アセスメントに関する記事

特集
2022年3月1日
2022年3月1日

Spo2(サチュレーション)が低いが「苦しくない」と答える患者への確認ポイント5つ

高齢患者さんの症状や訴えから異常を見逃さないために必要な、フィジカルアセスメントの視点をお伝えする連載です。第5回は、SpO2が平常時は95%あるのに、90%になっている患者さん。呼吸困難感を尋ねると本人は「苦しくない」……。さて訪問看護師はどのようなアセスメントをしますか? 事例 ベッド上で全介助の82歳男性。バイタルサイン測定時にSpO2が90%でした。ふだんは95%ぐらいあり、呼吸困難感について尋ねたのですが、「苦しくない」と言っています。あなたはどう考えますか? アセスメントの方向性 SpO2が90%であり、低酸素状態が疑われます。高齢者では呼吸困難の自覚が乏しいことがあるので、客観的データを十分に収集する必要があります。低酸素状態は、▷肺や呼吸の問題 ▷循環の問題 ── が考えられます。 一方、全身的な低酸素状態ではないのに、測定部位の循環障害でSpO2値が低く出る場合があるので、まずは正しく測定できているかの確認から始めましょう。 ここに注目! ●SpO2値でみると、低酸素状態であり、呼吸障害や全身の循環不全が考えられるのでは?●症状がほとんどないことから、末梢のみの循環障害か? 主観的情報の収集(本人・家族に確認すべきこと) ・低酸素に伴う症状(呼吸困難、胸が苦しい感じ、頭痛、頭が重い感じ、ぼーっとする感じ、目の見えにくさ、声の出にくさ、言葉の出ない感じ、不安感、焦燥感、傾眠傾向、など)・肺の感染徴候の確認(のどの痛み、咳、痰、喘鳴、など)・生活への影響(食欲・食事摂取量の低下、活動量・活気の減少) 客観的情報の収集 SpO2測定部位の末梢循環 SpO2が低く出たときの測定部位の指先について、冷感、皮膚の色、圧迫されていないかを確認します。 SpO2を簡便に測定することができるパルスオキシメーターのしくみは、手または足の指にプローブを装着することで、血液の色を検知し、酸素と結びついたヘモグロビンがどの程度存在するかを計算します。循環障害のない(皮膚色の変化のない)指で測定しなければ、正しい値が出ないことがあります。 SpO2が低く出た測定部位が一時的な循環不全だった可能性があれば、加温やマッサージ後に、もう一度測定します。また、ほかの手指、足指で測定してみて値が回復するようなら、全身的な低酸素状態ではないと確認できます。 チアノーゼと冷汗 全身性のチアノーゼ、じっとりとした冷たい汗をかいている場合は、全身の循環障害(ショック状態)が強く疑われます。速やかな対応が必要です。 呼吸数・胸郭拡張の確認 もし低酸素状態であれば、頻呼吸となり、浅速呼吸や努力呼吸になっていることがあります。 平均的な呼吸数は12~20回/分です。必ず呼吸数を確認し、報告しましょう。 胸郭の視診・触診で、呼吸運動が十分に行われているかを確認します。ただし、COPDなど閉塞性の肺疾患のある人は、もともと胸郭が動きにくいので、胸鎖乳突筋や腹筋などの呼吸補助筋の緊張が高まっていないかをチェックすることが役立ちます。 肺音の聴取 努力呼吸のときには呼吸音は増大します。大きく聞こえているからといって、酸素を十分に取り込めているわけではないので注意してください。呼吸音の消失や減弱、代償性の増強、肺胞音が聞かれるべき部位で気管支呼吸音のような強い音が聞かれる気管支呼吸音化をチェックします。 副雑音は正常では聞かれない音です。副雑音があるようなら、肺胞や気管支に何らかの異常があると判断できます。 脈拍・血圧測定 呼吸機能が原因の低酸素の場合、末梢へ酸素供給を行うために脈拍が速くなり、血圧は高くなります。低酸素状態が悪化すると血圧は低下します。 報告のポイント ・正しく測定したSpO2の値とその経過・バイタルサイン・呼吸形態や肺音聴取の結果から、呼吸器障害の推測・全身の循環障害の徴候 執筆 角濱春美(かどはま・はるみ) 青森県立保健大学健康科学部看護学科健康科学研究科対人ケアマネジメント領域教授 記事編集:株式会社メディカ出版

特集
2022年2月22日
2022年2月22日

言葉による返事がない(運動性失語)認知症患者さんとのコミュニケーション方法

患者さんの言動の背景には何があるのか? 訪問看護師はどうかかわるとよいのか? 認知症を持つ人の行動・心理症状(BPSD)をふまえた対応法を解説します。第3回は、話し掛けてもうなずくだけで、言葉を発してくれない患者さんの行動の理由を考えます。 事例背景 80歳代男性。認知症の診断を受けている。半年前くらいから、動作が鈍くなり話もしなくなってきた。あいさつするとうなずくが、話し掛けても発語はない。問い掛けにも、「あー」という声だけ。すべての日常生活行為で、声を掛けても反応がないし、話もしてもらえない。 なぜ患者さんは発語がないのか? 失語とは 認知症の症状のうち、記憶障害、見当識障害、失認、失行、失語、判断力・実行機能の低下などは、中核症状と呼ばれます。これらは、脳障害そのものが引き起こす症状です。 この患者さんは、この中核症状が引き起こす「失語」の状態と考えられます。 失語では、「言葉を話すこと」だけでなく、▷言葉を聞いて理解すること ▷文字を理解すること ▷文字を書くこと ▷復唱すること ── などすべての言語機能が、程度の差こそありますが、同時に障害されます。 失語症の種類 脳の左前頭葉には言語に関するブローカ野とウェルニッケ野があり、その障害部位により症状が異なります。 失語症の種類 運動性失語 (ブローカ野/運動領域の近くの障害)構音(発声)は保たれているが、喋ることが困難で、まとまった意味を流暢に表出することができない感覚性失語 (ウェルニッケ野聴覚領域の近くの障害)相手の言う言葉は音として聞こえるが、意味が全く理解できない この患者さんの場合、話し掛けてもほとんど言葉による返答がないことから、運動性失語があると考えられます。 運動性失語の患者さんは、自分の思いや、食事や排泄など日常的な欲求も、他者にうまく伝えることができません。自分の状況を他者に伝えることができなければ、支援を受けることも困難です。単に言葉を失うだけではなく、他者との関係性をも失って、孤独になっていくと予測できます。 患者さんをどう理解する? 看護師には、「患者さんの思いを知りたい」気持ちを持つことと、コミュニケーションの工夫が必要になります。 「患者さんの思いを知りたい」気持ちと患者さんの体調の把握 患者さんの状態は日によって異なり、意思疎通がとれる日とまったくとれない日があります。意思疎通を体調のバロメーターとし、患者さんに活動をすすめたり、休息を促したりしていきましょう。 コミュニケーションの工夫 ・患者さんの名前を呼び、覚醒を促し、看護師側に注意が向くようにする。・顔を見て、目線を合わせて話をする。・自分の存在を知らせ、ゆったりと患者さんを尊重した態度で接する。・一つの文で伝えるのは一つの内容だけにし、平易な言葉を選択する。・「はい」「いいえ」で意思表示ができる会話文も取り入れる。患者さんのペースで話してもらい、看護師は言葉を補っていく。・予測される本人の欲求を絵などで見せる(食事、飲水、排泄など)。・タッチングなど、非言語的コミュニケーションを活用し、安心感を与える。・会話に集中できる環境を作り、会話する機会を多く持ち発話を促していく。 話し掛けても返答がない患者さんの場合、患者さんが何も感じていないかのように思えてしまい、看護師が話し掛けることも、発語がある人に比べて少なくなりがちです。上のような工夫を取り入れて、積極的にかかわっていきましょう。 こんな対応はDo not! × 医療者・看護者側のペースで物事を進める× テレビがついたままなど、騒然とした環境下で話をする× 一度にたくさんの事柄を話す× 命令的な表現、相手を見下した言葉を使用する× 子どもに対するような言い回しで話し掛ける× 無理に言い聞かせようと、患者さんの言い分や行動を否定する 執筆茨城県立つくば看護専門学校佐藤圭子 監修堀内ふき(ほりうち・ふき)佐久大学 学長 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】〇松田実.『症候学から見た認知症疾患の鑑別診断』最新医学.68(4),2013,761-6.

特集 会員限定
2022年2月15日
2022年2月15日

【セミナーレポート】看取りの作法~事例検討と質疑応答編~

2021年12月17日(金)、NsPace(ナースペース)主催オンラインセミナーを行いました。講師に田中公孝先生をお迎えした今回のテーマは、2021年11月開催セミナーから引き続き「看取りの作法」。リアルな看取りの実例を通し『医療者が看取りに向き合う』ときに意識したい点について、田中先生のご経験をふまえながらお話いただきました。今日の訪問看護からすぐに取り入れられるエッセンスをピックアップしてお届けします。 2021年11月12(金)開催「看取りの作法」セミナーレポートはこちら≫ 【講師】田中 公孝先生杉並PARK在宅クリニック院長。家庭医療専門医。経歴:2009年滋賀医科大学医学部卒。家庭医療専門医。2017年東京都三鷹市で訪問クリニックの立ち上げに参画。2021年春東京都杉並区西荻窪で開業。医療介護ICTの普及啓発をミッションとして、区や医師会のICT推進事業にも関わる。 【目次】1. 「看取り」を見据えた医療者のかかわり方2. 家族間の問題が表出したとき、医療者はクッションになり得る3. 利用者の方の日々の生活から読み取る観察眼4. グリーフケアのコーディネート 会いたい人に会えるように5. Q&Aセッション ・短期間で関係性を構築するためのアドバイスいただけますか? --> 「看取り」を見据えた医療者のかかわり方 サービス開始時、利用者の方の情報を分析し、医療の視点からみなさん計画を立てると思います。もちろん決めつけすぎるのは良くありませんが、計画段階で『どこまでを見据えるか』という点は重要です。看護計画に主眼を置きすぎると見落としてしまいがちな「本人はどうしたいのだろう」という視点。この視点もバランス良く持ちながら患者さんとかかわっていく必要があると考えていて、私の場合は「最期をどういうふうに迎えたいか」という点も注視します。・最期について、家族とどうやって話し合うのか・専門職としてどのような意志決定の支援ができるかというところまで思考を拡張させながら、医学アセスメント、家族関係や希望を含め、計画を立てていきます。 家族間の問題が表出したとき、医療者はクッションになり得る 終末期になると家族の問題や関係性が集約されてきます。これまで関係性が希薄だった家族が集合してコミュニケーションをとり始めると、ギクシャクしてしまうことも多い。そういった場面で、専門職はクッションになれる可能性がある。その点についても意識しながら、看護計画を立てていくと良いのかなと考えています。 利用者の方の日々の生活から読み取る観察眼 利用者の方のことを知るために、私が意識しているのは次の2つです。まずひとつは利用者の方に「具体的な質問をする」こと。たとえば「食事のあとはなにをして過ごしますか?」と漠然と聞くのではなく、「新聞は読みますか?」「テレビは観ますか?」など1歩踏み込んで尋ねることで初めて返ってくる答えがあります。もうひとつは「観察する」ことです。利用者の方の身の周りに置いてあるものや日常でよく使うもの、飾っているもの。そういったもののなかに、大切にしたい思い出や誇りを持っていることが隠れている。そこに目配りをすることでコミュニケーションのきっかけができるだけでなく、短期間でも心の距離を縮めやすくなり、心を開いてもらうことにつながります。これは利用者本人だけでなく、家族に対しても同じことが言えます。 グリーフケアのコーディネート 会いたい人に会えるように 看取りの際、私たちの行為にはグリーフケアをコーディネートするという側面が含まれます。ご家族からも話を聞くことは、利用者本人のことを知るだけでなく、ご家族に対する死前のグリーフケアにもなるんです。死前に「悲嘆を共有できる専門職」として家族に認めてもらうことで、死後のグリーフケアもスムーズになります。 グリーフケアの基本についてはこちら≫ また、やりたいことを叶えていくことで、本人はもちろんご家族も「良かった」と思える。死前のグリーフケアという意味も含めて本人に「やりたいことはないですか?」「会いたい人はいますか?」と聞いたり、「会いたい人には会った方が良いですよ」と促したりします。 そして心構えを伝えることも重要です。私たち医療者は事例を見ているので看取りへ向かう経過のイメージができますが、ご家族には難しい。だから事前に「これから1カ月でこうなります」「1週間でこうなります」という変化を専門家として提示することで心構えを促します。そうすると「じゃあ、あれをやらなくちゃ」と家族の行動が変わる。そこをコーディネートするのがすごく重要かなと考えています。 Q&Aセッション 短期間で関係性を構築するためのアドバイスいただけますか? Q 最近は介入後に数週間で旅立たれることが多いです。関係性や信頼関係に中途感があります。短期間で関係性を構築するためのアドバイスをいただけますか? A 事前にどれだけ看取りに向けてのシナリオを描けるかというのが鍵となります。準備無しで行き当たりばったりだと、絶対に中途半端になってしまう。これまでの治療で患者さんや家族が抱えた気持ちのモヤモヤを解きほぐして、家族に看取りへの心構えや経過を説明して、家族関係のコーディネートをして…ということができれば中途感はぬぐえるかなと思います。このとき、ひとりでパンクしないために看取りのためのベストチームを形成しておくことも重要です。同じような価値観で組める医師に依頼して、看取り経験が豊富な看護師、ケアマネージャーともトライアングルチームを組んで、家族のグリーフケアもケアマネージャーにフォローしてもらって、というようなプロデュースをしてチームで手分けできると、かかわる時間が短く自分たちがあまり時間を割けないなかでも、上手くいくように思います。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

特集
2022年2月15日
2022年2月15日

5日前インフルエンザにかかり、ずっと排便がない場合【訪問看護のアセスメント】

高齢患者さんの症状や訴えから異常を見逃さないために必要な、フィジカルアセスメントの視点をお伝えする連載です。第4回は、インフルエンザにかかってからずっと排便がない患者さん。さて訪問看護師はどのようにアセスメントをしますか? 事例 5日前からインフルエンザにかかり、昨日から熱が下がってきた80歳女性。 ふだんは2日に1回の頻度で排便があるのですが、ここ5日間は排便がなく、何らかの対処が必要かどうか看護師は考えています。 便の頻度や便の性状は、▷食事の摂取量 ▷水分出納 ▷交感神経と副交感神経のバランスが乱れたことによる腸蠕動運動の変調 ── など、さまざまな要因で変化します。排便のケアを考えるにあたっては、便がどの程度、どこに貯留しているかをアセスメントする必要があります。 たとえば、下行結腸に便が貯留していないのに浣腸をしても排便は起こりません。腹部のアセスメントを十分に行ってからケアを考え、苦痛が最小限になるような排便ケアを考えていきましょう。 ここに注目! ●排便の頻度からみると、便秘状態と考えられる。●インフルエンザ罹患の影響で、食事や水分の摂取、腸蠕動に変調があった後であり、便の貯留はどの程度かをアセスメントし、ケアを考える必要がある。 主観的情報の収集(本人・家族に確認すべきこと) ・便秘の経過(ふだんの排便の頻度と性状、最終排便からの日数、最終排便の量・性状、排便困難、ふだんの下剤や浣腸の使用、など)・便秘の症状(腹部膨満感とこれに伴う苦痛、腹痛、腹部不快感、排ガス、便意、悪心、など)・便秘の要因について(食事摂取量、食事内容〈繊維質の量、ヨーグルトなどの乳酸菌食品の摂取〉、水分摂取量、水分出納、など) 客観的情報の収集 便の性状と回数 これまでの排便、最終排便の状況について、記録を参照し、量と硬さを確認して現在の便の貯留量を推測します。ふだんから排便量が少ない場合は、食事摂取ができていなければ、もっと便の量が減る可能性があります。 腹部の視診・触診 視診で腹部全体の膨満があれば、便やガスの貯留が疑われます。皮下脂肪が少ない場合は、便の貯留部位が膨隆して視診できる場合があります。恥骨結合直上から左側腹部にかけてよく視診します。 触診は、恥骨結合の上から左下腹部を少し深め(3cmくらい)の位置で、手を動かして感触を探りながら行います。 普通便が貯留している腸は、鉛筆ほどの太さで柔らかく触れます。大量に貯留している場合は、より太く、範囲が広くなります。また、兎糞便化している場合は、コロコロと小さく硬く触れます。 腹部の打診 打診では、ガスが貯留している場合は鼓音となり、音の性質もポンポンと高い音になります。固形の便が貯留している場合は、その部分が濁音となります。左下腹部を重点的に打診して、どの程度、便が貯留しているかを見積もります。 腹部打診音とその評価 鼓音 (ポンポンと高く響く軽い音)ガスの貯留であり、腸の存在部位では正常音。高い鼓音は、高度なガス貯留を示す濁音 (ドンドンと響かない短い音)水分が多い状態、充満した膀胱、肝臓、便、腫瘍 腸音 右の下腹部で腸音を1分間聴取します。腸の蠕動が低下している場合は、腸音は低く、頻度が少なくなります。 ストレスなどにより腸の運動を支配している自律神経のバランスが乱れると、下痢と便秘を繰り返す痙攣性の便秘となることがあります。精神的ストレスが大きいときに起こることが多い便秘の種類です。この場合は、腸蠕動が亢進していることも考えられます。 報告のポイント ・最終排便からの日数と腹部膨満感や嘔吐、食欲不振の症状の有無・腸蠕動と排ガスの有無による腸管麻痺の可能性・腹部膨満、打診・視診による便の貯留の位置や量の推定 執筆 角濱春美(かどはま・はるみ) 青森県立保健大学健康科学部看護学科健康科学研究科対人ケアマネジメント領域教授 記事編集:株式会社メディカ出版

特集
2022年2月8日
2022年2月8日

胃瘻患者さんの家族から「口から食べられませんか?」と相談された場合【訪問看護のアセスメント】

高齢患者さんの症状や訴えから異常を見逃さないために必要な、フィジカルアセスメントの視点をお伝えする連載です。第3回は、胃瘻造設の患者さんで、ご家族から「元気になってきたから、もう口から食べられるのではないでしょうか?」と相談されました。さて訪問看護師はどのようにアセスメントをしますか? 事例 85歳男性で、入院前にはADLが自立していました。肺炎で入院し嚥下の状態が不安定だったため、胃瘻を作り経管栄養となりました。肺炎が完治したため自宅に戻りました。現在は座位が安定して取れるようになり、短距離の歩行もできるようになりました。家族から、「元気になってきたので、もう口から食べられるのではないでしょうか?」と相談されました。 全身状態の改善に伴い、嚥下機能が改善した可能性のある患者さんです。食事開始は医師の指示によりますが、経口摂取の可能性がどれだけあるのかをアセスメントし、報告することで言語聴覚士(ST)や医師の判断を促すことができます。呼吸状態を確認し、問題がないようなら嚥下に関するアセスメントを行ない、他職種と結果を共有し、ケアプランを考えましょう。 ここに注目! ●筋力が戻れば経口摂取の再開が可能ではないか?●嚥下の機能改善についてアセスメントする必要がある。 主観的情報の収集(本人・家族に確認すべきこと) ▪ 食事摂取の意欲、空腹感はあるか▪ 呼吸器症状(痰の量、咳嗽・むせの有無、痰の喀出ができるか、など) 客観的情報の収集 今回の事例は、神経麻痺の可能性は低いと考えられますが、念のために口腔と嚥下の状態をアセスメントします。 口唇を閉じることができるか 「パ」の音を発音してもらって確認します。口唇を閉じないと、正しく「パ」を発声することができません。 または、頬を膨らませてもらい、息漏れがないかを観察することでも確認できます。 口蓋垂の偏位 「あー」と声を出してもらい、口蓋垂の偏位がないかを確認します。舌咽神経・迷走神経に麻痺がある場合、健側に偏位します。 舌の偏位 舌の動きが悪くなると、食塊を奥に運ぶことができませんので、舌の動きを確認します。舌を前にいっぱいに出してもらい、偏位がないか、上下左右に動かしてもらい、スムーズに動くかを確認します。 舌の動きは舌下神経がつかさどっています。麻痺がある場合は、麻痺側に偏位し、動きも鈍くなります。 これらの症状がすべてみられなければ、経口摂取できる可能性が高まります。 歯の状態 歯牙の状態、入れ歯が合うかどうかを確認します。しばらく経口摂取していなかったため、入れ歯が合わなくなっている可能性があります。 舌の表面 舌の表面を視診し、清潔に保たれているか確認します。舌苔があったり、凹凸がなくてつるりとしていたりすると、味覚を感じにくくなり、食欲不振につながります。せっかく食事を始めても、味わう楽しみが得られません。 嚥下のアセスメント 唾液を飲み込んでもらい、喉頭隆起の動きがスムーズか、むせがないかを確認します。麻痺がある場合は、麻痺側の運動が遅れるので、うねるような動きがみられます。 嚥下の評価テストには、空嚥下を30秒以内に3回以上できるかを確認する反復唾液嚥下テスト(repetitive saliva swallowing test;RSST)や、水を飲みこませてむせや呼吸の状態を確認する水飲みテスト(modified water swallow test;MWST)などがあります。医師に相談して許可が得られれば行なってみましょう。 報告のポイント ▪患者・家族ともに経口摂取の意欲があること▪呼吸の状態▪嚥下にかかわる神経障害の有無、嚥下評価テストの結果 執筆 角濱春美(かどはま・はるみ) 青森県立保健大学健康科学部看護学科健康科学研究科対人ケアマネジメント領域教授 記事編集:株式会社メディカ出版

特集
2022年2月8日
2022年2月8日

認知症のある患者さんに接するときの7か条(後編)

患者さんの言動の背景には何があるのか? 訪問看護師はどうかかわるとよいのか? 認知症を持つ人の行動・心理症状(BPSD)をふまえた対応法を解説します。第2回は、「認知症のある患者さんと接するときの7か条」の、後編です。 4条 わかりやすい短い文章で話しましょう 短く区切って話しましょう 認知症の人は、一度に多くの話をすると理解できずに混乱してしまうことがあります。わかりやすい言葉で簡潔に伝えましょう。 たとえば、「リハビリの後、トイレに行って食事にしましょう」と、複数のことを一度に話しても、わかりにくく、伝わりにくいです。「トイレに行きましょう」「ご飯を食べましょう」と、短く区切って具体的に話すと伝わりやすくなります。 認知症の人は理解力が低下しているので、早口で話されると聞き取りにくいことがあります。聞き取りやすいように、声が聞こえるように近づいたり、ゆっくりとしたスピードで話すことなどしてみましょう。 その人に合った手段を探しましょう 高齢者では視力や聴力が低下していることもあります。言葉だけでなくジェスチャーや絵を活用するのもよいです。難聴がある場合は補聴器をつけることや、「トイレ」の絵や文字などを使うことなども一つの方法です。非言語コミュニケーションをうまく活用するなど、その人に合ったコミュニケーション手段を探すことが大切です。 相手にわかりやすいよう配慮することで、より良いコミュニケーションにつながります。 5条 低めの落ち着いた声でゆっくり話しましょう 認知症の人は、認知機能低下や加齢に伴う聴力の低下によって、急な変化への対応が難しいことがあります。急がせる・慌てさせる言葉や態度は、相手のペースを乱し、パニックに陥らせてしまいます。 話をするときは、声のトーンを落とし、ゆっくり落ち着いた雰囲気で話すことが大切です。低めの声でゆっくり話すことは聞き取りやすくもなります。一緒に話をして楽しい、安心できると感じるようなコミュニケーションをとりましょう。 コミュニケーションがうまく図れない原因が、認知症による影響のほか、睡眠不足や脱水傾向などが原因のこともあります。認知症以外の健康管理や、認知症以外でコミュニケーションを阻害する要因にも注意を払い、対応することも大切です。 6条 自尊心を傷つける言葉を使わないようにしましょう 認知症の人は、記憶の障害、見当識の障害、判断力の障害から、現在の状況とは違った言動を示すことがあります。認知症の人とコミュニケーションをとるときは、本人の在る世界を理解し、尊重することです。理解しがたい言動にも、何かしら意味があります。その気持ちを理解し、寄り添い、不安や不快なものは取り除くようにしましょう。 また、認知症の人は「話をしてもわからない」「どうせ忘れてしまう」と思われがちです。しかし、最近のことは忘れても古い記憶は残っていることが多いです。認知症が進み、記憶力が低下しても、感情も豊かで羞恥心やプライドは変わりません。その点をよく理解したうえで本人に話しかける必要があります。否定や強制的な説得など、自尊心を傷つける態度は避けましょう。 7条 相手の気持ちに寄り添いましょう 認知症の人は、話すのに時間がかかる、何か伝えたいことがあってもそれをなかなか言葉に出すことができないことがあります。そのときは、言葉が出てくるまでゆっくり静かに待ちましょう。 また、待っている間、表情や動きを見ながら、どんなことを伝えたいか想像しながら待ってみましょう。何らかの反応を感じられるかも知れません。 そして、認知症の人と話をするときは、相づちをうちながら傾聴し、相手の気持ちに寄り添いましょう。徘徊や妄想などの症状がある場合は、意味がわからない言動であっても、その人なりの理由があることが多いものです。否定や説得ではなく本人の気持ちに寄り添い、その言動の理由を見つけるよう努めましょう。 相手を受け入れ理解するには、その人を知ろうとする姿勢が大切です。感情を理解し、寄り添うことで、お互いに信頼関係が生じスムーズな会話につながります。 執筆浅野均(あさの・ひとし)つくば国際大学医療保健学部看護学科 教授 監修堀内ふき(ほりうち・ふき)佐久大学 学長 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】〇一般社団法人日本認知症ケア学会.『認知症ケアの実際Ⅱ:各論.改訂5版』東京,ワールドプランニング,2018,113-6.〇一般社団法人日本認知症ケア学会.『認知症ケアの実際Ⅰ:総論.改訂4版』東京,ワールドプランニング,2016,39-45.〇鷲見幸彦監著.『一般病棟で役立つ!はじめての認知症看護』東京,エクスナレッジ,2014,66-7.〇鈴木みずえ監修.『認知症の人の気持ちがよくわかる聞き方・話し方』東京,池田書店,2018,34-47.〇飯干紀代子.『看護にいかす認知症の人とのコミュニケーション』東京,中央法規出版,2019,50-84.〇井藤英喜監.『認知症の人の「想い」からつくるケア:在宅ケア・介護施設・療養型病院編』東京,インターメディカ,2017,32-47.〇井藤英喜監.『認知症の人の「想い」からつくるケア:急性期病院編』東京,インターメディカ,2017,22-9.〇鈴木みずえ監.『3ステップ式パーソン・センタード・ケアでよくわかる認知症看護のきほん』東京,池田書店,2019,37-44.

特集
2022年2月1日
2022年2月1日

認知症と義歯の関係

この連載では、実例をとおして、口腔ケアの効果や手法を紹介します。今回は、超高齢でも、認知症があっても、義歯の調整と口腔ケアで咀嚼機能が回復した事例を紹介します。 8020運動を知っていますか 1989年、厚生労働省と日本歯科医師会は、80歳で20本の歯を維持することを目指す「8020運動」を制定しました。当時、80歳の平均残存歯はわずか5本でした。28年が経過した2016年の調査では、「80~84歳の約半数が残存歯20本以上」を達成しました。 なぜ20本必要なのか。それは、単純に「タコやイカが食べられるから」だけではありません。20本以上歯があると、医療費の削減(残存歯数が0~4本に比べ総医療費は約17万円/年少ない)、自立歩行ができる、本人の健康感が大きい、などが報告されているのです。 しかし実際には、すでに「20本もありません、入れ歯なんです」といった人も多いのが現実です。今回は、義歯でも咀嚼できれば、全身への好影響につながることを、事例をもとに紹介します。 認知症で入れ歯を入れなくなった例 Bさん、96歳女性。要介護4、上下総義歯。難聴・認知症ほか既往あり。「3か月前から入れ歯を入れなくなり、『新しく作ったほうがいいのでは』と家族から相談がありました」と、ケアマネジャーから紹介あり。 初回の介入 歯科医師の診断で、早速、義歯の内側を調整しました。調整では、歯科用の特殊な樹脂を義歯の内面に裏打ちし、接着します。 口の周囲の筋肉のリハビリ後、まず上の義歯だけを装着すると、Bさんはすぐに義歯を取り出してしまいました。懲りずに、私は再び上義歯を装着すると同時に、片手でBさんが外そうとする手と握手し、バナナの薄切りをBさんの奥歯へと運びました(義歯は前歯で噛むと後ろから空気が入りこみ、外れやすくなるので、基本は奥歯で咀嚼します)。 そして耳元で「お好きなバナナですよ」と声掛けしました。すると、何とか義歯を外さずに噛めるようになりました。 その後、下の義歯も装着し、唾液に溶ける赤ちゃん用せんべいを渡すと、ご自分で奥歯に持っていこうとしました。 2か月後の変化 Bさんは、それまで食事は車いす上での全介助でした。数回の訪問診療後(初診から約2か月)には、食卓のいすに座り、箸を使って、自立した食事が可能になりました。 当初、家族は新しい義歯の作製を望まれていましたが、新しい義歯は、型取りから仕上げまで4~5段階を要します。認知症のあるBさんには苦痛になると考えられました。本事例では、旧義歯の調整と、舌や口唇の力をつける機能的ケア、前歯ではなく左右の奥歯でしっかり噛む咀嚼訓練を選択し、それらが回復のスピードアップにつながりました。 さらに、姿勢が起座位であるほうが噛みやすいのですが、起座位の時間が長くなると自立歩行や転倒予防にもつながります。義足や義手がそうであるように、道具(義歯)をうまく使いこなすには、根気強い丁寧なリハビリ職の対応とチーム医療が必須です。Bさんのケースでは、サービス担当者会議にはBさんが通うデイサービスの職員も出席し、デイ利用中の口腔リハビリや食事支援をしてもらいました。それらも早期自立への一助となったと考察します。 機能的ケアで発語が増えた例 Cさん、98歳女性。要介護3、認知症ほか既往あり。上が総義歯、下が部分義歯。義歯破損で訪問歯科を希望された。 下義歯の修理・調整のための訪問のたびに、衛生面の口腔ケアも必要でしたが、機能的ケアも取り入れていきました。 開口訓練、ストロー福笑い、呼吸訓練、パタカラ体操は、認知症でもでき、義歯でうまく噛めるようになる機能的ケアです。 ストロー福笑い パタカラ体操 介入して1年後の変化として、食事量の増加、食事時間の短縮、自分からの発語や歌が増え、しかも発語が明瞭になりました。 義歯を入れられなくなったケース これまでに経験した、高齢者で義歯が入れられなくなるケースと、解決法を紹介します。 ①認知症により義歯での噛みかたを忘れてしまう 認知症のために、義歯を異物としてとらえてしまうケースもあります。いずれも、段階的な咀嚼訓練を行うことで解決できました。 ②義歯を作製したときよりやせた やせたために義歯が合わなくなるケースはよく耳にされるかと思います。義歯が合わない、外れるなどのために、食事量が減少してやせるといった因果関係もあります。歯科医につなぎ、義歯の内面調整が必要です。 ③口腔乾燥 口腔乾燥があると、粘膜に義歯が密着しにくい状態です。義歯が不安定になり口内に傷ができやすくもなります。軽度であれば、保湿剤を義歯の内面に塗布することでも効果がみられます。唾液分泌を促す機能的ケアに、棒付き飴でのストレッチがあります。 棒付き飴を使った口唇・舌・ほおのストレッチ 棒を引き抜こうとすると、唇が飴をとらえて口が閉じる。味覚による唾液分泌と、飴の棒を引っ張ることにより口唇を閉じる訓練になる。(実施の判断時は、糖尿病のリスクがないことを確認。食前の実施がよい。) ①~③が複合的に生じることもあります。しっかり装着するためにも、市販の義歯安定剤を試していただくのもよいでしょう。 義歯のケア方法 義歯は主にプラスチックです。日ごろの洗浄や消毒を怠ると、プラスチック特有の極微細な気泡中に、口腔内細菌が繁殖します。低栄養や免疫力低下が引き金となり、カンジダ菌(日和見菌)による義歯性口内炎が発症することもあります。 義歯は、最低一日1回の手入れが必要です。歯磨剤は使用せず、流水下で義歯用ブラシ洗浄し、義歯洗浄剤に30分以上浸けます。 おわりに 認知症があっても、あきらめる必要はありません。入れ歯が合わず落ちる、すぐ外してしまうなどの場合は、ご家族にも相談の上、早期に訪問歯科へつないでもらうようケアマネジャーに伝えましょう。 次回は、2回の脳出血後に嚥下困難になった方を、介護負担の軽減へ導いた症例を紹介します。 執筆山田あつみ(日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士、歯科衛生士)記事編集:株式会社メディカ出版

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2022年1月25日
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【セミナーレポート】看取りの作法 Q&Aセッション回答編

2021年11月12日(金)、NsPace(ナースペース)主催で行った「看取りの作法」についてのオンラインセミナーの内容を3回に分けてお伝えします。最終回の今回は、「QAセッション」の模様を一部ご紹介します。 【講師】田中 公孝先生杉並PARK在宅クリニック院長。家庭医療専門医。経歴:2009年滋賀医科大学医学部卒。家庭医療専門医。2017年東京都三鷹市で訪問クリニックの立ち上げに参画。2021年春東京都杉並区西荻窪で開業。医療介護ICTの普及啓発をミッションとして、区や医師会のICT推進事業にも関わる。 【目次】Q1 訪問看護師がエンゼルケアをする事例はある?Q2 誤嚥リスクが高くても飲食したいと言われた場合の工夫は?Q3 予後が1日2日だと感じたとき、看護師から告知を行うのはアリ?Q4 本人は入院したくない、家族は入院してほしいケースはどうしたらいい?Q5 グリーフケアやデスカンファの最適なタイミングは?Q6 リハ職として、亡くなる1カ月以内ではどんな関わりができますか?Q7 キーパーソンと他の家族の関係性が良くないケースではどうしたら?Q8 怒りを表出している患者さんにどう言葉がけしていますか?Q9 訪問看護ステーションとの連絡・連携方法で工夫している点は? --> Q1 訪問看護師がエンゼルケアをする事例はある? 私が組んでいる訪問看護ステーションの場合は、エンゼルケアまで行う事例が多いです。看護師さんの方からご家族に「訪問看護師にエンゼルケアをしてほしい」と思わせるような促しをすることも多い印象ですね。看取りにはご家族との細かいコミュニケーションが必要なので、エンゼルケアまでを含めて一つのパッケージとして提供しているところもあります。一方で、そこまでエンゼルケアというものがピンとこないご家族や、お金もかかるので葬儀屋さんでいいですとおっしゃる場合は、葬儀屋さんが担当なさいます。 Q2 誤嚥リスクが高くても飲食したいと言われた場合の工夫は? すごく細かくしてとろみをつける方法があります。そのままの固形物ではなく、味を体感できるように工夫してみてください。飲み込まなくても、少量を口に含んで味を楽しんでもらうというのも一手です。 Q3 予後が1日2日だと感じたとき、看護師から告知を行うのはアリ? 看護師さんの方が頻繁に患者さんを訪問するので、ギリギリの場面で今すぐ伝えなくてはと感じるケースもあるかと思うのですが、まずは医師とコミュニケーションをとることをおすすめします。ひと手間かかって大変だと感じるかもしれませんが、訪問クリニックに連絡して「私からご家族にここまでお伝えしておきますね」というところの確認するのが良いかと思います。最近は、MCSやバイタルリンクなどを使うことで情報をファクトとして共有できるようになったので、訪問クリニックと目線を合わせて実行してみてください。 Q4 本人は入院したくない、家族は入院してほしいケースはどうしたらいい? 結構多いケースですね。この場合、まず「家族はどうして入院してほしいと思っているのか」について深堀りして話を聞きます。働いているから看きれないというのであれば、訪問サービスで固める方法をご提案することもあります。もう一つ、「ご本人はどうして入院したくないのか」についても探ります。家族には素直に本音が言えないこともあるので、私たちが翻訳家や伝言役としてご本人と家族とをつなぐことも少なくありません。ここは多職種介入のミソだと思います。家族の話をたくさん聞き、本人の話もたくさん聞いて、向き合って妥協点を探ることをおすすめします。 Q5 グリーフケアやデスカンファの最適なタイミングは? グリーフケア、デスカンファ、ともにご本人が亡くなってから1カ月後をひとつの目安にしています。ご家族は葬儀でバタバタしたり、銀行をはじめ必要な手続きも多かったりするので、そのあたりのことが落ち着いた1カ月後くらいが目安になります。デスカンファも2カ月空けてしまうと記憶が薄れていることが少なくないので、行うのであれば、1カ月くらいが良いと思います。 Q6 リハ職として、亡くなる1カ月以内ではどんな関わりができますか? できる関わりは多々ありますが、最も重視してほしいのはご本人への「傾聴」です。どんなことを今ご心配されているんですか? とか、先生や看護師さんからどんな話がありました? とか。聞く姿勢をもってくれる人に話をすると患者さんはちょっとすっきりするので、傾聴の関わりをおすすめします。そこで聞いたことを医師や看護師に共有してみるのはどうでしょうか。 Q7 キーパーソンと他の家族の関係性が良くないケースではどうしたら? キーパーソンは他の家族に説明しなくていいと言うが、他の家族は知りたいと言うようなケースでは、まずは、キーパーソンに目線を合わせます。他のご家族との関係性をちゃんと見つめながらキーパーソンに寄り添ってしっかりお話を聞いて、もし他の家族に説明をしない場合は〇〇というトラブルが考えられますが大丈夫ですか?というところまで伝えます。ここで妥協点を引き出せることが多いですね。医療者が家族の間に立ってコーディネートすることで円滑にコミュニケーションがとれるようになる、というのは、後々にも感謝されることじゃないかなと思います。 Q8 怒りを表出している患者さんにどう言葉がけしていますか? 私に対して患者さんが表出する怒りは「前医への批判」であることが少なくありません。そういうときは、私自身は前医を批判しないようにしながら「これからは私に言ってください」という方向に話を運びます。結構きついんですが、割り切って怒りに向き合っていますね。もう1回目の往診はこれだと。私の1回目の治療はこれだというふうに心がけをして、サンドバックになります。このとき、相槌も重要です。合いの手を入れるとさらに話してくださるので、どこで合いの手を入れるかも意識します。これはみなさん抱えている悩みだと思うので、看護師さんどうしでぜひいろんな人の経験を聞いてみてください。 Q9 訪問看護ステーションとの連絡・連携方法で工夫している点は? 医療ICTには、MCS、バイタルリンク、カナミックなどあるかと思うのですが、これらを事前にチームで共有します。相手が読んでいるかどうかはまた別の問題になりますが、タイムリーな共有が可能です。私自身は、末期のときはチーム全員でICTを導入します。文字だけではニュアンスが伝わりにくいこともあるので、内容に疑問をもったときや目線を合わせた方が良いと感じたときは、電話でもコミュニケーションをとるようにしています。 ▶ 編集部まとめ 在宅医療にかかわる医療者にとって大きな課題のひとつでありながら、自分なりの正解を見出すことが難しいと感じている方が多い「看取り」というテーマ。より良い「看取り」とはなにか? という課題に真正面から向き合い、多職種での連携を行いつつ患者さんとそのご家族に真摯に寄り添う田中先生のお話に、セミナー開催後、編集部には参加者の方からたくさんの声が寄せられました。代表的なコメントを一部ご紹介します。 〇セミナー後に参加者の方から寄せられたコメント「看取りの現場の実際の話をたくさん聞けて大変勉強になりました」「在宅専門の先生目線での意見が聞けて勉強になりました」「これで良かったのかと反省しながらまた次にと、すすんでいたので心が楽になりました」 次回セミナーレポートでは、2021年12月17日(金)、引き続き田中公孝先生を講師にお招きして開催した「看取りの作法~事例検討と質疑応答編~」をお届けします。公開まで楽しみにお待ちください。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

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2022年1月25日
2022年1月25日

認知症のある患者さんに接するときの7か条(前編)

患者さんの言動の背景には何があるのか? 訪問看護師はどうかかわるとよいのか? 認知症を持つ人の行動・心理症状(BPSD)をふまえた対応法を解説します。第1回は、「認知症のある患者さんと接するときの7か条」を、前後編にわけて紹介します。 認知症のある患者さんとのコミュニケーションの特徴 認知症の人は理解力や判断力が低下しているため、コミュニケーションをスムーズにとることが難しくなります。「認知症の人は話がわからない」「説明してもどうせわからない」と、偏見や苦手意識を持っている援助者も少なくありません。認知症の人のほうも、周りとどう対話すればよいのかわからず、困惑しています。 認知症の症状や生活への影響、性別や年齢、生まれ育ったところなど、一人一人が違い、コミュニケーションの方法もさまざまです。そして、本人が認知症をどう受け止めているのか・感じているのかも違います。そのため、認知症の人とのコミュニケーションの方法は、統一した枠にはめることができません。 認知症の人とのコミュニケーションでは、信頼関係を築き、安心して話ができるよう、相手の気持ちを理解し寄り添う気持ちが大切です。本人のできることや強み、長所に目を向け、その人の立場に立って考えるといったコミュニケーションの方法を工夫する必要があります。 1条 コミュニケーションのための環境を整えましょう 話をするときの環境に留意することで、コミュニケーションがとりやすくなります。 まず、静かな環境を作りましょう 認知症の人は、気になることがあると、そればかりが気になってしまいます。大きな音や、気になる音に意識が向いてしまいます。そして、会話をしていても一つの音に集中することが難しくなります。ざわざわと人がたくさんいる騒がしい場所や、つけっぱなしのテレビがある場所などは、コミュニケーションがとりにくい場所といえます。また、認知症の人には高齢者が多く、難聴がある人も多いといえますので、生活雑音をなるべく小さくすることが大切です。こちらの声に集中してもらえるように、会話をするときは静かな場所を選びましょう。 次に、明るさを整えましょう 相手の顔をよく認識できる程度の明るさの場所を確保しましょう。コミュニケーションは、言葉だけでなく、相手の表情や身振りなども大切です。声だけでなく、視覚からも情報が得やすい環境を整えると、言葉と合わせて認識することができます。 そのほか、不快な香りがない場所を選びましょう 不快な香りがある場所では落ち着いて話ができません。快適なほのかな香りは気持ちが穏やかになります。 なじみのある環境、落ち着いた場所、居心地のよい場所は、自然にリラックスした状態でコミュニケーションがとれるようになります。 2条 笑顔で安心感が与えられる姿勢や態度を心がけましょう 表情や態度、しぐさ、服装などの第一印象は重要です。認知症の人とコミュニケーションをとるときには、優しく、笑顔を心掛けましょう。怖そうな顔をしていると、この人は怖そう、今日はこの人に近づきたくないと感じるでしょう。顔の表情が怖い、目が合わない、などでは、心地よい印象や雰囲気が得られません。また威圧的な態度は、安心できない相手と感じ取られてしまいます。このような状況ではコミュニケーションが難しくなります。 認知症の人とコミュニケーションをとるときには、笑顔で気持ちを込めて話し掛ける、優しいしぐさ、穏やかな表情や声で、そばに寄り添うよう心掛けることで安心感が生まれます。 3条 視線を合わせて優しく触れる 名前を呼んで視線を合わせる 声を掛けるときや何かをする前に、まずその人の名前を呼びましょう。突然目の前に人が現れると、びっくりすることがあります。話し掛けるときや話を聞くときは、笑顔でその人の正面から視線を合わせるようにしましょう。 目の高さを、その人の目の高さに合わせます。立ったままの状態で上から話し掛けられると、見下されているような印象や不安を与えてしまうことがあります。ベッドで過ごしている人や車いすを利用している人には、こちらが体勢を下げて、本人と目の高さを合わせることが大事です。 優しく触れる 認知症の人は、集中力の低下や空間認知力の衰えによって、話し掛けられても反応するまでに時間がかかる、視線が合わないようなことがあります。会話をするときは言葉だけでなく、優しく体に触れることです。こちらを認識し、安らぎや安心感を与えることができます。 しかし、手や顔など敏感な部位にいきなり触れると驚かせてしまうことがあります。最初は腕や肩から触れましょう。手のひら全体の広い面積で、柔らかく、ゆっくりなでるように優しく触れることが大切です。 執筆浅野均(あさの・ひとし)つくば国際大学医療保健学部看護学科 教授 監修堀内ふき(ほりうち・ふき)佐久大学 学長 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】〇一般社団法人日本認知症ケア学会.『認知症ケアの実際Ⅱ:各論.改訂5版』東京,ワールドプランニング,2018,113-6.〇一般社団法人日本認知症ケア学会.『認知症ケアの実際Ⅰ:総論.改訂4版』東京,ワールドプランニング,2016,39-45.〇鷲見幸彦監著.『一般病棟で役立つ!はじめての認知症看護』東京,エクスナレッジ,2014,66-7.〇鈴木みずえ監修.『認知症の人の気持ちがよくわかる聞き方・話し方』東京,池田書店,2018,34-47.〇飯干紀代子.『看護にいかす認知症の人とのコミュニケーション』東京,中央法規出版,2019,50-84.〇井藤英喜監.『認知症の人の「想い」からつくるケア:在宅ケア・介護施設・療養型病院編』東京,インターメディカ,2017,32-47.〇井藤英喜監.『認知症の人の「想い」からつくるケア:急性期病院編』東京,インターメディカ,2017,22-9.〇鈴木みずえ監.『3ステップ式パーソン・センタード・ケアでよくわかる認知症看護のきほん』東京,池田書店,2019,37-44.

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2022年1月18日
2022年1月18日

【セミナーレポート】看取りの作法 -後編- 看取り直前の対応とグリーフケア

2021年11月12日(金)、NsPace(ナースペース)主催で行った「看取りの作法」についてのオンラインセミナーの内容を3回に分けてお伝えします。2回目の今回は、「看取り直前の対応とグリーフケア」についてご紹介します。※約60分間のセミナーのなかから一部ピックアップしてお届けします。 【講師】田中 公孝先生杉並PARK在宅クリニック院長。家庭医療専門医。経歴:2009年滋賀医科大学医学部卒。家庭医療専門医。2017年東京都三鷹市で訪問クリニックの立ち上げに参画。2021年春東京都杉並区西荻窪で開業。医療介護ICTの普及啓発をミッションとして、区や医師会のICT推進事業にも関わる。 【目次】1. 看取り直前の経過をおさえる2. 死生観・グリーフケアを意識する3. 在宅看取りについての私見 --> 看取り直前の経過をおさえる 看取りの自然経過として、そろそろ食欲がなくなってきた……というタイミングで、ご家族に1週間以内の話をします。そんなことまで伝えるの? と思う方もいるかもしれませんが、これから起こることを前もって知っていると人は冷静になれるので、必ず伝えるようにしています。具体的には、次のような内容をお話します。 死亡前1週間以内・トイレに行けなくなる・水分が飲めなくなる・ADLが落ちていく 死亡前48時間以内・手足が冷たくなる・尿が非常に少なくなる・血圧が脈でしか測れない(70くらい)・死前喘息(ゼーゼーという痰が絡むような音が聞こえる)・手足をバタバタさせる「せん妄」状態に陥る 死前喘息については、吸引しても引けない可能性があり、ご本人にとって吸引が苦痛になるので、ゼーゼー苦しそうに聞こえるからといって「これは引いてもらわないといけない」と思わない方が良いかもしれません、ということも伝えます。せん妄状態についても、結構手足をバタバタさせることを事前に知ってもらいつつ、どうしても辛そうな場合の処方薬を置いておくので様子をみてくださいねと、具体的な対応を含めてお話します。このとき、「看取りのパンフレット」もよく活用しています。 看取りのパンフレットについてはこちら≫ 死生観・グリーフケアを意識する 死というものをリアルに感じ始めると、多くの方は「じゃあ、ここからどうやって生きようか」ということを考えます。家族や友人・知人に会いたいとか、あれを食べたいとか、出てくるんです。死生観、つまり「死を認識したうえで、どう生きるか」というのは、ご本人はもちろん家族や私たち看取りを行う医療者にとっても重要な視点になります。そして、死生観というのは個別的なものなので、押し付けるものではないという基本を忘れないことも大切です。 また、私はグリーフケアを推奨しています。グリーフケアとはなにか? 簡単に言うと「悲嘆をケアすること」です。人は愛する人を失うと大きな悲しみを感じて、長期にわたって特別な精神状態の変化があります。これが「グリーフ(GRIEF/悲嘆)」です。残された家族が体験して乗り越えなければいけないことを「グリーフワーク」、そのケアをすることを「グリーフケア」と呼びます。看取りを通じて、生前からのグリーフケアを行っていきます。 グリーフケアで最も重要なのは「感情表出を手助けすること」。私たちはグリーフケアにおいては「涙を流してもらえる専門職」としてあるべきかなと思っています。ご家族が患者さんご本人の前では見せないようにしているもの・いたものを表出させて、心を軽くするための手助けをする専門職でありたいと思います。なかなかご自身だけ、その場だけで表出させることは難しいので、家族や親戚の方にも手伝ってもらえるようにお願いすることもあります。少し余談になるかもしれませんが、実は葬式は絶好のグリーフケアの場。みんなで集まって食事をしながら故人を偲ぶことでグリーフケアになっているんです。四十九日や三回忌なども同じですね。COVID-19流行の影響でなかなか人が集まれない状況が続いているので、医療者としてよりグリーフケアを意識してみてください。 そして、グリーフケアを通じて医療介護職自身のセルフケアにもなります。なぜなら、看取りには「本当にあれで良かったのかな」「もっと上手くやれたんじゃないかな」というモヤモヤがつきものだから。そういうときに他者からの一言で救われることもあるので、セルフケアという意味でも、ご家族のケアという意味でも、グリーフケアを推奨します。 在宅看取りについての私見 現状、在宅看取り数が少ない日本ではありますが、できるならしたいと思っているご家族がいたり、できるなら最期まで自宅にいたいと思っている患者さんがいたりします。看取りの回数を重ねると「あ、これは似たようなケースを経験したことがある。あのときは上手く看取れた」と、過去のケースと重ねられるように感じることも増えるのですが、類似ケースであっても同じ看取りはありません。そして、どれだけ看取りのエキスパートになっていても、やっぱり見えていない点や家族の話で聞けていない点は絶対に出てきます。患者さんやご家族が、「看護師だから言うね」「先生(医師)だから話すね」「介護の人だから相談するね」とこそっと言うようなこともありますので。 だからこそ、今後、自宅での看取りを増やしていきたいというのはありつつも、私たち医療者の理想を、患者さんやそのご家族に押し付けることだけはしてはいけないと考えています。「完璧は絶対にない」というのを前提として、一つ一つの看取りに対して十分な配慮をすること、経過のなかで複数の関係者の視点でディスカッションをすることが必要です。看取りを終えてからも、どういうところが良かったのかな、今後改善できるとすればどういうところかな、という話ができるとなお良いですね。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

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