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【緩和ケア座談会 前編】子どもに親の死をどう伝えるか/外国人家族のケア

高齢化が進行し続けていることもあり、在宅での緩和ケアを選ぶ終末期の患者数が増加しています。そうした現場で日々奮闘する訪問看護師は、利用者さんやご家族との関わり方を通じて、どのようなやりがいや難しさを感じているのでしょうか。ホスピスケアに注力する「楓の風」で働く4人の看護師のみなさんに、印象に残っている利用者さん・ご家族との思い出を語っていただく座談会を開きました。前編では、終末期のご家族のケアに関するお話をご紹介します。 松田 香織(まつだ かおり)さん 在宅療養支援ステーション楓の風 金沢文庫/緩和ケア認定看護師外科や脳外科、一般病棟、救急外来などを経て、2021年に楓の風に入職。看護師歴約25年、内訪問看護歴1年中島 有里子(なかじま ゆりこ)さん 在宅療養支援ステーション楓の風 金沢文庫 副所長内科や外科、透析センターなどを経て、2020年に楓の風に入職。看護師歴約21年、内訪問看護歴約3年廣田 芳和(ひろた よしかず)さん第2エリア長/在宅療養支援ステーション楓の風 やまと 所長/緩和ケア認定看護師小児科病棟、循環器・呼吸器・血液内科病棟などを経て、楓の風に入職。看護師歴約29年、内訪問看護歴約13年 吉川 敦子(よしかわ あつこ)さん 第1エリア長/スーパーバイザー 化学療法科や婦人科、整形外科、脳神経外科、耳鼻咽喉科病棟などを経て、2008年に楓の風に入職。看護師歴約28年、内訪問看護歴約14年株式会社楓の風ホールディングス神奈川県を中心に、首都圏で通所介護、訪問看護、訪問診療、教育事業等を展開。「最期まで自分らしく、家で生きる社会の実現」に向けて、在宅療養支援を行う 右から、廣田さん、吉川さん、中島さん、松田さん 小1のお子さんにお母さんの余命を伝えるか ―ホスピスケアに力を入れている楓の風のみなさんは、多くの終末期の利用者さんやそのご家族と関わっていらっしゃると思います。まずは松田さんから、印象に残っている終末期の在宅看護について、教えてください。 松田: 私が印象に残っているのは、当時小学1年生だった息子さんがいらっしゃる40代の女性のケースです。病院で闘病されていたのですが、終末期はご自宅で過ごしたいというご本人の希望で家に戻って来られました。室内を自由には歩き回れず、ベッドかソファに座って過ごされていました。介護休暇を取得されたご主人が介護をされ、近所にお住まいのご主人のご両親がときどきお手伝いをされている、という状況でしたね。息子さんは当初、お母さんへの接し方が分からない様子で、距離をとっていることを感じました。 「息子さんにどれぐらいお話しされているのですか」とご主人に聞くと、病気のことのみで、予後については伝えていないとのこと。余命2~3週間と告知をされていたため、「子どもの多くは親の病気のことを知りたいと思っています。お手伝いしますので、検討してみませんか?」とお話ししました。その後、「子どもに伝えたい」とおっしゃってくださったので、絵本の活用をご提案しました。 ―どのような絵本を提案されたのですか? 松田: スーザン・バーレイの『わすれられないおくりもの』です。みんなから愛されている、物知りで困っている友だちを助ける優しさを持つアナグマのおじいさんが、ある日亡くなってしまいます。亡くなった後も、アナグマのおじいさんに教えてもらったことをみんなで思い出しながら生活していくという、死を悲しみだけで終わらせないお話です。 「この絵本を通して、お母さんの予後を伝えてみてはどうでしょう」とご提案したところ、お父さん(ご主人)が息子さんに絵本を読みながら伝えてくださり、意味を理解してくれたようでした。ただ、やはり息子さんは同じ空間にいてもお母さんに近寄れず、どう接すればいいか分からない様子だったんです。そこで、「水がほしいというときに持っていってあげると、お母さんはすごく喜ぶんだよ」と私からお話ししたり、お父さんから話していただいたりしました。その後、息子さんは私に「今日はお母さんにお水をあげたんだ」と報告に来てくれました。 お母さんに触っていいかどうかもわからないのだろうと思い、「手を握ったり、マッサージをしてあげたりしても大丈夫だよ」と話すと、息子さんはお母さんのほうへ少しずつ近づくようになり、夜は隣のベッドで一緒に寝るようになったそうです。「妻も息子もきっと嬉しかったと思う」と、お父さんから教えていただきました。 息子さんはお母さんの死まで涙を見せず ―こうしたシチュエーションで、子どもになかなか「親が亡くなること」を伝えられず悩む方は多いと思いますが、伝えることで子どもにどういったメリットがあるのでしょうか。 松田: そうですね、子どもは「幼いから」という理由で蚊帳の外にされがちですが、「自分が悪い子だから、お母さんが病気になった」と一人で抱え込んでしまうことがあります。伝えることで、そういった誤解や心の傷を防ぐことができます。今回のケースでも、「『息子さんのせいじゃない』ということを一番に伝えてください」と、お父さんにお願いしました。 息子さんはお母さんに積極的に関わるようになって、「お父さんの誕生日パーティーをお母さんと一緒にお祝いしたい」と企画して、ケーキを買いに行ってくれました。お父さんはよく泣いていらっしゃいましたが、息子さんはお母さんが亡くなるまで一切涙を見せずに、頑張っていましたね。 お母さんは、最後は苦しくなって「このまま楽になりたい」と言われて、点滴をやめてから2~3日後に亡くなられたのですが、「家族との時間を大事にできてよかった」とおっしゃってくださいました。 お亡くなりになった当日に私が訪問した際、息子さんは「お母さんが死んじゃったよ」と大泣きしながら伝えてくれました。息子さんの胸に手を当てながら「今までよく泣かずに我慢したね、頑張ったね。お母さんは、ずっとここ(息子さんの胸)にいてあなたを見ているから、何かあったら『お母さんだったら何て言うかな?』と考えるんだよ」と伝えました。お父さんも「そうだぞ、頑張ろうな」と伝えてくださって。 中島: 私も松田さんと一緒に訪問することがあったのですが、松田さんの丁寧な関わりによって、息子さんとお母さんとの距離が日に日に近づく様子が分かりました。最後はご家族みんなで悔いがないようにお母さんを看取ることができたんだなと、私も勉強になりました。 「死について」伝える絵本を年代別に用意 ―絵本を活用したご家族のケアについては、どのように学ばれたのでしょうか。 松田: お子さんとの関わり方の手法として、緩和ケア認定看護師の学校で学びました。死について学べる絵本は、探すと意外とあるんです。年代別に自分が伝えやすい絵本を2、3冊用意して活用しています。 吉川: その年代でしたら絵本という手法は有効ですね。年齢は異なりますが、昔、20歳の娘さんがいる終末期の女性を担当しました。ご本人の希望は、「どんなに自分の具合が悪くても娘には負担をかけたくない、自由にさせてあげたい」とのこと。お年ごろだった娘さんは夜遅くまで遊びに行って帰ってこない日もありました。 私は、もう少し娘さんにお母様の側にいてほしくて、「もう少し一緒に過ごしたほうが…」と利用者さんにご提案したのですが、「今のままでいい。人の家庭を土足で踏みにじらないでほしい」と言われました。利用者さんに嫌な思いをさせてしまい、別の看護師と交代したんです。最後まで関わることができず悔いが残っています。「亡くなる」という意味を上手にご家族に伝えられている松田さんの話を聞いて、今だったら、あのときのご家族に私はどんなふうに関われたのかなと考えさせられました。 松田: きっとそのお母様は娘さんの自由な姿を見られて幸せだったと思いますが、人によって解が違うことはわかっていても、看護師としては理想を言いたくなりますよね。それを押し殺すのは難しいことだと思うので、自分も吉川さんのように利用者さんの想いを尊重して引けたかどうか…。 中島: 20歳という年齢は、親とある程度の関係性ができているからこそ、介入が難しいかもしれませんね。 廣田: 私は今、末期がんのおばあさんを担当しています。離婚された息子さんと小学生のお孫さんがいて、そのお孫さんの面倒をみてきた女性です。でも自分が末期がんであることをお孫さんに言いたくないとのことで。1週間に1回だけ会いに行く息子さんの元妻に、自分の病気について知られたら、お孫さんが取られるかもしれないとおっしゃっています。松田さんならどうされますか? 松田: お孫さんに死について伝えるのではなく、まずは「おばあちゃんは病気だね、どんなふうに思っている?」とその子の気持ちを聞いてみるかもしれません。例えば、「だいぶおばあちゃんが弱ってきたから、もうすぐ死んじゃうのかな」と返ってくれば、「そんなふうに思っているんだね」と肯定するところで留めておくでしょうか。 廣田: なるほど。それが…私が訪問する時間帯はお孫さんが通学している時間で、お父さんはお仕事で不在なので、おばあさん以外と直接関わることができないんですよね。 松田: それは、難しいところですね。おばあさんのお気持ちもわかりますし…。 廣田: そうなんですよね。できれば、お孫さんのケアもしたいんですけれど。なかなかケースバイケースで、悩ましいものです。 ―みなさん、利用者さんの状況やお気持ちに合わせて常に悩みながらご対応されているのですね。 「察する文化」は外国人介護者に伝わらない ―中島さんは外国人のご家族をサポートされたと伺っていますが、詳しく教えていただけますでしょうか。 中島: 奥様が片言の日本語を話す40代の外国人で、日本人の80代のご主人が末期の大腸がんでした。近年、外国人のご家族と関わることは増えてきていますが、言葉や文化の壁を感じて悩むことが多いです。 利用者さんの状況について、入院先の医師は「栄養がとれて体力がついたら手術はできるが、体力がつかないと手術はできない」とご家族に話されていました。つまり、「病状的に栄養改善は困難なため体力は戻らない」ということ。離れて暮らしているご親族は理解されていたのですが、外国人の奥様は、言葉を鵜呑みにして「体力がついたら手術ができる」と考え、ご主人に無理やりごはんを食べさせようとされていたんです。 でもやはり体力は戻らず、感染症にかかってしまって、「病院にいては感染症がひどくなる」と、奥様は自宅療養を選ばれました。感染症は落ち着いて一命をとりとめましたが、いつ亡くなってもおかしくない状態ということが、奥様に伝わっていないのです。 ―日本人同士が自然に使っている遠まわしな言い方が、外国人の奥様に伝わらない、ということですね。中島さんは、どのように伝えたのでしょうか。 中島: 翻訳アプリを使って、「病院の先生はこういう意味で言ったんですよ」と伝えました。うまく翻訳できていたのかは分かりませんが、少しは理解してもらえたと思います。でも、訪問診療の医師からもきちんと伝えてもらおうと思ったのですが、やはり、「体力がなくて手術ができない」という説明を奥様にされたんですよね。しかたがないので、再び翻訳アプリを使って、あと数日で亡くなるということをストレートに伝えました。奥様は驚いて「そんなことはない!さっき先生は栄養をとれば助かるといった」と大泣きされてしまいました。 その後も、眠っているご主人を無理やり起こしてご飯を食べさせる日々が続きました。ご主人は「わかった、わかった」と言いながら一生懸命食べようとする。ご主人は手術ができないことを理解されていましたが、年の離れた奥様の気持ちも分かっていらっしゃったんですね。これも夫婦のひとつの愛の形なのかなと思い、見守っていました。 死を目の前にしたとき、訪問診療の先生からの「無理に食べさせても手術はできないんですよ」という言葉を私が隣で翻訳すると、やっと奥様は理解されたようでした。ご自身のおばあ様やお母様、夫婦2人の旅行写真をご主人に見せながら、思い出を語るような時間を過ごされ、最後はいい時間を過ごされたのではないかなと思います。 その後驚いたのは、亡くなられたとお電話をいただいて伺ったら、マンションのフロア中に響き渡る声で奥様が家の中を走り回り、泣き叫んでいらっしゃったご様子です。ショックや悲しみをそこまで全身で表現されるケースは、過去に目の当たりにしたことがなかったので、衝撃を受けました。一方で、亡くなった人と一緒の家で寝るのは怖いとおっしゃって。言語の壁、死についての受け止め方も含め、色々と学ばせていただきました。 文化の違いなのか、その方の個性なのか 松田: 私も一緒に関わらせていただきましたが、奥様は早口で、私は3分の1ほどしか理解できなかったんです。でも、中島さんは根気強く時間をかけて奥様と向き合っていました。「この時間に買い物に行きたいからデイサービスを調整してほしい」などと多くの主張や要望がある方でしたが、中島さんの適切なサポートのおかげで心強かったと思います。中島さんご指名のお電話がかかってきたり、下の名前で呼ばれていたり、そこまで信頼してもらえる関係性が構築できたのは、本当にすごいことだなと思っていました。 吉川: 奥様が利用者さんで、介護者のご主人が外国人というケースを私も担当したことがあります。日本語が通じず、英語で伝えてもうまく意思疎通が図れなくて、小学校のお子さんが伝言役になってくれたこともありました。でも、子どもには伝えられないこともある。コミュニケーションの限界を感じ、英語が話せるステーションの所長に通訳を頼みましたが、最後まで苦心しました。 廣田: 言葉の壁は大きいですが、文化の違いなのか、その人の個性なのか、一概に「外国人」でくくれないところもありますよね。デイサービスを調整して、という主張は、ちょっと行き過ぎではないかとも思う。それを文化の違いで終わらせてしまうのか、ご本人とコミュニケーションを取って意思疎通を図っていくのかの判断基準も課題だと思います。 中島: そうですね。ご主人が亡くなった後は、保険や役所関連の手続きがあったので、こうしたことをサポートしてくれる団体に引き継ぎました。その時にこの奥様の特徴やキャラクターなども一緒にお伝えしました。 吉川: ご主人と奥様の会話は日本語だったんですか? 中島: そうなんです。そこもまた面白いところで、ご主人が話される日本語は、奥様にしっかり通じているんです。いろいろ印象深い出来事がありましたが、コミュニケーションの在り方について勉強になりました。 ―ありがとうございました。後編では、廣田さん、吉川さんのお話を中心に伺います。 後編はこちら>>【緩和ケア座談会 後編】自殺願望への対応/最後の「大好きなお風呂」 ※本記事は、2022年1月の取材時点の情報をもとに制作しています。 執筆:高島三幸取材:NsPace編集部

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看取りの作法 ~ 最期の1週間

在宅医が伝える在宅緩和ケア 訪問特化型クリニックの医師が、在宅緩和ケアのtipsをご紹介します。第1回は、汎用性が高く、かつ頻度も高い「予後1週間以内の看取りの流れを家族に説明する」です ごあいさつ はじめまして。杉並PARK在宅クリニック 院長の田中公孝と申します。 私は、家庭医の専門研修を修了した後、自身が地域包括ケアや人生の終末期に関心があること、またさまざまな社会課題とも深くかかわっていることから、在宅医療をメインのキャリアとして選びました。最近では、2021年4月に東京都杉並区西荻窪で訪問特化型のクリニックを開業し、地域で通院困難となり、さまざまな課題をかかえる高齢者のご自宅を日々訪問しながら、地域の多職種連携や地域づくりについて考えつつ、診療を行っています。 かれこれ8年以上在宅医療に携わってきた私がこれまで在宅医療を通じて獲得してきた在宅緩和ケアのtipsを、NsPaceの場をお借りしてご紹介できたらと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。 看取りのプロセスをお伝えする がん末期の患者さんが 「食事がまったくとれなくなってきた」「寝ている時間がかなり長くなってきた」 という状態は、予後が数日と予測できる段階です。 そのような報告を受けると、私は臨時訪問し、 「亡くなるまでの期間、いわゆる予後が週の単位から日の単位に移行してきた可能性があります。おそらく、あと1週間以内くらいかもしれません。」 という話をします。 ご家族に、 1週間前になると寝ている時間が長くなり、食事をとらなくなる尿が少なくなったり、血圧が下がってきたり、手足が冷たくなってきたりする手足をバタバタさせて、いわゆる混乱しているような状態になる こと、 1〜2日前になると下顎呼吸というものが出てきて、やや苦しく見えるような呼吸をする ことをお伝えします。 心構えを提供する なぜこのような説明を1週間前の時点でするかというと、ここから先はご家族が不安になる症状が日の単位で出てくるため、心構えとして、また、観察項目としてお伝えするといった意図があります。 というのも、これを説明しておかないと、毎回毎回の変化にご家族は驚き、不安を募らせ、このままでいいのかと苦悩してしまいます。人は、これから起きることを、あらかじめ知っていれば冷静になれるという特徴に気づいてからは、こうした一般的な看取りの流れをご説明して、心構えをしてもらいます。 看取りまでのプロセスに関する説明をしっかり聞いてもらったご家族からは、 「先生に聞いたとおりの流れになりました。」 「このまま様子をみていて大丈夫なんですよね。そうすると明日、明後日くらいでしょうか?」 という語りが聞かれ、もし下顎呼吸が出現してきても 「いまの呼吸が下顎呼吸というものでしょうか?」 といった冷静な語りが聞かれるようになります。 看取りのパンフレット 説明の際には、OPTIMから出ている「これからの過ごし方について」、通称我々が「看取りのパンフレット」と呼んでいる資料を見てもらいながら説明していきます。口頭の説明だけでは、ご家族もその場だけで覚えきれない、または理解しきれない可能性があるため、説明した後は資料をお渡しし、あとでじっくり読んでもらうことにしています。 OPTIM(緩和ケア普及のための地域プロジェクト)「これからの過ごし方について」 http://gankanwa.umin.jp/pdf/mitori02.pdf 私はこのパンフレットをあらかじめ印刷して持ち歩き、診療の合間に連絡を受けてもすぐに臨時訪問していつでも使えるようにしています。 在宅緩和ケアの役割 予後が約1週間になると、さまざまな症状が現れます。 たとえば、夜中にせん妄状態になるときや、つらそうで見ていられないというご家族の場合は、まだご本人が薬を飲めそうであれば鎮静目的でリスペリドンの液を内服してもらうこともあります。下顎呼吸になる手前では、内服中止の判断も必要になってくるでしょう。 ただ、そういった様子も自宅看取りの予定どおりの流れです。基本的には、勇気を持って見守ってもらうようにお話をしています。 さらに不安が強いご家族の場合は、看取り直前に一度往診をし、おそらく明日明後日にはお亡くなりになるだろうというお話をします。 苦しそうなのが心配というご家族の場合は、酸素の設置をすることもあります。 もちろん、こうした鎮静薬や酸素、麻薬なども、緩和ケアとして重要な手段ではありますが、この後起こりうる状況を具体的に説明して、ご家族と目線合わせをすることが在宅緩和ケアの肝となるプラクティスだと考えています。 訪問看護師への期待 看取りに非常に慣れた訪問看護師さんは、ご自身たちで用意したパンフレットをもとに看取りの流れを説明されます。 そんな看護師さんがいる場では、私は予後をご家族にお伝えするのみで、その後の細やかな説明はお任せできます。頓用薬のタイミングもある程度任せています。 在宅医としては、こうした看取りの流れを説明できる訪問看護師さんがより増えていくと、同時に担当できるがん末期患者さんを増やすことができます。 まだ訪問看護歴の浅い看護師さんであっても、ぜひベテランの訪問看護師さんに聞きながら、積極的にトレーニングをしてもらえることを期待します。 ** 著者:田中 公孝 2009年滋賀医科大学医学部卒業。2015年家庭医療後期研修修了し、同年家庭医療専門医取得。2017年4月東京都三鷹市で訪問クリニックの立ち上げにかかわり、医療介護ICTの普及啓発をミッションとして、市や医師会のICT事業などにもかかわる。引き続き、その人らしく最期まで過ごせる在宅医療を目指しながらも、新しいコンセプトのクリニック事業の立ち上げを決意。2021年春 東京都杉並区西荻窪の地に「杉並PARK在宅クリニック」開業。 杉並PARK在宅クリニックホームページhttps://www.suginami-park.jp/ 記事編集:株式会社メディカ出版

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初めてお家に帰ってくる子どもと家族をサポートする

子どもだけではなく、家族のケアも大切な小児訪問看護。小児に特化した訪問看護ステーションベビーノの所長平原さんに、引き続き子どもとその家族への看護についてお話を伺いました。 よその家族とも繋がりたい、親子の集い ―何か家族に対して活動していることはありますか。 平原: 医療保険での訪問看護がベースではありますが、開設した年に「よその家族とも繋がりたい」というお声をいただいて、親子の集いをはじめました。子どもと家族が楽しく生活していくことを目標にしているので、親子の集いがちょっとでもそうした楽しみになればいいなという思いからです。 春には新宿御苑でピクニックをしたり、秋にはお寺の本堂を借りて小さな運動会をしたりして、いろいろと企画しています。ママやパパ、子どもたちとそれぞれに分かれてお楽しみ会をすることもあります。月に一回は広場を借りて遊んだりすることもあります。中には出かけるのが怖い、近所の児童館でも少し躊躇してしまうご家族もいるので、安心して出かけられる場を提供することもしています。今はコロナ禍のため開催できていませんが、オンラインでリトミックなどをして工夫しています。 ―家族の反応はどうですか。  平原: はじめたころはどこも出かけられないというご家族もいて、ベビーノの親子の集いをうまく使ってもらっていたこともありました。最近はSNSなども普及したためか、ママ友の繋がりも結構あるようで、私たちが場を設定しなくても活動的になっている印象があります。それでも、まずはひとつのきっかけになればいいなと思いながらやっています。訪問看護師がいるということで、「ちょっと行ってみようかな」となってくれればと思っています。 初めて家族の中に子どもがやってくるときのサポート ―家族看護で気を付けていることは何ですか。 平原: 成人だと元々家に住んでいて、入院してまた帰ってくるという状況ですが、NICUから退院の場合には、初めてその子がお家にやってくる状況なので、どういう風に迎え入れるか、ご両親も初めて尽くしです。そこをきちんとサポートするために、病院のスタッフや私たち訪問看護師も力を入れてやっています。 なかには、初めての子どもで核家族、ご両親以外にサポーターがいないケースも多いです。そのため、夫婦だけの生活のところにお子さんが入ってきても、家族の生活がちゃんとまわるかどうか、夜は眠れて、ごはんが食べられるかというところを、特に最初は意識しています。子どもの安全が保てているか、危険じゃないかどうかを確認しながら、退院直後は訪問看護の頻度も週2~3日、「時間が空いたら様子を見に来ます」といって頻回に行きます。そこから、子どもや家族の状況をみながら段々訪問回数を調整していきます。小児の場合ケアマネはいないので、訪問回数の調整などを訪問看護師が行っていくのが特徴的です。 ** 訪問看護ステーションベビーノ所長 平原真紀 (助産師、看護師) 大学病院のNICUで勤務し、主任を経験した後、2010年に訪問看護ステーションベビーノを開設。当時はNICUから退院した子どものサポートがなかったため、育児支援サービスとして乳幼児専門の訪問看護を提供している。 ※本記事への写真掲載はご家族の許可をいただいております。

インタビュー

退院後の子どもや家族が安心して生活できる環境を

都内23区を対象エリアとし、小児に特化した訪問看護ステーションとして育児支援サービスを提供しているベビーノさん。今では、小児に特化した訪問看護ステーションの数も増えてきていますが、所長の平原さんはNICUでの長年の経験を活かし、退院後の子どものサポートが手薄だったころに訪問看護ステーションを立ち上げました。 開設してから10年という月日の中で、真摯に子どもと家族と向き合ってきた平原さんにお話を伺います。 ベビーノはなぜ小児に特化したのか ―ベビーノの事業内容について教えてください。 平原: NICUから退院してきた未就学児を対象に、医療保険で訪問が可能な方に看護を提供しています。事業所は新宿にありますが、訪問エリアは23区に対応しています。開設した当初は新宿や中野のエリアを想定していましたが、大学病院にはいろんなところから通ってきている家族も多く、退院後の住所がバラバラだったため、対象エリアを広げました。 ベビーノでは小学校に入るまでに今後の見通しを立て、繋げていく役割を担っています。小さく生まれた子どもや生まれながらに障がいがある子どもは、酸素や経管栄養を使うこともありますが、その後普通に保育園や小学校に行く子もいますし、反対に疾患や障がいが複雑になっていく子もいます。前者の場合には、医療サービスから福祉や教育のサービスに繋げていき、後者の場合には訪問看護ステーションを併用する必要も出てくるため、一緒に探していきます。だいたい3歳くらいで今後の見通しを考え始めて、子ども本人の状況とご家族と相談しながら決めていきます。 NICUからお家に帰ってくる子どもや家族をしっかりサポートしていきたいという思いから、乳幼児専門の訪問看護をしています。 ―ベビーノさんでは、どのようなケースが多いのでしょうか。 平原: NICUは、生まれてすぐに医療的なサポートが必要な子が集まっているので、小さく生まれた子や、心臓や脳の疾患など、本当にさまざまです。24時間呼吸器管理が必要な子もいれば、ちょっと小さく生まれはしたけど、医療ケアは必要なく、だけどご両親の不安が強いために、精神的なサポートも含めて訪問に行くこともあります。ご両親の精神面が不安定になると、子どもの体重の増えが悪くなることもあります。その場合には、医療保険で訪問をしているので、体重増加不良などの疾患名がついて訪問に行きますが、全体的に子どもたちの健康を守るために、子どものケアはもちろんですが、家族看護という視点で入らせてもらうことがほとんどです。 病院、他のステーションとの連携 ―病院との連携はどのようなことをされているのでしょうか。 平原: 子どもの訪問看護の場合には、ケアマネージャーがいるわけではないので、病院のソーシャルワーカーが地域のサービスに繋げるために動きます。そこでケースに入らせてもらうことが多いです。24時間医療ケアが必要な子どもの場合だと毎日のように訪問看護が入るので、訪問看護も2社使っていることがあり、一緒に組んで入らせてもらいます。 今は新宿にある病院だけではなく、母子医療センターがある病院とはだいたい連携をとらせてもらっています。開設した当初は「子どもの訪問看護って何?」という状態だったので、こちらからこういうサービスを行っていると病院に直接話をしに行くこともありました。今は、子どもたちに訪問看護を入れるのが当たり前になってきたので、病院からの連絡で訪問看護に繋がることがほとんどです。 ** 訪問看護ステーションベビーノ所長 平原真紀 (助産師、看護師) 大学病院のNICUで勤務し、主任を経験した後、2010年に訪問看護ステーションベビーノを開設。当時はNICUから退院した子どものサポートがなかったため、育児支援サービスとして乳幼児専門の訪問看護を提供している。 ※本記事への写真掲載はご家族の許可をいただいております。

コラム

今日からできるプチ災害準備

高齢者のための災害準備チェックポイント 高齢者の災害準備において気を付けなくてはいけないことにはどのようなものがあるでしょうか?高齢者特有の準備の特徴から考えてみたいと思います。 期限が切れている ・非常用の食事の消費期限が切れている ・懐中電灯やラジオの電池が切れている 高齢者のご家庭にお伺いして準備の状況をおたずねすると、「あ、そういうの、ちゃんとありますよ!」と言って見せてくださいます。 災害準備のための物資(非常食や懐中電灯、ラジオなど)は、多くの方のお宅にきちんと常備されていることが多いのです。ところが、中に入っているものを一つ一つ確認していくと、今、災害が起きてしまったらすぐに役に立たない物があることも見受けられます。 情報が古い ・通院中の病院や服用している薬の名前が書かれたノートの情報がアップデートされていない ・家族や親戚の連絡先が過去のものになっている 高齢の方は定期的に病院に通っていたり、薬を飲んでいらっしゃることが多いため、避難先に持っていけるように病院や薬の名前を記したノートを作ることが推奨されます。また、いざという時に助けを求められる家族・親戚の連絡先をメモしておくことも必要です。 しかしそれらの情報が古く、情報がアップデートされていないことも多々あります。 実際の避難を想定出来ていない ・避難用の非常袋が持ち出せない ・自分に必要な物資が入っていない 避難用の非常袋には2リットルの重さのお水などが詰め込まれていて、「これを実際に背負って逃げられますか?」とお尋ねすると、「ちょっと、重たすぎるねぇ」などという答えが返ってくることがあります。高齢の方の災害準備には、避難用物資の準備をする際は自分で運べる重さか、すぐ持ち出せる場所にあるかなど実際を想定した準備が必要です。 また、日頃の生活で必要なものというのは高齢者、お一人お一人で異なります。誰もが使うようなものは、災害が起きてもすぐに提供されるようになりますが、特有のニーズへの対応は、往々にして後手になりがちです。 メガネが必要な方、入れ歯が必要な方、薬が必要な方、補聴器が必要な方、またそのための充電ケーブルや電池等、どうしても無くては困るものをリストアップして、自分なりの準備品を考えておくことが大切です。 避難することの危険性を考慮していない ・自分の地域で起こりえる災害を把握していない ・とにかく避難所へ行かなければと思っている 防災というと多くの方が想像される「避難」については、避難場所をきちんと把握していらっしゃる方も多いのですが、高齢者には「避難によるリスク」というのが常に伴うことを知っておかなくてはなりません。 いつもなら何でもないような散歩道も、雨が降って視界が悪かったり、非常用の荷物を抱えて避難を急いでいる際には、いつものように冷静に歩くことができず、足元をとられて転ぶということもあり得ます。 避難を必要とする災害が起こりうるのか、もし避難をしないという選択をする場合にはご自宅は避難に耐えうるのか等を知っておくことが重要になります。 高齢者の方に「あなたのお住いのエリアではどのような災害が起こりうるかご存じですか?」とお尋ねすると、起こりうる災害を想定した災害準備をしている方は少なく、「とにかく避難所へ」とお考えの方も多いようです。リスクを減らすためにも、土砂崩れや川の氾濫など、避難をした方がよい災害が来る可能性があるのか、自宅にとどまった方がよい災害が起こりうるかを知っておくことは重要です。 ニーズに合わせた準備を 何より、高齢者と一言でいっても、身体機能や認知機能、必要な支援ニーズが極めて多様であるため、災害準備に必要なものは、それぞれに大きく異なる、ということが高齢者の特徴だと言えます。これがあれば大丈夫!という準備はなく、それぞれのニーズにあわせて災害準備を考え、それを定期的に確認することが重要です。 そうはいっても、いつ来るかわからない災害のために、日ごろからきちんと準備をしておくことは難しいのが実際です。また何もかも購入しようと思うと、お金がかかってしまいそうで、準備をする気も起きなくなってしまいます。そこで、あまり気負わず、日頃からちょっとした工夫で高齢者の災害準備を進めていただくポイントを考えてみましょう。 今日からできる「プチ災害準備」 起こりうる災害をチェック まず、お住いのエリアで起こりうる災害を調べてみましょう。これには市区町村の防災の手引きやホームページなどが役に立ちます。また、災害時ご自身の避難は想定されない場合でも、避難所を知っておくことは大切です。実際に災害が起こった際に、物資や情報が提供される場所になりうるからです。 3日間の物資を準備 次に、自宅で3日間、援助を待つことができるための物資を準備します。物資の準備のために、防災グッズを新たに買う必要はありません。 例えば、食べ物であれば、「今日から3日間、電気やガスが使えず、自宅から全く外出しなくても生活できるかしら?」という視点で、プラス3日分の食料品を準備するようにしておけば、非常食の賞味期限を気にする必要はありません。また、日頃食べ慣れたものであれば、口に合わないということもないでしょう。 また災害がおさまっても、その後に停電が一定時間来るということも、しばしばあります。夜間の停電の中、部屋を移動することなどは高齢者にとってとても危険です。 懐中電灯を各部屋に準備しておいたり、持ち出し品を就寝中は寝室に置いておくことや、暗闇の中割れたガラスなどを踏むことの無いように、スリッパや室内履きを持ち出し品に入れておくことなども、ちょっとした工夫の一つです。 防災プチ訓練 なお、高齢者の災害準備にありがちな、防災グッズの確認忘れを防止し、既往歴や連絡先などの情報を定期的にアップデートするために、防災プチ訓練をお勧めしています。台風が来ると予報が出た際や、小さな地震が来た際に「被害がなくてよかった!」で終わらせるのではなく、備品や食料の確認をしたり、避難場所までの経路を確認してみるなどの機会を定期的に持つようにしていただくといいでしょう。 まだ来ぬ災害への準備を一から始めようと思うと大変ですが、ちょっとした工夫と定期的な習慣として進めることで、災害準備は格段に進みます。高齢者の特徴でもある多様なニーズに合わせるためにも、自ら準備をすること、定期的に確認することを念頭に、高齢者の災害準備を考えてみましょう! 東京都健康長寿医療センター研究所 研究員・博士(保健学)・学士(工学) 涌井智子 専門は家族介護、老年社会学、公衆衛生。介護を支える社会の仕組みについて、個人、家族、社会構造といった視点で研究を実施。特に家族介護者の負担感軽減のための支援策の検討や、介護分野におけるテクノロジー導入の課題、要介護高齢者の家族のための災害準備等について日本と米国で研究を実施中。2013年10月より現職。   【参考】 これまでの研究調査を基に、高齢者の方の災害準備に必要な内容を簡単にまとめた「災害準備ノート」を掲載しています。災害準備されていますか?―要介護高齢者の災害準備を考える― 災害対応についてもっと知りたい方は、こちらの特集記事をご覧ください。

コラム

異なる支援ニーズへの対応と地域コミュニティ

情報提供の必要性 アメリカの疾病対策予防センター 日本の防災の手引きには、これまであまり状況や対象特有のニーズに合わせた情報提供がなされてきませんでした。 米国の疾病対策予防センター(Centers for Disease Control and Prevention: CDC)では、災害準備向けの情報発信を積極的に行っています。 北米はエリアによって、起こりうる自然災害が多岐にわたりますので、その災害タイプ別(地震、雷、火事、水害、津波等)に、個人で行える災害準備のポイントを解説しています。何より重要なこととして、災害発生時には手助けが来るまでに時間がかかることから、災害発生時に耐えうる自らの災害準備が重要であることがわかりやすく解説されています。 また興味深いのは、準備においてもその支援ニーズが異なることから、特に支援が必要な人やその家族向けに、例えば、高齢者向け、障がいのある人向け、妊婦や出産を予定しているご夫婦向け、医療ニーズのある子供とその家族向けなど、対象別に情報提供をしていることです。 このような情報提供は、支援ニーズが多岐にわたる高齢者にとっては非常に有用ですので、ぜひとも各自治体の防災の手引き等の情報提供に反映されることが望まれます。 異なる支援ニーズ また、高齢者と一言で言っても、生活の上で介護が必要な方、そうでない方、家族と住んでいる方、住んでいない方等様々ですので、その方の状況をまずはしっかり把握したうえで、災害準備の計画を立てる必要があります。 特に要介護高齢者の方の災害準備を進める上では、「ご本人が必要とする生活上の必需品」、「ご本人の身体機能や認知機能の程度」、「ご本人が得られる支援」という軸で必要な災害準備の内容を整理し、災害準備計画につなげることをおすすめします。 また「ご本人が得られる支援」は時間帯によっても異なります。就寝時、介護保険サービスの利用時、家族と家で過ごしている時、家族が不在の時等、災害は24時間起こりえることを理解し、その時々の状況について計画を検討する必要があります。 なお、災害時個別支援計画を作成している訪問看護ステーションの例もありますので、参考にしてみてください。 地域コミュニティの役割 身体機能が低下しつつある高齢の方にとっての災害準備には、地域のつながりも重要になってきます。 というのも、災害はいつ発生するかわかりません。いつもなら頼れる家族がそばにいても、災害発生時に仕事や買い物などで、近くにいないということも考えられます。 また災害の起こりうる状況は地域によって異なりますので、地域別の情報を共有しておくことはとても重要になってきます。 第1回コラムで紹介した調査結果においても、地域住民とのネットワークの状況が、介護が必要な高齢者の災害準備を進める鍵であることが示唆されています。 地域住民とのネットワークが密であるほど、つまり、地域においてネットワークがない人や日常会話程度のネットワークのみの人に比べて、ある程度介護のことを話したり、情報を共有するネットワークを持つ人の方が、災害準備が進んでいる状況が明らかになっており、災害準備において地域での情報共有が重要であることを示しています。 これは、介護が必要な高齢者の身体・認知機能を少しでも共有しておくことで、いざという時に声をかけてもらえたり、避難所や支援、災害準備に関する情報の共有が、日頃から自然と進められているためであると考えられます。 東京都健康長寿医療センター研究所 研究員・博士(保健学)・学士(工学) 涌井智子 専門は家族介護、老年社会学、公衆衛生。介護を支える社会の仕組みについて、個人、家族、社会構造といった視点で研究を実施。特に家族介護者の負担感軽減のための支援策の検討や、介護分野におけるテクノロジー導入の課題、要介護高齢者の家族のための災害準備等について日本と米国で研究を実施中。2013年10月より現職。  

コラム

高齢者にとっての災害対策

9月1日の「防災の日」が制定されている日本では、小中学校などで定期的に避難訓練が行われるなど、防災への意識が高いといえるでしょう。しかし、毎年起こる災害では、どうしても高齢者の被災が多くなってしまっており、改めて高齢者の防災への取り組みが注目されます。 高齢者にとっては、特に「災害準備」が大切になりますので、高齢者の多様な支援課題や防災における特徴を広く知っていただきながら、高齢者お一人お一人の防災について考えてみたいと思います。 なぜ、高齢者にとっての災害準備が重要なのか 初動期と展開期 災害は、大きく「準備期」「初動期」「展開期」に分類されます。 準備期とは災害発生以前を指し、「初動期」は災害が起こってからの約72時間を、そして「展開期」は災害発生から72時間経過後を指します。 高齢者は、これらのどのタイミングにおいても脆弱であると言われていますが、例えば、初動期においては体力的・精神的な理由で、避難するのが遅れてしまうことがあったり、生活環境の変化(避難所での生活)に対処しきれず、急激に身体機能が低下したり、認知症状が進行するなどの状況に陥ることが報告されています。 また、展開期においても同様で、長期にわたる避難所での生活や、生活再建のための疲れの蓄積によって身体的・精神的消耗が激しく、若い人に比べて命を落とすことも多く(災害関連死等とも言われます)、この時期の支援の重要性が言われています。 準備期 準備期においては、高齢者が災害のための準備ができていないことや避難訓練の参加率が低いこと等が報告されています。 初動期や展開期における高齢者への対策を強化することは容易なことではありませんが、時間のある準備期の対策を充実させることで、高齢者自らが、災害が発生した場合に生き残る可能性を広げることにつながります。 災害のための物資の準備をしておくことや、起こりうる災害を想定しておくこと、災害発生時に助かる可能性を広げるためのネットワークづくりをしておくことは、災害が起きた時に落ち着いて行動することを可能にし、また、高齢者自らが行うことができる最も基本の対策となります。 高齢者の災害準備が進まない理由 私の専門は介護が必要な高齢者の生活支援と、介護が必要な高齢者を支えるご家族の負担や健康を支えることです。そのため、災害準備においても、特に介護が必要な方とそのご家族の方、特に在宅で生活をされている方の災害準備ポイントを常々考えております。 といいますのも、施設入居の方の場合には、施設でマニュアル等が検討されますが、在宅の場合にはご家庭でそれぞれの災害対策を考えなくてはなりません。 災害のプロでもなく、介護のプロでもない高齢者やご家族にとって、災害に向けて準備を進めることは簡単なことではありません。 まず、どのような準備をしておく必要があるのか、何の災害に備えておかなければならないのかといった情報を集めるところからが難しいのです。 アンケート調査 実際、過去に行った調査(回答してくれた方は、在宅で介護を担う家族介護者1101名)から明らかになったのは、要介護の方のご自宅において避難計画をお持ちの方は24%、全般的に「災害の準備ができている」と回答した方は8%に過ぎませんでした。 中でも、認知症の方を介護するご自宅、経済状況が苦しいご自宅、介護者が若い場合等に、災害準備が進んでいない状況が明らかになっています。(この結果は、ロジスティック回帰分析や順序回帰分析という統計手法を用いて、性別や介護の程度といった他の変数を調整しても、統計的に有意な結果であることが示されています) これは、認知症の方を介護しているご家族にとっては何を準備しておいたらよいのかわからないということや、認知症の方の介護に手いっぱいで、災害準備を行うまでの経済的、精神的な余裕がないということが反映されています。 実際ご家族の方は、災害準備に関する情報支援が必要だと感じていますが、どこで情報を得られるかわからない方もいることや、避難が必要な場合には避難場所への移動を助けてもらえるような対策の必要性、地域住民との連携の必要性が課題として挙げられています。 東京都健康長寿医療センター研究所 研究員・博士(保健学)・学士(工学) 涌井智子 専門は家族介護、老年社会学、公衆衛生。介護を支える社会の仕組みについて、個人、家族、社会構造といった視点で研究を実施。特に家族介護者の負担感軽減のための支援策の検討や、介護分野におけるテクノロジー導入の課題、要介護高齢者の家族のための災害準備等について日本と米国で研究を実施中。2013年10月より現職。 災害対応についてもっと知りたい方は、こちらの特集記事をご覧ください。

コラム

訪問看護における終末期の利用者・家族とのコミュニケーションの3つのポイント

終末期における利用者、家族とのコミュニケーションに難しさを感じている方も多いのではないのでしょうか?どのように関わっていけばいいのだろうか、どのように感情表出を促せばいいのだろうか、私自身もよく迷っています。 今回は、そんな場面で私が意識しているコミュニケーションのポイントについてお伝えできればと思います。 ①聴く時間を設ける 利用者・家族が今何を感じて、考えているのかをしっかり傾聴して理解することが大切です。その中でも聴くための場の設定を意識しています。 訪問看護では訪問頻度によって対面できる時間が限られており、ケア内容によっては十分に話す時間を設けることが難しい場合があります。その際には、訪問時間の枠を長く確保する、訪問を追加する等の対応をします。そして、オープンクエスションを中心に自分の言葉で話してもらえるようにします。 ただ話を聴くのではなく、言葉の背景にある考えや想いを把握することが大切だと思います。 ②自分の思考の傾向を理解する 利用者・家族の話を聴いた際に「自分」の価値観や感情によって解釈が左右されないように意識することが大切です。自分を知る、自分と向き合うことは案外難しいですが・・・ 自分自身の思考の傾向を理解しておくことで、より深く相手を理解することができます。私の所属しているステーションでは、事例検討や同僚からのフィードバックをもらう機会を設けることで客観的に自分自身を知る取り組みをしています。 ③利用者・家族の自己決定を促す コミュニケーションで一番重要なのは、「利用者・家族自身が考え、自己決定をして、その結果に納得できる」ように促すことだと思います。 そのために選択肢や情報を提供しながら、自分の価値観に基づいて説得していないだろうか?と都度立ち止まることが大切です。また、決定することが目的ではなく、決定の背後にある想いを把握し共有することが大切です。 さいごに コミュニケーション能力はもともとの個人の特性だと思われることが多いですが、身に付けることのできるスキルだと思います。 僕自身もまだまだ利用者・家族とのコミュニケーション悩むことが多いですが、今回お伝えしたポイントを意識することで訪問中の声かけや態度が変わったように思います。終末期に限らず、応用もできる内容だと思うので是非日々の看護実践に活かしてもらえたらと思います。 藤井 達也 地元名古屋の大学を卒業後、聖路加国際病院の救命救急センターで看護師として働き始める。高齢者の最期の在り方について疑問を抱く中で、より深く意思決定の場面に関わっていきたいと考え、訪問看護の道へ。現在はウィル訪問看護ステーション江戸川にて訪問看護師として働きながら、教育、採用、管理業務の一端も担っている。

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