ヨガスタジオを運営する株式会社ZEN PLACEは、ピラティスのノウハウを在宅医療へ導入するという新しい取り組みを行っています。今回は、ZEN PLACE訪問看護師の日高さんに、看護師がピラティスを行うメリットや今後の展望についてその熱い思いをお伺いするとともに、簡単にできるピラティスの動作をご紹介いただきました。 これまでの記事はこちら>>【ピラティス×訪問看護】病棟看護師から訪問看護師へ転職したきっかけ>>【ピラティス×訪問看護】ZEN PLACE のキャリアパス&訪問時のピラティス活用法 日高 優(ひだか ゆう)2008年より急性期病院での看護師(ICUや救急外来など)を経て、2020年よりZEN PLACE訪問看護ステーションにて勤務。病院勤務時代にピラティスのインストラクターコースを修了。カウンセリング技術を学び、SNSを通して看護師に自分と向き合うことの大切さを発信している。ZEN PLACE訪問看護ウェルビーイング創造のリーディングカンパニーであるZEN PLACEが運営する訪問看護ステーション。ピラティスの技術を医療や介護の場に用い、働くスタッフから利用者様すべての人が心身ともに健康で豊かな人生が歩めることを目指している。「したい看護をするのではなく利用者様とご家族が望む生活のサポートをすること」がモットー。 看護師がピラティスをするメリットとは? ―日高さんが「看護師自身がピラティスを行ったほうが良い」と思われる理由について教えてください。 ピラティスはやればやるほど身体が変わっていきます。利用者さんの心身に良いことはもちろん、自分自身のケアにも使えます。看護師は「大変」「つらい」というイメージがありますし、離職率も高いですよね。まずは自分が満たされないと、「サポートしたい」という気持ちは生まれづらくなると思うんです。「看護が楽しい」と思える人を増やすためのひとつの手段として、ピラティスはとても良いのではないかと思っています。 私も、ピラティスを始めてから自分を俯瞰して見られるようになり、余裕が出てきました。自分が感情的になっている時にすぐに気づき、落ち着いて対応ができるようになったと思います。「これは私個人の感情だな」「ここは対話が必要だな」「私はここができないけれど、ここはできている」という感じで。そうなってくると、利用者さんの表情や様子の変化も見落とさず、気づけるようにもなるんですよね。 ―時間に追われることも多い職業だと思いますが、焦ることやイライラしてしまうことはないのでしょうか。 そうですね。特に訪問看護師になってから、「やらないといけない」「できないとダメ」という自分自身の考えを押し付けないようになりました。 病院にいたときは、「医師に言われたらそれが絶対」「治療優先」という考えも強かったんです。そうなってくると、「○か×」あるいは「100か0」という考えに囚われやすいですし、命を預かっている以上、できない自分や周りの人たちを許せない。新人の看護師に対して「なんでできないの?」というネガティブな言葉を投げる人が多かったり、自分を責めて離職につながってしまったりします。患者さんに対してもそうですね。例えば、処方した薬を飲んでいなかったら、「薬は飲まないといけないものだから、ちゃんと飲んでくださいね!」とお伝えしていました。 でも、在宅医療では、利用者さんやご家族の意思や生活の質が大切になってきます。看護師は利用者さんの「生活」を支援する立場なので、さまざまな考えや価値観を尊重しやすいんですよね。薬が飲めていなくても、「〇〇さんはどうしたいですか?」と利用者さんの意思を確認できます。また、「歩きたいけど練習をさぼってしまって歩けない」ということでも、それも含めてその人。さぼりたいならさぼってもいいのかなと思っています。利用者さんご本人の意思を尊重し、かつその方の頑張れる範囲や現状を受け止めて、サポートするようにしています。 「できない=ダメ」ではない ―訪問看護とピラティスの理念との相性が良い、という側面があるのでしょうか。 そうですね。ピラティスの中にも「できないことは『ダメ』じゃない」という考え方があります。「できない自分」も今の自分として気付いて受け入れてあげるんですよね。 医療現場では、問題にフォーカスして原因を究明し、解決を図る考え方が必要になってきます。でも、そこには本来、人の感情や気持ちも存在していて、そこに気付き感じ取ることも大事だと思うんです。 利用者さんには「できない」ことを理由に落ち込んでほしくないですし、そうした自分の状態を受け止めてもらえるように声かけをしています。こういうピラティスの考え方は、とても訪問看護に活きているなと感じています。 ―看護師さんたちにも、そういったありのまま自分を受け入れてほしい、ということですね。 そうですね。私が看護師こそピラティスをして欲しいなと思っているのはまさにそこです。看護師も職場に対して安心感を求めているはずなんですよね。「できない自分やダメな自分もいて良いんだ」と思えれば気持ちが少し楽になると思っています。 仕事上つらい経験をすることもありますが、それに耐えて慣れていくのが当たり前という認識からか、自分のつらさに気付かず、心が疲弊していく方がたくさんいると感じています。また医療機関は閉鎖的で保守的、職種階級的な部分もあるので、内部で何か問題が発生しても解決できず、同じ悩みやストレスを持ち続けてしまうこともしばしばあります。 看護師がまず自分の状態に気付き、発散することで自分を整えて、心の余裕を持つことができれば、好循環ができます。自分だけではなく利用者さんやご家族、スタッフなど誰に対しても気持ちに余裕を持って接することができるはず。仕事もプライベートも良い方向に向きやすくなるのではないでしょうか。 だからこそ、医療従事者にもっとピラティスが広まってくれたら嬉しいですし、ピラティスを身近で楽しめる環境が増えればいいなと思っています。もちろん、私は自身のケアとしても引き続きピラティスを続け、利用者さんやご家族にも良い看護を提供し続けることを目標としていきたいと思います。 初めてでも気軽にできるピラティスの基本動作の紹介 ―ありがとうございます。では、ピラティスをやったことがない看護師さん向けに、気軽にできる基本動作を教えてください 今回は3つのエクササイズをご紹介します。(1)ピラティスの胸式呼吸(2)ピラティスの骨盤矯正(3)体幹を鍛えるロールアップとロールダウン ピラティスマットを使用しますが、なければヨガマットやバスタオルの上でも大丈夫です。 ベッド上だと身体が安定しにくいので、床の上で行うようにしましょう。 写真提供:ZEN PLACE (1)ピラティスの胸式呼吸 よく「腹式呼吸」という言葉は聞くと思いますが、ピラティスの呼吸法は「胸式呼吸法」といいます。胸式呼吸は交感神経を優位にさせ、全身に血液を送り出そうとして血管収縮が起こり、血圧も上昇し、脈や呼吸も速くなります。また頭が冴えてきて集中力や記憶力などが高まりやすくなるのも特徴的です。 床の上にあぐらをかいて、背筋を伸ばして顎を引いて座って行うのですが、このとき正しい姿勢になることが大事です。背筋が伸びておらず肩が内巻になっていると、心窩部や胸郭が広がりにくいので、胸を広げて肋骨を閉じましょう。 呼吸をする際には、両手を胸の下辺りに添えると胸の膨らみを意識しやすいです。息を吸うときは、胸の下辺りに当てた手が外側に開いていく感じを、吐く際は手が中心に寄っていく感覚を持ち、肋骨が開閉されているかチェックすることが大事です。 口から息を吐き出しながらお腹に力を入れへこませます。そのまま胸を膨らませるように鼻から息を吸い、そのまま口から息を吐きだしましょう。 (2)ピラティスの骨盤矯正 骨盤の位置を把握して正しい位置に戻すことを目的としています。 骨盤ニュートラル 特に女性には、反り腰の方が多いと言われています。脚を組む、バッグをいつも同じ肩に掛けるなど、身体の重心を片側にかけることで骨盤は歪んでしまうと考えられます。特に看護師の場合はベッドに向かってかがんで作業することもあるので、腰に負担がかかりやすく歪みも出やすいのでしょう。 骨盤の歪みは血行不良による身体の不調や痛みの原因にもなるため、まず行っていただきたい基本動作ですね。 反り腰の場合、骨盤が前傾しているので、それを後ろに倒して元に戻す動作を行います。骨盤を立てることでお尻が少し下がるイメージです。ピラティスでは寝ながら骨盤矯正を行います。 マット上で仰向けになり、膝を立てた状態になりましょう。肩の力みを抜きます。この時点で手を腰の下に入れ、手のひらが簡単に入るようであれば前傾、手のひらもまったく入らないようであれば後傾している状態です。 手のひらがぎりぎり入るくらいの状態だとピラティスでいう「ニュートラルポジション」となります。この状態で骨盤を前傾、後傾、戻すという動作を繰り返します。 ペルビックカール ピラティスには「ペルビックカール」という骨盤や腰椎を安定させるエクササイズがあります。 仰向けに寝て膝を曲げ、息を吐きながら骨盤を傾けるように上げて脊柱をマットから離し、息を吸って上でホールド。息を吐きながら、膝を曲げた仰向けの状態に戻るという動作を繰り返します。 (3)体幹を鍛えるロールアップとロールダウン 仰向けに寝て手は拳を向かい合わせにして頭の上に伸ばし、両脚は真っ直ぐ揃えたまま足の爪先まで伸ばします。 息を吸って腕を体の前方に向かって上げていき、腹筋をしめ息を吐きながら起き上がり股関節の上に肩がある姿勢で息を吸ってキープ(Cカール)。息を吐きながら体を倒していくという動作を繰り返します。 そして息をゆっくりと吐きながらお腹を引き締めて、腹筋の力で背中を丸めて足元まで起き上がっていきます。この時、はずみをつけないよう注意し、しっかりと腹筋と身体の軸を意識してゆっくり起き上がりましょう。 起き上がったら手順を逆に行い、元の体勢に戻ります。 * ピラティスは10回やると違いを感じ、20回やると見た目がかわり、30回やると身体のすべてがかわるといわれています。「ちょっと疲れているな」「ジムに行くのは大変だけど自宅で軽く運動をしたいな」という方はもちろん、日々の姿勢や体型を良くしたいという方でも気軽にスタートできるのがピラティスの魅力です。ぜひ一度試していただき、継続していただければいいなと思っています。皆様に少しでもピラティスの魅力が伝われば幸いです。 ―日高さん、どうもありがとうございました。 取材: NsPace編集部編集・執筆: 合同会社ヘルメース

ケースメソッドで考える管理業務
ケースメソッドで考える管理業務
特集
2023年5月2日
2023年5月2日

CASE4 クレームを受けるスタッフをどうするのか_その2:桐山さんが抱えている問題は何か

管理者として課題に直面したとき、自分以外の管理者がどう判断するかを知りたくなることはありませんか? この連載は、参加者どうしで考えをシェアしあう研修手法である、ケースメソッド注1セミナーの形式に沿って、訪問看護管理者が直面する課題を考えていきます。第11回は、このクレームをスタッフナースの成長支援の機会ととらえ、管理者として支援を行うために、まずは「桐山さんが抱えている問題」を考えます。 はじめに 前回(「その1:まずすべきことは何か」参照)は、利用者からのクレームがあったときの初動対応について、それぞれの考えを出しあいました。続く今回は、前回のCさんの発言を受け、桐山さんが抱えている問題に注目することで、どんな支援ができるかのヒントを明らかにしていきます。 議論の題材となっているケースと設問は以下のとおりです。 ケースと設問 CASE4 クレームを受けるスタッフをどうするのか 入職3ヵ月になるスタッフナースの桐山さんから、「利用者のJさんから『桐山さんには訪問に来ないでほしい』と言われた」と報告を受けた。 桐山さんは病院で3年、いくつかの介護施設で6年、他社訪問看護で1年の経験のある看護師。とても真面目な性格で、職場で冗談を言うこともなく、むしろ冗談を間に受けてしまう様子がある。何かを伝えると一語一句漏らさずに細かな字でメモをとるが、肝心なときにそのメモがどこにあるのかわからずミスをしてしまうのだ。 当ステーションは、管理者と桐山さんを除くと20歳代の看護師が2人。入職時期は2人のほうが早いが、年齢的にも看護師としての経験年数も桐山さんのほうが上である。ほかのスタッフと軽く雑談をすることも桐山さんには難しいようだ。そして他スタッフからは「桐山さんとは一緒に働きづらい」と相談を受けている。管理者として、どうすればよいだろうか? 設問もしあなたがケースに登場する管理者であれば、桐山さんやほかのスタッフに対してどのような働きかけをすべきだと考えますか。ご自身の経験から考えたアイデアをみなさんにシェアしてください。 桐山さんが抱えている問題は何か 講師桐山さんはこのステーションで力を発揮しているとは言い切れないと思います。その原因はなんでしょうか。どんな問題を桐山さんは抱えていると考えますか。 Aさん注2入職3ヵ月とあるので、まだこのステーションには慣れていないと思います。しかも、すでにいるほかのスタッフよりも看護師経験は長く、即戦力というプレッシャーもあって、ほかのスタッフにSOSを出すのも難しいのではないでしょうか。 Bさん経歴をみてみると、以前働いていた訪問看護ステーションの経験が、今の仕事に悪影響を及ぼしているのかもしれません。ステーションごとに記録のしかたのような基本的なところでもいろいろ違いがあるでしょうし、そのほかにも暗黙の前提とかもよくありますよね。ステーションからどんな働きを期待されているかも、明確にされていなくてわからないですよね。 Cさん仕事をしていて疑問に思ったことを誰に聞いていいのかわからない可能性はありそうです。本人の性格もあるかもしれませんが、ほかのスタッフに気軽に聞ける状況ではなさそうです。 Dさん桐山さんの看護技術が劣っているとは思いませんが、もしかすると、クレームがあった利用者のケアには必要な知識やスキルが不足していたのかもしれませんね。 「桐山さんが抱えている問題は何か」の小括 桐山さんが抱えている問題はいくつもあることがみえてきました。ではこの問題についての理解をより深めるために、問題の前提となっている状況と、その状況をふまえた上で生じる課題についてみていきましょう。 桐山さんが置かれている状況の特徴 桐山さんを「中途採用で新しくステーションに入職した人」ととらえると、桐山さんが困難な状況に陥りやすい特徴が二つみえてきます。 1つ目は、即戦力とみられることから周囲のサポートが低くなり、それに伴い、社会的なプレッシャーにさらされることです。 2つ目は、前職で獲得した業務のやりかたや信念といったもののうち、新しい職場では通用しないものを捨て去る必要があることです。 桐山さんが抱えている課題 議論のなかで、桐山さんが抱えている課題が4つ出てきました。 ・ 今の職場だと通用しないことを捨て去る必要がある(学習棄却課題)・ 職場からどのような役割を期待されているのかわからない(役割学習課題)・誰に質問してよいかわからない(人脈学習課題)・必要なスキルが不足している(スキル課題) 次回は、このような状況や課題を理解し、管理者として桐山さんに対してどのような支援ができるのかについて考えていきます。 >>次回「その3:管理者としてどのような支援ができるか」はこちら 注1ケースメソッドとは、架空事例(ケース)について、参加者それぞれの考えをシェアしあうことで、学びを得ていく授業形式です。ケースの教材には、訪問看護管理者が問題に直面している状況が、物語風に構成されています。参加者は、ケースの教材を予習し、自分がこのケースの主人公ならどうするかを事前に考えた状態で、授業に参加します。ケースメソッドの授業では、講師のリードのもと、参加者どうしでアイデアをシェアしながら議論をすることによって学びます。これは講義形式のセミナーとはずいぶん違ったものです。参加者の発言が何よりもセミナーを豊かにする鍵となります。 注2発言者はA・B・C・Dとしていますが、常に同一の人物ではありません。別人であっても便宜上そのように表記しています。 執筆鶴ケ谷理子合同会社manabico代表慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。看護師、保健師、MBA。大学病院(精神科)、訪問看護、事業会社での人事を経験後、株式会社やさしい手看護部長として訪問看護事業の拡大に寄与。看護師250人超の面談を実施し、看護師採用・看護師研修などのしくみづくりをする。看護師が働きやすい職場環境作りの支援を目指し合同会社manabicoを立ち上げる。【合同会社manabico HP】https://manabico.com 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】〇中原淳.『経営学習論』東京,東京大学出版会,2012,155-184.

これからの医療的ケア児と訪問看護
これからの医療的ケア児と訪問看護
インタビュー
2023年4月25日
2023年4月25日

見落としがちな親視点 保護者に聞く&寄り添う看護-医療的ケア児と訪問看護

2021年に「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」が施行され、医療的ケア児への支援は「努力義務」ではなく「責務」となりました。そうした時代の流れの中で、訪問看護師が医療的ケア児のサポートに入るニーズが増加しています。しかし、技術的なハードルの高さや保護者との関係性に悩む看護師も多いようです。医療的ケア児の支援に造詣が深い、清泉女学院大学の北村千章教授にお話を伺いました。 >>前回の記事はこちら医療的ケア児にまつわる課題&あるべき支援-医療的ケア児と訪問看護 清泉女学院大学 小児期看護学北村 千章(きたむら ちあき)教授看護師・助産師。新潟県立看護大学大学院看護学研究科修士課程修了。「全国心臓病の子どもを守る会」にボランティアとして参加したのをきっかけに、先天性心疾患および22q11.2欠失症候群の子どもたち、医療的ケアが必要な子どもたちを、地域ボランティアチームをつくってサポート。2019年、清泉女学院大学看護学部に小児期看護学准教授として着任。慢性疾患のある子どもたちが大人になったときに居場所を持ち、ひとり立ちできるための必要な支援や体制つくりについて研究している。同年、NPO法人「親子の未来を支える会」の協力を得て、医療的ケア児の就学サポートを開始。医療的ケアが必要な子どもが、教育を受ける機会が奪われないしくみづくりを目指す。2023年4月より、清泉女学院大学看護学部 小児期看護学 教授に就任。 技術的には医療的ケア児の支援は難しくない ―医療的ケア児のケアについて、「技術的に難しい」と感じている訪問看護師も多いようですが、北村先生はどのようにお考えでしょうか。 そうですね。訪問看護の利用者は、終末期を在宅で過ごしたい高齢者の割合が高いと思います。いきなり医療的ケア児の看護に入ることになったら、戸惑うでしょう。私も初めて医療的ケア児のサポートをしたときは、すでに研究の世界に身を置いて臨床から離れていたこともあり、不安でした。ですから皆さんの気持ちは分かります。 でも実は、技術的には終末期患者のケアのほうが大変なんです。医療機器の使い方さえ覚えれば、医療的ケア児のケアのハードルはそこまで高くありません。ベテランの看護師ならなおさら、技術的な部分に対して身構える必要はないと思います。 私が所属する「親子の未来を支える会のチーム」には、志が高い看護師ばかり集まっていますが、やはり技術面において「本当に対応できるのか」と、心配する声は多かったです。でもいざ現場に入ってみると、医療的ケア児の保護者に色々と教えていただきながら、しっかりサポートできています。保護者の皆さんは、ご自身で医療機器の使い方を調べながら、一生懸命お子さんのケアをされています。そんな方々の胸を借りるつもりで、サポートすればいいのではないかと思います。 保護者はずっと「がんばれ」と言われている ―「保護者の胸を借りる」というお話が出ましたが、保護者とうまく関係性を築けずに悩む訪問看護師も多いようです。北村先生は、どのように保護者と関係性を築かれているのでしょうか。 私の場合、あるお母さんとの出会いが大きな学びにつながりました。今から15年ほど前に遡りますが、私は大学院で勉強しながらフリーの看護師をするという、二足の草鞋を履いていました。そのころ出会った福祉施設の方に、「あるお母さんと、うまくコミュニケーションが取れる看護師がいないから困っている」と言われ、放課後等デイサービスで医療的ケア児と関わる機会をいただいたんです。私は、そのお母さんは看護師を信頼できないのかもしれないと思い、「話を聴くしかない」と考えました。 医療的ケア児のBさんは人工呼吸器をつけているのですが、ご自宅を訪問するとすぐに、「とても愛されて大切にされている」ことを肌で感じました。私もお母さんと同じ気持ちで大事にケアをしていきたいと思い、日々お母さんに寄り添いながら傾聴していったところ、最初は不安そうなお母さんの顔がだんだん和らいでいきました。 ひとつ忘れられないエピソードがあります。そのお母さんはとある男性歌手の大ファンだったのですが、Bさんを産んでから1回もライブに行けていませんでした。そんな彼女が、「地元でその男性歌手のコンサートがあるから行きたい」とおっしゃったんです。福祉施設の施設長から「行かせてあげたいから、帰宅するまで子どもを見てくれないか」と頼まれ、引き受けしました。緊急トラブルが起こったときのために、施設長にもサポートしてもらいました。 幸い何事もなく、20時ごろにお母さんは帰宅されたのですが、「本当にありがとう。とってもうれしかった」とものすごく感謝してくださったんです。障害のある子を産み育てていくと、「自分ががんばらなければ」「我慢しなければ」という気持ちになるんですね。その様子をみて、私は「コンサートにも行けなくなるのか」「普通の暮らしが難しくなるんだな」と、切なくなりました。 その後、心を開いてくだったお母さんから、「すごくがんばっているのに、看護師に『もうちょっとがんばりましょう』と言われると、『なんで!』と攻撃的になってしまうんです」と本音を聴くことができました。そのとき、それまで看護師とうまくいかなかった原因が初めて分かったんです。腹を割って話せたことで、お母さんとの距離はさらにぐっと縮まりました。医療的ケア児の保護者の気持ちを学ぶことができて、今でもBさんのお母さんとの出会いに感謝しています。今でもBさんのお母さんとは友達で、これまで技術的な面も含めてたくさんのことを教えていただきました。 ―そのような経験を経て、看護師の保護者との接し方について、どのようにお考えでしょうか。 医療的ケア児の保護者の皆さんは、毎日必死。それまで当たり前だった「日常」を過ごせなくなり、気持ちがずっと張り詰めたままがんばっています。自分を責めている人もたくさんいます。そうした保護者の背景を想像せずに、看護師が「もうちょっとがんばれ」と言ったら、誰でも攻撃的になってしまうでしょう。 私たち看護師は、そんな自責の念で苦しんでいる保護者の気持ちを理解し、忘れてはいけないと思います。また、保護者は常に困っているので、看護師が医療的ケア児をサポートすることは「必ず保護者の助けになる」ことも忘れてはいけません。保護者は「自分の話を聴いてもらいたい」という気持ちがあると思うので、まずは、寄り添って話を聴く。そして技術的なことについては怖がらずに、「どうすればいいですか? 教えてください」と素直に頼ればいいと思います。また、「笑顔がかわいくなったね」「今までと違う動きができるようになったね」「体重が増えてよかったね」などと、お子さんのことを褒められると保護者はうれしいものです。「この看護師さんは、子どもをよく見てくれて、丁寧に関わってもらえているな」と思ってくれると思います。 ―逆に気を付けたほうがよいポイントはありますか。 子どもにとってベストなケアを考えると、看護師は保護者に向かって「子どものためにもっとこうしたほうがいいですよ」というアドバイスをしてしまいます。直接的に「がんばれ」と言っていなくても、こうした発言は保護者の負担になっているケースが多いので、気をつけたほうがいいと思います。 私もNICUで働いていたときは、なかなか保護者の気持ちが理解できませんでした。お母さんの気持ちを理解したくて、助産師の資格を取った経緯もあります。そこからやっと、保護者の立場に立って考えられるようになりました。NICUの看護師の場合は「子どものケア」が中心になるため、「お母さん、母乳で授乳しましょう。おっぱいをあげることは、とてもいいんですよ」などと言ってしまいがちですよね。でも、出産後、赤ちゃんが重度の障害を持っていると言われたら、当然ですがショックが大きくて思考や母乳が止まってしまうお母さんもいます。がんばりたい気持ちがあってもがんばれない。そんな状況の人に対して、「子どものためにがんばって」と追い込むようなメッセージを無意識に発しているケースが多いんです。 少しでも保護者側の視点に立って、寄り添いながら話を聴いてケアをする。やはりそれが一番大切ではないでしょうか。「きちんと保護者の話を聴いて理解しているのか」と自問してみて、自信がない場合は気を付けたほうがいいと思います。 看護学校の教科書で、家族中心のケア(Family-Centered Care; FCC)について学んだと思います。知識はあっても、現場に入るとどうしても患者中心になりがちです。改めて家族にも尊厳と敬意を持ち、家族と十分なコミュニケーションを図って情報を共有すること。そして、家族が望むレベルと、ケアや意思決定への参加を推奨し、支持をして、家族と協働することが大事です。 保護者が持つ看護師のイメージ ―北村先生は、研究上さまざまな保護者の方にインタビューする機会があると伺っています。保護者側からはどんな声が聞こえてきますか? そうですね。話を聞くと、やはり子どもが急性期のときに関わるNICUで最初に出会った看護師に良いイメージ持っていない保護者が多いように感じます。障害がある子を抱えて大きなプレッシャーや不安を感じる中でも、本当は毎日子どもに会いにいきたい。でも、例えば体調が悪く行けないことがあると、「お母さんなんだからがんばってね」と看護師に言われる。それが一番つらくて、行こうとすると足がすくんで、子どもに会いに行けなくなる…。といった保護者の声も聞きました。 もっと「NICUの看護師さんによくしてもらった」「看護師さんが話を聴いてくれてありがたかった」という経験ができるようになればいいと思います。そうすれば、退院して子どもと自宅に戻って暮らし始めても、もっと訪問看護師に甘えられるはずですよね。NICU側も変わっていかなければならないですが、訪問看護師の皆さんには、まずはこうした現状を理解してもらえるとうれしいです。 ―医療的ケア児の保護者で、SNSやブログなどで積極的にコミュニティを作り、前向きに動いている方も多いようです。 本当にそのとおりなんです。LINE、ブログ、SNSなどの情報ツールの発達によって、医療的ケア児を育てる保護者同士のネットワークはすごく広がっていますね。皆さん、医療やケアに関するたくさんの情報を持っています。私も「22q11.2欠失症候群」という遺伝性疾患の会を主催していますが、最新の研究内容をお伝えしようとしたら、すでにその英語の論文を読まれていたという保護者もいらっしゃいました。「100円ショップで見つけたアイテムでこんな風にケアをしています」といった経済的に負担の少ない介護の工夫をされている方もいて、それを私が講演会で他の保護者の方々に紹介するケースもあります。 看護師は「患者やその家族にアドバイスしなければ」と思いがちですが、保護者の方々はそうした最新情報を収集して勉強され、日々実践されています。教えてもらうことのほうが多いので、そういったスタンスで接していくほうがうまくいくと思います。 ―悩みながら医療的ケア児のサポートをしている訪問看護師さんたちに向けて、メッセージをお願いします。 高齢者の訪問看護について、「高齢者が地域でどう暮らしていくか」を考えてケアをされていると思いますが、医療的ケア児もまったく同じです。加えて、彼ら・彼女らには何十年もの先の未来があり、サポート次第で大きく選択肢が広がります。そして、ずっと走り続けてつらい時間を過ごされている保護者の心身のケアをすることも、とても重要な役割です。 医療的ケア児やその保護者との接し方に悩むこともあるかもしれませんが、壁を乗り越えて「貢献できた」と感じられたら、大きなやりがい・喜びを感じられるようになると思います。 ―ありがとうございました。次回は、教育委員会との連携事例について伺います。 次回の記事はこちら>>親子の夢が広がる 医療的ケア児の就学支援事例 【長野県 小布施町】 ※本記事は2022年12月の取材内容をもとに構成しています。 執筆:高島三幸取材・編集:NsPace 編集部

「七夕の奇跡」【つたえたい訪問看護の話】
「七夕の奇跡」【つたえたい訪問看護の話】
特集
2023年4月18日
2023年4月18日

大賞エピソード漫画化!「七夕の奇跡」【つたえたい訪問看護の話】

NsPaceの特別イベント「みんなの訪問看護アワード」で募集した「つたえたい訪問看護の話」。大賞を受賞したのは、公益社団法人山梨県看護協会ますほ訪問看護ステーション(山梨県)の 石井啓子さんの投稿エピソード、「七夕の奇跡」です。 今回は、大賞エピソードを『ナースのチカラ ~私たちにできること 訪問看護物語~』著者の広田奈都美先生に、全10ページの漫画にしていただきました。ぜひご覧ください! >>全受賞エピソードはこちらつたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!【みんなの訪問看護アワード】 漫画:広田 奈都美(ひろた なつみ)漫画家/看護師/訪問看護ステーション管理者。静岡県出身。1990年にデビューし、『私は戦う女。そして詩人そして伝道師』(集英社)、『ナースのチカラ ~私たちにできること 訪問看護物語~』『おうちで死にたい~自然で穏やかな最後の日々~』(秋田書店)など作品多数。>>『ナースのチカラ』の試し読みはこちら【漫画試し読み】『ナースのチカラ』第1巻1話(その1)投稿者: 石井 啓子(いしい けいこ) 公益社団法人山梨県看護協会 ますほ訪問看護ステーション(山梨県)ますほ訪問看護ステーションで訪問看護師として勤務し約22年…。大変だったこと、辛い思い出もたくさんありますが、それをかき消すほどの胸がグッと熱くなるようなほっこりするエピソード、患者さん・ご家族のありがたい言葉がたくさん頭をよぎります。今回私の書いたエピソードを大賞に選んでくださり、恥ずかしいような、うれしいような、複雑な気持ちですが、私がこのような喜びを得ることができたのは、今まで巡り合ってきたたくさんの患者さん・ご家族のおかげだと感じます。エピソードを漫画化してくださることにより、訪問看護という仕事のやりがい・魅力をこれから訪問看護師を志す人に少しでも伝えることができたらとてもうれしく思います。今後も訪問看護師として、一人ひとりの患者さん・ご家族との出会いを大切に、日々真摯に頑張っていきたいと思います。ありがとうございました。 [no_toc]

ニャースペースのつぶやき
ニャースペースのつぶやき
特集
2023年4月11日
2023年4月11日

遺族訪問時の請求書って…ニャースペースのつぶやき【訪問看護あるある】

遺族訪問時の請求書のお渡しって、切ない 遺族訪問は、とっても大切で緊張する場面。せっかく良い雰囲気になった後に請求書を渡すのって、ちょっと切ないにゃ… 遺族ケアの集大成である遺族訪問。ご遺族と故人との思い出も振り返ります。当たり前のことですが、そんな状況下でもご請求書を渡さなくてはいけません。ちょっと気まずいな…切ないな…と思っているかたも多いのではないでしょうか。訪問看護師さんからは、「せっかく良い雰囲気になっているのに、請求書を渡すとその雰囲気が壊れてしまう気がする」という声も聞かれました。 ニャースペース病棟看護経験5年、訪問看護猫3年目。好きな言葉は「猫にまたたび」「わかる!」「こんな『あるある』も聞いて!」など、みなさんの感想やつぶやき、いつでも投稿受付中にゃ!>>投稿フォーム

みんなの訪問看護アワード2023 表彰式
みんなの訪問看護アワード2023 表彰式
特集
2023年4月4日
2023年4月4日

みんなの訪問看護アワード2023 表彰式イベントレポート【3月24日開催】

2023年3月24日(金)に、銀座 伊東屋 HandShake Lounge(東京都中央区)にて開催した「みんなの訪問看護アワード2023」表彰式。全国からエピソード投稿者をはじめとしたゲストの皆さまにお越しいただき、表彰、特別トークセッション、懇親会などで盛り上がりました。ここでは、表彰式当日の様子や参加された方々の感想などを、豊富な写真とともにお伝えします。 >>「みんなの訪問看護アワード」全受賞エピソードはこちらつたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!【みんなの訪問看護アワード】 受賞者の皆さまへのトロフィー・記念品授与 まずは受賞者への表彰。入賞、審査員特別賞、大賞の順にお一方ずつ審査員の先生方からトロフィー・記念品が授与されました。 入賞エピソード「爪切りを通して」投稿者の古橋 笑生さん(左)と、特別審査員の長嶺由衣子さん(右) 特別審査員の佐藤 美穂子さん(左)と、大賞エピソード「七夕の奇跡」投稿者の石井 啓子さん(右) 大賞エピソード投稿者 石井 啓子さん(山梨県)の受賞コメントを一部ご紹介します。「今回の受賞について、所属しているますほ訪問看護ステーションのみんなや、エピソードに登場する利用者さんの娘さんも一緒になって喜んでくれました。エピソードの漫画化も楽しみにしてくれています。エピソードを通して、訪問看護という仕事のやりがいや魅力が少しでも伝わったらうれしく思います。これからも、日々真摯に一人ひとりの利用者さん・ご家族に向き合っていきたいと思います。」 石井さんの「七夕の奇跡」を大賞作品に選出した理由について、特別審査員の佐藤 美穂子さんからのコメントもご紹介します。「七夕の日に『短冊に願い事を書いてみては』と思いつかれたことがまず素晴らしいと思いました。そして、利用者さんの持てる力を引き出すように『願い事を書いてみますか?』と語り掛け、実際に『喜代子さん ありがとう』という文字になったこと。これは本当に奇跡だと思います。私たちは、グリーフケア(悲嘆へのケア)を遺族に対するケアととらえがちですが、実は看取りのプロセスが大切です。ご本人が『ちょっとした今』を残すことによって、悲嘆を乗り越えられる。そうした体験を記したこのエピソードは、本当に素晴らしいと思います。私たち訪問看護師がたくさんの看取りに立ち会っていくなかで、こうしたエピソードを知ることはとても大切だと考え、審査員一同で、『皆さまに一番つたえたい話』として選出させていただきました。」 エピソード・訪問看護に関するトークセッション 左から特別審査員の長嶺由衣子さん、受賞者の村田 実稔さん(東京都)、長尾 弥生さん(岐阜県)、梁井 史子さん(北海道) 表彰後は、特別審査員の長嶺由衣子さんと、受賞者3名による特別トークセッション。エピソード投稿のきっかけや訪問看護師になった経緯、訪問看護の魅力を伝えるためにどうすれば良いかなど、幅広いテーマについてディスカッションされました。 「実は、ステーションのみんなには内緒で投稿しました。大賞を狙えると思っていたのですが、もっとすごいエピソードがありました」(村田さん)という裏話で会場に笑顔がこぼれる場面も 働くエリアも訪問看護師になった背景も異なる3名ですが、訪問看護の利用者さんの日常や想いに寄り添える点には、共通して魅力を感じているようです。 また、審査員特別賞(「そうだ、訪看がある」)を受賞した梁井 史子さん(北海道)は、現在もリンパ浮腫とつきあい、抗がん剤と鎮痛剤を飲みながら訪問看護師を続けているとのこと。利用者の立場になり、改めて訪問看護が「人生・環境を支えてくれるありがたい存在」だと感じたエピソードや「一日でも長く訪問看護師を続けたい」という想いを語ってくださいました。 訪問看護の魅力を伝える方法については、登壇者以外の皆さまからも「訪問看護師を主役としたドラマが放送されたら良いのでは」「訪問看護の魅力を伝えたくて、思い切って漫画・エッセイを出版社に持ち込んだところ、連載できた」「根強く『5年神話』(病棟で5年経験を積まないと訪問看護師をなることは難しいという考え)が残っているが、新卒訪問看護師もしっかり活躍している。看護学校の先生にも『大丈夫』と伝えていく必要がある」といったコメントがあり、活発な意見交換がなされました。 初対面でも意気投合。盛り上がった懇親会 参加した訪問看護師さんからは「訪問看護が好きな人ばかりで、前向きな気持ちになれた」という声も 式典の終了後は、審査員の先生方、エピソード投稿者の皆さま、協賛企業の皆さまなど、幅広い方々がご参加されての懇親会も開催。初対面の方々が多いはずが、あっという間に意気投合する様子が見られました。普段は違う都道府県で訪問看護師として働く皆さん。担当エリアの広さや訪問時間・利用者さんの傾向の違いなど、地域差の話題で盛り上がっていました。 また、当日は会場内に「質問BOX」を設置。質問が寄せられた方には、懇談会中に回答いただきました。 質問に回答する受賞者の佐藤 理恵さん(神奈川県) 大賞作品の漫画を描いていただく広田 奈都美さん(漫画家/看護師)にも、懇親会中に漫画制作に関するお話を伺いました。 大賞受賞者の石井 啓子さんと、漫画家の広田 奈都美さん 「『七夕の奇跡』の取材では、石井さんから利用者さんのかわいらしいエピソードをたくさん伺いました。そんなかわいらしさが伝わる漫画にしたいと思っています」といったコメントをいただきました。 また、特別に制作中の「七夕の奇跡」の漫画下書きも一部お披露目されました。 審査員の先生方・受賞者の皆さまのご感想 最後に、「みんなの訪問看護アワード」や表彰式について、特別審査員の先生や受賞者の皆さまに伺った感想をご紹介します。 佐藤 美穂子さん(公益財団法人日本訪問看護財団 常務理事)訪問看護の現場の皆さんの声を聞ける場を設けていただいたことに感謝しています。あまり自分のことを語らない奥ゆかしい訪問看護師さんも多いなか、今回のイベントは自分のことを語る良いきっかけになったのではないでしょうか。地域共生社会の実現が求められていますが、訪問看護は自身のライフステージに関わらず、看護師の資格を活かして地域に役立てるお仕事です。この表彰式で訪問看護師さんたちのお話を聞いていると、受け手・支え手に関係なく人生をともにしていくための道筋も見えてきて、とてもうれしく思っています。 高砂 裕子さん(一般社団法人全国訪問看護事業協会 副会長)訪問看護は、日々の季節の移ろいを感じることができるほか、利用者さんやそのご家族との距離が近い魅力ある仕事です。「みんなの訪問看護アワード」は、そうした魅力や日々の訪問看護の実践について多くの方に知っていただく、とても素晴らしい機会です。受賞エピソードが多くの方に読まれることで、在宅で療養されている方に訪問看護の存在を知っていただくことや、「訪問看護師になりたい」と思う仲間が増えることを期待しています。そして、こうした取り組みが継続されることを願っています。 長嶺 由衣子さん(東京医科歯科大学国際健康推進医学 非常勤講師)当初このイベントのお話を聞いたとき、素直に素晴らしい取り組みだと思いました。表彰式では、受賞者の方々からも「受賞が励みになった」「自分たちのやっていることに自信が持てた」という声が聞かれました。こうしたアプローチや応援は大事だと思います。皆さん本当は、お話ししたいエピソードがたくさんありますよね。それを言語化することで仕事の振り返りになり、表彰されるとより自信になる。そして、「訪問看護の魅力を伝える伝道師」として動こうという意識も生まれる。色々な意味で波及効果がある取り組みだと思います。 大石 佳能子さん(医療法人社団プラタナス/株式会社メディヴァ 代表取締役)初開催ながら数多くのエピソードが投稿され、表彰式にも多くの方が集まって、素晴らしい成果が出ていると思います。また、表彰式には全国の中でも想いや技術がトップレベルの方々が集まりました。同じような部分で悩み、乗り越えようと頑張っている皆さんなので、初対面でも結束するのが早いですね。訪問看護というニッチな分野だからこその連帯感もあるように思います。全国に訪問看護師の知り合いがいる、離れていても仲間がいる。そのように業界を支え合っていけるネットワークや連帯感が生まれる予感がしました。 高倉 陽子さん(入賞者/神奈川県)受賞のご連絡をいただいたときは、スタッフや所長をはじめとして、その場にいた全員が絶叫しました(笑)。エピソードの投稿内容も事前にみんなに相談していたので、周囲の支えがあったからこそとれた賞だと思っています。今後、エピソードを色々な方々に知っていただけることがうれしいですし、とても楽しみです。 服部 景子さん(入賞者/北海道)全国各地で一生懸命勤務されている訪問看護師の皆さんと表彰式の場で出会い、お話しできたことをとても光栄に思っています。また皆さんとお会いできる日を楽しみにしています。エピソードの漫画化も、心待ちにしています。 表彰式にご参加いただいた皆さまの集合写真 表彰式にご参加いただいた皆さま、本当にありがとうございました。大賞作品の漫画は、2023年4月下旬に公開予定。そのほかの受賞作品についても、順次漫画を制作予定です。ぜひご覧ください。 取材・執筆・編集: NsPace編集部

管理業務への処方箋
管理業務への処方箋
特集
2023年4月4日
2023年4月4日

CASE4 クレームを受けるスタッフをどうするのか_その1:まずすべきことは何か

管理者として課題に直面したとき、自分以外の管理者がどう判断するかを知りたくなることはありませんか? この連載は、参加者どうしで考えをシェアしあう研修手法である、ケースメソッド注1セミナーの形式に沿って、訪問看護管理者が直面する課題を考えていきます。第10回は、クレームを受けたとの報告がスタッフからあったとき、管理者としてまず何をすべきかについて考えます。 はじめに 「利用者からのクレーム」は、ないに越したことはありません。しかし、クレームがあったときに、管理者として適切な対応ができるよう、事前に考えておくことは有用です。みなさんもセミナーに参加したつもりで、「自分だったらどうするだろう」と考えながらこの連載を読んでいただければと思います。 ケースと設問 CASE4 クレームを受けるスタッフをどうするのか 入職3ヵ月になるスタッフナースの桐山さんから、「利用者のJさんから『桐山さんには訪問に来ないでほしい』と言われた」と報告を受けた。 桐山さんは病院で3年、いくつかの介護施設で6年、他社訪問看護で1年の経験のある看護師。とても真面目な性格で、職場で冗談を言うこともなく、むしろ冗談を間に受けてしまう様子がある。何かを伝えると一語一句漏らさずに細かな字でメモをとるが、肝心なときにそのメモがどこにあるのかわからずミスをしてしまうのだ。 当ステーションは、管理者と桐山さんを除くと20歳代の看護師が2人。入職時期は2人のほうが早いが、年齢的にも看護師としての経験年数も桐山さんのほうが上である。ほかのスタッフと軽く雑談をすることも桐山さんには難しいようだ。そして他スタッフからは「桐山さんとは一緒に働きづらい」と相談を受けている。管理者として、どうすればよいだろうか? 設問もしあなたがケースに登場する管理者であれば、桐山さんやほかのスタッフに対してどのような働きかけをすべきだと考えますか。ご自身の経験から考えたアイデアをみなさんにシェアしてください。 管理者としてまずすべきことは何か 講師このケースで議論したいことは、CASEのタイトルにもあるようにクレームを受けるスタッフをどうするかです。まず管理者としてやるべきことは何でしょうか。 Aさん注2桐山さんとの面談が必要です。「訪問に来なくてもよい」と言われた状況を確認したいです。CASEに書かれた情報だけではわからないことが多いです。 Bさん桐山さんとの面談の後は、利用者や家族のところへ伺い、桐山さんからほかの看護師に変更してほしい理由を確認します。その内容から桐山さんと一緒に訪問内容を考えるなどして、解決できることかどうかを判断します。ルート組み替えの場合、誰に行ってもらえばいいか等も考えます。 Cさんルートの組み替えはほかのスタッフへの影響もありますし、桐山さんの今後も考えると、できることなら桐山さんに訪問を継続してもらいたいと私は思います。そのためにもまずは、桐山さんの利用者へのケアを同行訪問で確認したいです。そのときに、看護技術のチェックリストを用意しておいて、できるだけ主観的ではない指標で確認したいです。これができると桐山さんへのフィードバックもやりやすいです。 講師「クレームがあった」と報告を受けたときの、初動対応の案が出てきました。まずは事実確認が大事ですね。桐山さんと利用者、まずはこの二者からの事実確認が大切になります。そして看護技術についてチェックリストを使って確認するという意見も出ました。 クレームを発生させないために管理者ができることは何か 講師初動対応時にやるべきことがいくつか出ました。これとは別に、Cさんは桐山さんに訪問を継続してほしいという意見を持っていましたね。このことについてもう少し伺ってもいいですか。 Cさんクレームがあったときの初動対応としてはみなさんの発言のとおりだと思います。その上で、管理者は、ステーション全体としてクレームが生じないような取り組みもすべきだと思います。利用者から「訪問に来ないで」と桐山さんが言われたことは事実かもしれませんが、ケースの状況を考えてみると、クレームを受けた原因が桐山さんだけにあるとは思えません。桐山さんは入職して3ヵ月です。まだまだ支援が必要だと思います。 次回は、このクレームをスタッフナースの成長支援の機会ととらえ、管理者として支援を行うために、まずは「桐山さんが抱えている問題」について考えていきます。 >>次回「その2:桐山さんが抱えている問題は何か」はこちら 注1ケースメソッドとは、架空事例(ケース)について、参加者それぞれの考えをシェアしあうことで、学びを得ていく授業形式です。ケースの教材には、訪問看護管理者が問題に直面している状況が、物語風に構成されています。参加者は、ケースの教材を予習し、自分がこのケースの主人公ならどうするかを事前に考えた状態で、授業に参加します。ケースメソッドの授業では、講師のリードのもと、参加者どうしでアイデアをシェアしながら議論をすることによって学びます。これは講義形式のセミナーとはずいぶん違ったものです。参加者の発言が何よりもセミナーを豊かにする鍵となります。 注2発言者はA・B・C・Dとしていますが、常に同一の人物ではありません。別人であっても便宜上そのように表記しています。 執筆鶴ケ谷理子合同会社manabico代表慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。看護師、保健師、MBA。大学病院(精神科)、訪問看護、事業会社での人事を経験後、株式会社やさしい手看護部長として訪問看護事業の拡大に寄与。看護師250人超の面談を実施し、看護師採用・看護師研修などのしくみづくりをする。看護師が働きやすい職場環境作りの支援を目指し合同会社manabicoを立ち上げる。【合同会社manabico HP】https://manabico.com編集:株式会社メディカ出版

訪問看護アワード2023受賞エピソード
訪問看護アワード2023受賞エピソード
特集
2023年3月28日
2023年3月28日

つたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!【みんなの訪問看護アワード】

NsPaceの特別イベント「みんなの訪問看護アワード」で募集した「つたえたい訪問看護の話」。厳正な審査を経て、受賞作品が決定しました。大賞1件、審査員特別賞4件、入賞6件のエピソードを一挙にご紹介します! 「七夕の奇跡」 投稿者: 石井 啓子(いしい けいこ) さん 公益社団法人山梨県看護協会ますほ訪問看護ステーション(山梨県) 昨年7月7日、山間地域の鈴木きくよさんの訪問に、笹の枝を持っていきました。きくよさんは転倒を機にベッド上の生活となりました。認知症もあり簡単なコミュニケーションがとれるような状態でしたが、気配りが細やかで、ケアの後は必ず精一杯の笑顔で「ありがとう」と言ってくれました。その日はケアの後、持ってきた笹の葉を見せ、「今日は七夕ですよ。何か願い事を書いてみますか?」と私の持っていたノートを差し出すと、しばらく考えた後、震える手でぺンを持ちノートに『喜代子さん ありがとう』と書いてくれました。喜代子さんはいつも一生懸命に介護してくれている1人娘さんです。ケア後娘さんにノートを切って渡すと娘さんは「え?字が書けるんだね」と涙を流しました。先日老衰により自宅で亡くなられたきくよさん。娘さんときくよさんの身体を綺麗にし、気に入っていた洋服に着替えてもらいながら、あんな事があったよね等思い出話をしていると、娘さんは「あの七夕の日は奇跡だったよね。お母さんが書いた最後の字だったし、ありがとうなんて書いてくれて…私の宝物です」と言ってくれました。私にとっても宝物のようなエピソードです。 2023年2月投稿 「担当看護師からパパママ友へ」 投稿者: 櫛野 秀原(くしの しゅうげん) さん ウィル訪問看護ステーション江東サテライト(東京都) 私は今まで小児看護の経験がなく訪問看護に就いてから初めて経験しました。小児の利用者の中でも初めて担当した生後3か月の鎖肛のお子さんが一番印象に残っています。3か月という月齢に加えて、ストーマがあり、正直なところどう介入したら良いのだろうと不安になっていました。ストーマのケアの方法や発育発達について調べたり、ママも初めてのお子さんということもあり育児のことも一緒に悩みながら、試行錯誤していました。チーム内の助産師にも育児相談などの介入をしてもらい、すくすく成長し無事にストーマを閉鎖することができ卒業になりました。私自身に子供ができたときにママから育児本やグッズを教えてもらい、一人の父親として、多くのことを学ばせてもらいました。今では自分の子供と同じ保育園に通っていてパパママ友になりました。その子の成長を見ていると、まるで親戚のおじさんになった気持ちです。こうして卒業した後も、その子の成長を実際に目で見て知ることができることが、訪問看護のやりがいの一つだと感じます。担当した子や家族に関わったことで看護師として、一人の人として成長させてもらったと感じており感謝の気持ちでいっぱいです。 2023年1月投稿 「利用者さんは私の先生」 投稿者: 中島 絵理子(なかじま えりこ) さん 一般財団法人同友会 藤沢訪問看護ステーション(神奈川県) 私の初めての受け持ちであり、忘れられない利用者さんは、小学校の元教員Bさん(男性)でした。60代という若さで難病を患っており、教員をリタイアして間もなくの発症でした。Bさんの亡くなられている奥様も元教員で、私の兄の担任の先生をしていた経緯もあり、地元で仕事をするということは運命のような巡り合いがあるのだな、と新人の頃から私は訪問看護に魅了されていました。長女が小学校に入学してから、軽いいじめに遭ってしまった事がありました。幼稚園から小学校という、自立への階段を登る第一歩で躓いてしまった長女が私は不憫でたまらなくなり、Bさんへ相談をしました。Bさんは難病で上手く喋ることができず、唾液の誤嚥もあり、咳込むことも多々ありました。そんな中、ゆっくりゆっくりと、子供を見守ることの大切さ、子供の持っている強さを教えてくれました。私はその言葉の暖かさに涙が出ました。看護というものは与えるだけではない、人生の先輩から与えられる物も大きいのだということを痛感しました。今は天国にいるBさん。優しいあの笑顔が忘れられません。私の子育て見守っていて下さいね。ありがとうございました。 2023年2月投稿 「そうだ、訪看がある」 投稿者: 梁井 史子(やない ふみこ) さん 愛全会 訪問看護ステーションとよひら・ちゅうおう(北海道) 2年前、乳がんが再発した。転移もあった。3年前に手術・抗がん剤化学療法・放射線治療をして、やっと全て抜けた髪の毛も以前に近いほど伸びそろって、訪問看護の仕事もがんばっているそんな時に診断された。最初に病名を告知された時よりショックだった。再手術の後の抗がん剤治療が予定され、独身・独居で、近所に80代の年老いた母親が住んでいるだけで、日常生活での介護をしてくれる人など近くにいなかった私は不安で孤独でしかたなかった。その時私は「そうだ、訪看がある」と思った。私は以前勤務していた訪看ステーションに訪問看護を依頼した。結局抗がん剤の副作用に襲われ10ヶ月もの間休職した。激しい倦怠感や痛み、肝機能異常、糖尿病発症、全身の浮腫、皮膚炎、そして死への恐怖などとにかく苦しい日々だった。そんな毎日を支えたくれたのは、訪問看護だった。訪問看護は、とにかく心強く、やさしく、頼りになった。今現在も訪問看護師として働く私を救ったのも救うのも訪問看護だった。そして今は一人でも多くの利用者さんを救いたいと、改めて思っている。 2023年2月投稿 「冷え性なのに… 」 投稿者: 川上 加奈子(かわかみ かなこ) さん よつば訪問看護リハビリステーション(神奈川県) 100歳のKさんはいつも「出来ることは自分でやらないとね」と着替えなどもお手伝いなしで頑張られる方でした。あの日も体温計を挟む為に服を下から捲り始めたのですが、2枚3枚と捲っても中々肌は見えてきません。5枚目でようやくお腹が出てきたのですが、Kさんは息も絶え絶え。暫く沈黙の後、2人で「タケノコみたい!」と大笑いしたのを覚えています。そんな寒がりのKさんに体温計を挟もうとした時の事です。「ひゃっ!」冬場、中々温まらない冷え性の私の手がKさんのお腹に触れてしまったのです。私は「ごめんなさい!」と慌てて手を引っ込めようとしましたが、Kさんは意外にも私の手をがっしりと掴んで自分のお腹に押し当てたのです。そして「そのまま動かないの!ここが1番温かいんだから」と。私はびっくりすると同時に、自分の体温で私の手を温めようとして下さるKさんに、亡くなった母が重なり、目頭が熱くなったのを覚えています。そんなKさんとの思い出です。 2023年1月投稿 「爪切りを通して」 投稿者: 古橋 笑生(ふるはし えみ) さん ひだかK&F訪問看護ステーション(埼玉県) Mさんはケアが終わるとすぐに「はい、またね」と切り上げてしまう節がありました。ある日Mさんの足の爪が伸びており、Mさんに爪切りを提案しました。すると「そんなことお願いしてもいいの?すごく助かるよ!!」と喜び、その後「今日爪切りお願いできる?」と頼まれることや、家族や日常生活での心配事など想いを話してくれるようになりました。しかし、徐々にMさんの状態が悪化していきました。福祉用具等について私が提案すると「よく見てるね…そうだね、そろそろ必要かもしれないね」と導入を受け入れてくれました。また、「本当に良く見てくれるんだ、少し違っただけでもすぐ気づいてくれて…」と笑顔で話して下さいました。残念ながら、昨年の暮れにMさんは急逝されました。最後の訪問時、自分の体調が悪い中でも奥さんを想う気持ちを話してくれました。たった1つ、『爪切り』という何気ないケアがMさんからの信頼を得るきっかけとなりました。 2023年2月投稿 「104歳の日常」 投稿者: 長尾 弥生(ながお やよい) さん 白川訪問看護ステーションこだま(岐阜県) 訪問看護と言うと介護度の高い人や、医療依存度の高い人が使うイメージで少し敷居が高い気がするかもしれない。もちろん医師の指示書は必要であるが、訪問看護など必要ないと言う医師はほぼいない。訪問看護は医療的な処置は勿論、人生の最後のケアもおこなうが、介護指導、介護相談、病気の予防、家族支援まで多岐にわたる。私達のステーションの最高齢104歳の男性。かれこれ20年あまりのお付き合いになる。高齢者アパートに一人暮らしで、通所介護、ヘルパーの支援を受けているものの、身の回りの事はほぼ自立。マイペースな毎日が故に、エピソードが盛り沢山。決してアルコール中毒ではないが、お酒を飲んで人と話す事が大好きで、朝から一人で飲酒をされ呂律が回らない事もしばしば。訪問の度に一升瓶と缶ビールの数を数えるのも私達の仕事のひとつ。尿瓶の隣にあじのみりん干しが置いてあるが、本人が気にならなければそれでいい。はちゃめちゃな日常であるが、この日常はこの人にとって生きる力である。訪問看護とは病気を治すのではなく、その人の生活に寄り添い人生を支える仕事だと思う。その事を教えて下さった104歳の日常に感謝したい。 2023年2月投稿 「きっかけはポーカー」 投稿者: 服部 景子(はっとり けいこ) さん 愛全会 訪問看護ステーションとよひら・ちゅうおう(北海道) 受け持ち利用者さんへ入浴を促しても「入りません」と拒否をされ、私では駄目なのかと落ち込む日々。ある日ふとテーブルにあるトランプが視界に入りました。「今日は二人でトランプしませんか?」と声をかけると意外にも「いいよ」と返事が。それ以降、ケアの後にポーカーをするのが定番となりました。政治、スポーツ、昔話など色々話しながらの真剣勝負、五分五分の戦いです。それから数ヶ月後、突然「頭洗ってくれる?」と声をかけられました。嬉しくて嬉しくてステーションに戻ってすぐ、仲間やケアマネさんに話し、皆で喜びを分かち合いました。訪問看護は利用者さんのご自宅にお邪魔してケアをさせていただく仕事です。利用者さんのテリトリーに入っての看護ですから気を遣う事も多い一方、利用者さんの生活や嗜好や信条に触れ易い環境下でケアをさせてもらえる喜びや楽しみも沢山あり、訪問看護の醍醐味なのだと感じた出来事でした。 2023年2月投稿 「ちょっと早めの金婚式」 投稿者: 村田 実稔(むらた みのる) さん ウィル訪問看護ステーション江東サテライト(東京都) 結婚50周年を迎える夫婦に対し、娘さんと作戦をたてサプライズ金婚式を行った話。尿管癌末期で病院から自宅に帰ってきたご主人。はじめは家の中を自由に動いていたが、病状の進行と共に、1日の大半をベッドで過ごすようになっていった。その頃奥様より「もう少しで結婚50周年なのよ」と一言があり、どうにかしてお祝いをしてあげたいと考えた。そこで、近くに住む娘さんと相談をし、急遽サプライズの自宅金婚式を行うこととした。計画をした1週間後、黄色や白の花がたくさん入った大きな花束と一緒にお祝いをした。前日はずっと横になっていたご主人であったが、この瞬間だけはお座りになって笑顔でピースする姿まであった。食欲もまったくなかったのにこの日だけは一杯のビールとお寿司をつまんだとか。そして、その一週間後にお看取りとなった。奥様からは「金婚式行えてよかった。悔いが残るところだった。」との声をいただくことができた。 2023年1月投稿 「新任訪問看護師からの学び」 投稿者: 佐藤 理恵(さとう りえ) さん 一般財団法人同友会 藤沢訪問看護ステーション(神奈川県) 私の勤務する訪問看護ステーションは、スタッフの平均年齢が50代、訪問看護師歴10年以上とベテラン揃いの事業所です。そんな事業所に昨年30代の新任訪問看護師が採用され、私が教育担当を任される事になりました。新任を迎え入れるにあたり、「今までの看護経験を活かし、その人らしい看護が実践できる看護師」を育成したいと意識して取り組んでいきました。訪問看護師としては新人でも、看護経験は10年あります。彼女が実践してきた糖尿病やフットケアの知識と経験が発揮できるような受け持ち利用者の選定を行い、自信をもって単独訪問ができるように進めていきました。また彼女が主催の勉強会を実施した事で、スタッフの意識も変わり、今では全員が糖尿病やフットケアの視点をもって利用者と関わっています。彼女の存在がとても良い刺激となっています。まさに「教育」とは「共育」であると実感しています。    今後も成長し合える職場づくりを目指していきます。 2023年2月投稿 「人生最高のラブレター」 投稿者:高倉 陽子(たかくら ようこ) さん 帝人訪問看護ステーション株式会社 望星台訪問看護ステーション厚木(神奈川県) 間質性肺炎で在宅酸素導入中。米寿間近で、ほぼ寝たきりの生活レベルでありながら、スマホをサクサク使いこなす患者様でした。「今日はギャル?それとも熟女が来たの?」など、毎回どの看護師が来るのか想像して楽しみにされていました。こちらから見るととても仲良し夫婦なのに「看護師さんが来ると、夫婦の会話が弾みます」とユーモア溢れるチャーミングな患者様でした。病状は徐々に進行していきます。医師から余命3ヶ月と宣告され、間もなく「苦しい。こんなに苦しいなら死にたい」と発熱するたびに肺へのダメージが顕著に現れはじめました。「最期まで家で看取りたい。でも苦しむ姿を見ていられない。自分の介護に自信がない」。奥様の葛藤のサポートも行って参りました。呼吸困難で会話は出来ず、筆談も手が震えて難しくなっていました。死後、亡くなる前日にスマホに残した奥様宛てのラブレターを息子様が発見しました。「かあさんへ。色々面倒かけました。本当にありがとう。余生を楽しんで慌てずにね。出来れば次も結婚して下さい」。粋な計らいに感無量でした。素敵なご夫婦の人生に寄り添えた事。在宅看護ならではの貴重な経験でした。 2023年2月投稿 受賞された皆さま、おめでとうございます! 今後、「みんなの訪問看護アワード」表彰式のレポートやエピソードの漫画記事公開も予定しています。そちらもぜひご覧ください。 編集: NsPace編集部 [no_toc]

緩和ケア座談会
緩和ケア座談会
インタビュー
2023年3月28日
2023年3月28日

【緩和ケア座談会 後編】自殺願望への対応/最後の「大好きなお風呂」

在宅で最期を迎えたいという方が増えている中、現場で日々奮闘する訪問看護師は、利用者さんやご家族との関わり方を通じて、どのようなやりがいや難しさを感じているのでしょうか。ホスピスケアに注力する「楓の風」で働く4人の看護師のみなさんに、印象に残っている利用者さん・ご家族との思い出を語っていただく座談会を開きました。後編では、利用者さんの自殺願望への対応や、ご本人・ご家族の希望に沿った「最期」に関するお話を伺いました。 前編はこちら>>【緩和ケア座談会 前編】子どもに親の死をどう伝えるか/外国人家族のケア 松田 香織(まつだ かおり)さん在宅療養支援ステーション楓の風 金沢文庫/緩和ケア認定看護師外科や脳外科、一般病棟、救急外来などを経て、2021年に楓の風に入職。看護師歴約25年、内訪問看護歴1年中島 有里子(なかじま ゆりこ)さん在宅療養支援ステーション楓の風 金沢文庫 副所長内科や外科、透析センターなどを経て、2020年に楓の風に入職。看護師歴約21年、内訪問看護歴約3年廣田 芳和(ひろた よしかず)さん第2エリア長/在宅療養支援ステーション楓の風 やまと 所長/緩和ケア認定看護師小児科病棟、循環器・呼吸器・血液内科病棟などを経て、楓の風に入職。看護師歴約29年、内訪問看護歴約13年吉川 敦子(よしかわ あつこ)さん第1エリア長/スーパーバイザー化学療法科や婦人科、整形外科、脳神経外科、耳鼻咽喉科病棟などを経て、2008年に楓の風に入職。看護師歴約28年、内訪問看護歴約14年株式会社楓の風ホールディングス神奈川県を中心に、首都圏で通所介護、訪問看護、訪問診療、教育事業等を展開。「最期まで自分らしく、家で生きる社会の実現」に向けて、在宅療養支援を行う 「いい加減、私を殺してくれませんか?」 ―前編では、松田さんと中島さんに、ご家族のケアに関するお話を中心に伺いました。続いて、廣田さんの印象深いご経験についても教えてください。 廣田: 10年ほど前、訪問看護の仕事を始めたころのお話です。ご両親と3人暮らしの、末期がんの40代の女性を担当していました。症状のコントロールが難しく、かなりの量の痛み止めを使っていたんです。その副作用や精神的なダメージが大きく、「体のだるさがきつい」と毎日私宛に電話がかかってきました。そのやり取りのなかで、「廣田さん、いい加減、私を殺してくれませんか」と相談されたのです。毎日訪問していたので、話しやすい関係性は作れていたと思いますが、1日目は「なるほど。殺してほしいですか。それはできないな、殺人者になってしまうから。とにかく、ラクになれる方法を考えましょう」とお返事したと思います。 それから、次の日もその次の日も、「どうしたら死ねるか」について電話で1時間ほど話しました。1週間くらい続いたあるとき、ふっと互いに気が抜けて、少し笑えてきたんです。「この話、いい加減、飽きませんか?」「飽きましたね」と軽いトーンでお話できて、結局彼女は自殺をしなかった。痛みやつらさはセデーションをかけてラクになるのですが、何が言いたいかというと、「殺し方」や「死に方」といったすごく深刻でネガティブな話が続いても、どこかでくるっとユーモアに変わる瞬間が来るんです。「もう、話していてもしょうがないよね」とお互いに思える瞬間が。 我々看護師は、利用者さんのネガティブな気持ちを真剣に聞き続けていると、こちらまで精神的に病んでしまう恐れがあります。もちろんこのケースでも私は真剣に話を聞いていたのですが、耳を傾けながらどこかに活路があるように感じていました。そして、結果的に活路があったと実感できたことは大きな収穫だと思います。 残念なことに、その利用者さんはその後すぐにお亡くなりになりました。彼女は「つらい」「死にたい」ということを、最後までご両親には言えませんでした。私だから、というよりは、一番近くにいた他人の看護師だからこそ、本音を言えたと思うんですよね。彼女とのやり取りが正しかったのかはいまだに分かりませんが、強く記憶に残っている利用者さんです。 向き合い続ければ方向転換できる瞬間がある 松田: ユーモアに変換されたという結果は、利用者さんとの信頼関係ができていたからこそですよね。なかなかその域に辿り着けないのではないかと思います。「今日も言い続けてみよう」と利用者さんが思える関係性を作れた過程にとても興味があります。 廣田: ちょうど訪問看護の施設ができたばかりで、まだ利用者さんの数が少なく、毎日対応できたという点も大きかったですね。もちろん、私から「こういう方法がありますよ」なんて提案は絶対にしないし、できません。利用者さんが口に出す自殺方法に対して、「その方法は○○だから残された遺族が大変ですね」「その方法だと○○ですし…、やっぱりだめですね」などと、「それをしたらどうなるか」を一緒に散々考えて、結局どれもダメだという結論に至ったんです。 松田: 利用者さんに「自殺したい」と言われたら、「何言ってるんですか」と否定してしまいがちだと思います。廣田さんが自分を否定せずに受け止めてくれて、一緒に真剣に考えてくれたこと、その利用者さんはうれしかったでしょうね。 廣田: そうですね。本当はすぐに「自殺はダメだよ」と言いたかったです。でも、その時は一緒に考えるしかないと思ったんですよね。あと、ピンチに陥ったときは、常にチャンスを狙っているような気がします。利用者さんとのネガティブなやり取りも、どこかで笑いに変えられる瞬間がくるのではないかと思うんです。何事も笑いは大事ですから。 松田: やっぱり、廣田さんにしかできない技です。 吉川: なかなかできないことですよね。私も今、担当している終末期の利用者さんで、「私は死ぬのを待っているだけ」「入院するときは死ぬとき」などとお話される方がいらっしゃいます。そういうお言葉が出たとき、傾聴に徹したり、「またお家で頑張りましょう」という言葉をかけたり、といった対応しか思いつかなくて…。何かアドバイスいただけますか? 廣田: 難しいですよね、すみません、すぐに答えは出てこないです。ただ、聞くしかないときもあると思います。後は、ダメでも試してみる。試してみないと分からないこともたくさんあります。「布団が吹っ飛んだ」くらいの思いっきりくだらないダジャレを言ってみるとか。失敗する可能性も大きいですが(笑)。 吉川: ダジャレはタイミングを見図るのが難しくて、ちょっと勇気ないですね(笑)。でも、色々と試してみます。 「お父さん、よかったね」 全員が納得の最期 ―吉川さんの思い出深い終末看護のエピソードについても教えてください。 吉川: 成人したお子さんが2人いる、末期がんの60代男性の利用者さんを担当しました。娘さんが結婚するときに、末期がんだと発覚。輸血が必要な状況で、家に帰れる状況ではなかったのですが、どうしても娘さんの結婚式に出席したいとおっしゃって、車椅子で30分だけでも外出できないかと病院側で調整されていましたが、外出が認められなかった経緯があります。 このままではご本人もご家族も後悔する、という思いから、退院して在宅療養に切り替わりました。ただ、結婚式は体力的に心配だという奥様の意見で、家族みんなで記念写真を撮りに行く計画に変更されたんです。帰宅して3日後には症状が安定するだろうと見込んで撮影日の予約を取り、息子さんらがお父様をサポートして写真館に連れていくことになりました。 当日、私は朝訪問して熱を測って状態を確認し、「何かあれば電話をください」と送り出しました。心配していたのですが、こういうときに人間はエネルギーが湧くものですね。容態が悪化することなく、無事に帰ってきたという連絡をいただき、ほっとしたことを覚えています。ご本人も「いい時間を過ごせた。もう悔いはない」とおっしゃっていました。 中島: いいお話ですね。 吉川: はい。でもまだ続きがあって、ご本人が「どうしてもお風呂に入りたい」とおっしゃったんです。病院でも入れなかったから、家のお風呂に入りたいと。医師に確認の電話を入れ相談した結果、「最後はご家族の判断」ということになりました。 そこで、ご家族に「入浴することで血圧が下がりますので、万が一ということもありますがいいですか」とリスクも含めてお話ししました。「父はお風呂が大好きで、お風呂で死んでもいいと言っている人だから、ぜひ入れさせてほしい」とのご家族の希望でした。 松田: ご本人やご家族のご希望とはいえ、看護師としては怖いですね。 吉川: そうですね。男性看護師と息子さんでお父様を浴室にお連れして、ほかのご家族も手伝って車いすに乗せて、さらにシャワーチェアに移しました。その時点で血圧はだいぶ下がっていたと思います。ご本人が浴槽にも入りたいとおっしゃるので、看護師もみんな濡れながら湯を溜めた浴槽に入れました。長湯はできないので、再びシャワーチェアに運んで、ご家族みんなで素早く体を拭いて、寝巻を着せて車いすでベッドに戻しました。 浴槽に入ったとき、ご本人は「気持ちいいなぁ」とおっしゃり、上がったあともすごく穏やかな表情をされていました。そして、ベッドに移したとき「あぁ」という声を発せられたんですよね。みなさん「風邪ひいちゃう」と体を拭いたりドライヤーで髪を乾かしたりするのに必死だったのですが、ふと、「あれ?息してないかも」と気づきました。お亡くなりになったんです。 でも、誰一人、入浴させたことを後悔しておらず、みなさん笑顔で「お父さん、よかったね」とおっしゃっていました。ご本人がやりたいことを成し遂げ、それをご家族みんなで手伝えた。その人らしい最後の過ごし方をご家族に見届けられて、亡くなった後に誰一人泣かないという場面は初めて経験しました。入院していたらありえないことですよね。看護師としての醍醐味を感じられ、「在宅看護ってすごいな」と思う、本当に忘れられない経験です。 中島: みんなが良かったと思える最期は、病院にいるとなかなか経験できませんよね。本人がやりたいことをやり切って幸せに最期を迎えるという、まさに在宅看護の素晴らしい例だと思います。 松田: 私は訪問看護師として働いてまだ間もないですが、病院勤務だと、看護師も「自分が主語」になりがちになります。「自分が訴えられたら嫌だ」「自分のせいになるのは怖い」と。血圧50台の患者さんを、絶対にお風呂に入れないですよね。でも在宅看護では、患者さんが主語になる。ご本人の想いを最優先に考えて叶えられるのはいいなと思えた素敵なエピソードです。 利用者さんに心をケアしてもらうことも 廣田: 吉川さんは利用者さんの意向に沿って勝手に行動したのではなく、きちんとご家族に「これでいいですか」と丁寧に説明して確認し、同意を得る作業を踏んでいらっしゃいました。だから、素敵なエピソードになるわけです。そこが私たちの役割であり、きちんとご家族みんなの意見を一致させることが重要になると思いますね。 吉川: そうですね。別のケースですが、自分でお風呂まで歩ける血圧が低い70代の女性の利用者さんが、「入浴したい」とおっしゃったんです。するとご主人が「入って倒れたらどうするんだ!」と怒り、私は「ご本人もご主人の気持ちも分かる。どちらに賛同したらいいんだろう」と迷ってしまいました。すると奥様が「私は入ると言ったら入るのよ!あなたは私の幸せを奪うの?」とおっしゃってご主人は黙ってしまい…。 そこでご主人に、「介助してきてよろしいでしょうか」と伝えたら、うなずいていただけたという経験がありました。案の定、血圧が48まで下がってしまい、その後はいくら本人が入浴したいと言っても、やはりご家族からの反対を受けて叶いませんでした。正解はひとつではない、難しい仕事だと思います。 廣田: そうですね。難しくて大変な仕事ですが、私たちは患者さんや利用者さんから逆に励まされることもありますよね。 20年以上も前の病院時代の話になりますが、末期の患者さんたちと関わり始め、夜勤も多くとにかく疲れて気持ちが落ち込んでいた時期がありました。すると、担当する70代ぐらいの末期の悪性リンパ腫の女性に「大丈夫?」話しかけられたんです。「え?」と返したら、「いつもと比べて元気がない。人生はつらいこともあるけど、いいときが必ず来るから大丈夫だよ」と言ってくださったんです。そのあと、トイレに行って泣いてしまいました。当時は若かったので、「末期の患者さんを自分が励まし支える役目だ」と強く思っていたのですが、逆に自分が励まし支えてもらっていたと気付いたんです。そして、「それでいいんだな」という風に見方が変わりました。患者さんが私を助ける役割を担ってくださることもある。むしろ、自分の弱い姿を見せることで、距離が縮まることもあります。自分は素直でいていいんだな、と思えるようになりました。 吉川: 利用者さんに励まされる、というのはよくわかります。私が担当した95歳の女性はいつもニコニコし、肌もツヤツヤされていて、とても90代には見えない方でした。ほぼ寝たきりで、介助がないと車いすに乗れない状態ですが、「毎日が楽しいわ。お空を見ていると気持ちが明るくなる」「これがおいしかった。あなたは今日、何を食べた?」「リハビリがつらいかって?全然楽しいわよ。これをやったら、歩けるかもしれないんだもん」などと前向きな言葉しか返ってこない。 一緒に過ごした1時間、私はずっと笑顔でした。私が何か利用者さんにケアをしたというより、私が心のケアをされたというか、たくさんのプレゼントをもらって帰ってきた気持ちになりました。私も終末期の利用者さんから、たくさん助けられています。 ―訪問看護や緩和ケアの醍醐味が伝わるエピソードをたくさんご紹介いただき、ありがとうございました。 ※本記事は、2022年1月の取材時点の情報をもとに制作しています。 執筆:高島三幸取材:NsPace編集部

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