家族看護に関する記事

想いに寄り添うエピソード【つたえたい訪問看護の話】
想いに寄り添うエピソード【つたえたい訪問看護の話】
特集
2024年12月24日
2024年12月24日

想いに寄り添うエピソード【つたえたい訪問看護の話】

訪問看護をしていると、利用者さんやご家族のたくさんの想いと向き合います。「みんなの訪問看護アワード2023」に投稿されたエピソードから、利用者さんやそのご家族の想いに胸が迫るエピソードを5つご紹介します。 「最期まで、妻・母・娘として生きたN子さん。」 末期のがんに罹りながら家族とともに懸命に生き、最期の場面でも家族を想う姿に胸が打たれるエピソードです。 63歳のN子さんは肺がん末期で骨転移等もあった。12月初めの退院前カンファレンスでは、クリスマスは迎えられてもお正月は厳しい、と告げられていた。自宅に戻る際も頸部・体幹のコルセットは外せず、不本意ではあるが夜間はおむつ内で排泄するよう指導されていた。しかし、63歳という年齢、夫にも気兼ねがありコッソリと夜間もポータブルトイレに座っておられた。クリスマスが過ぎお正月が過ぎ、期待と不安を抱え桜の季節を迎えた。担当ケアマネから、近所の川沿いにある桜並木の下でお花見をさせてあげたい!と声が上がり、ご主人・ヘルパー・看護師・ケアマネとともに小春日和の中、ゆっくりと桜の下を車いすで散歩することができた。その後、「最後になるかも知れないけれど、家族のために料理がしたい。お風呂に入りたい」とご本人から希望があり、短期間であったが調理や入浴をすることができた。秋が過ぎ骨盤に転移した腫瘍が急激に大きくなり、みるみる体調は悪化傾向になっていったが、お酒の好きな夫の健康を気遣い、高齢のご両親より先に逝くことを詫び、夏に生まれた孫の成長を楽しみに、初冬、最期まで弱音を吐かず笑顔の素敵な母の姿を残して旅立たれた。 2023年1月投稿 「涙あり、笑いあり、そんなお看取り。」 故人との別れに悲しみもある中、家族総出でのお見送りの準備に愛情が感じられるエピソードです。 最期が近いAさん。お正月というのもあって娘様家族が来ている。同じ空間にベッドで寝ているAさん。とても穏やかな時間が流れていた。Aさんは声掛けに「はい」と吐息で答えてくれる。何か言いたげだが言葉にならない。(今日中かな…)そう思いながら明日も訪問することを伝え退室。その日の夜、ご家族から「息が止まりました」と連絡が入った。私は車で向かう。到着すると家族に見守られながら眠っているAさん。娘様は涙を流している。湯灌の予定だったが、それが高いことを知り、急遽フルエンゼルケアをさせていただくことに。お孫さんも含め全員で行った。みんなで役割分担しながらあーでもない、こーでもないと言いながら娘様を中心に。そこには涙は無くて笑顔が溢れていた。うるさすぎて奥様に怒られるほどだった。最後に奥様に口紅を塗ってもらったが、グロスだったのかな?「女装したみたいになったね」と笑い合う。ご家族に囲まれて幸せだなぁ。 2023年2月投稿 「患者の最期の願いを叶えた自宅での看取り」 最期に願いを叶えられた利用者さんの心からの感謝が胸に響くエピソードです。 私は訪問看護ステーションに配属された新人訪問看護師。肺癌の診断で自宅療養中のA氏から訪問看護利用の依頼があった。呼吸苦はあるが園芸の話をする、好きなサイダーを飲む等病状は安定していた。1ヵ月後、病状は増悪し「30年かけ作った庭をもう一度見たい。ほかに思い残すことはない。」と言葉が聞かれるようになった。自宅前に本人が作った庭があった。願いを叶えるためケアマネ、家族と協力しスロープと車椅子を準備した。当日本人から「体調が悪い、庭へ行くのは諦める。」と電話があった。短時間で行えるようがんばるので庭を見ましょうと励まし私、ケアマネ、家族で本人を庭へ移動した。涙を浮かべ「庭を見られて良かった。ありがとう。」と言葉が聞かれた。翌日、肺から出血し麻薬投与が開始され家族に見守られながら永眠された。後日訪問時、香典返しの挨拶状に庭を見た日のことが記載されており庭を見た後「幸せな人生だった。」と話していたことが分かった。 2023年2月投稿 「思い出の一場面」 ひとりでも自宅にいたいと思う利用者さんの気持ちが伝わってくるエピソードです。 24時間緊急対応の当番は電話が鳴るとビクビクする。何年やっていても緊張する。そんな中、Aさんからの緊急電話はなんだかホッとしてしまう。よく緊急電話をかけてくるAさん。尿カテトラブルが多く、呼ばれるのは大抵尿漏れ。夕飯時に呼ばれることが多く、またかぁ、という気持ちになるけれど、「こんな時間に悪いねぇ。」と申し訳なさそうに言うAさんの顔を見ると、そんな嫌な気分は吹き飛んでしまう。ある時、いつも通り夜に呼ばれて処置をしていると犬の遠吠えが聞こえてきた。そこから、かつてラブラドールを飼っていたと話し出すAさん。奥さんも子どももいて、よくラブラドールを家の庭で走らせていたという。「家の周りぐるぐる回るんだけど、曲がり損ねて転んじゃって。妻と大笑いしたよ。13年間、楽しませてもらったよ。」と嬉しそうに話すAさん。楽しい話なのになんだか切なくなり泣きそうになってきた。広い家に一人暮らしのAさん。話を聞いていて、楽しかったころの情景がパッと頭の中に浮かんできた。思い出たくさんの家で、少しでも長く過ごせるようお手伝いしていきたいと切に思った出来事だった。 2023年2月投稿 「優しく切ないけれど、温かい話」 相手を想うからこその奥様の配慮と、その優しさに気付きながらも配慮したご主人。どんな時でもお互いを想い合う夫婦に胸が温かくなるエピソードです。 ALSの60代男性。点滴加療の入院中に、可愛がっていた小鳥が突然死んでしまいました。奥さんと子どもは「とても可愛がっていたので、悲しんで気落ちすると病状も進行してしまう」と心配しました。そこで退院までに同じ種類の小鳥を手配して取り繕うことにしました。皆ハラハラしましたが、ご主人は亡くなるまで特に変わりなく小鳥に接していたので安心していました。初盆参りの時に奥さんは「小鳥が変わっていたことに本当は気が付いていたと思います」「主人にもっと優しく接することができたら良かったのに」と涙を流されていました。それから1年と経たないうちに、奥さんから私を看取って欲しいと驚きの連絡がありました。末期の肺がんでした。3ヵ月後、気丈で美しい最期を子どもさんとともに看取らせていただきました。命の儚さについて、改めて考えさせられた小鳥とご主人、そして奥さん。きっとどこかで再会しているはずだとスタッフ一同、信じています。 2023年2月投稿 利用者さんとそのご家族の想いを支える 今回は、投稿者の皆さんが利用者さんを大切にする姿勢が垣間見えるお話ばかりでした。訪問看護では、利用者さんやそのご家族の立場、背景、想いなどをくみ取って理解し、それぞれにあった支援をしていくことが求められます。正解がわからず模索するケースも多い中で、勇気づけられるエピソードですね。 編集: 合同会社ヘルメース イラスト: 藤井 昌子 

看取りの作法2024 グリーフケアと支援の実践【セミナーレポート 後編】
看取りの作法2024 グリーフケアと支援の実践【セミナーレポート 後編】
特集 会員限定
2024年12月17日
2024年12月17日

看取りの作法2024 グリーフケアと支援の実践【セミナーレポート 後編】

2024年9月20日に開催したNsPace(ナースペース)主催オンラインセミナーでは、「看取りの作法2024 〜習得のための理論と実践〜」と題し、看取り支援に必要な基礎知識を教えていただきました。講師として登壇してくださったのは、家庭医療専門医で訪問診療専門クリニック院長の田中公孝先生です。 セミナーレポート後編では、前編に続いて看取りの対応にあたって知っておきたい理論と、実践に際して役立つ考え方をまとめました。 ※約75分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 >>前編はこちら看取りの作法2024 終末期・看取りの基礎知識【セミナーレポート 前編】 死前教育を実践する 死前教育(看取り直前の経過の説明)は、看護師のみなさんにもできるようになってほしい対応のひとつです。具体的には、看取りパンフレットを使いながら、死亡前の「1週間以内」「48時間以内」に現れやすい以下のような症状や体の状態を説明します。 【死亡1週間以内】 ・ADLが低下する(トイレに行けなくなる) ・水分摂取ができなくなる・発語が減少する・見た目が急激に弱ってくる・意識障害が起こる  【死亡前48時間以内】・血圧が低下する・一日中、反応が少なくなってくる・脈拍の緊張が弱くなり、確認が困難になる ・手足の末梢冷感・チアノーゼが認められる・死前喘鳴が出現する(ゼェゼェという痰が絡むような音が聞こえる)・身の置き所がない様子で、手足をバタバタさせる(「せん妄」状態に陥る) これらをご家族が前もって理解できていると、看取りのときがきても慌てにくくなります。 私の場合は基本的に週に1回往診するので、タイミングを見計らい、できれば土日に入る前に死亡前1週間以内にみられる変化についてご案内しています。また、「1週間以内に看取りになる可能性が高い」と判断したときは、併せて「もうそろそろ、葬儀業者を検討しておくことをおすすめします」とお伝えすることもあります。少し遠回しな表現ではありますが、これによりご家族は「死期が近づいていること」を感じ取り、看取りの準備をしたり、覚悟をしたり、気持ちの整理をするきっかけになることが多いと感じています。 >>関連記事看取りのパンフレットについては以下の記事をご参照ください看取りの作法 ~ 最期の1週間 グリーフケアを意識する 人は、死別をはじめ愛する人を失ったとき、大きな悲しみ(悲嘆=グリーフ)を感じます。その後、特別な精神状態の変化を経て、長い時間をかけて悲しみを乗り越えるのです。この悲嘆のプロセスを「グリーフワーク」、悲嘆をケアすることを「グリーフケア」といいます。 グリーフケアは、看取り支援の大切な最後のプロセス。看護師のみなさんにはその技術をきちんと身につけ、意識的に取り組んでいただきたいと考えています。訪問看護は病院とは違い、四十九日にお花を送る、弔問することもあるくらい利用者さんやご家族との距離が近い存在なので、死前・死後のグリーフケアをぜひ大切にしてください。具体的には、以下を実践してみましょう。 死前のグリーフケア 亡くなった後の世界を想像するよう働きかけることをはじめ、ご家族が心構えできるように促します。ご家族の中には相続に関する問題を抱えていたり、最期にしてあげたいことがあったりと、それぞれ異なる状況や想いを持っています。そのため、訪問を通してご家族に話し合いのきっかけを提供し、考える時間を設けることが重要です。また、死生観は、葬儀の参列や故人の顔を見届けるなどの経験を通じて深まるとされています。私たち専門職も多くの方のお看取りに関わる中で、こうした意識を持ち、死生観を養っていくことが求められます。 死後のグリーフケア 死後にご家族の悲嘆が長引かないよう、感情の整理や表出を促すことが大切です。葬儀や四十九日といった節目は、親族や近しい人々が集まるための協力を仰ぐ機会となり、「死に対する感情の表出」を支える場として役立っているといわれています。私たち医療職も、こうした感情表出を手助けできるよう、「がんばりましたね」と声をかけたり、エンゼルケアの場でお話しいただいたりすることで、悲しみを抱え込まずに表現してもらえるよう努めていきましょう。 なお、グリーフケアは医療・介護職の心のケアにもつながります。支援の内容を振り返りつつ、ご家族をフォローする中で「上手に支援ができた」「満足していただけた」と思えるケースを増やせるとよいと思います。 看取り支援の実践に役立つ考え方 最後に、実際に支援を行う際のポイントをご紹介します。 看取りの現場でつまずきがちなポイント 看取り支援でとくにつまずきがちなのが「初回訪問時の見立て」「ギアチェンジ(利用者さんの体調が急激に悪くなる)の見極め」「亡くなる直前の説明」です。一定の経験を積むまでは、これらのタイミングでは慣れたスタッフに伴走してもらうことをおすすめします。 ちなみに私は、急変に備えて在宅コンフォートセットを準備しています。みなさんには、麻薬やステロイド、抗不安薬の使い方など、一つひとつ経験を通じて覚えてもらえたらと思います。 カンファレンスでトラブルを防ぐ 事業所内でカンファレンスを行い、急変時の予測をしておくのもおすすめです。例えば「排泄介助の負担が増えて、訪問看護やヘルパーの介入頻度が増えそう」「急に看取りとなってご家族が慌てるのでは」といった具合ですね。現状をふまえて今やるべきこと、そして次に予測される展開を考えれば、焦りやトラブルを軽減できるはず。私の場合は、常に看取りまでの全体の流れを予測しています。丁寧に見通しを立てて準備をしておけば、時間外対応も減ってバタバタしにくくなります。 また多職種でデスカンファレンスを開催することも大切です。私はオンラインで行うことが多く、時間がない中でも実施しやすいのでおすすめです。クリニック側はどうみていたのか、医師がどう判断していたのかを知ると、今後に活かすことができます。 療養場所の変更を常に検討する 自宅で看取る方針を定めた後も、緩和ケア病棟への入院の可能性は常に意識すべきです。逐一ご家族に状況を確認し、介護力が不足している、症状コントロールが難しいなどと判断した場合は、入院の選択肢を提示できることも大切です。「在宅看取りがベスト」と決めつけるとご家族とのすれ違いを招きかねません。十人十色であることを念頭に置き、複数の関係者でディスカッションや振り返りをしながら検討してください。 * * * 看取りの支援では、医療技術だけでなく、コミュニケーションも重視されます。今日のセミナーを参考に、どういうコミュニケーションをとるのがよいか考え、明日から少しずつでも実践していただけたらうれしいです。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

看取りの作法2024 終末期・看取りの基礎知識【セミナーレポート 前編】
看取りの作法2024 終末期・看取りの基礎知識【セミナーレポート 前編】
特集 会員限定
2024年12月10日
2024年12月10日

看取りの作法2024 終末期・看取りの基礎知識【セミナーレポート 前編】

2024年9月20日に開催したNsPace(ナースペース)主催オンラインセミナー「看取りの作法2024 〜習得のための理論と実践〜」。家庭医療専門医で訪問診療専門クリニック院長の田中公孝先生を講師にお迎えし、訪問看護師が看取り支援をより身近な業務として捉えられるように必要な基礎知識を教えていただきました。 セミナーレポート前編では、看取り支援にあたって知っておきたい理論や田中先生が現場で意識しているポイントなどをまとめました。 ※約75分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】田中 公孝先生杉並PARK在宅クリニック 院長/日本プライマリ・ケア連合学会認定 家庭医療専門医滋賀医科大学卒業。2017年から東京都三鷹市で訪問クリニックの立ち上げに参画し、2021年4月には訪問診療に特化した杉並PARK在宅クリニックを開業。すべての患者さんに「最期までその人らしく過ごせる在宅医療」を提供することを目指す。 「病の軌跡(がん、非がん)」を理解する 看取り支援に必要な知識としてまず挙げられるのが、病の軌跡。「がん」「非がん」の2パターンの軌跡を理解しておくと、看取りの流れをイメージしやすくなります。 がんの軌跡 がんの軌跡の特徴は、身体機能が非がん疾患と比べて長い期間保たれ、その後亡くなる直前に急速に悪化する点が挙げられます。機能が急速に低下する期間は、平均して約2ヵ月ともいわれており、若い方の場合は急激に悪化するため、この期間が短くなるケースにもしばしば遭遇します。一方、ご高齢の方では、がん細胞の進行も老いてゆっくりなのか、悪化のペースが緩やかになることもあります。 また、がんの悪液質を緩和するステロイド治療を行った場合、食欲が回復したり体を動かせたりするようになり、亡くなるまでの期間が1、2ヵ月ほど延びることもあります。しかし、原則として最期の2ヵ月間は急速に機能が低下し、排泄介助が必要になる、疼痛が悪化するなど問題に直面する機会が増えていきます。 非がん疾患の軌跡 非がん疾患の軌跡の特徴は、予後予測が難しい点が挙げられます。例えば心・肺疾患では、急性増悪を繰り返しながら徐々に機能低下が起こり、最後は比較的急な経過を辿るケースも見られます。一方、認知症・老衰の場合は、誤嚥性肺炎で一度口から食事がとれなくなっても、状態が安定して再び食事ができるようになる方もいます。そのため、ご家族には亡くなる可能性についてお伝えする一方で、機能が一時的に持ち直す可能性もあることを事前に説明しておくとよいでしょう。 「全人的苦痛(トータルペイン)」を活用する 全人的苦痛とは、利用者さんの苦痛を総合的に捉えるための概念のこと。「身体的苦痛」「社会的苦痛」「スピリチュアルペイン」「精神的苦痛」の4つに分類され、密接に影響し合っているという考え方です。例えば、がんの症状に伴う疼痛や息苦しさ、倦怠感などの身体的苦痛がある場合も、精神的、社会的、スピリチュアルな要因を含めたすべての側面を考慮する必要があります。適切なケアを提供する上で役に立つ考え方なので、ぜひ活用してください。 >>関連記事全人的苦痛(トータルペイン)の詳しい解説については以下をご参照ください。トータルペインでとらえる 終末期の現場で医師が考えていること 看取り支援の現場で私が意識しているポイントもお伝えします。 がんの症状 「肺がんは呼吸器に症状が現れる」「膵臓がんは強い痛みを伴う」など、一口にがんといっても種類によって症状は異なります。そのため、がんの種類や治療経過(手術歴、放射線治療や化学療法の有無や程度)を必ず確認します。みなさんも、各がんの特徴やおもな症状は押さえておきましょう。 多職種連携 終末期には訪問看護、訪問薬局、ケアマネジャーなどさまざまな職種の方々と方針を共有し、一丸となってご家族をサポートします。このとき、連携先はできるだけ看取りの経験があるところを選んでいます。 在宅看取りが可能か 在宅での看取りでは、家族の介護力や覚悟が問われます。早い段階での要介護認定を受けることをはじめ、各種制度を最大限活用できるよう環境を整えることも必要です。これらの条件を総合的に考慮し、「在宅で看取りきれるか」を常に考えています。 なお、緩和ケア病棟へのエントリーは、基本的にすべてのケースで行います。レスパイト入院をはじめ、在宅看取りを希望していても状況に応じて利用を検討する可能性があるためです。 利用者さんとご家族の認識に向き合う 告知の判断 私は、認知機能に問題がある利用者さんを除いて、基本的に告知はすべきだと考えています。とくにご本人が自身の体調の異変を感じているにも関わらず、ご家族から「落ち込むから伝えないでほしい」と要望がある場合は、本当に告知なしでよいかを丁寧に確認します。ちなみに、ご本人が違和感を覚えているのに告知しなかったケースは私の在宅医療のキャリアではほとんどなく、告知がよい結果に結びついたケースは多いです。ご家族に踏み込んだ話をするには医療者としての覚悟や経験が求められますが、利用者さんやご家族にとっての最善を考えて行動してください。 なお、告知と「予後を伝えること」は別の話です。ご家族には予後について必ず説明しますが、利用者さんにはご本人から強い要望がない限り伝えておらず、伝えなくてもうまくいくケースが多いです。 家族の受容段階の確認 ご家族の認識にアプローチするには、「キューブラー・ロス-死の受容5段階モデル」に基づいて考えるのがおすすめです。 もうこれ以上治すための手段がなく、緩和ケアに意識を切り替えていく、もしくは余命が幾許もないという受容の段階に進んでもらうために、私は早い時期にがんの特徴と看取りまでの経過をお伝えします。亡くなるまであと1ヵ月ほどの段階で「病の軌跡」について話し、「看取りのパンフレット」もお渡しして、「看取りの1週間前になったらこういう説明をさせてもらいます」と概要を伝えるんです。そうすればご家族も、「もうすぐそのときがくるんだな」と心構えできますから。 >>関連記事看取りのパンフレットについては以下をご参照ください。看取りの作法 ~ 最期の1週間キューブラー・ロス-死の受容5段階モデルの詳しい解説については以下をご参照ください。患者・家族の認識とグリーフケア 次回は、看取りのパンフレットを使用した死前教育やご家族へのグリーフケア、看取り支援の実践に役立つ考え方について説明します。>>後編はこちら「看取りの作法2024 グリーフケアと支援の実践【セミナーレポート 後編】」 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

心に残る利用者さんのエピソード【つたえたい訪問看護の話】
心に残る利用者さんのエピソード【つたえたい訪問看護の話】
特集
2024年11月5日
2024年11月5日

心に残る利用者さんのエピソード【つたえたい訪問看護の話】

訪問看護をしていると、いろいろな利用者さんとの出会いと別れがあります。「みんなの訪問看護アワード2023」に投稿されたエピソードから、いつまでも私の胸に残る思い出深いエピソードを5つご紹介します。 「ミラクルな1日」 利用者さんにとって、心の中に溜めていた周囲への感謝や喜びが溢れでた1日だったのかもしれません。 27歳訪問看護師3年目、看護師になって7年目。看護学生時代の担任の先生が訪問看護ステーションを始められ、一緒に働いている。いろんな利用者さんに出会ってきた。その中でも印象深い利用者さんがいる。誤嚥性肺炎で余命1ヵ月と言われ、在宅へ帰ってきた。物腰柔らかな奥様としっかり者の娘様が手厚く介護されていた。在宅で療養中も誤嚥性肺炎を何度も起こし、そのたびに補液や抗生剤を使用し回復されていた。自営で仕事一筋で過ごされ、とっても頑固。家族やスタッフにも感謝の言葉はあまりなく、いつも「悪態」をついて怒鳴っていた。段々と具合が悪くなっていき、ある日とてもミラクルなことが起きた。目がキラキラと輝き、家族やスタッフにたくさんのありがとうを言い、嬉しそうにたくさん笑っていた。余命1ヵ月と言われながらも7ヵ月頑張って過ごされ、その日の夜に家族に見守られ亡くなられた。「ミラクルな1日でした」と言った家族の顔と、ご本人の輝いた瞳が忘れられない。 2023年1月投稿 「訪問看護の中の密かな楽しみ」 お互いを想う気持ちや二人で物語を楽しむ一時が伝わってくるエピソードです。 もう亡くなってしまったけれど、忘れられない人がいます。私より一回りほど年上の女性。難病で声を失った彼女は日中いつも一人で、帰るときは決まって寂しそうでした。楽しめることはないかと、訪問の終わりの僅かな時間に、彼女の好きな本を読むことにしました。1ヵ月かけて好きな作者を知り、ご家族に手持ちの本を幾つか用意していただき、半年以上かけて一冊読み終えました。週2回の訪問なので前回の話を忘れていたりして、行きつ戻りつでした。私は彼女に楽しんで欲しくて、時々リアクションを入れたり感想を述べたり。彼女はいつも笑って応えてくださいました。読み切った後本を選んだ理由を尋ねると、私が好きそうだったからと。楽しんでもらうつもりが、楽しませてもらっていました。10年以上も前の話ですが、彼女の笑顔は今も鮮明に覚えています。サービス提供者も沢山のものをいただいていることを深く心に刻むことができた大切な思い出です。 2023年2月投稿 「笑顔がみられますように」 コミュニケーションを工夫していった結果、利用者さんからの意思表示が生まれ、最後には意思疎通ができたのかもしれません。不満話に笑顔を見せる利用者さんが印象的です。 50代、くも膜下出血の後遺症から遷延性意識障害になったYさん。ご主人が日中お仕事に行かれるお昼間に排泄援助と胃ろうから栄養剤を注入するため、週3回訪問を担当。意思表示もなくコミュ二ケーションもとれません。そこで、快の刺激でコミュニケーションがとれないかなあと考えました。足裏には全身のツボがあることから、注入食の前に足裏とふくらはぎのマッサージをしました。数ヵ月たったころに、何となく目が合うような感じがありました。その日は何の気なく、私の主人の不満をYさんのご主人と重ね合わせて話しかけました。すると口をいがめて声をあげて笑うんです。一瞬、え!とびっくりしました。笑うのは、なぜかご主人の不満話なんですが、通じるものなんだと思いました。残念ながら再びシャント不全を起こしてしまい入院されましたがしばらくは笑顔を見せてもらえて私の訪問看護の中では忘れることがない出来事です。 2023年2月投稿 「認知症のおばあさんが放った言葉」 人の言葉には考え方や捉え方を変容させる力があることを認識するエピソードです。 理学療法士として訪問していた認知症のおばあさんとのお話です。その方は認知症で記憶力が低下しており、有料老人ホームに入居されていました。約2年間一緒にリハビリをしてきましたが、私の顔と名前を覚えられていないご様子でした。ですが、私のユニフォーム姿を見て「リハビリの人」という認識はできていたと思います。とても明るく、お話し好きでもあり、ときには私が悩み相談をしていることもありました。そんな中、自分の転機により退職することとなり、最後の日にお別れの挨拶をすると悲しそうな顔をされていました。ですが、「私は何でもすぐに忘れてしまうから悲しいのもきっと今だけ。そう思うともの忘れも悪くないなあ。」と返ってきました。この返答には大変驚き、身体がビビッとなったのを覚えています。この出来事以降、「認知症の方」に対する考え方や関わり方が私の中で大きく変わったように思います。これからも私の忘れられない一場面です。 2023年2月投稿 「訪問看護だからこそ」 利用者さんを看護師が観察するように、利用者さんも看護師をしっかりと見ています。だからこそ利用者さんから発せられた言葉だったのだと思うエピソードです。 病棟勤務から訪問看護に異動した私にとってSさんは病棟時代から関わっていた患者さんだった。訪問看護に異動してすぐにSさんの初回訪問から携わった。異動して不慣れな私の成長を見守っててくれていた。ある日Sさんが「やっと前の◯◯さんに戻ってきたね、病棟のころにいた時と近くなってきた」と言った。肩に力が入っていた私を心配していた、と言ってくれた。思わず涙してしまった時、Sさんから「◯◯さんの良さは訪問看護だからこそ伸びるんだと思う。時間に、患者に追われ過ぎてた◯◯さんよりずっと今の方が楽しそうだよ。自信を持って続けたらいいと思うよ」と笑って言ってくれた。元々准看護師だった私が、正看護師合格とともにずっとやりたかった訪問看護に異動願いを出し、念願叶って訪問看護師になれたものの一つも看護師としての自信がなかった私にとって、Sさんの言霊がとても胸に響いた。悲しいことにSさんは昨年逝去してしまったが、これからも続くであろう訪問看護人生で絶対にSさんのことは忘れない。訪問看護ならではの利用者さんとの一対一の関わりを大事に、ずっとやりたかった訪問看護を続けていきたい。 2023年2月投稿 思い出は糧となる 人との出会いは、自分にとって一生の宝物になることも。自分を変えるきっかけや学びになるような出会いを積み重ねながら、思い出とともに今日もまた訪問看護に携わっていくのでしょう。改めて自分の中にあるたくさんの人とのつながりを思い返す、そんなエピソードでしたね。 編集: 合同会社ヘルメースイラスト: 藤井 昌子

訪問看護の緩和ケア&看取り 学べる情報まとめ
訪問看護の緩和ケア&看取り 学べる情報まとめ
特集
2024年10月22日
2024年10月22日

訪問看護の緩和ケア&看取り 学べる情報まとめ 疼痛管理、家族看護etc.

緩和ケア・看取りのケアは、どんなに経験を積んでもその度に学びをいただけるもの。訪問看護師だからこそできるケアや叶えられる希望があり、やりがいを感じている方も多いと思います。その一方で、ご本人・ご家族にとっての「最善」は何か、悩むことも多いのではないでしょうか。 NsPace編集部にも「緩和ケアや看取りについて知りたい」というご意見を数多くいただいており、これまで多くの記事を公開してきました。今回は、「何から読もう」と迷っている方に向けて、はじめにお読みいただきたい記事をピックアップしてご紹介します。ご本人・ご家族にとってはもちろん、看護師自身もともに豊かな時間を共有できるように、学びを深めていきましょう。 悩むことの多いケアに関する学びを深める 緩和ケアでは、多くの調整困難な苦痛が出現し、その対応や関わりに苦慮します。NsPaceでは緩和ケアを系統的に学んでいただけるように、「がん疼痛」「がん身体症状」「精神症状」「スピリチュアルペイン」についての解説記事をシリーズでお届けしています。 例えば、以下のような記事があります。 がん疼痛の種類を知ろう【がん身体症状の緩和ケア】 事例をとおしてがん疼痛に関する基本的な知識を学べる内容になっています。適切な薬剤調整によって疼痛の緩和、QOLの向上が叶うことがあります。日々関わる看護師が痛みの特徴を知り、痛みをどう聴き、どうアセスメントするかが、医師の効果的な薬剤選択、苦痛が緩和できるかに大きく関わってくるでしょう。この記事も含めて「がん身体症状の緩和ケア」に関する記事は4本あります。ぜひご活用ください。 せん妄への対応【精神症状の緩和ケア】 せん妄は、ご本人・ご家族、支援者にも多大な苦痛や負担を与えてしまうことが多く、在宅療養の継続を断念する大きな要因にもなります。改善できる要因があるにもかかわらず、見過ごされたり、「終末期せん妄」と判断されたりして、介入されずに悪化させてしまうことも。早期の積極的な介入により、せん妄の改善が見込めるため、看護師によるアセスメントが重要です。ぜひ知識を深めていただきたいテーマです。 その他の緩和ケアシリーズ記事は、以下からお読みください。>>緩和ケアシリーズ一覧https://www.ns-pace.com/series/palliative-care/ がん性創傷のケア アセスメントと痛み・滲出液・出血・臭気対策(会員限定) 皮膚・排泄ケア認定看護師の岡部美保さんにご執筆いただいた「在宅の褥瘡・スキンケア」シリーズでは、がん性創傷についても症例写真を交えながらケアのポイントを詳しく解説いただいています。創傷がどんどん広がる、浸出液が増える、臭気がつらい…。さまざまなご本人の苦痛、ご家族のケアの負担など、困難を伴うことが多いがん創傷ケア。「少しでもよい方法を」と日々悩みながら工夫されている分野ではないでしょうか。 ターミナル期における家族ケアを深める 緩和ケアでは、ご家族を本人と同等、またはそれ以上に苦痛を抱える「ケア対象」と考えます。訪問看護では、ご家族との関わりに苦慮することも多いはず。家族ケアについて学びを深められるコンテンツをピックアップしました。 妻の病状を受け入れらない夫に対する関わり【家族看護 事例】 終末期の病状を家族が受け入れられないとき、家族の言動を「現象」としてそのまま受け止めて対応することもあるでしょう。しかし、その言動の奥にあるご家族の思いや背景、関係性に焦点を当ててアセスメントとアプローチを重ねると見えてくるものがあります。関わる看護師自身の価値観や感情が影響しているという認識も必要です。 「家族看護シリーズ」では、「渡辺式/支援モデル」を使用した事例展開をとおして、関わりに困ったときの支援の方策を導き出す手法を学びます。シリーズ冒頭では、家族看護に関する総論(家族看護における大切な視点、「渡辺式/支援モデル」についての解説)もありますので、あわせてご覧ください。 >>家族看護シリーズhttps://www.ns-pace.com/series/family-nursing/ 【セミナーレポート】ご家族を支えるために看護師がすべきこと -ターミナル期における家族看護-(会員限定) 具体例を交えながら、ターミナル期における家族看護のポイントについて紹介しています。Vol.2のQ&A記事では、訪問看護師が迷いやすい場面に関する具体的なノウハウも紹介されていますので、あわせてご参照ください。これから緩和ケア・看取りのケアに取り組む方にも、知っておいていただきたい内容を学べます。 【緩和ケア座談会 前編】子どもに親の死をどう伝えるか/外国人家族のケア ホスピスケアに注力している「在宅療養支援ステーション楓の風」の経験豊富な訪問看護師さんたちに普段働く事業所を越えて集まっていただき、座談会形式でお話を伺いました。「子どもに病気や死をどう伝えるか」や「外国人家族への関わり」といった苦慮するテーマに対して試行錯誤の過程も踏まえながらご経験談をお話しいただいており、学びを深められる記事になっています。 看取りとの向き合い方 いよいよ最期が近づいてきたとき、訪問看護師としてどのように対応すればいいのか。特に、訪問看護師になったばかりの方は迷うことでしょう。コラムやセミナーレポートをぜひ参考にしてください。 看取りの作法 ~ 最期の1週間 杉並PARK在宅クリニック院長の田中公孝先生に、家庭医療専門医の視点から、看取りの作法について解説いただいているコラムです。最期の1週間を迎えたとき、どのような説明をご家族にするか。「看取りのパンフレット」の活用方法や、「訪問看護師に期待すること」などについて知ることができます。 【セミナーレポート】看取りの作法 Q&A≪特別先行公開≫(会員限定) 同じく田中先生にご登壇いただいたセミナーのレポート記事も公開しています。セミナーレポートでは、セミナー開催時に寄せられた訪問看護師の皆さまからのご質問への回答も豊富に掲載されていますので、ぜひ参考にしてみてください。 視点を広げるために役立つ情報 緩和ケアでは、「視点を拡げること」も力になります。ちょっと視点を変えたコンテンツもピックアップしました。 アロマテラピー 代表的な精油&訪問看護での活用法【セミナーレポート後編】(会員限定) アロマを手軽に活用する方法を学べます。利用者さんやご家族にリラックスいただくことはもちろん、場の心地よさを整えることは、心のケアにもつながります。エンゼルケア時の清拭にアロマを活用することで、ご家族が故人との思い出を振り返る手助けになることも。アロマの基礎知識や具体的な使用方法、注意点、看護師自身のアロマケアについても紹介されています。 【学会レポート】第6回 日本在宅医療連合学会大会「在宅医療を紡ぐ」 在宅分野の学会ではさまざまな活動が紹介されており、同じような悩みを抱えながら活路を見出そうとしている方々から勇気をもらえることがあります。看取り・緩和ケアに関するプログラムの様子もご紹介しています。ぜひ、今後のご参考にしてみてください。 * * * 悩み・苦しむことが多く、時には負担に感じることもある反面、訪問看護師としての醍醐味ややりがい、多くの学びをいただく緩和ケア・看取りのケア。ご本人・ご家族にとっての最善に関われたと思えることが看護師としての大きな力になっていきますよね。学びをとおして、その喜びがより広がっていくことを願って、これからもコンテンツをお届けしていきます。 執筆・編集: NsPace編集部

理想の看護&目標エピソード【つたえたい訪問看護の話】
理想の看護&目標エピソード【つたえたい訪問看護の話】
特集
2024年9月17日
2024年9月17日

理想の看護&目標エピソード【つたえたい訪問看護の話】

看護師としての目標は勤め先や関わる仕事内容によっても変わってきますが、皆さんはどのような目標を設けていますか?「みんなの訪問看護アワード2023」から、「どういう看護師で在りたいか」「どういう看護を届けたいのか」という目標を定め、それを体現しようとしているエピソードを5つご紹介します。 「60点からのBCPスタート!」 策定まで試行錯誤が必要なBCP(業務継続計画)。定めた目標を段階的に評価して達成していくことの重要性を感じられるエピソードです。  「当事者のようで当事者でない」兵庫県西宮市出身の私は、阪神淡路大震災の時は千葉におり、東日本大震災の時は西宮に戻っていたので、まだ大きな揺れを経験したことがありません。自分ごとにできない弱みから、災害対策マニュアルの作成にも本腰が入らず、台風や停電の時も「大丈夫だろう」と正常性バイアスにまんまとハマってしまう日々でした。そんな私がBCP策定に着手できたのは、この当事者意識の薄さを乗り越えたい自身への挑戦でもありました。訪問看護サミットの視聴も大きなきっかけとなり、BCP策定を通して「出逢うべくして繋がった」多くの方たちの後押しが原動力となりました。BCPはやればやるほどその壮大さに圧倒されます。最初に自機関のBCPができた時には、「計画だもの。満点を目指さなくて良いんだ。60点からのBCPスタート!」と言い聞かせました。コレは、訪問看護の利用者の意思決定支援における、ゼロかヒャクかで決められない人の人生の支え方に通じます。利用者を支えている訪問看護スタッフを支える管理者の仕事として、BCPを自分ごとに昇華していけるよう挑み続けたいと思います。 2023年1月投稿 「訪問看護の力」 利用者さんにとっては入院生活と自宅生活は精神的に大きな違いがあり、訪問看護師として在宅生活の支援に注力したいという目標に共感できるエピソードです。 これまで回復期リハビリテーション病棟や地域包括ケア病棟で勤務し、さまざまな理由で自宅退院を諦める方を見てきました。昨年8月に訪問看護師となり、これまでできないことばかりに注目し自宅に帰れない理由を探していたのではと思いました。病棟勤務の時に入院されていた方に訪問する機会があり、自宅で生き生きと暮らす姿に感動しました。認知症のため離床センサーをつけていた方にお会いした時は、目の輝きに驚きました。病棟では自由が制限され、固い表情だったのだと思います。その方が体調を崩し医師から入院を強くすすめられた時、絶対に入院しないと譲らず、点滴と体調管理のために連日訪問することになりました。入院せずに普段の生活に戻ることができた時、訪問看護の力を強く感じました。この経験を生かし、患者の「家にいたい」と願う気持ちに寄り添える看護師として成長していきたいです。 2023年1月投稿 「取り憑かれている私」 利用者さんの人生や生き様が、訪問看護師としての人生の目標や生き方を決めるきっかけになったエピソードです。 私には、勝手に「魂の言葉」と名づけ、取り憑かれているある利用者さんの言葉がある。私が30代前半で訪問看護ステーションに配属になり、1人立ちという単独訪問ができるようになったころ、神経難病の方のお宅へ訪問していた。その方は社会的地位も高く、知的で穏やかで若輩者の私にも丁寧に接してくれ、私の声がけのリハビリも一生懸命行ってくれた。進行の予防に取り組みながら、病気についても調べ、最新治療の情報を集めたりと積極的に向きあっていた。排泄が上手にできなくなり処置が必要になったころ、その方は「治療は諦めたけど、生きるのは諦めない」という言葉を言った。その方は、程なく入院し胃ろうを造設、気管切開をし、亡くなった。訃報を聞いたその時は、最後まで生きることに真剣に向き合った、「生きることを諦めなかった」結果だと思った。十数年たった今、「生きることを諦めない」とは、自分を知り、生きるということに向き合い、自分の意思で生き方を決めることだということがわかる。私は「魂の言葉が聞きたい」という思いで今も訪問看護に就いている。 2023年1月投稿 「生きた看護が生まれる場所」 看護師としてどういうスタンスで看護を行うか。目標や心がけは接遇や所作に表れます。そのことを明確に体現されているエピソードです。 在宅で療養する患者さん、介護をされている家族が安心して過ごせるように手助けをするのが訪問看護師の役割だと思う。そんな私が訪問時に心がけていることは特別なことをし過ぎないことである。医師からの指示や、複雑で家族ができないような処置をしているときは私の看護は始まっていない。家族に「私にもできそう」と思ってもらえるケアができたときが看護の始まりである。例えば、痰がうまく出せない患者さんには横向きになってもらい背中を擦る。呼吸が楽になるようにストレッチをして体の緊張ほぐす。この時にゆっくりと丁寧な所作で行う。なにをしていたか分からないような複雑な動きはしない。ケアを見ていた家族が「あれをしたら気持ちよさそう、楽になりそう」と思ってもらえたらケアは成功だ。ケアをやってみようと思ってくれる家族が増える。私がいない時間でも私の看護が生き続ける。そんなやさしい手が増えますようにと思い、日々訪問している。 2023年2月投稿 「看護師のゆらぎ」 目標を掲げることは、利用者さんに対してだけではなく、職場内のスタッフにも好影響を及ぼすことがわかるエピソードです。 一次病院から経験8年目にして在宅に飛び込んできた看護師。医師が側にいない、検査がすぐにできない環境で一人で訪問すること、検査ができない中でのアセスメント、すぐに苦痛の緩和ができない。アセスメント能力、コミュニケーション能力も今までよりも必要になると痛感し自信も崩れ看護師である自分に対して「今までの自分がクソだった」と泣きながら話すこともあった。個別面談や毎朝チームでのミーティングも行ったり泣きながら、笑いながら日々奮闘している。最近はチームに向けた勉強会を開催したいと自ら発信し実施した。ほかのスタッフ達も入職して一年は特に「目の前の人と向き合うことは自分自身と向き合う、自分自身を知る一年だった」と話していた。彼女自身のスキルアップと同時に彼女自身が自分と向き合えるようチームでこれからも伴走していきたい。そして在宅未経験な看護師達が地域に飛びこめる環境を整えていきたい。 2023年2月投稿 目標は成長につながる 「なぜ看護師という職業に就いたのか?」ということを振り返るきっかけになりそうなエピソードばかりでした。「仕事=賃金をもらうための対価」としてだけ捉えると、ルーティンワークになりがちですが、仕事はひとつの自己表現ともいわれています。時間をかけてやるからには「自分が成したいこと」を見つけ、目標として目指していきたいものですね。編集: 合同会社ヘルメースイラスト: 藤井 昌子

ニャースペースのつぶやき
ニャースペースのつぶやき
特集
2024年7月30日
2024年7月30日

漫画「そっけなかったけれど…」ニャースペースのつぶやき【訪問看護あるある】

あとからわかることもあるご家族の気持ち 利用者さんのご家族は、状況を受け入れられなかったり、戸惑っていたりして、うまくコミュニケーションがとれないことも…。時間が経ってから本音を伺えることもあるにゃ。 ニャースペース病棟経験5年、訪問看護猫3年目。好きな言葉は「猫にまたたび」「わかる!」「こんな『あるある』も聞いて!」など、みなさんの感想やつぶやき、いつでも投稿受付中にゃ!>>投稿フォーム

受賞作品漫画「幸せとは」【つたえたい訪問看護の話】
受賞作品漫画「幸せとは」【つたえたい訪問看護の話】
特集
2024年5月29日
2024年5月29日

受賞作品漫画「幸せとは<後編>」【つたえたい訪問看護の話】

NsPaceの特別イベント「第2回 みんなの訪問看護アワード」で募集した「つたえたい訪問看護の話」。今回は、川上 加奈子さん(よつば訪問看護リハビリステーション/神奈川県)の審査員特別賞エピソード「幸せとは」をもとにした漫画の後編をお届けします。 「幸せとは」前回までのあらすじ嚥下機能の低下に伴い、肺炎を繰り返していた利用者のともみさん。長男の圭介さんと次男の裕介さんは、医師から胃ろうの造設と施設の検討を提案されましたが、ともみさんの「うちに帰りたい」という言葉を受けて悩んでいました。長男の圭介さんから電話で相談を受けた川上さんは…。 >>前編はこちら受賞作品漫画「幸せとは<前編>」【つたえたい訪問看護の話】 幸せとは<後編> 漫画:さじろう山形県在住のイラストレーター/グラフィックデザイナー/漫画家。都内デザイン会社を経て現在フリーランスで活動中。『ダ・ヴィンチ』『東京カレンダー』『Men’s NONNO』『SUUMO』など多数の雑誌のほか、釣り具メーカー『DAIWA』『LIFE LABEL』などのWebやYouTube、CMでもイラスト・漫画制作を手掛ける。 エピソード投稿:川上 加奈子(かわかみ かなこ) よつば訪問看護リハビリステーション(神奈川県)ともみさんの「だってずっと幸せだから」の言葉を聞いた瞬間に、「やられた!胸が突き抜かれた!」と思いながら、「みんなの訪問看護アワード」が頭をよぎり、この感動をエピソードにして、また銀座に行かなければ!と思っていました(笑)。願いが叶って審査員特別賞に選んでいただいたとわかった時には、一番にともみさんと息子さんたちに報告しました。圭介さんは「本当にあのエピソードが受賞したんですか!すごいなぁ。ねえ!あなた(ともみさん)の話が選ばれたんだってさ」とおっしゃり、皆さん喜んでくださいました。最近はケーキもつぶして食べられるようになってきていたため、表彰式の翌日にはケーキを3種類持っていき、「喧嘩しないで食べてね」とご報告に行きました。その後訪問に行った際には、「全部のケーキを少しずつ食べさせてもらったの。チョコレートは苦かった。チーズケーキは久しぶりに食べておいしかったけど、やっぱりショートケーキが好き。でも一番あんこが好き」と素敵な笑顔を見せてくださいました。 >>「第3回 みんなの訪問看護アワード」特設ページ [no_toc]

受賞作品漫画「幸せとは」【つたえたい訪問看護の話】
受賞作品漫画「幸せとは」【つたえたい訪問看護の話】
特集
2024年5月28日
2024年5月28日

受賞作品漫画「幸せとは<前編>」【つたえたい訪問看護の話】

NsPaceの特別イベント「第2回 みんなの訪問看護アワード」で募集した「つたえたい訪問看護の話」。今回は、川上 加奈子さん(よつば訪問看護リハビリステーション/神奈川県)の審査員特別賞エピソード「幸せとは」をもとにした漫画をお届けします。 >>全受賞エピソードはこちらつたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!大賞・審査員特別賞・ホープ賞・協賛企業賞つたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!入賞 ※エピソードに登場する人物名等は一部仮名です。 幸せとは<前編> >>後編はこちら受賞作品漫画「幸せとは<後編>」【つたえたい訪問看護の話】 漫画:さじろう山形県在住のイラストレーター/グラフィックデザイナー/漫画家。都内デザイン会社を経て現在フリーランスで活動中。『ダ・ヴィンチ』『東京カレンダー』『Men’s NONNO』『SUUMO』など多数の雑誌のほか、釣り具メーカー『DAIWA』『LIFE LABEL』などのWebやYouTube、CMでもイラスト・漫画制作を手掛ける。 エピソード投稿:川上 加奈子(かわかみ かなこ) よつば訪問看護リハビリステーション(神奈川県) [no_toc]

ニャースペースのつぶやき【訪問看護あるある】
ニャースペースのつぶやき【訪問看護あるある】
特集
2024年4月9日
2024年4月9日

漫画「これだけは」ニャースペースのつぶやき【訪問看護あるある】

「当たり前」の生活を支える 訪問看護では、例えば「子どものお弁当を作りたい」など、利用者さんにとっての当たり前の生活や想いを支えることも大切だにゃ ニャースペース病棟看護経験5年、訪問看護猫3年目。好きな言葉は「猫にまたたび」「わかる!」「こんな『あるある』も聞いて!」など、みなさんの感想やつぶやき、いつでも投稿受付中にゃ!>>投稿フォーム

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