教育に関する記事

感染クラスター対応をゲームで疑似体験!「クラスター8」体験レポート
感染クラスター対応をゲームで疑似体験!「クラスター8」体験レポート
特集
2026年8月12日
2026年8月12日

感染クラスター対応をゲームで疑似体験!「クラスター8」体験レポート

「施設で新型感染症のクラスターが発生。しかも施設長は感染して不在——さあ、どうする?」。そんな緊迫の状況をカードゲームで疑似体験できるワークショップが、第8回日本在宅医療連合学会大会(2026年7月4日・5日、札幌)で開催されました。その名も「感染クラスター乗り切り体験ゲーム『クラスター8』」。実際にプレイヤーとして参加したNsPace編集部が、ゲームの様子と学びをレポートします。 「クラスター8」とは?現場の声から生まれた体験ゲーム クラスター8は、介護施設での感染クラスター発生時の対応を、チームで疑似体験するボードゲーム型の研修ツールです。開発の中心となったのは、コロナ禍で数多くの施設の感染対応を支援してきた医療・介護の実践者集団「一般社団法人KISA2隊(キサツ隊)」。「issue+design」との共同開発により、現場で見てきた工夫や失敗の教訓を集めて作られたといいます。 印象的だったのは、冒頭で語られた開発の動機です。クラスターの被害は感染者数だけでは語れません。感染対応を優先するあまり利用者さんのADL(日常生活動作)が低下してしまう、スタッフが疲弊して離職につながる、チームの人間関係が壊れてしまう——。そうした「二次被害」も含めて危機をどう乗り切るかを、安全な場で体験してもらいたい。ゲームにはそんな願いが込められています。 ゲームの舞台は「施設長不在の小規模施設」 ゲームの舞台は、利用者さん10名を職員6名で支える小規模な介護施設です。ある日、施設長が新型ウイルス感染症に感染して自宅隔離となり、残された職員だけでクラスター対応に立ち向かう——という設定で始まります。参加者は4人1組のチームとなり、それぞれ「医療職員」「介護職員」「ケアマネジャー」「感染対策委員」の役割を担当。感染発生からの8日間をターン制で進めていきます。ルールの骨格はシンプルです。 チーム共通の目標は「施設全体の感染者を一定数以下に抑える」こと 各自にはそれぞれ役割に応じた個人目標がある(職員の感染を防ぐ、利用者さんのADLを守る、職員の元気度を保つ…など) 毎ターン、20種類の「アクションカード」から実行する行動を最大3つまで選ぶ アクションには実行に必要な職員数があり、職員が感染すると打てる手がどんどん減っていく そして意地悪なことに、20種類のアクションの中には「実はあまり効果がないもの」も紛れ込んでいます。限られた人手で何を優先するか。チームの合意形成そのものが、このゲームの本体です。 体験して分かった「合意形成」の難しさ 編集部も1つのチームに入って参加しました。実際にやってみると、これが想像以上に悩ましいのです。 感染拡大を抑えたい医療職視点では、消毒やゾーニングを優先したい。一方で、利用者さんの生活を守る介護職視点では、隔離や制限ばかりだと個人目標のADLが守れない。職員の元気度を担当するメンバーからは「その前に職員が倒れます」と“待った”がかかる。それぞれの正義がぶつかる中で、3枚しか選べないカードをどれにするか——制限時間は刻一刻と減っていきます。 ゲームの結果は、チームの選択によって「グッドエンド」から「バッドエンド」まで複数のエンディングに分岐します。感染は抑えたのに利用者さんのADLが大きく低下し、職員の離職が始まってしまう、という苦いエンディングもあり、「感染者数さえ抑えればよいわけではない」という開発者のメッセージがここにも表れていました。 答え合わせで学ぶ、初動対応のポイント ゲーム後の解説パートでは、推奨される対応が具体的に示されました。詳細は割愛しますが、編集部が特に持ち帰りたいと感じたポイントを3つご紹介します。 (1)最初にやるべきは「指揮系統の明確化」 責任者が不在でも対応が止まらないよう、誰が判断し、誰に確認するのかをまず決める。指示待ちによる初動の遅れが、その後の展開を大きく左右します。 (2)ご家族への連絡は「有事の前」から 有事の連絡だけでは、ご家族の不安は募るばかり。平時から「何もないとき」にも連絡を取り、信頼関係を築いておくことで、緊急時の連絡も前向きに受け止めてもらえる、という指摘にはハッとさせられました。 (3)「よかれと思った対策」にも落とし穴がある 一見有効に思える対策でも、使い方や場面によっては逆効果になり得るものがあります。たとえば仕切りの設置が換気を妨げてしまうケースのように、「その対策は何のためか」を理解して選ぶことの大切さが強調されていました。 訪問看護ステーションでも「避難訓練」を 主催者が繰り返し語っていたのは、「これはあくまで疑似体験、いわば避難訓練です」ということ。本番はもっと過酷で、時間も情報も足りない中での判断を迫られます。だからこそ、平時に安全な場で「チームで決める」経験をしておくことに価値があるのだと感じました。 また、このゲームは医療職と介護職の合意形成ツールとしての側面も持っています。医療の正義と生活の正義、どちらも大切だからこそぶつかる。その調整を疑似体験できる研修ツールは、訪問看護ステーションと連携先の施設・事業所が合同で取り組む研修としても効果的だと感じました。 BCP(業務継続計画)は作って終わりになりがちです。自分たちの計画が本当に機能するのか、ゲームという形で点検してみる。そんな選択肢があることを、多くの事業所の方に知っていただきたいと感じた90分でした。 【参考文献】 第8回日本在宅医療連合学会大会運営事務局:「ワークショップ・交流集会・ハンズオンセミナー(事前予約)」.第8回日本在宅医療連合学会大会.https://www.aeplan.jp/jahcm2026/workshop/ 2026/8/6閲覧 一般社団法人KISA2隊:「感染クラスター8|感染対策研修をゲームで楽しく実施する!」.一般社団法人KISA2隊ウェブサイト.https://kisa2tai.or.jp/lp/cluster8/ 2026/8/6閲覧 厚生労働省老健局:「介護現場における感染対策の手引き 第3版」.厚生労働省ウェブサイト.令和5年9月.https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001149870.pdf 2026/8/6閲覧 厚生労働省:「介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修」.厚生労働省ウェブサイト.https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/douga_00002.html 2026/8/6閲覧

ヘルパンギーナと溶連菌の見分け方
ヘルパンギーナと溶連菌の見分け方
コラム
2026年8月12日
2026年8月12日

ヘルパンギーナと溶連菌の見分け方|症状の違いと受診目安

ヘルパンギーナと溶連菌感染症は、どちらも発熱やのどの痛みがみられる病気です。症状が似ているため、「どちらなのか見分けにくい」と感じることもあります。 ただし、ヘルパンギーナは主にウイルスが原因で、のどの奥に水疱や潰瘍がみられやすい病気です。一方、溶連菌感染症は細菌が原因で、急なのどの痛みや発熱、扁桃の腫れ、首のリンパ節の腫れなどがみられます。この記事では、ヘルパンギーナと溶連菌感染症の違い、観察ポイント、受診の目安を解説します。 ヘルパンギーナとは ヘルパンギーナは、発熱とのどの痛み、口の中の水疱を特徴とする感染症です。乳幼児を中心に、夏に流行しやすい「夏かぜ」のひとつとされています。主な原因はコクサッキーウイルスA群などのエンテロウイルスです。 厚生労働省によると、ヘルパンギーナは感染してから2〜4日後に突然の発熱が起こり、その後、のどの痛みや水疱が現れます。発熱は1〜3日続くことが多く、食欲不振、全身のだるさ、頭痛などを伴うこともあります。 のどの奥に小さな水疱や潰瘍ができるため、飲み込むときに痛みが強くなり、水分や食事を取りにくくなることがあります。小児では、脱水症に注意が必要です。 溶連菌感染症とは 溶連菌感染症は、主にA群β溶血性レンサ球菌という細菌によって起こる感染症です。感染すると、急な発熱や強いのどの痛み、飲み込むときののどの痛み、扁桃が赤く腫れるなどの症状がみられ、首の前側のリンパの腫れ、口蓋の赤い点状出血、扁桃の白い付着物といった特徴的な症状が出現することもあります。 溶連菌感染症は細菌感染のため、A群β溶血性レンサ球菌による扁桃咽頭炎では、医師の判断により抗菌薬が投与されることがあります。 見分けるポイント ヘルパンギーナと溶連菌感染症は、症状だけで完全に見分けることは難しい場合があります。ただし、観察のポイントを整理すると、違いを把握しやすくなります。 項目ヘルパンギーナ溶連菌感染症原因主にウイルス主に細菌流行時期夏に多い冬季と春から初夏の2つの流行ピークがある年齢乳幼児に多い学童期の子どもに多い発熱突然の高熱がみられ、発熱は1~3日続く急な発熱が多いが、通常発熱は3~5日以内に下がるのどの所見のどの奥に水疱・潰瘍扁桃の腫れ、白い付着物咳・鼻水みられることがある目立たないことが多い治療対処療法が中心抗菌薬が必要な場合がある ヘルパンギーナでは、のどの奥の水疱や潰瘍が特徴です。一方、溶連菌感染症では、扁桃の腫れや白い付着物、首の前側のリンパ節の腫れなどが手がかりになります。 ただし、実際には症状が重なることもあります。家庭や在宅ケアの現場で「ヘルパンギーナだ」「溶連菌だ」と断定せず、症状の経過や全身状態を確認し、必要に応じて受診につなげることが大切です。 受診を考えたい症状 溶連菌感染症では、扁桃周囲膿瘍などの局所化膿性合併症やリウマチ熱、糸球体腎炎に至ることがあるため、早期に診断し抗菌薬投与する必要があるとされています。そのため、以下のような症状がある場合は、早めに医療機関へ相談しましょう。 水分がほとんど取れない 尿の回数が明らかに少ない ぐったりしている 呼びかけへの反応が弱い 高熱が続く のどの痛みが強く、飲み込めない 発疹がある 首の腫れや強い痛みがある 呼吸が苦しそう けいれんがある ヘルパンギーナでは、のどの痛みによって水分摂取が難しくなり、脱水症につながることがあります。厚生労働省も、ヘルパンギーナの合併症として、熱性けいれん、脱水症、小児ではまれに髄膜炎や心筋炎などへの注意を挙げています。 在宅での観察ポイント 訪問看護や在宅ケアでは、病名を見分けることよりも、利用者さんや子どもの状態を具体的に観察することが重要です。 確認したいポイントは、以下のとおりです。 発熱がいつからあるか 最高体温 のどの痛みの程度 水分摂取量 食事量 尿量や尿の回数 口の中の水疱や潰瘍の有無 扁桃の腫れや白い付着物の有無 咳や鼻水の有無 発疹の有無 家族や園、学校での流行状況 活気の低下や意識状態の変化 記録する場合は、以下のように、症状と経過を具体的に書くと共有しやすくなります。 「昨日夕方から発熱。最高体温39.0度。のどの痛みが強く、水分摂取は少量。口腔内奥に小さな水疱様の所見あり。尿は朝から1回のみ。」 「本日朝から発熱とのどの痛みあり。咳・鼻水は目立たない。扁桃に白い付着物あり。首の前側に圧痛あり。食事摂取は半分程度。」 このように記録すると、医師や看護師に状況を伝えやすくなります。 家庭で気をつけたいこと ヘルパンギーナでも溶連菌感染症でも、発熱やのどの痛みがあるときは、無理に食事を取らせるよりも、水分摂取を優先します。冷たい飲み物、ゼリー、スープなど、のどにしみにくく飲み込みやすいものを選ぶとよいでしょう。 酸味の強い飲み物や熱い食べ物は、のどや口の中の痛みを強めることがあります。食事量が少なくても、水分が取れていて尿が出ているかを確認します。 溶連菌感染症が疑われる場合は、検査や治療が必要になることがあります。自己判断で市販薬だけで様子を見るのではなく、症状や流行状況に応じて医療機関へ相談しましょう。 まとめ ヘルパンギーナと溶連菌感染症は、どちらも発熱とのどの痛みがみられるため、見分けにくいことがあります。ヘルパンギーナは、夏に乳幼児を中心に流行し、のどの奥の水疱や潰瘍が特徴です。溶連菌感染症は、急なのどの痛み、発熱、扁桃の腫れ、首のリンパ節の腫れなどが手がかりになります。 ただし、症状だけで正確に判断することは難しいため、家庭や在宅ケアの現場では、病名を決めつけず、発熱の経過、水分摂取量、尿量、のどの所見、全身状態を観察することが大切です。ぐったりしている、水分が取れない、高熱が続くなどの症状がある場合は、早めに医療機関へ相談しましょう。 監修:飛鳥馬 沙耶(あすま さや)/訪問看護ステーション 管理者HCU・高度急性期病棟にて約6年間、循環器・心臓外科・脳外科領域を中心とした急性期看護に従事。2023年より訪問看護ステーションの管理者として、在宅医療の現場に携わる。専門領域は、訪問看護・在宅医療、急性期看護。 【参考文献】 厚生労働省:「ヘルパンギーナ」.https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/herpangina.html2026/8/12閲覧 国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト:「ヘルパンギーナ(詳細版)」.https://id-info.jihs.go.jp/diseases/ha/herpangina/010/index.html2026/8/12閲覧 CDC:「About Strep Throat」.https://www.cdc.gov/group-a-strep/about/strep-throat.html2026/8/12閲覧 MSDマニュアル プロフェッショナル版:「扁桃咽頭炎」.https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/16-耳鼻咽喉疾患/口腔咽頭疾患/扁桃咽頭炎2026/8/12閲覧 国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト:「A群溶血性レンサ球菌感染症」.https://id-info.jihs.go.jp/infectious-diseases/group-a-streptococcal-infection/index.html2026/8/12閲覧 国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト:「IDWR 2023年第43号<注目すべき感染症> A群溶血性レンサ球菌咽頭炎」.https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/idwr/featured/2023/43/index.html2026/8/12閲覧 MSDマニュアル プロフェッショナル版:「扁桃周囲膿瘍および蜂窩織炎」.https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/16-耳鼻咽喉疾患/口腔咽頭疾患/扁桃周囲膿瘍および蜂窩織炎2026/8/12閲覧

血尿スケールとは?尿色観察の基本
血尿スケールとは?尿色観察の基本
コラム
2026年7月21日
2026年7月21日

血尿スケールとは?尿色観察の基本

血尿スケールとは、肉眼で確認できる血尿の程度を、尿の色で段階的に評価するための目安です。訪問看護や介護の現場では、利用者さんの尿の色が「いつもより赤い」「茶色っぽい」といった変化に気づくことがあります。 血尿は一時的な体調変化でみられることもありますが、尿路感染症、尿路結石、腎臓や膀胱の病気などが関係している場合もあります。そのため、色の変化だけで判断せず、痛みや発熱、排尿状態などもあわせて観察することが大切です。この記事では、血尿スケールの見方や観察ポイント、医師へ報告する際の注意点を解説します。 血尿スケールとは 血尿スケールとは、尿に血液が混じっている可能性があるときに、尿の色を段階的に確認するための視覚的な目安です。一般的には、肉眼で確認できる血尿を、淡いピンク色から濃い赤色、茶褐色に近い色まで、5〜6段階で評価します。NsPaceの用語集でも、血尿スケールは肉眼的血尿の程度を色によって分類する視覚的基準として説明されています。 血尿には、大きく分けて「肉眼的血尿」と「顕微鏡的血尿」があります。肉眼的血尿は、尿の色の変化として目で確認できる血尿です。一方、顕微鏡的血尿は見た目では分からず、尿検査で確認される血尿です。訪問看護や介護の現場で気づきやすいのは、尿の色が赤い、ピンク色、茶色っぽいなどの肉眼的な変化です。 血尿スケールの見方 血尿スケールは、施設や資料によって段階の分け方が異なる場合があります。ここでは、在宅ケアの現場で観察しやすいように、6段階の目安として整理します。 段階尿の色の目安観察のポイント1段階淡いピンク色少量の血液混入が疑われる2段階やや濃い赤色血尿がはっきり分かる3段階明るい赤色早めの報告を検討する4段階濃い赤色・暗赤緊急性が高い可能性がある5段階鮮血に近い赤色出血量が多い可能性がある6段階茶褐色・黒っぽい色古い血液や別の異常も考える 血尿スケールは、尿の色を客観的に伝えるための補助的な指標です。色が濃いほど注意が必要ですが、色だけで重症度を決めることはできません。血尿が少量でも、初めてみられた場合や症状を伴う場合は、医療職へ相談することが望ましいとされています。 血尿で確認したい症状 血尿を見つけたときは、尿の色だけでなく、ほかの症状もあわせて確認します。特に、以下のような症状がある場合は注意が必要です。 排尿時の痛み 頻尿 残尿感 発熱 腰や背中の痛み 下腹部痛 尿量の減少 血の塊が混じる 尿が出にくい 転倒や打撲後の血尿 血尿の原因には、尿路感染症、尿路結石、腎臓の病気、膀胱の病気、外傷、激しい運動などさまざまなものがあります。血尿は軽視せず、原因の確認につなげることが大切です。 また、赤っぽい尿が必ずしも血尿とは限りません。薬剤やビーツ、ルバーブなどの食品によって尿が赤く見えることもあり、血液による色の変化か判断しにくい場合があるため、確認を受けることが大切です。 在宅での観察ポイント 訪問看護や介護の現場では、利用者さんの普段の尿の色や排尿パターンを知っておくことが大切です。急な変化があった場合は、血尿スケールの段階だけでなく、「いつから」「どのくらい」「どのような症状を伴うか」を確認します。 たとえば、以下のように観察します。 「本日朝から尿が淡いピンク色。排尿時痛なし。発熱なし。尿量は普段と同程度。血尿スケール1段階程度。」 「訪問時、尿が暗赤色。血の塊あり。下腹部痛を訴える。尿が出にくい様子あり。血尿スケール4段階程度。」 このように記録すると、医師や看護師に状況を共有しやすくなります。特に、尿の色が急に濃くなった場合、血の塊がある場合、痛みや発熱を伴う場合、尿が出にくい場合は、早めに医師へ報告することが望ましいです。 医師へ報告するときの内容 血尿がみられたときは、以下の内容を整理して報告すると、状態が伝わりやすくなります。 血尿に気づいた日時 尿の色と血尿スケールの目安 血の塊の有無 排尿時痛や頻尿の有無 発熱の有無 腰背部痛や腹痛、叩打痛の有無 血圧・脈拍・SpO2 尿量の変化 転倒や打撲の有無 服薬状況 既往歴 水分摂取量 普段の尿色との違い 血尿は、症状が軽く見えても原因の確認が必要な場合があります。尿がピンク、赤、茶色に変化した場合は、医師に相談した方がよいです。 血尿スケールを使うときの注意点 血尿スケールは便利な目安ですが、診断を行うためのものではありません。尿の色は、採尿容器の色、照明、水分摂取量、薬剤、食品などの影響を受けることがあります。また、茶色っぽい尿は血尿以外に、ミオグロビン尿やビリルビン尿などが関係する場合もあります。尿色の異常には複数の原因があるため、尿検査などで確認することが重要です。 在宅では、無理に原因を判断するのではなく、利用者さんの状態を具体的に観察し、必要に応じて医師や看護師につなぐことが大切です。 まとめ 血尿スケールは、尿に血液が混じっている可能性があるときに、尿の色を段階的に把握するための目安です。訪問看護や介護の現場では、尿の色の変化を早く見つけ、普段との違いを具体的に記録することが重要です。 ただし、血尿スケールだけで重症度や原因を判断することはできません。排尿時の痛み、発熱、腰痛、血の塊、尿が出にくいなどの症状がある場合は、早めに医師へ報告しましょう。血尿の観察では、「色」「量」「症状」「経過」をセットで確認することが、利用者さんの安全を守るために役立ちます。 監修:飛鳥馬 沙耶(あすま さや)/訪問看護ステーション 管理者HCU・高度急性期病棟にて約6年間、循環器・心臓外科・脳外科領域を中心とした急性期看護に従事。2023年より訪問看護ステーションの管理者として、在宅医療の現場に携わる。専門領域は、訪問看護・在宅医療、急性期看護。 【参考文献】 NsPace:「血尿スケール」.https://www.ns-pace.com/glossary/hematuria-scale/2026/7/17閲覧 NHS:「Blood in urine」.https://www.nhs.uk/symptoms/blood-in-urine/2026/7/17閲覧 Mayo Clinic:「Blood in urine(hematuria)」.https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/blood-in-urine/symptoms-causes/syc-203534322026/7/17閲覧 Cleveland Clinic:「Hematuria」.https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/15234-hematuria2026/7/17閲覧 PMC:「Diagnostic Approach to Abnormal Urine Colors」.https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC12066962/2026/7/17閲覧 日本感染症学会:「腎盂腎炎(Pyelonephritis)|症状からアプローチするインバウンド感染症への対応」.https://www.kansensho.or.jp/ref/d32.html2026/7/17閲覧

GCS(グラスゴー・コーマ・スケール)とは?意識レベル評価の基本
GCS(グラスゴー・コーマ・スケール)とは?意識レベル評価の基本
特集
2026年7月14日
2026年7月14日

GCS(グラスゴー・コーマ・スケール)とは?意識レベル評価の基本

訪問看護の現場において、利用者さんの意識レベルに変化があったとき、そのことを客観的に評価することは重要です。この記事では、GCSの基本的な考え方や評価項目、JCSとの違い、訪問看護師が意識状態を観察するときのポイントを解説します。 GCSとは GCSとは、Glasgow Coma Scale(グラスゴー・コーマ・スケール)の略称です。意識レベルを評価するためのスケールで、主に頭部外傷や脳血管障害など、意識状態の変化が重要になる場面で用いられます。 GCSでは、以下の3つの反応を確認します。 E:Eye opening/開眼反応 V:Verbal response/言語反応 M:Motor response/運動反応 それぞれの項目に点数をつけ、合計点で意識レベルを評価します。合計点は3〜15点で、点数が高いほど意識状態が良好で、点数が低いほど意識障害が強いと判断されます。 GCSの評価項目 GCSは、単に「起きているか」「眠っているか」だけを見るものではありません。開眼反応、会話の成立、指示への反応などを分けて確認することで、意識状態をより具体的に把握します。 E:開眼反応 開眼反応では、利用者さんがどのような刺激で目を開けるかを確認します。 点数状態4点自発的に開眼する3点呼びかけで開眼する2点痛み刺激で開眼する1点開眼しない 普段から目を開けて会話できる方が、呼びかけても目を開けにくい場合は、意識レベルの低下が疑われます。ただし、眠気、薬剤の影響、疲労、視覚障害などが関係することもあるため、普段の状態との違いを確認することが大切です。 V:言語反応 言語反応では、会話の内容や受け答えの適切さを確認します。 点数状態5点見当識がある4点混乱した会話がある3点不適切な発語がある2点意味のない発声がある1点発語がない 「今日は何月何日か」「ここはどこか」「名前を言えるか」などを確認し、受け答えが状況に合っているかを見ます。会話ができていても、話の内容がかみ合わない、急に混乱が強くなった、言葉が出にくいなどの変化がある場合は注意が必要です。 M:運動反応 運動反応では、指示に対して体を動かせるか、刺激に対してどのような反応があるかを確認します。 点数状態6点指示に従って動く5点痛み刺激の部位に手を持っていく4点痛み刺激から逃げるように動く3点異常な屈曲反応がある2点異常な伸展反応がある1点反応がない 運動反応は、GCSの中でも重症度の判断に関わる重要な項目です。たとえば「右手を握ってください」「足を動かしてください」といった簡単な指示に反応できるかを確認します。痛み刺激を用いる評価は、医療職が状態や安全性を確認したうえで行う必要があります。 GCSの点数の見方 GCSは、E・V・Mの点数を合計して評価します。たとえば、開眼反応が4点、言語反応が5点、運動反応が6点であれば、合計は15点です。記録するときは、合計点だけでなく、各項目の内訳も書くことが大切です。例:GCS 15点(E4V5M6)例:GCS 10点(E3V3M4)合計点だけでは、どの反応が低下しているのか分かりにくい場合があります。同じ10点でも、言語反応が低いのか、運動反応が低いのかによって、状態の捉え方が変わります。そのため、GCSは合計点とあわせて、E・V・Mの内訳を伝えることが重要です。GCSの公式資料でも、合計点だけでなく開眼・言語・運動の3要素をそれぞれ報告することの重要性が示されています。 GCSとJCSの違い 日本の医療現場では、GCSとあわせてJCS(Japan Coma Scale)が使われることもあります。JCSは、日本で広く用いられている意識レベルの評価法で、刺激に対する覚醒の程度を数字で表します。一方、GCSは開眼、言語、運動の3つの反応をそれぞれ点数化します。そのため、JCSよりも評価項目が細かく、意識状態の変化を具体的に共有しやすいという特徴があります。ただし、GCSは評価に慣れが必要です。とくに訪問看護の現場では、利用者さんのもともとの認知機能、発語の状態、麻痺の有無、難聴、失語、気管切開の有無などによって、正確に評価しにくいことがあります。その場合は、無理に点数化するのではなく、「普段と比べてどう違うか」を具体的に記録することが大切です。 訪問看護の現場で観察したいポイント 訪問看護の現場では、GCSの点数をつけること自体が目的ではありません。大切なのは、利用者さんの普段の状態を知ったうえで、変化に早く気づくことです。 たとえば、以下のような変化がある場合は注意が必要です。 呼びかけへの反応が鈍い 目を開けにくい 会話がかみ合わない 急にぼんやりしている 手足の動きに左右差がある いつもできる指示に従えない 強い頭痛、嘔吐、けいれんを伴う 転倒後に意識がはっきりしない これらの変化がある場合は、バイタルサイン、転倒や頭部打撲の有無、服薬状況、発熱、脱水、血糖異常の可能性などもあわせて確認します。特に、急な意識レベルの低下や麻痺、ろれつが回らないなどの症状がある場合は、速やかに医師や救急へ相談する必要があります。 GCSを記録するときの注意点 GCSを記録するときは、点数だけでなく、観察した状況も残しておくと情報共有がしやすくなります。たとえば、以下のように記録します。「訪問時、呼びかけで開眼。名前は言えるが、場所の理解があいまい。右手を握る指示には応じる。GCS 13点(E3V4M6)。普段は会話明瞭で見当識あり。」このように書くと、点数だけでなく、普段との違いも伝わります。医師や救急隊へ連絡する際にも、状態の変化を具体的に説明しやすくなります。また、気管切開や挿管などで発語が難しい場合は、言語反応を「発語なし」として1点にするのではなく、評価不能(NT)として扱い、その理由を記録します。あわせて、頷き、首振り、ジェスチャー、筆談などで意思疎通ができるか、指示に応じられるかといった観察内容も残します。たとえば「気管切開中のためVは評価不能(V-NT)。呼びかけで開眼し、頷きで意思表示あり。右手を握る指示に応じる」のように記録すると、点数だけでは伝わりにくい実際の反応を共有しやすくなります。GCSでは、点数そのものだけでなく、評価できなかった理由と、実際に観察できた反応を明確に記録することが重要です。 まとめ GCSは、意識レベルを開眼、言語反応、運動反応の3つに分けて評価する指標です。合計点は3〜15点で、点数が低いほど意識障害が強いと考えられます。訪問看護の現場では、GCSの点数を正確につけることだけでなく、利用者さんの普段の様子との違いを把握することが大切です。呼びかけへの反応、会話の内容、指示への反応などを観察し、急な変化がある場合は早めに医師や救急へ相談しましょう。GCSを理解しておくことで、意識状態の変化をより客観的に伝えやすくなります。訪問看護や介護の現場でも、利用者さんの安全を守るための観察ポイントとして役立つ指標です。 監修:飛鳥馬 沙耶(あすま さや)/訪問看護ステーション 管理者HCU・高度急性期病棟にて約6年間、循環器・心臓外科・脳外科領域を中心とした急性期看護に従事。2023年より訪問看護ステーションの管理者として、在宅医療の現場に携わる。専門領域は、訪問看護・在宅医療、急性期看護。 【参考文献】 ● StatPearls:「Glasgow Coma Scale」.https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK513298/,2026/5/25閲覧● Glasgow Coma Scale Official Site:「Assessment of Glasgow Coma Scale」.https://www.glasgowcomascale.org/,2026/5/25閲覧● BrainLine:「What Is the Glasgow Coma Scale?」.https://www.brainline.org/article/what-glasgow-coma-scale,2026/5/25閲覧● 日本集中治療医学会J-PADガイドライン作成委員会†「日本版・集中治療室における成人重症患者に対する痛み・不穏・せん妄管理のための臨床ガイドライン」:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsicm/21/5/21_539/_pdf/-char/ja, 2026/07/06閲覧

Nurse for Nurseによる「看多機での在宅看取り」推進・普及啓発事業
Nurse for Nurseによる「看多機での在宅看取り」推進・普及啓発事業
特集
2026年7月1日
2026年7月1日

Nurse for Nurseによる「看多機での在宅看取り」推進・普及啓発事業

在宅医療を支える人が輝ける社会を目指すNsPaceでは、在宅看取りの担い手を増やそうと取り組む団体の活動を応援しています。本記事では、一般社団法人Nurse for Nurseが公益財団法人テルモ生命科学振興財団の助成を受けて実施する「看多機での在宅看取り推進・普及啓発事業」をご紹介します。看護職・看護学生の皆様の学びや次の一歩を後押しする見学プログラムやウェビナーについて、ぜひご覧ください。 執筆:門元 記子(かどもと のりこ)/一般社団法人Nurse for Nurse 代表理事2005年3月、慶應義塾大学看護医療学部卒業。看護師・保健師、公衆衛生学修士。国家公務員共済組合連合会虎の門病院勤務を経て、東京大学大学院公共健康医学専攻にて修士号取得。その後、国連人口基金(UNFPA)ジンバブエ事務所で3年半勤務したのち、世界保健機関(WHO)ソロモン諸島事務所にて勤務。2021年にジョンズ・ホプキンズ大学のコミュニケーション学修士号取得。 Nurse for Nurseとは? 一般社団法人Nurse for Nurse(以下、NfN)は2021年に設立された非営利型の一般社団法人で、看護職のキャリア開発支援を通してさまざまなローカルおよびグローバルな社会課題解決を目指している団体です。運営含め、会員はすべて看護職、分野は違ってもお互いのキャリアを応援しながら、全国、全世界でさまざまな社会課題解決に取り組んでいます。 NfNでは公益財団法人テルモ生命科学振興財団2025年度医療貢献活動助成に2度目の採択を受け、「看護職や看護学生に向けた看多機での在宅看取りの推進・普及啓発」事業を実施しています(実施期間:2025年12月~2027年3月)。 我が国では病院で亡くなる方が約65%を占め、自宅で亡くなる方は16%に留まっています。 一方、令和4年度に実施された「人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査」では、一般国民が「最期を迎えたい場所」として自宅を選択した割合は、1年以内に死に至る病気の場合で43.8%、末期がんや重い心臓病の場合は30%前後でした1)。本人が希望する最期の場所と実際に亡くなる場所との間には一定の乖離があり、その希望が実現しない要因はさまざまありますが、医療の高度化とともに一般市民が在宅で看取ってもらえる、家族が看取れるということが理解されていない現状もあります。また、尊厳ある看取りを支える看護要員の確保が難しいという実態も浮かび上がっています。特に看護基礎教育に「在宅看護論」がない世代(平成8年以前)や訪問看護の経験がない者は、在宅看護のイメージを持てない者も多いといわれています。 そこで、本事業では近年新たな支援提供先として注目やニーズが高まっており、事業者数および利用者数が増加傾向にある看護小規模多機能型居宅介護施設(以下、看多機)での看取りに焦点を当てています。 看多機について学んでみませんか? NfNでは看護職のキャリア開発支援の一環として「看多機」について広く知っていただき、一人でも多くの方に携わってみよう、開業してみよう、と思っていただけるように取り組んでいます。看多機は医療依存度の高い方であっても、在宅での療養を可能とすべく通所、泊り、訪問(看護と介護)を組み合わせたサービスを提供しています。サービスが一カ所に集中していることでさまざまな事業所との調整を担っているご家族の負担も減り、ご家族にとっても頼りになる施設といえます。 超高齢社会を迎え、在宅看取りを含めた在宅支援の受け皿がますます必要となるなか、NfNでは看護職の皆様に下記事業をお届けします。 (1)「看多機」見学プログラム:看多機に行ってみませんか?見てみませんか? 2026年9月、全国からご関心のある看護職を対象に「看多機」を2か所見学していただくプログラムを実施します。本プログラムでは、地域における看多機での看護、その役割や看取りについて経営者や看護職、利用者の視点から学ぶ機会を提供します。 過去の参加者からは小規模多機能との役割の違い、「点」でのサービスが「線」でつながりシームレスな支援が実現できていること、多職種連携の大切さなどを感じていただきました。 また、ご協力いただいた株式会社ラピオンの柴田さんからは「経営よりも運営が難しい」というお話もありました。ぜひ、その実態を肌で感じてみてください。そして、小グループでの実施ですので、お互いに学びを深めていただける機会になると思います。 2023年度の実施報告はこちら ご協力者・訪問先:● 柴田 三奈子氏:株式会社ラピオン 看護小規模多機能型居宅介護 ラピオンナーシングホーム 代表取締役(東京都日野市)● 福田 裕子氏:まちのナースステーション八千代 統括所長・管理者(千葉県八千代市) 対象:● 日本国の保健師・助産師・看護師免許保有者(いずれか1つ以上)● 看多機での看護、そこでの看取りに関心のある方(経験は問いません)● プログラムの全日程(下記)に参加が見込める方 プログラム日程:● 2026年8月22日(土)09:00-10:00:NfNによる参加者事前オリエンテーション(オンライン)● 2026年9月11日(金)~12日(土):2つの看多機へ半日ずつ訪問(事業オリエンテーション、見学、質疑応答など)● 2026年9月27日(日)16:00-17:30:見学プログラム参加者報告会● 2026年8月~9月:1対1のオンライン・キャリア相談*NfNのキャリア相談サービスをご活用いただきます(希望者のみ)。 募集人数:6名 参加費:無料(交通費・旅費〈日当・宿泊費含む〉をNfN規定により最大5万円まで補助) 募集〆切:2026年7月18日(土) 応募方法:募集要項をご確認いただき、応募フォームをご送信ください。 (2)ウェビナー『ほぼ自宅、ときどき第2のお家』アーカイブ配信のご案内*日本訪問看護認定看護師協議会後援 2024年12月、Nurse for Nurseでは「『ほぼ自宅、ときどき第2のお家』訪問看護・介護・通い・泊り全て対応可能な看多機での生活、最期について考えてみませんか?」と題したウェビナーを開催しました。 第1部では、看多機の概要、提供サービスや事例の紹介を通して、その役割や看多機を利用した看取りの実際についてご紹介いただきました。また、看多機でご主人を看取られたご家族の方へのインタビュー動画も共有しました。そして、第2部では、いただいた質問に対して、ご登壇者のご経験を交えてお答えいただきました。現在、本動画をYouTubeでアーカイブ配信しております。ウェビナー実施報告含め、ぜひ、ご覧ください。 こんな方におすすめ: 看多機の仕組みや運営に関心のある方 看多機での生活やケアについて知りたい方 在宅看取りに関心のある方 視聴者の声: 看多機の良さ(家族や本人の状態に合わせて、訪問と宿泊を柔軟に対応できるなど)がわかった。 ビデオメッセージは実際の状況がイメージしやすくとてもよかった。 事例から利用者を支える姿がイメージできました。 今後、起業も視野に入れていたので、たいへん参考になりました。 「看多機」に関心を持っていただいた皆様へ 全国的に事業数が伸びている看多機ですが、まだまだ数は足りておらず、看多機がない自治体もあるのが実情です。NfNは本プログラムを通して、看護職が看多機で提供するケアや在宅看取りについても理解を深めていただき、看多機で働いてみたい、看多機を開設したい、という看護職のキャリアを後押しできればと考えます。そして、この事業によって「自宅で最期を迎えたい」という多くの国民の想いが実現できる社会となることを願っています。 Nurse for Nurse会員登録について 最後に、Nurse for Nurseは看護職同士でのキャリア開発支援を通して社会課題の解決を目指しています。皆様にもお互いのキャリアを後押しする輪に加わっていただきたく、会員を募集しております。看護職同士がつながり、新たな発見(タグラインであるConnect and Discover)を通して、社会課題解決を一緒に目指しましょう。会員サービスには(1)会員データベース閲覧、(2)オンライン・キャリア相談、(3)交流会などのイベントへの参加などがあります。会員登録はホームページから。皆様のご登録をお待ちしております! *本事業は2023年度に続き「公益財団法人テルモ生命科学振興財団2025年度医療貢献活動助成」を受け実施しています。 【引用文献】1)人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査報告(令和 5 年 12 月).https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/saisyuiryo_a_r04.pdf ;712026/6/30閲覧

訪問看護師向け在宅看取り教育プログラム(PENUT)開発秘話/日本訪問看護財団
訪問看護師向け在宅看取り教育プログラム(PENUT)開発秘話/日本訪問看護財団
コラム
2026年3月24日
2026年3月24日

訪問看護師向け在宅看取り教育プログラム(PENUT)開発秘話/日本訪問看護財団

在宅で最期を迎えることを希望する人がいるなか、訪問看護師は、療養者や家族に寄り添いながら看取りを支える重要な役割を担っています。そうした社会的背景のもと誕生したのが、訪問看護師向け在宅看取り教育プログラム(PENUT:ピーナット)です。本記事では、PENUTの特徴とともに、開発に込められた思いや歩みを紹介します。 ■公益財団法人 日本訪問看護財団 PENUT事務局職員 平原 優美(ひらはら ゆみ)/常務理事、在宅看護専門看護師小沼 絵理(おぬま えり)/事業部所属岸 純子(きし じゅんこ)/事業部所属、在宅看護専門看護師角田 佳奈美(すみだ かなみ)/事業部所属濱谷 雅子(はまたに まさこ)/事業部所属※手前左から時計回りに記載 執筆:濱谷 雅子(はまたに まさこ)/公益財団法人 日本訪問看護財団 事業部博士(看護学)。早稲田大学スポーツ科学部を卒業後、修士課程から看護学の道へ。2020年度より現職。日本訪問看護財団が5年間にわたり実施した「訪問看護師向け在宅看取り教育プログラムの開発」事業では、主研究者として開発に携わる。訪問看護師の優れた実践をインタビュー調査などを通じて理論化し、その成果を広く社会へ発信する研究活動を行っている。 訪問看護師向け在宅看取り教育プログラム(PENUT)ってなに? 訪問看護師向け在宅看取り教育プログラム(PENUT: Program of End-of-life care for home visiting NUrses Training)は、在宅看取りを実践できる訪問看護師の養成を目的としたプログラムです。オンデマンド講義(約10時間)と演習(1日間)で構成されます(図1)。 2021年度に実施したモデル事業を含め、2026年1月末までに818名が修了しています。 【PENUTの3つの特徴】 PENUTの主な特徴は以下の通りです。 1. エビデンスに基づく系統的なプログラムPENUTは、アンケート調査、インタビュー調査、専門家のレビュー、モデル事業を経て開発された、エビデンスに基づく系統的なプログラムです。PENUTの有効性を検証した研究1)は、日本看護科学学会にて学術論文優秀賞および最優秀演題口頭発表賞を受賞しました。 2. 在宅看取りに卓越した訪問看護師と医師による臨場感ある講義講義は、在宅看取りに豊富な経験をもつ訪問看護師と医師が担当しています(表1)。各講義では、実際の事例に基づく支援の過程や療養者・家族とのコミュニケーションの様子などが再現され、臨場感のある学びが得られます。また、講義はオンデマンド配信のため、受講期間内であればいつでもどこでも何度でも視聴可能です。 3. 専門的な教育を受けたファシリテーターによる演習演習では「訪問看護計画の立案」と「コミュニケーション技術の習得」をテーマにグループワークを行います。訪問看護師向け在宅看取り指導者養成プログラム(PENUT-T)※により専門的な教育を受けた指導者がファシリテーターを担当します。 ※ 訪問看護師向け在宅看取り指導者養成プログラム(PENUT-T:Program of End-of-life care for home visiting NUrses Training-Trainer)は、PENUTを開催できる指導者を養成する教育プログラムです。詳しくは別の記事で紹介します。 PENUTはどうして誕生したの? 日本訪問看護財団では、訪問看護師による在宅看取りの推進を目的に、2017年度よりELNEC-J(End-of-Life Nursing Education Consortium-Japan)コアカリキュラムを用いた研修を実施してきました。ELNEC-Jは科学的根拠に基づいた有用なプログラムですが、主に医療施設における成人がん患者のケアを想定しており、当財団としては訪問看護に特化した包括的な看取り支援のための教育プログラムの必要性を感じていました。 国内の年間死亡者数は2040年には約168万人に達すると推計されています2)。また、国民の約半数は自宅で最期を迎えることを希望しています3)。こうした社会的背景を受け、当財団は2020年度よりPENUTの開発に着手しました。 PENUTの開発秘話 PENUT開発の歩み PENUTの開発は、日本財団の助成を受けて2020年度に始まり、5年間の計画で進められました。 図2に示すように、はじめに有識者で構成される検討委員会(委員長:東京大学・山本則子教授)とワーキング委員会を設置し、文献検討、アンケート調査、インタビュー調査を重ねてプログラム案を作成しました。その後、モデル事業の実施・評価を行うなど、複数の段階を経て完成に至りました。 コロナ禍での手探りのスタート PENUT開発事業は、まさにコロナ禍の真っただ中にスタートしました。緊急事態宣言が発令されるなか、訪問看護の現場は日々対応に追われ、ひっ迫した状況にありました。そのような状況で「プログラム開発をしている場合ではないのではないか」という声もありました。一方で、多死社会の到来は目前に迫っており、地域で看取りを支えるしくみづくりは待ったなしの課題です。こうした中長期的な視点で事業を進めることも、当財団の使命であると考え、PENUT開発事業をスタートさせました。 しかし、いざ事業を始めてみると、プログラム開発の手順や進め方について、右も左も分からないことばかりでした。どのような段階を踏めば質の高い教育プログラムがつくれるのか、どのように根拠を積み上げていくのか、手探りの状態からのスタートでした。 課題に一つひとつ向き合い、積み上げた5年間 そこで、財団事務局とワーキング委員で、国内外の類似プログラムや教育理論、研究方法について、文献を読み込み、必要なプロセスを一つひとつ整理していきました。そして、プログラムの開発や評価研究の経験をもつ専門家から助言をいただきながら、少しずつ事業の形を整えていきました。 こうして動き出した事業でしたが、5年間の道のりは決して平坦ではありませんでした。モデル事業の参加者は集まるのか、効果的なコミュニケーション技術演習をオンラインでどのように行うのか、収集した膨大なデータをどのように分析しプログラムに反映させるのかなど、一つひとつの課題に対し、事務局で議論を重ね、検討委員とワーキング委員の助言を得ながら進めていきました。 現場の訪問看護師の思いと実践がプログラムに そのようななかで、モデル事業に参加し、開発に協力してくださった全国の訪問看護師の皆さんの存在は、私たちの大きな支えとなりました。インタビュー調査では、日々悩みながらも積み重ねられている素晴らしい実践を、丁寧に、時に熱を込めて語ってくださいました。その語りに触れるたびに、「このような実践ができる訪問看護師をもっと増やしたい」という思いが強くなりました。 さらに、プログラムの講師や演習のファシリテーターを担当してくださったのも、まさに現場で看取りを支えている訪問看護師の方々でした。ご自身の経験を惜しみなく共有し、受講者に寄り添いながら学びを導く姿に、私たちは何度も心を動かされました。その実践の深さに触れるたび、「この内容を社会へ発信したい」という思いを強くしました。 このように、全国の訪問看護師の皆さんが語ってくださった実践、講師やファシリテーターとして支えてくださった方々の熱意、そして専門家の助言が、プログラムの要素を形づくっていきました。まさにPENUTは「現場とともにつくる教育プログラム」として育まれてきたのだと感じています。 研修情報・詳細はこちらさらに詳しい情報や研修開催情報については、PENUT専用ウェブサイトをご覧ください。 https://www.jvnf.or.jp/penut/ 次回は、「PENUT誕生で変化する看取りの現場」と題し、受講者の声を紹介します。>>次回の記事はこちら訪問看護師向け在宅看取り教育プログラムPENUT 研修風景&受講者の声/日本訪問看護財団 【参考文献】1)濱谷雅子, 平原優美, 小沼絵理, 沼田華子, 野口麻衣子, 菱田一恵, 岡本有子, 竹森志穂, 新幡智子, 栗田佳代子, 山本則子:無作為化比較試験による訪問看護師向け在宅看取り教育プログラム(PENUT)の有効性の検討. 日本看護科学会誌, 44, 218-227, 2024. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jans/44/0/44_44218/_pdf/-char/ja2026/3/10閲覧2)内閣府(2022):第1章 高齢化の状況 高齢社会白書 (令和4年版),5, 日経印刷株式会社.3)厚生労働省(2023): 人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査報告書.https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/saisyuiryo_a_r04.pdf2026/3/10閲覧

腹膜透析におけるトラブル対応とセルフケア指導の実践事例集
腹膜透析におけるトラブル対応とセルフケア指導の実践事例集
特集 会員限定
2026年3月17日
2026年3月17日

腹膜透析におけるトラブル対応とセルフケア指導の実践事例集

本記事は、医療関係者のスキルアップを目的として症例写真等を掲載しているため、NsPace会員様(医療関係者)限定で公開しています。 腹膜透析(Peritoneal Dialysis:PD)は、患者さん自身やご家族に一定の自己管理能力が求められるため、トラブル対応やセルフケア支援において訪問看護師の果たす役割は非常に大きいといえるでしょう。今回は、当院で実際にかかわった事例をもとに、訪問看護の視点から実践的な対応や指導の工夫を紹介します。※本記事で使用している写真の掲載についてはご本人・ご家族、関係者の了承を得ています。 はじめに PD治療で頻度の多いトラブルは、連続携行式腹膜透析(Continuous Ambulatory Peritoneal Dialysis:CAPD)関連の腹膜炎(CAPD腹膜炎)、出口部感染とトンネル感染、体液管理不良で、これらはPD離脱の主要な原因でもあります。安定したPD治療の継続には、在宅でのトラブル予防や異常の早期発見・重症化予防のための、セルフケアの向上を目的とした声かけや観察が重要となります。 事例1:出口部感染を繰り返す中年男性への支援 50代男性。糖尿病性腎症によりPDを導入。独居生活。透析方法は連続携行式腹膜透析(Continuous Ambulatory Peritoneal Dialysis:CAPD)を選択、同時に訪問看護の利用が開始された。 CAPD導入後、出口部感染を繰り返したため出口部変更術が行われた症例です。退院後1週間目の訪問看護では出口部の状態は良好でしたが(図1)、2週間目の訪問時に出口部周囲の発赤と浸出液が確認されました(図2)。訪問看護師が、連携アプリ上で画像付きで病院へ報告したことで、早期に治療方針を再検討することができました。 図1 退院後1週間目の出口部 術後の発赤や血餅の付着があるが、腫脹は軽度で浸出液もなかった。 図 2 退院後2週間目の出口部 出⼝部周囲に発⾚と腫脹の悪化および膿性浸出液が認められ、出⼝部感染が強く疑われる。 訪問看護師による観察・共有が早期治療介入に直結 当院では、「出口部スコア」(図3)を訪問看護ステーションと共有し、現場での感染評価に活用しています。「腫脹」「痂皮」「発赤」「疼痛」「排膿」の5項目を、それぞれ0~2点で評価し、合計点数が4点以上を「出口部感染」として医師に報告するしくみです。また、感染の疑いがある場合には、速やかに画像付きで情報を共有できるようにしています。 図3 訪問看護ステーションと共有している「出口部スコア」 執筆者の所属病院と訪問看護ステーションが共有しているスコア表。スコア表は、文献1)をもとに作成。 今回のケースでは、訪問看護師が出口部の状態から4点以上と評価し、迅速に病院へ報告。病院では、訪問看護師に培養検体の採取・搬送を依頼し、エンピリック治療(病原体が確定する前に抗菌薬治療を開始すること)を早期に開始できました。治療経過も引き続き画像データとともに共有しています。訪問看護師の適切な観察と病院との連携で、患者さんが頻回に通院することなく、診断および治療を完了できたケースです。 また、出口部感染の再発を予防するため、出口部ケアやカテーテルの固定方法を統一化することも大切です。腹膜透析認定指導看護師が作成したマニュアル(図4)を訪問看護師と共有し、発赤・腫脹や痂皮、疼痛、浸出液(特に膿性浸出液)に注意して患者さんのセルフケア指導を行っていただくようにしています。 図4 訪問看護ステーションと共有している「出口部ケアの手順」 執筆者の所属病院と訪問看護ステーションが共有しているマニュアル。マニュアルは腹膜透析認定指導看護師が作成。 事例2:体重・水分管理が不安定な高齢男性への支援 80代男性。軽度の認知機能低下あり。高齢の妻と2人暮らし。近隣に長男が居住。CAPDを実施中で、訪問看護の利用もあり。 食事摂取量が不安定で、体重・血圧のコントロールに難渋していた症例です。体重減少時には血圧低下やふらつき、体重増加時には血圧上昇や浮腫を認めていました。外来ごとに薬剤の変更や透析液の調整を行っていたものの、いずれも残ることがあり、服薬やCAPD実施の不安定性が危惧されていました。 治療状況の把握と症状観察、家族への支援も 病院でも在宅での治療状況を正確に把握するため、訪問看護師が残薬や透析液の使用状況を確認することで、治療のアドヒアランスが明確になりました。さらに、体重と血圧、浮腫の状態を定期的に観察し、必要に応じて連携アプリを通じて病院と情報を共有したことで、外来受診を待たずにCAPDの処方変更(高張液の使用回数の調整)が可能になりました。 また、訪問看護師が長男に観察ポイントを説明し、訪問がない日も体重や血圧を継続的に測定できるように支援しました。 このケースでは、訪問看護師が家族とともに在宅での観察を行い、病院と迅速に状況を共有することで、処方の即時調整や服薬管理の改善につながりました。その結果、体重や血圧の変動幅を小さく抑えられたケースです。 事例3:画像による情報共有で不要な緊急受診を回避 70代男性。自動腹膜透析(Automated Peritoneal Dialysis:APD)を実施中。 排液の混濁がみられたものの、訪問看護師の対応で食餌性乳び腹水と判断でき、不要な緊急受診を回避できた症例です。あるとき、患者さんから「ボトルの排液が白濁している」と訪問看護師に連絡が入りました。急いで駆けつけると、図5のように排液は確かに白色に混濁している状態でした。 図5 白濁した排液 訪問看護師が患者さんの問診を行ったところ、前日に餃子と豚骨ラーメンを食べていたことが判明。触診でも腹部に圧痛や違和感はなく、発熱も認めませんでした。 訪問看護師は得られた情報と排液の画像を病院に共有しました。病院では排液混濁の程度と自覚症状に乖離があることから乳び腹水の可能性も考慮し、訪問看護師に尿試験紙での排液検査を依頼。検査したところ、白血球反応は陰性でした。そのため、腹膜炎の可能性は低く、次回排液まで経過観察としました。 排液が混濁すると腹膜炎を強く疑いますが、薬剤性(カルシウム拮抗薬)や食餌性(脂質の多い食事後の乳び腹水)でも同様の所見がみられます。細菌性腹膜炎の場合、腹水中に白血球が遊走するため、尿試験紙で白血球反応が陽性になることが多くあります。 的確な症状評価と情報共有 訪問看護師が問診・身体診察を行い、連携アプリを通じて病院に画像付きで報告したことで、病院側も「在宅での経過観察で問題ない」と判断でき、不要な緊急受診を回避できました。実際に次回の排液は透明であり(図6)、細菌性肺炎ではなく、食餌性の乳び腹水であることが分かり、患者さんやご家族の安心につながったケースです。 図6 状態が改善された排液 おわりに PDの離脱原因として、体液の過剰と腹膜炎が大多数を占めると報告されています2)が、いずれの病態も早期に対応することで離脱の回避が大いに期待できます。 また、PDにおいては、患者さん・ご家族は大きな不安を抱えながら在宅で治療を継続しています。わずかな体調の変化にも敏感に反応し、ときに不要な緊急受診をされ、心身の負担になってしまうことも経験します。 訪問看護師の皆さんは、患者さんの生活にもっとも近いところで支援する立場として、医学的知識と生活支援力の両方を発揮することが求められます。患者さん一人ひとりに合わせた支援が、PDの安定的な継続とQOLの向上につながると考えています。 執筆:上村 太朗松山赤十字病院 腎臓内科 部長 2001年 愛媛大学医学部卒業関西圏の市中基幹病院で研修2005年 松山赤十字病院入職2016年 松山赤十字病院腎臓内科部長 前任部長・原田篤実より受け継いだラストマンシップを診療の軸に、地域と連携し、すべての腎臓病患者さんが困らない医療を心がけています。 編集:株式会社照林社 【引用文献】1)Szeto CC,Li PKT,Johnson DW,et al:ISPD Catheter-Related Infection Recommendations:2017 Update.Perit Dial Int 2017;37(2):141-154.2)Kawaguchi Y,Ishizaki T,Imada A,et al:Searching for the reasons for drop-out from peritoneal dialysis: a nationwide survey in Japan.Perit Dial Int 2003;Suppl 2:S175-S177.

開催間近!学術集会長 藤野泰平氏 特別インタビュー【第15回日本在宅看護学会学術集会 11/29&30開催】
開催間近!学術集会長 藤野泰平氏 特別インタビュー【第15回日本在宅看護学会学術集会 11/29&30開催】
インタビュー
2025年11月11日
2025年11月11日

開催間近!学術集会長 藤野泰平氏 特別インタビュー【第15回日本在宅看護学会学術集会 11/29&30開催】

2025年11月29日(土)・30日(日)に、ウインクあいち(愛知県/JR名古屋駅より徒歩5分)にて「第15回日本在宅看護学会学術集会」が開催されます。テーマは、「訪問看護と社会インフラ~医療・ケアを地域の当たり前に~」。開催が目前に迫る中、学術集会長の藤野 泰平さんに、地域での暮らしを支え続ける訪問看護の意義や、社会インフラとしての可能性についてお話をうかがいました。 >>関連記事11月29日&30日開催!第15回日本在宅看護学会学術集会 見どころ紹介見どころやシンポジウムの紹介もされています。 藤野 泰平さん第15回日本在宅看護学会学術集会 学術集会長 名古屋市立大学看護学部卒業後、聖路加国際病院に入職。訪問診療クリニック、訪問看護ステーションの勤務を経て、2014年11月に株式会社デザインケア・みんなのかかりつけ訪問看護ステーションを設立。日本看護管理学会 看護の適正評価に関する検討委員会副委員長、一般社団法人日本男性看護師会 共同代表、オマハシステムジャパン理事、東京大学、慶應義塾大学非常勤講師などを歴任。 訪問看護を「社会インフラ」として考える ―前回の記事で、瀬戸内海の島で生まれたことがきっかけで訪問看護を「社会インフラ」と表現するようになったと教えていただきました。経緯について、もう少し詳しく教えてください。 はい。私が生まれ育った島では、「住みたい場所で暮らしたい」という願いが病気をきっかけに叶わなくなったり、緊急対応が間に合わず命に関わる事態になったりすることがありました。私自身も、家族として大きな無力感を覚えた経験があります。訪問看護や救急医療が十分でない地域では、日常生活や生き方にさまざまな制約が生じやすいことを実感したんです。 電気・ガス・水道と同じように、医療やケアが当たり前に届く社会をつくりたい――。この想いが、私の原点です。そして、「家族やペット、友人などと年を重ね、住み慣れた場所で日々穏やかに過ごしたい」という多くの人の願いに、医療や福祉がきちんと応えられる社会を実現したいと思っています。 ―そのために、訪問看護ができることは何でしょうか。 医療や介護は、当事者にならなければ実感しづらいものですよね。 例えば、私はこれまで「娘に迷惑をかけたくない」と施設に入った方が「娘に会いたい」と涙を流す姿や、亡くなった後にご家族が「母は幸せだったのでしょうか」「私は親孝行できたのでしょうか」と悔やむ姿などを何度も見てきました。「本当にこれでよかったのか」という後悔は、心に深く残るものです。 訪問看護の出発点は、利用者さんの「どう生きたいか」「どんな暮らしを望むのか」という声に丁寧に耳を傾け、受け止めることだと私は考えています。 そして、訪問看護師は日々多くの「最期」に立ち会います。その経験を通して得た声や気づきを地域で生きる人たちに伝えながら、「どうすればより良い最期を迎えられるか」「どう生きていけるか」という未来を描いていく。そうやって、まちの中で人と人との思いをつなぐことこそが、訪問看護という仕事の大切な一面なのだと、私は考えています。 ―藤野さんは、どのように「伝える」活動をされているのでしょうか。 例えば、書籍の執筆やホームページでのケア症例事例集の公開などを行っています。医療やケア、「生きる」ことに関する情報を、市民の方々へ還元していきたいと思っています。 人生の歩みや病気との向き合い方など、その方の「物語」がみえるケア症例事例集。(みんなのかかりつけ訪問看護ステーションHPより) 社会のしくみをより良くしていくために ―藤野さんは、幅広くご活動をされていますが、具体的な活動内容や、その背景にある想いについて教えてください。 まずは、なんといっても訪問看護事業です。世界的には、地域でのプライマリ・ケアを基盤に、生活に根ざした支援を重視する国が多い一方、日本では病院中心の体制が長く続いており、看護職の多くが病院に勤務しています。しかし、人が実際に生活するのは病院ではなく自宅です。生活の場で支える存在がもっと必要だと考えて訪問看護を始めました。スタッフが長く安心して働ける環境を整えることが、地域支援の持続可能性を保つことにもつながると考え、教育のオンライン化やオンコール専用コールセンターの設置などにも取り組んでいます。 また、学会活動にも力を入れています。今回は日本在宅看護学会の学術集会長を担当していますが、日本看護管理学会や日本在宅連合学会などでも委員会に参加し、さまざまな職種の方と協働して、社会のしくみをよりよく動かすための議論や提案を行っています。 医療や介護の現場は、「診療報酬」「介護報酬」という制度のもとで成り立っています。制度をどの方向に動かすのが望ましいのかを考える上で、学会は非常に有効なチャネルです。職種の枠を超え、仲間たちとともに、「社会にとってより良い形とは何か」について、議論を重ねながら社会をリードしていく。そんな役割を担えたらと考えています。 そのほか、ケアの質を見える化する「オマハシステム」や、看護職の多様なキャリアを支援する「日本男性看護師会」など、いくつかの団体や企業活動を通じて、看護のしくみづくりや社会的な基盤づくりにも携わっています。データやDXを活用して、社会全体を少しでも早く、より良い方向へと変えていけるよう、仲間と力を合わせて活動を続けています。 未来をつくるために意識したいこと ―今回の学術集会の運営にあたり、特に意識されたポイントについて教えていただけますか。 意識したのは、「未来をどうつくっていくか」ということです。今回の学術集会では、主に以下の3つを柱に据えました。 人づくり:未来を担う世代を育てる 社会を支えていくためには、「人づくり」がとても大切だと感じています。これは、法人の中で人材を育成するという狭い話ではありません。病院も在宅も大学も含めて、どのように人を育てていくかを考える。そこにこそ、学会が果たせる役割があると思うんです。生産性:力を発揮できる環境づくり 日本の一人あたり労働生産性は、主要国と比べて十分に高くはありません。裏を返せば「伸びしろが大きい」ということでもあります。人口減少が進む中でも、働く環境の整備やDXの推進によって、より多くの人が力を発揮できるようになれば、医療や福祉を含む社会全体の活力を高めていけると考えています。想像力:多様な人々の暮らしを想像する 社会の未来を考える上で、想像する力は欠かせません。医療者にとっても重要な力だと思っています。例えば、子どもを亡くした親の気持ち、仕事に失敗して家にこもる人の孤独、災害に遭った方々の日々などをどれだけ想像できるかが、行動を起こす上での鍵になります。遠く離れた国の子どもたちの現実を自分ごととして捉えるのは難しいのは、無関心なのではなく、単に経験の差や情報の届き方が影響している側面もあると思います。利用者さんの心に触れる経験を通じて、「自分たちの未来はどうあってほしいのか」「どんな社会にしていきたいのか」を想像する。その想像力をもとに、当事者意識を持って未来を考えていく。この学術集会が、そのきっかけになれば嬉しいと思っています。 視野を広げ、つながりを知り、自分を主語に語る ―若手看護師をはじめ、あまり学術集会に参加したことがない方へのアドバイスやメッセージがあれば教えてください。 臨床で働く中では、どうしても自分にできないことや職場の空気に意識が向きがちです。しかし、実際には世界はもっと広がっています。自分が大切にしている価値観やこだわりが認められなくても、別の場所では評価されることがある。広い視野を持つことは、一歩を踏み出す勇気につながることを、私自身も実感しています。 また、「自分たちの仕事がどこで、どのように、つながっているのか」を知ることも大切です。多種多様な立場の人の試行錯誤を知ることは、大きな学びになります。現場で一生懸命取り組むことが、退院後の患者さんの人生に影響を与えることもあります。その影響が、やがて家族や地域へと広がっていくことだってあるでしょう。こうしたつながりを実感できるのが、看護の醍醐味だと思っています。 そして、学術集会の場などで誰かと話すときは、「自分を主語に語ること」です。「『私は』こう思った」「『私は』困った」と、自分の言葉で表現すると良いと思います。明確な正解はありませんし、同じ出来事でも、背景や経験によって受け取り方は違います。自分を主語にすることで、「それいいね」という共感や、「こう考えてみたら?」という助言が生まれ、次の一歩につながるのです。皆さんには、さまざまな人の話を聞きながら、「自分にとっての意味」を感じ取ってほしいと思います。 ―最後に、学術集会の具体的なまわり方に関して、アドバイスをお願いします。 学会やセッションでは、ぜひ自分が興味を持ったテーマの場に足を運んでください。今の自分が求めていることは、きっとその中にあります。また、少し勇気がいるかもしれませんが、終わった後に登壇者等に「少しお話ししてもいいですか?」と声をかけてみてください。それだけで人生が大きく変わることもあります。自分の仕事に誇りを持てるきっかけになるかもしれません。 そして、11月29日(土)17時からの懇親会も、肩の力を抜いて語り合える貴重な時間だと思っています。第14回学術集会の懇親会も多くの若い方が参加してくださり、「あの話に共感しました」「こんな苦労がありました」といった会話が自然に生まれました。そんな何気ない交流が、自分を磨くきっかけになります。ぜひ積極的に参加して、声をかけてください。私もその場にいますので、話しかけてもらえれば、どんな質問にもできる限りお答えします。 そうした「有機的な出会い」の中で、一緒に未来をより良くしていく仲間として、互いに成長していけたらと思います。 2025年11月29日(土)、30日(日)開催の「第15回日本在宅看護学会学術集会」にご参加希望の方は、学術集会ウェブサイトよりご登録ください。また、学術集会の1日目終了後(17時~)には、懇親会も開催されます。ぜひあわせてご参加ください。・学術集会への登録はこちら第15回日本在宅看護学会学術集会 ウェブサイト・懇親会の情報はこちら 11/29・30開催「第15回日本在宅看護学会学術集会」に協賛!懇親会も開催 取材・編集:NsPace編集部執筆:小松原 菜々 【参考】〇プライマリ・ケア連合学会「プライマリ・ケアとは」https://www.primarycare-japan.com/about.htm2025/11/5閲覧〇厚生労働行政推進調査事業.筑波大学附属病院 総合診療・プライマリ・ケア推進事業報告書「わが国の総合診療はどうあるべきか 第4部 総合診療に関する国際比較」https://soshin.pcmed-tsukuba.jp/education/report/pdf/04_001.pdf2025/11/5閲覧〇厚生労働省「看護師等(看護職員)の確保を巡る状況に関する 参考資料」(令和5年5月29日)https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001101182.pdf2025/11/5閲覧〇厚生労働省「令和6年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/eisei/24/dl/gaikyo.pdf2025/11/5閲覧〇公益財団法人日本生産性本部「労働生産性の国際比較2024」https://www.jpc-net.jp/research/list/comparison.html?utm_source=chatgpt.com2025/11/5閲覧

訪問看護のカスタマーハラスメント しくみ作りと対策【セミナーレポート後編】
訪問看護のカスタマーハラスメント しくみ作りと対策【セミナーレポート後編】
特集 会員限定
2025年10月7日
2025年10月7日

訪問看護のカスタマーハラスメント しくみ作りと対策【セミナーレポート後編】

NsPace(ナースペース)のオンラインセミナー「訪問看護のカスタマーハラスメント対策~安心して訪問看護ができるために~」(2025年6月20日開催)では、医療現場のカスタマーハラスメント(以下「カスハラ」)対策に詳しい坪田康佑先生を講師にお迎えし、訪問看護業界のハラスメントの実態や、講じるべき対策について教えていただきました。セミナーレポート後編では、具体的なカスハラ対策についてご紹介します。 ※約75分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 >>前編はこちら訪問看護のカスタマーハラスメント 実態と制度【セミナーレポート前編】 【講師】坪田 康佑さん看護師/国会議員政策担当秘書/日本男性看護師會代表理事慶應義塾大学 看護医療学部を卒業。米国 Canisius 大学で MBA 取得。看護 DX や医療現場のカスタマーハラスメント対策など、さまざまな角度から看護師支援に取り組む。 カスハラ対策は組織の責務 訪問看護現場におけるカスハラに対しては、訪問看護ステーションや経営者が対策を講じる必要があります。 2020年6月には、厚生労働省が「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して、雇用管理上講ずべき措置等についての指針」で、事業主が職場全体で対策を進めるべきという告示を出しました。 また、労働安全衛生法の第69条には「労働者の健康の保守増進を図るため必要な措置を継続的かつ計画的に講ずるよう努めなければいけない」と定められており、労働契約法でも「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるように、必要な考慮をする」という安全配慮義務が規定されています。事業所の規模を問わず、暴力・ハラスメント対策は、事業主や管理者の義務なのです。 事業所で講じるべきカスハラ対策 適切なカスハラ対応ができる体制・しくみ作りのため、まず必要なのは「カスハラをカスハラとして認識する」こと。現時点では「嫌な気持ちになったら報告する」という当たり前の行動ができていないことを理解し、「これってハラスメントなのでは?」という段階で声を上げられるしくみ作りを目指してください。そのために、まず事業所内で暴力・ハラスメントの定義を理解しておく必要があります。(暴力・ハラスメントの定義については前編「訪問看護のカスタマーハラスメント 実態と制度」参照) 上記をふまえ、以下のような体制・しくみを構築しておけば、発生後の対応で難しいとされる「速やかな指示」もできるはずです。 適切に警察に連絡できる体制 暴力をふるう、襲いかかる、凶器を持ち出すといった、暴行・傷害につながる事案は、警察に相談しなければなりません。いざというときに躊躇しないために、事前に警察へご挨拶に伺っておく、関係機関との協力体制を確認しておくのがおすすめです。また、警察に連絡する基準を明確にし、一人ひとりが認識することも必要でしょう。警察への相談窓口「#9110」では、緊急性のないトラブルや不安にも対応してくれます。 利用者さんとの関係の悪化を心配して通報を控えていると、カスハラは止まらず、悪循環を招きます。その利用者さんを担当する事業所が変わった場合、被害者はさらに増えるでしょう。訪問看護業界からの人材流出という問題にもつながるので、通報する勇気をもってください。 なお、こうしたしくみ作りは、利用者さんと訪問看護師がよい関係を築き、質の高い看護を提供していくためのものです。その想いと対策の内容を利用者さんやスタッフに伝え、みんなで理想的な関係を作っていくことが重要です。 被害者の心情に配慮した対応 ハラスメントが発生した際、スタッフへの最初の指示は「逃げて」です。スタッフが身の安全を確保できたら、客観的に問いかけて被害状況を記録していきます。 当たり前ですが、悪いのはハラスメントをした人間です。すべてのハラスメントは、被害者の尊厳や自尊心を傷つけるもの。被害者にはしっかりと「あなたは何も悪くない」と伝えてください。 そして被害者となったスタッフには、心理的ケアが必要です。状況に応じた受診方法を定めた上で事務所全体に共有し、それに則ってサポートしましょう。なお、被害状況によっては労災に該当することもあるため、医師に診断を受けるのは重要です。 また、継続的にケアを続けるのもポイント。時間が経ってから精神的な後遺症が表れることもあるので、管理職を中心に事業所全体でケアをしてください。専門家によるカウンセリングが受けられるしくみを用意しておくのもおすすめです。 さらに、被害を受けたスタッフが十分な休息をとれるよう、早退や休暇の取得ができる体制も必要です。なお、休むことで収入が減るという状況だと、カスハラは隠蔽する方向にイニシアティブが働きます。体制づくりの際にご注意ください。 二次被害になりやすい言い方の例と改善方法 ハラスメントへの対応時に意識したいのが、二次被害の防止です。「なぜすぐに相談しなかった?」「なぜ利用者を怒らせた?」といった「Why don’t you~?」型の言葉で原因追及をするのは、傷つけや行動否定といった二次被害につながるため、あくまで状況の整理に徹しましょう。気をつけなければならない点を洗い出すまでで終わりにしてください。 また「飲んで忘れよう」「遊んで気晴らしをしよう」といった逃避行動をすすめるのも二次被害につながります。事実から目をそらさず、問題を丁寧に取り扱っていきましょう。 感受性を高める実践的対策 カスハラ対策には、スタッフ一人ひとりの「暴力・ハラスメントへの感受性」を高めることも重要です。ポスターを貼って理解を促す、勉強会や研修を行うなどして、感受性を高めてください。ポイントは、定期的に行うこと。これまでのキャリアの中で培われた価値観は根強く、ハラスメントの定義を誤って認識していると簡単には正せないので、継続的なアプローチが必要です。 それから、「相談」をしやすいしくみ作りも求められます。相談ができるようになると連絡、やがては報告もできるようになっていくので、まずは嫌な思いをしたときに気持ちを話す習慣をつけられるようにしてください。 また、通報ツールや防犯グッズをスタッフに配布するのも効果的。カスハラが起こったときに録音や警備会社への連絡ができる商品があります。カスタマーハラスメント防止対策推進事業の奨励金や、地域医療介護総合確保基金の補助などの支援策もあるので、ぜひ活用してください。 * * * 看護師の笑顔は利用者さんの笑顔を、利用者さんの笑顔は家族の笑顔を、家族の笑顔は地域の笑顔を生むと私は考えています。看護師の笑顔を守ることは、たくさんの人々を笑顔にする第一歩。ぜひ一緒に看護師の笑顔を作っていきましょう。 【講師・坪田 康佑さんよりコメント】2025年9月30日、私が理事を務める二団体が、東京都産業労働局より「カスタマーハラスメント対策団体」として認証されました。今後は東京都の予算を活用し、相談窓口の設置や啓発活動を進めてまいります。専用サイトなども準備中ですので、何かありましたらお気軽にご連絡ください。・一般社団法人日本男性看護師會 代表理事 https://nursemen.net/・一般社団法人訪問看護支援協会 理事 https://kango.or.jp/ 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア 【参考文献】〇厚生労働省:事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)【令和 2年6月1日適用】.https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000605661.pdf2025/9/4 閲覧〇坪田 康佑・池田 智・矢山 壮:訪問看護のハラスメントの実態と対策に関して.日本在宅看護学会第 14 回学術集会(2024 年 11 月 17 日),配布資料.〇三木 明子 監修・著:訪問看護・介護事業所必携! 暴力・ハラスメントの予防と対応,メディカ出版,2019〇日経ヘルスケア著・編:患者トラブル解決マニュアル,日経BP出版センター,2009

訪問看護のカスタマーハラスメント 実態と制度【セミナーレポート前編】
訪問看護のカスタマーハラスメント 実態と制度【セミナーレポート前編】
特集 会員限定
2025年9月30日
2025年9月30日

訪問看護のカスタマーハラスメント 実態と制度【セミナーレポート前編】

2025年6月20日、NsPace(ナースペース)はオンラインセミナー「訪問看護のカスタマーハラスメント対策~安心して訪問看護ができるために~」を開催。医療現場のカスタマーハラスメント(以下「カスハラ」)対策に詳しい坪田康佑先生に、訪問看護における暴力・ハラスメントの実態や対策について伺いました。セミナーレポート前編では、カスハラの基礎知識や、現場が抱える課題などをまとめます。 ※約75分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】坪田 康佑さん看護師/国会議員政策担当秘書/日本男性看護師會代表理事慶應義塾大学 看護医療学部を卒業。米国Canisius大学でMBA取得。看護DXや医療現場のカスタマーハラスメント対策など、さまざまな角度から看護師支援に取り組む。 カスハラの定義と分類 訪問看護現場でのカスハラについて考えるにあたり、最初に「暴力、ハラスメントの定義」を明確にしておきましょう。 【身体的暴力】身体的な力を使って危害を及ぼす行為。実際に触れていなくても、拳を上げた時点で身体的暴力に該当します。 例叩かれる、つねられる、爪で引っかかれる、ものを投げられる、唾を吐かれる、背後から蹴られる 【精神的暴力】個人の尊厳や価値を言葉によって傷つけたり、貶めたりする行為。 例強い口調や大きな声で文句をいわれる、人格を否定される、理不尽なクレームで長時間拘束される 【セクハラ】性的な誘いや嫌がらせ、好意的態度の過度な要求など。 例体に触れられる、卑猥なことをいわれる、(訪問看護師の)身体的な特徴を話題にする、(利用者さん自身の)陰部を触るように要求される 新潟県はハラスメントを「暴言型」「暴力型」「時間拘束型」「リピート型」「SNS/インターネット上での誹謗中傷型」などの9つに分類し、対策を定めた「ペイシェントハラスメント対策指針」を発表しました。「ペイシェントハラスメント」と明記された行政文書は、これが初めてです。都道府県を越えて活用できる内容なので、ぜひ参考にしてください。 ハラスメントの定義に「原因」は含まれない カスハラが起こったとき、管理職が被害を受けたスタッフ側のサービスや態度、または利用者さんの病気に原因を探してしまうケースはよく見られます。しかし、ハラスメントの定義に原因は含まれません。原因に関係なく、「ハラスメントがあった」のであれば、その事実を否定してはいけません。再発防止に向けた検討を行いましょう。 訪問看護現場におけるカスハラの実態 2019年に行われた全国訪問看護事業協会の調査では、訪問看護師の45%が「身体的暴力」を、53%が「精神的暴力」を、利用者さんやその家族から受けたことがあると答えています。また、セクハラを受けた方の割合も48%に上りました。 さらに、2020年に福岡県の訪問看護ステーションを対象に実施された実態調査では、訪問看護師の約40%が、利用者さんやその家族などから暴力を受けた経験があることが明らかに。しかも、そのうちの半数は「1年以内」に暴力を受けています。現場でのカスハラは、「過去」ではなく「今」起こっているのです。 訪問看護業界では早急に対策を講じ、スタッフを守っていかなければなりません。 「声を上げられない」現場の空気 多くの訪問看護師がカスハラを受けているにも関わらず、被害の声が上がりにくいという現状もあります。その一因となっているのが、以下のような被害者の心理的背景です。 被害者の心理的背景・痛みはあったが、ケガには至らなかった・私のかかわり方が悪かったのかもしれない・管理者に説明するのは気が進まない・ことを大きくしたくない・利用者さんのために我慢しよう・認知症の方だから仕方がない こうした自責思考や「利用者さんのためを思っての選択」が、訪問看護現場のカスハラをなかったことにしてきました。しかし、起こった事案はきちんと共有し、対策を考えていかなければなりません。また、管理者は「声が上がらない=問題は起きていない」と捉えず、背景を考慮して「声を上げられる環境づくり」に取り組む必要があります。 訪問看護のハラスメント相談率は、訪問介護よりも低い 相談の意志という観点では、訪問看護のほうが訪問介護よりもハラスメントに関する相談率が低いことが厚生労働省の調査でわかっています。ハラスメントについて「些細な内容でも相談した」と回答した人の割合は、訪問看護は40%を下回りました。「ハラスメントを受けた際に、内容によっては相談した」という回答を含めてやっと80%を超える状況で、ハラスメントを受けても相談しなかった人が約20%もいます。 相談しない理由は、「利用者やその家族に病気、障害があるから」との回答が約半数を占めました。続いて「自分自身でうまく対応できていたから」が約34%、「問題が大きくなると面倒だから」が約16%となっています。 「利用者さんは病気だから」と考えない 「精神疾患がある方のほうがカスハラを起こしがち」と考える方は少なくありませんが、精神科とそれ以外の訪問看護での暴力発生率を比べると、精神科以外のほうが多いことがわかっています。精神疾患だから、認知症だからと考えず、カスハラへの感受性を高め、きちんと対策を講じなければなりません。 国や警察の取り組み カスハラに対する国の取り組みとして、厚生労働省は2021年に「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を発表しています。 また2022年6月には、警視庁から各都道府県警に対して医療機関との連携を推進するよう促す通知が出されました。これを受けて警察では、医療機関や医師会からの通報・相談は関係部門で連携し、必要に応じて助言・対応・検挙などを行う体制の整備が進められました。さらに2024年2月には体制強化を明記した再通知が出されており、医療従事者の安全を守るため、的確かつ確実な対応に努める構えです。 ここで重要なのが「警察に電話する」ことが即「逮捕」につながるわけではないことです。生活安全部門も関わりながら、指導や助言などの対策をしてくれます。必要なときは躊躇せずに相談してください。 次回は事業所で講じるべき具体的なカスハラ対策や被害者の心のケア、二次被害の予防などについて解説いただきます。 >>後編はこちら訪問看護のカスタマーハラスメント しくみ作りと対策【セミナーレポート後編】 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア 【参考文献】〇滋賀県・公益社団法人滋賀県看護協会: 訪問看護・訪問介護事業所における暴力・ハラスメント対策マニュアル.令和元年度滋賀県委託事業 訪問看護師・訪問介護職員安全確保・離職防止対策事業. 2020.〇新潟県 病院局業務課:新潟県病院局 ペイシェントハラスメント対策指針,令和6年5月https://www.pref.niigata.lg.jp/uploaded/life/677384_2027172_misc.pdf2025/9/4 閲覧〇全国訪問看護事業協会:訪問看護師が利用者・家族から受ける暴力に関する調査研究事業報告,2019〇坪田 康佑・池田 智・矢山 壮:訪問看護のハラスメントの実態と対策に関して.日本在宅看護学会第14回学術集会(2024年11月17日),配布資料.〇厚生労働省:事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)【令和2年6月1日適用】.https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000605661.pdf2025/7/31閲覧〇厚生労働省.:介護現場におけるハラスメントに関する調査研究(2019年3月)https://www.mhlw.go.jp/content/12305000/000947359.pdf2025/9/4 閲覧〇厚生労働省:カスタマーハラスメント対策企業マニュアル,2022https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000915233.pdf2025/9/4 閲覧〇警察庁:医療機関等との連携によるストーカー事案等の適切な対応について(令和6年1月22日付 警察庁丙企発第3号).https://www.npa.go.jp/laws/notification/2024iryoukikanrenkei.pdf2025/9/4 閲覧

× 会員登録する(無料) ログインはこちら