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多系統萎縮症

多系統萎縮症とは、以前まで異なる名称で呼ばれていた三つの疾患が、進行すると症状が重複することからこの名前がつけられました。

病態

多系統萎縮症は、神経細胞や、神経軸索をカバーする髄鞘を支える細胞(オリゴデンドログリア)などに、αシヌクレインというたんぱく質が不溶化して凝集・蓄積し、細胞が死んでしまう進行性の疾患です。

以前は、初期症状が小脳性運動失調で始まるものはオリーブ橋小脳萎縮症、パーキンソン症状の場合は線条体黒質変性症、自律神経障害であるものはシャイ・ドレーガー症候群という病名がつけられていました。しかし、進行するとこれらの3つの症状が重複することなどから、「多系統萎縮症」という病名が提唱されるようになりました。

まれに家族からの遺伝例もありますが、ほとんどは単独での発症です。

なぜαシヌクレインが不溶化するのかなど、はっきりした原因はまだわかっていません。

疫学

多系統萎縮症は30歳以降、特に40歳以降に発症することが多いことで知られています。日本では小脳症状で発病するタイプが多いのに対し、欧米人ではパーキンソン症状が前面に出るタイプが多く、人種差もみられます。

2019年度末時点での、受給者証所持者数は約1.1万人です。最も多いのは60歳代です。

症状・予後

主な症状は、小脳症状、パーキンソン症状、自律神経障害です。発病からしばらくは一症状が主体になりますが、進行すると重複します。
具体的には次のような症状がみられます。

小脳症状・歩行失調
・声帯麻痺
・構音障害
・四肢の運動失調
・小脳性眼球運動障害(眼振など) 
など              
パーキンソン症状      ・筋剛直を伴う動作緩慢
・姿勢保持障害
・嚥下障害
など
パーキンソン病でよく生じる振戦などの不随意運動はまれで、進行が速いのが特徴 
自律神経障害・排尿障害
・便秘
・勃起不全(男性の場合)
・起立性低血圧
・発汗の低下 
・睡眠時障害 
など

そのほかには、錐体外路症状、首下がり症状などの姿勢異常、ジストニア、睡眠障害、幻覚、失語、失認、失行、認知機能低下などがあります。
脊髄小脳変性症やパーキンソン病よりも進行のスピードが速く、日本でのデータによると発症後は約3年で介助歩行になり、約5年で車いす使用、約8年で寝たきり状態になり、9年程度で死亡に至る(いずれも中央値)ケースが多いようです。

なお、多系統萎縮症では、呼吸障害や誤嚥による窒息での突然死がみられることがあります。睡眠中の突然死例が多く、TPPV(気管切開下陽圧換気)を行っていても防ぎきれないこともあります。

治療・管理

根本的な治療法はなく、それぞれの対症療法が中心となります。

パーキンソン症状がある場合は、抗パーキンソン病薬が初期にはある程度の効果が期待できます。ただ、パーキンソン病に比べると効果が出にくいという特徴もあります。

進行するとさまざまな症状が重なるため、全体的に状態は増悪していきます。残存機能を保つためのリハビリテーションも大切です。

嚥下障害が進んだ場合は胃瘻を利用します。
睡眠呼吸障害が生じた場合は、CPAP(持続陽圧呼吸療法)が呼吸状態を改善させます。喉頭蓋軟化症などを伴う場合は、CPAPは気道閉塞を悪化させるリスクがあるため、注意が必要です。

呼吸障害がある場合は、NPPV(非侵襲的陽圧換気)導入などを検討します。ただ、多系統萎縮症で人工呼吸管理を選択する患者は、ALSと異なり実際にはとても少ないようです。

リハビリテーションのポイント

●歩行失調や姿勢保持障害など患者の症状に合わせて、転倒・外傷予防のための環境整備や福祉用具導入を検討する
●多系統萎縮症に対する理学療法の効果についてのエビデンスはほとんどないが、パーキンソン症状、小脳症状に対応した運動療法を行う
●基本動作訓練とADL訓練を組み合わせて集中的に介入する
●構音障害には言語聴覚療法が行われる
●嚥下障害では、食形態や摂食時の姿勢、食具の見直しなども含めた摂食嚥下リハビリを検討する
など

看護の観察ポイント

同じ病名でも初期症状などが異なるため、医師に症状の見通しや日常生活動作(ADL)への影響などを確認しておく。
●転倒・外傷予防のための手すり取り付けや部屋の整理など、環境整備はできているか
●転倒やバランスを崩す状況と発生頻度
●日常生活やセルフケアに支障をきたしている症状
●症状の程度の変化、新たな症状の出現状況
●嚥下障害、誤嚥性肺炎を疑う症状がないか
●脱水や栄養状態低下の予防対策がとられているか
●リハビリなど機能改善の訓練が取り入れられているか
●患者・家族が不安やストレスを抱えていないか

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監修:あおぞら診療所院長 川越正平
【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。

記事編集:株式会社メディカ出版

【参考】

〇難病情報センター『病気の解説(一般利用者向け)』『多系統萎縮症(1)線条体黒質変性症(指定難病17)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/59
〇難病情報センター『診断・治療指針(医療従事者向け)』『多系統萎縮症(1)線条体黒質変性症(指定難病17)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/221
〇難病情報センター『病気の解説(一般利用者向け)』『多系統萎縮症(2)オリーブ橋小脳萎縮症(指定難病17)』
https://www.nanbyou.or.jp/entry/60
〇難病情報センター『診断・治療指針(医療従事者向け)』『多系統萎縮症(2)オリーブ橋小脳萎縮症(指定難病17)』
https://www.nanbyou.or.jp/entry/222
〇難病情報センター『病気の解説(一般利用者向け)』『多系統萎縮症(3)シャイ・ドレーガー症候群(指定難病17)』
https://www.nanbyou.or.jp/entry/61
〇難病情報センター『診断・治療指針(医療従事者向け)』『多系統萎縮症(3)シャイ・ドレーガー症候群(指定難病17)』
https://www.nanbyou.or.jp/entry/223
〇「脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン」作成委員会編.『脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン2018』東京,南江堂,2018,298p.

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